概要書

ライブにおける非日常性とその特 質に関する考察
Discussion on Characteristics of Extraordinary Experiences during Live Performance
1w080348-3 戸谷 慧
指導教員 藪野 健 教授
TOYA Satoru
Prof. YABUNO Ken
概要
日本の音楽産業を見渡せば、音楽ソフト市場が芳しくない状況が続いており、YouTube 等に代表
される無料音楽視聴環境が趨勢である。その一方で、ライブ・エンターテインメント市場が成長傾向
にあり、多くの人々がライブに興味を持ち、実際に参加しているというデータもある。本論文では、
こうした現状に注目し、筆者自らが実際に足を運んだおよそ 250 のライブ体験や、日本におけるラ
イブの歴史を紐解きながら、ライブハウスで行われる音楽のライブの特質について考察する。本論文
では特に、ライブの非日常性という特質に焦点を絞り、ライブを構成する要素を抽出、整理すること
でライブにおける非日常性の特質を明らかにし、その機能や効果についても論じる。
キーワード:
ライブ、非日常、日常
Keywords: live performance, extraordinary experiences, daily life
1. 研究の背景と目的
とがライブの性格を形成しているのではないだ
CD の売上、音楽配信市場ともに芳しくない
ろうか。換言すれば、日常と非日常の深い関わ
状況が続いている一方で、ライブ・エンターテ
り合いこそがライブのもつ機能となっていると
インメントの公演数、入場者数、市場規模はと
考えられる。
もに増加傾向にある(*1)
。本論文ではこうし
た現状に注目し、中でも公演数、動員数が多い
2. ライブシーンの現況
ライブハウスで行われるロック・ポップスのラ
音楽ソフトの売上不振の理由を探るヒントと
イブに焦点を絞り、その特質について考察する。
なるのが日本レコード協会の『音楽メディア
ライブには非日常性という特質がある。本論
ユーザー実態調査報告書』である(*2)。これ
文において非日常とは、ある個人または社会に
らの調査を分析すると、音楽ソフトを購入しな
とっての日常という、日々繰り返される生活や
い理由として、YouTube 等に代表される、無
常態化した出来事に対する相対的な概念であ
料で音楽が聴取できる環境が確立されつつあ
る。ライブにおける非日常性は日常では得られ
る、もしくは既に確立しているという状況が見
ぬ体験を与えるもの、という性格上、日常とは
えてくる。
隔絶されたものである。
一方で、前述の通り、ライブ市場は好調であ
筆者自身、この種のライブにおける非日常性
る。また、前述の調査において「今後利用を増
に着目し、音楽のライブに足繁く通ってきた。
やしたい商品やサービス」として「コンサー
ライブを観ることの効果としては、安らぎ、息
ト・ライブなどの生演奏」を挙げている人は
抜き、ストレス発散等が考えられるが、こうし
35.2% で、前年比 4.6 ポイント増であった。
た効果には共通して非日常性の影響があるのだ
つまり、無料で音楽が聴取できる環境が確立
ろう。つまり、日常の中に非日常が入り込むこ
されつつあるにも関わらず、金銭、手続き、時
1
間、距離等、様々なコストを乗り越えてまで体
を及ぼす。たとえば、「大音響」やミラーボー
験したいと思わせる魅力がライブにはある、と
ルなどの特徴的な「光」といった、日常生活の
考えられる。
なかでは決して感じることの出来ない量の聴覚
的、視覚的刺激が挙げられる。こうした要素は、
3. ライブの分類
ライブハウスという非日常空間の中で、その非
本論文においてはライブの性格の中でも、同
日常性をより高め、オーディエンスに直接的に
時性と場の共有、そしてそこにおけるパフォー
影響を与える役割を担っている。こうした感覚
マーとオーディエンスの関係性を重視する。
刺激による効果は音楽療法や心理学的観点から
ライブの分類は、公演の内容、会場の規模、
も認められている。
音楽のジャンル等の要素ではなく、この関係性
人と人の間に存在する要素はパフォーマーと
という切り口によって規定され、「劇場型」「偶
オーディエンスの関係性を規定する要素であ
発型」
「親密型」と分類される(*3)。オーディ
る。両者の関係性は前述の通り、ライブにおけ
エンスがチケット代を払い、パフォーマーが対
る日常と非日常の関わり方を規定する。また、
価としてパフォーマンスを提供する予定調和的
パフォーマーとオーディエンス、あるいはオー
な「劇場型」。ストリートパフォーマンス等、
ディエンス同士による「煽り」
「盛り上がり」
「熱
偶然的な出会いによる「偶発型」。そして、身
気」といった要素は、興奮や忘我状態等の心理
内が集う「親密型」の 3 つである。
作用を引き起こし、非日常性を高めたり感受し
これらの型は日常と非日常の関わり方を規定
やすくしたりする。
するものである。「劇場型」のライブは日常の
このように、ライブにはオーディエンスが非
延長としての非日常であり、また予測可能性の
日常性を感じ、その効果が相乗的に引き出され
高い非日常である。「偶発型」のライブは日常
る仕組みが備わっている。そして、非日常性を
の延長上にある非日常でありながら、予測可能
構成する要素は私達自身の心身や社会に良い影
性は低い。そして「親密型」はパフォーマーと
響を与える。こういったライブの機能こそが、
オーディエンスの関係が身内化し、非日常であ
ライブの魅力となっているのではないだろう
るはずのライブが日常化した姿と理解できる。
か。
4. ライブにおける非日常性
参考
ライブは様々な要素で構築され、それらが有
*1『コンサートプロモーターズ協会』
機的に影響しあうことで非日常性という特質を
http://www.acpc.or.jp/marketing/transition/
形成し、人々や社会に様々な作用を与える。実
*2『音楽メディアユーザー実態調査報告書』
際のライブ体験をもとにその要素を挙げてみる
h t t p : / / w w w. r i a j . o r. j p / r e l e a s e / 2 0 1 1 /
と、主だったものだけで 100 以上の要素が挙
pr110217.html
げられる。これらの要素は「場を形成するもの」
*3『ライブシーンよ、どこへいく』
「場と人の間に存在するもの」「人と人の間に存
(宮入恭平、佐藤生実 著/株式会社青弓社/
在するもの」の 3 つに分類出来る。
2011 / pp.21-22)
まず、
「一回性」「閉鎖的空間」あるいは「コ
ンセプト」
「テーマ」といった場を形成する要
素が日常から非日常性を浮かび上がらせ、日常
的な感覚刺激を遮断する環境を構築する。
次いで、場と人をつなぐ要素が、人々に影響
2