携帯電話のガラパゴス現象に関する一考察 篠原聡兵衛 Sobee Shinohara Keywords:ガラパゴス現象、第 2 世代携帯電話、携帯事業者間の競争、市場シェア 1 目的 本研究の目的は、日本において携帯電話のガラパゴス現象が顕在化した事情等を、1990 年代 半ば以降に各国で導入された第 2 世代携帯電話を例に分析することである。 なお、本稿では、特段の記述がない限り、第 2 世代携帯電話について論じている。 2 方法 本研究の調査方法は、日米欧 3 極での比較法による。携帯事業者間の競争の視点を考慮する。 3 結果 (1) 欧州(EU)では、政策が、欧州全体で 1 の技術規格とすることを要請した。これは欧州域 内全てで 1 台の携帯端末を持ち運び(ローミング)可能とするためである。 欧州各国には、例えばドイツにおけるドイツテレコムのように、技術力で突出する既存の携 帯事業者が存在する。携帯事業者間の競争という視点から、仮に、特定の携帯事業者 A が事実 上支配する技術規格を別の携帯事業者 B が採用した場合、B が A に技術面(多様なサービス を実現する携帯端末を含む)で支配されかねない。国境を越えた携帯事業者の相互参入も踏ま え、技術規格を突出して支配する特定の携帯事業者がない技術規格(GSM、アナログ方式)に 収れんしたと考えられる。 欧州において、例えばドイツでは、1996 年頃に概ね 50%程度であった上位 2 社の市場シェア が、右肩下がりにそれぞれ 40%、30%程度まで低下する等、競争が進展した。 (2) 米国では、政策は、技術中立性を明示し、携帯電話の技術規格に関与しなかった。第 2 世代 携帯電話が導入される頃、米国には 1994 年の AT&T 分離分割で生まれた複数のベル系携帯事 業者(=技術力で突出した特定(1)の携帯事業者が存在しない)を含む主要な携帯事業者 4 社程 度全てが欧州の技術規格(GSM)を採用した。この背景には、欧州と米国を 1 台の携帯端末 で持ち運びができ利便性を高められることと、GSM を採用しても米国の携帯事業者が欧州の 特定の携帯事業者に技術面で支配されないという障壁の低さも背景にあったと考えられる。 米国における市場シェアは、最大の AT&T が、60%台(1998 年頃)から概ね 40%程度(2011 年頃)に右肩下がりに低下するなど、競争が進展した。 (3) 日本では、 複数が併存した第 1 世代携帯電話の技術規格問題から生じた日米政府間合意(1989 年)の結果、政策が、第 2 世代携帯電話に関する単一の技術規格(デジタル)を要請した。結 果、世界をリードするデジタル方式携帯電話となる一方、技術力で突出する NTT ドコモが事 実上支配する技術規格となった。同社が開発し 1999 年にサービス開始した i-mode も同社の 競争力を増大させた。携帯事業者間の競争の視点から、他国の携帯事業者は同技術規格を採用 し難いため、他国では採用されない我が国独自規格となり、ガラパゴス現象が顕在化した。 日本における市場シェアは、第 2 世代携帯電話の導入当初(1995 年頃)だけは主要約 3 社それ ぞれが約 30~40%と均衡したものの、1998 年頃以降は NTT ドコモが約 70%を獲得した。 4 結論 日米欧 3 極の政策や携帯事業者間の競争の視点等を比較法で検討することで、日本において携 帯電話のガラパゴス現象が顕在化した事情を明らかにできた。 【主要参考文献】 *携帯事業者の敬称は略. *本稿で示す見解は著者個人の意見であり、必ずしも所属組織の見解ではない. Kushida, Kenji E. (2011) "Leading without Followers: How Politics and Market Dynamics Trapped Innovations in Japan's Domestic "Galapagos" Telecommunications Sector," Journal of Industry, Competition and Trade, Vol. 11, Issue 3, pp 279-307.
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