筋の追加・配置変更が容易な人間規範筋骨格型ロボットの腰脚部

1C29
筋の追加・配置変更が容易な人間規範筋骨格型ロボット の腰脚部
○水内 郁夫 和井田 博則
中西 雄飛
吉海 智晃
稲葉 雅幸
井上 博允 (東大)
A Musculo-Skeletal Robot Leg Capable of Adding or Rearranging the Muscles
*Ikuo Mizuuchi, Hironori Waita, Yuto Nakanishi, Tomoaki Yoshikai, Masayuki Inaba, and
Hirochika Inoue (The University of Tokyo)
Abstract— This paper proposes a musculo-skeletal robot system in which extra muscles can be added or
the arrangement of muscles is easy to modify. The hardware structure of the robot referes to that of human
and has 6 DOF and 12-20 muscles in each leg. Two experiments of bending-and-stretching are presented to
show the effectiveness of the system.
Key Words: Musculo-Skeletal Robot, Re-arranging Muscles, Complex Body Structure, Muscle-Driven
1.
はじめに
多自由度と柔軟性によりヒューマノイド に機能の多
様性と安全性を実現することと,人間のような複雑な
身体構造を扱える情報処理系の構築を目指している.こ
れまでに,全身で 100 近いアクチュエータを備え柔軟
性可変な脊椎構造を有するヒューマノイド 腱太 (Fig.1
左) を開発し 2) 研究を行ってきた.やや力が不足して
いた腱太の脚部 4) を置き換えることを想定し,新たに
筋骨格型の腰脚部を設計製作した.筋配置・筋付着点
や筋の本数などのコンフィギュレーションを容易に行
えるという特徴を有し ,人間の筋骨格構造をできるだ
け再現するように努めた.
2.
筋の追加・配置変更が容易なシステム
2·1 複雑で経時変化もある筋骨格型の身体構造
非線形性が強く経時変化もあるような構造の人間規
範型筋骨格型腰脚部を構築し ,自己発見的に制御法を
獲得してゆくソフトウェアの研究を行ってゆくことを
想定している.筋の配置や本数も必要に応じて柔軟に
変更が可能なハード ウェア構成を取ることにより,適
切な筋配置・本数を模索すると同時に,変化に適応し
てゆくソフトウェアシステムを構築することを目指す.
2 関節筋や干渉駆動 1) 構成になることも想定している.
2·2 内骨格構造
筋骨格系の構造において,内骨格構造,外骨格構造
はそれぞれ以下のような特徴を持つ.
内骨格構造
筋の増減や付着点変更が容易
人体に習った筋配置が可能
被覆の形状変更は容易
アクチュエータに付随する装置の配置が難しい
被覆の実装が難しい
外骨格構造
接触センサなど ,皮膚機能の実装が容易
筋の配置を変更するのが難しい
人体とは異なった構造
外装が骨格を兼ねるため,大きな形状変更を加え
るのは難しい
Fig.1 左:既存の腱太,右:開発した腰脚部で置換した想像図
腱太では,リンク数の少ない腕部,脚部を外骨格構
造とし ,リンク数の多い脊椎部,頚椎部を内骨格構造
としていた.本研究では,二関節筋による干渉駆動な
ど ,人体の特徴を再現しやすい点と,筋配置や筋付着
点など のコンフィギュレーションを容易に行える点か
ら,内骨格構造を採用した.
2·3
筋モジュール
筋の配置変更や追加・削除などを容易にするために
は,筋が張力センサや長さセンサを含めたモジュール
の形になっている事が望ましい.ワイヤの筋を駆動す
る DC モータとギヤ・エンコーダ・プーリおよび張力セ
ンサを全て含む形で一つのユニットになるように,筋
モジュールを開発した.張力センサは,シリンダーにバ
ネ要素を入れ,フォト インタラプ タにより長さの変化
を計測する形の物である.開発した 2 種類の筋モジュー
ルを Fig.2 に示す.モータド ライバは,腱太に使われて
いるものを微修正して用いた.
ギヤ比・ギヤ効率・プーリ半径から各ユニットの最
大発生張力を算出すると,プーリの摩擦を無視した場
第21回日本ロボット学会学術講演会(2003年9月20日∼22日)
Fig.3 骨盤の分割構造
Fig.2 筋モジュール (上:4.5w モータ,下:20w)
合,4.5W モータを使用するユニットは約 27[kgf],20W
モータを使用するユニットは約 85[kgf] となる.
3.
Fig.4 骨盤部外観
Fig.5 股関節構成部品
人間規範型腰脚部の機構設計
骨格・関節の設計にあたっては,人体を参考にした.
しかし,人間の関節は数百の筋と強力な腱・靭帯によっ
て保持・拘束されており,これらを完全に再現するこ
とは現実的でない.したがって人体の骨格をそのまま
を再現してもロボット脚として充分な性能を得ること
はできないと判断し ,人体骨格の優れた点を参考にし
つつ,独自の構造を取り入れて設計した.
3·1 骨盤
脊柱の基部であり,脊柱を介して上半身と繋がり,股
関節を介して大腿と繋がっている.また大腿,下腿,脊
柱,胸部へと繋がる筋の付着点を数多く持つ.これら
の筋付着点には大きな引っ張り応力が作用し ,関節部
には体重の数倍に相当する圧縮応力が作用する.骨盤
はこれに耐える強度を備えていることが求められる.
上記のような条件を満たしつつ軽量な骨盤を実現す
るためには,応力集中を起こしやすい部品分割をなる
べく避けると共に,高負荷個所への補強や強度に余裕
のある個所への肉抜きを行うのが効果的である.ただ
し このような設計では,部品形状が 複雑になるため,
複雑な 3 次元自由形状も容易に成型することができる
SLS(SelectiveLaserSintering) 成型法を利用した.材質
としては,ナイロン 11 系複合素材であり,DuraForm
と呼ばれるポリアミド 樹脂を用いている.
骨盤は人間同様に左右寛骨部と,中央で脊柱と繋が
る仙骨部の三つの部分に分割して設計した.寛骨部が
仙骨部下面の溝にはまりこむ形をとることで,上半身
の荷重を仙骨部から寛骨部,股関節へ伝える.また体
幹部の筋を駆動するモータ群は寛骨上面に,脚部の筋
に付随するモータド ライバの一部を左右寛骨の間にそ
れぞれ格納する.筋本数の増減や,筋付着点の変更を
可能にするため,骨盤には筋付着点となるピボットを
多数設けた.骨盤の分割構造を 3DCAD モデルによっ
て Fig.3 に,完成した骨盤の組み立て後の外観を Fig.4
にそれぞれ示す.
3·2 3 自由度股関節の構造
コンパクトかつ単純な機構で耐荷重の大きな関節を
実現できる球面関節を用いて回転 3 自由度関節を実現
した.関節開口部は人体に習って前方・外側方・下方
に開いており,関節可動域は,屈曲側を正方向として
ピッチ軸回りに -15 度∼+120 度,外転側を正方向とし
てロール軸回りに± 45 度,外旋側を正方向としてヨー
軸回りに± 30 度程度である.ただし , 球面関節におい
て各自由度周りの可動域は独立では無いため,どの軸
回りの可動域も肢位に大きく左右される.
球面関節の構造は人体を路襲し,骨盤側を受け側,大
腿側を球側とした.ただし ,凹面形状を持つ円筒状の
スリーブを骨盤骨格とは別に製作し ,骨盤骨格の寛骨
部に埋め込む形で固定する.(Fig.5)
こうした構造をとることによる利点はいくつかある.
まず,骨盤の素材のポリアミド 樹脂は,強度は十分だ
が摩擦抵抗や対磨耗性に難点があるが,スリーブを別
部品とすることで,ポリアセタール樹脂などの摺動性
能に優れた素材を用いることができる.また,長期的
には滑り接触面の磨耗が避けられないが,この構造で
あれば磨耗時にはスリーブのみを交換すればよい.更
に,スリーブを別部品とすることで,スリーブ 部分に
新たな工夫を施す余地が生まれる.例えば磁場を用い
た関節角度検出センサ 3) の組み込みや,衝撃を吸収す
る軟質素材の組み込みなどが考えられる.
ポリアセタール樹脂は,同素材間の摺動において高
負荷時に若干難点があることと,球面関節に続く部分
(大腿骨頸部) に大きな応力がかかり樹脂素材では必要
な強度を得るのが難しいという問題があったため,球
面関節の球側は高い強度を持つ金属素材である超々ジュ
Fig.7 膝関節部動作:伸展 (左),60 度屈曲 (中央),160 度屈曲 (右)
Fig.8 2 軸転がり関節の軸間距離拘束と回転拘束
Fig.6 人間の大腿骨と製作した大腿部骨格の比較
ラルミン (A7075) で製作した.
3·3
大腿・下腿
大腿部・下腿部ともに,アルミ合金を押し出し成型
したフレームで軸部を構成し ,両端の関節部をポリア
セタール樹脂,及び超々ジュラルミンで製作して結合
するという基本構造をとった.軸部に用いたアルミフ
レームは,穴開け等の追加加工無しに,任意の位置に
ボルトによって固定できる構造となっており,筋付着
部や筋ワイヤを駆動するモータの付随装置,外装被覆
などを容易に追加したり,その位置を調節したりする
ことが可能である.
股関節関節面が前方・下方・外側法へ傾斜して開いて
いるため,人間の大腿骨は「く」の字型に彎曲し,大腿
骨幹部は股関節と接地点を結ぶ脚部機能軸に対して外
側方へ傾いている.この彎曲や大腿骨幹部の傾きを再
現した.その利点は,股関節面の傾斜によく適合する
ことの他に,他方の脚との干渉を抑え関節可動範囲を
広く取れること,内転筋・外転筋が作用するにあたって
モーメントアームを長く取ることができ力を有効に使
えることが挙げられる.難点としては,大腿骨頸部と
「く」の字の湾曲部にかかる応力が大きくなるという問
題があるが,前節で述べたように強度の高い材質で製
作することで解決策とした.製作した大腿部フレーム
と,人間の大腿骨を並べたものを Fig.6 に示す.
下腿部の骨格については,膝関節及び足首関節の構
造を人体とは異なるものとしたのに伴い,人間のそれ
とは多少異なるものとした.人間の場合,下腿部の骨
格は脛骨・腓骨の二本の骨で構成されているが,これ
を脛骨にあたるフレーム 1 本で担うようにしている.
3·4
1 自由度膝関節の構造
人間の膝関節はピッチ軸周りとヨー軸周りの 2 自由
度を持つ.ヨー軸回りの稼動範囲は膝靭帯の拘束によ
り,膝を屈曲するほど 大きく,膝を伸展するほど 小さ
くなる.この機構を再現するためには,膝を拘束して
いる靭帯を再現しなければならないだけでなく,筋肉
及びその腱が強固に膝関節を覆うことで安定を保つ構
造を再現しなければならない.現段階でこのような機
能を充分に再現することは現実的でないため,膝関節
については自由度をピッチ軸周りに限定した.
回転 1 自由度の関節機構は,1 軸滑り関節,2 軸転が
り関節,滑りと転がりの複合関節が考えられる.その
中から円筒状の接触面を持つ 2 軸転がり関節を採用し
た.2 軸転がり関節は本来 2 自由度の関節であるが,摩
擦車や歯車など によって拘束することで,1 自由度の
関節として扱うことができる.ちなみに人体における
膝関節機構は 2 軸滑り・転がり複合関節である.
2 軸転がり関節を用いた利点としては,まず可動範
囲を大きくとることが出来るため,従来構造では難し
かった正座のような姿勢を比較的容易に実現できる点
が挙げられる.多くの二足ロボットのように関節軸や
大腿・下腿部を前後に大きくオフセットすることなく,
最大 160 度の屈曲を実現し ,正座姿勢を取ることも可
能になった.また伸展方向には 4 度の過伸展が可能と
なるように設定し ,正立時の安定性を確保した.
次に,2 軸転がり関節では,関節が屈曲するに従って
支点が移動し ,見かけ上のモーメントアームが長くな
るために,90 度屈曲近辺でモーメントアームが最大と
なるように設定することが可能である.
また,転がり動作であるため,関節に大きな圧縮力
が加わっても滑らかに動作することや,接触面に柔軟
な素材を挟み込むことで関節での衝撃吸収を行う等の
改修を行い易いことも利点の一つである.
Fig.9 足首部と足部
2 軸転がり関節を 1 自由度として扱うためには,軸
間距離と軸周りの回転を拘束する必要がある.軸間距
離の拘束には,ターンバックルとボールジョイントか
らなるリンクを用い軸間距離の容易な調整を可能にす
ると共に,リンクを斜め方向に張ることで横力に対す
る剛性を増している.回転自由度の拘束には,滑らか
な動作を得るため,接触面は滑らかな円筒形状とし,1
モジュールの歯車を加工して取り付けることで拘束を
行った.これらの拘束の様子を Fig.8 に示す.製作した
関節部の動作を Fig.7 に示す.
3·5
2 自由度足首関節と足部の構造
足首関節はユニバーサルジョイント機構によりロー
ル・ピッチの 2 軸直交関節を実現した.人間の足首関
節は滑り接触による鞍型関節であるが,鞍型関節の再
現には高負荷時に摩擦の影響が大きくなるという問題
がある.ユニバーサルジョイント機構は比較的容易に 2
軸直交関節を実現できる機構であり,必要な可動範囲
も得られると判断してこれを採用した.素材は主にポ
リアセタール樹脂を用い,関節軸については金属素材
(ジュラルミン ) を用いている.
人間の足部は,アーチ構造によって歩行時の衝撃を
吸収すると共に,足指を初めとしてかなりの自由度を
持つ巧みな機構であり,研究が待たれる部分である.足
部の前後長は同程度の身長の人間を参考とし ,幅につ
いては人間よりもやや幅広い程度とした.材質にはポ
リアセタール樹脂を用いた.脚部リンクの先端にあた
り,足部の重量は脚部のモーメント,各関節の負荷ト
ルクに大きな影響を与えるため,トラス状の肉抜きを
施し ,強度を確保しつつ軽量化を図った.
製作した足部,足首関節部の外観を Fig.9 に示す.
4.
Fig.10 筋追加前の浅い屈伸
筋の追加による屈伸動作の改良
この腰脚部を用いて,屈伸動作の実験を行った.関
節角度と筋長の関係が不明のため,関節角度ベースで
動作の指示を行うことができない.各筋を一定の張力
になるように制御している状態で人間が直接触って姿
勢を教示し ,その時の各筋の長さを記録することで姿
勢を記憶し ,長さ制御でその姿勢を実現するという手
法を用いた.
Fig.11 は,Fig.10 の状態に,膝を伸ばす筋を片足一
本ずつ追加して行った実験を示す.筋を追加する前は,
Fig.10 より深く屈伸すると力不足で再び直立に戻る事
ができなかったが,片足一本ずつ 4.5W モータの筋モ
ジュールを追加することにより,Fig.11 の深さまで膝
を曲げても直立に戻ることができるようになった.
Fig.11 筋追加による深い屈伸
5.
まとめ
人間の骨格系に学び,腱太の腰脚部を置換可能な形
の筋骨格型腰脚部を開発した.内骨格構造に筋モジュー
ルを用いることで,筋の追加・配置変更が容易な筋骨
格型ロボットが構築できることを示した.今後は,経
時変化も想定した複雑な身体構造を扱ってゆけるソフ
トウェアの構成法の研究を行ってゆく予定である.
参考文献
1) 広瀬, 佐藤. 多自由度ロボットの干渉駆動. 日本ロボット
学会誌, 7(2):20–27, 1989.
2) 稲葉, 長嶋, 水内, 但馬, 吉海, 國吉, 井上. 脊椎を持つ全
身腱駆動ヒューマノイド「腱太」の開発. 第 19 回日本ロ
ボット学会学術講演会, pp. 775–776, 2001.
3) 陰山, 長嶋, 山口, 加賀美, 稲葉, 井上. 交代磁場を用いた
球ジョイントの 3 軸角度検出センサ回路. 日本機械学会
ロボティクス・メカトロニクス講演会’00 講演論文集, pp.
2A1–54–068, 2000.
4) 但馬, 水内, 吉海, 長嶋, 國吉, 稲葉, 井上. 球面ジョイント
を用いたヒューマノイド の四肢構造. 第 19 回日本ロボッ
ト学会学術講演会講演論文集, pp. 779–780, 2001.