清水永之:ボーカル・レコーディングを極める DTM で音楽を制作するにあたって、どうしてもマイクを使って録らざるを得ないもの……それがボーカル・パー トです。ボーカル・パートと言えば、もちろんボーカル・ナンバーでは主役。その出来がトラック全体の仕上が り具合を左右します。ここでは、ボーカル録音に不可欠な知識や、ノウハウの数々を紹介していきましょう。 第 5 回:マイクの位置と口に起因するノイズについて ( 2008 年 11 月 26 日 ) 前回まではレコーダーやインターフェース、コンプレッサーのセッティングについて説明してきた。今回はレコーディン グ前の最終的なセッティングのチェックとして、マイクの位置やモニターについて触れておこう。 ■適切なマイクの位置 前回までの過程で、 “レコーディングって、こんなに準備が大変なのか!”“歌をマイクで取り込めばいいのではないの?” などと思った人もいると思うが、心配することはない。もちろん、そのつど楽曲もボーカリストが変われば微妙にセッテ ィングも変わってくるが、最初に理解して、繰り返し作業することによってコツをつかんでしまえば、簡単にレコーディ ングすることができる。そのためにも今のうちに 1 つ 1 つの作業を的確に押さえておこう。 まずはマイクの位置。ボーカリストの口の高さよりも少し上から狙うと、オン・マイク(マイクとの距離が短い)でも吹 かれ(歌う際の息を吐く音)のノイズも少な く、ちょうど良い感じになる。以前セッティ ングを説明した際にも触れたが、吹かれを防 止するためにはポップ・ガードをしておくと いいだろう。 口からマイクの距離はボーカリストによって も変わってくるが、通常 10∼20cm 程度に することが多い。声量の豊かなボーカリスト の場合には、少しオフ・マイク(マイクとの 距離が長い)気味にするといいだろう。 ■口に起因するノイズ 声がよく拾えるということは、ノイズも拾いやすいということでもある。このあたりについては、ボーカリストにも注意 してもらう必要がある。音量の大きな曲や声を張る部分が多い曲などでは、少し離れた方がクリップ(オーバーゲインで 音が歪む)を避けることができるので、オフ・マイクにした方が良い結果が得られる場合もある。もちろんオン・マイク の場合は、ボーカリストのモニター(ヘッドフォン)が大き過ぎると、そこからの音の漏れを拾ってしまうので、モニタ ー音量にも注意を払うが必要がある。細かいことだが、アクセサリーや歌詞(譜面)を手で持って歌うのもノイズの原因 になる。アクセサリーを外してもらったり、譜面台を用意するなどの配慮も必要だ。また、ボーカリストの中には口や喉 を潤すためにガムやキャンディをなめる人もまれにいるので、そのあたりも要チェックだ。また、ほかにも口を開閉した ときに発生する“ピチャピチャ”といった感じのノイズが発生することがあり、これはリップ・ノイズと呼ばれている。 こうした口まわりに起因するノイズは、コンプレッサーをきつくかけすぎると目立ってしまうことがある。亀裂音が強く 出たときに“カチッ”というノイズのような音になってしまって耳障りになるので、この場合にはコンプレッサーのスレ ッショルド、アタックを調節する必要がある。前回の内容も参考にしてほしい。 ただし、曲全体を通してのコンプレッサーの掛け具合との兼ね合いを考慮する必要もある。ノイズそのものは、その部分 だけコンプレッサーのアタックを調節したり、マイクの位置(ボーカリストからマイクまでの距離)を変えたりして回避 することもできるが、逆にその部分だけ音質が変わってしまうという危険性もあるわけだ。こうしたノイズは極力発生し ないようにするのがまず第一。どうしても発生してしまうという場合、歌い方変えてもらうなどの対策が必要な場合もあ る。いずれにしても、その部分だけを局所的に考えるのではなく、全体を通してチェックし、不自然にならないよう、慎 重に対処しよう。 基本的に、録音したい音以外の音はすべてノイズだ。口まわりのノイズ以外にも、ハードウェアに起因するもの(接続ケ ーブルの接点不良、電源やマイク・ケーブル、USB などのケーブルにのってくるノイズなど)、環境に起因するものなど がある。それぞれにチェック&メインテナンスが必要だ。次回はその要因や対処方法などについてまとめておこう。
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