県立高校における男女共学と別学の違いによる教育的効果の分析 (概要) MJE14704 増淵 則敏 【要旨】 本研究は、先行研究に依拠して男女共学・別学に関する議論を整理、概観した上で、埼玉県、群馬県、栃木県の県立高 校を対象に男女共学と別学の違いによる教育的効果を分析する。男女共学と別学の違いによる大学進学実績等への影響と 学習上の男女の特性に関する教員意識の実態を明らかにすることにより、男女別学校存続施策の検証をはじめとする今後 の男女共学・別学に関する議論に資する基礎的なデータを提供するとともに、学習指導等に関する具体的提言を行うこと を目的とする。大学進学実績については国公立大学・短大(以下、 「国公立」という)の現役合格率を被説明変数として 回帰分析を行った。分析の結果、入学時の学力(高校入試時の偏差値)が同レベルの男女共学校(以下、 「共学校」とい う)と男女別学校(以下、「別学校」という)では、一部の例外はあるものの、別学校の方が共学校より国公立現役合格 率が高い傾向が見られた。また教員に対するアンケートを実施した結果、学習上の男女の特性に配慮した指導を行い、そ の効果があると認識している教員が少なくないことが明らかとなった。この分析結果を踏まえ、「別学校における高い大 学進学実績の要因分析の実施」 「学習上の男女の特性に応じた指導の有効性に関する研究の実施」の 2 つの提言を行った。 序章 問題の背景 なレベルで違いがあり、それに応じた指導・教育をするた 1.1 問題の所在 めには別学の方が優れているというものである。この学習 公立高校における男女共学は戦後の新学制発足と同時 上の男女の特性に対する教員の認識に関する実証的研究 にスタートした。ただ東北・関東地区を中心に公立の別学 は、管見の限り見当たらない。本研究では、教員に対する 校を存続させた自治体もあった。そうした自治体において アンケートを実施し、その分析を通して学習上の男女の特 も 1990 年代から別学校の共学化の議論が起こり、男女共 性に関する教員意識の実態を明らかする。 同参画社会基本法が制定された 1999 年以降、急速に共学 以上の分析から、別学校存続施策の検証をはじめとする 化が進められた。存続している別学校は数の上では少数で 今後の男女共学・別学に関する議論に資する基礎的なデー あるが、男女別学が支持されてきた理由のひとつはそれら タを提供するとともに、学習指導等に関する提言を行うこ の高校が優れた進学率を誇る「名門」高校であることに依 とを目的とする。 拠している。今後さらに進む少子化に伴って公立高校の新 たな再編整備を検討する必要に迫られることになれば、別 1.3 男女共学・別学の歴史的経緯 学校の共学化が再び議論される可能性がないとはいえず、 1.3.1 戦前の男女共学・別学 別学校存続施策についてその検証が求められることも予 1872 年の学制では認められていた男女共学は 1879 年 想される。しかし男女共学・別学というその教育形態の差 の教育令で否定された。教育令は男女別学と性差に基づく 異と進学実績、学習指導との関係に関する研究は多くない。 教科の設定を原則として掲げたのである。1900 年に出さ れた小学校令施行規則でも、小学校 1・2 年以外は原則と 1.2 研究の意図と目的 して男女別学であることが明記された。男女共学禁止の原 男女共学・別学の教育形態の差異が進学実績の伸長に影 則は 1946 年 10 月 9 日の国民学校令施行規則の一部改正 響を及ぼしているかどうかを分析するためには、少なくと まで続いた。中学校・高校における男女共学が実施される も入学時の学力(高校入試時の偏差値)が同レベルの共学 のは戦後の新学制発足と同時である。 校と別学校の進学実績データを比較する必要がある。本研 究では、埼玉県、群馬県、栃木県の県立高校を対象に実施 1.3.2 戦後の男女共学・別学 した調査に基づき、男女共学と別学の違いによる大学進学 1947 年 2 月、当時の文部省は教育基本法の公布・施行 実績への影響について分析するなかで、入学時の学力が同 に先立ち、高校では必ずしも男女共学でなくてもよいとい レベルの共学校と別学校の国公立現役合格率に着目し、回 う方針を明らかにした。そのため新制高校における男女共 帰分析を行う。 学は全国一律に実施されたわけではなく、地域によっては また、近年、私学関係者を中心に男女別学の教育的効果 別学校が存続した。アメリカ占領軍の担当軍政部が寛大な の高さが主張され始めている。その根拠は、男女には様々 対応をした東日本では男女共学実施は漸進的に行われた 1-- -19 のに対し、西日本では軍政部の強硬な指示によって半強制 各国の関心の焦点は女子から男子へとシフトしていった。 的に完全実施となった。 1990 年代以降、少数となった公立の別学校に対する共 学化の議論が起こり、男女共同参画社会基本法が制定され 2.2 男女共学と別学の違いによる学業成績への影響 2.2.1 男女別クラスによる授業の試み た 1999 年以降、男女共学化が急速に進められた。公立の アメリカのある中学校で主要科目に男女別クラスを設 別学校が比較的多く設置されているのは、埼玉県、群馬県、 置したところ、女子クラスが数学、国語、理科でトップの 栃木県の 3 県である。 成績を収め、男子クラスも共学クラスより上であった。男 子クラスにしたことによって教育的効果が見られたとい 1.4 埼玉県における別学校の共学化問題 う報告はイギリスでもなされている。こうしたことから、 1.4.1 埼玉県における男女共学・別学の歴史的経緯 男女共学により同一の教室で同一のカリキュラムや教材 1956 年以降は、普通高校で県立移管になった高校や新 を通して教育を行うことが男女平等教育を実現している 設された高校でいずれも男女共学が実施され、1974 年か とは限らず、社会のなかで男女間にアンバランスな関係が ら 1991 年の生徒急増期対策として新設された高校もすべ あることを自覚しないままの形式的平等は実質的な不平 て共学校であり、別学校は数の上では少数となった。この 等をもたらすと主張する研究者もいる。 別学校について、県教委は 1983 年の「報告書 本県公立 高等学校の男女共学制に関する検討結果について」のなか 2.2.2 日本における男女別学推奨の主張 で、「異性に対して関心を払うことなく学習に専念できる 従来の特性論は、女子が多くの場合、将来の家庭生活に ので学習効果があがる」(p.2.)、「特色ある学校として位 おいて独特の役割を担うという男女の社会的役割の違い 置づけることも可能であると思われる」(p.6.)として別 を想定してきた。それに対して近年の男女別学を推奨する 学維持に積極的意味づけをしていた。 主張に見られる男女の違いは、教育の目的や内容との関係 においてではなく、認知面や心理面での違いであり、教育 1.4.2 埼玉県における別学校の共学化問題 方法の違いとしてとらえられている。 2000 年 3 月、埼玉県は全国に先駆けて「埼玉県男女共 同参画推進条例」を制定した。同年 4 月 1 日より施行さ 2.2.3 国内の研究報告 れると、これを契機に別学校の共学化が議論された。2003 男子は共学学級と別学学級を比較して別学学級におけ 年 3 月 25 日、県教委は「当面は、現状を維持することと る標準成就者の増加、超過成就者と成就不足者の減少が見 する」旨の決定報告書を提出した。 られ、女子は別学学級で成就不足者の顕著な減少傾向と標 準成就者の顕著な増大が現れるという報告や、調理実習と 第 2 章 男女の性差及び男女共学と別学の違いによる学 いう学習の場における学習効果から考えると男女生徒は 業成績への影響 別々のグループ編成での学習が望ましいという報告があ 2.1 男女の性差による学業成績への影響 る。 2.1.1 男女の性差 脳科学の発達に伴い、男女の性差に関する研究が数多く 2.2.4 国外の研究報告 行われ、様々な科学的知見が明らかにされている。しかし フロリダ州ステットソン大学の研究チームはある公立 その主張は一致しているとはいい難く、決定的見解は示さ 小学校の児童を男女混合のクラスと男女別のクラスに分 れていないというのが現状である。 けて試験成績を調査した。その結果、男女混合クラスでは 男子児童の 37%、女子児童の 59%の成績がそれぞれ優秀 2.1.2 PISA における男女の得点 であったのに対して、男女別クラスでは男子児童の 86%、 PISA の結果を見ると、読解力に関しては女子の方が男 女子児童の 75%が優秀な成績を記録した。 子よりも高得点であることがわかる。この違いについて、 男子は女子に比べて生まれつき脳の空間認知中枢が大き 表 1 アメリカのある公立小学校における成績調査 いが、言語中枢が小さく、言語能力の発達が遅いためであ 男女混合クラス 男女別クラス 成績優秀者男子 37% 86% 成績優秀者女子 59% 75% るという説明がされることがある。 2.1.3 男子の学業不振問題 西洋諸国において 1970 年代から 90 年代前半までは教 育におけるジェンダーの問題といえば女子問題であった。 ところが 1990 年代半ば頃からジェンダーと教育に関する 出典:佐藤実芳(2012) 「男女共学に対する批判の分析」 『ジェンダーと教育 横断研究 の試み』ユニテ、pp.92-93. より筆者作成。 2-- -20 イギリスでは、機会均等審議会がある中等学校を指定し、 1980 年の入学者を卒業までの 5 年間数学の授業を男女混 3.3 大学進学実績の比較 表 4 共学校の男子と男子校 合や男女別クラスで行うなどして実験的に調査した結果、 国公立合格者数 (現役+過年度生) 現役進学率 男女混合クラスであるか男女別クラスであるかというこ 国公立現役合格率 推薦進学率 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 と自体は数学の学習成績を向上させる要因ではないとい 共学校(36校) 77.23% 8.46 25.14人 26.96 14.55% 16.18 11.56% 9.50 う結論に達した。その一方、同審議会は、一定の条件下で 男子校(16校) 69.59% 15.81 126.94人 55.66 34.16% 13.49 7.67% 6.47 は女子生徒だけで学習する方が学習効果が上がるという 平均の差 (共学校-男子校) 7.64** -101.80*** -19.61*** 3.89** データも提供し、共学校での授業運営の方法の再考を促し 差の標準誤差 4.20 14.62 4.63 2.28 ている。 出典:学校アンケートより筆者作成。 注:***、**は、それぞれ 1%、5%水準で統計的に有意であることを示す。 2.2.5 表 5 共学校の女子と女子校 国内外の研究の総括 全体としては男女別学の教育的効果が認められる報告 や教員の声が多く見られる。とはいえ生徒の学力を共学― 別学間で比較するとその優劣は科目や地域によって異な るとする研究もあり、別学校の教育的効果に関する研究知 見は必ずしも一致していない。 第 3 章 男女共学と別学の違いによる大学進学実績への 影響 3.1 調査概要 国公立合格者数 (現役+過年度生) 現役進学率 国公立現役合格率 推薦進学率 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 共学校(38校) 78.52% 11.21 14.26人 13.38 10.18% 10.91 22.26% 14.00 女子校(20校) 80.29% 14.24 68.7人 54.44 22.44% 15.47 18.40% 13.66 平均の差 (共学校-女子校) -1.77 -54.44*** -12.26*** 3.86 差の標準誤差 3.40 9.26 3.49 3.85 出典:学校アンケートより筆者作成。 注:***は、1%水準で統計的に有意であることを示す。 3.4 回帰分析 共学校と別学校の違いによる大学進学実績等の分析の 3.4.1 被説明変数と説明変数 ため調査(以下、 「学校アンケート」という)を実施した1。 調査時期:2014 年 10 月 男女別の国公立現役合格率を被説明変数(Y)として、 次の推定式で回帰分析を行った。 調査対象:埼玉県、群馬県、栃木県の県立高校(普通科) Y=β0+β1×(群馬ダミー)+β2×(栃木ダミー) のなかから抽出した 83 校 +β3×(男子校または女子校ダミー) 回答校数:74 校 +β4×(偏差値) +β5×(交差項男子校または交差項女子校) 3.2 教員構成の比較 +u(誤差項) 表 2 共学校と男子校 女性教員比率 50代教員比率 教員平均年齢 群馬ダミー = 埼玉県:0 群馬県:1 栃木県:0 栃木ダミー = 埼玉県:0 群馬県:0 栃木県:1 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 男子校ダミー = 共学校:0 男子校:1 女子校:0 共学校(36校) 34.65% 7.68 45.58% 13.38 47.37歳 2.93 女子校ダミー = 共学校:0 男子校:0 女子校:1 男子校(16校) 16.66% 8.69 41.05% 11.82 46.23歳 2.87 偏差値 平均の差 (共学校-男子校) 17.99*** 4.53 1.14 差の標準誤差 2.40 3.88 0.88 2013 年度卒業生の入学時(2011 年 度高校入試時)の偏差値 出典:学校アンケートより筆者作成。 注:***は、1%水準で統計的に有意であることを示す。 交差項男子校 = 偏差値×男子校ダミー 交差項女子校 = 偏差値×女子校ダミー 3.4.2 共学校の男子と男子校 表 3 共学校と女子校 女性教員比率 = 50代教員比率 3 県全体の男子の国公立現役合格率は、偏差値が 67.93 教員平均年齢 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 共学校(38校) 33.96% 9.47 44.81% 13.52 47.12歳 3.05 女子校(20校) 40.89% 7.55 40.30% 13.47 46.28歳 2.94 平均の差 (共学校-女子校) -6.93*** 4.52 0.84 差の標準誤差 2.45 3.73 0.83 未満の場合は男子校の方が高く、67.93 を超えると共学校 の方が高い。なお、本研究で用いたデータでは偏差値が 67.93 を超える共学校は 3 県全体で 1 校のみである。 3.4.3 共学校の女子と女子校 3 県全体の女子の国公立現役合格率は、偏差値が 52.17 出典:学校アンケートより筆者作成。 注:***は、1%水準で統計的に有意であることを示す。 未満の場合は共学校の方が高く、52.17 を超えると女子校 の方が高い。なお、本研究で用いたデータでは偏差値が 1 男子校と女子校では偏差値の最小値が異なるため、共学校数は、男子校との比較で は 36 校、女子校との比較では 38 校である。 52.17 未満の女子校は 3 県全体で 2 校のみである。 3-- -21 3.4.4 埼玉県における共学校の男子と男子校 女子の特性とされるものをそれぞれ 3 つ選び、質問事項と 埼玉県の男子の国公立現役合格率は、偏差値が 68.76 した。 未満の場合は男子校の方が高く、68.76 を超えると共学校 〈男子の特性とされるもの〉 の方が高い。なお、本研究で用いたデータでは偏差値が 「飽きっぽく、授業中により頻繁に気分転換が必要である」 68.76 を超える埼玉県の共学校は 1 校のみである。 「協調性に欠ける傾向がある」 「授業では教師に挑戦するという要素を取り入れると効 3.4.5 埼玉県における共学校の女子と女子校 果がある」 埼玉県の女子の国公立現役合格率は、偏差値が 52.28 未満の場合は共学校の方が高く、52.28 を超えると女子校 〈女子の特性とされるもの〉 「教師から大切にされていると感じることで安心する傾 の方が高い。なお、本研究で用いたデータでは埼玉県のす べての女子校の偏差値は 52.28 を超えている。 向がある」 「個々の事象から全体を推定していく『帰納的思考』を する傾向がある」 3.5 考察 「おおざっぱなヒントや指示では不安を覚える傾向があ 3.5.1 教員構成 る」 女性教員比率、50 代教員比率、教員平均年齢のなかで 女性教員比率のみに統計的に有意な差が見られた。別学校 4.2.2 学習上の男女の特性への配慮等 の方が共学校より同性教員の比率が高い。また 50 代教員 学習上の男女の特性への配慮等に関する教員意識につ 比率と教員平均年齢は統計的に有意な差はないが、ともに いて分析した。 「あなたは男女の特性に配慮した学習指導 別学校の方が共学校より低く、別学校の教員の方が年齢的 をしていると思いますか」「あなたは男女の特性に配慮し に若い傾向が見られる。 た学習指導をした方が効果があると思いますか」の 2 つを 質問事項とした。 3.5.2 大学進学実績 男女ともに国公立合格者数と国公立現役合格率は別学 校の方が共学校より実績が高い。国公立現役合格率は男女 4.3 男女別学に関する教員意識 4.3.1 男女別学のメリット・デメリット ともに別学校の方が共学校の 2 倍以上の実績を残してい 先行研究等で指摘される男女別学のメリット・デメリッ る。男子の現役進学率と推薦進学率はともに共学校の方が トのなかからメリットとされるものを 5 つ、デメリットと 男子校より実績が高い。女子の現役進学率は女子校の方が されるものを 3 つ選び、質問事項とした。 共学校より実績が高く、推薦進学率は共学校の方が女子校 〈メリットとされるもの〉 より実績が高い。 「男子と女子では成長のスピードが違うので成長過程に 回帰分析により同レベルの偏差値の共学校と別学校の 国公立現役合格率を比較した結果、一部の例外はあるもの 教育が合わせられ効果的である」 「男女の特性や興味・関心に応じて教え方を工夫すること の、別学校の方が共学校より国公立現役合格率が高い傾向 が見られた。 ができる」 「生徒は異性の目を気にしないで、のびのびと学習に集中 しやすい」 第4章 学習上の男女の特性等に関する教員意識 「女子校の場合、女子は男子に頼ることなくリーダーシッ 4.1 調査概要 プを発揮できる」 学習上の男女の特性等に関する教員意識の分析のため 「男子校の場合、男子は女子任せにしないで必要なことを 調査(以下、「教員アンケート」という)を実施した。 することができる」 調査時期:2014 年 10 月 〈デメリットとされるもの〉 調査対象:埼玉県、群馬県、栃木県の県立高校のなかか 「生徒は異性に対する偏見を持ってしまう」 ら抽出した 83 校の教員 「生徒は同性だけなので視野が狭くなる」 回答者数:2,369 人(回答校数:74 校) 「生徒は異性とのコミュニケーションの方法やきっかけ がわからなくなる」 4.2 学習上の男女の特性に関する教員意識 4.2.1 学習上の男女の特性 4.3.2 別学校の共学化 学習上の男女の特性に関する教員意識について分析し た。質問事項として男女別学を推奨する主張のなかで指摘 共学化に否定的な回答は過半数を超え、共学化に肯定的 な回答は 2 割に満たない。 される男女の特性のなかから男子の特性とされるものと 4-- -22 4.4 考察 数、国公立現役合格率の実績の高さが明らかとなった。そ 学習上の男女の特性及び男女別学に関する教員意識の こで、別学校存続施策の検証の際には、別学校に大学進学 実態について分析を行い、次のことが明らかとなった。 実績を高める効果が見られることを議論の重要な要素に 【学習上の男女の特性について】 するとともに、別学校における大学進学実績を高める要因 ・全体的には「どちらともいえない」とする回答が多い。 とそのメカニズムを明らかにする実証的調査研究を行う。 ・「飽きっぽく、授業中に頻繁に気分転換が必要である」 提言 2 と「授業では教師に挑戦する要素を入れると効果がある」 については 4 割前後の教員が男子の特性として認識し 学習上の男女の特性に応じた指導の有効性 に関する研究の実施 ている。 教員アンケートの分析結果から、学習上の男女の特性に ・「教師から大切にされていると感じることで安心する傾 応じた指導を行うとともに、その効果があると認識してい 向がある」と「おおざっぱな指示やヒントでは不安を覚 る教員が少なくないことが明らかとなった。そこで、学習 える傾向がある」については過半数を超える教員が女子 上の男女の特性に応じた指導の有効性に関する研究を実 の特性と認識している。 施し、その教育的効果を検証する。例えば、共学校におけ ・共学校より別学校の教員の方が、また別学経験のない教 る実験・実習やグループ学習時に従来の男女混合グループ 員より別学経験のある教員の方が、それぞれより強く男 編成に加えて男女別グループ編成を取り入れる。学習内容 女の特性として認識している。このことは共学校の生徒 に応じて男女混合グループ編成、男女別グループ編成を適 よりも別学校の生徒の方が学習上の男女の特性をより 宜使い分け、生徒の学習活動を観察、比較衡量する取組を 顕在化させている可能性を示唆するものと思われる。 試行する。こうした実践例を基に意見交換・情報交換をす 【男女の学習上の特性に応じた指導について】 る研究協議を実施し、研究成果は参加校だけではなく他の ・学習上の男女の特性に配慮した指導を行っている教員は 学校にも情報提供を行う。そのための支援が教育委員会に 4 割を超え、特性に応じた指導は効果があると認識して は求められる。 いる教員は過半数を超えている。 ・女性教員より男性教員の方が学習上の男女の特性に配慮 5.2 本研究の課題 した指導を行いその効果があるとより強く認識してい る。 本研究は進路面・学習面に限定して男女共学と別学の違 いによる教育的効果の分析について論究してきた。進路面 ・共学校より別学校の教員の方が、また別学経験のない教 といっても大学進学実績のみに着目しており、就職や専門 員より別学経験のある教員の方が、それぞれ学習上の男 学校等への進学実績については研究の対象としていない。 女の特性に配慮した指導を行い、その効果があるとより さらに、生徒指導や特別活動等を含む他の教育活動も同様 強く認識している。 に研究の対象外である。これは本研究の限界とでもいうべ ・全体的傾向として、教員は、学習上の男女の特性には違 きことであるとともに、課題でもある。男女共学・別学と いがあり、違いに応じた指導には効果があると認識して いう教育形態の差異を議論する場合、多面的総合的に検討 いるといえる。 しなければならないことはいうまでもない。大学進学実績 【男女別学のメリット・デメリットについて】 に関する数字に差が見出されたといっても、その要因が特 ・メリット、デメリットともに肯定的な回答の方が否定的 定できていない以上、数字の差だけを以って別学校存続の な回答よりも多い傾向が見られる。 根拠とすることには無理があろう。また大学進学実績及び ・メリットについては別学校に勤務している教員、あるい 教員意識の分析は埼玉県、群馬県、栃木県の県立高校を対 は勤務していた教員ほどメリットとしてより強く認識 象に実施した調査に基づいて行ったが、サンプル数が限ら している。 れていること、合格(進学)した大学のレベルを捨象して 【別学校の共学化について】 いること、調査内容に不十分さが否めないことなど、その ・別学校の存続に肯定的な教員が多いといえる。 精緻さにおいて課題を残した。 別学校存続施策の検証をはじめとする今後の男女共 終章 政策提言と本研究の課題 学・別学に関する議論はエビデンスに基づいて行われなけ 5.1 政策提言 ればならない。そのためには、進路面・学習面に加え、生 これまでの分析結果を踏まえ、2 つの提言を示す。 徒指導や特別活動をはじめとした教育活動全般に対する 調査分析はもちろんのこと、高校入試 (入学志願者)の 提言 1 別学校における高い大学進学実績の要因分 状況、生徒・保護者・同窓生等学校関係者の意識、中学校 析の実施 関係者や県民・地域住民の意識など、別学校に対する多面 学校アンケートの分析結果から、別学校の国公立合格者 的総合的調査研究が不可欠である。 5-- -23
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