世界の知識の図書館を目指すInternet Archive

PRINT ISSN 0021-7298
ONLINE ISSN 1347-1597
昭和33年8月8日第3種郵便物認可 第52巻第9号平成21年12月1日発行(毎月1回1日発行)
情報管理
JOHO
KANRI
Journal of Information Processing and Management
12
December
2009
研究者を支援する評価分析
ツールの構築
機関リポジトリと研究者総覧を活用した
視認度評価分析システム
世界の知識の図書館を目指すInternet Archive
創設者 Brewster Kahle へのインタビュー
計量書誌学を用いた新たな評価の取り組み
JST と海外研究資金配分機関の研究成果の比較
vol.52 no.9 p.523-580
http://johokanri.jp/
月号
情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
研究者を支援する評価
分析ツールの構築
523
村田 輝
岩井雅史
534
時実象一
543
正木法雄
近藤 績
星 潤一
島田 昌
鴨野則昭
機関リポジトリと研究者総覧を活
用した視認度評価分析システム
■研究業績評価の指標にはさまざまなものが開発され利用されていますが,研究者および研究機関に
とっては,自分の研究業績を適切に評価してもらうために,客観的なデータを示す必要があります。
機関リポジトリを整備し引用文献データベースを契約している大学図書館が,それらと大学における
研究者総覧データベースとを組み合わせて教育研究業績を評価分析できるデータを提供するシステム
を開発しました。システムの目指す目的と,現在の開発段階までの中間報告です。
世界の知識の図書館を目指すInternet Archive
創設者Brewster Kahleへのインタビュー
■インターネット上の情報は,さまざまな理由で訂正・更新・改変されたり消失したりして,維持する
努力なしには本の情報のように後世に残ることはありません。インターネットが普及し始めた当初か
ら,すべてのWebページを保存し「現代のアレキサンドリア図書館」を目指すのが,米国のNPOであ
るInternet Archiveです。その共同創設者の1人であるBrewster Kahle氏に,Webページのみならず動画・
音楽・音声・書籍の電子化と保存・公開を行うInternet Archiveの事業について伺いました。
計量書誌学を用いた新たな評価の取り組み
JSTと海外研究資金配分機関の研究成果の比較
■JSTのファンディング事業の一つである戦略的創造研究推進事業では,平成20年度の自己評価にあた
り,該当事業が採択した研究の研究成果である論文の被引用数や被引用数上位1%の論文数という2つ
の指標を用いて,海外の同様のファンディング機関との比較を行いました。この評価を行うにあたっ
ての要点,手法や指標の設定および結果について報告します。
目次
月号
December
550
中村規子
552
森田歌子
554
長塚 隆
IFLAミラノ大会へのJ-STAGEとJournal@rchive出展報告
559
青山幸太
日高真子
視点:
562
渡部俊也
566
名和小太郎
568
小河邦雄
リレーエッセー:
インフォプロってなんだ?
私の仕事,学び,そして考え 第9回
情報交差点:
日本の出版社の電子ジャーナル化対応が進まないのは
何故か
図書館でのニーズ把握がビジネスモデルの出現を呼ぶ?
日本出版学会理事 ㈱文化通信社 取締役編集長星野渉氏
に伺う
集会報告:
第7回デジタルライブラリー国際セミナー
「シンガポールにおける図書館の動向と図書館員の教育」
特許の価値と企業競争力
イノベーション戦略との関係
情報論議 根掘り葉掘り:
サイバースペース論争
この本!〜おすすめします〜:
ウェブ,検索,そしてコミュニケーションをめぐる旅
572
情報界のトピックス
579
PINUP
576
海外文献紹介
580
編集後記
vol.52 no.9
JOHO KANRI 2009
December
Journal of Information Processing and Management
Contents
Development of researcher-helpful
evaluating and analyzing tool
523
Internet Archive aims to build a library of world
knowledge
534
TOKIZANE Soichi
A new approach to evaluating research performance
using bibliometrics
543
MASAKI Norio
KONDO Isao
HOSHI Jun-ichi
SHIMADA Masashi
KAMONO Noriaki
Relay essay:
550
NAKAMURA Noriko
Information crossroad:
552
MORITA Utako
554
NAGATSUKA Takashi
Promotion of J-STAGE & Journal@rchive at 75th
IFLA General Conference and Assembly
559
AOYAMA Kota
HIDAKA Masako
Opinion:
562
WATANABE Toshiya
In-depth argument on information:
566
NAWA Kotaro
My bookshelf:
568
OGAWA Kunio
MURATA Teru
IWAI Masashi
The Research Visibility Analysis System using the
institutional repository and the researcher directory
An interview with the founder, Brewster Kahle
JST's research impact and influence as compared with an
overseas funding agency's
What I do, study, and think as an information professional (9)
Why Japanese publishers are behind in making
journals online?
Library needs assesment may bring up new business models
Interview with Wataru Hoshino, director at The Japan Society of
Publishing Studies and director editor in chief at The Bunka Tushin
Meeting:
The 7th International Seminar on Digital Libraries at
Tsurumi University
Library trends and training of librarians in Singapore
Value of patent for innovation strategy and
competitiveness
Debate over cyberspace
Travel over web, retrieval, and communications
572
Topics of the information community
579
PINUP
576
Literature guide
580
Editor's note
研究者を支援する評価分析ツールの構築
研究者を支援する評価分析ツールの構築
機関リポジトリと研究者総覧を活用した視認度
評価分析システム
Development of researcher-helpful evaluating and analyzing tool
The Research Visibility Analysis System using the institutional repository and the researcher directory
村田 輝1 岩井 雅史2
MURATA Teru1; IWAI Masashi2
1 埼玉大学研究協力部(〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保255)Tel : 048-858-9640 E-mail : [email protected]
2 信州大学附属図書館(〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1)Tel : 0263-37-2185 E-mail : [email protected]
1 Research Management and Information Affairs Department, Saitama University (255 Shimo Okubo Sakura-ku Saitama-shi,
Saitama 338-8570)
2 Shinshu University Library (3-1-1 Asahi Matsumoto-shi, Nagano 390-8621)
原稿受理(2009-09-25)
(情報管理 52(9), 523-533)
著者抄録
視認度評価分析システムは,教育研究活動成果の視認性に関する客観的指標を研究者単位で統合し,提供することに
よって,研究者や教育・研究機関の活動を支援することを目的としたシステムである。機関リポジトリの進展と新・
研究者総覧システムの開発とを背景に,信州大学が主担当となり,埼玉大学,慶應義塾大学と連携して平成20年度か
ら構築を進めている。本稿では,システム開発の背景と理念,システムの具備すべき要件および開発の現況を報告する。
キーワード
視認度評価分析システム,研究者総覧システム,機関リポジトリ,引用文献データベース,アクセスログ分析,視認性,
評価指標,研究者支援
1.
はじめに
たシステムである。
本システム開発の背景には,大学を中心とした機
視認度評価分析システム(以下「本システム」と
関リポジトリの進展と,信州大学および株式会社メ
いう)は,研究者や大学・研究機関に自らの教育研
ディアフュージョンが共同開発した,機関リポジト
究活動成果の視認性を客観的に評価分析するための
リと連携した新しい研究者総覧システムがある。
各種の指標を提供することによって,研究プロモー
図1に示すとおり,本システムは,機関リポジトリ,
ションや研究戦略構築などに資することを目的とし
研究者総覧システム,引用文献データベース(Web
523
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でにその範囲が広がっている。この現状は,情報発
信の質のコントロールが行われていないといったマ
イナス面からとらえるべきでなく,研究・教育・地
域貢献等の諸活動にわたる多様なアウトプットが研
究者や大学・研究機関自身から積極的になされるよ
うになったというプラス面からとらえるべきであろ
う。
図1 視認度評価分析システム概念図
機関リポジトリのもうひとつの重要な意義は,大
学・研究機関による教育研究活動の成果物をイン
o f S c i e n c e等)から得られる論文数,アクセス数,
ターネットを介して無償かつ誰にでもアクセス可能
被引用数などの定量的データを研究者単位で整理・
にした点である。アクセス障壁が限りなく低くなる
集計し,評価分析データを提供するものである。各
ことによって,大学・研究機関の成果物の視認性
種データの研究者単位でのデータ統合を行うことに
が大幅に高まるとともに,機関内や学術コミュニ
よって,論文単位での評価分析のみではなく,研究
ティーを超えた,社会全般からも広く成果物へのア
者単位での全業績の客観的な評価分析を可能にする
クセスがなされるようになった。機関リポジトリが
点にその機能の核心がある。
研究目的に限らない多様な目的に利用されているこ
なお,本システムの開発は国立情報学研究所の
CSI委託事業に採択されており1),信州大学が主担当
となり,埼玉大学,慶應義塾大学と連携して平成20
年度〜21年度にかけて受託している。
とを,機関リポジトリのアクセスログの分析を通し
て示唆した報告も行われている2)。
このように機関リポジトリが進展し,その利用の
拡大が進むにつれて,量・質の両面において大学・
研究機関の成果物へのアクセスのあり方は革命的な
2.
システム開発の背景
変貌を遂げつつあるといえる。また,利用者の行動
がアクセスログに記録されることによって,従来は
最初に本システムの開発を行うに至った背景につ
いて述べる。
見えなかった研究成果物に対する関心のあり方を客
観的なデータによって明らかにできるようになっ
た。機関リポジトリのこのような進展は,研究者や
2.1 機関リポジトリの進展
本システムの開発の背景には,まず大学等におけ
る機関リポジトリの進展がある。機関リポジトリは
大学・研究機関とその教育研究活動に対する新たな
観点からの評価分析への可能性を切り開くもので
あった。
研究者や大学・研究機関からの主体的な学術情報発
信を可能にした点で大きな意義を持っている。研究
524
2.2 教育研究業績の把握と研究者同定
者や大学・研究機関は出版社等の刊行主体の意向に
2つ目の背景は,本システム開発に当たっての必
コントロールされることなく,自らの意思で成果物
須の要件である大学の教育研究業績の把握と研究者
の発信を行うことができるようになった。発信され
同定の問題に解決の見通しがついたことである。
る情報は学術論文のみでなく,研究発表のプレゼン
教育研究活動成果の視認性を評価分析するために
テーション資料,教材などの教育活動の成果物,さ
は,当然のことながら,評価分析の対象となる教育
らには機関の広報物や所蔵する貴重資料等に至るま
研究業績が十分に把握されていなければならない。
研究者を支援する評価分析ツールの構築
しかし,これまで多くの大学等においては,所属す
新・研究者総覧システムは,大学の研究者と研究
る研究者の業績情報を網羅的かつ体系的に把握する
業績に関する情報の公開と発信を目的として導入さ
手段を持っていなかった。また,研究者ごとに視認
れたものであるが,結果的に本システム開発の前提
性を評価分析するに当たって必要な研究者単位での
として必要な研究者の業績情報のトータルな把握と
情報統合も従来は困難であった。例えば,研究評価
研究者単位での各種データの統合を可能にしたので
に広く用いられているWeb of Scienceにおいてすら,
ある。
研究者同定を完全に行うことは難しいのが現状であ
る。周知のとおり,学術文献や引用文献データベー
2.3 評価の進展
スでは,同姓同名,著者名略記等の問題から,著者(研
3つ目の背景として,研究者や大学・研究機関
究者)を同定することが難しく,その解決が大きな
に対するさまざまな評価が進展している現状があ
テーマとなっている。
る 7)。研究や教育が公的資金やその他の外部資金を
このような状況下で,信州大学において開発され
得て行われている以上,社会や利害関係者からの評
埼玉大学にも拡張導入された新・研究者総覧システ
価はあってしかるべきであるが,問題は,研究者や
ム3)〜6),
注1)は,大学構成員の教育研究業績のトータ
大学・研究機関の側が各種の外部評価の適切性を検
ルな把握と,本システムの実現に必須な機能である
証したり,自らをアピールし,対策を講じていくた
研究者同定に対して可能性を開くものであった。
めの説得力のある客観的データと評価指標を十分に
新・研究者総覧システムは科学技術振興機構(JST)
コントロールできていない点にある。外部からの評
によるReaD(研究開発支援総合ディレクトリ)との
価に一喜一憂しつつ,自分自身の優位性を主観的に
連携も図りつつ,大学における教育研究業績の網羅
広報・宣伝するばかりの状況であるとすれば,研究
的把握を目指している。また,同システムでは,個々
者や大学・研究機関にとって好ましいことではない。
の研究者ページに登録された業績データと機関リポ
このような状況の中でわれわれは,研究者や大学・
ジトリ,引用文献データベース(Web of Science),
研究機関が評価に対する自律性を取り戻すために
電子ジャーナルがリンクしていることから,研究者
は,自らの教育研究活動を客観的に評価分析するた
ページに著者名典拠の役割を持たせ,研究者を軸に
めのツールが必要であるとの状況認識を持つに至っ
システムの内外から得られる多様な情報を束ねるこ
たのである。
とが可能な仕組みを有している(図2)。
3.
視認度評価分析システムの目指すもの
3.1 システムの開発理念
本システムは,機関リポジトリや引用文献データ
ベースから得られる教育研究活動成果物のアクセ
ス・利用状況並びに被引用数に関するデータを,研
究者総覧システムあるいはそれに相当する機能を核
として,取得・集計・整理・統合し,研究者や大学・
研究機関にとって役立つ各種データ・評価指標を提
供する機能を実現しようとしている。具体的には次
図2 新・研究者総覧システムの研究者ページ
のとおりである。
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(1) 従来,定量的研究評価のためのほとんど唯一の
ために行うものであるといえる。すなわち,本シス
手段として用いられてきた引用文献データベース
テムの基本理念は,研究者を支援する評価分析ツー
に加えて,機関リポジトリのアクセス数に関する
ルの提供であり,このことが機関の活動支援にもつ
情報を評価指標として活用できるようにし,評価
ながるのである。
指標を大学の幅広い教育研究活動に適用可能とす
る。
3.2 システムの要件
(2) 研究者総覧システムを利用することで,従来は
3.1に示した開発理念を実現するに当たって,シ
困難であった各種の指標の研究者単位での取りま
ステムに求められる基本的な要件は,各研究者と教
とめを可能にする。さらにこの延長上に,組織・
育・研究機関が自らの諸活動に対する関心のあり方
機関のさまざまなレベルでのデータの統合と分析
を多面的に知ることのできる情報提供である。自ら
を可能にする。
の研究業績等が「いつ」,「どこから」,「どの程度」
(3) 評価指標の目的と状況に応じた主体的な活用を
関心を持たれているのか,さらには,「どのような」
可能とするために,研究者や大学・研究機関が自
関心を持たれ,「どのような」影響力を及ぼしてい
分自身で,いつでも自由に必要な情報を出力し,
るのかを推測できる量的・質的な指標を,各研究者
活用できるようにする。
や機関・組織の単位で提供できることが求められる。
研究者と教育・研究機関による本システムの利用
これらの情報のかなりの部分は,アクセスログの
目的については,具体的には次のようなことを想定
詳細な分析と研究者単位での情報統合によって得る
できる。
ことができる。アクセスログの活用により,アクセ
(1) 研究者や教育・研究機関が客観的なデータに基
ス数やダウンロード数はむろんのこと,アクセス経
づいて自らをアピールし,外部からの評価を高め
路(どこから来て,どこへ行ったか)やアクセスの
ていくために利用する。
ために使用された検索キーワードの分析を行うこと
(2) 外部評価や第三者評価に対し,その適切性,正
が可能である。さらにはアクセスログから得られた
確性を検証し,相対化することによって,逆に自
情報と引用文献データベースから得られる論文の被
らを上手にアピールできる説得力のある評価指標
引用数との比較,時系列に沿った分析,機関内の複
を研究者や機関自らが作り出していくために利用
数のレベル(機関全体,学部,学科,研究室など)
する。
での情報の統合,データの直感的理解を可能にする
(3) 研究者や大学等に対する学術コミュニティーや
社会全般からの分野を超えた多様な関心の総合的
可視化などの手法の利用によって,さらに有益な情
報を得られる可能性がある。
な把握と評価分析により,研究並びに教育や地域
システムが具備すべき要件としてわれわれが検討
貢献に至る諸活動の効果的な実施のための戦略構
を進めている内容を,未確定・未整理な事項も含め
築のために利用する。
て以下に具体的に記述する。
つまり,本システムの開発は,社会への説得力の
ある説明責任を果たしつつ,自ら主体的に研究戦略・
526
3.2.1 研究者総覧システムとの関係
経営戦略を構築していくことを必要としている研究
本システムは機関リポジトリへのアクセスログや
者と教育・研究機関が,自らの教育研究活動のポジ
引用文献データベースから得られたデータを新・研
ショニングとその今後の可能性についての評価分析
究者総覧システムを利用して統合することに機能の
を,客観的データに基づいて行うことを可能にする
核心がある。しかし,信州大学および埼玉大学が導
研究者を支援する評価分析ツールの構築
入した新・研究者総覧システムと同等なシステムを
リポジトリに登録された論文のみに対象が限定され
導入しなければシステムが機能しないわけではな
る点に注意する必要がある。本文データをシステム
い。本システムの基本部分の動作は次のとおりであ
に持つことのできない論文等も含めて,当該研究者
り,研究者と各論文を対応づける何らかの方法があ
の研究業績全体をカバーした統計を取得するために
れば,限定的ではあるものの,システムの利用は可
は,新・研究者総覧システム(もしくは同等の機能
能であると考えられる。
を有する業績データベースシステム等)を外部に持
①研究者IDに対応する論文IDを抽出する
つ必要がある。
②研究者IDごとに,論文のID数をカウントする
③論文IDから,その論文の被引用数を取得する
④論文I Dから,その論文のダウンロード数を取得す
る
3.2.2 引用文献データベースへの対応
被引用数を取得するための手法としては,引用文
献データベースの提供しているA P Iを使用したい。
⑤研究者I Dから,その研究者の研究者ページのアク
セス数を取得する
⑥研究者IDごとに②〜⑤をまとめて表示する
この種のA P Iは,データベースによって細部は異な
るが,基本的には検索キーを送ると,ある一定のデー
タを返戻する機能を備えている。この機能を利用し
研究者と各論文を対応づける方法としては,論文
て,検索キーとして論文I Dを送り,返ってきた論文
I Dを保持する機能を持った研究者総覧システムを外
データの被引用数を取得すれば,常に最新のデータ
部に持たせてリンクする方法(図3- a)以外に,機
を取得することができる。この種のA P Iは,W e b o f
関リポジトリの各メタデータに著者I Dを入力し,リ
Scienceだけではなく,Scopusも提供しているため9),
ポジトリ内部でリンクする方法(図3- b)も考えら
各機関が契約状況に合わせてどちらかを選択できる
れる。リポジトリの中に著者ページの機能を備えて
ようにシステムを構築することが望まれる。
いる米国ロチェスター大学などの事例8)もあるが,
Web of ScienceとScopus以外では,被引用数のデー
この方法を採用すれば,研究者総覧システムを持た
タ自体を収録しているデータベースはまだ少数であ
なくても本システムの利用が可能になり,汎用性が
る。和文データベースであるC i N i iは,被引用数を取
高まる。しかし,この方法を取った場合には,機関
得する情報源として有用であり,A P Iも提供してい
るが,残念ながらA P Iから取得できるデータに被引
用数のデータは含まれていない10)。
なお,A P Iからのデータ取得時に使用する論文I D
については,各データベース独自のI Dを使用するこ
ともできるが,D O Iなどの汎用性の高いI Dの使用が,
システムの汎用性を高める意味でも有効であろう。
3.2.3 機関リポジトリソフトウェアへの対応
機関リポジトリの構築に使用されているソフト
ウェアとしては,日本国内ではD S p a c eが圧倒的な
シェアを持つ。従って,DSpaceへの対応は必須であ
るが,それ以外のリポジトリソフトウェアを使用し
図3 研究者と各論文の対応
ている機関においても,本システムを利用できるよ
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うにすることが望ましい。本システムの連携開発機
定の標準に従ったアクセスログの処理を行う必要が
関である埼玉大学および慶應義塾大学では,リポジ
あると考えられる。
トリソフトウェアとしてX o o N I p sを使用しているた
このことから,アクセスログの処理に関しては,
め,まずは本システムのX o o N I p sへの対応を行いた
千葉大学が中心となって進めているR O A Tプロジェ
い。しかし,一定の形式でアクセスログを取得する
クト13) の成果を活用することとしている。同プロ
機能があれば,DSpaceやXooNIps以外の機関リポジ
ジェクトではアクセスログの処理の標準を提言する
トリソフトウェアを利用している場合においても本
ことを目的のひとつとしており,そのプロトタイプ
システムに対応することは容易であると思われる。
として,AWStats14)を活用したログ処理システムが,
協力機関向けに公開されている。
3.2.4 アクセスログの解析
Webサーバのアクセスログ解析は,機関リポジト
リ(論文)や研究者総覧システム(研究者ページ)
3.2.5 質的情報の分析
視認度の把握・分析に当たっては,アクセス数,
のアクセス数・利用状況を知るための唯一の方法で
ダウンロード数,被引用数といった量的情報のみで
あり,本システムを有効に機能させるための生命線
なく,各研究者や研究業績等が「どこから」「どの
といえる。しかし,アクセスログを解析する際には,
ように」関心を持たれているのかといった利用の質
有効とはいえないログが多数記録されていること,
に関する情報を提供できるようにすることが望まし
カウントの仕方によって結果に相当なずれが生じる
い。アクセスログ分析は,このような情報の取得に
ことに十分に留意し,信頼性のある結果を出力する
当たっても,不可欠な手段である。
ための工夫が必要となる。
アクセスログから取得できる情報はアクセスの有
例えば,アクセスログには現実に人間が利用した
無のみではない。アクセスの経路(リファラ)やア
実績とは異なるアクセスが多数記録されている。代
クセス元のドメイン名,検索エンジンからのアクセ
表的なものが検索エンジンのクローラをはじめとし
スの場合に使用されたキーワードなども取得するこ
たボットと呼ばれるプログラムによる自動的なアク
とができる。これらの情報は,機関リポジトリや研
セスである。これらは検索エンジンに登録するため
究者総覧システムにアクセスしてくる人々の属性
に不定期に各ページにアクセスしてくるが,人間が
(国別,大学/企業/一般の別など)や,関心を持っ
論文を読んでいるのではないため,実際の利用実績
ているテーマを反映している。これらの情報を取得
との誤差の原因となる。ボットによるアクセスが,
し,集計・分析することを通して,どのような人々
機関リポジトリへのアクセスに占める割合は3割〜
がどのようなテーマに注目し,情報にアクセスして
8割という調査結果もあり11),割合として多いだけ
きているのかを把握することができる。
でなくばらつきも大きいため,ボットの処理方法が
異なるシステム同士の数字は比較することができ
ず,統計数値として意味がなくなってしまう。また,
528
3.2.6 研究者ページを利用したアクセス分析
本システムの情報源として利用する新・研究者
ボットによるもの以外にも現実の利用実績以上にア
総覧システムでは,研究者ページに掲載されてい
クセスが記録される要因は多数ある。電子ジャーナ
る個々の研究業績から機関リポジトリ,W e b o f
ルのアクセス統計の世界においては,COUNTERプロ
Science,電子ジャーナルへのリンクが張られており,
ジェクト12)によって実務指針が定められているが,
個々の研究者ページが学術情報流通のジャンクショ
機関リポジトリや研究者総覧システムに関しても一
ンとでもいうべき機能を果たす。従って,そこから
研究者を支援する評価分析ツールの構築
得られるアクセス情報が特定の研究者とその研究活
認証基盤を利用することが望ましい。
動に対する関心のあり方を具体的かつ詳細に示して
いると考えられる。例えば,研究者ページから張ら
3.2.8 組織別統計
れているどのリンクがクリックされたかを知ること
本システムを大学における諸活動(教育・研究・
で,その研究者のどの研究業績に関心が持たれてい
社会貢献)の戦略立案に資するシステムとするため
るかを知ることができる。個々の研究業績に対する
には,個人別統計のみでは不十分であり,組織別統
関心は,機関リポジトリからのみでなく,研究者ペー
計の機能は欠かすことができない。この機能は,新・
ジからも明らかにできるのである。このことは,機
研究者総覧システムを利用し,各研究者ページに記
関リポジトリに登載されていない論文等を含む各研
録されている所属組織に関する情報をキーとしてリ
究者の研究業績の全体を分析の対象にできることを
ンクされた論文等に関する情報の統合と集計を行え
意味している。
るようにすれば,実現は容易であると考えられる。
この場合に注意すべきなのは,同じ組織内の複数の
3.2.7 情報の表示・出力
研究者が同じ論文を業績として登録しているケース
アクセスログ等から取得し,集計された各種の
が考えられるので,その場合には重複してカウント
データの表示については,個人別統計と組織別統計
しないように,論文I Dによるマージが必要となる点
を提供できるようにしたい。各数値については,累
である。
計値のみならず,毎月の推移を表示できるようにす
なお,研究者総覧システムを利用せずに,機関リ
ることによって,利便性を高めたい。データは画面
ポジトリのみで組織別統計を実現する場合(図3- b
上に表示するのみでなく,C S V形式等で出力可能と
の方法)には,各論文データを利用して著者I Dのみ
し,各研究者が用途に応じて自在に加工・活用でき
でなく組織I Dも特定できるようにしておく必要があ
るようにする必要があろう。
る。リポジトリ内で組織ごとにディレクトリを分け
3.2.5で述べたように,アクセス経路,アクセス
元,検索キーワード等から得られる質的情報につい
ている場合は,そのディレクトリ構造をそのまま利
用する方法も考えられる。
ても,取得し整理・集計して提供することを可能と
することを目指しているが,この種のデータを意味
3.2.9 多様な利活用に対応しうるデータ設計
のあるものにするためには,情報の直感的な把握と
以上に挙げた各種の統計を生成し,研究者や機関
分析を可能とする表示方法を提供すべきだろう。グ
の用途に応じた出力を可能とするためには,基礎と
ラフや図表の利用はもちろん,例えば検索キーワー
なるデータの保持に関する設計が最重要事項であ
ドの使用頻度について,タグクラウドによる視覚化
る。本システムの生命線は,機関リポジトリ,研究
を行うなどの工夫も検討すべきであると思われる。
者総覧システム,引用文献データベース,Webアク
利用者をシステムに誘引するとともに,有効活用を
セスログから得られる多様なデータである。アクセ
促すためには,わかりやすく,インパクトの高い方
ス数,ダウンロード数,被引用数といった量に関わ
法で情報を提供できる手段があることが望ましい。
るデータ,並びにアクセス経路,アクセス元,検索
なお,情報の表示・出力を,本人や管理者等に限
キーワードといった質に関わるデータが,生データ
定する場合には,認証機能も必要となる。この認証
の持つ情報を損なうことなく,各研究者単位,論文
には,できれば独自のものではなく,機関リポジト
単位,並びに時系列単位での抽出が可能な形式でシ
リや研究者データの登録に使用されるものと共通の
ステムに保持されていなければならない。このよう
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な前提が十分に構築されていれば,統計情報の生成
(2) 機関リポジトリに本文が存在したり,W e b o f
や出力・表示の方法はある意味で二次的であり,蓄
Scienceに採録されている論文のデータには,各シ
積されたデータから利用者側の工夫によっていかよ
ステム上でのIDが登録されている。
うにでも用途に応じた出力と加工を行うことができ
平成20年度までのシステム開発では,新・研究者
ると考えられる。
総覧システムに登録された論文のアクセス数および
被引用数を提供することを目標とし,研究者ページ
4.
視認度評価分析システムの開発
(前出図2)にリンクした機関リポジトリおよびWeb
of Scienceから取得した情報を統合することにより,
4.1 平成20年度の開発
最初にも触れたように,本システムの開発は国立
情報学研究所のC S I委託事業に採択されており,平
成20年度から実施している。本稿では最後に,シス
テム開発の現況を報告する。
平成20年度は3.2に示したシステム要件のうち,
研究者個人別に論文の被引用数およびダウンロード
数をまとめて表示する機能を信州大学の持つシステ
ムをベースに開発した。2.2でも触れたように,本
システムの機能を可能にしているのは,機関リポジ
トリ,Web of Scienceとリンクした新・研究者総覧
研究者個人別に次の統計を提供する機能を開発し
た。
①論文の機関リポジトリからのダウンロード数=機
関リポジトリのアクセス統計
②論文のWeb of Scienceにおける被引用数=Web of
Science
③研究者ページへのアクセス数=新・研究者総覧シ
ステムのアクセス統計
④研究者ページに登録された著書・論文数=新・研
究者総覧システム自体
(「=」以下はそれぞれの値の情報源を表す)
システムであるが,その技術的特徴についてはすで
各統計値は,月ごとの値を提供できるようにし
に複数の論文5),15),16)に紹介されているので詳細は
た。また論文のダウンロード数および被引用数に関
省略する。本システムとの関わりでは,特に以下の
しては,個人としての総数および個別の論文ごとの
点を挙げておきたい(図4)。
値をともに提供できるようにした。
(1) X M Lデータベースで構成されており,論文デー
本システムでは,これらの値について,1か月に1
タは,研究者データの子ノードとして保持されて
回,自動的に値を取得し,個人別・論文別に格納し
いる。
たデータベースを保持することとした(前出図1)。
その上で,新・研究者総覧システム内の研究者I Dと
論文I Dとの対応関係に従い,研究者個人ごとにこれ
らの値を集計し,表示するプログラムを開発した。
アクセス統計
上記①と③のように,本システムでは情報源とし
てアクセス統計を用いている。アクセス統計の手法
はさまざまだが,平成20年度はWebサーバのアクセ
スログを解析するツールであるA W S t a t s14)を利用
し,
出力される統計ファイルからデータを取得した。
AWStatsを採用した理由には,
図4 新・研究者総覧システムXML例
530
・導入およびカスタマイズが比較的容易である
研究者を支援する評価分析ツールの構築
・URLごとのアクセス統計が可能である
・統計結果がテキスト形式で出力されるため,他
プログラムからの利用が容易である
・ボットによるアクセスなど,ダウンロード数と
してカウントしないアクセスを除外するための
設定が容易である
などがあった。
信州大学の機関リポジトリで採用しているシス
テムD S p a c eにおいては,論文本文のU R Lは途中に
Handle IDと“bitstream”という文字列が含まれ,末
尾が“p d f”という文字列で終わっている(ファイ
ル形式がpdfの場合)。従って,AWStatsの出力する
図5 研究者別統計値表示画面
統計ファイルからそのようなU R Lへのアクセス数を
抽出することで,あるHandle IDを持つ論文へのアク
セス数を取得できる。
論文数
新・研究者総覧システムにおいては,各研究者
上記④の論文数に関しては,新・研究者総覧シス
のページは,一定のU R Lに加えて,システム内の
テムに登録された論文の数をそのまま取得する。ま
研究者I Dが含まれた形のU R Lを持つ。従って同様
た,新・研究者総覧システムにおいては論文デー
に,AWStatsの出力する統計ファイルからそのよう
タの中にHandle IDやWoS IDのデータ項目が存在する
なU R Lへのアクセス数を抽出することで,ある研究
(前出図4)ため,それらのI Dを持つデータ数をカウ
者I Dを持つ研究者ページへのアクセス数を取得でき
ントすることで,リポジトリに登録のある論文数や
る。
Web of Scienceに採録された論文数も同時に取得し
ただし,平成20年度の開発においては,ダウン
ロード数・アクセス数の集計のみを実装しており,
各ページへのアクセス経路や検索キーワード等の分
ている。
データ表示
利用者(研究者)が認証を受けると,研究者個人
析は実現されていない。
に関するデータが画面に表示される(図5)。表示さ
被引用数の取得
れる統計値は,当該研究者の論文の総数,個々の論
上記②の被引用数については,平成20年度の開発
文の機関リポジトリダウンロード数およびW e b o f
では,信州大学で利用可能であったことから,Web
S c e i n c eによる被引用数,研究者ページのアクセス
o f S c i e n c eを被引用数の情報源とした。データの取
数などである。なお,原則として参照できるのは利
得方法としては,テスト段階では暫定的にW e b o f
用者自身に関する統計であり,他の研究者の個人別
ScienceデータのCSVファイルをローカルのサーバ上
統計を参照することはできないように制限されてい
に置き,そこからデータを取得する形をとった。し
る。
かし,被引用数を常に最新の状態にするために,平
成21年度においては,Web of ScienceのAPIとして提
供されているArticle Match Retrieval17)を使用して,
毎月取得できるようにする計画である。
4.2 今後の計画
平成21年度以降は,平成20年度の開発で実装で
きなかったアクセス経路・検索キーワード等の分析
531
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JOHO KANRI
2009
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や組織別統計の機能を付加するほか,システムの汎
はないことをお断りしたい。特に3.2の記述に関し
用性やアクセスログ解析の信頼性の向上などのため
ては未確定・未整理な部分が残されており,システ
の措置を行い,3.2に示したシステム要件の実現を
ムの開発内容および方法に関して外部からの有益な
目指していく予定である。
意見と提案がもたらされることを期待したい。しか
し,本システムの開発理念と開発に至ったわれわれ
5.
終わりに
の現状認識は変わることはないであろう。
われわれは,引き続き研究者を支援する有益な
本稿は,開発プロセスの現段階での中間報告であ
り,開発項目やその方法については確定した内容で
ツールの実現のために全力を尽くしたいと考えてい
る。
本文の注
注1) 参考文献5)の日本語版がhttp://hdl.handle.net/10091/1024で公開されている。
参考文献
1) 平成20-21年度 CSI委託事業(領域2) 機関リポジトリ推進のための視認度評価分析システム. http://
rvas.shinshu-u.ac.jp/, (参照2009-09-10).
2) 佐 藤 翔.“ 誰 が, 何 を 読 ん で い る の か ― ア ク セ ス ロ グ に 基 づ く 機 関 リ ポ ジ ト リ の 利 用 実 態 ”.
SPARC Japan セミナー 2008 Open Access Day 特別セミナー「日本における最適なオープンアクセ
スとは何か?」.東京, 2008-10-14, 国立情報学研究所. 2008. https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/
handle/2241/100805, (参照2009-09-10).
3) 信州大学研究者総覧SOAR-RD.http://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/, (参照2009-09-10).
4) 埼玉大学研究者総覧SUCRA.http://sucra-rd.saitama-u.ac.jp/, (参照2009-09-10).
5) Ishizaka, K.; Iwai, M.; Gokan, M.; Ohba, H.; Sakaguchi, R. Development of the Shinshu University Online System
of General Academic Resources (SOAR). Progress in Informatics. 2008, no. 5, p. 137-151. http://dx.doi.
org/10.2201/NiiPi.2008.5.11, (参照2009-09-10).
6) 村田輝.機関リポジトリの拡充・発展による教育研究活動データベース新システムの構築 : 大学にお
ける知的情報の蓄積・利活用と図書館の役割. 大学図書館研究. 86, 2009. 掲載予定.
7) 川口昭彦. 大学評価文化の展開 : わかりやすい大学評価の技法(大学評価・学位授与機構大学評価シ
リーズ).ぎょうせい, 2006, p. 185.
8) UR Research. https://urresearch.rochester.edu/, (accessed 2009-09-10).
9) Scopus API. http://searchapi.scopus.com/, (accessed 2009-09-10).
10)
“CiNii 外部提供インターフェースについて”.CiNii. http://ci.nii.ac.jp/info/ja/if_opensearch.html, (参照200909-10).
11)佐藤義則. 動向レビュー : 機関リポジトリの利用統計のゆくえ. カレントアウェアネス. 2008, no. 296,
CA1666. http://current.ndl.go.jp/ca1666, (参照2009-09-10).
12)COUNTER - Online Usage of Electronic Resources. http://www.projectcounter.org/, (accessed 2009-09-10).
532
研究者を支援する評価分析ツールの構築
13)機関リポジトリ評価のための基盤構築. http://www.ll.chiba-u.ac.jp/~joho/CSI/standardization.html, (参照
2009-09-10).
14)AWStats official web site. http://awstats.sourceforge.net/, (accessed 2009-09-10).
15)岩井雅史, 後閑壮登. 機関リポジトリと業績データベースとの連携 : 信州大学(SOAR)のケース. 大学
の図書館. 2008, vol. 27, no. 7, p. 147-149.
16)岩井雅史, 後閑壮登. 研究者情報との連携による機関リポジトリの戦略的発信 : 信州大学の取り組み.
情報の科学と技術. 2009, vol. 59, no. 1, p. 18-22.
17)
“Article Match Retrieval”. Research analytics. http://researchanalytics.thomsonreuters.com/solutions/amr/,
(accessed 2009-09-10).
Author Abstract
The Research Visibility Analysis System presents each researcher the objective indicators about the visibility
of education and research activities and aims supporting researchers and research institutes. Based on the
progress of institutional repositories and the development of the new researcher directory system, Shinshu
University has been developing the system since 2008 with Saitama University and Keio University. We discuss
the background, the principle of this project as well as the requirements and the development status of the
system.
Key words
Research Visibility Analysis System, researcher directory, institutional repository, citation index, access log
analysis, visibility, evaluation indicator, researcher support
533
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JOHO KANRI
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世界の知識の図書館を目指すInternet
Archive
創設者Brewster Kahleへのインタビュー
Internet Archive aims to build a library of world knowledge
An interview with the founder, Brewster Kahle
時実 象一1
TOKIZANE Soichi1
1 愛知大学文学部(〒441-8522 愛知県豊橋市町畑町1-1)E-mail : [email protected]
1 Faculty of Letters, Aichi University (1-1 Machihata-cho Toyohashi-shi, Aichi 441-8522)
原稿受理(2009-09-25)
(情報管理 52(9), 534-542)
著者抄録
Internet ArchiveはBrewster Kahleによって1996年に設立された非営利団体で,過去のインターネットWebサイトを保存し
ているWayback Machineで知られているほか,動画,音楽,音声の電子アーカイブを公開し,またGoogleと同様書籍の電
子化を行っている。Wayback Machineは1996年からの5,000万サイトに対応する1,500億ページのデータを保存・公開し
ている。書籍の電子化はS c r i b eと呼ばれる独自開発の撮影機を用い,ボストン公共図書館などと協力して1日1,000冊の
ペースで電子化している。電子化したデータを用いて子供たちに本を配るBookmobileという活動も行っている。Kahle氏
はGoogle Book Searchの和解に批判的な意見を述べているほか,孤児著作物の利用促進やOne Laptop Per Child(OLPC)運
動への協力も行っている。
キーワード
Webアーカイブ,Wayback Machine,書籍電子化,Google Book Search,新アレキサンドリア図書館,Open Content
Alliance,Open Book Alliance
1.
はじめに
Googleと同様書籍の電子化を行っている。インター
ネットが一般に使えるようになったのが1995年で
534
Internet Archive注1)はBrewster Kahle(ケールと発
あるから,Internet Archiveはインターネットとほぼ
音する)によって1996年に設立された非営利団体
同時に誕生したことになる。現在年間運営費は約
である。過去のインターネットW e bサイトを保存
1,000万ドルであり,政府や財団の補助や寄付で運
しているWayback Machine1)で知られているほか,
営している。この(2009年)5月にKahle氏(以下敬
世界の知識の図書館を目指すInternet Archive
称略)を訪ね,インタビューを行ったので報告する
(写真1)。
A O Lに売却した。その売却益によって翌年I n t e r n e t
Archiveを立ち上げたのである。
K a h l eは1982年 に マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 工 科 大 学
(Massachusetts Institute of Technology: MIT)のコン
2.
Internet Archiveの事業
ピュータ科学工学科を卒業した。
2000年前エジプトのアレキサンドリアには当時
2.1 Wayback Machine
世界最大の図書館があり,パピルスに書かれた書物
I n t e r n e t A r c h i v eのホームページのU R Lはw w w .
50万点を保有していたという。これは紀元前48年
archive.orgであるが,このURLはInternet Archiveがアー
にジュリアス・シーザーによって焼かれたとされて
カイブの先駆者であることを示している(図1)。
いる。アレキサンドリア図書館の目的は世界で書
その一番上の中央にあるのがInternet Archiveの最初
かれたすべての書物を集めることであった。K a h l e
のプロジェクトであり中核であるWayback Machine
はM I T在学中から,このアレキサンドリア図書館に
(①)である。①の検索窓にU R L(例ではw w w . j s t .
ならって,世界で発行されたすべての書物を集め
go.jp)を入れると過去のWebサイトの一覧が表示さ
たデジタル図書館,すなわち第二アレキサンドリ
れる(図2)。1998年1月27日のJ S Tのサイトを表示
ア図書館を建設する夢を持っていたと語っている
したのが図3である。
(現実の第二のアレキサンドリア図書館(Bibliotheca
注2)は2002年に開設されている)
Alexandrina)
。なお
彼と同じ夢をもっと以前(1964年)に語った人た
ちがおり,そのことを最近知って,非常に感銘を受
けたとのことである2)。
そのために彼はまず高速のコンピュータ・システ
ムが必要だと考え,Thinking Machine社の開発チーム
に入って検索エンジンWAIS(Wide Area Information
S e r v e r s)システムを開発した。後にスピンアウト
してW A I S I n c .を設立したが,この会社は1995年に
図1 Internet Archiveのホームページ
写真1 Internet ArchiveのBrewster Kahle氏と筆者
図2 Wayback MachineにおけるJSTの過去のサイト一覧
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W a y b a c k M a c h i n eは1996年から世界のすべての
Sun Modular Datacenterという3Petabyteの容量を持
Webページの収集を行っている。Netscapeなどによ
ち,3フィート×3フィート×20フィートのコンテ
り現在の形のインターネットの利用が立ち上がった
ナ型のサーバー・センターに収納されている(写真
とされる1995年の直後に,すでにその保存を手が
3)3)。部分的なコピーはアムステルダムとエジプト
けるという先見の明に驚かされる。当時はディスク
の新アレキサンドリア図書館にある。なおWayback
も高価であったので,最初は2か月ごとに収集し,
Machineという名前は米国のテレビアニメPeabody's
磁気テープに保存しただけであった。2001年になっ
Improbable History(日本でも「空飛ぶロッキー君」
て5年分たまったとき初めてネットで公開した。
の一部として放映された。P e a b o d yは博士犬の名
K a h l eの話では,2009年5月現在で約1,500億ペー
536
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前)にあるタイムマシーンWABACから取っており,
ジ(5,000万サイトに対応すると思われる)を収集
Internet Archiveのオフィスにもその写真が飾ってあ
しており,これは圧縮後でも1.9 Petabyte(Petaは
る(写真4)。
Gigaの100万倍)となる。このデータはRed Boxまた
これは過去のページが探せる世界唯一のサイトで
はPeta Boxと呼ばれる赤いサーバーに格納されてい
あり,多くの企業が自分の,あるいは他社の過去の
たが(写真2),2009年3月からSun Microsystemsの
サイトを調べるのに使ったり,また研究にも使われ
図3 Wayback MachineにおけるJST 1998年1月27日の
サイトの一部
写真3 現在Wayback Machineが収容されている
Sun Modular Datacenter3)
写真2 Wayback Machineが収容されていたRed Box
写真4 Internet ArchiveのオフィスにあるWABACの写真
世界の知識の図書館を目指すInternet Archive
たりしている。ただし現在のところ全文検索はでき
ア ー カ イ ブ で あ る( 図1, ⑤ )。 書 籍 の 電 子 化 は
ない。仮に全文検索を行うと,世代の違う同一サイ
5)とし
2002年にMillion Book Project(Universal Library)
トが多数ヒットすることになるので,どのような検
て開始した。今話題となっているGoogle Book Search
索方法が適切か研究しているところであるとの話で
より2年も早いことになる。これはカーネギーメロ
あった。
ン大学との共同プロジェクトで,インド,中国の政
Wayback Machineのためにクロールの作業を行っ
府の資金的協力で実施した。カンザス市公共図書館
ているのはW e bのアクセス・ランキングで有名な
の蔵書10万冊を購入してインドに送り,これをイン
Alexa Internet注3)(この名前もアレキサンドリア図書
ド政府がスキャン(ミノルタの撮影装置を使用)し
館から取っている)であるが,これもK a h l eがB r u c e
た。この作業はエジプトでも行われた(写真5)4)。
G i l l i a tとともに1996年に設立した会社で1999年に
後処理はInternet Archiveが行い約3万冊を電子化した
Amazonに売却している。
が,残念ながら品質はあまりよくなかった上,貴重
な図書館の蔵書を海外で電子化するのは実際的でな
2.2 動画,音楽,音声
ホームページの次の段の一番左にあるのが動画の
かったので中止された。
そののち2006年にはMicrosoft社の支援によりコー
アーカイブ(Moving Images)であるが(図1,②),
ネル大学の蔵書を電子化することになり6),Kirtas社
ここには著作権の切れた映画や,さまざまなビデオ
の撮影機を採用した(写真6)4),7)。一般にスキャン
が保存されている。またロシア,中国,日本,イ
のため本を180度開くと傷んだり壊れたりすること
ラクの各局,アルジャジーラ,B B C,C N N,A B C,
がある。この機械は本を120度程度しか開かないこ
C B S,N B Cなどのテレビ局の番組を24時間すべて保
とと,真空装置でページを吸って自動めくりするこ
存している。これらの中には著作権の関係で今は公
とに特徴があった。使われているデジタルカメラは
開できないものもあるが,将来公開できることを期
1台であるが,鏡を使って見開き2ページを順に撮影
待して保存しているものである。現在のところ米国
することができる。
で同時多発テロのあった2001年9月11日の週の分だ
Kirtasは一見便利であったが,高価であることと,
けは公開している。日本のテレビのデジタル放送が
実際にはそれほどうまく自動でページをめくれない
DRM(Digital Rights Management)によりコピー制限
ことから,Internet Archiveでは2005年にScribeという
がつくとアーカイブができなくなり問題であると
Kahleは語っている。動画の形式はMPEG2からDivX,
QuickTime,MPEG4,Flash,H.264などどんどん変わっ
ていくので,それにあわせて常に変換している4)。
その右が音楽のアーカイブ(Live Music Archive)
である(図1,③)。ここには著作権が切れたものの
ほか,公開を許されたアーチストなどの演奏を保存
している。またラジオなどの録音はその右のA u d i o
に保存されている(図1,④)。
2.3 書籍の電子化
ホームページの中段右が書籍を中心としたT e x t s
写真5 エジプトでの図書電子化作業風景4)
537
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機械を自ら設計・開発し8),これを現在も使ってい
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1日1,000冊のペースで電子化しているという。
る(写真7)。書籍電子化の責任者Robert Miller氏によ
場 所 と 図 書 の 手 配 は 図 書 館 が 行 い,I n t e r n e t
れば,この機械は手めくりであるが,操作が簡単で
Archiveは機器と人員を派遣する。標準的には機器は
作業スピードが速く,ガラス板で開いたページを押
10台単位で設置し,2交代でカラー撮影(300-500dpi)
さえて撮影するのできれいに撮影できる。しかも自
する。カメラはキヤノン製である。撮影した画像
動装置に比べて本の傷みが少ない。実際これまで50
はその場で隅の部分をトリミングし,傾きを直し,
万件撮影して,ページが破れたのは3ページだけだ
裏写りなどを補整し,撮影が失敗していたらやり
という。S c r i b eを使ってこれまでにすでに50万冊を
直す。完成したデータはI n t e r n e t A r c h i v eの本部に
電子化している。G o o g l eの700万冊に比べるとまだ
送ってO C Rにかけ,またさまざまな形式のファイル
少ないが,ボストン公共図書館などの参加により,
(RAW,JPEG2000,TIF,PDF,白黒PDF,DjVu,text
など)に変換する。合計のファイルサイズは1ペー
ジあたり1Megabyteである。米国議会図書館の所蔵
は2,600万冊であるが,これをすべて電子化しても
26Terabyteに過ぎない。わずか60,000ドル程度のコ
ンピュータに十分ダウンロードできるとKahleはいう。
このやり方で1ページ10セントの低コストが実現
している(G o o g l eはコストを公表していないが,1
ページ5セント程度ではないかとK a h l eは想像してい
る)。カナダでも10カナダセント,英国では0.1ポン
ド,欧州では0.1ユーロと,世界中どこでも同じよ
うな価格でできるという。本1冊300ページとする
と,1冊電子化するのに30ドル,1,000万冊でも3億
ドル(約300億円)程度でできることになる。
写真6 Kirtas社の撮影機4)
Internet Archiveの書籍電子化プロジェクトがGoogle
Book Searchと大きく異なるのは,図書館が費用を出
す代わりに,すべてのデータが図書館のものになる
ことである。これに反してGoogle Book Searchでは
データの権利はG o o g l eに属し,図書館にはP D Fしか
提供されない。なおInternet Archiveでもコピーを保
存して公開することになっている。
現在のパートナーは米国議会図書館,トロント
大学図書館,ボストン公共図書館など世界5か国の
18センターである。カリフォルニア大学図書館や
スタンフォード大学図書館はGoogle Book Searchに参
加していると同時にInternet Archiveによる電子化も
写真7 ボストン公共図書館で稼働しているScribe撮影機,
カメラ2台でページは手でめくる
(筆者が2008年に訪問した際撮影)
538
行っている。最近中国の浙江大学が中心となってい
る中国書籍の電子化(約200万冊)にも協力するこ
世界の知識の図書館を目指すInternet Archive
ととなった。またInternet Archiveは電子化書籍デー
タの交換も積極的に行っている。これにより,デー
タの分散保存が実現し,安全性が高まる。中国との
最近の合意でも中国で電子化したデータをI n t e r n e t
Archiveのデータと交換することになっている。なお
Internet ArchiveのサイトではGoogleが電子化した著作
権の切れた書籍データ69万件も収録し9),あわせて
140万件弱を公開している。これらはG o o g l eから提
供を受けたのではなく,ボランティアがGoogleから
写真8 Bookmobileで本を作成しているところ11)
ダウンロードしてInternet Archiveに載せたものであ
る。
書 籍 電 子 化 に 協 力 す る 団 体 が 集 ま っ てO p e n
にも意欲を見せている。これについては貸し出し
C o n t e n t A l l i a n c e注4)という団体を結成している。
(loan)方式を考えている。例えばPDFに制限をかけ
これは現在は図書館の緩い連合のようなもの
て一定期間後は読めなくなるようにする考えもあ
で,Internet Archiveが管理者となっている。Adobe
る。そうすれば著作権に触れないかもしれない。現
S y s t e m s I n c o r p o r a t e d,H P L a b s,M S N,O ' R e i l l y
在ボストン公共図書館と協力して方式を検討中との
Media,William and Flora Hewlett Foundation,Xerox
ことだった。
Corporation,Yahoo!なども協力者である。Yahoo!は
またInternet ArchiveではOpen Library注5)という書
30万ドルの寄付をした。Microsoftは1,000万ドルの
籍カタログを公開している。これはO C L CのW e b版
寄付により,図書館による33万冊の書籍の電子化を
のようなものである。現在2,300万冊の本が登録さ
支援したが,2008年5月に事業から撤退した10)。
れており,そのうち電子化されているものは約100
万冊である。これが電子版貸し出しのツールになる
2.4 Bookmobile
とInternet Archiveは考えている。
Internet Archiveでは前記のようにして電子化した
本を簡単に印刷し製本する機械も開発している。こ
3.
Google Book SearchとInternet Archive
の機械を載せたワゴン車Bookmobileを開発途上国や
貧困地区に派遣し,著作権の切れた本を1冊数ドル
Kahleは,2004年にGoogle Book Searchの計画を最
で作成して子供たちに配る運動を行っている(写
初に知ったときは,非常に興奮したと語っている。
真8)11)。最近(2009年10月),エジプトの新アレキ
Internet Archiveが先鞭をつけた書籍電子化にGoogleも
サンドリア図書館館長イスマイル・セラゲルディン
参加し,しかも著作権の生きている本も電子化して
氏の講演が国立国会図書館であった12) が,その講
しまう,という挑戦を高く評価したのである。しか
演の中では同図書館で活躍中のBookmobileが紹介さ
し次第にGoogleと図書館との契約が一方的で,公共
れていた。同図書館は前述のようにInternet Archive
財産である書籍コンテンツをGoogleが独占する内容
の電子化図書のコピーを持っている。
となっていることを批判するようになった。2008
Google Book Searchと異なり,Internet Archiveでは
これまで著作権が切れたものだけが書籍電子化対象
だったが,最近は著作権が生きている書籍の電子化
年10月にGoogleと米国作家協会などが和解に合意し
たが,これについても強く批判している13)。
彼によれば,Googleは当初Google Book Searchは本
539
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を見つける手助けをするのだ,これは検索エンジ
いるようである。また,Google Book Searchの和解に
ンGoogleがWebサイトを見つけるのを手助けするの
より孤児著作物の問題は解決した,との声があるこ
と同じだ,といってきた。それはこれまでのイン
とも障害となっている。
ターネットの世界での,検索エンジンとWebサイト
KahleはまたOne Laptop Per Child(OLPC)注8)運動
の分業関係と整合している。ところが今度の和解で
の協力者でもある。これはNicholas Negroponteが始
は「自分が」「電子書店」になるといいだした。も
めた,インターネット接続に特化したパソコンを開
しこれが認められると,これまで図書館が蓄積し
発途上国や貧困層の子供に配るというプロジェク
てきた知識をGoogleが独占することになる。すなわ
ト16)で,すでに最初のバージョンは60万台以上を
ち,Googleが図書館を私物化することになる。さら
配布している。100ドルを目指しているが,現在の
にこの和解を認めれば著作権は生きているが著作者
価格は188ドルである。Internet Archiveに登載されて
が確認できない書籍,つまり「孤児著作物」につい
いる電子書籍のデータはこのパソコンで読むことが
てGoogleが独占的に電子化して売ることを許すこと
できる。
になる。Internet Archiveなど他の電子化事業に対し
てはGoogleのような特典は与えられない。これまで
5.
おわりに
Googleに協力してきた図書館,例えばハーバード大
学図書館なども今後の協力を躊躇している14)。
サンフランシスコといえばゴールデンゲートブ
この(2009年)8月26日にG o o g l e B o o kに関する
リッジ(金門橋)である。そのすぐ手前にプレシディ
合意に反対するOpen Book Alliance注6)がAmazon,
オという地域がある。ここは元米国海軍の施設で,
Microsoft,Yahoo!,米国専門図書館協会(S pecial
今は開放され,古い建物には公共的な機関などがオ
L i b r a r y A s s o c i a t i o n)などにより結成されたが15),
フィスとして入居している。霧のないときには木々
Internet Archiveはその重要な一員となっている。
の合間から金門橋が見え隠れする公園のような静か
な場所である。その一角に2階立ての白い小さな建
4.
Kahleのその他の活動
物があるが,これがインターネット・アーカイブの
本部である(写真9)。ここには約20人のシステム・
Kahleはまた著作権問題についても積極的に発言し
エンジニアたちが働いている。
ている。彼が今力を入れているのは著作権が生きて
いるにもかかわらず著作者が見つからない,いわゆ
る「孤児著作物(Orphan Works)」注7)の利用のため
の法制化である。「孤児著作物」という言葉はK a h l e
が提唱したとのことである。この法制化は米国著作
権局が先導しているが,その案によれば,著作者の
生死や所在が不明な場合は自由に電子化することが
許され,著作者が名乗り出た場合も懲罰的賠償を免
れ,コンテンツを公開中止するか,あるいは適正な
料金を支払って公開を続けられるというものであ
る。これについては多くの権利者も賛同しているが,
米国写真家協会が強硬に反対して暗礁に乗り上げて
540
写真9 Internet Archiveの本部
世界の知識の図書館を目指すInternet Archive
Kahleは自分の名刺ではDigital Librarianと名乗ってい
である。そしてInternet Archiveのホームページにあ
る。米国では名刺にL i b r a r i a nとあれば図書館長のこ
る標語は「Universal Access to Human Knowledge」で
となので,直訳すると「デジタル図書館長」となる。
ある。サンフランシスコ,プレシディオのこの白い
現在Internet Archiveはカリフォルニア州から図書館
小さな建物は,アメリカの企業家精神,文化的理想,
としての認定を受けており,図書館対象の補助金な
自由と正義を体現しているように思われる。
ども受けることができる。
最後に快くインタビューに応じていただいた
Kahleがよく引用する言葉は,ボストン公共図書館
Brewster Kahle氏に心から感謝いたします。なおKahel
の入り口に掲げられた標語「Free to All」,およびカー
の講演17) がネットで見られるので,一度アクセス
ネギー図書館の入り口の標語「Free to the People」
されることをお勧めします。
本文の注
注1) Internet Archive. http://www.archive.org/, (accessed 2009-10-11).
注2) Bibliotheca Alexandrina. http://www.bibalex.org/English/, (accessed 2009-10-11).
注3) Alexa Internet. http://www.alexa.com/, (accessed 2009-10-11).
注4) Open Content Alliance. http://www.opencontentalliance.org/, (accessed 2009-10-11).
注5) Open Library. http://openlibrary.org/, (accessed 2009-10-11).
注6) Open Book Alliance. http://www.openbookalliance.org/, (accessed 2009-10-11).
注7) Orphan Works. http://www.copyright.gov/orphan/, (accessed 2009-10-11).
注8) One Laptop Per Child. http://www.laptop.org/, (accessed 2009-10-11).
参考文献
1) 長塚隆. インターネット上の情報資源の恒久的な保存と公開. 情報管理. 2002, vol. 45, no. 7, p. 466-476.
2) Licklider, J. C. R.; Council on Library Resources; Bolt, Beranek, and Newman, inc., Cambridge, Mass. Libraries of
the Future. M.I.T. Press. 1964, 219p. http://openlibrary.org/b/OL5942946M/Libraries_of_the_future, (accessed
2009-05-25).
3)“Wayback Machine comes to life in new home”.Internet Archive. http://www.archive.org/iathreads/post-view.
php?id=243665, (accessed 2009-10-11).
4)“Universal Access Talk Feb 2009 Taiwan”.Internet Archive. http://www.archive.org/details/UniversalAccessTal
kFeb2009Taiwan_678, (accessed 2009-05-25).
5)“Universal Library”.Internet Archive. http://www.archive.org/details/universallibrary, (accessed 2009-05-25).
6)“Cornell, Kirtas hooked on Windows Live Book Search”. Ars Technica. http://arstechnica.com/microsoft/
news/2006/10/5679.ars, (accessed 2009-10-11).
7)“Internet Archive's Book Scanning Robot (2004)”. Internet Archive. http://www.archive.org/details/scanning_
robot, (accessed 2009-05-25).
8)“robert miller's dlf nov 2007 powerpoint”
. Internet Archive. http://www.archive.org/details/RobertMillersDlfNov
541
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2007Powerpoint, (accessed 2009-05-25).
9)“Google books”.Internet Archive. http://www.archive.org/details/googlebooks, (accessed 2009-05-25).
10)
“Microsoft books”.Internet Archive. http://www.archive.org/details/msn_books, (accessed 2009-10-11).
11)
“Internet Archive Bookmobile”. Internet Archive. http://www.archive.org/texts/bookmobile.php, (accessed
2009-10-11).
12)
“パピルスからPDFへ:よみがえるアレクサンドリア図書館”. 国立国会図書館. http://www.ndl.go.jp/jp/
event/events/bibalex.html, (参照2009-10-10).
13)Kahle, Brewster.“A Book Grab by Google”. washingtonpost.com. http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/
content/article/2009/05/18/AR2009051802637.html, (accessed 2009-05-25).
14)Mirviss, Laura G.“Harvard-Google Online Book Deal at Risk”. The Harvard Crimson. http://www.thecrimson.
com/article.aspx?ref=524989, (accessed 2009-10-10).
15)
“Diverse Coalition Unites To Counter Google Book Settlement”. Open Book Alliance. http://www.
openbookalliance.org/news/diverse-coalition-unites-to-counter-google-book-settlement/, (accessed 2009-0902).
16)One Laptop Per Child Frames the Next Generation of Revolutionary XO Laptop. http://wiki.laptop.org/
images/7/76/XO-2-preview.doc, (accessed 2009-05-25).
17)Brewster Kahle builds a free digital library. TED. http://www.ted.com/index.php/talks/brewster_kahle_builds_a_
free_digital_library.html, (accessed 2009-05-25).
Author Abstract
Internet Archive was established in 1996 by Brewster Kahle. It is well known by its web archiving project,
Wayback Machine, as well as archiving moving images, music, audio and texts including books. Wayback
Machine archives more than 150 billion web pages from 50 million web sites since 1996. Books have been
digitized using its own Scribe machine under the cooperation with libraries such as Boston Public Library, and
now digitizing more that 1,000 books per day. Digitized books are distributed to children as on-demand books
using Bookmobile. Kahle has been critical to the Google Book Search settlement, active in Orphan Works
projects, and helping One Laptop Per Child (OLPC).
Key words
Web archiving, Wayback Machine, book digitization, Google Book Search, New Alexandria Library, Open
Content Alliance, Open Book Alliance
542
計量書誌学を用いた新たな評価の取り組み
計量書誌学を用いた新たな評価の取り
組み
JSTと海外研究資金配分機関の研究成果の比較
A new approach to evaluating research performance using bibliometrics
JST's research impact and influence as compared with an overseas funding agency's
正木 法雄1 近藤 績1 星 潤一1 島田 昌2 鴨野 則昭1
MASAKI Norio1; KONDO Isao1; HOSHI Jun-ichi1; SHIMADA Masashi2; KAMONO Noriaki1
1 独立行政法人科学技術振興機構 イノベーション推進本部イノベーション企画調整部
(〒102-0075 東京都千代田区三番町5番地三番町ビル)Tel : 03-3512-3520
2 独立行政法人科学技術振興機構 イノベーション推進本部知的財産戦略センター
(〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3)Tel : 03-5214-8477
1 Department of Planning and Coordination, Innovation Headquarters, Japan Science and Technology Agency
(Sanban-cho Bldg 5 Sanban-cho Chiyoda-ku, Tokyo 102-0075)
2 Center for Intellectual Property Strategies, Innovation Headquarters, Japan Science and Technology Agency
(5-3 Yonban-cho Chiyoda-ku, Tokyo 102-8666)
原稿受理(2009-10-20)
(情報管理 52(9), 543-549)
著者抄録
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業では,平成20年度自己評価にあたり,海外の研究資金配分機関の研究成
果との比較を行った。当事業の運営方法の特徴を考慮した条件設定のもと,比較対象となる研究課題の研究成果の一
つである論文を抽出し,課題あたりの被引用数,課題あたりの被引用数上位1%の論文数という2つの指標を用い,比
較を行った。本稿では,比較評価を行うにあたっての要点,手法・指標,その結果について紹介する。
キーワード
事業評価,自己評価,評価手法,評価指標,計量書誌学,被引用数,戦略的創造研究推進事業,ファンディング機関
1.
はじめに
中期計画の達成状況を明らかにし,運営上の改善事
項を抽出すること等によって,より効果的な事業運
科学技術振興機構(以下,J S Tと記す)は機関の
評価を,毎年度J S Tが主体となって実施する自己評
価により行っている1),2)。機関評価の目的は,J S T
が運営する事業およびJST全般にわたる評価を行い,
営を図ることである。評価結果は文部科学省独立行
政法人評価委員会の求めに応じて提出している。
J S Tの戦略的創造研究推進事業(以下,当事業と
記す)においては,自己評価を行うにあたり,業務
543
情報管理
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の新規取り組み,業務改善,研究成果等を定性的・
のマネジメントを行う研究総括を指定し,公募によ
定量的に示し,業務実績としてまとめている。平成
り研究課題を選定している。当事業ではCREST・さ
20年度自己評価の新たな取り組みとして,研究成果
きがけ・E R A T Oの3つのプログラムで研究提案の募
の一つである論文の被引用数等の指標を用い,当事
集を行っている。例えば,日本が世界を凌駕した極
業と海外の研究資金配分機関(以下,ファンディン
めて大きな影響を与えた成果である山中伸弥教授
グ機関と記す)の研究支援制度(以下,プログラム
(京都大学)のi P S細胞研究は,C R E S T研究領域「免
と記す)による研究レベルの比較を行った。
本稿では,従来困難だった,ファンディング機関
の類似プログラムの支援により生み出された研究成
疫難病・感染症等の先進医療技術」の研究課題「真
に臨床応用できる多能性幹細胞の樹立」にて生み出
されたものである。
果の比較という新たな取り組みについて,比較にあ
たっての要点,手法・指標,その結果を紹介する。
2.
戦略的創造研究推進事業とは
3.
従来の自己評価
従来は,当事業の中期計画に挙げた達成すべき成
果「機構は,本事業における研究が国際的に高い水
戦略的創造研究推進事業は,国の競争的資金制度
準にあることを目指す。その指標として,論文被引
として基礎研究をトップダウン型に推進する事業
用回数,国際的な科学賞の受賞数,招待講演数等の
で,国の政策目標実現に向けて,産業や社会に役立
定量的指標を活用する」1)を自己評価するにあたり,
つ技術シーズの創出を目的としている。国の政策目
標は,文部科学省が戦略目標として,第3期科学技
術基本計画にて定めた分野別推進戦略のうち,重点
推進4分野に対応する戦略重点科学技術を中心に立
案・検討・選定してJSTに提示する。JSTは,提示さ
れた戦略目標を実現するため,研究領域を設定,そ
図1 トップダウン型・ボトムアップ型研究事業の比較
544
図2 戦略的創造研究推進事業の主な3つのプログラム
計量書誌学を用いた新たな評価の取り組み
日本および各国とJSTとを比較し,
比較を行うことは,非常に困難である。なぜならば,
①被引用数上位5か国とJ S Tの1論文あたりの被引用
論文に記載されるファンディング機関の情報は,論
数(直近5年間の全論文における論文あたりの被
文の謝辞(acknowledgment)に記載される場合が多
引用数)の比較
く,謝辞の情報が十分蓄積されていない現状におい
②日本とJ S Tの研究費あたりの高被引用論文数(直
ては,研究成果論文を抽出することができないため
近1年間の研究費あたりの被引用数上位1%の論
である。一方,当事業による論文は,著者の連絡先・
文数)の比較
所属(address/affiliation)にJSTと記載するよう研究
等の指標により示していた。
平成20年度は,上記に加え,短期的・長期的な視
者へ依頼しているため,成果論文について,連絡先・
所属をもとに検索することで,データベースから容
点を取り入れ,
易に抽出することができる。そのため,比較対象ファ
③世界とJST,日本とJSTのHot Papers数(直近2か月
ンディング機関の研究成果論文をどのように抽出す
の被引用数上位0.1%の論文数)の比較
④世界とJST,日本とJSTのHighly Cited Papers数(直
近10年間の被引用数上位1%の論文数)の比較
るかが重要となる。
評価の要点をもとに,実際に評価を行うにあたっ
ての,評価手法・評価指標を以下の通り検討した。
の指標により示した1)。
5.1 研究レベルに関してより説得力の高い評価
4.
評価の要点
を行う
研究レベルと言ってもさまざまな切り口が考えら
平成20年度の文部科学省独立行政法人評価委員
れるが,本比較評価においては,研究レベルを研究
会にてJ S Tの評価が行われ,当事業の今後の課題,
の影響力と考えることとした。研究成果の一つであ
改善すべき事項として「戦略的創造研究推進事業の
る論文について,Web of Science,Scopusのような
研究レベルに関してより説得力の高い評価を行うた
市販の引用文献データベースの被引用数等を用いる
め,適切な評価手法や評価指標を検討し,それらを
ことで,研究の影響力について客観的に測ることが
活用して,欧米のファンディング機関の類似制度と
できる。
の比較を行うなどが求められる」3)が挙げられた。
これを受け,新たな自己評価に取り組んだ。
評価委員会の指摘の要点は,以下の2点にある。
①欧米のファンディング機関の類似プログラムとの
比較を行う
研究の影響力の評価指標として,今回は被引用数,
論文数を用いるが,比較の目的により,各指標の切
り口は異なる。下記にいくつかの種類を示す。
当事業は,研究領域を単位として研究を推進して
いることから,比較対象は,研究領域を構成する研
②研究レベルに関してより説得力の高い評価を行う
究課題群となる。研究レベルについては,全論文の
これに基づき,評価手法,評価指標について検討し
被引用数や被引用数上位1%の論文数の指標を用い
た。
表1 指標としての被引用数,論文数の種類
5.
評価手法・評価指標の検討
Web of Science,Scopus等の外部市販データベー
スを用いて欧米のファンディング機関の類似制度と
被引用数
・総被引用数
・最高被引用数
・課題あたりの被引用数
・論文あたりの被引用数
論文数
・総論文数
・被引用数上位1%の論文数
・課題あたりの論文数
・課題あたりの被引用数上位
1%の論文数
545
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ることで,プログラムの研究成果全体とインパクト
・研究費
の大きな成果の影響力を見ることができ,より客観
・研究成果論文
的で説得力の高い評価ができる。
等が整理され,容易に検索できることが必要であ
る。比較評価に値する研究課題が選定でき,その成
5.2 欧米のファンディング機関の類似プログラ
ムとの比較を行う
当事業と類似のプログラムと見なす条件を以下の
果の一つである論文の書誌情報を得られれば,論文
全体の被引用数や被引用数上位1%の論文数を評価
指標に用いて比較が可能となる。
通り定義した。
○国の政策目標がトップダウンで示され,その実現
に向けた研究を行うプログラムであること
以上より,評価手法・評価指標は,下記の通りと
した。
【評価手法】
○研究領域(分野)が同様のプログラムであること
・比較対象ファンディング機関の選定
○研究期間,研究費規模が同様のプログラムである
・比較対象プログラムの選定(採用せず)
こと
・比較対象研究課題の選定
○研究のフェーズが同様のプログラムであること
・研究成果論文の抽出
さらに,比較を行うにあたっては,上記プログラ
・指標の付与
ムの定義に加え,外的な条件を整えることが重要と
・研究課題,研究成果論文,指標の統合による比
考え,以下の条件を加えた。
○研究領域・研究課題の開始・終了時期が同様であ
較
【評価指標】
ること
・研究課題あたりの被引用数
上記5つの条件を満たす欧米のファンディング機
・研究課題あたりの被引用数上位1%の論文数
関の類似プログラムをWeb等にて調べたが,見つけ
ることができなかった。各ファンディング機関は,
6.
比較にあたってのデータ準備
独自の事業目的を持ち,その実現のための事業規模,
組織を成しており,国の政策目標がトップダウンで
評価手法に沿って比較するにあたり,各種データ
示されるという定義に該当するプログラムが多くな
の整理を行った。作業方針について,以下に示す。
いことが理由の一つと考えられる。しかしながら,
546
類似プログラムではないが,条件をできるだけ近づ
6.1 比較対象ファンディング機関の選択:
け比較する手法をさらに検討した。
National Science Foundation(米国)
そこで,プログラム同士での比較ではなく,プロ
当事業の対象とする研究分野(ライフサイエン
グラムの下に位置付けられる研究課題で,上記5つ
ス,情報通信,環境,ナノテクノロジー・材料)は
の条件をできる限り満たすものを選定することで,
多岐にわたる。従って,比較対象とするファンディ
比較が可能であると考えた。そのためには,研究課
ング機関もファンドの対象とする研究分野が自然科
題情報として
学分野全般の多岐にわたることが求められる。そこ
・研究課題名
で,研究領域や期間等,5.2に前述した類似プログ
・研究課題概要
ラムと見なす5つの条件に加え,比較に必要な研究
・研究期間
課題情報の詳細なデータがWeb上で入手可能である
・研究開始日,研究終了日
欧米のファンディング機関を検討しその結果,評価
計量書誌学を用いた新たな評価の取り組み
図3 NSF Award Search
手法の妥当性を検証するにあたり比較に最も適切
・当事業の
なファンディング機関として米国のNational Science
研究領域名
Foundation(以下,NSFと記す)を選択した。NSFに
研究領域概要
は,Award
Search4)(採択課題検索)というデータ
ベースがあり,N S Fが採択した研究課題の研究課題
研究課題名
研究課題概要
名,研究課題概要,研究期間,研究開始日・終了日,
から,当事業の研究課題を表す語を検索語として抽
研究費等の情報25項目を入手することができる。
出し,NSF Award Searchにて検索することで,比較
対象となるN S F研究課題リストを得た。さらに,比
6.2 比較対象研究課題・研究成果論文の抽出:
較の精度を上げるべく,研究期間,研究開始日・終
プログラムに依らず,類似分野の研究課題
了日,研究費,N S F分野別プログラム担当事務局の
を選定し,成果論文を抽出
条件を当事業の各研究領域の課題と同条件に設定
当事業は研究領域を単位として研究を推進してい
し,重複課題を除き比較対象研究課題とした。
るが,N S Fでは研究領域に対応するものがない。そ
各研究課題の研究成果論文は,研究課題概要ペー
のため,比較にあたっては,研究領域の下の研究課
ジに研究課題情報,研究課題概要とともに書誌情
題と同様の研究内容であるN S Fの研究課題を,N S F
報が記載されている。研究課題概要は,NSF Award
Award Searchの研究課題名,研究課題概要を検索す
S e a r c hの検索結果である研究課題リストのA w a r d
ることで抽出し,得られたN S Fの研究課題群を一つ
Number,Titleからリンクされている。
のまとまりとして当事業における研究領域に相当す
るものと見なして取り扱うこととした。
比較対象研究課題を選定するためには,当事業の
例えば,CREST研究領域「たんぱく質の構造・機
能と発現メカニズム」は,研究課題が17課題であり,
検索語から検索された3,840課題(重複含む)のうち,
研究課題を表す検索語をどのように選ぶかが重要と
研究開始日・終了日,研究期間等の条件で絞り込んだ
なる。そこで,
結果,NSFの比較対象研究課題は10課題が得られた。
・CSTP「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」
のキーワード表
547
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成果論文の
抽出
研究課題の
選定
6.3 比較対象指標の選択:研究課題あたりの被
引用数・研究課題あたりの被引用数上位
研究開始・終了時期
研究期間
研究費規模等
で絞り込み
1%の論文数
引用データ等の
解析
成果比較データの
分析
5.2で検討した通り,研究レベルの比較にあたっ
ては,指標として,研究領域ごとの研究課題あたり
図4 比較データ準備作業
の被引用数,研究領域ごとの研究課題あたりの被引
7.
用数上位1%の論文数を用いた。
研究レベルの比較
研究成果論文の書誌情報リストをもとに,引用
当事業とNSFの研究課題,研究成果論文,引用デー
データについては,トムソン・ロイターの以下のデー
タを使用した。
タを関連づけ整理することで,比較が可能となっ
Web of Science Essential Science Indicators
た。本比較評価の規模は,C R E S Tの9研究領域で研
究課題約350課題,論文数約6,500報をもとに行っ
J S Tの デ ー タ( 書 誌 情 報 + 引 用 デ ー タ ):I C R
た。図5に,例として当事業の一つのプログラムで
(Institutional Citation Report 1981-2008 for JST)
ある「CREST」の3研究領域について,2つの指標の
N S Fの デ ー タ( 書 誌 情 報 + 引 用 デ ー タ ):P C R
比較結果を示す。
(Personal Citation Report of NSF grant papers for JST)
研究領域における課題あたりの被引用数
800
693.1
700
615.2
555.4
600
500
400
257.0
300
200
100
学
習(
8)
N
SF
(
15
)
6)
ES
T
ES
T
R
た
C
R
C
C
R
ES
T
16.8
脳
免
N
SF
(
疫(
10
)
17
)
ん
ぱ
N
SF
(
く(
14
)
46.7
0
※( )は,比較対象研究課題数
研究領域における課題あたりの被引用数上位 1%の論文数
1.8
1.57
1.6
1.4
1.30
1.2
1.0
1.00
0.94
0.8
0.6
0.4
0.2
8)
SF
(
習(
学
C
R
ES
T
脳
N
15
)
6)
N
SF
(
14
)
疫(
免
C
R
ES
T
N
SF
(
10
)
く(
17
0.00
C
R
ES
T
た
ん
ぱ
)
0.00
0.0
※( )は,比較対象研究課題数
図5 戦略的創造研究推進事業 CREST3研究領域とNSF比較対象課題群との比較データ
548
計量書誌学を用いた新たな評価の取り組み
8.
まとめ
似規模の研究課題の成果を2つの指標により比較す
る手法を提示した。当然のことながら,本データに
当事業の自己評価において,①欧米のファンディ
より,J S T - N S Fの機関同士の優劣等を単純に判断す
ング機関の類似プログラムとの比較を行う,②研究
ることはできない。ファンディング機関同士の研究
レベルに関してより説得力の高い評価を行う,こと
レベルの比較は,各機関の事業目的・事業規模・組
を目的に,被引用数等を用いたJSTと欧米ファンディ
織が異なるため,諸条件をそろえることが非常に難
ング機関の類似プログラムの比較評価の取り組みを
しい。
試みた。単純に抽出,比較できる類似制度は存在し
今後の課題として,比較対象の選定・抽出におけ
ないものの,本件の目的にできる限り沿うように条
る諸条件設定,新たな指標の考案・選定等の検討を
件を設定した結果,当事業とN S Fについて,プログ
行い,各プログラムの特徴の一端を見ることができ
ラムに依らず,研究領域を単位とした類似分野,類
ればと考えている。
参考文献
1) 科学技術振興機構.“平成20年度業務実績報告書”.科学技術振興機構. http://www.jst.go.jp/announce/
hyouka/h20institute/h20gyoumuhoukoku.pdf, (参照2009-11-04).
2) 科学技術振興機構.“平成20年度自己評価報告書”.科学技術振興機構. http://www.jst.go.jp/announce/
hyouka/h20institute/h20jikohyoukahoukoku.pdf, (参照2009-11-04).
3)“独立行政法人科学技術振興機構の平成19年度に係る業務の実績に関する評価”.科学技術振興機構.
http://www.jst.go.jp/announce/hyouka/h19institute/h19dokuhouhyouka1.pdf, (参照2009-11-04).
4) National Science Foundation.“Award Search”. National Science Foundation. http://www.nsf.gov/awardsearch/,
(accessed 2009-11-04).
Author Abstract
This paper examines the research impact and influence of Japan Science Technology Agency (JST) as
compared with that an overseas funding agency. Discussions include special considerations, methodology,
indicators, and findings of the comparative analysis. In self-evaluating the FY2008 research impact and
influence, the citation data of articles from JST Targeted Basic Research Program were compared to that
of articles from an overseas funding agency: conditions representing the features or nature of the Program
implementation were first established, and articles meeting the requirements were extracted, followed by
comparison using two indicators, viz (1) the total number of citations received by articles within the category
of certain research topic and (2) the total number of articles cited amongst the world's top 1% per research
topic.
Key words
program evaluation, self-evaluation, evaluation methods, research indices, bibliometrics, times cited, Targeted
Basic Research Program, funding agency
549
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2009
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December
What I do, study, and think as an information professional
インフォプロってなんだ?
私の仕事, 学び, そして考え
中村 規子
第 9 回
大日本住友製薬株式会社
はじめに
今回,情報担当者として配属されて間もない新人
の方を元気づけられるエッセーをということで執筆
依頼を頂きました。私の経験は既に執筆されている
るということになります。講師はデータベース作成
元の方ですので,一方的に教えてもらうだけでなく,
種々の意見も言うことができました。
【MEDLINE・EMBASE・BIOSIS説明会】
方々の足元にも及ばないものです。ですから,違っ
DIALOG,BRS(OVID)の講習会で微に入り細を穿
た観点からということで,これは良かった・役立っ
ち学びました。MEDLINEの索引方法を細かく学んだ
たというセミナー・学会等を挙げて,簡単に説明し
ことが,他の文献データベースを習得していく基礎
ていきます。資料もなく記憶だけが頼りですので,
になったと思います。
名称を含め誤りがあるかもしれません。また製薬企
業に偏った部分が多々あります。どうぞご容赦くだ
さい。
【CAS ONLINE説明会・ユーザー会】
化学情報協会と入社した会社とが協力関係にあっ
たためか,普及前に,化学情報協会の方が来社され,
熱心に指導してくださいました。C A Sの種々のデー
【医薬情報担当者社内研修】
大学を卒業し化学会社の「医薬調査研究室」に配
レベルだと思うのですが,C A Sの日本でのスタート
属され,まず掲題の営業本部新入社員向け社内研修
と入社時期にそれほど大差がなかったため,順番に
に研究所から参加しました。当時のプロパー(現在
学んでいくことができ幸運でした。毎年行われてい
のM R)を対象にした研修で1か月位かけて,自社製
るユーザー会ですが,実践主義の練られた内容で非
品を中心に疾病,治療,薬理学,薬剤学等について
常に有用です。検索を以前のように頻繁に行うこと
基礎から学びました。薬学部卒業でしたが,大学の
がなくなった現在もリフレッシュの意味で参加して
勉強の総復習・違った観点からの新たな勉強ができ,
います。
その後の業務に非常に役立ちました。勤務先が製薬
企業であれば,こういった研修の一部にだけでも参
加させてもらってはいかがでしょうか。
【JOIS(JDream)・JAPICDOC説明会】
550
タベースを使いこなすのは検索担当者としては上級
【RINGDOC(Derwent Drug File)説明会】
R I N G D O Cは高額な会費制データベースで,国内
会員企業の集まりがR I N G D O C日本部会でした。
RINGDOCは当初は,自社の大型コンピュータでテー
データベースの基本は文献,まずは国内のものと
プを回して検索していました。構造式からコードを
いう考えから,JICST(JMEDICINE),JAPICDOCを学
作成して構造検索ができるもので,入社してすぐ
びました。現在であれば,これに医中誌Webを加え
に先輩からコードの付与について教えてもらいまし
リレーエッセー ●インフォプロってなんだ?
た。きめ細かい索引・第三者抄録・構造式を持つ製
【データベース検索技術者認定試験】
薬企業向けに特化したデータベースで,会員の意見
会社から援助をもらい受験しました。“合格”と
も取り入れてもらえるので,非常に身近に感じてい
いう目標を持つと,自然と日頃の学習にも力が入り
たデータベースです。提供していたDerwent社はト
ます。モチベーションアップにもつながります。受
ムソン・ロイター社に買収され,名称も変わりまし
験をお勧めします。
た。他の製品が台頭してきたこともあり,弊社で
【日本薬学図書館協議会研究集会】
はこのデータベースの位置づけは以前のように高い
私が図書の仕事を始めたのは10年ほど前です。
ものではありません。RINGDOC日本部会も現在では
始めてすぐに掲題の研究集会に参加しました。それ
RINGDOC購読の有無にかかわらず参加できる日本製
までは大学のインフォプロの方々と接する機会がな
薬情報協議会(http://piaj.sub.jp/ring/)と名前を変え
かったのですが,非常に熱心で高度なお仕事をされ
ています。余談ですが,価格交渉の極意(?)も,
ているのに驚きました。図書の世界も電子化され,
Derwent社とRINGDOC日本部会との白熱したやり取
データベースと境目がなくなっており,参考になる
りで学びました。
情報が多く得られます。情報検索費・図書費をひと
【情報処理技術検討交換会】
つとして運用した方が費用対効果も上がります。製
日本製薬情報協議会の学会といった位置づけのも
薬企業の方なら,ぜひ先にあげた「情報処理技術検
ので,毎年,幹事持ち回りで行われています。クロー
討交換会」と合わせて参加を検討されてはいかがで
ズドな会ですので,発表の敷居は他の学会のように
しょうか。
高くなく,他社のインフォプロに教えてもらう目的
の発表でもO Kです。私は入社数年後に,「M E D L I N E
最後に
とE M B A S Eの比較」という発表をしたと記憶してい
私は,データベース検索の創成期に入社したこと
ます。とてもよい経験になりました。また,私の発
により,システム・データベースを順番に習得して
表とは比較にならないほどレベルの高いものが多
いくことができました。その後,会社名は2度,部
く,たくさんの刺激をもらいました。現在でも交換
署名は幾度となく変わりましたが,幸い上司・同僚
会は続いています。
に恵まれ,大きな異動もなく今に至っています。こ
【情報科学技術研究集会(情報プロフェッショナル
シンポジウム)】
の仕事のおかげで社外の友人も多くできました。
インターネットの普及により情報があふれた中,
製薬企業は「人々の健康に貢献する」という使命
インフォプロの仕事に新しく携わることになった方
の重要性から,扱うデータベースの種類も多く,情
は,戸惑いがあるかもしれません。また,すべての
報担当者の平均レベルも高いと感じています。です
人が情報に簡単にアクセスできるようになった現
が,特許をはじめ,人材活用,データベース作成と
在,インフォプロの存在意義が表面上は薄れつつあ
いった分野で尊敬できる他業界の方はたくさんい
ります。ひとつひとつ落ち着いて確実に自分のもの
らっしゃいます。そういった方々の発表をまとめて
とし,専門性を高めていくことが,所属機関内で存
直に聞ける貴重なシンポジウムと位置づけ,参加し
在を認めてもらう近道でしょう。華やかな仕事では
てきました。
ありませんが,新製品開発や収益向上の一翼を担っ
ている仕事だと思います。
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第
21
回
日本の出版社の電子ジャーナル化対応が進まないのは何故か
図書館でのニーズ把握がビジネスモデルの出現を呼ぶ?
日本出版学会理事 ㈱文化通信社 取締役編集長星野渉氏に伺う
本誌編集アドバイザー 森田歌子
最近,各地の公共図書館でビジネス支援や市民への医療情報提供が行われるよ
うになり,大学や企業等の研究情報が認識され始めている。特に国内で発行さ
れている書籍や専門雑誌等の文献の要望が多い。様々な所でデジタル情報の
探し方や適切な取得方法等についてご紹介する機会があるがJ - S T A G EやN D Lの
PORTA,NIIのCiNii,大学等の機関リポジトリ等を紹介すると,商業出版社が発行
している専門誌にはどう対応したらいいのかと質問され,回答に窮してしまう。
また様々な場で海外の雑誌は電子ジャーナル化が進んでいるのに,日本は遅れ
ていると言われている。では何故,国内で電子ジャーナル化が進まないのであ
ろうか。どうすれば解決の方法が見つかるのであろうか。出版産業界でこういっ
た問題の解決に活動しておられる,日本出版学会の理事で,㈱文化通信社取締
星野 渉氏
役編集長の星野渉氏にお話を伺った。
欧米と日本の出版産業の構造に違いがあるか
購読者との直接取引はなく取次経由で,その方式は
――電子ジャーナル化が進んでいる欧米と日本で
委託方式である。委託方式とは,一定部数を取次を
は,出版産業の成り立ち,構造に大きな違いがある
通して書店に配本し,一定期間後に残部が返本され,
のであろうか?
出版社へと戻ってくる。出版社は返本を見越した発
星野氏:まず,出版産業の構造については流通形態
行部数が必要で,価格設定も抑えざるを得ないため,
が大きく違い,欧米を主に海外では出版社と書店の
コストバランスが測り難い。いきおい結果的に無駄
直接取引が約8割で,取次を通しての取引は約2割で
な経費も多くなる。
ある。取次は買い取り方式が主で,返品は各社が条
編集〜印刷〜出版工程で電子データはどこに
件を設定している。出版社は直接営業することで,
――では,出版技術的な問題で大きな差はあるので
ニーズを把握することができ,出版部数や価格など
あろうか? 欧文と和文の差なのであろうか? あ
を決めるので,余分な出費を避けることができる。
るいは欧米と日本では出版社と印刷所という構造に
販売方法,営業については,出版社は書店や取
次,あるいは図書館などの購読者へ直接,営業活動
星野氏:印刷技術の大きな違いは,日本語の組版が
を行っている。また専門書籍を例に取れば,殆どが
非常に難しいということ,特に活版時代からの全角
ハードカヴァーで発行され,普及が進んだ段階で
文字をデジタル的に扱うのは非常に難しい。日本
ペーパーバックが発行され,場合によってはその後,
での出版産業へのD T Pの導入は欧米よりもかなり遅
文庫等の普及版が発行される。
く,コンピューターで日本語を扱えるようになった
日本では,ごく稀な場合以外は,出版社と書店や
552
差があるのであろうか?
のは,さらに欧米より遅い。今でも,パソコンでの
情報交差点 ●日本の出版社の電子ジャーナル化対応が進まないのは何故か
和文原稿作成は行われているが,編集現場でのD T P
は欧米ほど進んでいない。
ニーズを把握できればビジネスモデルが見える
――出版産業の様々な状況は分かったが,では遅れ
出版印刷の流れの中での出版社と印刷所の関係に
ていると言われている日本の商業出版社の,特に専
ついては,欧米では殆どの出版社が印刷を内製で
門書や学術出版物の電子ジャーナル化を進めるに
行っている。したがって編集現場で作成して印刷現
は,どういう方策で進めていけばいいのであろうか?
場へと回された,最終的な出版物の電子データは,
星野氏:米国のように大学や公共図書館での購入が
出版社が保有している。
多くを占め,利用者のニーズと出版社の利益が合致
日本では,編集は出版社が行うが,その後原稿は
印刷所へ回され,殆どが印刷所でDTP作業が行われ,
するという状況を日本で作りだすには,まず購読者,
利用者のニーズが見えるような状況が必要である。
著者校正のデータ反映は印刷所で行われる。最終的
電子ジャーナル化することが,現在の出版産業の
な印刷のための電子データは印刷所が保有してい
市場規模を落とすことなく,出版社にとって少しで
る。ごく一部では出版社で保有しているが,お金に
も売上を拡大できるような市場形成,ビジネスモデ
ならないので,殆どの出版社では保有していない。
ルが必要である。購読する人がいれば出版社は電子
日本の電子ジャーナル化が進まないのは何故か
ジャーナルを作る。購読者のニーズが出版社に見え
――ここまでお聞きして,欧米と日本の出版産業,
ることが重要である。現状では出版社で必要性が見
流通形態の違いは分かったが,では日本の出版物の
えていない。
電子ジャーナル化が進まないのは何故なのか? 出
欧米のように大学図書館や公共図書館がニーズの
版物の利用市場に違いがあるのであろうか?
受け皿になることが一つの方策である。図書館のレ
星野氏:欧米,特に米国では,学術出版物販売全体
ファレンスで電子ジャーナルが必要であるという
の中で,大学図書館,公共図書館等の図書館の購入
ニーズ,公共図書館がレファレンス力を上げ,また
比率が圧倒的に多い。先に触れたが,欧米では大き
レファレンス力を問われるようなサービスを考える
な市場である図書館へ直接,営業を行っているので,
ことが進展への大きなステップとなるのではないか。
C D - R O Mなどのデジタル技術が出てくると,出版物
今や技術的な問題はない。膨大な設備投資や開発
の内容をデジタル化して印刷体と一緒に提供しない
経費は必要ではない。例えば図書館関連の団体や企
と購入してもらえなくなってきた。特にインター
業,あるいは出版社が集まってハブとなるような場
ネットが普及してくると,電子ジャーナルを印刷体
を作ることも考えられる。印刷体の付属物として電
と一緒に提供する必要性が大きくなった。
子ジャーナルを発行すれば,これまで論議されてき
出版社は,電子ジャーナルを追加してもそれまで
の印刷体での収入はそのまま確保できるので,購読
者のニーズを知り,それに答えることができた。
一方,日本国内では,図書館等での購入比率は非
常に低い。直接的な営業を行っていないので,なか
た取次制度の問題にも大きな影響は与えない。
日本の文化・学術を支える施策として,まず,図
書館が電子本を購入するというルールが必要で,図
書館の購入予算を増やすことが,日本の出版産業の
振興につながる。
なかニーズを把握することが難しい。また委託販売
という流通形態があるために,デジタル化しないと
お話を伺って,図書館の予算増を図るには,まず,
購入してもらえないという緊迫感はない。また,日
ニーズの顕在化が重要で,その第一歩として図書館
本語であるために,その市場は国内で完結してい
にニーズができれば,そこに何らかのビジネスモデ
る。根本的に,デジタル化の必要性を感じていない。
ルが見いだせるのではないかと思った。
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第7回デジタルライブラリー国際セミナー
「シンガポールにおける図書館の動向と図書館員の教育」
日 程
20 0 9 年 9月5日( 土 )
場 所
鶴 見 大 学 会 館メインホール
主 催
鶴 見 大 学ドキュメンテーション学 会 ,司書/司書 補 講習
講 師
Schubert Foo教授
( 南 洋 理 工 大 学ヒューマニティ・アーツ社 会 科 学 部 副 学 部 長 )
1. はじめに
共図書館は3つの地域図書館(Woodlands(North),
鶴見大学ドキュメンテーション学会と司書/司書
Tampines(East),Jurong(West))とショッピングモー
補講習とが共催する「デジタルライブラリー国際セ
ル内図書館も含む22の地区図書館で構成されてい
ミナー」は,2004年12月に第1回が開催されて以降,
る。また,学術図書館は私立であるが国からの財政
今回で第7回になる。毎年,海外からの講師を招聘
支援があり,3つの大学図書館(N U S,N T U,S M U)
して開催されている。
と5つの高等技術専門学校図書館(S P,N A P,T P,
今回のセミナーは,シンガポールにある南洋理工
大学ヒューマニティ・アーツ社会科学部副学部長で
あるSchubert Foo教授による「シンガポールにおけ
RP,NP)がある。
わが国でも,シンガポールの図書館政策について
最近紹介されている1)。
る図書館の動向と図書館員の教育」の演題で開催さ
れた。当日は,他大学の図書館員や教員,鶴見大学
の図書館員や教員,司書/司書補講習受講生,ドキュ
メンテーション学科の学生等200余名が参加した。
Schubert Foo教授はシンガポールで生まれ,英国
のストラスクライド大学大学院で材料力学を専攻し
た後,スコットランドの企業研究センターに勤務し,
1990年にシンガポールの南洋理工大学に戻られ,
情報学の分野で研究と教育に携わってこられた。
今回は,国家図書館庁(N a t i o n a l L i b r a r y B o a r d
写真1 講演会でのSchubert Foo教授(左)
Singapore)の委員でもあるSchubert Foo教授よりシ
ンガポール社会の変化に公共図書館がどのように対
554
2. 図書館の役割
応しているのか,さらに,大学院での新しい時代に
シンガポールにある国立,公共,学術,専門図書
対応できる図書館員の養成がどのように行われてい
館など各種図書館の役割は,基本的には世界の他の
るのかについて,その実情が紹介された。
地域とも共通な点が多い。公共図書館は,多くの点
最初に,シンガポールの図書館の概要が紹介され
でI F L AとU N E S C Oによる公共図書館マニフェストに
た。国立図書館と公共図書館はともに,政府により
対応しており情報,リテラシー,教育と文化が公共
設立された国家図書館庁により運営されており,公
図書館サービスの核心となっている。
集会報告 ●Meeting
シンガポールの公共図書館では,異なる年齢層へ
得し,利用し,学ぶ方法は異なってきており,従来,
のさまざまな種類の資料貸出,情報提供や助言など
信頼される情報源であった印刷物は必ずしも優先的
の参考サービス,読書環境や生涯学習を育んだり支
な情報源ではなくなっている。代わりに,友人,イ
援するためのプログラム・行事・活動の3領域を中
ンターネット,オンライン上の不特定の人との交流
心サービスとして発展させることを目指している。
などを好むようになっている。
このような時代に,W e b2.0の技術は,図書館が
3. 最近の動向と挑戦
公共図書館では次の課題を掲げているが,学術図
瞬時に利用者に到達するための大きな機会を提供
していると言える。図書館の利用拡大にブログ,
書館に共通する点もある。
YouTube,FacebookあるいはSecond Lifeは有効な手段
1. 図書館の普遍性と重要性を実現するための図書館
であり,実際に,世界の多くの図書館がこれらのツー
計画と戦略的な政府(教育組織)方針との連携
ルを利用して,その成功事例を報告している。
2. 図書館への資金投入のために,中心的な利害関係
シンガポールの公共図書館でも,図書館のWebサ
者に図書館とサービスの経済的な価値を理解して
イトは,オンライン参考質問サービス,社会的発言
もらう
のための場,利用者の提案の場,図書館関連ブログ,
3. 公式および非公式の学習センターとしての図書
館,そして図書館スペースの新しい利用法
4. Web2.0の社会ネットワークや学習への影響
5. サービスを支援し,意識を形成するためのプログ
オンラインブッククラブ,研究グループ,ダウンロー
ド可能な書籍など利用者との交流を拡大するために
利用されている。
利用者の要望の変化を反映し,公共図書館に喫茶
ラムの企画
店を併設するなどして,図書館が新しい第三の場と
6. 社会的な契約
して,会合場所,トレーニングルーム,展示ギャラ
しばしば,図書館は予算カットの最初の対象とな
リーなど複数の目的を充足できる場へと変わること
りやすいので,図書館が生き残っていくためのカギ
で,利用者にとってより魅力的な場へと変貌しつつ
は,政府と利害関係者に,図書館の価値と重要性を
ある。
常に提示し続けることである。一度,予算が削減さ
社会の平等性の維持・推進者としての公共図書館
れると,必然的に運営費の削減や停止をまねくこと
の役割も増大している。本来,公共図書館は誰もが
になる。そのために,図書館は児童への早期リテラ
来館でき,平等に扱われる安全な場所と考えられて
シー教育の提供,生涯学習,求職情報の提供などに
きた。今後とも,利用者が,差別される恐れなしに,
よる小規模ビジネスへの支援,学習支援など,図書
情報要求を解決するための場としなければならな
館の新しい能力指標(KPIs)を示すことが必要になっ
い。また,最近では,移動図書館を通じての公共図
ている。
書館の利用も増大している。
4. 利用者層と必要性の変化への理解
シンガポールでは,図書館の潜在的な利用者とし
ての若者は情報技術への理解が進み,自分の情報要
求への回答は技術的手段により得られると考え,要
求を瞬時に満たそうとするので,物理的な図書館の
必要性を感じていないことが多い。若者が情報を獲
写真2 講演会場
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5. 地域情報のチャンネルとしての公共図書館
ボランティアに依拠するように変化しつつある。多
公共図書館は地域の重要な問題の多くを解決でき
くの地域で,読み聞かせなど子供へのリテラシー
る可能性を有しており,十代の若者に対して,安全
サービス,成人向けの読書,文化遺産の保存などの
にかつ健全にコンピュータへの普遍的なアクセスの
ボランティアプログラムが検討されている。さらに,
提供が可能な場でもあり続けなければならない。ま
図書館サービスを促進するための活動として,若者
た,就職情報,訓練あるいは教育情報など地域社会
による若者への普及活動,棚への配置と整理などコ
にとっての情報とサービスへのアクセスポイントを
レクションの維持,図書館園庭の美観を保つ環境保
提供することが大切である。
持活動などのボランティアプログラムも検討されて
いる。
6. 街角の大学としての公共図書館
さらに,公共図書館は地域の経済発展を支える地
8. シンガポール公共図書館機構でのWeb2.0へ
域学習インフラの一部であり,成人のためのリテラ
の取り組み事例
シー教育や地域の住民への情報技術リテラシー教育
2007年には,利用者は質問のやり取りができる
の場でもあり続ける必要がある。
ショートメッセージサービス(S M S)と,利用者が
そのために,無料の学習教材,マルチメディア
返却期日・紛失や損傷物費用・取り置き資料・会
でのリテラシー学習教材,自習用のソフトとコン
員資格の喪失・返却確認などの通知をS M Sや電子
ピュータ機材の用意,あるいは電子図書館やオンラ
メールで受け取ることができる電子通知サービス
インデータベースを通じて図書館資源への無料での
アクセスを発展させる必要がある。
(eNotification services)とが導入された。
2009年には,携帯電話で利用できる「図書館を
また,公共図書館は新住民や移住者のための地域
ポケットに:携帯電話サービス」を開始した。本サー
支援センターとして機能できるようにする必要があ
ビスでは,図書館O P A Cへのアクセス,書籍の取り
る。新住民や移住者のための地域支援サービスを目
置き,貸出記録チェック,貸出期限の延長,図書館
指すことで,非公式な委託センターとしてのサービ
行事の予定確認,新刊図書の到着,図書館員への質
スも可能である。そのために,外国人労働者,新た
問,図書館ブログの閲覧,国家図書館庁の無料通知
な移住者,外国人新婦などのために複数の言語での
/督促サービスへの登録,短編小説のダウンロード,
新規コレクションの充実に努める必要がある。
連絡先,図書館の開館時間,利用者へのフィードバッ
クなど,さまざまな図書館サービスが携帯電話から
7. 図書館建築とボランティア:情報時代の公
共スペースの再定義
公共図書館建築は,地域が発展するためにも重要
であり,地域発展の触媒としての役割も果たしてい
また,公共図書館機構では中国語/英語/マレー
語で,すべての年齢層を対象に,電子ブックを購入
し,利用促進に意欲的に取り組んでいる。
る。例えば,商店街のモール図書館,1,942席を持
図書館ブログには,若者にとって有用で広範な情
つEsplanade劇場にある芸術図書館などは地域社会で
報源や,十代の若者向けのオンラインチャンネルを
公共サービスと情報を提供することで,町の魅力的
提供するブログ,あるいは書評や推薦文を掲載した
な中心的な存在であり,大きな価値を持っている。
ブログ,図書館員が編集したシンガポールについて
一方で,地域の利害関係者を図書館につなぎ止め
の文献に誰でもコメントや訂正を付加できるブログ
るためにも,多くの図書館がスタッフを補うために
556
利用可能となった。
などがある。
集会報告 ●Meeting
国家図書館庁のFacebookのページでは,利用者の
ンタ,個人やグループ用の学習テーブル,個人やグ
ために,図書館利用法やその他の機能を紹介してい
ループで予約できる学習室,協調学習やグループ討
る。また,flickrサービスに,文化資産を保存する取
議用のスクリーンや移動机などの設備,静かな学習
り組みの一部として,シンガポールのデジタル画像
スペース,インターネットキオスクと喫茶スペース,
を集めているサイトSNAPを運営している。
自動販売機とシャワーなどである。Schubert Foo教
新世代のオンライン目録(O P A C)サービスの構
授は,以上のようにシンガポールでの公共図書館の
築を目指しており,この新サービスでは,利用者
状況を紹介されたのちに,図書館が外部環境や利用
が書籍の書誌情報にタグの付与やブックマークの
者要求の変化に対応できるように再編成されるため
付与などができるW e b2.0に対応する機能,および
には,基本形態の変更と移行が必要であることを指
Amazon.comで利用できる議論,レビュー,評価,希
摘された。そのうえで,現在も将来も革新的な考え
望推薦文などを利用者が追加できる機能などが利用
や技術を利用者のために適用し続ける場である図書
可能となる予定である。
館で仕事をすることは,大変面白い時代であること
今日の社会において児童教育の重要性が叫ばれて
を強調された。
いる中で,子供向け読書プログラムは,現在の重要
また,将来の図書館の革新のためには,図書館学
な活動の一つであり,2004年以来,国レベルでの
と情報科学で達成された成果を,図書館員の教育や
読書プログラムであるKidsREADを展開している。現
図書館に,より密接なものにすることが大切である
在,85の読書クラブに1,800人のボランティアが助
と指摘された。
力することで,5,000人の児童が参加している。ま
た,父親が自分の子供に読書を薦めることを支援す
るプログラム「10,000 Fathers Reading」も展開され
ている。
10. シンガポールにおける図書館員の教育
シンガポールにおける専門的な図書館員のための
資格としては,南洋理工大学大学院の情報学修士課
程が唯一のものである。本修士課程は,2004年に
35人の大学院生でスタートし,現在は,毎年90名
の大学院生を受け入れている。大学院生の修学期間
は社会人などのパートタイム学生で24か月,フルタ
イム学生で12か月である。
大学院生の入学受け入れは,評価の高い大学で学
部の成績が優秀であった,英語の読み書きと会話能
力,情報関連分野での就労経験,思考と経験の成熟
と幅の広さ,情報学分野への情熱と興味などを基準
写真3 講演会後の講師とのレセプション会場
にして審査している。
大学院での主な教育分野は,図書館・情報科学,
9. 学術図書館でのラーニング・コモンズ
情報管理・システム,保存情報学,学術メディア資
複数の学術図書館は,活気に満ちた学習と情報交
源管理などで,それぞれの分野について,学生が専
流のための複合的で協調的な新たな施設を設けてい
門的に学べるように一連の授業が用意されている。
る。典型的な設備としては,無線L A N,参考図書や
学生は,コースワークと学位論文とを履修し,卒
短期貸出本の利用,コンピュータ,スキャナ,プリ
業には32単位が必要である。修士(情報学)の授
557
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業プログラムは,すべて英語で行われ,講義・演
加することなどが要請される。教員による図書館・
習・実習から構成され,コースの最後に試験が実施
情報学の研究成果は授業に取り入れられ,大学院生
される。当然,出欠確認が行われ,授業への出席
の教育や現役の図書館員のための継続教育などに生
が要請される。Blackboardシステムを使用したNTU
かされている。
E d v e n t u r eによるe -ラーニング環境も用意されてい
る。
情報先進国の一つであるシンガポールでの公共図
書館政策や図書館員の養成にあたっての考え方は,
パートタイムや非常勤の講師も加わった経験のあ
わが国での公共図書館の在り方や図書館司書の教育
る教員と現場経験のあるスタッフによる教育が実施
を考える上でも参考になるものを多く含んでいると
されている。大学院生には批判的考察や修士論文の
言える。
ために産業に関連するプロジェクトへの参加,図書
館や情報産業で休暇期間中にインターンシップに参
(鶴見大学文学部ドキュメンテーション学科
長塚 隆)
参考文献
1) ラス・ラマチャンドランほか. シンガポールの図書館政策:情報先進国をめざして. 日本図書館協会,
2009, 155p.
558
集会報告 ●Meeting
IFLAミラノ大会へのJ-STAGEとJournal@rchive出展報告
日 程
2 0 0 9 年 8月2 3日(日)∼ 2 7日( 木 )
場 所
ミラノ(イタリア)
主 催
国 際 図 書 館 連 盟( I F L A )
1. はじめに
J S Tの 科 学 技 術 情 報 発 信・ 流 通 総 合 シ ス テ ム
J-STAGEとアーカイブ事業Journal@rchiveは,本年
(2009年)8月に開催された国際図書館連盟(I F L A)
ゲットとしてきたのは,学術雑誌の発行者である学
協会と,論文の著者(生産者)かつ読者(利用者)
である研究者であった。
また,海外の文献データベースとの連携は図って
ミラノ大会において広報普及活動を行う機会を得
きたが,人を介した広報活動の範囲は国内が中心で
た。化学系ジャーナルについては海外での合同プ
あった。しかし,登載誌への海外からのアクセス・
ロモーションの実例も既に報告されているが1),
投稿の増加といった国際化の進展にあわせ,国際的
日本国内最大級の電子ジャーナルサイトとして,
な発信・流通の重要性がますます注目されるように
J-STAGEとJournal@rchive両事業の広報普及活動で
なる中で,広報活動も国内だけでなく,海外に向け
行った海外の図書館や図書館員に向けた初の試みに
て行う必要がでてきた。そこで,「J-STAGEを通じて
ついて,この誌面を借りて報告したい。読者が海外
登載誌のプレゼンスを向上させる」ため,海外で開
の展示会等に出展する際のご参考になれば幸いであ
催される学会の年次大会などにも出展し,研究者へ
る。
のアピールを開始したところである(表1)。さらに,
なお,I F L Aミラノ大会で行われた各セッションの
上記の目的のほか,研究者への窓口となる図書館や
参加報告は他誌で充実したものが掲載されると思わ
図書館員に「日本発の科学技術情報のゲートウェイ
れるので,集会自体の報告については,そちらをご
としてのJ-STAGE」を知っていただくべく,世界中
覧いただくことをお勧めしたい。
から図書館員が集まるI F L Aに出展することにした。
また,今年のテーマが「未来を創造する図書館-文
2. 出展の背景と目的
J - S T A G Eは1999年に事業を開始し,「日本の学協
会における学術情報発信力の強化を支援する」とい
う目的のもと,その広報普及活動として,学協会を
対象にしたセミナーの開催や,著者へのアピールの
化遺産を礎に」というものであったため,Journal@
r c h i v eもあわせて出展し,来場者にアピールするこ
とにした。
表1 2009年度に実施される国際会議・大会へのJ-STAGEの出展
場としてJ-STAGE参加学会の開催する年次大会等へ
の出展を行ってきた。また,2004年に事業を開始
したJournal@rchiveもJ-STAGEと同様の活動を行って
きた。これまで両事業の広報普及活動で主なター
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3. 出展の内容
明し,J-STAGEへのアクセスに登録が必要かといっ
3.1 イベント概要およびスケジュール
たものから論文の著作権の処理まで幅広い質問を受
イベントの概要とスケジュールを表2,3に示す。
けた。
今回は,展示ブースにおける説明とデモンストレー
3)展示
ションのほか,ポスターセッションと製品紹介を行
ブース名:“J-STAGE & Journal@rchive(JST)”
うことにしたため,J-STAGE担当2名,Journal@rchive
J-STAGEとJournal@rchiveについて,図書館等の利
担当1名,広報普及担当1名の4名で現地へ出向き,
用側の視点に立ち,両者のメリットを具体的な数字
対応にあたった。なお,現地対応スタッフ以外に
を交えながらPC・プロジェクタを活用しつつ説明し
も,広報普及担当のスタッフが事前の登録や各種手
た。
続き,資材発送の手配,資料の作成といった作業を
行っている。
ブースでは,会期中に400名程度の参加者から訪
問を受けた。多くの方から「無料なものが多くすば
らしい」(ブラジル他)という感想をいただいた。
3.2 出展内容
また,日本発の学術情報ということで,「論文は英
1)製品紹介(Product Demonstration Sessions)
語で書かれているか」(タイ,中国,スウェーデン
タイトル:“J-STAGE and Journal@rchive, large scale
他多数),「フランス語のインタフェースはあるか」
scholarly e-journal platform of Japan”
日本からの学術情報のソースとしてのJ-STAGEと
「英語のインタフェースは,日本語を翻訳してつくっ
Journal@rchiveの有効性について40分程度でプレゼン
ているのか」という言語に関する質問も多く見受け
テーションを行った。C O U N T E Rレポートの申請方
られた。さらに,
「医学分野の雑誌は何誌あるか」
(タ
法といった具体的な質問を受けたり,製品紹介後に
イ),
「アート,法律関係のジャーナルはあるか」(イ
ブース訪問を受けたりと,来場者には強い関心を
タリア,アイルランド),「人文科学系の雑誌は収録
持っていただいたと感じた。
しているか」,「フリーな論文すべてをダウンロード
2)ポスターセッション(Poster Sessions)
してもよいか」,といった質問もあった。これらに
タイトル:“Challenges of JST in Electronic Journal
ついてその場でJ-STAGE英語版サイトをデモンスト
Publishing of Japan - A story of J-STAGE and Journal@
レーションするなどして対応した。当然のことなが
rchive”
ら,J-STAGEとJournal@rchiveはWeb経由で論文のフ
J-STAGE10年の歩みとJournal@rchiveの5年間を年
ルテキストを提供していること,J S Tの事業の多く
表形式で紹介した。また,持ち帰り用の資料として
がWeb経由でサービスを提供していることから,イ
チラシもお渡しした。2日間とも数十名の方々に説
ンターネット接続PCは必須であった。
表2 イベント概要
イベント名称 国際図書館連盟(IFLA)世界図書館情報会議/第75回
通常総会・評議会
560
(フランス,アフリカ諸国などフランス語圏の方),
会場
ミラノコンベンションセンター(イタリア:ミラノ)
登録参加者
約4,000人(ボランティア等含む。大会最終日主催者側発
表)
出展者
約120社(大会最終日主催者側発表)
表3 出展関連スケジュール
集会報告 ●Meeting
なお,ブースでは広報用うちわを配布したが,目
というまさに現場に携わる方々に対し直接語りかけ
新しさに加え,会期中は好天が続きミラノは猛暑で
る地道なPR活動もまた,国際的発信力の強化のため
あったため,「これは捨てられないし,よく考えて
に極めて重要な要素であることは言うまでもない。
いるね」とコメントをいただくほど好評であった。
しかし,あまたある世界中の図書館,そこに携わる
多くの図書館員,その向こうにいる研究者へのア
4. 出展を終えて
ピールは始まったばかりで,「J-STAGEを通じて登載
J-STAGE,Journal@rchive初のIFLA出展は,総体的
誌のプレゼンスを向上させる」の一歩を踏み出した
に来場者の関心は非常に高いものがあり担当者とし
に過ぎない。それでも,まずは「ああ,J-STAGE。知っ
ては,資材輸送等で大きなトラブルもなくほっとし
てるよ」と声をかけていただけるよう,今回の経験
ており,また,配布物の数,ブースやポスター訪問
を活かし,今後も普及に努めていきたい。
者とのコミュニケーションの量ではまずまずだった
(JST 青山幸太,日高真子)
のではないかと感じる。こうした,各国の図書館員
参考文献
1) 山下和子,林和弘.化学系を中心としたジャーナル合同プロモーション 海外の研究者に日本の
ジャーナルの宣伝をした2年間の報告. SPARC Japan NewsLetter 第1号. 2009. http://www.nii.ac.jp/sparc/
publications/newsletter/html/fa1.html, (参照2009-10-13).
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特許の価値と企業競争力
イノベーション戦略との関係
東京大学先端科学技術研究センター
1. はじめに
渡部俊也
ないというのは,奇妙な現象に見える。事実特許デー
タからは,特許が企業にとっての価値にあまり結び
特許法の起源は1474年3月19日V e n i c eで始まった
ついていないというような現象も読み取れる。
とされる。その内容は,①特許要件を満たしたもの
本稿では特許の価値,つまり特許が企業競争力と
に独占権を付与,②目的は発明の促進と新しい技術
どのように関係づけられているのかについて,最近
の導入,③新規性(ただしVeniceにおいての)④実
の研究成果を紹介しながら概要を述べる。
用性(単なるアイデアはダメ)⑤有用性を基準とし
た審査,⑥存続期間は10年,⑦特許侵害への法廷で
2. 特許の価値の一般論
の対応,など現代の特許制度とほぼ同じ構造を持っ
562
ていたことは驚異的といえる。現在の特許制度がこ
一般的には特許の価値は,①技術的価値,②法的
れほど古い起源を持つということは,人間と社会と
価値,③経済的価値,の3点に分けられる 注1)。①
の関係の中で発生する発明というものの取り扱いに
についてはその技術が改良技術ではなくパイオニア
は普遍性があり,時代が変化しても大きく変化して
発明であるといったような,技術そのものの評価で
いないことを示していると思われる一方,実は社会
あり,最近ではi P S細胞などの発明が技術的価値の
の変化には追従していないため,当初の制度目的が
高い発明の例にあげられる。②は特許権としてどの
機能しなくなっている可能性をも示唆する。
程度広く強い権利を有しているか,あるいは権利取
わが国は2002年に知的財産基本法を制定し,知
得が見込めるか,他の権利の利用関係にあるのか否
財重視を国是としてきた。先駆けとなったのは米国
かなどの評価に基づくもので,いかに優れた発明で
であったが,実は欧州と日本は同じようなタイミン
も明細書の書き方がまずければ当然法的価値は減じ
グで知財重視政策へ変化してきた。最近は中国など
る,といった関係にある。そして,企業にとって最
新興国における特許政策の進展が著しい。そしてこ
も重要なのは,③の経済的価値であろう。その特
れらの国を含めた世界の特許出願数の激増は目を見
許からいくらのキャッシュフローが生まれるのか,
張るものがある。特許というシステムが先進国だけ
マーケットの中で,いくらぐらいで取引されるのか,
でなく,世界に拡散するプロセスに入ったともいえ
といった指標となる。
るかもしれない。このように劇的に普及しつつある
これらの価値評価に関しては,①,②,③を加味
特許制度の中で生み出された特許の価値評価は,急
したさまざまな手法が提案されてきたが,必ずしも
速に難しくなっている。各企業がこれほど努力して
「これだ」という切り札があるわけではない。特許
資金を投じて出願する特許の価値が実はよくわから
の価値評価を行う目的は,ライセンスの際に価格を
視点 ●特許の価値と企業競争力
決める,あるいは職務発明の対価算定のため,さら
ような行為もまったく合法的なのである。
にはM&Aの際の資産評価まで多様で,企業はその
しかしこれでは,権利者に過度に有利ではないか
目的に応じて評価手法も使い分けていて場合によっ
との疑問もある。実際,米国における裁判所の判断
ては外部の専門家の鑑定などを利用することもあ
も無条件でこのような差し止め請求を認めることは
る。しかしそれでも評価結果は大きくばらつく。特
妥当でないとの判断に傾いている3)。
に製品やサービスに多数の特許権が関わる場合,そ
法的価値評価に関わる事項として,訴訟になった
れぞれの単独の特許ごとの評価は難しい。特許出願
場合にどの程度権利者が勝てるのか,あるいは特許
数は,数十年というスパンで見れば10倍近くに増
権の裁判所の判断が安定なものなのかどうかにも依
加しているが,おそらくこの変化の中で,製品や
存する。主には進歩性の判断の水準や安定性に関係
サービスとそこに関与する特許権との関係も大きく
する問題である。これらも重要な要素であるが,本
変化し,その価値を計ることが難しくなってきてい
稿では誌面の関係で,これらの特許制度固有の問題
る2)。例えば,特許権にはその特許が許諾なく利用
とは別に,企業組織や戦略に特徴的な問題として価
されている製品の差し止めを請求できる効力がある
値評価に関わる論点をいくつか紹介したい。
が,特許が数千件も関わるような巨大な技術システ
ムにおいても,たった1件の特許でそのシステム全
3. 企業組織と戦略に依存する特許の価値
体の差し止めができる。これに従えば,既に巨大な
システムに利用されていて,それを実施している企
同じ特許であっても,その経済的価値はその特許
業が見逃している他の権利者の保有する特許の価値
を活用する権利者である企業によって異なる。従っ
は,そのシステム全体の売上などを基準として算出
て,同じように研究開発を行って取得した同じよう
されることになるため巨額になる。最近では,特許
な特許が,ある会社では大きな価値を持っても,別
を実施する意図を有さず,専ら侵害訴訟を提起し差
の会社の事業活動に貢献しないケースも存在する。
し止め請求を行うことをちらつかせて高額のライセ
図1は2つの企業の研究開発部門が取得した海外特
ンス料を要求するいわゆるパテントトロールが問題
許と事業活動との関係をプロジェクトごとに質問を
になっているが,このような考え方に基づけばこの
行い,その成果との関係を解析したものである注2)。
図1 海外特許数と事業パフォーマンスの関係
A社は化学系メーカー,B社はエレクトロニクスメーカー。ここで縦軸は相関係数示し,
大きな値であればあるほど特許との関係が深いと考えられる。
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いずれの企業もライセンスや共同開発への結実,新
のマザーボード技術を開放して台湾メーカーに技術
しい顧客の発見など他社との関係性を調整する機能
供与し,自らは収益率の高いC P Uに特化した戦略を
に対しては有効であることを示唆しているが,結果
とったことが功を奏したのだといわれている6)〜8)。
的にその特許に関係するプロジェクトが収益に貢献
このケースでは,マザーボード化技術の特許は直
したかどうかという点では大きな差異があり,B社
接収益を生んでいない。しかしその技術供与を通じ
ではほとんど収益への結びつきは見られなかったの
て市場の拡大を成功させることが可能となり,プロ
に対してA社では有意に貢献しているという結果と
セッサーの収益に貢献しているという複雑な関係に
なった。どういう理由で,特許が収益や事業活動に
なっている。このようなケースでは,特許の価値評
直接結びつかないといった現象が生じるのだろう
価はいっそう困難になる。
か。
同様の事例として,最近のオープンイノベーショ
例えば半導体の製法特許であって,巨額の投資を
ン戦略から生まれたエコパテントコモンズは興味深
要する装置が必要な場合,その装置を元々保有して
い。W B C S D(世界経済人会議)が主催する環境関
いる企業は少ない投資でその技術を実用化できる。
連特許のコモンズで,環境保護に貢献する特許を開
しかし新たに装置を設置する必要がある場合はその
放し共用資産として活用するための仕組みである9)。
分だけ投資が必要で,キャッシュフローはその分減
一見特許の寄附のように見えるが,この契約を詳細
少するといったことが考えられる。
に読んでみるともっと奥深い仕組みであることがわ
このように設備など有形固定資産との組み合わせ
かる。詳しいことは割愛するが,この仕組みは開放
が影響するという以外に,投資資金そのものが調達
特許を通じ権利行使を行わないコミュニティーを形
できないといったこともあろう。またこのような直
成することが狙いにあり,さらにはそのコミュニ
接的な要因以外に,対象となる特許技術に対する組
ティーを各社のビジネスに利用することまで視野に
5)が大きく異なっ
織の吸収能力(absorptive capacity)
入れて設計されている。この仕組みがうまく機能す
ているということも影響する場合がある。ここでい
れば,コモンズに参加している企業は,コモンズの
う吸収能力とは組織が外部の技術を活用できるため
特許を利用している他社の特許を,自社のさまざま
の能力であり,その技術の価値を認識し消化し実施
な用途に利用することが可能になる。それは最終的
できる能力である。そのような能力を獲得するため
には収益に貢献するだろう。しかしそのような特許
には,ある程度組織内部で対象となる特許技術と同
技術は直接に収益を生むことにはつながらない。コ
種の研究開発が行われていることが望ましい。
モンズの場合は技術供与のようなライセンシーとの
このような組織が特許の価値へ及ぼす影響に加え,
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明確な契約も存在しない。このようにして開放され
最近注目されているのはその企業の有する事業戦略
た特許だけ見れば,収益への貢献はゼロ,いや維持
が,特許を含む知的財産の価値を大きく変動させる
コストを考えれば明らかにマイナスである。
という事実である。特にエレクトロニクス,情報系
結局,図1のB社の場合も,上述のような戦略的
企業ではこの傾向が顕著である。例えば1976年以
活用のモデルが存在すれば,そこの特許はその企業
降の米国特許保有件数では,日本の半導体メーカー
にとって高い価値を有することになる。しかしプロ
は2万数千件に及ぶが,I n t e lは約1万8千件でやや少
ジェクトごとの評価ではこのような因果は見えない
ない。プロセッサーの特許に関していえばI n t e lの特
ため,間違った評価につながりかねない。この特許
許数はもっと少ないのではないかといわれる。しか
に直接関係する事業では収益につながっていなくて
し競争力では明らかにI n t e lが勝っており,パソコン
も,実は戦略レベルで別の事業の収益につながって
視点 ●特許の価値と企業競争力
いるかもしれない。
4. おわりに
このように見てくると,特許の価値は,その特許
が対象とする技術やプロジェクトに価値をもたらす
特許の価値について企業組織や戦略との関係を論
といったスタティック(静的)な描像でとらえるこ
じた。かつて企業の事業戦略や経営戦略と深い連携
とは既に難しく,企業組織や戦略,ビジネスモデル
をしないで知財管理を行っていても,特に不都合は
の中でダイナミック(動的)な価値を発現するもの
生じなかった時代もあったが,本稿の議論でもわか
であると考えるべきである。このことは特許の価値
るように,これらは今や密接不可分な関係性を有し
評価にとどまらず,例えば職務発明などの考え方に
ている。このことが知財マネジメントに反映されて
も影響する奥深い問題を含んでいると思われるが,
いないと,大きな機会損失につながることは明らか
その点はまた別の機会での議論に譲りたい。
であろう。
本文の注
注1) 似た概念で特許の質については本誌の前回の本欄1)を参照。
注2) 研究・技術計画学会第23回年次学術大会における講演4)の執筆に際し行った質問票調査に関連して
取得したデータ。
参考文献
1) 渡部俊也. 特許の質の評価 誰のために,何に使うのか. 情報管理. 2009, vol. 52, no. 5, p. 304-307.
2) 永田晃也, 井田聡子.“「特許の藪」関連指標の設計と産業別分析”. 特許の経営・経済分析. 財団法人 知
的財産研究所編. 雄松堂出版, 2007.
3) Denicolo, Vincenzo; Geradin, Damien; Layne-Farrar, Anne; Padilla, A. Jorge. Revisiting Injunctive Relief: Interpreting
Ebay in High-Tech Industries with Non-Practicing Patent Holders. Journal of Competition Law and Economics.
2008, vol. 4, no. 3, p. 571-608.
4) 渡部俊也ほか.“不確実な技術の公開と管理”. 第23回年次学術大会講演要旨集. 研究・技術計画学会.
2008, p. 853-856.
5) Cohen, Wesley M.; Levinthal, Daniel A. Absorptive Capacity: A New Perspective on Learning and Innovation.
Administrative Science Quarterly. 1990, vol. 35, no. 1, p. 128-152.
6) 妹尾堅一郎. 技術力で勝る日本が,なぜ事業で負けるのか 画期的な新製品が惨敗する理由. ダイヤモ
ンド社, 2009, 397p.
7) 貴志奈央子, 高橋伸夫. 特集, 日本経営学の最前線 Ⅲ:ライセンシング戦略と非内発型発明. 一橋ビジ
ネスレビュー . 2008, vol. 56, no. 2.
8) 小川紘一. 国際標準化と事業戦略─日本型イノベーションとしての標準化ビジネスモデル. 白桃書房,
2009, 385p.
9) World Business Council for Sustainable Development (WBCSD). http://www.wbcsd.org/templates/
TemplateWBCSD5/layout.asp?MenuID=1, (accessed 2009-10-19).
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サイバースペース論争
名和小太郎
1996年,『サイバースペース独立宣言』という文
率」とは「何事でも人々からしてほしいと望むこと
章が発表された。起草者はジョン・ぺリィ・バーロウ,
は,人々にもそのとおりにせよ」というマタイ伝の
電子フロンティア財団の設立者の一人であった。さ
教えを指している。
わりの部分を紹介しよう。
「産業社会の諸政府よ,肉体と鋼鉄の巨人よ,私
に発表された。この法律は,未成年者へ故意にする
は精神の新しい本拠,サイバースペースから来た。
「わいせつな,下品な,明らかに不快な」メッセー
過去の人,あなた方に言おう。私たちにかかわるな。
ジの送信を禁じていた。問題は,「わいせつ」の禁
あなた方は私たちには歓迎されない。私たちの集う
止は自明として,「下品な,明らかに不快な」も禁
ところに,あなた方の主権は及ばない」
止すべきか,にあった。翌年,最高裁は「下品な,
「政府は,そこに統治される人びとがおり,その
明らかに不快な」を違憲として否定した。「インター
人びとの合意があってこそ,その権力を引き出すこ
ネット社会の大部分を焼き尽くしてしまうおそれが
とができる。あなた方は,私たちに求めたこともな
ある」と判断したためであった。
く,私たちを受け入れたこともない。私たちは,あ
このような実社会の動きに連動して,サイバース
なた方を招いたことはない。あなた方は,私たちを
ペース論がロー・ジャーナルを賑わすようになっ
知らないし,私たちの世界を知らない。サイバース
た。まず,デビッド・ポストという論客が出現した。
ペースはあなた方の国境のなかには存在しない」
1995年,上記の『独立宣言』に先立って,彼は「ア
「あなた方の法概念,つまり財産,表現,自我,移動,
ナーキー,国家,インターネット」というエッセー
人間関係などに関する法概念は私たちには適用でき
を発表していた。このタイトルを見た人は,ただち
ない。それらの法概念はすべて物という実体に基づ
に『アナーキー,国家,ユートピア』というタイト
いている。だが,ここには物はない」
ルをもつ分厚い書籍を連想したはずである。それは
「私たちの自我は,あなた方のあれこれの法的な
自由至上主義者ロバート・ノージックの著書である。
管轄に閉じ込められることなく,拡散することがで
ノージックの主張は次の3点であった。(1)最小
きる。私たちのすべてが制定法上の文化として普遍
国家のみが道徳的に正当である。(2)それ以上の国
的に認めているただ一つの規範は黄金率である」
家的機能はだれかの権利を侵害する。(3)最小国家
「私たちの世界では,人間の精神が創造したすべ
はユートピアの特性をもっている。ここにいう最小
てのものは,それがなんであれ,無償で際限なく複
国家とは,暴力,盗み,詐欺を抑止し,契約の履行
製できるし,分配もできる」
を強制する機能のみをもつ国家,
と定義されていた。
いうまでもないが,上記に引用されている「黄金
566
この宣言は米国議会が通信品位法を制定した翌日
ポストの主張は,まさにノージックの「ユートピ
情報論議 根掘り葉掘り ●サイバースペース論争
ア」を「インターネット」に置き換えたものであっ
規制できるからである。レッシグはこのようなソフ
た。サイバースペースにはユーザーの参入,退出は
トウェアとハードウェアの体系を「コード」と呼び,
自由である。ここでは,さまざまな主体が,それぞ
このコードが法律の役割を果たす,と主張した。
れ固有のコントロール・ルールをもって,ユーザー
(私はレッシグの翻訳者から「レッシグと同意見
を呼び込もうとして競争するだろう。さまざまな主
ですね」と言われたことがある。私は『サイバース
体とは,大学であったり,技術の標準化団体であっ
ペースの著作権』(1996年)で「技術は法律をバイ
たり,プロバイダーであったり,そして政府であっ
パスする」と書いていた。)
たり,ということになるだろう。彼は,その後,
「法
21世紀に入り,論調は揺り返している。カナダの
と国境」といった論文を立て続けに発表した。いず
研究者ミカエル・ガイストが「サイバー法2.0」と
れもアナーキズム賛歌であった。
いう論文を発表した。彼はレッシグのいうコードを
ここに皮肉屋が登場した。裁判官のフランク・イー
政府は管理しようとしている,現に,デジタル・ミ
スターブルックである。1996年,彼は「サイバー
レニアム著作権法は,著作物の技術的保護手段を法
スペースと馬の法律」という論文を発表した。法律
律に取り込んでしまった,と指摘した。
家は馬の取引を理解するにあたってなにを学ぶべき
彼は,サイバースペースの規範は,国境のないネッ
か。馬の蹴り方か,馬の売買法か。そうではないだ
トワークから国境のない法律へ,規制するコードか
ろう。財産権や不法行為法などに関する一般原則の
ら規制されるコードへ,自主規制から国による支配
はずだ。
へと移行しつつある,とまとめている。
法学者は,新技術に関してあれこれと新知識を仕
ノージックは最小国家の役割は犯罪抑止であると
入れてもどうということはない。その前にすること
言っていたが,世紀の変わり目の前後から,サイバー
が山ほどある。例えば知的財産の保護期間をみると,
スペースにおいてもその最小国家の機能が求められ
特許は17年(当時),著作権は死後50年,商標は永
るようになった。
久であるが,その根拠はどこにあるのか,釣り合っ
ているのか,こちらの解決が先決だろう。
すでに1997年にG8は「ハイテク犯罪と闘うため
の原則と行動計画」を定め,その冒頭で「情報技術
1999年,著名な憲法学者ローレンス・レッシグ
を乱用するものには安全な避難先はない」と宣言し
が「馬の法律だって,サイバー法が教えてくれるか
ていた。この主張は,2001年にサイバー犯罪条約
も」という論文を引っ提げて割り込んできた。彼は
として国際化された。
言う。実空間とサイバースペースとにおいて,同じ
9.11事件はこの主張をさらに強化させた。米国議
法律や規範を設けることはできない。未成年者のポ
会は2005年に真正ID法を制定した。実世界にいるテ
ルノ・アクセスを禁止したいとしよう。実空間では
ロリストを発見するために,サイバースペースへの
本人の容貌を見れば認証できる。だが,サイバース
コントロールを強化しよう,という法律であった。
ペースではこれはできない。
ゼロ年代末の現在,ユビキタス・コンピューティ
これを実現するためには,サイバースペースを構
ング,あるいはパーベイシブ・コンピューティング
成するソフトウェアとハードウェアのもっている拘
ということで,実世界はサイバースペースと密にか
束力に頼らなければならない。このソフトウェアと
らむようになった。『サイバースペース独立宣言』
ハードウェアとが,つまり技術のアーキテクチャー
の楽観論は姿を消したかにみえる。
が,サイバースペース上にあるアプリケーションを
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小 河 邦 雄 (大正製薬株式会社)
ウェブ,検索,そしてコミュニケーションをめぐる旅
『アンビエント・ファインダビリティ ウェブ,
検索,そしてコミュニケーションをめぐる旅』
1. アンビエント・ミュージック
本書のタイトルのアンビエントには「周囲を取り
Morville, Peter著;浅野紀予訳
巻く」などの意味があり,英国人音楽家のブライア
オライリー・ジャパン,2006年,1,995円(税込)
ン・イーノが作る「アンビエント・ミュージック」
に触発され付けられた。それは「聴いている音楽自
体には注意を向けさせることなく,リスナーを包
み込んでしまう音楽」を指す。1978年に出された
彼の『Music for Airports』というアルバムは実際に
ニューヨークのラガーディア空港で使われた。彼は
U2等の音楽プロデューサーとしても有名であるが,
元々はイギリスのロックバンドのロキシー・ミュー
ジックのメンバーである。このバンドは,ブリティッ
シュ・ロック界の伊達男と呼ばれた天才ブライアン・
フェリーを中心として1970年代に活躍した。その
頃,高校生になった僕は深夜のF Mラジオでロック
http://www.oreilly.co.jp/books/4873112834/
評論家の渋谷陽一氏のしきりに薦めるそのバンドの
大人びた曲調が実はよく理解できず,レッド・ツェッ
『ウェブ,検索,そしてコミュニケーションをめ
ペリンなどを聴いていた。
ぐる旅』。この副題に惹かれて購入したこの本は,
2006年に書店で見つけた。英版の副題は『What We
2. ライブラリアンとしての見識
Find Changes Who We Become』となっている。当時
さて,本題であるこの本を薦める理由について書
はW e b2.0という言葉が日本でも流行りだした頃で
こう。この本は副題にも書かれているように情報を
ある。しかし,本書ではその言葉は使っていない。
めぐる旅の本である。これを読んだからといって,
著者はWebナビゲーションのバイブル本として有名
他のオライリーの本と違って,すぐにホームページ
な『W e b情報アーキテクチャ』を書いたピーター・
作成で使えるスキルが学べるわけではない。しかし,
モービル。Semantic Studios社代表でこの分野のパイ
著者がW e bの仕事を始めた1990年代から始まった
オニアである。
情報分野の劇的な変化について理解し,将来への予
測を含めて自分の立ち位置を確認できるだろう。こ
568
この本!おすすめします ●ウェブ,検索,そしてコミュニケーションをめぐる旅
の本の表紙では,ベローシファカと呼ばれるマダガ
文脈の意味と「ユーザ」を適切に理解し,最適化で
スカル島のみに生息する珍しいキツネザルが高い木
きるのは「人」であり,コンテキスト(背景)の推
の上で下を眺めている。眺めの良い場所で情報の歴
測が不可欠だからである。品質を犠牲にした情報に
史と社会への影響に関する記述を読むことにより,
依存した行動は良い結果をもたらすことは難しい。
自分のミッションについて考えるヒントになればと
情報専門家として黙過していい問題ではない。ピー
思う。
ターは言う。
個人的にはこの本は特にライブラリアンにお薦め
したい。それは,この本を書いたピーター・モービ
「情報リテラシーは単なる図書館情報学上の問題
ではない。今世紀の命運を決する重大事なのである」
ルはボストンの大学で生物学を専攻した後,ミシガ
ン大学の図書館情報学修士を出た,ライブラリアン
4. 図書館と社会
に理解のある人物だからであり,さらに,彼の妻も
図書館の歴史的役割は市民の知る権利を保障する
ライブラリアンである。この本を読むことで図書館
ことであった。それと同じように現在はインター
情報学の歴史的な側面とその可能性を感じられる。
ネットが図書館であると考えれば,そこでの情報行
動についてコミットメントするのがライブラリアン
3. インフォプロの役割
さて,この本の3章では「情報とのインタラクショ
ン」についての記述がある。その中で,
でありインフォプロであろう。ネット上の巨大なサ
イバー空間が,生活する環境(アンビエント)の一
つのようにわれわれを包み込む。そこに通奏低音の
「人工知能,ベイズ理論によるパターンマッチン
ように流れる音楽(情報)がアンビエント・ミュー
グ,情報の視覚化などをめぐる誇大な喧伝にも関わ
ジックである。実はブライアン・イーノの作品をわ
らず,コンピュータはいまだに,言葉の意味を抽出
れわれの多くは意識しないで聞いている。それは
し理解したり,それを視覚的に表現できるまでには
1995年11月に熱狂的な期待の中で発売されたマイ
至っていない。というのも,人間がコミュニケーショ
クロソフトO SのW i n d o w s95の起動音であり,イン
ンのために言語を用いる限り,情報検索というもの
ターネット時代の幕開けを告げる響きとなった。そ
はいつまでも面倒で不完全な厄介仕事のままだから
して年月が経ち,彼はApple社のiPhoneにアンビエン
である」
ト・ミュージックを自分で作れるB l o o mというアプ
と言い切っている。そして,言葉の曖昧さよりさら
リを提供した(写真1)。コンピュータ並みの性能を
に手に負えない,うんざりするのが「人」の問題で
得たモバイル機器とネット資源の融合は空間を超え
あり「ユーザ」はアクセシビリティの高いシステム
て実際の行動へより直結し,時には進むべき道を教
へ容赦なく移行するとしている。
えてくれる。ただ,それは広告と密接に関係したメ
「デスクトップにG o o g l eがあるというのに,図書
ディアでもある。文字通り,Web上の人々の記憶と
館へ行く理由はないというわけだ。実際,ユーザが
視覚のアンビエントなリズムの中で“選択”という
アクセシビリティ確保のためなら情報の品質を犠牲
無意識のダンスをすることになる。英語の諺
にすることもいとわないことが多いという事実を明
らかにした研究は,多数見受けられる」
「見つけた者が持ち主,なくした者は泣きをみる
(Finders,keepers;losers,weepers)」
この言葉をわれわれは重く受け取るべきであろ
をピーターは引用している。ファインダビリティー
う。同時に,ここにこそインフォプロの果たす役割
がすべてを決める世界が始まろうとしている。しか
が見えてくる。つまり,調査主題や情報源の多様な
し,目の前に落ちている情報だけを喜んで拾ってい
569
情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
December
ポイントとしている。図書館とインフォプロはどの
ように情報の権威とその記憶の保存(リポジトリ)
に関わっていけるのか。この部分こそ,情報への信
頼という最も重要な問題に深く関わっている。
『ペルソナ作って,それからどうするの? ユー
ザー中心デザインで作るWebサイト』棚橋弘季
ソフトバンククリエイティブ,2008年,2,940
写真1 画面を指先でタップしてメロディーを奏でる「Bloom」
円(税込)
るわけにはいかない。
さらに,人工知能学者のブリュースター・カール
の言葉を紹介している。
「図書館は,社会が持っている文化的な成果物を
保管し,それらへのアクセスを提供するために存在
している…文化的な成果物が残っていなければ,わ
れわれの文明には記憶もなく,過去の成功と失敗か
ら学ぶメカニズムもないことになる…」
現代の図書館は本はともかく,電子ジャーナル化
した学術雑誌の記憶をどのように残すつもりなの
か?
http://www.sbcr.jp/books/products/detail.asp?sku=4797347104
ブ ラ イ ア ン・ イ ー ノ は 音 楽 だ け で な く,L o n g
Now協会という長期視点の活動も行っている。そこ
この本では,これからのWebでの情報提供を考え
ではロゼッタ・プロジェクトとして,ニッケル円盤
る上で海外での方法をそのまま取り入れるのではな
(7.6c m)にアナログの情報(3万ページ)をエッチ
く,「茶の湯」や「一期一会」,「見立て」などの日
ングし,図書館に配布している。デジタルの仕様は
本独自の文化を尊重した仕組みも大切であるとして
10年もすれば変化するし,ストレージの寿命も長く
いる。そのためのデザインとは何か?というところ
はない。1,000倍の顕微鏡があれば読めるニッケル
から歴史的考察を含めて再確認している。そして,
盤は1,000年の単位で保存が可能であり,ロゼッタ・
利用者のライフスタイルまで提案できるほどに架空
ストーンとして文明の記憶となる。
のユーザを理解する“ペルソナ/シナリオ”手法に
ピーターは本の最後の方でこう述べている。
「ファインダビリティーは我々がどのように権威
は,この方法を最初に用いたのはマイクロソフトで
を定義し,信頼性を割り振り,意思決定を下すのか
ビジュアル・ベーシックを開発したアラン・クーパー
というプロセスにおける,静かな革命の中心にあ
であり,Windows3.1からWindows95へのリデザイン
る。人間は過去を忘れはしないが,一方では未来を
に使用した。
新しく生み出さずにはいられないのだ」
著者はその後のインタビューで上記の「権威」が
570
ついて具体例を交えて説明しており,興味深い。実
利用者を特化したような開発手法に対して心配の
声もある。しかし,ある特定のユーザを詳細に考察
この本!おすすめします ●ウェブ,検索,そしてコミュニケーションをめぐる旅
することで,はじめて別のユーザのこともわかると
している。構築したWebサイトを「色々な人が使う」
ではなく,自分たちは誰に価値を提供するのかをき
ちんと考えることが重要であるとしている。
前述したピーター・モービルも「ユーザ」であ
る「人」がいちばんやっかいな問題であり,その部
分の手当てが必要としている。今後,「利用者研究」
が情報研究の重要な位置を占めるだろう。この部分
を解明し,最新の情報システムに反映していくこと
が,両者を知っているわれわれインフォプロの役割
かもしれない。
執筆者略歴
小河 邦雄(おがわ くにお)
九州大学卒業。大正製薬(株)に入社後,総合研究所
の有機化学研究室で抗生物質,免疫抑制剤などの合成
研究に従事。その後,技術情報部,研究システム部で
情報検索,社員情報教育,社内情報ポータルシステム・
情報解析システムの作成などを行う。
1991年科学技術庁認定のデータベース検索技術者1
級を取得。社会活動として,日本製薬情報協議会会長,
日本薬学図書館協議会委員会幹事,日本薬学会年会シ
ンポジウムオーガナイザーなどを行い,現在は,『情
報管理』誌編集委員,情報科学技術協会理事(試験実
施委員会委員長)。
休日は,息子が所属する大学アメリカンフットボー
ル部の試合応援,アウトドア料理,イタリア料理店の
探検などを行う。
571
情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
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December
学術論文もレンタルで
日間アクセス可能。
(3)ゴールド月ぎめプラン
カリフォルニアを拠点とするD e e p D y v e社が,
「Research. Rent. Read.」のスローガンの下に,一流
一か月19.99ドルを支払うと,アクセス可能論文
数にもアクセス可能期間にも制限なし。
ジャーナルの論文を貸し出すという新しいコンテ
いずれのプランも14日間の無料トライアル期間中
ンツ配信のサービスを10月27日に発表した。主と
は,数千のジャーナルに無制限にアクセスすること
して生物医学,科学,技術分野の数千の出版物か
ができる。
ら,3,000万を超える論文を提供する。このプログ
なお,レンタルした論文はD e e p D y v eのサイトで
ラムに参加する出版社には,オックスフォード大
読めるだけで,ダウンロード,印刷,他の人との共
学出版局やWiley/Blackwell社も含まれるが,Elsevier,
有はできない。ダウンロードや印刷を望む利用者は,
Springer,Sageなどの名前はない。不参加出版社の
画面の「r e n t a l」ボタンの横にあるリンクをクリッ
論文も無料でプレビューすることは許される。レン
クして出版社のサイトに行き,そこで購入/ダウン
タルサービスのターゲットは,どの機関にも所属し
ロードすることになる。オープンアクセス論文につ
ない知識労働者とされ,D e e p D y v e社は市場規模を
いては,画面に「open-access」のマークが表示され,
20億〜40億ドルと試算する。CEOのWilliam Park氏は,
誰もが自由に読めるようにされている。
米国には5,000万の知識労働者がいるが,そのうち
(http://www.deepdyve.com/)(accessed 2009-11-09).
3,000万〜4,000万は非機関の利用者であり,これら
の人々にとってレンタルサービスは有益なものであ
米国専門図書館協会が名称変更を提案
る,と語っている。D e e p D y v e社は優れた検索エン
ジンを持ち,通常の検索エンジンや検索アルゴリズ
1909年の設立以来,100年の歴史を持つ米国専門
ムでは見つけられないディープWebも検索する。検
図書館協会(Special Libraries Association: SLA)は,こ
索ボックスには最大25,000文字を入力することがで
の6年間,協会名の「special libraries」という言葉か
き,利用者にはパラグラフ全体を貼り付けることが
らの脱却を目指して議論を重ねてきたが,10月14
奨励される。DeepDyve社は,プランDVDなどの動画
日,2つの名称「Association for Strategic Knowledge
レンタルサービスであるNetflixが開発したモデルに
Professionals」と「ASKPro.」が候補としてメンバー
ならい,3つのプランを提供する。
に通知された。名称変更の試みはこれが初めてで
(1)ベーシック・レンタル・プラン(その都度払い)
はない。2003年の全国大会では,「S L A」(S p e c i a l
一論文99セントを支払うことにより,24時間以
Libraries Associationのアクロニム)と「Information
内ならば何度でもアクセス可能。
Professionals International」の2つの名称が提示された
(2)シルバー月ぎめプラン
一か月9.99ドルを支払うと,月に20件の論文に7
572
が,どちらも改正に必要な3分の2の賛成を集める
ことができなかった。大会の6か月後,評議会はフ
情報界のトピックス ●Topics of the information community
ルネームをキープしながらも,ビジネスを行う際の
た。10タイトルにはJohn Grisham著「Ford County」,
ブランド名を「S L A」とすることを決定している。
Stephen King著「Under the Dome」,Dean R. Koontz著
2007年にはコンサルタント企業と契約を結び,情
「Breathless」,Sarah Palin著「Going Rogue: An American
報専門家や管理者へのインタビューを含む調査を開
Life」,James Patterson著「I, Alex Cross」などが含ま
始した。その目的は,S L Aの価値を高め,情報専門
れる。これらの本は,Powells BooksやBN.com(Barnes
家の活動領域を広めることができる戦術の枠組み
& N o b l e)では15ドル〜35ドル程度で販売されてい
を作ることである。SLAが今年6月に,Name Change
る。ウォルマートはコメントを控えているが,赤字
w i k iを開設し,メンバーから意見を募ったところ,
であることは確実なようだ。ウォルマートはまた,
「Specialized Librarians and Information Professionals」,
別のベストセラー 200タイトルを半額で販売中であ
「Association of Library and Information Strategists」,
る。この事態は出版社を戦慄させている。米国書店
「Knowledge and Information Specialist Society」など多
協会(American Booksellers Association: ABA)は司法
数の名称が寄せられた。Z a m o r a氏(S L A会長)は,
省の反トラスト局に手紙を送り,政府がウォルマー
今回提示された「ASKPro.」は,情報専門家や管理者
ト,A m a z o n,ターゲットの略奪的価格政策の調査
から集めた価値や可能性を表す単語,用語,重大な
を開始するよう求めた。A B Aは,量販店はハードカ
概念に,Twitter,ブログ,電子メール,Facebook,
バーベストセラーの市場をコントロールするために
L i s t s e r vなどに使われている言葉を加えて検討した
略奪的価格を取っていると非難している。
結果に基づくものであると説明している。メンバー
(http://www.publishersweekly.com/article/CA6703525.
の反応は,これらのプロセスに懐疑的であるばかり
html)(accessed 2009-11-09).
でなく,ロボットやエキスポの名前のようだとして
ASKProという名称も歓迎されていないようである。
アマゾン電子書籍リーダーが日本で発売,毎
名称変更に対するメンバー投票は,11月16日〜12
日新聞が英文記事を有料配信
月9日に行われ,12月10日に結果が発表される。
(http://www.libraryjournal.com/article/CA6702294.html)
(accessed 2009-11-09).
米Amazon.comは10月7日,これまで米国国内のみ
で販売されていた電子書籍リーダー端末「Kindle(キ
ンドル)」を,日本をはじめとする世界100か国以
米国で本の価格戦争が激化
上で発売開始すると発表した。K i n d l eでは書籍のほ
か,雑誌,新聞,個人用文書をワイヤレスでダウン
米国で本の価格引下げ競争が激化している。10月
ロードし,電子インクを採用したディスプレイで読
15日にスーパーマーケットチェーンのウォルマー
むことができる。ダウンロードには最新の携帯電話
トが,Walmart.comで11月から販売する先行予約の
で利用されている3Gワイヤレス技術を採用してお
ハードカバー 10タイトルについて,価格を送料込
り,購入した書籍を60秒以内にダウンロード可能だ
みで10ドルとする,と発表したことから価格戦争は
としている。現在,20万冊以上の英語書籍が専用サ
始まった。これに対抗してAmazon.comが同じ本の価
イトで販売されている。現時点では日本語には未対
格を9ドルに引き下げたところ,ウォルマートはす
応。
ぐに価格を9ドルに設定し直した。スーパーマーケッ
K i n d l eの日本国内での発売開始を受け,毎日新聞
トチェーンのT a r g e t . c o mも数日後には競争に加わ
社は同日,英文W e bサイト「毎日デイリーニュー
り,同じタイトルを8.99ドルで提供することになっ
ズ」の記事をK i n d l e向けに有料配信することを発表
573
情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
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December
した。日本の新聞社が記事を有料配信するのはこれ
文化庁,G o o g l eブック検索訴訟について初の
が初めて。
政府見解
(http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=176060&p=
irol-newsArticle&ID=1339430&highlight=)(http://www.
文化庁は11月9日,G o o g l eブック検索訴訟に関す
mainichi.co.jp/info/2009/10/news000496.html)
る政府の考えを,外交ルートを通じて米国政府に伝
(accessed 2009-11-10).
達したと発表した。政府がGoogleブック検索訴訟に
関して公式見解を発表するのは今回が初めて。同庁
Googleに「似た画像を探す」機能
はこの件が日本の著作権者にも影響が及ぶ点を指摘
して「日本の著作権者等についても公平・公正な扱
G o o g l eは10月27日,画像検索の結果を絞り込む
いが確保されることが必要」とするとともに,裁判
「Similar Images」機能を公開した。これは,画像検索
所から修正を指示されている和解案について「速や
を行うと,一部の画像の下に表示される「類似の画
かかつ十分な情報提供」を求めている。
像を探す」というリンクをクリックすることで検索
(http://www.bunka.go.jp/oshirase_other/2009/pdf/
結果を絞り込むことができる。例えば「j a g u a r」で
googlebook_091109.pdf)(accessed 2009-11-10).
検索すると,検索結果には自動車の「J a g u a r」と動
物の「ジャガー」が混在しているが,動物のジャガー
Googleの書籍データベース化,6割が支持せず
の下の「類似の画像を探す」をクリックすれば,動
物のジャガーの画像だけに絞り込める。
毎日新聞が10月25日にまとめた「第63回読書世
(http://googleblog.blogspot.com/2009/10/similar-
論調査」の結果から,Googleによる書籍データベー
images-graduates-from-google.html)(accessed 2009-11-
ス化事業について,全体の6割の人が「評価しない」
10).
ことが明らかになった。年代別で見ると,10代〜
20代の若い世代では「評価する」と答えた人が半
青山学院大,講義資料をiPhoneに配信
数近くに達し,ほかの世代より多かった。一方,イ
ンターネットを利用する人ほど「評価する」という
青山学院大学は講義資料を学生のiPhoneに配信す
回答が多く,インターネット利用状況によって意見
る取り組みを始めた。i P h o n e用コンテンツの作成・
が分かれた。評価しない理由では,インターネット
配信・閲覧サービス「Handbook」を提供するインフォ
を利用する人,しない人ともに「目が疲れそう」と
テリアが10月15日に発表した。講義資料はこれま
いう回答がトップであったが,インターネットを利
で,P D Fファイルにしたものを学内ポータルサイト
用する人ほど「出版業の衰退が心配」「日本の作家
で配布していた。今回は社会情報学部の学生が対象
の著作権が守られるか心配」など,書籍データベー
で,PowerPointやPDF形式の講義資料を学生のiPhone
ス化による影響を配慮した回答が多くみられた。実
に配信する。2009年後期からコンピュータ関連の
際にパソコンや携帯電話で本を読んだことがある人
科目から配信を始め,徐々に対応科目を増やしてい
は,全体の17%にとどまり,80%が「読んだことが
くとしている。同学部では2009年5月,学生と教員
ない」と回答している。
の合計550人にiPhoneを配布している。
(http://mainichi.jp/enta/book/news/20091026ddm
(http://www.infoteria.com/jp/news/press/
010040026000c.html)(accessed 2009-11-10).
pr091015_01.html)(accessed 2009-11-10).
574
情報界のトピックス ●Topics of the information community
「N H Kクリエイティブ・ライブラリー」,番組
素材を無料で提供
N H Kは10月31日,N H Kアーカイブス内の番組や
I nternet
ArchiveとOLPC,途上国の子供の電子
化書籍アクセスで協力
Internet Archiveの共同設立者であるBrewster Kahle
番組素材から切り出した映像や音声を「創作用素
氏は,ボストンで開かれたBoston Book Festivalにて,
材」として提供する「N H Kクリエイティブ・ライブ
発展途上国の子供たちに1人1台ノートパソコンを
ラリー」を開始した。「生きもの」「日本や世界の風
配る活動を行っているOLPC(One Laptop Per Child
景」「地球・環境」など,N H Kがすべての権利を有
Foundation)財団と協力し,Internet Archiveが著作権
する映像素材が基本になっており,効果音素材など
の切れた書籍を電子化する事業において電子ブック
も用意されている。2009年度には約3,000本を提供
の規格であるE P U B形式で配信し,O L P Cは配布して
予定。このライブラリーのねらいは,国民共有の財
いるノートパソコン「XO」の基本ソフトに電子ブッ
産であるコンテンツの社会還元のほか,主な対象で
クリーダー機能を組み込む,と10月24日に発表した。
ある10代の子供たちの「創造性」
「映像リテラシー」
「著作権意識」の向上に寄与することだとしている。
これにより,160万冊の書籍が世界中でXOパソコ
ンを使っている100万人の子供たちに利用可能とな
(http://cgi4.nhk.or.jp/creative/cgi/page/Top.cgi)(accessed
る。
2009-11-10).
(http://www.archive.org/iathreads/post-view.php?id=
270851)(http://www.laptop.org/en/vision/index.shtml)
(accessed 2009-11-11).
575
情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
http://johokanri.jp/
J S Tが収集している海外の雑 誌から, 情 報 科 学 技 術に関する興 味 深い文 献を掲 載
いたします。ここに紹 介した文 献のコピーをご希 望の場 合は、J S Tの複 写サービス
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整理番号(例;06A0092400)を利用すると簡単にお申し込みいただけます。
また , 国 内 の 雑 誌 を 含 む 網 羅 的 な 文 献 の 検 索 には , J S T の 文 献 検 索 システム
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(http://pr.jst.go.jp/jdream2/)をご利用ください。無料トライアルも
お申し込みいただけます。
情報リテラシー教育評価サイクル:学生の学習
促進と図書館員の教育スキルの改善のためのガ
イド
The information literacy instruction assessment
cycle: A guide for increasing student learning and
improving librarian instructional skills
情報リテラシーに関する図書館員の教育能力を
高めるとともに学生の能力向上を図るためのガイ
ドラインとして,「情報リテラシー教育評価サイク
ル」(ILIAC)を作成し,試行した。ILIACは学習課
程の7つの段階でそれぞれ評価を行い,これをサイ
クル的に積み重ねる。用いる評価票で学生の作品
や能力をカテゴリーに分け,各カテゴリーで定め
られた判定基準によって判定を行い,その統計解
析によって学生を評価するとともに,評価者間の
判定の妥当性を検証する。We bサイト評価能力を
事例とした試行の結果,学生の学習力と図書館員
の教育力の双方が改善されることを確認した。
OAKLEAF Megan (Syracuse Univ., NY, USA), J Doc
(GBR) 2009 65 (4) 539-560, 09A0934662
TriFLDB:コムギ族に由来し比較イネ科ゲノム学
に応用できるクラスタ化した全長コード配列の
データベース
TriFLDB: A database of clustered full-length
coding sequences from triticeae with applications
to comparative grass genomics
作物や家畜のヌクレオチド配列の最近の蓄積は,
表現型的特性の関与する主要な遺伝子類同定のた
めに,モデル生物の全ゲノム比較解析の応用を可
能にしている。コムギ族の全長C D S(コード配列)
データベース(T r i F L D B)は,コムギ族作物であ
るコムギとオオムギの全長C D Sに関しての利用可
能な情報,および機能の注釈と比較ゲノム学的特
徴を含んでいる。T r i F L D Bにおける推定アミノ酸
配列は,Arabidopsis thaliana,イネおよびソルガム
のプロテオームデータセットと共に,配列アイデ
ンティティーの段階的な限界値の階層的クラスタ
化によってグループ化され,全長蛋白質配列に基
づく階層的クラスタ化の結果を提供し,このデー
タベースはイネやソルガムの配列に対するコムギ
族全長C D S(T r i F L C D S)類の比較マッピングに
基づく配列類似性の結果も提供している。現在の
TriFLDBは,コムギとオオムギに由来する15,871の
全長CDS類および推定的全長cDNA類を含み,イン
ターネットを通して公的にアクセス可能である。
MOCHIDA Keiichi; YOSHIDA Takuhiro; SAKURAI
Tetsuya; SHINOZAKI Kazuo (RIKEN, Yokohama,
JPN); OGIHARA Yasunari (Yokohama City Univ.,
Yokohama, JPN), Plant Physiol (USA) 2009 150 (3)
1135-1146, 09A0813877
Google Book Search:人文・社会科学における
引用分析
Google Book Search: Citation analysis for social
science and the humanities
自然科学,社会科学,人文科学の中から合計10
書誌データ凡例:著者名 (著者の所属機関名), 誌名 (発行国) 発行年 巻 (号) 開始ページ-終了ページ, 整理番号
*Copyright 2009 Elsevier B.V., Amsterdam. All rights reserved. Translated from English into Japanese by JST
576
海外文献紹介 ●Literature guide
分野を選び,それぞれの分野において,T h o m s o n
ReutersのISIデータベース収録雑誌から2003年の論
文350件を無作為抽出した。これらの論文への雑誌
からの引用(I S Iデータベースによる)と図書から
の引用(Google Book Search(GBS)による)を計
量した。GBS / ISIの引用比は,人文科学では0.7-2.1,
社会科学では0.4-0.7であるが,自然科学では計算機
科学(0.46)を除き極めて低い。さらに,情報科学・
図書館学分野51誌の1,923論文(2003年)について,
I S IとG B Sの引用を詳しく調査した。両者の引用に
は相関があるが例外も多く,人文・社会科学では
図書からの引用を考慮することが重要であると指
摘した。
KOUSHA Kayvan (Univ. Tehran, Tehran, IRN);
T H E L WA L L M i k e ( U n i v. Wo l v e r h a m p t o n ,
Wolverhampton, GBR), J Am Soc Inf Sci Technol
(USA) 2009 60 (8) 1537-1549, 09A0847443
科学論文出版過程の在庫効果のシミュレーショ
ン研究
Simulation study of the inventory effect of the
scientific paper publishing process
研究投資が行われて研究が開始されてから,成
果論文が投稿,査読,出版されるまでの過程を,
数学モデルを用いてシミュレートし,査読を終わっ
て出版を待つ「在庫品」の変化を示す式を誘導し
た。これによって,出版の遅延が学術論文の生産
指標に統計的な誤差を引き起こすことを示した。
このモデルと平均的な出版遅延に基づいて,実際
の学術論文の出力を最適化する非線形最小二乗法
アルゴリズムを得た。さらに,学術政策関係者や
出版当事者が行う生産資源割り当ての調整を支援
するため,論文生産指標を近似計算するアルゴリ
ズムを与えた。
YU Guang; LI Y i-Jun; YU Da-Ren (Harbin Inst.
Technol., CHN), J Inf Sci (NLD) 2009 35 (4) 414-425,
09A0835788
雑誌集合による境界領域の詳細描写:コミュニ
ケーション研究の事例
The delineation of an interdisciplinary
specialty in terms of a journal set: The case of
communication studies
雑誌間引用行列の因子分析により,特定の学際
領域(あるいは新しく発展している領域)の同定
を試みた。ISIのJournal Citation Reportsで用いられ
ている主題カテゴリーのうち,“Political science”,
“Social psychology”,“Communication studies”の
3つに属する雑誌に対して分析を行った結果,学
際領域として「コミュニケーション研究」の因子
を抽出することができた。引用パターンより被引
用パターンの方が明確な抽出ができた。2007年の
被引用パターンで,コミュニケーション研究の因
子に含まれるのは28誌で,I S IのC o m m u n i c a t i o n
studiesカテゴリーに属する45誌より少ない。
L E Y D E S D O R F F L o e t ( U n i v. A m s t e r d a m ,
Amsterdam, NLD); PROBST Carole (Universita della
Svizzera italiana, Lugano, CHE), J Am Soc Inf Sci
Technol (USA) 2009 60 (8) 1709-1718, 09A0847456
引用分布の普遍性:化学分野のデータを用いた
Radicchiらの相対指標cf=c/c0のミクロレベルで
の検証
Universality of citation distributions: A validation
of Radicchi et al.'s relative indicator cf=c/c0 at
the micro level using data from chemistry
論文に対する分野に依存しない引用指標を,ミ
クロなレベルの分野について検証した。2000年の
Angewandte Chemie International Editionに投稿さ
れた1,899論文(拒絶され他誌に掲載された論文
を含む)に対して,次の3つの指標を計算した: ( a )
論文の被引用数c,(b)最近Radicchiら[Proc Natl
Acad Sci USA,2008,105 (45),17268-17272]によっ
て提案されたcf=c/c0(c0は被引用数cの論文が属す
る分野の平均被引用数),(c)標準化スコアz=(c-c0)/
s c(s cは当該分野における被引用数の標準偏差)。
c0とscは論文が属するChemical Abstractsの各主題
分類について求めた。zの方がc fよりも分野によら
ない普遍的指標であると結論した。
BORNMANN Lutz; DANIEL Hans-Dieter (ETH
Zurich, Zurich, CHE), J Am Soc Inf Sci Technol (USA)
2009 60 (8) 1664-1670, 09A0847452
内燃機関の領域における革新的動向
Innovation trends in the field of internal
combustion engines
ヨーロッパ特許事務所における過去10年間にお
けるヨーロッパ,米国,日本,中国及び韓国での
577
情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
December
内燃機関のダウンサイジングに関連した革新技術
の動向に関する出願特許の統計的解析を実施し
た。どのような技術分野が最も活性化しているか,
最も重要なプレーヤは誰であるかそしてどの国の
出願件数が最も多いかについて調査した。議論し
た技術分野は国際特許分類(IPC)手法に基づいて
選択した。分析結果から最も重要と考えられる技
術領域は直接燃料噴射システム,ハイブリッド技
術,ターボ過給方式,可変性弁アクチュエーショ
ンとなることを示した。中国及び韓国に対する特
許公開数は最近になって急増している。ハイブリッ
ド技術と代替燃料技術に関する公開数は日本の特
許事務所の発行した文書において比較的高くなっ
ている。
BOYE Michael; DOERING Mar cus; VAN DER
STAAY Frank; RAPOSO Jorge; JUCKER Chava;
MORALES Miguel; HERMENS Sjoerd (European
Patent Office), SAE Tech Pap Ser (Soc Automot Eng)
(USA) 2009 (SAE-2009-01-1944) 7, 09A0712694
多モードの情報検索に対する適応型サーチエン
ジン
An adaptable search engine for multimodal
information retrieval
情報検索(I R)のサーチモードには次の2つがあ
る: ( a )カテゴリーで示されるオントロジーのブラウ
ジング,( b )自然語文で表されるキーワードによる
質問作成。この2つのモードについて論じ,それぞ
れに適応したI Rのアプローチを考察した。その上
で,1つのサーチエンジンでこの2つのモードを統
合するシステムを提案した。このサーチエンジン
は,それぞれのサーチモードに適応することがで
きる。
HUBER T Gilles (Univ. Paul Sabatier, Toulouse,
FRA); MOTHE Josiane (Inst. Universitaire de
For mation des Maitres, Toulouse, FRA), J Am
Soc Inf Sci Technol (USA) 2009 60 (8) 1625-1634,
09A0847449
578
http://johokanri.jp/
エビデンスに基づく検索のために利用される
PubMedフィルタの評価:相対的再現率を用いた
検証
Evaluation of PubMed filters used for evidencebased searching: Validation using relative recall
治療関連の臨床問題のシステマティックなレ
ビューのために選択された文献において,医療情
報の主要な情報源であるPubMedのフィルタおよび
フィルタの組合せの評価を行った。提案方法論に
関しては,Cochraneデータベースにおける全ての
システマティックなレビューからの背景情報の提
示,参考文献の抽出,フィルタの選択,フィルタ
の適用,フィルタの組合せ,統計量の解析(S P S S
の利用),などについて論じた。その中で各種手
法の比較,フィルタ品質を計測するための公式,
OvidおよびPubMedフォーマットでのフィルタ,を
取り上げて論じた。Cochraneデータベースで利用
出来る3,371件のレビューの内2,629件のレビュー
を取り上げ,P u b M e dを利用し,各レビューに対
する感度,特定性,精度の決定と平均値の計算を
行った。最適精度を生み出す組合せを示すととも
に,Cochraneデータベースと相対的再現率,スプ
リットサンプルの検証,批判的評価,高精度臨床
クエリーを反映した論文集合,フィルタの組合せ,
実践的な含意,について論じた。その結果,臨床
試行のリストを獲得したが,方法論的に健全な試
行のみを同定することは困難であった。特定の
PubMedフィルタとAIMの組合せによりCochrane
データベースにおける最高精度が得られることを
述べた。
HOOGENDAM Arjen; DE VRIES ROBBE Pieter F.;
STALENHOEF Anton F. H.; OVERBEKE A. John
P. M. (Radboud Univ. Nijmegen Medical Centre,
Nijmegen, NLD), J Med Libr Assoc (USA) 2009 97 (3)
186-193, 09A0843395
PINUP
「情報管理Web」アクセス数ランキング
JMLA認定資格「ヘルスサイエンス情報専門員」
第13回申請のご案内
NPO法人日本医学図書館協会では,認定資格「ヘル
スサイエンス情報専門員」第13回申請を下記の要領
で受け付ける。
■受付期間:2010年1月1日(金)∼31日(日)
■初めて申請される方へ
・本協会会員以外の方も申請できる
・司書資格のない方はご相談を
・協会指定の研修会への参加が必要
・規定の実務経験が必要
・基礎資格のみ申請できる
・基礎資格は永年有効
■第3回申請で中級・上級を取得された方へ
・今回の第13回が更新の期限となる
■お問い合わせ:
NPO法人日本医学図書館協会中央事務局
〒160-0015 東京都新宿区大京町26番地野口ハウ
ス305号室
Tel : 03-5368-6216 Fax : 03-5368-6236
E-mail : [email protected]
*詳細は下記URLに掲載
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jmla/nintei/
本年(2009年)4月にリニューアルし,多数のアク
セスをいただいている「情報管理We b」の記事別ア
クセス数を集計いたしました。2008年4月から2009
年3月までの1年間の上位記事をご報告します。今後
ともご愛読お願いします。
【2008年4月∼2009年3月】
1. 次世代OPACの可能性
―その特徴と導入への課題―
工藤絵理子,片岡真(vol.51, no.7)
2. 録音録画補償金をめぐって(上)
─私的使用の意味と価値─
名和小太郎(vol.48, no.8)
3. 特許検索手法のマニュアル化と検索ノウハウの伝
達
酒井美里(vol.50, no.9)
4. ケータイの絵文字と文字コード
安岡孝一(vol.50, no.2)
5. 50周年特別寄稿:科学の世紀:Web of Science ®
からよみとる日本の20世紀科学研究
宮入暢子(vol.50, no.7)
6. テキストマイニングによる知財ポートフォリオ分
析
中居隆(vol.51, no.3)
7. J-STAGEセミナー:OpenURLとリンクリゾルバー
がもたらした研究情報サービス
松下茂(vol.50, no.9)
8. 見晴らしのよい場所からあるべきシステムを考え
る―デジタルライブラリ,デジタルアーカイブ,
機関リポジトリを超えて―
宇陀則彦(vol.51, no.3)
9. 英語能力レベルアップ:よい英文科学論文を書く
ために No. 7
三輪 S. バニース(vol.46, no.12)
10. オープンアクセスコンテンツを活用する電子
リソース検索:実践女子大学図書館が提供する
OPACと横断検索
伊藤民雄(vol.51, no.3)
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情報管理
JOHO KANRI
2009
vol.52 no.9
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
December
■今号では,研究評価に関連する記事を2本ご紹介
しています。ひとつは,大学図書館が開発した,機
関リポジトリや論文データベースでのアクセス数や
被引用数等を統合して,研究者や組織が自身の研究・
教育業績を分析できるツールについて。もうひとつ
は,J S Tのファンディング機関としての業績を自己
評価するために,採択した研究の成果である論文の
被引用数を分野ごとに海外ファンディング機関との
比較を試みた報告です。限られた公的研究費の効率
的配分などのため,客観的な数値に基づいた業績評
価が研究者にも組織にも求められています。近年,
h-indexを始めさまざまな研究評価指標が開発され
ていることは,前号掲載の「研究活動に対する客観
的かつ定量的な評価指標」でご紹介しました。いか
にして目的に合った研究評価指標を用いるか,さま
ざまな模索が続いています。
■本年6月,NIIの根岸正光教授の大学評価に関する
ご講演を聞く機会があり,先生の「自分の研究や自
機関がよりよく評価されるように,新しい指標を開
発すればいい」という言葉が深く印象に残っていま
す。これは,情報センターや図書館が自組織内で認
知度を高め評価を上げるための広報活動と,同じ発
想なのではないかと思ったからです。例えば図書館
の伝統的な実績評価は利用者数や閲覧・貸出冊数,
レファレンス件数などで計られます。経年変化を知
るため各種の実績・数値を継続して出すことも必要
ですが,経営の観点も含めた各種のサービス目標へ
の評価により,意志決定層に向けてのアピールが可
能ではないでしょうか。
■かく言う弊誌でも,読者のみなさまからのご意見
を伺うアンケート調査を毎年10〜11月に行ってい
ます。今号発行のころにはすでに今年の調査は終了
し集計作業に入っておりますが,この結果をもとに,
よりよい雑誌作りをめざしたいと思います。(TM)
『情報管理』誌では,国の内外から広く投稿原稿を受け付けています。日ごろのご研鑽の成果を執筆
されて,本誌に発表されることをお待ちしております。
□次号予定
●テキストマイニング技術の特許分析・特許検索実務への活用:特許検索・分析サービス パテント・インテ
グレーション
●エコロジーエクスプレスの運営とサイトリニューアルでの施策
●サイエンスリンケージによるJST事業成果分析(前編)
情報
管理
JOHO KANRI
Journal of Information Processing and Management
科学技術振興機構
vol.52 no.9 December 2009
●編集委員会
<委員長>門田博文(科学技術振興機構)
<副委員長>大倉克美(科学技術振興機構)
<編集委員>
小河邦雄(大正製薬㈱)・小川裕子(㈱日立技術情報サー
ビス)・小林良子(㈱日本能率協会総合研究所)・野坂美
恵子(東京医科大学図書館)・青山幸太・安部耕造・國岡
崇生・黒田明子・黒田雅子・佐藤恵子・土屋江里・野田
口真也・長谷川貴之・余頃祐介(以上科学技術振興機構)
2009年12月1日発行(月刊)
年間購読定価 本体 ¥13,650(税込)
1部定価
本体 ¥1,260(税込)
編集・発行
独立行政法人 科学技術振興機構
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
「情報管理」編集事務局
Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8470
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