e-NEXI - 日本貿易保険

e-NEXI
2012 年 9 月号
➠特集
日・イラク投資協定の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
経済産業省通商政策局経済連携課経済連携推進専門官 森真理
➠カントリーレビュー
送金と BPO をバネに安定成長を確実にしたいフィリピン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
➠NEXI ニュース
アフリカ貿易・投資促進官民合同ミッション参加報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
第 37 回中東協力現地会議に出席して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
NEXI の業務体制について(第 5 回)審査部・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
発行元
発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)
総務部総務・広報グループ
e-NEXI (2012 年 9 月号)
日・イラク投資協定の概要
経済産業省通商政策局経済連携課
経済連携推進専門官 森真理
交渉開始から発効まで
2012年6月7日、バグダッドにおいて日・イラク投資協定が署名されました。署名式が無事執り行わ
れ署名に至ったとの現地からの報告を外務省経由で受けた時には、本協定交渉の日本側交渉団の一
員として心から安堵しました。というのも、一連の締結交渉会合において、事前のスケジュール調整にもか
かわらず、時間どおりに交渉会合が始められないといった事態が頻繁に起こったためであり、今回の署名
式も直前にキャンセルされるのではと一抹の不安が残っていたのです。本協定は、昨年1月に交渉開始の
意思を両国間で確認し、同年5月に準備会合を行った後、9月、10月、11月の計3回の正式な交渉会
合を経て、イラクのマリキ首相が訪日していた昨年11月22日に原則合意が発表されました。交渉会合は、
いずれか一方の国に両国の交渉団が集い顔を合わせて行うのが常ですが、11月のマリキ首相訪日の直
前には電話会議を重ね、一気に残る論点を片づけることができました。その後、合意された協定案が両
国内で審査され、去る6月に署名されました。本協定は、発効に必要な両国の国内手続きが完了した
後両国政府間で外交上の公文を交換した日から30日目に発効することになっております。早ければ来年
にも発効することになるでしょう。
イラクという国
イラクというと、内紛やテロの報道から危険な国という印象を持つ方が多いと思います。その一方で、イ
ラクは、豊富な資源と人口3千万人の有望な市場を有しており、ビジネス面において魅力的な国と言えま
す。実際に、1970年代には日本から多くの企業が進出していました。度重なる戦争によりほとんどの外国
企業は一旦は撤退しましたが、戦後、民主化が進むにつれ、我が国をはじめ世界各国が、原油・ガス等
の天然資源や膨大なインフラ整備の需要など未知数のビジネス可能性を持つこの国に注目しています。
しかし、不安定な政治情勢や治安状況、低下したままの行政機能、法整備の遅れといった事情が、石
油開発やインフラ整備等への外国企業による積極的な投資を拒んでいる一面もあります。
投資協定とは
投資協定は、海外に投資した企業(投資家)やその投資財産を保護することにより、良好な投資環
境の創出・維持を目的とする条約です。投資協定の締結により、締約相手国における投資リスクが低減
されるため、投資家の当該国への投資意欲が高まることが期待されます。一方、投資受入国は、締約
相手国の企業等による自国への投資が促進されることを期待して、投資協定を締結します。
投資協定は主に、以下を規定しています。
・ 外資企業と現地企業との間の差別を禁止
・ 適切な補償のない収用・国有化を禁止
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e-NEXI (2012 年 9 月号)
・ 投資に関係する資金の移転の自由
・ 許認可の恣意的な破棄・剥奪を禁止
・ 現地政府と投資家との間の契約の遵守義務
・ 国内産品の使用・購入、現地人の雇用、技術移転などの強要を禁止
・ 投資受入国が規定に違反した場合、投資家が直接その政府を訴える仲裁の仕組み
このような投資保護を目的とする規定に加えて投資自由化に関する規定を含む投資協定もあり、便
宜的に前者を「投資保護協定」、後者を「投資自由化協定」と分類しています。世界的に見れば投資
保護協定が多いですが、2000 年以降の我が国の投資協定(経済連携協定「投資章」含む)の多くや、
NAFTA、米国の投資協定の多くは投資自由化協定です。我が国は、近年諸外国との投資協定の締
結にあたって、我が国企業の参入に係る障壁を極力少なくすることで投資機会を拡大し対外投資を促
進するという考えから、投資の保護だけでなく投資の自由化についても投資協定で規定することを重視し
てきました。投資の自由化に関する規律には、投資財産の設立段階における内国民待遇及び最恵国
待遇、並びに、特定措置の履行要求の禁止があります。なお、自由化協定においては、既存の国内法
との関係より、投資設立段階における内国民待遇や最恵国待遇を相手国の投資家に付与することがで
きない場合には、産業分野及び規制措置を明示した留保表を付すことによって、自由化規律の義務か
らそれらを除外することが可能です。実際に、我が国は、これまで締結してきた自由化投資協定の全てに
おいて、自由化規律に抵触する可能性のある国内措置について、その規律の適用を留保しています。
日・イラク投資協定の特徴
日・イラク投資協定は、いわゆる投資保護協定であり、投資家が投資受入国に投資財産を設立し
た後の段階における投資受入国の投資保護に関する義務を主に規定しています。投資自由化協定で
はなく投資保護協定としたのは、エネルギー分野に加え石油化学・医療での日・イラク間の協力が強化さ
れ我が国企業がイラクに進出する機会と機運が生まれていること、一方でイラクは世界貿易機関(WTO)
に加盟しておらず投資保護に係る国際的なルールが未整備であることを背景に、企業がイラクへ投資を
行うに際して最低限必要な投資保護に係る法的枠組みを早急に整備することが重要視されたことにより
ます。というのも、前述した自由化協定に必須の留保表を作成するにあたっては、現存する国内の規制
措置を明確にし、さらには将来的な産業政策までも考慮する必要があり、行政機能が十分でない現在
のイラク政府の現状では、このような事務的負担を負うことは困難であり、まずは投資保護協定を締結し
た上で、将来のイラク政府の機能強化や日本企業の進出拡大に合わせて自由化を図っていくことが適
切と考えられるのです。
日・イラク投資協定は、前文、本文26カ条及び末文から成ります。主な規定の概要について、以
下ご紹介します。
○投資後の内国民待遇及び最恵国待遇
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投資後の段階を対象として、自国や第三国の投資家及びその投資財産に与える待遇に劣後しない待
遇を、相手国の投資家とその投資財産に与える義務が定められています。
○公正衡平待遇
自国内に所在する相手国の投資家の投資財産に対して、「公正かつ公平な待遇(fair and equitable
treatment)」及び「十分な保護及び保障(full protection and security)」を与える義務が定められてい
ます。規定されている義務内容が抽象的であるため実効性に疑問を持たれるかもしれませんが、抽象
的・一般的であるゆえに投資協定の理念に沿って投資家を救済できる柔軟性のある規定です。個別具
体的な義務を定める条項では解決できないと思われる問題には、公正衡平待遇義務違反を検討して
みることが紛争解決の鍵になるかもしれません。なお、蓄積されつつある仲裁判断より、公正衡平待遇の
義務内容には、投資家の合理的期待を裏切らない義務、恣意的措置・差別的措置を行わない義務、
適正な法手続きの遵守義務等が含まれると考えられます。
○特定措置の履行要求の原則禁止
相手国の投資家が自国で投資活動を継続する条件として特定措置を履行するよう要求又は強制する
場合には相手国へ事前の協議を義務付ける規定です。本協定で履行要求を原則禁止(事前に協議
すること無く要求することの禁止)している特定措置は、現地調達要求、輸出要求、輸出入均衡要求、
技術移転要求です。
○収用時の補償
投資受入国は一定の要件を満たさない限り、投資家の投資財産を収用してはならない旨規定していま
す。一定の要件とは、①収用が公共目的であること、②無差別に行われること、③迅速・適当・実効的
な補償の支払を伴うこと、及び④正当な法手続きに従うことの4要件を言います。なお、財産の所有権が
移転しなくても収用と同等の効果(財産の使用・支配等が奪われる効果)を有するような措置も、本規
定上「収用」と認められる可能性があります(いわゆる「間接収用」)。
○資金移転の自由
投資に関連する資金の移転が遅滞なくかつ自由に行われることを確保する義務を規定しています。
○投資家と投資受入国との間の紛争解決の枠組み(国際仲裁手続き)
投資受入国の協定違反により投資家が損害を受けた場合に、投資家が直接相手国を国際仲裁に訴
えることができることを規定しています。
日・イラク投資協定が発効すると、イラク政府は日本の投資家及びその投資財産に対して上述の投資
保護義務を負うことになります。イラクは、エネルギーやインフラをはじめ幅広い分野において投資先として
の魅力を増している国ですが、治安情勢に加え投資・ビジネス環境に不安を抱いている方が少なくないと
思います。本協定の締結がイラクへの新規投資及び投資拡大の後押しとなることを期待しております。
投資協定の活用
投資先国の政府との間に投資紛争が起きた場合、国際投資仲裁への付託は解決に向けた一手
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段ですが、仲裁に持ち込まずとも投資協定をテコに相手国政府と和解交渉を行うことで紛争解決を図っ
た成功事例が報告されており、そのような投資協定の活用はより身近な紛争解決手段だと思います。我
が国企業が海外での投資活動において相手国政府との関係で問題にぶつかった際、投資協定の利用
を具体的に思い描いて頂けるよう、仲裁事例を不公正貿易報告書及び経済産業省ホームページで紹
介しております。下記ウェブサイトに掲載しております仲裁事例をご一読いただき、貴社の海外での投資
活動に照らし合わせながら、投資協定の活用についてこの機会に思いを巡らして頂ければ幸いです。
我々投資協定交渉担当者は、投資家である企業が実際に利用できる投資協定を相手国と締結する
ことが使命であり、投資家の方々との情報共有と連携に努めております。イラクや中東地域に限らず海外
での投資活動で抱える問題等がありましたら、経済連携課投資チームに共有頂ければ大変ありがたく存
じます。
また、経済産業省では外務省はじめ、中東協力センター、国際協力機構(JICA)、日本貿易振興
機構(JETRO)等と協力し、イラクへの官民合同経済ミッションの派遣やビジネス環境改善に向けたイラク
政府との協議等、日本企業の投資促進に向けた支援を行っておりますので、積極的にご活用頂ければ
幸いです。
(ご参考)
経済産業省の投資協定に関するウェブページ:
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/investment.html
不公正貿易報告書:
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto_compliance_report/index.html
中東協力センター:
http://www.jccme.or.jp/
(お問い合わせ先)
経済産業省経済連携課: 電話 03-3501-1595
E-mail
[email protected]
経済産業省中東アフリカ課: 電話 03-3501-2283
※日本貿易保険 注
日本貿易保険は、2011年11月に、イラク財務省及びイラク貿易銀行との間で枠組協定(Framework
Agreement)を締結し、日本企業が参画するイラク向けプロジェクトの受注を支援しています。協定の詳
細は、下記ウェブページを御参照ください。
http://nexi.go.jp/topics/cat548/004121.html
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《カントリーレビュー》 送金とBPOをバネに安定成長を確実にしたいフィリピン
<Point of view>
海外で働くフィリピン人労働者からの本国送金が堅調に流入し、また、ビジネス・プロセス・アウトソー
シング(BPO)産業が成長しており、海外労働者送金と BPO は同国の経済成長と国際収支の安
定に貢献している。しかし、過去数年の輸出(財輸出)動向には、力強い伸びが見られず、東南ア
ジア諸国の中でも低い水準にある。安定的な経済成長を確実にするためには、輸出(財輸出)拡
大の基盤を構築することが望まれる。
1.経済に貢献するサービス輸出と労働者送金
(1)拡大する BPO 産業
2012 年第 1 四半期(12 年 1 月~3 月)の実質 GDP 成長率(以下、経済成長率)は 6.4%で、
前年同期の 4.9%を上回り、また、東南アジアの中では最も高い経済成長率を達成した。第 1 四半
期の経済成長は、需要面では民間消費と純輸出(サービス輸出を含む)が、供給面ではサービス業
が牽引した。格付機関である S&P は、7 月 4 日、同国の格付を BB から BB+と、投資適格一歩手
前にまで格上げしたが、格上げの理由として、財政の柔軟性が増していることに加え、海外労働者
送金とサービス輸出に支えられ、対外ポジションが強化されていることも評価した。
同国の財輸出が 472 億ドル(2011 年)であるのに対し、サービス輸出は 154 億ドル、海外で働く
フィリピン人からの本国送金は 171 億ドルで、海外労働者送金とサービス輸出の合計額は 325 億ド
ルと財輸出の約 7 割に匹敵する。国際収支上、サービス輸出と海外労働者送金は、慢性的な貿
易赤字を補填し、経常黒字の計上に貢献している(表 1 参照)。また、海外労働者送金は国内の
消費活動を下支えする役割を果たしている。
中銀、及び統計局によると、サービス業(2011 年)は産業別 GDP 構成では 56.5%、産業別就業
者比率では 52.2%を占めている。一方、製造業は産業別 GDP 構成では 22.4%、産業別就業者
比率では 8.3%であり、同国の産業はサービス業が中心である。特に、英語が堪能なこと、比較的
小規模な資本で起業できることなどから、欧米系企業の事務処理サービスやコールセンター、ソフト
ウェアのプログラミングなどを受託するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)が発達し、また、政
府・民間とも BPO の振興に注力してきたため、最近ではグラフィック・アニメの作成、法律や会計など
専門性の高い分野での事務処理サポートなどに BPO は拡大している。フィリピン BPO 協会によると、
2011 年の BPO の売上高は約 110 億ドル(前年比 24%増)で、この売上高は GDP(実質ベース)
の約 8%に相当する。また、中銀の国際収支統計では、コンピューター情報サービス、及び、ビジネ
ス・サービスの輸出額は 103 億ドル(2011 年)で、サービス輸出(154 億ドル)の約 7 割を占めるに至
っている。
(2)依存度の高い海外労働者送金
5
e-NEXI (2012 年 9 月号)
フィリピンでは、1974 年に海外雇用開発局が設置されるなど、政策として海外就労を促進し、海
外で就労するフィリピン人労働者の保護にも努めてきた。海外に在住するフィリピン人(永住者、及び
一時滞在者)は約 819 万人(2008 年 12 月末時点)で、これは当時の人口の約 9%に相当する。
海外労働者送金は 2000 年の 51 億ドルから一貫して増加し(図 1 参照)、年間の送金額は対 GDP
比(実質ベース)で約 12%に相当(2011 年)する。IMF(2012 年 2 月)によると、低所得国における
海外労働者送金は GDP 比約 6%、また、中所得国の同比は約 2%であるので、フィリピン(中所得
国)の同比約 12%は非常に高い数値であることが分かる。
中銀データによると、送金元地域は、2011 年、北米 53.0%、欧州 16.6%、中東 16.0%、アジア
12.8%であり、国別では米国が 42.2%、サウジ・アラビアが 8.0%、英国 4.8%、日本 4.5%であった。
このため、2011 年は欧米諸国の景気後退や中東の政情不安で送金額の減少が懸念されたが、結
果は前年比 5.5%増の 171 億ドルとなった。但し、送金の伸び率は低下傾向にある(図 1 参照)。ま
た、2012 年第 1 四半期は 39 億ドルと前年同期比の 40 億ドルに届いておらず、今後、先進国の景
気後退が送金額に影響する恐れがある。
表 1 国際収支
(単位:百万ドル)
経常収支
(対 GDP 比)
貿易収支
輸出
サービス収支
サービス輸出
コンピューター情報サービス
他ビジネス・サービス
観光収入
移転収支
海外労働者送金
金融資本収支
対内直接投資
誤差脱漏
総合収支
外貨準備高(除く金)
注:2011 年は見込み
(出所:中銀)
6
2009
9,358
5.6
▲ 8,842
37,610
2,114
11,014
1,748
5,186
2,330
16,279
15,141
▲ 1,627
1,963
▲ 1,310
6,421
38,779
2010
8,922
4.5
▲ 10,966
50,748
2,735
14,095
1,928
7,600
2,630
16,648
16,242
7,388
1,298
▲ 2,002
14,308
55,359
2011
7,078
3.1
▲ 15,450
47,231
3,593
15,450
2,062
8,306
3,152
17,642
17,138
5,228
1,262
▲ 2,127
10,179
67,287
12/Q1
882
1.6
▲ 3,995
12,682
1,071
4,144
617
2,152
862
4,062
4,011
962
850
▲ 601
1,243
65,672
6
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図 1 海外労働者送金額と伸び率の推移
(単位:100 万ドル、%)
18,000
25
16,000
20
14,000
15
12,000
10
10,000
送金額(百万ドル)
伸び率(%)
8,000
5
6,000
0
4,000
-5
2,000
99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11p
(出所:中銀 国際収支から作成)
2.力強い成長がみられない財輸出
同国の輸出品は工業品が輸出全体の約 9 割弱を占めているが、特に電子機器・部品は輸出全
体の半数を占めており、主力輸出品になっている(表 2 参照)。電子機器類は主に現地に進出した
日系、欧米系企業の組み立て加工製品である。2011 年の財輸出は 472 億ドルと前年の 507 億ド
ルから、▲7%の減少となったが、これは、電子機器・部品の輸出が前年に比べ大きく減少(72.8 億
ドルの減少で 2010 年比▲23.4%)したことが影響している。輸出先では 15%を占める米国向けが
前年比▲6.2%減、13.2%を占める欧州連合向けが前年比▲16.6%減少しており、欧米の景気
後退の影響を被った。2012 年第 1 四半期は前年同期比で回復基調となった輸出だが、欧州の債
務危機問題が長引き、米国、中国(輸出の 12.7%を占める)の景気が停滞気味になると、再び伸
び悩む可能性がある。
2011 年全体の経済成長率は 3.9%と振るわなかったが、これは輸出が停滞したこと、及び、固定
資本形成が弱かったことに因る。一方、好調な経済成長率を達成した 2012 年第 1 四半期は、輸
出の回復が経済成長に貢献した。2011 年の純輸出(輸出-輸入)の経済成長率への寄与度は▲
2.2%に落ち込んだが、2012 年第一四半期の純輸出の寄与度は 5.2%に伸びている。海外労働者
送金とサービス輸出は重要な外貨獲得源であり、また、経済成長を支えているが、安定的な経済
成長路線に乗るには輸出の成長が不可欠と考えられる。しかし、他の ASEAN 諸国が輸出を拡大さ
せているのに比べて、同国の輸出額は横ばい傾向であり、目立った伸びが見られない(図 2 参照)。
後発のベトナムに輸出額では 2007 年に追いつかれ、2008 年には抜かれている。
7
7
e-NEXI (2012 年 9 月号)
表 2 輸出品構成
8
(単位:百万ドル)
2007
輸出
工業品
電子機器・部品
1 次産品等
2008
2009
2010
2011
12/Q1
シェア
47,231
12,682
100.0%
49,512
48,253
37,610
50,748
42,956
40,999
33,605
45,411
39,767
11,171
88.1%
31,085
28,502
22,182
31,080
23,796
6,750
53.2%
6,556
7,254
4,005
5,337
7,464
1,511
11.9%
注:シェアは 2012 年第 1 四半期のシェア
(出所:中銀)
図 2 東南アジア諸国の輸出推移
(単位:百万ドル)
2,500
2,000
インドネシア
1,500
マレーシア
フィリピン
1,000
タイ
ベトナム
500
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
(出所:EIU)
3.望まれる投資環境の改善
2010 年 6 月、フィリピンは投資促進計画を発表し、観光、BPO、電子、鉱業、住宅・不動産、ア
グリ・ビジネス、物流、造船の 8 つのセクターを重点産業とし、海外からの投資誘致促進を図っている。
しかし、海外からの直接投資も他の東南アジア諸国に比べると低調である(図 3 参照)。
世銀によれば、同国のビジネス環境は 183 ヵ国中、136 位と低く、タイ 17 位、マレーシア 18 位、ベ
トナム 98 位、インドネシア 129 位に劣後している(出所:DOING BUSINESS 2012)。投資を許認
可する機関が複数あり手続き等が複雑との指摘もあり、また、汚職、不安定な治安、未整備なイン
フラが投資環境の問題点とされている。
世界的な NGO 団体である Transparency International の調査によると、公的セクターを対象とし
た汚職レベルで、フィリピンは世界 183 ヵ国中 129 位で、こちらもマレーシア 60 位、タイ 80 位、インド
ネシア 100 位、ベトナム 112 位に及ばない。但し、アキノ大統領は汚職撲滅に注力しており、汚職に
ついては改善する方向にあると言われている。治安も万全ではなく、ミンダナオ問題(武装化したイス
ラム反政府組織による襲撃等)も解決されておらず、2011 年には日系企業が操業するニッケル鉱山
が襲撃される事件が起きている。インフラでは特に電力が不足しており、電力インフラの整備は急務
8
e-NEXI (2012 年 9 月号)
とされる。同時に周辺国に比べ高いとされる電気料金を引き下げる必要もある。
中国の人件費上昇やタイの洪水被害(2011 年 11 月)で、日系企業を中心にサプライチェーンの
補完拠点の必要性が認識されている現在、海外労働者送金と BPO による外貨収入を有効に活
用し、製造業の基盤構築を図り、生産拠点としての魅力を高めることが望まれる。
図 3 東南アジア諸国の対内直接投資推移(単位:百万ドル)
20,000
18,000
16,000
14,000
インドネシア
12,000
マレーシア
10,000
フィリピン
8,000
タイ
6,000
ベトナム
4,000
2,000
0
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
(出所:EIU)
以上
9
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10
アフリカ貿易・投資促進官民合同ミッション参加報告
(コンゴ民主共和国とジンバブエ共和国)
2008 年のアフリカ開発会議(TICADⅣ)のフォロ
ーアップとして、わが国とアフリカとの貿易・投資の促
進に向け、外務省主催の官民合同ミッションがこれ
まで 6 回実施され、今年は 8 月 18 日から 25 日に
かけてコンゴ民主共和国とジンバブエ共和国に派
遣されました。NEXI でもアフリカ諸国への現地調査
の一環として、これまでのミッションに積極的に参加
してまいりましたが、今回も昨年のスーダン、南スー
ダン、ケニアへのミッションに引き続き、NEXI からもカ
ントリーリスクグループ担当が参加しましたので、その
概要をご報告します。
本ミッションは、外務省の加藤外務大臣政務官を団長に、外務省、経済産業省、商社(7 社)、
エンジニアリング・製造業(2 社)、政府関係機関(JICA、JETRO、JBIC、JOGMEC、NEXI)から 31
名、部分参加者含めると総勢 40 名で構成。現地では日本大使館、JICA 関係者の全面的なサポ
ートの下、政府要人への表敬訪問、貿易・投資促進セミナー、企業・経済関係者等の意見交換、
現地工場等への訪問など中身の濃い内容の日程でした。
ミッション全体をとおして、現地での生のご意見や工場等の施設を見学した中で、印象に残った点は以
下のとおりです。
(1)両国とも、政府要人、民間企業、経済学者から、ここ数年、政治的にも経済的にも非常に改善し、
安定してきているとの説明でした。失業率の高さなど様々な課題はあるものの、平和な状態は維
持されており、以前のような内乱状態に再び戻る懸念は聞かれませんでした。
(2)今回、キンシャサ、ハラレの首都とその周辺を見た限りでは、スーパーには豊富な品物があり、工場、
農園などでまじめに働く姿がみられました。ベルギー植民地時代から続くインフラの未整備(内戦によ
る破壊も含む)、一般の人々の貧しさが目立つ面もありましたが、街も思ったほど荒れてはおらず、
平穏な印象でした。
(3)現地の政府関係者、経済界から、中国ばかりではなく、日本にビジネスパートナーとして出て来てほ
しいという要望が強く、日本への期待は非常に大きいものがありました。両国とも、想像以上に地元
の民間企業も活躍しており、産業連盟や商工会議所など組織化も進んでいました。援助より、ビ
ジネスの段階として、日本への期待の大きさを感じました。
(4)国内が安定した状態になる中、豊かな資源を基に人々が安心して豊かに暮らせる国作りを進めて
いこうという政府関係者の熱意と、街にあふれる人々にパワーを実感しました。カントリーリスク評価
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に際しての現地での情報収集の重要性を感じるとともに、日本企業からの貿易保険に関する期待
の高さを改めて認識したミッションでした。
<主な訪問先等>
①コンゴ民主共和国
表敬:マタタ首相、ムココ副首相・予算大臣、カムンバ運輸・通信大臣(経済・商業大
臣臨時代理)、カブウェルル鉱物資源大臣、トゥンダ外務・国際協力・仏語圏
副大臣(外務担当)、マグベング外務・国際協力・仏語圏副大臣(国際・地域
協力担当)
意見交換:貿易投資セミナー(政府及び民間企業関係者参加:ムココ副首相・予算大
臣等)、在コンゴ民ベルギー大使館公使、Tenke Fungurume Mining 社(最
大の民間事業者)、GECAMINES 社(鉱業部門国営企業)、
視察先:イビ・ビラージュ(環境・農業・林業、社会開発等の総合地域開発。植林による
カーボン・クレジット販売。NGO 組織の事業体)
SIFORCO 社(林業分野最大の事業規模で輸出等。ドイツ人の創業者で 40 年
事業を継続。本年 2 月、コンゴ民の財閥グループが買収。)
②ジンバブエ共和国
表敬:チャンギライ首相、ムンベンゲグウィ外務大臣、カスクウェレ青年育成・現地化・エン
パワーメント大臣、チマニキレ鉱山・鉱業開発副大臣
意見交換:貿易・投資セミナー(政府及び民間企業関係者参加:経済計画・投資促
進省次官,投資庁長官等)、経済評論家及びジンバブエ大学教授、ジンバブ
エ鉱業会議所、ジンバブエ産業連盟
視察先:Willowvale Mazda 社(マツダ車の組み立て、マツダ及び伊藤忠出資)、ネスレ・
ジンバブエ社(50 年以上にわたり操業を続けるスイス系食品・飲料会社。現地
化政策で交渉中。)、Seed-Co 社(ザンビア,ボツワナ等、計 13 カ国に進出す
る国内最大の種子会社)
<各訪問国の概況>
(1)コンゴ民主共和国
・2001 年にローラン・カビラ大統領が暗殺されて以降、息子のジョセフ・カビラ大統領(現在 41 才)
が政権を掌握。2002 年に外国勢力の撤退の合意、国内全勢力が参加した「プレトリア包括
和平合意」により和平の基盤がしかれ、2006 年、2011 年の大統領選で同氏が当選。少なくと
もこの 5 年間の任期は全うするとの見方が強いようでした。
・国際社会が和平状態の維持のため、同大統領を支持。特に米国が現政権を全面的に支持し
ているとのことです。
・現在の内閣はテクノクラートの内閣であり、非常に実務的で、大統領も改革に真剣。ムココ副首
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相・予算大臣は、日本での留学や大学で教鞭を取った経験の持ち主で日本通だそうです。
・鉱業資源、農業、林業(アマゾンに次ぐ森林資源)、水力資源等が豊富で、人口も既に1億人
(UNFPA のデータでは 6,780 万人)はいると言われるほど将来の消費市場としても有望と、ポテ
ンシャルは非常に高い国との評判です。
・ただし、現在、国民の生活レベルは世界最下位の水準でインフラも未整備(内戦により破壊も
進んだ)。今後の経済運営が課題となっています。IMF、世銀、ドナー国による支援・指導を受
けています。2010 年、HIPC(重債務貧困国)イニシアチブによる債務救済により、財政情報は
著しく改善したとされています。
・ビジネス環境の整備に政府としては引き続き努めていくとともに、法制度度の整備と投資保護につい
ても各国と取り決めを結んでいると説明がありました。また、日本とは 30 年以上鉱業権協定(注)等
の取り決めを行い緊密な関係をもっていたが、紛争による中断以降、最近では貿易関係でも不均
衡が目立つとのこと。日本からの新たな投資に期待。鉱業分野では技術や知識が足りない等の声
が聞かれました。
(注)1966 年、当時のモブツ大統領は植民地時代の鉱業利権を全て廃棄し、新たな利権法を
公布。最初の鉱業利権協定を日本鉱業(現在のジャパンエナジー)と締結。1972 年にムブ
ンバシで操業を開始(日本側資本率 80%)。数百人の日本人が居住し、領事館、日本人
学校を含む日本人町が形成されたとのことで、現在でも神社等が残っているとのこと。
キンシャサ市内
キンシャサ郊外の木材工場
投資セミナー会場
(2)ジンバブエ共和国
・ジンバブエでは 20 年間、政治的にも経済的にも不安的な時期が続いていましたが(ムガベ大統領独
裁の下、政治抗争、国際社会からの批判、2008 年のハイパーインフレ等)、2009 年の包括的政府
の樹立(ムガベ大統領、野党のチャンギライ首相)以降、各種改革や新憲法制定へのプロセス、経
済の好転など、状況は回復の方向に向かっています。課題としては雇用対策、富の配分、食料の安
定供給などを重点に対応していくこととのコメントがありました。
・来年予定されている大統領選挙、議会選挙等の実施とその行方を注視する必要があるとの意見が
多く聞かれました。ムガベ大統領(88 歳)は、来年の大統領選挙にも出馬すると言われており、同大
統領を支えている勢力も退任させない意向とのこと。選挙に関連して不安定な状況になる可能性も
大きいが、内乱状態にはならないとの見方が強いようでした。
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・2011 年 3 月に施行された現地化法は、企業資産の 51%以上を現地人に、49%以下を外国企業
に所有させるものであるが、この趣旨は利益を国民にもたらすこと及びパートナーシップが重要との考え
によるもの。実施については鉱業では即時、製造業は 4 年以内、その他の分野は 1 年以内と一部猶
予を与えている(個別の交渉も継続)。技術移転を期待しているが、外国投資を阻害する制度との
批判の声も大きくなっています。
・ハラレ市内などイギリス植民地時代の街並み、工場団地などインフラ面ではある程度整っているが、
設備等は老朽化。技術力の高い労働力も提供可能とアピールされていますが、失業率は高いもの
となっています。現地企業は資金面で協力が可能なビジネスパートナーを求めていました。
ハラレの街並み
ハラレ郊外の種子工場
ハラレ郊外のスーパーマーケット
<両国と貿易保険との関係>
現在の両国に対する NEXI の引受方針は、以下のとおり、2 年未満の短期案件は条件付き引受停止
(船積み前や経済協力案件以外のものは減速引受停止)、2 年以上の中長期案件は、引受停止(コ
ンゴ民への海外投資保険は配当金等の送金リスクがないもののみ引受可能)というように、非常に制限
的なものとなっています。
(コンゴ民主共和国の引受方針)
・2 年未満:
・2 年以上:
▲
貿易一般、代金貸付、中小企業、簡易通知型包括
×
輸出手形、前払輸入、限度額設定型
×
貿易一般、代金貸付、海事、海投(償還型)
○
海投(非償還型・混合型)
(ジンバブエ共和国の引受方針)
・2 年未満:
・2 年以上:
▲
貿易一般、代金貸付、中小企業、簡易通知型包括
×
輸出手形、前払輸入、限度額設定型
×
貿易一般、代金貸付、海事、海投
現状の引受方針は、これまでの両国における債務の状況や政治・経済の不安定性、治安の悪化な
どを総合的に判断しての結果ですが、債務状況、政治・経済面も改善が見られる点も出ています。今後、
今回の現地での情報収集と併せ、両国の状況分析を進め、引受方針の見直しが可能か、総合的に検
討してゆきます。
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第 37 回中東協力現地会議に出席して
第 37 回中東現地協力会議(主宰 経済産業省、(財)中東協力センター)が去る 8 月 27 日、28
日とカタール国のドーハで開催され、経済産業省、外務省、中東に関係する我が国の民間企業の代表
者、政府関係機関等約 300 人が参加した。
今年は、「変貌する中東・北アフリカと日本のビジネス・産業協力」をテーマに、岡田経済産業審議官、
松富外務省中東アフリカ局長、中東各国の大使、山内東京大学教授、オサリバン MEED 会長、寺島
日本総研理事長といった方々より様々な角度から講演・報告があった。
報告の一部を紹介すると、イスラエルと親交があったエジプトにおいてイスラム勢力の台頭により中東域
内のバランスが崩れた。エジプト新政権の先行きは不透明であること、シリア、イエメンは安定化していない。
一方で湾岸産油国は好調な石油収入により好景気が継続している。一口に中東といっても湾岸諸国と
イエメンなどの非産油国とでは格差が激しい等、改めて中東地域は複雑で多様であることを学んだ。
日本貿易保険(NEXI)からは、稲垣理事より最近の活動状況、中東関係プロジェクトの概要などにつ
いてプレゼンを行った。NEXI の地域別引受実績において中東向けは 2011 年度 10.4%でアジア(47.9%)、
中米(11.9%)についで 3 番目の引受規模。中東における国別上位は、カタール、サウジアラビア、UAE、ト
ルコ、オマーンの順となっている。特に今回開催されたカタールは世界で最も成長している国の1つであり、
NEXI では 2011 年度に同国向け大型天然ガス処理設備の建設プロジェクト向けの貿易代金貸付保険
を引き受けた。
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真夏のドーハは日中 40 度超で湿度も高く屋外には 5 分もいられないほどの蒸し暑さであったが、2 日間
の会議で中東・北アフリカについて様々な報告・ディスカッションを集中的に聞くことができ、大変興味深い
会合であった。
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NEXI の業務体制について
各部・グループ紹介 第 5 回
~審査部~
審査部のご紹介
審査部は、NEXI が引き受ける保険の個別案件審査、カントリーリスクや個別バイヤーの
与信リスク、環境への影響の審査を、それぞれ、審査グループ、カントリーリスクグルー
プ、与信管理グループ、環境グループで行っており、その他 NEXI が引き受けた保険のポー
トフォリオ全体としてのリスク管理についても検討しています。
個別案件審査、各種リスク審査にあたっては、リスク管理手法についての研究を重ねて
専門性を高めると同時に、NEXI 内営業各部やお客様のニーズにも十分耳を傾け、貿易・投
資の促進と過度なリスクテイクやリスク集中を避けるバランスを如何に取っていくか、腐
心しています。審査部は対応するリスクに則して 4 グループに分かれており、以下にご紹
介致します。
●審査グループ
当グループは 8 名で、保険の引受に際して内諾を必要とする輸出案件や日本企業の輸出
や海外における活動を支援する投融資案件の審査に加えて保険金査定の審査も行っていま
す。
個別案件の審査では案件の大型化や他の ECA との協調案件など引受に際して様々な観点
から検討を要する案件が増加しているなか、営業部と協力して案件組成に貢献できるよう
努力しています。
また、約款等各種規程類の解釈について営業部からの相談に対応し、必要に応じて制度
改正事項を取り纏めのうえ実施しています。新商品の開発や他の ECA との協定の締結につ
いても関与しており、業務範囲は非常に幅広いなかで迅速かつ柔軟な対応ができるよう努
めています。
●カントリーリスクグループ
当グループは 5 名で、カントリーリスクに関する情報を外部情報や現地調査等を活用し
て収集・分析したうえで、各国・地域の引受方針の設定・変更、国カテゴリーの決定、及
び案件審査に資する情報提供を行っています。また、各国の概況(場合により複数国にま
たがるテーマ)を適宜取り上げて、この e-NEXI の「カントリーレビュー」のコーナーに毎
月掲載しています。一口にカントリーリスクといっても様々な側面がありますが、対象国・
地域は 200 カ国(及び地域)を超えており、限られたリソースと時間の制約の中で当該国
の抱えるリスクの本質を素早く見極めることに努めています。国カテゴリーの決定プロセ
スでは OECD の会合(部会)で合議で決定する国が多く、真摯な議論が戦わされ参加に際し
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ては緊張する反面、他国の輸出信用機関との公式・非公式の意見交換が可能になり心強い
ところも多い面があります。
●与信管理グループ
当グループは、計 20 名のグループで、主に輸出契約等の相手先(=バイヤー)の信用状
態を調査し、格付を付与すると共に与信枠を設定するなど、バイヤーに関する信用危険の
引受審査、並びにその後の定期的な管理も含めた海外商社名簿全般に係る業務を担当して
います。バイヤー以外では銀行の信用力の調査・分析も行っています。審査の際には主に
財務諸表、アニュアルレポートや信用調査報告書を使用しますが、それ以外にもあらゆる
外部の情報ソースを駆使して情報収集に励み、得られた情報を活用して適切かつ機動的な
審査をするよう努めています。
●環境グループ
当グループは計9名で、「環境・社会への影響の度合いとその配慮について」を審査して
います。NEXIが付保する2年以上の案件は全て、個々のプロジェクト毎に環境・社会への影
響の度合いをチェックし、その影響を回避若しくは軽減する対策が講じられているかを確
認しています。環境・社会への影響の度合いが大きいと判断されるプロジェクトについて
は、EIA(環境影響評価)レポートを確認する机上審査に加え、実際に現地へ出向き、事業
者からのヒアリング、現場サイトの確認、環境当局との面談を行い、環境・社会への影響
とその対応策の詳細を確認します。
また、新規案件の環境審査の他、引受済みプロジェクトについて、その後適切な環境配慮
が継続的に実施されているかどうか、客先から提出されるモニタリングレポートを分析し、
確認を行う環境モニタリング業務も実施しています。更には、OECDの環境社会配慮に関す
るルール作りの国際会議に参加したりしています。
最近の国際的な議論の流れとして、大気汚染、水質汚染等の自然環境配慮に加えて、強
制労働、児童労働等人権面への配慮を含む社会環境配慮が重視される傾向にあります。ま
た、地球温暖化問題を踏まえて、従来の大気汚染物質(NOx、SOx等)に加えてCO2の排出に
対する配慮の確認が強化される傾向にあります。今後は、このような傾向も踏まえながら
環境レビューを行っていくこととしております。
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