平成17年度 卒業研究論文 映画作品の「入れ込み」要素についての研究 −ウェブサイトにおける発言の内容分析− 第三学群 社会工学類 社会経済システム専攻 200101001 高橋和氣 指導教官 : 石井健一 1 目次 1. 研究目的 ……………………………………………………………………………………3 1-1. 背景 物語型商品に求められるマーケティング課題 1-2. 研究目的 1-3. 探索的研究課題の設定 2. 研究方法 ……………………………………………………………………………………7 2-1. 映画情報サイトに寄せられた発言の内容分析について 2-2. 映画作品データとの比較方法 2-3. 物語内容の質的内容分析 3. 分析結果 ……………………………………………………………………………………11 3-1. 発言から抽出したデータの因子分析 3-2. 各指標との関係性 3-2-1. 雑誌評価との比較 3-2-2. 興行収入との比較 3-2-3. ジャンルによる違い 3-2-4. ファンタジー(非現実的)要素の介入 3-2-5. 舞台となる地域による違い 3-2-6. 原作の有無による違い 3-3. 分析結果の総括 4. 分析結果の考察と結論 …………………………………………………………………21 4-1. 登場人物名因子に関する質的内容分析 4-1-1. 検証方法 4-1-2. 検証対象の作品 4-1-3. 検証1 因子得点の高い作品 4-1-4. 検証2 因子得点の低い作品 4-2. 結論 参考文献・資料 附録 ・………………………………………………………………………………29 ……………………………………………………………………………………………30 2 1. 研究目的 1-1. 背景 物語型商品に求められるマーケティング課題 物語型商品とはコンテンツとも呼ばれ、物語性を特徴とする商品の総称である。一般的 には、映画、小説、テレビ番組からスポーツの実況放送まで、多くの分野にまたがってい る。 日本のコンテンツが海外へ輸出され国際競争指定業種になる中、表 1-1 で示すように業界 では課題が山積し、この分野では新たなマーケティング手法が求められていると言えよう。 しかしながら、「物語上のどういう要因が絡み、興行収入に繋がるか」といった比較研究を する際に、何が観客の心をつかんでいるか、といった問題を分析し論理的に説明すること はとても難しい。また、これまで“芸術性”が尊ばれていたため、 「作品」に「売れる」 「売 れない」といった経済的尺度を用いることがタブー視されてきた背景もある(山川、2004)。 本研究の分析対象である映画を例に取れば、例えば、データを蓄積して将来の配給活動 につなげるためにGAGAが開発した「マーケティング・データベースLINDA」など、 最近になり、ようやく新しい手法が発明されている。とは言うものの、特に日本では上述 したタブー視が根強く実証研究の分野で遅れが目立ち、より観客のニーズに応えるため、 ハリウッドのメジャー製作会社で早くから実用化されているテストマーケティングや、他 メディアと連動させるリレーションシップマーケティングなど、まだまだ可能性を探る余 地があるだろう。 業界 業界の抱えるマーケティング課題 事業者に望まれる対応 番組のシングルユース型制作、契約 放送番組利用環境の整備 番組流通市場・ルートの不足 地域放送局の活性化 小売チャンネルの多様化・流通のデ 流通効率化に向けたデジタル化 ジタル化のスピード不足 流通チャンスの拡大・多様化 放送 出版 放送番組市場の育成 価格設定の多様性の不足 映画 不透明なビジネスモデルの残存 正確なマーケティングデータの蓄積、整備 デジタルシネマ化への対応の遅れ 「事前のチケット販売」に依存しない体質とビジネスモデ ル育成 表 1-1. 主な各コンテンツ業界の課題 ( 『コンテンツ・マーケティング』より) こうした背景から、消費者のニーズを探る必要性が声高に主張されているわけだが、物 語型商品の特性上、観客側の意見を作品ごとで検証することは、今まで非常に難しかった。 分析の大きな障害として、消費者が感じる映画の「良い部分」「悪い部分」は、観客各々の 微妙な感覚の違いによって価値が逆転することもあるため、例えば、自由記述方式のアン 3 ケート調査をするにしても、どういった質問項目を作るべきか、そして、どういう形でデ ータとして保存するかといった問題が絡み、質的分析に困難さがあった。 この、観客個々が感じる『作品の良さ』を掴み取ることが曖昧であるのは、物語型商品 特有の要素である「物語に世界観があること」 「物語型商品は人ブランド(制作者・俳優・ 登場人物等の価値)によって成り立っていること」が関係するためである(新井、2004)。 例えば「登場人物の性格によってその作品の人気が変わる」として、愛らしい登場人物を 描く方がよいと言われても、制作者側としては「仔犬のように愛らしい性格」が良いのか 「小型ロボットのように愛らしい性格」が良いのか分からず、ひとえに「愛らしい」とい っても、人の価値観によってそのイメージは異なってしまうのである。 1-2. 研究目的 1-1 で述べたとおり、物語型商品の特性である「世界観」や「人ブランド」について、先 行研究が乏しく分析指標の確立は難しいものの、その効果は時に観客の励みとなり、観客 の能動性をもたらす。「映画の登場人物のセリフを真似して、実生活で友人に同じセリフを 使ってみる」ことや、「消防士の活躍を描いたドラマに影響され、消防士を目指すことにし た」などの経験もその能動性によるものだ。また、最近ではインターネット上の日記で自 分の見た映画について感想を書き、ポータルサイトの掲示板で映画に対する思いを発言す る消費者も現れている。程度に差はあるだろうが、物語型商品に影響を受けた人は、少な からず能動的な行動をとるようだ。 それはコンテンツが、多かれ少なかれ、消費者に精神的な影響を与えるためである。例 えば、2005 年 5 月 16 日付けの神戸新聞に以下の記事が載った。 赤穂市の少女(19)が三カ月以上監禁された事件で、東京都足立区のマンションから逃げた 少女は、約七十キロ離れた千葉県木更津市の教会で保護されたことが、十六日までに分かった。 少女は昨年六月十九日、容疑者(24)宅から逃げ出し、東京・浅草の漫画喫茶で一泊。翌日、 木更津市に向かい、東京湾そばのカトリック木更津教会(同市富士見)に。 パドルノス神父(60)によると、二十日午後のミサで、ギターが響き明るい聖歌が歌われて いる時、少女が静かに入ってきた。聖母像前の長いすに座り、ミサが終わるまでうつむいたまま で、信徒が声を掛けると「逃げてきた。助けてください」とだけ言い、疲れ果てた様子で数時間、 いすで横になり眠ったという。 上着はぼろぼろで、髪が右側だけ切られ、首には監禁時の首輪によるとみられるあざ、全身に も無数のあざがあった。 目を覚ました少女は、神父らの問い掛けに「殴られ、けられた」と少しずつ打ち明けた。病院 や警察へ行こうと勧めると「『届けたら必ず殺す。ほかに仲間もいる』と言われている」と激し くおびえ、拒んだ。 4 途切れがちに「母親と見たテレビ『木更津キャッツアイ』を覚えていて、電車で来た」 「幼い 時、賛美歌を聞いたことがある。海へ行こうと歩いていたら、歌が聞こえた」と話したという。 神父らの手配で、少女はホテルで一泊後、同県内の民間福祉施設に入所。約一カ月、カウンセ リングや子どもたちと遊ぶうちに落ち着き始め、七月末、自宅に戻った。 神戸新聞 2005年5月16日 この拉致被害者がTVドラマ『木更津キャッツアイ』を思い出して行動を起こしたよう に、物語型商品は消費者の精神に影響を与え、時には高い能動性を生み出し、行動選択に きっかけを与えることもある。つまり、ある特定の感情を得たいと消費者が願い、コンテ ンツが作り出す世界観に浸るのであるとすれば、「きちんと浸れる世界観」「登場人物を理 解できる・好きな俳優が出演しているという、人ブランド」を提示できるかどうかが、コ ンテンツの評価を決定すると言えよう(新井、2004)。そうして、この能動性を引き出す要 素を検証することは、商品開発の向上のみならず、 「観客に能動性を与える」という意味で、 社会的にも意義があると言える。 また、この能動性に関わる「世界観」「人ブランド」を引き立てる要素として、「原作の 効果」がある。 下表 1-2 は、2004 年の実写邦画の興行成績順位であるが、『スウィングガールズ』『着信 アリ』を除けば、小説・漫画の原作をもとに作られている。つまり、映画業界では、映画 製作者が原案を作り作品化するよりも、原作を映画化する方が、よりよい興行成績を収め ている。そして、原作というフィルターを通すことで、より「世界観」や「人ブランド」 への理解が深まるのならば、映画作品に原作があるということは、それら観客が作品に入 れ込む要素を高める素材となるのではないだろうか。 順位 作品名 興行収入(億円) 1 世界の中心で、愛をさけぶ 85 2 いま、会いにゆきます 48 3 クイール 22.2 4 スウィングガールズ 21.5 5 NIN×NIN 忍者ハットリくん 19.3 6 半落ち 7 海猿 17.4 8 CASSHERN 15.3 9 着信アリ 10 解夏 19 15 10.9 表 1-2. 2004 年 実写邦画興行成績順位(『社団法人日本映画製作者連盟』より) 5 以上のような要素に観客が影響を受け、何らかの行動をとるならば、この能動性を引き 出す仕組みを「入れ込み」要素と名づけ、その要素が具体的にどういったものかインター ネット調査と物語内容の検証で探り取ることがこの研究の目的である。 1-3. 探索的研究課題の設定 物語型商品の特徴である「世界観」 「人ブランド」の浸りやすさによって観客の満足感が 異なり、また、そうした浸りやすさへ「小説や漫画を原作にすること」がプラスの効果を 与えると仮定して、映画作品における「入れ込み」要素を得るための研究を進めていく。 研究の流れとしては、 1、ウェブサイトに寄せられた発言から「世界観」「人ブランド」への浸りやすさを計る要 素をピックアップし、それら要素の相互関係を調べるために因子分析をする。 2、得られた因子を以下の分類指標と照らし合わせ、その特徴をつかむ。 ① 客観的な作品評価との関係性(一般的評価に対応している因子であるか) ② 世界観や人ブランドの違い(その因子は、「世界観」や「人ブランド」について説明 する因子であるか) ③ 原作の有無による違い(その因子が、原作の効果と対応しているか) 3、この結果から、「入れ込み」要素を計る指標を発見する。 である。 また、 「入れ込み」要素を計る指標を発見できたならば、その指標によって作品を分類し、 物語内容を比較することで、指標の妥当性を検証し、「入れ込み」要素自体を発見すること が、研究課題である。 6 2. 研究方法 2-1. インターネット利用者の発言を内容分析 研究方法として、消費者が映画作品に触れることでどれほど能動的になっているか検証 するため、映画情報サイトの各作品のページに寄せられる発言の内容分析を行った。 2-1-1. 分析対象作品 2002-2004 年の三年間に劇場公開された映画作品のうち、キネマ旬報誌の企画「ベスト・ テン」で得点を付けられた各年 100 作品から、人気作品が分析対象に集中することを防ぐ ため、1年につき 30 作品をランダムに抽出し、アニメ作品を除外して残った 87 作品を分 析対象とした。 2-1-2. 発言のピックアップ方法 Yahoo! Japan のサービスである映画ポータルサイト「Yahoo! Japan MOVIES」のサー ビス「ユーザーレビュー(作品について利用者が評点を与えたり意見を述べることが出来 る)」に寄せられる発言から、個々の作品のコーディングシートを作成した。また、サンプ ルを抽出する際、作品によって投稿量にばらつきがあるため、発言の投稿量が 50 以上ある 作品は、公開後3ヶ月以内の全投稿から等間隔に 50 投稿ずつ抽出。また、全投稿量が 50 に満たない作品については全てを抽出し、その結果、計 2316 個の投稿を抽出した。そして、 作品ごとに抽出した発言について、以下の項目を検証した。 2-1-3. コーディングシート項目 コーディングシートを作成するにあたり、内容分析に直接利用するための項目として「投 稿日時」「投稿の文字量」「その発言者の作品評価(Yahoo! MOVIES が設けている5段階 評価)」があり、発言内容を分析する項目として「過去の記事への返答があるか」「投稿内 容はどういったものか(4つの分類指標)」「その映画のスタッフの固有名詞は記載されて いるか」「キャストの固有名詞は記載されているか」「他作品について言及しているか」「関 連作品について言及しているか」の6つを設けた。 項目となる指標を設ける際に、様々な「世界観に関する指標」を考察してみたが、一般 性がない要素は得られるサンプルがとても少なく、どの作品でも共通するだろう「人物名」 「関連作品」 「他作品との比較」の要素を調べることで、その観客が作品に入れ込んでいる か検証しようと試みた。つまり、そういった「映画に関する具体的な情報」を語ろうとす る観客は、「能動的に映画に関与したい」と見なす。よって、「入れ込み」要素を計る指標 と仮定した「世界観」「人ブランド」の違いを分析できる「スタッフ名・キャスト名・登場 人物名・関連作品名が記載されているか」を重視した。また、本文の文字数が多ければ、 7 利用者がそれだけ内容の濃い発言をしようと試みていると見なし、これは「入れ込み」要 素に関わるものと捉え、 「文字量」の指標も設けた。 図 2-1 は、実際に検証した発言例と、項目それぞれの対応である。 「ホテル・ハイビスカス」の記事番号 40 ストレス解消 2003/ 7/23 23:34 →C 投稿者: blueblue987 →B 採点: →E 沖縄を舞台にした、というだけでなんだか明るく 楽しい映画だと思って前情報なしで観たのです が・・沖縄の悲惨な歴史がベースになっていて 意外でした。沖縄の人のあの陽気さは暗い歴史か ら育まれたものなのかなぁ・・などと考えてしま いました。 とはいえ、余貴美子はいつもかわらず美しいし美 恵子ちゃんも元気いっぱいで○だったし ストレス解消になりました。 →D メッセージ: 40 / 71 →A 図 2-1. 「Yahoo! Movie ユーザーレビュー」に寄せられた発言例 項目 ①記事番号→A ②ユーザーID→B ④投稿の文字量→Dの文字数 ③投稿日時→C ⑤その発言者の作品評価(五段階)→E D……発言の本文に関しての内容分析指標 ⑥過去の記事への返答の有無 ⑦投稿内容 ⑨キャストの固有名詞の有無 ⑩他作品について触れられているか ⑪関連作品について触れられているか 2-1-4. ⑧スタッフの固有名詞の有無 ⑫映画内の登場人物名があるか 集計方法 Yahoo! Japan MOVIES 利用者の発言行動を作品ごとに集計した。 作品への興味の集中度に関する指標 ・公開後3ヶ月以内に寄せられた発言の総投稿数 価平均得点 ・投稿日時の平均(公開時期) 8 ・発言内容の平均文字量 ・5段階評 ・投稿日時の標準偏差(流行期間) 発言内容に関する指標 ・ 「返答要素」の記述率(記述がある発言数/抽出した作品の発言数) その作品に対して、利用者がどれほど熱烈に議論しているか。 ・ 「スタッフ名」の記述率(記述がある発言数/抽出した作品の発言数) その作品に対して、どれほどの利用者が監督や脚本家について言及しているか。 ・ 「キャスト名」の記述率(記述がある発言数/抽出した作品の発言数) その作品に対して、どれほどの利用者が俳優について言及しているか。 ・ 「他作品名」の記述率(記述がある発言数/抽出した作品の発言数) どれ程の利用者が、その作品を他の作品と比較して語っているか。 ・ 「関連作品名」の記述率(記述がある発言数/抽出した作品の発言数) どれ程の利用者が、その作品の関連作品について語っているか。 ・ 「作品登場人物名」の記述率(記述がある発言数/抽出した作品の発言数) どれ程の利用者が、その作品の登場人物について言及しているか。 2-1-5. 研究目的に沿った分析方法 指標それぞれの相関パターンを調べるために因子分析を行う。これによって、各作品の 「観客の発言内容の隔たり」を検証することで、映画の「入れ込み」要素を計る因子を得 る。その後、各因子と映画作品に関するデータを比較することで、その因子がどのような 特色を持っているかを探る。作品に関するデータや、分類指標は、以下「2-2. 映画作品デ ータとの比較方法」に記載する。 2-2. 作品データや分類指標 2-2-1. 作品評価の指標となるデータ 1、 「キネマ旬報」の選定委員評価:毎年1月に発表される「キネマ旬報ベスト 10」の発 表の結果から。評価方法は、60 人の選定委員が一人一人、その年の 1-10 位の作品を選 出し、1位には 10 ポイント、2位には 9 ポイント、以下の順位で段階的に得点下がり、 10 位には1ポイントが入る仕組みである。これらの選定委員による評価を集計し、そ の年の作品評価順位を付けている。 2、 興行成績:日本映像制作者連盟(東宝、松竹、東映、角川の4社による)が提供して いる統計データより。ただし、発表されるのは各年の上位 30 作品までであり、検証し た全 87 作品中で 14 作品しかデータは集まらず、30 位以下の作品に関しては、便宜上 の数値を代用した。 9 30 位以下に当てた便宜上の数値:(邦画全作品総興行収入−上位 30 作品の合計収 入)を(その年の劇場公開映画数−その年の劇場公開成人映画数)で割ったもの。 これにより、その年の 30 位以下の非成人映画(分析対象)の平均興行収入が求め られる。 これら「雑誌での評価」 「興行成績」の客観性の高いデータと比較し、関連性を検証する ことで、各因子が「入れ込み」要因について説明しているか考察する。 2-2-2. 作品を分類する指標 いくつかの分類指標を作り、因子の平均得点で比較する。 世界観を分析する指標 1、ジャンルで分類する指標:映画辞典「ぴあシネマクラブ」による指標「ジャンル」に より分類。ただし、16 カテゴリに分かれているため、便宜上、16 カテゴリを共通性の ある部類でまとめ、 「人間ドラマ」 「青春ドラマ」 「アクション」 「ホラー&ミステリ」 「コ メディ&ファミリー」の 5 カテゴリに絞った。 2、現実的世界観かファンタジー要素が介入するか:現実にない現象・生き物が作中に入 るか否かで分類。 3、舞台となる地域を分類:物語上の舞台が、どのような地域・場所に所属しているかい くつか分類指標を設けた。 原作の効果を分析する指標 4、原作の有無:その作品が小説や漫画を原作として作られたものか、もしくは原作を求 めずに映画製作者が原案を作ったものか、二つに分類。 2-3. 物語内容の質的分析 「入れ込み」要素を計る因子が発見できた際、因子の固有値の大小によって、物語内容 にどのような違いがあるか、質的内容分析を試みる。分析方法は、物語スキーマを利用し て(4章で詳細に触れる)、物語の進行段階で、因子に関係するエピソードにどのような違 いがあるか検証することである。そうして、物語固有のエピソードから、得点の高い作品 と低い作品ごとに、「共通性」を見いだし、「入れ込み」要素の発見をめざす。 10 3. 分析結果 3-1. 発言から抽出したデータの因子分析 「2. 研究方法」で示したとおり、発言の内容分析を行うに際し、収集したデータを基に 因子分析を試みた。対象とした作品は、ウェブサイト利用者による発言投稿数が著しく少 ない作品は除外し、投稿数が11件以上の60作品である。各要素の相関パターンを算出 したところ、このデータを説明するに足る固有値1以上の4つの因子が得られた。以下の 表 3-1 は、4つの因子について因子負荷量を示したものである。 因子 文字量因子 発言数因子 登場人物名因子 流行期間因子 作品に寄せられた発言の総投稿数 .165 .516 .226 .308 発言の平均文字数 .684 -.259 -.174 .108 発言のオプションである5段階評価、その平均得点 -.449 -.497 .451 -.118 発言中での、返答要素の記述率 -.351 .762 .113 -.196 発言中での、スタッフ名の記述率 .370 .116 -.431 .117 発言中での、キャスト名の記述率 .412 -.276 -.492 -.244 発言中での、他作品名の記述率 .532 .235 .476 -.106 発言中での、関連作品名の記述率 .642 .192 .306 .212 発言中での、登場人物名の記述率 .484 -.315 .599 -.041 発言の投稿日時の標準偏差 -.328 -.354 .185 .678 発言の投稿日時の平均 -.036 .121 -.214 .750 表3-1. 因子負荷量 4つの因子をそれぞれ「文字量因子」「発言数因子」「登場人物名因子」 「流行期間因子」と 名づけた。各因子が持つ意味の解釈は、以下のとおりである。 文字量因子:文字量が多ければ、様々な映画の要素に言及している。 「発言の平均文字数」が高い作品は(文字量因子との相関:0.684)、発言内容の要素で ある「スタッフ名の記述率(相関:0.370)」「キャスト名の記述率(相関:0.412)」「他作 品名の記述率(相関:0.532)」「関連作品名の記述率(相関:0.642)」「登場人物名の記述 率(相関:0.484)」が高いことを意味している。 つまり、発言の文字量が多ければ、映画の様々な要素に言及しているということであり、 この文字量因子の固有値が高い作品は、その傾向に従順である。この因子得点が高ければ 高いほど、一つの発言投稿での文字量が多く、発言者は多彩な映画情報を織り交ぜて投稿 文を作成しようと試みると解釈できる。これは、この得点が高い作品は「サイト利用者に 11 よってよく語られる」という意味での「入れ込み」要素を持っていると言える。 発言数因子:投稿数の多い作品は議論型であり、また、観客による評価が低い。 「作品へ寄せられた総投稿数(正の相関:0.516)」が多い作品は、「返答要素が含まれる 発言率(正の相関:0.762)」が高くなることを意味している。また、そのような作品は、 「発 言者の作品評価の平均点(負の相関:-0.497)」が比較的低い傾向がある。 例えば、総投稿数の多い作品で、発言数因子の固有値が高い(総投稿数と正の相関があ る)ものは、 「過去の発言への返答要素」が含まれる発言が比較的多い。しかしながら、そ ういった作品は「発言者の作品評価の平均点」が比較的低いことから、『総投稿数が多く、 議論が過熱する作品は、様々な意見が飛び交うために、平均評価が低くなる』と推察でき る。 これが映画の「入れ込み」要素に関係する指標か考察すると、例えば、興行成績が同等 の作品で発言数因子の固有値に開きがある場合は、議論の過熱の違いなどを考証できると 言えよう。 登場人物名因子:評価の高い作品ほど、キャスト名より登場人物名で親しまれる。 「発言での、登場人物名の記載率(相関係数:0.599)」が高い作品は、「発言での、キャ スト名の記載率(相関係数:-0.492)」が低くなっている。この因子の固有値が高い作品は、 そうした「キャスト名と登場人物名」に負の相関関係があることを示しており、また、そ れに従順な作品は「発言者の作品評価」の平均点が比較的高くなっていると言える。 これを映画作品の「入れ込み要素」に関わる指標となるか考察すると、この登場人物名 因子の固有値が高い作品は、「他の作品と比べると、キャスト名よりも登場人物名が、より 作品の感想文に織り込まれる」傾向があるので、『他作品よりも「キャラクター名」がよく 認知され、かつ、高評価を得ている作品』であると見なせる。 流行期間因子:最近の作品ほど、流行期間が長い。 この因子に関わる各要素を見てみると、「時間に関する要素」以外のものは、目立った相 関関係を発見できない。ただし、この流行期間因子は、 「投稿日時の平均(相関係数:0.678)」 と「投稿日時の標準偏差…(相関係数:0.750)」に高い正の相関関係がある。投稿日時の 平均は、すなわち「数値化した公開時期」であり、高ければ最近の作品を意味し、低けれ ばより過去の作品を意味している。また、投稿日時の標準偏差は、高い作品ほど発言時期 にばらつきがあることを示しているので、そういった作品は、長期的な流行傾向があると 言える。つまり、この因子の固有値が高い作品群というのは、『最近の作品ほど長期間親し まれている=ウェブサイト利用者の映画に対しての価値観で、だんだんと流行期間が長く なっている』ことを意味している。 これを映画作品の「入れ込み」要素に関わるかどうかと検証する際、解釈としては、『流 12 行時期が長期化するということは最近の作品は「入れ込み」要素が高いのではないか』と いう推測も出来るが、観客はただ単に新しい作品にのめりこむかといえば、この因子内か らは妥当性を発見できない。よって、他のデータとの関連性を調べ、 「最近の作品が長期的 流行傾向にある要因」の裏づけする指標にすることが理想である。 3-2. 各指標との関係性 3-1 で求めた因子を、「雑誌評価」「興行成績」「ジャンル」「ファンタジー要素」「風景と なる地域」「原作の有無」の各指標と比較することで、因子それぞれがどのような特性を持 っているか検証した。 3-2-1. 雑誌評価との比較 作品の選別に用いた「キネマ旬報」で作品が受けたポイントと各因子の相関を調べた。 雑誌評価 文字量因子 Pearson の相関係数 -.168 有意確率 (両側) 発言数因子 Pearson の相関係数 登場人物名因子 流行期間因子 .199 -.239 有意確率 (両側) .066 Pearson の相関係数 .242 有意確率 (両側) .062 Pearson の相関係数 .070 有意確率 (両側) .596 表3-2. 「各因子×雑誌評価」の相関関係 度数:60 雑誌評価の点数では、目立った相関が見られない。これは、総合的に見て「雑誌評価と 各因子には相関関係が薄い」ことを意味している。そこで、分析対象作品を「雑誌で評価 を得られない作品群」∼「その年で、高評価を得られた作品群」までの4段階に、均等に グループ化し、それぞれの因子得点の平均を算出し、グループごとの「雑誌評価×因子」 の関係性を検証した(次項、表 3-3)。 13 KS_4 文字量因子 ほとんど評価されない作品 平均値 -.1415935 -.3430309 15 15 15 15 1.22545425 .92146899 1.19433581 1.09279474 .0800694 -.0309286 -.4900615 .0146376 15 15 15 15 1.04093259 .84018812 .78206628 .98157265 -.1787300 .2252514 -.0996677 .1558368 15 15 15 15 標準偏差 .98661140 1.30693855 .74788744 .98272941 平均値 -.1750655 -.3792221 .7313228 .1725566 15 15 15 15 .70809235 .83968901 .86856807 .95216399 .0000000 .0000000 .0000000 .0000000 60 60 60 60 1.00000000 1.00000000 1.00000000 1.00000000 平均値 度数 標準偏差 平均値 度数 その年の高評価を得た作品 度数 標準偏差 合計 流行期間因子 .1848993 標準偏差 評価が高めの作品 登場人物名因子 .2737261 度数 評価が低めの作品 発言数因子 平均値 度数 標準偏差 表3-3. 雑誌評価を4段階グループ化した際の、各因子の平均得点 有意確率 文字量因子:0.551 発言数因子:0.334 登場人物名因子:0.005 この結果より、雑誌評価を4段階にグループ化した際に、 「その年で、高評価を得た作品」 グループの「登場人物名因子」における因子得点の平均はとても高く、「登場人物名因子」 が高いということは、評価を得る作品が持つ特性の一つであると考えられる。 3-2-2. 興行収入との比較 興行収入と各因子の相関関係を調べた。 興行収入 文字量因子 発言数因子 Pearson の相関係数 .224 有意確率 (両側) .085 Pearson の相関係数 .398(**) 有意確率 (両側) 登場人物名因子 流行期間因子 .002 Pearson の相関係数 .333(**) 有意確率 (両側) .009 Pearson の相関係数 .252 有意確率 (両側) .052 表3-4. 「各因子×興行収入」の相関関係 度数:60 ** 相関係数は 1% 水準で有意 (両側) 14 表 3-4 に示されているように、発言数因子と登場人物名因子が、興行収入と弱い正の相関 があることがわかった。この結果から、「各因子は興行収入と関係があるか?」という命題 に対して、発言数因子と登場人物名因子は、ある程度の正の相関関係があり、興行収入を 考慮に入れた際に、これらの因子は作品内容を検証する際、世間で広く受け入れられると いう意味で「入れ込み」要素を計る指標となりえる。 また、上位 30 位に該当する作品と 30 位以下の作品でグループ分けをして、平均を調べ た(表 3-5)。 文字量因子 興行成績下位 平均値 度数 標準偏差 興行成績上位30位に入る作品 平均値 度数 標準偏差 合計 平均値 度数 標準偏差 発言数因子 登場人物名因 流行期間因 子 子 -.0902750 -.2043951 -.0619298 .1265453 46 46 46 46 1.04417395 .85405399 .84137769 .89295143 .2966178 .6715839 .2034836 -.4157917 14 14 14 14 .80047601 1.17475110 1.42471751 1.23915944 .0000000 .0000000 .0000000 .0000000 60 60 60 60 1.00000000 1.00000000 1.00000000 1.00000000 表3-5. 上位30作品か否かの分類で、各因子の平均得点を調べる 有意確率 発言数因子:.003 「発言数因子」は、比較的、興行収入の多い作品にその傾向がある。つまり、興行収入 の多い作品は、投稿数が多くより議論されているといえるだろう。また、売上の多い作品 で、投稿数が多いものは、比較的評価が低くなる。これは、売上が少ない作品よりも多様 な人に鑑賞されるため、評価にばらつきが出るのではないだろうか。 これらの結果から、「興行成績」とウェブサイトを通じて入手した因子を比べると、興行 成績上位 30 作品は、30 位以下の作品よりも発言数が多く、より活発に議論されていること が分かる。 15 3-2-3. ジャンル ジャンルごとで、どのように因子得点に違いがあるか検証した(表 3-6)。 文字量因子 人間ドラマ 平均値 度数 標準偏差 青春ドラマ 平均値 度数 標準偏差 アクション 平均値 度数 標準偏差 ホラー&ミステリ 平均値 度数 標準偏差 コメディ&ファミリー 平均値 度数 標準偏差 合計 平均値 度数 標準偏差 発言数因子 登場人物名因子 流行期間因子 -.5362433 -.1517877 -.0252373 -.2922223 13 13 13 13 .84518618 .90605853 .85811972 .68089061 .0721284 -.1709840 -.0054823 .3737996 13 13 13 13 .84645220 .82908369 .97108295 .90299331 .1681121 .1205870 .1795122 -.0682959 12 12 12 12 .97163666 1.10815702 1.27672029 1.16269668 .4561179 .0310109 .1900866 .1517047 13 13 13 13 1.03205198 1.03257261 1.10699612 1.04281251 -.2125983 .2606498 -.4695462 -.2459017 9 9 9 9 1.19411869 1.28060118 .64833807 1.21993705 .0000000 .0000000 .0000000 .0000000 60 60 60 60 1.00000000 1.00000000 1.00000000 1.00000000 表3-6. ジャンルごとの各因子の平均 人間ドラマは、他のジャンルよりも文字量因子の得点が低い。青春ドラマに関しては、 最近の作品ほど長く親しまれてきている。ホラー&サスペンスは、他のジャンルよりも文 字量因子の得点が高い。コメディ&ファミリーは登場人物名因子の得点が比較的低い。 これらの結果から、「ホラーやミステリ」に分類された作品は、ウェブサイト利用者によ って、様々と語られるのに対し、「人間ドラマ」に分類された作品によせられる発言は淡白 であると言える。また、 「コメディ&ファミリー」に分類された作品は、他の部類と比べて、 登場人物名よりも俳優名が記載されることが多く、そういった作品への投稿は、俳優への 言及が多いことがわかる。 16 3-2-4. ファンタジー(非現実的)要素の介入 ファンタジー要素の介入によって、どのような効果があるか検証した結果である(表 3-7) 文字量因子 ファンタジー要素がない 平均値 ファンタジー要素あり 平均値 合計 平均値 -.0687509 .1181763 46 46 46 46 .94463268 .84079433 .95959775 .99627727 .3018974 .6486095 .2258959 -.3882934 14 14 14 14 1.14960786 1.22492315 1.13106193 .94385455 .0000000 .0000000 .0000000 .0000000 60 60 60 60 1.00000000 1.00000000 1.00000000 1.00000000 度数 標準偏差 流行期間因子 -.1974029 度数 標準偏差 登場人物名因子 -.0918818 度数 標準偏差 発言数因子 表3-7. ファンタジー要素の有無別での各因子の平均 有意確率 発言数因子:0.005 ファンタジー要素が介入する作品は、発言数因子の平均因子得点が高い。これは、ファ ンタジー要素が入る作品で、観客による発言数の多い作品は、より議論されることを意味 していて、ファンタジー要素が介入しない作品群よりも、平均だけ見ると、とても高いこ とがわかる。 3-2-5. 舞台となる地域 表 3-8 は、舞台となる地域と因子との関係である。 文字量因子 都市 平均値 .1019197 -.2402304 29 29 29 29 1.04676462 .99146673 1.05219371 .99944845 -.2504160 -.2126961 .0216032 .6269731 17 17 17 17 標準偏差 .86547602 .78583891 .83597693 .66157094 平均値 -.2008228 .2316684 -.2373519 -.2637043 14 14 14 14 .99929133 1.24251290 1.09969498 1.06331388 .0000000 .0000000 .0000000 .0000000 60 60 60 60 平均値 度数 度数 標準偏差 合計 流行期間因子 .0128440 標準偏差 建造物内 登場人物名因子 .2437445 度数 田園・海浜・山村 発言数因子 平均値 度数 表 3-8. 描かれている場所別での、各因子の平均 有意確率 流行期間因子:0.007 17 田園・海浜・森林など、田舎を描いた作品は、流行期間因子の平均因子得点が高い。こ れは、最近の作品ほど、田舎を舞台にした作品が多くなっていることを意味しているだろ う。 3-2-6. 原作の効果に関する分析結果 原作の有無によって、映画への『入れ込み』度合いに違いがあるか検証する。原作の有 無で、平均を取ってみたところ以下の表 3-9 の結果となった。 Original 文字量因子 原作がなく、映画製作者が原案を作る (原作なし) 平均値 原作(小説、マンガ)をもとに作られる (原作あり) 合計 -.0726556 -.0923122 45 45 45 45 .95792208 .99296715 1.02064843 .98147425 .6796267 .1585079 .2179667 .2769366 15 15 15 15 .81884515 1.03903179 .93403842 1.03789924 .0000000 .0000000 .0000000 .0000000 60 60 60 60 1.00000000 1.00000000 1.00000000 1.00000000 度数 平均値 度数 標準偏差 流行期間因子 -.0528360 平均値 標準偏差 登場人物名因子 -.2265422 度数 標準偏差 発言数因子 表3-9. 原作の有無別、各因子の平均得点 有意確率 文字量因子:0.002 文字量因子を見てみると、原作をもとに作られた作品は平均 0.6796 と高い値を示してい るのに対し、原作無しの作品は、-0.2265 と低い。これは、原作をもとに作られた作品ほど、 「投稿の文字量が多ければ、映画の情報量を多く書く」傾向が高いことを示している。つ まり、原作のある作品の方が、発言内容に語る要素が多分に含まれていると言えよう。し かしながら、他の因子は原作の有無ではほとんど特徴は見られなかった。 3-3. 分析結果の総括 以上の結果から考察すると、興行成績と正の相関関係があり、雑誌評価において、その 年の「高評価」を得ているグループの平均因子得点が極めて高いことから、「登場人物名因 子」が高い作品は、人気を得る要素があると判断でき、能動性を引き出すとして仮定して いた「人ブランドに関係する入れ込み」要素を計る指標になりえる。 また、作品の「入れ込み」要素を引き出すと仮定した「世界観」については、いくつか 指標を設けたが、ほとんどの指標で「世界観を説明する」結果を得られなかった。しかし 18 ながら、「ジャンル」「ファンタジー要素の介入」 「場所」の3つの指標において、因子ごと に特筆すべき傾向があり、ジャンル指標の結果からは、「ホラーやミステリ」の部類に入る 作品は、「人間ドラマ」よりも「文字量因子」の得点が高く、「ホラーやミステリ」特有の 怖さや謎解きといった要素が、ウェブサイト利用者の発言行動を活発にさせるのではない だろうか。また、ファンタジー要素が介入する作品は、介入しない作品よりも「発言数因 子」が多く、超常現象が描かれる作品は、より活発に議論される傾向があると見なせる。 普遍性はないが、これらの因子は、何らかの条件のもとで「世界観に入れ込む」要素を計 る指標になるとも考えられる。 次に、もうひとつ能動性に関わる要素ではないかと仮定した「原作の効果」について考 察してみる。原作の有無で分類したところ原作をもとに作られた作品は「文字量因子」が 多いことから、観客の発言を刺激する要素であると推測できる。また、検証した全作品中 で、各因子の平均が 0.5 以上、つまり、それぞれの因子が高い傾向にある作品をみてみると 以下の表 3-10 のようになる。 作品名 登場人物名 流行期間 全因子の 因子 因子 平均 文字量因子 発言数因子 嗤う伊右衛門 ★ 2.19642 -0.66133 0.54547 0.09798 0.544635 レディ・ジョーカー ★ 1.90353 0.20569 -0.50509 1.15888 0.690753 ドラゴンヘッド ★ 0.30817 2.40609 -0.0126 0.08083 0.695623 バトル・ロワイアル 2 ★ 0.30062 3.24317 0.44392 0.16746 1.038793 理由 ★ 1.05359 1.05882 0.86793 1.73655 1.179223 ゴジラ 1.88205 0.61505 3.7002 -0.47553 1.430443 世界の中心で、愛をさけぶ ★ 1.29467 1.92967 1.7353 2.67623 1.908968 表 3-10. 因子得点の高い作品 ★:原作をもとに作られた作品 ジャンルはバラバラであるが、 「ゴジラ」以外の全ての作品は原作をもとに作られている。 各因子を見てみると、特に「文字量因子」と「発言数因子」でその傾向がある。つまり、 原作をうまく活用している作品は、比較的、「一つの投稿の文字量が多い」か「投稿数が多 い」傾向にあり多人数により活発に語られる作品であると言える。 この結果から、ウェブサイト利用者の発言が活発であるものは、「原作を持っている」作 品に多く、「小説や漫画を作品の原作として活用する」手段は、観客が作品世界に「入れ込 む」要素を引き出すものであると言える。 これらの結果をまとめると、次項の表 3-11 になる。 19 因子 文字量因子 指標・「入れ込み」要素との関係性 「人間ドラマ」の部類では、「文字量因子」の得点が比較的低い。これは、人間 ドラマの作品をウェブサイト利用者が語る際、あまり具体的な映画内容を入れて いない傾向があることを意味している。逆に、「ホラーやミステリ」の部類は文 字量因子の得点が高く、ウェブサイト利用者によく語られる部類であると言え る。 小説や漫画を原作とした作品は、「文字量因子」の得点が高い。つまり、原作を もとに作られた作品に対し、ウェブサイト利用者は多い文字量で、かつ、様々な 映画内容を記述する傾向がある。 →「原作の効果に関する指標」になる。 発言数因子 興行成績と「発言数因子」には、正の相関関係がある。つまり、より多く観客動 員を得る作品は、ウェブサイトにおける発言量も多いと言える。 ファンタジー要素がはさまれる作品は、「発言数因子」の因子得点が高い。これ は、ファンタジー要素が入る作品は、より議論されることを意味している。 →「世界観に関する入れ込み要素」を計る指標としては、普遍性が欠ける。 登場人物名因子 「キネマ旬報誌の選定委員による評価」がとても高い作品は、 「登場人物名因子」 も高い。つまり、多くの選定委員に支持される作品は、観客が登場人物名を覚え やすいことを意味していると言える。 興行成績と「登場人物名因子」には、正の相関関係がある。そういった作品は、 観客に登場人物名を覚えられている傾向があると言える。 「コメディ&ドラマ」の部類は、「登場人物名因子」の得点が比較的低く、この ジャンルの作品に対しては、観客は登場人物名よりも俳優名で語る傾向にあると 言える。 →「人ブランドに関する入れ込み要素」を計る指標である。 流行期間因子 描かれている場所で、「自然」が主な風景の映画では、「流行期間因子」が高い。 これは、最近の作品ほど、作品世界が自然の中で描かれている作品のほうが、よ り長い期間で発言されていることを示している。 →流行期間の長さを計る指標であって、仮定した入れ込み要素を計る指標になら ない。 表 3-11. 各因子の分析結果 20 4. 分析結果の考察と結論 4-1. 登場人物名因子をもとにした、物語の質的内容分析 「3. 分析結果」より、興行成績と正の相関があり、雑誌による評価の高い作品に顕著な 傾向がある「登場人物名因子」は、映画作品の「登場人物に関する入れ込み要素」を計る 指標になるとしたが、以下では、「登場人物名因子得点の高い作品」と「登場人物名因子得 点の低い作品」に分けて、それぞれの作品群での相違点について質的に検証し、 「入れ込み」 要素の検出を試みた。 4-1-1. 検証方法 分析手法としては、作品ごとに行為項と物語スキーマを作成するという、物語文法を検 証方法に用いた。具体的なプロセスは以下のとおりである。 ① 物語内容を検証し行為項を作成。 ② 行為項をもとに、物語スキーマの4段階を作成。 ③ 行為項の要素、各段階で、物語内容にどのような特徴があるか、「登場人物名因子」に 関わるエピソードを抽出し(登場人物名・登場人物設定に関するもの)、相違点を見つ ける まずは、分析方法で用いた「行為項」の作成と、物語スキーマについて説明する。 物語論を整理したA・グレマスによれば、物語構造の深層には、主体と客体、送り手と 受け手、反対者と援助者という3つの対が存在し、これを行為項-アクタン-と呼ぶ。つまり グレマスは、登場人物がどういった属性を持つかではなく、彼らが何を行うかを基準とし て、物語の基本的構造を示した(福田、1990)。 送り手 →伝達→ 客体 →伝達→ 受け手 ←妨害← 反対者 ↑欲求↑ 援助者 →支援→ 主体 図 4-1. グレマスによる物語の行為項(『物語マーケティング』より) 各要素の行動役割 「主体」:送り手との取り決めによって、受け手のために客体を求めて行動する 「客体」:送り手によって受け手に伝達される 「送り手」:客体を受け手に伝達する 「受け手」:客体を受け取る 「援助者」:主体が客体を求める過程で、主体を援助する 21 「反対者」:主体が客体を求める過程で、主体を妨害する また、物語の展開に関して、人間はそれを認識し表現する基本的な枠組み(物語スキー マ)を持っており、行為項は以下のようなスキーマで展開されてゆくとグレマスは定義し た。 コントラクト:現在の秩序・状況の変化が起こり、送り手と主体の間で、新しい秩序を目 指した話し合いないしは取り決めが行われる。 コムピタンス:主体が、受け手のために、客体を求める上で、ある能力(魔法の力など) を授かる。 パフォーマンス:主体が、送り手との取り決めによる対象を求めて行動する。苦難が待っ ている。反対者との戦い、援助者の補助などがある。 サンクション:最初の取り決めが成功すれば報酬。失敗すれば罰が送り手から主体に与え られる。 これらの展開を図化すると以下のようになる(図 4-2)。 コントラクト コムピタンス パフォーマンス テーマとなる秩 主体が客体を求め 主体が送り手との 序発生。 客体の発生で、主 る上で必要な手 ⇒ 段・情報・道具・ 体は送り手と接 魔法など(援助) 触する。 を得る。 サンクション 行動の結果 取り決めによる対 ⇒ 象を求めて行動す また、それに応じ ⇒ た報酬や罰則。 る過程。 図 4-2. グレマスによる「物語スキーマ」4つの構造 こうした枠組みを使い、作品内容を「行為項をもとに作成された物語スキーマの4つの 構造」に分割し、登場人物名や登場人物設定に関するエピソードがどのような特徴を持っ ているか検証した。なお、検証した作品の「行為項の設定」「4つの構造に分類化」「登場 人物名に関する主なエピソード」は作品ごとに表にし、付録として巻末に載せた。 4-1-2. 検証対象の作品 検証した作品は、次項の表 4-1 で示した「登場人物名因子得点の高い4作品」と表 4-2 で 示した「因子得点の低い5作品」である。 60 作品中に因子得点が1以上の作品は表 4-1 の作品群に「ゴジラ」 「キューティーハニー」 「KT」を加えた計8作品あったが、分析対象から4作品を除外した。理由は以下である。 「ゴジラ」は主役のゴジラを操る演じ手の情報が乏しく、また、シリーズ作品としてタ イトルが主役名になっている。また、「キューティーハニー」もタイトルが主役名となって おり、両作品とも、登場人物名を映画鑑賞前に知ることになる。この場合、登場人物名因 22 子が高いとはいえ、他の因子得点の高い作品とは、その要因が異なっている危険性がある。 「KT」は金大中前韓国大統領が1970年代に日本に潜伏していた時期の「金大中事 件」を題材に作られたもので、主要登場人物では「金大中前大統領」 「朴正煕元大統領」が 演じられている。「突入せよ!『あさま山荘』事件」でも、実在の著名な人物「佐々淳行警 務局監察官」 「後藤田正晴警視庁長官」が登場人物として演じられていて、映画の物語内容 以外で、登場人物名を記憶する要素がとても大きい。 よって、「登場人物名がタイトルにない」「主題が実在の事件を題材としていない」作品 で「登場人物名因子の得点が1以上」の基準を満たしている4作品を「物語内容によって 登場人物名が認知される因子得点上位」の分析対象とした。また、因子得点の低い5作品 は、どれも「登場人物名がタイトルにない」「主題が実在の事件を題材としていない」の条 件を満たしているので、分析対象として問題はないだろう。 作品 作品名 番号 登場人物名 ウェブサイト利用者の発言について 俳優名の 登場人物名 投稿 記載率 の記載率 数 因子の得点 平均評価 1.7353 3.5789 0.31 0.24 4271 66 世界の中心で、愛をさけぶ 59 下妻物語 1.63151 4.4358 0.12 0.55 697 37 ホテル・ハイビスカス 1.57355 3.9375 0.10 0.46 61 61 チルソクの夏 1.16793 4.3142 0.05 0.10 128 表 4-1. 登場人物名因子の得点が高い作品 作品 作品名 番号 登場人物名 ウェブサイト利用者の発言について 因子の得点 平均評価 俳優名の 登場人物名 投稿 記載率 の記載率 数 7 海は見ていた -2.00372 2.3809 0.29 0.00 26 52 恋愛寫眞 -1.60478 3.6041 0.80 0.16 182 79 ラブドガン -1.46581 2.2222 0.44 0.11 13 84 オーバードライヴ -1.36794 3.8529 0.63 0.03 43 43 1980 -1.18216 3.37142 0.33 0.03 39 表 4-2. 登場人物名因子の得点が低い作品 4-1-3. 検証1 因子得点の高い作品 因子得点が高い作品に共通していることに「登場人物名に関するエピソードが必ずある」 ということである。また、エピソード自体もユニークである。以下、その独自性を次項、 表 4-3 にした。 23 作品 登場人物名に関する主なエピソード 世界の中心で、愛をさけぶ 主体である山田朔太郎は、会社の同僚に、「朔太郎」と命名された所以「父 親が作家の『萩原朔太郎』が好きだったため」ということを話す。また朔太 登場人物名因子の得点: 郎は、これと全く同じエピソードを、客体である「亜紀」に対しても話す。 1.7353 その際に、亜紀は自分が「亜紀」と命名されたのは、 「『白亜紀』の恐竜みた いにたくましく育ってほしいと父親が付けた」と紹介する。 主体と客体に関する具体的で独特なエピソード⇒名前が著名人や時代に由 来している(独自性:朔太郎と亜紀という名前の特色) 下妻物語 主体である「桃子」は、客体・白百合イチコの本名が「イチゴ」であると知 り、 「なぜ本名を隠すのか?」と尋ねると、客体「イチゴ」は「イチゴとい 登場人物名因子の得点: う果物の可愛らしい名前では暴走族として恥ずかしいから、イチコと名乗っ 1.63151 ている」と明かし、そのことについて桃子にからかわれる。 客体に関する具体的で独特なエピソード⇒本名が果物のイチゴを想起させ る(独自性:イチゴという名前の特色) ホテル・ハイビスカス 沖縄で暮らす主体の美恵子は米軍基地で友人と遊んでいたところ、米兵に保 護される。その際、保護した米兵の名前「キング・ジム・ジュニア」を沖縄 登場人物名因子の得点: の精霊「キジムナー」と聞き違え、米兵のことをキジムナーと呼ぶ。また、 1.57355 後日、キング・ジム・Jrは美恵子の異父兄「けんじ」の父親であるとわか り、美恵子は自分の名前の由来を「美しく恵まれた子である」と紹介する。 主体と援助者に関する具体的で独特なエピソード⇒名前の由来。名前の響 き(独自性:キング・ジム・Jrと美恵子という二つの名前の特色) チルソクの夏 陸上競技で韓国・釜山を訪れた主体「律子」は、韓国選手団の自己紹介の際 に、韓国人高校生の安(アン)の名前を知る。その際、友人達が「アンとい 登場人物名因子の得点: うのはアン・ルイス(流行歌手)みたいだ」 「アン・ルイスは女性だし、名 1.16793 前のアンだ。安君は苗字のアンだろう」 「どっちにしろ、アンって響きが恰 好いい」と異国の名前の魅力を語らう。 客体に関する具体的なエピソード⇒異国風の名前の響きからの連想(独自 性:安という名前の特色) 表 4-3. 登場人物名因子の得点上位作品の主な登場人物エピソード より詳しい検証結果は以下のようになっている。 世界の中心で、愛をさけぶ:次第に病弱になり死期の迫る白血病の女子高校生を、一途な 男子高校生が永遠の愛に苦しむ作品で、因子得点の最も高かった『世界の中心で、愛をさけ ぶ』は、物語初期に、主体の名前に関して、詳しくエピソードが挿入される。主体の名前 「朔太郎」の由来が近世の小説家・萩原朔太郎から取られたものであり、登場人物たちが 24 「萩原朔太郎って、どんな作品を書いたのだろうか?」と議論する。この会話によって、 観客は「萩原朔太郎って…」と、登場人物たちと一緒に思索をめぐらし、主体「朔太郎」 の名前を認知するようになるのではないだろうか。さらに、このエピソードは、客体の名 前「亜紀」の由来がエピソードとして挿入される際も、全く同じ要領で語られ、 「朔太郎と いう名前は『萩原朔太郎』に由来している」設定は、さらに印象深く記憶されるだろう。 下妻物語:ロリータファッション(洋風の令嬢をモチーフにしているファッション)の女 子高校生と、暴走族の女子高校生の友情を描いた作品だが、客体「イチゴ」の名前に関す るエピソードとして「イチゴという可愛らしい名前が嫌いだから、自分ではイチコと名乗 っている」設定が客体によって語られる。主体の「桃子」については、名前に関するエピ ソードはないが、物語初期に「龍ヶ崎桃子誕生秘話」と仰々しく銘打たれた自己紹介が 13 分間、主体自身によって語られる。そして、主体「桃子」と客体「イチゴ」の名前だけ見 た共通性として、「両方とも果物が由来である」ことがわかり、そういった共通性も、登場 人物名が記憶されやすい要因になると言える。 ホテル・ハイビスカス:検証した作品の中では、利用者による投稿が比較的少ないが、沖縄 に暮らす元気溌剌とした女子小学生の日常を描いた『ホテル・ハイビスカス』も、登場人物 名エピソードがいくつか挿入される。援助者の一人で、米軍基地に勤めるアメリカ兵「キ ング・ジム・Jr」が登場するが、彼と主体である「美恵子」が出会い、キングが自己紹 介した際、美恵子はキングのフルネームを「キジムナー」と聞き取る。キジムナーとは、 美恵子が捜し求めている沖縄の精霊のことで、キングの名前を聞いてから、美恵子は彼に 向かって「お前がキジムナーかぁ」とぼやくようになる。そして、美恵子はキングに「私 の名前は、美しく恵まれた子供」と名づけの理由を説明する。この一連の流れから、観客 は、作品の大切な要素である「キジムナー」「キング・ジム・Jr」「美恵子」の三つを、 名前として理解できるようになると推測できる。 チルソクの夏:最後に、陸上を通して日本人の女子高校生と韓国人の男子高校生が遠距離 恋愛をする作品『チルソクの夏』は、客体「安」の名前に関するエピソードが物語初期に 挿入される。それは、主体と援助者達である日本人女子高生のグループが、「安(アン)と いう名前は、アン・ルイスみたいだ」とか「アンという響きが恰好いい」と噂するシーン で、観客もこの会話に参加するように、「異国の人間で、主人公と恋仲になるのは、安とい う名前」と認識しやすくなる。前述した3つの作品とは異なり、『チルソクの夏』は「登場 人物名エピソード」はこれだけであるが、物語中で主体の「郁子」と客体の「安」は文通 をし続ける。この時、登場人物の設定が語り口調で説明され、また、便箋の文字を通して、 登場人物名が伝わってくるため、この文通という行為を通して、観客に登場人物名が認知 されるようになるのではないだろうか。 さて、これら4つの作品に共通することとして、どの作品にも登場人物名(ほとんどが 主体や客体)に関する具体的で独特なエピソードが入っている。『世界の中心で、愛をさけ 25 ぶ』では、小説家や恐竜の時代に名前が由来していること、『下妻物語』では、主体と客体 の名前に果物の名前が入っていること、 『ホテル・ハイビスカス』と『チルソクの夏』では、 外国人特有の名前が、特色のあるエピソードで語られること、であり、そういった要素が 観客に登場人物名を記憶させると考えられる。また、因子得点が 1.5 以上の3作品について は、「登場人物名」に関するエピソードが2つ以上ある。 さらに共通性として、「物語スキーマの4段階」で分類し検証すると、これらの作品の共 通性として、コントラクト期に主体や客体についての自己紹介エピソードが挿入されてい る。また、『チルソクの夏』は該当しないが、パフォーマンス期に登場人物名エピソードが 入る。この効果として、物語が始まる段階で「自己紹介」があって、それが作品に描かれ ることで、観客が自らの頭に物語スキーマを組み立てる際、初期設定に「登場人物の設定」 がきちんと組み込まれる。そして、物語上の各要素が出揃った段階で、「この登場人物の名 前には、こんな設定がある」とエピソードが挟まれることにより、その組み立てた「登場 人物設定」を物語中盤で、さらに強化する性質を、登場人物名因子の得点が高い作品は持 っているのではないだろうか。 この結果をもって、「因子得点の低い作品」と比較する。 4-1-4. 検証2 因子得点の低い作品 因子得点が低い作品に共通していることは、 「登場人物名に関する具体的なエピソードが ない」ということである(表 4-4:次項に続く) 。 作品 登場人物名に関する主なエピソード 海は見ていた 侍の伊原房の介から、主体「おしん」は、「いい名前だね」と言われる。そ 登場人物名因子の得点: れ以外には「登場人物名」に関するエピソードはない。 -2.00372 主体に関するエピソード(房の介は「行為項」には入らない人物) ⇒具体性がない(独自性もない) ラブドガン 主体である「なぞの殺し屋」(後に葉山田と判明)は、自分が持っている銃 登場人物名因子の得点: は「あきら」という名前であると、援助者「みゆき」に紹介する -1.60478 行為項以外に関するエピソード ⇒具体性がない(また、行為項の要素については自己紹介もない) 恋愛寫眞(しゃしん) 簡単な自己紹介以外に、登場人物名に関するエピソードはない。 登場人物名因子の得点: 独特なエピソードがない -1.46581 1980 単純な情報以外に、登場人物名に関するエピソードはない。 登場人物名因子の得点: 独特なエピソードがない -1.18216 26 オーバードライヴ 『送り五郎」にはアキラという孫がいる』と知っていた主体「弦」は、名前 登場人物名因子の得点: のイメージで男であると決め付けていたが、実際に会ってみると「あきら」 -1.36794 は女性だった。弦は彼女に一目ぼれし、「あきら」は客体となる。 客体に関する具体的なエピソード⇒主体は固定観念で客体を男と判断して いた(独自性:「あきら」という名前の特色) 表 4-4. 登場人物名因子の得点上位作品の主な登場人物エピソード 「因子得点の低い作品」は、全体的に、登場人物名に関するエピソードが乏しい。また、 そういった分かりやすいエピソードが挿入されないためか、各作品に共通することとして、 日本語の特徴だろうが、登場人物名が聞き取りにくい性質がある。例えば、殺し屋の美学 を描いている作品『ラブドガン』では、主体である殺し屋の葉山田が、「はやまだ」である のか「はやばた」であるのか判りづらく、反対者となる若い殺し屋の種田も、「たなだ」や 「たまだ」と聞こえてしまう。これは、他の作品にも言えることで、江戸時代の幕府非公 認の私娼地に生きる女性達を描いた作品『海は見ていた』では、客体となる「りょうすけ」 が、やはり聞き取りづらいもので、 「おうすけ」とも、また「こうすけ」とも聞こえる。こ うした、「聞き取りづらく名前に関するエピソードもない」登場人物は、顔を見れば物語上 の役割は判断できるが、名前を思い浮かべることが比較的難しく、人によっては登場人物 の設定を十分に理解できないかもしれない。 また、「名前に関するエピソード」だけでなく、「登場人物設定のエピソード」が途切れ 途切れに挿入されると、その人物がどういった属性か(どのような人物か)理解すること が難しくなる。1980 年を舞台に異母三姉妹の日常を描いた『1980』では、主体の「キ リナ」以外、20 分以上に渡り、行為項に関わる登場人物たちがどのような設定であるかは ほとんど触れられず、例えば、主要な援助者となる「カエナ」は名前も触れられず、行為 項に関わる人物かどうか、イメージの構築が困難になる。 このように、因子得点の低い作品は、 「登場人物名のエピソード」がないだけでなく、 「登 場人物設定に関するエピソード」も不足しがちなため、観客に登場人物を理解させること が困難な作品になっているのではないだろうか。 さて、因子得点の低い作品群で「登場人物名エピソード」が入る例外として、人気ギタ リストが津軽三味線の世界に飛び込む作品『オーバードライヴ』は、客体に関する具体的 なエピソードが作品中にあるが、観客の発言においての登場人物名記載率は 0.03%と、著 しく低い。この要因を検証するため、『オーバードライヴ』の登場人物名に関するエピソー ドと、4-1-3 で検証した因子得点の高い作品のエピソードを比べてみると、『オーバードラ イヴ』にない性質として、因子得点が高い各作品のエピソードは 4-1-3 で語った通り、名前 が作家や果物・他国特有といった「独自性のある要素」と関係していることが多く、検証 した4作品全てにおいて、独自性のあるエピソードが挿入された。 これらの検証から、因子得点の高い作品は、低い作品よりも「具体的に名前に関するエ ピソードが入り」、かつ「エピソードの素材となる主体や客体の登場人物名に『独自性を見 27 出せる要素』がある」という特色があると言える。 また、そういった素材を作品に取り入れる場合、主体が客体を求め始める時期(コント ラクトの時期)に主体や客体の人物設定をわかりやすく提示し、主体が客体を求めて行動 する段階(パフォーマンスの時期)で、登場人物名に関する独特なエピソードを挿入する 作品は、観客がウェブサイトで発言する際、他の作品よりも「俳優名に対し登場人物名を より多く記載する」傾向にあり、観客に登場人物名を記憶させられる。すなわち、観客に 登場人物を理解させやすい作品と言えよう。 4-2. 結論 この研究では、物語型商品のマーケティングを行う上で、 「消費者が世界観や登場人物を どう受け止めるか」という課題に対し、映画情報サイトに寄せられる発言をもとに映画作 品の「入れ込み」要素を探ったわけだが、世界観がどのようなパターンを持って消費者に 受け入れられるかについては、満足な検証結果を得られなかった。この原因として、「世界 観の違いが作品評価に影響を与える」ことを説明する因子が導き出せなかったことが考え られ、課題としては、インターネットからデータを集める際に、そういった因子を求めら れるような「世界観に関わる有用な項目」を設ける必要があるだろう。 もう一つ、 「世界観」とともに設けた指標「人ブランド」がどのように受け入れられるか、 という命題については、映画情報サイト利用者の発言から得た結果では、人ブランドの要 素である「登場人物」の名前が発言に記載されやすい作品は、作品の評価に影響すること がわかった。たしかに、映画鑑賞後に映画内容について話し合う際に、 「○○(主演俳優名) の、あの時の行動が…」と語るより、「△△(登場人物名)の、あの時の行動が…」と語る ほうが、物語について話すという意味では自然であり、そういった作品は、より観客が「入 れ込み」やすいのではないだろうか。 また、因子分析から導き出した「登場人物名因子」の高低で、作品の物語内容にも相違 点があり、「登場人物名が記載され、評価を得ている作品」は、物語の中で、登場人物名に 関する具体的で独自性のあるエピソードが挿入されることがわかった。 ここから、 「登場人物名に関するエピソード」が、作品の「入れ込み」要素の一つである と結論付けた。マーケティングへの応用例としては、これから映画製作を行う上で、映画 の登場人物名がもとから知名度がある名称でなければ、「判りやすい由来を作る等、独特な 登場人物名のエピソードを物語内容に挿入する」といった作業を行うことは、その作品を 観客に理解してもらうには、有効な手段ではないだろうか。 28 参考文献・資料 ・ 新井範子・福田敏彦・山川悟共著「コンテンツマーケティング」(2004) ・ 福田敏彦著「物語マーケティング」 (1990) 竹内書店新社 ・ ぴあ株式会社「ぴあシネマクラブ日本映画編 2005-2006 年版」(2005) ・ キネマ旬報社「キネマ旬報 2月下旬決算特別号」(2003,2004,2005) ・ Yahoo! Japan MOVIES http://movies.yahoo.co.jp/ ・ 日本映画制作者連盟ホームページ ・ シネマトピック ・ 神戸新聞 http://www.eiren.org/ http://www.cinematopics.com/ http://www.kobe-np.co.jp/ 29 同文館出版 附録 ①. 分析対象とした全作品 ①-1. Yahoo! MOVIES での発言が11投稿以上あった作品(因子分析に用いた作品) 作品名 公開年 Yahoo!ムービーでの Yahoo!ムービーでの 公開後3ヵ月の投稿数 平均評価 雑誌評価 刑務所の中 2002 199 42 4.05 KT 2002 175 36 4.18 AIKI 2002 145 69 4.25 ごめん 2002 126 16 4.13 青い春 2002 91 64 4.16 害虫 2002 76 27 4.12 海は見ていた 2002 57 26 2.38 突入せよ!「あさま山荘」事件 2002 50 165 3.61 ランドリー 2002 30 32 3.90 陽はまた昇る 2002 23 134 3.95 リターナー 2002 11 720 4.27 仄暗い水の底から 2002 8 119 3.48 恋に唄えば♪ 2002 3 27 3.26 仔犬ダンの物語 2002 2 18 3.50 白い犬とワルツを 2002 1 11 3.60 マッスルヒート 2002 1 30 3.80 ヴァイブレータ 2003 212 28 4.15 ドッペルゲンガー 2003 101 42 3.50 ゲロッパ! 2003 76 694 2.55 アカルイミライ 2003 70 32 3.96 アイデン&ティティ 2003 54 82 3.64 ホテル・ハイビスカス 2003 51 61 3.94 ナイン・ソウルズ 2003 40 50 4.09 昭和歌謡大全集 2003 37 31 3.03 幸福の鐘 2003 23 61 4.00 バトル・ロワイアル 2 2003 18 1638 2.40 1980 2003 14 39 3.37 船を降りたら彼女の島 2003 12 18 4.13 30 サル 2003 11 30 3.13 精霊流し 2003 10 23 3.32 月の砂漠 2003 7 15 3.64 ゴジラ 2003 6 108 3.58 恋愛寫眞 2003 6 182 3.60 最後の恋、初めての恋 2003 3 75 4.04 ドラゴンヘッド 2003 2 1410 2.00 下妻物語 2004 229 697 4.44 理由 2004 97 43 4.00 チルソクの夏 2004 78 128 4.31 笑の大学 2004 58 628 4.11 69 2004 46 394 3.51 お父さんのバックドロップ 2004 34 128 4.33 世界の中心で、愛をさけぶ 2004 30 4271 3.58 茶の味 2004 23 89 4.19 イズ・エー 2004 18 41 4.05 きょうのできごと 2004 16 52 4.19 花と蛇 2004 15 30 2.42 嗤う伊右衛門 2004 15 61 3.53 レディ・ジョーカー 2004 12 118 2.46 雨鱒の川 2004 11 28 3.06 機関車先生 2004 9 88 3.31 青い車 2004 8 12 3.10 グシャノビンヅメ 2004 7 48 4.27 ラブドガン 2004 7 13 2.22 キューティーハニー 2004 6 295 3.71 IZO 2004 5 43 2.52 ほたるの星 2004 4 84 3.93 約三十の嘘 2004 4 41 3.40 オーバードライヴ 2004 4 43 3.85 ジャンプ 2004 3 21 3.44 美女缶 2004 3 11 3.17 31 ①-2. Yahoo! ムービー での発言が10投稿以下であった作品(因子分析では除外) 作品名 公開年 Yahoo!ムービーでの Yahoo!ムービーでの 公開後3ヵ月の投稿数 平均評価 雑誌評価 A2 2002 35 2 5.00 荒ぶる魂たち 2002 19 8 5.00 新・仁義の墓場 2002 19 0 なし Devotion 2002 18 0 なし コンセント 2002 17 9 2.25 デッドオアアライブ 2002 16 2 5.00 いたいふたり 2002 14 2 5.00 旅の途中で 2002 13 2 2.50 パルコフィクション 2002 12 2 5.00 桃源郷の人々 2002 9 2 3.00 タラウマラの村々にて 2002 6 1 5.00 ピカ☆ンチ 2002 5 7 4.83 犬猫 2002 4 0 なし プウテンノツキ 2002 4 0 なし 鏡の女たち 2003 123 8 3.40 延安の娘 2003 41 2 4.50 女はバス停で服を着替えた 2003 11 0 なし H Story 2003 8 3 1.00 朋の時間 2003 6 0 なし ここに、幸あり 2003 4 2 5.00 夢追いかけて 2003 4 5 4.00 飼育の部屋 2003 1 1 5.00 能楽師 2003 1 1 なし ザ・ゴールデン・カップス 2004 26 3 4.00 ヒッチハイク 2004 14 8 1.00 こんばんは 2004 11 1 5.00 ニュータウン物語 2004 2 0 なし ②作品内容分析で検証した作品 次項から、4 章で物語内容を検証した9作品について、整理したものである。 32 作品名「世界の中心で、愛をさけぶ」 公開年:2004年 上映時間:138分 ストーリー:結婚を控えた主人公。その婚約者が、失踪する。行き先が四国であると分 かった主人公は、自分の故郷でもある四国へ向かう(『ぴあシネマクラブ』より) 注:行為項について客体は「亜紀」 「律子」の二人の異なる軸で考えられるが、便宜上、 物語の主要部分である「朔太郎と亜紀の物語」を主軸として、客体を「亜紀」とする。 行為項 行為項の説明 → 主体「朔太郎」は、客体「亜 → 送り手 伝 客体 伝 受け手 紀」と出会う。朔太郎と話 「亜紀」 達 「亜紀」 達 「朔太郎」 してみたかったという亜 → 紀と仲良くなって(送り手 → が亜紀)、二人は相思相愛 ↑欲求↑ 援助者 「しげ爺」 「律子」 → になり恋愛関係を持つが、 ← 支 主体 妨 反対者 亜紀は白血病(反対者)を 援 「朔太郎」 害 「白血病」 わずらっているため、次第 → に衰弱していく。 ← 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 朔太郎と亜紀が出会う。恋愛関係となる。 コムピタンス 二人は「永遠の愛」に憧れる。 パフォーマンス 亜紀は白血病に苦しむ。朔太郎と亜紀は愛情を確認する。この際、 二人を繋ぐ役割として「律子」と「しげ爺」が援助者となる。 サンクション 亜紀は死に、朔太郎は現在の婚約者・律子とともに亜紀の鎮魂、散 骨するためにオーストラリアへ行く。 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:02 0:20 0:52 時は現代、朔太郎(主体)に対し、会社の同僚が朔太郎 登場人物名に と命名された所以を尋ねる 関するエピソード 亜紀(送り手)が朔太郎に「サク」と呼んでいいかと尋 登場人物名に ねる 関するエピソード 亜紀(客体)の名前の由来、朔太郎(主体)の名前の由 登場人物名に 来、それぞれについて作品上で2分間ほど語り合う 関するエピソード 登場人物名に関するエピソードが3つあり、由来について語られる際、けっこうな時間 が当てられている。 33 作品名「下妻物語」 公開年:2004年 上映時間:102分 ストーリー:茨城県下妻に住むロリータ・ファッション命の桃子は、洋服を買う資金集め にバッタ物ブランド商品販売を始める(『ぴあシネマクラブ』より) 行為項 行為項の説明 → 主体が客体から友情を押 → 送り手 伝 客体 伝 受け手 し付けられる物語。反対者 「イチゴ」 達 「イチゴ」 達 「桃子」 に主体である「桃子」が入 → るのは、物語の前半で主体 → 「桃子」は客体「イチゴ」 ↑欲求↑ 援助者 「桃子の 祖母」 → ← 反対者 を疎ましく思っているた 支 主体 妨 「桃子」 めであり、そうした主体 援 「桃子」 害 「イチゴの 「桃子」の特殊な性格が、 ← 暴走族友達」 物語の大切な要素となっ → ている。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 桃子はイチゴと出会う コムピタンス 桃子はイチゴから友情を押し付けられる パフォーマンス 桃子とイチゴは友情を育む。その友情をよく思わない「イチゴのも とからの友達」によって、イチゴは迫害を受けることになる サンクション 反対者の「イチゴ暴走族仲間」を退け、主体は客体と強い絆で結ば れる。 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:05 0:23 0:44 テレビのコメディ番組風に「龍ヶ崎桃子誕生秘話」と銘 人物設定に関する 打たれ、主体の人物設定についての紹介が入る エピソード 客体は自分のことを暴走族に所属するイチコと名乗り、 登場人物名に その名を出せば、何かの役に立つだろうと主体に諭す。 関するエピソード イチコの本名が「イチゴ」であると明らかになるエピソ 登場人物名に ード 関するエピソード 登場人物名に関するエピソードがあり、由来や「その人物名の威厳」について触れられ ている。 34 作品名「ホテル・ハイビスカス」 公開年:2003年 上映時間:92分 ストーリー:まるで動物のようにおてんばな女の子を主人公に、美しくも神秘的な沖縄 の風土を描く(『ぴあシネマクラブ』より) 注:5つの短編で構成される作品であるが、大きな軸として、 「母親の旅行⇒母親不在の 寂しさ⇒母親が帰ってくる」という流れがある。 行為項 行為項の説明 → 主体「美恵子」は、援助者 → 送り手 伝 「家族」 達 「楽しい生活」 達 → → 客体 受け手 である「家族、友人、地域 「美恵子」 の人々」に愛されながら、 伝 沖縄で楽しい生活を送る。 客体は曖昧であり、旅行に ↑欲求↑ 援助者 「家族」 「友人など」 → 出た「母親」と置くことも ← 支 主体 妨 援 「美恵子」 害 → 反対者 できるが、美恵子の欲求は 「自分の幼 それだけではないので、 さ」 「日々の楽しい生活」とす ← る。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 家族との日々の紹介 コムピタンス 家族・友人などから、その日の楽しみ方の素材をもらう パフォーマンス その日を楽しく暮らそうと試みる サンクション 一日を楽しく締めくくることが出来たり、悶々として一日を終えた りする。最終的には、アメリカへ旅行していた母親が帰ってきて、 美恵子は喜ぶ 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:04 0:25 主体「美恵子」は本土から来た旅人に、自分・家族・家 人物設定に の商売について紹介をする 関するエピソード 美恵子は、駐屯しているアメリカ兵「キング・ジム・ジ 登場人物名に ュニアー」を、名前が似ていることから沖縄の精霊「キ 関するエピソード ジムナー」であると思い込む。 0:55 1:23 異父兄の父親に対し自分の名前を「美恵子、美しく恵ま 登場人物名に れた子よ」と美恵子は自己紹介する 関するエピソード 大戦で死んだはずの叔母の幽霊が自分の名前を知ってい 登場人物名に て美恵子は驚く。 関するエピソード 登場人物名に関するエピソードが複数あり、由来や響きについて語られている。 35 作品名「チルソクの夏」 公開年:2004年 上映時間:114分 ストーリー:1977年、下関市。姉妹都市・釜山との親善事業として陸上競技が開催 される。高校生・郁子は、同じ高飛びの韓国人選手・安と出会い、来年の夏に再会する ことを約束した。同じ陸上部の友人達は、彼女の初恋のために奔走するが…(『ぴあシネ マクラブ』より) 行為項 行為項の説明 → 主体「郁子」は、客体「安」 → 送り手 伝 客体 伝 受け手 と出会う。安は郁子の住所 「安」 達 「安」 達 「郁子」 を聞き、それから二人は文 → 通する。文通上で二人は愛 → し合うが、反対者「郁子の ↑欲求↑ 援助者 「友達」 「手紙」 → 父、安の母」から交流を疎 ← 支 主体 妨 援 「郁子」 害 → 反対者 ましがられる。郁子は援助 「お互いの 者の「友達」に励まされ、 親」 ← 安を思いつづける。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 郁子と安が出会う。恋が芽生える コムピタンス 郁子は安に自分の住所を伝え、手紙が来たので文通を始める パフォーマンス 文通の過程で、日本と韓国が民間レベルであまり相手をよく思って いないことを知り、困難さに直面するが、友人に励まされる サンクション 一年後の七夕に郁子と安は再会し、二人は「もう一度会おう」とい う約束を果たす 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:12 0:31 安とアン・ルイスの名前上での相違点について話し合わ 登場人物名に れて、安という響きが恰好いいと主体と援助者が語らう 関するエピソード 郁子へ宛てた安の手紙で、安の語りによる自己紹介。自 人物設定に 分や家族を語る 関するエピソード 登場人物名に関するエピソードがあり、異国の名前の不思議さを主体と援助者達が語ら っている。 36 作品名「海は見ていた」 公開年:2002年 上映時間:119分 ストーリー:江戸時代、深川にある岡場所(幕府非公認の私娼地)を舞台に、一人の若 い娼婦を主人公に、たくましく生きぬく女たちの姿を活写した群像ドラマだ(『ぴあシネ マクラブ』より)。「若い娼婦⇒おしん」 行為項 行為項の説明 送り手 「りょう すけ」 → 主体「おしん」には不遇が → 伝 客体 伝 受け手 続いていたが、あるとき、 達 「りょうすけ」 達 「おしん」 娼館に泊まりに来た客体 → 「浪人」と恋に落ちる。同 → 僚である援助者「菊乃」は ↑欲求↑ 援助者 「菊乃」 「洪水」 → ← 反対者 心配しながら見守るが、物 支 主体 妨 「おしんの 語後半で見せたりょうす 援 「おしん」 害 幸の薄さ」 けの男気を認め、「りょう ← 「やくざ」 すけと幸せになれ」とおし → んを励ます。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 主体「おしん」の、失恋話と貧乏な家族を負う姿。その後、おしん はりょうすけに出会う コムピタンス 同僚の菊乃が「おしん」に幸せになれと忠告。横暴なやくざの登場 パフォーマンス 洪水に乗じて、やくざの横暴さが増し、憤ったりょうすけがやくざ を殺害する。洪水の水かさが増し、遊郭は壊滅 サンクション 洪水にやくざの死体は流されただろうから、安心してりょうすけと 幸せになれと、菊乃はおしんに諭す。 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:02 0:24 0:55 主体の名前が「おしん」と判明。エピソードはない 主体の登場 侍の伊原房の介から、 「おしんというのは、いい名前だね」 登場人物名に と言われる。おしんは房の介に恋をする。 関するエピソード 客体の名前が「りょうすけ」であると判明。 客体の登場 登場人物名に関するエピソードがひとつある。ただし、登場人物「伊原房の介」がその 名前について具体的に考えていることがわかるエピソードではない。 37 作品名「ラブドガン」 公開年:2004年 上映時間:111分 ストーリー:殺し屋・葉山田は、殺された両親の復讐のためにさすらっていると、スク ーターに乗った少女、観幸と出会う。スクーターを貸すように言うと拒絶され、葉山田 が銃を突きつけると、観幸は心臓を撃ってくれと言う…(『ぴあシネマクラブ』より) 行為項 行為項の説明 → 送り手 伝 「葉山田」 達 → 客体 「両親を殺し た犯人(丸山)」 主体「葉山田」は、両親を → 伝 受け手 殺した犯人を捜し、復讐し 達 「葉山田」 ようとしている。途中で少 女「みゆき」と出会い、彼 → 女から殺しの依頼を受け ↑欲求↑ → ながらも、犯人を思う。最 ← 援助者 支 主体 妨 「みゆき」 援 「葉山田」 害 → 反対者 後には、かつて殺しの師匠 「丸山と種 だった丸山が客体「犯人」 田」 であるとわかり、決闘す ← る。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 一流の殺し屋・葉山田は両親を殺害した犯人を捜している コムピタンス 丸山から殺しの技術を学ぶ。後に、みゆきと出会い、みゆきから 殺しの依頼を受ける パフォーマンス みゆきの依頼と向き合いながら、両親を殺した犯人を思う サンクション 丸山と再会。丸山から「自分がお前の父親を殺した」と聞かされ、 決闘するが、葉山田は丸山に撃たれ死ぬ 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:11 謎の殺し屋(葉山田)の銃の名前が「あきら」 (後に葉山 登場人物名(行為項 田の父親の名前と判明) に関わらない)に 関するエピソード 0:16 0:18 「種田」 「葉山田」の名前が判明(組織が種田に葉山田を 反対者の登場 殺すように指示) 葉山田と知り合った少女の名前が「みゆき」と判明 人物設定に 関するエピソード 人物設定に関する簡単なエピソードはいくつかあるが、登場人物名に関するエピソード はない 38 作品名「恋愛寫眞(れんあいしゃしん)」 公開年:2003年 上映時間:111分 ストーリー:死んであると聞いていた元彼女・静流(しずる)からの手紙が届く。消印 はニューヨーク。それだけを手がかりに誠人は静流を探しにニューヨークへ旅立つ(『ぴ あシネマクラブ』より) 行為項 行為項の説明 送り手 「静流の手 紙」 → 主体「誠人」は、死んだは → 伝 客体 伝 受け手 ずの客体「静流」から手紙 達 「静流」 達 「誠人」 が届いたことに驚き、ニュ → ーヨークへ彼女を捜しに → 行く。ニューヨークで援助 ↑欲求↑ → 援助者 者「カシアス」と出会いな ← 支 「カシアス」 援 主体 妨 反対者 がら、静流の足跡を追い、 「誠人」 害 「アヤ」 最後には静流はアヤに殺 → されたことを知る ← 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 誠人(主体)は死んだはずの静流から手紙をもらう コムピタンス 静流が生きていることに驚き、ニューヨークへ旅立つ。カシアスに 出会い、カシアス宅を本拠地にして、静流捜索を開始 パフォーマンス 静流の友達であるというアヤと知り合い、静流についての(嘘の) 情報を得る。静流が撮ったニューヨークの風景をなぞりながら、静 流を探す。カシアスの手助けがある サンクション 静流はアヤに殺されていて、静流の手紙はアヤが偽造したものであ った。これを知り、誠人はアヤに立ち向かい、結果、アヤは警察に 捕まる 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:01 主体と客体の名前が判明 主体の登場 0:52 カシアスの登場 援助者の登場 1:01 アヤの登場 反対者の登場 人物設定に関するエピソードはいくつかあるが、登場人物名に関するエピソードはない 39 作品名「1980(イチ・キュー・ハチ・マル)」 公開年:2003年 上映時間:123分 ストーリー:元アイドルの一之江キリナが、星隆高校に教育実習に来た。大騒ぎする生 徒達をよそに、教師として働く姉のカエナと、生徒である妹のリカは困惑顔(『ぴあシネ マクラブ』より)。この三姉妹のそれぞれを描く。 行為項 行為項の説明 → 送り手 伝 「キリナ」 達 → 客体 「恋愛対象の 男たち」 主体「キリナ」は男癖が悪 → 伝 受け手 く、すぐに一目ぼれをして 達 「キリナ」 しまう。何人かの客体「男 たち」と恋愛関係に発展し → ようと試みるも、客体たち ↑欲求↑ → がキリナの性格に耐えら ← 援助者 支 主体 妨 「姉妹」 援 「キリナ」 害 → 反対者 れず、キリナは欲求を満足 「マスコミ させられないが、姉妹に励 など」 ← まされる。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 一之江キリナが星隆高校の教育実習生になる コムピタンス 省略(初期設定に含まれていて、エピソードが全くない) パフォーマンス 一之江キリナは星隆高校の男子生徒に手を出す。自分の行動に 戸惑う。昔付き合っていた男性アイドル歌手とよりを戻そうとする サンクション キリナの恋は、どれも成就しない。1980年の大晦日に、姉妹 と共に屋上から夕日を眺め、たそがれる 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:03 0:08 0:52 「一之江キリナ」の登場 主体の登場 援助者の一人であるキリナの姉について、宇田川(カエ 援助者の登場 ナ)と、名前が判明 リカの名前が判明 援助者の登場 人物設定に関する簡単なエピソードはいくつかあるが、登場人物名に関するエピソード はない 40 作品名「オーバードライヴ」 公開年:2004年 上映時間:127分 ストーリー:人気ユニットの天才ギタリスト・弦が突然クビにされる。その日泥酔した 彼は、タクシーの運転手に青森の下北半島に連れてこられ、なぜか津軽三味線の特訓を 受けるはめに(『ぴあシネマクラブ』より) 行為項 行為項の説明 → 主体「弦」は、タクシーの → 送り手 伝 客体 伝 受け手 運転手であり津軽三味線 「五郎」 達 「あきら」 達 「弦」 の師匠である「五郎」(送 → り手)に連れ去られ、三味 → 線を習えと諭される。弦は ↑欲求↑ → 渋るが、五郎の孫娘「あき ← 援助者 支 主体 妨 「三味線」 援 「弦」 害 → 反対者 ら」 (客体)に一目ぼれし、 「そうのす 五郎はあきらを出しにし け」 て、弦の意欲を掻き立て ← る。 物語スキーマごとに、作品を分解 コントラクト 人気音楽グループの「ゼロデシベル」が解散の危機に。弦は泥酔し、 タクシーに乗ったところ、運転手に騙されて青森の山奥に連れて行 かれる。運転手は津軽三味線の先生である五郎で、五郎は弦を弟子 にしようと試みる。弦は一度拒むが、五郎の孫の「あきら」に一目 惚れし、彼女の気を惹くために五郎に師事することにする コムピタンス 弦は三味線の技術を身につける パフォーマンス 三味線の大会。「アルティメット三味線大会」に出場 サンクション 反対者「そうのすけ」を決勝戦で破り、優勝する 登場人物設定に関するエピソード(登場人物名に関するエピソードを中心に) 0:02 0:17 0:39 0:43 「弦」の名前が明らかに 主体の登場 五郎に「あきら」という孫がいることが判明 人物設定に 関するエピソード 弦は名前から判断して「あきら」を男であると思ってい 登場人物名に たが、女性であるとわかり驚く 関するエピソード 「そうのすけ」の名前が明らかに 反対者の登場 41
© Copyright 2024 Paperzz