【Case1-2016 7_7】2016.07.07 NEJM

発熱、腹痛、血小板減少症を呈
した 歳男性
NEJM 7月7日(七夕)
落合健太
 【症例】
歳 男性
 【主訴】発熱、腹痛
 【既往歴】運動誘発性喘息
 【内服薬】なし【アレルギー】なし
【生活歴】
・中央アメリカで生まれて、 歳でイギリスに引っ
越し、それ以来海外旅行していない。
・母、義母、兄と一緒に住んでいる
・二ヶ月前の結核に対するインターフェロン 遊
離
試験は陰性で、
、梅毒、淋病、クラミジア検査
も陰性
・喫煙 日 本、マリファナを週 回、飲酒習慣あり
・家では他の動物や病人との接触はなく、最近ダ
ニや蚊に刺されていない。ウサギを飼っていたこ
とがある。
【現病歴】

入院四日前に疲労・発熱・寒気を感じるまでは元気だっ
た。

入院三日前、頭痛・嘔吐・食思低下・腰痛・排尿障害を
認めた。

入院前日には、コップ一杯の水しか飲むことができず、
母親とともに救急外来を受診した。
【救急外来受診時現症】
全身倦怠感あり。体温:
、血圧:
、
脈拍:
、呼吸数
、
:
%
。腰部傍脊柱筋に疼痛あり。
 血液検査
参照。
 尿検査は、アルブミン + 、ケトン体 + 、扁平上皮
細胞や移行上皮細胞 は認めなかった。
 血液培養・尿培養は陰性。
 インフルエンザウイルス、
ウイルス、 アデノウイルス、
パラインフルエンザウイルス
型は陰性。淋菌及びク
ラミジア・ トラコマチスのための尿核酸試験も陰性だった

【救急外来受診時】
輸液開始し、アセトアミノフェン、 オンダンセトロン 制吐
剤 、イブプロフェン(
)を投与した。

時間のうちに発熱、頻拍、 痛みは消失した。飲水も嘔
吐なくできた。
 アセトアミノフェン、イブプロフェン、オ ンダンセトロン内
服継続、休息と十分な水分摂取、 日以内にかかりつ
け医を受診する よう指導され、帰宅となった。

【救急外来再受診(翌朝)】

左側の腹部、鼠径部、陰嚢の激痛で眼を覚ました。
ふらつき、排尿障害、下痢、嘔気が持続し、飲食するた
びに嘔吐したため、救急外来を再診した。

:
。

週間前に自転車でスタントジャンプをしたときに、睾丸
に外傷を負っていた既往あり。 その時の痛みは約
分後に消失していた。
 気分不良あり、ストレッチャーに横たわっ ていた。

【救急外来再受診時(翌朝)】
左肋骨脊柱角、左下腹部、左鼠径部、左睾丸の上部
に圧痛を認めた。
 陰嚢腫脹。浮 腫、変色なし。その他の所見に異常は認
めず。
 血沈は正常、
基準値
。

尿検査では、少量の潜血を認めたが、その他は正常
だった。
 陰嚢、腎臓、膀胱 の超音波検査では、左精巣上体頭
部に ミリの嚢胞を認め、急性期の異常は認めなか っ
た。

【救急外来再受診時(翌朝)】

ケトロラック
が、投与されたが、患者の痛みは
持続し、体温は
に上昇した。その後、アセトアミ
ノフェンが投与され、入院となった。
【入院当日】
入院時、左陰嚢の痛みと頭痛を訴えた。下痢症状は改
善した。
 体温:
、血 圧:
、脈拍:
、
呼吸数
、
: %

左大腿の軽度の圧痛を認めた。身体所見は、救急外来
から変化なかった。
 輸液、ケ トロラック、アセトアミノフェン、オンダンセトロン
を投与した。排泄の度に尿のチェックをしたが、結石は
認めなかった。

【入院二日目】
入院2日目に嘔吐はなくなったが、発熱は持続し腹部と
鼠径部の痛みは増悪した。 必要に応じてモルヒネが投
与された。また、血液検査が行われた。(検査結果は
)。
 腹部・骨盤部の造影
左の後腹膜腔に沿って左の大腰筋や大動脈の前へ走り
骨盤内へと入り、膀胱を右へと圧排する不明瞭な低吸収
域を認めた。低 吸収域は、左の結腸傍溝にも認めた。
 放射線学的な鑑別診断は、骨盤・足・尿生殖器 の感染
や炎症、膀胱や尿管の外傷があげられた。肝腫大や脾
腫なく、その他の腹 部・骨盤・下部胸郭の異常はなかっ
た。

【入院三日目】
入院 日目、疼痛に対してモルヒネ、発熱に対してア
セトアミノフェン投与を継続 していた。
 腹部超音波検査では、 つの左外腸骨リンパ節の腫脹
を認めた(短軸径で
)。 膀胱の左に嚢胞
と充実部分の混在する不明瞭な部分を認め、被胞化さ
れた液体か蜂窩織炎が考えられた。
 胸部
線検査は正常。

【入院三日目】
血液塗抹標本の検査
正球性正色素 性の赤血球、滑らかな輪郭の対称性の紡
錘状の赤血球、非常に少数の有棘赤血球
・
涙滴赤血球を認めた。正常なリンパ球および単球、時
折大きな正常な血小板を 認めた。

・
に対す る抗体検査は、既感染だった。他の
検査結果は
。
 アンピシリン スルバクタ ム、ゲンタマイシンが投与され
た。

【入院四日目】
入院 日目、疼痛は軽減し、解熱を認めた。検査結果は
。
 腹部・骨盤の造影
検査では、傍大動脈・左総腸
骨・左外腸骨のリンパ節で腫脹を 認め、一部に中心壊
死を認めた。その他は正常だった

【鑑別診断】
生来健康の
歳の男性で、発熱・腹痛・血小板減少を
急性発症し、腹部の画像検査で 非特異的な異常を示
した。
 発熱・腹痛は入院 日目に改善した。症状改善は継続
し、 自然寛解すると予想された。
 急性発症、腹腔内リンパ節腫脹、フェリチン高値、血沈
正常、
高値などの鍵となる特徴に基づいて鑑別を
行う。

【鑑別診断】

鑑別ポイントとして不明熱
不明熱の鑑別としては大きく①感染症②悪性腫瘍③炎
症性疾患が考えられる
 以下これらの分類に分けて検討した。

また鑑別点としてフェリチン高値が挙げられる。
 フェリチン高値をきたす疾患については後ほど

【感染症】
感染症は、健康な若者における急性疾患の最も一般的
な原因。
 本症例では急性発症 し、急速に症状改善しており、ウ
イルス感染と一致する。抗菌薬治療開始後に急速に 解
熱を認めたので、ウイルス性感染と細菌性感染の区別
ができない。
 腹部症状と放射 線学的所見を説明できる診断を見つ
けたいが、非常に非特異的であり、腹腔内感染 症、腹
部疾患に対する炎症反応、非特異的漿膜炎によって引
き起こされる可能性があ る

【感染症】
最も可能性の高い、
・
・一般的 な市中ウイルス
感染はこれらのウイルス病原体の検査が陰性であった
ことから除外された。
 腹腔内の液体・壊死の可 能性のある腹部リンパ節があ
ることから、細菌感染であった可能性も考えられる。しか
し、血液培養は陰性であり、性感染症やダニ媒介の疾
患の検査は陰性だった。
 結核は、インターフェロン 遊離 試験が陰性であるの
で除外した。
 まとめると、感染症がある ならば、それはおそらくウイル
ス感染であると考えられ、その原因が明確に判明する
ことは困難であると考える。

【悪性腫瘍】
今回の症状から最も可能性の高い癌はリンパ腫であ る。
 赤沈上昇がなく、症状が 日間で改善したことからリン
パ腫は考えにくい。除外するためには末梢血フローサイ
トメトリーを実行するが、癌の疑いは非常に低いと考え
る。
 陰嚢痛について癌が懸念されるかもしれないが、画像
検査では、精巣上体嚢胞を除 いて異常は認めなかっ
た。


自転車事故が痛みの直接の原因であると考えられる。
陰嚢痛は今回の疾患とは無関係であると思われる。
【炎症性疾患】
以前に診断未確定の自己免疫疾患にかかっていた可
能性はあるだろうか?
 最も可能 性の高い疾患はスティル病・全身性エリテマ
トーデスだが、これらの診断のための所 見(発疹や関節
痛など)は認めず、抗核抗体は陰性であった。関節痛・
関節炎・皮膚 所見・全身性自己免疫疾患の他の症状
がない場合は、そのような診断は考えにくい。

【異常検査値】

本症例では、炎症性疾患を示唆する
とフェリチン
の著明な上昇を含むいくつか の特徴的な検査所見を
認める。
おそらく本症例で最も特徴的な所見は、フェリチンの異
常高値。
 このレベルのフェ リチン高値は、スティル病・急性 慢性
炎症性疾患・肝不全・腎不全・溶血性貧血・血 液腫瘍・
血球貪食症候群が考えられる。

【血球貪食症候群(

)】
血球貪食症候群は、 細胞およびナチュラルキラ ー細
胞の細胞溶解活性の欠陥に起因し、制御不能 細胞
活性につながり、直接マクロ ファージを活性化するサイ
トカインの分泌を増やす。
マクロファージの増殖および活性化は、網内系全体で
の食作用と関連している。
 活性化マクロファージもフェリチン を分泌し、高フェリチ
ン血症につながる。

【血球貪食症候群】
は、家族性と続発性 がある。
 家族性はほとんどが生後 年の間に発生する が、一部
の患者ではその後 に発生する可能性がある。
歳の
男性が家族性
であることは考えにくいが、完全に
は否定できない。
 若い男性に発症する
には、 致死的になり得る。特
に急性
感染患者における 連鎖リンパ増殖症候
群がある。本 症例では急速に回復していて、この診断
は考えにくい。
検査も既感染であった。
 続発性
は、家族性
よりも可能性が高いが、メ
カニズムは不明。

【高フェリチン血症は
立つのか?】
の診断にどれほど役
歳未満の小児では、血清 フェリチン
以
上は
約 %の感度・特異度である。

歳の患者では、 感度と特異度は不透明だ。成人で
高フェリチン血症を認めることは、
の診断にあま り
役に立たず、溶血性貧血・広範囲な溶血を伴う鎌状赤
血球症・劇症肝不全との区別 ができない。

【
の診断基準】
つの診断基準に基づく臨床診断である
。
 これらの基準は、小児の
の診断のためにつくられ
ていて、成人ではあまり効果的でない場合がある。
 例え ば、ナチュラルキラー細胞活性分析は成人で診断
する上で特に有効でなく、めったに 測定されない。

は
【今回の症例では・・・】
本症例では、発熱・血球減少症・トリグリセリド高値・フェ
リチン高値を認めた。
 残りの基準のうち、可溶性
は検査されてなく、脾
腫は認めなかった。骨髄穿刺と 生検は施行していな
かった。

の患者は脾腫を持っていると考えるが、たいてい
で大人を評価する頃には、発症して数ヶ月経過し
ている ため脾腫の可能性が高くなる。本症例では、急
性発症であったため、脾腫になるための十分な時間が
なかったものと考えられる。

の成人についての つのレビューで は、わずか
でしか脾腫が報告されていない。

【今回の症例では・・・】
成人の続発性
は通常、感染・癌(一般的にはリン
パ腫)・自己免疫疾患によって引き起こされる。
 感染 特に
は、癌または家族性
患者の場合
でも、
のほ とんどの形態のトリガーとなる。本症例
では、
既感染であったため除外された。
 こ の患者が
である可能性は高いと思われるが、リ
ンパ腫を除外するために可溶性
検査と末梢血フ
ローサイトメトリー検査を提出した。


骨髄穿刺と生検を施行したところ、結果は血球貪食症
候群に一致し ていた。病理参照。
【最終診断】

血球貪食症候群
【経過】





アンピシリン・スルバクタム及びゲンタマイシンが投与され、そ
の後間もなく陰嚢痛や発熱は改善し、患者は著しく急速な改
善を認めた。
のための特異的治療法と腹 部リンパ節の生検が考慮さ
れたが、急速な臨床状態の改善のため見送られた。
日間の 抗菌薬の静脈内投与後、経口アモキシシリン クラ
ブラン酸の処方で退院となった。
退院の
日後に外来受診し経過は良好であった。フェリ
チンは
に減少し た。
核酸検査は陰性
で、その他の検査結果も特に異常は認めなかった。結核に
対するインターフェロン 遊離試験も陰性だった。
合計 週間の抗菌薬治療を行い、 年後の経過も良好で
あった。