指導のポイント 7

モーション・オフェンス 1(フリーランス・パッシングゲーム)
『モーション・オフェンスの原点』
私たち日本人コーチは、どうしてもアメリカから入ってきたものを何の疑問も持たずにマネ(模倣)す
るところからスタートしていきます。しかし、アメリカのコーチたちは“コーチ”を職業としていますか
ら多少のルール変更に対しても敏感に反応します。どうすればそれをうまく利用できるかということを真
剣に考えています。
これから紹介するモーション・オフェンスは、私が渡米した際にインディアナ大学のボビー・ナイトか
ら贈られた貴重なモーション・オフェンスのビデオを一部だけ簡単に解説します。例えば
■「スクリーン・アウェイ」(パスした逆へスクリーン)
ビデオでは、数秒間だけこのプレイが流れます。ただ単に「パスして逆へスクリーン」という動き
だけだけでそのプレイの真意がどこにあるのかは分かりません。
■「ポストカット・ウィズ・スクリーン」
(ハイポストマンをスクリーナーにしてカットする動き)の場面になっても一場面しかビデオには
写っていません。今なら分かっていることも、最初の頃は、その一場面が全体のどの部分なのか理解
できませんでした。
ビデオを見ていて「モーション・オフェンス」というのは一場面一場面を繋ぎ合わせていけばいいのか
と考えました。独自のモーション・オフェンスで成果をあげていたフレズノ州立大学について話したいと
思います。
フレズノ州立大学(ヘッドコーチ:ボイド・グラント)は傑出した選手がいないにも関わらずアメリカ
の強豪校でした。NCAAトーナメントでもネバダラスベガス大学などの強豪チームに勝つことのできる
チームでした。しっかりしたディフェンスと、よくコントロールされたオフェンスで相手の焦りを誘い僅
少差で勝ち上がってくるタイプのチームでした。
ヘッドコーチのボイド・グラントコーチはディフェンスは「オフェンスがボールサイドから攻めてくる
のを守るためにヘルプサイドのディフェンスは仮想のミドルライン(コートを縦に等分したライン)をま
たぐ位置(フロート・ポジション)まで動いてきます。オフェンスは、ボールサイドを攻めていく時ヘル
プサイドのディフェンスが邪魔になります。ヘルプサイドのディフェンスを動かせばボールサイドからの
オフェンスは楽になります。ヘルプサイドのディフェンスを動かすことでヘルプさせないことが“モーシ
ョン・オフェンス”だと言っていました。要するにボールを持っていないオフェンスが動くことによりヘ
ルプサイド(ウィークサイド)のディフェンスを動かすことができるということです。簡単なことですが
ここにポイントがあったのです。今まで「フリーオフェンス」などという曖昧な考え方のオフェンスが実
はノースカロライナ大学ヘッドコーチのディーン・スミス(ジョーダンを育てたコーチ)の「フリーラン
ス・パシングゲーム」そのものであり、しっかりしたルールのあるオフェンスだったのです。また、モー
ション・オフェンスの特徴は、図に書けないということです。図に書けないということは、フォーメーシ
ョンと違って相手にその動きをスカウトされないということです。決まった動きがなく、最低限度のルー
ルだけで選手の判断力と実行力が、このオフェンスを成功させるカギを握っています。
コートにいる5人の選手全員が、いつでもシュート・チャンスを得る事になるので特別な選手がいなく
てもチーム力が向上するという利点を持っています。全米にあっという間に広がり各チームのコーチたち
が自己流にアレンジしそれぞれが特徴を持ったモーション・オフェンスをつくりだしています。毎シー
ズンやっていくうちにチームにとって必要なもの不要なものが整理され形が整ってきます。これがモーシ
ョン・オフェンスの原則となるのです。
モーション・オフェンス 2「モーション・オフェンスのベーシック・ルール」
モーション・オフェンス成功のカギは、選手たちのオプション選択によるところが大きいと言えますの
で選手が状況判断を的確にできるよう多くの選択肢を準備しましょう。
◆相手のディフェンスを読む能力
◆味方の動きを予想する能力
これらが、チームとしてのオフェンス力を高めていきます。具体的にどういったオプションになるのか
簡単なルールを解説してみましょう。
1.一般的なルール
①レイアップ・シュート以外は、シュートする前に最低3回はパスを回す。シュートに持っていく前に
3回ほどパスを回しインサイドへ1回はパスすることによってディフェンスを動かし揺さぶることで
チャンスが生まれます。
②3回のパスのうち、少なくとも1回はポストにパスを入れる。ポストにパスを入れることによってデ
ィフェンス・ラインが下がります。
③ドリブルの使用を制限する。レイアップやトラブルから逃げる時、スペースをキープする時、パスの
角度を変える時以外は、ドリブルを使ってはいけない。
その理由はドリブルすることによって味方のチャンスを見逃してしまうことがよくあるからです。その
ためにパス中心のオフェンスをすることでディフェンスをより多く動かすことができるようになります。
オープンになって、ボールを持ったら必ずリングを見る。「フェース・ザ・バスケット」です。スクリ
ーンは、ディフェンスに対して角度を考えしっかりとかける。スクリーンをかけて味方をオープンにする
ためにはスクリーナーは確実にディフェンスを止める技術が必要です。(チームのレベルによって解釈は
異なる)ユーザーは、スクリーンをうまく使うために最善の努力が必要です。レーンに近いプレーヤーが
スクリーナーになる。
ディフェンスをよむ。ディフェンスの動きをよく見る(相手を読む)。常にディフェンスがどういう状
態で守ろうとしているかをよく見てプレイします。(例えばタイトかルーズか)日本の多くの指導者は、
オフェンスを教える際にこのことをしっかり教えていないので形や動きだけの中身のないオフェンスにな
ってしまいゲームで機能しないことが多々見受けられます。
カッターがボールをキャッチしたときシュートしやすくするためにリングに背中を向けないようにします。
2.アウトサイドマン・ルール
(1)パッサー・オプション(パスをした後の動き)
・インサイド・カット
→
タテに切れる。
・スクリーン・アウェイ
→
パスをした逆のスペースでスクリーンをかける。
・ポストカット(スクリーン有)→ポストマンをスクリーナーにしてカット。
・リプレース
→
動いた後、誰も来なければ戻る。
(2)アウトサイド・プレーヤー
・スクリーンがセットされていたらそれを使う。
・4~5mのスペースをキープする。(スペーシング)
・常にプレーヤー同士の距離は4~5m程度を保つ(プレイしやすい距離)。
・レシーバーになる時は、ボールに対して動く。
・ハイポストが空いたときはフラッシュする。
・同じポジションに止まっていてもよい時間は2秒までとする。
3.ポストマン・ルール
(1)ハイポスト
・パス・フィーダーになる。
・ローポストにパスをするか、逆サイドにパスを送る。
・ボールサイドをスライドする:パス・アンド・ラン(ギブアンドゴー)
・ローポストにスクリーンする:ダウン・スクリーン
・アウトサイドマンにバックピックをかける:バックピック
(2)ローポスト
・ハイポストがあいたら埋める:フラッシュ・ポスト
・ハイポストからのスクリーンでカットする
・アウトサイドにポップアウトする
・アウトサイドマンにバックピックをかける
・ポストマン同士でポジション・チェンジをする
以上、ここで説明したモーション・オフェンスのルールは2メン・インサイドをベースにしています。
この他にシングルポスト・モーション、3メン・インサイド、4メン・モーション、5メン・モーション
等があります。このモーション・オフェンスは小学生から全日本レベルまで使うことができます。これら
を参考に自分のチームに合ったルールを作り独自の「モーション・オフェンス」を作ってみてください。
基本原則さえ理解できれば問題はありません。
モーション・オフェンス 3
モーション・オフェンス(フリーランス・パッシングゲーム)は5人のオフェンスがディフェンスの状
況を正確に把握しディフェンスの動きを予測してどう動くべきかを瞬間的に判断し5人全員が常に動き続
け、ベストなシュートを選択する攻撃方法です。このオフェンスは、覚えやすく簡単なオフェンスなので
どんなチームでも有効なオフェンスになります。
ここで重要になる動きはウィークサイド(ヘルプサイド)のディフェンスがヘルプできないように、ヘ
ルプさせないように動くことです。アメリカで行われていた若い選手を対象にしたキャンプでは、
1回目 - 最初の30分はパッシング・ゲームの説明と5:5の練習
2回目 - ディフェンスをどう動かすのかということを中心に練習
3回目 - 総合練習<年長者は、ほとんどできていました>
4回目 - 10才以下の子供でも意味を理解してプレイできていました
このオフェンスはプレイヤーに多くの自由と自発性を与えていますが決してルールがないわけではあり
ません。プレイにルールと約束を加えています。チームとしての共通理解を基本としたフリーオフェンス
と考えてください。
フリーランスと言うと好き勝手にプレイするようなイメージですが、十分に威力のあるモーション(フ
リーランス・パッシングゲーム)は、全員の協力と自分勝手ではないプレイを展開するためのものです。
<利 点>
①簡単
基本原則(チームに合ったルールを作りオフェンスを展開できる)
②練習への早期導入ができる
③技術の上達
状況判断能力を含め個々の基礎技術が指導できる。あらゆるディフェンスに対して効果的。
④練習時間に制約があるチームには非常に効果的
⑤分解練習によりプレーイメージが確立される
<弱 点>
①リバウンド
全員が動くためリバウンドとセフティの判断が必要になる。
②ワンマンチームには適さない可能性があるが、ノースカロライナ大学にはジョーダンが在籍してい
たがディーン・スミスコーチは、彼も例外として扱うことはなかった。なかなかここまでの指導制
の高いコーチはいない。
③忍耐力のないコーチには不向き
※考え方に一貫性がなく、系統立てて練習を組み立てられないコーチや忍耐力のないコーチには不向
きです。なぜなら、選手に考え方を教えなければならないからです。
モーション・オフェンス 4
モーション・オフェンスの原則
A.すべてのプレイヤーの原則
①各プレイヤーは、常に5m前後の間隔を保ち(スペーシング)レイアップ・シュート以外のシュー
トを打つ前に少なくとも3回のパスを回さなければならない。
②プレイヤーは、パスをもらったらリングに正対する。
③ドリブルしなければ、トラブルから逃げられない場合を除いて最初の3回のパスの間にドリブルを
してはいけない。またゴールラインは、レイアップシュートを行うために空ける。
④#4、#5は、#1または#2がシュートしたときは必ずリバウンドする。
⑤#1または#2は、味方がシュートしたときは、必ずセフティとして戻る。
⑥同じ方向に連続してカットしない。
⑦自分より下にいるディフェンスにスクリーンをセットする。
⑧ボールをベースラインに近づけない。
⑨3回に1回はポストにボールを入れること。
注)#1・#2(ガード、フォワード)#3・#4(フォワード)#5(センター)
B.ポストマンの原則
①ハイポストでパスをもらったら、まずリングの方に向く。そして、ボールを頭上に構えローポスト
を見る。ローポストにパスができない時、パスを受けた逆の方向にパスをする。
②ハイポストは、可能ならばシュートするか、カットインする。
③ポストマンは、常にボールからワンパスの位置にいなければならない。
④アウトサイドへパスした後、ポストマンは次のどれかを行う。
・リングに向かう
・逆サイドへスクリーンに行く
・パスした人にスクリーンをセットする
・リプレイスする(ディフェンスを中に押し込んでから元の位置にもどる)
・ローポストはパスをもらったら、まず得点することを考える
⑤リングに向かってカットしてくるアウトサイドマンを見る
⑥ポストマンは、ポストで3秒間ボールをもらうことができなければポジション・チェンジを行う。
⑦ポストマンとフォワードは必ずオフェンス・リバウンドに行く。
⑧ポストマンは、ローポストでは75%はボールから離れて動くこと。
⑨ボールに対してカットするアウトサイドマンのために常にスクリーンを狙う。
C.アウトサイドマン(ペリメータ)の原則
<ボール保持者>
①パスをもらったら、まずインサイド(リング)を見る。
②可能ならばスクリーンを利用する。すでに3回のパスが行われていたら、よく考えてドリブルを使
う。また一度ドリブルしたら、考えもなくドリブルを止めてはいけない。
③2秒以上ボールを保持することなく素早くパスして動く。
④少なくとも1回は、ポストマンがボールを持つまで外角シュートは狙わない。
<パスした後の選択>
①パスしたプレイヤーの方向に動き⇒トレイル、ギブアンドゴー
②パスしたプレイヤーに⇒スクリーン・オン・ザ・ボール。
③パスした逆の方向に⇒パス・アンド・スクリーン・アウェイ。
④リングに向かって⇒パス・アンド・ゴー。
⑤ゴール下付近から離れるようにベースラインに沿って切れていく。
⑥パスしたプレイヤーから少し離れて、リターンパスをもらう準備をする。
<ボールを持っていないプレイヤー>
①パスをもらう時は、ボールを迎えに出ること。(ボールミート)
②2秒以上同じ場所にいない(動きを止めない)。可能なら、ボールから離れているプレイヤーにス
クリーンに行く。パスをもらうとき、ディフェンスにオーバープレイされたらバックドア・カット
するか、ボールと逆の方向にスクリーンに行く。
③ドリブラーが近づいてきたら、そのディフェンスにスクリーンをかけるか、ドリブラーから少し離
れたところにスライドしてパスをもらう準備をするかリングに向かう。
④シュートをノーマークで打てるように、ローポストを利用する。
⑤スクリーンをかけるとき以外は、他のプレイヤーと一緒に固まらないこと。
⑥ハイポストマンのためにトップ・オブ・ザ・キー(フリースロー・サークルの頂点)付近を空けて
おく。
<ディフェンス別のわずかな調節>
①スライド・ポジショニング
ボール保持者から少し離れた所へスライドしてパスをもらう準備をすることスクリーンをするか
どうかの選択は相手のディフェンスのタイプによる。スクリーンは多くの場合マンツーマンに対し
て使われ一方のスライド・ポジショニングはゾーンに対して使われる。
②マンツーマンよりもゾーンに対しては、ドリブルで切れ込むことを考える。
③ポストマンはアウトサイドマンとポジション・チェンジする前にボールを2度受けたほうがよい。
モーション・オフェンスは、図や映像を参考にすると単なるセットオフェンスになってしまいます
ので注意しましょう。
上記のルールを選手に理解させることができれば相手チームはオフェンスへの対処ができなくなります
ので効果的な攻撃を展開できます。
モーション・オフェンス 5(簡単ポイント)
モーション・オフェンスは、日本の多くのコーチが独自の見解で理論立てていますが、その考え方の基
本はノースカロライナ大学H・Cディーン・スミス(M ジョーダンを育てたコーチ)が確立した『マルテ
ィプル・オフェンス(フリーランス・パッシングゲーム)』です。彼の教え子でインディアナ大学ヘッド
コーチのボビー・ナイトがこのオフェンスをモーション・オフェンスとして大成功し全米大学選手権を制
したことで多くのコーチがその考え方を取入れるようになりNBAのコーチもこれらを基本にチーム独自
のものを作り上げてきました。
余談ですが、アメリカは、日本と違って大学のコーチがしっかりと選手を育てていますからアメリカの
バスケットの基盤は大学にあり、コーチもNBAのコーチより有能なコーチが大学にはたくさんいます。
日本の大学のコーチは、勝負にばかり拘っていることが多く選手を育てることができません。日本のレベ
ルを上げるためには、もっとしっかりと選手を育てる必要があります。
日本ではこのオフェンスを間違った理解をしているコーチがたくさんいます。もともとこのオフェンス
はアメリカでは小学校の授業でも使われような簡単なものでした。15分程度で動きが作れるので小学生
に授業で試合をさせるのに丁度良かったのです。
ところが日本では、このオフェンスを一部の指導者が実に難しく意味不明の解釈加え、紹介したことで
非常に難しいオフェンスになり低年齢層では使えないようなオフェンスになってしまいました。
私が、渡米3年で得たこのオフェンスについての考え方をもう一度説明します。
1.モーション・オフェンス(パッシング・ゲーム)の考え方
<基本原則と考え方>
A:チームで簡単な約束を決め、全員が連続して動く。
B:パスをつなぎ、ノーマークを作ってシュートし、1:1で攻める動きの約束を持つフリーランス・オ
フェンスをつくる。
C:ディフェンスを動かし続ける(ディフェンスに主導権を執らさない)
D:ディフェンスにヘルプをさせない(ヘルプサイドのオフェンスの動き)
E:動きの方向性の基本原則をオフェンスの基本とする(3方向)
・ボールサイドへ動く
・バスケットへ向かって動く
・ボールから離れて動く
私は、この A ~ D をモーション・オフェンスの基本原則と考え、E の原則を付加することでチームと
しての共通理解を簡単明確にすることができ大きな成功を収めました。
(原則1)ディフェンスを動かし、ヘルプをさせない
◆ディフェンスを動かし続け、ヘルプをさせないようにする。
ボールを持っていない4人の選手がスペースをうまく使いながら動く。特にヘルプサイドのディフェンス
がヘルプできないように動くことが重要です。
例えば、右ウイングにボールがある場合、ヘルプサイド(ボールの隣にいる Dff.ウィークサイドの
ディフェンス)でスクリーン、ポジション・チェンジなどをすることで、ディフェンスはその動きに気
を遣う(対応)ためヘルプに集中できませんから自分の相手から簡単に離れることができなくなります。
ヘルプサイド側でスクリーンやポジション・チェンジの目的はスクリーンを使ってノーマークを作るの
ではなくディフェンスをヘルプに行かせないための動きを作ることだと考えてください。
多くの日本人コーチはこの部分を勘違いし、子供にはできないようなスクリーン・プレーを作ってしま
いました。
しかし、私は、パスして走るのと同じようにスクリーンはバスケットの初歩的な基本技術だと考えて
います。本当に基本を大切にするなら、スクリーンは絶対に教えるべき基本技術です。
(原則2)基本原則+チーム独自の約束をつくり状況判断能力を養う
◆モーション・オフェンスの基本プレーには、パス・アンド・ラン(ギブ・アンド・ゴー)等のボールサ
イドカットやボールがない所でのスクリーンやポジション・チェンジがあります。
※誰かが動いた後には必ずスペースができます。
◆1:1やシュートをする前に3回以上パスを回し、そのうち1回はインサイドへパスを入れディフェン
スを動かしてから攻めるという約束があります。
◆ディフェンスは、どうしても自分のマークマンに寄っていく傾向があり、その中でスクリーン、ポジシ
ョン・チェンジやボールサイド・カット等のプレーを行えば、ヘルプに対する意識が薄れて1対1で攻
めやすくなります。
(原則3)全員が動く
◆誰かがボールを持って、さあ攻めるぞ。と思っても周りが止まっているとディフェンスは守りやすく、
いつでもヘルプができます。ディフェンスが準備万端で待ち構えている状態ではいくらスペースを作っ
てもシュートには結びつきません。
◆モーション・オフェンスは、動きながら短いパスを繋ぎディフェンスとのズレが生じたときにそのズレ
を利用して外からのシュートや1:1インサイドへのパスやインサイドへ飛び込んでのシュート、ドラ
イブ・イン・プリンストン・オフェンスの象徴的なバックドア・カット・カウンターやフラッシュ・ポ
スト等の連係プレーによってシュートが打てる場面を作ります。
(原則4)選手の成長と共に進化し続けるオフェンス
ひとりひとりの動きは単純なのですが、5人が同時に動くと非常に複雑な動きに見えるため相手チーム
からスカウティングされることもなく導入段階で誤ったコーチングさえしなければ選手の成長に伴い進化
し、永久に使えるオフェンスになります。
モーション・オフェンス 6
モーション・オフェンスは決して難しいオフェンスではない!
このオフェンスを参考書やビデオで見て誤った解釈をした日本の多くのコーチは、セットアップの意味
が理解できなかったのか、またはオプション・プレーを難しく考え過ぎたのではないかとも考えられます。
どちらにしても形だけをまねして、このオフェンスの真意が理解できなかったことには間違いないようで
す。モーション・オフェンスのセットアップ・ポジションは
・5アウト
・4アウト1イン
・3アウト2インなどがあり
本やビデオでは便宜上最初のオプション・プレーをある程度決めているので、セット・オフェンスのよ
うに見えたのかもしれません。しかし、モーション・オフェンスは10回やれば10回違った動きになる
はずです。その理由は、相手ディフェンスの対応の仕方によって変化するからです。チームとしての約束
を決めてフリーランスのオフェンスをすることは意味のあることです。フリー・オフェンスといいながら
選手に勝手にプレーをさせ、結果だけを見て文句を言うようなコーチングをしていませんか!これはコー
チのやることではありません。もっともらしい顔をしてコーチ気分を味わっているに過ぎません。コーチ
と呼ばれる人は、絶対にやってはいけないことです。
何度も言いますがモーション・オフェンスは、決して難しいオフェンスではありません。低年齢層から
日本のトップレベルまで使えるオフェンスだという認識を持って下さい。全てのオフェンスは、誰か1人
が最後のシュートをします。モーション・オフェンスは、低年齢層から日本のトップレベルまで使えるオ
フェンスですから、レベルにより使うプレーを選択し、選手の構成に合わせてコーチがその形を変容して
いくことができます。言い換えれば、コーチ独自のオフェンス・スタイルを確立できるのが、このオフ
ェンスなのです。
ただし、どんなオフェンスでも動きの練習ばかりでなく、1対1でディフェンスを破ることや外からシ
ュートができなければ得点できないので、個々の選手の能力を上げることが重要になります。どんなオフ
ェンスでも、最も重要になるのが、ラスト・シュートです。1回の攻撃時間がなくなってきたときやディ
フェンスの頑張りで攻め手がなくなってしまったとき、最後に誰がシュートを打つのかを決めておくと無
駄なミスや相手に打たされて打つようなシュートは確実に減ります。
また、こうした選手を決めておくと最後にこの選手にシュートさせようと全員が集中しますから、その
効果は極めて大きなものになるでしょう。
しかし、ここで問題になるは、残り何秒でラストシュート・オプションを使うかということですが、こ
れは、チーム・メンバーの構成・状況に合わせて考えて下さい。
モーション・オフェンス 7
モーション・オフェンスでのチームの約束と注意事項
1.シュートを打つまでに、最低3回パスを回しディフェンスを動かし、1回はインサイドへパスし、
ディフェンスを収縮させる。
2.同じ場所に2秒(3秒)以上立ち止まらないこと。自分が動かないとディフェンスがヘルプしやす
くなり、動かないとスペースが空かないので攻撃が止まってしまいます。
3.ドリブルの使用を制限する。相手を抜く、シュートする、逃げるとき以外は、ドリブルを使わない。
誰かがドリブルをしていると、他の4人は動けないので無駄なドリブルを制限する(一人のドリブル
でチャンスを潰してしまう)
4.ボールのないところでは、スクリーンやポジション・チェンジをする。特にヘルプサイドでは、自
分が動かないと自分のマークマンが簡単にヘルプへ行くことができるので味方が攻めにくくなります。
5.ハイポストが空いていたら飛び込みパスをもらう。ローポストも同様ですがポストマン以外は2秒
以上ポストでは止まらないこと。また、パスが来なかったらすぐに移動する。
私は、これらの基本原則に「動きの方向の原則」を教えることで、より早く効率的にオフェンスの習得
ができると考えています。このことを知らないでオフェンスを教えているコーチは実に多いようです。選
手に「動け」「考えて動け」「どうして動かないんだ」等と文句を言う前に動くための材料をしっかりと
選手に教える必要があります。
■動きの方向の原則
動きの方向は、パスした後も、ボールを持っていないときも同じです。
①ボールの方向へ動く
②ボールから離れて動く
③リングの方向へ動く
ただし、パスした後はリターンパスをもらう動きが入ります。これは、私が選手にオフェンスを指導す
る際は、子供でもトップレベルの選手でも必ず最初に確認し教えることです。この3つの基本動作からオ
フェンスは作られているという認識をもってください。
5(ファイブ)アウトのモーション・オフェンスをつくる
チーム5人が動きの約束で状況判断してオフェンスを行います。基本パターンではポジションは固定さ
れませんが、各自が得意なプレーを発揮できます。
■ボールのもらい足や、フェイク等を工夫した練習をしましょう。ディフェンスとの駆け引きができるよ
うになれば効果的です。
■インサイドのスペースを狙うことを強調しすぎるとセーフティがいなくなり速攻で簡単に攻められてし
まいます。セーフティの意識を持たせましょう。
■動きを速くしなければパスが回らないので、ボールをもらうときのタイミングが要求されます。ディフ
ェンスする方も大変なので頑張らなければいけません。
■形をつくるまでは簡単ですが、況判断して動けるようになるまで多少時間がかかります。ディフェンス
練習も同時にできるので、練習時間の短いチームは効率よく練習ができます。ただし、コーチは両方を
同時に指導しなければならないので忍耐力が必要です。
■ポジションが固定されないので選手が状況判断をして動く必要があり、個人のレベルアップには最適で
す。ガードがインサイドでプレーしたり、外からポストマンがシュートを打つことも可能です。
■状況判断がうまくできればディフェンスに読まれにくくなります。選手や指導者のひらめきで無限のオ
プションが可能になります。
■単純な動きの繰り返しですが、相手には複雑な動きとして見えるため、ディフェンスは、簡単には対応
できません。
※ポジションをナンバーで決めてプレーしているチームは、そのポジションでセットアップできます。
モーション・オフェンス ~クリニック~
サマーキャンプ IN 沖縄(私が実施したクリニック内容です)
クリニック・プログラム:モーション・オフェンスの組立て
1.ディフェンス・ポジションの確認
①自分の相手がボールを(持っているとき)と(持っていないとき)のディフェンス。
②マークマンがボールを持っているときの基本
インライン・ディフェンスについて、間合いは、ボールに手がとどく位の距離(one arm という)
で守る。
③マークマンがボールを持っていないときは、相手とボールに対してハンズアップし、ボールと自分
の相手の両方が同時に視野に入る位置へ動く。少しマークマンを離し、ボール寄りにポジションを
とる。(フロート)
2.スクリーン・プレーへの対応(スクリーンに対してのディフェンス方法)
①スイッチ(スイッチする場合は必ずスイッチアップ)
②スイッチしない場合
・スライド : スクリーナーの後ろを通る
・スライド・スルー : ディフェンスの間を通る
・ファイト・オーバー : 前を通る
・ショー・ディフェンス : ステップインしてドリブラーを止め再度自分の相手に戻る
3.モーション・オフェンスのための基本プレー
アウトサイドからの動きとして
・ギブアンドゴー(パス&ラン):パスした足を使って、ボールサイドをカット。
・パス・アンド・アウェイ : パスしたら、反対サイドへ。
・ポジション・チェンジ、スクリーン。
・ダイアゴナル・カット
4.スクリーンのかけ方
今回は、スクリーナー(スクリーンをかける人)とユーザー(スクリーンを使う人)に分けて考える。ま
た、それぞれ「スクリーンをセットするまで」と「スクリーンをセットした後」に分けて考える。
◆スクリーナー
<スクリーンをセットするまで>
(1)サインを出す
(2)目が合ってから動き出す。
(3)ユーザーが押し込むであろう方向に向かってセット
(4)構えは胸、または下に手を構える(前に出さない)。膝を曲げ、ディフェンスがぶつかったときに備
える。
(5)背中はユーザーを行かせたい方向に向ける
(6)一度セットしたら原則として動かない
<スクリーンをかけた後>
(1)スイッチされたら、ユーザーがゴールへカット、またはボールサイド・カットをして自分はロール
・オフする。
(2)スライドまたはスライド・スルーされたら、ターンして、ユーザーのポップバックを助ける。
(3)ファイト・オーバーされたら、ユーザーがリバース・カットしやすいようにターン。
◆ユーザー(スクリーンがうまく行くかどうかは90%ユーザーの責任)
<スクリーンをかけるまで>
(1)サインに反応する(うなずくなど)
(2)押し込む(バックス・クリーンの場合は、2歩まで)
(3)ブラッシングする
(4)スクリーナー
⇒
マークマン
⇒
ユアマン
⇒
ボールの順に見る
<スクリーンをかけた後>
(1)スイッチに対しては、ゴール・カットまたはボール・カットし、スクリーナーのロール・オフのス
ペースを作る。
(2)スライドまたはスライド・スルーに対してはポップバックする。
(3)ファイト・オーバーに対してはリバースカットする。 →
実際には、ボールに向かってディフェン
スを動かして、スクリーナーがターンする時間・空間を作ってからリバースする。
◆アウトサイドの3:3でのバック・スクリーンの練習
ルールは上記「スクリーンのかけ方」と同じ。違うのは2(2)のユーザーの押し込む動きが2歩ま
でのところ。
◆簡単な5人でのモーション・オフェンス
トップ、両ウイング、ハイポスト、ローポストでセットアップする。「1-3-1セット」とする。
プレーの始まりはトップがウイングにパスしたところから始めるが、できるだけローポストがいないサ
イドのウイングにパスを出す。以下の3つのプレーを原則的な動きとする。
1.トップがウイングにパスしてパス・アンド・ラン(ギブ・アンド・ゴー)をする。
2.トップがウイングにパスした後、逆のウイングがトップにバック・スクリーン。
3.ローポストがハイポストにバック・スクリーン。トップとボールを持っていないウイングはポジション
・チェンジ。ハイポストがローポストにダウン・スクリーン。トップとボールを持っていないウイング
はポジション・チェンジ。
↓
ディフェンスから流れを作り、モーション・オフェンスで得点を取る。コーチがチームに動きのルー
ルを提示し、オフェンスを組み立てられるので、中途半端なフォーメーションを指導するより有効なも
のとなるでしょう。
モーション・オフェンス ~構成を難しくしない~
モーション・オフェンスは、難しく考えれば、非常に取り入れにくいオフェンスですが、そんなに難し
く考える必要はありません。ただし、モーション・オフェンスは、コーチや選手の経験によって進展させ
ることが望ましいオフェンスでもあります。モーション・オフェンスを難しく解説する人がいますが、多
くの場合、このオフェンスの構造や考え方がしっかりと理解、整理できていないので、いちいち動き方の
名称やプレーの名前に拘ってモーション・オフェンス自体を難しいものにしているだけです。このオフ
ェンスは、学校の授業でも簡単に取り入れることができるものです。このオフェンスの基本構造は、(継
続性のある動き)と(コンビネーションの動き)です。
このオフェンスの簡単な組み立ては、『フリーランス』+『チームの動きの約束』です。選手が、自由
に攻撃をするとチームがバラバラになり、チームオフェンスにとって最も大切なフロアーバランスとスペ
ーシングが維持できなくなります。私たちの日常も法の範囲で自由です。自由というのは、ある規律があ
ってはじめて成り立つもので、好き勝手にプレーすることは、デタラメになってしまいます。そこでチー
ムとしてのプレーの約束事を決め、その約束事を選択肢としてプレーすれば、チームとしてのオフェンス
は、整理されてきます。
モーション・オフェンス ~プレーの約束を作る~
あらかじめ選手がいくつかオプションを持っていてディフェンスの状況に応じて、どのオプションを行
うかを選択するタイプのオフェンスでは、例えばウィングがディナイされていたらドリブル・シャローで
ディナイされているウィングとボールマンが入れ替わり、そのままパターンオフェンスに入るとか、逆サ
イドにボールを一旦展開して別のオプションに入るとか、パスやドリブルの方向カットとスクリーンを選
べるなど、選手にいくつか選択肢を持たせておくことです。ある選手が選択したプレーが、キーとなり、
他のプレイヤーの動きも決まってくるというようなオフェンスの展開にしましょう。この場合でも、もし、
うまくプレーが展開できなければ、ボールマンへのスクリーンやアイソレーションなどのプレーへ展開す
ることができます。選手はディフェンスの動きと味方の選手がどのような選択をするかを見極めながら、
自分の動きのオプションを決めて行きます。
トライアングル・オフェンスやプリンストン・オフェンスが Optional Phase の最も洗練されたオフェン
スで覚えるのも難しく、相手のディフェンスにとっても守るのが非常に難しいオフェンスですが、オプシ
ョンが多いため小・中学生では、練習の時間的な制約があり、完成されたチームオフェンスとして採用す
るには無理があります。フリーランスのパッシングゲームの展開が最も学習効率も良く、目に見えて成果
が上がります。