津波被災地域における低地被災区域の土地活用に関する研究 ~岩手県

津波被災地域における低地被災区域の土地活用に関する研究
~岩手県大船渡市三陸町越喜来泊地区を事例として~
BR12011 伊東 優一
指導教員 作山 康
1.研究背景・目的
本研究室は NPO 法人アーバンデザイン研究体と協
力し、東日本大震災発生後から大船渡市越喜来泊地区
の復興支援活動を行ってきた。このこともあり、越喜
来泊地区は、泊地区防災集団移転促進事業をすでに終
え、13 戸が高台移転した。低地被災地区では、本設
公民館の移築を終え、結っ小屋と呼ばれる小さなまち
の拠点が完成した。この越喜来泊地区において、次に
解決すべき問題は低平地被災区域の土地利用である
と考えられる。産業に関しては、リアス式海岸という
地形から漁業が盛んであるのと同時に、震災以前は水
田を利用した農業も行われていた。本研究では産業
(農水業)、観光、地域コミュニティ、自然環境の 4
つの観点から越喜来泊地区と他事例に関して分析を
行い、考察していくことを目的とする。
2.研究方法
研究背景・目的を明
確にし、対象地域調査
を行う。調査は、対象
地域が現状としてどの
ようになっているのか
把握する。他事例の調
査は、被災地の低地被
災区域(浸水区域)の
図 1.研究フロー
現状と今後、どのよう
なものが利活用されるか見込みなのか把握した後、越
喜来泊地区と他事例として同程度の漁村集落におけ
る低地被災区域の土地利用を調査する。レーダーチャ
ートによる 5 段階評価・分析を行い比較、対象地域で
はどのようなことができる余地があるか考察を行う。
3.対象地区調査
越喜来泊地区の低地被災地域は、田畑としてすでに
利用されている箇所や、一部漁具置き場や網置場とし
て使われている箇所が存在するが、基本的に大部分が
空地となっている。
▼産業(農水産業)
越喜来泊地区はリアス式海岸となっているため、養
殖業を中心とした水産業が盛んでわかめ、カキ、ホタ
テ、カレイ、海鞘といった海産物が獲れる。また、漁
業権を持つ人は野菜や米を作っており、半農半漁が基
本となっている。
▼地域コミュニティ
結っ小屋や、高台ではあるが公民館等があり、住民
の集えるコミュニティ施設が充実している。また、結
っ小屋に関しては、ウッドデッキ、ピザ釜やグリルを
併設しており、集会所やバーベキュー場、バンガロー
としての役割も果たせるため、地域コミュニティの核
とになりつつある。
▼自然環境
低地被災地域においては、不確定用地が多く荒れ地
となっている箇所が存在する。泊地区の中心部を流れ
る泊川に関しても荒れ地と化していて整備がされて
いない。
▼観光
体験施設や娯楽施設が乏しい。水産業が盛んである
ため、それに関連した体験施設や娯楽施設があれば集
客が見込めると考えられる。
4.被災地の低地被災地域の土地利用分析
100%
80%
60%
40%
20%
0%
65%
21%
14%
47%
25%
28%
43%
14%
現状維持
43%
計画策定中
事業着手済
宮城県復興まちづくり通信から
図 3.宮城県における被災跡地の現状
土地区画整理
都市公園
10%
1%
農地整備
7%
25%
36%
公共施設整備
49%
8%
森林整備
漁集
24%
5% 19%
13%
効果促進
その他
図 4.土地利用別状況(事業着手済)
図 5.事業別状況(事業着手済)
平成 27 年 4 月 2 日 宮城県復興まちづくり通信より
1%
主体
取り組み内容
概要
三陸鉄道沿線植樹帯の整備 三陸鉄道沿線の植樹帯の整備を行う。
住民主体の取り組み
地元住民が集い、活用できるコミュニティ施
結っ小屋(コミュニティ施設) 設の運営を行う。ウッドデッキやピザ釜、グリ
の運営
ルが併設されているため、バーベキューや
喫茶スペースとしても利用できる。
結いの道
海側、山側に分断された泊地区の集落を結
ぶ道として歩道の手直しを行う。
図 2.越喜来泊地区における取り組み
1%
産業
公園・緑地
農地
公共施設
森林
その他
1%
現状維持の割合が多いのは、私有地と公有地が混在
しているため、産業用地や運動場などに必要な広い敷
地が確保できない上に、大量の荒れ地が残る。この結
果、市町村が土地利用計画を定めてもそれが実現でき
ないという事態に陥っている。
5.他事例調査
5.1.田畑や海など自然を生かしたタイプ
(大船渡市三陸町越喜来甫嶺地区)
6.比較・分析
6.1.泊地区-甫嶺地区比較分析
泊地区と甫嶺
地区を比較する
産業
5
越喜来
と観光の観点に
4
泊地区
3
おいて甫嶺地区
地域
2
観光
コミュ
1
よりも劣ってい
ニティ
越喜来
るということが
甫嶺地
分かる。検討段
区
自然
環境
階ではあるがビ
図 8.泊地区-甫嶺地区 5 段階評価比較
オトープやシー
カヤックといった自然を活用した体験施設を泊地区
に必要なのではないかと考える。また、両地区ともに
三陸鉄道の沿線において、植樹帯の整備を住民主体で
行っていることは、自然環境の面で評価されるべきで
あると言える。
6.2.泊地区-崎浜地区比較分析
泊地区と崎
泊地区-崎浜地区5段階評価比較
浜地区を比較
産業
5
すると両地区
4
越喜来
3
に共通点があ
泊地区
地域
2
るということ
観光
コミュ
1
ニティ
越喜来
が分かる。泊地
崎浜地
区には、結っ小
区
自然
屋と呼ばれる
環境
コミュニティ
図 9.泊地区-崎浜地区 5 段階評価比較
施設があるの
に対し、崎浜地区は浜らいんと呼ばれるコミュニティ
施設がある。崎浜地区の浜らいんは、漁港との距離が
泊地区と比べて近いため、漁港と一体的にコミュニテ
ィ施設をできるということが崎浜地区の低地被災地
域の特徴である。
泊地区‐甫嶺地区5段階評価比較
主体
取り組み内容
概要
甫嶺駅前へ植樹帯の整備を進める。
地元住民・三陸鉄道との協働
2014年6月には、甫嶺駅植樹祭として地元主
による植樹帯の整備
体のイベントが行われている。
甫嶺駅の海側において、地域による蕎麦の
蕎麦栽培
共同栽培を行う。
住民主体の取り組み
ビオトーブ
甫嶺駅の海側一帯を甫嶺川等の自然資源を
活用した体験ができる場として整備する。
見晴台
防潮堤背後の矢作川河口付近に見晴らし台
を設置する。
シーカヤック活動拠点
鬼沢漁港の南側は自然資源を活用したシー
カヤック体験を行う場として整備する。
図 6.越喜来甫嶺地区における取り組み
甫嶺地区は、蕎麦栽培や甫嶺駅前での植樹帯の整備
など住民参加型のイベントを行うことで地域のコミ
ュニティを築き上げていると言える。また、検討段階
ではあるが、ビオトープの整備やシーカヤック活動拠
点整備など自然を活かした形で体験できるというこ
とは、観光面においても自然環境面においても利益に
なると考える。
5.2.コミュ二ティ広場・施設を中心とした漁港タイプ
(大船渡市越喜来崎浜地区)
主体
取り組み内容
概要
コミュニティ広場の整備
漁業集落事業の水産施設用地と連続性の
あるコミュニティ広場の整備を行う。
浜らいんの運営
地元住民が集い、活用できるコミュニティ施
設の運営を行う。漁業者が集い会議をした
り、若者がバーベキューを行うなど様々なイ
ベントに利用されることに期待されている。
住民主体の取り組み
図 7.越喜来崎浜地区における取り組み
崎浜地区は、低地被災地域にある浜らいんと呼ばれ
るコミュニティ施設が地域コミュニティの核となっ
ており、検討段階ではあるが、コミュニティ広場が完
成すれば、漁港とコミュニティ施設・広場が一体的に
なり、地域コミュニティが中心となって漁港としての
機能が果たされていくと言える。
7.考察
泊地区では、観光という観点で“泊ならでは”と言
える自然と触れ合える施設などが少ないと言える。甫
嶺地区のビオトープの計画のように泊地区でも、未整
備である泊川を利用して小さな親水公園やビオトー
プなどとして利用できるのではないかと考える。また、
体験という観点では、海岸沿いに釣堀やいけすなどを
使い、リアス式海岸の釣り体験を行ってみるというの
も低地被災跡地の有効活用であると言える。
泊地区の低地被災地区の農地に関しては、私有地と
公有地がモザイク状に点在しているため、その地域で
の一体的な土地利用は実現できないが、合意形成の上、
甫嶺地区の蕎麦畑のように地域コミュニティを深め
る材料として利用できるのではないかと言える。
8.参考文献
大船渡市ホームページ(http://www.city.ofunato.iwate.jp)
浦浜・泊地区の復興まちづくりと被災跡地利用について
甫嶺地区の復興まちづくりと被災跡地利用について
崎浜地区の復興まちづくりと被災跡地利用について