Yoshida Press Release

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Science 2013 年 7 月 5 日号ハイライト
英国全域にわたる研究により、土地から最大限の価値を引き出す方法が明らかに
ヒトの腸内微生物叢はどの程度安定しているか?
肥沃な三日月地帯の農耕の発祥地は 1 ヵ所ではない
脳のメチル化マップ
英国全域にわたる研究により、土地から最大限の価値を引き出す方法が明らかに
UK-wide Study Uncovers Strategy for Deriving Ultimate Value From Land
土地の利用法を ―― 農業生産のように、すぐに収益が出るものに限らず ―― 様々に検討す
ることにより、結果として、我々の住む土地からより多くの価値が得られるようになると、
新たな研究は強調している。多様な生態系の景観を構成している樹木や、土壌、平原、水路
などから、温室効果ガス隔離や、洪水防止、だれでも利用可能な娯楽の場、野生種の多様性
維持といった、社会の利益になる幅広い働きが生み出される。しかし、土地の利用法を決定
する際、こうした働きは見落とされることが多く、その代わりに農業生産高を最大にすると
いうような市場価値に注目が集まる。事実、英国では、土地の約 75 パーセントが農業に利
用されている。Ian J. Bateman らは、英国の国家生態系評価(NEA) ―― 地域生態系を数十
年にわたり徹底的に評価したもの ―― の詳細なデータを用いて、市場が対象とするものよ
りも広範な対象に注目することで、社会にとって土地の価値を高める方法を示した。彼らは
精度の高い NEA のデータを利用し、土地利用法の決定における要因と結果に関するモデル
を作成した。Bateman らはこのモデルを使って、2060 年までに成果が出ると予測できる、6
種類の実現可能な土地利用を計画した。この計画の一環として、生態系の働き(種の多様性
が増えるなど)や土地の農業利用に伴う外的影響(種の多様性が減るなど)を経済用語に変
換したところ、こうした非市場的なものを市場の様々なものと直接比較できるようになった。
本チームによる分析の結果、農業だけに注目して決定した場合、数ある外的影響のなかでも
特に、温室効果ガスの排出量増加や娯楽の機会減少によって、生態系の働き全般が低下する
ことが分かった。このシナリオによって解決法を探っていくなかで、土地の価値を大幅に上
昇させるには、生態系の働きをはじめとする潜在的な働きすべてを入念に組み入れた方法を
とればよいことが明らかになった。さらに言えば、土地の価値を大幅に改善するには、土地
の利用法を少しだけ変化させればよいことが、計画モデルから分かった。例えば、比較的狭
い土地を農業から公共娯楽の場に変えた場合、農産物の価値の損失は比較的少なくてすむ一
方で、娯楽の場からはるかに大きな価値が生み出される。この革新的な研究は、自然科学と
経済評価を組み合わせて土地利用の意思決定をすると効果があることを実証しており、地域
規模に留まらず、全国レベルに応用できる可能性を示している。
Article #7: "Bringing Ecosystem Services into Economic Decision-Making: Land Use in the United
Kingdom," by I.J. Bateman and colleagues. For a full list of authors, see the manuscript.
ヒトの腸内微生物叢はどの程度安定しているか?
How Stable Is the Human Gut Microbiota?
ヒトの腸内で調和的に生存している細菌の集団を分析し、それらの長期的な安定性を知るた
めの優れた技術が開発された。ヒトの腸内微生物叢の安定性を明らかにすることは、これら
の多様な微生物を長期の健康介入の標的として用いる方法を理解するために不可欠である。
しかし、ヒトの腸内における微生物株がどの程度安定しているのかはほとんど知られていな
い。今回 Jeremiah J. Faith らは、これらの微生物株を正確に追跡するためのシーケンシング
法を開発した。LEA-seq と名付けられたこの方法を用いて、37 人の被験者の便中細菌叢のサ
ンプリングが行われた。これら被験者のうち 4 人は 32 週間の流動食に参加し、それ以外の
被験者は自由に食事をした。その結果、サンプリングを行った人の細菌株の 60%は最長 5
年間にわたり安定していたことが明らかになった。一部の細菌株は数十年も持続的に存在す
ると推定された。長期的な個人の細菌叢の変化や、食事療法で体重が減少した人の変化を評
価することで、腸内細菌株の構成に対して、時間よりも体重減少がより大きな影響を及ぼす
ことが分かった。この所見から、腸内細菌叢の変化は、宿主の健康や機能の状態を表す指標
となりうることが示唆される。Faith らが血縁関係のある人やない人の微生物叢の全ゲノム
を比較したところ、家族内では同じ細菌株の一部が共通にみられることが分かり、このこと
から、生後直後に両親を通じて遭遇した微生物株は、生涯にわたりその代謝産物を提供する
能力があることが示唆される。ヒトの腸内微生物叢の安定性に関して本研究が提供してくれ
た洞察は、微生物叢が健康に及ぼす影響についての研究が続く限り、参照ツールとして利用
できるであろう。その一方で、Faith らにより開発された新しい、誤差の小さいシーケンシ
ング技術は、個別化された疾患予防に使用するためのルーチンの便検体採取を、より実施可
能なものとすると考えられる。
Article #6: "The Long-Term Stability of the Human Gut Microbiota," by J.J. Faith; J.L. Guruge; M.
Charbonneau; S. Subramanian; H. Seedorf; A.L. Goodman; A.C. Heath; J.I. Gordon at Washington
University School of Medicine in St. Louis, MO; J.C. Clemente; R. Knight at University of Colorado
in Boulder, CO; R. Knight at Howard Hughes Medical Institute in Boulder, CO; R.L. Leibel; M.
Rosenbaum at Columbia University College of Physicians and Surgeons in New York, NY; J.J. Faith
at Icahn School of Medicine at Mount Sinai in New York, NY; A.L. Goodman at Yale University
School of Medicine in West Haven, CT.
肥沃な三日月地帯の農耕の発祥地は 1 ヵ所ではない
No Single Origin for Agriculture in the Fertile Crescent
イランのザグロス山脈ふもとの丘陵地帯から大量の化石や人工遺物が発見されたことにより、
この地域の初期の居住者らは 12,000~9,800 年前に農耕として穀物の栽培を始めたことが明
らかになった。この発見は、狩猟採集から農耕への移行、言い換えると「文明の始まり」は
肥沃な三日月地帯全域でほぼ同時期に起こったことを示唆している。肥沃な三日月地帯東部、
現代のイランでは、政治的圧力により最近まで遺跡の発掘が制限されていた。一方、西部
―― キプロス、シリア、トルコおよびイラクなどの遺跡 ―― での発掘調査からは、農耕
の起源について詳しい手掛かりが得られていた。今回、Simone Riehl らは、イランにある無
陶器(前陶器)の新石器時代の遺跡である Chogha Golan 遺跡から出土した植物遺物の分析
を行った。その結果、そこの人々は肥沃な三日月地帯西部の人々と同じ時期に小麦や大麦と
いった穀物を栽培し、製粉していたことが判明した。この遺跡で発見された植物遺物は
2,000 年以上にもわたるこの地域の土地の利用状況を物語るものであると同時に、イランで
の長きにわたる植物管理に関する最古の記録でもあると、Riehl らは述べている。彼らによ
ると、Chogha Golan 遺跡の初期の居住者らは約 12,000 年前からその地域で生活し、その間
に野生の大麦、小麦、レンティル、グラスピーを育て、最終的には栽培化したという。以上
のことから、これらの研究結果は、肥沃な三日月地帯東部も同様に新石器時代の文化の発展
に多大な貢献をしたこと、および、基本的に同時期に発生したプロセスを経て肥沃な三日月
地帯のほぼ全域での野生植物の管理と穀類の栽培化に至ったことが示唆された。Perspective
では George Willcox が今回の研究結果とその意義を詳しく説明している。
Article #12: "Emergence of Agriculture in the Foothills of the Zagros Mountains of Iran," by S. Riehl;
M. Zeidi; N.J. Conard at University of Tübingen in Tübingen, Germany; S. Riehl; M. Zeidi; N.J.
Conard at Tübingen Senckenberg Center for Human Evolution and Palaeoecology in Tübingen,
Germany.
Article #2: "The Roots of Cultivation in Southwestern Asia," by G. Willcox at Archeorient in Lyon,
France; G. Willcox at CNRS in Lyon, France; G. Willcox at Universite Lumiere Lyon 2 in Lyon,
France.
脳のメチル化マップ
A Map of Methylation in the Brain
われわれの遺伝子の発現は、DNA 上の特定のマーク(エピジェネティクスと呼ばれるプロ
セスで特定のヌクレオチド塩基対のメチル化を介して付けられるマークなど)に影響を受け
ているのかもしれない。今回、科学者が、哺乳類の脳の発生時に経時的にどのようなメチル
化の変化が起きるかを示す詳細な地図を提供した。DNA メチル化は、われわれが非常に若
く神経回路が形成されている時に、ニューロンに生じる。事実、メチル化は、脳発生、学習、
記憶の面に関与している。発生時のエピジェネティック修飾は高い関心を集めているが、そ
れらを特性決定した研究はほとんどない。今回、Ryan Lister らの新しい研究で、他の多くの
研究のようにメチル化ホットスポットに焦点を当てるのではなく、マウスとヒトにおける脳
発生時の DNA メチル化のゲノムワイド変化の解析が行われた。複数の発達段階(胎児、出
生初期、成人)にあるニューロンを検討することによって、Lister らは、DNA シトシンメチ
ル化(5mC)を含む特定のタイプの DNA メチル化、並びに誘導メチル基(mCH)によるゲ
ノムワイド修飾をマッピングした。このマップにより、脳メチル化の複数の興味深い特徴が
明らかになった。その 1 つは、ヒトニューロンでは生後 2 年間に mCH が有意に蓄積され、
以後は遅くなるが、最終的に成人で最も高頻度でみられるメチル基となることである。ヒト
の神経回路が最も急速に発達しているとき(非常に若いとき)に mCH が多く存在すること
は、このエピジェネティック的影響が初期発生に重要であることを示唆している。事実、こ
のメチル化を欠損させた胎仔マウスは、運動障害を起こし死亡した。Lister らのこれらの知
見は、脳発生時のメチル化マークがダイナミックであることを示唆している。今回作成され
たゲノムワイドマップは、脳のエピジェネティックな修飾によって、完全に分化したニュー
ロンシステムがどのようにできあがるかに関する深い理解への道を拓いている。本研究の結
果は、脳の DNA メチル化に関する今後の研究のために有用な参照ツールを提供すると考え
られる。
Article #14: "Global Epigenomic Reconfiguration During Mammalian Brain Development," by R.
Lister and colleagues. For a full list of authors, see the manuscript.