PDF 775154 bytes

日消外会誌 14(8):1213∼
1220,1981年
消化管腫場 におけ る超音波診断 の意義
東京 女子医科大学 消化器病 セ ンター
秋本 伸
野口 友 義
大森 尚 文
田 洋 子
里
樹 生
由
浜 野 恭 一
村
斎 藤 明 子
済 陽 高 穂
ULTRASONOGRAPHY IN CASTROINTESTINAL TUMOR
Shin AKコ
販OTO,Yoko MURATA,Akiko SAITO,TomOyoshi NOGUCHI,
Tatsuo YURI,Takaho WATAYO,Naofumi OMORI and Kyoichi HAMANO
Institutc ofく
〕astrOenter010gy,Tokyo Womcn's Mcdical School
消化管腫瘍症例におけ る超音波検査 の有用性につ いて検討 した。腫瘍の描出は消化管壁肥厚 の著 しい程
容易で周辺低 エヨー域 と中心高 エ ヨー部 よ り成 る。部位に よる差や癌 と肉腫 での差は認め難 かった.BI転
移診断率は87%で 撒布L/jヽ
転移 の診断は困難であ った。音響陰影 を伴 う高 エ コー レベルの肝転移像 は大腸
癌 に特徴的 であ った。転移 リンパ節 は直径 3mm以 上で描出可能であった 。大腸癌局所浸潤 の間接所見 と
して水腎症 の診断が有効 であ った .直 腸癌術後骨盤内再発 は勝脱 の変形 と腫瘍像か ら診断可能な例 もあ っ
たが疲痕組織 との判別が困難 で あった。
索引用語 :超 音波検査・消化管腫蕩ゃ肝移転, リ ンパ節移転 ,尿 路浸潤
は じめに
装置および方法
第 1次 世界大戦 で海底探査や潜水艦深知 の 目的 で実地
に利用 された超音波が初 めて医学 に応用 されたのは1942
主な使用装置は,手 動接触複合走査装置 としては,東
5MHz 10
51C(ス キ ャンヨン パ ー ター付, 2・3・
芝 SSL‐
よる脳腫瘍診断の試みは
年 であった。 この, DussikI)に
mmφ 凹面探触子)を 用 い,又 実時間表示装置 としては,
東 芝 SAL‐20A(3.5MHzリ ニア 電子 スキ ャン)を 用 い
成功せず,幾 多 の困難な問題 の解決 を経 てのちよ うや く
1960年代 に入 って,主 として心臓 と産科領域で臨床使用
されるに至つ た.一 方消化器領域 で超音波 検査 が十分な
診断能を持つに至 った のは1970年代 に入 ってからと言っ
て よかろ う。そ して今 日では肝膵胆道系 における不可欠
な診断法の 1つ として認識 されるまでになったが,消 化
管疾患 における超音波診断 の意義 は一般 に薄 い とされて
いる。 しか し近年診断機器 の改良が進み ,超 音波検査が
消化器 ス クリーニング検査法 として頻用 されるようにな
/_.
臥位 を原則 とし,必 要に応 じ
検査体位 は坐位お よびfr「
て半坐位,半 側臥位 に て 施行 した。 検査前処置は行わ
ず,陣 胆道系検査 を併せ行 う時 にのみ絶食検査 とした。
骨盤内腫瘍 の検索 に際 しては排尿を我慢 させ勝脱の充満
を図 った。
対
象
るに従い,消 化管腫瘍 の超音波像 を正 しく理解する こ と
検査対象 は1974年1月 から1980年6月 までに東京女子
医大消化器病センターで超音波検査 を 行 った約7,000症
は意味あ る ことであ り,さ らにそ の転移再発における有
力な情報源 として,超 音波診断 の占める位置は必ず しも
)の うち手術で確定診断 された上
例 (検査延べ13,107回
部お よび下部消化管腫瘍息者である.原 発腫易病巣につ
低 い ものではない と考えている.こ の観点か ら,消 化管
いては超音波検査 で発見 した12症例 の所見を中心 に検討
を行い,肝 転移 については超音波所見 と組織所見を対比
悪性腫易患者を対象 にわれわれが行 った超音波検査成績
並びに検査所見について検討 した.
検討す るため検査後 2週 間以内に肝合併切除を行 った15
消化管腫瘍 におけ る超 音波診 断 の意義
74(1214)
症例を中″
bに 検討 した。 リンパ節転移に関 しては上部消
化管腫瘍39例の郭清 リンパ節 の組織所見 と超音波所見を
対比 し,さ らに直腸癌局所再発症例10例につ いて も検討
日消外会誌 14巻
8号
図 2 BOrr IV型 胃癌
を加えた。
消化管睡病診断について
正常消化管 の うち最 も容易かつ鮮明に描 出されるのは
胃幽門前庭部である.こ れは, この部の胃壁が厚 く,通
常空気を合 まないため と考えられる (図 1)。
図 1 目 前 庭 部 正常 超 音 波 像
→
図3 図
2 と 同 一 症 例 の超 音 波 像
→
( L : 肝 左業, S t : 胃 , P : 膵 , S M V : 上 腸問膜静
脈) 胃 辺縁部無 エ コー帯 は 胃壁 を, 内 部 エ コー は内
座 を意 味す る。
表 1 超 音波検査 で発見 した消化管悪性腫瘍
部 位
腫 易
例 数
癌
3
肉腫
1
十二 指陽
肉腫
1
空
暢
肉腫
1
癌
5
結
陽
胃
肉腫
1
討
腫易 の場合 も壁 の肥厚が著 しい程その描 出は容易 とな
(T:腫 瘍)胃 壁 の肥厚が著 しい.
その典型的な像はスキルス型 胃癌 (図2,3)や
全周性
み られる.周 辺低 エ
狭窄 の著 しい結腸癌 (田 4,5)で
コー レベル帯 は壁 の腫瘍性肥厚を示 し,中 心近 くのやや
不整形 の強 いエ ヨーは内腔 に相当 し,通 常強い音響陰影
を伴 うものである。 一見,腎 臓 の超音波像 に似 た形態を
の うち全周乃至全周に近い壁肥
る。全検査回数13,107回
示す のがその特徴である。
厚 を示す消化管腫瘍の検査は150回で あった。 この うち
12例をス クリー ニング超音波検査 で 発見 した (表 1).
小腸,大 腸 いずれの部の悪性腫易 で もそ の超音波像 は類
腫瘍発生部位 に よる差果は認め難 く,胃 ,十 二指腸
75(1215)
1981年 8月
図4 盲
外性発育 の著 しい大 きな肉腫な どでみ られた腫瘍内多発
腸上行結腸癌
壊死巣 の存在 に よるものであった (図 6, 7).
鑑別すべ き超音波像 を塁 したのは腸管周囲の炎症性変
化 であ った。すなわ ち憩室炎,虫 垂炎等 に起因する濃易
や,稀 れな もの としては腸管周辺 の肉芽腫 な ど で ある
(図8).こ れ らはいずれ も不整形 で 内腔を意味す る明
bエ コーお よび音響陰影 を欠 くことから典型的な
瞭な中″
消化管腫瘍像 とは異 り,鑑 別可能 であ った.
肝転移診断について
肝転移診断は,消 化管腫瘍 に対 して超音波検査 が最 も
図 6 十 二 指腸肉腫 の超 音波像
→
図5 図
4と 同一 症例 の超 音波像
→
瘍 ) 肝 下 面 に 接 して 大 きな腫 瘍 像
(L:肝 ,T:腫
がみ られ る. 内 部 は強 い エ コ ー や ぬ け な ど, い わ ゆ
る m i x e d P a t t e r n を塁 す る。
図7 図
(T:腫 瘍.AS i音 響陰影)典 型的な消化管腫場像
で,凹 凸のある壁肥厚像 と,音 響陰影を伴 う強 い内
座 エ ヨーがみ られ る.
似 してお り,ま た癌 と肉腫の差果 も殆 ど認められず同様
の基本像を塁する!腫 瘍内部 に不整 エ コーを認めること
は少 く,あ る程度以上の大 きさになるとしば しば内部不
整 エコーを伴 う肝膵腫場 とは際立 った相違を示 した。 こ
れは消化管腫瘍内の音響組織学的均一性を意味するもの
と考えられる。稀れに内部不整 エ コーを示 した例は,壁
6 と 同 一 症 例 の切 除 標 本
消化管腫瘍 におけ る超音波診 断 の意義
76(1216)
図 8 非 特 異性 回腸 潰 瘍 周 囲 の 肉芽 腫 超 音 波 像
→
日消 外会 誌 1 4 巻
8号
図 9 胃 癌肝転移超音波像
→
§
(Cr i肉芽腫)全 体 に不整形のぬけを皇 し、音響陰
影を伴 う内雄エ コーはみ られない。
り
寄与 し得る領域 であろ う .東 京女子医大消化器病 セン
ターにおける,超 音波検査 に よる肝転移 (肝内腫瘍)診
断率 は,約 87%(52/60)で ある。 なお faise positiveは
0.6%と 少なか った。falSe negative 8例
を検討すると,
初心者 に よる見落 しと,多 発撒布性転移例 の見落 しであ
った.
肝内腫場 の超音波診断は,非 腫瘍部 との音響イ ンピー
ダンスの差 に よるエ コー ンペルの違 い,お よび腫瘍内部
ェ コーパ ター ンの認識 に よ りなされる°.固 有音響 イ ン
(M:転 移巣,RHV:右 肝静脈)転 移巣 は低 ユ コー
レベルを示 し,境 界明瞭であ る.
り,部 位 に よっては観察 が 困難 で あ り, リンパ節の部
位診断は胃肝陣陣,大 動脈 とその分枝,門 脈な ど,land
markと なる臓器や脈管 との位置関係 が 画像上確認 で き
るもの以外は不正確 であ った。
局所の浸潤 ,再 発診断について
超音波検査が関与 し得 るもう1つ の領域 が結腸直腸痛
等 の局所浸潤診断 である。局所浸潤 を直接に描 出する こ
とは困難であるが,浸 潤 に より尿路狭窄が生ずる場合 は
ピー ダンスが周辺非腫瘍部 と異 り,高 エ コー レベル ある
いは低 エ コー レベル を示す場合 (図9)は 診断が容易で
水腎症を描出す ることに よ り間接的に局所浸潤を推測す
あった。 しか し非腫瘍部 とエ ヨー レベルが近 い ものや,
5cm程 度以下 の撤布性小転移 の診断は難 しく,
直径 1・
ち最 も判定 の容易なものの 1つ であ り,腎 実質 と拡張腎
る ことが可能であった.水 腎症 の診断は超音波診断 の う
こ とに肝表面 にみ られる平坦な形 の転移巣 では見落 し易
孟腎杯 の 双方が ともに鮮 明に捉えられ (図10),経 静脈
移の
的腎孟造影 よりも確実に半J定で きる。SChnitzler転
いため注意深 い観察 が必要であ った。
リンパ節転移診断について
うちのある ものでは,片 側あ るいは両側 の水腎症を来す
ことがあ り,こ れ も同様に超音波検査 に よる問接的診断
手術時摘出腹腔内 リンパ節 (39例63■)の 検討か ら,
直径 3mm以 上 の 転移 リンパ節 は描 出が可能であった
が,腫 瘍細胞が リンパ節の一部のみを占拠 している場合
の助け とな り得た。 したが って消化管腫瘍例 における超
音波肝転移検査に際 しては,肝 臓 とともに両側腎臓の検
5cm以 下の ものの超音波描 出能は不良 であ っ
は直径 1・
索 を行 うこ とが甚だ重要であった。
直腸癌 の術後骨盤内局所再発 について も,勝 脱 が腫易
た。診断率 は58.7%で 大 きさ別診断能は以下 の如 くであ
った.す なわち 4mm以 下では2/11(18.2%),5∼ 9mm
た (図11)。しか し術後赦痕組織 との鑑別 が 難 しく,い
で6/16(37.5%),10∼
19mmで
27(77.8%),2tlmm
21′
し か し 腸管 や 脂肪組織 な どに よ
以 L で8 7 9 ( 8 8 . 9 % ) 。
に より圧排を受けると超音波像 か ら診断可能な例 があ っ
ずれ の症例 もくり返 し検査に よ り経過を追 って大 きさの
変化 をみる必要があった (表2).
1981年 8月
77(1217)
表 2 直 腸癌局所再発診 断
施行 例 数
血管造影検査
CT検 査
局所 診 断
水腎症診断
4
4
超音波検査
3
らの心臓診断や,胃 を介 しての膵臓診断,経 直腸的前立
の
腺診断 ,な どがあるに過 ぎない。 消化管小病変 につい
ては,通 常超音波検査 の対象外であるが,た とえば水 で
胃を充満 させ ることに よ り早期 胃癌を超音波画像 として
揮
帥
剛
]
田
申
( R K : 右 腎, L K : 左 腎・H N : 拡 張腎孟)
正常像・左腎 は直腸癌 のと尿管下部浸潤 に よ
症 の像.
描 出す ることな ども可能である。 しか しX線 検査,内 視
鏡検査 の進歩著 しい今 日,い わゆる早期癌,微 小癌 の診
断や発見 に超 音波検査が関与す ることはほ とん どない.
本検査法 が消化管腫場 の診断に寄与 し得るのは,ま づ第
1に 腹部腫瘤 の鑑別 における arst choice検
査 としてで
あろ う.触 診で発生臓器不明の腫瘤 を認 めた際,超 音波
検査 に よって消化管 由来か否かを半J定する こ とは,そ の
後 の検査計画を無駄 な く進 める上で意味あ る こ とであろ
う。 こ とに大腸腫場 では完全閉塞 を来すまで便通異常や
図1 1 直 腸癌局所再発超音波像
→
腸閉塞症状を呈 さぬ こ とが多 く,X線 検査や内視鏡検査
が遅れることもあ り, この ような症例に超音波検査で的
確 に腫瘍出来臓器 の判定を下す ことはよ り早い時期 に外
科的処置を加え得 るとい う点か ら有意義 と考えられ る。
本検査が寄与 し得 る第 2の 点 は腫場 の術前,術 中,術
後 のそれぞれにおけ る肝転移診断で ある。そのそれぞれ
における意義を以下 に記す と,
(1)術 前模査 として
本検査は無侵襲 であ り造影剤 を用 いず に同時 に広範囲
多臓器 の検索 が可能 であ り,腫 瘍 の遠隔転移状況 の把握
にす ぐれ ている。 とくに肝転移 に関 しては正常肝内構築
の乱れ とエ コー レベルのムラに注 目しつつ実時間表示装
置 で肝内を動態観察す るとその診断 は 比較的容易 で あ
る.術 前に肝転移 のない こ とを確認するのは勿論,肝 転
移 があっても合併切除 の可能性を判定す る ことも重要で
ある。 とくに大腸癌では肝転移巣が限局性 の場合,合 併
(UB:勝 脱. T:腫 瘍)腹 会陰式直腸切断術後 の
骨盤内再発で勝脱 は腫瘍 により圧排 されている.
考
察
消化管腫瘍 の超音波診断 に関 しては, これ までに胃癌
についての報告等 を僅 かにみるに過 ぎないつめゆ。 また,
消化管内腔 から行 う超音波検査 に関 して も,食 道内腔か
切除 に よる長期生存例 も報告 されてお り,血 管造影検査
とあわせて,よ り的確 な 立体的位置把握 が 必要であろ
う。超音波所見 からは転移巣 と肝内静脈門脈を同時 に明
瞭 に観察 し得る ことか ら合併切除を考慮 に入れた術前肝
転移診断法 として本検査法は有力なもの と言えよう。
(2)術 中検査 として
術前検査 で死角 とな り易 い肝右美上部横隔膜直下 の検
消化管腫瘍 におけ る超音波診 断 の意義
78(1218)
索や,術 中に視診触診 で肝に異常を認めた際な どに探触
子を直接肝表面にあてて術中検査を行 うことは有用であ
日消 外会 議 1 4 巻
8号
図13 術 中超音波検査 に よる肝 転移検索
る。 とくに肝転移がある場合,切 除範囲を術中に決定す
る上でいわば肝内を直視下に立体的に把握する こ とが可
能 な術中超音波検査は有力な情報を与えて くれるもので
ある。われわれは術 中超音波画像を ガイ ドに した肝切除
法を開発 しり, 現在 までに消化管腫場 の肝転移合併切除
例17例中 5例 に 本法を施行 している (表3).な お術中
検査にはわれわれの考案 した薄型穿刺溝付探触子 の使用
が有効である (図12,13)。 また 幕内 らりも小型 の 術中
用探触子を発表 している.
(3)術 後検査 として
術後転移再発を早期 に発見す ることは,こ れ に治療を
加えて予後を良好 ならしめる上 で重要な こ とである。わ
探触子が薄型 であ るため下 腹部手術創 か らで も, ほ
ぼ肝 全域 の検索 が可能 であ る.
れわれは術後,生 化学的検査,血 清 CEA値 測定 と共 に
定期的頻回の超音波検査を行 ってお り, このよ うに して
発見 した術後肝転移, さらには転移肝切除後再転移 に対
.
して,肝 切除を行 い良好 な結果を得 ている1°
表3 肝
原疾患
図1 4 直腸癌肝転移超音波像
→
→
転移合併切除症例
肝 転 移 切 除 例数
超音波 ガイ ド
切 除 例 数
胃 癌
胃肉腫
1
結陽癌
1
直陽痛
4
計
5
図12 術 中検 査用穿刺溝付超音波探触子
(M:転 移巣,AS:音 響陰影)右 葉 に多発転移巣 を
み とめ るが,個 々の転移巣 は様 々の形態 とエ コーレ
ベルを示す。
肝転移 に特有な超音波像 はな く,基 本的 には原発性肝
癌 と同様のいわゆる腫瘍 エ ヨー像 を呈する. しか し多発
性 でそれぞれ の大 きさ,形 態,内 部 エ ヨーに統一性がみ
られない例 では転移性肝腫瘍 と診断 し 得 る (図14).原
探触子 は薄型 で, 超 音波 は先端 か ら直角 方向 ( 写真
の下 方向) に 放射 され る. 術 中, 肝 へ直接, あ るい
は体表か らの穿 刺 のためにV 字 型 に切 りこんだ穿刺
溝 を設 けてあ る.
発臓器に よる差果 もまた明らかではないが,消 化管腫瘍
の うち大腸痛 の肝転移像 は高ユ ヨー レベルの ものが多 く
み られ,そ の約 7%に は音響陰影を伴 う程 の強 いエ ヨー
を示 す ものもみ られ る ( 図1 5 ) . この 特徴 あ る 強 いエ
1981年 8月
79(1219)
図 1 5 結 腸癌 肝転 移 超 音 波 像
→
ラー"は 解消 された と言 ってよかろ う.ま た 周囲 とエ
コー レベル差 の少ない転移巣 について も動態観察に よっ
て病変 の拾 い上げが容易になった。非腫易部分 のいわば
backgrttnd echoと
,腫 瘍内のエ ヨーパ ター ンが異 り,
動 きの中で捉えるとその違 いが 明瞭に認識 されるためで
ある.こ れは脈管 を主 とした微細組織構築 の違 いに起因
する,腫 瘍 と非腫瘍部分 のエ コーパ ター ンの相達 による
もの と考えられる。われわれの超音波検査 に よる肝転移
診断率は約87%で ,こ れは血管造影検査における診断率
(約90%)に 匹敵するものである。無侵襲検査 で ある こ
とから, く り返 し検査 (とくに術後 の f0110w uPな
ど)
に対す る超音波検査 の有効性は明らかである.な お RI
シンチ グラフ ィーの肝転移診断率は約60%で あるが,転
移 の部位 と大 きさで診断率が大 きく異る.
最近 の装置 の進歩 に よ る 解像度 の向上や実時間表示
は,従 来捉える ことの難 しかった リンパ節転移 もある程
(M:転 移巣, AS:音 響陰影)s状 結腸癌転移巣
で,明 瞭な音響陰影を伴 う特徴的な強 い工ち―像を
示す。
コーは組織所見の検討から,転 移巣内の豊富な線維成分
と微小壊死巣の散在,ム チン様物質 の存在 に起困するこ
とが推定 されるが,こ のよ うな病理組織所見は,原 発性
肝癌や上部消化管腫瘍肝転移 の組織 には認 め難 い もので
ある (図16).
度超音波像 として描 出する ことを可能に した と言 って よ
かろ う.と りわけ,大 動脈 とその分枝,上 腸問膜静脈 と
門脈,下 大静脈,肝 下面,陣 な どの近傍 の ものは球形 の
エ コーのぬ け として認識 し易い。 リンパ節 と脈管断面 と
の鑑別が問題 となるが,実 時間表示装置での動態観察に
よ り,脈 管 はその連続性 が追及で きるので,慎 重 に観察
しさえすれば判定 は困難 ではない。 しか しながら リンパ
図 1 7 転 移 リン パ 節 超 音 波 像
→
図16 図 1うと同一宝例の切除標本 ル ーペ像
合併切除 した肝 転移巣 のル ーペ 像 で,島 状 の腫 場細
胞塊 と,豊 富 な結合織成分,壊 死巣 ,ム チ ン様物質
の混在がみ とめ られ る.
肝転移 巣 が 小 さい場合は スキ ャンで の とび こ しに よる
み お としが起 こ り得 る訳 で あるが,実 時 間表示 が可 能 な
(すなわち動態観察 が 可能な)装 置の実用化に伴い連続
的な観察が行えるようになり, このような ``と
びこしユ
( L : 肝 , L y : リ ンパ節, S M A : 上 腸関膜動脈,
A O : 大 動脈) 胃 痛 の リンパ節転移像 で, 腹 雄動脈幹
根部近 くに明瞭 な球形 のぬけ として捉 え られて い る.
消化管腫瘍 にお け る超音波診 断 の意義
80(1220)
節が どの程度腫瘍細胞 に占拠 され ると超音波像上認識可
能 となるのか,ま た炎症性腫大 を起 こ した リンパ節が転
移 リンパ節様 にぬけて描 出される ことは な い の か,な
false poistiveの
ど falSe negativeゃ
点で今後検討を要
す る点 が多 く残 されている.こ れ らの問題 が解決 されれ
ば ,消 化管腫瘍 の術前把握 の面で超音波検査が果す役害!
はさらに増す と言え よう (図17)。
腫場 の尿路系狭窄 に よ る 水腎症の発見は主 として盲
日消 外会 誌 1 4 巻
8号
浸潤 の診断や粘膜下腫膚 の性状診断な どへ の超音波検査
の応用 が期待 される,
文 献
1)Dussik,K.T.: Ubcr dic M6glichkeit,hoch‐
frcqucnte mechanischc SchMangungen als diag‐
nOstisches Hifsmdttel zu vcrwcrden.Z.Ces.
Ncur。1. Psychiatr., 174: 153--168, 1942.
2 ) 福 田 守 道 ほか : 肝 ・胆 ・膵 超 音 波診 断 の 実 際 .
腸, S状 結腸,直 腸 におけ る腫瘍 の局所進展や術後局所
再発 の間接所見 と言えよう。 これ らに関 しては従来的確
8 9 - 9 1 , 金 原 出版 ・ 東 京 , 1 9 7 9 ,
3 ) 井 出正 男 ほか : 超 音波 診 断法 , 5 - 6 , 電
な診断法がな く,最 近 の CT検 査 の 進歩 に よって も骨
盤 内局所再発 に関 しては未だ十分な成績 が得 られていな
社, 東 京, 1 9 7 3 .
4 ) 小 林 利 次 ほか : 管 魅 臓 器 癌 の超 音 波 断層 像 . 超
モ手逝宅Zこ骨と, 3: 110--112, 1976.
い ところから,超 音波検査 によるこれ らの所見の把握 は
5)WVallS, W・ J.:
意味あ るもの と考えられる.
おわ りに
最近,超 音波検査 は診断能 が向上 し腹部消化器領域 に
おいても急速 に注 目され るに至 った.わ れわれは過去 7
波実験
The CValuation of malignant
scanning.
gastric ncoPlasEIS by ultrascnic B‐
Radiology,1188159--163,1976.
‐
6)Kremcr,H.et al: Sonographischc DiagIЮ
Erkrankun‐
stik bei inflitrativen httagen_Darm‐
gcn.Dttch.Mcd.ヽ ぱschr.,103:965 966,1978.
どまらず,消 化管腫瘍 に対 しても診断的意義 を有するも
7 ) 棚 橋 善 克 ほか : 泌 尿 器 科 領域 にお け る超 音 波診
断 の 現況 . 超 音 波 医学 , 3 : 1 9 1 - 2 0 0 , 1 9 7 6 .
3 ) 秋 本 伸 ほか : 術 中 超 音波 検 査 一 肝 硬 変合 併 小
肝 癌 切 除 にお け る有 用性 につ い て. 外 科 , 4 2 :
の と考えるに至 った。すなわち,腹 部腫瘤 の鑑別や,肝
転移, リンパ節転移,局 所浸潤 に対する術前 ・術中 ・術
189--194, 1980.
9 ) 幕 内雅 敏 ほか : 新 た に開 発 した 術 中 超 音 波検 査
年間 に 約13,000回の腹部超音波断層検査 を 行 ってきた
が,従 来言われ て きた肝膵胆道系 に対す る診断価値 に と
後 における有意義 な検査手段であると評価 し得 るもので
ある.さ らに管腔内超音波探触子 の改良や,内 視鏡的超
音波装置 の開発等を通 じて,消 化管腫場 の深達方向へ の
用探 触 子 . 映 像情 報 , 1 1 1 1 1 6 7 - 1 1 6 9 , 1 9 7 9 .
1 0 ) 由 里樹 生 ほか : 大 腸 癌 肝転 移 症 例 に 対 す る 治
療 。 日消 外会 誌 , 13: 232--237, 1980.