GSAM会長 ジム・オニールの視点

情報提供資料 2011年6月
GSAM会長
ジム・オニールの視点
世界的な景気後退などについて
親愛なる読者の皆さま。数名の方からViewpointsの執筆を止めたのかとおたずねがあったようですが、2週間前のウェ
ンブレーでの残念な出来事があったからと言って、私は止めません。マンチェスター・ユナイテッドが被った手痛い
打撃を克服するのに、かなりの時間を要したことは認めざるを得ませんが、先週末はスイスのアルプスに2、3日滞在
し、その後1週間ずっと出張していたのです。
前回のViewpointsをお届けした後は、スイスのローザンヌで開かれたフィナンシャル・タイムズ主催の年次嗜好品会
議への出席、それからニューヨークで非常に興味深い数日間を過ごしました。2つの場所でお会いした方々のムードは、
非常に好対照をなすものであったと申し上げざるを得ません。
この2週間にわたり、世界経済失速の兆候がそこかしこに見られます。多くの市場参加者や政策立案者が気をもまれて
いるのは当然でしょう。5月の株式市場のパフォーマンスが不調だったこと続いて、不吉なものを感じていらっしゃる
方も多いようです。「5月に売れ」が神がかり的なトーンを帯びてきたようにも思えます。今回は、この景気後退につ
いて思うことや旅行中のこぼれ話をご紹介いたします。
<スイス>
スイスへの旅と、ニューヨーク訪問の趣はまったく対照的なものでした。
3日ほどレ・ディアブルレ(スイス、ヴォーアルプス地区の山村)付近でハイキングを楽しみました。村の近くには
スキーのリフトがあり、それに乗れば標高3000メートルから氷河をパノラマのように見渡せます。その往復料金は77
スイスフランでした。今の為替レートでは、とてもお手頃といえる値段ではありません。妻は、私を夢想の国の住人
と考えておりますので、これはとんだ無駄遣いだと思ったようです。私たちがどうしたものかと議論をしております
と、切符売り場にインド人の紳士が一人進み出て、一瞬も躊躇することなく新札の100フラン札を5枚出して6人分のチ
ケットを買いました。それでわれわれも結局はリフトに乗ることにしました。言うまでもありませんが、山頂は曇っ
ていました。そして40分後には下山して散歩を続けました。リフトの昇り降り、見かける人はほとんどすべてインド
の方々でした。降りる途中にはとても大きな広告板があり、とある有名な銀行が新興市場におけるプライベート・バ
ンキングの宣伝をしていました。これを見て思い出したのは、1980年代にはユングフラウ(訳注:スイスのベルナー・
オーバーランド地域にあるアルプス山脈の山)へ向かう列車に、日本人専用車両があったことです。時代も変わった
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ものです。
ローザンヌでのイベントにおけるスピーカーとの事前ディナーも、山で感じたものと同じ雰囲気を醸し出していまし
た。嗜好品を扱う会社の代表者が何人も会場にいましたが、皆、自信にあふれた様子でした。BRIC諸国における嗜好
品へのニーズを考えれば当然のことです。今日ある記事を目にしたのですが、それによると欧州の嗜好品の半分を中
国の人たちが買っているかもしれないそうです。
このイベントに出席したのは、元同僚のギャビン・デイヴィーズ、そしてフィナンシャル・タイムズのマーチン・ウ
ルフと世界経済の状況に関するパネルディスカッションに参加するためでした。突然先進各国での景気後退の兆候が
出てきたため、数週間前から前もって考えてくるように言われていた最初の質問は、今後の回復が最も強く目覚まし
いと考えられる国はどこかというものでした。ウルフ氏は、気の利いた言葉で少し違うたずね方をしましたが、それ
をデイヴィーズが受けてまず話し始めました。まずは、最近すべてが停滞しているのではないかという点について。
数分後には米国の「QE3(量的金融緩和第3弾)」に関する政策論議に話が及び、
「必要なら連邦準備制度理事会(FRB)
はこれを実行するだろう」ということで3人とも合意しました。その必要性については、必ずしも見解が一致していた
わけではないかもしれませんが、議論はそこには及びませんでした。
意見が分かれたのは、広大な新興国世界の重要性に関する部分です。ここでウルフ氏と私の意見は、特に中国につい
て異なっていました。ウルフ氏とこのことで議論するのは初めてではありません。私が指摘したのは、その週末に、
評判の高い中国社会科学院(CASS)が、中国の米ドルベースの消費が2015年までには、現在の2兆ドルから倍増すると
の予測を発表したことでした。ウルフ氏は、このことにあまり興味がないようでした。時間があまりなかったので、
この数字が華やかなりし金融危機前の米国における消費水準の伸びである年率約4%と同程度だということを強調す
るまでには至りませんでした。この週の後半に開催されたヘッジファンドの方々との昼食会で分かったのですが、多
くの方々が、中国に対する見方に偏りがあることへの懸念をいまだに持っているようです。私も最近、話が中国のこ
ととなると、西洋人は現実を見ようとしないと、ますます思うようになってきました。かなり賢明な方と言えども、
そういう傾向があるようです。始めから、「そんなことはありえない」か、もし真実であると認めても「そんなこと
は長続きしない」と考えるのです。金曜日に、最新の中国の貿易関連データを入手できました。それは予想を下回り、
2011年の最初の5ヶ月は300億米ドルに達しませんでした。これは年率になおすと、GDPの約1%程度で、かつてのめ
まぐるしい時期に記録した10%あるいはそれ以上という水準に比べると、まったく比較にならないほど低いものです。
輸入は、5月は少し弱かったものの、昨年同月比1567億米ドル多い、年換算で約3760億米ドルです。このペースで行
けば、中国の輸入は2010年と同様、ギリシャ経済の規模を上回る勢いです。
<ニューヨーク>
やや暑いといった感じのスイスからロンドンを経由し、先週から突然猛暑となっているニューヨークに行きました。
今年の 5 回の訪問のうち 4 回は雪に覆われ、凍えるような寒さでした。しかし今回の訪問では、時間が経過しても暑
さがムードを盛り上げることはありませんでした。
訪問 1 日目は、CNBC のインタビューを受けることになっていました。しかし、その日は、ベン・バーナンキ連邦準
備制度理事会議長の質疑応答会見と重なっていました。CNBC アンカーのマリア・バーティロモさんに、「こんなに
待たせるなんて失礼だ」と冗談を言いつつ待ちましたが、その間に JP モルガンのジェイミー・ダイモン CEO が、過
度の規制が経済に与えるインパクトに関してバーナンキ議長を痛烈に批判するのを 2 人で聴くことができました。私
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も多くの人と同様、FRB にとっても事態の判断が難しいという議長の率直な答えには驚きました。私のように、米国
経済について楽観的な見方をしようとする者にとっても、あの答えはあまり聞きたくないものでした。
<ちょっと南米に寄り道>
ゆったりとした楽しい日の終わりに、ニューヨークにやって来た目的を果たすため、ラテンアメリカ教育チャリティ
である「ワールドファンド」の催し物に参加してきました。この日は、慈善教育事業に貢献したということで、表彰
していただくことになっていたのです。受賞の挨拶で、これは(慈善事業への貢献にではなく)私が BRIC にブラジ
ルの「B」を入れたことに対する賞ですねと冗談を言いました。「B」をあの場所に入れることにしたのは、特定教育
慈善事業の「SHINE」の立ち上げに協力したこととともに、過去 10 年に自分が行った良いことの 1 つだとも付け加え
ました。催しには、メキシコの方々も多くいらしており、その中には受賞者もいらっしゃいました。そこで、もしメ
キシコで、教育の発展に貢献する賢明な策が取られているという証拠が見つかれば、BRIC に「M」を加えて BRIMC
とすべきでしょう、ちなみにマンチェスター・ユナイテッドのとあるメキシコ人選手の影響もありますが、ともお話
ししました。そしてさらに、アルゼンチンの方がいるかもしれないと思い、「A」が入る可能性はありませんとも伝え
ました。しかし、誰かが FC バルセロナのメッシ選手をマンチェスター・ユナイテッドに連れてきてくれれば話は別
ですよと付け加えました。
<年金基金との会合>
翌日は、多くのアメリカ企業で、特に年金基金の運用にあたっておられるチームの方々や年金アドバイザーの方々に
お会いしました。世界情勢の他、グローバル株式に投資する際に、何がベンチマークとして適切かという点に多くの
議論が集中しました。この話題は、実は非常にタイミングの良いものでした。このような投資家の皆さまに非常に興
味深いと思われるものを、今つくっている最中だからです。これについては、今後も状況をお知らせします。
<数字の低迷とヘッジファンドの方々>
木曜日の昼食は、ゴールドマン・サックスの同僚たちと、先進的なマクロヘッジファンドの投資家の方々とご一緒し
ました。ほとんどの方と昨年の 10 月に同じような場でご一緒したのですが、今回は雰囲気が全く異なっていました。
確かに最近のデータ、市場の動き、そしてワシントンでの財政政策の手詰まりを考えると、仕方がないのでしょう。
しかし、この状況は、少し行き過ぎかなと思いました。昼食の席の雰囲気は憂鬱で、それは米国、ヨーロッパ、中国、
それもデータに関するもの、政策に関するもの、どの話題の時も変わりませんでした。私が米国の失業率は 2013 年に
は 6%を切ることもありうると言った時には、皆に変人扱いを受けたような気さえしました。
バーナンキ議長のスピーチと質疑応答を聞いていたので、過度の規制がもたらすリスクについての世の中の雰囲気は
理解できます。しかし、QE3 が「外部性」を必要とすることは明らかですが、もし最近発表されている米国の弱い経
済データが正しければ、当然のことながら FRB がさらなる手を打つ可能性が大きいように私には思えます。結局のと
ころ、FRB がやらなければならないことははっきりしているのです。とは言うものの、実は FRB はこのことを心配し
なくてもよいかもしれない、と思いつつ米国からの帰途に着きました。むしろ安心したのは、ベージュ・ブックを見
た時に、最近の日本発のサプライチェーンの寸断に関する言及が多く見られたことでした。この点がまさに、原油高
とともに、最近の米国が経験している大きな痛みの原因ではないかと思っているからです。昼食の場でも指摘したの
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ですが、10 月の昼食会以後、米国の金融緩和は進んでいます。したがって、規制がそれほどまでに信用供与に影響を
与えているのでない限り、突然景気が下降局面に入るとは考えにくいのです。そして、そうしたことが起こっている
というデータは、あまりありません。いずれ明らかになることでしょう。
<日本>
ニューヨークでの議論を受けて、おそらく今現在もっとも重要な場所は、今後数週間の世界の動きからすると意外と
思われるかもしれませんが、実は日本ではないかと思っているのです。幸い、この月曜日から日本に少し滞在する予
定です。3 月の震災以後はじめてです。当社の欧州担当ポートフォリオ・マネジャーのエド・パーキンスが震災直後に
言ったのは、日本発のサプライチェーン寸断によるインパクトは多くの人が考えるよりもずっと大きいのではないか
ということでした。彼は正しかったようです。興味深いことに、木曜日の夜の運用担当者社内電話会議で、パーキン
スが企業から集めたデータによると、日本はかなり急ピッチで再建体制に入っているということでした。日本滞在中
の数日間で、もっとそうした情報を得たいものです。もしこのことが本当であれば、世界の多くの地域で、予想以上
に景気は良くなるかもしれません。
<中国>
CASS の報告書、欧州での嗜好品トップ企業の雰囲気、そしてニューヨークで聞いた中国に関する多くの人のムード、
これらのコントラストは非常に印象深いものです。こうしたところから出てくる今後のデータが楽しみです。私は、
いつ消費者物価指数が反転を始めるかがカギだと考えています。そうなれば中国人民銀行が金融政策のブレーキを踏
むことになるでしょう。中国の経済は、下方修正されたコンセンサスよりも速いペースで循環的に減速していると私
は見ています。そして、ますます多くの人が予想している「ハードランディング」とは対照的に、一度インフレに慣
れてくればその時に新たな転換期が訪れ、この転換が次のグローバル株式市場上昇の基礎になると考えています。
もうひとつ明らかなのは、中国の動きが今後のエネルギー需要にとって、引き続き短期的には絶対的なカギであると
いうことです。今週発表された BP の年次調査報告によれば、2010 年に中国は世界最大のエネルギー消費国の地位を
アメリカから奪ったとのことです。シェアは米国の 19.0%に対して 20.3%。そして、この世界のエネルギー需要は、
世界 GDP の成長よりも高い率で増えており、2010 年では GDP の伸び 4.9%に対し、5.6%となっています。こうした
情報は、商品強気派、株式弱気派には刺激的でしょう。彼らの共通の認識は、ごく単純に言って、こうした伸びを支
えるだけの十分な資源は存在しないというものです。
同時に、代替エネルギーへの関心は少しずつ大きくなりつつあり、中国はこの分野にも活発な投資を行っています。
先週のフィナンシャル・タイムズに面白い記事を見つけました。その記事によると米国エネルギー情報管理局は、向
こう 3 年以内に太陽発電のコストがさらに 60%下がり、従来型のエネルギーと同じ水準になるだろうと示唆している
そうです。非常に興味深いことと思います。
<欧州>
何と複雑なことになっているのでしょう。ドイツの強さと、その他の輸出主導の各国はさておき、ヨーロッパについ
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ては、ニューヨークでお会いしたマクロヘッジファンドの皆さんと同様の考えです。ある意味では、欧州の主要国が
ギリシャの債務を自分たちにとってあまり大きな痛みを伴わない形で減らすにはどうすれば良いかを盛んに議論して
いる、という興味深い状況となっています。欧州在の銀行、欧州中央銀行、IMF(国際通貨基金)、フランス政府、ド
イツ財務省、そしてドイツ首相府間で暫定欧州サッカー選手権でも行えば良いのではないでしょうか。それと、誰か
が欧州連合にも声を掛けなければなりません。
いくつかコメントをしたいと思います。最初に、現在おかれている状況と、今後何らかの問題が起こる可能性が否定
できないことを鑑みると、ユーロが対米ドル 1.4 を上回っているのは理解できません。一方で、ギリシャの債務に関
わる議論に失敗したらどうなってしまうか政策立案者たちは考えていないと思うのですが、どうでしょうか。スペイ
ンやイタリアが引きずり込まれない限り、この問題はたいして大きな問題ではないということなのでしょうか?
ともかく、来週は日本とロシアに参ります。その後はしばらく出張を控えようかと思っています。
<経済成長と株式リターン>
金曜日に、経済成長と株式リターンの関連についての分析の第 2 部を発表しました。アンナ・ストゥプニツカとジェ
ームズ・リスデールが、少なくとも第 1 部に引けを取らない面白いデータを準備してくれました。それから、このレ
ポートには、簡単ではありますが、非常に重要な米国株式と中国株式の相関性の低さを示すデータも含まれています。
また、コンセンサスの予測が良い方にはずれた場合はロシア市場が割安である、ということも取り上げています。サ
ンクトペテルブルグに夏の大きな会議に参加するために行くことになっているので、とても興味深いことです。
皆さんの幸運をお祈りします。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:6 月 12 日)
本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、ゴールドマン・サッ
クス経済調査部(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・
部門の視点を反映するものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではあ
りません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ
ネジメント株式会社(以下「弊社」といいます。)が翻訳したものです。訳文と原文に相違がある場合には、
英語の原文が優先します。 本資料は、特定の金融商品の推奨(有価証券の取得の勧誘)を目的とするもの
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