The contemporary dance scene in the island nation of Ireland

国際交流基金 The Japan Foundation
Performing Arts Network Japan
Presenter Interview
2013.4.2
プレゼンター・インタビュー
The contemporary dance scene
in the island nation of Ireland
小国アイルランドの
知られざる現代ダンス事情
エリザベッタ・ビサーロ氏
Ms. Elisabetta Bisaro
人口約 450 万人、北海道と比べると一回り小さいアイルランド。今も伝統的なアイ
ダンス・アイルランド
http://www.danceireland.ie/
リッシュダンスが盛んに行われているこの国唯一のコンテンポラリーダンスの拠点
が、ヨーロッパ・ダンスハウス・ネットワークの支援を得てダブリンに誕生した「ダ
ンス・アイルランド」だ。イタリアから同国にわたり、アーティスティック・プロ
グラム・マネジャーとして活躍しているエリザベッタ・ビサーロ氏に、ダンス・ア
イルランドの運営や各国と連携したアーティスト育成のあり方など、知られざる現
代ダンス事情についてインタビューした。
聞き手:乗越たかお[舞踊評論家]
■
アイルランドの現代ダンス史
──アイルランドというと、伝統的なアイリッシュ・ダンスをショウ化した「リバー
ダンス」が飛び抜けて有名ですが、コンテンポラリー・ダンスについて、概略を伺
えますか。
アイルランドは、小規模ながらも活気あふれるアートシーンを有しています。歴
史的に見てもジョイス、イェーツ、ベケットをはじめとした文学、戯曲といった言
語芸術を筆頭に、U2 のようにメッセージ色の強い音楽など有名なものがいろいろあ
ります。イェーツは、1904 年、友人たちとともにアイルランド国立劇場を設立して、
ダンス作品も発表しています。
──「舞踊劇(Play for Dancers)」ですね。そのなかのひとつ『鷹の井戸( at
the Hawk's Well )』は、日本のモダンダンスのパイオニアの一人、伊藤道郎ととも
に能をベースに作ったものです。
そうですね。イェーツはニネット・ド・ヴァロア(アイルランド出身。バレエ・リュ
スで活躍し、後に英国ロイヤル・バレエ団となるサドラーズ・ウェルズ・バレエ団
の創設者)にバレエ学校を設立するよう助言もしています。しかし、アイルランド
には国立のバレエ団がなかったばかりか、ダンスが政府の芸術法令(Arts Act)で
芸術として認められたのは、わずか 10 年前の 2003 年になってからのことです。
歴史的には、アメリカに多くの移民が渡っているので文化的なつながりも深く、
1980 年代はポストモダンダンスの影響を強く受けました。4 つの大きなダンス・カ
ンパニーがプロフェッショナルな仕事をしましたが、80 年代後半には助成金の削減
などの理由で解散してしまいました。そのうち何人かは活動を続け、89 年に「アイ
ルランド・ダンス協会(APDI:ASSOCIATION of PROFESSIONAL DANCERS in
IRELAND)
」を創設しました。これが「ダンス・アイルランド」の前身です。
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APDI はアーティスト同士の勉強会的な意味合いも強かったのですが、90 年代に
はアイルランド初のダンス・フェスティバルを開催するなど、重要な存在でした。
アイルランドの面白いところは、アーティスト自身がコミュニティを作って発言す
ることで、彼らはアーティストであるとともにダンスの擁護者なのです。
── 1994 年にはリバーダンスがユーロビジョンで放映され、世界的な大ヒットに
なりました。そしてダンスが芸術法令に認められた 2003 年、イタリア出身のピサー
ロさんもアイルランドに移住されます。アイルランドのダンスの何に惹かれたので
すか。
私は、イタリアでフェスティバルやダンス・カンパニーのコーディネーターとし
て国際プログラムに携わっていました。しかし、大学の卒業論文は演劇作品につい
てのもので、そもそもアイルランドの文化に魅了されていたのです。幸運にも 2003
年にダブリンのコンテンポラリー・アート界で最も重要な存在だったプロジェクト・
アート・センターにインターンシップで招聘され、6 カ月間滞在しました。折しも
アイルランドは 2000 年頃からの「ケルトの虎」と言われる好景気の時期で、経済
的な後押しもありました。アイルランドで働くアート関連の若い外国人はほとんど
が演劇や映画のジャンルだったので、ダンスで訪れている私は珍しく、好意的に受
け入れられました。
インターンの後、私はアイルランドで最も有名なカンパニーの 1 つ、アイリッシュ・
モダンダンス・シアター(Irish Modern Dance Theatre)のマネジャーとして働
きました。ディレクターのジョン・スコットの座右の銘は、
「アイルランド伝統芸術
の物語性に打ち勝つ!」
(笑)
。彼はダンスを通じて、伝統的な言語芸術の保守性に
挑戦していたのです。毎年ジョンは振付家を海外から招待し、セラ・ラトナー、トー
マス・レーメン、若い頃のショーン・カラン等に振付を委嘱し、若いアーティスト
とコラボレーションさせたりしていました。私にとって彼と働くことは、ダンス・
カンパニー経営の特訓を受けているようなものでした。そして、2006 年に APDI に
移りました。
ダンス・アイルランド設立
── 2006 年というのは APDI が、現在の「ダンス・アイルランド」へと改称され
た年です。
およそ 10 年にわたるロビー活動の結果、芸術協議会、ダブリン市議会、マッケ
イ・ビルダーズの共同事業として、ダブリンに新しいダンスハウスのビルが建設さ
れ、APDI はダンス・アイルランドに改称されました。ダンスハウスには、実用的な
6 つのスタジオがありますが、どれもアーティストの声を反映させた、清潔で温かく、
明るいスペースになっています。
私が働き始めた最初の数カ月間は、最高責任者や理事会と共にここをどう発展さ
せていくかを考え、プログラムを検討することに費やされました。かつてアイルラ
ンドのダンサーは、本格的に学ぶためにイギリスやフランスなどに行く必要があり、
多くはそのまま帰ってこなかった。そういう状況を変える必要があったのです。
──ダンス・アイルランドの設立には、ヨーロッパ・ダンスハウス・ネットワーク
(EDN)の支援もあったのですね。
EDN はダンスハウスを設立したいと考えている国に対し、国家レベルでのロビー
活動を展開して援助してくれるネットワークです。私もフランスやアメリカ、ドイ
ツ等を訪れ、アイルランドに適したダンスハウスのモデルを模索しました。その結
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果「プロフェッショナルのための空間ではあるが、午後 6 時から 10 時までは一般
の人々にも開かれている場所」という、いわば結合モデルにいきつきました。これ
は画期的だったと思います。プロのみならず一般の人々もヨガ、ピラティス、ボク
シング、伝統舞踊、バレエ等、様々な運動を行うことができ、幅広い年齢層が参加
しています
プロ用のプログラムにはトレーニング・プログラムと発展プログラムの 2 種類が
あります。トレーニング・プログラムは APDI から継承したものです。年間およそ
42 のレッスンが定期的に行われ、海外から招待された講師のレッスンもあります。
発展プログラムでは、振り付けラボやセミナー、海外の団体との交流プログラム等、
様々なプロジェクトを行っています。レジデンスしているアーティストには最低 1
週間は公開レッスンをしてもらい、スタジオ・パフォーマンスや講演、時には過去
の作品のビデオ発表等を行います。
またアイルランドでは、ダンスをはじめほとんどの芸術がダブリンに集中してい
るので、他の町の小さな組織やカンパニーを助けることも重要な仕事です。
──運営費について教えてください。
APDI の頃は年間 10 万ユーロ程度でしたが、「ダンス・アイルランド」になって
からは 3 倍以上の約 35 万ユーロになり、より充実したプログラムを行うことがで
きるようになりました。アイルランドの芸術協議会から支援されていて、その金額
は毎年変わります。昨年度は 40 万 5 千ユーロ、今年度は 37 万ユーロでした。また、
ダブリン市議会からも 1 万 2 千ユーロほど支援されています。最終的には、年間お
よそ 75 万から 80 万ユーロほど調達していて、残りの 50% はスペースを個人レッ
スンの講師に貸したり、プロジェクトを通じて自分たちで工面しています。共同プ
ロジェクトにしてお金をかけずに制作していますし、また、ヨーロッパ・プロジェ
クトについては資金の 40 ~ 50%が EU から払い戻されます。スタッフは最高責任者、
総支配人、私、マーケティング、そして受付 2 人の 6 人だけです。レッスンには講
師を雇い、アーティストにお金が回るようにしています。
──昨今の不況の影響はありますか。
2007 ~ 8 年頃から経済が後退し、2009 ~ 10 年頃から支援が削減され始めまし
たが、
「芸術は国の重要な資産だ」として一定額が保護されたことは素晴らしいと思
います。3 年前には「芸術のための国民運動」という、全ての芸術部門を支える政
治レベルの組織が設立されました。映画界や音楽界の有力者を巻き込み、政治家た
ちと直接話し合う場を設けたのです。デヴィッド・バーンが国会に行けば、どんな
政治家も耳を傾けますから(笑)。他のヨーロッパの国々ではアートを取り巻く状況
が急速に悪化し、景気低迷が拍車をかけたりしています。アイルランドは芸術関係
者が団結し、ふつふつと情熱が感じられる、珍しいケースだと思います。
新しいアーティストの育成方法
──従来はフェスティバルや創作への直接的な助成が盛んに行われてきましたが、
最近ではアーティストを強化し、環境づくりに力を入れているところも多いですね。
どちらも必要だと思いますが、確かに今はフェスティバルなど発表の場に資金を
つぎ込んでいるだけでは不十分だと思います。私たちは、アーティストの要求にた
だ受動的に反応するだけではなく、先見性をもって本当に必要なものを提供しなけ
ればなりません。私たちの仕事はアーティストが自分の道を切り開けるよう、より
多くの門を開き、より多くの橋をかけることです。いわば「進行役」で、彼らに対
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して手取り足取り指導し、プロジェクトを無理強いすることではありません。共同
プロジェクトのほとんどはプロデューサーが中心となって組まれたトップダウンの
ものです。しかし私達は、作品発表よりもアーティストの成長を重視する組織なので、
共同作業が有機的に育つようなボトムアップの環境をつくるべきだと考えています。
アーティストの作品発表の方法にも様々な変化が表れています。たとえば今では、
フェスティバルで自作品が入った DVD をプレゼンターに配るアーティストは、もう
ほとんどいません。それよりもプレゼンターと話す機会を設け、関係を築き、将来
の共同作業へと繋げる傾向が強くなってきました。幸運なことにダンスは、もう単
なる「売り買いの時代」ではなくなっているのです。
──プレゼンターにとっては、「商品となる作品」よりも、アーティスト自身を育て
ることが大切になってくるわけですね。
はい。この変化は、支援制度とアーティスト自身の進化によってもたらされたと
思います。アーティストは自らの活動の主導権を握り、私たちのような組織や知識
を利用して関係性を築き、将来のプロジェクトへと繋げていくようになりました。
これは私たちのプロジェクトの礎でもあります。最近、カンパニーをつくらない独
立した若いアーティストが増えていますが、それは自分で創作に必要な環境をつく
らなくても、個人プロジェクトを支援してくれるシステムが整ってきたからだと思
います。アーティストの活動の仕方は変わりましたね。
ツール・ド・ヨーロッパ
──ダンス・アイルランドが主導している国際的なプロジェクトについてご紹介
い た だ け ま す か。「E-motional Bodies&Cities」 に つ い て は、Performing Arts
Network Japan のインタビューで主催者のコスミン・マノレスクさんに伺っていま
すので、
「ツール・ド・ヨーロッパ」について教えてください。
ツール・ド・ヨーロッパは、教育に特化したレオナルド資金計画からの後援を受
けた、若い新進芸術家のためのトレーニング・プロジェクトです。創作支援ではなく、
若いアーティストが活動を推し進める上で必要なスキルを身につけさせることを目
的としました。「アーティストは起業家(entrepreneur)であれ」というわけです。
スペイン、ポーランド、フランス、ドイツとアイルランドの 5 カ国が協力し、そ
れぞれ 1 週間から 10 日間のセミナーやアクティビティを 10 人のアーティストに提
供しました。彼らは街から街へと移動し、各国の支援システムや芸術システムを学び、
各組織が持つ知識を共有します。ダンス・フェスティバルの会期中には、私たちが
主催を務めて、「アーティストはプレゼンターとどう接するべきか」を討論してもら
いました。プレゼンターにも様々な世代がいるので、対立する意見がいろいろ出て
面白かったですね。マーケティングの担当者には効果的な宣伝方法、特に英語圏以
外のアーティストが英語で宣伝するときに陥りがちな問題等を述べてもらいました。
──それは実に実践的な方法ですね。
面白かったのは、「フランス人はコンセプトを重視し哲学的な文章を書くが、英語
に翻訳するとほとんど意味が伝わらない」とか、イギリス人が写真の重要性を主張
すると、ドイツ人はそれでは売れないと反論したり(笑)
。こうした会話を通して、
それぞれの文化的背景も明らかになってくるんです。国際プロジェクトで重要なの
は、プロジェクトを通して他国のアーティストを知ることはもちろん、各国で作用
している様々なシステムを知ることです。ヨーロッパは国の集合体であり、ダンス
はその共通言語たりえますが、やはり各国の文化システムに位置づけられています
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からね。他国で創作しようとすれば、異なる環境に直面することになります。特に
ダンスは移動や国際プロジェクトが多く、複数の国から助成を得ることも多いので、
アーティストは各国の政治方針や支援システムの違いも意識するべきなのです。
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──まさに起業家ですね。かつてアーティストは無心に作品づくりをしていればよ
かった。しかし今は自ら理想を実現するためのスキルが必要になることも多いです
から。
その通りです。アーティストは人間的に強くある必要があります。フランスには
伝統的に「経験者の後について旅をし、仕事を学ぶ」という教え方がありますが、
私たちは「芸術以外の分野の専門家を指導者としてアーティストに付ける」という
こともしました。例えばアルプス山のガイド、ホテル管理者、科学者などです。自
分よりも年配の人から直接人生や仕事の経験を学び、自分のものとするためです。
とても実用的なトレーニングでした。中には失敗した組もいましたが、ほとんどが
成功でした。
現在、ヨーロッパでは多くのリーダーシップ・プログラムが行われており、それ
らは全て「人生において何をどうしたいのか」を問うものです。それは慣れ親しん
だものとは異なる環境で体験されなければなりません。なぜならアーティストは(芸
術関連の仕事をしている人たち全般に言えることですが)、「外の世界」があること
を忘れがちだからです。私達はあまりにも多くの時間を劇場で過ごし、話し合うの
も仲間内だけということが多い。アーティストは理想家でもいいですが、「現実から
切り離されず、現実と批判的に付き合い、常に先を見ている者」でなくてはなりま
せん。そして絶対に「マーケットの奴隷」になってはいけません。
──それは極めて重要なポイントですね。特に若い世代は、マーケット受けを狙って、
同じような作品になってしまうこともありますから。
「マーケットの需要を満たす人物」にではなく、
「需要を生み出し、そこにマーケッ
トが反応するような状況をつくる人」にならねばなりません。たとえば、このプロジェ
クトに参加したある女性アーティストは、「環境問題に取り組んでいるので、飛行機
での移動はしたくない」と言い出しました。私たちは心配しましたが、彼女は予算
内に収めるために安い地上の交通ルートを探しだし、友人の家に泊まり、1 週間か
けて現地に着きました。彼女は一連の過程そのものが自分のプロジェクトの一環な
のだと考えていました。「自分が物事にどう取り組みたいのかを明らかにし、現実的
に成し遂げる方法を模索する。すると最初は問題にしか見えなかったものが、魅力
的な挑戦へと姿を変え、他の参加者や主催者も巻き込んでいく」……これは私たち
にとっても感動的なことでした。
「モジュール・ダンス」と「カルテ・ブランシェ」
──「モジュール・ダンス Modul-dance」について伺えますか。
これは EDN が主宰するプロジェクトです。プロジェクト・リーダーはバルセロナ
のメルカット・デ・レ・フロース Mercat de les Flors で、支援金はおおよそ 400
万ユーロ。現在ヨーロッパで支援されている最も大きなプロジェクトでしょう。
趣旨は、主流から離れた地域の若いアーティストのために、各ダンスハウスがアー
ティストに作品づくりに必要なモジュール(リサーチ、レジデンス、プロダクション、
プレゼンテーション)を与えることです。5 年間のプロジェクトで、様々な規模や
背景の組織が 20 以上参加しています。最終的にはヨーロッパ中から集まった 40 ~
45 人の振付家がサポートされ、400 以上の発表が行われる、大規模なプロジェクト
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小国アイルランドの
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です。
このプロジェクトの中には若いアーティストのための「カルテ・ブランシェ」と
いうアクティビティもあります。若いアーティストを他のダンスハウスに滞在させ
て多くの人と出会わせる、という点では変わりませんが、作品をつくったり、上演
するといった成果を問われることはありません。まさに「カルテ・ブランシェ(白
紙小切手)
」なのです。
──素晴らしいですが、
「遊ばせているだけじゃないか」という批判はありませんか?
そのような偏見は常にありますね。これは「面白いアーティストがいるんですが」
と売り込むのではなく、水に物を投げ込んで波紋が広がっていくのを待つようなも
のです。先ほどの飛行機で移動したくないと主張したアーティストはフランスとド
イツの劇場関係者と良い関係を築き、今では作品をつくりに彼らのもとを定期的に
訪れています。私たちの仕事は「出会いの機会は提供するが、それを将来に繋げて
行くのは自分自身だよ」ということをアーティストに伝えることです。
もちろんひたすら作品を売りたいのだ、という人もいます。彼らは間違っている
わけではなく、別の働き方をしているだけです。しかし全体的に「関係性を築く」
という形態がこれから主流となっていくでしょう。支援が限りなく少なくなってい
る今、私たちは結束し、協力するしか方法がないからです。それが経済危機のもた
らした唯一の利点です。
ダブリン・ダンス・フェスティバル
──ダブリン・ダンス・フェスティバルについてご紹介ください。
国際的な作品を発表するプラットフォームとして 2002 年に始まった比較的若い
フェスティバルです。ダンスに特化したフェスとしてはアイルランドで唯一です。
創立時の芸術監督はキャサリン・ヌネス Catherine Nunes で、2006 年までは「国
際ダンスフェスティバル」として隔年開催されていました。2006 年に「ダブリン・
ダンス・フェスティバル」と改称し、毎年開催されるようになりました。各国の重
要な振付家が作品を発表し、アイルランドの観客も他国で行われているダンスを知
ることができるようになりました。マース・カニンガムは最初に作品を発表した人
のひとりです。2006 年に新たな監督、ニューヨークのダンス・スペースのローリー・
アプリチャード Laurie Uprichard 、2011 年からロンドンのジュリア・カラザーズ
Julia Carruthers が芸術監督になりました。結果的にアイルランド人、アメリカ人、
イギリス人という、それぞれやり方の異なる 3 人が就任したことになります。
私たちの施設には劇場がないので、通常 6 人ほどのアーティストが 3 人ずつ、そ
れぞれ 20 分程の作品をスタジオで発表していましたが、今年からはピーコック国立
劇場の小劇場も使えるようになりました。
──他に重要なフェスティバルはありますか。
ダブリン・シアター・フェスティバルも時々ダンス系のカンパニーを 1 つか 2 つ
組み込んでいますね。またフリンジ・フェスティバルや、かつて私も働いていたプ
ロジェクト・アート・センターが若いアーティストの発表をサポートしています。
アイルランドの地方には多くの劇場がありますが、ダンス作品を上演するのが難
しいので、ダブリン以外でツアーできるよう援助する「ツーリング・エクスペリメ
ント」
というプロジェクトもあります。これは地方でダンスの上演が決まり次第、
ワー
クショップや講演を開催して集客の手伝いをするものです。通常はダブリンでオー
プニングをし、5 公演ぐらい行った後、郊外の劇場を 4 ~ 5 ヶ所回る小さなツアー
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をします。とはいえアイルランドの劇場は約 150 ~ 200 席規模で日本のように大
小国アイルランドの
──観客はどのような人々ですか? また増やすためにどのようなことをされてい
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きくはありませんから、ダンス公演の観客は 100 人程です。
ますか? ダンスの観客を集めるのは難しいですが、それも私たちの仕事のひとつです。ダ
ンスは知的で抽象的なものだけではなく、親しみやすいものでもあることを紹介す
るようにしています。インターネットで公開する 1 分間のダンス・フィルムの制作
を募集したところ、ダンス・アーティストではない学生やアマチュアからの申し込
みもありました。ダンスハウスに来ている中高年のグループと若いアーティストを
出会わせるようにもしています。あくまでもプロフェッショナルな仕事がメインで
はありますが、裾野を広げる努力は常にしています。
期待のアーティスト
──期待のアーティストについて聞かせてください。伝統的なアイリッシュ・ダン
スの影響はありますか?
大きな意味では、伝統舞踊とコンテンポラリー・ダンスは、ほとんど交流はあり
ません。観客層も演じる人も交流が乏しいですね。ただコリン・ダンのように、伝
統のアイリッシュ・ダンスとコンテンポラリー・ダンスを融合させた作品を発表し
ている人もいます。これはヨーロッパ全体に言えることですが、伝統が持つ身体の
認識方法に興味を持つコンテンポラリー・ダンサーが増えています。多様な身体言
語を探しているのでしょう。
また、リムリック大学にはダグダというカンパニーがありますが、大学内にビジュ
アル・アーティストが多いので、ダンスとの交流が頻繁に行われています。またダ
ンスの修士課程もあり、そこで修士を取る学生も多く、リムリック大学は研究を基
盤としたダンスの中心地となりました。ここには中馬芳子も 4 年ほど勤めていまし
たよ。 Aoife Mcatamney & Nina Vallon や Liz Roche Company、Elena Giannotti
などは抽象的ですが存在感のある激しい動きをみせます。イギリスで活躍している
Fabulous Beast (Michael Keegan Dolan) は身体性が高く、物語性も強く、問題作
が多いですね。
Liv O'Donaghu はクラシックをベースにしながら伝統音楽も自由に使う若い世代
です。Mary Wycherley はミックス・メディアの作風。Fearghus ÓConchúir はロ
ンドンとアイルランドを拠点としてゲイやマイナー・コミュニティについての作品
を発表しています。
現在の傾向をいくつか挙げるなら、若い世代にはコンセプチュアルな作品、実験
的な作品、ビジュアル・アーティストやミュージシャンとの共同制作も多く見られ
ます。またアイルランド伝統の、言語へのこだわりを見せる作品もあります。アイ
ルランドのアート・コミュニティは小さくダンス専用劇場は少ないですが、ギャラ
リーは多いので、様々なアーティスト同士がそこで出会い、交流しています。アイ
ルランドは、
「小さくても熱い国」です。地政学的には「大陸近くの島国」という点
で似ている日本とも、これから交流を深めていければと思います。
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