く す り と 健 康 の は な し 県立光風病院 ARP 薬物教室 2015 年 10 月改訂 はじめに アルコール依存症は、断酒を続けなければ回復しない病気です。そのために は、薬物療法、精神療法、家族療法が必要です。 入院中の治療プログラムを通じて ① 病気を受け入れ、アルコール依存症であることを認める。 ② アルコール依存症とはどういう病気か、病気の性質について学ぶ。 ③ 入院中の治療プログラムに参加し、断酒会に参加し続ける。 ④ 抗酒剤を服用する。・・・これらのことに取り組んでいただくことになり ます。 このような治療を行うために、当院のアルコール専門病棟は、医師、看護師、 栄養士、作業療法士、精神保健福祉士(相談員・PSW) 、検査技師、薬剤師が 力を合わせ取り組んでいます。 私達薬剤師は、入院時での服薬指導、月1回のアルコール教室、退院時での 服薬指導等を行い、薬物療法について理解を深めていただき、治療と回復、断 酒継続に少しでもお役に立てたらと思っております。 光風病院 薬剤部 目次 第1章 アルコール依存症 1.アルコール依存症とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.アルコール依存症が引き起こす病気 ・・・・・・・・・・・・ 3.アルコールの分解(代謝)される仕組み ・・・・・・・・・・ 4.アルコール離脱の薬物療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)抗酒剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2 3 4 6 (2)ジアゼパム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 (3)ビタファント F ・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 (4)睡眠薬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (5)レグテクト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 5.アルコール関連症への治療薬 ・・・・・・・・・・・・・・・17 第2章 アルコールと肝障害 1.肝臓の働き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 2.肝臓病の症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3.アルコール性肝障害とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・20 4.アルコール性肝障害の治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・22 5.薬物療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 (1)ウルソ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 (2)プロヘパール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 (3)グリチロン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 (4)アミノレバン E N・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 (5)アミノバクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 (6)ラクツロース ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 6.薬物による肝障害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 第3章 アルコールと糖尿病 1.糖尿病とインスリン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 (1)インスリンとは ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 (2)糖尿病とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 2.薬物療法 (1)薬物療法の進め方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 (2)経口血糖降下剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 (3)インスリン注射剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・32 3.低血糖症状について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 4.シックデイ(病気の日)の対応 ・・・・・・・・・・・・・33 5.アルコールと糖尿病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 第4章 アルコールと膵炎 1.膵臓の働き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 2.膵炎の原因と症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 3.膵炎の治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 4.薬物療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 (1)カモスタットメシル酸塩・・・・・・・・・・・・・39 (2)エクセラーゼ・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 (3)ブスコパン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 5.アルコールと膵炎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 第5章 アルコールと痛風 1.痛風とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 2.尿酸とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 3.高尿酸血症の原因と症状 ・・・・・・・・・・・・・・・・44 4.高尿酸血症の治療 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 5.薬物療法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 (1)アロプリノール ・・・・・・・・・・・・・・・45 第6章 薬と食べ物の飲み合わせ 1.薬の体内での流れ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 2.薬と食べ物の飲み合わせ ・・・・・・・・・・・・・・・・48 (1)「相互作用」とは ・・・・・・・・・・・・・・・48 (2)薬と食べ物・嗜好品の飲み合わせ ・・・・・・・48 第1章 アルコール依存症 1.アルコール依存症とは 2.アルコール依存症が引き起こす病気 3.アルコールの分解(代謝)される仕組み 4.アルコール離脱の薬物療法 (1)抗酒剤 (2)ジアゼパム (3)ビタファント F (4)睡眠薬 (5)レグテクト 5.アルコール関連症への治療薬 第2章 アルコールと肝障害 1.肝臓の働き 2.肝臓病の症状 3.アルコール性肝障害とは 4.アルコール性肝障害の治療 5.薬物療法 (1)ウルソ (2)プロヘパール (3)グリチロン (4)アミノレバン EN (5)アミノバクト (6)ラクツロース 6.薬物による肝障害 第3章 アルコールと糖尿病 1.糖尿病とインスリン (1)インスリンとは (2)糖尿病とは 2.薬物療法 (1)薬物療法の進め方 (2)経口血糖降下剤 (3)インスリン注射剤 3.低血糖症状について 4.シックデイ(病気の日)の対応 5.アルコールと糖尿病 第4章 アルコールと膵炎 1.膵臓の働き 2.膵炎の原因と症状 3.膵炎の治療 4.薬物療法 (1)カモスタットメシル酸塩 (2)エクセラーゼ (3)ブスコパン 5.アルコールと膵炎 第5章 アルコールと痛風 1.痛風とは 2.尿酸とは 3.高尿酸血症の原因と症状 4.高尿酸血症の治療 5.薬物療法 (1)アロプリノール 第6章 薬と食べ物の飲み合わせ 1.薬の体内での流れ 2.薬と食べ物の飲み合わせ (1)「相互作用」とは (2)薬と食べ物・嗜好品の飲み合わせ 1.アルコール依存症とは アルコールを長く飲酒することによってアルコールへの精神依存と身体依存が形 成され、自分で飲酒のコントロールができない状態になり、次第に心身や社会問題が 出現する病気をいいます。 ・ 精神依存:お酒の飲み方に異常をきたした状態です。飲酒量にブレーキが利か なくなります。 ・ 身体依存:身体、特に脳がアルコール漬けになった状態が身体にとって当たり 前になり、お酒が切れたときは、離脱症状が出てきます。 離脱症状とは、 吐き気・嘔吐・発汗・寝汗・動悸、食欲がない(自律神経障害) いらいら・落ち着きがない・不安(情緒障害) 眠れない、怖い夢をみる(睡眠障害) 手足が振える、まっすぐ歩けない(振戦) けいれん発作(アルコールてんかん)、幻視、幻聴、妄想 振戦せん妄(意識がくもり、手足が振え興奮する) ・ 耐性の形成:お酒を飲み続けていると、肝臓でのアルコールを分解する酵素 の活性が増加するとともに、脳でのアルコールの感受性が鈍くなり ます。脳の感受性の低下です。同じ量のアルコールでは、次第に酔 うことができなくなり、酔うために必要なお酒の量が増えていきま す。 アルコール依存症の進行過程 (悪循環の形成) 機会的飲酒 → 常習飲酒 ↓ 精神依存 ←―――――――――― ↓ ↑ 過剰飲酒・耐性の変化 ↑ (初期には上昇、末期には低下) ↓ 離脱症状の回避(再飲酒) ↑ 身体依存の形成 ――――――→ 離脱症状の出現 ↓ 合併症悪化(潰瘍、肝硬変、膵炎、糖尿病 高血圧、心臓病、脳卒中など) ↓ 死亡 1 2.アルコール依存症が引き起こす病気 (代表的なもの) 長期にわたって大量に飲酒していると、それがもとでさまざまな体の病気を併発しま す。身体障害を起こす原因は、アルコールの臓器毒性と栄養障害です。 大量のアルコールは、全身の臓器を障害します。また、アルコール依存症になると、 食事もとらないで飲み続けることが多く、栄養の摂取が十分でなくなります。たとえ十 分な食事をしていたとしても、多量のアルコールのために吸収不良を起こすことが多い です。これらのことから、栄養が不足しやすいのです。以下に、アルコール依存症が原 因で起こる身体疾患について紹介します。 障害発生部位 病 名 肝臓 脂肪肝、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、 肝がん 膵臓 急性膵炎、慢性膵炎、糖尿病(代謝性疾患) 胃腸 急性出血性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、 吸収不良性症候群 食道 食道炎、マロリー・ワイス症候群、食道静脈瘤 食道がん 心臓 アルコール性心筋症 代謝性疾患 糖尿病、痛風 中枢神経 ウェルニッケ・コルサコフ症候群、ペラグラ脳症、 アルコール性小脳変性症、認知症(痴ほう)、 肝性脳症 末梢神経 アルコール性多発神経炎 目 中毒性弱視 骨、歯 骨粗鬆症、大腿骨骨頭壊死、虫歯、歯の欠損 筋肉 アルコール・ミオパチー 造血器官 貧血 その他生殖器官など インポテンツ、 月経異常、 胎児性アルコール症候群 2 3.アルコールの分解(代謝)の仕組み 私たちの体の中に入ったアルコールは、その20%が胃から、80%が小腸から吸収 され肝臓に運ばれます。肝臓で数種類の「アルコールを分解する酵素」によってアセト アルデヒドという毒性の強い物質に変わり、さらに分解されて酢酸(さくさん)になります。 酢酸は食品のお酢と同じ成分です。この後全身に運ばれて筋肉や脂肪組織の中で水と二 酸化炭素に分解されて体の外へ排出されます。(図を参照) アセトアルデヒドとは 「一気飲み」など急性のアルコール中毒の原因物質です。また当然悪酔いの原因物質で もあります。さらに慢性の中毒(長期の飲酒による毒性)の原因物質でもあり、頭の先 から足のつま先まで文字通り全身に害を及ぼします。 肝臓の中でのアルコールの分解 ア ル コ ー ル アルコール脱水素酵素 アセトアルデヒド アセトアルデヒド 脱水素酵素 酢酸(さくさん) 水 と 二酸化炭素 3 4.アルコール離脱の薬物療法 (アルコール離脱症状群とは・・) アルコール離脱症状のことを別名「退薬症状」とか「禁断症状」ともいいます。 わかりやすい例をあげてみましょう。女性が年を取って卵巣の機能が衰え女性ホルモ ンの出る量が少なくなると更年期障害が現れる場合がありますが、これは女性ホルモ ンの離脱症状といってもいいでしょう。今まで当たり前のように体内を流れ、それで 身体的、精神的にバランスをとっていたものがあるときを境に急にその物質が体内か ら減量されたり、消えてなくなったとき、体はバランスを崩し異常を訴えます。 一方アルコールという物質が体内から減少したり、補給されない状態が続くとアル コールに浸されていて普通の状態だった身体にとっては、まさに異常な事態が発生し たわけでさまざまな症状が出てきます。これを「アルコール離脱症状群」と言います。 アルコール離脱症状群は、その症状の出現の時間経過から ①早期症状群(小離脱) と②後期症状群(大離脱)に分類されます。 早期離脱症候群 後期離脱症候群 断酒後数時間~2 日以内で出現 手や全身のふるえ 発汗(特に寝汗) 不眠、吐き気、嘔吐 血圧上昇、不整脈 焦燥感、集中力の低下 幻聴(アルコール幻覚症) てんかん様けいれん発作(アルコー ルてんかん) 断酒後2~3日目に出現 幻視(特に虫や小動物が群れて見え る。) 幻聴 見当識障害(時間、場所、人物の見 当がつかなくなる。) 興奮(不安や恐怖による) 発熱、発汗、ふるえ 4 (アルコール離脱の治療薬) 抗酒剤 シアナマイド液、ノックビン ジアゼパム等 アルコールの作用に似た作用がある抗不安薬を飲み、アル コールと置き換え、強い離脱症状の発現を予防します。ア ルコールを断った後の不安、いらいら、あせり、ふるえ、 うつ状態、不眠を抑えます。 ビタファント F アルコールを大量に飲んでいる生活が続くと体内のビタ (ビタミン B1) ミン B1 が特に欠乏し、食べ物からの吸収も悪くなってい るため、薬で積極的に補います。神経のしびれ、ウェルニ ッケ脳症の治療にもなります。 睡眠薬 寝つきの悪い人、すぐに目が覚めてしまう人、ぐっすり眠 れない人、それぞれの症状にあわせて、各種の睡眠薬を医 師が処方します。 レグテクト 飲酒欲求を抑える作用があります。 その他 感情調整薬、抗うつ薬、向精神病薬など必要に応じて医師 が処方します。 5 (1) 抗酒剤 抗酒剤は、お酒をやめるのを助けるお薬です。多量の飲酒で体をこわしている人 やアルコール依存症になり断酒が必要な人に用います。ノックビンとシアナマイド液 の 2 種類が使われています。 ノックビン 性状・外観 臭いのある白い粉末 用法用量 1日 0.1~0.5g を1~3回経口服用 作用時間 投与後数時間後から始まり、約6日間持続 副作用 皮膚の発疹、発赤、胃腸障害、頭痛、不眠、 注意力や反射運動が低下、多発性神経炎 肝機能の異常(定期的に肝機能の血液検査を実施) 肝臓の重い症状の初期症状: だるい、食欲不振、吐き気、発熱、かゆみ、 発疹、皮膚や目の白いところが黄色くなる、 尿が茶色。 まれに脳への影響(精神病様の症状) シアナマイド液 性状・外観 無味無臭透明の水剤 用法用量 1日1%溶液を5~20mL 経口服用 作用時間 投与後約5~10 分から始まり、約 10~15 時間 持続 副作用 皮膚の発疹、かゆみ、苔癬薬疹、脱毛、 胃腸障害(悪心、嘔吐) 、頭痛、不眠、倦怠感 肝機能の異常(定期的に肝機能の血液検査を実施) 肝臓の重い症状の初期症状: だるい、食欲不振、吐き気、発熱、かゆみ、 発疹、皮膚や目の白いところが黄色くなる、 尿が茶色。 血液の異常(貧血、白血球の減少、血小板の減少) 重い皮膚の症状がまれに現われる事があります。 その初期症状は、高熱、ひどい発疹、発赤、唇や 口の中のただれ、のどの痛み、水ぶくれ、皮がむ ける、強い痛み、目の充血。 6 【薬理作用】 アルコールが肝臓のなかで分解されるときアセトアルデヒドという毒性の強 い物質にまず変化しますが、このアセトアルデヒドを分解する酵素「アセトアルデ ヒド脱水素酵素」の働きを抑えるのが、抗酒剤の主な作用です。 つまり抗酒剤は肝臓でのアルコールの分解(解毒)を途中で止めてしまうので、 少量のアルコールでもひどい悪酔いの症状を起こしてしまうのです。 顔面が真っ赤になる、悪心、嘔吐、めまい、心臓がどきどきする、脈がはやく なる、息苦しくなる、血圧が下がるなどの症状がでてきます。 【注意】 心臓、肝臓、腎臓あるいは呼吸器に障害のある人ではその障害の重さによって は使用を控える場合があります。医師とよく相談してください。 【絶対併用してはいけないもの】 *アルコール類、アルコールを含む医薬品(エリキシル剤、薬用酒、健康ドリンク剤) *アルコールを含む食品(奈良漬、ウイスキーボンボンなど) *アルコールを含む化粧品(アフターシェービングローションなど) 【併用するときは十分注意しなければいけない薬】 ★次の医薬品の作用が増強されることがあります。 テオフィリン(気管支拡張剤)、テオドール(気管支拡張剤)、 アレビアチン(抗てんかん薬)、フェニトイン(抗てんかん薬)、 フェノバルビタール(抗てんかん薬) ワーファリン(血液凝固阻止薬)、ジギタリス製剤(強心剤)、 イソニアジド(結核の薬)、フラジール(トリコモナス腟炎の薬) ★次の医薬品はアルコール添加されています。 リトナビル(抗HIV薬)、メプチンエア(喘息の発作止め) 7 抗酒剤に関してよくある質問 (質問) 自分は断酒への決意も固く、入院する前もそれほど強く酒に溺れていたわけ ではないのに、なぜ抗酒剤を飲まなければいけないのか。納得がいかないの ですが。 (答え)入院中に、あなた自身のこれまでのアルコールとの関係をじっくり見直す事 がまず必要です。また多くの人たちの体験談にも耳を傾け、この病気の深刻 さや怖さを十分自身の心とからだに刻み込んでいただきたいと思います。若 干の個人差はあれこの病気はそう簡単に個人の決意や意志で治ったり解決し たりする病気ではありません。ちょっと一杯のアルコールが再び連続飲酒を ひきおこしていくことがこの病気の本当の姿ですので、まず二度と酒を飲ま ないために抗酒剤は必要不可欠といっていいものだと思います。 (質問) 抗酒剤の副作用について勉強させてもらったが、そんな事を知れば知るほど 抗酒剤を飲む事に抵抗感をおぼえる。酒で肝臓を痛め今度は抗酒剤で肝臓を 痛めるというようなことになりそうで・・・。 (答え)抗酒剤のまれに起こる副作用より、アルコールによる肝臓はじめ全身への副 作用のほうがはるかに大きく深刻だと思います。また抗酒剤や他に飲んでい る薬の副作用については入院中はもとより、退院後も通院して定期的に医師 の診察や血液検査を受ける事により、早期に発見し対応する事ができます。 (質問) 入院中はアルコールを飲む事が不可能なのになぜ、抗酒剤を飲まないといけ ないのですか。 (答え)入院中から抗酒剤を飲んでいただき、その副作用の出方を慎重に調べあなた の体にあっているかどうか判断します。副作用の主なものは湿しんや肝機能 への影響、だるさやふらつきなどですが、血液検査や問診、あなた自身の自 覚症状の正確な訴えが大切になってきます。 また、毎朝食後に飲む習慣をつけてもらうことも重要なことなのです。 8 (2) ジアゼパム [主な作用] ジアゼパムは、穏やかな鎮静作用と、筋肉のコリをほぐす作用があるので、精神 的な緊張による断酒の症状(不安、いらだち、緊張など)や、精神緊張のための 筋肉のこり、不眠を改善します。 [適応] いろいろな病気に幅広く使われています。 ・ 不眠症の短期的治療 ―睡眠薬(眠剤)としては、作用時間が比較的長いので、 主に熟眠薬(睡眠の質を高め、熟睡できるようにする)として用いられます。 ・ 不安、パニック障害、興奮状態の治療 ・ 手術前・手術後の鎮静 ・ てんかん重積状態の治療、ならびにそれ以外のてんかんの補助療法 ・ 破傷風(他の積極的な治療と併用する) ・ 疼痛を伴う筋疾患の補助療法 ・ 脳卒中、多発性硬化症、脊髄損傷などを原因とする痙性麻痺(片麻痺、四肢麻 痺)の補助療法(長期療法としてリハビリテーションと併用される) ・ 躁病の初期管理(リチウム、バルプロ酸などの第 1 選択薬と併用される) ・ 幻覚薬、および中枢神経興奮薬の過量摂取に対する補助療法 ・ アルコール、ならびに麻薬の離脱症状の緩和 ・ 自殺企図を有するうつ病の、うつ症状が明確に緩和されるまでの初期治療(抗 うつ薬が併用される) ・ 神経遮断薬(抗精神病薬)の早期の錐体外路性副作用に対する補助療法 [薬理作用]・・・(専門的になりますので、興味のある方はお読み下さい) (神経の伝わる仕組み・神経伝達物質) 脳はものを考えたり、感情をもつところであるとともに、体内のさまざまな器官 を総合的にコントロールして生命を維持する重要な役目を果たしています。脳に は、1400 億もの「神経細胞=ニューロン(脳を構成する最小単位)」があり、 複雑な回路で結ばれています。ニューロン同士がつながる部分はシナプスと言わ れ、一つのニューロンには数百の接合点(シナプス)があります。情報がくると、 ここで微量の神経伝達物質が分泌され、次のニューロンにくっついて伝達されま す。 9 (神経伝達物質 GABA) 神経伝達物質には、わかっているだけでも数十種類あります。それらの神経伝達 物質は、種類によって役割が決まっています。GABA(ガンマアミノ酪酸)は、 脳細胞機能の抑制に働き、不安や恐怖心を抑える神経伝達物質で、不足すると不 安感に襲われたり、不眠症やてんかん発作が起こりやすくなります。 脳の興奮を抑制する神経伝達物質のガンマアミノ酪酸(GABA)は、脳内に広 範に分布し、意識、感情、運動などに関与します。神経症や心身症が起こるのは、 この影響と考えられています。ジアゼパムは、情動に関係の深い大脳辺縁系や視 床下部の GABA 受容体と複合しているベンゾジアゼピン受容体を刺激し、 GABA 神経伝達を促進し、GABA の持つ抑制作用を増強し、不安や焦燥感、緊 張を和らげます。精神状態を穏やかにさせることを目的として鎮静作用を持ちま すが、精神機能や情動を抑制するものの自律神経や錐体外路機能に大きな影響を 与えないことから、抗精神病薬がメジャートランキライザーといわれるのに対し て、マイナートランキライザーといわれます。抗不安作用、鎮静・催眠作用、筋 緊張緩和作用、抗けいれん作用などがあります。 断酒による離脱症状を緩和するために、アルコールと交叉身体依存性があるベン ゾジアゼピン系の薬物(ジアゼパム)が使われます。交叉依存とは、ある薬物依 存が、まったく別の薬物の依存に継続できる状態をいいます。アルコールをセル シンに置き換え、重篤なせん妄の発症を防ぐことが可能です。 [用法用量] 通常、成人は1回ジアゼパムとして2~5mg を 1 日2~4回経口服用します。 ただし、外来患者は原則として 1 日量 15mg 以内です。 筋痙攣患者に用いる場合は、通常成人は1回ジアゼパムとして 2~10mgを 1 日3~4 回経口服用します。なお、年齢、症状、疾患により適宜増減します。 10 [副作用] 眠気、倦怠感、運動反射機能の抑制、頻脈、血圧低下などが起こったり、吐き気、 便秘などの胃腸障害が生じることがあります。重症筋無力症の患者には呼吸困難 のおそれがあるので、一般には使用されません。また、眼圧を上昇させる場合が あるので、一部の緑内障にも一般には用いません。大量を連用すると依存性を生 じて、この薬を服用しないと、不安になったり眠れなくなったりすることがあり ます。 (3)ビタファント F (一般名 フルスルチアミン) [主な作用] ビタミン B1 は、 神経組織の働きを維持するために欠くことのできない物質です。 末梢神経や中枢神経が障害されたとき、その修復に役立ちます。ビタミン B1 欠 乏症の治療と予防のほか、妊婦などで必要量が増している状態の補給、また、不 足したり代謝が悪い状態の各種神経痛・筋肉痛などに用いられます。 アルコールを大量に飲んでいる生活が続くと体内のビタミン B1 が特に欠乏し、 食べ物からの吸収も悪くなっているため、薬で積極的に補います。神経のしびれ の改善、ウェルニッケ脳症の予防や治療に役立ちます。 [ビタミン欠乏症] ビタミン B1 欠乏症には、大きく分けて脚気とウェルニッケ・コルサコフ症候群 の2種類があります。前者では末梢神経が、後者では中枢神経が侵されることに より起こります。 (症状は) 脚気:全身の倦怠感、動悸、手足の浮腫(むくみ)やしびれ感、感覚異常、筋 力低下、腱反射消失や脚気心(かっけしん)と呼ばれる心不全が起こり ます。 ウェルニッケ脳症:中枢神経の疾患で、眼球運動の麻痺や歩行運動の失調と伴 い、慢性化するとコルサコフ症という記銘力(物を記憶する力)の低下、 見当識(時間と場所などを正しく認識する機能)の喪失、健忘症や作話 を主症状とした精神疾患に移行します。 [適応] ・ ビタミン B1 欠乏症の予防および治療 ・ ビタミン B1 の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な際の補給(消耗性疾 患、甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦、激しい肉体労働時等) ・ ウェルニッケ脳症 11 ・ 脚気衝心 ・ 次の疾患のうち、ビタミン B1 の欠乏または代謝障害が関与すると推定される 場合(ただし、効果がないのに月余にわたって漫然と使用しないこと) 神経痛、筋肉痛・関節痛、末梢神経炎・末梢神経麻痺、心筋代謝障害、 便秘等の胃腸運動障害、術後腸管麻痺 [薬理作用] 1.神経機能障害改善作用 ビタミン B1 は、糖分のエネルギー変換や、神経組織の形態保持上重要で す。ビタファントFは、神経組織へ移行すると共に、神経細胞の増殖促進、 神経再生促進、骨格筋活動電位の増加等の作用があり、ビタミン B1 の欠 乏または代謝障害と関連する神経機能障害を改善します。 2.心筋代謝障害改善作用 ビタファント F はビタミン B1 に比べて心筋細胞への取り込みが良く、 心 筋代謝障害を改善します。 3.腸管蠕動運動亢進作用 腸管蠕動運動亢進作用があります。 [用法用量] フルスルチアミンとして、通常、成人は 1 日 25~100mg を経口服用します。 なお、年齢、症状により適宜増減します。 [副作用] 副作用はまずありません。あっても、吐き気や胸焼け、胃痛、胃部不快感、軽 い下痢、口内炎くらいです。 水溶性のビタミンですので、とりすぎてもすぐに排泄され、体にたまることもあ りません。 (4)睡眠薬 [主な作用] 脳に直接作用して催眠作用と鎮静作用を示すので不眠症の治療に用います。また、 筋肉を弛緩させる作用もあるので麻酔の前の処置にも用いられます。 寝つきの悪い人、すぐに目が覚める人、ぐっすり眠ったと思えない人、それぞれ の症状に合わせて、医師が処方します。 12 [薬理作用] ストレスがあると、アドレナリンなどの分泌が促進され、脳幹網様体や視床下部 から大脳皮質の調節機構に作用し、大脳皮質を覚醒状態にし不眠になります。大脳 皮質が覚醒状態にあり、それをストレスと感じれば脳幹網様体を覚醒状態にし、ま たアドレナリンの分泌を促進し、ひいては大脳皮質を覚醒状態にするという悪循環 を起こし不眠になります。 治療には、抗不安薬と同様の薬理作用をもつベンゾジアゼピン受容体作動系睡眠薬 が使われます。情動に関係の深い大脳辺縁系や視床下部の GABA 受容体と複合し ているベンゾジアゼピン受容体に薬物が結合し、GABA 受容体が活性化され、 GABA 神経伝達を促進し、中枢神経系が抑制方向に作用、催眠を促します。 [種類] 血中半減期(薬物の血中濃度が半減するのに要する時間)を指標にすると、 超短時間型(半減期2~4 時間以下) 短時間型(5~10 時間前後) 中間型(11~30 時間前後) 長時間型(30 時間以上) に分類されます。 以下に当院採用品でよく用いられるものについて紹介します。 種類 一般名 商品名 効果(分) 持続時間(hr) 血中半減期(hr) 超短時間型 ゾルピデム ゾルピデム 15~60 6~8 2~3 ゾピクロン アモバン 15~30 6~8 3~4 ブロチゾラム ブロチゾラム 15~30 7~8 7 塩酸リルマザホン リスミー 30~60 7~8 10 フルニトラゼパム フルニトラゼパム 30 6~8 15 エスタゾラム ユーロジン 15~30 4~6 24 ニトラゼパム ニトラゼパム 15~45 6~8 21~25 クアゼパム クアゼパム 15~60 6~8 36 短時間型 中間型 長時間型 13 [現象による不眠の分類と使用薬剤] 入眠障害 超短時間型 短時間型 ○ ○ ○ ○ 寝つきが悪く入眠までに 中間型 長時間型 1 時間以上を要する 熟眠障害 眠りが浅く熟睡感がない 中途覚醒 夜中に何度も目が覚め、し ○ ○ ○ ○ ばらく眠れない 早朝覚醒 意に反して早く目が覚め、 朝まで眠れない [副作用] 持ち越し効果(眠気、頭重感、ふらつき)、 記憶障害(前向性健忘)、 筋弛緩作用(脱力感、転倒)、 常用量依存(耐性を生じることがなく、高用量での乱用には至らない) 、 離脱・反跳現象(不眠・不安・気分不快・筋肉痛・知覚過敏(音・光)) 奇異反応(不安・緊張・焦燥感・興奮・攻撃性) などがあります。 [注意] 1、睡眠薬は肝臓や腎臓のはたらきが弱っている人や高齢者では副作用が現れやすく なります。 2、一方、ぜんそくや呼吸器に疾患があるとこの薬の副作用としての呼吸抑制が現れ たとき危険です。原則使用禁忌。 3、また、睡眠中に何度も呼吸が停止する睡眠時無呼吸症候群の患者さんにはほとん どの睡眠薬は使用禁忌となっています。 4、睡眠薬もアルコールもともに中枢神経のはたらきを抑え、呼吸機能の抑制、筋肉 の弛緩(ふらつき、脱力)作用があり、互いに作用を増強しあうので、併用は絶 対避けてください 5、一方、超短時間型の睡眠薬とアルコールの飲みあわせで興奮や攻撃性が増したり 錯乱状態となったりすることがあります。 (当院では採用されていませんが、 「ハ ルシオン」という薬はその傾向が強い。) 14 (5) レグテクト(一般名 アカンプロサート) [主な作用] 中枢神経系に作用して、アルコール依存で亢進した神経活動を抑制することで、 飲酒欲求を抑えます。 [薬理作用] アルコール依存では、中枢神経系の主要な興奮性神経であるグルタミン酸作動性 神経活動が亢進し、興奮性神 経伝達と抑制性神経伝達の間に不均衡が生じると考 えられています。 本薬の作用機序は明確ではないものの、アルコール依存で亢進したグルタミン酸 作動性神経活動を抑制することで神経伝達の均衡を回復し、飲酒欲求を抑制する と推察されています。 15 [用法用量] 通常、成人にはアカンプロサートカルシウム(一般名)として 666mg を 1 日 3 回食後に経口投与します。 腸溶錠なので、かんだり、割ったり、砕いたりせずにそのまま飲んでください。 医師の指示なしに、自分の判断で飲むのを止めないでください。 場合によっては、333 ㎎(1 錠)を 1 日 3 回食後に服用していただく場合もありま す。 [副作用] アカンプロサートの副作用で最も問題になるのは、下痢や軟便が現れることです。 特に投与初期に現れやすく、しばらく服用を続けると軽快することが多いようで す。他に、頻度は高くありませんが、アレルギー、眠気、吐き気などが副作用と して挙げられています。 16 5.アルコール関連症への治療薬 肝障害 肝臓の主な働きは、代謝機能(糖質、脂質、蛋白、ビタミン、ホルモン等)血液凝固機 能、胆汁産生、解毒作用の 4 つがあげられます。これらの機能が低下します。 肝臓の働きを助ける薬剤 ウルソ、グリチロン、プロヘパール等 不足のアミノ酸を補充する薬剤 アミノレバン EN、アミノバクト等 その他薬剤 ラクツロース等 脳、神経障害 脳の萎縮・足の運動偏重、思考力・判断力・感情等の障害、記憶障害、末梢神経・手足 のしびれ、感覚の異常、こむら返り等の症状があります。 ビタミン剤 ワッサーV、ビタファント F、ノイロビタン、 メチコバール等 胃・腸障害 アルコールは、胃粘膜の胃酸分泌を過剰にし、胃炎・胃潰瘍になりやすくなり、また消 化・吸収も悪くなります。 荒れた胃の膜を保護、 レバミピド、セルベックス、マーロックス、 修復する薬剤 プロマック、アルサルミン等 胃酸の出方を調整す ファモチジン D、ラニチジン、 る薬剤 ランソプラゾール、ラベプラゾールNa塩等 消化剤 SM 散、センブリ・重曹散、エクセラーゼ等 便秘治療剤 ダイオウ、センノシド、ピコスルファートナトリウム、マグ ラックス、酸化マグネシウム等 膵臓障害 慢性膵炎の 50%以上は、アルコールの過剰飲酒によるものです。 蛋白分解酵素の活性 カモスタットメシル酸塩 を抑える薬剤 糖尿病薬剤 インスリン注射液、グリベンクラミド、 ボグリボース 糖尿病による神経障 エパルレスタット 害薬剤 循環障害 血管が詰まりやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすくなります。心臓の筋肉の収 縮力が弱まり、心不全、不整脈が起こりやすくなります。 高血圧治療剤 ニフェジピンL、アムロジピン、エナラプリル等 高脂血症治療剤 ベザフィブラートSR、アトルバスタチン等 抗血栓剤 バイアスピリン 17 18 1.肝臓の働き 18 2.肝臓病の症状 19 3.アルコール性肝障害とは お酒の飲みすぎによって肝臓が負担を受け起こる病気、脂肪肝や肝硬変、肝炎の総 称です。 はじめは、肝細胞に中性脂肪がたまって肥大化し、肝臓が全体に腫れるアルコール 性脂肪肝になり、軽い腹部不快感や疲れやすさ、食欲不振や痩せが見られます。 更に、負担が増加すると、肝臓の線維化がますます進み肝臓の働きも低下するアル コール性肝硬変へ移行し、黄疸や疲れやすさ、腹部不快感、吐き気、上腹部痛などの 症状が出てくることが多くなります。 アルコール性肝障害は徐々に病気が起こってきますが、急に症状がでてくることが 少なくないのがアルコール性肝炎です。強い黄疸や発熱、震えや意識混濁などの精神 症状を伴うこともあります。 (アルコールの分解) アルコールは肝臓で処理されます。アルコールは、脳や筋肉、神経に多大な悪影響 を与えるため、アルコールを無害化(無毒化)しようと働きます。 まず、最初に、アルコール脱水素酵素や滑面小胞体、MEOS(メオス、ミクロゾ ームエタノール酸酵素)の働きにより、アセトアルデヒドに変化します。このアセト アルデヒドも人体に有害な物質で肝細胞にも直接悪影響を及ぼし、肝細胞が死んで線 維化が進むとされています。吐き気や顔が赤くなったり頭痛がしたりするのもこのア セトアルデヒドが血中に増えてくることによって起こります。 アセトアルデヒドを分解する酵素(アセトアルデヒド脱水素酵素 ALDH)には、 血中濃度が低いうちから働くものと、高濃度にならないと働かないものがあります。 これらの酵素の働きによってアセトアルデヒドは、無害な酢酸へと替えられていきま す。酢酸となったアルコールは体内で擬エネルギーとして消費され、二酸化炭素と水 に変わり体外へ排出されます。 (どのぐらいが危険・・) アルコール性脂肪肝になる酒量の目安:日本酒にして毎日3合くらいを5年、 アルコール性肝硬変になる酒量の目安:日本酒にして毎日5合くらいを10年以上 女性は、男性よりアルコール性肝障害になりやすく、1日2合の飲酒が続いても肝 障害を引き起こす恐れがあります。 20 アルコール性肝障害のまとめ なぜ起こるか ア ル コ ー ル 性 健康な肝細胞には、3~4%の脂肪(中性脂 脂肪肝 肪)が含まれています。この量が増え、10 ~13%の含有量になると肝細胞に脂肪がた まっていきます。それが3分の1以上の肝細 胞に発生した場合を脂肪肝と診断します。ア ルコールによって肝細胞が障害され、肝臓の 脂質代謝にトラブルが起こり脂肪が肝臓にた まってしまいます。 診断は、超音波検査が決めてです。脂肪のた まった肝臓は、全体が脂肪のために白く、キ ラキラ輝いているように見えます。 症状 自覚症状がないこと が多く、認めても軽 度の全身倦怠感、疲 れやすさ ア ル コ ー ル 性 脂肪肝の状態のまま飲酒を続けると、肝細胞 食思不振、嘔気、嘔 肝炎 の一部が破壊され、肝臓が炎症を起こします。 吐、全身倦怠感、発 熱、右上腹部から心 窩部にかけての疼 痛、腹部膨満感、体 重減少、下痢、肝腫 大、黄疸、腹水 肝細胞は傷ついても自分で再生する力があり ア ル コ ー ル 性 ますが、ダメージを繰り返すと、傷跡がひき 肝線維症 つれたように線維状になってきます。アルコ ール肝線維症は、肝細胞と肝細胞の間に線維 状のものが増えた状態を言います。炎症の名 残であるとか、アルコールが線維の合成を刺 激する作用があると言われています。 食欲不振や全身倦怠 感、つかれやすさ、 肝腫大、肝機能の軽 度から中等度の異常 ア ル コ ー ル 性 肝臓が繰り返しダメージを受けると肝細胞が 全身倦怠感、腹部 肝硬変 こわれ、肝細胞と肝細胞の隙間に線維が増え 膨満感、食思不振 ていきます。線維は硬いものですから肝臓は 肝腫大、クモ状血管 硬くなり表面はでこぼこになってしまいま 腫、手掌紅斑、女性 す。このため肝臓の血液の流れが悪くなり細 化乳房、食道静脈瘤、 胞自体が傷ついてしまいます。肝臓の機能が 黄疸、腹水、食道静 低下し、元の健康な肝臓に戻ることは不可能 脈瘤破裂、肝性脳症 な病気です。肝硬変による死亡は、肝不全が 3分の1、消化管出血が3分の1、肝癌が3 分の1と言われています。 21 4.アルコール性肝障害の治療 1.禁酒 2.安静(肝炎の時) 3.食事療法(高たんぱく、高カロリー、高ビタミン) 4.肥満及び脂肪肝があるときは、カロリーを適宜減量 5.肝性脳症があるときは、たんぱく質を制限 6.薬物療法 (当院で用いられる薬剤) 肝臓の働きを助ける薬剤 不足のアミノ酸を補充する薬剤 その他の薬剤 下剤:便秘になって腸内に便がとど まると肝臓に負担をかける (肝機能検査) ウルソ、グリチロン、プロヘパール等 アミノレバン EN、アミノバクト等 ラクツロース等 センノシド、ピコスルファートナトリウ ム等 血液検査の主なものを紹介します。 検査項目 正常値 この検査で何がわかるか 血清総蛋白 6.7~8.3 低下は肝臓のタンパク合成の低下 A/G 1.0~2.0 低下は肝臓のタンパク合成の低下 LAP 34~69 高値は肝臓や胆道の異常 T-Bill(総ビリルビン) 0.2~1.2 高値は黄疸がある場合 CH-E(コリンエステラーゼ) 185~431 低値は肝機能の低下。脂肪肝では高値になることも。 AL-P 104~338 高値は肝機能の異常や胆汁の流れが悪いことも。 AST(GOT) 8~38 高値になるほど肝細胞の障害の程度が高い。逆に肝 硬変が進むと低下することも。 ALT(GPT) 4~44 高値になるほど肝細胞の障害の程度が高い。逆に肝 硬変が進むと低下することも。 LDH 126~226 肝疾患以外でも高値になることも。 γ―GTP 男 11~64 女 8~45 高値は肝障害のほかにアルコールの肝臓への影響が 大きいことを示す。 T―cho 120~220 低値は肝臓のコレステロール合成の低下 NH3 12~66 高値は肝臓のアンモニア分解能力の低下 22 5.薬物療法 (1) ウルソ (一般名 ウルソデオキシコール酸) [主な作用] 胆汁の流れをよくして、肝臓を守る薬です。胆石や肝臓病に用います。 (作用 1)利胆作用:胆汁の流れをよくして、胆石を溶かします。小さめのコレ ステロール系胆石を溶かすのに適します。大きい胆石や石灰化した胆 石には向きません。 (作用 2)肝機能改善作用:肝臓の血流をよくして、肝臓の細胞を守ります。特 に、胆石や胆汁うっ滞を伴う肝臓病に向きます。また、慢性肝炎にお いても肝機能値の改善結果が認められます。 (作用 3)消化吸収改善作用:消化不良を改善して食べ物の吸収を助けます。 [効能] (効能 A)次の疾患における利胆:胆道(胆管・胆のう)系疾患および胆汁うっ 滞を伴う肝疾患 (効能 B)外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解 (効能 C)原発性胆汁肝硬変における肝機能の改善 (効能 D)C 型慢性肝疾患における肝機能の改善 [用法用量] (効能 A)通常、成人 1 回 50mg を 1 日3回経口服用します。 なお、年齢、症状により適宜増減します。 (効能 B・C)通常、成人 1 日 600mg を 3 回に分割経口服用します。 なお、年齢、症状により適宜増減します。 (効能 D)通常、成人 1 日 600mg を 3 回に分割経口服用します。 なお、年齢、症状により適宜増減します。 増量する場合の 1 日最大服用量は 900mgとします。 [副作用] 下痢、軟便、吐き気、食欲不振、胸やけ、発疹などがおこることがあります。 重い副作用は殆どなく、長期服用も安心です。 重い副作用 めったにないですが、初期症状等に念のため注意してください。 ・間質性肺炎・・から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱 [注意] ・ 胆道が完全に詰まっている場合には使用できません。消化性潰瘍や重い膵臓病の ある人にも慎重に用います。 ・ 飲み合わせ・食べ合わせ:糖尿病の薬の作用を増強するおそれがあります。また、 コレステロール低下薬のコスチラミン(クエストラン)や、胃薬の制酸剤と一緒 に飲むと、この薬の作用が弱まる可能性がありますので、2~3時間あけてくだ さい。 23 (2) プロヘパール [主な作用] 肝臓を守る薬です。 主要成分は、牛の肝臓を加水分解した「肝水解物」です。その他、肝臓によいビタ ミンやアミノ酸も配合されています。これらの作用により、肝臓を守り、その 働きを高める効果が期待できます。強い作用があるとはいえませんが、副作用 は殆どありません。 [効能] 慢性肝疾患における肝機能の改善 [用法用量] 通常、成人、1 回1~2錠を 1 日3回経口服用します。 [副作用] 発疹、蕁麻疹、吐き気、胃の不快感、顔のほてり感、頭痛 (3) グリチロン [主な作用] 肝臓を守る薬です。 主要成分は、甘草(カンゾウ)という植物に由来するグリチルリチンです。グリ チルリチンには、免疫調整作用や抗アレルギー作用、抗炎症作用などがあります。 慢性肝炎に用いた場合、肝機能値が改善することも確かめられています。肝臓病 に用いることが多いのですが、湿疹や皮膚炎、円形脱毛症、口内炎などにも適応 します。 [効能] 慢性肝疾患における肝機能異常の改善 湿疹・皮膚炎、小児ストロフルス、円形脱毛症、口内炎 [用法用量] 通常、成人は 1 回 2~3錠、小児は 1 錠を 1 日 3 回食後経口服用 します。なお、年齢、症状により適宜増減します。 [副作用] 偽アルドステロン症:だるい、血圧上昇、むくみ、体重増加、手足 のしびれ・痛み、筋肉のぴくつき・ふるえ、力が入らない、低カリ ウム血症 24 (4) アミノレバン EN [主な作用] 肝臓病に用いる総合栄養剤です。 栄養状態を改善し、肝性脳症を予防します。 体の栄養分の「アルブミン」は、肝臓で合成されます。肝硬変などで肝臓の働きが 低下すると、そのアルブミンが不足し、栄養状態が悪くなります。さらに、血液中 のアミノ酸のバランスもくずれてきます。肝臓で代謝されるべき「芳香族アミノ酸」 が増加し、筋肉で代謝される「分岐鎖アミノ酸」が減少してしまうのです。そして、 肝性脳症や腹水など肝硬変に特徴的な症状をもたらします。 このお薬には、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類の分岐鎖アミノ酸を中心 に、さまざまなビタミンやミネラルが配合されています。不足している分岐鎖アミ ノ酸を補給することで栄養状態がよくなり、肝性脳症や腹水の改善効果も期待でき ます。肝性脳症をともなう重い肝臓病で栄養状態が悪いときに用いられます。 [効能] [用法用量] 肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善 通常、成人に 1 回量として1包(50g)を約 180mL の水または温 湯に溶かし(約 200kcal/200 mL)1 日 3 回食事と共に経口摂取 します。なお、年齢・症状に応じて適宜増減します。 [副作用] 下痢、おなかが張る、吐き気、食欲不振、血糖値の上昇 重い副作用:低血糖・・ふるえ、さむけ、動悸、冷や汗、強い空腹感、力の抜け た感じ、頭痛、不安感、吐き気、目のちらつき、イライラ、ぼんや り。異常な言動、けいれん、意識がなくなる [注意] 牛乳アレルギーのある人は使用できません。また、糖尿病を合併してい る人は、他の食事を含め摂取カロリーに注意が必要です。 (5) アミノバクト [主な作用] 肝臓病に用いる栄養剤です。 栄養状態を改善し、肝性脳症を予防します。 体の栄養分の「アルブミン」は、肝臓で合成されます。肝硬変などで肝臓の働きが 低下すると、そのアルブミンが不足し、栄養状態が悪くなります。さらに、血液中 のアミノ酸のバランスもくずれてきます。肝臓で代謝されるべき「芳香族アミノ酸」 が増加し、筋肉で代謝される「分岐鎖アミノ酸」が減少してしまうのです。そして、 肝性脳症や腹水など肝硬変に特徴的な症状をもたらします。 このお薬には、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類の分岐鎖アミノ酸が配合 25 されています。不足している分岐鎖アミノ酸を補給することで栄養状態がよくなり、 肝性脳症や腹水の改善効果も期待できます。肝硬変など重い肝臓病で栄養状態が悪 いときに用いられます。 [効能] 食事摂取量が十分にもかかわらず低アルブミン血症を呈する非代償性 肝硬変患者の低アルブミン血症の改善。 [用法用量] 通常、成人に 1 回 1 包を 1 日 3 回食後経口服用します。 [副作用] 下痢、おなかが張る、吐き気、食欲不振 [注意] 肝硬変が非常に進行している場合、使用できないことがあります。 (6) ラクツロース [主な作用] 便通をよくし、血液中のアンモニアを減らす薬です。 人工的に合成された糖類の仲間です。肝硬変に伴う高アンモニア血症の治療に用 いられることが多いです。 【作用-1】 肝硬変などで肝臓の働きが低下すると、体内のアンモニアを代謝できなくなり、血 液中のアンモニアが増えてきます。その影響で、眠気や気分の変化、さらに意識の 乱れ、けいれん、昏睡などの重い脳症状があらわれることがあります。肝性脳症で す。 このお薬は、血液中のアンモニアを減らす働きをします。そのしくみは、乳酸菌を 増やして腸内を酸性に、悪玉のアンモニア産生菌を減らすことによります。さらに 便通もよくなるので、アンモニアの吸収がおさえられます。 そのような作用から、肝硬変にともなう高アンモニア血症の治療に用いられていま す。アンモニアを減らすことで、肝性脳症の予防や改善につながります。 【作用-2】 腸内の水分を増やして、便をやわらかくします。また、乳酸菌により分解をうけて 乳酸や酢酸がつくられ、その刺激で腸の運動がよくなります。便秘症に有効です。 [効能] ・ 高アンモニア血症に伴う次の症候の改善//精神神経障害、脳波異常、手指振戦。 ・ 産婦人科術後の排ガス・排便の促進。・小児における便秘の改善。 26 [用法用量] 【ラクツロースシロップ】・・当院採用品 通常成人1日量 30~60ml を2~3回に分けて用時、水又は湯水に溶解後経口服 用します。なお、本剤の服用により、下痢が惹起されることがあるので少量より 服用を開始して漸増し、1日2~3回の軟便が見られる量を服用します。 [副作用] [注意] 下痢、おなかの張りやゴロゴロ、腹痛 糖分が含まれますので、糖尿病のある人は気をつけてください。 糖尿病治療薬のαグルコシダーゼ阻害剤(ボグリボース)と一緒に飲む と、腸内ガスの発生や下痢の副作用が起こりやすくなる可能性がありま す。少量より開始し、便通の具合に注意しながら増量していきます。 6.薬物による肝障害 アルコールをはじめ薬物(薬)は殆ど肝臓で分解(解毒)されます。薬による副作 用でも高い頻度で現れるのが肝障害(肝機能障害)です。肝障害には、大きく分 けて2種類あります。 「アレルギー性肝障害」と「中毒性肝障害」です。 (1)アレルギー性肝障害 ① 少数、特定の人のみに起こります。 ② 薬の量が少なくても起こります。 ③ 発熱、発疹、関節の痛み、血液中の好酸球が増えます。 (2)中毒性肝障害 ① ② ③ ④ すべての人、動物でも起こります。 薬の量が増えれば障害も大きくなります。 他の臓器にも障害を与えます。 肝細胞の壊死、脂肪化など。 肝障害の初期症状 ① ② ③ ④ ⑤ 発熱(38 度から 39 度) 。 紅いぶつぶつ様の発疹、体がかゆい。 食欲低下、気分が悪い、下痢。 次第に強くなる全身のだるさ。 皮膚や白目の部分が黄色くなります(黄疸)。 薬剤性肝障害を起こしやすい薬 風邪薬、解熱・鎮痛剤、抗菌剤(抗生物質)まれにビタミン剤、消化剤、 漢方薬でもあります。街の薬局やコンビニで売られている薬も安全とは いえません。 27 1.糖尿病とインスリン (1)インスリンとは インスリンは、膵臓で作り出され、ブドウ糖をエネルギーに変えたり、貯蔵したり するホルモンで、血糖値コントロールやエネルギー確保をする上で、欠かすことので きないものです。 インスリンの働き ① 食事をすると、血糖値が上がり、すい臓がインスリンを分泌し始めます。 ② 分泌されると肝臓に送られ、細胞膜にある「インスリン受容体」に結合し、細 胞の中にブドウ糖が入っていけるようにします。 ③ 肝臓は、インスリンの力で、ブドウ糖をグリコーゲンにかえ、肝臓の内部に蓄 えます。 ④ また、インスリンは全身の血液に入り、筋肉や脂肪組織に働きかけて、ブドウ 糖の利用と蓄積を促します。血糖はカラダにとって第1のエネルギー源で、体 を動かすたびに筋肉で使われます。このときにインスリンが大切な役割を果た します。エネルギー源の不足に備え、貯めるようにも働きます。 ⑤ 食事をしたあと、一時的に増加したブドウ糖量はこのようにして調節され低下 します。 このインスリンが必要量分泌されていなかったり、分泌の速度が遅くなると、血糖値 が下がらなくなっていきます。血液中のブドウ糖はエネルギーにかわらず、どんどん溜 まっていくことになり、尿と一緒に体外に捨てられてしまうことになります。体からエ ネルギーが失われ、倦怠感に襲われるだけでなく、血糖コントロールもできなくなりま す。この状態が糖尿病です。 28 (2)糖尿病とは [糖尿病の分類] 糖尿病には、いくつかの分類があります。 1.インスリンを作れなくなった状態(インスリンが殆ど出ない) ⇒1型糖尿病 2.インスリンを作っているが不足していたり、効かない場合 ⇒2型糖尿病 と分けられます。 また、2型糖尿病では、インスリンの量が足りない インスリンが効かない ⇒ インスリン分泌低下 ⇒ インスリン抵抗性 という分類もあります。( これは治療を行ううえで重要になってきます。) [糖尿病の症状] 1. ブドウ糖が筋肉や全身の細胞にエネルギーと して使われなくなるので、疲れやすくなる 2. 血液の中を濃いブドウ糖が流れているので濃 度を薄めようとして水分を求める (のどが渇く) さらに尿として体の外に出そうとする(多尿) 3.筋肉中たんぱく質や脂肪組織の脂肪を分解して エネルギーを作り出すので痩せてくる 4.血糖値が高い状態が長時間続くと、血管や神経が障害を受けて、全身にさまざま な合併症が起こり手遅れとなる。 [3大合併症] 血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高いまま放置しておくと、 体の血管が狭く、硬く なり(動脈硬化)、いろいろな合併症をおこします。 糖尿病では特に細い血管が硬化 しやすいため、網膜症、腎症、 神経障害がもっとも多く糖尿病の3大合併症とよ ばれています。 網膜症 目の網膜の血管がいたんで、出血や網膜剥離を起こし、放っておくと失明 してしまいます。 腎症 腎臓の働きが悪くなり、体内にたまった老廃物を体外に出せなくなり、進 行すると透析が必要になります。 神経障害 神経が痛んで手足にしびれや痛みが起こり感覚が麻痺することもあり、 進行すると足の指などに壊疸を起こして、切断しなければならないことも あります。また、高血糖が長年続くと細い血管だけではなく、心臓や脳の 血管のようにより大きい血管もいたんで、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやす くなります。 29 2.薬物治療 糖尿病の主な治療は、 食事療法と運動療法です。 しかし、それでも血糖値のコント ロールができない場合は薬物療法を追加します。 (1)薬物療法の進め方 1■ 1 型糖尿病≒インスリン依存型糖尿病 インスリンの注射等による補充が必須です。 ただし、良好なコントロールのためには食事・運動療法も重要です。 経口剤ではよくなりません。 2 型糖尿病≒インスリン非依存型糖尿病 食事・運動療法で十分血糖が下がらない時に薬を使います。 食事・運動療法が守れていないといくら薬を使っても効きません。 薬は糖尿病を完治させるものではありませんが、必ずしも一生続けなければな らないというものではありません。経口血糖降下剤(のみ薬)とインスリン注 射があります。 (2)経口血糖降下剤 インスリンを増やす薬とインスリンの効きを良くする薬、食べ物の吸収を遅らせ る薬に分けられます。それぞれの病態に応じた薬の選択が必要です。異なる作用の 薬を併用することもあります。いずれもβ細胞の廃絶したインスリン依存状態の糖 尿病(1 型など)や高度のインスリン不足状態にある高血糖性昏睡などには効果が ありません。 種類 作用と適応と使用上の注意 商品名 (当院採用品) スルフォニル尿素剤 ・ 膵臓で作られているインスリンの分泌を グリベンクラミ 促し血糖を下げます。1回投与でほぼ24 ド錠、グリメピリ 時間効きます。 ド錠 ・ 最も強力、空腹時血糖も上昇してきている 30 状態に有効。肥満があると使いにくい。 ・ 食事療法を守らないと体重が増えやすい。 食後過血糖改善剤 (α―グルコシダーゼ阻害剤) ・ 糖尿病になるとインスリンの分泌が遅れ ボグリボース錠 るため食後は血糖値が異常に上昇します。 消化酵素の働きを抑え、炭水化物の吸収を 遅らせ、食後の急激な血糖の上昇を抑えま す。 ・ SU 剤との併用 ・ 食事の直前に飲まないと効果がありませ ん。お腹が張る、ガスが増えるといった副 作用があります。 ・ 低血糖を起こしたときにはブドウ糖が必 要です。 インスリン抵抗性 改善剤 ・ インスリン抵抗性とは、血中にインスリン アクトス錠 があるにも関わらず、それに対応したイン スリン作用が得られない状態をいいます。 この薬は、肝臓や骨格筋などの末梢組織に おいて、インスリンがブドウ糖を取り込む のを促進させる作用があり、インスリン抵 抗性の亢進を元に戻し血糖を低下させま す。膵臓を余分に刺激せず、少ないインス リンでも十分に働けるようにします。 ・ 肥満型で高インスリン血症を伴う糖尿病、 SU 剤との併用。 ・ 副作用として、重篤な肝障害を起こすこと があり、定期的な肝機能検査が必要。 その他浮腫や体重増加。 アルドース還元酵素 阻害剤 ・ 合併症の一つとして、しびれや痛み(末梢 神経障害)があります。高血糖状態でブド ウ糖から生成された多量のソルビトール により末梢神経細胞が障害されるためで す。この薬は、ブドウ糖からアルドース還 元酵素により、ソルビトールができるのを 抑え、神経機能障害を防ぎます。 31 エパルレスタッ ト錠 (3)インスリン注射剤 健常者のインスリン分泌パターンには、一定の基礎分泌(食事前や夜間就寝中の 血糖が低い時でも微量のインスリンが分泌され続けています)と食事をして血糖値 が上昇することによる追加分泌があります。 糖尿病の治療は、不足しているインスリンを補充することです。健常者での分泌 パターンと同じようなインスリン血中濃度パターンができるようにインスリン製 剤を選びます。毎食後に使用するものは、追加分泌の目的ですから、速効性のもの を使い、基礎分泌には、中間型や持続性のものを使います。 1型糖尿病、経口血糖降下剤では効果が不十分なとき、手術のとき、糖尿病合併 妊婦などに用います。 [インスリンの種類と特徴](当院採用品) 薬品名 特徴 ノボリン R フレックスペン 速効性 ノボリン30R フレックスペン 速効性と中間型を混合したもの ノボリン N フレックスペン 中間型 ランタス注 持効型 [注意] ・ 注射部位は、上腕、大腿、臀部、腹壁等に行ってください。投与部位によって吸収 速度が異なるので部位を決め、その中で注射場所を毎回変えてください。 (前回の場 所より2~3cmはなして注射してください。 ・ 冷蔵庫に入れて保存し、絶対に凍らせないで下さい。一度凍らせたインスリンは使 用しないで下さい。ただし、使用中は冷蔵庫に保存しないで下さい。 ・ 高温になるところ、直射日光の当たるところには置かないで下さい。 3.低血糖症状について インスリンや血糖降下剤の過剰投与、薬を服用しているにもかかわらず食事の量 が不十分であったり、食事の時間が遅れたり、過度の運動、下痢などで食事の吸収 が十分行われない場合などの時に起こることがあります。血液中の糖分が少なくな りすぎた状態です。 [症状] 冷や汗が出る、手が震える、舌が回らない、吐き気・嘔吐・強い空腹感 力のぬけた感じ、眼のちらつき、頭痛、ぼんやりしたりふらついたりする 32 [血糖値と低血糖によって現れる症状] 血糖値(mg ╱dL) 低血糖症状 70~60 あくび、不快感、急な空腹感、考えがまとまらない 頭痛、イライラする、ものが二重に見える、目がちらつく、 60~30 めまい、冷や汗、脈が早くなる、 顔色が悪くなる(顔面蒼白)、ふるえ 30~10 (注意) 意識もうろう、異常行動 意識喪失、けいれん、昏睡状態 血糖値に対応するこの表の症状はあくまで一般的なもので、症状の現われ 方には個人差があります。 [低血糖症状への対処方法] 砂糖(10g)か、糖を多く含む食品1単位(キャラメルなら4個が目安)を食べて 安静にしておさまるのを待ちましょう。薬を飲んでいる人は、外出時には必ず、砂糖 などを持って出ましょう。 ただし、ボグリボース錠を服用している人は、ブドウ糖(砂糖ではダメ)をとってく ださい。 4.シックデイ(病気の日)の対応 シックデイとは、糖尿病の人が風邪による発熱や腸炎による下痢など比較的軽い病気にか かった日の事を言います。糖尿病薬は、他の薬と一緒に飲むことにより、血糖が下がりすぎ たり血糖を上昇させたりすることがあります。また、糖尿病の患者さんは健康な人に比べ、 病状が重くなりやすいので、少しおかしいなと思えばなるべく早く医者にかかって下さい。 [風邪など熱のある日] 安静と保温に努め、いつもの食事療法・内服薬・インスリンを続けます。運動療法は休み ます。高熱の出る場合や微熱・体の不調の続く時は、早めに病院に行きます。一般的な風 邪薬は、糖尿病の薬と一緒に飲んでもかまいません。(出来れば、あらかじめ主治医と相 談しておいて下さい。)血糖・尿糖などは 1 日に 4 回以上測定します。インスリンの追 加の指示を受けている人は、指示のとおり行います。高血糖が続く場合も早めに病院に行 きます。 33 [吐き気・嘔吐・下痢などで食欲の無い場合] 一般的な注意は熱のある日と同じですが、糖質・水分・塩分の補給が重要です。何回に 分けてもかまいませんから、一日分の糖尿病食と同じカロリーを出来るだけ食べます (特に水分の補給は重要です)。お粥・スープ・薄めたみそ汁・スポーツ飲料・お茶な どを 1 時間毎に少しずつ食べてもかまいません。血糖を下げる薬を服用している人は 薬の量を半分に減らし、または中止し早めに医師に相談します。 インスリン注射の人はインスリン注射をやめてはいけません。食事量に合わせてインス リンを減らすことはありますが、最低現在の半分量のインスリンは必要です。 この場合必ず血糖測定をおこない、血糖値が高ければ、インスリンを追加注射します(追 加注射には、「速効型」または「超速効型」のインスリンを使用します)。 血糖自己測定を行っている人は、血糖値をみてどのくらいのインスリンを注射したらよ いか、あらかじめ主治医の指示を受けておくと良いでしょう。 全く食べられない場合は、すぐに病院に来て下さい。点滴や短期間の入院が必要です。 5.アルコールと糖尿病 アルコールによる慢性膵炎では、約3割の人が糖尿病を併発するといわれています。 膵臓は、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)を下げるホルモンであるインスリンを作って います。膵臓の働きが悪くなると、インスリンを分泌する能力が低下して糖尿病になる のです。 また、慢性膵炎を起こしていなくても、アルコールによって肝障害を起こしていたり 肥満であったりすると、糖代謝に異常が起こり糖尿病を起こしやすくなります。 アルコールの多飲やアルコール依存症に糖尿病が合併している人は、以下の5点を十 分理解してください。 1. 飲酒すれば確実に糖尿病は悪化する。 2. 断酒できなければ、退院後短期間で突然死する可能性が高い。 3. インスリンを注射しながら飲酒していると危険な低血糖になっても気が付か ないことが多い。 4. 糖尿病の飲み薬(経口血糖降下剤)を飲んでいる場合も飲酒すると危険な低 血糖になっても気が付かないことが多い。 5. しかし、断酒した人の経過は良く、断酒を続けていると糖尿病が改善する場 合もあります。 34 インスリン分布 基礎分泌と追加分泌 インスリン注射でのインスリン補充 35 1.膵臓の働き 膵臓には、外分泌(消化酵素をつくり腸内に送出す)と内分泌(いろいろなホ ルモンを作り血液中に送出す)の2つの働きがあります。 (1) 膵外分泌 膵臓は、外分泌腺から分泌される膵液を十二指腸に送り出し、胆汁と共に食 べ物の消化・吸収を進めます。膵液には、①脂肪を分解するリパーゼ、②たん ぱく質を分解するトリプシン、③炭水化物を分解するアミラーゼなどの消化酵 素や電解質、水分が含まれています。これらの消化酵素によって食べ物は小腸 で吸収可能な形に分解されます。また、膵液は、弱アルカリ性で、胃酸によっ て酸性になった食物を中和する働きもあります。 (2) 膵内分泌 もう一つの働きは、内分泌腺からインスリンやグルカゴンなどのホルモンを 血中に分泌する働きです。インスリンは血糖値を下げ、グルカゴンは反対に血 糖値を上げる作用があります。 2.膵炎の原因と症状 膵炎は、膵臓が作り出した膵液の消化酵素によって、膵臓自体が消化されて炎 症を起こす病気で、急性膵炎と慢性膵炎があります。 急性膵炎 原因 慢性膵炎 急性膵炎の多くは、過食やアルコー 約80%は、お酒の飲みすぎによ ルの飲みすぎ、胆石症などが原因で るものです。一定量以上のアルコ す。食べ過ぎると、食べ物を消化す ールを10年20年と毎日習慣的 るために、膵液の分泌が盛んにな に続けていると、膵臓に負担がか り、膵液が溜まって、急性膵炎を起 かり慢性膵炎が起きてきます。た こしやすくなります。また、アルコ んぱく質や脂肪の多い食べ物を食 ールを飲みすぎると、膵臓が刺激さ べることによって膵液の分泌が多 れて膵液の分泌値が増えたり、膵液 くなりすぎて起こるという食生活 が流れにくくなったりするため、急 の要因も加わって起こります。ま 性膵炎が起こります。 た、胆石症を治療せずに急性膵炎 を繰り返していると、徐々に膵臓 の機能が低下して、炎症が慢性化 する場合があります。 36 症状 急性膵炎の多くは、暴飲暴食したあ ・ 腹痛が繰り返し起こる。 とに起こるため夜中に突然起こり 鈍痛が特徴的。また、多くの場 ます。 合背部の痛みを伴う。 ・ 腹部、背部の激痛があり、鎮痛 ・ 慢性膵炎が進み膵臓の病変が 剤が効かないことが多い。また、 膵臓全体に及んで膵組織が荒 吐き気・嘔吐を伴うこともある。 廃し膵液を作らなくなると、か ・ 重症となると、腹部、背部の激 痛に加え、呼吸困難、血圧低下、 意識障害が起こる。 えって痛みを感じることはな くなる。 ・ 吐き気・腹部膨満感、食欲不振 ・ 腸が麻痺して、腹部が膨隆する。 ・ 下痢、脂肪便、体重減少。 下痢などが起きるが便秘になる ・糖尿病の症状が起こってくる。 こともある。 インスリンと共に血糖値を上 ・ 腹腔内で出血が起こる。 げるグルカゴンも分泌不足に ・ 胸水・腹水が貯まる。 なるので、低血糖による意識混 濁や昏睡が起こることがある。 ・ ショック症状 激しい痛みが起きたり、ショッ ク症状を起こし、血圧低下や腎 不全、心不全など多臓器不全を 起こすこともある。 37 3.膵炎の治療 急性膵炎 慢性膵炎 軽症の場合は、以下の治療で約1 ・ 禁酒(治療の将来を決定します) 週間で回復する。 ・ 食事療法(過食を控え脂肪の摂取 ・ 食事の中止(食事は膵液を刺 激し膵液の分泌を促進する ため絶飲絶食) を制限する、刺激物などの膵液の 分泌を促進するものを避ける) ・ 薬物療法 ・ 点滴(必要な栄養や水分を補 給する) 鎮痛剤、 膵液の分泌を抑える薬剤、 ・ タンパク分解酵素阻害薬の 消化酵素を補う薬剤、 投与(タンパク分解酵素は膵 など、それぞれの症状に対する総 臓を消化する原因となる) 合的な薬物療法を行う。 ・ 鎮痛薬の注射 膵炎が原因で糖尿病になってい 重症の場合は、膵臓の周囲まで炎 る場合は、インスリンの分泌不足 症が及んでいるため、治療には1 が起こっているので、インスリン ~3ヶ月、またはそれ以上かか を補充して、糖尿病の治療を行 る。 う。 ・ 抗生物質の投与(膵臓の組織 ・ 日常生活の注意 が壊死すると、細菌感染を起 慢性膵炎で傷害された膵臓の組織 こしやすいため細菌感染の は再生されないため、一度失った 予防) 機能はとりもどせないので、これ ・ 呼吸機能や腎機能障害を起 以上膵臓の機能を低下させないこ こしている場合は、酸素補 とがポイント。食事療法、十分な 給、人工腎臓の使用など全身 睡眠、タバコをやめるなど規則正 の病態の集中管理 しい日常生活を送る。 ・ 手術(壊死した膵臓の組織が 嚢胞となって溜まっている 場合には排除が必要) 38 4.薬物療法 種類 主な作用 薬品名(当院採用品) タンパク分解酵素 膵液に含まれる消化酵素の働き カモスタットメシル酸塩 阻害薬 を阻害し膵臓を守ります。腹痛 ガベギサートメシル酸塩 や吐き気などの症状を軽減しま (急性膵炎時の注射薬) す。 鎮痙薬 膵炎の痛みを和らげます。 ブスコパン 消化薬 膵 炎に伴う 消化不 良に用 いま エクセラーゼ す。 また、 「大量消化酵素補充療法」 といって、大量の消化薬を用い ることがあります。間接的に膵 液(消化液)の分泌が抑えられ るため、膵臓の負担が軽くなり ます。 (1) カモスタットメシル酸塩 [主な作用] 蛋白分解酵素阻害薬です。 膵液に含まれるトリプシンなどの消化酵素(蛋白分解酵素)の働きを阻害する作用 があります。膵液から膵臓を守ると共に腹痛や吐き気などの自覚症状を軽減します。 膵液中のトリプシンなどの消化酵素の働きを弱めます。そうすることで、逆流性食 道炎に伴なう不快な症状を改善します。慢性膵炎に適応します。激しい症状を伴う 急性膵炎には、同系の注射薬による強力な治療が必要です。 [効能] ・ 慢性膵炎における急性症状の寛解 ・ 術後逆流性食道炎 [用法用量] 慢性膵炎における急性症状の寛解には、通常 600mg を 3 回に分けて経口服用し ます。症状により適宜増減します。 術後逆流性食道炎には、300mgを 3 回に分けて食後に経口服用します。 39 [副作用] 発疹、かゆみ、吐き気、胃の不快感 重い副作用(めったにないですが、初期症状等に念のため注意下さい) ・ショック、アナフラキシー様症状:気持ちが悪い、冷や汗、顔面蒼白、手足 の冷え・しびれ、蕁麻疹、全身発赤、顔やのどの腫れ、息苦しい、めま い、血圧低下、目の前が暗くなり意識が薄れる ・血小板減少症:皮下出血(血豆・青あざ)や歯肉からの出血、血が止まりに くい。 ・肝臓の重い症状:だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や 白目が黄色くなる、尿が褐色 ・高カリウム血症:だるい、息切れ、脈の乱れ、手足のしびれ、不安感、取り 乱す。 (2)エクセラーゼ (消化酵素複合剤) [主な作用] 食べ物の消化を助ける薬です。 脂肪やタンパク質、炭水化物などを分解するいろいろな消化酵素を含んでいます。 そのため、胃腸や膵臓の不調による消化不良に広く用いられます。 [薬理作用] ・リパーゼ AP6:脂肪を分解する作用があります。 ・セルラーゼ AP3:繊維素を分解する作用があります。 ・ビオヂアスターゼ 1000:でんぶん、タンパク質を分解する作用があります。 ・パンクレアチン:でんぷん、タンパク質、脂肪を分解する作用があります。 [効能] 消化異常症状の改善 [用法用量] 通常、成人 1 回 1~2カプセルを 1 日 3 回食後に経口服用します。 なお、年齢、症状により適宜増減します。慢性膵炎では、服用量が多 くなることがあります。 [副作用] [注意] 発疹、発赤、かゆみ、くしゃみ、涙がでる 消化薬ですので、食後の服用してください。食後あまり時間を空けて しまうと意味がありません。牛や豚の蛋白にアレルギーのある方は飲 んではいけません。 40 (3)ブスコパン (一般名 臭化ブチルスコポラミン) [主な作用] 胃腸などの内臓のけいれん性の痛みをとる薬です。 内臓の平滑筋のけいれんを抑えたり、胃酸の分泌を抑える作用があります。 胃炎や下痢、胆肝炎、胆石などによる腹痛に広く用いられています。膀胱や 子宮の平滑筋にも作用しますので、尿路結石症や月経困難症にも有効です。 [薬理作用] 胃腸など消化器系臓器の運動は、副交感神経の命令によって亢進します。 この神経の働きはアセチルコリンという神経伝達物質により強まります。こ のお薬は、アセチルコリンを抑えることで、副交感神経の刺激を弱めます。 (抗コリン作用)。その結果として、胃腸や胆管の異常な運動(けいれん) が抑えられ、痛みが和らぎます。 [効能] 下記疾患におけるけいれん並びに運動機能亢進 ・胃・十二指腸潰瘍、食道痙攣、幽門痙攣、胃炎、腸炎、腸疝痛、痙攣性便 秘、機能性下痢、胆のう・胆管炎、胆石症、胆道ジスキネジー、胆のう切 除後の後遺症、尿路結石症、膀胱炎、月経困難症。 [用法用量] 通常、成人1回10mg~20mg を1日3~5回経口服用します。 なお、年齢、症状により適宜増減します。頓服することもあります。 [副作用] 口の渇き、便秘、頭痛、頭が重い感じ、目のかすみ、まぶしい、 尿が出にくい、動悸 [注意] 緑内障のある人は禁止されています。眼圧が上昇し、症状が悪化する 恐れがあります。 前立腺肥大で排尿しにくい人や、腸に閉塞がある人も使用できません。 出血性大腸炎など細菌性下痢症の場合も避けます。その他、心臓病、 潰瘍性大腸炎、甲状腺機能亢進症のある人は慎重に用いるようにしま す。 (飲み合わせ・食べ合わせ) ある種の安定剤や抗うつ薬と併用すると、両方の薬の副作用が強まる おそれがあります。 安定剤(フェノチアジン系、ブチロフェノン系)抗うつ薬(三環系) 風邪薬・鼻炎薬・かゆみ止め(抗ヒスタミン薬)など。 41 5.アルコールと膵炎 膵炎は、膵液により膵臓自体が消化され傷ついてしまう病気です。その多くは大量 の飲酒習慣によるアルコール性です。アルコールは膵液の分泌を強めるので、症状を 悪化させます。 膵炎の人は、 1.禁酒をしなければなりません。 2.過食を控え脂肪の摂取を制限する。 3.刺激物などの膵液の分泌を促進するものを避ける。 4.タバコをやめる。 5.十分な睡眠をとる。 などの規則正しい生活を送ることが重要です。 42 1.痛風とは 痛風とは、 「風にあたったくらいでも痛い」ことがその名前の由来になってい るくらい関節(足の指が有名)が痛む、男性に多い(97%~98%)疾患です が、この関節炎(痛風発作)は、痛風の1症状に過ぎません。痛風は体の中に 「尿酸」という物質が異常に溜まる体全体の病気です。 痛風は、高尿酸血症(血液の中の尿酸の高い状態)が何年にもわたって続き、 余分の尿酸が足の親指やひざの関節に沈着することによって起こります。足の 親指のつけねが赤く腫れあがり、痛くて歩けなくなる症状が、痛風発作です。 さらに腎臓の病気や動脈硬化が進んでいきます。痛みは1週間から 10 日間後 には治まってしまいますが、痛みがなくても症状が進行し、発作の起こる頻度 や発作の続く時間が長くなるということがあります。 2.尿酸とは [尿酸] 尿酸は、体内で「プリン体」と呼ばれる物質が分解されてできます。プリ ン体は、遺伝子情報を担う核酸の主成分であると同時に、筋肉が使われる ときのエネルギー伝達物質(アデノシン三リン酸)のもとになる物質で、 体にとっては欠かせないものです。新陳代謝で細胞が分解されたり、エネ ルギーを使うと体内でプリン体が分解され尿酸が作られます。体には必要 のない老廃物ですので、主に腎臓から尿に混じって対外に排泄されます。 [高尿酸血症と痛風] 通常は、尿酸の合成と排泄のバランスが とれています。 健康な人の場合は、常に約 1200mgの 尿酸が蓄積されています。そのうち半分 以上の尿酸が毎日入れ替わっています。 排泄される尿酸のうち、4 分の3は尿と して、残りは汗や便として排泄されます。 しかし、合成が過剰になったりプリン体 を含む食べ物を摂り過ぎてしまったり、 排泄が低下したりした時に、血液中の尿 酸の値が高くなります。この排泄がうま くいかなくなるとバランスが崩れてしまい、 尿酸が体内にたまっていきます。 43 尿酸の正常値は、男性 4.0~7.0mg/dl、女性 3.0~5.5 mg/dlで、 7.5mg/dlを超えると、高尿酸血症と診断されます。 9.0mg/dl 以上の場合には、約90%の確率で数年以内に、血液に溶け切 れない分が結晶として関節などに沈着して激痛をもたらす痛風になってし まいます。 3.高尿酸血症の原因と症状 [原因] 高尿酸血症や痛風の発症には体質(遺伝的素因)が関与しますが、さらに いくつかの要因(生活習慣)が関与しています。尿酸値に影響を与える主 な要因は以下のようなものです。 ・ 肥満:尿酸の排泄が抑制されるために、尿酸値が高くなります。 ・ アルコールの摂取:アルコールは尿酸の生成を促進する上に、腎から の排泄を阻害します。どのアルコールでも尿酸値を上昇させま すが、ビールには尿酸のもとになるプリン体が多く含まれてい ますので、特に尿酸値を上昇させます。飲酒をやめると下がり ます。 ・ プリン体の多く含まれている食べ物の摂取 牛レバー・さんま・マイワシ干物・カツオ・アンコウ肝・大豆 カキ・豚レバー・さんま干物・鶏レバー・マアジ干物・車えび・ 大正えび・マアジ ・激しい無酸素運動:短時間に激しく筋肉を使い、瞬発力を要求される運 動でも尿酸値は上昇します。マラソン・ジョギング・水泳など の有酸素運動では、尿酸値はあがりません。 [症状の進み方] 高尿酸血症を放っておくと痛風発作を 起こすだけでなく、多くの合併症を起 こす可能性も高まります。 44 4.高尿酸血症の治療 1.食事療法:肥満の解消(摂取エネルギーの適正化) プリン体の摂取制限(プリン体を多く含むものを控える) 尿をアルカリ化する食品の摂取(野菜・海藻類など) 十分な水分摂取(尿量2L/日以上) 2.飲酒制限:アルコールは尿酸値を上昇させます、特にビール(プリン体を多 く含むため)を控える 3.運動の推奨:肥満解消にも効果のある有酸素運動 4.薬物療法 5.薬物療法 当院では、痛風発作を予防する薬と高尿酸血症を改善する薬が用いられます。 種類 尿酸産生阻害薬 主な作用 薬品名 尿酸の生合成を抑制し、血清尿酸値の低下 アロプリノール と共に尿中の尿酸排泄量も減少させます。 (1) アロプリノール [主な作用] 尿酸を減らす薬です。痛風や高尿酸血症の治療に用います。 尿酸の生合成を押さえて体内の尿酸を減らします。 「尿酸産生過剰型」の人に適 します。尿に排出される尿酸が減少するので、尿路結石を合併している人にも 向きます。古くから、痛風や高尿酸血症の治療に広く用いられています。 [効能] 痛風、高尿酸血症を伴なう高血圧症における高尿酸血症の是正 [用法用量] 通常、成人は 1 日量 200~300mg を2~3回に分けて食後に経口 服用します。年齢、症状により適宜増減します。 [注意] 高齢の人や腎臓の機能が低下している人は、薬の排泄が遅れがちで す。 用量を少なめにするなど慎重に用いる必要があります。 肝臓疾患のある人は定期的に肝機能検査を受けます。 45 <飲み合わせ・食べ合わせ> 以下の薬の代謝を妨げる可能性があるので、その服用量を減量します。 ・ 喘息の薬:テオフィリン(テオドール) ・ 抗凝血薬:ワルファリン(ワーファリン) ・ 免疫抑制薬:シクロスポリン(サンデュミン、ネオーラル) ・ エイズの薬:ジダノシン(ヴァイデックス) 飲酒は控えてください。 [副作用] 発疹、蕁麻疹、かゆみ、食欲不振。胃の不快感、軟便、下痢 46 1. 薬の体内での流れ 薬の体の中での動きは次の4つの段階に分かれます。 1.吸収:口から入った薬が取り込まれ血液中に入ること 口から入った薬は、胃や腸で溶け、主に小腸で吸収されます。 小腸の膜を通って血管内へ取り込まれ肝臓に入ります。 2.分布:薬が血液から各臓器・組織へ移っていくこと 肝臓を経由して心臓へ到達した薬は、血液の流れに乗って体内各部 へ移動し、疾患各部に到達し効果を発揮します。血液の循環に従っ て何度も肝臓を通りそのたびに代謝されながら徐々に作用をなく していきます。 3.代謝:肝臓などの臓器で薬が分解されること 血液と共に体内を循環した薬は再び肝臓へ送り込まれます。肝臓は、 体の外から入った異物を分解する働きを持っています。薬も同様で、 肝臓は、薬を作用のない体の外へ出しやすい形に変える働きをしま す。この働きを代謝といいます。 4.排泄:分解された薬が肝臓、腎臓などの臓器を経由して体の外へ出ること 全身に送られた薬は、腎臓から尿中へ肝臓から胆汁中へ送られ尿、 便などと一緒に体の外へ排泄されます。 47 2.薬と食べ物の飲み合わせ (1) 「相互作用」 とは 薬と薬、薬と食べ物との関係で、薬が効かなかったり、逆に効きすぎて、副作用 が出ることがあります。これを「相互作用」といいます。 この相互作用は、飲み合わせによっては、吸収の過程、代謝の過程、排泄の過程 で起こるものがあります。 吸収がされにくくする ⇒ 効果が出ない 代謝が早い ⇒ すぐに効き目がなくなります(薬が効かない) 代謝が遅い ⇒ いつまでも効果が続く 排泄が抑えられる (副作用が出やすい) ⇒ 副作用が出やすい (2) 薬と食べ物・嗜好品の飲み合わせ 食品・嗜好品 相互作用のある医薬品(商品名) 牛乳 腸溶性製剤の下剤(コーラックなど) 作用 胃の酸性度がさがるので腸溶製剤 が胃内で溶け出し作用が弱くなっ たり胃が刺激されてむかつき、吐 き気などが現れる可能性がある テトラサイクリン系抗生物質(ミノマイシンな 牛乳に含まれるカルシウムと薬剤が難 ど)ニューキノロン系抗菌薬(クラビットな 溶性のキレート(化合物)を作り、薬 ど) 剤の吸収が阻害される可能性があ る グレープフルーツ 降圧薬のカルシウム拮抗薬の一部(ニフェ グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類 ジピン、ワソランなど) という成分が、薬物分解酵素の働 スタチン系高脂血症治療薬(アトルバスタチ きを抑え、薬剤の代謝を阻害し、 ン) 作用が増強したり副作用が出たり 抗てんかん薬、感情調整薬(カルバ する可能性がある マゼピン) 抗精神病薬(オーラップ) 抗血小板薬(シロスタゾール) 納豆、クロレラ、青 ワーファリン ビタミン K 拮抗薬であるワーファリンの作 汁など、ビタミン K 用が弱められる可能性がある を含む食品 48 昆布、昆布だし、 ヨウ素含有口内噴霧剤(ポビドンヨ ヨードの過剰摂取となり、甲状腺機 昆布茶、ヨード卵 ードガーグル) 能異常が見られる可能性がある。 など、ヨードを含 機能低下症となって、浮腫、倦怠 む食品 感、高脂血症などが起こることが ある。 アルコール 脳神経に作用する各種薬剤 アルコールが薬の代謝を阻害して、鎮静 抗不安薬、睡眠薬、精神安定薬、 効果、睡眠作用などの作用を増強 抗うつ薬など させることがあり、ふらつき、脱 力感、特に高齢者では運動失調を 引き起こす可能性がある。 抗ヒスタミン薬(ピレチア、ヒベルナ、アタラック 抗ヒスタミン薬による中枢神経抑制作 ス P、エバスチン、アゼプチン、など) 用が増強され、眠気などが現れる 可能性がある。 冠血管拡張薬ニトログリセリン(ニトロペン) アルコールが薬の成分の代謝を阻害し て血管拡張作用を増強させ、過度 の血圧低下を起こす可能性 があ る。 経口血糖降下薬、 (グリミクロン、グリベ インスリンの作用が増強され、過度の低 ンクラミド)インスリン製剤各種 血糖を起こす可能性がある。 解熱鎮痛薬(カロナールなど) アルコールの常飲により、肝臓の薬物代 謝酵素が誘導されると、アセトアミノフェ ンから肝毒性のある中間代謝物が 多く産生され、重篤な肝障害が起 こる可能性がある。 非ステロイド性解熱鎮痛薬(アスピリン、 非ステロイド性解熱鎮痛薬による胃粘 ジクロフェナク Na など) 膜障害が増強される可能性があ る。 コーヒー、ドリンク剤な 気管支拡張薬(テオフィリンなど) キサンチン誘導体であるカフェインとテオフィリン ど、カフェインを含む などとの作用が重なり、頭痛、イ 食品 ライラ感、動悸などの症状が現れ る可能性がある。 ニューキノロン系抗菌薬(クラビットなど) 薬の CYP1A2 阻害作用によりカフ マレイン酸フルボキサミン(フルボキサミンマレイン酸 ェインの代謝が抑制され、作用が増強 塩) して、頭痛、イライラ感、動悸な どの症状が現れる可能性がある。 49 セント・ジョーンズ・ワート 気管支拡張薬(テオフィリンなど) ハーブの1種であるセイヨウオトギリソウか (セイヨウオトギリソウ) 抗てんかん薬(アレビアチン、カルバマゼ ら作られている健康食品で、その ピン、フェノバルビタール、ヒダントール) 成分は、薬物の代謝分解を促進す 抗うつ薬(トリプタノール) る作用と排泄を亢進する作用があ 強心薬(ジゴシンなど) るため、血中濃度が下がり薬の効 抗不整脈薬(リスモダン) 果を弱くする可能性がある。 抗凝固薬(ワーファリン) 抗うつ薬(パロキセチン、フルボキサミンマレイ また、抗うつ薬の副作用が強く出 タバコ ン酸塩) る可能性がある。 抗うつ薬(トフラニール) タバコの煙の中に含まれる多くの 抗精神病薬(ウィンタミン、コントミン) 有害物質は体の中に入って肝臓で 抗不安薬(ジアゼパム、ホリゾン注) 分解されるが、その時に働く分解 抗血栓薬(ヘパリン) 酵素(薬物分解酵素)の活性化が 気管支拡張薬(テオフィリン) 薬の代謝分解を促進し、薬の作用 降圧薬(プロプラノロール塩酸塩、ニフェジ を弱めてしまう可能性がある。 ピン) 抗血小板薬(バイアスピリン) ニコチンが胃酸分泌を促進するため薬 消化器系潰瘍治療薬全般 の効果が減ってしまい潰瘍が悪 化・再発する可能性がある。 ニコチンの血管収縮作用により、インスリ インスリン ンの皮下からの吸収が抑制される 可能性がある。 50 参 考 文 献 等 [専門書] 精神科 MOOK アルコール依存症の治療 アルコール医療入門 (編集 白倉 克之他) アルコール性臓器障害と依存症の治療マニュアル(猪野亜朗 著) 向精神薬治療ガイドライン(原著 オーストラリア治療ガイドライン) 精神科薬剤師業務マニュアル(編集 日本病院薬剤師会) 今日のサプリメント( 「薬局」別冊) [一般向け] アルコール依存症を知る(森岡洋著 ASK 発行) アルコール依存症~治療・回復の手引き~(監修:高木敏、猪野亜朗) 肝臓病これで安心(鵜沼直雄著) よくわかる最新医学 新版肝臓病(中嶋俊彰著) 専門医が治す糖尿病 東京女子医大糖尿病センター編 糖尿病は薬なしで治せる(渡邊昌著) 痛風~発作を起こさないための尿酸コントロール~(巌琢也著) 徹底図解 ぜんそく (監修 多田寛) 明日からタバコがやめられる(中村正和、大島明共著) のんではいけない薬(浜六郎著) やさしい 睡眠障害の自己管理(大熊輝雄著) クスリのしくみ事典(野口實、岡島重孝著) 処方がよくわかる 医療薬理学(中原保裕著) 薬の事典 ピルブック(橘敏也著) 正しい治療がわかる本(福井次矢著) [インターネットからの情報] 久里浜医療センターの HP Good-bye アルコール依存症 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