ワンルーム規制がワンルーム家賃に 与える影響に関する研究 ~東京都区部における分析~ < 要 旨 > ワンルームは、都心部に居住する単身者の住まいとして広く普及しているが、近隣住民 から問題視されることも多く、東京都区部を中心に各自治体は様々な規制を実施している。 一方で、ワンルームに対し建築規制で対応すべき問題なのかという意見もあり、ワンルー ム規制のあり方については様々な議論がなされている。本稿では、ワンルーム規制がもた らす弊害として、ワンルーム家賃に与える影響に着目し、実証分析を行う。東京都区部内 を対象とし、規制実施区と未実施区抽出による DID 推定及び区部全域による OLS 推定に よって分析を行い、ワンルーム家賃への影響を定量的に明らかにした。また、ワンルーム が周囲の地価やファミリー家賃に与える影響をヘドニック・アプローチを用いて実証分析 を行い、ワンルームは、ファミリー層には選別的に負の影響を与えている可能性があるが、 全体的には周囲に負の影響を与えていないことを明らかにした。これらの分析結果より、 ワンルーム規制は、ファミリー層への負の影響の軽減に間接的に寄与する可能性はあるも のの、外部不経済への政策としては不適当であり、かつ、最適ではない住宅供給を強制し、 ワンルーム家賃へ影響を及ぼすといった多くの弊害を生み出す非効率な施策であるといえ るだろう。 2011 年(平成 23 年)2 月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU10044 有井 美由紀 第1章 はじめに ................................................................................................................1 第2章 ワンルーム規制の現状 ..........................................................................................2 2.1 ワンルーム規制の背景 ..............................................................................................2 2.2 規制内容・方法 .........................................................................................................2 第3章 3.1 課税 ...........................................................................................................................6 3.2 ファミリー付置義務..................................................................................................6 3.3 最低面積規定.............................................................................................................6 第4章 ワンルーム規制がワンルーム家賃に与える影響に関する実証分析 .....................7 4.1 規制実施区と未実施区抽出による分析(DID)(分析①)......................................7 4.2 東京都区部全域による分析(OLS)(分析②) ..................................................... 11 4.3 考察 ........................................................................................................................ 14 第5章 ワンルームが周囲に与える影響に関する実証分析............................................ 15 5.1 単身世帯割合が地価に与える影響の分析(分析①)............................................ 15 5.2 近隣ワンルーム戸数割合がファミリー家賃に与える影響の分析(分析②) ....... 18 5.3 考察 ........................................................................................................................ 20 第6章 謝 ワンルーム規制がワンルーム家賃に与える影響に関する理論分析 .....................6 まとめ ................................................................................................................. 21 辞 ................................................................................................................................... 22 参考文献 ............................................................................................................................... 22 第1章 はじめに 東京都区部の単身世帯数は、1980(昭和 55)年は約 94 万世帯、全世帯に占める割合は 31% であったものが、2005(平成 17)年には約 183 万世帯、45%を占めるまでに増加し続けており1、 今後もその傾向は続くと予測されている2。ワンルーム3は、単身者の住まいとして 1980 年代後半 から登場し、現在では、地方出身の学生や独身の勤め人だけでなく、単身赴任者や一人暮らしの お年寄りにとっても割安な住まいとして広く普及している。 このワンルームに対しては、居住者マナー等を問題として、東京都区部を中心に様々な建築規 制が実施されてきた。一方で、ワンルームに対し建築規制で対応すべき問題なのかという意見も あり4、ワンルーム規制のあり方については議論がなされている。2008(平成 20)年には、内閣 総理大臣の諮問機関である内閣府規制改革会議より、ワンルーム規制の見直しに関する答申が出 され、2009(平成 21)年 3 月に閣議決定された「規制改革推進のための3か年計画」の中で、 ワンルーム規制の状況・背景等の調査を行い、各自治体への適切な助言をするよう謳われている。 ワンルーム規制に関する研究としては、木下・大月・深見(2008)があり、ワンルームに関わる 問題の諸相やそれに対する行政のワンルーム規制のこれまでの変遷についての報告がある。 また、 論説として、殿塚(2010)は、開発事業者の立場からワンルーム規制の問題点について論じており、 「家賃を高く設定せざるを得ない」 「居住者のニーズに合わない物件開発が促進されるか、開発さ れず土地の有効利用が遅れることにつながる可能性もある」と指摘している。しかし、ワンルー ム規制がもたらした影響について実証分析を行った研究は行われていない。 そこで、本稿では、ワンルーム規制がもたらす弊害として、規制がワンルーム家賃に与える影 響に着目して分析を行った。本稿の構成と研究方法は次のとおりである。第 2 章ではワンルーム 規制の現状を整理した。第 3 章では、経済学の分析手法により理論分析を行い、ワンルーム規制 がワンルーム家賃を上昇させていることを明らかにした。第 4 章では、ワンルーム規制がワンル ーム家賃にどの程度影響を与えたかについて、東京都区部内を対象とし、規制実施区と未実施区 抽出による DID 推定及び区部全域による OLS 推定によって実証分析を行い、ワンルーム家賃へ の影響を定量的に明らかにした。第 5 章では、ワンルームが周囲の地価やファミリー家賃に与え る影響をヘドニック・アプローチを用いて実証分析を行い、ワンルームは、ファミリー層には選 別的に負の影響を与えている可能性があるが、全体的には周囲に負の影響を与えていないことを 明らかにした。第 6 章では、それまでの考察を踏まえ、ワンルーム規制は、ファミリー層への負 の影響の軽減に間接的に寄与する可能性はあるものの、外部不経済への政策としては不適当であ り、かつ、最適ではない住宅供給を強制し、ワンルーム家賃へ影響を及ぼすといった多くの弊害 を生み出す非効率な施策であるという結論を導いた。また、ワンルームがもたらす近隣のファミ リー家賃への負の影響の要因やメカニズムの特定、ワンルーム規制がもたらすワンルーム家賃へ の長期的な影響の検証の必要性について今後の課題として提示した。 1 「国勢調査」より 2 「東京都世帯数の予測」より 3 ワンルームは、マンション・アパート等の形態があり、また間取りもワンルーム、1K、1DK、1LDK 等があるが、本稿で は、形態、間取りに関わらず、各区が概ね規制の対象としている30㎡未満の住宅をワンルームと呼ぶこととする。 4 「ワンルーム規制 賛成?反対?」朝日新聞 2008 年 8 月 12 日 朝刊 第 6 面 1 第2章 ワンルーム規制の現状 2.1 ワンルーム規制の背景 ワンルームは、1980 年代後半から単身者の住まいと して登場し、地方から東京への人口流入、晩婚化によ る単身者の増加、低金利時代の投資対象等の理由によ り、 増加してきた(図 2-1) 。 ワンルームが急増した 1980 9 8 7 6 年代後半、ワンルームは生活環境を乱すとして近隣住 5 民からの反発が広がり、各地で紛争が起きた。東京都 3 の各区では、 それに対し、 施設設置義務や管理の徹底、 近隣説明やなどを規定した指導要綱を定め、各事業者 ワンルーム着工戸数(東京都) 万戸 4 2 1 0 1980 に指導を行ってきた。その後、バブル経済の崩壊に伴 いワンルームの供給数は一時減尐したが、近年再び増 1985 1990 1995 2000 2005 出典:『東京都建築統計年報』より作成 30 ㎡以下共同住宅戸数を集計 図 2-1 ワンルーム着工戸数(東京都) 加傾向にあり、行政側では指導要綱の条例化や内容強化などの規制を強める動きが出ている。 規制の理由としては、ワンルームの居住者はごみ出しや駐輪、騒音などのマナーが悪いとい う近隣からの声や、ワンルームばかりが建てられファミリーマンションが供給されないという 住宅ストックのアンバランス、単身者は地域に溶け込まず、防災、防犯、自治会といった活動 に支障が起きるという地域コミュニティの希薄化、住民登録もせず住民税も納めない単身者よ り税収確保につながる住民を増やしたいという自治体側の思いなどがある。 2.2 規制内容・方法 2.2.1 規制の内容 ワンルームの規制の内容としては、大きく分けると次のようになる。各区での現在の規 制内容は表 2-1 のとおりである。 ① 課税(豊島区のみ) 「豊島区狭小住戸集合住宅税条例」により、1戸の専有面積が 30 ㎡未満の住戸を9戸以 上もつ集合住宅を新築する時、建築主に1戸当たり 50 万円が課税される。目的税でなく普 通税のため、税収の使途は明記されていない。ただし、「ゆとりある住宅・住環境の実現」 を目的としたものに使うとされ、住宅基金に積み立て、区営住宅をはじめとする住宅関連 事業に充てられるとされている5。 ② ファミリー付置義務 一定割合にファミリータイプ(以下「ファミリー」という)を確保させるものである。 その割合は、総戸数の 30%以上(墨田区)や、総戸数から 29 を引いた数の 1/5+1以上(港 区)など、各区さまざまである。また、付置させるファミリーの面積の規定も、1戸の面 積が 37 ㎡以上(大田区)や、平均で 75 ㎡以上(足立区)などさまざまであるが、40 ㎡以 上としているところが多い。豊島区、練馬区、江東区以外の区で実施している。 5 豊島区ホームページより 2 ③ 最低面積規定 一戸の最低専有面積を定めるもので、全区が何らかの下限を定めている。18 ㎡以上(渋 谷区)や 30 ㎡以上(江戸川区)などさまざまであるが、25 ㎡以上と定めている区が多い。 住生活基本法(平成 18 年 6 月 8 日法律第 61 号)に基づき、住生活基本計画(全国計画) が 2006(平成 18)年9月閣議決定されたが、その中で、単身者の最低居住面積水準が、1戸 当たり 25 ㎡と定められたので、区の水準はそれに従ったものと思われる。 ④管理人、ごみ集積所、駐輪場等の設置規定 近隣住民からの苦情が多い居住者マナーの改善のための規定として、管理人の設置、ご み集積所・駐輪場の設置を義務化、あるいは努力規定として盛り込んでいる。 ⑤その他 地域コミュニティ対策のため、入居者の町会・自治会への加入の促進の努力義務を建築 主等へ課した規定や、高齢化社会に対応した住宅を確保するため、バリアフリー対策を義 務化する規定もある。 2.2.2 規制の方法と近年の動向 各区はこのような規制を、条例や要綱で規定し、事業者等への指導に当たっている。 (中央区 は全区一律の規制でなく、地区計画を定めた地域内にのみ適用されることとなっている。) ワンルームへの規制は、前述の通り、1980 年代後半から指導要綱によって行われてきた。し かし、近年のワンルームの増加を受け、2002(平成 14)年頃からまず中心部の区で、より強 制力のある条例化への強化や内容の充実が図られ、次いで外周区も 2008(平成 20)年頃から 相次いで同様の強化が図られた。現在は、23 区中 16 区が条例、7区が指導要綱等による規制 を行っている。 2.2.3 研究の対象 各種規制のうち、今回の研究の対象は 2000 年代に入り規制が開始・強化された、①課税、 ②ファミリー付置義務、③最低面積規定とする。このうち最低面積規定は 1980 年代頃から導 入され、既に全区において何らかの基準が規定されているが、近年「18 ㎡以上」や「20 ㎡以 上」という基準から引き上げが相次いだ「25 ㎡以上」を拘束力のあるものとみなし、今回の研 究の対象とする。 3 表 2-1 各区の規制内容(平成 23 年 2 月時点) 条例or 要綱 課税 ファミリー 付置 最低 面積 S61.7~指導要綱 ○ H5~ 指導要綱 H15.3~ 条例化(地区 計画内) 地区計画内 住戸 10戸以上 ○ H9~ 指導要綱 H17.4~ 条例化 37㎡未満の住戸が 7戸以上 千代田区 - ○ ○ 中央区 条例 - ○ 新宿区 文京区 条例 条例 条例 - - - ○ ○ ○ 適用範囲 地階を含む4階以 上、30㎡以下の住 戸が10戸以上 指導 要綱 港区 指導要綱・条例等の 策定時期 ○ H16.4~条例 地上3階建以上、 30㎡未満の住戸が 10戸以上 ○ S59~指導要綱 H20.7~条例化 地上3階建以上、 40㎡未満の住戸が 10戸以上 課税 ファミリー付置 ( )内は規制強化の流れ 最低面積 ( )内は規制強化の流れ ワンルー ファミリー ム位置 位置付 付け面 け面積 積 - 20戸以上の場合、 ファミリー住戸(40㎡ 以上)の専用面積の合計 が、全住戸の専用面積の合計の1/3以上とす る。 (H16.8~) 25㎡以上 ((時期不明)~22m2以上 →H22.8~ 25㎡以上) 30㎡ 以下 - ファミリー住戸(40㎡以上)の専用面積の合計 が、全住戸の専用面積の合計の1/3以上 (H15.2~) 25㎡以上 (H20.4~) 面積 40㎡ 規定な 以上 し - 30戸以上の場合、 ファミリー住戸(50㎡以上)を次の数だけ設置 ・その他の地域 ((総戸数-29)×1/5)+1 ・商業地域 ((総戸数-29)×1/10)+1 (H17.4~) 25㎡以上(商業地域は20㎡以上 で、総戸数の過半数を25㎡以上) 37㎡ (H9~ 18m2以上 未満 →H17.4~ 25㎡以上) 50㎡ 以上 - 40m2以上のファミリー住戸を、 ・その他の地域 (ワンルーム形式(30㎡未満) の住戸数-29)×1/3以上 ・一低専 (ワンルーム形式(30㎡未満)の住戸 数-29)×1/2以上 (H16.4~ 開始 →H20.10~ 強化) 25m2以上 (H16.4~ 18m2以上 →H20.10~ 25㎡以上) 30㎡ 未満 40㎡ 以上 - 15戸以上の場合、 (総戸数-15)×1/2をファミリー住戸(40㎡以上) に。 (H16~ 開始 →H20.7~ 強化) 25㎡以上 (H8~ 16m2以上 →H16~ 18㎡以上 →H20.7~ 25㎡以上) 40㎡ 未満 40㎡ 以上 40㎡ 以上 15戸以上の場合、 総戸数や高さに応じてファミリー住戸(40㎡or50 ㎡以上)を設置 台東区 条例 - ○ ○ S61.11~指導要綱 H17.7~ 条例化 H20.7強化 10戸以上 地上5階建以上 or 15戸以上 or 延べ床面積1,0 00㎡以上 - 地上3階建以上、 40㎡未満の住戸が 20戸以上 - 墨田区 条例 - ○ ○ S53~ 指導要綱 H20.7条例化 江東区 条例 - - ○ (時期不明)~ 指導要綱 H20.4条例化 品川区 目黒区 大田区 指導 要綱 条例 指導 要綱 - - - ○ ○ ○ △ S58~指導指針 H20.4指導要綱 ○ H16 指導要綱 H20.4条例化 ○ (時期不明)~ 指導要綱 地上3階建以上、 30㎡未満の住戸が 15戸以上、かつ当 該住戸数が総戸数 の1/3以上 3階建て以上、40 ㎡未満の住戸が10 戸以上 37㎡未満が15戸 以上 - ・総戸数が15~49戸(高さが40m以下) =総戸数の1/3以上を40m2以上の住戸 ・総戸数が50~99戸または高さが40mを超える もの(高さが50m以下) =総戸数の1/3以上を40m2以上の住戸とし、 25㎡以上 かつ、そのうち総戸数の1/9以上を50m2以上の (H3~ 20m2以上 住戸とする →H17.7~ 25㎡以上) ・総戸数が100戸以上または高さが50mを超える もの =総戸数の1/2以上を40m2以上の住戸とし、 かつ、そのうち総戸数の1/4以上を50m2以上の 住戸とし、かつ、そのうち総戸数の1/20以上を75 m2以上の住戸とする (H17.7~ →H20.7~ 強化) 25 戸以上の場合、 25m2以上 総戸数の30%以上をファミリー住戸(40 ㎡以上) (S62~ 18m2以上 に。 →H7~ 20㎡以上 (H17~ →H20.7~ 25㎡以上) →H20.7~ 強化) - 面積 40㎡ 規定な 以上 し 25㎡以上 (H14~ 20㎡以上 →H20.4~ 25㎡以上) 40㎡ 未満 面積規 定なし 20㎡以上 (一低専で25㎡以上) (H20.4~ ) 30㎡ 未満 40㎡ 以上 40㎡ 未満 40㎡ 以上 低層住居系: 25㎡以上 その他地域:25㎡以上に努め、最 低でも20㎡ 37㎡ (S61~16m2以上 未満 →H3~ 18㎡以上 →H16~ 25㎡以上) 37㎡ 以上 - 以下の数のファミリー住戸(40㎡以上)を設置。 ・住戸数が15戸~19戸の場合1戸以上 ・住戸数が20戸~29戸の場合2戸以上 ・30戸以上の場合以下の戸数を確保 1. 1低専 2+(総戸数-30)×1/3 2. 近商・商業 2+(総戸数-30)×1/10 3. その他の地域 2+(住戸数-30)×1/5 (H20.4~) - ワンルーム(40㎡未満)の住戸数が30を超える 場合、 25㎡以上 (ワンルーム住戸数-29 )×1/2を、ファミリー住戸 (H16~ 20m2以上 (40㎡ 以上、平均55㎡以上)に。 →H20.4~ 25㎡以上) (H20.4~) - 15戸~30戸の場合、 その内1戸以上はファミリー住戸(37㎡以上)設 置 30戸を超える場合、用途地域に応じた戸数のファ ミリー住戸を設置 ・低層住居系:1+(住戸数-30)×1/3 ・商 業 系:1+(住戸数-30)×1/10 ・その他地域:1+(住戸数-30)×1/5 (H16~) 4 面積 40㎡ 規定な 以上 し 条例or 要綱 世田谷区 渋谷区 条例 条例 課税 - - ファミリー 付置 ○ ○ 最低 面積 指導要綱・条例等の 策定時期 適用範囲 - 全戸数の1/5以上をファミリー住戸(39㎡以上) に。 全戸数×1/5 (H3~) 低層住居系:20㎡以上 その他の地域:18㎡以上 ((時期不明)~ 16㎡以上 →H3~ 20㎡以上) 面積 39㎡ 規定な 以上 し - 20戸以上の場合、 20を超える1/2をファミリー住戸(40㎡以上)に。 (全戸数-20)×1/2 (H20.7~) 25㎡以上 (H20.7~) 40㎡ 未満 40㎡ 以上 30㎡ 未満 面積規 定なし 55㎡ 以上 指導 要綱 - ○ ○ S59~ ワンルーム要綱 3階建て以上、40 H20.7~ 指導要綱 ㎡未満の住戸が6 H20.7 面積・ファミリー 戸以上 開始 H16.6 課税開始 条例 △ 30 ㎡ 未満の住戸 が9戸 以上 50万/戸 (H22.4に29㎡未満 課税 →30㎡未満に改 正) - - - - ワンルーム形式住戸(40㎡未満)を30戸以上含 む場合、 (総戸数-30)×1/2以上をファミリー住戸(55㎡ 以上)に。 ((時期不明)~ →H20.10 強化) 25㎡以上 (北区居住の個人建築主は22㎡ 以上) ((時期不明)~ 18㎡以上 →H20~ 25㎡以上) 40㎡ 未満 25㎡以上 ((時期不明)~) 面積 50㎡ 規定な 以上 し - 条例 H17.1~ 条例 地上3階建以上、 15戸以上 条例 ○ H4.12~ 指導要綱 H20.10~条例化 地上3階建以上、 15戸以上 ○ H9~ 指導要綱 H19.9~条例化 15戸以上 - 30戸以上の場合、 全住戸の半数以上をファミリー住戸(50㎡以上) に。 全戸数×1/2 ((時期不明)~) 地上3階建以上、 小規模住戸が15戸 以上、かつ当該住 戸数が総戸数の 1/3以上 - (総戸数-29)×1/3をファミリー住戸(55㎡以上) 25㎡以上 に。 (H11~ 18㎡以上 (H21.4~) →H21~ 25㎡以上) 29㎡未満の住戸が 20戸以上で、かつ 当該住戸数が総戸 数の1/3以上 - - 20㎡以上 (S60~ 16㎡以上 →(時期不明) 18㎡以上 →H18~ 20㎡以上 →今後 25㎡以上予定) 29㎡ 未満 面積規 定なし - ワンルーム(22㎡以上~55㎡未満)が30戸以上 となる場合、 29戸を超える部分をファミリー住戸(平均75㎡以 上)に。 (=単身用は原則29戸が上限 (交通利便地域 内は25㎡以上39戸上限)) (H11~) 25㎡以上 ( (時期不明) 18㎡以上 → (時期不明)~ 22㎡以上 →H22~ 25㎡以上) 55㎡ 未満 平均 75㎡ 以上 - 15~29戸の場合、 総戸数の1/2以上をファミリー住戸(55㎡以上) に。 30戸以上の場合、 住戸数の1/2以上をファミリー住戸(55㎡以上) かつ住戸数の1/5以上をファミリー住戸(75㎡以 上)に。 全体の平均床面積を65㎡以上に。 (H11~) 25㎡以上 (H5~ 22㎡以上 →H16~ 25㎡以上) 面積 55㎡ 規定な 以上 し - 15 戸を超える部分は、当該戸数の平均を70 ㎡ 以上 30㎡以上 (個人事業主の場合、計画戸数のうち30 戸未満 (個人事業主の場合25㎡以上) の部分についての最低面積を25 ㎡とし、30 戸以 ((時期不明)~) 上の部分の最低面積を50 ㎡以上) ((時期不明)~) 条例 - - ○ ○ 板橋区 条例 - ○ ○ H11~ 指導要綱 H21.4~条例化 練馬区 条例 - - △ S60.4~ 指導要綱 H18.4~ 条例化 江戸川区 39㎡ 以上 - 杉並区 葛飾区 29㎡ 未満 H9~ 指導要綱 H15.1~ 条例化 △ 足立区 (努力義務) 低層住居系:20㎡以上 その他の地域:18㎡以上 (H9~) △ ○ 荒川区 平均 50㎡ 以上 (努力義務) ファミリー向け住戸(39㎡以上)を設置するよう努 める。 ・低層住居系 (総戸数-20)×1/3以上 ・商業地域 (総戸数-40)×1/5以上 ・上記以外の用途地域 (総戸数-30)×1/5以 上 (H9~) - 北区 25㎡以上 (S59~ 16m2以上 →H2~ 18㎡以上 40㎡ →H10.9~ 25㎡以上(住)、20㎡ 未満 以上(商) H19.10~ 25㎡以上) 地上3階建以上、 29㎡未満の住戸が 15戸以上、かつ当 該住戸数が総戸数 の1/3以上 指導 要綱 - - 40㎡未満の住戸数が30を超え、かつ延べ面積 1500㎡以上の場合、 (ワンルーム住戸(40㎡未満)-30)×1/2をファミ リー向け住戸(平均50㎡以上)とする。 (H10.9~) ○ 中野区 ○ ファミリー付置 ( )内は規制強化の流れ 3階建て以上、40 ㎡未満の住戸が12 (時期不明)~ 指導要綱 戸以上(商業系用 H14.4 条例化 途の場合15戸以 上) 低層住居系 地上 3階建以上かつ12 S60~ ワンルーム要綱 戸以上 H3~ 指導要綱 その他の用途地域 H23.3現在 条例化手続 3階建て以上(地 き中 階を除く)かつ15戸 以上 豊島区 最低面積 ( )内は規制強化の流れ ワンルー ファミリー ム位置 位置付 付け面 け面積 積 課税 基準 指導 要綱 条例 - - - ○ ○ ○ ○ S59~ 指針 H17.9~ 基準 地上3階建以上、 15戸以上 地上3階建以上、 15戸以上 ○ (時期不明)~ 指導要綱 ○ (時期不明)~ 指導要綱 3階建て以上、10 H18.4~条例化 戸以上 最低面積:○は25㎡以上の値を設定。△は25㎡未満の値を設定 5 20㎡以上 (H17.1~) 面積 55㎡ 規定な 以上 し 面積 50㎡ 規定な 以上 し 第3章 ワンルーム規制がワンルーム家賃に与える影響に関する理論分析 ワンルーム規制がワンルーム家賃に与える影響について、経済学理 家賃/㎡ S’ 論に基づいて分析を行う。様々な市場の変化が想定できるが、本稿で は、 規制後の市場について、 家賃への影響に焦点を当てて分析を行う。 ワンルーム規制が導入されると、供給コストの増加、供給量の減尐を 招き、図 3-1 のように、供給曲線が左にシフトし、家賃が上昇し、余 S P’ P D 剰が減尐する。以下、各種規制ごと(課税、ファミリー付置義務、最 低面積規定)に詳しく分析を行う。 ’ Q Q 総面積 図 3-1 規制がワンルーム家賃 に与える影響 3.1 課税 新築時への課税がなされると、供給者は、規制に従い税金を払って建設する、規制対象外と なる規模のものを作る(40 ㎡以上にするなど)か戸数を抑える(9戸未満にするなど)、建築 しない、のいずれかに行動を変えると思われる。税金を払って建設する場合、規制前よりも供 給コストが増加する。これらの結果、ワンルーム市場全体では、供給量が減尐するため、供給 曲線が左にシフトし、家賃が上昇し、余剰が減尐すると思われる。 3.2 ファミリー付置義務 ファミリー付置義務が課されると、供給者は、規制に従いファミリーを付置して建設する、 規制対象外となる規模のものを作るか戸数を抑える、建築しない、のいずれかに行動を変える と思われる。ファミリーを付置して建設する場合、収益性の良いワンルームを数個あきらめて 収益性の悪いファミリーを付置せねばならないため、又は、ワンルームとファミリーの導線を 分けるなどの工夫を行う6ため、供給コストが増加する。これらの結果、ワンルーム市場全体で は、供給量が減尐するため、供給曲線が左にシフトし、家賃が上昇し、余剰が減尐すると思わ れる。 3.3 最低面積規定 最低面積を 25 ㎡以上と規定されると、供給者は、規制に従い 25 ㎡以上を建設する、規制対 象外となる規模のものを作るか戸数を抑える、建築しない、のいずれかに行動を変えると思わ れる。各事業者は住宅を供給する場合、それぞれの事業者の条件に応じた最適な面積の住宅を 供給すると考えられる。最低面積規定は、一部の事業者に対し最適面積での住宅供給を阻害す ることになり、一部企業の単位面積当たり供給コストを上昇させる。これらの結果、ワンルー ム市場全体では、供給量が減尐するため、供給曲線が左にシフトし、家賃が上昇し、余剰が減 尐すると思われる。 また、そもそも市場に影響を与えることが明らかな規模規程について、なぜ 25 ㎡なのか、 どこでも 25 ㎡なのか、その論理的根拠を示すことは困難であろう。ワンルーム排除の一手段 であり、数値に根拠のない規制という疑いがあると指摘されかねない政策であると思われる。 6 殿塚(2010)より 6 第4章 ワンルーム規制がワンルーム家賃に与える影響に関する実証分析 第 3 章における理論分析のように、ワンルーム規制はワンルーム家賃に影響を与えている可能 性がある。本章では、東京都区部内を対象とし、ワンルーム規制がワンルーム家賃に与える影響 について、規制実施区と未実施区抽出による分析(DID)と東京都区部全域による分析(OLS) の2つの方法での検証を行う。 4.1 規制実施区と未実施区抽出による分析(DID) (分析①) 4.1.1 分析方法 まず、ワンルームへの各種規制の導入によりワンルーム家賃がどのような影響を受けたかを 検証するため、規制実施区と未実施区を用いた Difference-in-difference(以下 DID という) の手法による分析を行う。DID は、対象自治体の政策導入以外の影響がすべて同一とみなし、 時系列の変化、クロスセクションでの違いをコントロールして、政策導入以降の、政策導入自 治体が受けた影響を分析する手法である。DID を用いることにより、ワンルーム規制と同時期 に、ワンルーム規制とは無関係の要因がワンルーム家賃に影響した可能性(例えば景気好転に よる家賃上昇)や、ワンルーム規制実施自治体と未実施自治体がもともと持つ固有の特質(例 えばワンルーム規制実施区は未実施区に比べてもともと平均家賃が高い)といった家賃への影 響を取り除いて分析することができる。 4.1.2 分析対象 分析対象は、2004~2005 年に規制を導入・強化した区のうち、表 4-1 のものを対象とした。 ファミリー付置義務は区によって付置すべき戸数が異なり、その影響も異なると思われるため、 2段階に分けた7。なお、DID では環境が似た区を選ぶべきであるが、今回は導入時期が同時 期という条件でこの区を選んだ。 表 4-1 分析対象区の規制内容 タイプ 区 導入時期 内容 課税 豊島区 2004 建築主に 50 万/戸の課税 ファミリー付置義務(多) 文京区 2004 (総戸数-15)×1/2 をファミリー住戸(40 ㎡以上)にする。 ファミリー付置義務(尐) 新宿区 2004 第一種低層住居専用地域は(ワンルーム形式の住戸数-29)×1/2 以上 その他の用途地域は(ワンルーム形式の住戸数-29)×1/3 以上 をファミリー住戸(40 ㎡以上)にする。 港区 2005 商業地域は ((総戸数-29)×1/10)+1 その他の地域 以上 ((総戸数-29)×1/5)+1 以上 をファミリー住戸(50 ㎡以上)にする。 最低面積規定 港区 2005 住戸の専用面積は 25 ㎡以上とする。 (商業地域は 20 ㎡以上で、総戸数の過半数は 25 ㎡以上に) 未実施 練馬区 7 仮に 50 戸のワンルームを予定していた土地に、規制により付置が必要になるファミリー戸数を、各区の計算式に当てはめ て計算し、12 戸である文京区はファミリー付置義務(多)、5 戸である新宿区、4戸である港区はファミリー付置義務(尐)とした。 7 5区を対象区域と定め、規制導入前を 2002 年、規制導入後を 2009 年とし、株式会社 CHINTAI 発行の賃貸住宅情報誌8の 10 月第一週目号に掲載された 30 ㎡未満の賃貸住宅を対 象とし9、家賃等のデータを入手した。清水(2008)は、住宅情報誌掲載情報のうち、取引に伴 う個別事情を含まず、かつ競争的な市場価格である「成約によって情報誌から抹消された時 点の価格」を使用するのがよいとしており、さらに吉田・清水(2010)では実際の取引価格と 募集価格には5%程度の違いがあるとしているが、今回はデータの制約があり住宅情報誌か ら抹消された時点の価格かどうかを確認することができず、また実際の取引価格のデータを 入手することができないため、正確な市場価格でない可能性があるが、情報誌掲載価格は供 給者が消費者の付け値を推測してその価格を決めていると考え、市場価格であると仮定して 推定を行う。 4.1.3 推計モデル ワンルーム規制が導入された区では、導入後、ワンルーム家賃がどう影響を受けたかを観 察するため、次の(1)式にて推計を行う。 𝑙𝑛𝑃 = 𝛼 + 𝛽1 𝐷𝑇 + 𝛽2 𝐷𝐹1 + 𝛽3 𝐷𝐹2 + 𝛽4 𝐷𝑀 + 𝛽5 𝐷𝐴 + 𝛽6 𝐷𝑇 ∗ 𝐷𝐴 + 𝛽7 𝐷𝐹1 ∗ 𝐷𝐴 + 𝛽8 𝐷𝐹2 ∗ 𝐷𝐴 + 𝛽9 𝐷𝑀 ∗ 𝐷𝐴 + 𝛾𝑖 𝑋𝑖 + 𝜀 (1) 被説明変数 lnP は、ワンルーム家賃(万円/月)と共益費(万円/月)の和を対数にしたもの を用いる。家賃と共益費の和としたのは、賃貸人が物件を比較する際には、共益費等を月々 の家賃に加算して比較・判断することが一般的であると考えられるためである。 DT、DF1、DF2、DM は、各規制実施区であることを示すダミー変数であり、各規制を実施 している区なら1、実施していない区なら0をとる。各区がもともと持つ特質をコントロー ルすることができる。 DT は課税実施区ダミー、 DF1 はファミリー付置義務(多)実施区ダミー、 DF2 はファミリー付置義務(尐)実施区ダミー、DM は最低面積規定実施区ダミーである。 DA は、規制年後であることを示すダミー変数であり、規制後の 2009 年なら1、規制前の 2002 年なら0をとる。時期の違いをコントロールすることができる。 DT* DA, DF1* DA, DF2* DA, DM* DA は、規制効果を表す変数として、各規制実施区ダミーと規 制年後ダミーの交差項を設定したものである。係数が有意に正となった場合、規制の影響を 受けて家賃が上昇したと解釈できる。 Xi はその他の説明変数であり、物件の特徴や立地を示すものを採用した。専有面積(㎡)、 当該住戸階数、建物全体の階数、建築年数、最寄駅までの時間距離(分)、東京駅までの時 間距離(分)(最寄駅から東京駅までの時間。インターネットの路線検索10によって検索)、 構造ダミー(木造を基準とし、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、軽 量鉄骨造であれば、ぞれぞれ1をとるダミー変数)、設備ダミー(エアコン、オートロック、 8 9 10 賃貸住宅情報誌「CHINTAI」 各区での、ワンルームと位置づけている面積を参考にした(表 2-1 参照) インターネット路線検索「goo 路線」 8 バス・トイレ別、室内洗濯機置場、フローリングという設備があれば、それぞれ1をとるダ ミー変数)を用いた。専有面積、当該住戸階数、建物階数、建築年数、最寄駅までの時間距 離、東京駅までの時間距離については、被説明変数(ln(ワンルーム家賃+共益費) )に対し、 線形あるいは非線形に反応する可能性があることを考慮し、それぞれ 2 乗項も用いた。 α は定数項、β,γ は係数、ε は誤差項を表す。 各説明変数の基本統計量は表 4-2 のとおりである。 表 4-2 DID 基本統計量 ワンルーム家賃+共益費 ln(ワンルーム家賃+共益費) 課税実施区ダミー ファミリー付置義務(多)実施区ダミー ファミリー付置義務(尐)実施区ダミー 最低面積規定実施区ダミー 規制後年ダミー 課税実施区ダミー×規制後年ダミー ファミリー付置義務(多)実施区ダミー×規制後年ダミー ファミリー付置義務(尐)実施区ダミー×規制後年ダミー 最低面積規定実施区ダミー×規制後年ダミー 専有面積 当該住戸階数 建物階数 建築年数 最寄駅までの時間距離 東京駅までの時間距離 鉄骨鉄筋コンクリート造ダミー 鉄筋コンクリート造ダミー 鉄骨造ダミー 軽量鉄骨造ダミー エアコンダミー オートロックダミー バス・トイレ別ダミー 室内洗濯機置場ダミー フローリングダミー サンプル数 平均 7.550 1.992 0.280 0.161 0.290 0.076 0.508 0.135 0.069 0.164 0.051 20.119 2.494 4.240 15.184 7.395 24.372 0.088 0.350 0.214 0.051 0.904 0.296 0.495 0.641 0.626 標準偏差 最小値 1.907 3 0.242 1.099 0.449 0 0.368 0 0.454 0 0.265 0 0.500 0 0.342 0 0.254 0 0.370 0 0.219 0 4.340 10 1.822 1 2.965 1 11.049 0 4.677 1 9.722 4 0.283 0 0.477 0 0.411 0 0.219 0 0.294 0 0.457 0 0.500 0 0.480 0 0.484 0 868 最大値 27 3.296 1 1 1 1 1 1 1 1 1 29.81 14 15 52 80 46 1 1 1 1 1 1 1 1 1 4.1.4 推定結果 推計結果は、表 4-3 のとおりである。規制効果変数として設定した規制実施区ダミーと規 制年後ダミーの交差項の係数を見ると、課税実施区では、規制後にワンルーム家賃が約4% 上昇したことが、基本モデルでは 10%水準で、2乗項入りモデルでは5%水準で、統計的に 有意に示された。ファミリー付置義務実施区では、付置義務戸数が多い区は、ワンルーム家 賃が約4~5%程度上昇したことが、基本モデルでは 10%水準で、2乗項入りモデルでは 5%水準で、統計的に有意に示された。付置義務戸数が尐ない区は、統計的に有意な影響は 示されなかった。付置義務割合により影響が異なることが示された。最低面積規定実施区で は、統計的に有意な影響は示されなかった。 その他の説明変数については、一般的に予想される結果と整合する。専有面積、当該住戸 階数、構造ダミー、設備ダミーのうちエアコンダミー、室内洗濯機置場ダミーは有意に正の 係数となっている11。建築年数、最寄駅までの時間距離、東京駅までの時間距離は有意に負 の係数となっている。 11 2 乗項入りモデルの専有面積、当該住戸階数は有意ではなくなっているが、F 検定を行ったところ、変数は有効という結 果が得られている。 9 表 4-3 DID 推計結果 (1) 基本モデル 被説明変数:ln(ワンルーム賃料+共益費) (2) 2乗項入りモデル 係数 標準誤差 係数 標準誤差 課税実施区ダミー 0.0317 (0.0195) 0.0343 (0.0203) * ファミリー付置義務(多)実施区ダミー 0.0689 (0.0261) *** 0.0559 (0.0253) ** ファミリー付置義務(尐)実施区ダミー 0.1447 (0.0206) *** 0.1463 (0.0209) *** 最低面積規定実施区ダミー 0.1523 (0.0500) *** 0.1279 (0.0514) ** -0.0680 (0.0172) *** -0.0692 (0.0170) *** 課税実施区ダミー×規制後年ダミー 0.0441 (0.0232) * 0.0468 (0.0230) ** ファミリー付置義務(多)実施区ダミー×規制後年ダミー 0.0471 (0.0255) * 0.0536 (0.0254) ** ファミリー付置義務(尐)実施区ダミー×規制後年ダミー 0.0199 (0.0239) 0.0198 (0.0235) -0.0455 (0.0544) -0.0244 (0.0559) 0.0224 (0.0014) 0.0168 (0.0116) 0.0001 (0.0003) 0.0114 (0.0082) 0.0001 (0.0008) 0.0160 (0.0089) -0.0009 (0.0006) 規制後年ダミー 最低面積規定実施区ダミー×規制後年ダミー 専有面積 *** 専有面積^2 当該住戸階数 0.0128 (0.0034) *** 当該住戸階数^2 建物階数 0.0027 (0.0028) 建物階数^2 建築年数 -0.0042 (0.0006) *** 建築年数^2 最寄駅までの時間距離 -0.0033 (0.0014) ** 最寄駅までの時間距離^2 東京駅までの時間距離 -0.0039 (0.0008) *** 東京駅までの時間距離^2 -0.0052 (0.0015) 0.00002 (0.00004) * *** -0.0066 (0.0017) *** 0.0001 (0.00003) *** -0.0093 (0.0027) *** 0.0001 (0.00005) ** 鉄骨鉄筋コンクリート造ダミー 0.0637 (0.0332) * 0.0597 (0.0336) * 鉄筋コンクリート造ダミー 0.0704 (0.0143) *** 0.0581 (0.0167) *** 鉄骨造ダミー 0.0460 (0.0129) *** 0.0385 (0.0142) *** 軽量鉄骨造ダミー 0.0387 (0.0157) ** 0.0436 (0.0165) *** エアコンダミー 0.0856 (0.0201) *** 0.0869 (0.0204) *** オートロックダミー 0.0135 (0.0115) 0.0093 (0.0114) バス・トイレ別ダミー 0.0149 (0.0117) 0.0153 (0.0125) 室内洗濯機置場ダミー 0.0454 (0.0111) 0.0428 (0.0116) フローリングダミー 0.0180 (0.0113) 0.0154 (0.0110) 定数項 1.4603 (0.0505) 1.5900 (0.1327) 自由度調整済み決定係数 サンプル数 *** *** 0.7364 0.7408 868 868 *** *** ***,**,*はそれぞれ有意水準1%,5%,10%を満たしていることを示す。 今回は 2004~2005 年に規制を行った豊島区、文京区、新宿区、港区と未実施区の練馬区 という5区を抽出して分析を行った。DID の場合、対象区の政策導入以外の影響がすべて 同一ということを前提としているが、区によって特性が異なり、もともと供給されていた 住宅の質が違う可能性もある。例えば、最低面積規定実施区とした港区は、未実施区とし た練馬区と比べて供給されていた住宅の質がもともとよく、規制があまり拘束力とならな かった可能性もある。また、1つの区の規制の影響を近隣区が全く受けていないとは考え にくい。例えば、規制未実施区とした練馬区は、豊島区の隣であり、豊島区で規制が強化 され家賃が上昇したため需要が下がり、その分練馬区で需要が上がったという影響があっ たとすれば、過尐評価となっている可能性もある。東京都区部という狭い範囲での比較で あるので、全ての影響を取り除くのは困難であるが、今後の課題としたい。 10 4.2 東京都区部全域による分析(OLS) (分析②) 4.2.1 分析方法 前節では 2004~2005 年に規制を導入・強化した数区を抽出して分析を行ったが、現在 ではほぼ全区においてワンルーム規制を行っているため、本節では、東京都区部全域を対 象として、各規制が家賃に与える影響の分析を行う。しかし区部全域の規制前の家賃等の データは入手不可能であったため、規制導入後である 2009 年のみのデータを用い、ワン ルーム家賃を被説明変数とし、家賃の特性を表す変数に加えてワンルーム規制の導入状況 を変数として加え、最小二乗法(以下 OLS という)にて分析を行う。 4.2.2 分析対象 株式会社リクルートのインターネットの賃貸住宅検索サイトにて 2009 年 12 月時点で公 開されていた東京都区部内の 30 ㎡未満の賃貸住宅を対象とし、家賃等のデータを入手し た。このデータはインターネットのホームページに掲載されており、データ情報は随時更 新されている。前節と同様、募集価格は正確な市場価格でない可能性があるが、募集価格 は供給者が消費者の付け値を推測してその価格を決めていると考え、市場価格であると仮 定して推定を行う。 4.2.3 推計モデル ワンルーム規制の導入後に建てられたワンルームの家賃がどう影響を受けたかを観察す るため、次の(2)式にて推計を行う。 𝑙𝑛𝑃 = 𝛼 + 𝛽1 𝐴𝑇 + 𝛽2 𝐴𝐹 + 𝛽3 𝐴𝑀 + + 𝛾𝑖 𝑋𝑖 + 𝜀 (2) 被説明変数 lnP は、ワンルーム家賃(万円/月)と共益費(万 表 4-4 円/月)の和を対数にしたものを用いる。 AT、AF、AM は、規制導入後建設ダミーであり、各規制が 導入された年以降に建てられた場合に1をとる。AT は課税導 入後建設ダミー、AF はファミリー付置義務導入後建設ダミー、 AM は最低面積規定導入後建設ダミーである。係数が有意に 正となった場合、規制の影響を受けて家賃が上昇したと解釈 できる。各区の規制導入年は表 4-4 のとおりである。規制開 始時期12 は各区のホームページや担当者へのヒアリングによ り調査した。 Xi はその他の説明変数であり、物件の特徴や立地を示すも のを採用した。専有面積(㎡) 、当該住戸階数、建物全体の階 数、建築年数、最寄駅までの時間距離(分) 、バスダミー(最 寄駅までバスを使用する場合は1をとるダミー変数)、東京駅 12 千代田区 中央区 港区 新宿区 文京区 台東区 墨田区 江東区 品川区 目黒区 大田区 世田谷区 渋谷区 中野区 杉並区 豊島区 北区 荒川区 板橋区 練馬区 足立区 葛飾区 江戸川区 各区の規制導入年 課税 ファ ミリー 最低面積 - 2004 2003 2008 2005 2004 2004 2005 2005 2005 2008 2008 2005 2008 - 2008 2008 2008 2004 1998 2008 2004 2007 2004 - 1997 1991 2008 - (2 5 ㎡以上) - 2008 - 2008 2009 2007 2009 2007 2009 - - 2005 1999 2004 2006 2006 規制が何度か強化されており、また条例前の指導要綱でも規制している区が多かったため、それぞれの規制が最初に導入 された年が不明確な区もあったが、その場合、条例化された年又は現在の基準に改定された年を基準とした。 11 までの時間距離(分) (最寄駅から東京駅までの時間。インターネットの路線検索によって 検索) 、マンションダミー(当該物件がマンションである場合は1、アパートその他である 場合は0をとるダミー変数) 、構造ダミー(木造を基準とし、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄 筋コンクリート造、鉄骨造、軽量鉄骨造であれば、ぞれぞれ1をとるダミー変数) 、設備ダ ミー(エアコン、オートロック、バス・トイレ別、室内洗濯機置場、フローリング、駐車 場、南向き、冷蔵庫、追炊機能、エレベーター、BS、CATV という設備があれば、それぞれ 1をとるダミー変数) 、路線ダミー(山手線を基準とする)、区ダミー(千代田区を基準と する)を用いた。専有面積、当該住戸階数、建物階数、建築年数、最寄駅までの時間距離、 東京駅までの時間距離については、被説明変数(ln(ワンルーム家賃+共益費))に対し、 線形あるいは非線形に反応する可能性があることを考慮し、それぞれ 2 乗項も用いた。 α は定数項、β,γ は係数、ε は誤差項を表す。 各説明変数の基本統計量は表 4-5 のとおりである。 表 4-5 OLS 基本統計量 ワンルーム家賃+共益費 ln(ワンルーム家賃+共益費) 課税導入後建設ダミー ファミリー付置導入後建設ダミー 最低面積導入後建設ダミー 専有面積 当該住戸階数 建物階数 建築年数 最寄駅までの時間距離 バスダミー 都心までの時間距離 マンションダミー 鉄骨鉄筋コンクリート造ダミー 鉄筋コンクリート造ダミー 鉄骨造ダミー 軽量鉄骨造ダミー エアコンダミー オートロックダミー バス・トイレ別ダミー 室内洗濯機置場ダミー フローリングダミー 駐車場ダミー 南向きダミー 冷蔵庫付ダミー 追い炊き機能ダミー エレベーターダミー 洗面所独立ダミー BSダミー CATVダミー 路線ダミー 区ダミー サンプル数 平均 7.707 2.016 0.010 0.193 0.063 21.512 3.029 5.237 15.223 6.944 0.001 10.993 0.729 0.110 0.439 0.186 0.061 0.947 0.456 0.616 0.742 0.733 0.065 0.524 0.027 0.089 0.390 0.188 0.333 0.376 標準偏差 1.791 0.230 0.102 0.394 0.243 4.155 2.278 3.685 10.267 3.929 0.030 6.495 0.444 0.313 0.496 0.389 0.238 0.225 0.498 0.486 0.437 0.443 0.247 0.499 0.162 0.285 0.488 0.391 0.471 0.484 省略 省略 59,459 12 最小値 2.150 0.765 0 0 0 3.1 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 最大値 18.771 2.932 1 1 1 29.99 20 42 78 36 1 36 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 4.2.4 推定結果 推計結果は、表 4-6 のとおりである。 表 4-6 OLS 推計結果 (1) 基本モデル 被説明変数:ln(ワンルーム家賃+共益費) (2) 2乗項入りモデル 係数 標準誤差 課税導入後建設ダミー 0.0167 (0.0042) *** 0.0090 (0.0042) ** ファミリー付置導入後建設ダミー 0.0135 (0.0015) *** 0.0080 (0.0016) *** -0.0068 (0.0021) *** -0.0114 (0.0021) *** 0.0222 (0.0001) *** 0.0281 (0.0008) *** -0.0001 (0.00002) *** 0.0203 (0.0006) *** -0.0010 (0.0001) *** -0.0029 (0.0005) *** 0.0002 (0.00002) *** -0.0084 (0.0002) *** 最低面積導入後建設ダミー 専有面積 係数 専有面積^2 当該住戸階数 0.0089 (0.0002) *** 当該住戸階数^2 建物階数 0.0022 (0.0002) *** 建物階数^2 建築年数 -0.0059 (0.0001) *** 建築年数^2 最寄駅までの時間距離 標準誤差 0.0001 (0.000004) *** -0.0045 (0.0001) *** 最寄駅までの時間距離^2 -0.0044 (0.0003) -0.000006 (0.00002) *** バスダミー -0.0464 (0.0127) *** -0.0497 (0.0126) *** 東京駅までの時間距離 -0.0045 (0.0001) *** -0.0038 (0.0003) *** 東京駅までの時間距離^2 -0.00003 (0.000009) *** マンションダミー 0.0248 (0.0034) *** 0.0248 (0.0034) *** 鉄骨鉄筋コンクリート造ダミー 0.0311 (0.0038) *** 0.0374 (0.0039) *** 鉄筋コンクリート造ダミー 0.0427 (0.0035) *** 0.0446 (0.0035) *** 鉄骨造ダミー 0.0244 (0.0034) *** 0.0254 (0.0034) *** 軽量鉄骨造ダミー 0.0171 (0.0018) *** 0.0179 (0.0018) *** エアコンダミー 0.0406 (0.0018) *** 0.0425 (0.0018) *** オートロックダミー 0.0194 (0.0012) *** 0.0171 (0.0012) *** バス・トイレ別ダミー 0.0215 (0.0010) *** 0.0164 (0.0011) *** 室内洗濯機置場ダミー 0.0162 (0.0010) *** 0.0154 (0.0010) *** フローリングダミー 0.0085 (0.0010) *** 0.0073 (0.0009) *** 駐車場ダミー 0.0232 (0.0016) *** 0.0233 (0.0016) *** 南向きダミー 0.0044 (0.0008) *** 0.0046 (0.0008) *** 冷蔵庫付ダミー 0.0169 (0.0024) *** 0.0190 (0.0024) *** 追い炊き機能ダミー 0.0283 (0.0014) *** 0.0280 (0.0014) *** エレベーターダミー 0.0066 (0.0013) *** 0.0077 (0.0014) *** 洗面所独立ダミー 0.0068 (0.0011) *** 0.0054 (0.0012) *** BSダミー 0.0027 (0.0010) *** 0.0023 (0.0010) ** CATVダミー 0.0051 (0.0009) *** 0.0044 (0.0009) *** 路線ダミー yes 区ダミー yes 定数項 1.5683 (0.0051) yes yes *** 1.5257 (0.0092) 自由度調整済み決定係数 0.8347 0.8367 サンプル数 59,459 59,459 *** ***,**,*はそれぞれ有意水準1%,5%,10%を満たしていることを示す。 規制の効果を示す、規制導入後建設ダミーの係数を見ると、課税導入後に建設された物件は、 ワンルーム家賃が約1%上昇したことが、基本モデルでは 1%水準で、2乗項入りモデルでは 5%水準で、統計的に有意に示された。ファミリー付置義務導入後に建設された物件は、ワンル ーム家賃が約1%上昇したことが、基本モデル、2乗項入りモデルともに 1%水準で、統計的 に有意に示された。最低面積規定導入後に建設された物件は、ワンルーム家賃が約1%低下し たことが、基本モデル、2乗項入りモデルともに 1%水準で、統計的に有意に示された。 13 その他の説明変数については、一般的に予想される結果と整合する。専有面積、当該住戸階 数、建物階数、マンションダミー、構造ダミー、設備ダミーは有意に正の係数となっている。 建築年数、最寄駅までの時間距離、バスダミー、東京駅までの時間距離は有意に負の係数とな っている。 4.3 考察 4.1 規制実施区と未実施区抽出による分析(DID)と、4.2 東京都区部全域による分析(OLS) の結果より、ワンルーム規制が家賃に影響を与えていたことが明らかとなった。 課税とファミリー付置義務は、両分析とも共通の結果が出ており、規制により家賃を上昇 させたという頑健性が高い。最低面積規定は、DID では有意ではなく、OLS では家賃を低 下させたという結果となり、頑健性は低いが家賃への影響はないか低下させていることが示 された。 最低面積規定が OLS では低下したという結果となったのは、次のような可能性が考えら れる。規制がなければ 18 ㎡や 20 ㎡といった 25 ㎡未満市場の物件に住むのが最適であった 消費者は、規制後、一人暮らしを諦め、実家に住み続けるなどの選択をとり、ワンルームの 需要がシフトしたことが考えられる。また、本来 25 ㎡未満が最適な場所であったところへ、 規制を満たすために 25 ㎡以上のワンルームを建設している可能性もある。そうした建物で は 25 ㎡以上に面積を拡大したとしても、例えば面積の拡大が室内廊下の面積にのみ体化さ れてしまい、実際に有効利用できる面積はあまり拡大しないかもしれない。つまり、規制以 降に建てられたワンルームは質が下がったために、価格を引き下げている可能性がある。ま た、最低面積規定は、 「25 ㎡以上」に引き上げられてからまだ1~2年しか経過していない 区が多く、規制前の駆け込み供給の影響があることも一つの要因だろう。いずれにせよ、OLS では有意となっているものの1%程度であり、規制から短期間しか経過していないことから 規制の影響が定まっていないとも思われ、この数字をどのように評価するかについても、 様々 な要素が考えられる。需要の変化をどのように考え観察するかなど課題もあることや、長期 的な調査を試みることで市場の変化や規制の副作用をさらに精緻に分析できると考えられる ことから、今後も継続的に追跡調査する必要があると考えられる。 14 第5章 ワンルームが周囲に与える影響に関する実証分析 前章までの分析により、ワンルーム規制はワンルーム家賃に影響を与えていたことが示され た。ワンルーム規制を行う自治体は、ワンルームの数を減らすことで居住者マナーや住宅スト ック、世帯構成バランスといった問題を解決しようとしていると思われる。本節では、そのよ うにワンルームが追い出されるべき理由があるのか、外部不経済を周囲に与えているのかどう かを検証するため、ヘドニックアプローチを用い、地価とファミリータイプ家賃を被説明変数 とした2種類の分析を行い、検証する。 ヘドニック・アプローチは、便益は地価に帰着するという資本化仮説に基づくものであり、 金本(1997)によれば、 「環境条件の違いがどのように地価あるいは住宅価格の違いに反映されて いるかを観察し、それを基礎に環境の価値の推定を行う13」方法である。便益は地価に帰着す るという資本化仮説に基づくと、ワンルームが何らかの負の影響をもたらしているとすると、 その周辺地域の居住需要が減尐し、住宅供給量が減尐し、土地需要も減尐し、地価が下落して いくという現象につながることになる。 5.1 単身世帯割合が地価に与える影響の分析(分析①) まず単身世帯割合が地価に与える影響を分析する。ワンルームが供給されると単身者が集 中して居住することになる。そのことにより何らかの負の影響があるとすれば、地価が影響 を受けているはずである。 本節では、単身世帯割合が及ぼす地価への影響を分析するために、 地価公示価格を被説明変数に、単身世帯割合をはじめ観測地点の属性を表すいくつかの変数 を説明変数として用い、OLS による推計を行うこととした。 分析対象区域は、東京都区部における住居系地域とし、国勢調査のあった 2000 年、2005 年のクロスセクションデータによる分析を行う。 5.1.1 推計モデル 単身世帯割合が大きくなると地価がどのように影響を受けるかを観察するため、次の(3) 式、(4)式にて推計を行う。 𝑙𝑛𝑃 = 𝛼 + 𝛽1𝑖 𝑇𝑅𝑖 + 𝛾𝑘 𝑋𝑘 + 𝜀 (3) 𝑙𝑛𝑃 = 𝛼 + 𝛽1𝑖 𝑇𝑅𝑖 ∗ 𝐷𝑌1 + +𝛽2𝑖 𝑇𝑅𝑖 ∗ 𝐷𝑌2 + 𝛽3𝑖 𝑇𝑅𝑖 ∗ 𝐷𝑌3 + 𝛾𝑘 𝑋𝑘 + 𝜀 (4) 被説明変数 lnP は、地価公示価格による住宅地地価を対数にして用いた。西村・清水(2002) が、取引事例と鑑定価格との間に誤差があることを指摘しているが、横断面方向で広範囲に わたる地価データが利用可能であることから、本稿では地価公示価格を用いることとした。 TRi は、地点の属する集計単位 i 別の単身世帯割合であり、集計単位は、1=町別、2=丁目 別の 2 種類14である。国勢調査の世帯人員別世帯数のデータより、各地点における一般世帯 13 金本(1997)328 頁 14 (例)六本木7丁目ならば、町:六本木、丁目:六本木7丁目 町丁目の範囲の大きさはその地点によって異なるが、概ね、町で 500m~1km 四方、丁目で 300~500m四方程度の範囲と 考えられる。 15 総数を分母に、単身世帯数を分子として算出した。この値が大きくなるとその地域での単身 世帯の集中居住の度合いが高いと考えられる。単身者の集中居住に何らかの負の影響がある とすれば、係数の符号が有意に負になると考えられる。 (4)式の TRi*DY1、TRi*DY2、TRi*DY3 は、単身世帯割合と用途地域の交差項である。単身世 帯割合が地価に及ぼす影響は、その土地の用途地域によっても変わるのではないかと思われ たため、単身世帯割合と用途地域の交差項を用いた。ワンルームの周囲への影響を分析する のであれば、本来は単身世帯割合をワンルームに住む単身者だけを対象とすべきであるが、 データがないため、居住形態を考慮しないで単身世帯割合を用いている。しかしそれでは戸 建て住宅に住む単身者も含まれてしまうため過尐推計となってしまう。そこで、単身世帯割 合と用途地域の交差項を用いることで、ワンルームがあまり立地していないと思われる低層 住居専用地域と、ワンルームが立地していると思われる中高層住居専用地域、住居地域とを 分けた分析も行うこととした。用途地域は、第一種低層住居専用地域と第二種低層住居専用 地域を合わせて低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域と第二種中高層住居専用地域 を合わせて中高層住居専用地域、第一種住居地域と第二種住居地域を合わせて住居地域とし た。 Xi はその他の説明変数であり、地点の特徴や時点を示すものを採用した。東京駅までの時 間距離(分) 、最寄駅までの道路距離(m) 、地積(㎡)、指定容積率、前面道路幅員(m) 、 用途地域ダミー(第一種低層住居専用地域を基準とする)、区部地域ダミー(区部を6つの地 域に分け、都心地域を基準とする15)、路線ダミー(山手線を基準とする) 、2005 年ダミー(2000 年を基準とし、2005 年であれば1をとる)を用いた。また、単身世帯割合と地域の所得水準 とは相関があると推測されるため、その影響をコントロールするため、地域の所得水準の代 理指標として非オフィスワーカー比率を用いた。国勢調査の職業別(大分類)就業者数のデ ータより、町別、丁目別の2つの集計単位で、各地点における15歳以上就業者を分母に、 非オフィスワーカー数を分子として算出した。非オフィスワーカー数は、販売従事者、サー ビス職業従事者、保安職業従事者、農林漁業従事者、運輸・通信従事者、生産工程・労務作 業者を合計した数とした16。 α は定数項、β,γ は係数、ε は誤差項を表す。 各説明変数の基本統計量は表 5-1 のとおりである。 15 都心地域は千代田区・中央区・港区、副都心地域は新宿区・文京区・渋谷区・豊島区、城東地域は台東区・墨田区・江東区・ 荒川区・足立区・葛飾区・江戸川区、城南地域は品川区・目黒区・大田区、城西地域は世田谷区・中野区・杉並区・練馬区、 城北地域は北区・板橋区とする。 16 清水(2008)が所得水準の代理指標としてオフィスワーカー世帯比率を用いて地価関数の推計を行っているのを参考にした。 16 表 5-1 地価への影響 基本統計量 平均 標準偏差 最小値 最大値 453475.5 188,934 148,000 2,300,000 12.957 0.356 11.905 14.648 0.438 0.110 0.147 0.767 0.504 0.088 0.186 0.736 0.434 0.122 0.117 0.767 0.500 0.096 0 0.739 0.501 0.500 0 1 29.511 8.728 8 46 828.131 576.544 90 4,100 202.063 146.555 40 2,045 187.288 80.290 60 400 5.490 2.302 2 30 0.013 0.114 0 1 0.280 0.449 0 1 0.029 0.168 0 1 0.242 0.428 0 1 0.029 0.167 0 1 省略 省略 1,958 地価公示価格 ln(地価公示価格) (町)単身世帯割合 (町)非オフィスワーカー比率 (丁)単身世帯割合 (丁)非オフィスワーカー比率 2005年ダミー 東京駅までの時間距離 最寄駅までの道路距離 地積 指定容積率 前面道路幅員 第二種低層住居専用地域 第一種中高層住居専用地域 第二種中高層住居専用地域 第一種住居地域 第二種住居地域 路線ダミー 区ダミー サンプル数 5.1.2 推定結果 推計結果は、表 5-2 のとおりである。 表 5-2 地価への影響 推計結果 町別 単身者割合 被説明変数:ln(地価) 単身世帯割合 係数 標準誤差 0.0614 (0.0398) 丁目別 単身者割合×用途地域 係数 標準誤差 単身者割合 係数 標準誤差 0.0136 (0.0335) 単身者割合×用途地域 ** 係数 標準誤差 単身世帯割合×低層住居専用地域 0.1004 (0.0477) 0.0540 (0.0424) 単身世帯割合×中高層住居専用地域 0.0179 (0.0570) -0.0633 (0.0476) 単身世帯割合×住居地域 0.0218 (0.0584) 0.0256 (0.0499) 非オフィスワーカー比率 -1.3503 (0.0611) *** -1.3480 (0.0612) *** -1.0362 (0.0488) *** -1.0423 (0.0489) *** 2005年ダミー -0.1212 (0.0050) *** -0.1209 (0.0050) *** -0.1146 (0.0050) *** -0.1147 (0.0050) *** 東京駅までの時間距離 -0.0111 (0.0007) *** -0.0111 (0.0007) *** -0.0117 (0.0007) *** -0.0117 (0.0007) *** 最寄駅までの道路距離 -0.0001 (0.000006) *** -0.0001 (0.000006) *** -0.0001 (0.000007) *** -0.0001 (0.000007) *** 地積 0.0002 (0.00002) *** 0.0002 (0.00002) *** 0.0002 (0.00002) *** 0.0002 (0.00002) *** 指定容積率 0.0001 (0.0001) * 0.0001 (0.0001) ** 0.0001 (0.0001) * 0.0001 (0.0001) * 前面道路幅員 0.0168 (0.0012) *** 0.0166 (0.0012) *** 0.0153 (0.0012) *** 0.0151 (0.0012) *** 第二種低層住居専用地域 -0.0201 (0.0242) -0.0137 (0.0246) -0.0164 (0.0243) -0.0086 (0.0246) 第一種中高層住居専用地域 -0.0205 (0.0096) 0.0167 (0.0291) -0.0152 (0.0097) 0.0382 (0.0261) 第二種中高層住居専用地域 -0.0073 (0.0179) 0.0308 (0.0337) -0.0080 (0.0180) 0.0482 (0.0311) 第一種住居地域 -0.0221 (0.0131) 0.0138 (0.0315) -0.0145 (0.0133) 0.0004 (0.0290) 第二種住居地域 0.0239 (0.0210) 0.0589 (0.0361) 0.0413 (0.0212) * 0.0527 (0.0333) 副都心地域ダミー -0.2035 (0.0174) *** -0.2041 (0.0174) *** -0.2270 (0.0173) *** -0.2258 (0.0173) *** 城東地域ダミー -0.5236 (0.0252) *** -0.5304 (0.0257) *** -0.6098 (0.0238) *** -0.6129 (0.0241) *** 城南地域ダミー -0.2653 (0.0215) *** -0.2677 (0.0216) *** -0.2923 (0.0214) *** -0.2921 (0.0215) *** 城西地域ダミー -0.2891 (0.0213) *** -0.2908 (0.0214) *** -0.3080 (0.0213) *** -0.3060 (0.0214) *** 城北地域ダミー -0.3265 (0.0245) *** -0.3292 (0.0245) *** -0.3625 (0.0242) *** -0.3633 (0.0243) *** 路線ダミー 定数項 ** * yes 14.2883 (0.0416) yes *** 14.2714 (0.0432) yes *** 14.2046 (0.0377) yes *** 14.1897 (0.0390) 自由度調整済み決定係数 0.908 0.908 0.9068 0.9069 サンプル数 1,958 1,958 1,958 1,958 17 *** 町別、丁目別のどちらの集計単位でも、単身世帯割合が地価に及ぼす影響は、統計的に有 意ではなかった。また、用途地域別にみた単身世帯割合が地価に及ぼす影響は、低層住居専 用地域においては、丁目別においては統計的に有意ではなく、町別においては正の影響があ ることが5%の水準で統計的に有意に示された。 中高層住居専用地域、住居地域においては、 町別、丁目別ともに統計的に有意な影響はなかった。 その他の説明変数については、一般的に予想される結果と整合する。地積、指定容積率、 前面道路幅員は有意に正の係数となっている。地域の所得水準の代理指標として用いた非オ フィスワーカー比率、2005 年ダミー、東京駅までの時間距離、最寄駅までの道路距離は有意 に負の係数となっている。 以上より、単身世帯割合が増えても、地価は有意に負の影響を受けていないことが示され た。また、用途地域別に検証した場合では、低層住居専用地域においては、丁目別では統計 的に有意な影響はなく、町別では、単身世帯割合の増加が地価に正の影響を及ぼすという結 果が得られた。これは、低層住居専用地域には戸建て住宅が多いと思われるため、戸建て住 宅に単身で住んでいる人の影響を主に表していると考えられる。区部に居住する戸建て住宅 の単身者は平均的に所得水準が高いと推測され、それが何らかの金銭的外部経済をもたらし ているか、 住宅取得能力の代理変数となっている可能性が考えられる。中高層住居専用地域、 住居地域においては、統計的に有意ではなかった。これは、ワンルームが多く立地している と思われる中高層住居専用地域、住居地域においても、単身世帯割合が増加しても地価に負 の影響は与えていないということを意味している。 これにより単身世帯割合の増加による周辺への負の影響はないということができる。 5.2 近隣ワンルーム戸数割合がファミリー家賃に与える影響の分析(分析②) 次に、近隣ワンルーム戸数割合がファミリー家賃へ及ぼす影響を分析するために、ファミ リー家賃を被説明変数に、ワンルーム戸数割合をはじめ物件の属性を表すいくつかの変数を 説明変数として用い、OLS による推計を行うこととした。 株式会社リクルートのインターネットの賃貸住宅検索サイトにて 2009 年 12 月時点で公開 されていた東京都区部内の賃貸住宅を対象とし、家賃等のデータを入手して分析を行った。 このうち 40 ㎡以上をファミリー、30 ㎡未満をワンルームと位置付け17、ワンルーム戸数を町 丁目別に集計し、同町丁目にある近隣ワンルーム戸数割合がファミリー家賃へどう影響を及 ぼすかについて分析を行った。本来であれば実際のワンルーム戸数を採用すべきであるがデ ータがなく、またインターネットより入手したデータ数が十分であったため、今回対象とし たワンルームが実際と同様に分布していると想定し、このような方法をとった。前章と同様、 募集価格は正確な市場価格でない可能性があるが、募集価格は供給者が消費者の付け値を推 測してその価格を決めていると考え、市場価格であると仮定して推定を行う。 17 各区での、ワンルームあるいはファミリーと位置づけている面積を参考にした(表 2-1 参照) 。 18 5.2.1 推計モデル 近隣ワンルーム戸数割合が大きくなるとファミリー家賃がどのように影響を受けるかを観 察するため、次の(5)式にて推計を行う。 𝑙𝑛𝑃 = 𝛼 + 𝛽𝑖 𝑂𝑅𝑖 + 𝛾𝑘 𝑋𝑘 + 𝜀 (5) 被説明変数 lnP は、ファミリー家賃(万円/月)と共益費(万円/月)の和を対数にしたもの を用いる。 ORi は、物件の属する集計単位 i 別の近隣ワンルーム戸数割合であり、集計単位は、1=町 別、2=丁目別の 2 種類である。各地点における一般世帯総数を分母に、ワンルーム戸数を分 子として算出した。この値が大きくなるとその地域でのワンルームの集中居住の度合いが高 いと考えられる。近隣にワンルームが多いことがファミリー家賃を下落させているとすると、 係数の符号は負になることになる。 Xi はその他の説明変数であり、物件の特徴や立地を示すものを採用した。専有面積(㎡)、 当該住戸階数、建物全体の階数、建築年数、最寄駅までの時間距離(分)、バスダミー(最寄 駅までバスを使用する場合は1をとるダミー変数) 、東京駅までの時間距離(分) (最寄駅か ら東京駅までの時間。インターネットの路線検索によって検索) 、構造ダミー(木造を基準と し、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、軽量鉄骨造であれば、ぞれぞ れ1をとるダミー変数) 、路線ダミー(山手線を基準とする)、区ダミー(千代田区を基準と する)を用いた。専有面積、当該住戸階数、建物階数、建築年数、最寄駅までの時間距離、 東京駅までの時間距離については、被説明変数(ln(ファミリー家賃+共益費))に対し、非 線形に反応する可能性があることを考慮し、それぞれ 2 乗項も用いた。 α は定数項、β,γ は係数、ε は誤差項を表す。 各説明変数の基本統計量は表 5-3 のとおりである。 表 5-3 ファミリー家賃への影響 基本統計量 ファミリー家賃+共益費 ln(ファミリー家賃+共益費) (町)近隣ワンルーム戸数割合 (丁)近隣ワンルーム戸数割合 床面積 当該住戸階数 建物階数 建築年数 最寄駅までの時間距離 バスダミー 東京駅までの時間距離 構造ダミー 路線ダミー 区ダミー サンプル数 平均 標準偏差 最小値 最大値 19.114 13.216 4.9 230 2.821 0.460 1.589 5.438 0.018 0.014 0 0.113 0.019 0.018 0 0.189 60.049 24.292 40 440 5.317 5.465 1 56 9.345 8.608 1 78 14.290 9.780 0 77 7.146 4.246 1 43 0.003 0.056 0 1 11.226 6.750 0 36 省略 省略 省略 37,460 19 5.2.2 推定結果 推計結果は、表 5-4 のとおりである。 表 5-4 ファミリー家賃への影響 推計結果 町別 被説明変数:ln(ファミリー家賃+共益費) 係数 丁目別 標準誤差 係数 標準誤差 近隣ワンルーム戸数割合 0.1050 (0.0620) * -0.1913 (0.0448) *** 専有面積 0.0171 (0.0001) *** 0.0170 (0.0001) *** (0.0000004) *** -0.00003 (0.0000003) *** 0.0102 (0.0004) *** 0.0102 (0.0004) *** -0.0001 (0.00001) *** -0.0001 (0.00001) *** 0.0028 (0.0003) *** 0.0030 (0.0003) *** -0.00004 (0.000006) *** -0.00004 (0.000006) *** -0.0161 (0.0002) *** -0.0161 (0.0002) *** 0.0002 (0.000006) *** 0.0002 (0.000006) *** 最寄駅までの時間距離 -0.0053 (0.0005) *** -0.0053 (0.0005) *** 最寄駅までの時間距離^2 -0.0001 (0.00002) *** -0.0001 (0.00002) *** バスダミー -0.0756 (0.0119) *** -0.0769 (0.0119) *** 東京駅までの時間距離 -0.0016 (0.0004) *** -0.0018 (0.0004) *** 東京駅までの時間距離^2 -0.0001 (0.00001) *** -0.0001 (0.00001) *** 専有面積^2 当該住戸階数 当該住戸階数^2 建物階数 建物階数^2 建築年数 建築年数^2 -0.00003 構造ダミー yes yes 路線ダミー yes yes 区ダミー yes 定数項 2.1261 (0.0085) yes *** 2.1399 (0.0084) 自由度調整済み決定係数 0.9251 0.9251 サンプル数 37,460 37,460 *** ***,**,*はそれぞれ有意水準1%,5%,10%を満たしていることを示す。 町別においては、近隣ワンルーム戸数割合の増加がファミリー家賃に正の影響を与えて いることが 10%水準で有意に示された。丁目別では、負の影響を与えていることが1%有 意水準で示された。その他の説明変数については、一般的に予想される結果と整合する。 専有面積、当該住戸階数、建物階数は有意に正の係数となっている。建築年数、最寄駅ま での時間距離、バスダミー、東京駅までの時間距離は有意に負の係数となっている。 以上より、近隣ワンルーム戸数割合がファミリー家賃に与える影響は、町別の範囲では 正であるが、丁目別という狭い範囲では負であることが示された。これにより、ワンルー ムが狭い範囲で近くに多く存在すると、周辺のファミリー家賃が下がる、つまりファミリ ー層の効用が下がるということが示された。 5.3 考察 5.1 単身世帯割合が地価に与える影響の分析と、5.2 近隣ワンルーム戸数割合がファミリー 家賃に与える影響の分析の結果を合わせて考えると、ワンルームは、ファミリー層に選別的 に負の影響を与えている、外部不経済を与えている可能性があるが、全体的には負の影響が ないということが示された。ファミリー家賃への影響はマイナスで、地価では影響がないと いうのは、ワンルームをめぐっては様々な立場の人がおり(周辺住民、ワンルーム需要者・ 供給者、商店など) 、それらトータルの社会全体の影響を地価で見たところ、プラスでもマイ ナスでもないということであると思われる。 20 第6章 まとめ 本稿では、近年、東京都区部で強化が相次ぐワンルーム規制を取り上げ、規制による弊害の一 つであるワンルーム家賃への影響についての分析を行った。 まず、ワンルームへの各種規制がワンルーム家賃に与える影響がどの程度なのかを明らかにす るため、東京都区部を対象とし、規制実施区と未実施区抽出による2時点の家賃データを用いた DID による分析と、区部全域の1時点の家賃データを用いた OLS による分析を行い、ワンルー ム家賃への影響を定量的に観察した。分析の結果、ワンルーム規制はいずれもワンルーム家賃へ 影響を与えていたことが示された。 「課税」「ファミリー付置義務」は、家賃を上昇させていたこ とが分かり、 「最低面積規定」は、影響がないか低下させている可能性があることが分かった。生 産者側から見れば最適なものを作ることができず、 消費者側から見れば、 最適な選択ができない、 という弊害を与えているものだと言える。 次に、ワンルームが規制されなければならないような負の影響を周囲に与えているのかを検証 するため、被説明変数を地価またはファミリー家賃としたヘドニックアプローチによる分析を行 った。分析の結果、ワンルームは、ファミリー層に選別的に負の影響を与えており、外部不経済 を与えている可能性があるが、全体的には負の影響がないということが分かった。ワンルームと ファミリーは、生活習慣を異にする人たちが近隣に住むことで、お互いに負の影響を与え合って いる可能性があるが、それにより犯罪の発生などの強い迷惑がなければ規制する必要はないと思 われる。ファミリー層への負の影響が外部不経済であれば、外部不経済の問題に対処するにはそ の外部不経済の発生要因に対して直接規制を行うことが望ましいと思われる。ワンルームの存在 は外部不経済の問題を間接的には生じさせる可能性はあるものの、全体的には負の影響が無いた め、外部不経済の観点からワンルーム規制を正当化することはできないだろう。 以上より、ワンルーム規制は、ファミリー層への負の影響の軽減に間接的に寄与する可能性は あるものの、外部不経済の対応政策としては望ましくない。同時に、最適ではない住宅供給を強 制し、ワンルーム家賃へ影響を及ぼすといった多くの弊害を生み出しているため、課税、ファミ リー付置義務、最低面積規定といったワンルーム規制は、非効率な政策と言わざるを得ないだろ う。 本研究で残された課題は以下のとおりである。 本研究により、近隣にワンルームがあることでファミリー家賃が下がっている、外部不経済の 可能性があるということまでは示せたが、その要因やメカニズムの特定までには至らなかった。 これが外部不経済であれば、その要因に応じた直接の施策を実施すべきであると考えるが、その ためにはその要因の特定や、実際の住環境の違いによる分析など、詳細な検討が必要だと思われ る。 また、ワンルーム規制がワンルーム家賃へ与える影響の実証分析では、抽出区による DID、あ るいは区部全域による OLS を行ったが、抽出区による DID では全区の影響が説明できず、区部 全域による OLS ではクロスセクションデータであるため、地域固有の観測できない要因の問題 を解決していない可能性があり、また規制前後の市場全体の影響を説明できていない。また、規 制の家賃への影響は、導入されてからの期間によって変わる可能性があると思われるため、今後 の長期的な影響も検証していく必要があると思われる。 21 謝 辞 本稿の作成にあたり、北野泰樹助教授(主査) 、福井秀夫教授(副査) 、安邊英明教授(副査)、 中川雅之教授(副査)から丁寧なご指導をいただいたほか、安藤至大准教授、植松丘教授、梶原 文男教授、清水千弘准教授、鶴田大輔准教授、西脇雅人助教授をはじめ、関係教員の皆様からお 忙しい中大変貴重なご意見をいただきましたことに心より感謝申し上げます。そして、この貴重 な 1 年間を共に過ごし、多くの苦楽を分かち合ったまちづくりプログラム及び知財プログラムの 同期の皆様、貴重なアドバイスを下さった諸先輩方、支えてくれた友人達に心より感謝いたしま す。また、研究の機会を与えていただいた派遣元に感謝申し上げます。 なお、本稿における見解及び内容に関する誤りは全て筆者に帰します。また、本稿は筆者の個 人的な見解を示したものであり、 筆者の所属機関の見解を示すものではないことを申し添えます。 参考文献 ・ 朝日新聞「ワンルーム規制 賛成?反対?」2008 年 8 月 12 日 朝刊 第 6 面 ・ 川原拓(2010) 「公営住宅が住宅地の地価形成に与える影響と政策の妥当性に関する考察」 『政策研究大学院大学政策研究科 平成 21 年度まちづくりプログラム論文集,2010 年 3 月』 ・ 金本良嗣(1997) 『都市経済学』 第 6 章,東洋経済新報社 ・ 木下龍二・大月敏雄・深見かほり(2008)「東京都 23 区にみるワンルームマンション問題と対 応施策の変遷に関する研究」『日本建築学会計画系論文集』 73(624), pp.263-270 ・ 国土交通省(2006)『住生活基本計画(全国計画) 』 ・ 首都圏総合計画研究所(1984) 「特集 ワンルームマンション」『まちつくり研究』 22 ・ 清水千弘(2008)z近隣外部性を考慮した住宅ヘドニック関数の推定」『麗澤経済研究』16(1), pp.29-44 ・ 豊島区税制度調査検討会議(2008) 『豊島区税制度調査検討会議報告書』 ・ 殿塚恭士(2010)「ワンルームマンション建築規制の問題点と開発事業者の取り組み」 『都市住 宅学』70, pp.37-41 ・ 吉田次郎・清水千弘(2010) 「環境配慮型建築物が不動産価格に与える影響:日本の新築マンシ ョンのケース」 『CSIS Discussion Paper(University of Tokyo) 』 No.106 ・ その他、各区ホームページ等 22
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