2013年度 岐阜経済大学 学内ゼミナール大会 参加論文

2013年度
岐阜経済大学
学内ゼミナール大会
参加論文
ゼミ名
菅谷ゼミナール
テーマ
社会保障番号(マイナンバー)について
代表者
長田
陽子
参加者
西脇
隆之
宮澤
新之助
樋田
裕恵
松本
和貴
渡邉
純羽
目次
はじめに
Ⅰ .マ イ ナ ン バ ー 法 の 概 要
Ⅱ .世 界 の 現 状 を 眺 め る
Ⅲ .脅 か さ れ る プ ラ イ バ シ ―
Ⅳ .個 人 が 番 号 で 管 理 さ れ る い う こ と
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おわりに
はじめに
国民一人一人に番号を割り振って所得や納税実績、社会保障に関す
る個 人情 報 を 1 つの 番 号で 管理 す る共 通番 号「マイ ナン バ ー」制 度 の
関 連 法 ( 以 下 、 マ イ ナ ン バ ー 法 ) が 、 2013 年 5 月 24 日 の 参 院 本 会 議
で 可 決 、 成 立 し た 。 2016 年 1 月 か ら 番 号 の 利 用 が ス タ ー ト す る 。
マイナンバー法における個人番号の利用範囲は社会保障分野、税分
野、災 害対 策 分野 の 3 つに 大き く 分け られ、さら に社 会 保障 分野 は 年
金分野、労働分野、福祉・医療・その他分野に分けられる。それぞれ
の分野での利用は下記の通りである。
第 1 に年金分野においては、年金の資格取得、確認、給付を受ける
際 に 利 用 さ れ る 。第 2 に 労 働 分 野 に お い て は 、雇 用 保 険 等 の 資 格 取 得 、
確 認 、給 付 を 受 け る 際 の ほ か 、ハ ロ ー ワ ー ク 等 の 事 務 等 に 利 用 さ れ る 。
第 3 に福祉・医療・その他分野においては、医療保険等の保険料徴収
等の医療保険者における手続き、福祉分野の給付、生活保護の実施等
に利 用さ れ る。第 4 に 税分 野に お いて は、国 民の 番号 が 税務 当局 に 提
出する確定申告書、届出書、調書等に記載されるほか、当局の内部事
務等に利用される。第 5 に災害対策分野においては、被災者生活再建
支援金の支給に関する事務等に利用される。なお、上記のほか、社会
保障、地方税、防災に関する事務その他これらに類する事務であって
地方公共団体が条例で定める事務に利用される。
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本 論 文 で は 、類 似 の 制 度 を 利 用 し て い る 諸 外 国 の 事 情 を み た う え で 、
日本における問題点を指摘する。
Ⅰ.
マイナンバー法の概要
本節では、マイナンバー法の概要をみていく。最初に基本理念につ
いて、マイナンバー法は、個人番号及び法人番号の利用に関する施策
の 推 進 は 、個 人 情 報 の 保 護 に 十 分 に 配 慮 し つ つ 、社 会 保 障 制 度 、税 制 、
災害対策に関する分野における利用の促進を図るとともに、他の行政
分野及び行政分野以外の国民の利便性の向上に資する分野における利
用 の 可 能 性 を 考 慮 し て 行 わ れ な け れ ば な ら な い と し て い る( 第 3 条 第
2 項 )。
次に個人番号について、①市町村長は、法定受託事務として、住民
票コードを変換して得られる個人番号を指定し、通知カードにより本
人 に 通 知 す る ( 第 7 条 第 1 項 )。
②個人番号は、盗用、漏洩等の被害を受けた場合等に限り変更できる
( 第 7 条 第 2 項 )。 ③ 中 長 期 在 留 者 、 特 別 永 住 者 等 の 外 国 人 住 民 も 対
象となる。
利 用 範 囲 に つ い て は 、個 人 番 号 の 利 用 範 囲 を 法 律 に 規 定 し( 第 9 条 )、
① 国 ・地 方 の 機 関 で の 社 会 保 障 分 野 、 国 税 ・地 方 税 の 賦 課 徴 収 及 び 防 災
等 に 関 す る 事 務 で の 利 用 、② 当 該 事 務 に 係 る 申 請 ・届 出 等 を 行 う 者( 代
理 人 ・受 託 者 含 む )が 事 務 処 理 上 必 要 な 範 囲 で の 利 用 、③ 災 害 時 の 金 融
機関での利用に限定する。番号法に規定する場合を除き、他人に個人
番 号 の 提 供 を 求 め る こ と は 禁 止 さ れ る ( 第 15 条 )。
個人番号カードについて、市町村長は、顔写真付きの個人番号カー
ド を 交 付 す る( 第 17 条 第 1 項 )。こ の 場 合 、通 知 カ ー ド の 返 納 を 受 け
る。①市町村は条例で定めるところにより、②政令で定めるもの(民
間事業者等)は政令で定めるところにより、総務大臣が定める安全基
準 に 従 っ て 、 I C チ ッ プ の 空 き 領 域 を 利 用 す る こ と が で き る ( 第 18
条 )。他 方 、本 人 か ら 個 人 番 号 の 提 供 を 受 け る 場 合 、個 人 番 号 カ ー ド の
提 示 を 受 け る 等 の 本 人 確 認 を 行 う こ と を 必 要 と す る( 第 16 条 )。な お 、
法人番号については、国税庁長官が法人等に法人番号を通知し、法人
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番 号 は 原 則 公 表 さ れ る ( 第 58 条 )。
個人情報保護については、以下のような定めがある。①マイナンバ
ー法の規定によるものを除き、特定個人情報(個人番号をその内容に
含 む 個 人 情 報 ) の 収 集 ・保 管 ( 第 20 条 ) 及 び 特 定 個 人 情 報 フ ァ イ ル の
作 成 を 禁 止 す る ( 第 28 条 )。 ② 特 定 個 人 情 報 の 提 供 は 原 則 禁 止 す る 。
ただし、行政機関等が情報提供ネットワークシステムを使用しての提
供 な ど 、マ イ ナ ン バ ー 法 を 規 定 す る も の に 限 り 可 能 と す る( 第 19 条 )。
③情報提供ネットワークシステムで情報提供を行う際の連携キーとし
て個人番号を用いない等、個人情報の一元管理ができない仕組みを構
築する。④国民が自宅のパソコンから情報提供等の記録を確認できる
仕 組 み ( マ イ ・ポ ー タ ル ) を 提 供 す る ( 附 則 第 6 条 第 5 項 )。 ⑤ 特 定 個
人 情 報 保 護 評 価 を 実 施 す る( 第 27 条 )。⑥ 特 定 個 人 情 報 保 護 委 員 会 を
設 置 す る( 第 36 条 )。ま た 、罰 則 の 強 化 等 が 第 67 条 ~ 第 77 条 に 規 定
されており、マイナンバー法は十分な個人情報保護策を講じると定め
ている。
以上、マイナンバーについて概観したが、法施行後1年を目途とし
て、特定個人情報保護委員会の権限の拡大等について検討を加え、そ
の結果に基づいて所要の措置を講ずる。また、法施行後3年を目途と
して、個人番号の利用範囲の拡大について検討を加え、必要があると
認めるときは、その結果に基づいて、国民の理解を得つつ、所要の措
置を講ずるとしている。
Ⅱ.
世界の現状を眺める
番号制度の導入に賛同している意見で「ほかの国が導入しているの
だから」というものが多数あるが、それは国の実情をふまえた真剣な
思考にまで至っておらず、これでは具体的にどのような制度を導入す
るのかという議論に入った時に、実質的に意味のある議論をするのが
難しい。多くの国が番号制度を導入しているのは事実だが、便利さと
リスクとコストだけの判断ではなく、それぞれの国の事情を反映して
のことである。では、マイナンバー制度の導入に当たり、どのような
点を考慮すべきであろうか。また、諸外国では、どのような状況にな
っているのだろうか。
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1 .国 の 面 積 ・ 人 口
これは、どれくらいの規模の制度になるか、どれくらいの設置・運
用の費用がかかるかの予測に必要である。
2 .他 の 関 連 制 度
これは、どのようなものがあるかによって当該制度の運用に大きな
影響が生じるためである。例えば、個人情報保護のための第三者機関
の有無・権限・実効性、プライバシー保護を空洞化させてしまう法制
の有無・内容等。
3 .歴 史
国内的には、民主政治が十分に機能し、国民の声が政治に十分反映
するような関係になっているか否かも重要である。
4 .周 辺 国 と の 政 治 的 関 係
他民族を虐殺、周辺国を侵略したなどの歴史が近い過去にある国で
は、国が個人データを利用しやすい情報環境をつくることには、国民
の不信感を強め、周辺国との緊張関係を生む原因になる恐れがある。
逆に、国防の観点から敵対国に大量の個人データを盗まれたり、消去
されたりする可能性も考慮する必要がある。
5 .各 国 の 事 情
( 1) ア メ リ カ 合 衆 国
1936 年 、社 会 保 障 法 に 基 づ い て 、社 会 保 障 庁 が 就 業 者 の 退 職・死 亡
後の社会保障給付を行うために社会保障番号が始まったが、その後公
私に広く利用され、事実上の国民識別番号になっている。
社 会 保 障 番 号 カ ー ド は 小 さ な 紙 で IC カ ー ド で は な い 。 ア メ リ カ 国
外で就業する外国人にも発行することができ、生活のさまざまな場面
での利用が可能なため、便利だったという声も多い。
しかし本人確認手続きが簡易すぎるため、なりすましによる犯罪が
問題となっている。その人になりすまし他人の名義のクレジットカー
ドを作って売買したり、預金口座から現金が引き出されたりする以外
に も 課 税 関 連 の な り す ま し も 多 く 、 連 邦 課 税 庁 に よ れ ば 2009 年 半 ば
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か ら 2011 年 末 の 間 で 40 万 4000 人 の 納 税 者 が 、 な り す ま し に よ る 不
正還付申告の被害にあったとされている。
( 2) カ ナ ダ
人 口 は 約 3331 万 人 ( 2008 年 )、 国 土 は 日 本 の 約 27 倍 、 10 の 州 、 3
の準州からなる連邦立憲君主国家である。9 桁の番号からなる社会保
障番号が事実上の統一的な国民識別番号となっている。
1946 年 に 年 金 及 び 失 業 保 険 の た め に 導 入 さ れ 、人 的 資 源 技 術 開 発 省
が 付 番 し て い る 。1967 年 に 国 税 庁 が 財 務 申 告 目 的 で 利 用 す る よ う に な
る。
番号の取得は任意だが、公教育や社会保障を受ける場合、雇用され
る場合、銀行口座を開設する場合などに必要であるため、ほとんどの
国民が取得している。
1988 年 、政 府 は 番 号 が 広 く 利 用 さ れ る こ と を 懸 念 し て 、社 会 保 険 番
号 の 利 用 を 税 務・年 金・社 会 保 障 に 限 定 す る 法 律 を 制 定 し た 。し か し 、
身分証明手段としての利用が禁止されているわけではないので、実際
には多岐にわたって利用されており、アメリカと同じくなりすまし犯
罪が多く発生している。
( 3) 韓 国
人 口 は 約 4887 万 人 ( 2010 年 )、 国 土 は 日 本 の 約 4 分 の 1 の 民 主 共
和国である。軍部独裁政権が長期間続いていた歴史的な国情を背景と
して、韓国では住民登録番号が身分証明番号化し、社会生活の中で極
めて広範に利用されることに国民の拒絶反応がほとんどない。
住 民 登 録 番 号 ( PIN) は 、 韓 国 籍 を 持 つ 者 に 出 生 時 に 与 え ら れ る 生
涯 不 変 の 13 桁 の 個 人 識 別 番 号 で 、最 初 の 6 桁 は 生 年 月 日 、7 桁 目 が 性
別 、 8 な い し 11 桁 目 が 地 域 番 号 、 12 桁 目 が 住 民 登 録 順 序 、 13 桁 目 が
検証番号と、それぞれ意味をもっている。
生活のあらゆる場面で利用されており、韓国の制度には個人識別情報
をプライバシーとして保護する思想がない。
インターネット上では本人認証手段として住民登録番号が慣例とな
っ て い る た め な り す ま し 犯 罪 が 頻 発 し 、社 会 問 題 に な っ て い る 。ま た 、
番号と名前が結びつけられた情報が漏洩しており、住民登録番号を検
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索するとかなりの数がヒットし、闇市場で個人情報を簡単に買えてし
まうという現状である。
このような状況に国民よりも政府の方が危機感を抱いており、住民
登録番号の利用範囲を制限する法律制度を検討している。
( 4) ス ウ ェ ー デ ン
人 口 は 約 925 万 人 、 国 土 は 日 本 の 約 1.2 倍 の 立 憲 君 主 国 家 で あ る 。
1947 年 か ら 国 内 に 住 む す べ の 人 に 生 ま れ た と き か ら 個 人 識 別 番 号
( PIN)を つ け て お り 、6 桁 の 生 年 月 日 と 、3 桁 の 任 意 に 選 ん だ 番 号 か
らなりたっている。
( た だ し 男 性 は 奇 数・女 性 は 偶 数 と い う 決 ま り が あ
る 。) コ ン ピ ュ ー タ ー 処 理 が 普 及 し て か ら は 3 桁 の 番 号 に 4 番 目 の コ
ントロール桁と呼ばれる番号が追加された。
個 人 情 報 を 取 り 扱 う コ ン ピ ュ ー タ プ ロ グ ラ ム の す べ て が PIN に 基
づいてつくられるようになり、自治体の管理する個人情報のファイル
は PIN だ け で 成 り 立 っ て お り 、 氏 名 や 住 所 は 一 切 含 ん で い な い 。
( 5) ド イ ツ
人 口 は 約 8175 万 人 、国 土 は 日 本 と ほ ぼ 同 じ 面 積 で 16 の 州 か ら な る
連邦共和国である。
2003 年 の 税 法 改 正 で 、税 目 的 で の 税 務 庁 と 関 連 機 関 の 間 で の 連 携 の 目
的で、納税者番号が導入された。
付 番 は 出 生 、新 規 の 入 国・居 住 等 に 行 わ れ 、11 桁 の ラ ン ダ ム ナ ン バ
ーで生涯不変である。利用目的を厳格に制限し、他に利用価値がない
ようにすることでなりすまし犯罪を防いでいる。
ドイツの特徴として、連邦個人情報保護法にもとづく以下のような保
護監察制度がある。
① 本人に照会と訂正の権利を与える
② 企業内または官庁内に個人情報保護責任者を置くことを義務づけ
る
③ 中立的な立場のデータ保護監察官を置く
④ 1、 2 の 監 視 を 上 記 の 保 護 監 察 官 に あ た ら せ る 。
連邦行政領域については連邦データ保護監察官、各州には州プラ
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イバシー保護監察官がいる。
Ⅲ.
脅かされるプライバシー
前節では、マイナンバー制度の導入にあたって考慮すべき点や、諸
外国の事情をみてきた。日本でも今まで、個人に番号をつけて管理す
る制度が、いろいろな名目でつくられようとしてきた。例えば、行政
機 関 が 扱 う す べ て の 個 人 情 報 を 同 一 の 番 号 で 管 理 し よ う と 1999 年 8
月に住民基本台帳法の改正案として住民基本台帳ネットワークシステ
ム法が国会で可決・成立した。この法案の可決・成立を多くの人が知
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ら ず 、広 く 国 民 か ら も 、市 町 村 か ら も 、強 い 疑 問 の 声 が 沸 き 起 こ っ た 。
この住民基本台帳番号(住基コード)を「キー」として個人情報を集
められたらどうなるか。プライバシーの侵害が起きないか。社会保障
や税のどと結びつくと、個人のプライバシーを「丸裸」にする仕組み
ができるのではないか。そう危惧した住民たちが全国各地で次々と訴
訟 を 起 こ し た 。 国 が 被 告 と な っ た 訴 訟 だ け で 35 件 に も の ぼ り 、 プ ラ
イバシー権、自己情報コントロール権を踏みにじり、憲法を違反する
制度として、住基ネットの差し止めが求められた。これに対し、最高
裁は住基ネットを「合憲」だとし、住基ネットについて「法制度やシ
ステムの不備はなく、プライバシー権を侵害しない」と判断した。
まず、住基ネットで扱う本人確認情報はプライバシー権で保護され
るとしたが、扱う情報自体は「氏名や住所などであり、個人の内面に
かかわる秘匿性の高い情報ではない」と指摘した。しかし、今回導入
される社会共通番号制度には個人の健康状況や医療状況、所得状況な
ど あ ら ゆ る 情 報 が 1 つ の 番 号 に 詰 め 込 ま れ る こ と と な る の で「 秘 匿 性
の高い情報ではない」とは言い難いものである。こういった国民個人
に関する法律を国民がよく理解しておらず、そのうえ法律が成立した
ことも知らないまま個人情報を利用されるとしたら、必ず問題が発生
する。個人に番号をつけて管理するということには、多くの問題点が
あると考えられる。
そもそも、共通番号制度に対し、私たち国民はどれほど必要性を感
じているのだろうか。今のままの制度のどこに不便があるというのだ
ろうか。むしろ、共通番号制度ができれば、さらに特定の個人情報が
検索しやすくなり、
「 ね ら い う ち 」し て 情 報 収 集 す る 恐 れ が 強 ま る 。中
央省庁がハッカー攻撃を受けたり、公務員の情報が漏れたりする事態
も起こり得えるだろう。ドイツやオーストラリアにおいて国民を一意
に識別する番号制を採用しながら、多目的の利用を厳しく禁止し、行
政機関同士で個人データを直接やりとりできないようにしている例も
ある。人を集団管理する国家権力の危険性をナチスの歴史として体感
している歴史的経緯があるからではないだろうか。
他国でこのような制度を用いているとこもあるが、全国民のさまざ
まなデータをデジタル管理するする社会は、管理されること、監視さ
れることを気にしない人にとっては住み心地のよい社会かもしれない
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が、そうでない人たちにとっては住みにくい社会になってしまうこと
になる。
Ⅳ.
個人が番号で管理されるということ
共通番号制は先に紹介した住基ネットの住民票コードの延長線上に
位置 づけ ら れる 制度 で ある。住民 票 コー ドと は、個 人 に 1 つずつ割り
当 て ら れ る 11 桁 の 番 号 で 、 そ れ と 個 人 の 氏 名 ・ 生 年 月 日 ・ 性 別 ・ 住
所の情報が結び付けられている。
この住民票コードは行政機関のみで使用される秘密の番号で、本人
は自由に番号変更を請求できる。しかし、共通番号制度は行政機関の
みならず民間でも使用される公開番号で生涯不変である。
共通番号制は最低でも課税のために使うことが予定されているので、
個 人 か ら 勤 務 先 、さ ら に は 国 へ と 伝 え ら れ て い く と 考 え ら れ る 。ま た 、
この共通番号を徴税に使用するとなると、私人・私企業が、個人と行
政の間に入ることになる。この時私人・私企業にも個人の番号が公開
される。
もちろん、私人・私企業が個人の番号を他人に知らせたり、独自で
利用したりするのは許されない。しかし、これまで多くの企業や行政
機関がミスや売買によって個人情報を流出させてきている。すべての
私人・私企業が、こうしたことを行わないという約束を守り続けるこ
とができるだろうか。
税収を上げるためにこの制度を導入するのであれば、まず個人のプ
ラ イ バ シ ー 保 護 の 必 要 性 と の 比 較 検 討 を す べ き だ ろ う 。そ の た め に は 、
共通番号制でどれほどの税収が上げられるのかを明らかにする必要が
あ る が 、こ の 事 に 関 し て は 全 く 明 ら か に さ れ て い な い の が 現 状 で あ る 。
この問題は国会審議でも議論されているが、
「番号制度の導入によっ
てどれだけ税収アップが見込まれるのか?」という質問に対し、麻生
財務大臣は「所得把握の適正化による税収への影響については、事前
に 見 込 む こ と は 困 難 」 と 述 べ て い る 。 つ ま り 、「 よ く 分 か っ て い な い 」
ということになる。
そもそも共通番号によって税収が上がるなら世界中の国々でとっく
に 採 用 さ れ て い る は ず で あ る 。そ れ が そ う な っ て い な い と い う こ と は 、
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そんなことができないからである。
それでも、共通番号を公開する意味がどこにあるのだろうか。その
理由はおそらく「民間企業」のためだと思われる。共通番号が公開さ
れれば民間企業は企業活動のためにさまざまな個人情報を便利に使う
ことができる。しかも生涯不変の番号であるため、民間企業にとって
これほど好都合な制度はないだろう。
このように多くの問題点が見受けられるが、制度の賛成派は、共通
番 号 制 の た め の 第 三 者 機 関( 特 定 個 人 情 報 保 護 委 員 会 )が 作 ら れ る し 、
厳しい罰則も規定されるから大丈夫だと信じ切っている。しかし、そ
の第三者機関の主たる権限は「監視・監督」だけである。それらの権
限を与えられても、ネット上の情報の流れをリアルタイムで規制する
ことはできない。
罰則も一応厳しく規定されてはいるが、処罰するにしても、1 件処
理するだけでかなりの時間と費用がかかってしまうことが予想される。
さらに、海外からの犯行を国内の法律でどう裁くかも問題になってく
る。
また、実際に共通番号制度に関連して逮捕者が出てしまった場合、
共通番号を扱っている現場は萎縮し、共通番号制度に関わることに消
極的になる可能性も出てくる。セキュリティレベルを高めることこそ
が最も基本的かつ重要であるが、多大な費用をかけて高度なセキュリ
ティシステムを構成したとしても、犯罪者とのいたちごっこになるだ
けだろう。このため、ただでさえ膨大なセキュリティコストがさらに
膨れ上がることになる。
おわりに
こ れ ま で 挙 げ た 問 題 の 他 に 、法 案 提 出 か ら 3 年 後 の 制 度 開 始 = 駆 け
足制度の問題として、下記の 6 つの問題もある。
①住民基本台帳ネットワーク・システム(住基ネット)がベースであ
る。
個 人 情 報 は 現 在「 11 桁 以 上 の 番 号 」し か 決 ま っ て い な い 。付 番 の み
だ と 、「 国 民 総 背 番 号 制 」 と そ う 実 質 的 に 変 わ ら な い 。
②カード普及率は未知数である。
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カードが申請主義に基づいている限り、全国民に番号が振られてい
な が ら も 、個 人 が 申 請 し な い と カ ー ド は 発 行 さ れ て い な い こ と に な る 。
③税収の大幅増は幻想である。
納税実績の数字を社会保障の情報と結びつけるだけで、期待される
ような大幅な税収増は生まれない。
④所得の正確な補足には必ずしも有効でない。
給与所得者と自営業者等とのあいだに存在する所得捕捉率の不公平
の問題(いわゆるク・ロ・ヨン、トー・ゴー・サン)は、共通番号制
では解決しない。なぜならば、自営業者等の所得状況の把握は確定申
告によるしかないからで、これは共通番号を導入しても変わらない。
⑤付番されない人も存在する。
2012 年 4 月 1 日 現 在 の 人 口 総 務 省 統 計 1 億 2765 万 人 。住 民 票 の 住
所に居住していない場合などでは、自分の番号を知らずにいる国民も
相当な数に上ると想像される。さらに元々住民票を持たない国民、1
年以上行方不明な児童生徒が国内に存在する。
共通番号が導入され、様々なサービスが個人情報によって行われる
ようになると、個人番号カードを持っていないことで、制度上または
制度運用上、公的サービスから閉め出される方向に動く。カードを持
てない何らかの事情を抱えている弱者を排除してしまい、新たな差別
を生む。
「 マ イ ナ ン バ ー 法 」は 個 人 番 号 が な い 人 が 生 活 し に く い 、さ ら
には生活できない社会をつくり上げる制度である。
⑥あてにならない「手厚い施策」である。
最も保護政策を必要としている人たちが保護(管理)の対象からこ
ぼれ落ちてしまう可能性が大きい。国も地域も財政難にあえいでいる
時 代 に 「 手 厚 い 給 付 」、「 救 貧 策 」 等 と 口 に し て い て も 、 実 際 に ど こ ま
で「 手 厚 い 」の か 全 く 当 て に な ら な い 。年 金 額 が 増 え る わ け で も な く 、
医療費が安くなるわけでもなく、介護がより充実するわけでもない。
⑦ 巨 大 な 「 IT 箱 モ ノ 」 利 権 で あ る 。
個人情報が凝縮された機密性の高い個人カード・システムであるた
め、セキュリティを高めれば高めるほど費用は膨らんでいく。大ざっ
ぱ な 試 算 で あ る が 、 個 人 カ ー ド 費 用 が 1 枚 500 円 ~ 1000 円 だ と す る
と 、1 億 人 の 場 合 で 500~ 1000 億 円 が か か る 。こ れ に シ ス テ ム の 構 築
費 用 を 合 わ せ 、 初 期 費 用 が 3000~ 4000 億 円 、 年 間 の ラ ン ニ ン グ ・ コ
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ストも数百億円かかる。ここには途方もない利権が存在することは間
違いない。
最後に、法律は成立したが、途中で共通番号制がこのままでは運用
できないことが明らかになれば、そこで法改正を含め大幅な軌道修正
をしてもよいし、さらには法律を廃止してもよい。それこそが現実の
重 さ で あ り 、主 権 者 の 決 断 で あ る 。そ の よ う な 努 力 を 積 み 重 ね て こ そ 、
私たちは名実ともに主権者になるのだ。そうなっていった時、私たち
は今よりもずっと出来のいい番号制に辿り着くはずである。
参考文献
・小森洋子・森重茂樹『どうなる?どうする!共通番号』日本経済新
聞 出 版 社 、 2011 年 。
・清 水 勉・桐 山 桂 一『「 マ イ ナ ン バ ー 法 」を 問 う:あ ま り に 危 険 な「 IT
時 代 の 国 民 総 背 番 号 制 」』、 岩 波 書 店 、 2012 年 。
・内閣官房
社 会 保 障 改 革 担 当 室 『 社 会 保 障 ・ 税 番 号 制 度 の 概 要 』、
2013 年
( http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/pdf/gaiyou_siryou.pd
f/最 終 ア ク セ ス 日 2014 年 1 月 14 日 )
・日弁連編著『デジタル社会のプライバシー:共通番号制・ライフロ
グ ・ 電 子 マ ネ ー 』 航 思 社 、 2012 年 。
・ 原 田 泉 編 著 『 国 民 ID 導 入 に 向 け た 取 り 組 み 』 NTT 出 版 、 2009 年 。
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