原発不稼働の危機に、メタンハイドレート は救世主になりうるか 改めて考えるニッポンの海底資源 日経ビジネス On Line (改編’12.2.20) http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20120215/227239/?rt=nocnt 自民党に資源確保戦略プロジェクトチーム(2012年2月9日:座長片山議員)ができた。 民主党は、東日本大震災の復興財源の確保に、エネルギー特別会計が保有する、国際石油開発帝石、石油資源 開発会社の株売却を対象に挙げた。旧石油公団を民営化し、国際石油開発(2004 年)と石油資源開発(2003 年) に移管し株上場した。国際石油開発はその後帝国石油と合併、エネルギー特別会計が 29.3%を保有。石油資源 開発は 34%をエネルギー特会、4.9%を国際石油開発帝石が保有する。 一向に明確なエネルギー戦略の青写真を描けない民主党に代わり、自民党でプロジェクトチームを立上げ新エネル ギー戦略を創るのが目的である。稼働中の原子力発電所が止まり、天然ガスは震災前まで、エネルギー国内供給 量の2割弱を担う存在だったが、その比重は急速に高まった。液化天然ガスを資源国から購入せざるを得ない 我が国にとって、日本近海に多く埋蔵する『メタンハイドレート』の開発、実用化を前倒しで進めるべき状況にある。 現在の民主党政権は、自然エネルギーへの補助金は熱心に議論するが、この手の資源開発は疎かである。 ◆世界初の商業実験に辿り着いたメタンハイドレート 写真出所:JOGMEC メタンハイドレートは化石燃料だが、CO2 排出量は 石油、石炭の半分。超低温、超高圧の環境下で 安定した氷状物質である(液体でない)。基本的 に海底に分布する。地上の永久凍土の中にも希 に存在する。水分子で囲った籠の中央にメタン分 子が入った物質で、燃やし分解するとメタンガスが 生成される。 日本は石油資源には恵まれないが、日本近海はメタンハイ ドレートの、世界有数の埋蔵地域だ。 東海沖から熊野灘の、 東部南海トラフは最も調査が進んでいる場所で、経済産業 省はここをモデルケースとして調査、研究を進めてきた。 東 部南海トラフの調査海域(全域の 1/6)だけで約 1.1 兆m3 の メタンガスに相当するメタンハイドレートが埋蔵する。この量は日 本年間ガス消費量(2005 年時点)の約 13.5 年分に相当する。 メタンハイドレートトの可能性は、小泉政権(2001 年度)時代に 東海沖∼熊野灘で 3D 物理探査と基礎ボーリングを実施し、 プロジェクトの中間評価報告(2005 年)が行われた。2006 年 の新国家エネルギー戦略で、石油・天然ガスの自主開発比率 を 4 割に引き上げることを掲げた。日本は、資源国に外交 交渉のカードを握られてきた。日本近海に多く埋蔵するメ タンハイドレートトは、エネルギーの自主開発比率向上のカギに なる。 メタンハイドレートトの開発は、2001 年度から進められた【フェーズ 1:分布状況と埋蔵量の調査】が行われ、2009 年 度から【フェーズ 2:メタンハイドレートを天然ガスとして取り出す技術の開発】に移行し進捗中である。そしていよいよ、 実際に井戸を掘削して、海洋でメタンハイドレートから天然ガスを産出する商業化の実証実験が、世界で初めて行わ れることになった。 1 ◆世界最高水準の能力誇る「ちきゅう」 この海洋産出試験の事業主体は経済産業省。 実際に実施主体となるのは経産省管轄の独立行政法人 石油天然ガスス・金属鉱物資源機構(略称 JOGMEC)。 オペレーターを務めるのは、今まさに政府から経産省保 有の株を売られそうになっている石油資源開発(略称 JAPEX)。 井戸を掘る作業に使う、『地球探査船:ちきゅ う』は、独立行政法人地球深部探査センター(略称 JAMSTEC)所有のである。 清水港出港の「ちきゅう」を見た(2月10日)。 間近で見ると、「ちきゅう」は巨大な船だ。 全長は 210mと新幹線 8 両分。横幅は 38 m、これはフットサルコートなみ。 船体中央に そびえ立つ、櫓状の建造物が採掘に使う 掘削機器で、一番上のデッキの高さは実 に海面 120m。船底からの高さトータルは 130m。30 階建てビルに相当、イージス艦よ り高い。 世界で唯一、地表から 1 万mの地中にあ る地球内マントルを掘れる能力を持つ。 船内に CT スキャン付きの研究設備があり、 掘り出した物質をその場で CT 解析できる。 探査船としては世界最高水準の船を我が 国は持っている。 今回掘るのは渥美半島沖 70km地点。海底の深さ自体が 1000 mと深い。2月12日に出発、40日間で4本の井戸を掘る。 最初、図 3:右から2本目の井戸をモニタリング用に掘る。メタンハイドレー トが大量に埋まっている層(濃集帯)は、海底面から 260∼330m地 点にある。右から 2 本目の井戸は濃集帯の下まで貫通、海底面か ら 370m下まで到達する。 次は一番右の井戸、これで実際にメタンハイドレート試験生産する。 既に濃集帯のすぐ上まで昨年に掘ってある。今回は濃集帯の中ま で掘り下げる。次に左から2本目、最後に一番左のモニタリング用井戸を 掘る。3本の井戸で温度、圧力、音波速度を測定する。 検証結果をもとに、実際の生産に挑むのは来年の 1 月から。 ◆課題はコストと輸送手段 最大の課題はコスト 現在の日本の液化天然ガスの輸入価格は 100 万 BTU:16$。 国際標準 BTU:252∼253cal。今後、間違いなく価格上昇する。 数年前の試算では、100 万 BTU:40$にもなり、まだ差は開いている。 井戸からのパイプラインも課題。東海地区は静岡ガス、中部ガス、中部電力のパイプラインがあり、陸上はこれらを 活用する。沖合井戸から岸まで 70kmパイプラインの敷設は、焼津港など漁港があり調整が必須。1990 年以降、 新潟県:磐舟で海底 1m下に埋設した際、JAPEX は漁業関係者との調整が必要になった。 関連する他プロジェクトで、興味深い微生物「アーケア」を発見した。海底 600m、水温 100∼120℃の極限環境で 生育し酸素のかわりに硫黄で呼吸、CO2 を食べメタンを生成する。ガス田採掘跡でアーケア培養も考えられる。 メタンハイドレートは日本海側の方が高純度のものが埋まっている説もある。他国のエネルギーから日本が自立す るため資源確保は喫緊課題である。 メタンハイドレートはその課題解決の突破口になる可能性を持っている。 2
© Copyright 2024 Paperzz