持続可能な消費に向けた指標開発と その活用

平成 16 年度二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業費補助金
地球環境国際研究推進事業
持続可能な消費に向けた指標開発と
その活用に関する研究
(報告書概要版)
2005 年 3 月
社団法人
未踏科学技術協会
持続可能な消費に向けた指標開発とその活用に関する研究
報告書概要版
(平成 16 年度)
目
次
はじめに ....................................................................... 1
第1章
持続可能な消費の枠組みと具体例収集および分析
1.1
研究動向調査による事例の収集と概念の整理 ................................. 3
1.2
欧州における受容性評価手法の分析 ......................................... 5
1.3
地域経済モデルを使った家庭の持続可能な消費の研究 ......................... 6
第2章
環境効率指標の開発と普及策の提示
2.1
機能の定量化による製品の環境効率指標の開発 ............................... 9
2.2
消費者調査による社会受容性の定量的評価手法の開発 ........................10
2.3
消費パターンの変化による幸福度の変化の定量化評価 ........................13
2.4
環境効率指標によるライフスタイル評価 ....................................17
2.5
ビジネスにおける持続可能な消費の潜在性調査と普及可能性分析 ..............20
2.6 コミュニティーを基礎とした PSS 評価と普及策の提示........................22
2.7
持続可能な消費の普及促進策の提示 ........................................24
2.8
持続可能な消費に向けた新しい生産工学の考え方 ............................26
第3章
国際的な場での活用方法の提示
3.1
国際的なグリーン購入活動における活用の提示 ..............................28
3.2
ワークショップのまとめ ..................................................31
3.3
研究会のまとめ ..........................................................32
まとめ ........................................................................34
関連サイト ....................................................................35
0
成果報告書概要版(平成 16 年度)
はじめに
(社)未踏科学技術協会では、2002 年 11 月より3年計画で「持続可能な消費」に関するプロジ
ェクトを開始した。このプロジェクトは、経済産業省の提案公募事業「二酸化炭素固定化・有効
利用技術等対策事業費補助金(地球環境国際研究推進事業)」として、(独)産業技術総合研究所ラ
イフサイクルアセスメント研究センター長稲葉敦氏をプロジェクトリーダーに実施している。
「持
続可能な消費に向けた指標開発とその活用に関する研究」が、その正式な課題名である。本報告
書は、3年間の成果をまとめたものである。
このプロジェクトの最終目的は、CO2 排出削減に寄与しかつ消費者の受容性が高いことを示す
環境効率指標を開発し、
「持続可能な消費(Sustainable Consumption)」をめざす国際的活動で
その活用方法を提示することである。そのために、以下の方法でプロジェクトを実施した。まず、
「持続可能な消費」として欧州
や我が国で提案されている事例
について持続可能の消費の考え
方を整理し、枠組みを示す。次
に、それぞれの事例で消費者の
行動を想定した CO2 排出量を
プロジェクトの目的と研究内容
• CO2排出削減に寄与しかつ消費者の受容性が
高いことを示す環境効率指標を開発し、「持続可
能な消費(Sustainable Consumption)」をめざす国
際的活動におけるその活用方法を提示する。
持続可能な消費の事例収集と提案
推定し、従来の製品またはシス
テムと比較した CO2 排出抑制
量を推定する。さらに、それぞ
れの事例と従来の製品やサービ
CO2排出抑制量の推定(LCA)
社会受容性の定量的評価
手法の開発
社会受容性を考慮した新たな環境効率指標の開発
スに対する消費者の受容性を定
量的評価し、比較する手法を開
グリーン購入
タイプⅢ エコラベル
包括的製品政策(IPP)
発する。これらを組み合わせて、
消費者の受容性の向上と CO2 排出抑制量を比較する環境効率の向上度を表す指標を提示する。さ
らに、国際的な動きがあるグリーン購入のガイドラインの策定、タイプⅢエコラベルの普及、お
よび包括的製品政策に対して、開発した指標の導入方法を提示することによって、国際的協調の
中で「持続可能な消費」の推進を図っていくこととした。
研究概要
「持続可能な消費」プロジェクトは、研究動向調査による事例の収集と概念の整理、製品の機
能に焦点をあてた環境効率指標、社会受容性を考慮した製品・サービス機能単位での環境効率指
標、および個人のライフスタイルでのCO2排出量を評価する環境効率指標の開発を目的として進
めた。まず、製品機能に関する指標は、環境負荷(分母)、製品機能価値(分子)ともにコンジョ
イント手法を適用して金銭価値に換算することで指標の一般性を高めることとした。次に、製品・
サービス機能単位での環境効率指標の開発のために、一般の消費者が通常の消費行動をするとき
1
どのような点を重視するかを、QFDの手法を使ってどこまで定量的に評価できるか検討し、手法
を改良した。また、個人のライフスタイルに関する環境指標の開発では、いろいろな生活場面で
個人によって異なる「こだわり」に着目し、かつ、リバウンド効果も勘案したうえで、無理なく
CO2排出削減へと誘導する手法に取り組んだ。環境効率指標の重要な要素となっている社会受容
性を評価するために、欧州でのPSS事例による社会受容性の評価や、新たな視点である消費と幸
福度の関係なども分析した。
グリーン購入促進のための製品情報として、指標を利用する場合の課題ついても検討した。こ
れらの「持続可能な消費」に係わる活動を国際協力の下に進め、広く普及するための国際ワーク
ショップを、プロジェクト期間である3年間に日本と欧州において計7回開催した。
研究体制
研究体制
本プロジェクトを推進する
ために、当協会内にプロジェ
経済産業省
クトリーダーである(独)産業
技術総合研究所ライフサイク
ルアセスメント研究センター
(社)未踏科学時術協会
ワークショップの開催/委員会運営等
長稲葉敦氏を委員長とする国
内委員会を設置し、当委員会
国内委員会
の助言を得て実施した。2003
年度は、国内委員会の下に社
会受容性研究会と環境効率指
委員長(プロジェクトリーダー):(独)産業技術総合研究所
ライフサイクルアセスメント研究センター長:稲葉 敦
社会受容性・環境効率指標活用研究会(H15 年度)
「持続可能な生産と消費」食品研究会(H16 年度)
標・活用研究会を、また 2004
年度は、食品研究会を設置し、
「持続可能な消費」に関する
海外研究協力機関
アドバイザリーボード
研究を広く推進する体制とし
た。なお、本プロジェクトに
参加した内外機関は以下のとおりである。
プロジェクト参画機関名
(国内)
・独立行政法人産業技術総合研究所
・グリーン購入ネットワーク
・株式会社文化科学研究所
・株式会社三菱総合研究所
・株式会社日経リサーチ
・社団法人産業環境管理協会
・社団法人未踏科学技術協会
海外
・Büro für Analyse & Oekologie (スイス)
・Norwegian University of Science and
Technology(ノルウェー)
・Sylvatica(アメリカ)
・The Centre for Sustainable Design at the
Surrey Institute of Art & Design, University
College(イギリス)
・The International Institute for Industrial
Environmental Economics at Lund University
(スウェーデン)
・Wuppertal Institute for Climate,
Environment, and Energy(ドイツ)
2
第1章
持続可能な消費の枠組みと具体例収集および分析
1.1 研究動向調査による事例の収集と概念の整理
2002 年にスタートした本持続可能な消費プロジェクトは、海外の具体的な事例収集から始ま
った。これらの事例から持続可能な消費の定義について検討を行い、持続可能な消費に関するウ
ェブサイトや文献を調査するとともに、持続可能な消費を測る新たな指標の開発とその普及につ
いて研究を行ってきた。3年間の本プロジェクトの成果を広く紹介し活用を促すために、これら
の内容を分析し持続可能な消費の研究データベースとしてまとめた。今後更に情報を収集し、デ
ータベースの内容を充実させていくことが、持続可能な消費の促進に不可欠であると考える。
持続可能な消費のデータベースは、全体像としての枠組み図から検索をするシステムとなって
いる。データベースは大きく分けて、コンセプト、ツール、政策及び価値の4分類に分かれてい
る。検索は、それぞれのボタンあるいはキーワードから行うことができる。
検索結果は、そのワードに関する①用語解説、②事例、③本プロジェクトの研究例、④関連す
るウェブサイト、及び⑤文献集の5カテゴリーの一覧表で表示される。次に、それら一覧表から
必要な項目を選択すると、内容が表示される。また、今回開発した環境効率指標の紹介もおこな
っている。
図1
持続可能な消費の体系図
3
データベース全体を、事例、研究事例、ウェブサイト及び文献別にそれぞれを分類して、該当
する項目と登録されているデータベースの件数(登録アイテムの内容には複数のコンテンツがあ
るため、その数とアイテム数は一致しない)を表1に示す。結果として、134 のコンテンツを掲
載している(2005 年2月1現在)。
表1
持続可能な消費の分類と件数
件数
大分類
中分類
3
5
1
2
4
2
0
4
0
2
0
0
0
0
0
23
受容性
コンセプト(概念)
ライフスタイル
コミュニティ
PSS
環境効率
LCA
ツール(手法)
LCC
エコラベル
グリーン購入
コミュニケーション
教育
ポリシー(政策)
バリュー(価値)
プロジェクト SC関連ウェ
研究事例
ブサイト
欧州の事例
EPP
IPP
生活の質
幸福感
合計
2
3
1
5
4
2
0
3
1
0
0
0
1
0
1
23
1
5
7
1
4
0
0
0
0
6
7
0
1
7
3
42
文献
小計
6
17
6
2
2
0
0
1
0
7
0
0
3
1
1
46
合計
12
30
15
10
14
4
0
8
1
15
7
0
5
8
5
67
42
12
13
134
指標群として新たに開発された環境効率指標3点を、下表に示す。
表2
対象領域
利用対象者
環境効率指標一覧
指標1
製品機能
生産者
指標2
指標3
社会受容性 ライフスタイル
生産者・消費者
消費者
持続可能な消費プロジェクトは3年間の研究開発を経て、集大成ともいえる持続可能な消費に
関するデータベースを完成させることができた。豊富な情報の一元化とともに、新たな環境効率
指標作りに取組み、将来の持続可能な消費の実現に、大きく寄与できるものと確信している。特
に、環境効率指標の研究開発は、製品の経済的・機能的価値、消費者行動の定量評価、及びライフ
スタイルのモジュール化といった視点から研究が行われ、それらによって持続可能な消費という
難問に光明を見出したと言える。
4
1.2 欧州における受容性評価手法の分析:ノーカー住宅プロジェクト
1.2.1 概要
ヨーロッパにおける持続可能な消費の事例として、オーストリア、ウィーン市内フロリズドル
フ(Floridsdorf)地区の「ノーカー住宅」
プロジェクトを取り上げ、オーストリア
の産業連関表等を用いた環境負荷分析と、
住民へのアンケートやヒアリングによる
定性的な社会受容性の評価を行った。ノ
ーカー住宅は、ウィーン市郊外の 244 戸
の複合マンションからなり、1999 年にウ
ィーン周辺地域における脱自動車生活の
デモンストレーション・プロジェクトと
して公開された。自転車置き場と共用乗
図2
り合い自動車用のガレージしか設置され
「ノーカー住宅」の外観
ておらず、通常のマンションで駐車場として使われるスペースを、コミュニケーションスペース
や運動場として活用している(図2参照)。
環境負荷の分析にあたっては、この地区に近接し住居の築年数が同等の地区、及びオーストリ
アの平均的世帯の3つの地区の環境負荷を比較検証し、どのような生活状況が家庭の環境影響に
違いを生むのか特定した。
1.2.2 調査手法
本研究は各地区の世帯の社会・経済的特徴、環境動機および家庭の環境影響理解のため、まず
1999 および 2000 年度オーストリア家計支出調査(Kloz 2002)により、オーストリアの平均的
世帯の消費パターンを求めた。次に、オーストリア産業連関表(Kolleritsch
(Eurostat
2004)と環境評価
2001)を用い、世帯の直接エネルギー使用と移動についてはライフサイクルアセス
メント手法を取り入れながら、世帯の環境影響を算出した(下図参照)。
消費パターン分析
・消費者支出調査
拡張産業連関表
世帯の環境影響算出
・各世帯へのヒアリング
図3
調査手順
各世帯へのヒアリングは 2004 年実施され、ノーカー住宅 42 世帯から回答を得た。また、対照
区域の調査は内容を若干簡略化し、46 世帯の回答を得た。
1.2.3 結果と考察
次図にあるように、予想通りノーカー住宅の CO2 排出量は低く、1人あたりのオーストリア人
5
と比較すると、その差はさらに広がる結果となった。ノーカー住宅の CO2 排出量に占める移動シ
ェアは他と比べるとわずかに低く(35%、対照世帯では 44%、平均的オーストリア人世帯では
42%)、排出の 53 %は、食品、ホテルおよびレストラン、「その他」といったカテゴリーと関連
している。
8 000
0.49 kg/€
7 000
1
人
あ
た
り
kg CO2 emissions per capita
6 000
CO2
排
Other
その他
5 000
ホテル+レストラ
Hotel+Restaurant
0.40 kg/€
ン
0.33 kg/€
Food
食品
Car
+ moped
車+オートバイ
4 000
休日移動
HolidayTransp
公共交通
Publ.Transport
3 000
エネルギー
Energy
2 000
出
量
1 000
Car free
ノーカー
図4
Reference
対照
Average
オーストリア
Austrian
平均的世帯
1人あたり CO2 排出量における2箇所の居住区域と平均的オーストリア人世帯の比較
理由としては、1)両エリアとも灯油やガスを燃料として使用しているが、地域暖房および温
水利用システムを導入している、2)自家用車の使用が少ない、3)平均世帯収入が低い、等が
挙げられる。また、ノーカー住宅の居住者への個別アンケートは非常に高い環境意識を示してい
たが、環境にやさしい行動は、概ね日々の移動(自転車の頻繁な利用および日々のニーズのため
の公共交通機関の利用)に限定されていることがわかった。
今後、実際にその他支出カテゴリーにおいて体系的な相違がないことを確認するためには、よ
り詳細な栄養およびその他の支出データが必要であろう。
1.3 地域経済モデルを使った家庭の持続可能な消費の研究
1.3.1 概要
本研究では、ライフサイクルアセスメント手法を用い、消費者行動モデルと経済モデルの統合
による「動的適応型エージェントモデル」の開発により、消費者1人1人が与えうる社会経済影
響評価モデルの基本的設計を確立した。この研究を進める上でもっとも重要視したのは、個々人
6
のニーズを満たすために必要な費用、すなわち「金銭の社会的効率」である。例えば、先進国で
はニーズを満たす為の費用が途上国に比べて高額であり、先進国の「金銭の社会的効率」は途上
国に比べ低い、ということが言える。この「金銭の社会的効率」の格差を実証する為に、米国労
働統計局の賃金データと地域経済モデル(REMI:Regional Economic Model Inc.)を基に、世
帯レベルの収入・健康・幸福を加味したモデルを設定した。具体的な事例としてカーシェアリン
グを取り上げ、所得の違いによる地域経済および米国全体の経済への影響評価を試みた。
1.3.2 アプローチ
消費に関する主要な決定および消費に伴うニーズの充足は、いずれも世帯レベルで生じる。ま
た、世帯は収入が消費される主たる場所であることから、世帯を構成する家族全員が所得が上下
することによって、健康および福祉というニーズのもっとも基盤となる項目にも変化を与える。
本研究では、まず世帯レベルでの収入、賃金、雇用の影響のモデルとして、米国労働統計局
(Bureau of Labor Statistics)の業種別職業別の賃金に関するデータと地域経済モデル(REMI:
Regional Economic Model Inc.)を組み合わせた。また、CO2 および米国で大規模な大気汚染由
来健康被害を引き起こすことが知られている汚染物質、すなわち一次粒子、二次粒子前駆物質
(NOx、SO2)、対流圏オゾン前駆物質(NOx、VOC)の汚染係数をモデルに追加した。
またここでは、カーシェアリングが 2001 年から 2015 年までほぼ線形的に増加するという動的
シナリオを定め、カーシェアリングにより、自動車と部品、およびガソリンとオイルの双方にお
いて地域の全支出が 2001 年から5%削減するようシミュレーションした。コスト節減分は線形
的に拡大し、2005 年には全体の 10%になり、2015 年には全体の 20%に到達し安定的に推移す
る。このように、輸送効率が向上した結果生じた年間節減額の合計を算出し、
(外因性)個人消費
支出総額が変わらないように、各カテゴリーの個人消費支出を増やす形で節減額を配分した。
1.3.3 結果および考察
持続可能な消費を意思決定する場合、地域の社会経済的効果とサプライチェーン全体にわたる
環境効果の双方に関心を持つ場合が多い。したがって本研究では、LCA の実施にあたり地域的な
シミュレーションと全国レベルのシミュレーションを実施した。この時、地域のカーシェアリン
グ・シナリオに伴い最終需要(純)が変化し、最終需要のシェアも変動すると仮定した。従って、
全国のカーシェアリングは地域シミュレーションで得られた比率(支出に占める割合)で増加す
るものと仮定した。
図5に示す結果から、カーシェアリング・シナリオの地域的な影響は、年とともに増大するこ
とがわかる。これは、国内他地域に対する競争力が向上し、結果として地域の産業への影響が増
加していることを示している。また、賃金が低い業種および職種において大規模な雇用と賃金の
増加が認められる。高額賃金層では、逆に一部に雇用状態の悪化が生じている。
全国レベルでの結果が図6であるが、全く逆の傾向がみられる。最も大きな影響は最初の数年
に発生し、2005 年には安定したプラス影響へ落ち着いている。地域での場合と同様、賃金と雇用
の増加は、賃金の低い業種および職種で非常に大きくなった。高額賃金層では、地域と同様一部
に雇用状態の悪化が生じている。地域および国のシナリオの結果は、世帯の雇用と所得に関する
7
直接的詳細データの基礎となり、賃金および雇用の変化に伴う国民寿命の推計に必要な情報とな
る。
Regional Impacts of Carpooling on Wages b…
カーシェアリングの地域的賃金影響︵$︶
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
0
20K
Key
40K
60K
80K
100K
Wage Bracket
120K
140K
160K
賃金層
Selected Years
特定年度
2001
2005
2010
2015
図5
カーシェアリングの全国的賃金影響︵$︶
National Impacts of Carpooling on Wages by …
特定年度における賃金層別カーシェアリングの地域的賃金影響(単位:名目ドル)
160K
140K
120K
100K
80K
60K
40K
20K
0
0
20K
Key
40K
60K
80K
100K
Wage Bracket
120K
140K
160K
賃金層
Selected Years
特定年度
2001
2005
2010
2015
2015
図6
特定年度における賃金層別カーシェアリング・シナリオの全国的賃金影響(単位:名目ドル)
8
第2章
環境効率指標の開発と普及策の提示
2.1 機能の定量化による製品の環境効率指標の開発
製品単位の環境効率指標の開発のため、環境負荷はライフサイクルベースの統合化指標 LIME
を適用し、製品の価値は主要な機能をコンジョイント分析で価格換算し、それら両項目の比率を
環境効率とした手法を検討した。コンジョイント分析は、評価の単位や重要度が異なる製品の機
能を金額換算することで統合化を可能にする。実際に販売されている市場価格と、消費者が受け
止める価値(コンジョイント分析から導き出した金額)は、概ね相関するものの、メーカーによ
り提供できる価格が異なる。各企業の採算性や設備の実態、ブランドや企業の財務体質に影響さ
れることが予想されるので、コンジョイント分析はその偏りを排除し、製品機能の価値を適切に
評価することができる。
検討の結果、相対的評価ではあるが、LIME とコンジョイント分析の値を基に、環境効率の優
劣をつけることが可能であることが明らかとなった(図7)。
環境効率=
(製品機能による)価値
X(円)[コンジョイント分析]
(統合化による)環境負荷
Y(円)[LIME]
環境効率(温水洗浄便座-貯湯型)
200
900.0
159
環境効率(X/Y)
150
800.0
138
135
114
113
104
77
600.0
100
76
71
71
500.0
400.0
300.0
51
49 44
50
85
76
700.0
116 111
94 98
96
100
77
118
200.0
100.0
0
コンジョイント分析による推計価格計(百円)(X)
温水洗浄便座(貯湯式)の環境効率
23E
22C
21A
20F
19D
18D
17D
16D
15E
14E
13E
12C
11C
9A
10C
8A
7C
6F
5D
4E
3C
2A
1A
0.0
環境効率 (X/Y)
図7
コンジョイント分析による推計価格(百円)(Y),
LIME(円)(X)
1,000.0
LIME Ver.1 (円) (Y)
※数字は製品、アルファベットは企業を識別する
さらに、消費者にとって価格競争力があり同時に機能や性能といった製品本来の価値をもたら
してくれるといった両側面の見方が理想的となる。製品機能の多少の嗜好は個人により異なる。
各自が望む機能の程度に相応した価格でありつつも出来る限り安価で入手できることが望ましい。
環境効率のパフォーマンスと価格競争力の両側面の評価を取り込むため、図8の評価を行った。
横軸(x 軸)に環境効率をとり、縦軸(y 軸)に価格競争力をとった。仮に環境効率の平均をベ
ンチマークとすると次の見方ができる。
9
①環境効率が良く、価格競争力がある製品(右上次元)
②環境効率は良いが、価格競争力がない製品(右下次元)
③環境効率が悪いが、価格競争力がある製品(左上次元)
④環境効率が悪く、価格競争力がない製品(左下次元)
基準の置き方により異なるが、④(左下次元)に該当する4製品は環境効率も悪く、価格競争
力の点からも魅力がないことになる。
温水洗浄便座(貯湯式) 環境効率と価格競争力の関係
2.00
14E
21A
価格競争力(コンジョイント推計価格/市場価格)
12C
13E
6F,1A, 4E
16D
1.00
17D
7C
22C
3C
0
環境効率平均 95
20
40
図8
0.00
60
80
100
120
140
環境効率(製品機能の価値[コンジョイント推計価格])/環境負荷(LIME)
160
180
温水洗浄便座(貯湯式)の環境効率と価格競争力の関係
環境側面だけを基準に製品を選択する場合、
(機能、性能等従来の)製品価値を基準に選択する
場合、環境効率として環境と製品価値の両側面を考慮して選択しようとする場合、それぞれ順位
づけを行うと結果が異なる。ゆえに環境効率をベースとして順位づけを行い、判断することは環
境と製品機能等の価値の両側面を同時評価する際の有効な手段になり得る。また、図8のように
価格競争力の程度も表示して、
「持続可能な消費」行動のベンチマーキングとして一層活用しやす
い環境効率指標とすることもできる。環境効率指標が消費者に受け入れられるか情報提供ツール
としての有効性を検証すると同時に、本提案のような消費者にとり高価値かつ環境配慮型、すな
わち環境効率の高い製品を容易に判断できるようにするための情報開示システムの構築・整備を
継続して検討を進める必要がある。
2.2 消費者調査による社会受容性の定量的評価手法の開発
持続可能な消費の実現には、エネルギー効率または環境効率の高い製品・サービス等を提供す
るとともに、それらの社会受容性を把握することが必須である。本研究の目的は、今まで工業製
品の設計に一般的に用いられてきた品質機能展開(Quality Function Deployment, QFD)手法
を用いて、消費者の生活における行動を定量的に評価する手法を提案することである。
10
労働生活における
知生活における
遊生活における
衣生活における
食生活における
住生活における
生活シーンごとの
要求度のパターンは同一と仮定
基本的要求項目
重要度
経済性:
1.56
利便性:
1.45
快適性:
1.85
環境調和性:1.20
時間節約: 1.02
信頼性:
1.36
出力変数
出力変数
入力変数
行動の目的
行動に特異な
2次要求項目
基本要求項目と2次要求
項目の相関付けはエクス
パート・ジャッジメント
図9
物理的・工学的尺度で
要求項目の特性評価
2次要求項目と選択肢との相関付け
と、受容価値の決定はエクスパート・
ジャッジメント
目的を達成する
ための行動の
選好(受容性)
2次要求項目と選択)
主観的(心理的)
本手法の基礎概念フロー図
この手法を確立するためには、以下の7つの項目について明らかにする必要があった。すなわ
ち、(1)調査した行動およびそれらの行動のクラスタリング、(2)基本的要求および2次要求項目の
設定法、(3)アンケートでの設問法(聴き方)、(4)アンケート調査による重要度の測定および得点
化法、(5)QFD マトリクスの関係値の付け方、(6)受容価値の計算値と実測値との整合性の評価法、
(7)基本的要求と2次要求との関連、の7つの構成部位について明らかにする必要があった。それ
らの各項目について、以下にまとめる。
①調査した行動およびそれらの行動のクラスタリング
研究では、当初、生活シーン(住生活、食生活、衣生活、遊生活、知生活、働生活、その他)
によって行動を6つにグループ分けし、22 行動について調査した。しかし、同一シーン内での基
本要求項目の重要度パターンは必ずしも同じにはならず、また同一シーン内でも選択の範囲や費
用などのレベルの違いが生じた。そのため、生活シーンによるグループ分けを発展させ、製品・
サービスとの関係という軸(耐久消費財、日用材、食事、エネルギー消費、通信・情報、レジャ
ー)で分け、さらにそれぞれ製品の選択とシステムの選択という新たな段階を加え、27 行動につ
いて調査を行った。したがって2種類の分類方法を試みたことになる。ただし、最終的には消費
行動として特異なもの、受容性計算に馴染まない行動は、本手法に不向きと判断し調査行動から
除外している。
②基本的要求および2次要求項目の設定法
当初は、
「通勤する」、
「週末に夕飯をとる」、
「洗濯する」という3つの代表的な日常生活行動に
ついてインターネット調査を行い、2次要求項目を抽出し、ラダリング法により上位概念である
基本要求項目に高次化した。また、ラダリング法の結果を参考にして専門家で議論して決定する
方法も試みた。さらに、心理的要因と物理的要因の存在に注目し、心理的要求項目の代表として
「自分の好みに合う」という項目をすべての調査行動にも含めた。その結果、調査項目の中に心
理的要求項目が存在するか否かによる選択肢の選好への直接的影響は小さいが、物理的尺度では
11
評価しきれない間接的な影響が働いていることが示唆された。最終的に、要求項目としては重要
でも選択肢と無関係の項目は削除し、要求項目の解釈が人によってばらつかないような表現に修
正し、かつ、できるだけ前提条件を明確に定義する努力をした。その結果、行動によっては2次
要求項目の重み付けが合理的な値に改善された。このことにより、QFD のマトリックスを作成し
ながら2次要求項目のワーディングを工夫すると、組み立てる上で点数が付け易いことが明らか
となった。受容価値の推定値が実測値と合わない理由として、2次要求項目の中に詳細な設定条
件が必要なもの、行動頻度が低いために経験や情報が不足しているものが含まれているというこ
とも考えられる。本手法を一般化するためには、意味に誤解を生じさせない明確な言い回しの選
択、物理的評価のできない項目を削除するなどの調整が重要であることがわかった。
③アンケートでの設問法(聴き方)
アンケート調査では、Q1(選択肢の選択)、Q2(要求項目の重み付け)、Q3(行動の頻度)を
聴いた。ただし、最終年度は、質問項目は同じであるが、Q1 と Q2 の関連性を明らかにして質問
した。その結果、Q2 の設問方法を改善することにより、算出される受容価値が実測値に近くな
った項目が増えた。これは、Q1 と Q2 を関連付けて質問することで、なぜ自分がこの手段を選ん
だのかの理由付けとなるように、被験者が Q2 の設問に答えたためと考えられる。このことから、
アンケートの聴き方をより明確化すると、重要度の測定がより精度を高めることが示唆された。
④アンケート調査による重要度の測定および得点化法
当初、Semantic Differential 法(SD 法)を用いて、重要度を測定し得点化した。SD 法は、
回答者は個々の2次要求項目における重み付けはできても、項目間の相対的な評価が困難であり、
また、SD 法による評価特有の中間回答に集中する傾向が確認された。そのような問題を回避し、
項目間の重要度の差異をできるだけ明確にするために、次に、重要な順に要求項目に順位を付け
する順位法を考案した。しかし、基本的には順位法によって回答している以上、項目間の相対比
較ではあるが重要度スコアも間隔尺度値ではないとの懸念から、間隔尺度値を直接測る分配法も
試みた。結果的に両者に大きな差異は見られなかった。
⑤QFD マトリクスの関係値の付け方
QFD マトリクス(2次要求項目の物理的尺度での特性評価)における研究を始めた当初は、
Y. Akao らの方法を取り入れ、それぞれの2次要求項目において独立に関係値を 0、1、3、9
の得点で決めた。しかし、基準のない絶対評価であり相関の決定が曖昧であったため、デルファ
イ法を用いて、5人の専門家が議論を重ねて決定する方法に変えた。その際、それぞれの要求項
目の中で、選択肢との相関が最も低いものに0点、最も高いものに 10 点をつけ、その他の項目
はその尺度の間隔に合わせて相対的に設定することで正規化した。これは、他の要求項目との比
較を行わず、それぞれの項目を独立に扱って正規化することから、最も合理的であると思われる。
ただし、主観的・心理的要素を強く含む要求項目や、要求項目としては重要でも選択肢との相関
において評価が困難な要求項目は、評価方法に課題があることがわかり、最終的にはそれらの要
求項目を削除して2次要求項目の調査を行った。今後、この種の要求項目の評価法についての検
12
討も必要である。
⑥受容価値の計算値と実測値との整合性の評価法
受容価値の計算値と実測値との整合性は、当初、相関係数の二乗(r2)で判断したが、相関係
数(r)が負のときに間違った評価となることを考慮して、最終的に相関係数(r)を用いた。整
合性の評価には、相関係数以外にも実測値と推定値をとる2軸でグラフ化し、それらの点の回帰
線の傾きを求める方法も応用できる。今回、試験的にその判断要素を考案したが、その他の判断
要素の検討も、今後の課題であろう。
⑦基本的要求と2次要求との関連
研究では、当初、22 行動について2次要求の重要度の平均スコアと総和スコアで基本的要求項
目と比較した。いずれの行動においても、平均スコアと総和スコアのどちらの相関が高いかの判
断はできなかったため、2004 年度の本調査では、5つの行動6パターンについて同様の調査を行
った。基本要求と2次要求の関連性を定量的に表す方法は、現時点では限界があったものの、ラ
ダリング法を用いて低次の要求項目を高次の基本的要求の概念へ収束する作業を行うことによっ
て、定性的ではあるが、2次要求項目を基本的要求項目で分類することが可能となった。
この研究で得られた社会受容性の定量化手法を応用することにより、受容価値と環境負荷量の
計算値から「環境効率」を試算することが可能となる。今回、一例として、推定受容価値と直接
受容価値の整合性が比較的高かった「クルマの利用形態」を対象に、この方法で受容価値を評価
する環境効率指標を求めた。実際に受容価値と環境負荷を比較することで、消費者の目的を果た
す行動を手段別に環境効率で評価することが可能であることが示された。これは極めて斬新な方
法であるが、指標の信頼性を確保するためには、さらなる検討が必要である。
2.3 消費パターンの変化による幸福度の変化の定量化評価
1人当たりの CO2 排出量を削減しようとする試みは、限られた成果しかあげられていない。と
りわけ、技術的進歩に依存するアプローチは、サービスにおけるエネルギー効率を高めるという
効果はあるものの、期待したほどの化石燃料消費削減を実現できないことが多い。CO2 排出量の
削減は次に挙げる2つのメカニズムを追加検討することにより、その概念を拡大して適用する必
要がある。第1に、既存の製品やサービスは、より効率的だということだけで新しい製品やサー
ビスに単純に置き換わるわけではない。第2に、消費者は最大の効用(ultimate utility)を最大
化しようとする一方で、エネルギー消費を減らそうという内因性動機づけをまったく持たない場
合が多い。したがって、新技術や新製品の導入による CO2 排出量の変化を予測するためには、消
費パターンおよび最大の効用の変化を予測する方法が必要である。環境ライフサイクルの影響だ
けでなく消費パターンの変化と有用性の変化に与える影響という観点から、様々な活動、製品、
サービスの結果を理解することが、本研究の主たる目的である。
持続可能な消費ツールとして2つの新しいツールを提案する。1つ目は持続可能な消費のデザ
インをサポートするチェックリスト法、2つ目は消費行動およびそれが CO2 排出と幸福に与える
13
影響を定量的に評価する CHap 法である。これらのツールは双方とも、新しく導入する消費行動
が、幸福度、環境負荷、そして消費パターンの変化に与える影響を考慮している。
チェックリスト法は、全てのパラメータが分かっているとは限らない場合で、より持続可能な
行動、製品、サービス(Activities, Products, Services 以下、APS と略)の考案に支援が必要
なとき、持続可能な APS の初期デザイン段階に有用である。この定量評価法は、少なくとも1
年以上市場で取引された APS に限り適用可能であり、既に定着している多数の APS を審査し、
新たに開発された CHap 指標に基づきランク付けすることができる。
評価アプローチである CHap 指標は、家庭の活動と主観的な幸福の変化が確認できるパネルデ
ータを基に構築され、CO2 排出量の変化を評価するハイブリッド法と組み合わせた。この方法に
は、昨年度報告した3つのモジュールが含まれており、それぞれのケーススタディとして、自動
衣類乾燥機、携帯電話、パソコンの導入を選んだ。3つのモジュールは、CHap 指標に統合され
る。この指標により、新しい消費行動の導入によって代替あるいは追随される消費行動など、同
時に起こる変化とリバウンド効果の全てを考慮し、1つの活動が幸福度の増減にどのくらい影響
を与えているのか、CO2 排出量の変化ではどのくらい負担になるのか定量化することができる。
この評価過程は、持続可能な発展に寄与するとされる多数の一連の活動に適用できる。結果はリ
ストにまとめ、幸福度の増減もしくは CO2 排出量の変化またはその双方に基づき、これらの行動
を順位付けする。この2つを組み合わせた新しい指標を CHap と呼び、次式により求める。
CHapi = W *
∆幸福度 i ∆CO 2,i
−
幸福度 ref CO 2, ref
(1)
幸福度は1から5の尺度で測り、CO2 排出量は kg 単位とする。この式により、幸福度の増加
と CO2 排出量の減少が CHap スコアの上昇に寄与する。本稿では幸福度
ref として「2」を用い
ているが、
「平均的な幸福」を感じる人々のスコアが「3」だとすると、∆ 幸福度は通常2以下と
なるからである。CO2,ref についても、同様の方法で年間の1人当たり排出量を 10,000 kg と設定
した。さらに、重み係数 W により、明確な重要度が与えられる。W=1 の重みとは、本研究では、
幸福度が2単位増加することと CO2 排出量を 10,000 kg/a 減少させることに相当すると評価され
ることを意味する。式(2)により、W が設定されれば、全ての活動を CHap の一番高いものから
一番低いものまで順序付けることが可能である。上位と評価された活動は持続可能な消費に寄与
する可能性が一番高く、一番低いスコアの活動は CO2 排出量が高いか、あるいは幸福度にマイナ
スの影響を及ぼすこと(もしくはその両方)が予想される。また、消費弾性率はこの評価法の新
しい要素である。本研究では、活動/製品購入の変化による需要の変化に注目している。弾性率係
数は次式により求める。
e=
導入者の変数変化 (NY) - 非導入者の変数変化 (NN)
非導入者の変数変化 (NN)
14
=
NY − NN
NN
(2)
誘導消費の変化に起因する CO2 排出量の算出については次式を用いた。
CO2 排出量= e×NN×I =(NY-NN)×I
(3)
I は関連する CO2 原単位で、日本経済を対象とした産業連関表分析より、携帯電話、パソコン、
衣類乾燥機の3例にプロセス分析をし、文献データを用いて算出した。消費の変化と幸福度の変
化に関するデータは、変化年度(y)と前年度(y-1)で非導入者グループ(NN)と導入者グル
ープ(NY)の変化量の差を用いた。
中国の故事で、ガーデニングは人を幸せにすると言われている。表3にはチェックリスト法の
結果を示しているが、
「犬を飼う」、
「週末を利用した家の修繕や散歩」
、
「ヨガ教室」などをガーデ
ニングの代替活動と仮定した。
表3
持続可能な消費チェックリスト評価表
S
N
S*N
H
ガーデ
ニング
79
8
632
22.5
H*S*N
Euro/a
ライフサイクル・コスト
C
競合する活動対ガーデニングの
比率
h
100%吸収された時間数
T
競合する活動対ガーデニングの
比率
m2
占有する居住スペース
D
競合する活動対ガーデニングの
比率
その他希少資源
R
競合する活動対ガーデニングの
比率
%
必要なスキルを
持たない人の割合
L
競合する活動対ガーデニングの
比率
%
必要な情報を持たない人の割合
I
競合する活動対ガーデニングの
比率
C*T*D*
リバウンド効果のスコア
R*L*I
APS
対象充足因子数
対象欲求数
スコア
幸福度を高める
因子のスコア
合計スコア
犬
週末家
64
9
567
23.5
44
8
352
10
14’220
13’536
3’520
200
1
2000
10
15000
75
150
1
600
4
160
1.07
200
1
5
0.025
1
0.005
0
1
0
1
0
1
10
20
10
1
2
1
50
1
75
1.5
50
1
1
3
0.4
-200
2000
15000
1
1
4
リバウンド効果の順位
2
1
3
影響の順位
2
6
8
合計点順位
5
8
15
簡易 LCA で解析した環境影響
幸福度と満足感スコアの順位
1 次エ
ネルギ
ー
kWh/a
H*S*N
15
例.「ガーデニング」
ヨガ
備考
54
10
540
24
12’960 数字が大きいほど SC のポテンシャルが
高い
600
3 比率>1 はリバウンド効果の回避に優れ
るが、受容性は悪化
125
0.83 比率>1 はリバウンド効果の
回避に優れる
2
0.01 比率>1 はリバウンド効果の
回避に優れる
0
1 比率>1 はリバウンド効果の
回避に優れるが、LCA は悪化する可能性
30
3 比率>1 はリバウンド効果の
回避に優れるが、市場性は悪化
30
0.6 比率>1 はリバウンド効果の回避に優れ
るが、市場性は悪化
0.04 比率>1 はリバウンド効果の回避に優れ
る
300
1 最高スコアが 1 位(違い> 20%の場合に
限り異なる順位とする)
4 最高比率が 1 位(違い> 20%の場合に限
り異なる順位とする)
4 最小エコポイントが 1 位(重み 2 倍で違
い> 20%の場合に限り異なる順位とす
る)
9 上位 3 行の合計、最小値がベスト.
一方、財団法人家計経済研究所が公表している「消費生活に関するパネル調査」個票データ
(JPSC)の結果を式(1)および式(3)に用い、若年女性およそ 1,500 人に関する直近の3年間(1998
∼2000 年)のデータを用いて統計解析を実施した。3種の耐久消費財の導入に対する CO2 排出
量と CHap の値を図 10 に示す。幸福度の変化が携帯電話とパソコンで正であるが、衣類乾燥機
で負になっていることが示されている(いずれも有意差なし)。色の暗い棒グラフは、APS 導入
者と非導入者の違いを考慮に入れた世帯あたりの CO2 排出量変化を示している。グラフはすべて
大きな負の値を示していることがわかるが、世帯規模(色の明るい棒グラフ)の違いにより、CO2
排出量の傾向に変化は認められない。携帯電話、パソコン、衣類乾燥機を生産し、1年間使用す
ると、それぞれ 18、420、270 kg CO2 を排出することが分かる。この排出量は図 10 が示してい
る分の 10%以下に過ぎず、しかも減少ではなく増加の分である。つまり、これは 10 倍以上のリ
バウンド効果を含んでいる。図に示されているのは、交通関連の出費が削減されたため、結果と
して世帯の支出が減り、産業連関表を用いた CO2 算定でも削減と出ているに過ぎない。交通関連
の出費削減は、携帯電話やパソコンの有効利用による移動の回避で説明することは難しく、何か
しらの偏りがあるのではないかと考えられる。
本研究では、これまで持続可能な消費と関連しているが、別々に取り扱われていた領域を統合
することについては、一定の成果を上げることが出来た。設計用と評価用の新しい2つのツール
は、ともに環境影響評価を含み、リバウンド効果の傾向と効用の最大化の可能性に対する考え方
で提案をしたが、特に後者は、実際に持続可能な消費活動が予想した範囲の満足をもたらし、追
加的な(物質的)消費を減らす可能性を予測する尺度であると言える。
世帯の CO2 排出量変化
500
0
-0.02
using a mobile phone
-500
-0.04
CO2-emissions change
of family size
携帯電話使用
using a personal
computer
using a cloth dryer
衣類乾燥機使用
パソコン使用
-1000
Change in
happiness
-1500
0
0.02
幸福度の変化
0.04
-2000
-2500
-3000
消費パターンの
CO2 排出量変化
CO2-emissions
change of
consumption
pattern
-3500
CHap
0.06
0.08
0.1
-4000
0.12
-4500
0.14
図 10 主要なライフイベントで補正した3つの耐久消費財の CHap およびその構成成分
(左 Y 軸:世帯あたりの年間 CO2 排出量(kg)、右 Y 軸:幸福度および CHap の変化)
16
2.4 環境効率指標によるライフスタイル評価
「持続可能な消費」に関して、ライフスタイルという視点からその普及方策について研究を行
ってきた。まず、
「エコ意識の形成と情報環境に関する研究」では、日本人各人が持っているライ
フスタイル・イメージと消費行動との関連を、持続可能な消費行動という領域において検証する
ため、
「環境にいい暮らし方イメージ」と実際の「持続可能な消費の実践状況」との間の相関性を
調べた。
この結果、
「環境にいい暮らし方」を具体的かつ肯定的に捉えている層ほど、実際に省エネやリ
サイクル等の消費行動を取る傾向があることが示された。これは、持続可能な消費を魅力的なラ
イフスタイルとして普及させることができれば、普及も進められることを意味している。
この成果を受け、「エコ・ライフスタイルモデルの構築」では、CO2 の削減に結びつく持続可
能な消費のライフスタイル・モデルを構築し、その受容性をアンケートにて評価するという研究
を実施した。これにより、限定的ではあるが、ライフスタイル単位での CO2 排出量の試算手法(標
準的な消費行動との差分で計算/消費支出額自体は一定とし、持続可能な消費行動による家計支
出の増減に伴うリバウンド効果を計算に含む)のあり方を確立でき、同時に、そのライフスタイ
ル自体についても、一定の受容性があることを確認することができた。
こうしたライフスタイル提案による持続可能な消費普及施策のメリットとしては、2つのポイ
ントを指摘することができる。ひとつは、広告・宣伝型のコミュニケーション・スタイルを採用
できるため、1人当たりの接触コストが、教育型のコミュニケーションに比べて安く押さえられ
ること。もうひとつは、消費者側の「自発的な工夫」が期待できることである。
2004 年度の研究では、特にこの2点目のメリットに着目し、消費者が持続可能な消費に応じた
かたちで、自らが希望する具体的なライフスタイルとそれに対応した CO2 の排出量の関係を直感
的に理解でき、それに従って生活の工夫ができるようになることを目標に、環境効率指標および
ライフスタイルと CO2 排出量の関係を簡潔に理解できるツールを構築することとする。
現在の日本では、消費と CO2 排出量の関係についてのデータは、その殆どが特定の商品のデー
タとしてしか提供されていない。そのため、消費者が持続可能な消費という観点から消費行動を
変化させようとしても、基本的にできることは、特定商品カテゴリー(家電や自動車等)の個別
ブランド選択程度しかなく、ライフスタイル全体としての CO2 排出量を減らしていく方策がなか
なか見出せない状況となっている。上記の状況を解消していくために、消費者が個別商品の選択
ではなく、より上位の特定生活領域における消費行動のパターンおよびそれを組み合わせたライ
フスタイルを、持続可能な消費の観点から選択することが可能となる情報の提供手段を構築する
ことである。ライフスタイルを選択可能ないくつかの消費行動パターンの組み合わせとして記述
すること(ライフスタイルのモジュール化)を行うと共に、それに対応する標準的な CO2 排出量
を試算することで、ライフスタイルに応じたかたちでの環境負荷を計算するためのモデルを構築
した。
17
表4
家領域
モジュール
支持率
食生活
モジュール
支持率
リビング・
キッチン及び
PC・オーディオ
ビジュアル
モジュール
支持率
ファッション
モジュール
支持率
趣味
モジュール
支持率
旅行
モジュール
支持率
クルマ
モジュール
支持率
昔ながらの日本
家屋で自然を採
りいれた暮らし
を楽しみたい
36.0%
食費が高くつい
ても、自分の気
に入った食材で
いろいろと料理
を楽しみたい
31.3%
暮らしが便利で
楽しくなりそう
な、最新式の家
電を買うのが好
き
43.2%
やはり一流の高
級ブランドから
選びたい。ホン
モノを身につけ
るのが本当の
ファッションだ
と思う
13.1%
休日は自宅で、
心身ともにリ
ラックスして過
ごしたい
69.6%
旅行が生きが
い。お金と時間
が許すかぎりあ
ちらこちらに
行ってみたい
36.9%
自分にとって
「クルマ」は大
切なパート
ナー。車種にも
とことんこだわ
りたい
31.0%
各生活領域ごとのモジュールとその支持率
家族のプライバ
シーが保てる洋
風の家で暮らし
たい
55.2%
まとめ買いや作
り置きなどの工
夫で、手間なく
経済的に料理を
したい
59.3%
家電製品を買う
ときは多少値段
が高くても、省
エネタイプのも
のを選んでいる
51.9%
省エネ、環境対
応、耐震性など
機能性にこだ
わった家に住み
たい
81.3%
美味しいものを
食べ歩きするの
は人生の楽しみ
なので、外食に
かけるお金は惜
しみたくない
31.9%
どうせお金をか
けるなら、一生
モノの家具やイ
ンテリアにお金
をかけたい
30.6%
ショップに行っ
たり、雑誌を
チェックしたり
して、「これ」
というものを、
人より一歩先に
素早く取り入れ
たい
12.9%
バーゲン情報や
アウトレット情
報を積極的に
チェックして、
いいものをたく
さん買いたい
休日は外出し
て、スポーツで
身体を動かすな
ど、活動的に過
ごしたい
余暇は誰に気兼
ねするでもな
く、自分ひとり
で趣味の世界に
浸りたい
34.0%
38.7%
53.7%
管理が行き届
き、様々なサー
ビスが利用でき
る便利なマン
ションに住みた
い
32.2%
地酒やワインな
ど、美味しいお
酒にはこだわり
たい
26.1%
8.0%
量販店やスー
パーなどで、
リーズナブルな
ものを購入する
のが良い
54.5%
どこであれ、家
族や友人と出か
けて、気分転換
する時間を大事
にしたい
57.5%
一ヶ所でのんび
りするのがい
い。リゾート施
設もいいし、ひ
なびた温泉宿も
好き
67.1%
家族や気の合っ
た仲間で出かけ
るのであれば、
行き先に関係な
く楽しい
「クルマ」はそ
の時の状況に合
わせて家族で快
適に乗れるもの
を選びたい
「クルマ」は生
活の必需品だが
あればいいの
で、燃費で選び
たい
「クルマ」は必
要ない。必要な
時にレンタカー
やタクシーを使
えば十分
48.8%
食べるものに関
しては、あまり
こだわりを持っ
ていない
19.5%
家具や家電はレ 電気代・ガス代 家電や家具は必
ンタルで済ませ を徹底的に節約 需品だが、製品
られれば、その したい
や使い方に特に
ほうが便利
こだわることは
あまりない
スポーツ、買い
物、グルメな
ど、旅先でいろ
いろなアクティ
ビティを楽しみ
たい
44.0%
67.0%
持ち家にこだわ 家については、
るのではなく、 特別のこだわり
その時の状況に はない
あわせて気に
入った場所で貸
家暮らしするほ
うがいい
22.6%
16.4%
71.4%
11.3%
48.2%
フリーマーケッ
トや古着屋で掘
り出し物をみつ
けるのが好き
16.8%
手作りの趣味、
創作活動、庭仕
事などをしてい
るときが最も幸
せ
27.8%
旅行は実はあま
りしたくない。
それより家で
ゆっくり過ご
し、他の趣味で
楽しみたい
12.8%
「クルマ」は好
きだが環境問題
も気になるの
で、ハイブリッ
ドカーやエコ
カーを敢えて選
びたい
24.9%
31.5%
あまりこだわり
なく、必要なも
のを購入して使
用している
58.9%
週末は外出し
て、買物やス
ポーツ・文化の
鑑賞活動などに
出かけたい
46.9%
あちこち旅行す
るより、週末滞
在用のセカンド
ハウスで過ごす
のが理想
13.7%
n=825
また、この手法をベースに、各消費者に自らのライフスタイル選択に伴う満足と CO2 のトレー
ドオフ関係を簡便に知らせるための環境効率指標と、簡単な操作で繰り返しトレードオフ関係を
確認することができるツールを構築した。個々の消費者の持続可能な消費に対する「自発的な工
夫」を生み出し、それを広く共有することができるものとする手段を提供すると言う当研究の目
的は、こうした指標やツールの構築によって一定の成果を得ることができたといえる。
18
環境効率指標モデル
こだわり
「環境効率がよい」モデル
一定値
平均的モデル
「環境効率がよくない」モデル
0
平均的なCO2排出量 CO2排出量(率)
図 11 「こだわり」と「CO2」のトレードオフ関係
図示イメージ
しかし、いくつかの課題も明らかになった。まず第1にあげられるのは、こうしたライフスタ
イル領域にまたがる際に問題になる「リバウンド効果」についてである。
「リバウンド効果」とは、
ある局面での持続可能な消費の実践が、生活の他の局面での CO2 排出量増大に繋がる場合があ
ることを指す。これについて、モジュール単位での標準的な CO2 排出量算出に加え、各モジュー
ル実施における標準的な支出額も想定し、家計支出一定という拘束条件の下でリバウンド効果も
含めた上での指標およびツールの開発を目指した。しかし、金銭と共に拘束条件として考えられ
る時間については、消費行動の時間単位について厳密なデータが望み得ないことから、当該の研
究範囲では取り扱えなかった。
第2の問題として、モジュールの CO2 計算に関して、環境意識の高い層が選択すると考えられ
るモジュールの CO2 排出量が、意識とは逆に高くなってしまうというケースが出てきたことがあ
る。この理由としては、CO2 の排出量計算において、各モジュールを選好している層の実生活デ
ータ(アンケートデータ)に依拠せざるを得なかったことが指摘される。このため、モジュール
の領域によっては、
「環境意識が高い」=「環境に高い関心を持つだけの余裕がある」=「消費量
がそもそも多い」という構造が出てきてしまい、結果として環境負荷の小さなモジュールである
はずのものが、想定排出量としてはそうではなくなってしまうという見た目上の矛盾を生むこと
になった。
これは、ひとつには CO2 排出量計算の原データ取得方法の問題であると同時に、一方では、現
状の「環境行動」自体が孕む課題、すなわち「意識の高低よりも、所得の多寡のほうが環境負荷
の小さい行動を実際にしているかどうか」の決定要因となっていることを反映したものでもある。
特に、今回の設定領域の中で生活必需に近い家事関係の領域については、この傾向が如実に出る
結果となった。こうした生活必需的=消費者が自らの意識で決定する部分が少ない領域、あるい
は自動車の使用のように、地域的な条件でほぼ左右されてしまうような領域と、選択可能な「ラ
イフスタイル」との兼ね合いをどのように判断し、指標やツールに反映していくかも、今後に残
された大きな課題ということができる。
19
2.5 ビジネスにおける持続可能な消費の潜在性調査と普及可能性分析
2.5.1 概要
本研究では、
「経済・社会・環境」のいわゆるトリプルボトムライン(Triple Bottom Line:以
下 TBL と略)をキーワードとし、企業がより「持続可能な消費」へと変革する要因について調
査研究を実施した。2003 年度までの研究では、企業の「持続可能な消費」実現の為には、企業内
の部門を超えた資源の流動化と協力のプロセスが必要であるという結論に達した。例えば、ライ
フサイクルに基づいたホットスポットの特定や達成度評価基準の特定、データ収集、消費者行動
の変化の把握などの面において、個々の企業が取り組むのは限界があることが明らかになった。
こうした結果を背景に、最終年度にあたる 2004 年度は、同じ業種に属する複数の企業を、業
界団体として捉え改善することにより、一企業の枠を超えた「持続可能な消費」のあり方や、企
業ガバナンス(統治)のあり方について調査・考察した。事例としてアルミ業界、IT 業界、食品
業界の3業界に着目し、PSS(製品・サービスシステム)の更なる普及可能性について分析した。
2.5.2 手法
生産および消費システムにおける TBL の改善を達成し、持続可能な消費戦略に寄与すること
を目的とする業界団体の潜在性を評価するため、まず、業種間ガバナンスを「その業種の方向性
と達成の決定に関与する参加者間の関係」と定義した。また、評価研究分野の文献調査結果から
下表の4つの評価基準を導き、各基準について指針となる設問を作成した。
表5
評価基準
基準
内容
適合性
政策目的と持続可能な生産および消費の全般的な問題との間のつながりを
問う。所与の政策目的が完璧に達成されているか、その政策介入が全般的
な問題の軽減にどの程度貢献するか、などを判断する。
正当性および有効性
政策介入の実施がその目的を達成するか、または達成したかどうかを問う。
透明性およびコントロール
政策介入の活動のコミュニケーションにおいて透明性を規定し、同時にそ
の成果の第三者評価を問う。
効率性
政策介入の実施の費用対効果の高さ、およびその政策介入を通して得られ
た副次的な好ましい効果の程度を検討する。
出典:Own compilation, WI, 2004, based upon Bleischwitz, 2004.
今回業界団体として選出したのは、IT 業界から「情報技術と持続可能性イニシアチブ(Global
e-sustainability Initiative; GeSI)」と「GRI 電気通信業界補足版(GRI Telecommunications
Sector Supplement)」、食品業界から EUREPGAP と「持続可能な農業を目指すイニシアチブ
(Sustainable Agriculture Initiative; SAI)」、そしてアルミニウム業界では「持続可能なアルミ
ニウム業界を目指す(Towards a Sustainable Aluminum Industry)プロジェクト」と「未来の
世代アルミニウム(Aluminum for Future Generations)」の計6団体である。評価の元となる情
20
報は文献調査によって収集し、採点法によってそれぞれの業界団体への設問ごとに最高4点を配
点し評価を行なった。
2.5.3 結果と考察
適合性に関しては、IT 業界団体が他の業界と比べて高得点を得た(図 12 参照)
。GRI 電気通
信業界補足版には、社会的および環境的影響も含め、消費者の製品およびサービスの使用による
リバウンド効果の試算も目的とした指標が含まれているなど、前進的な取り組みがなされている。
正当性および有効性に関しては、大半の業界団体では持続可能性達成指標の使用が明確でなく、
定量的行動達成目標を設定するための基本要件が設定されていない。関係者の関与と体系的な達
成指標の構築との間には、予想通り高い相関性があると言え、高い得点を得た所は明確な計画対
象期間と明確なスケジュールを備えていた。透明性とコントロールの点では、全般的に円滑で透
明度の高いコミュニケーションに配慮がなされていることが認められた。大半の業界団体ではオ
ンライン上で詳細な情報を提供しているが、目的を明確に持ったコミュニケーションをしている
団体はさほど多くはなく、系統だったアプローチが欠けていると言える。また効率性の面では、
持続可能性の課題に対処し、協調行動を調整するための有効な構造を備えていることがわかった。
4
Relevance
適合性
Legitimacy
& Effectiveness
正当性および有効性
透明性およびコントロール
Transparency
& Control
効率性
Efficiency
3
2
1
0
GeSI
GRI Telekom
EUREPGAP
SAI Platform
TSAI
AFFG
図 12 各業界団体と評価基準別平均値
分析の結果、業界レベルでの優れたガバナンスを構成する要素が明らかになってきた。ひとつ
の例としては、政府関係組織をはじめ、業界内企業の従業員、消費者団体、金融機関、NGO な
ど幅広いステークホルダーの参加と統合が、業界の責任を広範に理解するうえで必要な条件であ
るということである。業界の枠を超え、未来の世代にも影響する複雑な問題に直面している今、
持続可能な消費のためのガバナンスには政策の統合に加え、政府および非政府組織の間の協動を
強化し、長期的な見地から意思決定することが必要とされている。
21
2.6 コミュニティーを基礎とした PSS 評価と普及策の提示
2.6.1 概要
持続可能な開発の実施には、製品およびサービスのライフサイクル全体で環境問題に取り組む
必要がある。製造および使用済処分にかかわる環境問題については多数の戦略やアプローチが開
発されてきたが、増え続ける消費段階に対する取り組みには、システム全体の解決策が求められ、
具体的には製品重視からサービス重視への移行と提供システムに関する戦略が有望視されている。
本研究において、コミュニティーを基礎としたサービス(Community Based Service : 以下CBS
と略)とは、環境、経済、社会的側面から持続可能性に寄与するサービスと定義する。2003年度
までのレンタルサービス事例研究において、消費者が車で来店する際の移動距離が環境負荷と密
接に関わっていたことが判明した為、2004年度は、末端消費者に近いところで供給されるCBS事
例として地域の洗濯センター(日本で言うコインランドリー)を取り上げた。その背景等を明ら
かにすると共に、家庭での洗濯行動から洗濯センター利用を進めることによる製品サービスシス
テム(Product Service Systems:以下PSSと略)の普及策を提案する。
2.6.2 研究目的と手法
本研究の目的は、スウェーデンにおけるコミュニティーを基礎とした洗濯センターの事例を歴
史的および制度的な見地から検討し、定性的および定量的な評価と考察を行うことである。コミ
ュニティーを基礎とした洗濯センターの設置・利用によるCO2削減ポテンシャルの定量的および
定性的な評価を本事例の研究結果の1つとして挙げる。主な研究手法としては、文献調査、コミ
ュニティーを基礎とした洗濯センターの視察、地域社会計画当局や洗濯センターへの洗濯機納入
者(Electroluxなど)、1920年代に初めて洗濯センターを導入した住宅供給組織(HSB)へのヒア
リングを実施し、さらに効率性の基準や改善点などについてスウェーデンエネルギー省(Swedish
Energy Agency)と議論を交わした。
2.6.3 結果と考察
スウェーデンにおける洗濯サービスでは、エネルギー当局等が公共の洗濯センターにおけるエ
ネルギー効率の高い設備の設置に関するガイドラインを定めている。スウェーデンの人口の 80%
が洗濯センターを利用できるよう、1960 年代の終わりまでに制度が整えられたが、その後、1990
年代までに家庭で洗濯をする人口が増え、現在の利用率は 30%程度である。また、公共の洗濯セ
ンターの洗濯機は通常 30,000 回の洗濯サイクルで 10 年間ほど耐久する設計となっている。スウ
ェーデンの公共洗濯センターのタイプは2種類あり、ひとつは多層の建物に洗濯部屋が備えられ
ているタイプ、もうひとつは世帯に隣接して別個に建てられた洗濯部屋を供えたタイプである。
すべての公共洗濯センターは、世帯から 50 メートル以内の距離に設定するよう義務付けられて
いる為、市町村および住宅供給会社の建築計画には欠かせない要因と言える。
世帯およびコミュニティーを基礎とした洗濯サービスのエネルギー消費の比較では、洗濯行動
が同じと仮定した場合、公共の洗濯施設のほうがエネルギー消費は少ないことが示された。推定
によると、公共の洗濯センターを利用する事により約 30%の省エネルギーの可能性があることに
なるが、これはより高性能で業務用に近い設備が使われるのが主な理由である(表6、表7)。洗
22
濯機一杯に洗濯物を入れ、低い水温で洗濯するのは極めて有効な方法で、研究結果によるとエネ
ルギーを最大 25%節約できる。しかしながら、CBS では、1回の洗濯につき消費される水の量
が多く、これは洗濯設備の清掃などが原因であると考えられる。
表6
業務用および家庭用の施設、洗濯機による平均的な資源消費の比較
施設全体
洗濯機
業務用洗濯
家庭洗濯
業務用
家庭
水、l/kg
16-18
12-16
11.8
10.9
電気、 kWh/kg
0.2-0.3
0.9
0.13
0.21
出典:
(EPE 2001)
Cylinda Ltd.
6.5∼24 kg 機械
3∼6.5 kg 機械
表7
家庭用およびランドリーサービスにおける洗濯物の特性
洗濯物の種類:
家庭用
ランドリーサービス
5 kg
7∼8 kg
3.5 kg
4.6∼5.3 kg
向上率
• 洗濯機:
0.21
0.13
38%
• タンブル乾燥機:
0.73
0.48
34%
• 乾燥用戸棚:
0.82
0.76
7%
典型的な 1 回の最大洗濯量:
典型的な洗濯量:
電気の消費(kWh/kg)
公共用の洗濯の利用の利点のひとつは、備品の在庫の縮小およびハードウエアの改良の迅速化
である。共用の洗濯施設で使用される設備は、標準的な家庭用洗濯機(寿命 10∼15 年)より集
中的に使用され、スタンドアロン高速遠心分離機など、特殊用途の設備を備えているのが通常で
ある。乾燥設備は洗濯よりもエネルギーの使用量が多いため、熱乾燥の前にスタンドアロン遠心
分離機を使うことで、エネルギー消費を大幅に削減することが可能になる。
スウェーデンにおける公共の洗濯サービスの利用率は約 30%であるが、洗濯機を所有していて
もサービスを利用している世帯もあり、既存の観察や調査に基づき、本研究ではこの利用率を詳
細に分析した結果、公共のランドリーサービスを多少なりとも定期的に利用する世帯の合計を、
約 35∼40%であると推定した。これをもとに、国レベルのエネルギー節減の総計を議論すること
が可能になり、その値は1年当たり 0.16 TWh 程度と推定される。
製品のサービス化は、必ずしも環境面での利益となるわけではなく、むしろ消費者行動やサー
ビススシステムの構造から強い影響を受ける。そこで、重要な役割を担うのが「近隣」サービス
を提供する住宅会社である。住宅会社の多くは、サービスの持続可能性改善に戦略的関心を寄せ
ており、よい生活環境の構築と QoL の向上という目標を地域のコミュニティーと共有している。
消費者は、サービスの創出において重要な部分を占め、その環境的健全性の大きな決定要因であ
るため、情報や教育を通じた消費者の関与が極めて重要である。
23
2.7 持続可能な消費の普及促進策の提示
ライフサイクルアセスメントに代表される従来の環境影響評価、分析、改善の多くの研究が、
消費者の振舞いを所与かつ固定的に扱っていたのに対して、一般に持続可能な消費に関する研究
は、消費者をダイナミックに扱う点に特徴がある。また持続可能な消費に関する研究は、生産者
や政策立案者と消費者のインタラクションなどを考慮し、社会全体の枠組みとして消費者のライ
フスタイルを変革する端緒を探求している。このような持続可能な消費に関する研究の中で、本
研究は「持続可能な消費」の実現に資すると考えられる事例を選定し、それらの事例を日本にて
普及させていくために有益な情報の獲得を目的として実施した。本研究では 2002 年度から 2004
年度にかけて、持続可能な消費活動は国内外を問わず世の中でさほど普及していないという現状
を踏まえ、「消費者の自主的な環境配慮活動」及び「PSS(製品・サービスシステム)」に着目し
た。
2002 年度の研究では、消費者の自主的活動として地球温暖化対策推進大綱に記されている 25
の活動を題材に、自主的に地球温暖化対策活動を実施している国民の割合及び実施可否の根拠等
の分析を行った。また、表8に示すように、受容性を考慮した上での消費者の自主的活動による
CO2 排出抑制効果を示した。
表8 CO2 排出抑制量の目標値及び試算値
大 綱 に 示 さ れ て い る 大綱に示されている実 アンケートで把握した実
目標値
施率に基づいた試算値 施率に基づいた試算値
1157∼1559
1133∼1554
1093∼1665
(単位:104 t- CO2/年)
表9
活動
受容される可能性が高い自主的活動の例
「実施している」との回答率 「実施してもよい」との回答率
節水シャワーヘッドの導入
14.1%
64.2%
冷蔵庫の効率的使用
28.0%
58.2%
エコクッキングの普及
17.2%
52.4%
これらの活動については、まずは活動そのものを知らないために未実施である場合や、環境へ
の効果や節約効果に関する情報を知れば実施する場合が支配的との見方を示し、消費者の自主的
活動の中でも、表9に示すような今後さらに受容される可能性が高い活動を明らかにした。さら
に、活動ごとに異なるものの、多くの活動において「経済面での節約」が、消費者の自主的行動
を促進させる要因であることを示した。そのため、経済面での節約効果のアピールや節約を推進
する改善策(例えば、補助金の導入など)が、実施率の向上に効果的であると結論付けた。
この結論に基づき、2003 年度の研究では、主に経済的なインセンティブが消費者の活動促進に
与える影響の把握を目的とし、アンケート調査によって得た結果をベースに持続可能な消費事例
の評価及び普及策を検討した。事例として、2002 年度に取り上げた消費者の自主的活動に加え、
PSS 等の今後普及する可能性がある事例を対象とした。
消費者の自主的活動に関しては表 10 に示すように、2002 年度より 2003 年度の方が多くの事
24
例について受容率が上昇しており、消費者の環境意識の高まりが背景として存在している可能性
があることを示した。また、図 13 に示すように経済的なインセンティブと受容性との相関を示
し、経済的なインセンティブによる受容率の向上は、事例に依存することを明らかにした。
表 10 自主的活動の CO2 排出抑制効果と受容率(現状及び節約金額情報を周知した場合)
H15 調査結果
現状:
CO2 抑制
周知後:
CO2 抑制
①白熱灯を電球形蛍光灯
にとりかえる
65.5
126.3
46.7
90.0
50.1
85.9
②電力消費量の小さい電
子レンジへの買い替え
88.1
298.7
14.6
49.5
11.5
53.6
104.6
125.0
72.1
86.2
53.5
82.3
52.4
65.5
65.9
82.4
55.6
71.3
297.7
438.4
32.8
48.3
18.9
−
③冷房温度の引き上げ
④風呂の残り湯を洗濯に
使いまわす
⑤自動車利用の自粛等
現状:
受容率
H14 調査結果
周知後:
受容率
現状:
受容率
周知後:
受容率
CO2 排出抑制効果の単位は[万 t- CO2/年]、受容率の単位は[%]
一方、PSS 事例については表 11 に示すように、自主的活動と同様に経済的側面が受容性に非
常に大きな影響を与えることを確認し、様々な PSS 事例においてレンタルのために要する手間を
消費者は重視する傾向があることなどを明らかにした。その上で、更なる分析のためには詳細に
具体像を設定することが必要であり、特に PSS 事例については、今後の社会的なインフラやマー
ケットの変化を受けた後を考慮した受容性評価の必要性を課題として挙げた。具体的には、PSS
事例を展開する際には、ある程度の規模を大きく事業展開することにより、提供できるサービス
の質が向上する場合(多地域展開にるスケールメリット)、サービス利用者数の増加による価格低
下のため受容性が向上する場合、認知向上そのものが受容性に影響を与える場合等を指摘した。
表 11 カーシェアリングサービスの
③冷房温度の引き上げ
100%
①白熱灯を 蛍光
90%
灯に取り替える
受容率シミュレーション
80%
70%
受
60%
容
50%
率
40%
価格
②電力消費量の小さい電
(円/月人)
子レン ジへの買い替え
⑤自動車利用の自粛等
30%
④風呂の残り湯を 洗濯に使いまわす
20%
10%
0%
0
2,000
4,000
6,000
8,000
受容率 (%)
10,000
受取意思額(円)
図 13 5つの自主的活動事例における
受容率と受取意志額との応答(推計値)
25
CO2 排出抑制効
果(kt- CO2 月)
20,000
80.45
135
25,000
74.31
124
30,000
62.10
104
35,000
52.29
88
40,000
45.70
77
45,000
34.43
58
50,000
23.45
39
55,000
17.89
30
60,000
14.17
24
2003 年度の研究は、製品・サービスのスペックを変えた場合の受容性変化に関するアプローチ
であった。2004 年度は 2003 年度で得られた課題を踏まえ、PSS 事例としてカーシェアリングサ
ービスに特化し、ヒアリング調査及び受容性に関するアンケート調査を通じて普及プロセスにお
ける現状の位置付けについて検討し、消費者像や具体的なバリアの導出を目的とした。検討の際
には、ビジネス提供側の実現性も踏まえて当サービスを支える社会システムが構築されたものと
設定して、消費者側では関連情報の認知が既になされているという状況を設定した。
アンケート調査の結果に基づき、図 14 に示す結果等の分析を行った結果、
「居住地が都心に近
い」
「クルマの利用が週に2∼3回以下」、
「1日あたりの走行時間が長い」、
「買い物やレジャーで
利用」、「環境配慮型の考え方を持っている」、
「低所得層および世帯年収 800∼900 万円前後」と
いった条件に合う人ほど、カーシェアリングを受容する傾向が強いことが判明した。
クルマ利用頻度(クルマ所有者のみ)
0%
利用意向
非意向
10%
20%
30%
40%
50%
60%
所有重視型, 55.2%
70%
80%
90%
100%
サー ビス 重視型, 44.8%
所有重視型, 64.3%
サー ビス 重視型, 35.7%
図 14 所有へのこだわりとカーシェアリング利用意向
さらに、現状のカーシェアリングは社会システムとして整備されていない点があるものの、消
費者自身が選んでいるもの以外の選択肢を知らないという認知上の問題が大きなバリアであり、
認知上の問題を改善することにより、飛躍的に受容性が高まることを明らかにした。また、消費
者自身の信念や他の領域での振舞いに矛盾するようなものは実行されないという動機付けの問題
についても、環境意識の高まりやサービス重視の考え方への移行など、消費者の意識変化により
クリアになる可能性があることを見出し、
「利用しにくいかもしれない」、
「面倒かもしれない」と
いった不確実性に起因する不安要素の存在を確認した。
2002 年度から3ヵ年の研究により、消費者の自主的活動及び一部の PSS 事例等では、現状は
認知上の問題が大きく、情報周知等により大きな受容性向上が見込まれることが判明した。その
上で、経済的なインセンティブを与える仕組みの構築、普及ターゲットの特定、消費者の意識変
化の促進等が重要であるとの示唆を得た。一方、面倒や不便さといった不安要素は上記の方向へ
普及が進む際にもバリアとして存在し、将来的に更なる詳細検討を進めることが有効といえる。
2.8 持続可能な消費に向けた新しい生産工学の考え方の提案
近年、製造業のサービスプロバイダ化などを背景として、サービスは一層重視される傾向にあ
る。日本の家計の支出における財(モノ)とサービスの割合においても、2人以上の世帯で見た
場合、1987 年に 36%を占めるに過ぎなかったサービスは、それ以降ほぼ単調に増加し 2002 年に
は 42%を占めるに至っている。また、従来の製造業の製品販売を中心とするビジネスとは異なり、
26
サービスと一体化して価値を提供する仕組みは「製品・サービスシステム(Product- Service
System、以下 PSS)」という名の下に注目を集めている。しかし、このような背景を有しながら
も、製品設計を内包したサービス設計や PSS の設計の方法論に関する研究は、これまでにほとん
ど成されていない。
本項目では、持続可能な消費の実現につながる生産者の活動を支援する考え方とサービス設計
手法を提案した。ここで提案する手法は、製品やサービスの分野によらない汎用的なものである。
具体的には、サービスを工学的に取り扱うことを目指しているサービス工学の考え方に基づき、
サービス設計の中でも製品設計を必要とするものを対象として、サービスの設計手法のフレーム
ワークと手続きを構築し、それらをイタリアで提供されているホテルサービスの改善設計へ適用
し、有効性を検証した。
ここで構築した設計手法はおおむね、1)サービスの提供に参加するエージェントの関係を表す
モデルの構築、2)サービスのレシーバの行動シナリオの特定と享受する価値(負担するコスト)
の抽出、3)サービス提供のための実現構造の構成、4) レシーバの価値に対する重要度の設定、5)
設計中間解の評価、選択というステップから構成される。
対象としたホテルは、イタリア・アブルーゾ地方にて営業されている3ツ星クラスのホテルで
ある。環境に対する悪影響を低減しつつ、利用者にとって魅力的な新しいサービスを開発するこ
とを目指している点が特徴的である。改善設計の結果、生成された改善案は、自然光誘導システ
ムの導入、遮光フィルムの装着、グッズのレンタルサービスの導入などがあった。これらの設計
解に対して、該当ホテルの運営会社からは改善案は全て斬新である、幾つかのものは導入を検討
するという高い評価を得た。以上より本研究で提案した設計手法は、実際のサービスの改善設計
に適用可能であることが確認された。
特に本手法の特長を述べる。従来の製品設計における対象が、製品の機能を実現する物理的な
構造であったのに対して、本設計手法の対象は、価値の享受を通じた消費者の状態変化と、これ
を実現する構造である。これにより、消費者が求める価値により近い形でサービスを提供するこ
とが可能となる。これは、本手法が解探索の対象とする空間が、従来の製品設計のそれに比べて
より広いものとなることを意味し、これによって、より多くの解のバラエティを期待することが
可能となる。
一方で、仮想ユーザを表す概念の導入、製造業の提供するサービスへの適用、創造性の高い設
計解の生成プロセスの追加、設計解の定量評価が課題であることが明らかになった。
27
第3章
国際的な場での活用方法の提示
3.1 国際的なグリーン購入活動における活用の提示
環境負荷の小さい製品やサービスを優先的に購入するグリーン購入活動は、市場を通じて企業
の環境配慮を促す有効な取組である。ここでは、環境効率指標などの活用が期待されるグリーン
購入について、世界各国における取組状況の調査分析をベースに、グリーン購入における消費者
への環境コミュニケーション手法のあり方について、調査研究した成果をまとめるとともに、組
織購入における商品選択基準と情報のあり方と国際的な協調の方向性などについて提案する。
3.1.1 消費者のグリーン購入を促進するための環境コミュニケーション手法
グリーン購入の取組は、行政機関や企業などの組織購入者には広がってきたが、個人消費者に
ついては事情が全く異なっている。消費者の購買判断の主要な要因は、「価格」や「品質」「デザ
イン」である。
「環境」について関心はあっても、購買時に常に環境に配慮して選択する消費者は
極めて少ない。そこで、消費者に効果的に伝達でき、商品選択に影響を与えることができる製品
環境情報のあり方について探るために、消費者を対象とする Web アンケート調査を行った。
まず、消費者は「簡潔で分かりやすい統合化された総合評価結果を求めている」、「同時になぜ
その製品が環境上優れているのかが納得できる情報を求めている」のではないかという仮説を立
て、それを検証するために考案した店頭表示用の環境ラベル([エコ評価第1位]ラベル、[エコ評
価☆☆☆☆☆(5つ星)ラベル])を被験者に提示して、商品選択の変化について調査した(取り
上げた商品は「冷蔵庫」と「緑茶飲料」。下記は冷蔵庫の提示ラベル)
。
その結果、2番目の仮説について、調査を通じてほぼ確認されたと考えられる。消費者は自分
が関心を持つ具体的な情報(省エネ、電気代、無農薬、原産地など)についての情報には関心を
示す。そして、それが他の製品と比較してどの程度優れているかを確認したいと考える消費者も
多い。すなわち、自分が商品選択を変えるに足る具体的かつ十分な情報がなければならない、と
いうことである。一方、
「簡潔で分かりやすい統合化された総合評価結果を求めている」という一
番目の仮説については、冷蔵庫と緑茶飲料で結果が分かれた。緑茶飲料は価格が安く気軽に選ば
れるため、分かりやすい総合評価への関心が高くイメージにも左右されやすいと考えられるのに
対し、冷蔵庫の場合に消費者がさほど関心を示さなかったのは、長年使う耐久消費財であるため、
総合評価よりも省エネなどの具体的情報を重視したのではないかと考えられる。
消費者の購買行動は価格志向性が強く、自己便益につながるかどうかが最大の関心事である。
基本的に自分に直接影響のない環境問題を解決するためにこの購買行動様式を変えることは極め
28
て難しいことである。また、国や地域によって社会文化的な背景や身近な環境問題が異なり、消
費パターンや個人の社会参加意識の差があるため、ある国で成功したことが他の国でも効果があ
るとは限らない。しかし、これまでに見てきた事例など、多様な環境コミュニケーションの手法
や試みの経験から、消費者への訴求力が高く効果的な手法とその要件について、国際的に活用で
きると思われる次のような共通するポイントを抽出することができる。
[ライフサイクル・コストの考え方の訴求]
環境負荷を減らすことがコスト削減にもなるというのは、自己便益に直結するので、消費者に
受け入れやすいポイントである。消費者が製品の使用・消費・廃棄段階で負担することになる
コストを定量的に明らかにし、その情報を購買決定シーンで伝えることで、
「賢い」商品選択を
促すことができる。ただ、これが有効なのは省エネ・節水性や長寿命性などに限られ、再生材
料使用や製造段階での環境影響削減という観点は反映できない。また、ライフサイクル・コス
トに占める製品価格の割合が圧倒的に大きい場合も、機能しにくいことに留意する必要がある。
[健康などのメリットの訴求]
オーガニック食品は、本来の主要目的である自然循環機能の回復という観点が、消費者に必ず
しも理解されて選択されているわけではない。むしろ健康に良いというのが主な理由であり、
販売側もその点を強調してコミュニケーションしていることが多い。また、容器や包装の削減
についても、台所でのゴミスペース削減やゴミ出しの手間削減というメリットを感じる消費者
も少なくない。解決したい環境問題と観点が多少ずれていても、結果的に環境保全につながる
のであれば、その観点を訴求することは有効である。
[環境改善効果の訴求]
人は自分が誰かの役に立っていると実感することが、自分の満足につながるものである。環境
改善に役立っている、環境に良いことをしている、という満足感を得られれば、商品選択を変
えられる可能性がある。そのためには、その商品を選択することによる環境改善効果をわかり
やすく伝達することが有効である。店頭では POP やパッケージでの表示となるので、改善効
果の簡潔な表現が求められるだろう。また、ドイツのエコテスト誌のように、雑誌の記事と商
品テスト結果をセットで伝えることは、環境改善効果と選択の必要性を訴求する上で極めて効
果的な方法であろう。
[信頼性の担保]
インターネットなどの情報伝達手段が急速に普及する中、情報の量だけでなく質に対する消費
者の目は厳しくなっている。社会的関心の高まりを受けて環境ラベルや情報が氾濫しつつある
昨今、製品だけでなく環境情報そのものも市場の中で厳しく選別される時代になっている。す
なわち、信頼性の確保が環境コミュニケーションでも重要な課題なのである。
[環境効率指標の活用]
消費者は環境に配慮しつつ、機能や品質が良く、価格が安いものを求めている。これらについ
て総合的な評価指標があれば、消費行動を変える可能性がある。環境効率指標はまだ開発途上に
あり、消費者の受容性については今後の研究成果を待たねばならないが、賢いグリーン購入を促
す有効なツールになり得るだろう。
29
3.1.2 組織購入における製品選択基準・商品情報
行政機関や企業で組織的にグリーン購入に取り組む際には、必ず「どのような手法で購入する
商品を選択・決定するのか」が重要な課題となる。そのため、各国でグリーン購入の普及活動を
行っている行政機関や公的組織では、各機関においてグリーン購入をスムーズに導入していける
よう、製品やサービスを選択する手助けとなる購入指針/ガイドライン/基準、評価選択ツール、
個別商品情報・サプライヤー情報を提供している。
これまでは、各国で独自にグリーン購入のための基準や指針が策定されてきたが、あまり相互
の情報交換は活発に行われていなかった。しかし、製品市場がグローバル化する中、国際的に製
品のスペックは似通ってきており、環境要素についてもそれほどの違いは見られなくなってきた。
購入基準等をゼロベースから策定するのは相当な手間と時間がかかるが、世界中にある既存の基
準等を入手して参考にすることができれば、簡便に基準等を開発することができるだろう。これ
によって基準等の国際的な調和が進めば、製品の供給側にとってもメリットがある。バラバラな
グリーン購入基準等に対応するのは手間もかかるし、製品のスペックを各々に対応させる必要が
生じるが、調和・共通化の方向に向かえば、これらの問題は緩和される。また、グリーン購入に
取り組む上で、市場に出回っている個別の商品情報を入手することは、次の2つの場面で重要で
ある。まずひとつは、入札の仕様書や基準を策定する場面である。仕様書等の策定にあたっては、
商品を巡る環境技術や市場の動向を把握しておくことが不可欠である。2つめは、実際に商品を
選んで購入する場面である。組織における購買担当者が簡便に、いつでも参照できる環境配慮型
製品の情報源が必要となる。
今後、各国・地域で商品情報のデータベースを構築・運営していくことは、グリーン購入の促
進と市場の活性化のために大きな意味をもつ。日本の経験を他でも生かすことが可能と考えられ
る。さらに、世界的に流通する商品分野については、国際的な商品データベースの構築が有意義
であろう。
日本の行政機関では、仕様書を満たしていれば価格のみの競争となるが、欧州では仕様書(ミ
ニマム基準)を満たした製品について、価格、品質、機能、サービス、そして環境側面などをポ
イント化し、合計スコアで総合的に決定する制度を用いることが多い。この方式であれば、多少
価格が高くても環境面で秀でていれば合計スコアが高くなり、入札に勝つことができる。必須基
準のみの設定では、商品の選択幅を確保する必要性からあまり高い基準設定ができないが、総合
評価方式を取り入れれば、環境性能のより優れた製品が有利になるので、企業の環境配慮をより
一層刺激することにつながると考えられる。総合評価制度を取り入れれば、製品のライフサイク
ル・コストをポイント化して評価することが容易になる。特に二酸化炭素の排出削減のように閾
値がない環境側面については、この方式が有効に機能すると考えられる。総合評価手法の1つと
考えられる環境効率指標については、まだ組織調達で活用される段階に至っていないが、環境負
荷単位の価値を最大化するという考え方は、公共政策的にも受け入れられる可能性は低くないだ
ろう。
これから国際的にグリーン購入の経験やノウハウの交換を促進する中では、優れた総合評価手
法やライフサイクル・コスト評価手法の共有化や開発を進めることは極めて意義が大きいものと
考えられる。
30
3.2 ワークショップのまとめ
2002 年 11 月のウィーンに始まって以来、3年の間に7回の「持続可能な消費」ワークショッ
プが開かれ、活発な議論がなされ、この新分野において多くの研究テーマの萌芽があり、研究者
ネットワークが構築されていった。ここでは、最終年度となる 2004 年度に開催された2回のワ
ークショップを紹介する。
3.2.1 第3回国際ワークショップ(東京)
2004 年 10 月 21−22 日に品川プリンスホテルにおいて、「持続可能な消費・生産における研究
の枠組み」と題して、参加者数延べ約 156 名の参加を得て開催された。このワークショップの目
的は「持続可能な消費・生産における研究の枠組み」を議論するものであり、国内 13 期間 14 件、
海外9機関9件の発表があった。
これまでの研究により、今まで関心も少なく概念もあいまいであった「持続可能な消費」の枠
組みが研究者の間で一応共通に認識され、消費者の挙動を社会受容性として取り入れ、それを考
慮した環境効率が提案されたことに、一定の成果があったといえるであろう。また、消費活動の
言動力となる消費者の心理的なものとして、幸福感・満足度・Well Being などがあり、これらを
どう評価し、どのように定量化して消費行動を分析するかも、今後の課題としてあげられた。今
後、持続可能な消費の実現のためにはエンジニアや経済学者だけではなく社会学者が求められ、
消費者行動の分析やリバウンド効果などの研究も、核心に触れるためのトリガーが発見されなけ
ればならないだろう。生活とは人生とはといったところまで踏み込まなければならない、といっ
た課題もあげられた。
3.2.2 オスロ国際ワークショップ
2005 年2月 10−12 日にノルウェーオスロの Gabels Hus ホテルにおいて、「持続可能な消費
への研究の貢献」と題して、参加者数延べ 38 名の参加を得て開催された。このワークショップ
は「持続可能な消費への研究の貢献」というテーマで開催され、これまでに得られた知見と成果
を基に今後どのような研究を展開し、どのようにしてこの分野の研究を世界的に先導していくの
かを討議するために、国内外から 29 件の発表があった。
「持続可能な消費」の研究の為には、共通用語と効果的なコミュニケーション作りが必要である
ことが最初に挙げられた。また、
「持続可能な消費」とは発展のための一段階に過ぎないのか、そ
れとも戦略的な政策なのか、心理学者の専門知識を取り入れ、「持続可能な生活(Sustainable
Living)」というカテゴリーに焦点を当て、時間利用や持続可能な市場やフェアーな消費(Faire
Consumption)の分野に踏み込む必要性がある、などの提案があった。さらに、政策のツールと
して市場や生活の質を含め、包括的に検討すると共に、それぞれの効率と副作用を回避すべき要
因を分析するなど、政策を評価する手法も必要であるとの指摘がなされた。生活の質(QoL)の
研究においては、国の豊かさを計る指標として GDP や GNP から本質的な意味での QoL を示す
指標開発の研究が求められている。例えば、Gross National Happiness(GNH)という指標を
用いて国の環境的・文化的・心理的側面を評価することも重要であろうし、消費と政策も連携し
て SC 研究者ネットワークを構築する必要がある。また今後の指標開発としては、製品・サービ
31
スシステム(PSS)を評価するための指標が必要であるとの指摘があり、消費者行動とライフス
タイルの変革を求めるためには、地球市民としての教育や情報提供が重要になるとの議論がなさ
れた。
今回は、これまでに得られた知見と成果をもとに、今後どのような研究を展開し、どのように
してこの分野の研究を世界的に先導していくのかが焦点の1つとなった。その成果として「オス
ロ宣言」が草案され、参加者ほぼ全員が署名の合意をするに至った。オスロに集結した研究者は、
改めて「持続可能な消費」に向かう国際的な研究体制の存続は急務であり、地球全体がより持続
可能な社会となる為には、
「持続可能な消費」を研究課題とすることが最も前途有望な道であるこ
とを確認し、同意した。これは、本プロジェクトの成果の1つと言えよう。
3.3 研究会のまとめ
SC プロジェクトにおいて、研究課題議論の場を提供し、外部へ窓口を広げて知識を共有しネ
ットワークを構築するという目的で、2003 年度は「社会受容性研究会」と「環境効率指標研究会」
を設置した。2004 年度は前年度の議論を持続可能な「消費」と「生産」の両輪の連結に向けて、
具体的な企業活動に着目し、今後の生産者の取り組みについて提言することを目的とした。テー
マとして「食品」を取り上げ、研究会メンバーによる「持続可能な生産と消費
食品研究会」と
して議論を重ねた。
3.3.1
2003 年度研究会活動の概要
2003 年度の研究会は「社会受容性研究会」と「環境効率指標研究会」とからなり、鷲田・中原
両委員長と幹事を中心に企画立案、未踏が運営に当たり6月、8月、10 月、1月の計4回が開催
された。参加者は延べ 200 人にのぼり、参加者構成比は民間企業からの参加者が約半分を占め、
企業界の「持続可能な消費」への関心の高さを伺わせた。また、複数回の参加者も多く見られた。
第1回および第2回は、主催者側からの情報伝達の場との位置づけ、外部から講師を招く講演
会形式で開催した。一例を挙げると、筑波大学院助教授
西尾氏から、市民がゴミを減らす行動
を起こす要因について発表があった。第3回は「説得力ある指標とは」、「持続可能な消費の人間
像:消費者が変わる可能性と必要性」について参加者に問題提起をし、議論した。第4回では、
ステークホルダー別のグループディスカッションを行い、多くの参加者が自らの意見を出すと共
に、参加者全員で問題意識を共有するといった一連の流れを醸成することができた。また、ここ
で環境に関する教育の重要性が指摘された。
3.3.2
2004 年度研究会活動の概要と成果
2004 年度は「持続可能な生産と消費
食品研究会」として小林主査・田原幹事を中心に、20
余名の食品関係の企業、研究者等によって構成され、未踏を事務局として計6回の研究会を開催
した。まず研究会メンバーによる話題提供として「調理パスタの LC-CO2 比較(味の素
「農林水産省 LCA プロジェクトの成果の紹介(農業環境技術研究所
佐藤氏)
」、
斎藤氏)」
、
「コンビニエン
スストアにおける食品残渣のリサイクルへの取り組み(セブン-イレブン・ジャパン
山口氏)」
等が発表された。こうしたこれまでの食品分野の持続可能性に関する知見を基に、2004 年度は「研
32
究事例としての米の LCA」と「わが国の食料供給の不安定要因についての表を作成」について掘
り下げる事が決まった。メンバーが得意分野のデータを持ち寄り、説明文を執筆するなど、各メ
ンバーの地道な作業により以下の成果が挙げられた。
まず、田原幹事を中心として行なった「米の LCA」の分析結果においては、市販の加工米飯よ
る消費形態が、CO2 排出量が今回の試算では最大であり、これは包装材起因の CO2 排出量が大き
いことによるものと考えられることが報告された。また、小林主査を中心とした「わが国におけ
る食糧供給
不安定要因」の分析では、影響の大きさ毎および頻度毎に整理した結果、一覧表と
して提示できた。
本研究会は、食品のライフサイクルに関与する研究者、企業、学識経験者等により、食品分野
における持続可能な生産と消費の課題を抽出し、「米の LCA」と「不安定要因」の2つを成果と
して得た。
「米」という日本の主食のベンチマークが出来たことは意義深い。また、6回にわたる
研究会での議論を通じた参加者間の連携強化により、次なる研究課題に取り組む協力体制が築か
れたことも成果と言える。
33
まとめ
2002 年 11 月に始まった持続可能な消費に関するプロジェクトの目的は、地球温暖化対策とし
て、生産者のみならず消費者が自らの意思で選択可能な CO2 排出削減に寄与する方策を指標化し、
定量的に提示することにある。この目的のために、海外5機関、国内6機関が本プロジェクトの
共同研究に参画した。また、合計7回の国際ワークショップを開催して、2005 年3月に終了した。
本プロジェクトは、初期には欧米を中心に持続可能な消費の事例を収集するとともに、事例の
持続可能性に関する分析を行った。また、持続可能な消費の枠組みを示すキーワードマップを提
案した。このマップは、国際ワークショップで繰り返し議論された結果、研究者間の研究基盤と
なった。
消費者による製品・サービスの「社会受容性」
、および「社会受容性を考慮した環境効率指標」
に関する研究については、最終的に、3つの具体的な例、製品機能に関する環境効率指標、社会
受容性定量化手法による消費行動の環境効率指標、およびライフスタイルを評価する環境効率指
標を提示することができた。また、プロジェクト実施期間中に開かれた国際ワークショップ、環
境効率・社会受容性研究会、アドバイザリーボード等における議論の中からも、持続可能な消費
についての新たな視点やキーワードが浮かび上がってきた。これらもまた、本プロジェクトの成
果である。
研究の過程で見えてきた代表的なキーワードは「リバウンド効果1」である。すなわち、CO2
削減行動は得てして CO2 削減効果を薄める行為を促すため、CO2 排出量を計算するとその「リバ
ウンド効果」の影響を無視できないことが量的に示された。今後、ライフスタイルと CO2 排出の
関係を研究する際には、リバウンド効果についても、その必要性を含め、十分検討しておく必要
があるといえる。また、政策担当者にとっても、これから民生部門の CO2 削減施策を進める上で
は、
「リバウンド効果」が極めて重要なファクターであることを認識する必要があることを指摘し
ておく。
研究の過程で浮かび上がったもう1つの視点は、消費者の「価値観」に関するものである。特
に、欧米の研究者等は、消費の裏には「生活の質」や「幸福度」の向上、あるいは「Well Being」
への要求があることを指摘していた。これらの価値観が消費を突き動かしているとすれば、持続
可能な消費へ移行するための具体的な方法にとって、消費行動とこれらの概念の関係を分析し明
らかにすることこそが重要であるといえる。それ故、本プロジェクトでは、
「幸福度」と消費行動
の関係についても、1つの研究テーマとして取り上げ、日本の若い女性を対象として「幸福度」
と「消費行動」の関係を分析することを試みた。使用データからは両者の関係について有意性の
ある結果は僅かしか得られなかったが、このような研究は今後もっと進めるべきである。
最終年度では、製品の機能と環境負荷を、ともに貨幣価値に換算した製品の環境効率指標例を
1
)リバウンド効果とは、ある行為によって CO2 排出が削減されたとしても、その行為によって使えるお金が増
えたり使える時間が増えると、それらのお金や時間によって新たに CO2 排出が生じることを意味する。なお、CO2
削減に効果的な行為がさらなる CO2 削減を促す場合もある。その効果を「アクセラレイション効果=加速効果」
と呼ぶことにする。
34
提示することができた。この方法により、環境効率指標の分母・分子共に消費者の価値観が反映
されることになったため、製品やサービスの種類によらず共通性の高い「指標」へ一歩近づいた
と考えられる。本プロジェクトでは、タイプⅢの環境ラベルの1つであるエコリーフにおいて環
境効率指標の表示についても検討した。しかし、その際に提示された指標の例は消費者にほとん
ど理解されていないことがわかり、使用するには更なる工夫が必要であるといえる。ここで新た
に提示した指標は、消費者の意向を汲んだ製品価値を表しているので、従来のものよりも理解が
得やすく、より普及性の高い指標となると考えられる。この指標が実用的なものとなるためには、
今後、さらに多くの製品・サービスに広げ、その適用性を検討してゆくことが極めて重要である。
グリーン購入のためのラベルなどにも利用可能であり、さらなる発展を期待したい。
2つめは、サービスを機能単位とした環境効率指標であり、QFD の手法を応用して求めた消費
者による社会受容価値を使用した指標である。得られた指標の有効性・信頼性については今後さ
らに検討すべき点も多いが、実際に受容価値と環境負荷を比較することで、消費者の目的を果た
す行動を手段別に環境効率で評価することが可能であることが示された。
3つめの代表的な成果は、個人のライフスタイルに基づく環境効率指標であり、個人の「こだ
わり」を基調としたライフスタイルから、環境効率指標を計算するものである。この手法は、設
定したライフスタイルの種類や CO2 計算根拠についてはまだ荒削りであるが、ライフスタイル全
体を扱った点に大きな特徴がある。この手法により、消費者は自分の消費スタイルと CO2 排出の
関係をより具体的に理解することが可能になっただけでなく、個人が重視する価値を無視するこ
となく、CO2 削減への方法を消費者自ら探ることが可能になった。また、ここにはリバウンド効
果とアクセラレイション効果も考慮されていることは特記されよう。
以上、本プロジェクトは、多様な消費活動を持続可能な方向へ誘導するための施策をサポート
する手法としての環境効率指標の提案であり、今まで扱われなかった「消費者の視点」からの対
応という新たな分野に挑戦し、持続可能な消費に関する初めての枠組みと方向性を提示したとこ
ろに大きな価値があるといえる。
なお、これまで収集した持続可能な消費に関する事例・文献は、データベースとして web 上で
提示している。
また、本プロジェクトで提案された「ライフスタイルに基づく環境効率指標」を、さらにわか
りやすくしたものとして再構成したものが 2005 年4月から開催される万博「愛・地球博」の日
本政府のサイバーパビリオンで公開されることになっており、既に万博の政府 HP に掲載され、
アクセスできる状態にあることを付記しておく。
【関連サイト】
・(社)未踏科学技術協会
「持続可能な消費」プロジェクト
ホームページ
http://www.sntt.or.jp/sntt/SC/top.html
・(独)産業技術総合研究所
ライフサイクルアセスメント研究センター
ホームページ
http://unit.aist.go.jp/lca-center/
・2005 年日本国際博覧会
政府出展事業
サイバー日本館
http://www.nippon-kan.jp/co2/
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「シェイプアップ CO2」
本件に関するお問い合わせは
社団法人
未踏科学技術協会
〒105-0001 東京都港区虎ノ門 2-5-5
櫻ビル9F
TEL: 03-3503-4681
E-Mail: [email protected]
FAX: 03-3597-0535