発熱、腹痛、血小板減少症を呈 した 歳男性 NEJM 7月7日(七夕) 落合健太 【症例】 歳 男性 【主訴】発熱、腹痛 【既往歴】運動誘発性喘息 【内服薬】なし【アレルギー】なし 【生活歴】 ・中央アメリカで生まれて、 歳でイギリスに引っ 越し、それ以来海外旅行していない。 ・母、義母、兄と一緒に住んでいる ・二ヶ月前の結核に対するインターフェロン 遊 離 試験は陰性で、 、梅毒、淋病、クラミジア検査 も陰性 ・喫煙 日 本、マリファナを週 回、飲酒習慣あり ・家では他の動物や病人との接触はなく、最近ダ ニや蚊に刺されていない。ウサギを飼っていたこ とがある。 【現病歴】 入院四日前に疲労・発熱・寒気を感じるまでは元気だっ た。 入院三日前、頭痛・嘔吐・食思低下・腰痛・排尿障害を 認めた。 入院前日には、コップ一杯の水しか飲むことができず、 母親とともに救急外来を受診した。 【救急外来受診時現症】 全身倦怠感あり。体温: 、血圧: 、 脈拍: 、呼吸数 、 : % 。腰部傍脊柱筋に疼痛あり。 血液検査 参照。 尿検査は、アルブミン + 、ケトン体 + 、扁平上皮 細胞や移行上皮細胞 は認めなかった。 血液培養・尿培養は陰性。 インフルエンザウイルス、 ウイルス、 アデノウイルス、 パラインフルエンザウイルス 型は陰性。淋菌及びク ラミジア・ トラコマチスのための尿核酸試験も陰性だった 【救急外来受診時】 輸液開始し、アセトアミノフェン、 オンダンセトロン 制吐 剤 、イブプロフェン( )を投与した。 時間のうちに発熱、頻拍、 痛みは消失した。飲水も嘔 吐なくできた。 アセトアミノフェン、イブプロフェン、オ ンダンセトロン内 服継続、休息と十分な水分摂取、 日以内にかかりつ け医を受診する よう指導され、帰宅となった。 【救急外来再受診(翌朝)】 左側の腹部、鼠径部、陰嚢の激痛で眼を覚ました。 ふらつき、排尿障害、下痢、嘔気が持続し、飲食するた びに嘔吐したため、救急外来を再診した。 : 。 週間前に自転車でスタントジャンプをしたときに、睾丸 に外傷を負っていた既往あり。 その時の痛みは約 分後に消失していた。 気分不良あり、ストレッチャーに横たわっ ていた。 【救急外来再受診時(翌朝)】 左肋骨脊柱角、左下腹部、左鼠径部、左睾丸の上部 に圧痛を認めた。 陰嚢腫脹。浮 腫、変色なし。その他の所見に異常は認 めず。 血沈は正常、 基準値 。 尿検査では、少量の潜血を認めたが、その他は正常 だった。 陰嚢、腎臓、膀胱 の超音波検査では、左精巣上体頭 部に ミリの嚢胞を認め、急性期の異常は認めなか っ た。 【救急外来再受診時(翌朝)】 ケトロラック が、投与されたが、患者の痛みは 持続し、体温は に上昇した。その後、アセトアミ ノフェンが投与され、入院となった。 【入院当日】 入院時、左陰嚢の痛みと頭痛を訴えた。下痢症状は改 善した。 体温: 、血 圧: 、脈拍: 、 呼吸数 、 : % 左大腿の軽度の圧痛を認めた。身体所見は、救急外来 から変化なかった。 輸液、ケ トロラック、アセトアミノフェン、オンダンセトロン を投与した。排泄の度に尿のチェックをしたが、結石は 認めなかった。 【入院二日目】 入院2日目に嘔吐はなくなったが、発熱は持続し腹部と 鼠径部の痛みは増悪した。 必要に応じてモルヒネが投 与された。また、血液検査が行われた。(検査結果は )。 腹部・骨盤部の造影 左の後腹膜腔に沿って左の大腰筋や大動脈の前へ走り 骨盤内へと入り、膀胱を右へと圧排する不明瞭な低吸収 域を認めた。低 吸収域は、左の結腸傍溝にも認めた。 放射線学的な鑑別診断は、骨盤・足・尿生殖器 の感染 や炎症、膀胱や尿管の外傷があげられた。肝腫大や脾 腫なく、その他の腹 部・骨盤・下部胸郭の異常はなかっ た。 【入院三日目】 入院 日目、疼痛に対してモルヒネ、発熱に対してア セトアミノフェン投与を継続 していた。 腹部超音波検査では、 つの左外腸骨リンパ節の腫脹 を認めた(短軸径で )。 膀胱の左に嚢胞 と充実部分の混在する不明瞭な部分を認め、被胞化さ れた液体か蜂窩織炎が考えられた。 胸部 線検査は正常。 【入院三日目】 血液塗抹標本の検査 正球性正色素 性の赤血球、滑らかな輪郭の対称性の紡 錘状の赤血球、非常に少数の有棘赤血球 ・ 涙滴赤血球を認めた。正常なリンパ球および単球、時 折大きな正常な血小板を 認めた。 ・ に対す る抗体検査は、既感染だった。他の 検査結果は 。 アンピシリン スルバクタ ム、ゲンタマイシンが投与され た。 【入院四日目】 入院 日目、疼痛は軽減し、解熱を認めた。検査結果は 。 腹部・骨盤の造影 検査では、傍大動脈・左総腸 骨・左外腸骨のリンパ節で腫脹を 認め、一部に中心壊 死を認めた。その他は正常だった 【鑑別診断】 生来健康の 歳の男性で、発熱・腹痛・血小板減少を 急性発症し、腹部の画像検査で 非特異的な異常を示 した。 発熱・腹痛は入院 日目に改善した。症状改善は継続 し、 自然寛解すると予想された。 急性発症、腹腔内リンパ節腫脹、フェリチン高値、血沈 正常、 高値などの鍵となる特徴に基づいて鑑別を 行う。 【鑑別診断】 鑑別ポイントとして不明熱 不明熱の鑑別としては大きく①感染症②悪性腫瘍③炎 症性疾患が考えられる 以下これらの分類に分けて検討した。 また鑑別点としてフェリチン高値が挙げられる。 フェリチン高値をきたす疾患については後ほど 【感染症】 感染症は、健康な若者における急性疾患の最も一般的 な原因。 本症例では急性発症 し、急速に症状改善しており、ウ イルス感染と一致する。抗菌薬治療開始後に急速に 解 熱を認めたので、ウイルス性感染と細菌性感染の区別 ができない。 腹部症状と放射 線学的所見を説明できる診断を見つ けたいが、非常に非特異的であり、腹腔内感染 症、腹 部疾患に対する炎症反応、非特異的漿膜炎によって引 き起こされる可能性があ る 【感染症】 最も可能性の高い、 ・ ・一般的 な市中ウイルス 感染はこれらのウイルス病原体の検査が陰性であった ことから除外された。 腹腔内の液体・壊死の可 能性のある腹部リンパ節があ ることから、細菌感染であった可能性も考えられる。しか し、血液培養は陰性であり、性感染症やダニ媒介の疾 患の検査は陰性だった。 結核は、インターフェロン 遊離 試験が陰性であるの で除外した。 まとめると、感染症がある ならば、それはおそらくウイル ス感染であると考えられ、その原因が明確に判明する ことは困難であると考える。 【悪性腫瘍】 今回の症状から最も可能性の高い癌はリンパ腫であ る。 赤沈上昇がなく、症状が 日間で改善したことからリン パ腫は考えにくい。除外するためには末梢血フローサイ トメトリーを実行するが、癌の疑いは非常に低いと考え る。 陰嚢痛について癌が懸念されるかもしれないが、画像 検査では、精巣上体嚢胞を除 いて異常は認めなかっ た。 自転車事故が痛みの直接の原因であると考えられる。 陰嚢痛は今回の疾患とは無関係であると思われる。 【炎症性疾患】 以前に診断未確定の自己免疫疾患にかかっていた可 能性はあるだろうか? 最も可能 性の高い疾患はスティル病・全身性エリテマ トーデスだが、これらの診断のための所 見(発疹や関節 痛など)は認めず、抗核抗体は陰性であった。関節痛・ 関節炎・皮膚 所見・全身性自己免疫疾患の他の症状 がない場合は、そのような診断は考えにくい。 【異常検査値】 本症例では、炎症性疾患を示唆する とフェリチン の著明な上昇を含むいくつか の特徴的な検査所見を 認める。 おそらく本症例で最も特徴的な所見は、フェリチンの異 常高値。 このレベルのフェ リチン高値は、スティル病・急性 慢性 炎症性疾患・肝不全・腎不全・溶血性貧血・血 液腫瘍・ 血球貪食症候群が考えられる。 【血球貪食症候群( )】 血球貪食症候群は、 細胞およびナチュラルキラ ー細 胞の細胞溶解活性の欠陥に起因し、制御不能 細胞 活性につながり、直接マクロ ファージを活性化するサイ トカインの分泌を増やす。 マクロファージの増殖および活性化は、網内系全体で の食作用と関連している。 活性化マクロファージもフェリチン を分泌し、高フェリチ ン血症につながる。 【血球貪食症候群】 は、家族性と続発性 がある。 家族性はほとんどが生後 年の間に発生する が、一部 の患者ではその後 に発生する可能性がある。 歳の 男性が家族性 であることは考えにくいが、完全に は否定できない。 若い男性に発症する には、 致死的になり得る。特 に急性 感染患者における 連鎖リンパ増殖症候 群がある。本 症例では急速に回復していて、この診断 は考えにくい。 検査も既感染であった。 続発性 は、家族性 よりも可能性が高いが、メ カニズムは不明。 【高フェリチン血症は 立つのか?】 の診断にどれほど役 歳未満の小児では、血清 フェリチン 以 上は 約 %の感度・特異度である。 歳の患者では、 感度と特異度は不透明だ。成人で 高フェリチン血症を認めることは、 の診断にあま り 役に立たず、溶血性貧血・広範囲な溶血を伴う鎌状赤 血球症・劇症肝不全との区別 ができない。 【 の診断基準】 つの診断基準に基づく臨床診断である 。 これらの基準は、小児の の診断のためにつくられ ていて、成人ではあまり効果的でない場合がある。 例え ば、ナチュラルキラー細胞活性分析は成人で診断 する上で特に有効でなく、めったに 測定されない。 は 【今回の症例では・・・】 本症例では、発熱・血球減少症・トリグリセリド高値・フェ リチン高値を認めた。 残りの基準のうち、可溶性 は検査されてなく、脾 腫は認めなかった。骨髄穿刺と 生検は施行していな かった。 の患者は脾腫を持っていると考えるが、たいてい で大人を評価する頃には、発症して数ヶ月経過し ている ため脾腫の可能性が高くなる。本症例では、急 性発症であったため、脾腫になるための十分な時間が なかったものと考えられる。 の成人についての つのレビューで は、わずか でしか脾腫が報告されていない。 【今回の症例では・・・】 成人の続発性 は通常、感染・癌(一般的にはリン パ腫)・自己免疫疾患によって引き起こされる。 感染 特に は、癌または家族性 患者の場合 でも、 のほ とんどの形態のトリガーとなる。本症例 では、 既感染であったため除外された。 こ の患者が である可能性は高いと思われるが、リ ンパ腫を除外するために可溶性 検査と末梢血フ ローサイトメトリー検査を提出した。 骨髄穿刺と生検を施行したところ、結果は血球貪食症 候群に一致し ていた。病理参照。 【最終診断】 血球貪食症候群 【経過】 アンピシリン・スルバクタム及びゲンタマイシンが投与され、そ の後間もなく陰嚢痛や発熱は改善し、患者は著しく急速な改 善を認めた。 のための特異的治療法と腹 部リンパ節の生検が考慮さ れたが、急速な臨床状態の改善のため見送られた。 日間の 抗菌薬の静脈内投与後、経口アモキシシリン クラ ブラン酸の処方で退院となった。 退院の 日後に外来受診し経過は良好であった。フェリ チンは に減少し た。 核酸検査は陰性 で、その他の検査結果も特に異常は認めなかった。結核に 対するインターフェロン 遊離試験も陰性だった。 合計 週間の抗菌薬治療を行い、 年後の経過も良好で あった。
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