お客様 各位 今般当社赤道儀 U-150 のピリオディックモーション(以下Pモーションとする)に対するお客様より御不 満の指摘があり、原因究明の為生産の停止を致しておりました。 追求の結果、機械部分には異常はなく、モーター駆動部の問題であるとの結論に至りました。 御発注を頂いていますお客様、お問い合わせ下さっていますお客様には多大なる御迷惑をお掛け致しました ことを深くお詫び申し上げます。 追求の結果、下記の事項が問題を起こす要因である事が確認出来ました。 Pモーションの説明も交えながら検証してみます。 モーターの減速機構部の歯車精度及び組立精度 モーションとしては比較的小さいけれど複雑な動き。 回転方向 ギヤ A の 動き 図1 速い 標準から スタート 最大速 標準速 最低速 スタート ギヤ A 1.05 1 1 0.95 遅い 1 ー 回転 4 2 ー 回転 4 3 ー 回転 4 数字は中心からの 半径の割合 1 0.95 1.05 1 0.95 1 1 1.05 1 1.05 0.95 1 標準速 噛み合って動力を伝達している歯車類に偏心があるとピッチ円が変わってきます。 その結果、伝達速度に設定とずれが生じます。早くなる部分と遅くなる部分がありますが、 1 回転にかかる必要な時間は同じです。個々のギヤがそれぞれのモーションを持ち、複数のギヤだとかな り複雑な動きになります。 1 ウォームシャフトとウォームホイルの加工精度と組立精度 モーションの形としては単純だが影響は大きい 圧力角15° のウォームによるピリオディクモーション 本来のピッチ円 加工誤差によるピッチ円上死点と下死点 最も影響が大きいのがウォームとホイルです。ウォームのピッチ円が少し変わるとその圧力角の為ホイル の位置が変わります。例えば直径 100mm のウォームホイルでは、円周上の 5/1000(5 ミクロン)が 角度の 20.64 秒にもなります。又、ウォームの圧力角で 1/1000(1ミクロン)ホイルが動いただけで も 4.12 秒にもなってしまう訳です。P モーションと言われるものの大部分を占めています。 円周と角度の計算式 1. 歯車精度とピッチ誤差について 「累積精度が 30″というのは円周長さではどれ ぐらいか」あるいは「累積ピッチ誤差が α:角度 ( 秒 ) 0.05mm というのは角度ではでれくらいか」 δ:円周長さ (mm) を知りたい場合には次の計算を行ないます。 δ = π・D A より α = また δ = Φ D α δ α 360( 度 )×60( 分 / 度 )×60( 秒 / 分) 360×60×60×δ = π・D D:直径 (mm) 412.5×δ×10 D 3 -5 α・π・D = 0.2424×α×D×10 360×60×60 A B C 歯車のピッチ円の直径を 100 とし、先の「累積精度 30″を円周長さに表わす」と -5 C 式を使って =0.2424×30×100×10 =0.007272(mm) ですから 円周長さでは 0.0073mm または 7.3μとなります。 また「累積ピッチ誤差 0.05mm を角度で表わす」と 3 412.5×0.05×10 = 206.25 B を使って α = 100 26″となります。 ですから角度では 206″または 3′ 以上のように B・C 式を使って計算すれば円周長さと角度の換算ができます。 2 ウォームシャフトの保持精度 ウォームのモーションと同等になります モーターよりウォームシャフトへの動力伝達機構の加工組立精度 タイミングベルト、チェーン等を使用してもプーリー、スプロケットが歯車と同等になります。 モーターの駆動力 以上の要因が高精度で加工組立された時、初期性能が長期間持続する P モーションのない新しい世界が見 えてくるのです。 これ等の写真は、問題の U-150 当該機に於いてモーターを交換して撮影したものです。 モーターごとにモーター内部減速機の歯車のパターンが変わるのが見てとれます。 写真A・B・Cは同じ赤道儀でモーターのみ取り替えたものです。U-150はウォーム1回転5分になります。 A f1800にて10分 B f2700にてウォーム約1回転分 D D200 f2700にて5分ノータッチ E D200 f2700にて5分ノータッチ C f2700にて15分 ウォーム 1回転 主なPモーションの表れ方 ■ モーターエラー(ギヤボックスにより形が違う) 実際の写真を拡大すると ウォームエラーが無い場合に見られる ■ ウォームエラー(各ウォームにより特定の形を持つ) モーター側にエラーが無い場合に見られる 1 ■ トータルエラー ○ 波の向きが揃うとエラーが大きくなる 2 ■ トータルエラー ○ ※この図は説明用におおよそで作ったものです。 波の向きが逆になるとエラーが小さくなる 様々なギヤの回転が隠れ ているのが分かります 「ギヤのかみ合わせの調整で精度 が良くなった」 と言った場合が考え られます。 3 ここでもう少し、P モーションについて説明しておきます。 これは望遠鏡の架台だけでなく、歯車やベルト、ジョイント等を使用した動力伝達機構全体の悩みでもあ ります。 軸や穴の偏心、ピッチ円のズレ、ベルト類の継ぎ目、ネジ類の酔払い(ネジのピッチの微少な変化)等、様々 な要因で回転速度や移動速度や距離に周期的に微妙な変化が表れるのです。 一般的には気付かないような小さな変化でも天体写真を長時間かけて撮影する場合には大きな障害となっ て表れます。いつの頃からか赤道儀架台の精度のバロメーターとして使用されるようになってきました。 話を写真Cに戻します。一部をアップにしました。 写真 C A ウォ ○ ー ム1回転 B ウォ ○ ー ム1回転 A のアップです。 写真C ○ A ウォ ○ ー ム1回転 連続した波があります。大きな所では ±1″を越えていると思われます。小さな所 ウォーム 1 回転にこのピニオンギヤは 18 回転 1 目盛が 1 回転に当たる もあります。±0.5″もないくらいですが、 この中に 18 回転が よく見ると確かに凹凸とうねっています。 1 天文ガイド 7 月号で「説明します」と約束 きるのでしょうか? 1 入っている してしまったので、今さら逃げられません が、このような状態の原因が本当に説明で 1 と と になるギヤが 1 3 2 モーター ギヤボックス この軸の 1 回転が ウォーム 1 回転になる 4 ここらでちょっとひと休み… P モーションプラマイ 0.5″から 1″角程度の原因が 特定できるかどうかの話ですが思い出してください。 そもそも U-150 は P モーション測定用の実験機として誕生した と言ういきさつを持った赤道儀です。 広告用のただの作り話だったのか… それなりの検証ができるのかどうかを試される物語りのような面白い展開になってきました。 このあたりで次回に続く…としたいのは私だけでしょうか? 製作者のひとり言 ■モーショングラフの説明 次のグラフの図 4 が減速機構内部歯車のモーションで、図 1 で言う所の複数のギヤに当たります。 U-150 が機械的にPモーションゼロのパーフェクトの場合のみ今回のグラフ図 4 が写真Cのモーション となってそのまま表れているはずです。 違っていればどれだけ違うかが実際の精度を検証する資料になります。 一番困るのは測定不能(比較不可)で、これであればまだしばらく生産停止を続けることにならざるを得 ないからです。どうなるでしょうか? 歯車のモーション(図 4) 1/18・1/3・1/2・1/1 の歯車を想定してありますが 1/18 は 1 目盛りごとに 0 にリセットされる ので記入してありません。図 3 のアップの方で小さくトラッキングが一定間隔であるように見えるの がそれではないかと思います。モーション量は全ての歯車を同じとしました。 合成モーション(図 5) 1/3・1/2・1/1 のモーションを合成したものです。 ウォームと伝達用のギヤも 1/1 に入りますが、これらに原因があると噛み合わせ場所を変えると波形 が変わります。又、このようなラインは出てきません。主なモーションの表れ方にあるトータルエラー になります。 波の高さを写真に近付けたもの(図 6) 図 5 はわざと波形を大きくしてあるので、波の高さを 1/10 程にして写真Cに近い大きさとしました。 この時点では 0 ラインから上下にはみ出ている波の面積は同じです。 A ○ B を点線のラインに合わせたもの(図 7) ○ 図 6 では歯車のモーションA・Bの所が少し高い波になってしまいます。点線のように上だけを約半分 程にしたものです。写真にピッタリとなりますが、波の面積が上下で違うことになり何かのトラブルか と思われます。歯車の真円度か軸や軸受けによるのかは不明です。 5 モーショングラフ ギヤ 1/3 A ○ B ○ 歯車の モーション 図4 ギヤ 1/1 ギヤ 1/2 合成 モーション 図5 波の高さを 写真に 近付けたもの A Bが ○ ○ 少し高い 図6 A Bを ○ ○ 点線のラインに 合わせたもの 5 5 5 5 図7 写真Cの アップ 図8 最後に図 7 と写真Cのウォーム 1 回転分を並べてみます。 この中にU-150 架台起因のPモーションがあるでしょうか? 歯車のトラブルまでもとらえているように見えますが、U-150 起因と思われるものは私共にはどうして も見つけることが出来ませんでした。パーフェクトの判定は、皆さんに委ねることにします。 ただ、赤道儀にとって大切なものはPモーションだけではありません。写真Cは 15 分間ですが、この間、 他の動きが一切入っていません。実はこれが一番大切なことになります。 極軸がブレもガタも無い、一つの芯を持っていることの証明です。これを証明するために極力Pモーショ ンを抑えた架台を製作しております。と言うのが本当の所です。 この架台のウォームに少しでもモーションがあれば、今回のような説明は全く無意味になってしまうこと は明らかですし、しようにも出来ないと考えます。極軸のガタもモーションの波の中に掻き消されてしま うことになる訳で、私共がPモーションを嫌う最大の理由の一つでもあります。 以上、ピリオディクモーションについての説明と、U-150 機械部分に異常はなく、モーター駆動部の問 題であるとの結論に到った報告で終わります。 追伸… ギヤボックスのモーションさえ気になるお客様には、 ■遊星減速装置 ■ハーモニック減速装置 ■ギヤレスモーター 等で軽減することが可能です。 お問い合わせ下さい。 6
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