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60歳女性 増悪する呼吸困難

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60歳女性 増悪する呼吸困難
Case 17-2016
A 60-Year-Old Woman with Increasing Dyspnea
患者
60歳女性
【主訴】
増悪する呼吸困難
【現病歴】
2年前までは無症状。
10か月前から日中に乾性咳嗽が頻回に出るようになった。
その間、発熱性疾患に3回罹患し、最高38.9℃であった。
3回目の罹患後から、労作時呼吸困難を自覚するようになり、外来を受診した。
胸部レントゲンで問題なく、経口アジスロマイシンとブデソニド-ホルモテ ロール
フマル酸二水和物(シムビコート)吸引を投与した。
経過
16日後の外来にて
• 呼吸困難の増悪
• 発熱、X線での肺うっ血の所見(+)
• 他院の救急外来にてX線で浸潤影or瘢痕を示唆する所見があり、レボフ
ロキサシンの投与をされていた。
その10日後
• 肺塞栓CT 陰性
• 心エコー 左心機能正常、肺高血圧の所見なし
以前の経過
7か月前
• 呼吸機能検査で閉塞性障害パターン(table1)
• α1-アンチトリプシン正常
7か月-3か月前
• 階段昇降、駆け足の際に呼吸困難を自覚するようになった
約4.5か月前
• 呼吸機能検査 再検査。(table1)
• 甲殻類・ダニ・ナラ属・カバノキにアレルギー(+)
以前の経過
27日前
• 呼吸困難の増悪
→かかりつけ医を受診し、アルブテロールとプレドニゾロンの吸入を処方
された
20日前
• 他の呼吸器科医を受診
→147/96 mm Hg, 心拍数91/min, SpO2 94%(ambient air)
その他の検査では特記事項なし
13日前
• 呼吸機能検査が再試行された(table1)
胸部単純CT
• 左下葉を中心に両側下葉肺底部・右中葉・舌区に軽度の円柱状
気管支拡張とびまん性の気管支壁肥厚
• 無気肺or瘢痕が右中葉の内側にあり
• 軽度の食道裂孔ヘルニアあり
現病歴
問診+
• 過去3か月間、軽労作時に増悪する呼吸苦と疲労感を認め、1ブ
ロックの歩行、もしくは階段を1階昇るたびに休憩を要した。
• 同様に上気道の閉塞感を感じる頻度も増加した
• 来院4日前には、緑色の痰を伴う湿性咳嗽が出現した。
• 1か月間の発熱・2.5kgの体重減少あり
内服等
内服:アムロジピン、ヒドロクロロチアジド、レボチロキシン
モンテルカスト、マルチビタミン剤、ビタミンC
吸入:アルブテロール、ブデソニド、フォルモテロール
軟膏:ベタメタゾンプロピオン酸エステル
クロベタゾールプロピオン酸エステル
エストラジオール膣軟膏
その他:シクロスポリン点眼
フルチカゾンフロ酸エステル鼻腔内スプレー
アレルギー:なし
生活歴等
依存症:甲状腺機能低下症、高脂血症、高血圧、反復性尿路感染、
硬化性苔癬
手術歴:人工膝関節置換術
喫煙:1-2箱/週 10年
生活歴:既婚 2人の成人した子供と2匹の犬がいる
職業:医療分野 職業性曝露なし
渡航歴:数か月前にヨーロッパへの旅行歴あり
家族歴:母…アルツハイマー病
妹…左室緻密化障害
理学所見
• BT 36.7℃, BP 137/63mmHg, PR 81/min, RR 16/min, SpO2
93%(room air) BMI 28.9
• 肺音 清 その他 正常
検査所見(肺機能検査…table1
その他の検査…table2)
• Hct、Hb、Plt、電解質、Ca、Glu、TP、Alb、IgA、IgM、IgE、
α-1アンチトリプシン、リウマトイド因子、腎機能、肝機能、
血清蛋白電気泳動 正常
• HIV抗体・抗原陰性、ANCA陰性、抗CCP抗体陰性、プロテ
ナーゼ3、Scl-70、Jo、Ro、La陰性
• Aspergillus fumigatus, A. pullulans, A. flavus, ,
Thermoactinomyces sacchari, T. candidus, T. vulgaris,
Micropolyspora faeni, pigeon .陰性
胸部造影CT(Fig1)
• 下葉に円柱状気管支拡張、びまん性に軽度の気管支壁肥厚あり
• 吸気時に比べ呼気時の肺実質の造影効果の減弱なし
→air trappingあり
• 呼気時における小葉の不均一性なし
→びまん性
気管支鏡検査
右中葉の気管支からの肺胞洗浄液
• 有核細胞3/μl(34% neut, 24% lym, 4% mono, 6% eos, 32% MΦ or
lining cells )
• ペプシンA、ガラクトマンナン抗原 陰性
• 細胞学的検査 ウイルス性の細胞変性、真菌エレメント、悪性細胞なし
• Gram染色 わずかにグラム陽性と陰性の混合生物あり
• 培養検査 細菌・ウイルス・真菌陰性
• フローサイトメトリー 異常なし
気管支鏡後
• 11日間の呼吸苦の増悪・間欠的な微熱あり。
• 胸部レントゲンで無気肺or誤嚥を示す右肺底部の斑状の浸潤影あり。
• アルブテロール吸入とアジスロマイシン投与により気管支鏡検査前
まで状態は改善した。
• 15日後、フレキシブル気管支鏡検査
→披裂間の瘢痕と声門下の炎症、気管~左右気管支に白色分泌物と顕
著な炎症、中枢気道の軽度な拡張あり。
気管支肺胞洗浄液はウイルス性・細菌性の炎症の検出されず。
本例のまとめ
肺疾患の既往なし
症状:増悪する呼吸苦
•
•
•
•
鑑別診断
乾性咳嗽を伴う
吸入ステロイド+長時間作用型β刺激薬では改善なし
Room air ではSpO2は低値 Wheeze/cracklesなし
CT びまん性のガス拡散、軽度の気管支壁の肥厚、気管支拡張あり
呼吸機能検査 進行性の高度な閉塞性障害+高度膨張+拡散障害
→喘息・COPD・気管支拡張症・細気管支炎が鑑別か・・・
喘息
典型例
• 咳嗽、喘鳴、胸部絞扼感
• 呼吸機能検査…可逆的な閉塞性障害、進行例では不可逆的
本症例では…
吸入ステロイド+長期作用型β刺激薬、モンテルカスト、経口ステロイド投与
による治療にも関わらず進行性
拡散障害あり…喘息では来しにくい
→スタンダードな治療に抵抗性…難治性喘息?
→難治性として有名な好酸球性喘息…気管支肺胞洗浄液で好酸球の増加無し
喘息類似疾患
• 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
ANCA陰性→否定はできないがその他に疑う所見なし
• アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
IgE上昇、末梢性好酸球増多なく否定的
• 気管気管支軟化症
気管支鏡検査で動力学的な虚脱なく、否定的
COPD
喫煙と関連し、気流の閉塞を生じる疾患
症状:喘息と同様に咳・喘鳴・呼吸苦などの症状を示す
呼吸機能検査:通常、不可逆的
• 喘息と異なる点…肺気腫(+)拡散障害(+)
COPDと喘息の両者の特徴を持ち合わせている患者もいる
• 診断・重症度の判定には呼吸機能検査が必須。
COPD
α1-アンチトリプシン欠損
• 少ない割合ではあるがα1-アンチトリプシン欠損(常染色体優性遺伝)が
ある場合、下葉優位に汎細葉性肺気腫が発生し、進行する。
本症例では…
喫煙歴は遠い昔の話であり、5箱/年程度で重症なCOPDの原因とはならない
世界的にCOPDの重要な原因となっている不完全燃焼バイオ燃料の暴露歴も
ない
α1-アンチトリプシンは異常なし、CTにて気腫性変化なし→COPDは否定的
気管支拡張症
• 気道瘢痕による気道の異常な拡張が特徴
• 過去の呼吸器感染症、免疫不全状態、嚢胞性線維症、線毛機能不全、
膠原病(特にRA)、反復する誤嚥などの様々な疾患が関連しているこ
とによる
• アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は気管支拡張症と喘息に関与
• α-1アンチトリプシン欠損症は気管支拡張症とCOPDの両方に関与
• 気管支拡張症の増悪期に激しい湿性咳嗽を伴う
• 重症ではグラム陰性菌が定着する
気管支拡張症
本症例では…
• 気道感染症の既往なし
• 免疫グロブリン検査はIgG1値の軽度低下以外に異常なし
• 血清RA検査陰性
• 画像検査で気管支拡張は軽度
• 肺胞洗浄液の細菌・ウイルス・真菌培養陰性
→原発性気管支拡張症は除外
細気管支炎
• 2mm以下の軟骨のない細気管支の疾患
• 径が小さいため感染性・吸入性の障害に対して脆弱性がある
主要症状:咳嗽・呼吸困難
呼吸機能検査:不可逆性の閉塞性換気障害と高度膨張
拡散障害も生じる
胸部Xp:異常なし
CT:特徴的な所見としてはガストラッピング像
気管支壁の肥厚 小葉中心性の小結節
細気管支炎
原因
• 間質性肺疾患関連性の細気管支炎のように、別の細気管支の疾
患の合併を生じることも。
• しばしばRSウイルスによるが、その他にもインフルエンザウイ
ルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、マイコ
プラズマなども原因となる。
• RSウイルス…基本的には小児の疾患だが、成人でも罹患しうる。
しばしば不顕性感染を起こしている。
細気管支炎
細かい分類
• びまん性汎細気管支炎…中年男性の疾患で、進行し気管支拡張
を引き起こすと反復感染や副鼻腔炎を引き起こす。喫煙者に認
められる。
• 間質性肺疾患に関係する細気管支炎…レントゲンで上肺野を中
心に小葉中心性の異常陰影とすりガラス影
• 濾胞性細気管支炎…小葉中心性の結節影とすりガラス影を特徴
とする。膠原病(RAやシェーグレン症候群)や免疫不全(HIV
感染や分類不能免疫不全症)に関与する。
細気管支炎
本例では
本症例では…
• 気管支肺胞洗浄液(2セット)で細菌・ウイルス・真菌培養陰性
• 進行性の細気管支炎の確証はないが、統計学的特徴はびまん性汎
細気管支炎に一致
• 画像検査では間質性肺疾患に関与する細気管支炎や濾胞性細気管
支炎を示唆する所見なし
肉芽腫性細気管支炎
• 肉芽腫性細気管支炎は炎症性腸疾患の肺合併症(間質性肺炎、
過敏性肺炎、サルコイドーシス、肉芽腫リンパ球間質性肺疾
患)や感染症(結核、非結核性抗酸菌症)でみられる
本症例では…
• A. nigerやSaccharomonospora viridis抗体があるが、過敏性肺
炎に対して感受性も特異性もない
• サルコイドーシスは胸部レントゲン上の異常陰影の原因となる
肺門リンパ節腫脹は最も有名な所見だが、本例では認めない
特発性器質化肺炎
• 特発性器質化肺炎群の7つのうちの一つであり、肺胞上皮の障害
による
本症例では…
CTで斑状の小結節、硬化像、すりガラス影を認めず、除外される
気道中心性間質性線維症
• 比較的近年認知されるようになった
• 40-60歳の女性にみられる
• 進行性であり、4年以内に約1/3が死亡する
呼吸機能検査:拘束性換気障害
胸部レントゲン:特徴的な気管支血管周囲影の異常陰影
閉塞性細気管支炎
• 細気管支の気道内腔の狭小化による
症状:咳嗽・呼吸困難・不可逆性の気道閉塞
• 細気管支は最終的に閉塞するため、進行性に呼吸不全に至る
• 進行に伴い、気管支拡張と拡散障害が生じる
胸部CT:モザイク状の低吸収とガストラッピングを示す
小葉中心性の結節なし(他の細気管支炎と異なる)
• まれに感染後に生じる
閉塞性細気管支炎
原因
• ぺニシラミンや金属などの薬物、二酸化硫黄やマスタード、窒
素酸化物、香味料としてのジアセチルなどの毒物への暴露
• 同種造血幹細胞移植後や肺移植後
• 炎症性腸疾患や膠原病
• まれに特発性
• 膠原病の主症状より先に肺疾患の症状を呈することもあるため
注意
閉塞性細気管支炎
本例では…
リスクとなる物質への暴露なし
リウマトイド因子陰性、高CCP抗体陰性
→関節リウマチや膠原病では陽性になる、ただし後に上昇するこ
ともあり完全に否定はできない
閉塞性細気管支炎
本例では…
• 進行する呼吸困難
• 呼吸機能検査において増悪する閉塞性障害
• 画像検査:著明な肺膨張、びまん性のガストラッピング
→臨床症状としては閉塞性細気管支炎に一致する!
• 確定診断として胸腔鏡下手術にて肺組織の病理学的検査を施行
振り返り
初期評価時点での印象は
• 症状:慢性の息切れ、咳嗽、wheezeなし
• 検査:不可逆的な閉塞性障害、高度肺膨張
• CT:浸潤影なし
→喘息よりはその他の肺疾患を示唆
• 喫煙歴なく、α-1アンチトリプシン正常、気腫性変化なし
→COPDらしくない
閉塞性細気管支炎に関与する物質への暴露歴はないが、症状は一致
(気道リモデリングと不可逆的な閉塞の結果として生じる慢性閉塞性喘息の可能性も)
• 臨床診断・・・閉塞性細気管支炎
生検
• 確定診断を行うために胸腔鏡下手術にて生検が施行された
生検結果
• 4か所生検
最大3×2×0.5cm
• 低拡大…細気管支の欠損(Fig2A,2B)
• 高拡大…呼吸細気管支が実質的な内腔の閉塞を伴い、密な線維組織
と弾性組織の瘢痕により取り囲まれている
(Fig2C,2D)
長軸方向では細気管支に沿って線状の瘢痕が認められた(Fig2E)
組織球性の炎症による実質内腔の閉塞が時折認められた(Fig2F)
→線維化を伴う閉塞性細気管支炎
閉塞性細気管支炎
生検
• 閉塞性・狭窄性などの細気管支炎の様々な形態が同定されうる
• 閉塞所見は炎症の内腔房や線維化により認められ、しばしば
Masson体と称される
• 瘢痕は細気管支壁で置換され内腔を狭窄させる
本例では…
細気管支炎の形状の両方(狭窄・閉塞)を示すが、閉塞所見は非
典型的であり激しいものであった。
生検後の経過
• 術後、誤嚥による激しい息切れと喘鳴を来し高容量メチルプレ
ドニゾロンの投与により改善された
• 最終的にはプレドニゾン10mg/dayとブテソニド・ホルモテ
ロール、チオトロピウム、モンテルカスト吸入による治療が施
された
• しかし、咳嗽は再燃しプレドニゾンは20mg/dayまで増量し、
いくらか改善がみられた
• また、(フルチカゾン・アジスロマイシン・モンテルカスト吸
入を含む)移植後閉塞性細気管支炎のレジメンに沿ってピル
フェニドンとアジスロマイシンを追加投与
生検後の経過
• 追加治療にも関わらず症状・呼吸機能検査ともに緩やかに増悪
した
• 肺移植も考慮されたが、心機能の評価時に冠動脈ステントと
6ヶ月の抗血小板薬(クロピトグレル)が必要と判断された
• 肺生検の約13ヶ月後、抗血小板薬の中止され両側肺の肺移植が
施行された。
• 移植後、19日にて退院、外来にて経過良好
摘出肺から
• 中心性の気管支拡張、細気管支周囲の線維化、炎症・粘液によ
る広範な内腔狭窄を認めた
• 組織学的検査では生検と同様の所見
• 肉眼的には、中心性の気管支拡張、高度の膨張、細気管支の欠
損を認めた(Fig3)
病理学的診断 線維化を伴う閉塞性細気管支炎
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