FDI 政策声明(改訂案)

①
FDI 政策声明(改訂案)
歯科診療装置の給水システムと細菌汚染
2016 年 9 月にポーランド・ポズナンで開催される FDI 総会での採択に向けた改訂案
FDI総会(2005年8月、カナダ、モントリオール)で原版を採択
背景
歯科診療装置の給水システム(DUWS)は、含嗽、洗浄、軟組織および硬組織を処置している際
の手術部位および器具の冷却に使用される。DUWS は地域の水道供給水と接続されるか、容認で
きる細菌汚染基準がない場合はボトルシステムに接続される。
歯科診療装置の水道管の特徴は、水道管や関連する容器の内側の表面に急速に生物膜を発達させ
る能力を持つことである。これらの生物膜の内部には通常、室温で増殖する比較的無害な腐生細
菌などが生息しており、疾患を引き起こすのは例外的な状況下(主に免疫が低下している宿主の
体内)のみである。
DUWS において生物膜を発達させる主要な汚染物質の供給源は、通常、きわめて低レベルの腐生
細菌しか含有しない飲料水を供給する地方自治体の水道供給事業であるとみなされている。
DUWS を汚染しうる微生物の源として他に考えられるのは、地域の水道供給水の圧力の一時的低
下である。患者の唾液や血液が DUWS 内に逆流する場合も、汚染が生じる可能性がある。しか
し、このリスクは、現在では通常、逆流防止バルブが装備されている今日の歯科診療装置では最
小限に抑えられている。
患者および歯科要員は常に、歯科診療装置が排出する水およびエーロゾルにさらされている。
定義
生物膜:生物膜とは、基質に増殖する細菌から成る群集であり、細胞外高分子材料から成るマト
リックスに包まれている。生物膜は、殺菌剤に対してあまり感受性を示さない。細菌の逆流、細
菌の増殖に理想的な気温(室温)、操業停止期間(週末、祝日)、給水管の比表面積(S/V 比)
高値、給水管の材質、低流量、非連続的流量による汚染を通じて、DUWS 内での生物膜の増殖が
亢進する。
アメーバ:単細胞生物(原生動物)。アメーバが腸管に感染すると下痢を引き起こし、肝臓に感
染すると膿瘍が形成される可能性がある。1 匹のアメーバの内部に数百個ものレジオネラ菌[1]が
生息しており、アメーバが死滅したり破壊されたりするとレジオネラ菌が放出される可能性があ
る。
レジオネラ菌:(Legionella pneumophila)病原性グラム陰性菌に分類される。レジオネラ菌を
含むエーロゾルを吸入すると在郷軍人病またはポンティアック熱が引き起こされる可能性がある。
レジオネラ菌に汚染された歯科診療装置により致死的感染症を発症した症例が 1 例報告されてい
る。[2]
原則
本政策声明の目的は、DUWS の基本原則に対する歯科医師の意識を高めること、ならびに容易に
実行できる処置でリスクを最小限に抑える方法に関する指針を提示することである。
政策
DUWS 内のどの病原菌(細菌、真菌、原性動物)がどの程度の濃度になると院内感染が発生する
のかに関する科学的研究は実施されていない。通常の感染リスクを有する健康な患者の場合、飲
料水の従属栄養細菌濃度の許容範囲が採用されることが多い。つまり、さらなる一次的創閉鎖を
伴わない小手術といった含嗽/冷却を要する全ての介入を施行する際、DUWS 内の細菌濃度は水
1mL あたりコロニー形成単位 500 個以下[3]である。
(嚢胞性線維症、顆粒球減少症、再生不良性貧血、免疫抑制などにより)感染リスクが増大して
いる患者の場合、さらなる一次的創閉鎖を伴う介入では必ず滅菌溶液(外部冷却)を使用するよ
う推奨する。
メーカーの指示に従って DUWS を消毒すると共に、毎朝 2 分間、(感染性のある器具を使用せ
ずに)全ての給水管にフラッシングを実践することによって、存在しうる病原菌の量が有意に減
少する。年に 1 回(または、全国の規則/規制に従い)水質検査を行って、地域の水道供給水およ
び DUWS を調査するよう推奨する。
歯科機器メーカーには、消毒に適した材料で器具を製造する義務がある。そうして製造すること
によっても、歯科診療装置の給水システム内の生物膜を減少させたり、生物膜の増殖を阻止した
りすることができる。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. Buse, H. Y., Ashbolt, N. J. 宿主アメーバ細胞内のレジオネラ菌数計測.Appl Environ Microbiol.
2012 年 3 月; 78(6): 2070–2072.
2. Ricci M.L., Fontana S., Pinc F. et al. 歯科診療装置給水システムによる肺炎. Lancet 2012 年
(379) 684.
3. アメリカ歯科医師会:http://ada.org/1856.aspx
4. http://www.who.int/features/factfiles/patient_safety/patient_safety_facts/en/
②
FDI 政策声明(改訂案)
う蝕管理における最小介入法に基づく歯科医業(MID)
2016 年 9 月にポーランド・ポズナンで開催される FDI 総会での採択に向けた改訂案
FDI総会(2002年10月、オーストリア、ウィーン)で原版を採択
背景
MID に関する初の政策声明が 2002 年に発表されて以来、MID に対する理解が深まり、新規予防
的治療および修復治療ならびに既存の予防的治療および修復治療に関してエビデンスに基づくア
ウトカムが得られるようになった。
範囲
う蝕病変を発見し、う蝕のリスクと活動性を評価するための視覚/触覚的評価機器および電気駆動
装置が販売されている1。う蝕病変の発生および進行は制御可能である。う蝕活動性評価のアウト
カムおよび有効なう蝕リスク評価ツールの予測能を利用することで、歯科開業医がエビデンスに
基づいて使用するう蝕病変制御法を決定し、個々の患者に適した定期検診を決定する際の指針を
得られるだろう。
食事に含まれる砂糖の摂取量と摂取頻度を減らし、フッ化物配合歯磨剤で 1 日 2 回生物膜を除去
することでう蝕の脱灰プロセスを停止させることができる。エビデンスに基づくう蝕病変予防法
には、水、ジェル、バーニッシュ、歯磨剤、ピット/フィッシャーシーラントへのフッ化物配合な
どがある。最近開発された予防法(樹脂含浸、CPP-ACP配合歯磨剤など)は有望である2。
必要最小限の侵襲による処置的介入では、脆弱化したエナメル質および軟化象牙質に限定して切
削することによって窩洞の大きさを最小限に抑える。このように治療を施した窩洞に質の高い接
着性歯科材料を用いてシーリングを行うことで、歯の寿命を延ばすことができる3。補修修復の寿
命は再修復の寿命と同程度であることがエビデンスによって示されている。したがって、再修復
は多くの症例において過剰治療とみなされるが、補修修復は侵襲を最小限に抑えた処置的介入と
して適切だとみなされる2,4。
定義
MIDとは、高齢になるまで歯を温存するため、再石灰化と健康な歯質の生存を維持することを目
的としたう蝕治療の概念である。歯質を無用に切削するべきではない。MIDを構成する主な要素
は、1) う蝕病変の早期発見、ならびにう蝕のリスクおよび活動性の評価; 2) 脱灰したエナメル質
および象牙質の再石灰化; 3) 健康な歯を健康なまま維持するのに最適な方法; 4) 個々の患者に適し
た定期検診; 5) 必要最小限の侵襲による処置的介入で歯の寿命を保証する; 6) 再修復よりも補修修
復1。
原則
MIDの目的は、健康な歯質をできるだけ多く維持し、生涯にわたって歯の機能を保持させること
にある。平均寿命が着実に伸びているため、この概念はいっそう重要になっている。生まれ持っ
た健康な歯列の機能を高齢になっても存分に享受できるようにするべきである5-8。
政策
FDI 世界歯科連盟は、う蝕に対する現代の治療法として最小介入法に基づく歯科医業(MID)を
支持する。
キーワード
最小介入法に基づく歯科医業、う蝕、う蝕予防、修復、う蝕評価.
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. Tassery H, Levallois B, Terrer E, Manton DJ, Otsuki M, Koubi S, Gugnani N, Panayotov I,
Jacquot B, Cuisinier F, Rechmann P. う蝕治療への新規MID導入. Aust Dent J 2013年; 58: 4059.
2. Frencken JE, Peters MC, Manton DJ, Leal SC, Gordan VV, Eden E. う蝕治療のための MID –
レビュー: FDI 作業部会からの報告. Int Dent J 2012 年; 62: 223–243.
3. Schwendicke F, Frencken JE, Bjørndal L, Maltz M, Manton DJ, Ricketts D, Van Landuyt K,
Banderjee A, Campus G, Doméjean S, Fontana M, Leal S, Lo E, Machiulskiene V, Schulte A,
Splieth C, Zandona AF, Innes NPT. う蝕病変の治療: う蝕切削に関する合意勧告. Adv Dent Res.
2016年; 28(2):58-67.
4. Fernández E, Martín J, Vildósola P, Oliveira Junior OB, Gordan V, Mjor I, Bersezio C, Estay
J, de Andrade MF, Moncada G. 補修修復でコンポジットレジンの寿命を延ばせるか?10年に及
ぶ臨床試験の結果. J Dent. 2015年2月;43(2):279-86.
5. Banerjee A, Doméjean S. 歯の保存に対する現代のアプローチ: 一般診療における最小法(MI)
に基づくう蝕治療. Prim Dent J. 2013年7月;2(3):30-7.
6. Leal SC. 小児患者の治療における最小法に基づく歯科医業. Br Dent J. 2014年6月13
日;216(11):623-7.
7. Ngo H, Opsahl-Vital S. 最小法に基づく歯科医業 II: パート7. う蝕学における最小法: う蝕から歯
質を防御する際にグラスアイオノマー・セメントが果たす役割. Br Dent J. 2014年5
月;216(10):561-5.
8. Hayes M, Allen E, da Mata C, McKenna G, Burke F. 最小法に基づく歯科医業と高齢患者パー
ト2:最小法に基づく処置的介入. Dent Update. 2014年7-8月;41(6):500-2, 504-5.
③
FDI 政策声明(改訂案)
健康を増進するための連携
- 歯科医師と患者の関係
2016年9月にポーランド・ポズナンで開催されるFDI総会での採択に向けた改訂案
歯科患者の基本的権利と責任の原版
および歯科医師の基本的責任と権利の原版
2007年10月アラブ首長国連邦、ドバイ
背景
医学全般と同じく、歯科治療の最終目標は国民の健康と幸福を絶え間なく増進することである。
そのために、歯科医師は研究、予防措置および治療技術の面で自らの能力を向上させると共に、
現代において必要不可欠であり、質の高い治療を保証してくれるコミュニケーション能力および
患者との人間関係構築スキルも高めるべきである。
原則
最適品質の治療を行うには、歯科医師と患者が信頼し合い、互いに尊重し合って有益な関係を築
く必要がある。普遍的義務を定義するには、各国の法的基準や倫理規則の範囲をはるかに超えて
根本的なところで互いに権利と責任を容認する必要がある。最善の結果を達成し、口腔の健康と
いう共通の目標を達成するには、この相互義務が必要である。
政策
歯科医師の責任と義務:
次の行為の際は患者の権利が絶対的である。
• 歯科医師を自由に選択できるように、患者の基本的権利を必ず尊重する。
• 「治療の受けやすさ」および「治療選択肢」で差別をすることなく、常に患者の利益を最優
先に考えて任務にあたる。
• 外部からの影響(商業など)に支配されることなく、自らの職業的責任および診療の自由を
守る。
•
安全で安心できる環境において妥当かつ適切な方法で質の高い治療を提供する。つまり、歯
科医師は必要な資格を持つ場合にのみ治療を提供するべきであること、ならびに職務にあた
っている限り自らのスキルと能力を最新の状態に保つべきであることが示唆されている。
• 患者または患者の法定代理人に対して必要な情報(治療費など)を全て提示し、患者または
患者の法定代理人が意思決定プロセスに参加できるようにする。
• 考えられる全ての治療選択肢を精査してわかりやすく説明し、患者からインフォームド・コ
ンセントを得られるようにする。
• 患者には、治療に対して患者自身の考え方を持つ権利があることを認識したうえで、代替治
療選択肢を提示する。患者が希望すれば専門医にセカンド・オピニオンを求める。
• 患者との個人関係および歯科医療の長として知り得た薬剤/歯学情報および患者の記録に関し
て、守秘義務を負う。
•
患者が自分の薬剤/歯学記録を閲覧、入手できるようにする。
歯科医師の権利:
その引き換えとして、歯科医師には次のような権利がある:
• 威厳と尊敬を持った扱いを受ける。
• 国家の法律および医療制度が提供する診療の自由を有する。全ての患者が等しく口腔医療を
受けられるように、この自由を行使するべきである。
• 良識的医療行為に反する要求をする患者への治療を拒否する権利を有する。
• 信頼が失われた場合は、歯科医師・患者の契約関係を終了させることができる。
患者の義務:
歯科医師がリラックスした安全で平穏な環境で診療し、質の高い口腔医療を提供できるように、
患者に求められることは:
• 他者(歯科医療従事者など)の幸福を尊重する。
• 今日の歯科学の実態と限界を理解し、容認する。
• 歯科医師および他の歯科医療従事者の助言、予防法、勧告を順守して、患者自らが口腔の健
康に責任を負う。
これらの条件が満たされれば、歯科医師と患者の間に信頼関係が確立され、口腔健康を最適化す
るという共通の目標を達成できるようになる。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
歯科医師の権利と責任:
1. 「歯科医療従事者の責任と権利(1)–– はじめに」(『国際歯科雑誌』 (2006 年) 2/06, 56,
109-111)
2. 「歯科医療従事者の責任と権利(2)–– 医療従事者の責任」(『国際歯科雑誌』 (2006 年)
3/06 56, 168-170)
3. 「歯科医療従事者の責任と権利(3)–– 医療従事者の権利」(『国際歯科雑誌』 (2006 年)
4/06, 56, 224-226 患者の権利と責任)
4. 「歯科医師・患者の関係と良質な医療(1)–– はじめに」(『国際歯科雑誌』 55(2): 110-2,
2005 年)
5. 「歯科医師・患者の関係と良質な医療(2)–– 信頼」(『国際歯科雑誌』 55(3): 168-170,
2005 年)
6. 「歯科医師・患者の関係と良質な医療(3)–– コミュニケーション」(『国際歯科雑誌』
55(4): 254-256,2005 年)
7. 「歯科医師・患者の関係と良質な医療(4)–– 医療従事者からの情報とインフォームド・コ
ンセント」(『国際歯科雑誌』 55(5): 342-344,2005 年)
8. 「歯科医師・患者の関係と良質な医療(5)–– 行動変容」(『国際歯科雑誌』 55(6): 3957,2005 年)
9. Council of European Dentists (CED), 欧州連合における歯科医師のための倫理規定, 2007 年
④
FDI 政策声明(改訂案)
口腔疾患の予防
2016年9月にポーランド・ポズナンで開催されるFDI総会での採択に向けた改訂案
FDI総会(1998年10月、スペイン、バルセロナ)で原案を採択
改訂版:FDI総会(2008年9月26日、スウェーデン、ストックホルム)にて採択
背景
口腔疾患は全身の健康に悪影響を及ぼし、経済的、社会的に恵まれない集団および高齢者集団に
最も大きな負担がかかる。主な疾患はう蝕、歯周病、口腔がん、びらんである。シンプルで比較
的安価な方法(口腔衛生の実践、フッ化物の利用、早期スクリーニング、適切な介入など)によ
って口腔疾患による多大な負担を回避、あるいは少なくとも軽減することができる。そのうえ、
全身疾患(心血管疾患、糖尿病など)とも関連性があることが研究によって示されている。さら
に、口腔疾患は QOL に悪影響を及ぼし、身体的、心理的、社会的幸福に影響を及ぼす。
2008 年以降、このテーマに関する知見が増加しており、特に全身疾患のリスク/保護因子に及ぶ
影響に関する理解が深まっている。
範囲
最適な口腔健康を達成するにあたっての障壁は、低い社会経済的地位、口腔保健に関するリテラ
シーおよび教育の欠如、治療の受けにくさなどである。さらに、全身の健康政策と比較して公衆
口腔保健が優先されていない場合も、ニーズが把握されないという結果になり、時には資源が不
適切に配分・管理されることになる。一般的な保護因子に基づく予防アプローチ(健康に良い栄
養摂取、禁煙、飲酒量の制限など)を適用すると、口腔および全身の健康を維持できる。
定義
予防は、口腔疾患のリスクを低減し、口腔疾患が全身の健康に及ぼす影響を最小限に抑えるため
の唯一の方法である。
原則
本政策声明では、口腔疾患の予防を達成するにあたって、保健政策を国家レベル、国際レベルに
まで引き上げ、全身の健康との相互作用を浮き彫りにしようと試みている。
政策
FDI 世界歯科連盟は次の見解を支持する:
•
•
口腔保健が全身の健康に不可欠な部分であることを理解できるように、一般集団、医療従
事者、政策立案者、政策決定者および他の利害関係者に教育するべきである。
大半の口腔疾患が予防可能であるとの理解を促進するべく、医療従事者、政府、 政府間
機関、非政府機関、メディアなどに属する人は取り組む必要がある。
•
•
利害関係者が互いに集学的に連携し、適切で実用的な口腔保健アプローチを採用して統合
して他の慢性的な非感染性疾患を予防する必要がある。
国家レベルの保健政策およびプログラムを採用し、口腔疾患の予防および口腔健康の増
進・維持を目標とするべきである。
キーワード
予防、口腔保健政策、口腔疾患、集学的連携、非感染性疾患
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. Jin LJ, Lamster IB, Greenspan JS, Pitts NB, Scully C, Warnakulasuriya S. 世界口腔疾患負担:
新たな概念、治療および全身の健康との相互関係. Oral Dis. 2015年. doi: 10.1111/odi.12428.
2. WHA53.17 - 非感染性疾患の予防と制御 (世界保健総会の決議).
3. Brocklehurst P, Kujan O, O'Malley LA, Ogden G, Shepherd S, Glenny AM. 口腔がんの早期発
見および予防のためのスクリーニング・プログラム. Cochrane Database of Systematic Reviews
2013年, Issue 11. Art. No.: CD004150. DOI: 10.1002/14651858.CD004150.pub4.
4. Varenne, Benoit. «全身の健康に不可欠な要素としての口腔健康と非感染性疾患の統合: WHOの
アフリカ地域への戦略的方向付け». Journal of Dental Education 79, no 5 Suppl (2015年5月):
S32-37.
5. Broadbent JM, Thomson WM, Boyens JV, et al. 32歳までの歯垢と口腔健康; J Am Dent Assoc
2011年 142: 415–426.
6. Ismail A I, Tellez, M, Pitts N B, et al. う蝕治療経路は歯質を温存し、口腔健康を増進する.
Community Dent Oral Epidemiol 2013年, 41-1; e12-40
7. Petersen PE. 世界口腔保健報告書 2003年. 21世紀における口腔健康の不断の向上. ジュネーブ:
WHO; 2003年.
8. E. Moss, Manthan H. Patel, Jayanth V. Kumar and Mark. 糖尿病と歯の脱落:データ解析, 国民
健康栄養調査: 2003-2004年 JADA 2013;144(5):478-485
9. Bishal Bhandari, Jonathon T Newton and Eduardo Bernabe. 低~中所得国40ヵ国における成
人の口腔健康にみられる社会的不公平: Division: 国際歯科雑誌 2016年
10. Jansson, H.; Wahlin, Å.; Johansson, V.; Åkerman, S.; Lundegren, N.; Isberg, PE.; Norderyd O.
歯周病が健康関連QOLに及ぼす影響. J Periodontol. 2014年; 85(3): 438-45
11. da Silva, O. M. and Glick, M. (2012), FDI ビジョン 2020: 専門職の青写真. 国際歯科雑誌, 62:
277. doi: 10.1111/idj.12011
⑤
FDI 政策声明(改訂案)
歯科診療への第三者の関与
2016年9月にポーランド・ポズナンで開催されるFDI総会での採択に向けた改訂案
FDI歯科開業委員会(2008年3月、フランス、フィルネー・ボルテール)が再確認
FDI総会(1998年10月、スペイン、バルセロナ)にて
原版「歯科専門職と第三者事業者の関係」採択
背景
歯科医師・患者関係への官民の第三者管理機関(TPA)の関与が増大の一途をたどっているため、
境界を定める必要が増しつつある。本政策声明の目的は、法的/倫理的側面にこだわるのではなく、
現時点での問題を精査して、歯科医師の診療の自由を犠牲にすることなく最善の治療を行い、患
者の医療アウトカムに貢献するための第三者の役割および原則を明らかにすることである。
定義
第三者: 官民にかかわらず、加入者/受給者に代わって医療費/薬剤費を支払うか保証するあらゆる
機関を指す(民間の保険会社、公的保健資金調達機構など)。これらの支払い(第三者支払い)
は、サービスを受ける人(第一者)、サービスを提供する人/施設(第二者)、支払いをする機関
(第三者)で区別される1。
TPA の存在/非存在および運用方法を管轄する条件、規則および規定は国によって異なる可能性が
ある。先進国における医療への資金提供に TPA が関与するのは重要なことであり、発展途上国で
はその重要性はさらに増す。TPA は、発展途上国において医療制度をより効率的に運営するため
のしっかりとした基盤を提供することができる。
原則
TPA が財政に及ぼす強い影響力は、医学・歯学研究への資金提供に必要不可欠であり、ひいては
国民の全身および口腔の健康に多大なベネフィットをもたらす。TPA は提供されたサービスに対
する支払いの有意な源でもあり、TPA が財政に関与することによって患者、歯科医師、歯科医
師・患者関係に悪影響が及ぶことはないはずである。むしろ、全ての当事者にベネフィットをも
たらすはずである。
TPA を通じて払い戻しを受けた患者は必要な治療を受けたはずである。TPA は必要な治療に対し
て適正に支払いをし、患者の自己負担金を最小限に抑えるか、削除するはずである。
「保険医」として TPA と契約している歯科医師は提供したサービスに対して適正な支払いを受け、
治療の決定や診療の自由に対して不合理な制限や制約を課されることもない。
政策
•
•
•
•
官民を問わず TPA は、歯科医師が提言し、患者が承認した治療の適正な支払いを保証する
べきである。
法的能力を有する国家当局が年に 1 回以上、治療の複雑度、難易度および歯科医師の報酬
に基づいて TPA の治療費リストを精査および修正するべきである。
資金提供に TPA が関与することで、歯科医師の決定が支持され、歯科医師・患者関係が促
進され、患者が可能な限り最善の治療を受けられるようにするべきである。
したがって、公衆衛生および医療アウトカムにベネフィットをもたらす情報を共有する目
的で、FDI はコミュニケーションおよび連携を図るのが非常に望ましい。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. 定義は「健康法資源(Health Law Resources)」、特に「健康法の基礎における用語 1, 42
(American Health Lawyers Association 第 5 版、2011 年).
⑥
FDI 政策声明(案)
エビデンスに基づく歯科診療(EBD)
FDI 総会(2016 年 9 月、ポーランド、ポズナン)での採択に向けた草案
背景
歯科医師には、エビデンスを利用して診療の指針とし、入手可能な最善のエビデンスに基づいて患
者を治療する義務がある。歯科医師には、効果がない、安全ではない、倫理的ではないことが示さ
れている技法およびテクノロジーを避ける義務もある。
患者の健康を守るため、健全な科学および倫理的責務に基づいて歯科診療を行うべきである。科学
およびテクノロジーが急速に進歩しているため、ますます情報を入手しやすくなった。そのため、
この新たな情報を収集し、理解・評価し、日常診療に取り入れることが歯科医師にとって課題にな
っている。
これらの課題に対処するには、歯科学および歯科医師は臨床診療および口腔保健医療に対してエビ
デンスに基づいてアプローチする必要がある。これは一般に、エビデンスに基づく歯科診療
(EBD)として知られており、FDI によって支持されている。というのも、臨床医が入手可能な
最善のエビデンスを解釈し、日常診療に適用する際に EBD が役立つためである。
範囲
EBDの目標は、開業医を支援して可能な限り最善の治療を患者に提供できるようにすることであ
る。この系統的プロセスで必要なことは、臨床上の問題を特定する、科学文献から入手可能で最も
適切なエビデンスを検索する、そのエビデンスの質を評価する、そのうえで臨床診療において意思
決定を下すためにエビデンスを利用して情報を提供する、という流れである。その結果、エビデン
スが臨床経験、患者の具体的なニーズおよび希望と関連性のある他の因子と一体化する1。
定義
EBD は口腔保健医療へのアプローチである。口腔保健医療では、臨床的に重要な科学的エビデン
スの系統的評価、患者の口腔疾患、関連性のある内科的疾患および既往歴、歯科医師の臨床的専門
知識、治療に対する患者のニーズおよび希望を慎重に一体化する必要がある。
入手可能なエビデンスは、対処するべき特定の医療問題および要求されている緊急性によって異な
り、一部の臨床分野には基盤となるエビデンスがほとんどないか存在していない。既存のレビュー
であるか、特に新たな政策/診療ガイドラインに情報を提供するために作成されたレビューであるか
とは関係なく、迅速レビューおよび古典的な系統的レビューは医療現場での意思決定の根幹である。
エビデンスの質を評価し、勧告の強度を格付けするための現行のシステムおよび基準では、意思決
定のタイプによって極めて多様な研究デザインを検討する必要があることを強調している。この方
法を採用すると、勧告を策定するプロセスで政府機関、経済分析、国/地域のレジストリーから得た
貴重な情報を役立てることができる2, 3。
原則
EBDのプロセスでは、「個々の患者の治療を決定する際、現時点で最善のエビデンスを良心に従
って系統立てて慎重に利用する。EBDの実践とは、個々の臨床専門知識と系統的研究から入手可
能な最善の外部臨床エビデンスを一体化させることである」2
EBD は、歯科医師が順守すべき「マニュアル」を提示しているわけでも、標準治療を確立して
いるわけでもない。
政策
FDI が支持している見解は次のとおりである:
• EBD というアプローチは、臨床医が入手可能な最善のエビデンスを解釈し、日常診療に
適用するのに役立つ。
• EBD という概念は、入手可能な最善の科学的エビデンスを通じて案出された。
• EBD の原則を歯学部のカリキュラムに取り入れ、専門職にも継続して教育する。
FDI の認識は次のとおりである:
• 推奨する治療については、歯科医師が患者ごとに個別に決定し、科学的エビデンスと臨床
的専門知識を一体化するべきである。この時に、考え方、価値観、患者の希望および地域
環境の文化的背景を考慮に入れるべきである。
• EBD の原則を採用して指針とし、診療ガイドラインを策定するには、歯科医師が臨床に
おいて決定を下す際に現時点で最善の科学的エビデンスを評価する能力と手段を有してい
なければならない。また、臨床において入手可能なエビデンスの質が「関心のある問題」
によって有意に異なる可能性があることを認識しておく必要がある。
• EBD を日常診療に導入するにあたって障壁が存在する。これらの障壁として、特定の臨
床問題には基盤となるエビデンスがないこと、エビデンスに基づく情報を得るすべがない
こと、数多くの臨床問題に関しては、歯科医師に役立つような簡潔な形式でエビデンスの
評価やエビデンスに基づく情報の策定がなされていないことなどが挙げられる。
参考文献
1. エビデンスに基づく歯科診療の定義(Trans.2001 年:462), エビデンスに基づく歯科診療に関する
ADA 政策声明に収録
2. Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, Vist GE, Falck-Ytter Y, Schünemann HJ. 2008 年 。
GRADE 作業部会、「エビデンスの質」とは何か、臨床医にとってなぜ重要なのか? BMJ. 336
(7651):995-8.
3. Sackett DL, Rosenberg WMC, Gray JAM, Haynes RB, Richardson WS. 1996 年、 エビデンス
に基づく医療: 該当するものとしないもの、 BMJ 312: 71–2.
⑦
FDI 政策声明(案)
グレーマーケットとコンプライアンス違反の歯科製品
FDI総会(2016年9月、ポーランド、ポズナン)での採択に向けた草案
背景
コンプライアンスに違反しているグレーマーケットおよびブラックマーケットの歯科製品を使用
すると害が及ぶ可能性があるという認識が、歯科医療従事者の間で高まりつつある。安全で効果
的な口腔保健医療を提供し、職業用仕様、国際標準および政府規制に準拠した歯科製品を患者に
使用することに、歯科医療従事者は最終的に責任を負う。
標準を満たさない歯科材料、器具および装置は患者、医療従事者および使用者に危険をもたらす
可能性がある。正規の流通機構を外れて流用されている製品は何度も転売されている可能性があ
る。所要条件下での取り扱いおよび保管が順守されていなかった可能性がある。流用された製品
はもはや、メーカーが定めた本来の仕様や国が定めた規制上の要件を満たしていない可能性があ
る。例えば、卸売業者はあまり厳重な規制が設けられていない特定の市場向けの製品を購入し、
その後輸入してその製品を通常の流通機構以外の国に販売する可能性がある。メーカーはその製
品がそうした国に販売されることを意図していなかった。その製品は販売されている現時点で、
その国の規制に準拠していない可能性がある。
正規の流通機構を外れた製品は適切に保管されておらず、再梱包されたりラベルを貼りかえられ
たりして虚偽の使用期限が表示されている可能性がある。正規の流通機構を外れたコンプライア
ンス違反製品は本当の使用期限をはるかに過ぎても引き続き販売され、不適切に取り扱われた結
果汚染や化学分解が起こり、劣悪な臨床アウトカムをもたらす場合がある。メーカーが安全性を
検証したオリジナル製品の不法コピー製品には、模造ラベルが貼られて虚偽の使用期限が記載さ
れているため、国際標準および規制を順守していない。
範囲
本政策声明は、歯科製品のメーカー、流通、販売および使用に関連性のある重要な問題を網羅し
ている。各国歯科医師会、歯科業界、政府規制当局および歯科医療従事者は本政策を検討するべ
きである。本政策は、歯科製品が患者の治療に安全であり、メーカーの仕様、国際標準および政
府規制に準拠するよう促すことを目的としている。
定義
•
•
•
•
•
•
グレーマーケット(パラレルマーケットと呼ばれている場合もある)は通常、正規の流通
機構をはずれた取引である。流通機構は合法ではあるが、本来のメーカーが意図せず、正
式に認可せず、管理していない流通機構である。
ブラックマーケットとは、違法な製品のメーカー、取引、販売を指す1,2,3,4.。
グレーマーケット製品とは、主としてメーカーの正規の流通機構をはずれて取引/販売され
ている製品の総称である。
ブラックマーケット製品とは、不法に製造、流通、販売されている製品である。
偽造製品とは、価値のある正規品を複製した偽物である。
コンプライアンス違反製品とは、地域/国/国際規制を順守していないブラックマーケット/
グレーマーケット製品の総称である。偽造品、つまり不法に製造/流通/販売されている製
品である可能性がある。
原則
FDI は、安全で効果的な歯科製品が口腔保健医療において適正に使用されるよう支援する。患者
および歯科医療従事者の安全を確保し、リスクを最小限に抑えるよう促進し、口腔健康アウトカ
ムを向上し、信頼できる流通業者および卸売業者から標準および規制を順守した製品を購入する
ことの重要性に対する認識を高める。グレーマーケットで製品を売買することは必ずしも違法で
はないが、歯科医療従事者および患者は支払いに見合ったものを手に入れていない可能性がある。
FDI は、歯科診療の資格を持っていない人がグレーマーケット、コンプライアンス違反マーケッ
ト、ブラックマーケット、偽造品マーケットの卸売業者および(または)インターネットで職業
用歯科機器を購入し、不法に歯科診療を行える点も懸念している。
政策
FDI は全ての歯科医師および歯科医療チームに対し、コンプライアンス違反製品を購入すること
で負うリスクを認識するよう求めている。FDI は以下を奨励している:
• 規制機関は、歯科製品の購入を管理して歯科医療を目的として販売される職業用商品が規
制標準を満たし、有資格の歯科医師および(または)登録された開業歯科医にのみ販売さ
れるようにするための政策を策定・実施している。
• メーカーは業界の利害関係者と連携して、サプライチェーンの完全性を証明する。製品の
ラベルが適切であることも証明する。
• 各国歯科医師会、メーカーおよび監督機関は、歯科医師、歯科業界および利害関係者のた
め、コンプライアンス違反製品およびグレーマーケット歯科製品を購入することでもたら
されるリスクおよび落とし穴に関する職業的教育プログラムの調整を支援している。
• メーカーは患者の安全を守るという目標を掲げて、コンプライアンス違反製品およびグレ
ーマーケット製品の販売および流通と闘うための政策を支持している。
• 歯科医療従事者および責任のある当事者は、メーカーの仕様および国際歯科標準に準拠し、
規制されたコンプライアンス歯科製品だけを使用する。
• 歯科医療従事者は、コンプライアンス違反製品を購入しない。
• 歯科医療従事者は、疑わしい材料、器具および装置を適切な規制機関および専門当局に時
機を逃さずに報告する。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. ADA News、「グレーマーケット」製品問題には必ずしも白黒をつけられない、Vol XIX, Number
III、2015 年 8 月。 http://www.ada.org/~/media/ADA/Publications/Files/NDN_August_2015.ashx:
で閲覧可能。
2. Christensen G、「グレーマーケット」または偽造歯科製品を使っていますか? JADA 2010
年;141(6):712-715.
3. Inside Dentistry、グレーマーケット対ブラックマーケット、Vol 7, Issue 4、2011 年 4 月。
https://www.dentalaegis.com/id/2011/04/gray-market-versus-black-market:で閲覧可能。
4. Santerre P. Conn A. Teitelbaum B. Toronto Academy of Dentistry 冬季診療諮問委員会でのグレー
マーケットおよび偽造歯科材料に関する討論、J Can Dent Assoc 2008 年; 74(3): 233-235.
⑧
FDI 政策声明(案)
生涯にわたる口腔健康の保持
FDI総会(2016年9月、ポーランド、ポズナン)での採択に向けた草案
背景
世界的に寿命が延びている。生涯にわたって口腔の健康を保持すると QOL が向上する。単に寿
命を延ばすだけでなく、人生を活気づけることが重要である。グローバリゼーション、都市化お
よび社会的規範の変化が保健行動に影響を及ぼしている。これらの重大な変化を考慮に入れて政
策を策定し、公衆衛生に対応するべきである。
範囲
FDI は、生涯にわたる口腔健康の増進およびケアに関するあらゆる政治的プロセス、 立法プロセ
スおよび意思決定プロセスを支持する。口腔健康と生涯にわたる健康的アプローチを何世代にも
わたって一体化する必要がある。この種のアプローチを実践するには、医療制度の変革を必要と
するだけでなく、他の数多くのセクターの協調的対応および様々なレベルでの政府の協調的対応
を受けての包括的な長期ケア制度の策定を要する。さらに、時代遅れの疾患に基づく治療モデル
から距離を置く必要がある。
定義
口腔健康を良好な状態に保持し、高度の QOL を維持するには、人生のあらゆる段階での口腔健
康増進、疾患の予防および早期診断・早期介入を基盤とした生涯にわたるアプローチが必要不可
欠である。生涯を通じて予防策および口腔医療を受けられれば、全ての歯を保ったまま 80 歳を迎
えるという目標は実現可能である。
原則
本声明では、人生の各段階およびあらゆるレベルの口腔保健教育施設、職場および生活環境にお
いて、保健アプローチを一体化するよう呼び掛けている。
政策
FDI は、口腔の健康について教育し、口腔の健康に対する認識を高めるとともに、人生のあらゆ
る段階を通じて口腔の健康が全身の健康に影響を及ぼすことに対する認識を高めるよう提唱して
いる。中年期のう蝕発生リスクおよび(または)歯周疾患リスクは、中年期に蔓延するリスク因
子によって決定されるのではない。これらのリスクは小児期または青年期、つまり若年期に端を
発している可能性が高い。政府、NGO、全国歯科医師会、個人およびコミュニティーが支持的環
境を作り上げ、人生のあらゆる段階を通じて口腔の健康および幸福を増進する必要がある。その
手段は次のようなものである。
•
•
口腔の健康増進活動と全身の健康増進活動を一体化することによって、慢性疾患および口
腔疾患の予防を強化する。
生涯にわたる予防アプローチを策定し、主たるコミュニティー(学校、職場、老人ホーム、
介護施設など)で口腔の健康を保持するよう奨励する。
•
•
•
•
あらゆる年齢層に対する定期的歯科検診を規定するよう、国家の保険サービス/保険会社に
要請する。
日常的な口腔衛生を支援している介護者(医療従事者および家族)に訓練および教育を行
うなど、特定の介入を通じて障害者を対象とする。
口腔ケアを提供するための適切な方法を口腔プライマリーケアモデルと一体化し、集学的
アプローチを国家環境に採用するよう奨励する。
生涯にわたって口腔の健康を最適な状態にするため、口腔ケアを促進・提供するにあたっ
て、歯科医師が基本的で指導的な役割を担うことを認識するよう提唱する。
キーワード
生涯にわたる、健康増進、提唱、口腔の健康、健康の一体化
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一
般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. 口腔疾患という課題-地球規模の行動を提唱、オーラルヘルスアトラス第二版. ジュネーブ: FDI
世界歯科連盟; 2015 年.
2. Benzian H, Bergman M, Cohen L, Hobdell M, Mackay J、非感染性疾患の予防および制御、な
らびに全世界の口腔の健康に対する非感染性疾患の重要性に関する国際連合ハイレベル会合、J
Pub Health Dent. 20125;72 (2);91-93
3. Petersen P, Kwan S、公平化、社会的決定因子および公衆衛生プログラム - 口腔の健康という事
例、Community Dent Oral Epidemiol、2011 年; 39 (6):481-487
4. 口腔の健康に関する世界保健機関の概況報告書、2012 年
⑨
FDI/IADH 政策声明(案)
障害者の口腔保健および歯科医療
FDI総会(2016年9月、ポーランド、ポズナン)での採択に向けた草案
背景
10 億人超、つまり世界人口の約 15%が何らかの形で障害を有している。そのうち 1 億 1,000
万人~1 億 9,000 万人が機能障害をきたしている。障害発生率は世界的に上昇し続けている
が、その要因は障害児の平均余命が伸びていること、人口が高齢化していること、長期疾患
が蔓延し、発生率が上昇していることである。
範囲
FDI/WHO/IADR(2003 年)が設定した 2020 年までに達成するべき世界的な口腔保健の目
標では、最大の疾病負担を抱えている集団における口腔保健を促進することの重要性を強調
していた。これが特に重要となるのは障害者である。というのも、障害者は通常、生活に負
担が課せられているうえ高度の口腔疾患を発症するためである。これらの集団は大抵、十分
なサービスを受けておらず、歯科医療に高度のアンメットニーズを抱えている。口腔疾患を
有していても、未治療のままとなっている場合が多い。障害者への歯科医療は大抵、複雑な
ものではなく、適切な姿勢と能力を持った歯科医療従事者がプライマリーケアおよび社会環
境で提供可能である。
定義
WHO 国際生活機能分類では、障害を包括的用語として記載している。つまり、機能障害、
活動制限および参加制約を網羅している。障害は多岐にわたっており、その中には、様々な
機能障害を有し、支援を必要とする者、必要としない者が含まれている。ただし、障害者が
全員、複雑なニーズを有するわけではない。範囲は広く、身体的、知覚的、知的、内科的、
情動的あるいは社会的機能障害を有する人、あるいはこれらの因子を複数併せ持っている人
が対象となっていることの方が多い。これらの集団は、「特別支援が必要な人」、「特殊医
療が必要」な人、あるいは「特殊歯科医療」が必要な人と呼ばれることがある。
原則
全ての人が、健康であり地域で医療を受ける基本的権利を有している。患者中心でニーズに
適合したサービスが提供されるように、障害者は医療サービスや医療情報のデザインおよび
評価について助言するべきである。障害者は、障害を認識されるのではなく、能力を認識さ
れるべきである。そして、一般集団と同じ基準で歯科医療を提供するべきである。FDI およ
び国際障害者歯科学会(IADH)は、障害者は差別されることなく医学的治療を受けられる
べきである、との障害者の権利に関する国際連合宣言を支持する。
政策
FDI および IADH は指針となる次の原則および関連勧告を支持する:
• 障害者のニーズを検討するよう、国家の健康政策を奨励する。
• 知的障害、身体的障害、知覚障害、情動的および社会的障害を有する人があらゆる口腔
医療サービスを受けられるようにする。
• 障害者、家族、介護者、歯科以外の医療従事者の全身の健康およびQOLを構成する必要
不可欠な要素として、口腔の健康が重要であるとの認識を高める。
•
•
•
•
障害者のための集学的医療経路の中で、口腔健康リスク・アセスメントを行い、口腔健
康増進スキル訓練を行うよう提唱する。
複雑な特殊歯科医療を必要としている患者を治療するのに必要な特定のスキル、教育、
訓練および施設を認識する。
大学および卒業後に特殊歯科医療分野の訓練を受けるよう奨励し、あらゆる歯科原則を
通じて教育水準を存続する。
特殊歯科医療を必要とする人のニーズを検討するための口腔保健研究に資金を提供する
よう、官民のスポンサーに奨励する。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。
一般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. Allen M, Allen J, Hogarth S, Marmot M、健康の公平化への取り組み: 医療従事者の役割、
London: UCL – Institute of Health Equity、2013年.
2. Canadian Academy of Health Sciences、カナダに暮らしている弱者が口腔医療を受けやす
くする、Canadian Academy of Health Sciencesの報告、2014年。次で閲覧可能:
http://www.cahs-acss.ca/improving-access-to-oral-health-care-for-vulnerable-peopleliving-in- canada-2/
3. 健康の社会的決定要因に関する委員会、世代内格差をなくす、社会的な健康決定因子への取
り組みを通じた健康の公平化、ジュネーブ: WHO, 2008 年
4. 障害者の権利に関する会議、UN、2006 年。次で閲覧可能:
http://www.un.org/disabilities/convention/conventionfull.shtml.
5. 保健省、国民の口腔の健康を評価する、障害を有する小児および成人の口腔の健康を向上さ
せるための適正実施指針、London: 保健省、2007年
6. Faulks D, Freedman L, Thompson S, Sagheri D, Dougall A、口腔の健康における不平等を
軽減する方法としての特殊歯科医療教育の価値、Eur J Dent Educ、2012年、16(4):195201.
7. 健康増進のためのオタワ憲章、ジュネーブ: WHO、1986年
8. 障害に関するWHO報告、2011年。次で閲覧可能:
http://www.who.int/disabilities/world_report/2011/en/.
⑩
FDI 政策声明(案)
スポーツ歯学
FDI総会(2016年9月、ポーランド、ポズナン)での採択に向けた草案
背景
スポーツ歯学は、スポーツに携わるあらゆる年齢の人の口腔の健康に関する問題(外傷、裂
傷など)に特化した分野である。アマチュア・アスリートの方が歯の損傷リスクが高い。そ
れは、適切な助言および(または)訓練を受けていないためである。特別注文タイプのマウ
スガードの適用が増加しているが、スポーツ特性、年齢層、厳選した材料、ガード設計およ
び使用期間についてさらに規定する必要がある。マウスガードの使用および定期的なコント
ロールがなされていないことにより、マウスガードの有効性は経時的に失われることも現時
点でのエビデンスにより示されている。
損傷、顔面骨折および脳震盪に特に注意するべきである。というのも、スポーツによる打撃
はかなりのエネルギー量を有する可能性があるためである。身体の突出部を使用してボール
を得ようとする争いおよび、結果として生じる頭部および(または)肘とのコンタクトは、
顔面骨折に及ぶ影響を完全に変える。フェースシールド(科学的に決定された緩衝材を用い
て作製された特別注文のマスク)の応用に成功したため、アスリートの回復期間を短縮する
ために骨折後に使用に適される可能性がある。既製のサイズの市販のガードよりも、歯科医
師の監督の下で製造された特別注文のスポーツ用マウスガードおよびフェースシールドが望
ましい。
また、歯科での処方が間接的に「ドーピング」効果を発揮する可能性についての認識を高め
る必要もある。歯科に広く適応のある特定の薬剤が高度のドーピング薬物に変換される可能
性があるためである。例えば、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)はコデイン含有薬を
禁止していない。しかし、コデイン含有薬が体内に入ると、変換されて禁止薬物であるモル
ヒネになる。機能低下により体内で代謝されない場合、反応を促進し、アスリートの口腔の
健康に間接的に影響を及ぼす薬物もある。一部の歯科疾患(歯頸部う蝕、う蝕など)も望ま
しくない食事制限や異常機能荷重によるオーバートレーニングによってもたらされる可能性
がある。
さらに検討すべきことは、液体の形で消化されるエネルギー飲料や関連製品およびサプリメ
ント食品には遊離糖類および酸性原料が多量に含まれているため、口腔環境内に有意な合併
症を引き起こす可能性がある点である。アスリートの口腔の健康および全身の健康に関する
あらゆる側面が成績に影響を及ぼすため、対処するべきである。
範囲
本政策声明は、スポーツ歯学の世界的状況および歯科医師がアスリートの健康に果たす役割
に関する情報を提示している。
定義
スポーツ歯学はスポーツ医学の一部門であり、スポーツおよび運動による歯の損傷および口
腔疾患の予防および治療を担当する。
原則
本政策声明は、FDI の目標(アスリートの口腔の健康、全身の健康、心理的健康を増進し、
スポーツを行う際の安全性を高める)に貢献する。さらに、優れた実績を有するスポーツ・
チームへの歯科医師の帯同は、予防処置および治療処置を通じてアスリートの顎顔面の健康
を守るための重要な措置である。
政策
FDI は次のことを推奨する:
• 特別注文のマウスガード、衝撃吸収材、使用期間が重要であるという認識を高める。
• 歯科医師が作製した、あるいは歯科医療従事者の監督の下で作製された特別注文のフェ
ースマスクおよびフェースシールドを導入する。
• WADAの規制に抵触する可能性のある処方薬の代謝について、歯科医療チームの知識を
最新の状態にする。
• アスリートの口腔の健康状態がアスリートの成績にとって重要であること、ならびにス
ポーツ条件に起因する全身反応に関連して口腔病変を呈することを言明する。
• アスリートの口腔の健康と全身の健康の関連性が重要であるとの認識を高める。
• 遊離糖類を多量に含む酸性の食品および飲料のリスクと対比する形で、バランスの取れ
た食事が口腔の健康にもたらすベネフィットを宣伝する。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。
一般の文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. ス ポ ー ツ 歯 科 医 学 会 、 見 解 表 明 、 ス ポ ー ツ 歯 学 の 定 義 。 次 で 閲 覧 可 能 :
http://www.academyforsportsdentistry.org/index.php?option=com_content&view=article&
id=51:position-statements&catid=20:site-content&Itemid=111.
2. Coto NP, Dias RB, Antoniazzi TF, Costa RA, Carvalho EPC、マウスガードおよびオクルー
ザルスプリントの製作に使用されるエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体の機械的挙動、
Brazilian Dental Journal 2007年; 18: 324-328.
3. Coto, NP; Driemeier, L; Roveri, GO; Meira JBC; Dias RB; Noritomi, PY、硬いボールが激
突した場合の顔面骨の挙動に関する数値研究、J Biomech 2012年7月; 45:1121-1121.
4. Coto, NP; Meira, JBC: Dias, RB; Driemeier, L; Roveri, GO; Noritomi, PY、スポーツ活動用
ノーズプロテクターの評価: 有限要素解析、Dent Traumatol 2012年4月;28(2):108-13.
5. Dias RB, Coto NP – Sports Dentistry: 集学的アプローチ、Book [in Portuguese] Medbook
Editors、2014年
6. Duchan E, Patel ND, Feucht C、エネルギー飲料: アスリートの使用および安全性に関する
レビュー、PhysSportsmed、2010年6月;38(2):171-9.
7. Noble WH, Donovan TE, Geissberger M、スポーツ飲料と歯牙酸蝕症、J CalifDent Assoc.
2011年4月;39(4):233-8.
8. Otomo-Corgel J, Pucher JJ, Rethman MP, Reynolds MA、科学の現況: 慢性歯周炎と全身の
健康、J Evid Based Dent Pract、2012年9月;12(3Suppl):20-8.
9. Soares PV, Tolentino AB, Machado AC, Dias RB, Coto NP、スポーツ歯学: 将来の展望、
Journal of Physical Education and Sports 2014年; 28: 351-358.
10. Souza LA, Elmadjian TR, Dias RB, Coto NP、13~20歳のフットボール選手における不正
咬合有病率、Braz Oral Res 2011年;25: 19-22.
11. Torkzaban P, Hjiabadi T, Basiri Z, Poorolajal J、関節リウマチが歯周炎に及ぼす影響: 歴史
的コホート研究、J Periodontal Implant Sci、2012年6月;42(3):67-72.
12. Yee DA, Atayee RS, Best BM, Ma JD、疼痛を有する患者の尿中のコデイン代謝プロファイ
ルに関する観察、J Anal Toxicol、2014年3月;38(2):86-9.
⑪
FDI 政策声明(案)
歯科医療における持続可能性
FDI 総会(2016 年 9 月、ポーランド、ポズナン)での採択に向けた草案
背景
今日の世界では、全ての組織および職業が社会および環境に関して責任を負うべきである。持続可能
な発展という概念は、環境、経済、社会という 3 本の大きな柱を基盤としており、生存に必要な資源
を地球に残しておいてもらうという後の世代の権利と認識されている。
歯科医療従事者、主に予防歯科および歯科治療に従事する者は、自らがプラスの変化をもたらす主体
であること、現実を認識していること、ならびに後の世代の環境および福祉に献身していることを世
界に示す必要がある。持続可能な発展の目標のひとつは、人生のあらゆる段階での健康な生活を確保
し、幸福を増進することである。歯科医療従事者はこの目標を達成するため、貢献する必要がある。
歯科医療は、地球をできるだけ汚染しない職業でなければならない。そして、歯科材料およびテクノ
ロジーを製造することによってできるだけ環境に悪影響を及ぼさないようにする必要がある。歯科医
療における持続可能性は、数多くの利害関係者(メーカー、流通業者、歯科用機器技術者、口腔医療
従事者、患者、廃棄物収集業者、廃棄物処理業者)に関わる。したがって、これら全ての人が果たす
べき役割がある。FDI、各国歯科医師会および地方自治体は重要なルートとしての機能を果たす可能
性があり、持続可能な発展と関連性のある活動を促進する可能性がある。
定義
持続可能性: 環境の面で持続可能な特性; プロセス/事業が天然資源の長期的な減少を回避しつつ保持/継
続できるレベル。
グリーン・デンティストリー: 歯科診療が環境に及ぼす影響を軽減し、健康を後押しして保持する歯科
医療サービス・モデルを網羅するあらゆるアプローチ。
持続可能な発展:将来の世代がニーズを満たせるようにしつつ、現在の世代のニーズを満たすこと [1].
原則
歯科医療は倫理感および責任をもって実践されるべきであり、高度の品質および安全性をもって最適
な口腔健康を追求するべきである。環境に関する懸念および持続可能性は、幅広く社会的に責任のあ
る行動に献身する側面である。後の世代が天然資源を備えた世界を手に入れる権利を尊重する必要が
ある。
政策
•
•
•
•
•
歯科医師は歯科医療従事者のリーダーとして行動を起こし、環境保護的で環境にやさしい文化
について全てのスタッフを教育する必要がある。
歯科医療は、患者の安全、治療の質および歯科材料の使用(使い捨て用品など)の間で適切な
バランスを見出す必要がある。
歯科医療は、エネルギー、水、紙の消費量および大気中・水中への排出量を制御・抑制する必
要がある。
可能な限り常に、環境に対して安全で持続可能な歯科医療の原則を日常歯科診療に適用するべ
きである。
歯科業界は、最も汚染を軽減するテクノロジーおよび製造工程を提唱するべきである。
•
•
•
•
歯科診療の活動がもたらす影響を理解し、その影響を測定できるようにするため、歯科診療が
環境および地球に及ぼす悪影響に関する研究を奨励することが必要不可欠である。さらに、低
汚染度の省エネルギー・テクノロジーを開発する研究を行い、そうしたテクノロジーを利用す
るよう促進するべきである。
各国歯科医師会および関連する他の歯科団体(FDI 地域機構、各国歯科医師会の支部など)は
全て、持続可能性の原則に基づいて活動・運営するべきである。
歯科医師、各国歯科医師会、流通業者、メーカーおよび関連する他の利害関係者は連携して、
歯科医療を実践する際に環境に及ぼす影響を最小限に抑えるべきである。
FDI および全ての各国歯科医師会は活動を組織化して、教育活動を継続する中で、グリーン・
デンティストリーを奨励し、持続可能な発展および環境への配慮に関する問題を組み込むべき
である。
免責条項
本政策声明に記載されている情報はその時点で最善の科学的エビデンスが基盤となっている。一般の
文化的感受性および社会経済的制約を反映する形で解釈される可能性がある。
参考文献
1. 環境と開発に関する世界委員会の報告: 我々に共通の未来。次で閲覧可能: http://www.undocuments.net/our-common-future.pdf