楕円球の行方に想いを託す

時の言葉
楕円球の行方に想いを託す
東京海上日動火災保険株式会社
青森支店長
今年はオリンピックイヤーの狭間にあたる
が、 4 年に一度のラグビー・ワールドカップが
聖地イングランドで開催される年。そして 4 年
後の2019年、9 月から10月の約 6 週間にわたり、
アジア地域で初めてのラグビー・ワールドカッ
プがいよいよ日本で開催される。東北からは、
仙台市と岩手県・釜石市が開催都市立候補地と
して名乗りを上げている。
ふと気づけば、私もラグビーの(オールド)
ファンの一人に仲間入りをしている。胸が躍る
思いで新年を迎えた。
2016年のリオ五輪より、 7 人制ラグビーが男
女共に正式種目となる。2019年の第 9 回ワール
ドカップ日本大会は、ラグビーがオリンピック
入りしてから初のワールドカップとなり、延べ
40億人が視聴する全48試合に世界の注目が集ま
る。
近代ラグビーの起源は1823年まで遡る。イン
グランドのパブリックスクール「ラグビー校」
で、フットボールの試合中、突然、ボールを持っ
てゴールに走り出した少年がいた。ウイリアム・
ウエッブ・エリス(William Webb Ellis)少年
である。我が国では1899年に、慶應義塾大学の
英文学教員で、ケンブリッジ大学でラグビー選
手だったE.B.クラーク氏が、初めて学生に指
導した。エリス少年に因んで、ワールドカップ
の優勝トロフィーは「ウエッブ・エリス・カッ
プ」
と名付けられ、
世界各国のトッププレーヤー
たちがプライドをかけて獲得を目指す。
さて、ラグビーの魅力は、と問われたらプレー
ヤーやファンたちは何と答えるだろうか?
「男のスポーツ」、いやいや、女子ラグビー
がオリンピックの正式種目になる時代である。
体と体のぶつかり合い、激しいタックルを起点
とするボールの争奪戦、ロングパスと華麗なス
テップがもたらすスピード溢れる攻防、等々、
枚挙に暇がない。
かつてフランス代表チームの名将として活躍
したジャン・ピエール・リーブ氏は、
「ラグビー
は少年をいち早く大人にし、大人にいつまでも
少年の魂を抱かせる」とラグビーの魅力を語っ
た。近年、ボールの材質が革から合成皮革に変
吉澤 英雄
わり、軽く滑りにくくなったため、ルール改正
と相俟ってスピード感が増し、迫力あるダイナ
ミックな試合が展開されるようになった。
ところで、ラグビーボールは何故「楕円球」
なのだろうか?当初、豚の膀胱に空気を入れて
膨らませたボールを使っていたため完全な球形
にならなかったことに端を発していると聞く。
予測し難い転がりを見せるこのボールが、さま
ざまなドラマを生むのである。
しかし、多くのラグビーファンは、ラグビー
の魅力をその精神に見出していると思う。精神
性を重んじるラグビーは、数々の名言を生んで
きた。「One for all, All for one」〜一人はみん
なのために、みんなは一人のために〜 は、誰
もが耳にしたことがある言葉であろう。自分の
身体を張って味方に最善のパスを渡すという自
己犠牲の精神が、このスポーツの根幹にある。
昭和の終りに近い頃、若かりし私が学んだ指
導者は、「トライ後のガッツポーズは見苦しい。
そこまでボールを繋いでくれた14人への感謝、
試合に出られなかった控え選手や多くの部員た
ちの気持ちに想いを馳せろ」と教え、学生チー
ムを日本一に育て上げた。そして、その教えは
今日まで継承されている。
For the teamの精神から生まれるひたむきさ
が、人々の心を打つ。それこそがラグビーの魅
力だと思う。どちらに転がるか予測不能な楕円
球に想いを託すスポーツ、そのボールの行方に
人生を重ねて語る人さえもいる。
2019ワールドカップ日本大会に向けて、この
スポーツの素晴らしさを、一人でも多くの方と
分かち合いたい。
先行きの不透明感がまだ拭いきれない2015年
の初めに、青森の更なる発展、未来に向けて、
ラグビースピリットは教えてくれている。
「One
for all, All for one」の精神。私は、
「一人はみ
んなのために、みんなは一つのために」との想
いを込めたい。青森県の素晴らしさ、大自然、
豊かな食材、そして温かい人柄。それら全てを
一つの理念にまとめ上げ、青森県統一のブラン
ド価値として、全国へ、いや、全世界へ発信し
ていくという想いに他ならない。
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