PDFファイル - 筑波大学附属中学校・高等学校

生徒の質問から見えること
生徒の質問から見えること
国語科
伊
藤
雅
子
国語科 伊 藤 雅 子
Ⅰ
はじめに
十数年前、高校二年生の男子が無邪気にこう尋ねた。「えーっ、中宮定子って、女なん
ですか?」私は、絶句。
『枕草子』の授業を六、七時間行った後の質問である。しかしなぜ
彼は、中宮定子が男であると考えたのだろう。聞いてみると、こう言った。
「だって、言葉
遣いが男みたいですから。」――確かに、中宮は女房たちに対して一切の尊敬語・丁寧語を
用いない。
「墨すれ。」
「古き言書け。」と、
「乱暴」だ。現代の生徒は、なぜ中宮が女性の言
葉遣いとは思えないような男っぽい言い方をするのか、と思うのだろう。なるほどと思っ
た。こんな疑問は、教員は抱かない。その結果、身分制度の明らかな平安時代においてあた
りまえであった言葉遣いが、現代においては誤解につながる表現になることがある、とい
うことを見落としてしまうのだ。それに気づかせてくれた生徒の質問は、私にとってあり
がたいものだった。
その後、生徒からさまざまな質問を受けた。その場で答えられるものもあれば、考える
時間を要するものもあった。中には、作品に対するそれまでの私の認識を変えさせたもの
もあり、解釈や鑑賞を深めてくれたものもある。気づかなかった視点を与えてくれたもの
もあった。そんな彼らからの質問をもとにして考察したことを、これまでいくつかの文章
にまとめている。【*注1】
今回は、生徒とやりとりした「質問と答え」の中から七つを選んで載せた。また、今そ
れぞれの質問・答えについてふり返り、考えたことをコメントとして短くまとめた。今年
度の本校の紀要に紹介し、筑波大学附属高校における古文の授業の、記録の一つとしてと
どめておきたい。さらにまとめとして、生徒から質問を受けることの意義について最後に
簡潔に述べておいた。
一言話すだけではすまない「答え」は、私はなるべく紙に印刷して渡すようにしている。
今回、ここにまとめるにあたって、基本的には生徒とやりとりを行った時のままのものを
用いた。従って、若干文体等統一されていない箇所があることをお断りしておく。なお、
「作品名・巻名等」「質問者の学年(すべて高校)・性別」を共通して示し、コメントにつ
いては、★印で示した。
-1-
Ⅱ
①
作品
生徒の質問と私の答え
『伊勢物語』第九段
質問者
およびコメント
一年男子および女子
質問 『伊勢物語』第九段に出てくる「都鳥」は都の人がだれも知らない田舎の鳥なのに、
なぜ「都鳥」と言うのか。
答え
まったくですね!
この質問自体がおもしろいのですが、実は、答えていく過程で、
とても大切なことに触れることになりそうです。
「都鳥」の語源について調べてみました。「詳細不明」と結論づけている本もありまし
たが、一方、このような説もあります。「みやーことり」――つまり、「ミヤー」と鳴く小
鳥、という意味です。そう言われてみれば、鳴き声は「ミヤー」と聞こえますね。鳴き声
をもとにした動物の名としては、これも一説ではありますが、
「からす」や「ねこ」があり
ます。この鳴き声に加え、都鳥(おそらくユリカモメ)は、渡り鳥なので、
『都から、この
田舎に渡って来る鳥だ』と考えて、「都鳥」としたのかもしれません。
しかし結局、このお話の中で肝心なのは何かというと、あなたが抱いた疑問――「田舎
なのに、なんで都鳥なんだろう」ですよね。だって、おもしろいもん。
「田舎の鳥のくせに
都鳥だって、くすっ」と笑ってしまいます。
「伊勢物語」の中に雅なお話がたくさん入っていることはもちろんその通りだし、九段
もしみじみとした情緒で語られているのですが、この九段に関しては意識的に、言葉のあ
そびがたくさん入っていることに気づきます。その内の一つなのではないでしょうか。
★
『伊勢物語』には美しい話がたくさん収められている。描かれる恋の切なさは、時代
を越えて読者の胸にしみいる。しかし、だからといって、おかしみを感じさせる言葉遊び
がないわけでもない。九段にはそれがことに多い。冒頭、
「友とする人、ひとり、二人して」
「三河の国に」「八橋」「橋を八つ」を合わせて四回の繰り返し、「五文字」というふうに、
一から五までの数字を意識させてみたり、「乾飯」が「涙おとしてほとび」てしまったり、
「わが入らむとする道はいと暗う細きに、蔦かへでは茂り」とあって、紅葉した葉を連想
していると、いや五月なのだから実は青々としているのであったり、
「武蔵の国と下つ総の
国との中にいと大きなる川あり。それを隅田川と言ふ。」と言葉を逆に対応させてみたり…
…ほかにもある。都鳥の登場も、その一つと考えてもよいだろう。
そんなくだらないこと教えるなよ、と言われるかもしれない。しかしこの段のおもしろ
さの中心は、なんと言っても折句仕立ての和歌ではないか。言葉遊びを思いきり楽しめる
段として読むこともできるんだよ、という一つの視点を与えたいと思うのである。
【*注2】
-2-
②
作品
質問
『伊勢物語』第四段
質問者
二年男子
女が「ほかにかくれ」てしまったのは、
「正月の十日ばかりのほど」。次に「男」が
女のかつて住んでいた場所を訪れたのは、
「またの年の正月に」
「梅の花盛りに」とあるけ
れど、正月の何日くらいのことなのだろうか。もはや手の届かない所に行ってしまった女
のことが恋しくて行くのだから、別れたのとちょうど同じくらいの頃かな?
それに、授
業で教わった月の形や出る時間帯も変わってくるし……、気になります。
答え
物語というものは、その読み方は読者に託されています。自由に読んでよい、ただ
し、どうせならばなるべくすてきに読みたいですね。その意味で、質問者と同様、
「男」の
訪れたのをちょうど一年後の「正月の十日ばかりのほど」と仮定して読みたいと私も思っ
ています。そうして読むと、物語世界をどのように解釈できるでしょうか。まずは、質問
者の指摘する「男」の心理が見えてきます。女と引き離されてからちょうど一年という日。
去年と同じ梅の香りが、苦しいほど自分を包み込む。別れた日と同じ形の月が目に映る。
とうとう耐え切れなくなった男は、「去年を恋ひて」かつて女のいた場所を訪れた。
二つ目に、「男」の訪れた西の対で彼が感じたものを、我々読者も感じることができま
す。暗くなってから男は西の対を訪れる……月はすでに空にあり、対の中のようすを見る
ほどの明るさはある。しかしいくら見回しても去年とはまるで違っている。
「月のかたぶく
まで臥せりて」、別れた日と同じ形の月を見ながら「去年を思ひ出でて」歌を詠み、夜明け
近くまでそうしている。その数時間、男が感じていたのはどんなことでしょうか?
ひと
月の内の、何日目くらいのお月様か、ということは、その形と、空にある時間帯を決めま
す。「十日ばかりの月」であれば、その月は上弦の月。日没頃に東の空に見え、夜明け前に
はもう沈んでしまう。つまり、歌を詠んだ後の男は暁闇の中にいることになります。梅は
闇の中でその香りをますます濃くして、男の体を包み込む。つまり、男の感覚から「視覚」
が失われ、暗闇の中で「嗅覚」だけが研ぎ澄まされ、濃厚な梅の香りに包まれて、夜、女
と共に過ごしたあの時を思い出しています。梅の香りは去年と同じだ、しかしなくなった
ものがある。あの時は、あの人の香りがあった、あの人そのものが私の横にいた……男の
深い深い喪失感が伝わってきますね。実は、この説明の最後の部分は、みなさんの先輩が
考えたことです。今は失われたものを想起して読むことが大切、というのはこの段全体に
言えることですが、女の香りに関しての指摘は思いがけないものでした。
★
古文の物語を読むときには、その場面をイメージして読まねばならない。そのために
は、さまざまな古典常識が必要になる。こう読むと、もっとも深く味わえるという読み方
を、常に探し求めていきたい。上記のQ&Aは、発表授業の中でなされたものである。今回
それを文章の形に仕立て直した。いま存在するものが、失われたものを思い起こさせる…
…私以上に物語世界に入り込んでいた読者が、教室の中にいたのである。
-3-
③
作品
質問
『大鏡』《時平伝》
質問者
三年女子
過差(世の中の贅沢)を静めるために、時平と醍醐天皇が示し合わせて芝居を打っ
ていた、という事実を、後になって「うちうちによくうけたまはりしかば」とあるが、こ
の主語は語り手の大宅世継だ。世継は、誰からそのことを聞いたのだろうか。時平から直
接聞く事はありえないだろう。
答え
たしかに、身分が違いすぎますから、時平から直接聞くことはありえないですね。
誰から聞いたんでしょう。
ただ、よく考えてみると、世継が内情を知っているというのは、この話だけではないの
ですよね。たとえば、二年生の時に読んだ「花山帝の出家」にしても、助動詞「けり」を
使いながらずいぶん詳しく語っています。粟田殿や帝の台詞も実に細かいところまで。
「誰から聞いたの」というあなたの質問は、「ああ、そう言えばそうだなあ」と思わせ
て、次に、他の話もそうだったことを思い出させて、――となると、
『大鏡』という作品は
どのように作られているのだろう、ということを考えさせるところにまで行き着きます。
「大鏡」は歴史物語であり、記録ではありません。藤原道長という男、あるいは彼の栄
華につながる藤原北家の男達の歴史を自分の視点で語りたいと思った作者が、政治上のさ
まざまな問題をネタにしながら、その内情を暴露する、あるいは北家の男達がいかに関わ
ったかを紹介するといった形をとって話を展開させています。自分が実名を出して書くわ
けにはいかないので、エネルギッシュな老人、大宅世継らを登場させて語らせます。世継
ら自身が事件の場に登場していなくても、彼らはほんとうに、誰から聞いたのか、細かい
ところまで実によく知っている……それを、
「けり」を用いて雄弁に語ります。そのような
形をとることで、一つの視点を持った、自由な語りが展開されることになります。
時平の話も然り。「物語」の中に巧みに仕掛けられた「虚構」を現実のものとして追求
し続けるともちろん破綻してしまうのですが、世継の話にうなずきながらただ耳を傾けて
いくと、どんどんその世界に引き込まれていく。そして、作者の据えた視点に導かれなが
ら彼の解釈や批評を理解していく…『大鏡』は、そんな風に読むように、作られているの
だと思います。
★
物語の中の「不自然さ」には、しばしばその作品の秘密が隠されている。それがなけ
れば話が展開していかない、そこで多少無理でもその設定を加える、ということが創作過
程にあるためか。教師は、
「大鏡」のエピソードは世継が語るもの、という大前提をつゆも
疑わないが、はじめて読む生徒の目には、その中に不自然さが感じられるのである。それ
をきっかけにして、作品の作られ方を考察してみた。
-4-
④
作品
質問
『源氏物語』
質問者
三年女子
友だちとお弁当を食べてて、ふと思いました。
「ふりかけの‘ゆかり’って、
『源氏
物語』に関係あるのかな?」――どうなんでしょう。
答え
まず、‘ゆかり’というふりかけがどんなものか、私はよく知らなかったのです。
そこでまず、
‘ゆかり’というふりかけについて調べてみたら、赤ジソの干したものなので
すね。赤紫色ですね。
となると、たぶん次の和歌から来たものだと思います。この歌は、『源氏物語』《若紫》
巻の授業の時にも、みなさんに紹介しました。
むらさきの一本ゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞみる
(古今和歌集)
「むらさき」というのは、紫草のこと。花は白いのですが、根っこから紫色の染料をと
るところから、紫草と名付けられています。その花が、武蔵野にたった一本生えている。
すると、そのために、同じ武蔵野(紫草の根が広がっている)に生えている草はすべて、
「あはれ」つまり、いとしいものに思われる、という歌です。これはもちろん比喩であっ
て、一人の女性が恋しいと、その女と血のつながりのある人はすべていとしいと思われる
という意味ですね。若紫――後の紫の上となる少女は、まずは藤壺の縁者として源氏に愛
されました。だから、彼女や《若紫》巻は、「紫のゆかり」と呼ばれています。
お尋ねの‘ゆかり’というふりかけも、紫色であるところから、この歌が連想され、名
付けられたものと思われます。名付けた方は、なかなか古典に造詣の深い方ですね。ちな
みに、「紫子」と書いて、「ゆかり(こ)」と読む人がいる、と聞いたことがあります。「紫
はゆかりの色」というのは、そんなに浸透しているのかしらね。
おもしろい質問をありがとう。いっしょにいた友だちにも話してあげてください。
★「源氏物語」を授業で学んでいる最中の、三年生からの質問である。授業で学んでいる
ことが頭の隅に置かれ、お弁当を食べているときにもふっと思い出されて、疑問に繋がっ
た例。現代においても、
「古今和歌集」や「源氏物語」にまつわる言葉、ものの名前があち
こちにあることを、改めて教えられる。
実は、本校卒業生の同窓会である「桐陰同窓会」が作製・販売しているスポーツタオル
も紫色である。本校のシンボルは桐。光る源氏の母君である〈桐壺の更衣〉は、紫色の桐
の花が咲く壺(=中庭)のある殿舎にお住まいの方であった。光る源氏の最もお慕いした
方は〈藤壺の宮〉。最愛の妻は〈紫の上〉。三者にまつわる「紫」は、古今和歌集の歌の世
界を背景にして、このように、物語の中心に置かれている。
だから、その一つ、桐の模様をデザインし、桐の花の色を思わせるタオルで汗をふく時
も、『源氏物語』を思い出してよいのである。
-5-
⑤
作品
質問
『源氏物語』《朧月夜》巻と『大和物語』
質問者
三年女子
『大和物語』第91段の文章中に、〈男女の間で扇を贈るのは不吉である〉という
叙述があった(『文選』の「怨歌行」の故事にも通じている)。では、『源氏物語』で朧月
夜と源氏が契ったとき扇を交換するのはどのような意味を持つ行為なのか。
答え
【結論】二人の間に交わされた扇は、源氏と朧月夜の「きわめて特殊な逢い方」を
象徴している。二人は、一般の恋とは違う、非常に異例な形で関係を結ぶことになった。
そのため、それまでに交わした手紙(証拠)があるわけでもなく、手引きをする女房(証
人)も介在していない。二人がたしかに逢った証拠となるモノは扇〈あふぎ〉だけであり、
それを交わしてこそ、次に〈あふ〉ための手がかりを作ることができた。ただし、漢文か
らのイメージ――扇は男女の仲にとって不吉である――を読者がおそらく抱くであろう、
という予想は、当然のことながら作者は持っていたはずだ。
【考察】平安時代の貴族たちは、男女ともに扇を常に携行し、肌身から離さずにいた。と
くに、使い馴れた扇にはその人らしさが染み込んでおり、大げさに言えば、使っている人
の魂が込められているといってもよい。
『源氏物語』の《花の宴》の巻においても、交換し
て手に入れた女性の扇――よく使い込んである――をまさぐりながら、その人らしさを感
じ、思い描こうとする源氏がいる。
二人は全く突然、思いがけなく結ばれたわけだが、その際にはお互い、身につけた衣類、
そして扇しかなかった。情熱に身を任せた後、あわただしく別れようとする時に、この人
と契ったことを証明し、いつかまた逢う手がかりとするものを探すと、目の前に扇があっ
たのである。言うまでもなく、関係を持った二人でなくては、お互いの扇を手に入れるこ
となどできはしない。相手と離れても、その人らしさの染み込んだ扇を愛撫し、再び逢う
ときを夢見るために、絶対に必要なものだった。
一方、漢文に深い知識を持つ紫式部は、当然のことながら予想した――読者は、この「扇
を交換した」という行為を見ておやと思うであろう。源氏と朧月夜の激しい恋は、間もな
く悲しい結末になると考えるであろう、と。
『大和物語』に出てくるような「扇ゆゆし」の
発想が重ねられることは十分承知の上で、それでよい、と考えながら、筆を進めていった
のであろうと思われる。実際、別れていく二人の運命であった。
男と女の間に登場する扇と言えば、《夕顔》の巻にでてくるそれも、印象的である。庭
の夕顔の花に興味を示した源氏に、その家の女主人が女の童に命じて花をさしあげる。香
をじっくりたきしめた扇に載せて。ここでは二人が扇の交換をするわけではないので、特
に注目する必要はないのかもしれない。しかし、源氏と夕顔もまた、悲しく別れねばなら
なかった。紫式部の頭の中では、
《花の宴》にでてくるゆゆしき扇の前奏曲として、イメー
ジされていたのかもしれない。
-6-
★「大和物語」でふれた古典常識とは一見矛盾している形を、『源氏物語』の中に見出し
て質問してきた例。これを考察することは、光源氏と朧月夜の出会いの場面を事細かに思
い描くことにつながった。さらに、隠された作者の意図をも推測することにもつながった。
読みの可能性を広げてくれた質問である。
作品
⑥
質問
『源氏物語』《若菜上》巻
質問者
三年男子
源氏が女三の宮の所から紫の上の殿舎に朝帰りしてきた時、女房が意地悪をして御
格子を上げず、源氏を入れない場面がある。紫式部は、この場面を書く時に『蜻蛉日記』
を参考にした可能性はないかな?
作者(藤原道綱の母)が、夫、兼家を閉め出す場面が
『蜻蛉日記』にありますよね。紫式部は、『源氏物語』を書く際に『蜻蛉日記』も参考に
したということを聞いたことがあります。ここも、そうじゃないでしょうか。
答え
ほんとうに、そうですね。『源氏物語』はこの後の作品にたいへん大きな影響を与
えますが、
『源氏物語』だって、それ以前に成立した作品の影響を受けているわけですよね。
『伊勢物語』『竹取物語』『宇津保物語』『古今和歌集』等はもちろんのこと、『蜻蛉日記』
(少なくとも、その場面の歌と詞書等)にも、紫式部は触れていると考えられます。
あなたの指摘は、するどい!
もちろん、状況や「閉め出した」人は若干異なりますけ
れど、共通する点はさまざまあります。思い出したのは正解だと思います。
『蜻蛉日記』は女(君)その人が自分の意志で閉め出しましたが、紫式部は紫の上その
人には決してやらせません。そんな女君ではないのですから。そのかわり、その「おもし
ろい」設定を、女房に託してやらせました。女房には、
「紫の上さまのためですもの」とい
う、読者が絶対に共感してくれる理由があります。そのために源氏を多少こらしめても、
非難はされないでしょう。源氏も「やや」または「こよなく久し」く待たされましたが、
中には入れてもらえたのですものね。
『蜻蛉日記』で詠まれる「嘆きつつひとり寝る夜のあくる間はいかに久しきものとかは
知る」の歌も、考えてみれば、まさにこの場面にぴったりです。紫の上自身は、そんな歌
を源氏に詠みかけることなどしないけれど、もしかしたら、彼女の心の奥底にある思いそ
のものだったかもしれません……。いい指摘をありがとう。また質問してね。
★
これもまた、他の作品を連想しての質問である。なぜこのような疑問が出てくるのだ
ろうか。物語の場面を想像して読んでいるからではないかな、と私は思っている。言葉だ
けではない、場面としての共通点を見出して、似ている、と思う。しかしさらによく考え
ていくと、それだけではないということに気づく。もとの作品で歌に詠まれた思いと共通
の切なさを、この場面でも(言葉に表さずに)読者に感じさせる、という仕掛けの存在に
思い当たることになる。
-7-
⑦
作品
質問
『源氏物語』
質問者
三年男子
紫の上は源氏にもっとも愛された女性なのに、子どもができなかった。なぜ作者は
ふたりの間に子どもを誕生させなかったのだろうか。
答え
源氏と紫の上の間には子どもが生まれない。この設定の意味について、次の二点を
考えました。
一つ目。源氏にとって、
「私の子どもを生んでくれた大切な女性」という存在にはせず、
最初から最後まで「一人の男と一人の女」という形で向き合わせている。男の思いだけが
自分との絆、というとても不安定な状況の中であってもなお、終始、源氏という男の心の
中心にあった紫の上はまさに最高の女性であったのだ、と証明することになります。
二つ目。明石の姫君に対し、紫の上が、我が子のごとき愛情を注げるように仕組んでい
る。そもそも紫の上以外の女性が源氏の娘を生むという設定を前提とするならば、その娘
はだれに育てられるべきでしょうか。
生んだ人の身分が高ければ、子どもはその人のもとで育ち、やがては入内して、紫の上
とは関係ないところで源氏の勢力を固めていくでしょう。その場合、紫の上に唯一欠けて
いる点として「母としての情愛」という要素が残されることにもなります。しかし、生ん
だ人の身分が低ければ、育てるのは紫の上。そしてその愛は、母親以上に純粋なものでな
ければなりません。
《薄雲》巻に、実に印象的な描写があります。――娘を引きとられて嘆
いているであろう明石の君をかわいそうに思い、今日も彼女のもとを訪れようと、出かけ
る準備をしている源氏の君。おしゃれをして出て行く彼にちょっぴり皮肉をこめた歌を贈
って見送った紫の上は、しかし、すぐさま幼い姫君を抱き取るのです。そこの描写は、
(姫君を)懐に入れて、うつくしげなる御乳をくくめたまひつつ戯れゐたまへる
御さま、見どころ多かり。
紫の上は、姫君をふところに抱き、ご自分の、出るはずもないかわいらしいお乳をその
口に含ませ含ませしてあやしていらっしゃる――この箇所は、姫君に対する愛、かわいく
てたまらない気持ちのすべてを表現しています。今後紫の上が、どんな母親にも劣らぬ情
愛をもって姫君を養育していくであろうことを、すべての読者が納得するでしょう。これ
によって、紫の上は、自分自身は子を産むことなく、母としてのやさしさや深い情愛とい
った要素も持ち得たのです。女性としてのすべての要素を身につけた完璧さを、改めて感
じるところです。
★
この質問の答えは、すぐには出せなかった。しかし紫の上とある意味で対照的な「明
石の君」という人物について考える内に、上記のような結論に至った。とくに、紫の上が
姫君に乳を含ませる描写からは、大きなヒントを得た。子を産んだことのある人も、ない
人も、思わず身震いしてここを読んだのではないか。たった一行で、母ではない紫の上が
母の情愛をも確かに持ち得たことを知らしめている。この質問がなければ、紫の上に子が
ないという設定の意味について考察することはなかっただろう。
-8-
Ⅲ
まとめ
私が生徒からの質問を尊重する理由は二つある。一つは、
「生徒が何を疑問に思っている
かがわかる」ということ。教える側である教師はつい、自分の考えているように生徒も考
えている、と思いがちである。授業でこのように言えば、生徒はこのように受け取る、と
決めてしまう。しかしそうではない。生徒は生徒なりに文章を読み、つまずき、あるとき
には注目する。それを知ってこそ、授業を作っていくことができる。生徒目線の問題提起、
またその解決は、きわめて重要なことである。
二つ目は、生徒から新鮮な解釈のヒントを得たいということ。一つの場面について考え
る時、多くの注釈書を読み、何度も授業で扱ってきた教師の描く世界は決まったものとな
っている。同じ教材を扱うと、そこには前にやった時と変わらぬ展開があったりもする。
しかしそれではつまらない。少しずつでも、発展させたい。そのためのヒントを、視点を、
生徒の質問はたびたび与えてくれた。
質問について考える時間は楽しい。本人に答えを渡すだけでなく、その内容を授業で紹
介する。一人の疑問への対応が、時には多くの生徒の理解や考察につながっていく。きちん
と応え、評価をしていくことが大切だと思う。
今回ここにまとめた文章も、そのような気持ちでやりとりしたもののごく一部である。
これ以外にも非常に多くの質問や意見をもらった。感謝している。もちろん常に多くの質
問を得られるとは限らない。さまざまな工夫や授業形態の研究が必要である。しかしまず
は、生徒が疑問を抱き質問をしてくることを評価し、それをなんらかの形でとりいれるこ
とができないかを考えたい。そして、自分の授業を少しでも発展させることにつなげたい
と思っている。
【*注1】「生徒と読んだ『大鏡』――道長伝〈肝試し〉の場面――」
(『国語教室』 2004.11.25 発行
大修館)
「古文の敬語法を扱う際の留意点」
(筑波大学附属高校研究紀要第 53 巻 2012.2.10
「『源氏物語』紫の上についての考察
Ⅰ
発行)
自由な心-走り来たる女子-」
(筑波大学附属高校研究紀要第 54 巻
2013.2.10
発行)等
【*注2】
『伊勢物語』第九段における言葉遊びについては、織田正吉著『日本のユーモア
2
古典・説話篇』から、きわめて大きなヒントを与えられた。
-9-
【参考資料】織田正吉
『日本のユーモア2
古典・説話篇』(筑摩書房・1987)
玉上琢彌
『源氏物語評釈』(角川書店・1968)
玉上琢彌
『源氏物語研究』(角川書店・1969)
平田喜信・見崎壽
前田富祺
監修
『和歌植物表現辞典』(東京堂出版・1994)
『日本語源大辞典』(小学館・2005)
日本国語大辞典第二版(小学館)
『伊勢物語』・『大和物語』・『源氏物語』・『大鏡』各作品の本文・注釈につい
ては、主に「新編古典文学全集」(小学館)各巻を参考にした。
- 10 -
とりたてて行う批判的思考の授業
とりたてて行う批判的思考の授業
地歴公民科 熊 田 亘
地歴公民科
熊田 亘
1
「組み込んで行う」批判的思考の授業と、「とりたてて行う」批判的思考の授業
「政経」の授業にあたって、批判的思考力を育てることは日頃から心がけていることの
ひとつである。
例えば、批判的思考の構成要素のひとつに「情報源の信頼性」を判断することがあるが*1、
これに関わって「5月3日の社説を読む」という課題を毎年度用意している*2。
この課題は、毎年5月3日(憲法記念日)の『朝日新聞』『産経新聞』『東京新聞』『日
本経済新聞』『毎日新聞』『読売新聞』の6紙の社説(ただし、日本国憲法に関するもの
のみ)を、紙名が分かる情報を隠したうえで並べて配布し、
1
それぞれの主張を要約する
2
それぞれの社説について、日本国憲法に対する護憲/改憲の色合いがどうか、6段階
で評価する
3
どの社説が何新聞のものか予想する
4
作業を終えての感想を書く
というものである。
この課題は、直接的には、異なる政治的意見を比較することを通じて、日本国憲法に関
する生徒の思考の幅を広げ、あるいは生徒の固定的な思考を揺さぶることを目的としてい
るのだが、同時に「新聞・TV などマスメディアから情報を得る時には、社説のようにス
トレートに各社の立場が反映されるものはもちろん、(事実を伝える)報道記事・ニュー
スですら、数ある事実の中から何を選んで報道するか、どのように報道するかはマスメデ
ィアごとに異なることを意識しなければいけない」ことを伝える教材にもなっている(実
*3
際にそのような解説を簡単にする) 。
演繹・帰納などの「推論」も批判的思考の構成要素だが、「政経」で法律分野を扱う際
には、推論そのものについても触れる。
*1 楠見孝ほか(2011) p.9
*2
授業中に作業を行わせる場合もあるが、近年は宿題にすることが多い。
*3
このように「何かの科目内容を考えさせるようなやり方で教えつつ、思考の一般原則
を示していく方法」は「インフュージョンアプローチ」と呼ばれる(楠見孝ほか(2011)
p.142)。
- 11 -
典型的なのは、「法の使い方(適用)」を説明する際に登場する法的三段論法である。
つまり、法を現実に当てはめる場合には、
①
法の解釈(法には何と書かれているか)
例:人を殺した(要件) →(ならば) 死刑又は無期若しくは5年以上の懲役(効果)
②
事実の認定(事実はどうなのか)
例:Aさん
→
人を殺した
の2つから、
③
判断(判決等)(法に照らすとどうなるか)
例:Aさん
→
死刑又は無期若しくは5年以上の懲役
という結論を導き出す。
授業では、「これは数学でいつも使っている『A→B、B→C、∴A→C』と同じ(考
え方)だよね」と説明していく。
また、「法の解釈」とは、例えば殺人であれば、「人」とは何を指すか(胎児はどうか、
脳死した者はどうかなど)、「殺す」とはどういうことか(丑の刻参りの「結果」相手が
死んだらどうか、怪我をさせようとしたのだが死んでしまったらどうかなど)を決めてい
くことであり、それは批判的思考で言うところの「明確化」と重なる。
アウトプットの場面でも、私が生徒のレポートや小論文を添削する際にほぼ必ず言うこ
とのひとつは「文と文、段落と段落の関係を明らかにしなさい」ということである。より
具体的には「(最終的には省くにしても、構想段階では)通常より接続詞を多く使いなさ
い」と指示する。議論の流れを「明確化」せよということである。
これらはいずれも、
「政経」の教育内容・教材の中に、批判的思考力を育てる内容を「組
み込んだ」ものと言えるだろう。
さて、今年度は、これらの取り組みに加えて、批判的思考に関する知識・技能・態度な
どを直接的に教えることを試みた*1。「とりたてて行う」批判的思考の授業である。
以下、この授業について報告する(後掲資料参照)。
授業は、統計データを扱う時に陥りやすい失敗(分布が偏っているのに平均値を使う、
グラフの省略に気づかない、疑似相関など)に注意を促す「数字にご用心」の授業*2 に続
いて行った。「政経」全体の授業時数が限られていることもあって、1時間「読み切り」
*1
このような方法は「普遍アプローチ」と呼ばれる。(楠見孝ほか(2011) p.142)
*2
「授業報告『数字にご用心-統計データの読み方』」参照(筑波大学附属高等学校研
究紀要第51巻 pp.1-12)
- 12 -
の投げ込み教材である。
授業プリントは5つの【問題】で構成し、授業は、生徒に発問し、生徒の回答を受け、
解説を行いながら進めた。
2
明確化
【問題1】は以下の通りである。
(1) 「少年の凶悪犯罪が増えている」という主張をより明瞭なものにするためには、
どうすべきか考えなさい。
(2) 「戦後教育が日本をダメにした」という主張をより明瞭なものにするためには、
どうすべきか考えなさい。
これは、批判的思考の出発点となる「明確化」に関する問題である。
いきなりこの問題を生徒に投げかけると、その趣旨がつかめないこともあるようなので、
大要、次のような説明をする。
「例えば、誰か大人が(1)のような主張をしていたとするでしょう。それであなたがそれ
に反論して議論になったとする。
しばらくして、相手は自分が子どもの頃の、1970 年代と比べて『増えている』と言っ
ているのに、あなたはせいぜいここ5年間のことをイメージして反論していることに気づ
いたりする。そうしたら、議論がすれ違っていて当然かもしれません。
できればそういうムダな議論は避けた方がいいですよね。ですから、まずは、相手が『増
えている』というのはいつと比べてのことか確認した方がいいでしょう。
ここで『明瞭なものにする』と言っているのは、そういうことです。『いつと比べてで
すか』というような問を考えてみてください。」
このように説明すると、生徒も理解して、例えば次のような「明確化」のための問を出
せるようになる。出ないものについては補足をする。
「少年」の意味(20 歳未満のことなのか、中学・高校生のことなのかなど)
「凶悪犯罪」の意味(殺人、強盗、強姦、放火などのうち何を指すのか)
「増加」の意味(絶対数なのか対人口比なのか、犯罪件数なのか検挙人数なのかなど)
「増加」の比較対象や程度(いつと比べて、どのくらい増えているのかなど)
(2)も同様に行う。
- 13 -
3
推論-否定*1
【問題2】は以下の通りである。
3
推論-否定*1
ある主張/命題Pに対して、Pが正しいならばQが間
【問題2】は以下の通りである。
ばPが間違っていて、PかQのいずれかしかあり得ないよ
主張/命題Pに対する否定と呼ぶことにします。
ある主張/命題Pに対して、Pが正しいならばQが間違っていて、Qが正しいなら
次の(1)~(10)それぞれの文について(下線の部分に
ばPが間違っていて、PかQのいずれかしかあり得ないような主張/命題Qのことを、
主張/命題Pに対する否定と呼ぶことにします。 さい。
(1) Aくんは「政経」の授業中にいつも寝ている。
次の(1)~(10)それぞれの文について(下線の部分に注意して)否定の文を考えな
(2) BくんはCさんが好きだ。
さい。
(3) 3年生は毎日 10 時間以上受験勉強をすべきだ。
(1) Aくんは「政経」の授業中にいつも寝ている。
(4) 日本はD条約を批准するに違いない。
(2) BくんはCさんが好きだ。
(5) 本校のすべての生徒がスマホを持っている。
(3) 3年生は毎日 10 時間以上受験勉強をすべきだ。
(6) 本校のある生徒は車を持っている。
(4) 日本はD条約を批准するに違いない。
(5) 本校のすべての生徒がスマホを持っている。 (7) ある3年生は受験したすべての大学に受かった。
(8) Eさんは頭がよくてしかも美人だ。
(6) 本校のある生徒は車を持っている。
(9) Fくんは昼食にはカレーかうどんを食べる。
(7) ある3年生は受験したすべての大学に受かった。
(10)雨天ならば、スポーツ大会は中止である。
(8) Eさんは頭がよくてしかも美人だ。
(9) Fくんは昼食にはカレーかうどんを食べる。
(10)雨天ならば、スポーツ大会は中止である。
「推論」については、説明したりトレーニングを課した
制約もあり、「否定」を取りあげることにした。例えばデ
定する形で議論が進むが、その様子を観察していると、本
「推論」については、説明したりトレーニングを課したりしたい内容が多いが、時間的
定になっていない例がしばしば見受けられるからだ。
制約もあり、「否定」を取りあげることにした。例えばディベートでは、相手の意見を否
冒頭の説明が必ずしも分かりやすくないようなので、次
定する形で議論が進むが、その様子を観察していると、本人は否定しているつもりでも否
「僕が○○さんに『キミは「政経」の授業中、時々寝ている
定になっていない例がしばしば見受けられるからだ。
それに対して○○さんが反発して『先生、そんなことあり
冒頭の説明が必ずしも分かりやすくないようなので、次のように補足する。
もあります』と答えたら……反論になってる?」
「僕が○○さんに『キミは「政経」の授業中、時々寝ているね」と文句を言ったとします。
(生徒はだいたい笑う。
)
それに対して○○さんが反発して『先生、そんなことありません!
私、起きていること
もあります』と答えたら……反論になってる?」 「なってないですよね。この場合、反論したいんだったら
(「私、寝たことなんてありません」「いつも起きている」
(生徒はだいたい笑う。)
「そうそう。じゃあ、これはどうですか。誰かに告ったら
「なってないですよね。この場合、反論したいんだったら……」
なたのこと好きじゃないの』と言われて『あー、彼女、オ
(「私、寝たことなんてありません」「いつも起きている」という声。
)
「そうそう。じゃあ、これはどうですか。誰かに告ったら、相手から『ゴメンナサイ、あ
なたのこと好きじゃないの』と言われて『あー、彼女、オレのこと嫌いなんだ』と思っち
*1
*1
この部分は、野矢茂樹(1997)、同(2001)を参考にした
この部分は、野矢茂樹(1997)、同(2001)を参考にした。
- 14 -
ゃうというのは?」
(生徒から「好きでも嫌いでもないかもしれない」という声が上がる。)
「その通り。まあ、好きでも嫌いでもない、無関心というのもツライですけどね。図で書
くとこんな感じ。」
と板書する。
いつも寝ている
起きていることもある
時々寝ている
いつも起きている
重複している
好き
好きでも嫌いでもない
嫌い
スキマがある
「この問題で言う『否定』は、この図で、重複したり、スキマができたりしないというこ
とです。それでは問題やってみてください。」
(1) ~(4)はほぼ間違えないようだ。(3)と(4)については
「英語で考えると may と must がちょうど対応するよね。must not と don't have to の区別
もやったでしょう」
と付け加える。
(5)~(7)では苦戦する生徒が出てくる
*1
ので、周囲の生徒と教えあうように指示する。
(8)(9)については、生徒から「ベン図」「ド・モルガンの法則が…」などの声が聞こえ
てくることもあるので(声があがらない時は、こちらから「ド・モルガンの法則ってやら
なかった?」と水を向けて)、それを受けて板書して補足説明する。
(10)(条件文の否定)は、時間に余裕があれば「発展的な」話題をと考えて入れたのだ
が、結局触れられなかった。
以下、解答を示しておく。
(1) ……いつも寝ている訳ではない(起きている時もある)
。
(2) ……好きではない(無関心かもしれない)。
(3) ……すべきということはない(しなくてもよい)。
*1
数学科の同僚にこの話をしたところ「今の教育課程では、『ある』と『すべて』は高
校ではやらない」とのこと。クラスによっては「∀や∃とか数学で出てくるでしょう」と
しゃべったのだが、道理で反応が無かった訳である。
- 15 -
(4) ……しないかもしれない(するかもしれない)。
(5) ……持っている訳ではない(ある生徒は持っていない)
。
(6) 本校のすべての生徒が車を持っていない。
(7) すべての3年生が受験したうちのある大学に落ちた。
*1
(8) ……頭がよくないか、美人でないかいずれかだ 。
(9)……カレーもうどんも食べない。
(10)(雨天であるのに、スポーツ大会が行われる。)
4
誤った推論
【問題3】は以下の通りである。
(1) 次の会話のAさんの主張には問題があります。それはどういうところか指摘しな
さい。
A:日本は世界でも有数の豊かな国だ。
B:どうしてそう言える?
A:GDP が世界で第3位だからな。
B:GDP ってなんだい?
A:まあ、簡単に言えば国の豊かさを測る尺度だね。
(2) 次の主張はどうでしょう。
熊田は神だ。なぜかと言うと『熊田の黙示録』に「熊田は神なり」と書いてあるか
らだ。なぜ『熊田の黙示録』に書いてあれば正しいのかって?
なぜならそれは神で
ある熊田のことばを記したものだからだ。
(3) 次の文章のCさんとDくんの主張には共通する問題があります。それはどういう
ところか指摘しなさい。
Cさんが、元カレのDくんについて友達に愚痴っています。「Dってすぐ怒ったり
拗ねたりするから嫌になっちゃった。まったく男は感情的で困るよね」。一方、Dく
んは、元カノのCさんについて友達にこう言います。「Cって絶対待ち合わせに遅れ
てきたんだよな。なんでこう女は時間にルーズなんだろう」。
(4) 次の主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
*1
この場合の「いずれか」は、日常的な「いずれか」の使い方と異なり、「かつ」も含
む。その点は授業で説明すべきだったかもしれない。
- 16 -
江崎玲於奈氏(ノーベル物理学賞受賞者)が、未来の教育についてこんなことを言
っている。
「人間の遺伝情報が解析され、持って生まれた能力がわかる時代になってきました。
……いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞれの子供の遺伝情報に見合った教育
をしていく形になっていきますよ。」
超一流の学者の言うことだから正しいに違いない。就学時診断に遺伝子検査を導入
すべきだ。
(5) 次の主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
秋休み、毎日 10 時間以上勉強するか、浪人するかどちらかだ。浪人したくなかっ
たら、毎日 10 時間以上勉強しなさい。
(6) 米同時多発テロ後のブッシュ大統領(当時)の演説(2001 年9月 20 日)はどう
でしょう。
「……我々は、テロリストたちの資金源を断ち、互いに対立させ、隠れ家もなく、
休息もとれないよう追い回す。我々は、テロリズムを援助したり、安全な隠れ家を提
供する国も追及する。すべての国、すべての地域は、今こそ一つの決断を下さなけれ
ばならない。我々につくか、テロリストにつくかだ。今日から、テロリストを保護し
支援し続けるすべての国は、米国によって敵性国家と見なされる。」
(7) 次の主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
1回でも遅刻をしたら、いずれ遅刻を繰り返すようになる。遅刻に慣れると次は無
断早退だ。そのうち嘘の理由で欠席することになるだろう。嘘つきは泥棒のはじまり
だ。一旦泥棒に手を染めれば、そのうちもっと重い罪を犯すだろう。最後は死刑台行
きだ。そうなりたくなければ、遅刻はしないことだ。
これは、誤った/怪しげな議論の進め方に気づいて「ツッコミを入れる」トレーニング
である*1。
(1)(2)は、2つの命題/主張が、それぞれ他の根拠となっている「循環論法(circular
argument)」である。
最初、(1)から順に考えさせたところ、生徒はAの主張の内容に注目してしまい、「GDP
が高くても、それでは計測できない豊かさがある」「1人あたりで考えないといけない」
というような答が出がちであった。議論の「形式」を取り出して考えるのは、慣れないと
*1
「誤謬アプローチ」と呼ばれる。(楠見孝ほか(2011) p.5)
- 17 -
意外に難しいようだ。
そこで途中から(1)(2)をまとめて、
「(1)と(2)には、共通しておかしなところがあるのだけれど、それはどういう点?」
と尋ねることにした。
(3)は「性急な一般化(rash / hasty generalisation)」である。これは比較的分かりやすいよ
うである。
(4)については次のように説明する。
「何かを主張しようとする時に『○○の本に書いてあったから』『誰それが言っている
から』というように自分の主張を根拠づけることがあるでしょう。そういう主張の仕方を
『権威に訴える論証(appeal to authority)』と言います。権威に訴える論証は、それ自体が
間違いということではないです。
けれど、例えばこの問題、江崎玲於奈はノーベル賞受賞者ですから物理学について彼が
言っていることはまあ間違いないでしょう。でもこの人、別に遺伝子とか教育とかの専門
家じゃない訳ですよね。そこを注意しないと。
何かの分野に秀でた人がそれ以外の分野についても確かな見識があるかは、よく考えて
みないといけないでしょう。」
(5)(6)もセットで考えさせる。無理矢理に2つの選択肢に切り分け、一方の、望ましく
ない選択肢を選ばないのであれば、他方の選択肢を選ばざるを得ないという状況に相手を
追い込む「誤った二分法(false dichotomy)」である。
直前に「否定」をやっているので、次のような答は比較的出やすい。
「『毎日 10 時間勉強する』と『浪人』以外にも可能性はあるはず」
先の図で示せば、「毎日 10 時間勉強する」と「浪人」の間にスキマがある場合である。
「毎日 10 時間勉強しても浪人するかもしれない」
同じく、「毎日 10 時間勉強する」と「浪人」の重複部分がある場合である。
(7)は「滑りやすい坂道(slippery slope argument)」「ドミノ効果(domino effect)」と呼ば
れる議論である。これも、いちがいに間違いとまでは言えないが、因果関係の連鎖の個々
の部分について(例えば「1回遅刻をした」人の中でどのくらいの人が「遅刻を繰り返す」
ようになるのかなど)その蓋然性を吟味することが必要だろうと話す。
5
情報源の信頼性
【問題4】で扱うのは「情報源の信頼性」である。
まず、竹内一郎『人は見た目が9割』(新潮社)の「言葉は七%しか伝えない」という
節(同書 pp.18-20)を読ませ、コメントを書かせる。
この節で著者は、
「アメリカの心理学者アルバート・マレービアン博士は人が他人から受けとる情報(感情
- 18 -
や態度など)の割合について次のような実験結果を発表している。
○顔の表情
五五%
○声の質(高低)、大きさ、テンポ
○話す言葉の内容
三八%
七%」
と、ある心理学の実験結果を紹介した上で、「コミュニケーションの『主役』は言語で
はない」「人は『見た目が九割』といっても差し支えないのではないか」「言葉主体の『コ
ミュニケーション教育』を受けた人は『木を見て森を見ず』だ」などの主張を導き出す。
生徒の中には「なるほど」と受けとめる者もいれば半信半疑の者もいる。
何人かの感想を確認したのち、今度は、パオロ=マッツァリーノ『反社会学講座』(イ
ースト・プレス)の「メラビアンの法則という都市伝説」という節(同書 pp.109-112)を
読ませる。
こちらは、上記の実験結果を根拠とする「見た目が9割」的な主張を批判的に取りあげ、
おおよそ次のように述べる。
「メラビアン博士もその実験結果も、心理学の世界では重視されていない」「メラビアン
博士の実験は、言葉の内容と表情・声質が矛盾している場合、聞き手はどちらに重きを置
くかを検証するための限定的なものである」「博士も『この実験結果は日常のコミュニケ
ーションには適用できない』と認めている」。
生徒がほぼ読み終わったら、以下の話をする。
「後の、マッツァリーノの文章を読んで『竹内一郎の文章にダマされた!』と思った人も
いるでしょう。前の文章の主張は、どうもその根拠がかなり怪しそうです。この本は数年
前ベストセラーになりましたが、だからといって鵜呑みにするのはちょっと怖い。
ただ、ここで、後の文章に説得されてしまった人はまだ甘いですよ。後の文章に書かれ
たマレービアン(メラビアン)に関する叙述だって疑うべきかもしれない。マッツァリー
ノだって全面的に信頼していいかは分かりません。
じゃあどうすればいいか。後の文章に、メラビアン自身の著作が日本語でも刊行されて
いることが紹介されていますから、もし彼の実験の詳細を知りたいのだったら、さしあた
り、それを読めばいいですよね。
後の文章の信頼性が高いのは、このように自分の主張の根拠などの情報源をきちんと公
開していることです。皆さんもレポートを書く時、引用の出所や参考文献をきちんと示す
よう教えられたと思うけど、それは、情報源を明示して、読み手が『この引用は確かかな?』
とか思った時に、調べやすいようにすることで信頼性を高めている訳です。」
6
メタ認知
【問題5】は、人間の陥りやすい思考の偏り・歪みに関する認知心理学の知見を伝え、
自分の思考を批判的にモニターしたりコントロールしたりする手がかりにさせようという
- 19 -
ものである。
教材は、道田泰司・宮元博章・秋月りす『クリティカル進化論』(北大路書房)で用い
られている秋月りすの4コマ漫画を借用した。
全部で7つの漫画を用いて、「この漫画はどこが笑える? この漫画からどんな教訓が
得られる?」などの問を投げかけてから、
「相関関係から性急に因果関係を導いてしまう」
「情報の偏りに気づかない」「見えない情報を無視してしまう」「平均への回帰(に気づ
かない)」「後知恵バイアス」「性役割スキーマ(ステレオタイプ)」「確証バイアス」につ
いて説明していく。
性役割スキーマ(ステレオタイプ)と確証バイアスの説明に用いた漫画を示しておく。
はかられた!(同書 p.136)
1コマ目:職場で。
課長「土曜にパソコンの講習会があるから出るように」
不満そうな OL たち「えーっ!?」「休みなのに!」
2コマ目:課長「(続けて)講師の吉田くんは本社勤務のバリバリエリート 28 歳独身」
「コンピュータはもとより外国語もたんのう
将来有望な若手だ」
3コマ目:一転して興味津々の OL たち
「どんな人かなー」「キョーミあるよね」「ちょっと楽しみー」
4コマ目:女性の講師「はじめまして吉田です」
「はかられた!」という顔の OL たち
願望具現(同書 p.131)
1コマ目:女性が、家でレシートを見ながら電卓を叩いている。回りにたくさん買物
の袋が置かれている。
「今日はカードでどのくらい使ったかしら」
2コマ目:驚く女性。
「えっ!?」「にじゅうはちまんさんぜんえん!?」
3コマ目:青い顔で計算し直す女性。
「計算まちがいよねっ」「そうよ私よく会社でもやるもの」
4コマ目:「ほらー 15 万ちょいじゃないの
そのくらいだと思ったのよ」
「ほー」と安心する女性。
(地の文)計算まちがいはもちろんこちら
10 分ほど時間に余裕があったクラスでは、スキーマの説明のために次のような「実験」
を行った。
- 20 -
1
これから私が許可するまで一切声を出さないようにと指示する。
2
クラスの廊下側半分の生徒に顔を伏せさせ、窓側の半分の生徒に①、②、③の図(実
物は A4 判サイズ)を順に見せる。
3
窓側の生徒には顔を伏せさせ、廊下側の生徒に④、⑤、⑥を見せる。
4
全員に⑦を見せ「これは何ですか? じゃ一斉にどうぞ。せえの」と言うと…
5
窓側の生徒は「じゅうさん」、廊下側の生徒は「ビー」と言い、お互いに「えっ」と
驚く。
6
それぞれ事前に見せた図によって「見せられるのは数字だ」「アルファベットだ」と
いうスキーマができたため、⑦を見た時も、そのスキーマが働いたのだと説明する。
この「実験」は生徒にも説得的だったようだ。
①
②
15
④
17
⑤
A
7
③
11
⑥
D
⑦
C
B
テストでの補足-「隠された前提」
授業では時間的制約もあり、明確化、推論、情報の分析、メタ認知といった批判的思考
の構成要素のうち、ほんの一部しか扱えなかった。そこで、期末考査でもうひとつ、「隠
された前提」に関する次の問題を出してみた*1。
次の裁判官同士の[会話1]・[会話2](もちろん、仮想のものです。)を読み、
下の問に答えなさい。
[会話1]裁判官1「今日の昼食、何を食べようか」
裁判官2「と言っても、このへんだと、カレーかラーメンぐらいしかない
よね」
裁判官1「昨日は何食べたっけ」
裁判官2「カレーだった」
裁判官1「じゃ、今日はラーメンだな」
*1
福澤一吉(2002) pp.18-23 の事例を改変した。
- 21 -
[会話2]裁判官1「今日午後の連続殺人事件、どういう判決くだそうか」
裁判官2「と言っても、これだけ凶悪だと、死刑か無期懲役ぐらいしかな
いよね」
裁判官1「昨日の事件はどうだっけ」
裁判官2「無期懲役だった」
裁判官1「じゃ、今日は死刑だな」
【問題】
[会話1]と[会話2]は、構造としては同じである。[会話1]の結論(
部分)はそれほどおかしくないのに、[会話2]の結論(
部分)はとんでもな
いものになっている。なぜ、このような違いが生じるか考察しなさい。
私がテスト後に示した解答例は以下の通りである。
(例)[会話1]の論理展開には、「今日の昼食は、昨日のそれとは違うものを選ぶ」
という隠された前提があり、それは是認しうる前提である。一方、[会話2]の論理
展開にも「今日の刑罰は、昨日のそれとは違うものを選ぶ」という隠された前提があ
り、それは不当な前提である。
これら、隠された前提の違いが、[会話1]の結論は是認でき、[会話2]の結論
は容認しがたいという違いに帰結すると考えられる。
8
生徒の反応
いくつか『授業ノート』の感想を紹介し、コメントを付す。
(1) 私は今まで、『少年犯罪が増えている』と言われたら、そうなんだと普通に受け入れ
ていたけれど、今回の授業みたいによく考えたら何も具体的なことは言っていないのだ
と思いました。
(2) 否定は…英語で考えるとやりやすいですよね。must の反対は don't have to とか。……
数学の集合論が役に立ちそうです。ここからも、3年に「政経」をやる意味がわかるよ
うな気がします。
(3) 【問題3】については、カラクリが判れば笑えますが、知らず知らずの内に間違った
主張を私達もしてしまっているかもしれません。気をつけたいです。
それぞれ明確化、否定、誤った推論についての感想である。
(4) 漫画のスキーマの話はなるほどと思いました。差別的な考えや偏りすぎている考え方
は偏見として意識したり注意したりしていたけれど、話を聞いて日々の生活をふり返っ
- 22 -
てみると、けっこう色々なことに対してスキーマをもって考えていることに気づいて驚
きました。
(5) ……『はかられた!』のマンガを見て、音楽の授業で、『今度坂本冬美とかの伴奏し
てたり TV 出てたりする“尺八”の先生が来て下さるよ』と言われていて、当日教室に 30
歳位のイケメンが入ってきた時は、皆して『!?』って一瞬なったことを思い出しまし
た!笑
“尺八”の先生というワードから自然におじいさんという設定を作ってしまっ
ていたんですね! スキーマ!!
スキーマの話は印象深かったようだ。特に(5)の感想は、自分の体験を、スキーマとい
う概念を用いて振り返り、分析している。このように、学んだことを使って世界を別の見
方で見られるようになることは大切だ。
(6) 批判的思考は、物理の鈴木先生がずーっと強調していて、重要なんだなぁと思ってい
た。それをまとまった形でできたのは良かった。
批判的思考力の育成は、むろん「政経」だけの課題ではない。(6)の感想は、教科科目
をこえて連携を図ることで批判的思考力をより効果的に育成することができるかもしれな
いという可能性を示している。そしてまた、教育活動のさまざまな場面で学んだ批判的思
考のための知識・技能を整理・統合するという点で、「とりたてて行う」批判的思考の授
業には意義があることをも示唆しているのではないか。
(7) 批判的思考ですが、相手を打ち負かすことをゴールにして、色々と考えていくと、け
っこう面白いです。悔しがる顔とか、見れたら最高です。
(8) ……議論をする際には、ドミノ理論を効果的に使えば、相手にプレッシャーを与えら
れ、議論を優位に進められるだろうから今後使ってみようということです。
こういう感想を読むと、かつて読んだ批判的思考に関するテキストの、次のフレーズを
思い出す。
Nothing is more deadly to the effective use of critical thinking than an attitude of "Aha, I
caught you making an error.*1"
「批判的思考は、思考やコミュニケーションの質を高めるための道具であって、とりわ
け自分自身に向けることが大切。他人を攻撃したり他人に勝つためにばかり用いるのはよ
ろしくない」という話は授業でもするのだが、「批判的」ということばから、それは議論
で相手より優位に立つための道具であるという思い込みが生じやすいのかもしれない。
田中優子・楠見孝は「自分が何のために批判的思考を抑制・促進させようとしているの
*1
Browne, M. Neil & Keeley, Stuart(1994) p.214
- 23 -
かも含めて吟味できる大学生を育てていく教育が今後求められると思われる」*1 としてい
るが、この指摘は高校生段階での批判的思考力の育成にも当てはまるだろう。
(9) 4コママンガからおかしな部分を探すやつにでてきた例はどれもわかりやすい変な点
を含んでいたが、実際によくありそうなことだった。こうやって見ると明らかだが、自
分がその場面に遭遇したとき流されずにきちんと判断できるかわからない。
授業という場面では批判的思考を働かせられるけれど、それを日常で活用できるかとい
うことを問うている感想である。この種の授業をやったことが、どのくらい「残るか」
(「学
習の転移」が起こるか)について、何らかの検証が必要だろうと思う。
(10)最近こんなのを読みました。Half a loaf is better than nothing. Nothing is better than good
health. So half a loaf is better than good health. A>Bである。B>Cである。よってA>C
であるという三段論法的な論理によって、パン半分が健康よりも重要であるという結論が
導き出されている。少し考えれば『 nothing』の意味合いが1つ目と2つ目でことなって
いるために起こることだとは分かるが、一瞬とまどってしまうなと思いました。
こういうジョークを紹介してくれた生徒もいた。教材として使えるかもしれない。
9
引用・参考文献
楠見孝、子安増生、道田泰司(2011)『批判的思考力を育む』有斐閣
E. B. ゼックミスタ、J. E. ジョンソン(1996)
『クリティカルシンキング(入門篇)』北大路書房
E. B. ゼックミスタ、J. E. ジョンソン(1997)
『クリティカルシンキング・実践篇』北大路書房
竹内一郎(2005)『人は見た目が9割』新潮社
野矢茂樹(1997)『論理トレーニング』産業図書
野矢茂樹(2001)『論理トレーニング 101 題』産業図書
パオロ・マッツァリーノ(2004)『反社会学講座』イースト・プレス
福澤一吉(2002)『議論のレッスン』日本放送出版協会
道田泰司、宮元博章、秋月りす(1999)『クリティカル進化(シンカー)論』北大路書房
Browne, M. Neil & Keeley, Stuart (1994). Asking the right questions. Prentice-Hall
Warburton, Nigel(1996). Thinking from A to Z. Routledge
*1
楠見孝ほか(2011) p.108
- 24 -
【資料】授業プリント
筑波大学附属高校 2013 年度「政治・経済」
番外編
批判的思考
【問題1】
(1) 「少年の凶悪犯罪が増えている」という主張をより明瞭なものにするためには、どうすべきか考えなさい。
(2) 「戦後教育が日本をダメにした」という主張をより明瞭なものにするためには、どうすべきか考えなさい。
【問題2】
ある主張/命題Pに対して、Pが正しいならばQが間違っていて、Qが正しいならばPが間違っていて、P
かQのいずれかしかあり得ないような主張/命題Qのことを、主張/命題Pに対する否定と呼ぶことにします。
次の(1)~(10)それぞれの文について(下線の部分に注意して)否定の文を考えなさい。
(1) Aくんは「政経」の授業中にいつも寝ている。
(2) BくんはCさんが好きだ。
(3) 3年生は毎日 10 時間以上受験勉強をすべきだ。
(4) 日本はD条約を批准するに違いない。
(5) 本校のすべての生徒がスマホを持っている。
(6) 本校のある生徒は車を持っている。
(7) ある3年生は受験したすべての大学に受かった。
(8) Eさんは頭がよくてしかも美人だ。
(9) Fくんは昼食にはカレーかうどんを食べる。
(10)雨天ならば、スポーツ大会は中止である。
【問題3】
(1) 次の会話のAさんの主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
A:日本は世界でも有数の豊かな国だ。
B:どうしてそう言える?
A:GDP が世界で第3位だからな。
B:GDP ってなんだい?
A:まあ、簡単に言えば国の豊かさを測る尺度だね。
(2) 次の主張はどうでしょう。
熊田は神だ。なぜかと言うと『熊田の黙示録』に「熊田は神なり」と書いてあるからだ。なぜ『熊田の
黙示録』に書いてあれば正しいのかって? なぜならそれは神である熊田のことばを記したものだからだ。
(3) 次の文章のCさんとDくんの主張には共通する問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
Cさんが、元カレのDくんについて友達に愚痴っています。「Dってすぐ怒ったり拗ねたりするから嫌に
なっちゃった。まったく男は感情的で困るよね」。一方、Dくんは、元カノのCさんについて友達にこう言
います。「Cって絶対待ち合わせに遅れてきたんだよな。なんでこう女は時間にルーズなんだろう」。
- 25 -
(4) 次の主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
江崎玲於奈氏(ノーベル物理学賞受賞者)が、未来の教育についてこんなことを言っている。
「人間の遺伝情報が解析され、持って生まれた能力がわかる時代になってきました。……いずれは就学時
に遺伝子検査を行い、それぞれの子供の遺伝情報に見合った教育をしていく形になっていきますよ。」
超一流の学者の言うことだから正しいに違いない。就学時診断に遺伝子検査を導入すべきだ。
(5) 次の主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
秋休み、毎日 10 時間以上勉強するか、浪人するかどちらかだ。浪人したくなかったら、毎日 10 時間以上
勉強しなさい。
(6) 米同時多発テロ後のブッシュ大統領(当時)の演説(2001 年9月 20 日)はどうでしょう。
「……我々は、テロリストたちの資金源を断ち、互いに対立させ、隠れ家もなく、休息もとれないよう追
い回す。我々は、テロリズムを援助したり、安全な隠れ家を提供する国も追及する。すべての国、すべての
地域は、今こそ一つの決断を下さなければならない。我々につくか、テロリストにつくかだ。今日から、テ
ロリストを保護し支援し続けるすべての国は、米国によって敵性国家と見なされる。」
(7) 次の主張には問題があります。それはどういうところか指摘しなさい。
1回でも遅刻をしたら、いずれ遅刻を繰り返すようになる。遅刻に慣れると次は無断早退だ。そのうち嘘
の理由で欠席することになるだろう。嘘つきは泥棒のはじまりだ。一旦泥棒に手を染めれば、そのうちもっ
と重い罪を犯すだろう。最後は死刑台行きだ。そうなりたくなければ、遅刻はしないことだ。
【問題4】
(1) 別紙1(竹内一郎『人は見た目が9割』新潮社(2005) pp.18-20)を読み、コメントを書きなさい。
(2) 別紙2(パオロ=マッツァリーノ『反社会学講座』イースト・プレス(2004) pp.109-112)を読み、コメント
を書きなさい。
【問題5】
別紙3(道田泰司・宮元博章・秋月りす『クリティカル進化論』北大路書房(1999) p.ii,28,35,57,66,131,136)
のマンガ(1)~(7)を読み、「人間が陥りやすい思考の偏り・歪み」はどういうものか考えなさい。
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
- 26 -
体育実技「ラグビー」の可能性と課題
体育実技「ラグビー」の可能性と課題
-筑波大学附属高校の実践を通して考える-
-筑波大学附属高校の実践を通して考える-
筑波大学附属高等学校保健体育科
筑波大学附属高等学校保健体育科
中塚義実、貴志泉、鮫島元成、征矢範子、藤生栄一郎
中塚義実、貴志泉、鮫島元成、征矢範子、藤生栄一郎
Ⅰ.はじめに
ボール(のようなもの)をゴールに運ぶ“遊び”は、紀元前から、世界各地で行われて
いた。中世の英国では、サッカーやラグビーのルーツとなる「フットボール」が農村の祭
りとして行われていたが、19 世紀になるとそれは、パブリックスクールの放課後の活動と
して行われるようになっていた。学校ごとにまちまちだったルールを統一するために何度
も会議を重ね、1863 年に The Football Association(FA)が創設され、近代スポーツとし
てのサッカーが誕生した。1871 年には Rugby Football Union(RFU)ができ、サッカー
とラグビーは分化していく。プロフェッショナリズムをいち早く受け入れた(1885 年)サ
ッカーに対して、プロアマ問題でユニオンとリーグが分裂した(1895 年)ラグビーは、サ
ッカーとは異なる文化を持って発展していくが、両者とも「フットボール」の思想を受け
継いでいることに変わりはない。
さて、イートン校やラグビー校などの名門パブリックスクールにおけるフットボールは、
血気盛んな生徒たちにとってエネルギー発散の場であり、学校側からすれば生徒を管理す
るための手段でもあった。その後、学校におけるフットボールは、近代国家の担い手とし
ての“エリート”養成に不可欠な教育的活動として位置づけられていく。
「ワーテルローの
戦いはイートン校の運動場で行われていた」というウェリントン公の有名な言葉に示され
るように、また近代オリンピックの創始者ピエール・ド・クーベルタンが、青少年の教育
にスポーツが不可欠であることをパブリックスクールの教育をみて感じ、近代オリンピッ
ク復興につなげていくことからわかるように、スポーツ、とりわけフットボールの教育的
意義は大きい。
しかしサッカーとラグビーは、学校体育における位置づけが大きく異なる。サッカーは
体育実技の教材としてはもっともポピュラーな種目の一つであるが、ラグビーは、安全面
への不安からか、取り上げる学校は多くはない。日本ラグビー協会では小学校の教材とし
てタグラグビーを推奨しているが、高校生ともなると、校技とされている学校以外はあま
り取り上げられていない。体育の授業時数減により、取りやめた学校も多くあることだろ
う。部活動数も比較にならないほど隔たりがある。
このような世間の動向にもかかわらず、本校では 2 年生男子の教材として、ラグビーを
30 年来行ってきた。安全面へ十分配慮しつつ、ラグビーの特性を損なわないように、授業
担当者と生徒自身によって、学習内容やルールは工夫されてきた。
「ラグビーをやったこと
1
- 27 -
がない」ばかりか「みたこともない」生徒も大勢いる中で、生徒たちは、はじめの頃こそ
不安げな様子であるが、約 20 時間の授業を通して「する」
「みる」ともに興味を持つよう
になっていくのが授業者としての実感である。
2016 年から 7 人制ラグビーがオリンピック種目となり、2019 年にはワールドカップが
日本で開催される。学校体育におけるラグビーの可能性と課題について、本校の実践例を
紹介しながら改めて考えてみたい。
Ⅱ.筑波大学附属高校における体育実技「ラグビー」の導入
1.1970 年代の本校の年間計画
鮫島元成が井芹武二郎の後任として赴任した 1975 年度当時、1,2 年次の体育の単位数
は男子 4 単位、女子 2 単位であった。1973(昭和 48)年度より施行された学習指導要領
からこの単位数となった背景には、「男子は体育、女子は家庭科」、さらに「男子は格技、
女子はダンス」の思想があった。男子の体育で格技は必修であった。
しかし本校では、長年の教育実践研究から「球技重視」のカリキュラム編成の考えが支
配的で、格技は、必修とされていたにもかかわらず、実際には球技での読み換えが為され
ていた。当時の学習指導要領から逸脱したカリキュラムであった。
鮫島はバスケットボールを担当することが多かったが、一方で自分の専門種目である柔
道と、ラグビー導入の機会を探っていた。
「それがすべての原因ではないが、男子生徒にス
マートさが目立ち、泥臭さがなかった。柔道を専門とする教師にとって、柔道の授業をや
りたくても施設等の問題から授業は不可能であった。身体接触の激しいスポーツ、柔道に
代わる球技は何かと考えた時、ラグビー教材を考えた」(鮫島談)。
2.柔道とラグビーの導入
1977 年度に貴志泉が着任する。チーム全員が得点すればボーナス点が与えられるという
「ボーナスルール制度」を取り入れたハンドボールの授業実践で有名な鈴木善雄の後任で
ある。着任初年度、貴志は専門のバスケットボールよりむしろハンドボールの授業を多く
担当していることが、当時の年間計画からうかがえる。
1977 年度の年間計画からは、3 年次の授業に「バスケットボール
たところに「柔道
鮫島」と書かれてい
鮫島」と修正された記述がみられる。図書館脇につくられた仮設道場
で柔道の授業が始まったのがこの年度である。当時の保健体育科の授業が、多くの部分で
担当教師の裁量にゆだねられていたことがわかる。
翌 1978 年度へ向けて、年間計画を見直すための話し合いを保健体育科で行ったという
記録がある。格技・柔道の本格導入は、
「3 年 1 クラスなら可能、2 クラスにすると柔道衣
がないので難しい。ラグビーなら 1,2 年生の教材として可能」
(鮫島談)との判断があった
ようだ。
2
- 28 -
1979 年度の年間計画には、ラグビーが明確に位置づけられている。おそらくその前年度
から、ラグビーの授業が年間計画に位置付けられたのだろう。
3.当時の授業の様子
ラグビー授業が本格導入されたこの頃の本校の授業は、
「グループ学習」の最盛期であっ
た。球技が重視されたのも「グループ学習」に取り組みやすいことが前提にあり、新たに
導入されたラグビー単元の計画にもこのような考えが反映されている。
以下は、鮫島が生徒に配布した資料からの抜粋である。いずれも 1980(昭和 55)年度
に配布したもので、1 年次と 2 年次のものがある。
注)片カッコの数字は授業時数(以下同様)。
<1 年次
1)
1/10~3/7
27 時間>
オリエンテーション
2)~3)実技オリエンテーション
4)~8)基礎
9)~10)予備
11)~12)ゲーム、
13) パント導入、
14)~21)フォーメーション・チーム練習、
22)~26)リーグ戦、
27) 反省
・このラグビーは安全を考え、スクラムでの押し合い、タックルを除き、タッチラグビー
としている。
・ゆえにパスが主となる。しかし簡単ではない。
・ルールは原則案を出すが、事情によりどんどん変更することが可能である。
・評価は、技術、態度、グループ貢献度、グループノートによる。
・班分けは 4 班とする。
・冬期であるからウォームアップを十分行う。毎時決まった補強運動もやりたい。
<2 年次
1)
オリエンテーション
2)
ためしのゲーム
1/10~3/7
3)~6)基礎
7)~9)フォーメーション
10)~12)リーグ戦
3
- 29 -
28 時間>
13) ルール検討
14)~22)ゲーム
23)~27)リーグ戦
28) 反省
・1 年次のルールと変わった点は、タッチされてもすぐにパスをすればタッチとはならな
い点である。判断が難しいが、ゲームが継続しやすい。
・タックル、スクラムの入る可能性があるか考えてほしい。
・ルールはどんどん変更してほしい。
・評価は、技術、態度、グループ貢献度、グループノートによる。
・授業のけじめを大切にしたい。
・冬期であるから、教師の指示および自分の判断により的確なウォームアップをすること。
Ⅲ.現在の「ラグビー」授業の実際
ここ数年、2 年次のラグビー単元を担当するのは鮫島、貴志、中塚である。ここでは、
現在のラグビー授業の概要を知るため、三者の授業例を提示する。
なお、現 2 年生(2012 年度入学生=123 回生)より、体育の授業時数は 1 年時 3 時間、
2 年次 2 時間、3 年時 3 時間となり、2 年次に置かれるラグビー単元の授業時数が 3 分の 2
に減った。今後も同様の状況が予想される。新たな課題である。
1.鮫島:20 時間の授業例(資料 1 参照)
赴任当初から柔道の授業をやろうと思ったが、当時の年間計画には球技しかない(補足
1 参照)。球技ならラグビーを取り入れ、たくましい生徒を育てようと指導してきた。
タッチラグビーではなく、ホールドラグビー行う。心身が未成熟の 1 年生ではトラブル
が起きる懸念がある。2 年生の成長してきたころにラグビー単元を置いている。
「かばいな
がら制する」ことは柔道にもラグビーにも通じる要素である。
ラグビー授業をきっかけにラグビー部ができた。活発に活動していた時期もある(いま
は同好会。合同チームには参加している)。
以前は授業でも 15 分ハーフでゲームを行っていた。骨折などのけがもあった。近年、
無理はできなくなってきたが、かばいながら制する人間を育てたいとの思いは強い。それ
を指導するにはラグビーは最適(2013 年 12 月 7 日、研究大会教科分科会での説明)。
<全 20 時間の展開例>
1)オリエンテーション/ボールのハンドリング
2)班分け/パス練習/パントとキック練習/ホールドの仕方
3)ルール説明/スクラムの組み方とスクラムハーフの役割
4
- 30 -
4)~5)役割分担(フォワード・ハーフ・バックス)
セット(スクラムからバックスへのパス)からの展開
6)モールの組み方/フォーメーションの練習
7)ラインアウトの方法/フォーメーションの練習
8)~9)班別練習/視覚教材(ビデオ)での学習
10)~11)練習試合
12)~13)練習試合の反省をふまえて班別練習
14)~15)練習試合
16)~18)リーグ戦
19)予備日
20)まとめの記入
◆補足①
ルール
「タックル」を「ホールド」に変えている。
「タッチ」ではない。この点は生徒の体力が
低くても、精神的に幼稚でも、けがの心配があっても、この単元で最も指導したい内容で
ある。その理由は、「タックルは相手を倒すプレーであり、ホールドは相手をキープするプ
レーである」、すなわち「相手をかばいながらプレーを展開する」という自他共栄の精神が
このプレーにあるからである。
ホールドの判断はすべてレフェリーにゆだねる、あるいはホールドされたと自分で判断
したときは、動きを止めるという、フェアプレーの精神の指導に最適だからである。
◆補足②
評価
非常に難しい、その理由は、
・グループでの動きが多い
・授業時間内での技術の向上がはっきりしない
・ゲームでの役割が一律でない
このような理由から、評定は、まとめの内容(知識テストと相互評価)、及び授業への取
り組み(教師の主観)、出席状況などを相互的に考えて数字化する。
2.貴志:22 時間の授業例(資料 2 参照)
鮫島一人では負担が大きい。バスケットボールを専門とするが、ラグビーも好きだった
ので担当することになった。
ホールドの使い方を試行錯誤した。ホールドをするにはモールをしなくてはならない。
モールを中心とした授業となる。高校生に身体接触の面白さを学んでほしい。バックスが
得意な生徒が楽しめる授業の組み立て方もあるが、モール中心の授業は、地味で実直な生
5
- 31 -
徒が前に進もうとすることで楽しめる。
また、ラグビーには「古いスタイル(伝統的な思考)」が残っている。たとえばサイドラ
インでは、バスケやサッカーのように、相手プレーヤーにボールをぶつけて外に出すとい
う発想がない。さまざまな考え方があるということを、ラグビーを通して学ばせたい(2013
年 12 月 7 日、研究大会教科分科会での説明)。
<全 22 時間の展開例>。
1)説明「捕まらないで進むラグビー」「捕まって進むラグビー」
2 人組でぶつかり合い/パス/キック&キャッチ
ルール「オフサイド」「スローフォワード」
「ノックオン」
2)教室:アンケート/ラグビーの全体像説明(all for one
one for all、自他共栄、no side、
フットボールとして新しさを好むサッカーよりも古さを伝統として好むラグビー)、ル
ール「オフサイド」「スローフォワード」「ノックオン」図説
3)ラグビー精神として、汚いことはしない
⇒
フェア、フェアプレイ
4)スクウェアで 3 対 2 パス(コーン使用)
ランパス/キック&キャッチ/ゴロパント&キャッチ
2 対 1(キック有)/モール 2 対 1/モール連続 3 対 1
5)2 対 1(キック有)/3 対 2
6)3 対 3 ゲーム
7)体育館:モールの説明(ラックは禁止)/5 対 5 モール
8)チーム決め(クラス越えるかどうか)
9)ヘッドギア配布
ルールプリント配布
10)ゲーム形式のミニゲーム
11)~14)タッチフットボール(アメリカンフットボール)-ラグビー文化との違い
15)体育館:モールの説明/モールからの展開練習
16)グループで練習/モールからの展開/7対3ぐらいのシュミレーション
17)~19)4 チームでのリーグ戦
20)テスト:2 対 2 でディフェンスを突破することができるか
21)ゲーム
22)まとめ:教室でテスト
3.中塚:19 時間(昨年度)と 13 時間(今年度)(資料 3 参照)
サッカー、ラグビー、およびそれらのルーツとなる(モブ)フットボールの特性を踏ま
え、「ボールを仲間とともに前進させる」というゲーム構造と、「身体接触がある」ことを
軸に据えながら、段階的に取り組んでいる。
6
- 32 -
高校生にとってラグビーの認知度はあまり高くはない。
「難しい」
「こわい」
「痛い」など
の先入観を抱いている生徒も多い。こうしたネガティブなイメージを払拭し、各段階で簡
易ゲームを取り入れながら、少しずつ本物に近づけていくよう心がけている。
まずはタッチラグビー(両手タッチ)を行い、ハンドリングゲームとしてのラグビーの
特性に触れる。徐々にコンタクトの要素を増やしていき、最終的には 10 対 10 のホールド
ラグビーに持っていく。
学習目標として生徒に伝えているのは次のとおり。時間数が減っても変えていない。目
標に即して評価の観点を立て、実技への取り組みとできばえ、提出物、および相互評価等
を加味して総合的に評価する。
1.するスポーツとしてのラグビーに親しもう!
1)ハンドリングゲームとしてのラグビーの魅力:タッチラグビー
2)コンタクトゲームとしてのラグビーの魅力:ホールドラグビー
2.みるスポーツとしてのラグビーに親しもう!
1)フットボールの一つとしてのラグビーの歴史と現状の理解
2)日本と世界のトップレベルのラグビーのみ方・とらえ方
3.ラグビー(フットボール)を通して“人生”を学ぼう(語ろう)!
<2012 年度:2013 年 1~3 月の 19 時間>
1)「ボール」と「動き方」に慣れる①
「タッチ」の定義と実践/1 対 1~2 対 1~2 対 2
2)DVD 学習:2011W 杯決勝前半(解説を加えないで TV 映像を観戦)
3)コート面(雪):ボールと動き方に慣れる② ~2 対 2
4)コート面(雪):ボールと動き方に慣れる③ ~3 対 2~3 対 3
5)グラウンド:タッチラグビー① 4 対 4 ゲームの導入
6)グラウンド:タッチラグビー②
7)タッチラグビー③
大会第 1 日
8)タッチラグビー④
大会第 2 日
守備の基本
9)コンタクト①
「ホールド」の定義と実際/ポイントを作る
10)コンタクト②
ポイントの固定→モールの形成→4 対 4 モールゲーム
11)DVD 学習:ラグビー選手のトレーニング/ゲームの見方
12)チームづくり①
仲間の力を知る/キックとキャッチ
13)チームづくり②
ポジション決め/モール or スクラムからの展開
14)チームづくり③
ラインアウトからの攻防
15)~17)ホールドラグビー大会(半面)
18)タッチフットボール導入:映像でイメージづくり
7
- 33 -
→
5 対 5 で簡易ゲーム
19)DVD 学習:2011W 杯決勝後半(前半の感想を修正しながら観戦)
<2013 年度:2013 年 10~12 月の 13 時間>
1)「ボール」と「動き方」に慣れる①
「タッチ」の定義と実践/1 対 1~2 対 1~2 対 2
2)「ボール」と「動き方」に慣れる② 2 対 2 ゲームまで
3)タッチラグビーの体験①
4 対 4 でためしのゲーム
4)タッチラグビーの体験②
4 対 4 でクラス対抗
5)予備日① DVD 学習:みるスポーツとしてのラグビー
6)コンタクト① 「ホールド」の定義と実際/ポイントを作る
7)コンタクト② ポイントの固定→モールの形成~4 対 4 モールゲーム
8)チームづくり①
仲間の力を知る/キックとキャッチ
9)チームづくり②
ポジション決め/モール or スクラムからの展開
10)~12)ホールドラグビーの体験 or リーグ戦(半面)
13)予備日②
◆補足①
タッチフットボールの学習(DVD→実践)
各ゲームのルール
1)タッチラグビー
おおよそ 20m×40m のピッチ(縦長と横長両方)で 4 対 4 で行う(8 チーム作る)。
ボール保持者は、相手に両手タッチされたら、攻撃権を 1 回失う。3 回失ったら攻守交
代。ただしノックオン、スローフォワードなどの反則は、1 回で攻守交代。
守備側のオフサイドも設ける(ボールより前方で守備できない)。
インターセプトは即座に攻撃権が入れ替わったものと判断する。
細部は、プレーしているものが随時判断する。セルフジャッジで行う。
2)モールゲーム
おおよそ 5m×10m の狭いグリッド内で 4 対 4 で実施。
ボール保持者は、相手に両腕で抱えられたら(「ホールド」されたら)前進できない。
3)ホールドラグビー
おおよそ 50m×66m のピッチで、10 対 10 で実施(4 チーム作る)。
ボール保持者は相手に両腕で抱えられたら(「ホールド」されたら)前進できない。
試合は簡易スクラムで始める(押し合いなし。3 対 3 の形式のみ)。
横から出た場合は、ラインアウトまたは 5m スクラム(2013 年度)で再開。
担当教師がレフェリーを行い、タッチジャッジをつける。
4)簡易タッチフットボール
ホールドラグビーのチームごとに、タッチラグビーの広さで行う(5 対 5)
。
8
- 34 -
タッチラグビーのルールに、1 回だけ前方へのパスありで実施。
細部は自分たちで決める。セルフジャッ。ジ
◆補足②
ある生徒からのコメント
「すばしこい者が有利になって不公平」との意見を述べる生徒がいた(2012 年度)。
その生徒に対しては、
「相手をなぎ倒して突破する本格的なラグビーは、体育の授業でこ
の時間数では無理。だからこのような内容にしており、内容や目標に即した評価をするこ
とになる。ラグビーに興味を持って本格的に取り組みたいのなら、体を鍛え、大学生にな
って取り組みなさい」と話をした。納得したようであったが、難しいところである。
Ⅳ.公開授業と教科分科会から-体育実技「ラグビー」の可能性と課題
本校にとっては、2 年生の授業時数が 3 分の 2 に減った中でどのように 15 時間(以下)
のラグビー単元を構成するかが現実的な課題としてある。各学校での実践例を含め、教科
分科会では次のテーマについて議論したいと考えた。
公開授業には約 50 名、教科分科会にも約 40 名が参加し、熱心な意見交換が為された。
教科分科会で参加者から得られた主な意見を「→」で示した。
1)「フットボール」をどう取り上げるか
技術や戦術だけでなく、学校体育の教材として学ばせたい「フットボール」の本質的な
要素は何か。19 世紀のパブリックスクールで取り入れられたのはなぜかも含め、フットボ
ールの教育的意義を考察したい。
また、英国生まれのサッカーやラグビーと、米国生まれのアメリカンフットボール(タ
ッチフット)を学ぶことで、文化の違いを学ぶこともできる。フットボールの何を、どの
ように取り上げるのか。
→ラグビーの文化的背景や、3 つの精神-フェアプレーの精神、自己犠牲の精神、ノーサ
イドの精神を学ばせたい。アフターマッチ・ファンクション(交歓会)があること、お
互いをリスペクトする精神が大切であることを学ばせたい。
→ラグビーの原点となったフットボールのビデオを見せると生徒はスイッチが入る。なぜ喧嘩
にならないのかを考えさせる。ボールを持っていない人に対してはタックルしてはいけない。
ボールを運ぶ人を助ける。これが社会だし、これが教育の意義。
2)安全性を確保しながら競技特性を損なわないためには
ルール、学習過程、グルーピングなど、指導現場でさまざまな工夫が為されているはず
である。身体接触を順序立てて学ばせることも必要である。そのために、ラグビー以外の
単元との関連も含め、どのような工夫が為されているか。
9
- 35 -
→ホールドされると思ったら止まらなくてはいけない。進んだらペナルティ。強い者は力を加
減する。全力を出すことがスポーツの特性だが、それを指導することが教育である。恐怖で
力を出せない生徒がいるかもしれない。そういう生徒が出ないように指導する。
→ラグビーの醍醐味はボールを持って走れること。捕まっても前進できる。モールで前進
が止まるのがもったいない。もう少しやらせてみてもよいのではと思いながら見ていた。
→味方を早く助けにいくこと。捕まったら後ろを向くのはどうなのか。前進させることをさせ
てもよいのでは。4~5 人でおしくらまんじゅうのようなモールをさせてもよいのでは。地
面に転んだ時に怪我をする。ラグビーはボールを持った時の制限が最も少ない。選択肢が多
い。危ないこと以外は何でもあり。今日の生徒はセルフジャッジができる。これは危ないか
らやめようといえるのでは。
3)「あまり知らない」スポーツをどう取り上げるか
「ラグビーは初めてプレーする」生徒が大半である。「見たことがない」生徒もいる。
いかに興味を持たせてその気にさせるか。ネガティブなイメージを与えないようにする
にはどうすればよいか。
→サッカーなら狭いところのミニゲームでも十分面白い。休み時間の遊びの一つになってくれ
ればと思い、タッチラグビーからはじめている。
→スピンパスは取りづらい。私も手渡しから始める。取る方にはあまり神経を使っていないよ
うに見えたが。スピンパスは取りづらいので最初はフラットパスからがよい。
→パスの投げ方は、その生徒が投げやすかったらそれでよい。うまくいかないなら、そのとき
アドバイスすればよい。
→これから 7 人制ラグビーを見る機会が多くなるだろう。ランニングスキルが多く、見て
いる人をよりエキサイトさせてくれるゲームである。授業で 7 人制を扱ってもよいので
はないか。
Ⅴ.まとめ-研究大会での議論を踏まえて
分科会ではさまざまな意見が出た。一つのテーマについて対立する意見もあった。
「ラグ
ビー」単元をさまざまな切り口から捉えられると、改めて感じることができた。
異なる意見のうちどちらを選ぶかは、それぞれの現場である。タグラグビーやタッチラ
グビーを取り入れるのかどうか、ホールドされても前進するのか、しないのか…。
これらに対する普遍的な答えはない。それぞれの現場で、生徒の実情と授業時数などの
環境条件を踏まえて、現場で答えを出していくことである。「できない」「無理」と決めて
しまうのでなく、
「どうすればできるか」を考え、実践につなげようとする意欲や工夫が大
切である。ラグビー単元にはまだまだ工夫の余地があるし大きな可能性がある。
(文責:中塚義実)
10
- 36 -
資料1.体育実技
ラグビー
基本原則(担当:鮫島元成)
11
- 37 -
- 38 -
資料2.ラグビー(授業用)のルールについて(担当:貴志泉)
13
- 39 -
資料3.研究授業「ラグビー」指導案(2013 年 12 月 7 日/担当:中塚義実)
注)「副案」と「生徒への配布資料とまとめ」は省略
高校2年生男子
ラ グ ビ ー
第63回 高等学校教育研究大会
第63回 高等学校教育研究大会
主 催 ・ 会 場
筑波大学附属高等学校
主 催 ・ 会 場
期 日
筑波大学附属高等学校
2013年12月7日(土)
期 日
2013年12月7日(土)
授業担当者
中塚義実(保健体育科)
授業担当者
中塚義実(保健体育科)
目
p2
… はじめに
p3
… 単元計画(概要)
p2
p4
次
目
次
… はじめに
… 単元計画(詳細) Ⅰ.学習環境
Ⅱ.学習者
p3
… 単元計画(概要)
p4
… 単元計画(詳細) Ⅰ.学習環境
p5
… 単元計画(詳細) Ⅲ.教材「ラグビー」
p7
… 単元計画(詳細) Ⅳ.学習目標と評価
p5
p7
p8
p9~12
… 単元計画(詳細) Ⅲ.教材「ラグビー」
… 単元計画(詳細) Ⅳ.学習目標と評価
Ⅱ.学習者
… 単元計画(詳細) Ⅴ.学習の展開(2年3,4組=13時間)
… 授業概要(10月22日~12月12日)
p8p13~15 …… 単元計画(詳細)
Ⅴ.学習の展開(2年3,4組=13時間)
時案 11:20~12:10 2年5,6組の導入授業(於グラウンド)
p9~12
p16~18 …… 授業概要(10月22日~12月12日)
副案 11:20~12:10 2年5,6組の導入授業(於体育館)
p13~15
11:20~12:10 2年5,6組の導入授業(於グラウンド)
p19~22 …… 時案
生徒への配布資料とまとめ(2012年度のもの)
p16~18 … 副案 11:20~12:10 2年5,6組の導入授業(於体育館)
p19~22 … 生徒への配布資料とまとめ(2012年度のもの)
14
- 40 -
1
はじめに
筑波大学附属高校では、毎年行われる研究大会で各教科の授業を公開し、参加者との議論の場を設けていま
す。保健体育科では5名の教員が持ち回りで公開授業を行うので、ほぼ5年に一度、機会が回ってきます。
1987年に赴任して以来、授業者はこれまで5回の公開授業を、研究大会で行ってきた。
1)1988年12月10日 3年女子サッカー(必修) … 「自由と責任」を学ぶ
2)1993年12月4日 1年男子サッカー(必修) … 全33時間で「する」「みる」スポーツ教育
3)1997年12月6日 1年女子サッカー(必修) … 全22時間で「する」「みる」スポーツ教育
4)2002年12月7日 2年体育理論(必修) … FIFAワールドカップを題材とした総合学習
5)2003年12月6日 3年男女セパタクロー(選択) … 男女共習の選択実技
6)2008年12月6日 1年女子サッカー(必修) … 約15時間単元の「導入」と「まとめ」
注)このほか、2005年度よりはじまった「筑波大学附属小・中・高合同研究会」での公開授業がある。
これまでは主に、自分が深くかかわってきたサッカー実技を公開することが多かったのですが、今回はあえ
てラグビーの授業を公開することにしました。
サッカーとルーツを同じくするラグビーは、個人的に好きなスポーツの一つです。学生時代からラグビー部
の友人との付き合いも多く、ラグビーの話題は「身内の話題」のように、昔から感じていました。
オリンピック、FIFAワールドカップと並ぶ「世界3大メガイベント」と言われるラグビーのワールドカップが
2019年に日本で開催されることが決まり、2016年のオリンピックからは7人制ラグビーが、男女とも正式種目と
なりました。いずれも大きなできごとです。
しかしラグビー界の現状は、体育の教材としては「危ないから」と敬遠され、多くの高校でラグビー部はの
部員が集まらず、合同部活動や10人制ラグビーなどでその場をしのいでいる状況です。学生スポーツの花形で
あったラグビーは、学生スポーツゆえの課題を数多く抱えています。社会人のラグビーも、トップリーグが誕
生して世界中からトッププレーヤーが集まるようになりましたが、企業文化 に依存しきった体質の中ではおの
ずと限界がみえます。代表チームの強化も思うように進みません。
このような状況にあって、「身内」としてどうすればよいのだろう、自分には何ができるのだろうというこ
とを考えています。
私が理事長を務める「スポーツ文化研究会“サロン2002”(現在、NPO法人化へ向けて準備中)」では、2009
年度末の公開シンポジウムで「2019年ラグビー・ワールドカップへ向けて」を取り上げました。その後も何度
かラグビーの話題を取り上げ、現状を把握しつつ、これから何ができるかを議論しています。
さまざまな視点がありますが、ラグビーというスポーツを正しく知ってもらいたい、好きになってもらいた
いと考えたときに、体育の授業での取り上げ方が重要な要素になってくると考えました。ちょうど本校では、
約30年にわたってラグビー授業を行っており、私もほぼ毎年担当しています。この機会に、ラグビーの授業、
それも導入の授業を公開し、体育実技ラグビーの可 能性と課題について皆さんと議論したいと考えました。公
開するのは導入授業ですが、まとめの段階の様子は、教科分科会において、前年度の映像をご覧いただきなが
ら情報交換したいと思います。
2013年度の入学生より新しい教育課程となり、体育の授業時数はそれまでの2・3・3(1年2単位、2年3単位、
3年3単位)から、3・2・3に変更となりました。この結果、2年次の教材として本校で位置づけているラグビー
の授業時数が2/3になってしまいました。以下は、昨年度までと本年度の授業時数と内容を比較したものです。
「みるスポーツの教育」が不十分になったことが挙げれれます。このような中でラグビーの何をどのように伝
えていくのかについても意見交換できればと考えます。
2年次必修ラグビー単元(男子)
2012年1~3月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
2013年10~12月
19時間
「ボール」と「動き方」に慣れる①
DVD学習:2011W杯決勝前半(解説を加えないで観戦)
コート面(雪):ボールと動き方に慣れる②
コート面(雪):ボールと動き方に慣れる③
グラウンド:タッチラグビー① 4対4ゲームの導入
グラウンド:タッチラグビー② 守備の基本
タッチラグビー③ 大会第1日
タッチラグビー④ 大会第2日
コンタクト① 「ホールド」の定義と実際
コンタクト② モールの形成→4対4モールゲーム
DVD学習:ラグビー選手のトレーニング/ゲームの見方
チームづくり① 仲間の力を知る/キックとキャッチ
チームづくり②
学習の展開例
ポジション決め/モールorスクラムからの展開
13時間
1 「ボール」と「動き方」に慣れる①
2 「ボール」と「動き方」に慣れる②/2対2ゲームまで
3 タッチラグビーの体験① 4対4でためしのゲーム
4 タッチラグビーの体験② 4対4でクラス対抗
5 コンタクト① 「ホールド」の定義と実際
6 コンタクト② モールの形成~4対4モールゲーム
7 チームづくり① 仲間の力を知る/キックとキャッチ
8 チームづくり② ポジション決め/モールorスクラムからの展開
9 ホールドラグビーの体験(半面)①ためしのゲーム
10 ホールドラグビーの体験(半面)②ゲーム
11 ホールドラグビーの体験(半面)③ゲーム
12 予備日①DVD学習…みるスポーツとしてのラグビー
13 予備日② タッチフットの学習(DVD→実践)
チームづくり③ ラインアウトからの攻防
ホールドラグビー大会(半面)①
ホールドラグビー大会(半面)②
ホールドラグビー大会(半面)③
タッチフットの学習(DVD→実践)
DVD学習:2011W杯決勝後半(解説付きで観戦)
2
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単
元
計
画
(概
要)
1 学習者・期間・授業時数
2年 34組
42名(3組21名、4組21名)2013年10月21日~12月11日(計13時間)
2年 56組
43名(5組21名、6組22名)2014年1月13日~3月3日(計15時間)
月2&水3
月1&水4
注)2年5・6組は12月7日(土)の研究授業があるので、計16時間となる
2 施設・設備・用具・ボール
・グラウンド半面(時には全面)。雨天時は体育館または教室(教室での授業は2回行う)
・ラグビーボール20個/セーフティコーン、マーカ-等使用可
3 体育の教材としての「ラグビー」の特性(“フットボール”、サッカーとの比較)
1)(モブ)“フットボール”
2)サッカー
3)ラグビー
①ボールゲームである
→ ①手を使ってはならない ①ボールを手で前進させることはできない
②ゴール型ゲームである
→ ②ポストとバーの間
②ゴールラインを越えたところがインゴール
③チームゲームである
→ ③自由と責任を自覚
③さまざまな個性に対応できる
④身体的接触が認められている
→ ④肩と肩のチャージはOK ④大幅に認められている
4 学習者からみた教材「ラグビー」の特性
①ボールゲームである
②ゴール型ゲームである
→ 手での楕円球の操作は徐々に慣れてくる。キックは個人差がある
→ 「前方へのパスをしないで前進する」ことが難しく感じられる
③チームゲームである
→ 一人ひとりの個性を活かせる面白さがある
④身体的接触が認められている
→ 「痛い」「こわい」「あぶない」と感じる
5 学習目標(スローガン)
1)「するスポーツ」としてのラグビーが楽しめるようになる
2)「みるスポーツ」としてのラグビーが楽しめるようになる
3)ラグビーを通して“人生”を語ることができるようになる
6 日程と概要(2年3・4組の場合)
時数
1
2
3
学習内容・活動
「ボール」と「動き方」に慣れる① = 「タッ
10 21 月
チ」の定義と実践/1対1~2対1~2対2
「ボール」と「動き方」に慣れる② = 2対2
23 水
ゲームまで
タッチラグビーの体験① = 4対4でためしの
28 月
ゲーム
月 日
30 水 タッチラグビーの体験②
4
5
曜日
11
6
水
6
11 月
7
13 水
8
18 月
9
20 水
10 12
2
月
11
4
水
12
9
月
13
11 水
=
4対4でクラス対抗
コンタクト① = 「ホールド」の定義と実際/
ポイントを作る
コンタクト② = ポイントの固定→モールの形
成→4対4モールゲーム
チームづくり① = 仲間の力を知る/キックと
キャッチ
チームづくり② = ポジション決め/モールor
スクラムからの展開
ホールドラグビーの体験(半面)① = ためし
のゲーム
ホールドラグビーの体験(半面)② = チーム
練習&ゲーム
ホールドラグビーの体験(半面)③ = ゲーム
(前後半)
予備日① = タッチフットボールの学習(DVD→
実践)
予備日② みるスポーツとしてのラグビー(DVD鑑
賞:ワールドカップ決勝)
3
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ゲーム
1対1または2対1での攻防(ゲームではな
い)
タッチラグビー(2対2まで)
タッチラグビー(4対4)
タッチラグビー(4対4)
モールゲーム(4対4のホールドラグ
ビー)
モールゲーム(5対4→5対5)
モールゲーム(5対5)とシャドーゲーム
シャ ドーゲーム
ホールドラグビー(10対10)
ホールドラグビー(10対10)
ホールドラグビー(10対10)
タッチフットボール(5対5)
なし
Ⅰ.学習環境
1.施設・設備・用具・ボール
100m×66mのグラウンドの半面または全面が使用できる。中学1年生の持久走単元と重なる場合は、手前側半
面を使用する。
ピッチ表面は土である。「グリーンダスト」を入れているので水はけはよいが、晴天が続くと砂埃はひどい
(今年はまだ大丈夫)。
ラグビーのゴールポストは設置されていない。
ラグビーボールは二人に一つはある(20個)。頭部保護のためのヘッドキャップも人数分用意してあり、授
業期間中、「マイキャップ」として管理させている。
このほか、セーフティコーン、マーカーなど、授業で必要なものは十分ある。ラインも適宜引くことができ
る。
2.単元の配置と授業時数
本単元は、高校体育における唯一の必修ラグビー単元である。男子の種目として2年次に置いているが、2013
年度入学生から導入された教育課程において、2年次の単位数が2単位となった(代わりに1年生が2→3単位に
増加)ことから、前年までに比べて時間数が3分の2になった。
限られた時間の中で、安全面に留意しながら、ラグビーの本質にいかに触れさせるかが問われることにな
る。
3.気象条件と雨天時の活動
グラウンドで行うため、天候に左右される。晴天続きだとグラウンドが埃まみれになるが、今年度はそのよ
うなこともなく、比較的安定した気候の中で授業を行っている。
昨年度は年明けの大雪の時期にあたったため、計画が大きく狂った。それでも20時間ほど確保されていたの
でよかったが、15時間弱となった今年度以降、副案をどのように設定するかが悩ましい課題である。
雨天時は、体育館での実技または教室でのビデオ学習となる。体育館使用については中学との調整が必要で
ある。半分ビデオ、半分実技のように、入れ替えて行う場合もある(予備日①のタッチフットボールの導入授
業は、はじめ15分程度、教室で「フラッグフットボールを楽しむために」をみてグラウンドへ移動する)。
予備日②「みるスポーツとしてのラグビー」は、2011年RFUワールドカップからニュージーランドとフランス
のゲームを、選手入場のところからみせている。20時間ほど授業時数があったころは、あえて解説を加えない
でみる授業と、実際に体験したのちに解説付きで観戦するのと2回に分けて行っていたが、15 時間弱となったい
ま、そこまでの余裕はない。
Ⅱ.学習者
1.筑波大学附属高校の2年生男子
進学校でありながら(あるからこそ?)、本校生徒の運動意欲は高い。多くの生徒が「早弁」をして、丸1
時間ある昼休みをスポーツをして過ごしている(スポーツに「逃げている」者もいるかもしれない)。2年生男
子も、意欲の差はあれ、概ね運動意欲の高い生徒が多い。
全体の3分の2を占める附属中からの内部進学生の中に高校から入学してきた生徒が入ってくるため、入学当
初はお互いぎくしゃくするものである。しかし、3年間クラス替えのない本校では、日ごろの授業やさまざまな
行事をホームルーム単位で取り組むことから、クラス内のコミュニケーションは促進され、1年の夏休みごろ内
部・外部の差はなくなってくる。2年生は11月22~27日までシンガポールに修学旅行に行ってきた。大きな行事
を終えて生徒たちの結束はさらに高まっていることだろう。
2.2年生男子とラグビーのかかわり
2年3,4組の最初の授業で「ラグビーをやったことがある人」と聞いたところ、ラグビー同好会に最近入部し
た1名を除いて全員が「ない」と答えた。「みたことがある人」は半分以下で、それもほとんどがスポーツ
ニュースのワンシーンをみただけ。「まったくみたこともない」という生徒も数名いた。同じ質問を昨年もし
たが、プレーしたことがある生徒はゼロ、見たことがある生徒もごく数人で、ほとんどの生徒が「みたことも
やったこともない」状態だった。
今回の公開授業クラスでも同じことを聞いてみるが、どのような反応が返ってくるか楽しみである。
3.公開授業クラス(2年5,6組男子)の生徒の様子
2年5,6組は、1年次のサッカー単元を受け持ったことがある。サッカー部員が6~7名おり、良きにつけ悪しき
につけ、影響力を持っていたが、1年たってどうなっただろう。
ラグビー部員が1名いる。それ以外は今回 が初めてのラグビー単元なのでコメントできない。
4
- 43 -
Ⅲ.教材「ラグビー」
1.体育の教材としての特性
ラグビーはサッカー同様、そのルーツを中世英国の「モブ・フットボール」にみることができる。それが英
国のパブリックスクールの中で、教育的な効果(初期には管理的な意味合い、後期にはスポーツ教育の中核を
担う活動として)を期待されながら発展してきた。
そこでここでは、体育の教材としての「ラグビー」の特性を、ルーツとしての「(モブ・)フッ トボー
ル」、および枝分かれした「サッカー」との対比でとらえたい。
1)“フットボール”について
①ボールゲームである
中世英国のフットボールでは、はじめは豚の膀胱を膨らませたものを使用していたという。おそらく完全な
球体ではなかっただろう。今日のフットボールでは、球体を用いるものも楕円球を用いるものもある。ボール
があることにより、「ボール操作」という個人のスキルの要素が加わるものとなる。
②ゴール型ゲームである
「フットボール」には必ずゴールがあった。「ボールをゴールに入れる」ことが、あらゆるフットボールの目
的である。「ボールをゴールに向かって前進させる」と言い換えることもできる。
③チームゲームである
個人ではなく集団で行うことが、フットボールの特性として挙げられる。中世英国のフットボールでは「川
上に住んでいる人 vs 川下に住んでいる人」や「既婚者 vs 未婚者」などといった分け方で、参加者は数百人
に及ぶものであった。モブ・フットボールにおいてもチーム内での役割はあっただろうが、特にルール上規定
されているわけではないので、参加者は試合開始の笛が鳴ったら終了まで、どこに位置しても構わない。ただ
し「ボールの周辺(ゲームの当事者である場)」と、「ボールから離れたところ(傍観者となる場)」の違い
はあっただろう。この違いはのちに「オフサイド」というルールの成立に大いに関係する。
常に周囲の状況に気を配り、最善の行動を自分自身で選択する、そして仲間とコミュニケーションをとるこ
とが、チームゲームとしてのフットボールには求められる。
④身体的接触が認められている
中世のフットボールでは、身体的接触が認められているというよりも、身体的接触のみでゲームが展開して
いくと言った方が適切である。ひとたびボールを持った者は、どこまで前進できるか、相手側はいかに体を
張って食い止められるかを競い合い、体と体のぶつかり合いの連続となる。
文明化が進んでいない「未開の」社会では、暴力が容認されていた(N.エリアス)。中世のフットボールは
危険をともなう荒っぽいものであり、けが人や、時には死者も出るものであった。近代スポーツとしてフット
ボールが成立するためには、暴力的行為をコントロールすることが必要であった。今日のフットボールにおい
ても、身体的接触をどこまで認め、コントロールするかが大きな課題である。
2)サッカーについて
①ボールゲームである → ボールを手で扱うことができない
日常生活場面で細かな動作が要 求され、神経系も充分発達している“手”が使用できないことがサッカーの
ゲームを困難にしている。だが逆に、手以外ならどこを使ってもよいため、プレーに意外性が生まれるし、技
術的に未開発の部分なので練習すればするほど上達する。達成の喜びを感じることもできる。サッカーの楽し
さの源もここにあるといえよう。
②ゴール型ゲームである → ゴールをめぐる攻防を中心とする
サッカーのゴールは、まず地面に垂直にたてられたポストの間であり、それにバーが加わり、現在の形に
なった。ゴールにいかにボールを入れるか、いかにそれを食い止めるか。サッカーの技術と戦術はこの一点で
進化を遂げている。遊びのサッカーにおいても競技のサッカーにおいても変わることはない。
③チームゲームである
サッカーなら11人、フットサルなら5人がピッチ上に立てる人数であり、それぞれのサイドに分かれてゲーム
を行う。一人ひとりがチーム内での役割や責任を自覚した上で、自由に動くことが認められている。ただし、
オフサイドルールが設けられ、攻撃側の「待ち伏せ行為」は禁止されている。
試合中は敵味方に分かれてゲームするが、試合後はサイドがなくなる(ノーサイド)。この精神は、ラグ
ビーだけでなく、もちろんサッカーにおいても重要である。
④身体的接触が認められている
サッカーでは肩と肩のチャージが認められている。この他、常識的にみてよいか良くないかが身体的接触の
基準となっている(ただし「常識的」のギリギリのラインでトラブルが発生するため、ルールはより厳密にな
り、レフェリーを支援するテクノロジーが開発されている)。
フェアプレーの精神のもとにはプロもアマチュアも関係なく参加の機会を持つというのがサッカーの考え方
で、世界中で最も多くの人々に愛されている所以でもある。
5
- 44 -
3)ラグビーについて
①ボールゲームである → どこを使ってもよいが、手でボールを前進させることはできない
ラグビーでも用いられる楕円球は、投捕には 適しているが、地面に落ちたら運を天に任せるしかない。ボー
ル操作スキルの違いはあるが、サッカーほど技能差が大きく出るものではない。
特徴的なのは、ボールを手で前進させることができないという点である。他の球技にはない「動き方」を求
められるので、初めて取り組む際には混乱が生じやすい。
②ゴール型ゲームである → ゴールラインの向こう側(インゴール)にボールを運ぶことが目的である
本来は、インゴールにボールを運んでも「ゴールを狙う挑戦権が与えられる(トライ)」だけだったが、今
日のラグビーではトライすることがゲームの目的であると言ってよいだろう。ゴールポストが設置されていな
い場合は、インゴールにボールを運ぶことが目的となる 。
前方のラインを目指すという、大変わかりやすいゲーム構造は、「陣取りゲーム」としてのラグビーを分析
可能な、わかりやすいスポーツとしている。
③チームゲームである
一人ひ とりに求められる役割は多種多様である。体が強い、足が速い、キック力がある、周りが見えている
など、さまざまな個性の受け皿がラグビーのポジションには求められる。
相手と味方がそれぞれのサイドに分かれてゲームを行う。ゲームが始まったら個々のプレーヤーの判断で行
動を選択するが、勝手に敵陣に入り込んでいた場合は「オフサイド」となる。試合が終わったらサイドはなく
なり「ノーサイド」。ここにすがすがしいフェアプレー精神、スポーツマンシップの姿がある。
④身体的接触が認められている → 大幅に認められている。
モブ・フットボールの要素を大きく残しているのがラグビーのルールである。正式なルールにのっとって試
合をする場合は、そのゲームにあった準備をしなくてはならない。
体育の教材としてとらえた場合、身体的接触をどこまで認めるかが一つのカギとなろう。
2.学習者からみた教材「ラグビー」の特性
体育の教材としての「ラグビー」の特性を踏まえて、高校2年生男子という学習者から特性を捉えなおしてみ
た。
①ボールゲームである → 楕円球の操作に慣れていないが、慣れれば大丈夫。キックには個人差がある
楕円球を触る機会はこれまであまりなかっただろう。新鮮な感覚でボールに触れられるに違いない。
投げる・捕るの練習には時間を割く必要がある。
キックについては、サッカーボールより中心が捉えにくいと感じ、短時間での上達は難しいかもしれない。
とするなら、全員が上手にキックできるようになることを目指すよりも、キックの得手不得手を個性ととら
え、チームづくりの段階で生かすようにするのがよい。授業時数は限られている。
ボールを手で前進させることができないことについては、簡易ゲームの中で慣れるしかない。そのため
「タッチラグビー」が有効である。
②ゴール型ゲームである → ゴールラインの向こう側(インゴール)にボールを運ぶことが目的で ある
正式なラグビーではインゴールにボールを置くことが求められるが、そこにこだわらなくてもよいだろう。
シンプルに「前進する」と言った方がわかりやすいにちがいない。
③チームゲームである → 一人ひとりの個性を活かせる面白さがある
サッカーやバスケットボールなど同種の球技に比べ、より多様な個性が求められるため、一人ひとりの個性
が活かせて面白く感じられる。フォワードとして力を発揮できる人、ハーフバックでつなぎ役として力を発揮
できる人、バックスとしてランニング場面で力を発揮できる人など、さまざまな個性がかみ合えば面白いだろ
う。生徒たちも改めて自分自身の個性を感じることができるだろう。
オフサイドとノーサイドについては、歴史の学習を通してその意味が理解できるようになるだろう。
④身体的接触が認められている → 「痛い」「こわい」「あぶない」と感じる
幼いころから取っ組み合う遊びを経験することが少なくなっているいまの高校生には、激しく取っ組み合う
場面が必要である。ラグビーの激しさは、生徒たちにとっては魅力があるだろう。
しかしそれ以上に、「痛い」「こわい」「あぶない」からやりたくないというのが先に来る者が多いのでは
ないか。まずはこの意識を最小限に食い止め、ゲームとしての面白さに触れさせながら、徐々に身体的接触を
取り入れていくことが求められる。
限られた授業時間の中では、あまり激しい身体的接触はなじまない。どこまで認めるかは、生徒の様子を見
ながらの判断になるだろうが、「ホールドラグビー」が妥当なところではないだろうか。
6
- 45 -
Ⅳ.単元目標と評価
上記を踏まえ、次の3つの単元目標を掲げた。それぞれには下位に位置づけられるサブ目標があり、これらが
評価の観点となる。
1)「するスポーツ」としてのラグビーが楽しめるようになる
・楕円球を狙ったところに投げ、落とさずに捕ることができる
・「前パスなし」でボールを前進させるための動き方を身につけることができる
・そのためのさまざまな動き方のバリエーションを身に着けることができる
・人と空間を把握しながら、「タッチ」や「ホールド」で相手の突破を食い止めることができる
・タッチラグビー、モールゲーム、ホールドラグビーの3種類のゲームの特性に触れながら、積極的にゲームに
参加できる
・ルールやマナーを理解し実践する
2)「みるスポーツ」としてのラグビーが楽しめるようになる
・フットボールの発展過程を理解し、ルールの意味となかみを理解する
・よいプレーとよくないプレーを判断できる
・ラグビーを取り巻く社会的背景が理解できる
3)ラグビーを通して“人生”を語ることができるようになる
・「ノーサイド精神」「フェアプレー精神」を理解し、日常生活とつなげて考えることができる
・個とチームの関係を理解し、日常生活とつなげて考えることができる
・安全面に留意しながら、ゲームの本質に近づけるための“遊びの工夫”が、集団でできるようになる
1)2)では「楽しさ」という抽象的な用語を用いているが、この方がスローガンとして生徒に示しやす
く、目標と内容を階層的に捉えやすいことからこのようにした(生徒には最初の授業で「スローガン」として
示している)。
1)は「するスポーツ」としてのラグビーの特性から導かれたものである。プレーするときに楽しいと感じ
る場面は、レベルに応じて変化するだろう。初心者レベルが享受できる楽しさに満足することなく、次のレベ
ルの楽しさに触れることがねらいである。あえて到達目標は設けない。
これらの目標に関する評価は、基本的には普段の活動の観察に基づく。スキルテストは行わない。
ルールの理解については、まとめの提出物を評価の材料に加えている。
ラグビーとの今後のかかわりを考えた時に、「する」よりも「みる」形でかかわることが多くなってくるだ
ろう。そこで2)の目標を掲げ、生徒に示している。
グラウンドでの実技の中でも「みる」を意識 した指導はできるが、予備日②に示したDVD学習がこの目標に即
した学習活動となる。
まずはルールを正確に把握することが必要である。そして、よいプレーとよくないプレーを判断できるよう
になることが求められる。さらに、ゲームの社会的背景を知ることが大切である。ラグビーのワールドカップ
の映像を用いながらこれらを学習し、まとめの提出物を評価の材料とする。
3)は、生徒には最後の時間に伝える「隠れた目標」である。フットボールの教育的意義はさまざまな側面
から捉えることができるが、ラグビー界で語られるいくつかのキーワードは、日常生活においても重要な教訓
を語っているものが多い。ただ単にスポーツの場面だけにこれらの教えをとどめるのでなく、日常生活場面に
広げていくことが大切である。
観点別評価にはなじまないが、長い目でみたスポーツ教育の目標として意識させ、提出物等で判断する。
評価の前提として、まずは出席すること、そして体を 動かすことである。
その上で、「実技」と「提出物」で評価・評定する。提出物に含めた相互評価の項目も参考にしている。
客観的で厳密な評価は難しいが、できる限りの情報をもとに評価・評定する。体育における評価・評定の問
題は、どの教材においても大きな課題である。
7
- 46 -
Ⅴ.学習の展開(2年3・4組=13時間)
前半は「ハンドリングゲーム」、後半は「コンタクトゲーム」として、少しずつラグビーの本質に触れられ
るように授業を構成した。
1)ハンドリングゲーム
=
タッチラグビー
安全面の配慮から、また独特の動き方に慣れる意味から、まずは「ハンドリングゲーム」としてのラグビー
を実施する。
毎時間、「ボール」と「動き方」に慣れる時間を確保し、ラグビー特有のボール操作と動き方を体にしみこ
ませる。
そして、両手タッチによる「タッチラグビー」を4対4で実施するのがこの段階のまとめとなる。
2)コンタクトゲーム
=
モールゲーム
→
ホールドラグビー
授業の中盤から後半にかけて、「身体的接触」に焦点を当てた活動を展開する。はじめからスピードに乗っ
た状態では危険なので、狭いグリッド、小さなスペースで、「モールゲーム」を行いながら、「ホールド」の
定着を図る。
前半で取り組んだ「タッチラグビー」、後半のはじめに取り組んだ「モールゲーム」の要素を合わせて、10
対10でグラウンド半面の「ホールドラグビー」に取り組むのが最終段階である。チームのメンバーの個性を生
かしたポジションの配置、チームでの約束事などを相談してからゲームに臨ませたいが、時間の関係でどうな
るか…
授業の概要は次ページ以降に示した。
8
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2年3・4組男子
ラグビー
授業概要
2013.12.7.
時数
1
期日
10月21日
グラウンド
学習テーマ・内容
「ボール」と「動き方」に慣れる①
1) オリエンテーション
・「ラグビー」の認知度確認
・単元全体の構成と約束事
2) 2人組でボールとともにランニング
・「ボールを前進させる。ただし前方へパスしてはならな
い」という約束事で、アップを兼ねて行う。その後スト
3) ラグビーボールを投げる・捕る
・2人組・その場でのキャッチ&スロー
・4人組・四角形でのキャッチ&スロー
4) 4人組で1対1~2対1の突破-「タッチ」による守備
・ボール保持者(攻撃側)は、約5m幅のコーンの間を、守
備者に「両手タッチ」されずに駆け抜けることができたら
ゴール。守備者は「タッチ」と言いながら両手でタッチで
きれば、相手の攻撃をストップできる。まずは1対1で。続
いて2対1で
2
10月23日
グラウンド
10月28日
グラウンド
1)プレー経験がある者は1人、見
たことがある者は半数、見たこ
とがない者も数人いた
2)「ボールを渡したあとは減速
する」ことがうまくできない
3)楕円球の感触を楽しみながら
やっている。スピンをかけよう
とする者がいるが、まずは指先
ではじく投げ方を指導する
4)1対1では守備側が優勢。2対1
になってもボールより前方にす
ぐ出てしまうのでなかなかうま
くいかない。守備者にいは
「タッチ」と言わせる
「ボール」と「動き方」に慣れる②
1)2)3)ここまでは前回の復習な
ので、テンポ良く進めた。
2) その場でラグビーボールを投げる・捕る(2人組→4人組) 「ボールを渡したあとには減速
する」については理解度に個人
3) 4人組で1対1~2対1の突破-「タッチ」による守備
差がかなりある
1) 2人組でランニングパス
4) 2対2のミニゲーム(タッチラグビー)
・反対側にもコーンを立てて、「攻撃権3回」で2対2の
ゲームを行う。細かなルールは自分たちで決めるが、
「ボールを前方に落としたら(ノック・オン)即座に相手
ボール」とする。
3
生徒の様子・教師の指導
4)ノックオンが多い。パスした
あとに前方に走ってしまうので
フォローが追い付かないことが
多い。あまり点が入らないとき
はゴール幅を広げるように指
示。途中何度か集合をかけて、
モデルゲームを実施。
タッチラグビーの体験①
1) 4人組でランニングパス
1)「飛ばし」「ループ」「ス
・その場で左右にボールを動かす(中と外は適宜入れ替わ イッチ」は、相手プレーヤーが
目の前にいる場面をイメージし
る)。「飛ばし」「ループ」「スイッチ」を紹介
て理解させた。
・走りながら行う。
2) その場でラグビーボールを投げる・捕る(2人組→4人組)
3) 4人組で1対1~2対1の突破-「タッチ」による守備
4)いずれのチームも、横長と縦
4) 4対4のミニゲーム(タッチラグビー)
クラスごとに4チームに分かれて、以下のコートでゲーム 長の両方ができるようにした。
途中何度か集合をかけて、モデ
(長軸が30m弱、短軸が20m強)
ルゲームをみながらルールの確
認をし、良いプレーと改善が必
要なプレーを指摘した。「守備
側のオフサイド(ボールより前
方はオフサイド)」もあわせて
指導した
- 48 -
4
10月30日
タッチラグビーの体験②
1) チームごとにランニングパス・パス練習
グラウンド
2) タッチラグビー大会
・4対4で行う。前半と後半で横長と縦長を変える(対戦相
・5分ハーフで行う。「ベスト8がそろった」ところから大
会が始まる形にし、3試合で順位が決まるノックアウト方
・すべてセルフジャッジで行う
5
11月6日
グラウンド
1)あらかじめ各クラス4チーム作
る(前回とほぼ同じメンバー構
成になっていた)
2)毎試合終了ごとに集合。結果
の確認とルール等の確認・修正
を行った。体力的にはかなり
ハードな内容となった。
コンタクト①「ホールド」の導入&ポイントを作る
1) 4人組でランニングパス
2) すもう
2)背筋を伸ばす(頭を下げな
・右四つまたは左四つの姿勢から押し相撲。ある程度やっ い)、膝を曲げる。前回までと
たら相手を変えて何度か実施
は異なる内容で、生徒たちは興
味深く取り組んでいる
3) ホールド
・ボールを持って前進する相手を「つかまえる(ホール
ド)」。最初はゆっくり、徐々に動きを加えて。ホールド
されたらそれ以上前進できない。ホールドした者は、相手
を保持するのみ(押し返すことはできない。またこの段階
では「回す」こともしない)
3)ここでヘッドキャップを配
布。授業終了時まで自己管理。
これ以降は接触プレーの際には
必ずかぶるよう指示。
動いている相手を捕まえるのに
ためらいがある
4) ショルダリング&パクリ
・ボール保持者は、前方にいる相手側に「つかまる」。た 4)腕をつかまれているのに無理
だしボールを守る。そのため肩から当たり、ボールを後方 して投げようとするからミスす
る、そこで「ショルダリングか
へ差し出す
らのパクリ」という技術が求め
・差し出されたボールを、後方からバックアップした味方 られることを順を追って説明し
が受け取り、さらに前進。まずはパスの形で
た。頭では理解できたようだ
が、味方にショルダリングする
・腕を抑えられてパスできない場面を想定し、味方が、
ホールドされている仲間に「ショルダリングからのパク ことに抵抗がある者がいるよう
だ。
リ」でボールを受け取り前進
・守備側を一人増やして、2対2の形で行う
6
11月11日
グラウンド
本当は「モールゲーム」まで
持っていきたかったが、時間が
足りず、次回送り
コンタクト②モールの形成
1) 4人組でランニングパス
2) すもう
3) タッチラグビーのチームでパス練習~ショルダリングまで
・ホールド成功した守備者は、攻撃側を「回す」ことが可
能(自陣側に持ってくることができる)。攻撃側は「回さ
れない」ように、ホールドされた地点に固定(バインド)
に入る。ここで形成されるのが「モール」
3)「回す」ことを可能にしたた
め、守備者は積極的に回そうと
する。それを阻止すべく、2人目
がバインドに入らなくてはなら
ないが、どうしても遅れがち。
4) モールゲーム
・5m×10m程度の大きさで、4対4のモールゲーム。5mのラ
インをボール保持者が超えたらゴール。ホールドされたら
前進できない。モール形成、球出し、突破の繰り返し。
4)はじめにモデルゲームを見せ
て、ルールの確認とよいプレー
の紹介。途中でも何度か集合を
かけて同様に行った。
・余っている者(見学者がいた)が審判役。ホールドされ 終わりの方には、ポイントを
たら「ホールド」と言ってやることにする。
作ってそこに相手を引き付け、
狭いながらもスペースを見つけ
て走りこむプレーもいくつか見
られた。
- 49 -
7
11月13日
グラウンド
8
11月18日
グラウンド
チームづくり①
1) 4人組でランニングパス
2) すもう
3) 新たにできたチーム(3組と4組を合体)でパス練習~ショ
ルダリングまで
4) モールゲーム(4対4→5対4)
・人数が多い方は、モールの後ろで全体をみる役が生まれ
る。そこが全体をコントロール
5) シャドーゲーム
・チーム全員でボールを前進させてゴールへ運ぶ。どこか
で前進を止められた(ホールドされた)と仮定して、そこ
にモール形成、そこから展開する
4)前回よりも少し広めのグリッ
ドで行う。デモンストレーショ
ンでイメージづくり
5)モールの後ろでボールを引き
出し、左右へ展開する役目が必
要であるということを伝える
チームづくり②
1) 4人組でランニングパス&ストレッチング&その場で四角
1)その場パスは4人でボール2個
形でパス
2) 2人組で、①短いパス、②長めスピンパス、③キックと
キャッチ
・いつもやっている「短くて素早いパス」だけでなく、
「遠くへのスピンパス」も練習
2)②スピンパスは、簡単なデモ
ンストレーションと解説だけで
すぐ実践。すでに練習している
者もいたので、できる者はでき
る。
・ボールを縦に持ってそのまま落とし、足の甲でキック。 2)③キックとキャッチも、「全
はじめは近距離、徐々に離れていく。キャッチが重要! 員ができなくてもいい」という
観点で紹介。どのような場面で
有効かは、あとで説明。
3) ラグビーのポジション
・15人制ラグビーにおけるポジションの名称と役割
・授業で採用する10人制の場合のポジション名と役割
フォワード
○○○
スクラムハーフ
○
スタンドオフ
○
ハーフバック
3/4(スリークォーター)バック
○
WTB
フルバック
○
○
CTB
○
WTB
3)ほとんどの生徒がラグビーの
ポジションのことをまったく知
らなかったようで、食い入るよ
うに説明を聞いていたのが印象
的。このクラスのラグビー部員
は「フルバック」とのことなの
で、フルバックの仕事を説明し
てもらった。
○
・スクラムの第一列の組み方と、授業における簡易スクラ ・レフェリーのコールは、「ク
ム(押し合いなし)の方法。押し合いはなく、形式のみの ラウチ→タッチ→ホールド→エ
スクラムとする。
ンゲイジ」から、「クラウチ→
バインド→セット」に変更にな
り、授業でもこちらを採用する
ことを伝える(少しでも「本
物」に近づける)。
4) チームごとに、スクラムorモールからの展開練習
・ポジションを決め、チームごとにシャドウゲームを進め 4)モールからすぐにボールを出
る。スクラムから開始し、ウィングにボールが回るがホー そうとあわててしまう。何度か
ルドされてポイントを作り、バインド役(フォワード)が 繰り返すうちに各自の思いが
徐々に合ってくる。
入ってモールを形成、そこから次へ展開…
- 50 -
9
11月20日
ホールドラグビーの体験① ためしのゲーム
グラウンド 1) チームごとにアップ
・ランニングパス、その場でのパス、すもう、ショルダリ
ング、キックとキャッチなどをやったあと、チーム全員で
シャドーゲーム
2) ためしのゲーム
1)チームごとにやるべきことが
できていた。「早くゲームがや
りたい」とうずうずしているよ
うな印象
2)どんなゲーム様相になるの
か、みなが興味津々で互いの
・半面で10対10のゲーム(足りないところは待っている
チームから借りる。ただし「助っ人」として他のチームに ゲームをみていた。終了後、い
駆り出された者は、二度と「助っ人」となることはできな くつかルールについての疑問や
提案があった。
い)
・7分1本。センタースクラムから始める。ボールがタッチ
・後方から戻ってきての「ホー
を割ったら5mスクラムで再開。
ルド」はありか?
・レフェリーは中塚が行う。タッチジャッジは(この日 ・守備のオフサイドはどこまで
厳しく取られるのか
は)置かない
10
12月2日
グラウンド
11
12月4日
グラウンド
ホールドラグビーの体験②
1) チームごとにアップ
2) チーム練習
3) 半面でゲーム(7分)
試合をやっていないチームからタッチジャッジを出す。
インゴールで守備側がボールを持ったら5mスクラムで再
開
1)2)10日以上あいたので、基礎
的な部分の確認を行った
3)ホールドの概念について試合
前に再確認した。ゲームは個人
の突破力に依存した内容がほと
んどで、意図したような展開に
ならない。
ホールドラグビーの体験③
1) チームごとにアップ
2) チーム練習
3) 半面でゲーム(7分×前後半)
試合をやっていないチームからタッチジャッジを出す
12
12月9日
映像学習
グラウンド
13 12月11日
映像学習
3)「ポイントを作って展開する
こと」を強調した。何度かよい
展開が見られたが、ほとんどの
場面で「つかまったから止ま
り、ボールを出して突進する」
ことの繰り返し。意図的なチー
ムプレーはなかなか見られな
い。全体的にあわて気味。
予備日① タッチフットボールの学習
1) 体育館ミーティングルームで「フラッグフットボール」の 1)2)「1回の攻撃権につき一度だ
け前方へのパスが認められる」
映像学習(約15分)
ゲームであることを言う。守備
2) グラウンドで、ラグビーのチームごとにアップ~「タッチ はタッチラグビー同様、ボール
フット」まで実施。人数は5対5。フットサルコートぐらい 保持者への「両手タッチ」とす
る。
の広さでまずはやってみる。
予備日② 見るスポーツとしてのラグビーの学習
1) 教室にてDVDをみながら「みるスポーツとしてのラグ
ビー」の学習。映像は2011ラグビーワールドカップの
ニュージーランドvsフランス
- 51 -
試合前の様子から、本格的なラ
グビーのゲームの雰囲気を味わ
う。試合中、ところどころゲー
ムを止めて解説を加える。
導入の授業 2年5・6組男子「ラグビー」 時案
2013.12.7.
1 日時
2013年12月7日(土) 11:20~12:10
2 場所
グラウンド
3 学習者
2年5,6組男子(42名)
4 単元名
ラグビー
5 本時の位置
全16時間中の1時間目
6 本時の目標
1)本単元の目標と内容を把握する
①教材「ラグビー」の理解
②本単元の目標と内容
2)ラグビーの「ボール」と「動き方」に慣れる
①ラグビーボールの投げ方・捕り方
②「前パスなし」の制約の中でのボールの運び方
③「両手タッチ」での守備
3)いま、何をすべきかを考え、主体的に行動する
7 準備
・ラグビーボール21個
・コーン20本
8 展開
段階 時間
学習内容
集合・整列・挨拶・点呼
学習活動
指導上の留意点
1)教師の号令で「4列横隊」に整列
3分
・「基準」を決める
・基準は教師が示す
・4列横隊に整列する
・あえて緊張感のあるムードをつくる
が、理不尽さを感じさせないように、
さりげなく整列の指示をする
・このクラスは1年次以来。当時の
最初の授業のことを思い出させる。
・列を整えるために「右へならえ」をする
2)教師の号令で挨拶・着座・点呼
・大きな声で挨拶、点呼にも大きな声で返事する
導
オリエンテーション
着座のまま、オリエンテーションを受ける
入
(
)
1
0
分
1.教材「ラグビー」について
・年内は、研究授業の1回のみ。1月から本格的に始まる。研究授業なのでいきなり「大
観衆」がいるが、興奮しないように。
発問1)ラグビーをやったことがある人?
発問2)ラグビーをテレビでみたことがある人? 競技場でチケット買って見に行ったこと 1)2)挙手させる
7分 がある人? 海外でみたことがある人?
3)数人を指名して回答を得る。でき
れば「みたことがない」生徒からもコ
解説.1980年代は学生スポーツを中心にラグビーが非常に盛り上がっていた。サッカー メントをもらう。
には閑古鳥が鳴いていた。その後、サッカーはJリーグが誕生し、オリンピックやワール
ドカップの常連国(ワールドカップは開催国にまでなった)となり、日本におけるメジャー
スポーツとなっていった。一方ラグビーは、テレビに取り上げられない時代が長く続き、
低迷している。しかし2016年のオリンピック種目に7人制ラグビーが採用され、2019年に
は「世界3大スポーツイベント」と言われるラグビーのワールドカップが日本にやってく
る。このタイミングでラグビーを学ぶことには大きな意味があるだろう。
発問3)「ラグビー」の印象は?
- 52 -
2.本単元のねらい
①するスポーツとしてのラグビーが楽しめるようになる … プレーを楽しもうというこ
と。正式なルールだと、確かに「痛い」し「怖い」し「危ない」。だからルールの工夫をしな
がら、タッチラグビーからホールドラグビーまでを体験し、ラグビーの楽しさに触れてもら
いたい。
②見るスポーツとしてのラグビーが楽しめるようになる … 生涯スポーツとしてはこち
らの方が関わりが深くなるかもしれない。2019年へ向けてラグビー観戦の達人になろ
う。
③ラグビーを通して“人生”を語ることができるようになる … サッカーとルーツは同じ。
根底に流れる思想も同じ。英国風のフェアプレー精神やスポーツマンシップは、実社会
においても通用する大切な考え方。プレーしたり、見たりしながら考えよう。
導
入
3.本時のねらいと流れ
「ボール」と「動き方」に慣れるというのが本時のねらい
最後はディフェンスをつけた1対1や2対1を行う
単元のねらいは、ここでは「スロー
ガン」の形で、大きな目標だけを提
示する。細かな内容についてはあま
り言わない(むしろ活動時間を確保
したい)
キーワードのみ伝え、すぐさま動け
るようなムードをつくる
Ⅰ.ラグビーボールの「運び方」-2人組でランニングパス
・「ボールを前進させ
る」ことの重要性
1)ボールとともにランニング①
2人組をつくり、ボール1個を前進させる。ただし前方へパス
はできない。
1)2人組はすみやかにつくるよう促
す。余った者は3人で行う
・まずは1往復。2往復目は「より速く」ボールを目的地へ持って 1)二人で声をかけながら行うよう、
いくよう心掛ける。
促す。
(
展
開
Ⅰ
2)ストレッチング&振り返り
体操・ストレッチを行いながら、「どうすれば前パスなしでボー 2)教師が指示する
ルをすばやく前進させることができるか」を確認する。
5分
)
5
分
発問Ⅰ-1)どうすれば前パスなしでボールを素早く前進させることができるか
解説Ⅰ-1)ボールより前方にいる人は関与できない。ボールをもらう前に加速し、ボー
ルを渡したら減速するように、スピードコントロールが重要。
3)ボールとともにランニング②
ペアを替えてもう一往復行う
集合
生徒の様子を観察しながら、デモン
ストレーショを交えて解説する
3)よりスピーディにできているか、観
察しながら言葉かけをする
・教師の回りに集合する
Ⅱ.ラグビーボールの「投げ方」「捕り方」-パスとキャッチ
解説.ボール操作と投げ方・捕り方
・楕円球は、慣れれば、投げる・捕るのに好都合な形であることがわかる。できるだけ
ボールに触れて、楕円球に馴染んでもらいたい。
・指先のボール間隔は重要。それに加えて、勢いをボールに与えるためには体全体を
使ってボールに“魂”を込めることが大切。
・受け取る側は、決してボールを落とさない。ボールをキャッチする前に指を開いて準備
をし、勢いを和らげる工夫をする。
5分 ・右側・左側の両方練習することが必要
展
開
Ⅱ
(
)
1
0
分
デモンストレーションしながら説明す
る。ボールをスピンさせようとする者
がいるだろうが、「まずは指先では
じく感覚を身につけること」を指導す
る。
楕円球の感覚
1)短い距離でパス
先ほどの二人組で、2~3mの距離でパス。まずはその場で
ボールをはじくような感覚で、正面にいる相手に渡す。
身体全体を使った捕
球・投球動作
2)勢いをつけたパス
二人の距離を5~10mに広げながら、勢いをつけてボールを 2)「行ってくれ~」と言いながらボー
渡す。バックスイング、足の踏み出し、フォロースルーを忘れず ルを渡す。この段階ではスピンパス
に。キャッチする側は、ボールの勢いを和らげながら受け止め はさせない。
る。決してこぼさない。
3)4人組で四角形になってパス①
隣のペアと組んで四角形になってパス(対角線へはパスしな 3)まずは説明なしでやらせてみる
い)。
4)あるグループの周りに集合し、実際にやっているところを観
察する。
素早い捕球・投球動作 ・キャッチした腕の動きが次のバックスイングとフォロースロー
4)一つひとつの動きに注目させる。
につながっているか(素早いキャッチ&スロー)
5分
よい動きも指摘する。
声を掛け合うことの重 ・そのために右回りのときは左足、左回りのときは右足を出せ
要性
ているか(全体を向いているか)
・互いに声をかけながらリズミカルにできているか
5)4人組で四角形になってパス②
観察したことを踏まえてより素早く、正確にパス。
5)競争には罰ゲームを設ける
最後は「右回り20回、左回り20回」の競争。落としたらゼロに
戻る。
- 53 -
Ⅲ.1対1の攻防-相手の「かわし方」と「両手タッチ」による守備
集合
・教師の回りに集合する
・1対1の攻防について、デモンストレーションをみながら説明を
受ける
ボール保持者(ア
タッカー)は、DFに
タッチされないように
コーンの間を駆け抜
ける。DFは両手で
タッチしたら攻撃者を
阻止できる。コーン
の幅はやりながら考
える。
10分
守備者は必ず両手タッチ。タッチす
るときは「タッチ」と大声で言うように
指示する。
1)活動場所の確保
素早いフットワークと
「タッチ」による守備
効果的な場の設定
展
開
Ⅲ
・パス練習をした4人組で行う。コーンを持ってきて活動場所を 教師は巡回しながら指導する。
確保する。攻撃方向や隣との距離など、安全面の配慮をす
安全に留意しながら練習の場が確
る。
保できているか、自分たちのレベル
2)1対1の攻防
に応じたゴールの設定ができている
かなどを中心に指導する。
・適宜交替しながら1対1の攻防を行う。
待っている間は、仲間のプレーを観察して評価しあう。
(
Ⅳ.2対1の攻防-相手の「かわし方」と「両手タッチ」による守備
2
0
分
集合
)
・教師の回りに集合する
・2対1の攻防について、デモンストレーションをみながら説明を
受ける
アタッカーは2名。
ボール保持者がDF
にタッチされないよ
うにボールを運び、
コーンの間を駆け抜
ける。DFはボール保
持者に両手でタッチ
したら攻撃者を阻止
できる。
生徒(または教師)によるデモンスト
レーションをみながら解説する。
10分
解説:「ボールを持ったら前進すること」が大前提。DFは前進を阻止するためにタッチし
にくる。頃合を見計らってもう一人の仲間にボールを渡せばよい。ただし、ボールより前
方にいる者はプレーに関与できないので要注意。
守備者を引き付ける動 1)2対1の攻防
きとタイミングの良いパ ・同じ4人組で2対1を行う。グループ内で適宜組み合わせを変
4人でコミュニケーションを取りなが
ス
え、アタッカーとディフェンダーの両方ができるようにする。
ら進めているかどうか、巡回しなが
ら指導する。
工夫された動きとコミュ 2) 2対2の攻防
様子をみて、できそうだったら2対2でやってみる
ニケーション
ノーサイド精神
・教師の笛で練習終了。互いに握手ののち、集合
本時のまとめ
整
集合
理
・教師のまわりに集合、着座
(
何名かの生徒を指名して、感想を
引き出す
・生徒の感想
5
分
・教師からの講評
5
分
)
・次回の確認
次回は1月。そこから本格的にはじまる。それまで元気で!
挨拶・片づけ
- 54 -
導入の授業 2年5・6組男子「ラグビー」 副案
2013.12.7.
1 日時
2013年12月7日(土) 11:20~12:10
2 場所
体育館大アリーナ
3 学習者
2年5,6組男子(42名)
4 単元名
ラグビー
5 本時の位置
全16時間中の1時間目
6 本時の目標
1)本単元の目標と内容を把握する
①教材「ラグビー」の理解
②本単元の目標と内容
2)ラグビーの「ボール」と「動き方」に慣れる
①ラグビーボールの投げ方・捕り方
②「前パスなし」の制約の中でのボールの運び方
③「両手タッチ」での守備
3)いま、何をすべきかを考え、主体的に行動する
7 準備
・ラグビーボール21個(きれいに拭いて準備する)
・コーン20本
8 展開
段階 時間
学習内容
集合・整列・挨拶・点呼
学習活動
指導上の留意点
1)教師の号令で「4列横隊」に整列
3分
・「基準」を決める
・基準は教師が示す
・4列横隊に整列する
・あえて緊張感のあるムードをつく
るが、理不尽さを感じさせないよう
に、さりげなく整列の指示をする
・このクラスは1年次以来。当時の
最初の授業のことを思い出させる。
・列を整えるために「右へならえ」をする
2)教師の号令で挨拶・着座・点呼
・大きな声で挨拶、点呼にも大きな声で返事する
オリエンテーション
着座のまま、オリエンテーションを受ける
1.教材「ラグビー」について
導
・年内は、研究授業の1回のみ。1月から本格的に始まる。研究授業なのでいきなり「大
観衆」がいるが、興奮しないように。
発問1)ラグビーをやったことがある人?
入
発問2)ラグビーをテレビでみたことがある人? 競技場でチケット買って見に行ったこと 1)2)挙手させる
がある人? 海外でみたことがある人?
発問3)「ラグビー」の印象は?
(
)
1
0
分
解説.1980年代は学生スポーツを中心にラグビーが非常に盛り上がっていた。サッ
カーには閑古鳥が鳴いていた。その後、サッカーはJリーグが誕生し、オリンピックや
ワールドカップの常連国(ワールドカップは開催国にまでなった)となり、日本におけるメ
ジャースポーツとなっていった。一方ラグビーは、テレビに取り上げられない時代が長く
7分 続き、低迷している。しかし2016年のオリンピック種目に7人制ラグビーが採用され、
2019年には「世界3大スポーツイベント」と言われるラグビーのワールドカップが日本に
やってくる。このタイミングでラグビーを学ぶことには大きな意味があるだろう。
- 55 -
3)数人を指名して回答を得る。でき
れば「みたことがない」生徒からもコ
メントをもらう。
2.本単元のねらい
①するスポーツとしてのラグビーが楽しめるようになる … プレーを楽しもうというこ
と。正式なルールだと、確かに「痛い」し「怖い」し「危ない」。だからルールの工夫をしな
がら、タッチラグビーからホールドラグビーまでを体験し、ラグビーの楽しさに触れてもら
いたい。
②見るスポーツとしてのラグビーが楽しめるようになる … 生涯スポーツとしてはこち
らの方が関わりが深くなるかもしれない。2019年へ向けてラグビー観戦の達人になろ
う。
③ラグビーを通して“人生”を語ることができるようになる … サッカーとルーツは同
じ。根底に流れる思想も同じ。英国風のフェアプレー精神やスポーツマンシップは、実
社会においても通用する大切な考え方。プレーしたり、見たりしながら考えよう。
3.本時のねらいと流れ
「ボール」と「動き方」に慣れるというのが本時のねらい
最後はディフェンスをつけた1対1や2対1を行う
単元のねらいは、ここでは「スロー
ガン」の形で、大きな目標だけを提
示する。細かな内容についてはあ
まり言わない(むしろ活動時間を確
保したい)
キーワードのみ伝え、すぐさま動け
るようなムードをつくる
Ⅰ.ラグビーボールの「運び方」-2人組でランニングパス
・「ボールを前進させ
る」ことの重要性
1)ボールとともにランニング①
2人組をつくり、ボール1個を前進させる。ただし前方へパス
はできない。
1)2人組はすみやかにつくるよう促
す。余った者は3人で行う
・まずは1往復。2往復目は「より速く」ボールを目的地へ持って 1)二人で声をかけながら行うよう、
いくよう心掛ける。体育館の長軸方向で行う。
促す。
(
展
開
Ⅰ
2)ストレッチング&振り返り
体操・ストレッチを行いながら、「どうすれば前パスなしでボー 2)教師が指示する
ルをすばやく前進させることができるか」を確認する。
5分
)
5
分
発問Ⅰ-1)どうすれば前パスなしでボールを素早く前進させることができるか
解説Ⅰ-1)ボールより前方にいる人は関与できない。ボールをもらう前に加速し、ボー
ルを渡したら減速するように、スピードコントロールが重要。
3)ボールとともにランニング②
ペアを替えてもう一往復行う
集合
生徒の様子を観察しながら、デモン
ストレーショを交えて解説する
3)よりスピーディにできているか、観
察しながら言葉かけをする
・教師の回りに集合する
Ⅱ.ラグビーボールの「投げ方」「捕り方」-パスとキャッチ
解説.ボール操作と投げ方・捕り方
・楕円球は、慣れれば、投げる・捕るのに好都合な形であることがわかる。できるだけ
ボールに触れて、楕円球に馴染んでもらいたい。
・指先のボール間隔は重要。それに加えて、勢いをボールに与えるためには体全体を
使ってボールに“魂”を込めることが大切。
・受け取る側は、決してボールを落とさない。ボールをキャッチする前に指を開いて準
備をし、勢いを和らげる工夫をする。
5分 ・右側・左側の両方練習することが必要
展
開
Ⅱ
(
)
1
0
分
デモンストレーションしながら説明す
る。ボールをスピンさせようとする者
がいるだろうが、「まずは指先では
じく感覚を身につけること」を指導す
る。
楕円球の感覚
1)短い距離でパス
先ほどの二人組で、2~3mの距離でパス。まずはその場で
ボールをはじくような感覚で、正面にいる相手に渡す。
身体全体を使った捕
球・投球動作
2)勢いをつけたパス
二人の距離を5~10mに広げながら、勢いをつけてボールを 2)「行ってくれ~」と言いながらボー
渡す。バックスイング、足の踏み出し、フォロースルーを忘れ ルを渡す。この段階ではスピンパス
ずに。キャッチする側は、ボールの勢いを和らげながら受け止 はさせない。
める。決してこぼさない。
3)4人組で四角形になってパス①
隣のペアと組んで四角形になってパス(対角線へはパスしな 3)まずは説明なしでやらせてみる
い)。
4)あるグループの周りに集合し、実際にやっているところを観
察する。
素早い捕球・投球動作 ・キャッチした腕の動きが次のバックスイングとフォロースロー
4)一つひとつの動きに注目させる。
につながっているか(素早いキャッチ&スロー)
5分
よい動きも指摘する。
声を掛け合うことの重 ・そのために右回りのときは左足、左回りのときは右足を出せ
要性
ているか(全体を向いているか)
・互いに声をかけながらリズミカルにできているか
5)4人組で四角形になってパス②
観察したことを踏まえてより素早く、正確にパス。
5)競争には罰ゲームを設ける
最後は「右回り20回、左回り20回」の競争。落としたらゼロに
戻る。
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Ⅲ.1対1の攻防-相手の「かわし方」と「両手タッチ」による守備
集合
・教師の回りに集合する
・1対1の攻防について、デモンストレーションをみながら説明を
受ける
ボール保持者(ア
タッカー)は、DFに
タッチされないように
コーンの間を駆け抜
ける。DFは両手で
タッチしたら攻撃者
を阻止できる。コー
ンの幅はやりながら
考える。
守備者は必ず両手タッチ。タッチす
るときは「タッチ」と大声で言うように
指示する。
10分
1)活動場所の確保
素早いフットワークと
「タッチ」による守備
効果的な場の設定
・パス練習をした4人組が二つ合体して8人組を作る(余ったと
教師は巡回しながら指導する。
ころは分かれる。全体で5グループできるとよい)。コーンを
持ってきて活動場所を確保する。攻撃方向や隣との距離な
安全に留意しながら練習の場が確
ど、安全面の配慮をする。
保できているか、自分たちのレベル
に応じたゴールの設定ができてい
2)1対1の攻防
るかなどを中心に指導する。
・適宜交替しながら1対1の攻防を行う。
待っている間は、仲間のプレーを観察して評価しあう。
展
開
Ⅲ
(
Ⅳ.2対1の攻防-相手の「かわし方」と「両手タッチ」による守備
2
0
分
集合
)
・教師の回りに集合する
・2対1の攻防について、デモンストレーションをみながら説明を
受ける
アタッカーは2名。
ボール保持者がDF
にタッチされないよ
うにボールを運び、
コーンの間を駆け抜
ける。DFはボール保
持者に両手でタッチ
したら攻撃者を阻止
できる。
生徒(または教師)によるデモンスト
レーションをみながら解説する。
10分
解説:「ボールを持ったら前進すること」が大前提。DFは前進を阻止するためにタッチし
にくる。頃合を見計らってもう一人の仲間にボールを渡せばよい。ただし、ボールより前
方にいる者はプレーに関与できないので要注意。
1)2対1の攻防
守備者を引き付ける動
きとタイミングの良いパ ・1対1と同じグループで2対1を行う。グループ内で適宜組み合
わせを変え、アタッカーとディフェンダーの両方ができるように 4人でコミュニケーションを取りなが
ス
ら進めているかどうか、巡回しなが
する。
ら指導する。
工夫された動きとコミュ
2) 2対2の攻防
ニケーション
様子をみて、できそうだったら2対2でやってみる
ノーサイド精神
・教師の笛で練習終了。互いに握手ののち、集合
本時のまとめ
整
集合
理
・教師のまわりに集合、着座
(
何名かの生徒を指名して、感想を
引き出す
・生徒の感想
5
分
・教師からの講評
5
分
)
・次回の確認
次回は1月。そこから本格的にはじまる。それまで元気で!
挨拶・片づけ
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