保育学生の子育て支援センターにおけるインターンシップ 経験と保育援助

聖徳大学幼児教育専門学校研究紀要 第6号 027-031 (2014)
保育学生の子育て支援センターにおけるインターンシップ
経験と保育援助技術の変化に関する一考察
星野 美穂子
Ⅰ.問題及び目的
援も必要であると考えられる。
子育て支援の専門家としての役割を担う保育者は、
養育者と子どもの良好なコミュニケーションを観察
保護者が子どもと円滑なコミュニケーションを築くこ
すると、アイコンタクト、身体接触、育児語の使用が
とができるような援助技術を高めていかなくてはなら
多くみられる。これらは愛着形成の重要な要素であり、
ない。子どもとのコミュニケーションがうまくとれず
子どもの心身の発達に多大な影響を及ぼす。子どもと
子育てに悩んでいる保護者は少なくないからである。
うまく関われない養育者に対して具体的な方法を提示
子育てをする環境は時代とともに変化している。次
すること、例えば手遊びをして子どもがキャッキャッ
世代育成支援対策を受け、つどいの広場、子育て支援
と笑う様子を見ると養育者もその手遊びを家庭でも
センター、育児相談、一時預かり、ファミリーサポー
やってみようとするかもしれない。その手遊びを通し
トセンターなど、保護者の立場から捉えられ発展して
てコミュニケーションのきっかけを形成しようとする
きた子育て支援事業には、すすんで参加する親もいれ
ものである。子育て支援センターでは、このような取
ば、全く利用しない親も多くいるという現実もある。
り組みを近年積極的に行っている。ベビーマッサージ・
本当に支援の必要な母親とは、育児に関する不安やス
絵本の読み聞かせ・手づくりおもちゃの制作・紙芝
トレスが高い母親である。不安やストレスが高ければ、
居・人形劇など、その取り組みは様々であるが、どん
普段の生活での感情も不安定なものになりやすく、こ
な活動にも、養育者との身体接触を多く取り入れてい
の精神的不安定さが育児に及ぼす影響は望ましいもの
る。紙芝居や人形劇では、その前後に手遊びやリズム
ではないと考えられるからである。服部・原田によれ
運動を取り入れ、お母さんと子どもがギュウと抱っこ
ば、出産以前の育児経験が全くない母親は 40%にも
し合う等である。絵本の読み聞かせでは、子どもの興
達しており、育児に関する不安やストレスとまでいか
味関心に合わせた絵本の読み聞かせを行い、保護者に
なくても、子どもとどのように接したらよいかわから
子どもの喜ぶ絵本を知ってもらい、その絵本の読み聞
ず、身体接触を伴った関わりや言葉かけなど、育児に
かせを通して子どもとの円滑なコミュニケーションを
おける適切なコミュニケーションがうまくとれない養
とってもらおうとしているのである。絵本の読み聞か
育者が多いことが指摘されている。近年では、携帯電
せは、特別な知識や技術がなくても絵本を媒介として
話やスマートフォンの急速な普及に伴い、例えば授乳
親子の身体接触を伴った質の高いコミュニケーション
中にも乳児の顔を見ずスマートフォンを操作し、電車
が自然に行えるからである。絵本の読み聞かせについ
の中で子どもが愚図ってもスマートフォンから目を離
ては、すでに多くの研究が行われており、その効果と
さず、ベビーカーを揺すっているだけという光景を目
して、①言葉を覚える、想像力が育まれる知識が増え
にすることも多くなった。子育て支援においては、従
る、文字に興味をもつなどの知的発達が促されること、
来型の物質的支援・心理的支援に加えて、子どもとの
②保護者や保育者などとのコミュニケーションにより
かかわり方を積極的に提示するような、より具体的支
情緒の安定がなされる等、大きく二つの効果が報告さ
The Relationship between the Training Experiences at Child Care Support Center
and Improvement of Student's Skills of Child Care
HOSHINO, Mihoko
― 27 ―
星野 美穂子
れている。特に、
子どもと保護者との読み聞かせでは、
2.調査方法:質問紙調査法、①子育て支援センター
保護者を独り占めして自分の好きな絵本を保護者の膝
における読み聞かせ活動についての不安、心配なこ
の上に座って、また体を密着させて聞くことができる
とを自由記述で回答した。②現在の保育援助技術に
ため、情緒の安定に果たす役割は大きい。しかしなが
ついての意識を測定すると思われる項目を設定し、
ら、子育て世代を対象とした調査では、およそ4割の
「とてもそう思う」~「全くそう思わない」の5段
家庭では日常的な読み聞かせは行われておらず、「絵
階の順序尺度によって回答した。さらにインターン
本の読み聞かせは文字が読めるようになるまで」、「絵
シップ後に③子育て支援の役割や内容として学んだ
本を読むのは知的発達を促すため」「想像力を育むた
ことを自由記述により回答した。
め」というように、知的発達を促す目的で行っている
3.調査時期:インターンシップ前(平成 26 年7月
保護者が多いこともうかがえる。
29 日、卒業研究指導時)、インターンシップ後(平
一方、保育者養成校においては、保育学生の抱える
就職後の不安の一要因として保護者との関わり方が挙
成 26 年8月8日、卒業研究指導時)
4.インターンシップ実施場所:神奈川県内の子育て
げられる。幼稚園実習、保育所実習、施設実習等、複
数の実習では保育者としての役割を、主に子どもとの
関わりを中心として学んでいく。送迎に来る保護者と
支援センター
5.調査対象者の活動内容
(1)6月:絵本の読み聞かせ活動の全体的企画、絵本・
の挨拶・連絡伝達程度の関わりはあるものの本格的な
紙芝居・ペープサート・手遊びの選定。
関わりは就職後の課題となっているのが現状である。
(2)7月初旬:活動内容を示した企画書の作成
資格取得のための実習後の学生の変化としては、発達
(3)平成 26 年7月 15 日~ 18 日:子育て支援センター
段階ごとの子どもとの関わり方、環境設定の方法、記
との接触
録の取り方、保育現場における報告・連絡・相談の方
(4)平成 26 年7月 30 日:活動内容を示した企画書・
法など、保育者としての役割を広く学んではいるもの
神奈川県内こども支援室室長への活動依頼の提出。
の、保護者との関わりについては学ぶ機会が少ないこ
(5)平成 26 年7月 31 日:神奈川県内こども支援室子
とが指摘できよう。本校では、保育所、児童福祉施
設、幼稚園での実習と、長期休暇期間を利用したイン
育て支援センター担当者との事前打ち合わせ
(6)平成 26 年7月 31 日~8月2日:絵本の読み聞か
ターンシップを奨励し、一定期間のインターンシップ
せ活動の事前準備
には単位認定を設けていている。しかしながら、主な
(7)平成 26 年8月4日~8月8日、8:30 ~ 17:
インターンシップ先は上記に挙げた施設が主となって
00:神奈川県内子育て支援センターにおける、絵本
おり、保護者との関わりをもつことができる施設にお
の読み聞かせ活動の実施。保育学生は、利用者(乳
けるインターンシップには単位認定が設けられていな
幼児・保護者)を対象に親子で楽しめる手遊び、絵
い。
本の読み聞かせ活動を実践する。その間、子育て支
そこで本研究では、子育て支援センターにおいて近
援センターの職員の方から近年の子育て支援の実態
年積極的に行われている絵本の読み聞かせイベントに
に関するインタビューを行い、記録を取るよう指導
保育学生が主体的に参加することによって、①保育学
した。
生の保育援助技術に関する意識、②保育学生の子育て
なお、絵本の読み聞かせを活動の手段としたのは、
支援、及び保護者・子どもとの関わりに関する意識の
絵本の読み聞かせのもつ機能を親子のコミュニケー
変容を明らかにし、保育学生の子育て支援センターに
ションツールとして利用しようとしたためである。
おけるインターンシップ経験の重要性を示唆すること
を目的とする。
また、神奈川県内こども支援室との接触、活動内容
の企画は学生が主体的に行い、筆者(担当指導教員)
はそのサポートに徹した。さらに、読み聞かせを行う
Ⅱ.方法
絵本の選定を援助した。絵本は、利用者(0歳~就学
1.調査対象者:保育者養成校に在学する卒業年次生
前)の発達段階をふまえ、親子でのコミュニケーショ
5名
ンの取りやすさを第一義的要素として、性差による好
― 28 ―
保育学生の子育て支援センターにおけるインターンシップ経験と保育援助技術の変化に関する一考察
みの偏りが少ないもの、リズム感のあるもの、言葉の
インターンシップ前の事前調査では、子育て支援セ
繰り返しが多いもの、季節感などを総合的に考慮し選
ンターそのものの役割や活動がわからないといった記
定を促した。また、インターンシップ期間中、巡回を
述がみられた。また、保護者に話しかけたり、保護者
行い、学生の活動について指導・助言を行った。
の前で話したり絵本を読む、またその反応に不安を
もっている様子であった。この結果から、授業の中で
Ⅲ.結果
1.インターンシップ前の不安(自由記述)
(figure1)
学んではいても、保護者との関わりは漠然としたもの
で、その関わりについては不安要素であることが示さ
れた。さらに、子育て支援センターという施設自体は
知っていてもその活動内容や役割をほとんど理解して
いないこともわかる。
2.インターンシップ前と後での保育援助技術
についての意識の変化 (figure2/table1)
読み聞かせ活動に参加した保育学生が全体としてど
の程度変化したかを示すために、インターンシップ前
と後での保育援助技術に関する各項目について、平均・
標準偏差を算出し、各項目の値を従属変数として対応
のあるt 検定を行った(table1)。その結果、「乳児と
楽しく遊ぶことができる(t =6.53)」で1%水準の有
意差が認められた。また、「乳児の様子を見てその要
求が理解できる(t =2.24)」、「乳児の様子を見て楽し
Table1 インターンシップ前と後での保育援助技術の意識の変化
インターンシップ前
インターンシップ後
M
M
SD
SD
t
有意確率
1 乳児と楽しく遊ぶことができる。
3.00
0.71
4.60
0.55
6.53 **
2 乳児の様子を見てその要求が理解できる。
2.80
0.84
3.80
1.10
2.24 *
3 乳児の様子を見て楽しんでいるということがわかる。
3.20
0.45
4.40
0.55
3.21 *
4 乳幼児の喜ぶ手遊びをすることができる。
2.60
1.14
4.00
0.71
2.06
5 乳幼児の喜ぶ絵本を選ぶことができる。
2.20
0.84
4.20
0.84
3.65 *
6 乳幼児の喜ぶ安全な玩具を製作することができる。
2.40
0.89
3.40
0.89
2.24 *
7 1・2歳の幼児の言葉が理解できる。
2.60
0.89
3.40
0.89
2.14 *
8 乳幼児の楽しむ音楽をピアノで弾くことができる。
2.40
1.52
3.40
0.89
1.83
9 乳幼児の保護者と臆することなく話ができる。
2.60
1.52
3.20
0.45
0.80
10 乳幼児の保護者に対して丁寧な言葉で話ができる。
2.80
1.30
4.00
0.00
2.06
11 乳幼児の保護者に対して笑顔で接することができる。
3.40
1.52
4.80
0.45
1.72
12 乳幼児の保護者の前でも臆することなく歌が歌える。
2.00
0.71
4.00
0.71
4.47 *
13 乳幼児の保護者の前でも臆することなくピアノが弾ける。
2.20
1.30
3.40
1.14
2.45 *
14 乳幼児の保護者の前でも臆することなく絵本を読める。
2.80
1.30
4.60
0.55
3.09 *
15 乳幼児の保護者の前でも臆することなく手遊びができる。
2.80
1.30
4.40
0.55
2.67 *
16 乳幼児の保護者の前でも臆することなく紙芝居を演じることができる。
2.80
1.30
4.40
0.55
2.67 *
17 乳幼児の保護者に絵本の読み聞かせの効果を話すことができる。
2.40
1.52
3.40
0.55
1.83
18 乳幼児の保護者に手遊びの効果を説明することができる。
2.40
1.52
3.20
0.45
1.09
19 乳幼児の保護者に子どもが楽しむ絵本を紹介することができる。
2.40
1.14
3.40
1.14
1.20
20 子育て支援の役割を簡潔に述べることができる。
2.20
1.30
3.20
0.84
1.41
21 子育て支援の具体的な内容を述べることができる。
2.20
1.79
3.00
0.71
0.83
22 子育て支援に必要な援助技術を述べることができる。
1.80
1.30
3.40
0.89
2.36 *
23 子育て支援に必要な援助技術を身につけている。
2.40
1.67
3.40
0.89
1.20
24 保護者に有効なアドバイスをすることができる。
2.40
1.67
2.80
0.84
0.37
― 29 ―
星野 美穂子
んでいるということがわかる(t =3.21)」、「乳幼児の
ントへ向けて利用者の方に喜んでほしいという思いを
喜ぶ絵本を選ぶことができる(t =3.65)」、「乳幼児の
常に抱いて仕事をしている職員の方を見て感激した」、
喜ぶ安全な玩具を製作することができる(t =2.24)」、
「子育て支援センターの重要性がわかった」は、参加
「1・2歳の幼児の言葉が理解できる(t =2.14)」、「乳
した全ての保育学生がほぼ同意見を記述していた。ま
幼児の保護者の前でも臆することなく歌が歌える
たインターンシップ前では、記述内容の量自体が少
」
、
「乳幼児の保護者の前でも臆することな
(t =4.47)
なったのであるが、インターンシップ後の学びについ
くピアノが弾ける(t =2.45)」、「乳幼児の保護者の前
ての記述では回答欄に書ききれないほどの多くの記述
でも臆することなく絵本を読める(t =3.09)」、「乳幼
がみられた。「子どもも保護者も笑顔でいることが子
児の保護者の前でも臆することなく手遊びができる
育て支援だと思った」、「受容し共に子どもを育ててい
」
、
「乳幼児の保護者の前でも臆することなく
(t =2.67)
こうとする体制をつくることが子育て支援に必要」と
紙芝居を演じることができる(t =2.67)」、「子育て支
いう記述では、実際に活動してみなければわからない
援に必要な援助技術を述べることができる(t =2.36)」
内容であり、大きな気づきであると思われる。
の 11 項目で5%水準の有意差が認められた。有意差
の認められた項目を見てみると、主に、①低年齢児と
のコミュニケーションに関する項目、②保護者の前で
保育を行うことに関する項目、③子育て支援への理解
に関する項目で好転がみられたようである。
Ⅳ.今後の課題
本研究では、保育学生 5 名が乳幼児と保護者を対象
とした絵本の読み聞かせ活動を 5 日間実施すること
で、保育者としての意識や子育て支援についての意
識、また保育技術や援助技術がどの程度変化するかを
3.子育て支援センターで学んだこと(自由記
述)
(figure3)
探索的に分析したものである。活動を通して様々な学
子育て支援センターでの絵本の読み聞かせ活動を
かったために項目の精査には至らなかった。どのよう
行った後の記述では、様々な学びがうかがえる結果と
な実習先に行けばどのような学びがあるのかを明らか
なった。特に「個人個人にあった支援が必要なのだと
にしていくことで、個々の保育学生の必要に応じたイ
わかった」
、
「職員の方の保護者への細かい配慮を学ん
ンターンシップ経験を提供していくことが可能になる
だ」
、
「子育て支援センターの役割がわかった」、「イベ
だろう。様々な場での活動を積極的に行い、保育者と
びを報告することができたが、調査対象者の数が少な
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保育学生の子育て支援センターにおけるインターンシップ経験と保育援助技術の変化に関する一考察
しての意識や援助技術をより高めていけるような教育
の場を提供していく必要があると考えられる。
一方、読み聞かせ活動において、参加者(乳幼児と
その保護者)にどのような変容が起こるか、特に親子
のコミュニケーションの質に変化が起こるかを明らか
にする研究がのぞまれるであろう。このためには、数
日間の実施だけでなく、継続的な活動を行い、参加者
の意識や行動の変容を測定するような項目の選出、ま
た観察などが必要となってくると思われる。
引用文献
ベネッセ教育総合研究所 2010 第4回幼児の生活
アンケート・国内調査
福沢周亮監修 薮中征代・星野美穂子編 2008『保
育内容・言葉 ‐ 乳幼児のことばの発達を育む ‐ 』教
育出版
服部祥子・原田正文 2003 乳幼児の心身発達と環
境 -大阪レポートと精神医学的視点 名古屋大学出
版会
厚生労働省 厚生労働省白書 2003 第 2 章 子ど
もを取り巻く現状・課題
富永由佳 2009 乳幼児を持つ母親の子育ての実態
と地域における子育て支援の課題 聖徳大学大学院児
童学研究科修士論文
付記
本論文執筆にあたり、インターンシップの場を提供
下さり、様々なご助言を頂戴致しました川崎市高津区
こども支援室・子育て支援センターかじがやの桜井伸
子先生をはじめ職員・ボランティアの皆様、調査にご
協力頂きました保護者の皆様に深く御礼申し上げま
す。
なお、本論文は、聖徳大学幼児教育専門学校平成
26 年度卒業研究「絵本を媒介とした子育て支援の実
践」
(代表者 山本亜莉沙・富田千夏子)の指導過程
の一部を記録し、独自のデータを追加し、執筆したも
のである。本調査によって保育学生の保育援助技術に
変容の有無を明らかにし、保育学生が子育て支援セン
ターにおけるインターンシップの有効性を示唆するこ
とで今後の教育に役立てていくことを説明した。その
上で対象学生の回答を分析した結果を公にすることに
ついての同意を得ている。
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