Project Next-LとNext-L Enju

PRINT ISSN 0021-7298
ONLINE ISSN 1347-1597
第54巻第11号平成24年2月1日発行(毎月1回1日発行)
情報管理
JOHO
KANRI
Journal of Information Processing and Management
月号
February
2012
法律事務所における法情報統括部門
「ロー・ライブラリアン」の役割
企業資料の保存と活用
山一證券資料を中心に
国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
知の共有を目指して
Project Next-LとNext-L Enju
日本初のオープンソース統合図書館システムの開発と現状
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を
指標とした特許の価値評価に関する一考察
連載:
統計情報活用への招待
第8回 住宅・建築物・土地の公的統計
vol.54 no.11
p.699-786
http://johokanri.jp/
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
法律事務所における法情
報統括部門
「ロー・ライブ
ラリアン」
の役割
699
清沢由美
707
伊藤正直
715
中山正樹
725
原田隆史
■西村あさひ法律事務所における法情報の収集,管理および提供の現状と
課題について,情報共有を統括するロー・ライブラリアンの視点から考
察します。守秘義務や案件間の情報遮断に配慮しつつ,質の高い情報提
供や情報共有化をめざす社内ポータルサイト「Law Librarianの部屋」構
築の事例は,法律事務所にとどまらず,さまざまな組織で情報管理を扱
う担当者にも多くの示唆を含んでいます。
企業資料の保存と活用
山一證券資料を中心に
■企業は私的な存在であると同時に社会的存在でもあり,企業資料の価値ははかり
しれません。東京大学経済学部資料室最大のコレクションである,山一證券資料
の受入に至る事情と整理,目録作成,公開に向けての14年間の軌跡をたどり,そ
れらの資料の学問的意義について論じます。
国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
知の共有を目指して
■国立国会図書館(NDL)のデジタルアーカイブ構築の現状と,
「知識の共有化」が
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目指す「新たな知識の創造と還流」に向けた活動の方向性について述べます。
なおNDL内外の情報に対する統合的な検索サービスとなる国立国会図書館サー
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チ(NDL Search)は,システムのベースとしてNext-L Enjuを使用しています。
Next-L Enjuについての詳細は,本号の「Project Next-LとNext-L Enju」の記事を
お読みください。
Project Next-LとNext-L Enju
日本初のオープンソース統合図書館システムの開発と現状
■Project Next-Lのもとに開発されたシステムNext-L Enjuは,オープンソースによる
図書館システムの仕様を図書館員が共同で作成したもので,誰でも自由に利用で
き導入する機関が広がりつつあります。Next-L EnjuはWeb2.0に対応した各種の
新機能を備えており,図書と電子ジャーナル等電子的情報資源,機関リポジトリ
を一元的に管理できる新しいシステムです。今後の展望まで含めて紹介します。
目次
月号
February
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用
情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
738
三原健治
750
浅田昭司
759
飯野由里江
761
大久保公策
767
名和小太郎
770
大谷卓史
774
安藤俊幸
779
古谷 実
■バイオテクノロジー分野の特許審査官としての経験から,特許の価値評価につい
て問題点を検証し,考察しました。バイオテクノロジー分野においては体系的な
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特許分類が確立していないので,分類情報の利用には慎重を期すべきであること,
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引用についても,学術論文や特許の引用パターンは一般化できないくらい複雑な
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ものだと認識する必要があることを指摘します。
連載:
統計情報活用への招待
第8回 住宅・建築物・土地の公的統計
■住宅・建築物・土地に関する統計は,住宅設備機器,建材メーカーをはじめとす
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るさまざまな企業にとって,関連製品の市場規模を把握する上で有用な情報源で
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す。今回は,この分野の主要な統計の概要やそれぞれの統計の特色,活用事例を
概説します。
リレーエッセー:
インフォプロってなんだ?
私がインフォプロに期待すること 第33回
視点:
情報の運用論(その3)
ランダム・ウォーク半世紀:
60年前-現在:コピー,あれこれ
過去からのメディア論:
技術変化のパターン
混沌から規制へ?
この本!∼おすすめします∼:
「特許情報解析」入門の手引き
図書紹介:
『図書館活用術 新訂第3版 情報リテラシーを身につけ
るために』
780
情報界のトピックス
785
PINUP
786
編集後記
vol.54 no.11
JOHO KANRI 2012
Journal of Information Processing and Management
Contents
February
KIYOSAWA Yumi
Roles of Law Librarian , the legal
information management division in
our law firm
699
The conservation and utilisation of corporate documents
and records
In the case of Yamaichi Security Company which had failed in
1997
707
ITOH Masanao
Building digital archives by the National Diet Library
Toward knowledge sharing
715
NAKAYAMA Masaki
Overview of Project Next-L and Next-L Enju, the first open
source integrated library system in Japan
725
HARADA Takashi
Considerations on patent valuation based on patent
classification and citation in biotechnological field
738
MIHARA Kenji
Series:
750
ASADA Shoji
759
IINO Yurie
761
OKUBO Kousaku
767
NAWA Kotaro
770
OTANI Takushi
774
ANDO Toshiyuki
779
FURUYA Minoru
Guide to effective use of statistics
Part 8: Official statistics on housing, buildings and estate
Relay essay:
What I do, study, and think as an information professional (33)
What I expect from information professionals
Opinion:
Pragmatics of the information (3)
Random walk for a half century:
Copying, past and present
Seeing current media retrospectively:
From anarchy to rules
Is there any pattern of commercialization of technology?
My bookshelf:
Introductions to patent information analysis
New book:
780
Topics of the information community
785
PINUP
786
Editor's note
法律事務所における法情報統括部門「ロー・ライブラリアン」の役割
法律事務所における法情報統括部門
「ロー・ライブラリアン」の役割
Roles of Law Librarian , the legal information management division in our law firm
清沢 由美1
KIYOSAWA Yumi1
1 西村あさひ法律事務所 法務部 ロー・ライブラリアン(〒107-6029 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル)
Tel : 03-5562-8500 E-mail : [email protected]
1 Law Librarian, Legal Affairs Department, NISHIMURA & ASAHI (Ark Mori Building 1-12-32 Akasaka Minato-ku, Tokyo 107-6029)
原稿受理(2011-12-12)
情報管理 54(11), 699-706, doi: 10.1241/johokanri.54.699 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.699)
著者抄録
大規模な法律事務所において必要となる法情報の「収集」
,「管理」および「提供」の現状と課題について,情報共有
を統括するロー・ライブラリアンの視点から考察する。イントラネット上に開設した,法情報,知識,ノウハウをデー
タベース化したポータルサイト「Law Librarianの部屋」の内容を,守秘義務,案件間の情報遮断に十分配慮しながら充
実させ,よりユーザーフレンドリーなものに発展させるためには,データベースの運営者と利用者の連携が欠かせな
い。また昨今の海外案件の増加に伴い,諸外国の法制度等の情報の重要性も高まっており,これらの情報を充実させ
ることが直近の課題である。
キーワード
法律事務所,法情報統括部門,ロー・ライブラリアン,情報源,データベース,情報共有,守秘義務,情報遮断,チャ
イニーズ・ウォール
1. はじめに
言ではない。筆者の所属する西村あさひ法律事務所
(以下,
「当事務所」という)は,450名を超える所属
法律事務所あるいは弁護士という言葉から連想す
弁護士の他に,税理士,弁理士,パラリーガル,秘書,
るものは何かと聞かれたら,ほとんどの人は,法廷で
管理部門スタッフ等を含めると,総勢1,000名を超え
の裁判の光景を思い浮かべるのではないだろうか。し
るわが国最大の法律事務所である1),注1)。提供する法
かし実際のところは,法律事務所の規模も,弁護士
律サービスも,ビジネスのあらゆる局面で行われる
の活躍するフィールドも多種多様であるが故に,特
ほか,法令の制定過程への関与や研究・教育活動など,
に都市部に所在する法律事務所の弁護士にとっては,
多岐にわたっている。また,近年は,拡大するアジ
法廷以外の活躍の場の方がむしろ多いといっても過
ア地域あるいはB R I C S等の新興国への事業進出や投資
699
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
February
活動に関わる案件に有機的に対応できる体制を整え
法律事務所の業務で必要とされる法情報はこれだけ
るため,中国(北京)
,ベトナム(ホーチミン,ハノイ)
にとどまらない。頻繁に改正される法令について解
にも海外事務所を開設している注2),いわば百貨店の
説された文献はもちろん,法令を所管する主務官庁
ような法律事務所である。
の見解も,重要な解釈指針であるし,効率的に業務
このような規模の法律事務所において,より質の
を進めるためには,事務所内で蓄積された成果物も
高い法律サービスを提供するためには,常に最新の
欠かせない法情報である。例えば,法令に則って実
法情報を整理する枠組と,さまざまな法分野を俯瞰
際に主務官庁に提出した書面や,過去に知恵を絞っ
して交通整理する部署が欠かせない。こうした実務
て作成した契約書,法令リサーチの結果をまとめた
上の需要が高まる中,「ロー・ライブラリアン」構想
メモランダム等も,その後の案件業務において重要
は,当事務所の人的物的拡大の途において,法情報
な先例・サンプルとして参照することになる。
のコンシェルジュとなる部署を組織化することを目
さらに,国境を超えたクロスボーダー案件におい
指して2004年に発足した。現在は,クライアントか
ては,諸外国の法情報の概要や動向,また,海外の
ら依頼される案件等の業務のほかに,主として法情
法律事務所の専門家とのコネクションといった,法
報の収集,保管,管理の業務を行う弁護士およびス
情報の枠を超えた間接的な情報の需要も自ずと高
タッフ3名に加え,常時10名程度の協力スタッフによ
まっている。
り,「ロー・ライブラリアン」というセクションを運
2.2 情報共有
営している。
2.2.1 西村あさひ法律事務所における法情報のポータ
2. 情報共有と情報遮断とのジレンマ
ルサイト「Law Librarianの部屋」
業務に必要となる種々様々な法情報が,あちらこ
2.1 法律事務所の業務で必要とされる法情報
法情報の最たるものは,法令と判例である。しかし,
ちらに点在していることは非効率的であり,共有す
べき情報への入り口は1か所にまとまっていることが
図1 法情報のポータルサイト「Law Librarianの部屋」
700
法律事務所における法情報統括部門「ロー・ライブラリアン」の役割
望ましい。このようなニーズから,当事務所は,イ
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タベース化したポータルサイトとして「Law Librarian
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の部屋」
(図1)と題するページを開設している2)。
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「Law Librarianの部屋」には,あらゆる検索系デー
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タベースへの入り口を置いているほか,実例,サン
プル,所内外の勉強会情報,諸外国の法情報,所属
する各弁護士の専門分野,外部の専門図書館の案内
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「ロー・ライブラリアン」構想が動きはじめた当
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初,リサーチ・ツールのリンク集と,ロー・ライブ
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実例の公開のみで発足した「Law Librarianの部屋」も,
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今は相当な情報量となり,体系目次だけでも大部に
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わたるものとなった。
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情報共有にあたっては,例えば以下のような取り
組みを行い,常に,利用者のニーズをくみ取って情報
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うにページのメンテナンスを行っている。
㩿䉣㪀ౝㇱⷙ⒟㩷
㩿䉥㪀ฦ⒳ቭᐡឭ಴ᦠ㘃㩷
(1)EDINET(Electronic Disclosure for Investors'
㩿䉦㪀ฦ⒳㔇ᒻ䊶᭽ᑼ㩷
N E T w o r k:金融商品取引法に基づく有価証券報告書
㩿䉨㪀ᩣਥ✚ળ㑐ㅪ㩷 㩷
㩿䉪㪀ᗧ⷗ᦠ㩷
等の開示書類に関する電子開示システムのデータ
㩿䉬㪀㩷 㵺㵺㩷
ベース)やTDnet(Timely Disclosure network:証券
㩿䉮㪀⧷ᢥ᜗㓸ㅢ⍮ታ଀㩷
㩿䉰㪀᩺ઙ䊋䉟䊑䊦㪄䊐䉜䉟䊅䊮䉴㩷
取引所の規則に基づく適時開示情報伝達システムの
㩿䉲㪀㔚ሶ౏๔ታ଀㩷
データベース)で提供されている公開情報も,一部
㩿䉴㪀ᢜኻ⊛⾈෼㑐ㅪ㩷
㪋㪅㩷
㩿䉟㪀ᣂੱᑯ⼔჻䉶䊚䊅䊷㩷
スを独自に作成している注3)。
㩿䉡㪀ᴺോ䉶䊚䊅䊷㩷
㩿䉣㪀⒁ᦠ䉶䊚䊅䊷㩷
㪌㪅㩷
スについては,それぞれの特徴を理解して目的に応じ
(3)ニーズが高いテーマについては,具体的案件の
有無に関わらず,あらかじめ定期的に文献を収集し,
当該リストを公開することにより,同じ内容のリサー
ᄖㇱ䈎䉌䈱ᖱႎ㩷
㩿䉝㪀ᚲᄖ䉶䊚䊅䊷㩷
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て使いこなせるようTipsを紹介する等,単なるリンク
集以上に利用しやすくする工夫を施している。
ᚲౝീᒝળ䌾䊁䊷䊙䋧⾗ᢱ㩷
㩿䉝㪀ቯ଀ീᒝળ㪆න⊒ീᒝળ㩷
検索ができるよう,付加価値を付した所内データベー
(2)複数ある法令・判例・文献の外部の検索データベー
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収集し,それをわかりやすい画面構成で提供できるよ
の書類については,当事務所の業務ニーズに即した
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等,業務に必要な法情報を体系的に整理して提供し
ラリアンの手元に蓄積されていた,わずかな分野の
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図2 「Law Librarianの部屋」目次
チが所内で繰り返されない工夫をしている。
701
情報管理
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Journal of Information Processing and Management
(4)増加の一途をたどる法情報をツリー構造のペー
ルの照会,資料の存否等の個別相談も受け付けてい
ジに整理した結果,重要なページが埋もれてしまっ
る。そのため,所内図書室蔵書のレファレンスを担
て見逃されることのないように,アクセス数の多い
当する図書スタッフとの連携は特に重要であること
ページをまとめたリンク集をポータルサイトのトッ
から,執務スペースも,所内図書室の近くに置かれ
プページに置く。
ており,密に情報交換を行っている。
2.2.2 他部署との連携
2.3 情報遮断(チャイニーズ・ウォール)
情報共有の前提となる情報収集,とりわけ,所内
法律事務所における情報共有を考慮するにあたっ
外で開催される勉強会資料や有用で汎用性のある書
て,細心の注意を払わなければならないのが,情報
類サンプルを提供してもらう等,所内データベース
遮断(チャイニーズ・ウォール)を徹底すべき案件
構築の基礎となる情報収集にあたっては,他部署と
に関する情報や,当該案件で作成された書面の実例
の連携も欠かせない。
やサンプル等の取り扱いである。
当事務所のように大規模な法律事務所では,業務
ここで,法律事務所における「チャイニーズ・ウォー
効率化のため,当然,各弁護士に業務上の専門分野
ル」がなぜ必要となるか簡単に説明する。そもそも
(コーポレート,ファイナンス,事業再生/倒産,リ
弁護士は,双方代理や利益相反等に該当する事件を
ティゲーション(争訟),危機管理等)が存在するが,
受任することはできないが(弁護士職務基本規程27
特定の分野だけの情報にしか触れない,または,他
条,28条),これを徹底するために,複数の弁護士が
の分野の情報が得られないという,悪しきセクショ
法律事務所を共にする共同事務所に所属する弁護士
ナリズムに陥ることがないよう,どの分野に所属す
同士が,これに該当する案件を受任することも禁止
る者も,あらゆる分野の専門情報にたどり着くこと
されている(同規程57条本文)。もっとも,そのよう
ができるデータベース作りを目指している。これを
な場面でも,
「職務の公正を保ち得る事由がある」(同
実現するため,弁護士,パラリーガルはもちろんの
規程57条但書)として当該受任に問題がないと整理
こと,事務所内の広報室,国際業務推進委員会等の
することができる場合に限って当該案件を受任する
協力を得て,提供される情報を,いったんロー・ラ
ことができる。これにふさわしい状況を作り出すた
イブラリアンの元に集積し,これを,適切な枠に分
めに必要となるのが,案件担当者間に設定される「情
類し,
共有できる形に加工して提供している。その際,
報遮断の壁=チャイニーズ・ウォール」なのである。
ハード(紙媒体)で保管するもの,ソフト(データ)
当事務所では,実際にクライアントから依頼された
で保管するもの,そのうち印刷制限を付してデータ
案件受任にあたって,コンフリクト(利益相反)に
保管するもの等の仕分けも行っている。例えば,業
関する所内ルールおよび指針に基づき,事前にコン
務分野ごとに定期的に開催される所内勉強会は,ど
フリクト調査を行い,コンフリクトのおそれがある
の部門に所属する者にも門戸を開き,そこで議論さ
受任の可否を検討し,受任する場合は,厳格なウォー
れた内容や配付資料は,一元的にロー・ライブラリ
ル・マニュアルに基づきウォールが設定される。そ
アンが管理することにより,当該勉強会への参加の
して,ウォール設定の実効性確保等,職務の公正性
有無に関わらず,バックナンバーを検索し,議論の
確保が適切に行われるよう,所内にコンフリクト委
内容や資料にたどり着くことができるようになって
員会,ウォール管理者等の責任部署も置かれ,組織
いる。
的に対応している。
また,ロー・ライブラリアンは,リサーチ・ツー
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February
ウォール設定案件で作成される書面は,システム
法律事務所における法情報統括部門「ロー・ライブラリアン」の役割
的に案件担当者のみがアクセスできる共有フォルダ
令リサーチにおいても重要なポイントである。この
に保存されることとなるので,アクセス権のない案
うち,「Who(誰が)」「When(いつ)」「Where(ど
件担当者以外の者は,当該案件に関する一切の情報
こで)
」は,法律事務所におけるリサーチに使用する
から排除されることになる。また,高度に秘密性の
ための情報データベースを作成するにあたって,特
高い案件においては,案件の存在自体が秘密情報と
に留意する必要があると考えられる。
なる場合もあり,その場合には,架空のクライアン
第1に「W h o(誰が)」
。法令の解釈1つをとってみ
ト名で案件が進むため,案件担当者とウォール設定
ても,判例の見解か,法令を所管する省庁の立案担
の対象となる案件の責任者,ウォール管理者といっ
当者の見解か,権威ある学者の見解か,実務家の見
た極めて限定された者以外,その存在すら公になら
解か,その中でも当事務所内の検討結果に基づく見
ないものもある。ウォール・マニュアルには,所内
解か,によって,どの程度依拠してよい解釈なのか,
での情報共有活動における配慮についても規定され
その信頼度には自ずと差がある。そのため,情報源
ている。また案件情報が,案件進行中に所内勉強会
が明確に表示されているか否かは,データベース作
での議論や案件担当者以外の弁護士等への個別質問
成の肝といっても過言ではない。
等により漏洩することがないルール作りがなされて
次に「When(いつ)」
。法令も,
法令の解釈や運用も,
おり,マニュアルに違反した場合の罰則も存在する。
時代の流れに即した形になるよう,常に改正,改訂
もっとも,ウォール設定案件において作成された
を繰り返し,変遷していく。従って,数か月前のス
有用な書面や,得られたノウハウが,永遠に案件担
タンダードが通用しないこともしばしばである。直
当者しか共有できない情報となることは惜しいこと
近では2011年3月の東日本大震災後,大震災以前から
であり,当該ウォール設定案件終了後に受任した類
あった多くの分野の法令が改正され,新たに多くの
似の案件で参考にする手段さえないのは,業務上,
法令が公布された。これは極端な例であるが,1つの
非効率的である。そのため,ウォール設定案件につ
法令の改正が,連鎖的に多くの法令に影響すること
いては,案件終了後,一定のルールに則り,共有フォ
は一般的に起こりうる。また,長く続く大型案件や
ルダへのアクセス制限が解除され,案件担当者から,
訴訟では,案件開始当初あるいは訴訟の対象となる
ロー・ライブラリアン等への情報提供も可能となる。
事実が発生した時点の法令が,案件の途中あるいは
また,ウォール設定案件に限らず,案件進行中は
訴訟進行中に改正されることもしばしばである。そ
文書にパスワードを設定する等,守秘義務には最善
のため,どの時点の法令が適用されるか,どの時点
の注意が払われている。案件終了後に不要になった
の法令の解釈を調べるか,という観点は非常に重要
パスワードが解除され,ロー・ライブラリアンに提
となる。古い法令解釈通達が必要となることもあれ
供された書面についても,提供者の指示する方法で
ば,最新の六法でもカバーされていないごく最近の
当事者名を削除するなど,必要な措置が施された上
改正に関する資料が必要となることもある。古い資
で,注意深く情報共有を行っている。
料を追いかけることには限界もあるが,最新の法令
の動向に遅れをとることがないように,主要法令に
3. ユーザーフレンドリーな所内データ
ベースの構築
ついては,公布済未施行法令,成立前の国会審議中
の法令,国会提出前の省庁審議中の法令の動向にも
目を配り,常に,鮮度の高い法令の情報が得られる
3.1 情報源の明確化と情報の鮮度
教育現場で文法の指導に登場する「5W1H」は,法
環境を目指している。
さらに「W h e r e(どこで)
」。まったく同じ法令が
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適用される場面でも,案件特有の性質によって,必
リサーチ・ツールをどれほど充実させても,それ
ずしも同じ運用が通用しないことがある。これは,
が使われることがなければ宝の持ち腐れとなってし
法律実務家にとっては,ある意味常識であるが,所
まう。また,どんなに熟考して法情報を整理する枠
内データベースにも,各所にその注意喚起を表示し
組を作ったとしても,情報自体が集まらないことに
ている。
は陶犬瓦鶏のそしりを受けてしまう。
そこでまず,「運営者」であるロー・ライブラリア
3.2 多種多様なインターネット上のデータベース
の検討
ンは,ポータルサイト内の情報をより快適に,より
多く利用してもらうため,主として,新人弁護士や
法情報のリサーチにおいて,インターネットの利
パラリーガルを対象として,リサーチ・ツールを使
用は欠かせない。判例,法令等を検索するデータベー
いこなす方法を解説するセミナーを定期的に開催す
スも,公開企業の開示する公衆縦覧書類のデータベー
るほか,トピックとなるような更新をした際には適
スも,インターネット上に有料無料を問わず多数存
宜お知らせのメールを送信している。また日々,弁
在するため,その中から,当事務所に必要十分とな
護士およびパラリーガルを中心とした「利用者」か
るデータベースを選別して,有料のものについては
ら寄せられる,データベースやリサーチ・ツールの
適当なI D数を確保することが必要となる。当事務所
個別質問に回答し,ポータルサイト内の最新情報の
は,有料の法情報データベースの導入および解約の
普及を図っている。また,「利用者」は「運営者」か
是非について,まずロー・ライブラリアンが検討し,
らの協力の呼びかけに応じ,日々の業務で有用と考
その検討結果を,図書室蔵書の選書や図書室運営に
えられる資料や書面,法令の主務官庁等への問合せ
ついて所管する図書委員会に諮って,最終的な決裁
で得られた情報やノウハウを提供したり,共有すべ
を得ている。
き法情報を提案する等,活発な交流を繰り返すこと
そして,導入したデータベースの利用者が快適に
使用できるようにするため,特に,一部のデータベー
により,所内データベースを深化させている3)。
また,当事務所では,弁護士またはパラリーガルが,
スにおいて,同時アクセスにより先利用者が後利用
「お尋ねメール」と称して,全弁護士または全パラリー
者のアクセスにより当該データベースから追い出さ
ガル宛に,業務上の疑問点に関する意見や参考にな
れることがないように,当事務所の情報システム課
りそうな情報・資料の提供を求めるメールを送信す
が外部業者とともに,有料の法情報データベースの
ることがある。「お尋ねメール」で質問された内容は,
ログインシステムを統括するシステムを構築してい
多くの弁護士またはパラリーガルにとっての関心事
る。その統括システムを通じて,複数のI Dを取得し
であることも多いため,
「お尋ねメール」の送信者に
ている法情報データベースにアクセスすると,他の
対し,ロー・ライブラリアンがインタビューするこ
所員が使用中のI Dを除いたその時点で利用可能なI D
とにより,その際寄せられた回答を追跡し,可能な
が,自動で割り振られるように設計されている。
範囲で,Q & A形式で,どんな回答が寄せられたかを
共有できるデータベースを作成している。
3.3 ロー・ライブラリアンと法情報利用者との活
発な交流
4. 今後の展望
法情報のポータルサイトの「運営者」と「利用者」
が分断された環境では,より良いデータベースを維
持することができない。
704
昨今,日本企業の海外進出や,海外の企業の日本
進出を法的側面からサポートする案件が急増してい
法律事務所における法情報統括部門「ロー・ライブラリアン」の役割
る。とりわけ,英語圏以外の新興国への進出が旺盛
是非の見直しといった根本的な発想の転換も必要と
であり,現地の法令概要や現地の法律事務所とのコ
なってくる。
ネクションの情報を収集することが急務となって
ところで,現在,当事務所内で作成している主要
いる。これらの情報を整理する枠組として,
「L a w
な法情報データベースの枠組は,ほぼすべて,市販
L i b r a r i a nの部屋」に,諸外国の法制度(法分野ごと
のW e bデータベースソフトを利用している。情報収
に法令または法制度の概要を日本語または英語で説
集作業そのものが利益を生むものではないため費用
明した,いわゆるDoing Business)の資料をインター
対効果の観点からシステム開発コストを最小限に抑
ネット上あるいは他のソースから独自に収集して国
えたいという消極的な理由もあるが,実は,市販の
ごとにまとめたデータベースや,当事務所がアポイ
W e bデータベースソフトも日々進化しており,かな
ントすることが可能あるいは人材交流履歴のある海
り性能の良いものが増えてきているため,それで一
外法律事務所をGoogle Map(所内限定公開設定)を
定の水準には達しているというのが,大きな理由で
使って地図上で表示するページを作成する等の対応
ある。今後数年のうちに,当事務所のシステム全体
をして情報を共有している。今後,所内の国際業務
のリニューアルが予定されているので,それまでに,
推進委員会,外国事務所交流委員会等の他の部署と
現状利用している市販のW e bデータベースソフトの
連携して,内容をさらに充実させていくことが必要
問題点を洗い出し,さらに便利なデータベース構築
となる。
を目指したい。
また,限られた執務スペースと,限られたサーバー
最後に,法情報データベースのさらなる発展に必
容量の環境の中で,増加の一途をたどる資料をいか
要な最善最良のアイテム,それは「人」に尽きる。
に効率良く保管していくかの検討も急がれる。現在
新たなテーマで所内データベース作成の企画をしよ
は,当然のことながら著作権に配慮しつつ,情報提
うとするとき,まずもって検討されるのは,誰が情
供者の指示や利用者の利便性を重視して,同じ資料
報のとりまとめ役となり,誰から情報を入手するの
をハード(紙媒体)とソフト(データ)の両方で保
がよいかであり,これが企画の成否にとって非常に
管しているものも多数ある。今後は明確なルールを
重要である。ロー・ライブラリアン担当者には,法
設け,いずれかによる保管に限定していくことも選
情報に関する知識ももちろん必要だが,最も必要な
択肢の1つとなろう。また,市販のデータベースの中
のは,もしかしたら,柔軟な発想やコミュニケーショ
には,各自の端末から,雑誌記事本文や資料のPDFファ
ン能力かもしれない。詳しい知識やノウハウを持っ
イルを入手できるものも増えてきており,この種の
ている人が,気持ち良く,また,それほど面倒を感
データベースを有効利用することにより,過去の資
じることなく,情報を提供してくれる環境を作るこ
料やバックナンバー全部を常に保存しておくことの
とに,これからも尽力していきたい。
本文の注
注1) Asian Legal Businessの「The ALB 50-Asia's Largest Law Firms」(2010年)によればアジアで第7位。
注2) 2012年1月にシンガポールにも海外事務所を開設予定。
(西村あさひ法律事務所. シンガポール事務所開設のお知らせ . http://www.jurists.co.jp/ja/topics/
others_11428.html, (accessed 2011-12-19))
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注3) 例えば,合併等の企業再編に際して会社法に基づき会社に備置される書面,公開買付けに関連して金
融商品取引法に基づき提出される書面,敵対的買収防衛策等について,各案件の特徴を説明する記載
を加えるなど,付加価値を付けたデータベースを独自に作成している。
参考文献
1) 西村あさひ法律事務所. 事務所について−概要 . 西村あさひ法律事務所. http://www.jurists.co.jp/ja/firm/
outline.html, (accessed 2011-12-19).
2) 保坂雅樹, 梅林啓, 小口光, 古角和義. Lawyers Guide 2012 西村あさひ法律事務所. Business Law Journal.
2011, no. 45, p. 22-25.
3) 清沢由美. 法情報と知恵のポータルサイト Law Librarianの部屋. Business Law Journal. 2009, no. 10, p. 3234.
Author Abstract
This article discusses the present situation and future prospects of collection, management, and provision
of legal information in large law firms, through the perspective of Law Librarians, who manage the internal
sharing system of legal information in our firm. To improve and enhance the contents of Law Librarian's
Room, which is open and accessed through the firm's intranet as a portal website with databases containing
legal information, know-how, and other knowledge, and to develop it into a more user-friendly system with
sufficient attention given to maintaining client information as confidential and maintaining Chinese walls, it
is necessary to establish cooperation between database managers and users. According to the current trend
of increase in international transactions, information on legal systems of foreign countries has become more
important than ever, so enhancing the contents of this information on our firm's database is now one of the
major tasks to be undertaken.
Key words
law firm, legal information management division, law librarian, information resource, database, information
sharing, confidentiality obligation, Chinese wall
706
企業資料の保存と活用
企業資料の保存と活用
山一證券資料を中心に
The conservation and utilisation of corporate documents and records
In the case of Yamaichi Security Company which had failed in 1997
伊藤 正直1
ITOH Masanao1
1 東京大学大学院経済学研究科(〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1)
1 Graduate School of Economics, The University of Tokyo (7-3-1 Hongo Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033)
原稿受理(2011-11-30)
情報管理 54(11), 707-714, doi: 10.1241/johokanri.54.707 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.707)
著者抄録
東京大学経済学部において,企業・団体・個人資料等の収集・保存・管理・公開の任にあたっている経済学部資料室
について,現在に至るまでの推移,現時点での役割と機能について紹介する。また,資料室の最大のコレクションで
ある山一證券資料に関して,その受入からその後の公開,出版に至るおよそ 14 年間の軌跡と,その過程で生起したさ
まざまな課題について明らかにし,山一證券資料の概要とその学問的・社会的意義についても論じる。
キーワード
東京大学経済学部資料室,山一證券,企業資料,公文書管理法,証券市場,証券会社,金融政策,アーカイブ,記録
管理
1. はじめに
後は公文書の保存・管理が法の示すところに従って
厳格に行われていくかどうかは,実際にはやや懸念
2011年4月1日,公文書管理法(公文書等の管理に
なしとしないが,作成された文書・資料の保存・管
関する法律)が全面施行され,政府,中央官庁,独
理の枠組みは,この法制定によって,ともかくも定
立行政法人などの文書管理に関する基準が明確に
まったということができる。法の制定から施行まで
なった。同法は,一言でいえば,
(1)公的機関は文
2年近くを要したが,こうした役割を担う中核的な機
書をきちんと作成する,
(2)作成した文書は勝手に
関としての国立公文書館と各省庁との関係も明確に
捨てない,(3)残すべき文書は永久保存する,とい
され,省庁ごとに公文書管理の実施細目が作成され
う3つの原則を,さまざまな手段を用いて確保する仕
たのである。
組みを定めたものである。この公文書管理法の理念
以上のように,公文書については,現在,その保存・
や精神が十全に受け入れられるかどうか,また,今
管理に関して一定の基準が存在する。しかし,私文
707
情報管理
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書である企業文書については,そうした基準は存在
力を積み重ねてきた。東京大学経済学部図書館は,
しない。
「私企業が,その業務遂行上の必要から作成
第二次大戦以前から,企業の営業報告書の体系的収
した文書は,その業務が完了した時点では使用済み
集に努めてきており,企業資料の保存もその延長線
の不要文書となる,そうした文書の保管・廃棄につ
上に位置づけられている。現在では,経済学部資料
いては企業の自主的判断に一任されるべきである」
室には数多くの企業資料が保存・管理されるように
という,ある意味では当然の考え方は,これまで多
なっており,そのうちの最大のコレクションが山一
くの企業で共有されてきた。とはいえ,企業は,私
證券資料である。そこで,まず,2章で,経済学部資
的存在であるとともに社会的存在でもある。さまざ
料室の概要を簡単に紹介し,3章で,山一證券資料の
まな関係を,企業同士,企業と政府,地域社会,消
受入に至る事情と受入資料の概要を説明し,4章で,
費者との間で取り結んでおり,企業の内部でも,生産・
山一證券資料の保存・管理と公開に向けての努力,
流通システムや財務システムと関係した労使関係や
および受入資料の学問的意義を考えることとしたい。
労務統轄の仕組みを作り出している。企業の社会的
責任,情報公開,コーポレート・ガバナンスといっ
2. 東京大学経済学部資料室の概要
た言葉は,今日幅広く共有されるようになっており,
企業文化,企業理念といった言葉も一般的となって
いる。
のは1954(昭和29)年のことであるが,実際には,
企業活動のそうした諸側面を正確に把握するため
沿革はさらに遡って,法科大学から経済学部が独立
には,企業が行っている活動の記録である企業史料
した1919(大正8)年当初から,商業資料文庫とし
をひもとくことがまず必要になるだろう。それは,
て,会社の定款や営業報告書の収集を行っていた。
その企業に関心をもつ外部のものにとってだけでな
これらの資料は,1923(大正12)年の関東大震災に
く,企業自身にとって,より必要であるだろう。また,
よってすべて烏有に帰したが,その後,収集を再開し,
さらに,バブルやバブル崩壊という企業環境の激変
当時の記録によれば,
「従来からの営業報告書のほか,
のなかで,経営資源として企業文書を利用していこ
官庁,経済団体,企業等の刊行物を広く組織的に蒐
うという考え方も最近では強まっている。こうした
集することとなった」。こうして戦前に収集した営業
視点に立ちながら,欧米では,戦前から企業史料保
報告書は1,000社以上にのぼった。
存の運動が展開されてきており,日本でも30年ほど
資料室は,戦後も引き続き同様の業務に従事した
前から,企業史料協議会という組織がつくられ,企
が,組織名称は,資料室,資料掛,資料係など図書
業史料の保存と活用に向けての努力が積み重ねられ
館内の組織再編に合わせ幾度か変更した。その後,
てきた。しかし,企業のこうした試みは,景気の動
1966(昭和41)年の経済学部の新館竣工に伴い,経
向に左右されがちであったし,企業内文書について
済学部図書館は新館に全面移転し,図書館資料室は
の位置づけも,必ずしも広範な企業に共有されたわ
産業経済研究施設所属となり,従来の営業報告書だ
けではなかった。
けでなく,国内資料,官庁資料の収集,国内民間刊
上述のような背景の下で,東京大学経済学部図書
行物の収集,国内資料目録や外国資料目録の刊行な
館(現,経済学図書館)はかなり以前から,これま
どを行うようになった。この時期に刊行された資料
で廃棄されたり,散逸したりされがちであった企業
目録類のごく一部を挙げてみると,およそ以下のよ
資料,団体資料,個人資料をなんとか一部でも保存
うになる。
したいという望みを抱くようになり,そのための努
708
東京大学経済学部図書館内に資料室が設置された
『東京大学経済学部研究室所蔵 社史・実業家・伝
企業資料の保存と活用
記目録(和書主題別目録1)』,『東京大学経済学部所
開発の実践的活動を行うことを任務とする」という
蔵 都道府県統計書目録(和書主題別目録3)
』,
『資
新たな規則が制定され,経済学部図書館は,本体の
料 目 録 1960年 後 期 ∼1965年 前 期 受 入 分 国 内 資
経済学図書館とその下にある経済学部資料室に再編
料』
,『東京大学経済学部所蔵 地域経済資料目録−
された。2010年に策定された「東京大学の行動シナ
地方自治体資料を中心として−1967年9月』,『東京大
リオF O R E S T2015」(経済学研究科の項)も,
「平成
学経済学部所蔵 明治文献目録−経済学とその周辺
21年度に小島ホールが整備され,学内で最も資料保
−(和書主題別目録5)
』,『東京大学経済学部所蔵 営
存に関する環境が整っている。この環境を生かすべ
業報告書目録 戦前の部(和書主題別目録7)
』,
『東京
く,膨大な企業資料・労働資料の保存に関する調査・
大学経済学部所蔵 白木屋文書目録』,『東京大学経済
研究を進め,その成果を積極的に公開するとともに,
学部所蔵 浅田家文書仮目録』,『逐次刊行物一覧(和
学内外の機関や団体との協力体制を強化し,本学に
書の部)−年報告書・白書・統計書等−1988年7月現
おける経済関係の資料保存の中核施設となることを
在』
,
『石川一郎文書仮目録』,
『土屋家旧蔵文書目録』,
目指す」との課題設定を行った。こうして経済学部
『東京大学経済学部所蔵 特別資料「国労関係資料」目
資料室は,企業・団体・個人他の貴重な一次資料を
録』,
『大学院経済学研究科所蔵古貨幣コレクション』
蒐集・保管し,その整理・公開を進めることで,社
増補[版]
,『東京大学経済学部所蔵 特別資料「戦時
会や学界にこれまで以上に貢献するという新たな位
海運関係資料」目録』
,『東京大学経済学部所蔵 特別
置づけがなされた(図1)。
資料「濱田徳海資料」目録』。
これらの資料目録から判明するように,本資料室
3. 資料の寄贈を受けるまで
は,かなり早い時期から,企業や団体や個人の一次
資料の蒐集,保管と管理を行っていた。歴史的な経
このような資料室の経験と蓄積は,山一證券資料
済過程を正確に理解するにはこうした一次資料が
の受入と整理にも十分生かされた。すでによく知ら
不可欠である,と考えていたためである。さらに,
れているように,山一證券は,1997年11月24日営業
1990年代にバブルが崩壊し,日本経済の失われた10
休止の記者会見を行い,これが事実上の破綻宣言と
年が進行するという事態の発生は,これら一次資料
なった。当時,筆者は,同社より委嘱を受け,『山一
の包括的保存・管理の必要性を著しく大きくしたと
証券100年史』の執筆責任者としてその編纂にあたっ
いえる。成功の過程はしばしば回顧されるが,失敗
ていた。同社には,1958年に刊行された『山一證券
の過程は逆に封印されがちだからである。しかし,
歴史的教訓,経済的教訓は,失敗の過程からこそ学
⚵
ばれなくてはならない,この仕事の比重を高める必
要がある,体制を強化する必要があるという認識が
❱
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この時期に一層強まったのである。
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ኾ㐷ຬ
こうした時に,名古屋の小島精機から,東京大学
経済学部に「図書館振興のため」ということで,巨
額の寄付を受贈した。このファンドにより,小島ホー
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ルが建設され,資料室の移転が実現した。資料室の
移転に伴い,「資料室は,資料の収集・整理・分析・
情報サービスの提供,資料保存に関わる調査・研究・
ᢥᦠㇱ㐷
⾗ᢱㇱ㐷
⚻ᷣቇㇱ⾗ᢱቶ
図1 東京大学経済学部資料室の組織
709
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史』(60年史)があり,極めて優れた社史として内外
かについて,社内では必ずしも明確な方針は存在し
から高い評価を受けていた。また,1990年代の日本
ていなかった。当初検討された「O B会である山友会
経済は,80年代後半のバブル景気崩壊後の長期不況
に移管する」
,「継続の系列会社に移管する」などの
のただ中にあり,金融システム改革の必要性が叫ば
案はいずれも困難という結論となり,廃棄あるいは
れ,金融システム改革の重要な柱として,資本市場
焼却といった処分案さえ登場していた。
改革が提示されていた。これらのこともあって,筆
しかし,
『山一証券100年史』のために社内で収集
者をはじめとする執筆者たちは,かなり気合を入れ
された資料は,期間は創業時から破綻時点にまで長
て執筆に取り組み,歴代の経営陣,営業現場の責任
期間にわたっており,日本の証券市場や証券会社の
者や調査企画の担当者など100名近い現旧役職員への
歴史的・制度的分析にとって極めて有用なものであ
インタビューを行い,社内資料についても,極秘資
ることは明らかであった。また,1980年代末のバブ
料・現用資料も含めて,できる限り詳細かつ広範な
ル期,90年代のバブル崩壊期の証券市場,証券会社
蒐集を心がけた。百年史執筆メンバーによる原稿は,
経営の実態を明らかにし,金融政策・金融行政のあ
1997年夏にはほぼ完成していたが,11月の営業休止
り方や資本市場改革について必要な提言を行うため
とともに百年史編纂事業も中止となり,残念ながら
にも不可欠と考えられた。
『山一証券100年史』本史は刊行されないままに終わっ
これらの課題を達成するためにも,資料の廃棄は
た。実は同社の営業休止後,複数の大手出版社より,
絶対に防がなくてはならない,と決意したものの,
本史刊行の申し出があった。当時は種々の事情によ
問題は,ヒト・モノ・カネであった。残された資料
り刊行はかなわなかったが,極東書店と日本経営史
が膨大であったから,どこに保管するのか,整理に
研究所の尽力により,今回14年ぶりに本史が日の目
要するコストはどうするのか,そもそも整理・分析
をみることになり,2011年11月上下2巻,資料年表の
しうるスタッフはいるのか,といった問題を,ひと
1)
DVDという形で刊行された (図2)。
やや先回りしてしまったので,話を破綻時に戻し
つひとつ解決しなくては,受入は不可能であった。
幸い経済学部には図書館資料室が存在しており,
たい。同社の営業休止後,破綻直後の混乱もあって,
このような一次資料の受入や整理にはかなりの経験
百年史執筆のために収集された「社史資料」および
があった。先に挙げた資料目録にあるように,これ
経営資料など同社社内資料をどのように処置するの
まで経団連石川一郎文書をはじめ,旧日本製鐵文書,
旧第一銀行文書,旧横浜正金銀行文書,旧国労文書,
旧三菱経済研究所所蔵資料,白木屋文書,浅田家文
書などの寄贈をそれぞれ受け,有能なスタッフによっ
て,その整理や管理・運用が行われてきた。保管場
所についても,事務長その他の事務職員諸氏の積極
的協力により,しばらくは図書館書庫とあわせ事務
倉庫を借用することが可能となった。費用について
も,大学院特別経費の申請などいくつかの手段をと
ることが了解された。
こうして,いくつかの問題を短期間でクリアした
上で,1998年2月,経済学部図書館を通して山一證券
図2 『山一証券100年史』
710
の野澤正平社長宛に山一社内資料の寄贈依頼を提出
企業資料の保存と活用
した。1兆円を超える特融を行い,清算業務・債権管
これらの資料は未整理状態であったため,前者の分
理の任にあった日本銀行の協力もあって,同年3月,
類に繰り込む形で整理を行った。資料をグループ分
この依頼が山一取締役会において了承され,同年6月
けをすると以下の通りであった。第1グループ=山一
には,270箱の段ボール箱に詰められた資料が図書
證券社史編纂室保管『社史資料<「60年史」以降>』
館に搬入された。第1回の山一資料の寄贈(第1次分)
(概要リスト付き),第2グループ=山一證券社史編纂
であった。山一資料の寄贈は,この年と2004年の2回
室保管『社史資料』
(リスト無し),第3グループ=山
にわたって行われた。
一證券経営企画室保有資料(リスト無し),第4グルー
山一に残された資料には,破綻のその時まで実際
プ=山一證券その他資料(リスト無し)。これらの資
の業務に用いられていた文書類,いわゆる現用文書
料整理には2年あまりの期間を要し,最終的には2,000
も,当然ながら大量に存在していた。1998年の第1次
余の帙(アーカイバル容器)に収められ,現在,資
寄贈依頼の時点で,この点は明確に認識されており,
料室の保存書架に並んでいる(図3)
。ただし,寄贈
これらの資料の処置については,「山一を巡る一連の
時に,
「取締役会議事録」,
「昭和40年不況時資料」など,
事態が一段落つき次第改めて協議する」という合意
一部の資料は「最低5年間非公開」という要請があり,
が,野澤社長との間で成り立った。清算業務のため
また,管理上の問題もあったため,当初は,資料は
の資料,裁判等の理由で東京地検特捜部に押収され
すべて非公開とし,そのリストも部外秘扱いとした
ちつ
ていた資料,また,海外資料ほか各種の山一現用文
書等がそれである。
(これらは現時点では公開されている)。
2004年の第2次寄贈資料については,第1次寄贈資
これらの資料については,その後,断続的な打ち
料とは性格が異なり,多くは1980年代,90年代のも
合わせを経て,2003年3月,第1回と同様に,経済学
ので,国際営業に関連する資料群,エクイティファ
部図書館から山一破産管財人・松嶋英機弁護士宛に
イナンスに関わる資料群,デリバティブに関わる資
正式な寄贈依頼を提出し,何回かの協議の末にこれ
料群,金融当局とのやり取りや経営トップの意思決
が了承され,2004年5月に寄贈を受けた。ただし,当
定に関わる資料群などがその主要部分を占めてい
時,破産管財人の管理下に保管されていた同社資料
た。そして,それらの大部分は,まったく未整理の
は,段ボール5,000箱余にものぼり,その大部分は,
ままで段ボールに納められていた。このため,この
個人取引先等の個人情報に関わるものであった。こ
第2次受入分については,別の分類体系を作ることが
のため,すべての受贈はかなわず,寄贈は最終的には,
第1次寄贈資料との内容的継続性を持つものを中心に
段ボール457箱となった。以上が,山一資料を東京大
学経済学部資料室が受け入れるに至った経緯である。
4. 寄贈資料の概要と資料の一般公開
1998年寄贈の第1次分資料の中心は,社史編纂室
が保有していた百年史編纂のための資料で,これに
は詳細なリストが付されていた。このほかは,経営
企画室保有のいわゆる現用文書の一部や「田無倉庫」
に保管されていた60年史執筆資料などであったが,
図3 第1次資料配架
711
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必要となり,一から整理を行わざるをえなかった(図
4,図5)。
こうした受入と資料整理の進展に伴い,これらの
貴重な企業一次資料を学界や社会の共有財産とした
この整理には膨大な労力と資金が予想されたが,
いと考えるに至り,まず,1998年寄贈の第1次分に
幸い2003年から2007年の5年間,このプロジェクト
ついて,公開の方途を探ることとした。資料は,大
に大型の科学研究費(学術創成研究費)が交付され
半が酸性紙をはじめとする劣化しやすい媒体で作成
たため,大学院生や学部学生の大量動員による資料
されており,青焼き等の不安定なイメージ材料のも
整理と目録作成が可能となった。資料整理を行うな
のも多かった。また,個人情報等プライバシーに配
かで,
「金融庁や日銀に就職して検査や考査をしてみ
慮すべきものも少なからず存在した。こうした事情
たい」という学生も現れ,実際の就職先となったも
のため,そのまま閲覧に供するのは,管理の面から
のもいた。資料リストは2011年の春の時点でようや
も困難で,マイクロ化あるいはデジタル化による公
く完成し,帙収納も同時点でほぼ完了して,第1次と
開を基本方針とした。しかし,交付を受けた科学研
同様,資料室保存書架に配架している。この第2次寄
究費では,マイクロ化あるいはデジタル化を実現す
贈資料についても,第1次と同様,
「寄贈後最低5年間
ることは資金的にまったく不可能で,公開の目途は
は非公開」との要請があった。
立たなかった。そこで,やむをえず,第1次寄贈資料
に関して未完成であった詳細目録の最終編集作業を,
先行して進行させることとした。この詳細目録は,
現在「山一證券資料目録データベース」として,経
済学図書館・経済学部資料室のW e bページに公開さ
(図6)
。
れている2)
このような状況のなか,2005年1月26日,山一證券
は最後の債権者集会を開き,破産手続きの終結を宣
言した。翌日の日本経済新聞は,朝刊経済面において,
図4 第2次資料配架(1)
図5 第2次資料配架(2)
712
図6 山一證券資料目録データベース
企業資料の保存と活用
「山一破産手続き終結」を報じ,記事中に「[破綻の]
史的分析を徹底することがまず必要となる。とりわ
原因をめぐる学術的な研究も,山一から段ボール箱
け戦前のわが国資本市場についての分析は数えるほ
千箱以上の資料の寄贈を受けた東京大学の手などで
どであり,戦後の資本市場についても,銀行部門な
進みそうだ」と記した。この記事に対する問い合わ
いし狭義の金融市場に対する研究が到達した水準に
せのなかから,極東書店によるマイクロフィルム=
比べると,なお部分的・各論的な段階にとどまって
D V D版での公開の道が開け,2007年10月に同書店よ
いる。これに対し,欧米においては,証券市場の研
り発売された。公開まで寄贈からおよそ10年を要し
究は,理論的にはモジリアーニ・ミラー,フェルドシュ
たことになる。この内容につき詳しくは,同社のカ
タイン以来,実証的にも戦前の国際連盟の諸調査以
タログを参照してほしい。証券会社しかも最大手で
来かなりの蓄積があり,資本市場の構造と動態につ
あった証券会社の資料が,このような形で公開され
いての研究はかなりの水準に達している。
ることは,世界的に見てもまれなことといえる。
本資料の公開によって,これまでマクロ的・概括
的なレベルにとどまっていた日本の資本市場研究,
5. おわりに
資本市場史研究は,初めて,個別の投資主体,金融
商品,証券業,証券発行企業にまで立ち入ったミク
本資料の公開によって,これまで銀行の研究,狭
ロレベルにまで深化させることができるだろう。と
義の金融市場の研究に比べ,著しく立ち遅れてきた
りわけ,これまでまったくブラックボックスにあっ
資本市場研究を一挙に進展させることができるだけ
た,市場仲介者であり,市場主体でもある証券会社
でなく,実際の経営や政策運営にも資することがで
経営の実態の解明,先物取引・差金決済を主軸とす
きると確信している。金融論の領域では,内外とも
る戦前株式市場の実態,大正バブル期における株価
に,これまでの研究は,圧倒的に銀行金融機関の分析,
高騰のメカニズム,戦後復興期の証券制度改革のそ
預金・貸出市場を中心とする金融市場の検討に集中
の後への影響,1970年代後半の国債大量発行以降の
しており,資本市場の研究は極めて立ち遅れた分野
資本市場の構造変化,1984年日米円ドル委員会に代
であった。また,この10年間の日本経済の推移やア
表される外圧の具体的内容などの解明は大きく進展
ジア金融危機後の政策対応をみても,そこでの金融
することになるだろう。また,欧米の資本市場研究
システム改革の中心が資本市場改革にあったにも関
と同じ密度・水準でのモデル化も可能となり,比較
わらず,その改革は,現在までのところ必ずしも成
研究,総合共同研究の条件も整うだろう。同社一次
功しているとはいいがたい。
資料の分析を一層深化させ,国際資本市場史,証券
こうした問題点を克服するためには,基礎データ
の精度を飛躍的に向上させるとともに,制度的・歴
会社・投資銀行の国際比較などにつながる共同研究
を,今後さらに進めたいと考えている。
参考文献
1) 粕谷誠, 伊藤修, 橋本寿朗, 伊藤正直, 小林襄治. 山一証券100年史. 日本経営史研究所・極東書店, 2011, 上下
巻.
2)
山一證券資料目録データベース . 東京大学経済学図書館. h t t p : / / w w w. l i b . e . u - t o k y o . a c . j p / s h i r y o /
yamaichi/yamaichidb.html, (accessed 2011-12-15).
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Author Abstract
This article aims to explain the role and function of the faculty archives affiliated with the faculty of economics,
the University of Tokyo, which preserves corporate and private documents and records of importance as
historical materials received from various corporations and individuals and makes them available to the
researcher and public, and then to explain how and why we have hold the original documents and records of
Yamaichi Securities Company which had failed in 1997.
Key words
Archives of the Faculty of Economics of the University of Tokyo, Yamaichi Securities Company, corporate
document and record, Public Records and Archives Management Act, security market, security company,
monetary policy, archive, records management
714
国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
国立国会図書館におけるデジタルアーカ
イブ構築
知の共有を目指して
Building digital archives by the National Diet Library
Toward knowledge sharing
中山 正樹1
NAKAYAMA Masaki1
1 国立国会図書館 電子情報部(〒100-8924 東京都千代田区永田町1-10-1)
1 Digital Information Department, National Diet Library (1-10-1 Nagata-cho Chiyoda-ku, Tokyo 100-8924)
原稿受理(2011-12-05)
情報管理 54(11), 715-724, doi: 10.1241/johokanri.54.715 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.715)
著者抄録
本稿では,国立国会図書館(N D L)のデジタルアーカイブ構築の現状と,
「知識の共有化」が目指す「新たな知識の創
造と還流」に向けた活動の方向性について述べる。N D L は,納本図書館として,冊子体資料だけでなく,政府系イン
ターネット情報等のデジタルコンテンツを含めて収集保存する責務を持っており,それらをいつでもどこでも利用で
きるようにすることが望ましい。N D L は,あらゆる資料や情報を可能な限り収集・保存し,N D L デジタルアーカイブ
を構築する。しかしながらすべてを収集することは不可能であるので,他の機関と併せて網羅的な知識の蓄積を図り,
分散デジタルアーカイブを構築する。それら N D L が収集できていないものも含めて,分散したデジタルアーカイブの
情報を一元的にナビゲートし,かつ,意味的に関連付けて知識として利用できるようデータプロバイダーの役割を果
たす NDL Search を構築する。このような既存の情報を知識として再利用して新たな知識の創造を可能にする知識イン
フラを構築する。
キーワード
国立国会図書館,デジタルアーカイブ,知識インフラ,国立国会図書館サーチ,Next-L Enju,Hadoop,メタデータ,
ダブリン・コア,Webサービス,セマンティックウェブ
1. はじめに
N D Lは,納本制度の下で,国内の刊行物を網羅的
に収集して提供する使命を持っているが,刊行物が,
国立国会図書館(N D L)は,日本の唯一の国立図
冊子体からデジタル情報資源にシフトしていく中で,
書館であり,国の中央図書館として位置づけられて
すべての情報を収集することは不可能である。また,
いる。
歴史的な刊行物は,必ずしも図書館にはなく,公文
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書館,博物館,図書館等で,分散所蔵している。
ない情報へは,所在場所へ確実に案内することが求
このような現実で,利用者はN D Lがすべての図書
められている。このような使命を果たすべく,資料
を所蔵することを期待している。その期待に応える
のデジタル化および情報の収集・保存そして提供を
ためにも,民間データベース,大学・研究機関等が
行うサービスを構築している。
持つ学術情報,データベース,美術館・博物館・図
書館・文書館の連携(M L A連携)
,海外の図書館等
3. 電子図書館構築のあゆみ
とのサービス連携が必須な時代になっている。また,
高度化する利用者ニーズに対応するためには,先進
N D Lは,1994年ころから電子図書館構築に向けた
技術を活用して,サービスを提供する使命があり,
活動を行ってきている。1995年にはパイロット電子
そのためには,国や民間が持つ先進の技術の移転が
図書館プロジェクトでの実証実験を実施した。2002
必要となる。
年,電子図書館サービスを中心的な機能とする関西
N D Lは,保存図書館として,情報資源を保存する
館が開館し,本格的な電子図書館事業を開始した。
立場での管理的指向から,利用者指向でサービスを
以降,
「近代デジタルライブラリー」の公開,インター
提供する方向へ移行していかなければならない。
ネット資源の選択的収集事業(W A R P)
,データベー
従来の国の機関の枠にとらわれないサービスの提
スナビゲーション事業(D n a v i),各種の電子展示会
供に当たっては,効率的・効果的に実現するために,
の開催など各種の新規サービスを公開・提供してい
業務・システムの構築・運用も効率的に行われなけ
る。2007年に,全国の各種デジタル情報資源を一元
ればならない。
的に検索し,ナビゲーションを可能とする国立国会
システムの開発に当たっても,サービスの提供に
図書館デジタルアーカイブポータル(P O R TA)に着
当たっても,機械的な作業は可能な限り省力化し,
手するなど,日本全国のデジタル資源の連携を視野
人は,より知的な活動へシフトしていく。そして,
に入れたサービスを始め,館種を問わない全国の図
デジタル情報と情報技術の活用によって,より創造
書館との連携の強化と,図書館に限らず広く博物館
的な社会が築かれることを目指す。
や文書館などのデジタルの文化・歴史遺産を持つ機
関との連携の強化を目指した。
2. NDLの役割
2009年より,広範囲にデジタルコンテンツを収集,
所蔵資料のデジタル化を行い,W e b情報の制度的収
NDLは,
「知識はわれらを豊かにする」というビジョ
集も始まった。また,冊子体資料もデジタル情報も
1)の中で,
「日本の知的活動の所産を網羅的に収集
ン
併せて網羅的に検索・案内する情報探索サービスと
し,国民の共有資源として保存する」「利用者が求め
して,国立国会図書館サーチ(NDL Search)の開発
る情報への迅速で的確なアクセスまたは案内をでき
と提供を目指した。
るようにする」
「利用者がどこにいても,来館者と同
様のサービスが受けられるように努める」という柱
4. 最新の取り組み
を掲げている。
716
N D Lの使命は,利用者が必要とする情報を確実に
N D Lが新しい利用者サービスを実現するために取
提供することであって,N D Lが保有している情報だ
り組んでいることは,大きく2つある。1つ目は「業
けを提供すればいいというものではない。N D Lが保
務・システム最適化の推進」であり,2つ目は「デジ
有している情報は利用しやすく,また,保有してい
タル情報資源の収集・蓄積・利用の推進」である。
国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
従来型のシステムの機能強化・運用に関わる膨大な
人物金の資源を削減して,削減した資源で新たなサー
ビスシステムを構築し提供するということである。
(2)デジタルアーカイブの構築
N D Lのもう1つの基幹システムであるデジタルアー
カイブシステムは,インターネット情報をサイト単
位で収集・保存するシステムと,デジタルコンテン
4.1 業務・システム最適化の推進
N D Lはサービスの改善を目指して,トータルな図
ツを著作別で収集・保存するシステムと,大規模な
ファイルシステムを保有する電子書庫3つで構成さ
書館システムと新しいサービスの実現に向けて活動
れる。N D Lが個別データベースとして公開していた,
している。2008年に「国立国会図書館業務・システ
貴重書データベース,近代デジタルライブラリー,
2) を策定し,利用者本位のサービス
ム最適化計画」
児童書デジタルアーカイブを統合して,一元的に管
と効率的な業務遂行を可能とするよう,費用対効果
理できるようにして,効率化を進めている。
の高い情報システムの実現に取り組んでいる。また,
(3)情報探索サービス(NDL Search)の提供
情報システム資源の無駄を省き,利用者の利便性を
3つ目の新サービスである情報探索サービスシステ
高めるため,インターフェースやデータ構造の標準
ムは,業務基盤システムの稼働に合わせて,2012年
化,ハードウェア,ソフトウェア資源の共有化,さ
1月に本格稼働した。P O R TA,国立国会図書館総合
らには類似の機能やサービスを提供する情報システ
目録ネットワーク(ゆにかねっと)を統合し,N D L -
ムの統廃合を進め,併せて業務の見直しを行うこと
OPACを統合検索することにより,システムの最適化
としている。サービスは,システムとそれを使った
を図り,かつ,従来のOPACでは提供できていない次
業務により実現するもので,情報システムは,サー
世代OPAC機能を実装して,利用者サービスの向上を
ビスを効率的・効果的に実現するためのものと位置
図った。NDL Searchの概要は,後掲する。
づけている。
情報システムは,サービスを効率的に遂行するこ
とを支援するもので,情報システムでできないこと
を,業務により人が行うものとしている。システム
の構築に当たっては,個別サービスの最適化ではな
く,国全体,N D L全体の最適化の観点で実施すべき
要件を明確化し,他機関と連携分担して構築する。
(1)業務基盤システムの構築
4.2 デジタル情報資源の収集・蓄積・利用の推進
N D Lの現在の主な取り組みの2つ目は,
「デジタル
情報資源の収集・蓄積・利用の推進」である。
(1)インターネット資料の制度的収集
2009年7月に国立国会図書館法と著作権法が改正さ
れ3),国,地方公共団体,国立大学等の公的機関が発
信するインターネット資料について,著作権者の許
現行の電子図書館基盤システムの次期システムと
諾なく収集できるようになった。この法改正に基づ
して,2012年1月にN D L所蔵資料の統合書誌データ
き,NDLは,2010年4月から,公的機関のWebサイト
ベースシステムとN D L - O P A Cの機能を担う業務基盤
の網羅的な収集を開始した。
システムが運用を開始した。
現行の電子図書館基盤システムは,N D Lの独自仕
(2)民間の「オンライン資料」の収集制度化
2010年6月に納本制度審議会から提出された答申4)
様で開発・運用しているもので,運用コストや,柔
では,電子書籍,電子雑誌など従来の図書,雑誌に
軟性と相互運用性の面で課題となっていた。次期シ
相当し,ネットワーク上を流通する情報を「オンラ
ステムではこれらの課題を解決するため,業務を見
イン資料」と定義し,N D Lが法的に収集できる仕組
直して,図書館パッケージソフトを導入し,最低限
みを整備すべきとされた。この答申を受けて,現在,
の仕様変更や外付け開発を行った。
「オンライン資料」の収集に関わる制度設計の検討を
717
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行っている。利用者が書籍に触れる機会が増えるこ
用端末に配信し,読み上げソフト等を用いて提供す
とによりニーズを喚起し,出版市場が拡大すること
る方式が想定される。
により,出版界が発展する枠組みを目指す。出版界,
著作権者等の関係団体・機関との協議を経て,2012
年以内には制度化を実現したいと考えている。
(3)所蔵資料のデジタル化
2009年に著作権法が改正5) され,2010年1月に施
行されたことに伴い,制度上重要な変更があった。
1つは,国立国会図書館においては原本保存のため,
(4)障害者向けおよび本文検索のためのテキスト化
また,2011年4月に,出版関係者や有識者でつくる
文化庁の「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する
6) は,N D Lがデジタル化した蔵書のうち,
検討会議」
市場で入手困難な出版物について,全国の公立図書
館や大学図書館などに画像データを配信し,閲覧で
きる仕組みを整備すべきであるとしている。また,
著作権法第31条第2項の規定により著作権者の許諾を
さらなる利用者の利便性の向上を図るために,本文
得ないで所蔵資料をデジタル化することが認められ
検索サービスの提供が必要であり,検索サービスと
たことである。2009年度補正予算で,N D L所蔵資料
して利用するためのテキスト化であれば,権利者の
のデジタル化経費として約127億円が計上され,デジ
利益を不当に害さないとの中間報告がなされた。
タル化作業を実施した。貴重書を含む古典籍資料約7
本文テキスト化に当たっては,視覚障害者向けの
万冊,和図書約90万冊(1968年以前刊行分)
,和雑誌
読み上げに対応すること,本文の記述部分の章・節・
約114万冊(2000年受入分まで)
,博士論文約14万冊
項単位で的確に検索できるようにするために全文イ
(1991年度∼ 2000年度受入分)を対象とした。デジ
ンデックスが作れること,さらに,電子出版社等が,
タル化は,画像データのみだが,目次のあるものは
DRM等を施して著作者の権利を保護した形で電子書籍
目次のテキストデータを作成している。デジタル化
ビューア等で閲覧できるようにすることが必要である。
した資料の利用については,N D L内での提供が基本
視覚障害者向けのドキュメントフォーマットとして,
だが,和図書のうち,戦前期刊行のものおよび博士
DAISY4に準拠し,テキスト部分に関してはEPUB3.0の
論文は,著作権処理を行った上で,インターネット
7)
仕様に従った日本語書籍基本テンプレート(JBasic)
で提供している。
というマークアップ指針も策定が進んでいる。
改正著作権法に基づきデジタル化した資料の原本
論文等に関しては,科学技術振興機構(J S T)が
は,利用に供さないことが条件のため,従来行って
運 営 す る 科 学 技 術 情 報 発 信・ 流 通 総 合 シ ス テ ム
いる公共図書館等への図書館間貸出ができないこと
(J - S TA G E)で,論文データに多言語対応の論文用
になる。現在,デジタルデータを用いた代替案につ
XML DTDを適用することになっている8)。
いて,
出版社,
著作権者の関係団体等と協議している。
閲覧用コンテンツに関しては,縦長の冊子体形式
2つ目は,障害者の情報利用の機会確保のため,国
をそのまま閲覧できるタブレット端末の普及が見込
立国会図書館,公共図書館,大学図書館,学校図書
まれる状況で,P C,スマートフォン,タブレット端
館等において,著作権者の許諾を得ないでテキスト
末等で快適に検索・閲覧できる仕様への対応を進め
データ,拡大図書などを作成し,障害者に提供でき
ている。
るようになったことである。関係機関等から障害者
サービスにデジタル化資料を活用することが求めら
5. NDL Search
れている。方法としては,作成した画像データから
OCR等により全文テキストデータを作成の上,NDLの
館内,他の公共図書館もしくは障害者の使用する専
718
NDL Searchは,NDLが利用者とコンテンツを結ぶ
基本動線であり,2012年1月から正式に稼働した。
国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
5.1 NDL Searchが当面目指す方向性
N D L S e a r c hは,国内の各機関が持つ豊富な「知」
を活用するためのアクセスポイントとなることを目
指した検索サービスである。「国立国会図書館が保有
およびD Cメタデータ形式),また,検索結果のR S S情
報の提供,ブックマーク機能,T w i t t e r,本棚サイト
への投稿も容易に行えるようにする。
(5)他機関サービス向けのAPIの提供
しているか否かを問わず,冊子体に加えて,デジタ
他機関のシステムが,このサービスをデータプロ
ル化された画像,テキスト,音声等のさまざまな形
バイダーとして利用するために,国際標準等として
態の情報を,いつでも,どこでも,利用者が求める
普及しているハーベストおよび横断検索用の各種A P I
形で,迅速かつ的確に,アクセスまたは案内できる
による連携機能を実装している。
ようにすること」を目的としている。
書誌情報だけでなく,資料の全文も検索の対象と
するなど,より掘り下げた検索を可能としている。
5.3 システム構成
NDL Searchは,
オープンソースソフトウェア(OSS)
最終的には,利用者が必要とする事実や情報・知識そ
や外部のW e bサービスを積極的に活用して,開発す
のものを検索できるようにすることを目指している。
ることを基本方針としている。ベースとなるシステ
ムには,日本で開発されたオープンソースの統合図
5.2 NDL Searchのサービスイメージ
書館システムであるN e x t - L E n j uを採用し,そのほ
NDL Searchは,
以下のようなサービスを実現する9)。
か,Webの収集ロボットであるHeritrix,分散ファイ
(1)所蔵機関,情報種別を問わない統合検索機能の
ルシステムであるHadoop,連想検索エンジンである
提供
GETAssoc,CMS(Content Management System)で
所蔵機関,情報種別を問わず,データベースを統
あるWordPressといったOSSを活用してシステムを構
合検索(書誌,目次および全文テキストからの検索)
築している。開発したソフトウェアも,将来的には
し,同一著作物,同一資料をグルーピング表示する。
OSSとして公開し,公共図書館等での利用に供するこ
また,日中韓の国立図書館の統合検索(翻訳検索・
とを想定している。
翻訳表示)をできるようにする。
(2)コンテンツの閲覧およびナビゲーションを容易
6. 知識インフラの構築
にする機能の提供
情報の入手手段へナビゲーション(デジタルコン
NDL Search,NDLデジタルアーカイブの発展形と
テンツ,所蔵機関,オンライン書店,近くの図書館
して,今後取り組もうとしている計画は,「知識イン
へ案内)する。また,携帯電話,スマートフォン,
フラの構築」である。
タブレット端末等,閲覧デバイスに最適化したユー
ザーインターフェースを提供する。
(3)ユーザビリティを向上させた検索機能の提供
曖昧検索(表記ゆれ,キーワードサジェスト)
,絞
6.1 経緯
国の総合科学技術会議が決定した「第4期科学技術
10)においては,
基本計画」(2011年8月19日閣議決定)
り込み検索(ファセット検索)および再検索機能(連
研究情報基盤の整備を推進することとし,推進方策
想キーワード検索,シソーラス検索,キーワードレ
が示された。また,N D Lではこれに先立ち,
「国立国
コメンド)を可能にする。
会図書館における今後の科学技術情報整備の基本方
(4)情報およびサービスの再利用のための機能の提供
針に関する提言」(第52回科学技術関係資料整備審議
納本された新着資料の書誌情報の早期提供(MARC
会(2011年1月19日))を受けて「第三期科学技術情
719
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
February
11)を定め,
報整備基本計画」
「知識インフラ」の構築
サービスと機能を持ったシステムを構築し提供する
を進めることとした。
ためには,外部の機関との連携協力が必須であり,
N D Lは積極的に連携協力を行っていく。その連携の
6.2 知識インフラとは
知識インフラとは,情報資源を統合して検索,抽
出することが可能な基盤で,国内の各機関が保有す
姿勢として,次のような方針を掲げている。
(1)メタデータの収集または横断検索等による統合
検索サービスの提供
る情報を知識として集約し,新たな知識の創造を促
外部機関・サービスが提供するコンテンツのメタ
進させるもの。その知識をさらに集積・流通・活用
データを当該機関・サービスの許諾を得て収集,も
し創造するサイクルの構築が必要である。
しくは横断検索する。実施に当たっては,共通的な
新たな知識の創造のためには,分野を越えた知識
メタデータ仕様,メタデータ交換プロトコルの実装
の関連付けが必要であり,日本中に散在するコンテ
が必要であり,また,個々のコンテンツに永続的識
ンツの所在を集中管理し,そこに検索をかければ,
別子が付与されることが重要である。
関連するすべての必要なコンテンツが得られるよう
メタデータに関しては,NDLは図書・雑誌について
にする。知識は関連するものが有機的に結合され,
MARC21,冊子体とデジタル化資料の検索のために必
ネットワーク的に統合化されたものであり,単に情
要な記述規則として,ダブリンコア(Dublin Core: DC)
報を集めたものではない。日本中にある芸術を含ん
をベースに拡張したメタデータとしてDC-NDL(国立
だあらゆる学問・研究のコンテンツ,研究ツール,
国会図書館ダブリンコア記述規則)を定義している。
社会状況データ等が知識の形に組織化され,これら
永続的識別子については,冊子体資料では,図書
の知識・情報が公開され,すべての人が共有できる
にはI S B Nが付与され,N D Lに納本された刊行物には
ことが大切である12)。
独自の書誌I Dが,さらに国内刊行物には全国書誌番
*所在場所,媒体形式を意識にした「書籍,文献単
号(J P番号)が付与されている。学術・科学技術分
位の提供」から,所在場所,媒体形式を問わず,
「情
野において,JSTが,ジャパンリンクセンター(JaLC)
報・知識・物語の単位での提供」へ。
を設置し,DOI(Digital Object Identifier)をベース
*メタデータの収集,探索,提供ではなく,情報の
内容で,情報を関連付けし,提供する。
*人間頭脳の持つ知識とその活用の機能にできるだ
にした永続的識別子を付与し,論文等へのリンクを
保証するサービスを準備している13)。出版界でも書
籍と電子書籍を関連付ける識別子の検討が進められ
け近いサービスの提供。
*ユーザーの意図した情報がより的確に取り出せる
「知識検索サービス」。
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*より安心して利用できる検索システム。キーワー
ド,曖昧検索を駆使した「情報探索」から,信頼
性を評価した「事実検索」へ。
6.3 知識の集約と提供のための連携イメージ
情報を集約し提供するシステムとして,図1のよう
に,NDL Searchを核として想定している。まず,情
報を集約し,それを提供する。利用者に求められる
720
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図1 知の提供サービスとして当面目指すイメージ
国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
ている。これらを統合的に関連付けるサービスの提
アプローチを想定している。これを実現するために,
供を目指す。
NDLラボの設置を想定している。
(2)外部のW e bサービスとの連携によるサービスの
提供(マッシュアップサービス)
6.5 NDLラボの設置
外部で提供されている連想検索サービスや機械翻
N D Lラボは,次世代サービスの研究開発と実用化
訳サービス等のW e bサービスを有機的に組み合わせ
を促進するために,実用化実証実験の場と成果の利
て,付加価値の高い検索サービスを実現する。また,
用のための研究者が集える場を想定している。概念
外部の情報サービスへの効果的なナビゲーションを
としては,図3のように,N D Lが保有しているコンテ
実現することにより,利用者の情報探索を支援する。
ンツ,システムを研究者に提供する。研究者は,そ
実施に当たっては,各サービスが,単なるメタデー
れらの資源を活用して実用化システムを開発する。
タ交換ではなく,W e bサービスの連携に必要な共通
その成果を,NDLのシステムに実装して次世代のサー
的なA P Iを持ち,必要に応じて自由に組み合わせられ
ビスを提供する。このスキームで2010年度に,情報
るようにプロトコルの共通化を図っていく。
探索サービスシステムの環境をテストベッドとして
(3)研究開発,技術開発における連携
利用して,全文テキスト化実証実験を行った。
利便性の高いシステム構築は,現状で確立した技
術のみでは実現が困難である。大学の研究室,官民
の研究機関,ベンチャー企業等による各種の情報技
術に関わる研究開発を支援するために,N D Lの情報
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資源を利用した実用化・実証実験を行うことができ
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るよう,実験用プラットフォームを提供する。
(4)コンテンツの統合利用促進のための環境整備
有用なコンテンツを保有しているにも関わらず,
データベースの構築や検索サービスの提供ができな
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が進んでいるが,公共図書館,出版社等では,デジ
図2 次世代技術の研究開発成果の活用
タル化およびデータベース化の実施が先進的な組織
にとどまっている。N D Lは,標準的な仕様を実装し
たアーカイブシステム,検索・閲覧システムをOSSと
して提供し,各機関でのデジタルアーカイブの構築
を支援していく。
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N D Lは,次世代技術の研究開発成果を活用して,
これまでの単なる「情報検索」から,事実としての
「知識検索」へ進化させ,知識の再利用による新たな
知識の創造に寄与することを目指す。図2のような
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6.4 次世代システム開発研究の概要
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図3 NDLラボ(仮称)の設置
721
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
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February
7. 震災アーカイブの構築
能力も必要に応じて増強できる仕組みを構築する。
また,震災アーカイブ自身が,災害で消失してしま
2011年3月11日の東日本大震災で,日本は未曾有の
わないように,ディザスタリカバリも考慮する必要
被害を受けた。その復興のために「復興への提言」
(災
がある。それらの要件を満たすシステムとして,必
14)
が示され,関係する記録,資料
害の記録と伝承)
要に応じて,処理能力,ストレージ容量が段階的に
等の収集・保存を行い,一元的なアクセスが可能な
増やせる,PaaS(Platform as a service)
,分散処理サー
仕組みとして,東日本大震災アーカイブ(仮称)の
バ,分散ファイルシステムの導入を検討している。
構築を進めるとされた。「第4期科学技術基本計画」
このようなシステムを構築するためには,知識イ
の基本認識と理念の中でも「震災からの復興,再生
ンフラの構築で目指す「次世代技術の研究開発成果
の実現」が示され,2011年度三次補正予算で震災アー
の活用」のスキームで行うことが有効と考え,それ
カイブを具体的に構築することとなった。
によって,図4に示す「新たな知識の創造と還流」に
東日本大震災に関する記録,資料等は多種多様で
ある。震災時の状況,被害の実態,復旧・復興の状況,
より,「震災に関連する知識のインフラ」の構築を目
指したいと考えている。
支援の記録などを将来に残していく必要がある。
これらを1つの機関が収集することは困難であり,
8. 電子情報関連の組織再編
関係府省の各機関が分担して収集・保存を行い,各
機関に保存された記録,資料等に対して一元的なア
N D Lでは,以上のような次世代に向けた電子情報
クセスと永続的な保存を保障するための「震災アー
に関する事業を効率的,効果的に実施するために,
カイブポータル」の構築と提供を目指す。
2011年10月に電子情報部を設置した15)。
設立趣旨は,N D L全体の電子情報,情報システム
7.1 震災アーカイブの構築に当たって
の企画立案が効率的に行えるようにして,統合的に
N D Lでは,知識インフラの構築の一環として,震
情報システム基盤の構築・運用を図る。分散してい
災アーカイブおよび震災アーカイブポータルを構築
たシステム関連業務を一元的に行い,現行システム・
することとした。構築に当たっては,効率的,効果
サービスを効率的に再構築・運用する。将来的な展
的に進められるように,次世代技術の研究成果を積
望を持って,トータルな図書館システムを実現し,
極的に活用する。
図書館の枠を超えて利用者サービスを向上させる。
7.2 震災に関する知識インフラの構築
アーカイブでは,クローラによる収集のみならず
各機関が収集したアーカイブを将来的には長期保存
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テキストの全文インデキシング等を行う。さらに,
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䊂䊷䉺ᮡḰൻ
画像・映像なども的確に検索ができるように,明確
りメタデータを自動付与する仕組み,本文も含めた
䉝䉪䉶䉴
䊅䊎䉭䊷䉲䊢䊮
䋨䊘䊷䉺䊦䋩
ቇળ
のために一括して受け取る仕組みを構築する。また,
なメタデータが付与されていない情報にも可能な限
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今後,復興の記録なども含めていくことを想定して,
ストレージ容量や大量の情報の組織化のための処理
722
図4 新たな知識の創造と還流
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国立国会図書館におけるデジタルアーカイブ構築
2012年1月の業務・システムリニューアルの次の目
索を行う目的は,問題・課題の解決であり,回答が
標は,知識インフラの構築であり,国立図書館として,
掲載された資料の所在ではなく,回答そのものを知
知識情報資源のアーカイブ基盤の構築やデジタルコ
識・情報として得ることである。今後は,従来の単
ンテンツの利用促進等の情報流通基盤の整備を推進
なる情報としての検索でなく,事実としての知識検
し,次世代の図書館サービスを提供することである。
索へ進化させ,知識の再利用による新たな知識の創
これらの実現に向けて,先進サービス動向,技術
造が求められている。それを実現するための前提と
を把握してサービス要件,システム化要件を取りま
して,資料をデジタル化し,インターネット上に内
とめ,構築・運用するために高いマネジメント能力
容を可視化することが必要だ。加えて,個別の情報
を持った人材育成・確保を進める。それに伴い,外
に意味的にタグ付けし,知識として相互に関連付け
部の有識者の実践的な助言・提案をいただくために,
て,利用者が求める知識として,より的確に取り出
有識者が集まれる場として,前掲のN D Lラボの運営
せるようにすることが必要である。
「可視化」におい
を想定している。そこでのテーマは多岐にわたる。
ては,自動翻訳等により言語差異を吸収し,また,
例えば,技術要素では,パターンマッチング,パター
交換される情報に付与されたメタデータの記述要素,
ン認識,マルチメディア技術,画像・映像処理技術,
記述規則を共通化し,用語の類義語を把握するシソー
クラスタリング,キーワード抽出,シソーラス,テ
ラス,語彙の違いを吸収するオントロジー等の言語
キストマイニング,関連性検出,文章解析,対話シ
や表現の差異を吸収する仕組みが出来上がれば,言
ステム,情報圧縮・要約技術,情報分析技術,機械
語,業種,業態の壁を超えて,網羅的な情報資源の
翻訳技術等がある。
中からより的確な情報を取り出すことができる。
N D Lは,各国の国立図書館と協力して,世界レベ
9. おわりに
ルでの電子図書館構想の一翼を担い,国内外の関係
機関と連携して,知の共有と提供の基盤を構築する
利用者が情報を知識として活用するための情報探
ことを目指す。
参考文献
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館. http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision_60th.html, (accessed 2011-11-07).
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jstage.jst.go.jp/jnews/J-STAGE_NEWS_NO28.pdf, (accessed 2011-11-11).
14) 内閣官房 東日本大震災復興構想会議. 復興への提言∼悲惨のなかの希望∼ . 2011-06-25, 第12回東日本大
震災復興構想会議. 57p. http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/kousou12/teigen.pdf (accessed 2011-11-11).
15) 国立国会図書館. 国立国会図書館月報. 2011, no. 607. http://www.ndl.go.jp/jp/publication/geppo/pdf/
geppo1110.pdf, (accessed 2011-11-11).
Author Abstract
This article shows the current situation of construction of the National Diet Library (NDL)'s digital archive and
the direction of activities for creating and reproducing new knowledge which knowledge sharing aims
at. The NDL, as a deposit library has a responsibility to acquire and preserve not only paper materials but also
digital contents, and needs to make them accessible anytime and anywhere. The NDL acquires and preserves
digital contents to a maximum extent to build the NDL digital archive. However, it is impossible to collect
all of them, so the NDL plans to accumulate all knowledge in cooperation with other institutions to build
distributed digital archives. The NDL plays a data provider role to navigate all the distributed digital archival
information and make it available as semantically-related knowledge to build NDL Search . The NDL will
make it possible to create new knowledge reusing the existing information as knowledge to build up the
knowledge infrastructure.
Key words
National Diet Library, digital archive, knowledge infrastructure, NDL Search, Next-L Enju, Hadoop, meta data,
Dublin Core, Web service, Semantic Web
724
Project Next-LとNext-L Enju
Project Next-LとNext-L Enju
日本初のオープンソース統合図書館システムの
開発と現状
Overview of Project Next-L and Next-L Enju, the first open source integrated library
system in Japan
原田 隆史1
HARADA Takashi1
1 同志社大学社会学部(〒602-8580 京都府京都市上京区新町通今出川上ル)E-mail : [email protected]
1 Faculty of Social Studies, Doshisha University (Imadegawaagaru Shinmachidori Kamigyo-ku Kyoto-shi, Kyoto 602-8580)
原稿受理(2011-12-15)
情報管理 54(11), 725-737, doi: 10.1241/johokanri.54.725 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.725)
著者抄録
Project Next-L は,次世代の図書館システム開発の主導権を図書館関係者自身の手に取り戻し,オープンソースによる
図書館システムの仕様を図書館員が共同で作成することを目指すプロジェクトである。Project Next-L の仕様をもとに
開発された統合図書館管理システム Next-L Enju は,一般的な図書館システムの機能を備えるほか,Web2.0 に対応し
た各種の新機能,図書と電子ジャーナルなどの電子的情報資源を一元的に管理する機能,F R B R に対応した書誌レコー
ドを管理する機能など,数多くの新しいサービスに対応する仕組みを備えている。また,Next-L Enju はオープンソー
ス・ソフトウェアとして公開されており,自由に利用することができるという点も大きな特徴である。Next-L Enju は
2012 年 1 月から正式公開された国立国会図書館(N D L)サーチのベースとして採用されているほか,物質・材料研究
機構の図書館や南三陸町図書館で実際に稼働しはじめるなど利用が広がりつつある。
キーワード
統合図書館システム,オープンソース・ソフトウェア,ウェブ2.0,ディスカバリ・インターフェース,次世代図書館
システム,国立国会図書館サーチ,FRBR,Project Next-L,Next-L Enju
1. Project Next-L設立の背景
一層の業務の効率化と積極的なサービス展開という
相反する要求に応えていかなければならなくなって
インターネットの発達,出版点数の増加,少子高
きている。業務の効率化を図りつつ,積極的なサー
齢化など,近年,図書館をとりまく環境は大きく変
ビス展開を行うためには,図書館システムは不可欠
化してきた。このような状況の中で,図書館もより
な存在であり,ますますその重要性は高まってきて
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いるといえよう。
1980年代以降利用が始まった図書館システムは,
新しいコンセプトに基づいたサービスを提供しはじ
めていた。またW e b上で,自分の読んだ図書をデー
資料の管理や,図書の貸出・返却といった機能だけ
タベースに登録・公開したり,備忘録代わりに評価
ではなく,図書館OPACを通じて利用者に対するサー
や読後の感想を登録したりするなどの機能を持つ読
ビス提供機能も提供するなど数多くの改良が加えら
書管理サービスも誕生し,多くの人々が利用するよ
れてきた。
うになってきた。これらのサービスでは,Amazonが
しかし,図書館システムの進歩は世の中の発達に
多くの利用者のレビューを掲載したり,いくつかの
比べて決して速いスピードであったとはいえない。
読書管理サービスでは書架に擬した画面に書影を並
Project Next-Lが設立された2007年の時点でも図書館
べて表示するなど,機能面でも画面表示や操作性の
システムに対する不満は大きく,またその将来像も
点でも新しい試みを充実させていた。さらに,読書
まだ固まっているとはいえない状況にあった。
管理サービスの表示内容を充実させるためにAmazon
例えば兼宗は2004年に,商用の図書館システムは,
機能が多く複雑になり,全体を理解することが難し
の持つさまざまなデータを利用するなど,W e bサー
ビス間での相互連携も活発化してきていた。
くなったことを指摘し,新しい状況に対応できてい
しかし,同じ頃の図書館サービスでは,従来は館
ない図書館システムの改良の遅さに警鐘をならして
内のみで公開されていたOPACをようやくWeb上で公
いる1)。また長谷川は,2006年に大学図書館員の図
開することが多くなってきたという状況であった。
書館システム担当者を対象としたフォーカス・グルー
W e b環境を利用した図書に関するサービスが急速な
プ・インタビューを行い,図書館システムに新たな
進化をとげていく状況の中で,ひとり図書館だけが
業務分析に基づく改良が取り入れられていない,必
時代遅れの存在とならないために,新しいサービス
要な新機能への対応スピードが鈍いなど,既存の図
を提供できる図書館システムの開発が急務とされて
書館システムに対する不満が多いことを明らかにし
いたと言えよう。
ている2)。
このような状況を受けて,2007年に日本の図書館
このような状況を受けて,新しい時代に対応した
システムを変えていきたいという思いを持つ人々を
図書館システムを検討しようとする動きもあらわれ
中心に,新しい図書館システムの出現を促進し,ま
ていた。例えば,2001年に組織されたライブラリー
た普及を図るべく「Community for Developing Next
システム研究会では,Z39.50の図書館システムへの搭
Library(略称Project Next-L または Next-L)
」が設立
載を指向した勉強会を開催するなどの活動を行って
されたのである8)。
いる3)。また,2006年の大学図書館問題研究会全国大
会では図書館システムに関するラウンドテーブルが
2. Project Next-Lの活動と目指すもの
開催されている4)。また,岡本や黒沢は図書館システ
ムの一層の発展を期待して記事を発表している5),6)。
Project Next-Lが設立される以前から,自分たちの
しかし,このような活動の多くは,問題点の確認や将
目指す図書館システムを作成し,無償で公開しよう
来に向けての啓蒙,さらに勉強会的な役割を果たす
とする人々は存在していた。静岡県の高等学校の教
段階にとどまり,システムを実際に変えていこうとい
員が作成した学校図書館向けの図書館システム文籍
う動きにまでは結びついていなかった。
726
9)はその一例である。しかし,これらの
(M o n J a c k)
一方,図書館外に目を向ければ,例えばAmazonの
システムは,1つ(または少数)の図書館の状況だけ
ようなオンライン書店がW e b2.07)と呼ばれるような
をもとにして開発されたものであり,多くの図書館
Project Next-LとNext-L Enju
の要望をまとめたものとは言えなかった。また,多
することまでは想定していなかった。
くの場合において,システムの開発者は個人が趣味
しかし,実際にProject Next-Lの活動を始めてみた
的に,もしくは興味の続く範囲内で行っているもの
ところ,システムの仕様を決めるために意見を出し
であり,開発者の携わる業務が変更になった場合な
てもらうことは思った以上に図書館に関わる人々に
どには開発が継続されなくなってしまうという状況
負担が大きい作業のようであった。特に,仕様を新
となることが多かった。
しく書き起こすもととなるような意見を集めるのは
Project Next-Lでは,当初から単に図書館システム
大変であることがわかってきた。メーリングリスト
に関する研究や実験システムの試作を行うという段
やW i k iには200名以上の参加者が存在するものの,実
階を超えて,現実の図書館で採用され得るものを生
際に書き込みをするのは10名程度という状況であり,
み出すことを目指すことが必要と考えていた。
大勢の図書館に関わる方々から長期間継続して意見
そのためには,システムの仕様の策定の段階が非
常に重要であると考えられる。特に,仕様の策定が
やノウハウの提供をいただいて仕様をまとめるのは
不可能と考えられた10)。
ひとりの個人の意見だけに左右されるのではなく,
書き込みを呼びかけたり,アンケートをとったり
図書館に関わる多くの人々が意見を出し合うことで,
するなど,いくつかの試行錯誤を重ねた結果,
「人々
変化していく時代に有効に機能し,図書館員が「総
から意見を出してもらうためには,簡単なものでも
体として」満足できる図書館システムの仕様を考え
よいので,実際に動く共通の環境を用意しないと,
ることには特に留意する必要があろう。
細かなノウハウの提供も,新しい意見を受けるのも
この図書館に関わる人々の中には,図書館利用
難しい」ということが明らかになった。すなわち,
者も重要な構成要員として含まれるものとした。
システムの作成ができる程度の仕様を少人数で作成
Project Next-Lの目標とする図書館システムが,図書
してプロトタイプシステムを開発し,このプロトタ
館外の多くのW e bサービスに伍してサービス展開を
イプに対する感想を集めることが,仕様を策定して
行う以上,これは当然のことと言えるかもしれない。
いく近道であると考えられたのである10)。
このような活動を通じて,多くの人の意見を集約
同時に,このプロトタイプシステム自体も自由に
した結果は,誰でも自由に使うことができるオープ
使用できるオープンソース・ソフトウェア(O S S11),
ンソース統合図書館システムの開発につながること
後述)として公開することで,仕様の策定とシステ
も期待をかけていたのである。
ム開発期間の短縮という,一石二鳥の効果も期待さ
れた。
3. Project Next-Lのプロトタイプシステム
からNext-L Enjuへ
そこで,2008年から,仕様の策定と並行して統合
図書館システムをプロトタイプシステムとして開発
し,これを誰にでも広く公開して使っていただいた
Project Next-Lを設立した当初は,図書館に関わる
上で,感想や意見,新しいアイデアを出していただ
多くの人々が意見を出し合い,これを集約すれば変
くという方針をとることとなった。そのために作成
化していく時代に有効に機能する図書館システムの
された統合図書館システムのプロトタイプが統合図
仕様を考えることは比較的容易に実現可能であると
書館システムEnjuである10)。
想定していた。また,Project Next-L自体は仕様を策
実際にE n j uを試験的に導入する図書館や個人が出
定することが活動の中心であり,プロジェクト自身
現するに伴って,さまざまなルートでE n j uへの問題
が実用に供することができる図書館システムを開発
点の指摘という形で意見が寄せられるようになって
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きた。メーリングリストやW i k iでは発言しにくいが,
4. Next-L Enjuの特徴
個人的なメールや電話でならばご意見をいただける
という人も予想以上に多かった。
特に,実際の図書館業務での運用が開始されると,
Next-L Enjuは,従来からの図書館システムの持つ
機能をほぼすべて備えるほか,従来の図書館OPACの
細かな問題点の指摘や,使い勝手を良くするための
枠組みを超えたサービスや,図書の選書,予約処理
要望が多数寄せられることとなった。例えば,Next-L
など利用者の意見を十分に取り入れた仕組みを備え
E n j uを導入している物質・材料研究機構からは,1年
ている。その主要な特徴は以下の通りである。
足らずの間に200件を超えるバグ(プログラムの不具
1)オープンソース・ソフトウェア(O S S)としての
合)報告や要望が寄せられ,その多くは他の図書館
にとっても有意義なものであると考えられることか
公開
オープンソース・ソフトウェアとは,自由な利用,
らNext-L Enjuの標準的な機能として組み込まれてい
修正,複製,再配布などを認めた上で,プログラム
る。
の実行ファイルだけではなく,システムの修正など
このように意見を出しやすくするためのプロトタ
を行うために必要なソースコード(人間が読んで理
イプシステムとして作成したE n j uは,徐々に機能強
解できるプログラム)も公開しているソフトウェア
化を行いセキュリティなどの対策も行うことで,単
のことである。
なるプロトタイプとしての役割を果たすだけではな
OSS一般に言えることであるが,OSSは自由に利用
く,図書館現場に導入して実際のサービスを行って
することが認められているという点だけを取り上げ
も問題のないレベルのものとなっていった。この要
て無料で利用できるソフトウェアという側面が注目
因としては,プログラミング担当者の執念と実力の
されることが多い。しかし,OSSで注目すべきは無料
高さ,開発のベースとしたRuby on Rails注1)やSolr注2)
で公開されているという点ではなく,むしろプログ
の能力の高さ,そして何よりも,使用した上での意
ラムのソースコードが公開されている点,ソースコー
見を多数得ることができたことがあげられよう。
ドが公開されているということを利用して,より良
さらに,E n j uがO S Sであることから,日本図書館
協会情報システム研究会に興味をお持ちいただき,
いサービスを比較的安価に行うことができるという
点に注目するのが適切であると考えられる。
Project Next-Lが進めている図書館管理システム仕様
また,オープンソース・ソフトウェアとひと口に
書への協力や,E n j uをテーマにした公開研究会を開
いっても,実はそのオープンにしている範囲はさま
催いただくなど,外部の機関等から協力を受けるこ
ざまである。通常,その範囲はライセンスという形
とができたという効果も大きかった。
で規定されており,営利活動に利用することの諾否
プログラムの不具合を修正し,要望を取り入れて
や,変更を加えた結果を公開する義務の有無などが
完成したシステムは,実際の図書館業務に適用可能
定められている。Next-L EnjuはこのうちMITライセン
なものと判断できたことから,それまでのP r o j e c t
ス注3)を採用しており,
ほとんど制約を設けていない。
Next-L プロトタイプシステムEnjuという名称から「プ
すなわち,企業が商業利用しても構わないし,ソー
ロトタイプシステム」の表記を取り,N e x t - L E n j u
スコードを修正した結果を公開せず,自社での利用
Ver.1.0.0として2011年11月11日に公開するに至った。
のみにとどめても問題ない。
なお,OSSの図書館システムとしては,ニュージー
ランドのKohaやフィリピンのPHPmyLibraryをはじ
め,世界的には数多く存在しているが,日本におい
728
Project Next-LとNext-L Enju
てはNext-L Enju以外には厳密な意味でのOSS統合図書
館システムは現時点では存在しない。
2)一般的な図書館システムで備えている基本機能を
ほぼ実装している
3)利用者自身による自由なカスタマイズが可能
Next-L Enjuはソースコードが公開されているため,
利用者自身がソースコードを修正し,自由にカスタ
マイズ可能であることは当然であるが,そのような
Next-L Enjuの開発にあたっては,Project Next-Lで
修正を容易に行うことができるように,システムの
蓄積された意見を参考にするだけではなく,従来の
モジュール化を意識して作成されていることも特徴
図書館システムのうちのどの機能を使用しているか
の1つである。
について,多くの図書館員からの聞き取り調査を行
さらにNext-L Enjuは,プログラム開発によってシ
い,従来のシステムで必要な項目を洗い出した上で
ステムに変更を加えること以外に,システムのオプ
作成を行った。その結果,図書館員の方々から必要
ション設定を変更したり,設定ファイルを修正する
性が高いと指摘を受けた機能の多くを実装したシス
ことで,プログラミングスキルが低い人でも容易に
テムとなっている。
環境を切り替えられる設計となっている。
さらに,それぞれの機能についても図書館員から
例えば,利用者区分や分類番号などについても,
の意見を受けて高度化を図っている。例えば,延滞
システムの初期設定で定めたものの中から選択する
期間に応じて自動的に督促メールの文面を変更して
だけではなく,各図書館に特有の区分などを簡単に
送付する機能や,複本購入時に予約順序の再割り当
追加することが可能である。また,画面のメッセー
てを行う機能,図書返却時に配架場所に応じて画面
ジについてもメッセージファイルを自由に変更する
の色や操作音を変え,返却に行く動線に応じてカウ
ことができるようになっている。この機能を利用す
ンター内での図書の一時保管場所の振り分けを容易
れば,表示をすべて英語にしたシステムや,子ども
に行える機能などを実装し,細かな点で図書館員の
向けの言い回しにすることも容易である。実際に,
負担が軽減されるよう工夫されている(現在公開中
メッセージをすべて英語に翻訳したシステムが物質・
のバージョンではこれらの機能はまだ未実装)。
材料研究機構の図書館で運用されている。
また,要望は多かったが実装していない機能につ
さらに画面の表示そのものもW e bページを記述す
いては,必要に応じて容易に実装することができる
るHTML中にRuby注1)のスクリプトを埋め込むerbが
ような工夫もなされている。例えば,現バージョン
用いられている。そのため,HTMLの読み書きを行う
のNext-L EnjuにはTRC MARCを読み込む機能は標準で
ことができるスキルがあれば,比較的容易に画面の
は実装されていないが,これは実装が技術的に困難
書き換えも行うことができる。図1および図2の画面
であるからではない。現在までのNext-L Enjuの導入
はe r bファイルの書き換えを行っただけで,同じ仕組
館にTRC MARCを購入している図書館が存在しなかっ
みを使って表示されている。
たことから,実装しても実際の検証を行うことが困
このように画面の変更が容易であることは,季節
難であったために開発の労力を他の機能の実装に向
の変わり目やイベントに応じた表示の切り替えなど
けていただけである。他のシステムのデータを取り
を,図書館システムのベンダーに依頼することなく
込むという機能一般については既に実装されており,
簡単に行えることを意味する。これによって,図書
TRC MARCを使用している図書館がNext-L Enjuを採用
館がきめ細かなサービスなどを行うことにもつなが
した場合には,検証データを得て短期間でMARCの読
ることが期待される。
み込み機能を実装することが容易であるように工夫
4)ブラウザーベースのシステムである
がなされている。この点について次項目で述べる。
Next-L Enjuは,Webアプリケーションとしてすべ
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このようなシステムで問題になるのが,個人情報
の流出をはじめとするセキュリティの問題や,ネッ
トワーク切断時の対応である。Next-L Enjuでは,最
新の暗号化技術などを用いて,すべての業務をイン
ターネット環境を経由して行っても問題のないセ
キュリティ対策を施している。また,後述の標準的
なWeb APIを備えることで,スタンドアロンでの運用
とネットワーク環境下での利用の切り替えによって
ネットワーク切断時にも対応することが可能な仕組
みとしている(後者については現在開発中)。
ブラウザーベースですべての業務が行えることか
ら,クラウド環境での運用についても容易に対応が
可能である。実際に,クラウド環境でNext-L Enjuを
稼働させたシステムの運用も開始されている。
図1 Next-L Enjuの標準のトップ画面
5)取り扱う資料の種類を問わず管理・運用が可能
2010年は「電子書籍元年」と呼ばれることもあるが,
公共図書館でも堺市立図書館をはじめとして電子書
籍の利用サービスが開始されるようになってきてい
る。また,大学図書館や専門図書館では電子ジャー
ナルへの対応は図書館サービスに不可欠な業務と
なっている。
N e x t - L E n j uは,従来の紙媒体の図書や雑誌と同
様に電子書籍や電子ジャーナル,図書館自身や行政
機関がデジタル化した文書,さらにW e bページなど
も含めた多様な資料の一元的管理が可能となってい
る。例えば白書などの毎年刊行される出版物がW e b
図2 erbファイルを書き換えた例
上で公開されており,2000年度版までは冊子体で
購 入・ 所 蔵 し て い た が,2001年 度 版 以 降 は 購 入 せ
ての機能を提供するように設計されており,またロ
ず,W e bで公開されている資料を利用者に紹介する
グインしたユーザーの権限によって取り扱える業務
という運用を行っている場合,従来の図書館システ
を切り替えることができる設計となっている。
ムでは冊子体はOPACで,Webページは検索エンジン
そのため,特別な機器を設置することなく図書館
でと別々に探すような運用が普通であった。しかし
業務を行うことが可能であり,必要に応じて貸出カ
Next-L Enjuであれば2001年度版以降のWebページで
ウンターの位置を一時的に変更するなどの運用を柔
公開されている白書を図書館資料として登録するこ
軟に行うことができる。また,ブックモービルなどで
とで,2000年度版以前の紙媒体の資料とあわせて統
も携帯電話などを通じてW e bアクセスをするだけで
一的な環境での検索や表示が可能となる。
貸出・返却を含むすべての業務を行うことができる。
730
Project Next-LとNext-L Enju
6)図書館利用者の持つ知識の取り込み・集約が可能
まざまな図書館サービスへの応用が考えられる。
近年,フォークソノミーという造語がよく取り上
7)画面表示や操作手順に関する工夫がなされている
げられる。フォークソノミーは,f o l k s(民衆)と
近年,情報検索システムの検索結果をカテゴリー
taxonomy(分類)とを組み合わせた語であるとも言
化し,検索結果とあわせて表示することで簡単に絞
われるが12),W e b上にあるページなどに対して,利
り込みを行うファセット・ブラウジングを実装する
用者が他人にも公開する形でブックマークを登録し
ことが増えてきた。オープンソースの検索インター
たり(ソーシャルブックマーク),ソーシャルタグと
フェースFlamenco Searchでも,ファセットによる
呼ばれるキーワードを自由に付け加え,検索などに
カテゴリーをすべて表示することで,利用者に対し,
利用できるようにしていく手法である。
全体の構造がわかるようにするとともに,どのよう
利用者自身が自由にソーシャルタグ(キーワード)
に選択すればよいかのガイドを提示している14)。こ
を付与していくことから,急速に増加するコンテン
のようなファセット・ブラウジングなどを実装する
ツや更新が頻繁に行われるコンテンツなどにも対応
ことで,コレクション全体について理解するのに役
でき,新しく生まれてきた用語の取り扱いも容易で
立つ,自由度が高い,使いやすいといった効果が期
あることなどが特徴とされる。W e b2.0と呼ばれる新
待される14)。また,検索結果のカテゴリー結果を表
しいW e bサービスを実現する仕組みの代表例の1つと
示して絞り込みを行うのとは逆に,検索結果中には
もされる。
出現しない関連情報を表示しようとする仕組みも存
Next-L Enjuも,このようなソーシャルタグの付与
在する。国立情報学研究所のWebcat Plusは,連想検
を行うことができる仕組みを備えている。さらに,
索と呼ばれる仕組みを用いて,検索語と関連する言
ソーシャルタグの表示方法としても単純なタグの表
葉を表示することができる15)。
示機能だけではなく,タグクラウド(利用や注目度
Next-L Enjuも,標準で検索結果からの絞り込みを
に応じて表示するタグの大きさを変えて表示する機
行うためのファセット・ブラウジング機能を実装し
能)なども備えている。タグクラウドの例を図3に示
ている。また,Next-L Enjuをベースに開発された国
す13)。
立国会図書館の国立国会図書館サーチでは,ファセッ
このようなソーシャルタグは,公共図書館などに
ト・ブラウジング機能と連想検索の両方の機能を実
おける最近の利用者の興味を知ることができるほか,
装している。図4は国立国会図書館サーチの検索結果
学校図書館などの授業進行に応じて時間・時期を区
画面である。
切った図書館資料への注意喚起をする場合など,さ
図3 タグクラウドの例
図4 国立国会図書館サーチの検索結果画面
731
情報管理
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2012
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Journal of Information Processing and Management
図4において検索結果が中央に表示され,ファセッ
検索結果を入手するために,各図書館ごとに異なる
ト・ブラウジングの結果が左側,連想検索の結果が
仕組みを実装するなど多くの労力が必要となってい
右側に表示されている。
る。その結果として,出力結果自体とは関係のない,
8)外部のWebサイトとの連携機能
OPACの表示画面上の修正が行われた場合にも横断検
現在のW e bサービスでは,外部機関が持つ情報を
索システムの手直しが必要となるほか,得られた結
取り込み,自身の持つデータと組み合わせて適切な
果をまとめて表示する場合にも工夫が必要になるな
情報を提供することが一般的に行われている。また,
ど,時間的にもコスト的にも大きな負担を強いられ
自身の持つデータを他の機関に利用してもらい,そ
る状況となっている。
のことによって自身の存在価値をアピールするとい
Next-L Enjuでは,SRU/SRW注4)などの検索用Web
うことも行われる。W e b上でのサービスが多様化し,
A P IおよびO A I - P M H注5) などのメタデータ収集用の
図書館が来館者に対するサービス以外に非来館者に
Web APIをともに実装している。これらの国際標準に
対するサービスも充実させることの重要性が高まっ
対応することで,外部サービスにデータを提供した
てきている現状では,他のサービスと連携し,情報
り,他のサービス機関のデータを利用してマッシュ
の提供や利用を柔軟に行うことは,今後の図書館サー
アップを行ったりといった連携を容易に行うことが
ビスの高度化を考えていく上で最も重要なことの1つ
できる。もちろん,それら外部からの定期的なアク
と考えられる。
セスがある程度集中した場合でも問題がないような
外部との連携において最も重要なことは,外部機
工夫もなされている。
関との連携の方針(ポリシー)をきちんと定めるこ
他の機関との連携の例としては,国立国会図書館
とである。ただし,それだけでは効果的なデータの
サーチなどで提供されている書誌データを取り込む
送受を行うことはできない。技術的には,他の機関
機能などがあげられる。2010年10月より国立国会図書
にデータを提供する場合もデータを利用する場合に
館では,納本された国内刊行図書の基本書誌情報を,
も,Web API(外部からプログラムでWebサービスを
納本2 ∼ 3日以内に提供している16)。このような書誌
利用するための標準化されたインターフェース)を
データをWeb API経由で入手することで,MARCを購
備えているか否かが重要なポイントであろう。
入できない個人や小規模な図書館でもI S B Nを入力す
オ ン ラ イ ン 書 店 のA m a z o nや 検 索 エ ン ジ ン の
G o o g l e,国立国会図書館のレファレンス協同データ
るだけで蔵書目録を構築することが可能となる。
9)資料のデータ構造としてFRBRに対応
ベースなど,数多くのW e bサービスがW e b A P Iを公
FRBR(Functional Requirements for Bibliographic
開しており,これらのWeb APIからのデータを取り込
R e c o r d s)は,I F L Aが提唱したメタデータの基本モ
んで,自機関の情報と組み合わせて,あたかも1つの
デルである17)。F R B Rでは書誌を記述する際に,「著
W e bサービスとして提供しているケースも多い(こ
作(W o r k)」,
「 表 現 形(E x p r e s s i o n)」
,
「体現形
のように他の機関からのデータを取り込んで新しい
(Manifestation)
」,
「個別資料(Item)」の4段階でと
情報を提供することをマッシュアップという)。
らえることとなっている。ここで,「著作」は表現を
一方,各都道府県で行われている公共図書館の横
限定しないで識別される作品,「表現形」は,
「著作」
断検索機能は,多くの図書館のOPACの結果を取り込
を何らかの形で表現したもの,
「体現形」は「表現形」
んで表示するという新しいサービスを提供している
を何らかの媒体上に実現したもの,
「個別資料」は個
が,現在の図書館システムの多くは標準的なWeb API
別の資料を意味する。
を公開していない。そのため,対象となる図書館の
732
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February
Next-L Enjuでは,このFRBRの考え方を忠実に実装
Project Next-LとNext-L Enju
しており,小説の原書と翻訳書,対訳書,翻案され
のライブラリ類をインストールし,動作する環境を
た小説,版や出版社が違うものなど関連する図書を
構築する必要がある。そのため,あまり技術力が高
まとめて表示することが可能となっている。
くない利用者には何もない状態からインストールす
ただし,通常は資料に対してF R B Rの各要素を付与
していくという作業をそれぞれの図書館で行うこと
ることは困難であるという問題があった。
そこで,2011年11月11日の正式版公開にあわせて,
は少ないと考えるのが妥当だろう。Next-L Enjuにお
V M W a r e注8)上で動作するE n j u仮想マシンも公開し
いても,このF R B Rの各要素の設定や管理そのものに
ている。このEnju仮想マシンを用い,Windows上の
ついては,図書館の貸出・返却業務やOPACとは切り
VMWare PlayerやMacintosh OS上のVMWare Fusion,
離した別のシステムとして提供することを想定して
さらに仮想化OSであるVMWare vSphere Hypervisor
いる。この点については,後述する。
(ESXi)上でNext-L Enjuを簡単に動作させることがで
きる。特に,VMWare vSphere Hypervisor(ESXi)を
10)その他
Next-L Enjuでは,導入館の意見,プロジェクトに
用いる場合には,ほとんどパフォーマンスを低下さ
意見を寄せていただいた内容を検討し,できる限り
せることなくNext-L Enjuを動作させることができる
要望を取り入れ,他の図書館でも利用可能な仕組み
ことから,単に実験や体験用にNext-L Enjuを利用す
として提供している。電子ジャーナルの契約情報を
るという場合だけではなく,実際の図書館業務に用
入力し,出版社から提供される利用情報と組み合わ
いることもできると考えられる。
せる形で統計データを出力する機能や,バーコード
リーダーによって書架上の図書を順に読み込んでい
5.2 導入館の実例
くだけで,自動的に書架上のリストを作成し,それ
現在N e x t - L E n j uは,物質・材料研究機構をはじめ
らが適切に並べられているかをNext-L Enju上で確認
とした専門図書館を中心に,国立国会図書館,大学図
する蔵書点検機能などが例としてあげられる。
書館や公共図書館など館種を超えて導入されている
これによって,利用館が増加するに伴って,より
19)
。図書館への導入形態も,独自に導入された事例,
必要な機能が実装されていき,使いやすいシステム
Project Next-Lが支援して導入された事例だけではな
へと変化していく柔軟性を持っているのである。
く,Project Next-Lとは関係のない民間企業が,プロ
グラムソースコードをダウンロードして導入・管理
5. Next-L Enjuの導入
サービスを販売した事例も複数存在する。OSSとして
公開したことで,Next-L Enjuを利用したさまざまな
5.1 導入方式
新しいビジネスも生まれているのである。また,宮
Ne x t -L En juは,現 在,す べてのソースコードが
城県の南三陸町図書館に対しては,震災からの復興
GitHubリポジトリサービス注6)上で公開されている18)。
支援として,当プロジェクトがNext-L Enjuを無償提
Next-L Enjuのソースコードは,そのほとんどがRuby
供し,導入支援,運用支援も行っている20)。
on Railsを用いて書かれており,データベース管理シ
さらにNext-L Enjuは,国立国会図書館の新しい情
注7)やPostgreSQL注7)といっ
ステムとしても,MySQL
報探索サービスである国立国会図書館サーチのベー
たOSSが利用可能である。Next-L Enjuを動作させる
スシステムとしても採用されている。国立国会図書
のに必要な各種ソフトウェア群もすべてOSSのみを用
館サーチでは,貸出や返却の機能が必要ない一方で,
いることで稼働させることもできる。
都道府県立図書館の蔵書や,近代デジタルライブラ
ただし,Next-L Enjuを動作させるためには,多数
リ,国立国会図書館デジタルアーカイブ,さらに国
733
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2012
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立国会図書館が収集したW e bページなどの大量の
データとの書誌同定機能など,通常の図書館業務と
は異なる機能が多数必要となっている。そこで,大
㪜㫅㫁㫌 㪝㫃㫆㫎㪼㫉㪑
೑↪⠪ะ䈔ᯏ⢻
ᬌ⚝ᯏ⢻
੍⚂ᯏ⢻䈭䈬
量のデータを対象とした書誌同定や著作同定など,
国立国会図書館に特有の機能については,H a d o o p
などの最新の技術を用いた大量データの管理を行い,
Next-L EnjuはWeb OPACに相当するインターフェー
㪜㫅㫁㫌 㪣㪼㪸㪽㪑
࿑ᦠ㙚ຬะ䈔ᯏ⢻
⾉಴䊶㄰ළᯏ⢻
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ᣢሽ䉲䉴䊁䊛ㅪ៤㪑
㪦㪘㪠㪄㪧㪤㪟
㪪㪩㪬䈭䈬
ス部分の機能(後述のEnju Flowerの機能)や,各種
管理機能部分に使用されている。国立国会図書館で
は,国立国会図書館サーチの開発に伴って改良され
たソースコードをすべて公開する予定となっており,
これらのコードを取り入れることで,Next-L Enju自
㪜㫅㫁㫌 㪩㫆㫆㫋㪑
࿑ᦠ㙚ຬะ䈔ᯏ⢻
ᦠ⹹▤ℂᯏ⢻䈭䈬
図5 Next-L Enju のシステム構成
体の高速化やセキュリティの向上,機能の向上など
が可能になると期待される。
下の問題を解決する。
2)図書館のWeb OPACの機能を提供するシステム
6. Next-L Enjuの構成とProject Next-Lの
今後
W e b2.0的な機能や他のシステムとのマッシュアッ
プ,フォークソノミー的な機能を備えたNext-L Enju
のOPAC機能のみを独立して提供し,従来の図書館シ
Project Next-Lのプロトタイプとして開発が始まっ
ステムと組み合わせて利用することができるように
た当初,Next-L Enjuはすべての機能を1つのパッケー
したシステムで,
これをNext-L Enju Flowerと称する。
ジにまとめた統合図書館システムとして開発を行っ
従来の図書館システムを使い続けたいが,その
てきた。
しかし,実際に図書館システムを導入する状況を
考えられる。このような場合に,貸出・返却などの
考えた場合,すべてのシステムを1つのパッケージに
管理機能については従来のシステムを利用しつつ,
まとめるのではなく,以下の3つに分離することが適
N e x t - L E n j u F l o w e rを利用することが考えられる。
切であるという意見が出された(図5)。
Next-L Enju Flowerを使用する際には,図書館システ
1)いわゆる図書館管理機能を中心とするシステム
ムとの間でWeb API経由での接続ができるほか,図書
貸出・返却,予約機能や,利用者管理機能など,
館業務システムのデータベースの構造が公開されて
いわゆる図書館のサーキュレーション機能を提供す
いる場合には,データベースを直接操作する形の連
るシステムで,これをN e x t - L E n j u L e a fと称する。
携も可能である。
Next-L Enju Leafにおいても,図書館資料の受け入れ
3)FRBRの「著作」,
「表現形」,
「体現形」の管理を行
や登録を行うが,その場合の書誌情報については,
734
O P A C部分について特に不満があるというケースも
う機能を実現するシステム
F R B Rの表現形や著作まで含めて管理する複雑なデー
特に大規模な図書館などで,F R B Rの構造を利用し
タ構造を管理するのではなく,F R B R管理機能のうち
た新しいサービスを開始する場合などに対応するシ
「体現形」と「個別資料」の管理機能のみを行うもの
ステム。これをNext-L Enju Rootと称する。Next-L
とする。これによって,複雑なデータ管理を行うた
Enju Rootの機能を実際に用いる図書館の数は少ない
めの操作手順の簡便化を図るとともに,応答速度低
かもしれないが,日本の図書館界にとっては,F R B R
Project Next-LとNext-L Enju
への対応を準備しておくことは是非とも必要なこと
目指して,常に進化しつづけることが必要であると
と考えられる。Project Next-Lでは,実際の図書館の
考えている。その意味で,現在の形は常に完成形で
システムとして利用可能であることと同時に,将来
はなく,より良いシステムを指向する姿勢こそが重
的な図書館システムの理想像を探ることもプロジェ
要であるといえよう。
クトの大きな目標の1つだと考えており,その意味で
Next-L Enjuは,日本でようやく出現した,現時点
も大勢の意見をいただいて,より良い仕組みを検討
では唯一のオープンソース図書館システムである(そ
していきたいと考えている。
のシステム自身がOSSというのではなく,OSSを使っ
ただし,2011年11月11日に公開したN e x t - L E n j u
ているというシステムは他にも多数存在する)。今後,
Ver1.0.0は,Next-L Enju Leafという名称がつけられて
多くの図書館に普及していくのか,もしくは少数の
いるが,W e b O P A Cの機能も実装したものとなって
図書館で使われるにとどまるのかは現時点ではわか
いる。すなわち,現在の段階ではNext-L Enju Leafと
らないが,このようなシステムが出現することによっ
Next-L Enju Flowerは完全に切り分けがなされていな
て,既存の図書館システムのベンダーに刺激を与え,
い。これは,実用システムとして使用可能であるも
図書館システムが進歩していくための推進力の1つに
のをできるだけ早い時期にリリースすることを目指
なることが期待される。
したためであり,機能ごとにシステムの分割を行う
N e x t - L E n j uは,そのプログラミングこそ少数の
予定である。Next-L Enjuでは,もともと機能ごとに
人々の手によって行われているが,その本質は大勢
プログラムの独立性を高める形でシステム開発が行
の人々の意見を集約するところにある。その意味で,
われており,その意味でNext-L Enju LeafとFlowerを
Next-L Enju成功の鍵はコミュニティーが握っている
独立させることに大きな問題はないと想定している。
ともいえるだろう。継続的に活動を続けられる環境
W e bサービスの世界ではシステム開発の進展は急
を維持し,各種W e bサービスとも伍していける図書
速で,Next-L Enjuも「理想的な」図書館システムを
館システムの開発が続けられることを強く期待する。
本文の注
注1) RubyとRuby on Rails
Rubyはオブジェクト指向のスクリプト言語の名前。従来から用いられているPerlなどよりも生産性が
高いことなどから利用が広がってきている。また,Ruby on RailsはRubyで書かれたオープンソースの
Webアプリケーション開発フレームワーク。既に開発したプログラムの再利用を簡単に行える仕組み
を提供するなど,Webアプリケーションソフトの開発作業を従来よりも簡単に行うことができる。
注2) Solrとは,Luceneプロジェクトの中で開発されたオープンソースの全文検索エンジン。日本語にも対
応した高速で高機能な全文検索機能を提供するものとして,広く利用されている。
注3) MITライセンスは,マサチューセッツ工科大学を起源とするオープンソース・ソフトウェアの代表的な
ライセンスの1つ。MITライセンスは,以下の条件のみをつけた非常に制限の緩いライセンスである。
①誰でも無償で無制限に扱ってよい。ただし,著作権表示および許諾表示をソフトウェアのすべての複
製または重要な部分に記載しなければならない。
②作者または著作権者は,ソフトウェアに関してなんら責任を負わない。
注4) SRU(Search/Retrieve via URL)とSRW(Search/Retrieve Web Service)
SRUとSRWは,Web環境で提供・利用されることを前提とした,情報検索のための通信プロトコル(ネッ
トワーク上での通信に関する規約)である。詳細は以下を参照。
735
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JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
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February
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江草由佳. SRU/SRWの概略. http://dl.nier.go.jp/wiki/?SRU%2FSRW%A4%CE%B3%B5%CE%AC, (accessed
2011-12-15).
注5) OAI-PMH(Open Archive Initiative Protocol for Metadata Harvesting)は,
OAI(Open Archive Initiative)が策
定したメタデータ収集
(メタデータ・ハーベスティング)
のための通信プロトコルである。
詳細は以下を参照。
尾城孝一. OAI-PMHをめぐる動向. カレントアウェアネス. 2003, no. 278. http://current.ndl.go.jp/
ca1513, (accessed 2011-12-15).
注6) GitHubリポジトリサービスは,ソフトウェア開発のための共有Webサービスであり,GitHub社によっ
て保守・運営されている。
注7) MySQLとPostgreSQLは共に著名なオープンソースのRDBMS(リレーショナル・データベース管理シ
ステム)の名称である。
注8) VMWare Player, VMWare vSphere Hypervisorは,コンピューターの仮想化用ソフトウェアを販売する
VMWare社が公開しているソフトウェアで,共に無償で提供されている。
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www.next-l.jp/press_2011_11_04.pdf, (accessed 2011-12-15).
Author Abstract
The Project Next-L is to develop specifications for the next-generation integrated library system by the library
community. Next-L Enju was developed based on the current specification of the Project Next-L. Some of the
key features of Next-L Enju are: 1) various new functions enough to meet the needs for web2.0, 2) handling
all library materials as well as web pages, and 3) managing bibliographic records based on FRBR model. Since
Next-L Enju is open source software, it is freely available. Currently some of the libraries are using Next-L Enju,
which has been growing in the library community.
Key words
integrated library system, open source software, Web2.0, discovery interface, next generation library system,
NDL Search, National Diet Library Search, FRBR, Project Next-L, Next-L Enju
737
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2012
vol.54 no.11
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February
バイオテクノロジー分野における特許分
類および引用情報を指標とした特許の価
値評価に関する一考察
Considerations on patent valuation based on patent classification and citation in
biotechnological field
三原 健治1
MIHARA Kenji1
1 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 バイオ知財コース(〒277-8562 千葉県柏市柏の葉5-1-5
新領域生命棟B17)Tel : 04-7136-5524 E-mail : [email protected]
1 Course of Intellectual Property in Biosciences, Department of Medical Genome Sciences, Graduate School of Frontier
Sciences, The University of Tokyo (Bioscience Bldg. #B-17 5-1-5 Kashiwanoha Kashiwa-shi, Chiba 277-8562)
原稿受理(2011-12-26)
情報管理 54(11), 738-749, doi: 10.1241/johokanri.54.738 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.738)
著者抄録
特許を活用したイノベーションの測定において,
「特許の価値とは何か」という問いに対する答えを求める努力が続け
られている。特許の価値を評価するにあたり,特許分類や引用情報が活用されることも多い。また,バイオテクノロジー
分野は環境・医療への応用面などで注目されており,特許の価値評価についても多くの研究が行われている。しかし
ながら,バイオテクノロジー分野については体系的な特許分類が確立しておらず分類情報をそのまま利用することは
非常に慎重でなければならないこと,引用についても学術論文と特許の引用パターンは一般化できないくらい複雑な
ものであることについて十分に認識されているとはいえない。本論文は,以上の問題点についてバイオテクノロジー
分野の特許審査官として職務を遂行した筆者の経験から検証し,特許の価値評価がいかなるものであるべきかについ
ての考察を与えたものである。
キーワード
バイオテクノロジー,特許,分類,引用,イノベーション,価値評価
1. はじめに
ションを特許で測定できるという仮説を構築し,い
わゆる特許の質(特許の価値)を測定する努力が研
統計手法を用いた実証研究において,イノベーショ
738
究者の間で行われている。例えば,特許出願の「発
ンを測定するという命題を掲げ,その1つの測定手段
明の名称」の文字数や「明細書」の文字数,
「請求項」
として特許情報が活用されることが多い。イノベー
の数などの客観的指標を説明変数として,統計処理
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
(回帰分析)にかけて特許の質を測定するといったこ
あると評価するものであり,この手法はノーベル賞
とが行われている1)。特許の「量」については特許出
受賞候補者の予測にも使われている。引用について
願の数や登録された特許の数等で客観的に計測でき
は特許文献によるものだけでなく,論文や書籍等(非
るが,特許の「質」については一般的には正確な測
特許文献)による引用も当然含まれる。対象とする
定が困難であると考えられている。このように特許
特許について,当該特許が引用する文献のうち,非
の価値とは何かということがよく議論されるが,価
特許文献による引用の多さをサイエンス度が高いと
値を評価するための手がかりとして,その権利化の
評価するいわゆるサイエンス・リンケージといわれ
プロセス(審査官からの拒絶理由通知の回数等)や
る概念も存在する7)。
権利化後の異議申立および無効審判の数注1),さらに
しかしながら,例えば特許文献の解析や計量分析
は成立した特許の活用に関する事象(製品の売上等)
を用いた社会科学の掲載論文を調査してみると,イ
が考慮されることがある。また,特許の価値基準は
ノベーションがこれらの手段で本当に測定できてい
技術分野によっても異なることから,どの技術分野
るのかという疑問が常に湧いてくるのである。考え
の特許を対象とするか(あるいは結果的に対象とな
るに,これらの特許分類や引用情報による価値評価
るか)も重要な評価項目である。一般に,ライフサ
はある意味,非常に客観的かつ簡便であり,代替手
イエンス分野は,医療・バイオテクノロジーといっ
段が少なく研究者はそれでしか測定できないから
た特集が組まれるほどに世間に注目されている技術
使っているのではないだろうか。研究者はこのよう
が多く,価値評価の対象となることが多い2)。また,
な特許分類や引用情報による価値評価が絶対的なも
特許による技術分野の区分はこれから論述する特許
のではないこと,問題点も存在することには言及は
分類によって行われており,特許分類データを用い
しているものの,これらの問題点を正面から検証し,
て統計解析されることも多い。
論じたものはあまり多くない。そこで本稿では,特
一方で,客観的な特許の価値評価の手段が現状に
にバイオテクノロジー分野に関して,特許分類と引
おいて存在しないため,客観性を求める上で最もよ
用情報とに分けて,バイオテクノロジー分野の特許
く使われている指標の1つが引用情報である3)。ある
審査官として職務を遂行した経験から上記問題点に
特許について,それが他の文献に引用される数が多
ついて検証し,最後に特許の価値評価がいかなるも
ければ,その特許は価値があるとするその指標は非
のであるべきかについての考察を加えることで,特
常にわかりやすく,また精度は別として簡便にイノ
許情報を用いたイノベーション研究を行っている研
ベーションを測定することができる指標として研究
究者に一石を投じてみたい。
4)
。実際に,特許におけ
なお,本稿の内容は主に筆者が日本国特許庁(Japan
る被引用数の高さがその技術の専門家による当該特
Patent Office: JPO)に10年以上にわたり審査官とし
許の重要性の評価の高さと正の相関があることを実
て在籍していた際の経験に基づくもので,すべての
証している研究が存在する5)。ある一定数以上の文献
見解は筆者の個人的な視点によるものであり,JPOと
に引用されればその特許は価値があると認定すると
しての公式な見解ではない点を付言しておく。
者の間で広く用いられている
いった文献さえ存在し,さらには引用する文献と引
用される文献の発行日の差異,すなわちどの程度古
い文献に引用されているかに着目しているイノベー
2. バイオテクノロジー分野における特許
分類
ション研究が存在する6)。引用される回数が多ければ
多いほど,その特許は人気がある,すなわち価値が
多様な技術分野が全世界に広がっており,さまざ
739
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
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February
まなジャンルの研究者が活躍している一方で,次々
オテクノロジーそのものの意味の解釈により大きく
に新しい技術領域,学問領域が生まれている。既に
変わってくることも指摘されている8)。
述べたとおり,特許情報を用いた実証的な研究を行
このような状況の中で,バイオテクノロジー(言
う際に,技術分野によって特許の価値に対する考え
葉はライフサイエンス,バイオサイエンス等,いろ
方が異なる点を考慮することは概して異論はない。
いろな表現で述べられている)における特許情報の
すべてが当てはまるわけではないが,化学やバイオ
解析結果が議論されることも多いが,当該解析結果
テクノロジーのように少数の特許が価値を決定する
の対象分野がバイオテクノロジーのほんの一部しか
技術分野や,ソフトウェアや半導体装置のように一
含んでいない場合があり,当該分野の大部分をカバー
製品に何千,何万もの特許が複雑に絡み合った分野
するデータが存在するにも関わらず必ずしも収集さ
があるように,技術分野の違いで特許の価値に対す
れているとはいえない状況が存在する。概してこの
る見方がまったく異なることもある。
種の解析においてはマクロな議論が多いだけに,バ
このような背景から,特許情報を抽出し,分析し
イオテクノロジーの半分もカバーしているとはとて
て議論する際に技術分野で区分して考えることは極
もいえないデータについての解析結果をケーススタ
めて自然な流れであるし,有益な手段の1つである。
ディではなくバイオテクノロジー全体に広げて議論
ここでは,そのうちの1つとして,注目されている分
されることがあり,その際,議論を一般化できる妥
野でもあるバイオテクノロジーについて検討してみ
当性の根拠に乏しい場合は誤った結論を導くことに
たい。
なって,非常に危険である。
まず,分野として「バイオテクノロジー」という
そこでまず,特許においてバイオテクノロジーと
用語を考えてみると,各所でさまざまな定義がなさ
はどのように定義されているかについて考えてみた
れている。特許情報を取り扱う社会科学の論文に
い。特許の場合,技術的範囲を定義する手段として
は「Biotechnology」の他に,似た言葉として「Life
は特許分類を用いるのが有効である。
Science」
「Bioscience」
「Biochemistry」
「Biomaterial」
バイオテクノロジーの定義に関して,経済協力開
「Biomedical」といったものが登場する。もちろん研
発機構(Organization for Economic Co-operation and
究者がバイオテクノロジーの技術に関して専門家で
Development : OECD)がバイオテクノロジー分野の
ないということもあろうが,これらの表現は統一的
統計解析のための詳細なフレームワークを提案して
な意味では使われていない。ただ,「バイオテクノロ
おり,その中で特許分類についても述べている9)。暫
ジー」は一般に「生物工学」または「生命工学」と
定的(provisional)であるとはいっているものの,国
日本語に訳されることが多いが,その定義が明確と
際特許分類(International Patent Classification: IPC)
いうわけでは必ずしもないようである。バイオテク
を用いてバイオテクノロジーの技術範囲を示してお
ノロジーの研究活動に関して調査した結果が,バイ
り(表1左)
,当該フレームワークを参考にすればバ
表1 特許分類によるバイオテクノロジーの技術範囲の定義
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740
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
イオテクノロジー分野におけるイノベーション活動
る。他方,それだけではないという議論もあり,遺
を測定できるとしている。
伝子工学をテーマとするニューバイオ(C12N15/,
さ ら にI P Cに つ い て は, 世 界 知 的 所 有 権 機 関
C07K(ペプチド))
,微生物や発酵をテーマとするオー
(World Intellectual Property Organization: WIPO)に
ルドバイオ(15/以外のC12N(微生物または酵素;
設置されているI P C改正等を議論する専門家委員会
その組成物),C12M(微生物または酵素;その組成
(Committee of Experts)の第41回会合(IPC/CE)に
物)
,C12P(発酵または酵素を使用して所望の化学的
おいて,35の技術分野についてI P Cとの対応表(コン
物質もしくは組成物を合成する方法またはラセミ混
コーダンステーブル)が作成されたことが報告され
合物から光学異性体を分離する方法),C12Q(酵素
ており,その中の1つにバイオテクノロジーが存在す
または微生物を含む測定または試験方法)
,C12R(サ
10)
。この対応表は2005年にフラウンホー
る(表1右)
ブクラスC12CからC12QまたはC12Sに関連し,微生
ファー協会システム・技術革新研究所(F r a u n h o f e r
物に関したインデキシング系列)
,C12S(酵素または
Institute Systems and Innovation Research: ISI)
,科
微生物を利用して既存の化合物または組成物を遊離,
学技術観測所(Observatoire des Sciences et des
分離または精製する方法)
)という分け方もあって,
Techniques: OST)およびフランス産業財産庁(Institut
こうなると表1に記述した2つのバイオテクノロジー
national de la propriété industrielle: INPI)の3者が共
の範囲により近づくことになる。さらに,ニューバ
同で作成したものを,より詳細な分野を考慮し2008
イオやオールドバイオで製造された物質を含むバイ
年にリバイスしたものであり,W I P Oが開示してい
オ医薬品(A61K),生物学的な特徴を利用した分析技
る統計データにも利用されている11)。さらに当該文
術(G01N(材料の化学的または物理的性質の決定に
書は,分野ごとに特定のI P Cが振り分けられる理由に
よる材料の調査または分析)
),特にニューバイオに
ついても述べており,そのうちバイオテクノロジー
融合されるIT技術(バイオインフォマティクス)
(G06F
については,非常に多くの分野にまたがっているこ
(電気的デジタルデータ処理))まで範囲に含めるべ
と,有機化学やコンピューター技術と同様に分野横
断的で包括的な技術であることを述べている。さら
きだとする議論もある注2)。
いずれにせよ,バイオテクノロジーの技術範囲を
に,医薬分野と30%ほどの重複が見られることから,
一定のものに定めれば,上述の通りいくつかの特許
A61K(医薬用,歯科用または化粧用製剤)を除外し
分類によって範囲を策定することは可能である。
ているとも述べている。
技術が進展すると新しい技術的観点が生まれてく
バイオテクノロジー分野の範囲についての考え方
るのは当然であり,文献数が増大すると生まれてく
は非常に多様である。J P Oのホームページにおいて
る新しい技術的観点に合わせて新しい検索キーを作
バイオテクノロジー特許に関するサイトを見ると,
成する必要が出てくる。一般にバイオテクノロジー
遺伝子工学が該当するとしてC12N15/00(突然変異
は技術の進展が速いといわれているが,特許分類の
または遺伝子工学;遺伝子工学に関するD N Aまたは
改正は技術の進展に見合っているのだろうか。表1に
R N A,ベクター,例.プラスミド,またはその分離,
記載のI P Cをバイオテクノロジーの技術範囲と仮程し
製造または精製;そのための宿主の使用)およびそ
て,この技術範囲について,2000年以降に改正があっ
の下位グループのみで説明されているものが存在す
たIPCを表2に示した。
12)
。もちろん,遺伝子工学がバイオテクノロジー
改正はほんのこれだけである。すなわち,バイオ
の注目技術であり,最も代表的な技術の1つであると
テクノロジーに関連する多種多様な分類が存在する
考えるとこのように定義することも1つの方法であ
中,2010 ∼ 2011年に若干の分類が新設されたものを
る
741
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JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
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February
表2 バイオテクノロジー分野における2000年以降に改正があったIPC
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742
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除き,実は1990年代以降,技術的な観点を増やすよ
実は,ほとんどのバイオテクノロジーに関連するI P C
うな分類改正はほとんど行われていないのである。
は1990年代以前に作られたものであり,前述した
さらにいうと,2011年現在運用されている遺伝子工
とおり2011年現在でも変わっていない。また実際問
注3))やペプチド(特にタンパク質に関
学(C12N15/
題として,I P Cを元に細分化した特許分類を内部分
するC07K14/注4))に対応するIPCについては,現行の
類として利用しているJPOや欧州特許庁(European
技術に見合った分類構造になっていない。これはな
Patent Office: EPO)注5)は,遺伝子工学(C12N15/)
ぜだろうか。
に関しては近年発効したI P Cを除き,現行における最
特許分類は,特許文献にインデックスすることに
新バージョンのI P Cのほとんどのものを内部分類とし
よって主として検索に用いるという目的で作成され
て採用していないのである。すなわち,最新版I P Cに
るものである。一方,バイオテクノロジー,特に遺
おいてはC12N15/のメイングループ以下100以上もの
伝子工学関連分野は学術的意義を非常に重要視する
分類項目が細展開されているのに対して,これらに
分野であり,かつて特許として出願することがあま
対応するJ P Oの内部分類(F I)は,これら100以上の
り深く考えられていなかったことが1つ挙げられる。
展開がなされる前のバージョンである(1985年に発
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
効した)I P C第4版に基づくものであり,その分類項
近いと考えられる。核酸プローブではなく,核酸プ
目数はわずか12しかないという現実がある注6)。E P O
ライマー(ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain
においても,C12N15/以下のサブグループの多くが
Reaction: PCR)に使われるもの等)であれば,ポリ
内部分類(ECLA)として採用されておらず,C07Kや
メラーゼという酵素を用いるためC12Qに分類される
他のECLAに置き換えられている注7)。検索に使ってい
ことに問題はない。核酸プローブと核酸プライマー
ないのであれば,増えるのは分類付与の負担だけで
を別の箇所に分類することに違和感がないわけでは
あり,そのようなI P Cであれば廃止するという提案を
ないが,技術的には核酸プローブはC12Q1/68には分
行ってもよいのではないかと考えられる。
類されないのではないかと考えられる。なお,E C L A
さらに,特許になじみにくい,すなわち研究者は
においても同様に核酸プローブはC12Q1/68以下のサ
学術論文を通して研究成果を公表することがほとん
ブグループに分類されているが,その上位のメイン
どだったことから(今も若干その傾向は残っている
グループであるC12Q1/00について,準拠元のI P Cの
が)
,基本的に学術論文の検索が主体になっており,
タイトル(酵素または微生物を含む測定または試験
特許文献の分類体系を整えるということをしてこな
方法)の「酵素」と「微生物」の間に「核酸」を挿
かったのではないかと考えられる。個人的には,バ
入することでI P Cとは異なる修正メイングループを使
イオテクノロジー分野における引用文献の少なくと
用している注10)。
も半数以上が非特許文献であり,先行技術調査を行
このように,バイオテクノロジー分野の特許分類
う際に最初の選択肢となるのは非特許文献(特に学
が統計解析を行う上で整備されているとは言い難い
術論文)データベースであるというのが審査官とし
状況が存在するのである。
て職務を行っていた際の感覚であり,これは当該分
野の審査官であればほぼ同様に考えているだろう。
また,特許の解析・分析を行う場合,主分類(筆
頭I P Cとも呼ばれる)が最もその特許文献の技術的
また,分類付与の解釈についても以下に示す問題
特徴を反映しているということで使われることが多
点が存在する。例えば,D N A等の核酸プローブを用
い。しかしながら,FIに分類展開がない遺伝子工学の
いた検出方法の発明はC12Q1/68(核酸を含むもの)
分野では,ほぼC12N15/09(組み換えD N A技術)に
のIPCに分類されることがほとんどである注8)のだが,
主分類が集中しているのではないかと考えられる。
C12Qというのは「微生物または酵素を含む試験方法」
すなわち,遺伝子工学の特許出願についてはほぼ
であって,核酸プローブは微生物も酵素も含んでい
C12N15/00@A(遺伝子工学(遺伝子組み換えを含む)
)
ないためC12Qというこのサブクラスには該当しない
というF Iが付与されており,C12N15/09というI P Cに
注9)
。むしろ,G01N33/53
コンコーダンス(機械的に変換)されて特許文献の
(免疫分析;生物学的特異的結合分析;そのための物
トップページに掲載されているのがほとんどである
のではないかと考えられる
質)にある「生物学的特異的結合分析」の方がより
(図1)
。
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図1 遺伝子工学分野における分類情報の公報への掲載例(出典:IPDL)
743
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そして,主分類が必ずしもその特許文献の技術的
状である。
特徴を反映しているとはいえないケースがある。そ
このように,バイオテクノロジーに関する特許分
の1つは,上述したC12N15/にも当てはまるが,審査
類にはその技術的・学術的背景から整備されていな
官が特許文献にF Iのみを付与しており,I P Cを直接的
い部分が多く,これらを使ってデータを収集し,マ
に付与していないことによるものである。F Iが旧版
クロに分析することは時に誤った結論を導く危険性
IPCに基づくものであって,かつ過去のIPC改正によっ
をはらんでいるのである。
て旧版IPCと最新版IPCの分類体系がまったく異なって
いる場合,F Iからの最新版I P Cへのコンコーダンスに
不整合が生じ,公報に掲載された最新版I P Cがその文
3. バイオテクノロジー分野における特許
引用
献に対して技術的特徴を正確に反映しないことが起
こる。
これは筆頭IPCにも十分起こり得ることである。
引用には,その特許が引用するもの(後方引用:
もう1つは,元々単観点分類であるI P Cを多重分類
Backward Citation)とその特許を引用するもの(前
として運用し,複数の観点について複数の分類が付
方引用: Forward Citation)の2種類がある。前方引用
与された場合である。特に,IPC指針(2011年バージョ
については,特許が引用されることで,人気がある,
13)
の第105段落には「多観点分類は,多重分類の
ン)
すなわち価値があるとして,特許の価値評価に使わ
特別な型である。多観点分類では,その性質に従って,
れることも多い。また,後方引用について,引用する
例えば,それ固有の構造及びその特定の使用法又は
文献集合に論文が多ければ多いほどサイエンス度が
性質(property)といった様々な観点により特徴付け
高い,すなわちサイエンスとより緊密にリンクしてい
られる主題事項に適用される。こうした主題事項を1
るという考え方(サイエンス・リンケージ)が存在し,
つの観点のみに従って分類すれば,サーチ情報が不
特許の重要度を評価することも行われている。
完全になることが考えられる。付与される分類記号
は,特定された技術主題の観点を1つのみ包含してい
審査官が引用するもの(審査官引用)とが存在する。
るI P Cの1つのまたは複数の分類箇所に限定すべきで
もちろん,審査官引用については,日本への出願で
ない。この技術主題についてその他に重要な観点を
あれば審査請求されたものしか存在しないことにな
分類する必要がある場合は,十分な注意を払ってI P C
る。ただ,出願人や審査官による引用以外に,P C T
の他の箇所に分類すべきである」と多重分類におけ
出願における国際調査報告(I n t e r n a t i o n a l S e a r c h
る多観点分類についての必要性が説示されている。
Report: ISR)または国際予備審査報告(International
多観点分類の場合,どの観点が最もその技術的特徴
Preliminary Examination Report: IPER)で引用された
を反映しているということがいえないケースもある
文献はどう扱うかという問題が存在するが,I S Rや
ため,この場合に主分類が最もその文献の技術的特
I P E Rは審査官が起案することから,審査官引用と同
徴を反映しているとはいえないということが起こり
様に考えてよいのだろう。
得る。
この引用について,被引用数で価値を測定する際
また,多観点といえばFタームでの検索によりデー
には,その引用される文献の重みを考慮する必要が
タを収集することができるが,バイオテクノロジー
あると考えられるが,概してマクロ分析では被引用
に関するFタームが頻繁にメンテナンスされていると
数=特許の価値と考えているケースが多い。ここで
いう事実も実は存在しない注11)。技術の進展が速いた
は引用の重み付けについて少し考えてみたい。
め,メンテナンスが間に合っていないというのが現
744
引用には出願人が引用するもの(出願人引用)と,
出願人引用の場合,傾向として,企業の場合は特
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
許文献を引用し,一方で大学や公的研究機関の研究
論じるために特定の文献を頭の引き出しにもってい
者は非特許文献(主に学術論文)を引用することが
る審査官は技術分野に限らず少なからずいるのであ
多いようである。これらの特許や非特許を含めた引
る。また,その文献が審査官により異なることは十
用の数については,多ければ多いほどより先行技術
分に考えられることである。審査官が周知技術を文
に依拠している部分が大きいように見えるかもしれ
献で示すケースは少なくないことから,総じて引用
ない。しかしながら,実際は異なる。極論すればや
の多さを特許の価値を測る尺度とすることは非常に
ろうと思えばいくらでも引用数を少なくすることも
危険である。
多くすることも可能なのである。
特許の場合,2002年の特許法改正により特許法第36
また,サイエンス・リンケージに関して,必ずし
も科学と技術の直接的なリンケージを示すものでは
条第4項第2号に規定される先行技術文献開示要件注12)
ないとして,分析の解釈に注意が必要との見解も存
が導入されたが,この要件がない時代では(審査段階
在する14)。サイエンス・リンケージは医薬や化学の
で審査官が簡単にclosest prior art(審査対象出願に最
分野において特許の質を測る指標として有効だとも
も近い先行技術)を見つけられないことを考慮してい
いわれているが,最近では一昔(20年ほど)前とは
るのかわからないが)先行研究を可能な限り開示しな
時代が異なり,論文とともに特許もまた,査読はな
いという出願人の戦略も取り得たし,審査官からの先
いものの研究者の間では学術的成果の1つとして取り
行技術文献開示要件違反の指摘がなければ現状でも上
扱われるようになってきている。審査官は引用する
記戦略を取り得るのである。逆に引用数を多くするこ
際に,論文であれば特許よりも詳細な実験例が記載
とについても,出願人が明細書の中の特に背景技術を
されていることがあるので引用したり,一方で特許
詳細に記述すればするほど挙げるべき先行技術文献の
であれば,広いクレームで請求している可能性が高
数も増えてくるのである。
いので容易想到性の観点から進歩性を否定する上で
出願人引用でその価値を測定する他にも,審査官
の先行技術になり得るとして引用したりと,論文お
が実際に引用した数を元にするという審査官引用の
よび特許それぞれについて引用の動機付けは存在し
考え方があるが注13),ここにも引用の重みの問題が存
得るし,特許とその対応論文が存在すればその両方
在する。ある引用文献を新規性または進歩性を否定
を引用することも多い。審査官引用の場合,最近で
するために用いたのであれば,当該文献については
はもはや,どちらを優先的に引用するということは
引用に関してかなりの重みがあるといえる。しかし
ないのである。
ながら,進歩性の認定における相違点を判断する際
また,引用で測定できる内容,すなわち,検証す
に,周知技術として複数の文献(特許・非特許文献)
べき内容についても明確にする必要がある。知識体
を引用した場合はどうだろうか。あるいは,特許法
系の流れについては引用数でもある程度追跡できる
第36条に規定する明細書の記載要件違反を論じる際
と主張することは,引用される文献から引用する文
の技術常識を示すために複数の文献(特許・非特許
献へ技術に関する知見が流れていると理解すること
文献)が挙げられていた場合はどうだろうか。
も可能であることから,一定の合理性があると考え
筆者も元審査官なのでいくつか思い当たる節があ
られる。しかしながら,特許の引用で技術的な重要
る。例えば,ヒト化抗体,ヒト型化抗体,キメラ抗
度を測ることができたとか,価値を測定できたとか,
体等の作製方法を周知技術であるというために特定
そういう考え方は若干発想の論理が飛躍しているの
の文献(レビューや総説に相当するもの)を挙げる
ではないか。引用以外の他の要素を組み合わせて複
ことがある。このようにある技術に関する周知性を
合的に検証し,価値を測定するという考え方を否定
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するものではないが,計量分析に関する論文等を見
特許分類を使ったイノベーションの測定を行うので
ると,特に統計解析を用いた手法において,仮説を
あれば,データ収集の指標としてO E C Dで定義され
単純化することで被引用数が一定以上だから価値あ
た範囲やI P C / C Eで報告された範囲はバイオテクノロ
りといった検証の仕方で半ば盲信的に評価すること
ジーの技術範囲として参考にできるだろう。
があまりにも多く見受けられる。研究者の主観を排
また,出願人引用については個々の出願人の考え
除できてかつ簡便に評価できるのかもしれないが,
方により引用数は変動し得るし,審査官引用につい
そのリスクは研究者もその論文の読者も十分に認識
ても,新規性,進歩性の他,周知技術,技術常識と
すべきではないだろうか。
いった引用行動パターンはさまざまであることから,
それらの重みを一律に扱うのは極めて危険である。
4. 価値評価としての特許分類と特許引用
さらにいえば,古い文献であれば引用数が多く,新
しい文献であれば引用数が少ないといった時間的要
筆頭I P Cや引用を使った特許の価値評価は,それら
因もある。また,これは時間的要因を単純に平準化
が最も手に入れやすい情報であり,代替手段を見つ
して比較すれば解決する種類の問題でもない。例え
けることが非常に困難であるという理由で普及して
ば,2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩博士
いると考えられる。しかしながら,研究者は,これ
の緑色蛍光タンパク質(GFP)に関する研究のように,
は価値の本質を測定しているわけでは決してないこ
1962年に発行された文献15)が40年以上経った後に被
とを肝に銘じておくべきである。特許分類はそもそ
引用数が増加していることもあるので,難しい問題
も人間が付与しているので,エラーは当然起こり得
である(図2)
。
さらに,特許情報から何らかの知見を導き出す際
るものだという認識に加えて,特にバイオテクノロ
ジーに関しては体系だった分類が存在しないため,
に,用いるデータベースによっても結果が異なるこ
評価が極めて困難であることも理解しておくべきで
とがある。これは,経験のある研究者も多いだろう
ある。もしバイオテクノロジー分野という枠組みで
が,特許分類を用いた検索のアルゴリズムや引用数・
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図2 被引用数の年次別推移(Web of Knowledge(Web of Science)の引用文献検索を利用)
746
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
被引用数の測定方法が使用するデータベースにより
このような作業フローの中で,イノベーションを測
異なることがあるので,注意が必要である。
定する際の計量書誌学的ツールとしての特許情報は,
最後に,概して社会科学の分野では,問題意識を
リサーチ・クエスチョンとしてとらえたら,関連す
比較的情報収集がしやすく,解析対象としては適し
ていると考えられる。
るデータを収集して,統計処理を含む何らかの手段
しかしながら,特許分類や引用情報を用いて特許
により問題意識を観察し,その結果を定量的または
の価値を評価し,イノベーションを測定する研究者
定性的に分析することで,意味のある結論や洞察
は,特にバイオテクノロジーに関しては特異な点が
(Implication)を導き出すという作業フローが存在し,
多く,これまで述べてきた問題点があることについ
また,枠組みとしての学問領域というものが存在せ
て十分に注意すべきであり,得られた解析結果を一
ず,得られたImplicationを一般化,抽象化,概念化
般化するには非常に大きな危険が潜んでいる可能性
することで学問的な貢献に寄与し,そして学問領域
を認識すべきであることを改めて強調しておきたい。
を拡張させる性質のものではないかと考えられる。
本文の注
注1) 特許として出願された技術の注目度を指標化したものとして「パテントスコア」を算出するサービス
が提供されている。
http://www.patentresult.co.jp/about-patentscore.html, (accessed 2011-11-15).
注2) なお,バイオインフォマティクスに関しては2011年1月にG06F19/10以下に10のI P Cが新設されてい
る。特許電子図書館(IPDL,http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl)のパテントマップガイダンス
(PMGS)において,IPC照会の項目に「G06F19/10」と入力すれば照会可能。
注3) IPDLのPMGSにおいて,IPC照会の項目に「C12N15/00」と入力すれば照会可能。
注4) IPDLのPMGSにおいて,IPC照会の項目に「C07K14/00」と入力すれば照会可能。
注5) 日本国特許庁ではIPCを細分化したFI(File Index)を,欧州特許庁ではIPCを細分化したECLA(European
C L A s s i f i c a t i o n)をそれぞれ使っている。米国特許商標庁にも内部分類は存在する(U S P a t e n t
Classification: USPC)が,IPCが創設される前に作られたものであり,IPCに準拠していない。
注6) I P D LのP M G Sにおいて,F I照会の項目に「C12N15/00」と入力すれば照会可能。なお,F Iが採用する
IPCの版は各FIのメイングループ単位で決まっている。IPC第4版においてはC12N15/00のメイングルー
プのみが存在し,その下位展開(サブグループ)は存在しない。
注7) E P Oが提供しているE s p a c e n e tのC l a s s i f i c a t i o n s e a r c h(h t t p : / / w o r l d w i d e . e s p a c e n e t . c o m /
eclasrch?locale=en_EP&classification=ecla)でC12Nを検索し,注を表示させる(show notes)と,
WARNING [C2010.05]という項目に説明されている。
注8) FIの場合,C12Q1/68@Aに分類される。
注9) I P Cの分類タイトル(説明文)について,サブクラス(例:C12N)以下の階層についてはタイトルお
よび参照等によりその技術内容ができるだけ正確に定義されており,クラス(例:C12)以上の階層
については大まかに指示されているに過ぎないとされている。
注10) ECLAのC12Q1/00のタイトル(説明文)は以下のとおり。
Measuring or testing processes involving enzymes, [N: nucleic acids] or micro-organisms
注11) 例えば,遺伝子工学(C12N15/00-15/90)をカバーするFターム(テーマコード4B024)は事実上ほと
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んど使用されていない。
注12) その発明に関連する文献公知発明のうち,特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているもの
があるときは,その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報
の所在を記載したものであること。
注13) もちろん,知識の流れを追うという目的においては,審査官引用がノイズになるとする見解もあ
る(Alcácer, J. et al. Patent Citations as a Measure of Knowledge Flows: The Influence of Examiner
Citations. The Review of Economics and Statistics. 2006, vol. 88, no. 4, p. 774-779)が,ここでは特許の
価値を測定するという観点で論じている。
参考文献
1) 特許の質への取組みとその客観的指標の活用の可能性に関する一考察. 知財管理.2011, vol. 61, no. 9, p.
1325-1339.
2) Owen-Smith, J. et al. The expanding role of university patenting in the life sciences: assessing the
importance of experience and connectivity. Research Policy. 2003, vol. 32, no. 9, p. 1695-1711.
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ス構築による遺伝子工学技術分野特許の分析−. 研究 技術 計画. 2002, vol. 17, no. 3/4, p. 222-230.
8) Rose, A. A Challenge for Measuring Biotechnology Activities . The Economics and Social Dynamics of
Biotechnology. 2000.
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10) World Intellectual Property Organization (WIPO). Concept of a Technology Classification for Country
Comparisons. (IPC/CE/41/5: ANNEX). http://www.wipo.int/edocs/mdocs/classifications/en/ipc_ce_41/
ipc_ce_41_5-annex1.pdf, (accessed 2011-11-14).
11) World Intellectual Property Organization (WIPO). Statistics on Patents . World Intellectual Property
Organization (WIPO). http://www.wipo.int/ipstats/en/statistics/patents/, (accessed 2011-11-14).
12) 特許庁. バイオテクノロジーの特許について . 特許庁. 2000-10. http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/
chousa/tt1210-005_tokkyo.htm, (accessed 2011-11-14).
13) 特許庁. 国際特許分類(IPC)指針(2011年バージョン).http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/
kokusai_t/pdf/ipc8wk/guide_ipc2011.pdf, (accessed 2011-11-14).
14) Meyer, M. Does science push technology? Patents citing scientific literature. Research Policy. 2000, vol.
29, no. 3, p. 409-434.
15) Shimomura, O. et al. Extraction, Purification and Properties of Aequorin, a Bioluminescent Protein from
748
バイオテクノロジー分野における特許分類および引用情報を指標とした特許の価値評価に関する一考察
the Luminous Hydromedusan, Aequorea. Journal of Cellular and Comparative Physiology. 1962, vol. 59,
no. 3, p. 223-239.
Author Abstract
Regarding innovation measurement utilizing patent information, a number of researchers are making great
efforts to measure a "patent value (patent quality)." For patent valuation, patent classification and citation are
often utilized as patent information. Also, biotechnological field is attracting attention from the viewpoint of
application to environmental or medical study, and considerable researches on patent valuation are ongoing
in this technical field. However, it is not enough recognized that researchers cannot be too careful when they
deal with classification information in the biotech field because patent classification structure in this field is
not well-established. And also, it is not known enough that citation patterns of both academic papers and
patent documents are so complicated that the patterns cannot be easily generalized. In this article, the issues
above were verified from a position based on working experiences of biotech patent examiner at Japan Patent
Office, and considerations and implications were given on what patent valuation should be.
Key words
biotechnology, patent, classification, citation, innovation, valuation
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February
連載
統計情報活用への招待
第8回 住宅・建築物・土地の公的統計
Series: Guide to effective use of statistics
Part 8: Official statistics on housing, buildings and estate
浅田 昭司1
ASADA Shoji1
1 データ工房(〒153-0043 東京都目黒区東山1-13-15)E-mail : [email protected]
1 DATA・LABO (1-13-15 Higashiyama Meguro-ku, Tokyo 153-0043)
情報管理 54(11), 750-758, doi: 10.1241/johokanri.54.750 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.750)
1. 住宅・建築物・土地の主要統計
れる。「住宅・土地統計調査」は,世帯調査で,住宅
の戸数・広さ・築年数,保有土地の広さなどを調べ
今回は,住宅・建築物・土地の公的統計をご紹介
ている。
「住生活総合調査」は,世帯調査で住生活へ
する。建物は人が住む,仕事をすることと密接に関
の満足度,引っ越しの意向などを調べている。「住宅・
わっており,さまざまな市場規模を算出する上での
土地統計調査」が客観的な数値を調べているのに対
基本的なデータである。例えば住宅関連商品の開発
し,「住生活総合調査」は意識を調べたものである。
においては,機能,スペックなどを決定していく際に,
「法人建物調査」は,法人所有の建物についての棟数
住宅の広さ,構造を把握しておくことが必須である。
や広さを調べたものである。「建築着工統計」は,業
住宅の広さは家庭用品の潜在的な購買力の指標とし
務統計で,新規に着工した建築物の戸数・棟数,広さ,
て活用される。置きたくてもスペースがなければ,
予算額などを調べている。「住宅・土地統計調査」や
そのことが購買動機の障害となる。特に住宅の着工
統計は,住宅を新築した折に家具などが購買される
きっかけとなることから,その数が注目される。さ
らに,住宅設備機器,建材メーカーが関連製品の市
場把握を行う上で,基本情報として必ず確認しなけ
ればならない統計である。また,住宅は資産額の多
くを占めることから地域別の資産を推測する上から
も重要視されている。
表1が今回取り上げる統計であり,「建築着工統計」
をはじめとして,国土交通省の各統計がよく利用さ
750
表1 住宅・建築物・土地の主要統計一覧
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統計情報活用への招待
「法人建物調査」がストック統計であるのに対し,
「建
万の国勢調査区のうち,約21万調査区を抽出してい
築着工統計」はフロー統計である。土地の所有面積
る。市区町村の人口規模別に調査区抽出率を設定し,
に関しては,
「住宅・土地統計調査」が世帯の統計で
各調査区の特性などを考慮し,全国の縮図となるよ
あるのに対し,
「法人土地基本調査」が法人が所有し
う配慮した。
ている土地の統計である。
調査票は調査事項に粗密をつけ,調査票甲と調査
票乙の2種類を用いている。約350万世帯の7分の1に
2. 主要統計の概説
相当する約50万世帯については,調査事項の多い調
査票乙を,残りの約300万世帯については調査事項の
2.1 住宅・土地統計調査(総務省)
少ない調査票甲により調査する。このような調査方
2.1.1 調査の概要
法をロングフォーム・ショートフォーム方式と呼ん
「住宅・土地統計調査」はわが国における住宅およ
でいる。
び住宅以外で人が居住する建物に関する実態並びに
調査事項は,時代の変化に対応し,5年ごとに新し
現住居以外の住宅および土地の保有状況その他の住
く設けたり削除したりしている。平成18年に今後の
宅等に居住している世帯に関する実態を調査し,そ
住宅政策の基本となる「住生活基本法」が公布・施
の現状と推移を全国および地域別に明らかにするこ
行され,「平成20年住宅・土地統計調査」では住宅政
とにより,住生活関連諸施策の基礎資料を得ること
策が「量」の確保から「質」の向上へと本格的な転
を目的としている。
換が図られることとなった。これを踏まえ,既存住宅
昭和23年に第1回の調査を行い,その後5年ごとに
の改修の実態や耐震性,防火性,防犯性など,住宅の
実施され,平成20年調査で13回目になる。調査開始
質に関する事項の把握の充実を図ることとしている。
以来60年の歴史を持つ。平成5年までは「住宅統計調
例えば,本来の住居以外に別荘を持ったり,通勤
査」と呼び,現住居とその周辺環境についての調査で
で遅くなった時に泊まるためのマンションを都心に
あったが,平成10年版から,現住居以外に保有して
持ったりするなど,新しい住まい方が徐々に増えて
いる住宅や土地についても調査し,多様化する国民
いる。その実態を把握するため,面積,用途,取得
の居住状況の実態を把握するための総合的な調査と
時期などを調査事項として加えている。また高齢者
なった。このような調査内容の変更に伴い,調査名称
世帯と同居して孫の面倒をみてもらうなどの住まい
も「住宅・土地統計調査」に変更した。なお,平成5
方の変化によって二世帯住宅が増えているので,そ
年には国土庁(現・国土交通省)が世帯についての土
の実態を把握するために台所の箇所数が調査事項に
地統計を作成するために,
「土地基本調査 世帯調査」
加えられた。
を実施したが,平成10年版より,
「住宅・土地統計調査」
高齢化社会への移行に伴い,高齢者対応型住宅(バ
で土地に関する調査も併せて行うことから,
「土地基
リアフリー住宅)が増えているので,手すりが備わっ
本調査 世帯調査」は行わないことになった。
ているか,またぎやすい浴槽の高さか,廊下を車い
調査期日において,調査単位区内から抽出した住
すで通行できるか,段差がないかなどを調査してい
宅および住宅以外で,人が居住する建物並びにこれ
る。かつての調査では,高齢者のための工事をした
らに居住している世帯(1調査単位区当たり17住戸,
かという調査(フロー)のみであったが,ストック・
計約350万住戸・世帯)を対象とする。サンプル数は
フローの両方を把握している。
全世帯の約14分の1に相当する。わが国で最も大規模
定期借地権や地下室の面積について調査したケー
な標本調査と言える。標本の抽出においては,約98
スがあるが,これらは法律の改正に伴って変化する
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住宅の状況を把握するためのものである。
な幅,段差のない屋内,道路から玄関まで車いすで
通行可能といった区分で住宅数を調べている。これ
2.1.2 統計からわかること
(1)住宅の戸数
らの設備がある住宅の割合について図1に示した。
(9)水洗化率
平成20年の調査では,わが国には約5,759万戸の住
トイレが水洗かどうかを調べているので,水洗化
宅があるが,この場合の戸数とは,棟数と違い,一
率がわかる。ただし,水洗トイレには直接公共下水
つの世帯が独立して家庭生活を営むことができるよ
道に流す方式だけでなく自家浄化槽で処理するもの
うに区画された状態の建物およびその一部である。
も含めている。
したがってアパートは,棟数としては1つだが,戸数
(10)火災報知機の設置率
としてはその世帯数分である。例えば,廊下の突き
改正消防法が公布され,平成18年6月から,新築の
当たりに共同便所があり,炊事用流しが廊下に面し
すべての住宅,アパート,共同住宅に火災報知器の
てある場合でも,ほかの世帯の居住部分を通らずに
設置が義務付けられている。既存住宅については各
いつでも使用できる状態だから,個々に独立した戸
市町村条例により,平成20年6月1日∼平成23年6月1
数とみられる。
日の間で設置義務化の期日が決められている。この
(2)建て方別の戸数
建て方は,一戸建て,長屋建て,共同住宅,その
他の4分類である。
(3)構造別の戸数
構造は,木造,非木造の2分類である。
(4)空き家の数
法改正の浸透度を調べる目的で,自動火災感知設備
(住宅用火災警報器等)を設置しているかどうか,家
のどこに設置しているかを調べている。
(11)省エネルギー設備の設置率
東日本大震災を契機に省エネルギー設備の住宅へ
の設置に拍車がかかっている。省エネルギー設備と
空き家は,二次的住宅(別荘,その他),賃貸用の
して,太陽熱を利用した温水機器等,太陽光を利用
住宅,売却用の住宅,その他の住宅というように種
した発電機器,二重サッシまたは複層ガラスの窓の
類分けしている。別荘は,避暑・避寒などの目的で
設置率が調べられている。
使用されるもので,その他は,普段住んでいる住宅
とは別に,残業で遅くなった時に寝泊まりするなど
で使用されるものである。
(12)オートロック式のマンションの割合
「共同住宅」について,オートロックか否かを調べ
ている。
(5)持ち家と借家の比率
所有の関係として,持ち家か借家かの比率がわか
る。
(6)住宅の規模
規模として,居住室数,居住室の畳数,延べ床面
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(7)敷地面積
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(8)高齢者等のための設備がある住宅数
高齢者のための設備として,手すりがある,また
ぎやすい高さの浴槽,廊下などが車いすで通行可能
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建て方別,所有の関係別などで敷地面積がわかる。
752
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図1 高齢者のための設備がある住宅の割合
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統計情報活用への招待
(13)増改築・改修工事の状況
2.1.3 読む上での注意点
「持ち家」について,平成16年1月以降にその世帯
(1)四捨五入による数値の表章
が使用するために増改築(建て替えおよび新築を除
統計表の数値は,表章単位未満の位で四捨五入し
く)や改修工事等を行ったか否かを増築・間取りの
ているため,総数と内訳の合計は必ずしも一致しな
変更,台所・トイレ・浴室・洗面所の改修工事,天井・壁・
い。
床等の内装の改修工事,屋根・外壁等の改修工事,壁・
全国および都道府県は,10位を四捨五入して100位
柱・基礎等の補強工事,窓・壁等の断熱・結露防止工事,
までを有効数字として表章している。例えば,平成
その他の工事(例えば,ベランダの設置や修理,手
20年における一戸建てのうち平屋の戸数は,4,370,100
すりの設置,電気配線(コンセント,スイッチの増設)
戸と表章している。市区町村は,1位を四捨五入して
など)別に調べている。
10位までを有効数字として表章している。サンプル
(14)収入階級別世帯数
数の少ない調査票乙の集計結果は,100位を四捨五入
収入は,世帯員全員の1年間の収入(税込み額)の
合計である。収入には,賃金のほか,ボーナス・残
して1000位までを有効数字として表章している。
(2)共同住宅と長屋建ての違い
業手当などの臨時収入,内職や副業による収入,年金・
建て方としては,一戸建て,共同住宅,長屋建て
恩給等の給付金,配当金・利子・家賃・地代などの
というように分類されている。共同住宅は,アパー
財産収入,その他仕送り金などが含まれる。ただし,
トやマンションである。長屋建ては,2つ以上の住宅
相続・贈与や退職金などの経常的でない収入は含ま
を一棟に建て連ねたもので,各住宅が壁を共通にし,
れない。
それぞれ別々に外部への出入り口を有している。つ
自営業の場合は,売上高ではなく仕入れ高,原材
まり外に出るのに隣の住宅の人と階段も廊下も共用
料費,人件費などの必要経費を差し引いた営業利益
しない建て方である。テラスハウスと呼ばれている
を世帯の収入とする。
ものもこれに該当する。
都道府県編には,市,区および人口15,000人以上
一見すると,3階建ての共同住宅のように見えなが
の町村ごとの収入階級別世帯数が掲載されている。
ら,1階と2階の半分が中に階段があり一戸となって
表2は,
石川県七尾市の収入階級別世帯数の例である。
おり,2階の半分と3階とが内部の階段でつながって
一戸となっている建物がある。そして,2階と3階が
つながっている住宅には,その住宅専用の外階段が
ある。これも長屋建てである。一戸建てのような独
表2 石川県七尾市の収入階級別普通世帯数
立感があり,しかも共同住宅のような敷地面積の有
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2.2 住生活総合調査(国土交通省)
2.2.1 調査の概要
「住生活総合調査」は,全国の普通世帯の住宅およ
びその周りの住環境に対する評価,住宅改善計画の
有無と内容,住宅建設または住み替えの実態等を把
握することにより,住宅政策の基礎的資料を得るこ
とを目的としている。
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本調査は,平成15年までは「住宅需要実態調査」
として継続的に実施してきたものである。「住宅需要
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実態調査」は,昭和35年に第1回の調査を行い,続い
て昭和41年,昭和44年に行い,昭和48年以降は,住
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宅や世帯の実態を把握する「住宅・土地統計調査」
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務省実施)と同年に,5年周期で実施してきた。平成
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20年の調査からは「住宅・土地統計調査」との連携
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る満足度に関する調査項目を充実するとともに,住
生活において居住者の重視する事項,親と子の住ま
い方の現状や意向に関する調査項目,ローン残高や
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図2 住まいにおいて最も重要と思う点
資産等の居住者の経済状況に関する調査項目を追加
している。両調査において重複していた住宅や世帯
環境の各要素に対する評価(30区分),火災・地震・
の現状等に関する調査項目を削除している。
水害などに対する安全などの要素別にわかる。
前述の「住宅・土地統計調査」との関係について
(2)住環境への評価
は,
「住宅・土地統計調査」と同一客体から抽出した
居住環境の各要素に対する評価として,火災・地
世帯を調査対象とし,「住宅・土地統計調査」に回答
震・水害などに対する安全,敷地や周りのバリアフ
した世帯から回答を求めた。対象世帯数は,96,845(調
リー化の状況,周りの道路の歩行時の安全,治安,
査票を配布できた世帯)で,回収世帯数は,83,292(回
犯罪発生の防止,騒音,大気汚染などの少なさ,通
収率86.0%)そのうち集計した世帯数は,81,307(「平
勤・通学などの利便,日常の買い物,医療・福祉施
成20年住宅・土地統計調査」結果データと結合でき
設・文化施設などの利便,子供の遊び場・公園など,
た世帯)である。調査世帯は12月1日現在の状況を記
緑・水辺など自然との触れ合い,敷地の広さや日当
入する。
たり・風通しなど空間のゆとり,町並み,景観,親
や親戚の住宅との距離,近隣の人たちやコミュニティ
2.2.2 調査からわかること
(1)住宅への不満
住宅への満足度として,住宅の広さや間取り,収
子育て支援サービスの状況などの満足度や重要性を
調べている。
納の多さ・使いやすさ,台所・トイレ・浴室等の使
住まいにおいて最も重要と思う点としては,
「火災・
いやすさ・広さ,地震・台風時の住宅の安全性,火
地震・水害などに対する安全」とする世帯が15.1%
災時の避難の安全性,住宅の防犯性,住宅の傷みの
と 最 も 多 く, 次 い で「 治 安, 犯 罪 発 生 の 防 止 」 の
少なさ,住宅の維持や管理のしやすさ,住宅の断熱
12.9%,「地震・台風時の住宅の安全性」の12.1%と
性や気密性,冷暖房の費用負担などの省エネルギー
続き,安全性に関する項目が上位を占める(図2)
。
対応,高齢者等への配慮(段差がないなど),換気性
能(臭気や煙などの残留感がない),居間など主たる
754
との関わり,福祉・介護等の生活支援サービスの状況,
(3)居住状態に変化のあった世帯の割合
居住状態の変化として,世帯として新たに独立・
居住室の採光,外部からの騒音などに対する遮音性,
分離した,親や子の世帯と1つになった,就職・転職
上下階や隣戸からの騒音などに対する遮音性,居住
した,退職・離職した,結婚した,離婚した,子が
統計情報活用への招待
誕生した,子等が独立した,同居する世帯構成員(親
めの推計値であり,世帯総数や住宅総戸数を含め,
など)と死別した,同居する世帯構成員(親など)
推計された世帯数の実数を使用することは想定して
が老人ホームなどの居住施設等へ入居した,同居す
いない。集計は,調査目的である居住者の評価・意
る世帯構成員(親など)の介護を始めたなどの変化
向等の主観的データを中心に行っている。
のあった世帯の割合を調べている。
(4)住み替え・改善の意向・計画の有無および内容
現在,住み替え・リフォームの意向・計画として,
所有関係・規模・構造等の客観的データについて
も参考として集計しているが,これらの客観的デー
タについては,前述のとおり実数はもとより,比率(例
家を新築する,家を購入する,家を借りる,家を建
えば持ち家率等)についても,抽出率が「住生活総
て替える,リフォーム(増改築,模様替え,修繕など)
合調査」の約40倍もある「住宅・土地統計調査」を
を行う,家を譲り受けるまたは同居する,家を建て
用いるほうがよい。
るためにさし当たり土地だけを購入する,今の家の
敷地(借地)を買い取るなどがあるかを調べている。
2.3 建築着工統計(国土交通省)
拠出可能総額も調べている。
2.3.1 調査の概要
(5)居住継続の意向
今後の居住継続の意向として,住み続けたい,で
きれば住み続けたい,できれば住み替えたい,住み
替えたい,わからない,の5区分で調べている。
(6)高齢期における子との住まい方
高齢期における子との住まい方について,子と同
居する(二世帯住宅を含む),子と同一敷地内,また
は同一住棟(長屋建て・共同住宅)の別の住宅に住む,
徒歩5分程度の場所に住む,片道15分未満の場所に住
む,片道1時間未満の場所に住む,こだわりはない,
国土交通省では,建築の動態を把握するため,建
築基準法の建築工事届等をもとに,昭和25年以来「建
築動態統計調査」を毎月実施している。
そのうち,建築着工統計は,以下の3調査を指す。
・建築物着工統計
・住宅着工統計
・補正調査(工事実施額を調べ予定額との乖離を明
らかにする)
補正調査は無作為抽出調査だが,それ以外は悉皆
調査(調査客体のすべてを対象としている)である。
子はいない,わからない,の区分で調べている。
調査の歴史を振り返ると,昭和5年に定められた内
(7)相続する可能性のある住宅の有無・活用方法
務報告令により,市街地建築物法の適用区域内にお
住宅の相続をどうするかについて,相続しその家
ける建築物について,統計調査を実施したのが現在
に住む,相続し別荘・セカンドハウスとして活用する,
の「建築動態統計調査」の始まりで,これが終戦時
相続するがその家には住まない,相続するがその家
まで継続した。戦後の混乱期には,築造許可届,割
に住むかどうかはわからない,相続するつもりはな
り当て資材,着工および竣工に関する調査が行われ,
い,相続するかどうかはわからない,相続する家は
昭和25年からは,現在のような統計法に基づく精度
ないなどの区分で調べている。
の高い資料となっている。
2.2.3 読む上での注意点
2.3.2 統計からわかること
この統計は,調査結果を分析するために,各調査
(1)用途別の建築物の数と床面積,工事費
区および調査対象住戸ごとの抽出率を基に,各集計
用途として,居住専用,居住産業併用,産業用と
区分に該当する世帯数を拡大推計したものである。
して化学工業用など,公益事業用としてガス業用な
ただし,あくまでも集計区分相互の比率を求めるた
ど,商業用として飲食店用など,サービス業用とし
755
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表3 新設住宅着工・利用関係別戸数
て宿泊業用などの分類がある。建築主が国,都道府県,
市区町村,会社,個人などの区別もある。
(2)使途別の建築物の数
事務所,店舗,工場,作業場,倉庫,学校の校舎,
病院・診療所など別の数がわかる。なお,工場は,
製造または修理をする場所で,作業場は,商品包装,
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荷造り,物品検査,コンピューター操作,ポンプ小
屋などの場所を指す。
(3)増改築の件数
工事の種類として,新築,増築,改築別の建築物
の数,床面積,工事費予定額がわかる。
新築とは,既存の建物のない新たな敷地に建築物
を建てる工事をいう。増築とは,既存の建築物のあ
・分譲住宅(建て売りまたは分譲の目的で建築する
もの)
なお,持ち家か貸家かという2分類でとらえる場合
は,持ち家+分譲住宅,貸家+給与住宅の2区分とし
て算出できる。
(7)プレハブの建築戸数
る敷地内で床面積の合計が増加する工事をいう。改
建築工法としては以下の3分類が用いられている。
築とは建築の全部または一部を除却し,従前のもの
・在来工法(プレハブ工法,枠組み壁工法以外)
と用途,規模,構造が著しく異ならない工事である。
・プレハブ工法(住宅の主要構造部の壁,柱,はり,
(4)新設着工住宅の戸数
新築,増築,改築によって住宅の戸数が新たに造
られる工事を新設といい,新たに増加しない工事を
その他としている。なお,戸数とは,1つの世帯が独
立して家庭生活を営めるように完全に区画された建
屋根または階段などの部材を機械的方法で大量に
工場生産し,現場においてこれらの部材により組
み立て建築する方法)
・枠組み壁工法(ツーバイフォー工法住宅)
(8)一戸建ての建築戸数
物の一部のことであり,アパートの1室なども該当す
建て方としては,一戸建て,長屋建て,共同住宅
る。棟とは異なる概念である。棟数は,建築物の数
の3区分である。長屋建てについては,総務省の「住宅・
として集計されている。総務省の「住宅・土地統計
土地統計調査」で詳説しているので参照願いたい。
調査」と同じ分類概念である。
(5)木造,鉄筋コンクリート別の建築数
構造別として,木造,鉄骨鉄筋コンクリート造,
鉄筋コンクリート造,鉄骨造,コンクリートブロッ
ク造,その他という分け方である。
(6)持ち家,貸家別の住宅着工戸数
利用関係別としては以下の4分類で集計されてい
建築着工統計のマンションの概念は以下の通りで
あり,この3つの条件を満たすものをマンションとし
ている。
・構造=鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄筋コンクリー
ト造,鉄骨造
・建て方=共同住宅
・利用関係=分譲
る。表3に分類別の戸数を示した。
・持ち家(建築主が自分で居住する目的で建築する
もの)
・貸家(建築主が賃貸する目的で建築するもの)
・給与住宅(会社,官公署,学校などがその社員,
職員,教員などを居住させる目的で建築するもの)
756
2.4 法人土地基本調査および法人建物調査(国土
交通省)
2.4.1 調査の概要
「法人土地基本調査」は,土地の所有・利用状況を
総合的に把握できる唯一の統計調査である。全国,
統計情報活用への招待
都道府県別,政令指定都市別および県庁所在地別に
いる。
所有件数や所有面積を集計するとともに,全国ベー
「宅地など」は,具体的に言えば,工場用地,駐車
スの土地資産額も推計して公表している。3つの統計
場,資材置場,空き地,墓地,公園,原野などである。
からなり,それぞれの調査年は表4の通りである。
他者への販売を目的として所有する土地(棚卸資産)
土地基本調査はサンプル調査ではあるが,土地の
以外の土地で,現況が「農地」,「林地」,電気業にお
保有・利用に関する統計的手法に基づく調査である。
ける「送配電施設用地,変電施設用地,発電所用地」
,
平成5年に世帯と法人の調査をそれぞれ初めて行っ
ガス業における「ガス供給施設用地」
,国内電気通信
た。このうち,世帯の調査は,
「住宅統計調査」を行っ
業・国際電気通信業における「通信施設用地」,放送
ている総務庁(現・総務省)に引き継がれた。名称
業における「放送施設用地」および鉄道業における「停
も「住宅・土地統計調査」に改称して実施されている。
車場用地,鉄軌道等用地など,鉄道林用地」並びに「道
国土交通省では,それらの結果を転写・集計し,世
路用地(未供用を含む)」以外の土地をいう。
帯にかかる土地基本統計を作成する。
(2)「棚卸資産」の所有面積
それまでは,「土地白書」などで紹介しているよ
棚卸資産とは,他者への売却を目的として所有す
うな土地の所有と利用に関する行政資料はいくつか
る土地のことで,例えば,不動産業における商品と
あったが,登記,税務などの部局においてそれぞれ
しての土地や,投資用の土地・マンションなどが含
の行政目的により整備されており,基本的な資料と
まれる。
して利用するには種々の制約があるため土地政策の
(3)土地の利用現況
ための情報としては十分とはいえない状況であった。
建物と建物以外に大きく分けている。建物は,事
ここで取り上げる「法人土地基本調査」の調査対
務所・店舗,工場・倉庫,社宅・従業員宿舎,その
象は,総務省の「事業所・企業統計調査」および財
他の福利厚生施設,賃貸用住宅,ホテル・旅館,そ
務省の「法人企業統計調査」等に含まれる法人のうち,
の他の建物に分けている。建物以外は,駐車場,資
一定の方法により抽出した約49万法人を対象として
材置場,グラウンドなどの福利厚生用地,ゴルフ場・
いる。ただし,資本金1億円以上の会社法人について
スキー場,キャンプ場,その他,空き地に分けている。
は,全数調査を行う。
表5は利用現況別所有件数の推移である。
(4)法人建物調査
2.4.2 統計からわかること
(1)
「宅地など」の利用現況
「宅地など」の所有形態,所有面積,取得時期,利
用区分,利用現況がわかる。土地は,
「宅地など」「農
延べ床面積,構造,建築年次を調べている。資本
金1億円以上の製造業の法人の工場については,記入
者負担軽減のため工場ごとにまとめて記入すること
にしている。
地や山林,道路用地など」「棚卸資産」に分けられて
2.4.3 読む上での注意点
表4 土地基本調査の調査年
「法人土地基本調査」における調査対象は,事業を
経営している法人で国および地方公共団体以外のも
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のである。本調査の結果については,民間における
法人の設立,改廃状況の影響に加えて,国の行政機
関の民営化等によって調査対象の範囲が変化してい
る場合がある(例えば,平成16年度より,国公立大
757
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表5 「宅地など」の利用現況別所有件数(平成5年∼平成20年)
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学は国公立大学法人に移行など)ことに留意が必要
る。長野県は関東(首都圏を除く)に分類されており,
である。
0.68mとみてとれる。標準的な住宅の間口と奥行きの
比率は4:3であるから,105m2の建築面積の場合は
3. 住宅・建築物・土地に関する統計の活
用事例
以下の式でそれぞれの値が求められる。
3a×4a=105
a=2.96
総務省の「住宅・土地統計調査」を活用した例では,
間口:11.84m,奥行き:8.88m
長野県の持ち家でかつ一戸建ての屋根が受け止める
軒が0.68mで屋根の両側から出ているので2倍する。
雨の当たる面積を調べたことなどがある。雨水を再
したがって,建築面積+軒の面積は以下となる。
利用する製品の市場調査の一環として行われたもの
(8.88+0.68×2)×11.84≒121
である。屋根には勾配があるが,雨の当たる面積は
建築面積である105m2に対してほぼ1.15倍の121m2
勾配と関係ないので,建築面積+軒の面積を求める
が屋根が受け止める雨の当たる面積である。この値
こととなる。
「住宅・土地統計調査」で建築面積がわ
に,長野県の持ち家でかつ一戸建ての戸数である
かる。建築面積は,通常の建築物の場合,1階の水平
536,000を乗ずると総面積が算出できる。
投影面積である。
総務省「平成20年住宅・土地統計調査報告 長野県」
でみると,平均建築面積は105m2である。軒の面積
計の中から主要な統計について,調査の概要,統計
を求めるために,住宅金融公庫「平成8年 住宅・建築
からわかること,活用方法などをご紹介する予定で
主要データ」から地域別の軒の長さを得た。ただし,
ある。
この調査は,平成8年調査をもって終了となってい
758
次回は,分野別のテーマとして,製造業の公的統
リレーエッセー ●インフォプロってなんだ?
What I expect from information professionals
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情報管理 54(11), 759-760, doi: 10.1241/johokanri.54.759 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.759)
はじめに
私は,企業で研究開発,研究企画,知的財産とい
情報に溢れる現状は,人と情報の関係が良くなった
とばかりは言えないようである。
う業務経験をもち,その中で情報検索や加工に携わっ
莫大な量の情報は,その中から有用な情報を取り
てきた。しかしながら,直接的に情報を主たる業務
出すことを困難にし,時に誤った情報を手にする危
とした,インフォプロと言えるほどの経験はない。
険性も出てきてしまった。人は,得られた情報が正
そのような私が,本コーナーへ書けることがあるだ
しい情報なのか,価値ある情報なのか,本当に必要
ろうかと迷ったが,「ユーザーの立場からインフォプ
な情報なのか,を判断しなくてはならなくなったわ
ロに求めるものを書いてほしい」とのことだったの
けである。また,常に多くの情報に囲まれることに
で,お引き受けすることにした。せっかくの機会な
より,情報に対して受け身になり,与えられたもの
ので,情報に近くも遠くもない経験の中で,日頃考
だけで判断したり,自分にとって都合の良い情報を
えてきたことを書かせていただこうと思う。
つまみ食いしたり,自らの思考を止めて多くの情報
を組み合わせることで満足したりしてしまう…と
情報環境の変化と新たな課題
近年の技術革新は,情報を取り巻く世界を大きく
変えてしまった。一昔前までは,情報は特定のコン
いったことが起きる可能性も出てきた。
これらは,情報が貴重であった時代には考えられ
なかった,新たな課題と言えるだろう。
ピューター端末を使って「専門家が扱う手に入れに
くく高価なもの」であったのが,ネット環境の整備
インフォプロに期待するもの
や端末のパーソナル化・モバイル化により,「誰にで
情報が,身近なものになってから,「もう情報の専
も手軽に無料で手に入る身近なもの」となった。「わ
門家は要らない」という声も聞こえるようになって
からないことは,GoogleやYahoo!で調べる」という
きた。はたして,本当にそう言えるであろうか?
人も少なくない。私が学生の頃は,ものによっては
私は,情報が溢れる今だからこそ,しっかりとし
外国語の,高価な商用オンラインサービスしかなく,
た専門家,インフォプロの必要性が増していると思っ
学生が使うことなど想像もできなかった。大学の図
ている。
書館でChemical Abstractsの大きな冊子と格闘してい
たのだから,隔世の感がある。
情報は,人の知識を豊かにし,視野を広げ,新た
な知見をもたせてくれるものである。しかしながら,
そこで,(1)情報を入手する,(2)情報を加工し
発信する,
(3)情報に関わる業務を統括する,の3つ
の場面に分けて,私がインフォプロに期待する点を
まとめてみた。
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JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
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(1)情報を入手する
情報を扱う上で最も重要なことは,情報が正確で
必要な情報が何で,その情報源には誰がアクセスす
るのか,そのための環境,システム構築,体制整備,
漏れが無いことであると思う。そのためには目的に
人材育成,場合によっては著作権処理など,情報を
合った情報源を選択し,検索手法を周到に準備し,
マネジメントするために考慮しなければならない要
的確な調査を行う必要がある。
素は少なくない。
インフォプロに求められる情報の種類や分野は
前記の(1)
,(2)が情報のスペシャリスト的役割
年々多岐にわたり,高度化・複雑化してきている。ユー
ならば,(3)は情報のジェネラリスト/オーガナイ
ザーからの要望に的確に応えるためには,特定の情
ザー的役割と言えるかもしれない。多くの場面で,
報源に熟知するだけでなく,幅広い知識が必要にな
インフォプロの役割は(1),
(2)であると理解され
ると思う。常に視野を広くもち,ユーザーの関心が
がちだが,情報がユーザーに身近になればなるほど,
どのような分野にあるのかを知る努力をしてほしい。
(3)の役割が重要になってくると考える。常に情報
また,ユーザーが直接調査する機会は今後益々増
業務の全体を考えられるインフォプロを目指してほ
加するものと思われるが,ユーザーは情報に関して
は素人であり,情報の量に目を奪われ,質の良し悪
しい。
情報社会になり,インフォプロに求められる役割
しに気付かなくなりがちである。インフォプロは,
は多岐にわたっている。一朝一夕にすべてに精通し
自らが研鑽を積んで調査能力を上げるだけでなく,
たインフォプロになることは困難である。従って,
積極的に素人の調査に関わり,情報の質の向上に向
インフォプロを目指す人は,自分の果たすべき役割
けた,教育・啓発活動を強化していただきたい。
を客観的に判断し,どういうインフォプロになるの
(2)情報を加工し発信する
情報は,量が多くなればなるほど,受け取る側に
か具体的な目標をもって,できれば手本となる先輩
を見つけて一歩一歩前進していっていただきたい。
とって単なるゴミとなる危険性が増す。それを避け
るために,インフォプロには,情報を図表などの見
やすい形に整理するだけでなく,仮説を立てて解析
日本は,技術大国・経済大国と言われながら,情
するなど,ユーザーの立場に立った情報の加工と提
報に関しては輸入国であると言われている。魅力的
供方法を工夫してほしい。
な情報ソース・データベースが少ないことがその大
さらには,ユーザーからの要望を受けた情報発信
きな原因の1つである。ネットワーク構築などの情報
だけでなく,自らアンテナを張り巡らし,ユーザー
インフラに目が行きがちだが,どういった情報を整
に気付きを与える情報を発信していくことを心がけ
えていくかという,ソフト面を含めた国家的戦略の
ていただきたい。
構築が重要と考える。そのためには,前記の3つの役
(3)情報に関わる業務を統括する
所属する組織において,情報を活用する環境を整
え統括するのも,インフォプロの重要な役割である。
760
おわりに
割を超えた,スーパーインフォプロの登場が望まれ
る。次世代のインフォプロに期待したい。
視点 ●情報の運用論(その3)
情 報 の 運 用 論( そ の 3)
国立遺伝学研究所生命情報・DDBJ研究センター 大久保公策
情報管理 54(11), 761-766, doi: 10.1241/johokanri.54.761 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.761)
を促しています3)。多くの分野で研究者は自前のWeb
1. 情報の運用とは?(復習)
サイトでの生データ「公開」を論文と併用しはじめ,
運用論では社会にある個々の情報から社会がより
研究成果「公開」促進費4)などがこれを支えています。
大きな便益を生む方法を論じます。もちろん私有財
それでは一般公開された公的な情報は情報源の「支
産制や自由競争を基本とする社会においてです。
配」から解放されているのでしょうか? 公的情報
情報運用は財物の「所有権」のように原始社会で
に機械的な処理を試みると多くが自分が作った文書
も存在する情報の「支配権」に基づいて可能になり
やデータのようには自由に扱えないことに気づきま
ます。情報の支配権は情報源や媒体の所有者に自然
す。政府公開文書にはやけにPDFが多く,学術用語集
に生じる伝達相手を「排他的に」選ぶ権利でした。
は冊子体で著作権者が明記されオープンアクセス論
支配権の原始的な行使による運用法は財物では「独
文も雑誌全体のダウンロードや機械処理は禁じられ
占」であり情報では「秘匿」です。そして少し賢い
ています注2)。公開科学データベースを別機関で統合
財物の運用に「貸し出し」がありますが「また貸し
するのは技術課題以前に教授間や事務間の面倒な折
禁止」
「価値保全」を社会に強制せねば成立しません。
衝が避けられません5)。国の衛星が測定する地表デー
情報では本やレコードなどの媒体の販売が貸し出し
タもそれぞれ別の機関や選定企業から有償D V D等で
運用にあたり,また貸し禁止の徹底は知的財産法な
提供され再配布は禁止されています注3)。なによりい
どの法による場合とコピープロテクト等の技術で防
つまで情報を貸してもらえるのかという公開期間・
御する場合がありました。
保存期間は多くの場合完全に公開元の裁量に任され
ています。このような期間限定の「無償貸し出し」
2. 公開情報とその支配―公開制度の死角
方式はテレビ放映される「ハリウッド映画」と本質
的に変わりません。
「税金で作られた情報」の「制度
「情報公開」という言葉にネガティブな響きを感じ
に促された公開」で支配が継続したままになってい
る人は少ないと思います。情報といえばたいてい「公
ます。公開を促す法や制度がうかつにも「支配」の
開は素晴らしい」「秘匿はいけない」の2極でしか論
撤廃に言及していないからです。情報を劣化させず
じられません。
に再利用することが不可能だった時代をモデルに作
確かに情報公開法1)やI T基本法2)のおかげで行政文
られ長年放置されているからです。
注1)
。
この情報源に残る過度な裁量としての支配に関し
科学技術政策でも社会への「説明性」と「成果の還
て違和感を感じる人や問題視する人は残念ながら多
元」のために施設や評価に加えて研究成果の「公開」
くありません。多くの人にとっては政府情報や科学
書や政府統計がインターネットで入手できます
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成果はハリウッド映画的に鑑賞できればそれで十分
ても余白に「コピー厳禁」と書かれているようなも
だからです。そうでない人,最新の情報を鵜呑みに
のです。これを消すのは結構面倒で大抵挫折してい
せず自らの手で分析したり検証したり価値付加した
ましたが,最近救世主的な大発明が現れました。レッ
りしようという人は多くはありません。
シグ博士によるクリエイティブ・コモンズ7) のやり
それでもこの状況を放置することによる見えざる
方です。彼らのLegal toolを使えばラジオボタンをク
社会損失はおそらく甚大です。制度の不備で活躍を
リックするだけで世界中に通用し,視認性の高い放
阻まれている彼らは消費者でなく価値の生産者だか
棄内容の表示と法的に有効な契約書をデジタル作品
らです。彼らこそがネット時代の分散型の価値生産
に添付することができます8)。完全に支配を放棄し社
や社会貢献の主役のはずです注4)。新たな商品やサー
会に寄付された情報の支配状態を共有材(パブリッ
ビスや雇用や制度改革を生み出すエンジンのはずで
クドメイン)といいます。
す。せっかくのハードな社会情報基盤でせっかくの
科学データはどうでしょう? 科学データ自体の支
人材が活躍する場がないのです。なんともったいな
配権は法で保護されませんので何もせずコピー可能
いことでしょう。
な状態にしておけば支配は放棄できます。匿名f t pサ
ち な み に 米 国 の 情 報 公 開 法 は,F r e e d o m o f
イトはこれです9)。メタデータをつけてf t pサイトに
Information Actです。Disclosure Actでないのは公開
置いておけば気づいた人は無断で再利用してくれま
では不十分なのを承知だということなのかもしれま
す。積極的に自由にしてくださいとただし書きをつ
せん。そういえば関連法には公的情報の公開につい
ければなおいいですし,前述のクリエイティブ・コ
ての具体的な制約が多く書かれています注5)。政府情
モンズのC C B YやC C0等の支配放棄記号をつけ部分的
報の著作権除外や生データの即時ネットワーク公開
に存在するかもしれない著作権も放棄しておくとな
等すべての具体的な記述は自由裁量支配の禁止と読
お安心です10)。
著作権は日本では著者の没後50年で特許も出願後
めます。
20年で失効します。失効後は著者や発明者は自動的
3. 情報支配の放棄―社会への寄付
情報源にも情報を自由に社会で駆使して役立てて
に支配を失いアイデアは社会の共有財になります。
4. 寄付情報の保管役―コモンズ
ほしいと心から思っている人が多くいます。彼らは
どうすればいいでしょうか? 財物の場合には慈善
自分のWebにCC BYで貴重な写真やデータを置いて
や福祉の目的で社会(性の高い団体)に対して譲渡
おき社会に寄付したとしましょう。今は多くの人が
する「寄付」という運用があります。建前上は団体
コピー改変してくれていますが5年10年後にはどうで
が社会を代表して寄付を受け付け公益性の高い運用
しょうか? サーバーやディスクの故障,システム
に責任を持ちます。つまり財物について私的な支配
の陳腐化,事務所の移動,ネット契約の更新忘れ,ディ
権を放棄する方法が「寄付」だといえます。従って
レクトリの変更などに継続的に対応できるのでしょ
その移動や保持については税制上の優遇が用意され
うか注6)? どうも消えてなくなるのは時間の問題の
ています。要件を満たさない団体に「寄贈」した場
ようです。
合にはこれは認められません
762
6)
。
重要な公共の有形物は保存や運用の制度が決めら
情報にも支配権を放棄して社会に寄付する方法は
れていたり歴史的に責任機関が存在します。公文書
あるでしょうか? 著作権法の下ではW e bで公開し
は国立公文書館がこれにあたっています。冊子体に
視点 ●情報の運用論(その3)
容れられた情報は国立国会図書館で保全され,貸し出
ジタル情報の保全を企図しています。米国のN P Oに
しや電子図書館的なサービスで安定して公開運用され
よるプロジェクト・グーテンベルグ注9)や日本の青空
ています。本は出版さえされればひとまず長期保存
文庫は,公立電子図書館にしびれを切らした人によ
が保障されるわけです。特許も特許電子図書館11)で
る著作権切れの著書の発掘と情報の便利な運用に特
保存されています。さらに有形物は保存や公開のコ
化したユニークなコモンズです。私がおります遺伝
ストや効率の面からデジタル化も行われています。
学研究所の日本D N Aデータバンクは米国と欧州の対
日本でも国会図書館はデジタル化を進めていますし
応機関と協力して,また論文出版社や特許庁との連
多くの博物館や美術館も大なり小なりデジタル化に
携によって世界中の研究者が生み出すD N A配列情報
注力しています。
が商業出版雑誌に閉じ込められたり,分散消失しな
一方で生まれながらデジタルな(ボーンデジタル)
いように十分な説明をつけて維持保存公開する事業
著作やデータに関しては,わが国では政府事業で作
を25年間続けています14)。他の科学でも米国等デー
られた公共財も寄付された私財であってもいまだに
タ生産者の支配放棄を義務付けた国では国がデータ
体系的保存と運用の責任が不在または不明確です。
センターを作り類似の役割を担っています。使命は
パブリックドメインを維持する主体がないのです。
同じコモンズの維持ですが,この場合は各国の科学
このままではデジタルな日本の科学や文化は個人の
事業費に支えられています。主要な情報源である科
ブログのように消え失せ歴史から抜け落ちることに
学は手本を示すべきです。
なりかねません。
税に基づいて政府の生み出したボーンデジタルな
5. 譲渡できない支配権―プライバシー権
公共財を安定的な社会資産にするための道は残念な
がらなかなか困難です。
知的財産権と同様に個人の私的な情報の支配権を
それはこの問題が少しだけ難しく多くの人には実
当該個人に授権するという考えに基づいて保護され
感がなく,対象が形を持たないからです。それなら
るものにプライバシー権(に由来する諸権利)があ
ばとまずは理解者が協力し皆で作り皆で維持する非
ります15)。知的財産法では「支配」の及ぶ年限を定
政府系の公共がコモンズです。
め,その間は支配が物のように売り買いできるルー
世 界 に 目 を 向 け る と,W i k i p e d i a財 団 に よ る
ルを決めています。一方プライバシー権も自己情報
Wikimedia Commons12)はこのさきがけです。特に
を支配する権利ですが,この権利は皆が平等に持つ
Wikimedia Commonsには多くの国立私立の博物館や
べき人権の一部なので本人の生涯で譲渡や売買はで
美術館が所蔵物の高精度なデジタル写真を寄贈して
きないように定めています。この個人情報も集積す
います注7)。当然圧倒的多数の個人創作家の作品も写
るとさまざまな利用価値が生まれます。注意すべき
真,絵画,ムービーなどさまざまな形で寄贈されて
点は他の情報の場合と違って,個人情報の場合は社
います。
会的にも技術的にも情報源が弱者で利用者が圧倒的
Internet ArchiveはWeb全体について特に断りもな
強者だということです。ですから貸し出し法に自由
くアーカイブ(WayBackMachine)を始めてもう15
度は少なく,説明と合意に基づいた貸し出し法のボ
年になります13)。ようやくその意義が社会で広く認
トムラインが厳しく決められています。個人情報保
知され最近始まった各種のオンデマンドのW e bアー
護法は「情報貸し出しの際の支配権の行使法」を定
カイビングサービス注8)はまさに寄付の受付に近いデ
め支配権の移動なく他者が利用できるようにしてい
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ます。簡単にいえば「弱者の支配下の情報を強者が
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せんを保証せねばならないということです。
使う最低限の心得」です。OECDが定める個人情報取
り扱い事業者義務8原則16) もそう考えればなるほど
6. おわりに―広がる共有と進まぬ寄付
と腑に落ちるのではないでしょうか。ボトムライン
は事業者は合意で個人情報の支配権の譲渡を受けた
のではないということです。
同じように人権の一部として支配権が移動できな
本稿では「データ共有」「情報共有」という言葉を
使いませんでした。それはわが国では「貸し出し公
開」に対しても使われてしまっている用語だからで
いものに個人の身体の部分があります。臓器移植法
す。本来「共有Sharing」とは読んで字のごとく「所有」
では本人であっても死後に他人への移植を指示でき
すなわち財物の「支配」の一つの形態です。本稿で
ない決まりになっています17)。自分の臓器が親族外
の議論にあるようにデータや情報に対して使われる
には譲渡できないのは一瞬違和感を覚えますが,臓
時には「支配権」を放棄し社会に寄付した場合に使
器の支配は基本的人権なので譲渡することができな
われるべき言葉のはずです。支配を継続し公開する
いというわけです。移植に賛同するドナーは支配の
「貸し出し」には使うべきでありません。わが国では
放棄すなわち寄付を通じてのみ臓器を活かすことが
最近「データ共有」という言葉をよく聞きますが,
できます。寄付を受け付けてドナーを決める仕事に
このような誤用も多く見聞きします。同様に日本語
は当然高い透明性と公共性,公平性が強く求められ
の「公共」も政府が税で行う事業に主に使われるので,
ます。個人の遺伝情報の総体であるゲノムデータは
負担者=受益者で作る原始公共に対する呼び名が広
テクニカルには個人情報保護法の対象とするデータ
義の「コモンズ」だと思います。もちろんコモンズ
ではないものの,その内容がプライバシーであるこ
は(政府系の)公共と対立するものではありません。
とは疑いようもありません。そしてゲノムD N Aは譲
公共がコモンズを助けてもかまいません注10)。ただし
渡できない身体の一部である組織や血液から調整さ
コモンズが公共に支配されることのないように注意
れるわけです。細かい規則を参照するとどう扱えば
が必要です。もうひとつ新語が必要になります。
よいのかとても難しく感じます。しかし「支配」が
最後に運用論には技術,制度,現実について広い
本人から譲渡されていないこと,支配権を自発的に
知識が必要です。筆者については専門でない法律等
放棄するには社会に寄付する方法しかないことを理
の解釈に誤りがあろうかと思います。次年度はクリ
解すればおのずとその運用方法がわかります。デー
エイティブ・コモンズ・ジャパンの理事もなさって
タの寄付を受ける資格のない閉鎖研究では支配下で
いる著名な知財弁護士の末吉亙先生が筆をとられる
完全に説明合意通りに運用する18)必要があります。
と伺いました。知財計画でコモンズを言及させたご
一方,寄付を受ける資格のあるバンク事業は慈善の
本人です。より正しく法制度のご専門からの情報運
意思を受けて社会のために最適で平等な運用やあっ
用の議論をいただけると期待します。
本文の注
注1) 例えば,総務省統計局ホームページ. http://www.stat.go.jp/data/index.htm, (accessed 2011-12-27).
764
視点 ●情報の運用論(その3)
注2) 例えばOxford Journalsの購読ライセンスにはオープンアクセスジャーナルでも機械処理を禁止してい
ます。
サイトライセンスについて . Oxford Journals. http://www.oxfordjournals.org/japan/for_librarians/
license_option.html, (accessed 2011-12-27).
注3) 衛星データの公開サイト。http://www.restec.or.jp/?page_id=265, (accessed 2011-12-27).
価格表は以下参照。http://www.alos-restec.jp/pdf/ALOSdata_price_japan_ver6_1_CS3.pdf, (accessed
2011-12-27).
注4) WikipediaやYouTubeは有名ですが,他にもIBMのBlueGeneを抜いて最速を出した電波解析プロジェク
トSETI@home(http://setiathome.berkeley.edu/)はデータを囲い込んでは不可能でした。
注5) 例えば,44 USC Sec. 3501 The Paperwork Reduction Act(http://uscode.house.gov/download/
pls/44C35.txt)は maximize the efficiency , maximize the utility , as soon as などの表現でいっ
ぱいです。
注6) 一般にdata migrationと呼ばれる問題です。
Data migration . Wikipedia. http://en.wikipedia.org/wiki/Data_migration, (accessed 2011-12-27).
注7) 国立国会図書館の情報サイト「カレントアウェアネス」はこの種の記事が豊富です。例えば以下の記
事参照。
国立図書館に続き連邦公文書館もWikipediaと連携(ドイツ).http://current.ndl.go.jp/e872, (accessed
2011-12-27).
フランス・トゥールーズ市,ウィキメディア・フランス協会と提携し博物館資料などを公開へ. http://
current.ndl.go.jp/node/16865, (accessed 2011-12-27).
注8) 例えばWebCite(http://www.webcitation.org/)は出版社から出資を受けたNPO。学術引用の際にアー
カイブしURIを別に発行する。日本ではウェブ魚拓(http://megalodon.jp/)。
注9) 1971年にイリノイ大の学生ハートが始めたパブリックドメイン著書の打ち込み公開プロジェクト。
変遷ののちNPO法人Project Gutenberg Literary Archive Foundationが維持している。最初に打ち込
まれたのはアメリカ独立宣言であり,草案を記したトーマス・ジェファーソンは Information is the
currency of democracy の名言で有名。
注10) 知的財産推進計画2008ではコモンズの支援が推奨されています。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/
titeki2/2008keikaku.pdf, (accessed 2011-12-27).
参考文献
1) 行政機関の保有する情報の公開に関する法律. http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO042.html,
(accessed 2011-12-27).
2) 高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法).http://www.kantei.go.jp/jp/it/kihonhou/honbun.
html, (accessed 2011-12-27).
3) 科学技術基本法第16条. http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07HO130.html, (accessed 2011-12-27).
4)
研究成果公開促進費 . 日本学術振興会. http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/13_seika/index.html,
(accessed 2011-12-27).
5)
インターネット時代の公的科学の知財戦略 . LSDB Social Action. http://lifesciencedb.jp/cc/?p=219,
(accessed 2011-12-27).
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6) 認定特定非営利活動法人制度改正のあらまし. h t t p : / / w w w. n t a . g o . j p / t e t s u z u k i / d e n s h i - s o n o t a /
npo/01/1120-50.pdf, (accessed 2011-12-27).
7) クリエイティブ・コモンズ・ジャパン. http://creativecommons.jp/, (accessed 2011-12-27).
8)
ク リ エ イ テ ィ ブ・ コ モ ン ズ・ ラ イ セ ン ス と は . ク リ エ イ テ ィ ブ・ コ モ ン ズ・ ジ ャ パ ン. h t t p : / /
creativecommons.jp/licenses/, (accessed 2011-12-27).
9) 日本DNAデータバンクのftpサイト. ftp://ftp.ddbj.nig.ac.jp/, (accessed 2011-12-27).
10) 生命科学系データベースアーカイブ . バイオサイエンスデータベースセンター . h t t p : / / d b a r c h i v e .
biosciencedbc.jp/, (accessed 2011-12-27).
11) 特許電子図書館. http://www.ipdl.inpit.go.jp/homepg.ipdl, (accessed 2011-12-27).
12) Wikimedia Commons. http://commons.wikimedia.org/wiki/Main_Page, (accessed 2011-12-27).
13) Internet Archive. http://www.archive.org/, (accessed 2011-12-27).
14) 国立遺伝学研究所DDBJ. http://www.ddbj.nig.ac.jp, (accessed 2011-12-27).
15) 衆憲資第28号 知る権利・アクセス権とプライバシー権に関する基礎的資料. http://www.shugiin.go.jp/
itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi028.pdf/$File/shukenshi028.pdf, (accessed 2011-12-27).
16) OECD理事会勧告8原則. http://www.fdma.go.jp/html/kokumin/kento1/kento_051207_a14.pdf, (accessed
2011-12-27).
17)「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)
(第2条4項留意事項). h t t p : / / w w w .
jotnw.or.jp/jotnw/pdf/pdf12.pdf, (accessed 2011-12-27).
18) ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針. http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/40_126.pdf,
(accessed 2011-12-27).
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ランダム・ウォーク半世紀 ●60年前-現在:コピー,あれこれ
Random walk for a half century
ҹӃҐҰ˾
Ѷѹ̔ѿ
༴పࠦ
60年前-現在:コピー,あれこれ
名和小太郎
情報管理 54(11), 767-769, doi: 10.1241/johokanri.54.767 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.767)
1. 口述筆記,タイプライター,そして…
60年前,私は中世の僧院の写学生さながらの姿で
大学の教室にいた。教養コースの法学の教師は「はい,
だった。私はカナモジカイに入会し,カナ・タイプ
ライターを購入した。
私は,日記や私信はカナモジで通した。メリット
ペンを持って」
「まる,ペンを置いて」という言葉を
はコピーを残せたことである。デメリットは,分か
繰り返して,学生にその講義を筆記させた。
ち書きの方法に流派があることであった。今でも私
私は専門コースとして物理を選んだが,ここでも
の手元にはカナモジカイ方式のマツサカ タダノリ著
事情は変わらなかった。K先生は,黒板の左上から
『ワカチガキノ ジビキ』が残っている。これを『ワ
右下へ,数式を小さな端正な文字でスラスラ書かれ,
カチガキ ノ ジビキ』と書く東大方式もあった。
私たちはそのノートをとることに専念した。ときど
もう一つ,同音異義語のあることも厄介だった。さ
き,「アッ,違った」と小声でおっしゃり,黒板上の
らに,手紙の宛名書きにあたり,難読地名が少なく
数式をすべて消し,再び左上から書き直された。
ないこともあった。「月寒」,「烏丸」など。
この時代,戦争の影が残っており,これといった
話がさらに逸れるが,カナ・タイプライターとい
教科書はなかった。私たちが手にすることができる
う文明の利器のあることを私は小学生のときに知っ
ものは海外テキストのリプリントであり,そのなか
ていた。下村宏という新聞記者上がりの政治家が書
で人気の高かったものはといえば,クーラン&ヒルベ
いた『これからの日本 これからの世界』(新潮社,
ルトの『数理物理学の方法』があった。
日本小国民文庫,1936年)という本に紹介されてい
私たちはリプリントという言葉は知っていたが,
たからだ。その本は,人口,衛生,人種改良,食糧,
海賊版,著作権などという概念があることなど,まっ
治山治水,エネルギー,交通など,なかには危ない
たく知らなかった。
テーマも含んではいたが,ここに「カナ字,ローマ字,
当時,K大学医学部図書館でアルバイトをしていた
エスペラント」という章もあり,ここには明六社の
友人は面白い話をしてくれた。その図書館はジャー
西周による「洋字を以て国語を書するの論」に始まり,
ナルを1タイトル当たり2部ずつ購入している,1部は
山下芳太郎によるカナ・タイプライターのキーボー
保存用として,もう1部は記事ごとに破いてその論文
ド配列にいたる国字問題が紹介されていた。
と同一テーマを研究している教授に配る,と。まだ,
コピー機のない時代であった。
この本の著者は敗戦時の内閣情報局総裁であり,A
級戦犯の容疑者とされた人であった。だが,この本
私は手っ取り早くコピーを作る手立てはないもの
を見るかぎり,そのような気配を感じることはでき
かと思案した。速記という方法があることは知った
ない。すべての問題について統計的な数値を示して
が,自分にその技量があるとはとても思えなかった。
説いている。面白いのはその横書き表記であり,表
そんな私の目をとらえたものがカナ・タイプライター
紙と扉のそれは右横書き――当時の標準――になっ
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ているが,本文中の写真や図表のキャプションは左
ローマ字漢字変換を当たり前に駆使している。
横書きになっている。著者の時代に対する面従腹背
的な姿勢がうかがわれる。
2. 謄写版,PPC,そして…
当時,カナモジをビジネスに使っていた企業は伊
小学生時代の記憶をもう一つ。すでにコピー機と
藤忠だけであった。多くの企業人の意見は,カナモ
して謄写版,いわゆるガリ版があった。先生が教材
ジは読みにくい,タイプライターは打ちにくい,と
やテスト用紙を作るときに使っていた。余談にな
いうものであった。タイプライターを打つのはタイ
る が, そ の 謄 写 版 は1880年 代 に ト マ ス・ エ ジ ソ ン
ピストという女性専門職であり,くわえて,彼女た
のアイデアを同世代人がエジソン式謄写版(E d i s o n
ちが駆使する和文タイプライターは洗濯板のような
Mimeograph)として商品化したのが起源らしい。そ
キーボード(?)をもっていた。最低でも1,000種の文
れにしても Mimeograph とは絶妙の命名である。
字は打てた。
その謄写版のメリットは使い勝手のよいこと,ラ
私のカナモジ熱は1980年代にワープロが現れると
ンニング・コストの安いことにあった。この道具は
ともに消えた。あれこれと試行錯誤の末,私は富士
1970年代末まで,学会でも研究発表会などの配布資
通のオアシスに転向した。決め手はかな漢字変換に
料用に使われていた。ライフ・サイクルは意外に永
あった。記録媒体としては5インチのフロッピー・ディ
かった。
スクを使っていたかと思う。この時期以降,私は自
1950年代半ば,私はS石油に就職した。ここでは青
分の著書の入稿をフロッピーでするようになったが,
焼きと称する――ジアゾ式ともいった――コピー装
いくつかの出版社からは最初の経験だったといわれ
置があった。探鉱用の計算図表とか,その結果を示
た。私はこのとき原稿用紙が稀少品になると予測し,
す地層断面図など,この機器を使ってコピーした。
その収集を始めた。
アンモニアの臭いがしたり,感光紙を使う必要が
オアシスだが,それも2000年代になると消えてし
あったり,コピーが褪色したり,冊子体のコピーは
まった。だが私はウィンドウズの上でオアシスをエ
できなかったり,今にして思えば不便な点は少なく
ミュレートして使い続けた。ワードでなければ投稿
なかったが,1事業所に1台といった見当で,けっこ
を受け付けないなどという学会も出現し,当初,私
う普及していた。
はそのような学会には投稿を拒んだ。だが,ついに
根負けして,今日ではワードに移行している。
ということで,現在の私の指には,カナタイプ配列,
1960年代後半,私はA化学の研究所にいたが,こ
こでPPC複写機(plain paper copier)に出会う。この
plain paper がみそで,このためにだれでも気軽に
オアシスの親指シフト配列,P CのQ W E R T Y配列が混
コピーできるようになった。ちょうど,ゼロックス
じり合って記憶されており,その指はときにとんで
の基本特許が切れたということも普及を推し進めた
もない動きをしたりする。
ようだ。このあと,マクルーハン流にいえば,万人
もう一つ,膨大なオアシス用ファイルが手元に残っ
ており,そのすべてをマイグレーションする気力も
が読者から出版社へと立場を変えることになる。
じつは万人が出版社というのは言い過ぎで,実態
時間もない。仕方なしに,私は古いハードウェア,
は万人が写学生になったと言うべきであった。研究
古いソフトウェア,古いマニュアルをそのまま残し
者は,いまや自由にジャーナルを複写できるように
ている。鬱陶しいかぎりだ。
なった。図書館も同じジャーナルを2部購読する必要
はなくなったはずだ。
21世紀初頭の今,だれもがかな漢字変換あるいは
768
このために当時の大手ジャーナル出版社のウィリ
ランダム・ウォーク半世紀 ●60年前-現在:コピー,あれこれ
アム・ウィルキンス社は購読者の減ることをおそれ,
業から大学に移籍したばかりの駆け出しの研究者で
大ユーザーである国立衛生研究所と国立医学図書館
あり,大ボス諸氏の意に逆らうことができなかった。
に対して著作権侵害の訴訟を起こした。1973年,米
私とて著作権管理の実務に精通していたわけでは
国での話である。
なかった。そこで,この業務について先輩格のN協会
この訴訟は控訴審では4対3の評決で侵害なし,最
を訪ね,厚かましくも,その情報システムのフロー・
高裁では8対8の同数で判定なし,ということになっ
チャートを見せてほしいと頼んだ。担当者は快く応
た。まだ,米国でも旧著作権法の時代であった。こ
じてくれた。私はそのシステムがどんなモジュール
のあと,米国は著作権法を大幅に改正し,併せてコ
から組み立てられているのか,どのモジュールが重
ピーライト・クリアランス・センター(C C C)を発
要なのか,それを知ることができた。
足させた。C C Cはジャーナルなどのコピーにともな
う著作権管理を実施する組織である。
だが,私はここで学んだノウハウを役に立てるこ
とはできなかった。N協会のビジネス・モデルとJRRC
当然ながら,日本でも同様の課題が生じた。日本
のそれとが,あまりにも乖離していたためであった。
の新著作権法は1970年にできたが,日本版C C Cとし
N協会の扱う著作物はすでに電子化されていた。だが,
て日本複写権センター(J R R C)ができたのは1991年
J R R CそしてJ A A C Cのそれはまだ紙に固定された印刷
になってからであった。
物にすぎなかった。
1990年代半ば,突如,学術著作権協会(J A A C C)
から手伝えという話が飛びこんできた。J A A C Cは
気がつくと私たちは巨大なコピー装置のなかにい
J R R Cのメンバー団体であった。なぜ私にこんな話が
た。それはインターネットという装置であった。こ
こうもり
飛びこんできたかといえば,私が「鳥なき里の蝙蝠」
こには,FTP,Archie,gopher,WWWなどという道
だったから。当時,理系の人間で著作権審議会のメ
具が仕込まれていた。これにナプスター,ウィニー,
ンバーだったのは私だけであった。
さらにグーグル・ブック・サーチと加わった。どれ
私自身,学術情報は研究者が共有するクラブ財と
もコピーを簡単にできる仕掛けであった。
理解していたので,その旨を申し上げ,いったんは
「何者かが何かを持ち込み,何者かが何かを持ち出
その役目を断った。だが,話はそれですまなかった。
す」。これは1994年,米国で起きたインターネット関
当時,J A A C Cの理事は,理工系と医学系の大ボス諸
連訴訟で使われた言葉であった。それが今日,日常
氏であり,著作権に詳しい人はいなかった。私は企
的になった。
参考資料
a) 梅棹忠夫. 日本語と事務革命. くもん出版, 1988, 245p.
b) 名和小太郎. サイバースペースの著作権. 中央公論社, 1996, 194p.
c) 名和小太郎. 学術情報と知的所有権. 東京大学出版会, 2002, 400p.
d) 名和小太郎. ディジタル著作権. みすず書房, 2004, 296p.
e) 名和小太郎. 著作権2.0. NTT出版, 2010, 258p.
f)
長尾真, 遠藤薫, 吉見俊哉編. 書物と映像の未来. 岩波書店, 2010, 204p.
769
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:LLPUNJ\YYLU[TLKPHYL[YVZWLJ[P]LS`
過去
からの
技術変化のパターン
メディア論
混沌から規制へ?
大谷卓史(吉備国際大学国際環境経営学部)
情報管理 54(11), 770-773, doi: 10.1241/johokanri.54.770 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.770)
経営史家のスパーによれば1),新技術の登場にとも
なって,政治とビジネス,規制と市場が相互作用して,
目を抜くような競争状態に突入する上,あまりにも
一定のパターンを構成するという。
海賊行為が激しくなるため,商業的利益を十分に誰
羅針盤や電信,ラジオ,衛星放送,PC用ソフトウェ
もあげられなくなる。所有権ルールが確立していな
ア,音楽配信などの技術のフロンティアにおいては,
いため,海賊行為を規制することができない。また,
次のようなパターンが歴史的に繰り返されてきたと
標準化が行われていないため,さまざまな商業的な
される。
技術システムが乱立することになる4)。
こうした局面が続くと,多くの事業者が疲弊して
第1局面:発明
第2局面:商業化
しまうため,かつては政府規制や競争の制限を拒絶
第3局面:創造的無政府状態
していた事業者自身が規制を望むようになる。政府
第4局面:規制
に対して,海賊事業者を取り締まる所有権ルールの
最初に,新技術の発明が行われる。この発明に熱
確立とその執行を要求する一方で,業界団体の形成
狂するのは技術オタクのような小さなグループだけ
を通じて標準化や商業システム間の調整を行うよう
である。当初は応用や商業化の可能性は検討されな
になる5)。
い。所有権や不公正競争に関する問題が生じること
スパーの仮説を念頭に置いて,現実の私たちの世
も稀であるので,技術をめぐる規制も存在しない。
界を眺めてみると,同じインターネットビジネスで
したがって,この局面においては,「相対的に自由か
あっても,必ずしも歩を一にして上記の段階を経て
2)
つオープンで,混乱がない」 。
770
やがて,創造的無政府状態が到来する。生き馬の
発展しているわけではないことがわかる。
次に,技術が実験室を出ると,
「パイオニアや海賊
例えば,Y o u T u b eやニコニコ動画などの動画共有
業者,保安官,無法者が登場する」
。これが,第2局
サービスや動画配信サービスは,確かにこのような
面である。この技術に商業的可能性が見出されると,
パターンを踏んで発展しつつあるように見える。あ
山っ気のある企業家たちがこの技術に殺到し,商業
る程度ルールが確立し,膨大な収益を得ているわけ
化を行う。この局面においては,技術が特殊で不確
ではないものの,一定の秩序の下でゆっくりと成長
実な時には現れなかった,他人の成果にただ乗りし
しつつある。
ようという海賊業者も必ず登場する。古い世代の規
一方,P2Pファイル共有ソフトウェアについては,
制は役に立たず,新しい技術に適した法制度はまだ
初期にそのサービスが違法化されてしまって以降も,
到来しない。そのため,この局面を支配する雰囲気は,
この技術の支持者たちが技術に適したビジネスモデ
新しい市場に対する政府規制を最小化するべきだと
ルを模索している最中のように思われる。恐らく今
いうリバタリアニズムである3)。
後は「P2P」と名乗らず,S k y p eのような通話サービ
過去からのメディア論 ●技術変化のパターン
スや大規模コンテンツ配信システムなどの負荷分散
管(オーディオン)を発明した。1914年には,米国
に利用されていくだろう。これは,スパーのモデル
の発明家エドウィン・アームストロング(E d w i n H .
では説明がしにくい事例のように思われる。
Armstrong)がフィードバックによって信号を増幅す
今回は,スパーも取り上げているラジオビジネス
る再生回路を発明し,受信装置をさらに改良した。
の事例を眺め,技術と政治・経済システムとの相互
作用について考える。
日露戦争や第一次世界大戦によって,無線技術の
戦争における有効性は証明された。海上通信におけ
***
第1段階:発明−マルコーニと発明家たち
る有効性はもちろん,電信線や電話線が切断されて
通信路が遮断されても,無線ならば情報を伝えられ
1896年にイタリアの青年マルコーニ(G u g l i e l m o
る。ただし,無線通信は暗号化しなければ誰にでも
M a r c o n i)は無線電信の技術を開発すると,母方の
傍受が可能であった。その意味で,無線は通信より
伯父をつてとしてイギリスに渡り,同国の海軍に技
も不特定多数に対して同時に同一の情報を送信する
術を売り込むことに成功した。航行中の軍艦と陸上
放送に向いていたといえる。
とを結ぶ通信が,無線電信の最初の需要であった。
当時は,レイディオヘッドと呼ばれるアマチュア
1901年には,イギリス西南端のコーンウォールのポ
が,取り扱いが難しい無線装置を使っておしゃべり
ルデゥーからカナダのニューファンドランド島への
に興じたり,自分の好きな音楽をレコードによって
大西洋横断通信に成功した。受信には,150m以上の
流すことが流行していた。機械いじりが好きな少年
高さまで凧で吊り上げたアンテナを利用した。
や若者が,レイディオヘッドの多くを占めていたら
この当時は送信に高電圧の断続的な火花放電を利
しい。
用していたため,音声を送ることはできなかった。
第2段階:商業化−電機メーカーと通信メーカーの参
そのため,モールス符号の送信のみが無線による情
入
報伝送の応用であった。
ピッツバーグのウェスティングハウス社の技術者
1906年12月, カ ナ ダ 出 身 で 米 国 に 帰 化 し た 発
であったF.コンラッド(Frank Conrad)も,このレイ
明 家 レ ジ ナ ル ド・ フ ェ ッ セ ン デ ン(R e g i n a l d A .
ディオヘッドの一人であった。彼は自前の無線電話
Fessenden)が,米GE社製の高周波発電機によって搬
局を使って,自分のレコードコレクションをかける
送波を発生させ,音声を振幅変調(AM:Amplitude
ラジオ放送を行っていた。レイディオヘッド以外の
Modulation)した信号を送信・受信することに成功
一般の人々も彼の放送を楽しむようになっていた。
した。同年12月24日には,マサチューセッツ州プリ
評判を聞いたレコード店は自分の店を宣伝するとい
マスから実験放送を行った。この当時,ラジオの到
う条件でレコードの貸し出しを行っていた。毎週土
達範囲は数kmにすぎなかった。
曜日夕方にこの放送は定期的に行われるようになっ
ラジオの到達範囲を広げるためには,高周波発電
ていた。
機の出力を上げ,中継を行うという技術の開発が必
ウェスティングハウス社の副社長がこのサービス
要であった。フェッセンデンが資金提供者の愛顧を
に目をつけ,ラジオ受信機セットの販売促進に利用
失った後もG E社は高周波発電機の開発を続けた。電
することを思いつく。1920年11月2日,コンラッドの
話回線による中継技術も,ラジオが商業化されると
放送局をもとにして,ウェスティングハウス社が最
後年活用されるようになる。
初のラジオ定期放送局であるK D K A局を開設する。よ
同年,米国の発明家リー・デ・フォレスト(L e e
く知られているように,同局の最初の放送は,同日
De Forest)がラジオの信号を受信して増幅する三極
行われた選挙でオハイオ州選出のハーディングが大
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統領に選ばれたというニュースであった。
を招集し,放送事業者の利益調整を行わせた。とこ
1920年から21年にかけて,急激にラジオブームが
ろが,1926年の判決でウェーブジャンピングも違法
到来した。R C A社などラジオ受信機を製造販売する
ではないという判断が下されたため,放送局はそれ
企業がコールサインを獲得して無線電話局を開設し,
に対抗するため出力を上げるという対応をするしか
ラジオ放送に参入した。この当時,ラジオ放送はラ
なくなった。
ジオ受信機の販売促進のためのサービスと考えられ
第4段階:規制−1927年無線法とFRC
ていた。そのため,初期の放送は簡単な音楽やアン
1927年無線法は,電波使用は市民の特権であっ
サンブル,技術に関するおしゃべりなど,多くの人々
て,無法な電波利用を制限できるという考えでつく
の関心を引くものではなかった。
られた。この法律によって,電波・放送業界を規制
1922年,電信電話事業の巨人であるAT&Tが参入し,
する連邦無線通信委員会(FRC)の設立が決まった。
広告放送という新しいビジネスモデルを提起する。
FRCは周波数整理政策として高出力局を優先的に存続
6)
,AT & Tは通信時間を販売するビジネ
することとしたため,大規模な商業放送局以外の小
スであると自社の事業を位置付けていた。放送も同
放送局は淘汰されてしまった。大規模な商業放送局
様にスポンサーに対して放送時間を販売する事業で
は一部の放送局を中心としてネットワーク化が進ん
あるとみなしたことによって,有料放送というビジ
だ。この嚆矢が,無線通信分野の国策企業RCAが母体
ネスモデルを構築できたとされる。
となったN B Cであった。創造的無政府状態はここで
第3段階:創造的無政府状態−無法放送局の参入
終わりを告げた。独占企業による市場寡占が始まる。
水越によれば
こうし
ラジオブームは多くの個人や企業のラジオ市場へ
***
の参入を招き,混乱状態が生じた。電波干渉や電波
伝統的に周波数は限られた資源であるため,免許
出力に関する技術的知識のない個人も多数参入した
を付与された少数の大企業によって市場は寡占され
ため,近隣のラジオ局の電波が干渉によって妨害さ
る傾向がある。現在符号分割多元接続方式の通信な
れることも多かった。空いている周波数を探しては
どの発展によって,電波資源の有限性の制約が緩まっ
電波を送信するウェーブジャンピングという行為も
ているものの,その傾向は変わらない。
行われた。
この当時米国の電波規制においては,商務長官は,
スパーの指摘するパターンは,ラジオの発展プロ
セスから見出されたものである。ラジオの発展プロ
無法なラジオ局から免許を取り上げる監督権限を有
セスは,現在のインターネットの発展についてさま
していなかった。そのため,1922年から数度にわたっ
ざまな示唆を与える7)。ただし,そのアナロジーの限
て,当時商務長官であったフーバーは全米無線会議
界にも注意が必要である。
参考文献
1) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2011.
2) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2011, p.11-12.
3) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2011, p.12-15.
772
過去からのメディア論 ●技術変化のパターン
4) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2011, p.15-18.
5) Spar, Deborah L. Ruling the Waves: From the Compass to the Internet, a History of Business and Politics
along the Technological Frontier. Harcourt, 2011, p.18-22.
6) 水越伸. メディアの生成 アメリカ・ラジオの動態史. 同文館出版, 1993, p.110-119.
7) 大谷卓史. 特集 P2P技術の基礎知識(2): 技術史から見たP2P技術. UNIX MAGAZINE. 2005, 10月号, p.
113-117.
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安 藤 俊 幸 (花王株式会社 知的財産センター)
「特許情報解析」入門の手引き
情報管理 54(11), 774-778, doi: 10.1241/johokanri.54.774 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.774)
私は主に研究員向けの特許情報調査,特許戦略講
座等の社内研修に携わりながら特許情報解析手法の
したところ予想外の反響をいただいた。そのことがご
縁で本稿の依頼をうける運びとなったようである。
研究,普及を進めている。最初に本格的な特許調査
最近,特許情報の解析の参考になるおすすめした
に関わったのは約10年前,新規分野に参入するため
い本が増えており,本稿を依頼された時にどの本を
の調査であった。その時は数万件の特許をひたすら
選ぶかだいぶ迷った。例えば後ほど紹介する『特許
読んで評価結果を自作のデータベース(Access+Web
情報のテキストマイニング』は経営の観点からも参
Server)に入力した。分類体系も試行錯誤で作成した。
考になると思う。また『人文・社会科学のためのテ
その時の経験がもっと効率的な特許調査,解析方法
キストマイニング』4)はこの本の著者が公開している
はないものかという思いの原点になっている。私は
フリーソフトを用い,テキストマイニングを自分で
当時,調査専任であったが担当した研究グループが
行うことを可能にする。
頑張り数年かかって無事新規参入を果たし,私は別
なテーマを担当することになった。
特許情報解析にはさまざまな分野の知識が必要で
あるが,本稿では解析の科学という観点から実務担
次のテーマの時には多少経験も積み効率的な特許
当者が自分でできる解析手法に関する本を紹介した
情報の活用にはパテントマップの利用が必須と考え
い。データマイニング,テキストマイニング関係の
るようになった。そのころある研究会で「特許分析・
手法は応用範囲も広く解析のベースとして重要と思
解析の哲学小道」1)の著者の桐山氏と2年間同じワー
われる。特許情報に限らず膨大な情報の解析・整理
キンググループで活動を共にして,特許情報の解析の
に役立つヒントが得られれば幸いである。
哲学に直接触れる貴重な機会を得ることができた。パ
テントマップ作成の基本は公報を読んで自分で分類
『Rによるデータサイエンス:データ解析の基
評価をつけることである。しかし膨大な数の公報を読
礎から最新手法まで』金明哲
まずに内容を俯瞰・可視化して概要を把握し,大まか
森北出版,2007年,3,780円(税込)
に分類した上で「重要な」部分から優先順位をつけ
774
て調査を行いたいという要求が生じる。私は自分でい
Rとは統計計算とグラフィックスのための言語・
ろいろと試行錯誤を重ねながら,オープンソース(フ
環境である。日本語によるRの情報交換の場である
リー)のテキストマイニングツール2) と統計解析言
RjpWiki5)の「R本リスト」のページ6)によればRに関
語Rを組み合わせて特許情報の解析・可視化を実践し
する本(和書)は現時点で91冊出版されている。最
ている。2009年に本誌に「テキストマイニングと統
初に本書を紹介するのは,統計に基づく従来のデー
計解析言語Rによる特許情報の可視化」3)として投稿
タ解析手法と近年の新しいデータマイニング手法を
この本!おすすめします ●「特許情報解析」入門の手引き
『データマイニング入門:Rで学ぶ最新データ
解析』豊田秀樹編著
東京図書,2008年,3,570円(税込)
http://www.morikita.co.jp/shoshi/ISBN978-4-627-09601-1.html
系統的に網羅しているからである。本書はデータの
解析を行いながらその理論を理解するスタイルを
取っており,実務データの解析手法の入門書として
http://www.tokyo-tosho.co.jp/books/ISBN978-4-489-02045-2.
html
有用である。
本書は2部で構成されている。第1部は「Rとデータ
本書は次の9章より構成されている。
「データマイ
マイニングの基礎」である。Rの環境と基本操作,デー
ニングとは」,
「ニューラルネット」,
「人工知能エン
タの入出力と編集,データの演算と基本統計量,デー
ジンと決定木」,
「自己組織化マップ」,
「連関規則」
,
「ク
タの視覚化などについて書かれている。
ラスター分析」,
「ベイジアンネットワーク」,
「サポー
第2部は本書の主要部であり「Rによるデータ解析・
トベクターマシン」
,「潜在意味解析」
。潜在意味解析
データマイニング」について全部で17章から構成さ
は文書−単語の行列を特異値分解と呼ばれる数学的
れている。各章1つずつ関連した手法を解説してい
手法で次元圧縮して分析する手法である。この潜在
る。主成分分析,因子分析,対応分析,多次元尺度法,
意味解析がわかりやすい事例で解説されている。
クラスター分析,自己組織化マップ,ニューラルネッ
金先生の『Rによるデータサイエンス』と内容的に
トワーク,カーネル法とサポートベクターマシン,
重なる部分もあるが,本書の特徴は解析データに工
アソシエーション分析等が興味深い。
夫がされており,チョコレート,シングルモルトウ
著者の金先生のページJin's Home Page7)には本書
イスキー,ワインの銘柄等身近なデータで興味をか
に収録されていない「統計的にテキスト解析(1)∼
きたてられる。各章の前半では各手法を平易に解説
(17)
」が公開されており,テキストマイニング事例
して後半でRの操作方法を読み物風に対話形式で丁寧
として大変参考になるので本書と合わせて参照され
に解説している。本書を片手に実際にRで解析するこ
るとよい。
とで理解が深まる。
さらにテキストマイニングの基礎から学びたい方
には金先生の『テキストデータの統計科学入門』8)も
おすすめである。
『Rによるテキストマイニング入門』石田基広
森北出版,2008年,2,940円(税込)
本書はテキストマイニングとは何か,どのように
使えるのか,どのようにすれば実行できるのかをRと
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『特許情報のテキストマイニング:技術経営の
パラダイム転換』豊田裕貴,菰田文男編著
ミネルヴァ書房,2011年,4,725円(税込)
http://www.morikita.co.jp/shoshi/ISBN978-4-627-84841-2.html
M e C a b(フリーの形態素解析ツール)9)を使ってテ
キストマイニングを実行する方法を具体的に解説し
ている。
http://www.minervashobo.co.jp/book/b82339.html
本書は次の10章より構成されている。「テキストマ
イニングとは何か」
,
「テキストマイニングの準備」,
「R
本 書 は「 理 論 編 」 と「 実 践 編 」 の2部 構 成 で あ
に慣れる」
,「MeCabとRMeCab」,「RMeCabによるテ
る。理論編では特許情報をテキストマイニングに
キスト解析」
,
「インターネット上のクチコミ情報の
よって分析する方法を主に太陽電池関連技術の分析
分析」,
「アンケートの自由記述文の分析」
,「沖縄観
事例を基に解説している(第1∼4章)
。時系列デー
光のアンケートの分析」,
「テキストの自動分類」,
「書
タの分析により技術開発の流れを明らかにするこ
き手の判別」
。
とが重視されている。NMF(Non-Negative Matrix
テキストマイニングは次の2段階で実行される。
(1)
Factorization:非負行列因子分解)
(2章)やQ分析(3
テキストの言語の解析からデータ解析に必要な情報
章)などを用いた高度な時系列データの分析方法に
(単語の文書内での出現回数,文書あるいは文中であ
ついても解説している。N M Fは潜在意味解析のよう
る単語とある単語が同時に出現する「共起」等)を
に次元を圧縮する手法である。計算の負荷が少なく
抽出する第1段階。
(2)抽出した情報を統計解析する
大規模な行列に対しても有効性が高いといわれてい
第2段階。日本語の文から形態素(意味を持つ最小の
る11)。Q分析はグラフ理論のような代数的トポロジー
単位)を抽出するのがMeCabである。統計解析やデー
に基づく手法で,本書では単語間の関連性の分析に
タマイニング,可視化を行うのがRである。
用いている。第4章はカテゴリー創造型技術開発と
著者の石田先生はRから日本語の文書を解析するた
マーケティングというタイトルで,特許情報のテキ
めの独自のパッケージRMeCabを開発して先生のホー
ストマイニングから開発すべき方向性を抽出する方
ムページ10)で公開されている。
法を解説している。第5∼6章では汎用のテキストマ
本書でテキストマイニングの基本から応用まで実
際のデータを解析しながら学ぶことができる。
イニングソフト「Text Mining Studio」を使用した界
面活性剤の分析事例が解説されている。新たな戦略
的知識創造のメカニズムの解明を試みている。
「実践編」では「Text Mining Studio」と「R」の使
い方についてもそれぞれ1章をさいて解説している。
776
この本!おすすめします ●「特許情報解析」入門の手引き
汎用のテキストマイニングソフトで特許情報の解析
のツール類16)やそのベースになっている技術,知財
を行っており,何がどこまでわかるのかという点で
業界の動向を把握しておくとよい。私は毎年秋の特
興味深い。
許・情報フェアにおいて無料で配布されている「Japio
本書で解説している手法は入門の域を超えている
YEARBOOK」17)を大変ありがたく頂いている。ネッ
ものも多いので,必要に応じて先におすすめした3冊
ト座談会,寄稿集,各社のシステム/サービス紹介
を参考にするとよいと思われる。
が1冊にまとめられており非常に重宝している。特に
テキストマイニング用のフリーのツールとして本
寄稿集は大変参考になる貴重な情報源である。
書で触れられているKH Coder12)はマニュアル類もよ
く整備されRを用いた事例もあり参考になる。
最近ではテキストマイニング技術を応用したデー
タベース統合型のシステムも普及化の兆しを見せて
いるが,個人レベルで使用するにはまだまだ高価で
ある。本誌「特許の可視化と特許解析 解析ツール
との付き合い方を考える」13)の国司氏の講演を数年
前に受講して,自分でもテキストマイニングによる
解析を行ってみたいという思いを強くしたことを鮮
明に覚えている。
執筆者略歴
個人で解析,可視化できる手法として,今津氏は
本誌でCytoscapeを活用した事例14)を紹介している。
ネットワーク分析を大規模データに適用した例で大
安藤 俊幸(あんどう としゆき)
神奈川県生まれ。1985年信州大学大学院理学部化学科
修了。理学修士。花王株式会社入社。栃木研究所勤務。
FD,インクリボン,情報用紙等情報材料の研究開発に従
事。1998年和歌山研究所(新規プロジェクト)
。2000年新
変興味深い。
おなじみのE x c e lを使用する特許情報分析とパテン
15)
トマップ作成について書かれた入門書
が最近出版
された。
規プロジェクト特許担当。2004年化学品研究所 特許・
情 報 部 門。2006年 情 報 科 学 技 術 協 会(INFOSTA),OUG
特許分科会入会。情報プロフェッショナルシンポジウ
ム(INFOPRO) で2007,2008,2011年 に 発 表。2009年
INFOSTA西日本委員会企画セミナー「自分でできる解析手
以上「自分でできる解析」にこだわっていろいろ
法セミナー」講師。2011年INFOSTAセミナー「特許マッ
紹介してきたが,企業の実務担当者であれば日々使っ
プ利用の考え方とその事例 第2回テキストマイニング+
ている特許データベースやパテントマップソフト等
ビジュアル化型マップの考え方」講師。2009年より現職。
参考文献
1) 桐山勉. 特許分析・解析の哲学小道. 情報管理. 2009, vol. 52, no. 5, p. 286-299.
2) 前田朗. 専門用語(キーワード)自動抽出システム のページへようこそ.http://gensen.dl.itc.u-tokyo.
ac.jp/, (accessed 2011-11-10).
3) 安藤俊幸. テキストマイニングと統計解析言語Rによる特許情報の可視化. 情報管理. 2009, vol. 52, no. 1, p.
20-31.
777
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
February
http://johokanri.jp/
4) 松村真宏, 三浦麻子. 人文・社会科学のためのテキストマイニング. 誠信書房, 2009, 158p.
5) 岡田昌史. RjpWiki. http://www.okada.jp.org/RWiki/, (accessed 2011-12-16).
6) 岡田昌史. R本リスト . RjpWiki. http://www.okada.jp.org/RWiki/?R%CB%DC%A5%EA%A5%B9%A5%C8,
(accessed 2011-12-07).
7) 金明哲. R,R言語,R環境 . Jin's Home Page. http://www1.doshisha.ac.jp/ mjin/R/index.html, (accessed
2011-12-07).
8) 金明哲. テキストデータの統計科学入門. 岩波書店, 2009, 258p.
9) 工藤拓. MeCab(和布蕪)
とは. http://mecab.sourceforge.net/, (accessed 2011-12-07).
10) 石田基広. RとLinuxと. http://rmecab.jp/wiki/, (accessed 2011-12-07).
11) 新納浩幸. Rで学ぶクラスタ解析. オーム社, 2007, 224p.
12) 樋口耕一. KH Coder. http://khc.sourceforge.net/, (accessed 2011-12-07).
13) 国司洋介. 特許の可視化と特許解析 解析ツールとの付き合い方を考える. 情報管理. 2011, vol. 53, no. 11,
p. 591-599.
14) 今津均. Cytoscapeによる特許情報のネットワーク解析とビジュアル化. 情報管理. 2011, vol. 54, no. 8, p.
463-475.
15) 野崎篤志. 経営戦略の三位一体を実現するための特許情報分析とパテントマップ作成入門. 発明協会,
2011.
16) みずほ情報総研. 知財情報の有効活用のための効果的な分析方法に関する調査研究報告書. http://www.
inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/shiryo/chizaijouhou2010.pdf, (accessed 2011-12-07).
17) Japio YEARBOOK . 日本特許情報機構. http://www.japio.or.jp/00yearbook/index.html, (accessed 201112-07).
778
図書紹介 ●Newbook
日外アソシエーツ
図書館活用術 新訂第3版
2011年
A5判
情報リテラシーを身につけるために
230p.
2,940円(税込)
藤田節子●著
ISBN 978-4-8169-2343-2
情報管理 54(11), 779-779, doi: 10.1241/johokanri.54.779 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.779)
日常的に出くわす疑問や問題に対して,それらを
解き明かそうとする知的好奇心のある人びとがこの
わりはない。
図書館を知らない人はいないだろうが,本を借り
本のターゲットである。いま貴方がほしい情報を,
るところだという程度の認識の人は,最初の概論編
自分で,素早く的確に探し出すことのできる技術を
から読んでみよう。図書館が果たす機能を,ある程
マスターするためには,どのようにしたらいいのだ
度ご存じの方は,活用編へと読み進めるのがいい。
ろうか。
図書館で適切な情報を素早く見つけ出す具体的な方
私たちの周辺には,疑問が浮かぶとすぐパソコン
法をきわめて多面的に例示している。だから,書架
に向かってキーをたたく人が多い。パソコンに代わっ
から本を見つけ,コピーをとる程度の経験の人は,
て,スマートフォンがもっと身近な道具となりつつ
活用編を読むことにより,図書館が何倍も身近な存
ある。インターネットが瞬時に, 答えらしきもの を
在に変わるだろう。
示してくれるのだから。だが,こうして得られた情
報内容の危うさに気づいているか,と著者はいう。
さらに図書館の機能を骨までしゃぶろうとする人,
情報探しのシニアを目指す人のために,手引きとな
だからこそ,情報リテラシーつまり情報活用能力
る資料を50点ほど紹介した付録がついている。巻末
を磨くことが,
とても大切なのだ。つづめていえば「自
には,この本に載っている書名,機関名,事柄につ
分がどんな情報を求めているかを理解して,それを
いてのよくできた索引がついているから,ひととお
的確に探し出し,得た情報を評価,判断して行動し
り読んだ後に,必要があるつど問題解決の手がかり
たり,自分から情報を発信する」といった情報を利
を容易に得ることができるだろう。本文170ページに
用できる能力がそれである。そして,情報リテラシー
対して,この本の使い方や目次など前付けと,用語
能力を身につける最も適した場所こそが図書館なの
解説や索引などの後付け併せて50ページあることも,
だ。
この本の姿勢を示しているといえるのではないか。
本書は1993年『学生・社会人のための図書館活用術』
図書館の利用を解説した類書は少なくないが,知
として世に出た。10年経って『新訂図書館活用術−
識の海を鳥瞰する藤田節子さんの幅広い知見と,ポ
探す・調べる・知る・学ぶ』に改訂され,そしてま
イントごとの的確な説明能力が,この本では見事に
た10年後の改訂第3版となった。特にこの10年,私た
結実している。情報リテラシーに多少の自信をお持
ちを取り巻く情報環境の変化は目覚ましい。しかし,
ちの方や,これからリテラシーを身につけたいとお
図書館利用や情報探索の基本は変わらないのだと,
考えの方にはもちろんのこと,一読をお勧めしたい
著者はいっている。したがって,著者が私たちの手
と思った。
を引いて,情報の海をナビゲートするスタンスに変
(ぷろだくしょん賦智 古谷 実)
779
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
February
情報管理 54(11), 780-784, doi: 10.1241/johokanri.54.780 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.54.780)
オンライン海賊行為防止法案(SOPA)をめぐ
書館や教育活動を脅かしかねないとして,S O P Aに
る動き
は反対しているLibrary Copyright Alliance(LCA)が
O P E N A c tには歓迎の書簡を提案議員に送ったのに
米国の知的財産を不正サイトから保護するために,
超党派議員によって米国下院に提出された(2011年
Mozilla,Twitter,Yahoo!,Zyngaも支持を表明した。
10月26日)
「オンライン海賊行為防止法案」
(S t o p
しかし,米国レコード工業会(Recording Industry
Online Piracy Act: SOPA)は,11月16日に下院司法委
Association of America: RIAA)は,著作権侵害を効果
員会(House Judiciary Committee)において公聴会
的に防止することができないと強く批判している。
が開かれ,12月15 ∼ 16日には法案に対する修正提案・
米国図書館協会(American Library Association: ALA)
検討(マークアップ)が行われた。しかし,立法化
は,SOPAとPIPAには反対しているが,OPEN Actに
を遅らせることを意図して提出された55の修正案の
対しては,さらなる分析が必要であるとしている。
うち検討されたのは半数しかなく,通ったのは小さ
SOPAに批判的な,下院監視委員会(House Oversight
な修正案5点のみであった。12月21日に予定されてい
Committee)のDarrell Issa委員長は,ドメインネー
た次回の公聴会は,1月24日に延期された。
ム・システム(Domain Name System: DNS)と検索
S O P A賛成派,反対派ともに,さまざまな動きを見
エンジンのブロッキングがインターネットに及ぼす
せている。上下院の賛成派議員は,著作権侵害の疑
潜在的影響に関する公聴会を1月18日に開催すること
念をもたれたサイトに対して,裁判所命令を求める
を公示した。なお,Wikipedia,eBay,Yahoo!などは,
権限を司法省に与えるという,S O P Aとほとんど同じ
S O P Aがインターネットを破滅させるとして,反対の
内容の「知的財産保護法(PROTECT IP Act: PIPA)」を
意を表すために,画面を同時にブラックアウトする
1月に上院本会議の投票にかけることを予定してい
ことを考慮している。Wikipediaの執筆者・編集者の
る。
87%がブラックアウトを支持しているとの調査結果
12月8日 に はD a r r e l l I s s a議 員 等 の 超 党 派 議 員
が出ているとのことである。
が,SOPAの代替策として「Online Protection and
(http://thehill.com/blogs/hillicon-valley/technology
Enforcement of Digital Trade Act: OPEN Act」の草
/202627-twitter-facebook-and-google-endorse-
案をW e b上に発表し,コメントを求めた。著作権を
alternate-online-piracy-bill)(http://thehill.com/blogs/
侵害した外国のW e bサイトを,データベースから削
hillicon-valley/technology/203149-issa-calls-hearing-
除するよう検索エンジンやドメイン名登録業者に求
on-dns-and-search-engine-blocking-for-jan-18)
めるが,その法的責任は米国国際貿易委員会(U . S .
(http://www.imperfectparent.com/topics/2012/01/04
International Trade Commission)に委ねるとする法
/sopa-blackout-facebook-google-twitter-amazon-
案である。著作権侵害における 故意性 の問題と,
and-others/)(accessed 2012-01-12).
公的なパフォーマンスに対する犯罪の制裁規定が図
780
加え,AOL,eBay,Facebook,Google,LinkedIn,
情報界のトピックス ●Topics of the information community
オープンアクセスポリシーを後退させる
反対」し,次のように述べた。「困惑させられるのは,
Research Works Act
S O P Aに対して果敢に闘っているI s s a議員が,なぜそ
れと同時に突然NIHのアクセスポリシーを無効にする
2011年12月16日,米国連邦政府機関のオープンア
ことを狙うようになったかということである。ALAは
クセスポリシーを後退させる新しい法案「R e s e a r c h
『Research Works Act』の動きをしっかりと見張り続
Works Act(H.R.3699)
」が,Darrell Issa下院議員(共
ける」
和党)とCarolyn Maloney下院議員(民主党)によっ
(http://www.taxpayeraccess.org/action/action_
て提出され,下院監査政府改革委員会(Committee
access/12-0106.shtml)(http://www.openaccess.
on Oversight and Government Reform)に付託され
nl/index.php?view=article&catid=1%3Anews-
た。法案の内容は,(1)出版社からの事前承諾なし
archive&id=289%3Aelsevier-under-fire-from-
に,民間部門の研究成果をネットワーク配布するこ
american-oa-advocates&format=pdf&option=com_
とを認めたり,(2)著者やその雇用者に,民間部門
content&Itemid=1)(accessed 2012-01-12).
の研究成果のネットワーク配布に同意するよう要求
するようなポリシーを,連邦政府機関は持続・実行
MITの新しいオンライン・ラーニング・イニシ
してはならないとするものである。国立衛生研究所
アチブMITx
(National Institutes of Health: NIH)のパブリックア
クセスポリシーをはじめ,他の連邦政府機関のオー
10年前にOpenCourseWareを開始し,これまでに1
プンアクセスポリシーの進展を妨げることを意図
億人を超える人々に利用されてきたマサチューセッ
しているとして,納税者アクセス同盟(Alliance for
ツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:
Taxpayer Access: ATA)は議員たちに対して反対の意
MIT)が,新しいオンライン・ラーニング・イニシア
思を伝えるよう呼びかけた。
チブを発表した。仮にM I T xと名づけられたこの企て
他方,米国出版社協会(Association of American
は,MITの学外で学ぶ世界中の人々に,オンラインコー
Publishers: AAP)はこの法案は,学術論文を生産・査
スのプラットフォームを無料で提供する。ビデオを
読・出版している民間の研究出版社への規制介入を
見て,質問に答え,課題に取り組み,オンラインラ
防止することを目指しているとして賛成の立場であ
ボを訪れ,学生同士で討論し,テストを受けるなど
る。AAPが「Research Works Act」への歓迎の意を発
すべてを完了した学外学習者には証明書が授与され
表した後,AAPのメンバーであるElsevier社が批判の
る。最初のコースは2012年春ごろ実験的に始められ
的となっている。オープンアクセス支持者のMichael
る予定である。科目はまだ発表されていないが,目
Eisen氏が,Elsevier社が2011年にMaloney議員に9,000
標は需要の高いコースのポートフォリオを構築する
ドル(約69万円)の寄付をしたことに気付いたため
ことである。MITは,このイニシアチブの遂行のため
である。さらに調べると,過去5年間にMaloney議員
に投資する数百万ドルの費用を財団などからの寄付
は,Elsevier社からの39,050ドル(約300万円)を含む
でまかなうとしている。M I T xコースへのアクセスは
総額85,790ドル(約660万円)を,Issa議員は過去5年
無料だが,MITは,学習者がコンテンツをマスターし
間に,Elsevier社からの5,000ドル(約38万円)を含む
たことを示す証明書には わずかな 料金を請求する
総額13,900ドル(約107万円)を出版業界から受け取っ
ことを計画している。ただし,証明書がMITの名前の
ていたことが判明した。米国図書館協会(American
下に発行されることはなく,学内に別の名前を付け
Library Association: ALA)は1月9日,
「法案に激しく
た非営利組織を設け,そこが発行する予定である。
781
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
February
プロボストのL. Rafael Reif氏は,MITxはMITの簡易版
ファイル共有ソフト「W i n n y」開発者の無罪
ではなく,証明書を得るためには学習者はMITの学生
確定
と同様に,その科目をマスターしたことを証明しな
ければならないと語っている。MITxのプラットフォー
ファイル共有ソフト「Winny」の開発者である金子
ムは全世界に無料で提供されるので,将来は他の大
勇氏が著作権法違反幇助の罪に問われていた裁判で,
学もそれを利用して無料のオンラインコースを提供
最高裁判所第三小法廷は「多数の者が著作権侵害に
するようになることをMITは期待している。
利用する可能性が高いと認識していたとはいえない」
(http://web.mit.edu/newsoffice/2011/mitx-faq-1219)
とし,2011年12月19日付けで検察側の上告を棄却し
(accessed 2012-01-12).
た。これにより,2009年10月に下された二審(大阪
高裁)の無罪判決が確定した。金子氏は「私は,今
英国は電子書籍への付加価値税(V AT)率引
回の事件で開発を躊躇する多くの技術者のために訴
き下げを拒否
訟活動をしてきました。今回の決定で,私の開発態
度が正しく認められたことをありがたく思っており
英国は電子書籍に対して20%の付加価値税(V AT)
を課しているが,その税率を引き下げることを拒否
ます」とコメントしている。
一方この決定について,コンピュータソフトウェ
した。印刷本に対してはVATを免除している英国では,
ア著作権協会(ACCS)は2011年12月27日にコメント
電子メディアを品物ではなくサービスと分類して,
を発表した。これによると,この決定は「Winnyの開
標準税率をかけることを求めるE Uの法律に引き続き
発・提供行為が著作権侵害を幇助するか否かに関し
従うことを財務大臣が言明した。2012年より,ルク
て出されたもの」であって,Winnyを悪用した著作権
センブルクの電子書籍に対するV ATは15%から3%に,
侵害行為までもが違法ではないと判断されたもので
フランスでは19.6%から5.5%に引き下げられた。フラ
はないと強調している。
ンスはE Uが科すいかなる罰金も支払う覚悟でいる。
(http://www.skeed.co.jp/press/press_20111220.html)
しかし,Amazon社の営業はルクセンブルクを本拠地
(http://www2.accsjp.or.jp/activities/2011/news18.
にしているため,競争上の優位性を得たことになる。
php)(accessed 2012-01-12).
英国の電子書籍購入者は,Amazon社から購入すれば
3%のV ATを支払うだけだが,英国を本拠地にしてい
中国,特許出願で日本を抜き世界第2位に
る業者から購入すれば20%のVATを払わなければなら
ない。E Uは,購入者が住む国のV ATを支払うよう制
世界知的所有権機関(W I P O)は2011年12月20日,
度を変えることになっているが,実現するのは2015
報告書「世界知的所有権指標2010年版」を発表した。
年まで待たなければならない。
これによると,世界各国の特許当局が受け取った特
(http://www.teleread.com/ebooks/uk-declines-to-
許数で,中国(39.1万件)が日本(34.5万件)を抜き,
lower-vat-on-e-books-gives-amazon-big-advantage-
米国(49万件)につぐ世界第2位となった。世界全体
in-uk-e-book-sales/)(accessed 2012-01-12).
での出願数は,2009年は不況の影響を受けて前年よ
り3.6%減少していたが,2010年は前年比7.2%増の
198万件となった。この増加の約8割は中国と米国で
の出願によるものだとしている。W I P Oのガリ事務局
長は,出願数の増加は,世界中の企業が技術革新を
782
情報界のトピックス ●Topics of the information community
続けてきたことを示すものであり,このことは景気
ランキングした。世界ランキングでは,日本語とし
が回復した際の雇用創出や繁栄につながるとしてい
ては初めて「東京電力」が8位に入っている。一方,
る。
日本語の急上昇キーワードトップ10は順に,地震,
(http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2011/
停電,放射能,原発,東京電力,iPad 2,iPhone 5,
article_0028.html)(accessed 2012-01-12).
セシウム,Facebook,Google+となり,半数以上が
東日本大震災関連のワードだった。「Zeitgeist 2011年
被災地域のストリートビュー画像を公開
版」サイトでは,各国のさまざまなカテゴリのラン
キングを月・週単位で見ることができる。
Googleは2011年12月13日,東日本大震災の被災地
(http://www.googlezeitgeist.com/ja)(http://www.
域のパノラマ写真をGoogle Mapと特設サイト「未来
googlezeitgeist.com/ja/top-lists/jp/fastest-rising-
へのキオク」で公開したと発表した。これは2011年
searches)(accessed 2012-01-12).
7月に開始された,被災地域のデジタルアーカイブプ
ロジェクトの一環で,ストリートビュー撮影車を使っ
Google,SNSのデータを検索結果に反映
て2011年夏から約半年をかけて延べ44,000k mを走行
し,被害が大きかった東北地方の沿岸地域や主要都
G o o g l eは1月10日,検索結果に同社のソーシャル
市周辺を撮影した。同プロジェクトには,ユーザー
サービス「G o o g l e +」のデータを反映させるパーソ
から「震災前に撮影されたストリートビューの画像
ナライズ機能「Search plus Your World」を発表した。
を残してほしい」という要望が多く寄せられたため,
この機能を有効にした状態で検索すると,G o o g l e +
今回の公開では「未来へのキオク」において震災前
上の友人の投稿に関連する項目が検索結果の上位に
後の同地域のストリートビュー画像を見られるよう
表示される。また,人名を検索した場合,G o o g l e +
にしている(震災前に撮影が行われなかった地域も
を利用しているユーザーであればプロフィールが表
ある)。また同日から,ストリートビュー画像の中に
示される。さらに,検索キーワードに関連したテー
撮影日時を表示するようにしている。G o o g l eではこ
マを頻繁に取り上げているG o o g l e +ユーザーが検索
のプロジェクトを通じて,後世に震災の記録をきち
結果ページの右側に表示されるようになる。これら
んと継承し,記憶の風化を防ぐことにつながること
の機能は,G o o g l e +を利用していなくても一部は有
を期待しているとしている。
効だが,Googleアカウントでログインし,Google+
(http://googlejapan.blogspot.com/2011/12/blog-
を利用しているユーザーの場合に最も多くの機能が
post_13.html)(http://www.miraikioku.com/
有効になる。逆に,G o o g l e +のデータを反映させな
streetview/)(accessed 2012-01-12).
いようにする設定も可能だ。新しい機能は,まず英
語版G o o g l eでの英語による検索で利用できるように
G o o g l e世界検索ランキング,「東京電力」が
なる予定。
ランク入り
(http://googleblog.blogspot.com/2012/01/searchplus-your-world.html)(accessed 2012-01-12).
Googleは2011年12月16日,2011年の検索語ランキ
ング「Zeitgeist 2011年版」を発表した。「Zeitgeist」
被災企業に大学の再生PCを無償提供
はドイツ語で「時代精神」という意味で,単なる検
索件数でなく,検索頻度が急上昇した検索ワードを
大学I C T推進協議会,東北六県商工会議所連合会,
783
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
日本商工会議所,および日本マイクロソフトは1月11
目的は終えているが,一般事務作業では利用可能な
日,岩手,宮城,福島の3県で被災し,事業再開に取
P Cを,大学とマイクロソフトのサポート部門が連携
り組む中小企業に対して,大学で保有するP Cを再生
して,新たに利用できるよう再生する。また再生し
して無償提供するプロジェクトを開始したと発表し
たPCには,Windows OSおよび Microsoft Office製品
た。被災企業から商工会議所などに対して,事業活
のライセンスが提供される。
動の再開にあたってP Cの寄贈を求める声が寄せられ
(http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.
ていることから,再生P Cの寄贈を通じて中小企業の
aspx?newsid=4099)(accessed 2012-01-12).
復興を支援する。大学が保有している,本来の使用
784
http://johokanri.jp/
February
PINUP
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785
情報管理
JOHO KANRI
2012
vol.54 no.11
Journal of Information Processing and Management
http://johokanri.jp/
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□ 次号予定
●支援・受援のパラダイムを超えた新たな図書館連携に向けて
●東日本大震災からの図書館の復旧・復興支援:宮城県図書館の役割
●saveMLAKの活動と課題、そして図書館への支援を巡って
●東日本大震災における情報支援を振り返る:援助を受けた中小民間病院図書室の立場から
●災害時と震災後の医療IT体制:そのグランドデザイン
●統計情報活用への招待:第9回 製造業の公的統計
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