CHAPTER 15 Species Interactions:Disease and Parasitism 種間相互作用:病気と寄生 担当:安河内 病気は生物間における重要な相互作用であり、競争、捕食、植食と合わせて4つの「個体群が変化する要因」とされている。 過去には 14 世紀のペスト・19 世紀の天然痘・1918 年のインフルエンザ大流行、そして今はエイズ・耐性を持つ結核・狂牛病、特 に子供でははしかなどが挙げられる。 病気:病原体が宿主に棲み、病原体が利益を得て宿主が損害を被る 病原体:バクテリア、ウイルス、発病性の菌類、プリオン(タンパク) → microparasite 寄生微生物 ( macroparasite サナダムシなど) 寄生虫は宿主に致命的な害を与えないと考えられがちだが、多くの病原体もめったに死を招かない。 病気や寄生によって死、あるいは瀕死になると… 宿主→再生産が減少、捕食者に捕まりやすい 個体群動態に影響するような競争や捕食と相互に関係する 自然界における宿主種や病原体の構造体系をそれぞれ独立に出来るという前提のもとで、いくつかの簡単なモデルを組み立て て病気の分析を始めた。(後にシステムの複雑さを復元する。) 宿主−病気の相互作用に関する数学的モデル 伝染病に関する研究は病理研究の中心であり、数学的モデルの元となった。病気のモデルは伝統的に微分方程式を使った時 間モデルが用いられ、出生や死亡、時間と共に継続する伝染過程などにおける多くの生態系に適用されている。 区画モデル(compartment model) →宿主−病気の相互作用の安定性について考える際に有効 ↳個体群動態を矢印で簡単に表したモデル:宿主の個体群が一定であると仮定して人間の病気の問題を調査 宿主と寄生生物の個体群のサイズを変えることで、複雑なモデル(宿主と寄生生物の内部生態系動態)にも対応 ① 一定の個体群サイズにおける区画モデル(Fig.15.1) microparasite:直接宿主に伝染し、再生する。一般にとても小さく、世代交代が早いため複製率が高い。 感染から回復した個体は再寄生に対して生涯免疫を持つ。また、一般に感染の持続時間は宿主の寿命より短いため、一時的 なものであると考えられる。 b)出生率 d)死亡率 α)病原死亡数 β)伝染率 ν)回復率 γ)免疫の損失率 病因の数や、遺伝的あるいは栄養上の効果を考慮していない。 ??病気は個体群を絶滅させるのか?感染するとき、個体群はどう変化するのか?? 数理モデル(mathematical model) → 区画モデルを割合で考えて分かりやすくする *[感受性がある個体群の変化率] = [感染個体から感受性がある個体への伝染率] dX − βXY = N dt (15.1) X)感受性がある(susceptible)個体数 Y)感染(infected)個体数 N)個体の総数(X+Y+Z) N とβは一定であると仮定 Z)回復して免疫を持つ個体数 β)接近による伝染率 *[感染した個体群の変化率] = [感染個体から感受性がある個体への伝染率] − [感染個体の回復率] dY βXY = − γY N dt γ)回復(recovered)率 (一定であると仮定) 1 (15.2) CHAPTER 15 *[回復した個体群の変化率] = [感染した個体の回復率] dZ = γY dt (15.3) SIR モデル(狂犬病のように回復がない場合は SI モデルとなる) ???これはいったい何の役に立つのか??? ―少数の感染個体が感受性を持つ大きな個体群に移入する際、病気が伝染するかどうかを調べる− この時重要なパラメータ 【病原生物の基礎再生産率】R0 : ある感染個体によって生み出された次の(二番目)感染個体の平均数 R0 = β (15.4) γ (box 15.1 を参照) box 15.1 純繁殖率(R0)で、もし R0≧1ならば病気は広まり、1>R0 ならば病気は消滅する。 平衡点において、Nは環境収容力Kであり、感受性のある個体数Xは限界個体群密度KTと定義される。しかし、平衡点で純繁 殖率は限定されるので下記のように表される。 R0= 平衡点での個体群密度 K = KT 限界の個体群密度 Xは限界の個体群密度KTと等しくなり、N=Kとなるので、それぞれを置き換えて R0= β γ が得られる。 このとき一感染個体が感受性のある個体に出会って感染させるまでの時間の平均は 1 β となる。 このモデルで病気の感染過程を描いたのが Fig.15.2 である。感染個体数はピークまで徐々に増加した後、 β 達すると減少し始 γ め伝染病は死滅する。これは感染個体が感受性のある個体に出会う確率が減少するからである。 ???移入者がある場合にはどうなるのだろうか??? 繁殖時期には個体群は成長する。また他地域から移入者の流入があれば、モデルは現実的だが複雑になる。平衡点に達する かもしれないし、不安定な状態になるかもしれない。ではどのように病気を制御しているのだろうか? ???もし予防接種や間引きによって病気を根絶するなら、どの程度施せばいいのだろうか??? 免疫を持つ割合を C、持たない割合を1−c とすると R0 = R0 = c > 1− たとえば R0=4のとき、c>1− β (15.4) γ (1 − c) β γ γ 1 = 1− β R0 から (15.5) (15.6)と表せる。 1 → c>0.75 4 つまり個体の 75%に予防接種、もしくは間引きをしなくてはならないということになる。 ②変動する個体群サイズにおける区画モデル → 接触割合を考慮することが出来る。 簡単なモデルにするため、回復をしない SI モデルを仮定する。(このとき感染個体は必ず死滅する) ???病気は個体群サイズに影響するのか??? 2 CHAPTER 15 X)感受性がある個体数 Y)感染個体数 N)個体の総数(X+Y+Z) b)宿主の瞬間出生率(一定) d)病気がない中での宿主の瞬間死亡率(一定) c)接触割合、個体群密度 N の作用 β)接近による伝染率 α)病気による宿主死亡率の増加 宿主個体数を考慮するために dX − β XY dY βXY = − γY (15.2)を変形して = (15.1)と dt N dt N dX cβXY = bN − dX − N dt (15.7) dY cβ XY = − (α + d )Y (15.8)を得る。 N dt dY dX =0= からこれらの方程式を解くことが出来る。 dt dt そして平衡点 b−d Y* = N * α cN * = α (α + d ) β (α + d − b) (15.9) (15.10) Y*)平衡点での感染個体数 N*)平衡点での総個体群サイズ cN*)平衡点個体密度での接触割合 もし接触率が(15.10)から与えられる数値と同じならば、この平衡点は求めることが出来る。 この時病気は次の時に個体群サイズを減少させる。 α> b − d (15.11) もし病気による死亡率が個体群成長を上回るならば(15.8)は間引きの効果を調べるのに使用できる。 Heesterbeek and Roberts は間引き率をσと仮定すると以下の時に病気を根絶できると示した。 δ> β c − (α + d ) (15.12) δ)間引き率 c )間引き後、平衡点での個体群サイズにおける接触率 d )間引き後、平衡点での個体群サイズにおける自然死亡率 もし感染個体を野外で見つけることが出来、間引きできるならば(α)を減少させることで病気による死亡率を増加させ、間引きに 必要な数を減らすことが出来る。 個体における病気の影響 → 宿主を見ることで病原体がどのような影響を与えているのかを考える。 人や飼い慣らされた動物と比べて、野外のデータは少ない。これは寄生虫と宿主が共進化してきて、比較的害が少ないからだと 考えられる(p.276)。そのため宿主へ及ぼす影響を発見することが出来なかった。しかし、詳しく研究することで生残・繁殖・成長 に有意な差があることがわかった。 ①繁殖への影響 寄生虫と病気の感染は再生産高を減少させることがある 例1)カリフォルニア西部の fence lizard(ハリトカゲの一種)の 25%がマラリアに感染し、感染した雌の clutch size は感染 していない雌より 20%少なかった(Fig.15.4)。 夏に充分太れず、春に卵を産むエネルギーが足りない。 例2)Queensland にあるサギの繁殖地で巣を作るショウジョウサギは、成鳥も雛もヒメダニの激しい進入による死亡がある ことがわかった(Fig.15.5)。 コロニーのダニはアルボウイルスを運び、ダニがついた雛の成鳥は遅くなる。 3 CHAPTER 15 ダニによる血液の減少? アルボウイルスの感染? → 殺虫剤を撒き、ダニの居ない巣を作って、ダニの影響を調べた(Fig.15.6)。 ダニの居る巣と居ない巣では有意な差があった。(1992-93 は乾燥していたため、ダニが少なかった) また、外部寄生虫による死亡はなかった。 ②死亡率への影響 直接の死亡要因として寄生虫や病原体が挙げられるが、死亡のどこが病気によるものなのか? 例)1998 年春、デンマーク沖でアザラシの大量死が発生し、同年 8 月にはアイルランドにまで広がり(Fig.15.7)、それま で5万頭いたアザラシは、約 60%が病気によって急速に死亡した(Fig.15.8)。ジステンバーの症状(妊娠雌が流産 する)に似ていたことから、死因としてウイルス性の病気が疑われ、アザラシジステンバーと名付けた。感染してから 2週間で症状が進行し、たいていの場合二次感染の肺炎やウイルスの感染症によって死亡。 ???この病原体は個体群に持続的に存在できるのか??? 病気から回復した個体は生涯免疫を持つ。しかし、毎年新しい個体(子供 pup)が 20%程度加入する。 そこで Swinton らはこの伝染病の区画モデルを作った。 ・アザラシのコロニーは分離した個体群パッチ ・個体間の伝染率/day β=0.005 (一定) ・純再生産率 R0=2.8 個体群における病気の影響 → たいてい個体群サイズ(年齢や個体数など)が分かっている場合の抗体所有率 が推定されている程度で、病気が個体群に与える影響としてはあまり分かってい ない。 次に個体群に与える病気の影響を調べる際に問題となった例を3つ紹介する。 1) 有蹄類におけるブルセラ病 ブルセラ病:バクテリア(Brucella abortus)によって起きる伝染病。世界中の家畜でみられ、症状として流 産がある。野生有蹄類から家畜への伝染は深刻な問題となってきた。 イエローストーン国立公園にいるバイソンの中で抗体保有率の年齢パターンを調べたところ、年齢と共にブルセラバクテリアに対 する抗体を保有する割合が増加していることがわかった。(歳をとった大人で約 60%(Fig.15.9))この病気はバイソン土着のもの なのか、家畜による加入なのかについて論争があったが、1917 年以前にはみられなかったことから国内の家畜によるとされた。 Dobson と Meagher によって間引き出来るかどうかを調べるモデルを作ったが、現在 4000 頭いるバイソンを 200 頭(病気が維持 される限界の頭数)まで間引きすることになり、それは絶滅の危機を招くため容認されなかった。(200 頭の個体群に伝染して支 配してしまったら病原体は繁殖に失敗し、死滅してしまうだろう。(Fig.15.10)) 2) 野生生物における狂犬病 狂犬病:紀元前 500 年にデモクリトスによって記録され、200 年後にはアリストテレスによって『動物の自然 史』に記された。全ての哺乳類に感染可能で、神経中枢器官の伝染性ウイルス感染症である。キツ ネ・オオカミ・アライグマなどによく見られるが、人間への媒介としては家庭の犬が最も多い。狂犬病ウ イルスは唾液の中に存在し、噛みつきによって感染する。(洞窟でコウモリの噴霧感染も 2、3 報告さ れている)一度感染すると確実に死に至る。潜伏期間は 10 日から 6 年以上まで様々であり、マラリア や結核よりも恐ろしいとされている。 ラブドウイルス科の Lyssavirus 属に属するいくつかのウイルスが要因であり、肉食性哺乳類を宿主としている。ヨーロッパでは レッドフォックスが主な狂犬病の病原体保有者であるのに対し、北アメリカではアライグマ・スカンク・キツネ・コウモリとされている。 媒介者としては地域によって異なっており(Fig.15.11)、媒介者によって異なる遺伝子型のウイルスを運ぶ。中でもアライグマは 1970 年代までのスカンクに代わって、南東アメリカにおける keystone host である(Fig.15.12)。この理由はわかっていない。 1970 年代にバージニア州(ワシントンの下)から始まった北アメリカの東における狂犬病は、30 年間に渡って広がり続けた (Fig.15.13)。アライグマは人の生活域周辺でよく見られるため、近年アメリカとカナダで標的とされており、ウイルス抗体を用いて 野生アライグマを罠で捕まえて予防接種を行ったり、餌に含ませたりして狂犬病の減少を図っている。その効果はまだ明かでな い。北アメリカとヨーロッパにおいて、犬による感染は犬への予防接種によって断ち切っている。 主な狂犬病の感染は 1939 年にポーランドで始まり、20-60km/year の速さで西へ 1400km 移動し、1980 年代の終わりに北フラ ンス大西洋岸に達して予防接種によって止まった(Fig.15.14)。 4 CHAPTER 15 ヨーロッパでは大規模な抗体摂取対策を立て、キツネによる伝染を防ぎ、狂犬病のない状態に達することが出来た。Fig.15.16 は狂犬病の勃発における簡単な区画モデル(Barlow)。この病気の生態を簡単にモデルにしたものが BOX15.2。このモデルに よって、間引きや予防接種が狂犬病除去できるかどうかを予測することが出来る。 box 15.2 簡単な狂犬病モデル dX = γX − γXN − βXY dt (15.6) dI = β XY − (σ + d + γN ) I dt (15.7) dY = σI − (α + d + γN )Y dt (15.8) X)キツネにおける感受性を持つ個体数 I)潜伏期間中の個体数 Y)感染個体数 N)個体の総数(X+Y+I) t)遭遇毎の感染率 r)病気の存在下での個体群成長率 b)狂犬病の存在下での出生率 d)キツネの死亡率 γ)r/K K:環境収容力 δ)潜伏率 α)狂犬病個体の死亡率 狂犬病がない場合、ロジスチック成長をし、狂犬病の感染はXとYにおける生産と比例すると仮定している。 Anderson らはヨーロッパのレッドフォックスにおけるパラメータを表のように見積もった。 これらのパラメータを組み込んだモデルは3∼5年の周期で個体数が周期を持つ。Fig.15.15 このモデルから R 0 = σβK (15.9)が与えられる。 (σ + b)(α + b) R0<1の時、狂犬病は死滅する。キツネは一個体/km2 で個体群を維持できるだろう。 Fig.15.17 キツネは高い再生産率と分散率を持つため、生息域を減少させるかもしくはかなりの間引きを行わなければ病気の制御は難し い。そこで抗体の投与は、直接感染可能な個体を減少させるので効果的である。グラフはキツネの個体群密度と抗体投与が必要なキツネの 割合を表している。 ヨーロッパのあちこちで抗体投与による狂犬病の除去に成功! しかし、ここで最も重要な課題は、宿主(哺乳類)への狂犬病感染率(β)が全ての個体群密度において一定であり、また良い生 息地も悪い生息地も病気の存在期間が等しいという仮定になっていることである。 3) ヨーロッパウサギにおける粘液種症 粘液種症:南アメリカのジャングルウサギを起源とし、この種に対しては宿主を殺すことは稀であ った。病原体は粘液種ウイルスで Leporipoxvirus 属の痘ウイルス。節足動物(主に蚊 やノミ)が咬むことで伝染する。伝染は受動的で、ウイルスは媒介者の中で複製するこ とはない。 ヨーロッパウサギは 1859 年にオーストラリアに移入され、20 年間で極めて高密度に増加した。第二次世界大戦の後、粘液種症 のウイルスを撒くことで個体数の減少を図り、感染個体の 99%が死亡してわずか一年足らずで激減した(Fig.15.18)。1952 年に フランスへ移入された粘液種症ウイルスはイギリスにまで広まり、1955 年にはイギリスの国産ウサギが 99%死亡してしまった。しか し、加入後すぐに毒性の弱いウイルスが発見され、粘液種ウイルスに起こった変化について研究がなされた。Table.1 は実験ウ サギを用いて毒性階級別にウイルスタイプを分け、毒性の強いウイルスが年を追う毎に弱いウイルスに変化していることを示して いる。ウサギもまた、実験室で培養したウイルスに野生のウサギがさらされたときに死亡率が段々下がっていたことから、自然選 択が病気に対して抵抗力を上げるように働いたことが分かった(Fig.15.19)。 ???宿主の個体群動態において、ウイルスの変化やウサギの遺伝的抵抗性の純効果は何だろうか??? 5 CHAPTER 15 粘液種症が減少し、死亡率も減少することでウサギの個体数に影響をほとんど与えなくなったと仮定して、ウイルスに暴露されて いる個体群と、されていない個体群とを比較する二つの実験が行われた。 ①Fig.15.20:オーストラリアでウサギの個体群を4つに分け、うち2つを予防接種によって免疫をつけ、残り2つは有毒なウイルスを接種 した。その結果、予防接種した個体群が増加。 ②イギリスでウサギのノミを殺虫剤で減少させた。結果、ウサギは増加。 この結果から、粘液種症はウサギ個体群をまだ抑制しているが、野外での毒性は減少していることが示された。 粘液種症は病気が個体群に強い影響を与えるよい例であり、病原生物と宿主がどのように共進化するのかが重要な問題であ る。 宿主−寄生虫システムの進化 宿主−寄生虫の相互関係についてのモデルは、捕食−被食モデルのように爆発的な増加か或いは死滅か、不安定に振動す るのが一般的である。しかし実際には消滅する病気もあるが、たいていは生き残る。これを説明するには、自然選択が宿主と寄 生生物両方の特徴を変化させるため、彼らの相互作用が個体数の安定を生み出すと仮定するのが一つの方法である。もしそう であるなら毒性は抵抗を生み、寄生生物は宿主に害を与えなくなって存在を維持することになる。つまり、無害化されている病 気と寄生生物が期待される。 しかし自然選択は宿主寄生生物システムにそう働いているのだろうか?有毒の進化についてどう説明できるだろうか? 自然選択は必ずしも宿主と寄生虫の平和な共進化を好むわけではない。 寄生虫や病原生物は有毒化や感染力といった要素とその他とでトレードオフを最適にするだろう。もし宿主が進化しなければ寄 生虫は最適なバランスに到達することが出来るが、宿主が進化した場合、軍拡競争が起きるだろう。もし宿主が遺伝的に変異が 大きければ、寄生虫や病原生物は変化が少ないときと比べて毒性を減少させるだろう。宿主と寄生生物、病原生物は進化的な 時間スケールが全く異なっており、宿主は遅い。そのためバクテリアやウイルスはすばやく進化することができる。 宿主寄生虫システムの進化を研究する方法として、実験室で寄生虫あるいは病原生物を進化的変化が見られるまで、連続的 に維持することがある。宿主から宿主へ伝達されたものを実験開始前の状態と比較することで毒性進化の研究に効果的に用い られた。これによりワクチン研究が発達。Fig.15.21 チフスバクテリアをマウスに用いた実験 更に、土着の宿主種の中で実験を行うと、ウイルスやバクテリア、菌類、など多くの病原体において一般に毒性が強くなる傾向が 見られた。これは「赤の女王仮説(Red Queen Hypothesis)」で説明される。実験室での実験において、宿主は無性生殖(クロー ン)もしくは制限された遺伝的変異能力しか持っていない。そのため遺伝的変異によって寄生虫や病原体に適応することができ ず、毒性が増加したとされる。 →野外では起こらない。 「赤の女王仮説」:「鏡の国のアリス」に登場する赤の女王がアリスに「同じ場所に留まるためには、力の限り走らねばならない」と言った ことからつけられた名前。ある種の環境は、周囲の種が進化し続けているために、絶えず悪化しているため、進化論 的な意味で「その場所」に留まるためには、全速力で走り続けるかのように、持続的に進化を続けていかなければな らず、それがあらゆる生物に同時に起きているという説。 ウサギと粘液種症の共進化は自然界において一番良い経験的な研究のひとつである。 ウサギのウイルスに対する抵抗(個体レベル):子孫へ下れば下るほど抵抗が強まる。 ウイルスにおける毒性の減少:毒性を強くする(ここでは一般に繁殖力が強いと 宿主への害が大きい=毒性が強い ととらえ る)と自らのコピーを多く作れるが、ウサギを殺してしまえば媒介者によって伝達される時間が短くなってしまう。そこで集団選択 は適度なレベルへ毒性を減少させるように作用した。 ウサギと粘液種症はその後… イギリス:相互関係が変化しているとの報告があり、個体群サイズはゆっくり増加しているようだ。 オーストラリア:1997 年にウサギ出血病が加入し、平均密度が激減してしまったため、複雑化。 6 CHAPTER 15 Summary 病気は種間における4つの相互作用のひとつであり、宿主が損をして寄生虫が得をする作用である。多くの病気の動態を理解 することはマラリアのような人間への影響を知るためにも重要であり、歴史的にも人間にとって最大の関心事である。 宿主−寄生虫システムの数理モデルは、相互作用を表すために区画モデルを活用する。宿主の個体数は感染・回復によって 影響を受けやすく、(人間の病気モデルのように)一定であるともサイズ(出生・死亡率も含む)が変わりやすいとも考えられる。そ れらの簡単なモデルとして相互作用を明らかにする 2,3 のパラメータがある。最も重要なパラメータは病原生物の基礎生産率 (R0)で、もし R0≧1ならば病気は広まり、1>R0 ならば病気は消滅する。 宿主−寄生虫システムの簡単なモデルはすべて、病気もしくは寄生虫が絶滅するような限界密度を示した。病理生態学の大 きな目的は、どのようにすればいかにうまく宿主の個体数を限界密度未満に下げることが出来るのかを決定することである。動物 の間引きは野生生物の病気を撲滅させることにもコントロールすることにも成功してこなかったが、予防接種はより一般的、現実 的な戦略となるだろう。 病気や寄生虫は宿主の繁殖率、死亡率に影響を与える。多くの研究が死亡率への影響を示しているにも関わらず、病気や寄 生が宿主種の平均密度を増加させることや、自然界にどの程度影響を与えているのかなどほとんどわかっていない。この章はこ れらの考え方を明らかにするために狂犬病を調べた。しかし媒介者であるキツネやスカンクなどについてはほとんど知らない。一 番良い研究は粘液種症についてである。 毒性の進化における私達の認識は、よく適応した寄生や病気が良性であるという今までの知識に代わって、病気や宿主は互 いのグループが適応度を最大にするよう進化する軍拡競争にしばられているという動的な観点へと発展した。もし寄生虫や病原 生物が宿主をますます傷つけ、自分自身のコピーをますます生産すれば毒性は進化的時間で増加するだろう。病気の毒性を 制限している主な要因の一つは宿主の遺伝的多様性であり、農作物の単一栽培、クローン個体群などは特に、有毒な病気が 発生した際に感染しやすい。 Key concepts 1.病気は動物、植物の死亡や衰弱の主な原因のひとつであり、寄生虫と病気の媒介者や宿主の相互作用は、個体や個 体群にとって重要である。 2.簡単な宿主−寄生虫モデルは絶滅や安定、宿主−寄生虫のサイクルを予想することが出来る。宿主と寄生虫の安定し た相互関係は、病気モデルの中でも稀である。 3.病気と寄生は繁殖成功率や死亡率に影響するが、宿主の個体数による病気の影響を理解する例はほとんどない。 4.寄生虫と病気は必ずしも互いに良い共進化をするわけではない。しかし、代わりにそれぞれが進化的な時間に、適応度 を最大限にするための軍拡競争に直面する。 5.人間の病気はずっと医学者にとって最大の関心事であるが、私達は生態系システムにおける病気の役割についてほと んど知らない。病気は個体群動態の主な要因となる新しい宿主を持ち込むだろう。 7 CHAPTER 15 ESSAY 15.1 宿主−寄生モデルは、感染率という複雑なパラメータを含んでおり、感染率は X と Y にのみ依存するパラメータとして組み込ま れている。 例えば(15.2) [単位時間当たりの感染した個体数の変化] = [感染個体と感受性のある個体間の接触率] − [感染個体の回復率] このモデルは感受性のある個体と感染個体の一回の接触確率しか表していない。ではどのようにして経験的なデータからβを 算出すればいいのだろうか?Hone らは野生豚の死亡数を流行病の日ごとに記録することで豚熱病のモデルを作り出した。病気 データの集積から、死亡率は病気による死亡率αと同じくらい感染率βに依存している。もし病気モデルのパラメータを見積もり、 初めの個体群サイズを知ることが出来たら、βの評価ができるだろう。そしてデータと一致するかどうかをモデルを動かして確か める。死亡個体数の曲線と最もよく一致するβに照準を合わせることが出来る。(βを過大にすると死亡は早くなり、過小にする と遅くなる) Hone は集めたデータから 0.001/day を見積もった。これは感受性のある1個体と一緒にいる感染個体の一日一回 の接触は、病気の感染確率が1/1000であることを意味している。 ESSAY 15.2 Van Vanlen はこの言葉を生物の共進化を表現するのに用いた。どんな進化的適応も、他種の行動による自然選択で取り消さ れる可能性があるということである。例えば捕食者から逃げるために被食者がより速く走る進化をしたとする。捕食者は適応度を 維持するためにより速く走る進化をする可能性がある。ある種における適応度の増加は、常に他種の適応度を減少させることに よって平衡が保たれている。 進化の割合は、短い世代時間を持っている生物がより早くなりうる。「赤の女王説」は宿主と寄生虫間の続く進化競争を予言し ているとともに、寄生虫の進化はより早いので、主な選択圧はたいてい宿主の遺伝子型から来ているという重要な意味を含んで いる。常に遺伝子型を変えることで、宿主は寄生虫や病原体が捕まえられないようにできる。これは性の進化で説明できる。世 代の組み替えは共進化する生物に対して新しい遺伝子型を提示している。「赤の女王説」はこのように、安定平衡ではなく、寄 生虫と宿主の間の永続的に変化している進化動態を予言している。 8
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