聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・ コミュニケーション

東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 58 集・第 1 号(2009 年)
聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・
コミュニケーションに関する研究動向
―注意欠陥/多動性障害の合併児を中心として―
森 つくり* 川 住 隆 一**
聴覚障害児の言語能力の問題を中心とした教育法の国内外の変遷について概観し、聴覚障害児教
育の今後の課題として、聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもを取り上げ、これまで行われて
きた重複聴覚障害児に関する取り組みを整理するとともに、広汎性発達障害、注意欠陥/多動性障
害、学習障害といった新たな障害を合併した聴覚障害児が増加しつつある現状を述べた。さらに、
発達障害を伴う聴覚障害児に関する研究の動向を概観する中で、発達障害を伴う聴覚障害児に関す
る研究の課題の 1 つとして、注意欠陥/多動性障害を合併した聴覚障害児の評価・鑑別の難しさと
対応が遅れがちになる点について述べた。また、注意欠陥/多動性障害を合併した聴覚障害幼児の
言語・コミュニケーションに関する研究の動向を概観し、言語・コミュニケーションの基礎形成期
としての幼児期の発達的特徴を明らかにするとともに、子どもの特性に応じた指導法を養育者の問
題、子どもの学習への動機づけも含め、多面的に検討する必要性を指摘した。
キーワード:聴覚障害児、注意欠陥/多動性障害、発達障害、言語・コミュニケーション、幼児期
Ⅰ.はじめに
わが国において、聴覚障害児を対象とした教育が開始されたのは 1870 年代頃からで、1940 年代に
入り、義務教育として全国にろう学校が設置されるようになった(文部省,1978;岡本,1997)。聴
覚障害児に対する教育が開始された当初から、教育の中心的な課題として論じられてきたのは、
「聴
覚障害児にいかにして日本語を習得させ、年齢相応の言語能力を身に付けさせるか」という問題で
あった(草薙・四日市,1996;中野・根本,2006)
。
これまでの多くの教育関係者および研究者によって検討されてきた聴覚障害児の言語(音声言語)
能力に関する諸説を概観すると、聴覚障害児の言語能力の発達には、①補聴器・人工内耳などの聴
覚補償機器、医療といった技術的な要因、②聴覚障害の生理・病理・解剖学的な要因、子どもの心理・
社会面の発達といった個体的な要因、③リハビリテーション・教育、養育者の関わり・態度といった
環境的な要因が関与することが医学、工学、教育といったさまざまな立場から検討されており、一
定 の 成 果 が 報 告 さ れ て い る(Blamey, Sarant, Paatsch, Barry, Bow, Wales, Wright, Psarros,
*
**
教育学研究科 博士課程後期
教育学研究科 教授
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Rattigan, & Tooher, 2001;Cohen, Waltzman, Roland, Staller, & Hoffman, 1999;Meyer, Svirsky,
Kirk, & Miyamoto, 1998;Moog, 2002;Robbins, Svirsky, & Kirk, 1997)。
近年では、ろう学校において、重複聴覚障害児の割合が増加するようになったことが指摘されて
おり、2008 年度における調査では、ろう学校の在籍児童のうち、約 20%近くが重複聴覚障害児であ
ることが報告されている(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課,2008)。また、重複あるいは
合併する障害が重度化、多様化する傾向にあり、それらに伴い、このような子どもに対する教育内
容や教育方法も多様化・複雑化し、教育を行う担当者はひとりひとりの子どもの個別なニーズに応
じた指導を柔軟に行う必要性が生じてきている。しかし、このような聴覚障害の他に何らかの障害
を伴った子どもの教育は、その成果がすぐにはあらわれにくく、また、聴覚障害のみの子どもより
も多様な個別的要因を含んでいるため、個に応じた効果的な方法が未だ確立してはいない。
さらに、従来、通常の学級で指導が行われてきた学習障害、注意欠陥/多動性障害、高機能広汎性
発達障害といった発達障害に対する教育的ニーズが確認され、その対応が求められるようになって
きたことを背景に、従来の特殊教育が、児童生徒ひとりひとりのニーズに応じた支援を行う特別支
援教育へと転換されるようになった(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課,2003)。これを受
け、ろう学校も聴覚特別支援学校に変更され、広汎性発達障害、注意欠陥/多動性障害、学習障害な
どの発達障害が聴覚障害に合併する障害として新たに注目されるようになった(小池・渡辺・都築,
2005;文部科学省初等中等教育局特別支援教育課,2005;中野・根本,2006;大鹿・濱田,2006)。こ
のような障害(発達障害)を合併した場合では、子どもひとりひとりの障害特性に応じた指導プログ
ラムや指導方法の検討を行うだけでなく、合併している発達障害の評価・診断・鑑別の方法や養育
者への告知時期・告知方法といった側面についての検討も新たに行わなければならない課題として
生じている(城間・山傍・加我,2003)
。
このような現状を踏まえ、本研究では、これまでの聴覚障害児教育に関する研究の動向を概観す
る中で、聴覚障害児の言語能力の獲得を中心とした国内外の教育法の変遷を整理するとともに、聴
覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの教育の問題について取り上げる。また、聴覚障害の他に
何らかの障害を伴う子どもの教育に関する研究の中でも、従来の重複聴覚障害児に関する研究に加
えて、発達障害などの新たな障害を合併した聴覚障害児に関する研究について整理する。さらに、
発達障害の中でも、幼児期において聴覚障害児と類似する特徴が多い注意欠陥/多動性障害の合併
児に焦点をあてる。これは、幼児期の聴覚障害児では、「衝動的な行動がみられやすい」
(小川,
1955)
、
「フラストレーションを起こしやすい」
(オレロン,1968)、「注意散漫で学習への集中力に欠
ける、落ち着きのなさや依存性などの行動特徴がある」
(Freeman, Malkis & Hastings, 1975)、
「次々
と玩具を取り替え、じっくりと遊びに取り組めない」
(武田・松下,2001)といった注意欠陥/多動性
障害に似た行動特徴があるため、注意欠陥/多動性障害の合併児では障害の鑑別が難しく、適切な
対応が行われないことが多いからである。
このように、聴覚障害児教育におけるこれまでの研究動向を言語・コミュニケーションに着目し
て概観し、今後の課題として聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの問題について取り上げ、
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中でも、注意欠陥/多動性障害の合併児を中心に、合併する障害の鑑別・診断に関する諸問題や早
期対応の必要性といった現状での課題を整理することを本研究の目的とする。
Ⅱ.聴覚障害児教育に関する研究の動向―教育法の変遷―
1. 欧米における教育法の変遷
欧米諸国においては、18 世紀後半より、フランスの De l’Epee(1712-1789)が手話法を、ドイツの
Heinicke(1727-1790)
、イギリスの Braidwood(1715-1806)らが口話法を考案したことを契機に、そ
れまで個人的な試みとして行われていただけであった聴覚障害児への教育がより広く一般に行われ
るようになった。アメリカにおいては、19 世紀初頭になり、Gallaudet(1787-1851)が手話法を普及
させた。このような中、
「いかにしてろう児に言語・コミュニケーション能力を獲得させるか」とい
うことが問題となり、
「そのために、手話、口話、文字のどの方法が効果的か」といったコミュニケー
ション手段をめぐる激しい論争が繰り広げられた。その後、ミラノ会議(1880 年)において、「ろう
児を社会参加させ、十分な言語知識を与える点で、口話法が手話法よりも優れている」ことが宣言さ
れて以来、口話法が手話法よりも優位に立つようになった。これは、手話 - 口話論争といわれるコ
ミュニケーション手段の選択に際しての長期にわたる歴史的な対立であった。しかし、この論争に
おいて問題となったのはいずれも視覚的メディアを活用したコミュニケーション手段であり、この
時代にはまだ聴覚障害児の残存聴力を利用する聴覚活用の重要性が認識され、問題にされることは
なかった。
20 世紀に入り、補聴器などの音響増幅装置の開発が行われるようになり、残存聴力を活用して、
コミュニケーションやスピーチの力を発達させる聴覚口話法が急速に発展するようになった
(Boothroyd,1978;Ling, 1978;Pollack, 1964)
。さらに、1970 年代後半に、人工内耳システムが開発
され、一般に普及するようになり、聴覚活用を主とした教育法の実践が盛んに行われるようになっ
た(Dettman, Barker, Rance, Dowell, Sarant, Cowan, Skok, Hollow, Larratt, & Clark, 1996;
Yaremko & Gibson, 1995;Zwolan, Zimmerman-Phillips, Ashbaugh, Hieber, Kileny, & Telian, 1997)
。
聴覚障害児に対する教育の歴史の中で、話しことばや言語を教える方法がさまざまに開発され、試
みられてきたが、このような教育法の変遷はその中で使用されるコミュニケーションモード(コ
ミュニケーション手段)
の変遷であったといえる。
2. 日本における教育法の変遷
日本においても、欧米と同じような過程を経て、聴覚口話法による教育が行われるようになった。
1878 年に、わが国最初の教育機関として、京都府盲唖院が設立され、手話法を主とした教育が行わ
れたが、1920 年代以降に純粋口話法を広めて手話を禁止しようとする運動が盛んになると、口話法
が推進され、一般に普及するようになった。
1950 年代に、オージオロジー(聴能学)を基盤とした聴覚活用に対する一般の認識が高まるよう
になると、徐々に聴覚口話法での教育が試みられるようになり、1960 年代以降には、口話法に変わっ
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て聴覚口話法がわが国の聴覚障害児教育の主流になった(文部省,1973;鈴木・田中,1979)。さらに、
聴覚口話法による教育が進められていく過程で、
「重度の難聴児には、やはり聴覚口話法だけでは、
コミュニケーションが十分に成立しない、日本語が満足に身に付けられない」といった指摘がなさ
れるようになり、
手話、
指文字を聴覚口話法に併用する同時法(栃木県立聾学校,1992)や指文字法(足
立聾学校;前田,1995)
、読話を補助するためのキュードスピーチ(京都府立聾学校;石橋,1992)、
聴覚・手話・口話を統合して利用するトータルコミュニケーション(Total Communication)法(田上,
1985)といったさまざまな教育法が各地のろう学校で提唱され、つぎつぎと実践されるようになっ
た。
このような教育法の変遷に伴って、
さまざまなコミュニケーション手段による教育法が提案され、
実施されるようになったが、同時に、養育者にとっては、難聴が発見されてまもない時期に、どのよ
うなコミュニケーション手段で教育を行うかの選択を行わなければならないといった混乱を生じさ
せる結果を招いた。それぞれの聴覚障害児にとって最適なコミュニケーション手段は、各々の聴力
レベルや発達時期、発達的特性、家庭環境などによって異なり、また、いずれのコミュニケーション
手段にもそれぞれに利点と問題点が含まれているからである。
3. 最近の動向
さまざまなコミュニケーション手段による教育法が提案され、実施されるようになる一方、それ
ぞれの教育法間において、言語発達や言語獲得に関する統一した見解が得られるようにはならな
かった。これは、注意が視覚に集中しやすい視覚的なコミュニケーション手段を用いると、聴覚活
用が疎かになってしまうといった例にみられるように、視覚系への注目が聴能の発達を抑制したり、
視覚的な手段への依存が聴覚活用の不徹底を招くと考えられていたからである(Tye-Murray,
Spencer, & Woodworth,1995)
。日本においても同様に、それぞれの立場から成果が報告されたも
のの、コミュニケーション手段の選択に際する養育者の混乱は解決されるにはいたらなかった(広
田・田中,1989;田中・広田,1988)
。
このような中、文部省(1993)により、聴覚障害児のコミュニケーション手段に関する調査研究協
力者会議が組織され、
「聴覚口話法を用いた国語(日本語)によるコミュニケーションをベースにし
つつ、手話や指文字、キュードスピーチなどの多様な手段も活用しながら教育を進めていく」といっ
た方向性が示された。また、手話を使用しても、音声言語能力は低下しないといった報告(Vernon
& Koh,1971)がなされたことに続き、人工内耳手術前にトータルコミュニケーション法などの視
覚的手段で指導を受けても、術後に聴覚で新たに獲得される言語に引き継がれるといった報告
(Carbonniere, 1997;Kirk, & Hill-Brown, 1985;野中・川野・森・中島・越智・渡邊,2000)や、音声・
文字・手指といった言語メディア間の機能移行は可能であるといった報告(鈴木・能登谷,1993)が
リハビリテーションや教育の現場から徐々になされるようになった。
さらに、脳科学の分野では、読話やキュードスピーチなどの視覚的手段で教育を受けた先天性聴
覚障害児に 10 歳で人工内耳手術を行い、PET を用いて側頭葉の賦活を測定した研究(内藤,2000;
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内藤・本庄,1999)が報告された。当研究では、音声言語のみで刺激した場合には側頭葉の賦活がみ
られなかったが、読話やキュードスピーチを併用して刺激した場合には側頭葉の賦活がみられたこ
とが報告されており、このことから、側頭連合野には「聴覚言語」と「視覚言語」が競合しながら発達
する神経機構が存在するのではないかという可能性が指摘された。これは、人工内耳の手術前に「視
覚言語」をより多く獲得させておけば、術後の「聴覚言語」が獲得しやすいこと、すなわち、言語メ
ディア間の機能移行が可能であることを科学的に裏付ける結果であるといえる。
このような臨床・研究の結果、現在では単一の言語メディアを選ぶのではなく、それぞれの聴覚
障害児の特性や発達時期に応じて、複数の選択肢を併用するといった柔軟な考え方がなされるよう
になり、
コミュニケーション手段の選択に関するこれまでの論議に一応の決着が得られたといえる。
Ⅲ.聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもに関する従来の研究と課題
1. 重複聴覚障害児に関する従来の研究
1)国内外におけるこれまでの取り組み
聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもは、
「重複聴覚障害児」と呼ばれる。「重複障害児」とは、
学校教育法施行令第 22 条に規定されている盲、聾、知的障害、肢体不自由、病弱などの障害を 2 つ以
上併せ持つ児童・幼児を指す。ろう学校においてもこれまで、「重複聴覚障害児」への教育的な取り
組みが試みられてきた。聴覚障害児教育における重複障害児の中で最も多いのは、精神発達(知的
発達)の遅れを併せ持つ児童・幼児(ろう知的障害児)であるといわれているが、それ以外の障害や
疾患も併せ持つことが多く、聴覚障害児は健聴児に比べてその他の障害を発症する率が顕著に高い
といわれている(Bergman, Hirsch, Fria, Shapiro, Holzman, & Painter, 1985; Gottlieb & Allen, 1985;
Nicoll & House, 1988; Voutilainen, Jauhiainen, & Linkola, 1988)。
1960 年代にアメリカで行われた調査(Danish, Tillson, & Levitan,1963)によると、聴覚障害の他
に 1 つ以上の障害を併せ持つ生徒はろう学校の中に約 30%程度在籍しており、その後の調査におい
ても全体の約 30%に他の障害を併せ持つ聴覚障害児がいたことが報告されている(Gentile &
McCarthy, 1973)
。また、1980 年代に、英国で行われた 10 年間にわたる調査でも、やはり聴覚障害
児の約 30%に身体障害、視覚障害、知的障害などの他の障害の重複が認められたことが報告されて
いる(Fortnum, Marshall, & Summerfield, 2002)
。
このような重複聴覚障害児に対する教育は、1837 年に Perkins 盲学校において盲ろう児に行われ
たものが最初であるが、重複聴覚障害児の教育に対する関心が高まるようになったのは、医療の進
歩によって生存できるようになった知能等の障害を伴った重複聴覚障害児が増加し始めた 1950 年
代からである。その後、ろう知的障害児(Candland & Conklin, 1962; Glovsky & Rigrodsky, 1963;
Leenhouts, 1964)
、ろう情緒障害児(Warren & Kraus, 1961)といった重複聴覚障害児が教育の対象
とされるようになった。
わが国においても、重複聴覚障害児に対する教育の始まりは、1948 年の山梨県立盲唖学校におけ
る盲ろう児に対する教育からであった。その後、いくつかの聾学校において実践的な試みが開始さ
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れ、1950 年代後半ごろより、
「ろう知的障害児」という視点で教育可能性に着目した実践が行われる
ようになると、重複聴覚障害児に対する関心が一般にももたれるようになった。1960 年代には、文
部省により、
「ろう知的障害児」を中心とした重複障害児についての実験学校が指定され、ろう学校
における重複障害児への実践的研究が推進された(Table 1)。その後、1960 年代の後半からは、重
複聴覚障害児の教育診断(荒川,1968)
、事例研究(平野,1968)、教育課程の編成(三島,1977)、指導
計画の作成(河添,1977)
といった多くの教育現場での報告が行われるようになった。
国内外のこうした取り組みを開始した当初において問題とされたのは、「重複聴覚障害児の適切
な診断・判別法がない」
、あるいは、
「重複聴覚障害児では難聴診断そのものが容易には行えない」と
い う こ と で あ っ た が、そ の 後、聴 性 脳 幹 反 応(Auditory Brain-stem Response)や 耳 音 響 放 射
(Otoacoustic emissions)を臨床応用した他覚的聴力検査が普及すると、重度の脳障害を伴うような
重複聴覚障害児でも、乳児期あるいは新生児期からの難聴診断が行えるようになった(佐藤・菅原,
1995;田中,1998)
。また、このような診断学上の進歩に伴い、重複聴覚障害児でも、早期から補聴
器装用を開始して聴覚活用がすすめられるようになり、その成果が報告されるようになった(玉井,
1993;田中,1997;鷲尾,1997)
。また、重複聴覚障害児の言語・コミュニケーションに関する領域に
ついても、同様に多くの実践が行われるようになり、言語・コミュニケーション発達における原初
的状態の把握や発達的な変化、または、言語・コミュニケーションの評価や指導の方法についての
報告が蓄積されるようになった(一門・東・後藤,1981;川井・小倉,1972;喜多・白垣・鈴木・藤田,
2000;大谷・湧井・河合,1992;渡部,1996;山内,2002)。
Table 1 ろう学校における特殊教育(重複障害児教育関係)
の実験学校
年 度
学 校 名
研 究 主 題
*
聾精薄児 の思考と行動の特性及び言語の使用能力について
(*用語は当時のもの)
S.39-41
栃木県立聾学校
S.43-45
香川県立聾学校
聾学校における重複障害教育の管理・運営及び指導計画の研究
S.44-46
新潟県立長岡聾学校
聾学校における重複障害教育の管理・運営及び教育内容・方法の研究
S.48-50
愛媛県立松山聾学校
聾学校における重複障害児の障害の特性に即した養護・訓練の指導内容・方法
の研究
S.51-53
茨城県立霞ヶ浦聾学校
聾学校における重複障害児の障害の特性に即した養護・訓練の指導内容・方法
の研究
S.54-56
愛知県立千種聾学校
聾学校における重複障害児の特性に即した養護・訓練の指導内容・方法に関す
る研究
S.57-59
宮城県立聾学校
聾学校における重複障害児童・生徒の社会的自立,社会的参加を目指す職業及
び養護・訓練と生活指導の内容,方法に関する研究
S.60-62
静岡県立静岡聾学校
重複障害児の障害の特性に即した指導内容・方法に関する研究
S.62-H.1
兵庫県立姫路聾学校
重複障害児の障害の特性に即した指導内容・方法に関する研究
H.3-5
愛媛県立松山聾学校
重複障害児のコミュニケーション能力の向上を目指して
H.5-7
熊本県立熊本聾学校
高等部における知的障害等を併せもつ重複障害生徒の教育内容及び方法の研究
と自立への援助についての実践的研究
(文部省,1978 に基づき、筆者が作成。学校名は当時のもの)
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2)最近の動向
ろう学校の在籍児童数に占めるこのような重複障害児の割合は、1980 年から 1990 年頃の全国調
査では 10%前後であった(風戸,1996;文部省初等中等教育局特殊教育課,1986;渡辺,1986)。し
かし、その後の調査では、1995 年に 15.7%、2000 年に 17.9%、2004 年に 18.4%、2008 年には約 20%近
くまで年々増加し、障害の種類や程度が重度・重複化、多様化してきていることが報告されている
(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課,2008)。これは、広汎性発達障害、注意欠陥/多動性
障害、学習障害といった発達障害が聴覚障害に合併する障害として新たに注目されるようになった
こととも関連していると考えられる。このように多様化する障害を併せ持ったひとりひとりの子ど
もの教育的ニーズに対応するとともに、合併する障害の評価・鑑別・診断をどのように行うかといっ
た問題を今後解決していかなければならない現状といえる。
2. 発達障害を伴う聴覚障害児に関する研究の動向
1)発達障害の定義
発達障害(Developmental Disabilities)ということばは、福祉の概念として、1960 年代にアメリカ
で誕生したものである。当初、精神遅滞、脳性麻痺、てんかん、自閉症、失読症(学習障害)などを含
むものであったが、その後、視覚障害、聴覚障害、慢性疾患(健康障害)も含む概念に拡大されてい
る( 原,2006)
。 わ が 国 に お い て も、日 本 発 達 障 害 学 会(2008)に よ る 定 義 は、ア メ リ カ の
Developmental Disabilities の概念と同様の立場をとっており、「知的障害と同様の支援が必要、中
途障害とは、質の異なる、より多くの支援が必要、そして一生涯の支援が必要という 3 つの支援が必
要な状態像」
を発達障害としている。
医学の立場では、アメリカ精神医学会の診断基準 DSM- Ⅲ -R(American Psychiatric Association,
1988)の「幼児期、小児期、または青年期に発症する障害」の中で、診断基準としてではなく、いくつ
かの診断の上位概念(カテゴリー)
として示されている。下位項目には、精神遅滞、広汎性発達障害、
特異的発達障害(学習能力障害、言語と会話の障害、運動能力障害)が含まれていたが、その後、
DSM-IV(American Psychiatric Association,1996)、DSM- Ⅳ -TR(American Psychiatric
Association,2004)では、発達障害(Developmental Disorders)という診断カテゴリーはなくなり、
これに含まれていた障害は、
「通常、幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害」の中
に位置づけられている。
しかし、わが国における発達障害ということばは、医学的に明確に規定されたものではない。
2005 年に施行された発達障害者支援法においては、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性
発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が
通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」
(法第二条第一項)と定義されて
おり、政令によって、
「脳機能の障害であってその障害が通常低年齢において発現するもののうち、
言語の障害及び協調運動の障害その他厚生労働省で定める障害」
(政令第二条第一項)も含められて
いる。
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本研究では、Table 2 で示した発達障害とみなされる障害のうち、発達障害者支援法に規定され
ている広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥/多動性障害を発達障害として扱うこととする。
2)発達障害を伴う聴覚障害児に関する研究の動向
脳機能の観点から定義すると、
「発達障害は、脳機能の発達の偏りから認知能力や行動の障害を
呈するものである」
といわれているが、その具体的な症状は、大なり小なり多くの人が持っている特
徴と重なり、発達障害者と健常者との間は連続的であるとも指摘されている(荻野,2007)。発達障
害者と健常者との間のこのような連続性は、行動特徴や行動上の問題といった観点からみると、発
達障害児と聴覚障害児との間においては一層顕著にみられるものである。これは、聴覚障害という
音声・聴覚情報の入手制限の影響による聴覚障害児の心理特性や行動特性が発達障害児の特徴に類
似しているためである。
特に、幼児期の聴覚障害児では、健聴幼児に比べて情緒的に不安定な子どもが多いことが古くか
ら指摘されている(Ewing,1963)
。これは、コミュニケーションが十分に成立しないため、自分の
欲求が伝えられなかったり、相手の言っていることがわからなかったりして、フラストレーション
を起こしやすいことや、社会的な経験が少ないことが原因になっているといわれている(オレロン,
1968)
。また、聴覚障害幼児の情緒不安定として、一度何か欲求がおきるとそれを抑えにくい傾向や
爆発的行動がみられやすいことが指摘されており(小川,1955)、このような衝動性に加え、自己中
心性、硬さといった特徴が心理特性としてあげられることが多い(松沢,1963)。また、社会性の問
題として、遊びの場面でルールが成立しにくく、ひとり遊びや並行遊びの傾向が強いことも指摘さ
れている(住,1968)
。Freeman, Malkin, and Hastings(1975)は、「聴覚障害児は聴覚からの情報が
不十分になりやすいことのほか、言われたことを理解し、周囲の様子を把握するのが困難なため、
Table 2 発達障害とみなされる障害
主な発達の領域
運動の発達
認知発達
社会性の発達
学習能力の発達
注意・行動制御の発達
言語能力の発達
微細・協調運動の発達
障 害 名
法 律 名
脳性麻痺など
身体障害者福祉法
精神遅滞
知的障害者福祉法
広汎性発達障害
学習障害
支援法
注意欠陥/多動性障害
発達性言語障害
政令
発達性協調運動障害
発達障害者
支援法
小児期に特異的に発症する情緒障害(分離不安障害、社会性不
安障害、全般性不安障害など)
その他
小児期および青年期に特異的に発症する社会的機能の障害(選
択性緘黙、反応性愛着障害など)
省令
チック障害
通常小児期および青年期に発症する他の行動および情緒の障害
(遺尿症、遺糞症、哺育障害、異食症、吃音など)
(大神,2008 に基づき、筆者が作成)
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注意散漫で学習への集中力に欠けるという印象を与えることがあり、聴覚障害児の 2 割に落ち着き
のなさ、依存性などの行動特徴がある」ことを指摘している。最近の研究では、野中・竹内・大森・
中川・川野・中島(1993)により、
「聴覚障害幼児の臨床では、相手の顔を見ない子どもに出会うこと
は珍しくない」といった報告がなされている。また、「このような子どもたちは、遊びの中で相手の
顔を見ないばかりでなく、相手に働きかけることが少なく、やりとりが成立しにくい」点も指摘さ
れている。
こういった聴覚障害児の心理特性および行動特性により、聴覚障害に何らかの発達障害を併せ
もった場合には、社会適応・行動上の問題や言語・コミュニケーション発達の遅れなどがあっても、
それが聴覚障害のみに起因する問題であると誤解されがちで、合併している障害の発見が遅れたり、
適切な対応がなされないままであることが多い(城間ら,2003)。さらに、幼児期においては、他の
障害を合併していない聴覚障害のみの幼児でも、上述のような発達障害と似た特徴がより顕著であ
るため、両者の鑑別が一層難しくなる傾向にある。
1970 年代に茨城県立霞ヶ浦聾学校において行われた実践的研究では、それまで対象とされていた
典型的な重複障害児(ろう精神遅滞児や盲ろう児など)だけに限定せず、聴覚障害プラスアルファ
(アルファは言語習得に支障を及ぼす要因)を持つ児童を対象として、学習を妨げている問題点やそ
の原因を明らかにする試みが行われた(文部省初等中等教育局特殊教育課,1979)。ろう学校におい
て、このように聴覚障害の他に併せ持つ障害の対象範囲が広げられたのは、他の障害を合併してい
るか否かの特定や医学的な診断がなされてはいないものの、発達的な偏りや遅れがあり、特別な指
導を必要とする児童が少なからずいるためであった。その結果、プラスアルファを持つ児童の中に、
情動の働きに問題を持つ児童が半数以上いることが明らかになった。しかし、この時代にはまだ、
客観的な検査や医学的診断が行われず、障害名や障害の程度などは不明なままであったと報告され
ている。
聴覚障害プラスアルファを持つ児童、すなわち、医学的な診断名が特定されていないものの発達
上の何らかの遅れや問題を併せ持つ児童の中には、発達障害を合併している児童がいた可能性もあ
るが、発達障害を併せ持つ聴覚障害児の諸能力の発達の様相がまだ十分には明らかにされていない
こと、発達障害の診断技術が十分に確立されていないことなどにより、このプラスアルファが発達
障害であるのか、単に聴覚障害から生じる問題であるのかの評価や鑑別が難しい状況であったと考
えられる。その後も、聴覚障害の他に何らかの障害を併せ持つ子どもの研究が行われてはきたが、
研究の対象は、視覚障害、ダウン症等の知的障害、脳性麻痺等の肢体不自由を合併した従来の重複
障害児童が大半であり(一門ら,1981;喜多ら,2000;大谷ら,1992;渡部,1996;山内,2002)、発達
障害を併せ持つ聴覚障害児についての研究はあまり進んでこなかった。
アメリカでは、1970 年代ごろより、発達障害をもつ聴覚障害児への関心が高まってきたことを受
け、ギャローデッド大学によって行われた「アメリカ合衆国の聴覚障害生徒の年間報告」が発表され
ている(Evelyn, Noel, & Raymond, 1985)
。これは、1981 年から 1982 年までの 2 年間に合衆国の
51,962 人の聴覚障害生徒を対象として行われた調査で、調査の目的は聴覚障害生徒の発達障害の問
― ―
359
聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・コミュニケーションに関する研究動向
題を検討することであった。しかし、聴覚障害の他に併せ持つ障害として報告されているのは、身
体障害(視覚障害、脳障害、てんかん、脳性麻痺、心臓欠陥、その他)および認知/知的障害(精神遅滞、
情緒/行動問題、特別な学習障害、その他)であり、この分類の中に広汎性発達障害、注意欠陥/多
動性障害といった障害名の記載はみられない。広汎性発達障害、注意欠陥/多動性障害は、情緒/
行動問題(通常の学科の進歩に支障をきたす不適切な行動)あるいは特殊な学習障害(正常な知能を
示すが特別な学習欠陥が遂行を制限する状態―視/聴知覚、知覚/運動機能、注意・運動機能のコ
ントロールなどに問題がみられる)
などの分類に含まれているのではないかと考えられる。
その後、同大学により、1999 年から 2004 年に行われた調査において、「LD(学習障害)、ADD
(Attention Deficit Disorder;注意欠陥障害)
を併せ持つ聴覚障害生徒」についての記載がみられるよ
うになり、2005 年の調査において、
「LD、AD/HD(Attention Deficit / Hyperactive Disorder;注
意欠陥/多動性障害)
に自閉症も加えた発達障害を併せ持つ聴覚障害生徒」についての記載がみられ
るようになった。同調査によると、発達障害を併せ持つ生徒は全体の 16 ~ 19%であったと報告さ
れている(Gallaudet Research Institute, 2001; 2002; 2003; 2004; 2005)。
わが国においては、2006 年にろう学校小学部在籍児童を対象とした全国調査が行われている(大
鹿・濱田,2006)
。当調査の目的は、聴覚障害に発達障害(学習障害、注意欠陥/多動性障害、高機能
自閉症等)を併せ持つと考えられる児童の実態を把握することであった。全国のろう学校小学部 99
校のうち 33 校より回答が得られ、そのうち、
「発達障害様の特徴を示すと考えられる児童」は全体の
21%であったと報告されている。しかし、この調査では、調査項目が「ことばの困難、鏡文字、落ち
着きのなさ、パニック、こだわり、不自然なコミュニケーション」という 6 つの項目から構成されて
いるだけのものであったため、
「発達障害の特徴を示すと考えられる児童」の割合が示唆されたもの
の、これらの項目に該当する児童の行動が発達障害によるものであるのか、聴覚障害によって生じ
た二次的な問題によるものであるのかは不明なままであり、当該児童が発達障害のどの診断名に該
当するのかの詳細も明らかにはなっていない。また、このような「発達障害様の特徴を示すと考え
られる児童」のうち、発達障害関係の医学的診断を受けているのは 17%程度であったと報告されて
いるが、一方で、その他の関連があると思われる診断名が 21 項目にもわたって挙げられており、診
断が一定しない様子がみられるといった考察が示されている。このことから、「医療の立場からも
診断基準がまだ確立されておらず、混乱がみられる」ことが示唆されており、「今後、発達障害を併
せ持つ聴覚障害児の特徴を整理することにより、診断基準を確立していくことが求められる」と述
べられている。
3)発達障害を伴う聴覚障害児における諸問題
このように、発達障害および障害名は特定されていないものの何らかの発達上の遅れや問題を併
せ持つ聴覚障害児では、合併している障害や発達上の問題に気づかれにくいため、言語・コミュニ
ケーションの基礎を作る幼児期における対応がなされないまま、就学後に学習障害が判明すること
なども報告されている(武田・松下,2001)
。このようなケースについて、武田・松下は、「対象児の
指導の初期にみられた、次々と玩具を取り替えることが遊びになってしまってじっくりと遊びに取
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360
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 58 集・第 1 号(2009 年)
り組めない様子は、難聴行動の特徴の一つのように思われていたが、対象児の背景に合った適切な
指導が幼児期から必要だったのではないか」
と指摘している。
同様に、医療現場でも、岩崎・名倉・鈴木・長井・鈴木・鈴木(2004)は、「人工内耳手術によって聴
力が改善しても、言語・コミュニケーションが育ちにくい ADHD が疑われる子どもがいることに
気づいていたが、難聴に眼がいき、特別な対応はなされないままだった」と報告している。城間ら
(2003)も、
「人工内耳手術前には発見できなくても、広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥/多動性
障害などが、
手術後に発見・診断されることが少なくない」ことを指摘しており、その原因として、
「人
工内耳手術の低年齢化により、言語発達の遅れが聴覚障害にのみ起因するものだと判断されて、他
の発達的側面を見落とすことが多い」ことを示唆している。武田・松下(2001)は、また、「このよう
に発達障害や何らかの発達上の遅れや問題を併せ持つ聴覚障害児といったケースは今後も増えるこ
とが予想されるが、このような場合、聴覚障害だけにとらわれず、幼児期からの遊びの様子などを
注意深く観察する必要があり、出生時からの発達に関わる聴覚以外の要因をさぐることが、適切な
時期に適切な指導を行うことを可能にするために求められる」と述べている。
このように発見や対応が遅れがちな発達障害を合併した聴覚障害児および障害名は特定されてい
ないものの何らかの発達上の遅れや問題を併せ持つ聴覚障害児に対する適切な対応を行うために
は、できるだけ早期における評価・診断・鑑別の方法を確立することが今後の課題であると考えら
れる。しかし、このような発達障害の評価や診断については、「健常児でも 2 ~ 3 歳頃までは注意欠
陥/多動性障害などにみられるような落ち着きのなさや多動性がある程度みられるため、4 ~ 5 歳
以降に確定診断が可能になる場合が多い」
(田中,2001)ことが指摘されているように、発達障害の
診断自体も幼児期には困難である。聴覚障害に発達障害を併せ持つ場合には、なお一層慎重な評価・
診断・鑑別が必要であると考えられる。そのため、発達障害や何らかの発達上の遅れや問題を併せ
持つ聴覚障害児の諸能力の発達の様相、すなわち、武田・松下の指摘している「出生時からの発達に
関わる聴覚以外の要因」
について明らかにすることが第一の課題であると考えられる。
Ⅳ.注意欠陥/多動性障害を合併した聴覚障害幼児の言語・コミュニケーションに関
する研究の動向
1. 幼児期における注意欠陥/多動性障害を合併した聴覚障害児の評価
1)言語・コミュニケーションの基礎形成期としての幼児期
発達障害を合併した場合、または障害名は特定されていないものの何らかの発達上の遅れや問題
を併せ持つ場合のいずれの場合においても、聴覚障害児の言語・コミュニケーション発達にとって
重要であるのは、前言語期を含む言語・コミュニケーションの基礎を形成する幼児期である。田中
(2007)によると、聴覚障害児の言語発達において、2 ~ 3 歳までは前言語的なコミュニケーション
の段階、それ以降は言語的段階と位置づけられており、言語教育の開始が早期であるほど、その後
の言語獲得に効果的であると報告されている。以前は 1 歳過ぎであることが多かった難聴の発見時
期も、難聴の診断技術の進歩により年々早期化しており、近年では新生児聴覚スクリーニング検査
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361
聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・コミュニケーションに関する研究動向
で新生児期または乳児期に難聴が発見される場合もある。難聴が発見された場合、その直後から、
母親を中心とした家族への指導やカウンセリングなどの療育・教育相談が開始され、その後、幼児
期を中心として、聴覚活用指導(聴能訓練)や言語・コミュニケーション指導といった子どもへの直
接的な指導が開始される(中村,2004)
。これは、少しでも早期に相互的なやりとり関係の充実を図
ることで、それを土台に機能的な言語獲得やコミュニケーションの基礎が形成されると考えられる
ようになってきたからである(笹沼,1998)
。
聴覚活用の観点からも、生後 1 年間は「聴覚のレディネス期」であり、発達初期の 3 年間は大脳皮
質中枢における聴覚的刺激の弁別学習が容易であることが報告されており(Whetnall, 1958)、年齢
とともに聴覚的学習の能力は低下することが臨床的にも明らかにされている(Fry & Whetnall,
1954;Horton, 1974)
。聴覚障害児にとって、聞こえることと聴きとることは異なるものであるが、
聴きとることは、聞くこと、注意すること、弁別すること、理解することなどに関連する学習された
行動であるため(Machado, 1985)
、聴きとる力を基礎とした聴覚活用は、適切な時期に指導を行う
ことによって発達させることが可能である。このことからも、言語・コミュニケーションの発達に
とって重要である聴きとる力を発達させるための指導がより早期から開始され、これを基礎に言語
発達を促していくのである。
発達障害を合併した聴覚障害児においても、障害名は特定されていないものの何らかの発達上の
遅れや問題を併せ持つ聴覚障害児においても、子どもへの直接的な言語・コミュニケーション指導
が効果的に進められるのは幼児期であり、就学後ではなく、幼児期のうちに適切な対応や指導が開
始されることで、
その後の言語・コミュニケーション発達にも影響が生じると考えられる。そのため、
発達障害を合併した聴覚障害児および障害名は特定されていないものの何らかの発達上の遅れや問
題を併せ持つ聴覚障害児の幼児期における諸能力の発達についての資料を蓄積することの必要性は
非常に高いと考えられる。
2)幼児期における注意欠陥/多動性障害と聴覚障害の鑑別
発達障害を合併した聴覚障害児の幼児期を中心とした諸能力の発達の検討では、広汎性発達障害、
学習障害、注意欠陥/多動性障害などの発達障害のうち、学習障害は検討の対象外とする。DSMⅣ -TR(2004)の診断基準では、
「学習障害は、読字、算数、または書字表出において、個別施行され
たその人の標準化検査の成績が、年齢、就学、知的水準から期待されるより十分に低い場合に診断
される」とされており、下位項目には、読字障害、算数障害、書字表出障害、特定不能の学習障害が
含まれるが、読字障害については、
「正規の指導がほとんどの学校では幼稚園の終わりか小学校 1 年
生のはじめまでは通常始まらない」とされており、算数障害、書字表出障害については、「正規の指
導がほとんどの学校では 1 年生の終わりまでは十分に行われない」とされているからである。
広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害については、広汎性発達障害の子どもに注意欠陥/多動
性障害と共通する行動面の特徴が、または、注意欠陥/多動性障害の子どもに広汎性発達障害の特
徴である社会性や対人関係の問題がみられることが少なくなく、両者の鑑別が難しい場合がよくあ
ることが指摘されている(平林,2003;武市,2006)。特に、幼児期においては、「じっとしていない、
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362
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 58 集・第 1 号(2009 年)
Table 3 広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害の主な鑑別点
広汎性発達障害
注意欠陥/多動性障害
社会性不良の主な原因
社会的知覚、共感能力の障害
衝動的な行動パターンによる経験不足
対人関係
奇妙さ、マイペース、一方通行
相互交渉可能だが未熟、協調性不良
行動
関心あるものへの過剰な集中
抑制や制御の困難による多動、衝動性
興味・関心
特定のものへの固執、変化への抵抗
新規なものへ飛びつくが、飽きやすい
注意
方向付け、動機づけの障害
持続性注意の障害
認知・学習
意味理解の不良、機械的記憶が優れる
作業記憶の不良、処理スピードの遅さ
感覚過敏
時にみられる
通常みられない
(平林,2003)
指示に従えない、癇癪が強い、トイレの発達課題が遅い、睡眠障害がある、言語と運動の発達にアン
バランスがある」
(田中,2006)といった特徴が両者に共通していることが指摘されている。また、
広汎性発達障害と注意欠陥/多動性障害の症状が同時に存在する場合、広汎性発達障害の診断が優
先され、注意欠陥/多動性障害の診断はなされないが、逆に、小学校低学年までに注意欠陥/多動
性障害と診断されている子どもの中には、その後広汎性発達障害と診断変更される子どもがかなり
の割合でいることも平林(2002)
の調査では報告されている。
このような両者の鑑別点を平林(2003)は Table 3 に示したように整理し、注意の問題に関して、
「注意欠陥/多動性障害では注意の持続性の障害であるのに対し、広汎性発達障害では注意の方向
づけの障害である」としている。小松(1998)は、対人的相互交渉の困難さに関して、「広汎性発達障
害では相手のことばや表情、状況の意味の認知がうまくいかないために、結果的に奇妙だったりマ
イペースに見える行動となって表出されるのに対し、注意欠陥/多動性障害では社会的認知は正常
でも、行動の調整や抑制が不十分なため衝動的で未熟な行動として表出されてしまう」点を区別し
ている。武市(2006)
、杉山(2002)も同様に、他者への関心や関係性など社会性を示す行動特徴にお
いて両者に差があることを指摘しており、
「衝動的なトラブルはあるが対人関係が良好な注意欠陥
/多動性障害に比べて、広汎性発達障害では対人的に孤立している」と述べている。原(1999)も、
コミュニケーションの質的な違いについて、
「広汎性発達障害では一方的で、相互的になりにくい
のに比べ、注意欠陥/多動性障害では注意が対象に向かっているならば、相互的な意思疎通が可能
である」点を指摘している。
幼児期の聴覚障害児では、音声言語発達が不十分であるために生じるコミュニケーション関係の
未形成期に、
「他者と視線が合いにくく、相手の顔をみない」
(野中・大森・越智・藤沢・村尾・中島・
川野,2000)ことが指摘されることはあるが、前言語期であっても、身ぶりや手話などの視覚的な手
段による受発信が可能になると、広汎性発達障害にみられるような一方的な話しかけなどの質的な
異常はみられず、他者との相互的なやりとりが成立することが多い。また、集団場面で、他児への
関心がなく、関係がつくれないといったトラブルや対人的な孤立がみられることも少なく、行動面
で、興味・関心の偏りや特定のものへの固執などが過度に問題になることも少ない。聴覚障害児の
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363
聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・コミュニケーションに関する研究動向
場合、コミュニケーションや対人的な問題がある場合は、主に音声情報の入手制限から生じる疎通
性の悪さや言語力の不足に起因していることが多く、広汎性発達障害にみられるようなコミュニ
ケーションの奇妙さやマイペースさとは質的な違いがある。
一方、注意欠陥/多動性障害にみられる「落ち着きのなさ」、「気の散りやすさ」、「注意集中持続
の短さ」や「指示に従えない」
、
「質問が終わらないうちに答え始めてしまう」、「順番が待てない」、
「ちょっとしたことで泣く」といった多動性、不注意、衝動性に関連する行動は、聴覚障害幼児にも
音声情報の入手制限やコミュニケーションの不足に起因してみられることが多い。また、聴覚障害
児では難聴診断の早期化に伴い、療育・教育を開始する時期も早期化しており、幼児期から療育・教
育機関で課題場面を経験することが多い。そのため、「課題に取り組めない」、「課題をやり終えな
いうちに次のことを始めてしまう」
、
「座っていることを要求される課題場面で席を離れる」といっ
た行動が問題として生じやすい傾向にある。こういった聴覚障害児の幼児期の障害特性から生じる
行動特徴は、中枢神経系の問題に起因する注意欠陥/多動性障害の行動特徴に一見すると類似して
いる点が多く、広汎性発達障害に比べて、注意欠陥/多動性障害と聴覚障害との鑑別をより難しく
していると考えられる。
また、
「広汎性発達障害は、通常生後 1 歳までに明らかになる」が、「注意欠陥/多動性障害は、幼
児期に症状が観察されていても、通常小学校の年代で学校への適応が阻害されるときに、初めて診
断される」
(DSM- Ⅳ -TR,2004)ことが多いといった診断時期にも違いがあり、注意欠陥/多動性障
害が聴覚障害に合併している場合、幼児期における両者の評価・鑑別には一層の困難さが伴うと考
えられる。
2. 注意欠陥/多動性障害との鑑別に関する諸問題
多動性、不注意、衝動性といった行動特徴を併せ持つ聴覚障害幼児の中には、①注意欠陥/多動
性障害を診断されている合併児、②診断名はついていないが注意欠陥/多動性障害の合併が疑われ
る児、③注意欠陥/多動性障害様の行動特徴はみられるが、合併はしていない聴覚障害単独児の 3
通りの場合があると考えられる。Sunder(1992)は、脳に起因した注意障害についてのモデルを作
成し、不注意を一次性の注意障害と二次性の不注意に分け、一次性の注意障害は大脳皮質における
注意メカニズムに直接的に起因するものであり、二次性の不注意は一次性注意のネットワーク以外
の条件に起因する不注意の行動的症候群で、内因的または環境的原因であると説明している
(Fig.1)
。③の聴覚障害単独児の場合の注意欠陥/多動性障害様の行動特徴もここで述べられてい
る二次的不注意に該当するが、①および②の注意欠陥/多動性障害の合併およびその傾向がある児
と、③の聴覚障害単独児の鑑別を行うには、脳機能に由来する注意欠陥/多動性障害の行動特徴と
聴覚障害という感覚入力の障害から二次的に生じる注意欠陥/多動性障害様の行動を鑑別しなけれ
ばならない。また、多動行動も神経学的損傷が明確に認められるとは限らないものの、脳障害の特
性の 1 つであるといわれている(Stewart, Pitts, Craig & Dieruf, 1966; Werry, 1968)が、幼児期には
脳障害の有無とは関係なく現れることが多い(Cantwell, 1975;Knobel, Wolman & Mason, 1959)。
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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 58 集・第 1 号(2009 年)
不注意
inattentiveness
注意の一次性障害
primary disorders of attention
二次的不注意
secondary inattention
ヴィジランスの障害
実行機能の障害
感覚処理障害
(網様体賦活系)
(前頭葉/出力)
(頭頂葉/入力)
感覚入力
(聴覚障害)
感覚処理
網様体賦活系障害
(睡眠障害,薬物)
発達性言語障害
認知過程の障害
(精神遅滞,学習障害)
自閉症領域の障害
崩壊性行動障害
機能性/反応性障害
(不安,抑うつ)
Fig.1 注意障害の概念モデル(Sunder, 1992 に一部加筆)
このような年少幼児の一般的行動特徴であることの多い多動行動が聴覚障害単独児にもみられる場
合と注意欠陥/多動性障害の行動特徴の 1 つとしての多動行動の鑑別も必要である。
注意欠陥/多動性障害という概念は、微細脳損傷 minimal brain damage(MBD)
(Knobloch,
1959)やその後に変更された微細脳機能障害 minimal brain dysfunction(MBD)
(Clements, 1962)
に由来するものであるが、1980 年に米国精神医学会が作成した DSM- Ⅲでは注意欠陥障害という概
念として分類されている。これは、多動性、不注意、衝動性といった行動を脳障害の結果としてで
はなく、障害そのものを規定する主症状として捉えるという観点から概念化されたものである。そ
の後、DSM- Ⅲ -R(1987)では注意欠陥・多動障害に、DSM- Ⅳ(1994)、DSM- Ⅳ -TR(2004)では
注意欠陥/多動性障害に名称が変更され、今日に至っている。この DSM- Ⅳ -TR(2004)の診断基
準では、不注意、多動性、衝動性を 3 主症状とし、それらの組み合わせから混合型、不注意優勢型、
多動性 - 衝動性優勢型といった下位分類が定義されており、現行の診断は教師や家庭などからの情
報と直接的な行動観察による行動評定に基づいて行われている。
注意欠陥/多動性障害の主症状のうち、多動性-衝動性といった側面は、行動観察によりその有
無が判断しやすいが、不注意の側面は、活動に対する興味関心や意欲も関係するため、観察しにく
いと指摘されることが多い(大沼・平林・今田・小松,2008;大鹿・濱田,2006)。そのため、注意を
客観的に測定する方法として、これまで WISC- Ⅲの下位検査(群指数の注意記憶など)を利用した
評価が行われてきた(Anastopoulos, Spisto & Maher, 1994;Prifiteria & Dersh, 1994)。このような
指標は行動評定とは異なり、客観的な測度ではあるが、複雑な認知機能である注意の一部の側面し
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聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・コミュニケーションに関する研究動向
か測定していない(Dingman & Meyers, 1966;今田・小松・高橋,2003)、あるいは、必ずしも注意
欠陥/多動性障害のある子どもで低下するわけではなく、診断の指標とすべきではない(Kostura,
2000)
といった指摘もなされている。
最近では、持続的注意集中力を客観的に評価するための検査として、持続的注意集中力検査
(Continuous Performance Test ; CPT)が用いられ、メチルフェニデート(リタリン)等の薬理効果
の検討に使用されている(山田・白木澤・菅野・大倉・海老島・市川・松島・太田,2004)が、注意欠陥
/多動性障害例では反応時間のばらつきが大きく、対照群と差が認められない例などもあり、この
検査のみで診断を下すことはできないと指摘されている(齋藤・渡部,2003;鈴木,2003)。また、注
意欠陥/多動性障害児の行動抑制の特徴について、Stop-signal 課題を使用して健常児と比較した
報 告( 坂 尻・岡 崎・前 川・立 川・市 川・二 上,2005)や、衝 動 性 の 指 標 と し て Matching Familiar
Figure テストが妥当であるといった報告(Sandoval, 1977)もある。
さらに、注意を単一ではなく、複数の異なる機能から構成されていると捉える立場からは、持続
的注意、選択的注意、注意の統制/切替、注意分割、反応抑制といった 5 つの注意機能を測定する検
査(Test of Everyday Attention for Children; TEA-Ch)が 開 発 さ れ て お り(Manly, Robertson,
Anderson & Nimmo-Smith, 1999)
、日本でもこれを参考に集団式児童注意能力検査(吉崎・遠山・坂・
星野・小木曽・加藤,2005;遠山・吉崎・加藤,2006)や集団式注意機能検査(今田ら,2003;大沼ら,
2008)の開発が試みられている。しかし、これらは児童を対象にまだ標準化が行われている段階で
あり、注意欠陥/多動性障害児の評価に臨床適用されるには至っていない。
Barkley(1997)は、注意欠陥/多動性障害には行動抑制の欠如があり、行動抑制のもとで形成さ
れる実行機能が形成されず、その結果、行動・運動の制御・統合の障害をきたしているという理論を
提案している。ここでいわれている実行機能とは、①反応を一時的に抑止し、適切な時間・事態に
反応するために留保しておく能力、②一連の行為を適切に並べるなどの方略的プランニング、③重
要な外来情報を処理して記憶として蓄えておく作用などを含む課題の心的表象化、④将来予想され
る事態を心的表象として形成する能力などであり、このような実行機能の障害には、プランニング、
選択的注意機能、抑制、認知・社会的行動の開始などの障害がある。これらの行動抑制、実行機能を
評価するためのいくつかの神経心理学的検査を組み合わせた評価バッテリーを注意欠陥/多動性障
害児の評価に使用している試みもある。
例えば、加戸・眞田・渡邊・中野・荻野・岡・大塚(2007)は、①視空間構成能力、視空間記憶に関連
する Rey-Osterrieth Complex Figure Test、②言語の表出に関連する Word Fluency test、③注意
の切り替えやワーキングメモリに関連する Trail making テスト、④選択的注意や反応抑制機能に
関連する Stroop テスト、⑤前頭葉機能の包括的評価検査とされる Keio Version Wisconsin card
sorting test、⑥ヴィジランスや注意の持続、衝動性の抑制に関連する CPT の 6 つの検査を注意欠陥
/多動性障害児童に行い、同年代の健常児と比較検討している。また、関・橋本(1993)も、① CPT、
②消去テスト、③ Trail making テスト、④ Stroop テストの 4 つの検査を注意欠陥/多動性障害児童
に行い、同年代の健常児と比較検討している。これらの検査は、もともと成人の脳損傷者の注意を
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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 58 集・第 1 号(2009 年)
評価する目的で考案されたものであることから、幼児や児童、障害児に適用できるように、CPT、
消去テスト等の持続的注意および、Trail making テスト、Stroop テスト等の選択的注意に関する
検査バッテリーを新たに作成し、4 ~ 6 歳の健常幼児を対象に実施した報告もある(小林,2002)。
このように、問診と行動評定に基づいて行われている現行の診断法に加え、認知心理学的および
神経心理学的検査法がさまざまに考案され、検討されているが、開発・試用段階のもの、標準化デー
タや妥当性の検証が不十分なものが多く、いずれも教育や医療場面において普及するには至ってい
ない。また、その他の鑑別の指標として、MRI(Magnetic Resonance imaging)を用いた脳の画像
所 見 で は、大 脳 基 底 核、前 頭 前 野、小 脳 な ど の 形 態 異 常 が 指 摘 さ れ、SPECT(Signal Photon
Emission Computed Tomography)
による脳血流画像では大脳基底核の血流低下が、PET(Positron
Emission Tomography)を用いた検討では前頭葉の代謝異常が指摘されている。f MRI(functional
MRI)でも、前頭葉内側部の活動の低下が示唆されている。また、事象関連電位も、鑑別診断の際の
補助的な指標として検討されている段階ではあるが、これらの指標はいずれも現時点では、確定診
断の補助的検査として使用する可能性に向けて、データの蓄積を行っている研究的段階である。ま
た、注意欠陥/多動性障害を持つと予想されるすべての対象児に、これらの検査を適用できるわけ
ではないため、今後、臨床的に応用できるように、より容易な検査に改良する必要があることも指
摘されている(齋藤・渡邊,2003)
。
3. 今後検討すべき課題
田中(2004)が、
「日本国内ではまだ注意欠陥/多動性障害の検出に有用な生物学的指標や診断テ
ストは確立されておらず、有用な所見をめぐり検討を重ねているのが実情である」と述べているよ
うに、
現状では、
今後の客観的測度の臨床的実用化が待たれる段階である。さらに、コミュニケーショ
ン能力や言語能力が不十分な聴覚障害幼児にこのような検査を適用する場合に、言語的な教示や手
続きの工夫が必要であるといった問題や、幼児における注意力の評価を所要時間によって行うこと
には限界があるといった指摘(小林,2002)
も今後解決しなければならない課題である。
また、医療機関等において、現行の行動観察による評価・鑑別・診断が注意欠陥/多動性障害の合
併がある聴覚障害幼児に行われることは少なく、このような子どもの言語・コミュニケーション能
力、行動特徴などの発達変化についての長期的な報告もほとんど行われていない。今後、注意欠陥
/多動性障害の合併児の言語・コミュニケーションの発達や行動特徴の変化がどのような経過を辿
り、平均的な発達の聴覚障害児の幼児期における発達変化と比較して、どのような違いがあるのか
といった縦断的な検討の蓄積を行い、このような合併児を早期に鑑別するための発達的な指標を見
出すことが必要であると考えられる。
また、このような合併児の言語・コミュニケーション発達の特徴や問題に影響を与えている要因
を明らかにすることにより、それに応じた対応や指導を検討していくことも課題である。上述した
ような注意欠陥/多動性障害との鑑別の難しさに加え、注意欠陥/多動性障害を含む発達障害全般
に対する教育現場での認識不足(大鹿・濱田,2006)や、保護者側が聴覚障害の他の障害を理解する
― ―
367
聴覚障害の他に何らかの障害を伴う子どもの言語・コミュニケーションに関する研究動向
のが難しいといった問題(田中・浅見・草野・森部・森本・佐貫・田中,2002)などによって、注意欠
陥/多動性障害の合併児は、医療、教育、家庭のそれぞれにおいて適切な対応がなされているとは
言いがたい状況に置かれている。また、聴覚障害への対応に意識が偏り、たとえ注意欠陥/多動性
障害が疑われても、
「難聴に眼がいき、特別な対応はなされないままだった」
(岩崎ら,2004)、「対
象児の背景に合った適切な指導が幼児期から行われなかった」
(武田・松下,2001)といったことも
多い。注意欠陥/多動性障害を合併した事例についての個々の具体的な特徴について十分に明らか
にされていないことも、その後の対応がなされにくい状況につながっており、このような事例に対
する指導プログラムや指導方法についての実践的な検討はまだ十分に行われていないままである。
今後、子どもの特性に応じた指導プログラムや指導方法の検討が必要であるとともに、注意欠陥/
多動性障害の合併児を持つ親の養育態度や親子関係の問題への対応、子ども自身の主体的・能動的
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東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 58 集・第 1 号(2009 年)
Review of Research Trends on Speech and Communication Abilities of
Hearing-Impaired Children with Other Disorders
: Focusing on Hearing-Impaired Children with Attention Deficit/Hyperactivity Disorder (AD/HD)
Tsukuri MORI
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Ryuichi KAWASUMI
(Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)
In this study, we investigated the trends in previous research on the educational methods of
speech training for the hearing-impaired children, and discussed that education for the hearingimpaired children with other disorders was a future issue in education for the hearing-impaired
children. Then, we reviewed previous research on the education for the hearing-impaired children
with other disorders, and described that recently the hearing-impaired children with
developmental disorder such as PDD, AD/HD, and LD were increased. Furthermore, we
reviewed recent trend on study of the education for the hearing-impaired children with
developmental disorder, and described that the hearing-impaired children with AD/HD were
difficult to assess and treat appropriately. And we reviewed research trends on speech and
communication abilities of the hearing-impaired children with AD/HD, and indicated that both
clarifying developmental features of language acquisition in early childhood and establishment of
an effective individual methods including parents' attitude toward child-raising and learning
motivation in children were important tasks of education for the hearing-impaired children with
AD/HD.
Key words:hearing-impaired children, attention deficit/hyperactivity disorder, developmental
disorders, speech and communication abilities, early childhood
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