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光を探して 高齢化すすむ女性受刑者 【上】

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朝日新聞
2014 年(平成 26 年)4 月 8 日(火)
光を探して
高齢化すすむ女性受刑者
28 面
【上】
暴力・孤独・・・罪へと走る
罪を犯し、刑務所へ入る高齢の女性が増えている。再犯も目立つ。背景には孤独感や将来への
不安があると専門家は指摘する。悪循環を断ち切るすべはないのか。
「まるで福祉施設」とも言わ
れる女子刑務所を訪ねた。
万引き常習出所後も帰るあてなし
足を引きずる人、杖をつく人。最後尾から、腰の曲がった人がゆっくりとついていく。
女性専用の刑務所、岩国刑務所(山口県岩国市)
。午後4時 50 分、夕食を終えた受刑者たちが
大食堂から居室のある別棟へ向かう。
定員を 30 人余り超える 389 人が収容される。65 歳以上が 22%を占める(3月末現在)。
高血圧、白内障、糖尿病などの疾病、足や腰の痛み、物忘れなど認知機能の低下……。高齢の
受刑者に健康な人は少ないといい、所内の診療所を受刑者が次々に訪れる。
法務省の犯罪白書によると、1993 年に全国の刑務所などに入った 65 歳以上の女性は 26 人だ
ったが、2012 年には 285 人に増えた。万引きなどの窃盗罪が約8割を占め、約半数が再入所とい
う。
「悪いとわかっているのにやめられなかった」 白髪交じりの女性(72)は涙に声を詰まらせた。
最近は高血圧で体調がすぐれない。
約2年前に万引きで逮捕された。執行猶予がついたが、昨年、再び万引きをした。3年弱の実
刑判決を受けた。 きっかけは夫の暴力だった。言葉を聞き直したり意味を取り違えたりすると、
夫は怒りを爆発させ、手当たり次第に物を投げた。怖くてスーパーヘ逃げ、商品を盗んだ。
60 歳を過ぎると、頻度は増した。何度も店主に見つかり、そのたびに「もうしません」と謝っ
た。子どもの独立で夫と2人だけの時間が増えたストレス、義父母に受け入れられなかった心の
傷。止まらなくなった。
昨年万引きしたのは夫に頼まれた千円足らずの缶ビールとジュース。財布には1万5千円あっ
たが、
「夫のために使いたくなかった」という。
刑の満期は2年後。夫の元には戻りたくないが、ほかに帰るあてもない。
刑務所は3回目という別の女性(65)は食料品や衣類を万引きした。夫を数年前に亡くし、独
り暮らし。生活保護で暮らすが、
「お金が減るのが不安だった」と言う。
心臓が悪く、薬が手放せない。精神的にもふさぎがちといをしたり日記を書いたり。
「出い、刑
務作業以外は部屋で読書所後は趣味の縫い物でボランティアをしたい」。か細い声でうつむいた。
岩国刑務所の女性刑務官は 「高齢の受刑者には少額の食料品などを万引きした人が多い。介
護など福祉的な受け皿につなげる支援があれば、救える人も多いのではないか」と言う。
東洋大学の細井洋子名誉教授 (犯罪社会学)は、再犯を繰り返す高齢女性の特徴として「孤
独」を挙げる。
「家庭に居場所がないなど、支えになる家族がいない場合、寂しさを紛らわせるた
めに罪を犯す傾向が強い。将来への経済的な不安も大きい。疑似家族的に暮らせる受け血を地域
につくり、本人が生きがいを感じられる役割を提供する施策が必要だ」と話す。
対話力や金銭面の手立てを講習
高齢者の再犯を食い止めようと、刑務所側の模索が始まっている。
岩国刑務所は昨年 12 月、盗みをやめられない高齢女性向けに独自の指導プログラムを始めた。
窃盗を繰り返す高齢者は周囲とうまくコミュニケーションをとれずに孤立したり、生活が安定せ
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ずにストレスを抱えたりする人が多いという。このため週1回計 8 回の講座で、盗んだ時の状況
や自らの問題点を受刑者 10 人ほどで考え、対人関係を築くための会話を練習する。
出所後の生活を軌道に乗せるために必要な生活保護や年金の仕組みも教える。教育専門官は
「試行錯誤の段階。さらに改善していく」と話す。
女性専用の和歌山刑務所(和歌山市、3月末現在 549 人収容)は昨年6月、約半年後に出所見
込みの人を対象に独自の 「コミュニケーション指導」を始めた。高齢受刑者の社会復帰を支え
るのがねらいだ。
10 人ほどの女性受刑者が輪になり、出所後に心配なことややりたいこと、そのために今の生活
をどう変えるべきかなどを語る。外部の女性講師が助言する。月2回の計6回コースだ。今年度
からは、医療や介護など地域の専門家から助言を受ける仕組みをつくり、職員研修も充実させる
という。
ベテラン刑務官は「出所しても、お年寄りの働く場や生きがいはすぐに見つからず、再犯で刑
務所に戻る。人間は集団で生き、仲間を求めるものなのに、それが刑務所でしか得られないのが
現実。これまでの行動を変えるきっかけをつくり、二度と戻って来ないと思えるよう背中を押し
たい」と言う。
(森本美紀)
食堂から居室へ移動する女 l 生受刑者の列。手押し車
を押す女性が最後尾からついていく=山口県岩国市
(画像の一部を加工しています)
■高齢の女性受刑者の犯罪に至る経緯や今の気待ち
( )刑務所
72 歳(栃木)
万引きで2度目の服役。私の年金で夫と 2 人で暮らす。家賃、光熱費、医療費を除くとぎりぎ
り。糖尿病で働けず、経済的に不安。
75 歳(栃木)
万引きで3度目の服役。夫と別居中で独り暮らし。嫌なことを忘れたくてお酒を飲むと気が大
きくなりヽお金があるのにやってしまった。
66 歳(和歌山)
万引きで 10 回以上服役。夫との生活も生活保護で余裕はない。欲と見えできれいな福を着た
くたくなった。甘えていると思う。
74 歳(和歌山)
万引きとスリで約 15 回服役。生活費がもったいなかった。子どもが小さい時は我慢していた
が、覚えたら友だちもできてスリルがあった。
80 歳(岩国)
万引きで3度目の服役。離婚し1人で年金暮らし。高血圧、腰の痛みで家でもテレビを見て寝
るだけ。出所後はどうなってもいいと思える。
77 歳(岩国)
寸借詐欺で2度目の服役。夫と娘を亡くして生活に困窮。お遍路さん姿で、出会った人をだま
しました。心配してくれるのがうれしかった。
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朝日新聞
光を探して
2014 年(平成 26 年)4月9日(水)朝日新聞
高齢化すすむ女性受刑者
24 面
【下】
ウィズ広島を退所する女性。玄関で職員
らが見送った=2013 年 11 月、広島市中区
(画像の一部を加工しています)
立ち直り
支える「仮の宿」
高齢化がすすむ女性受刑者たちにとって、社会へ出ても再び遂に迷わずに生きることは簡単で
はない。出所した彼女らを支えるため、手探りの取り組みが続く。
居場所のない人に親身な生活指導
約 200 円の総菜を盗んで懲役8ヵ月-。昨秋、岩国刑務所(山口県岩国市)を仮釈放さ
れた 77 歳の女性が向かったのは、更生保護施設「ウィズ広島」 (広島市中区、定員 39 人)だ
った。服役は2回目。ウィズも2回目だ。更生保護施設は法相の認可を受けて民間が運営する。
出所後に戻る場所や身寄りのない人たちに一定期間滞在してもらい、就労支援や生活指導をする。
全国に 104 ヵ所あり、女性を受け入れているのはこのうち 14 力所。在所期間は平均約 75 日。社
会復帰の準備をする「仮の宿」だ。
女性は離婚後、一人娘の成長が生きがいだった。50 歳の時、その娘が家を飛び出した。寂しさ
を紛らわそうと仲居の仕事にのめりこんだが、職場の人間関係がストレスになり、精神科に通院
した。
数百円の古着を買えば心は満たされた。60 歳で仕事をやめると、買い物依存はより深まった。
生活保護費が底をつき、万引きに手を染めた。
ウィズ広島は 1935 年に開設された。カウンセリングなどの心のケアにも力を入れる。2004 年
に女性の受け入れを始め、今は 11 人。このうち8人が 65 歳以上だ。
立ち直りのカギとされる就労は高齢者には難しい。女性も前回の入所中は時給千円のチラシを
配る仕事を見つけたが、今回は「体力がない」。
ウィズは 09 年、
「ボランティアワーク」を始めた。施設内で高齢者がぞうきんづくりや食堂の
冷蔵庫の掃除をすると 50~100 円が支給される。役割があると、表情が輝き出すという。
女性は入所から約1ヵ月、金銭管理を学ぶ講座、他人との接し方を学ぶ訓練などの教育プログ
ラムに参加した。
「職員が親身に指導してくれて、1人では難しい規則正しい生活もできた」と話
す。
ただ、こうも言った。
「だれもいない家に帰っても寂しいだけ。幸せな生活があるわけじゃない」。
退所の日。衣類を詰めた紙袋を抱え、
「ありがとうございました」と頭を下げて出ていった。1ヵ
月余り後、女性から施設に手紙が届いた。ウィズが懐かしいこと、残り少ない人生を幸せに過ご
したいこと。だれかに話しかけるように、几帳面な文字がノート6枚につづられていた。
ウィズ広島の山田勘一理事長(81)は言う。
「高齢者は居場所が簡単に見つからない。彼女のよ
うな人たちが自由に出入りできる『カフエ』のような施設でありたい」
4
孤立防止へ相談や訪問
「こんにちは。買い物行ってきたん?」 和歌山県地域生活定着支援センターの主事、松元一
樹さん(28)が1月半ば、和歌山市内のワンルームマンションを訪ねた。
昨夏、一人で暮らし姶めた女性(71)への定期訪問だ。
「松元さんを待ってたんよ」
。女性は笑を返した。部屋にはポットや水玉
模様のベッドシーツ。リサイクルショップで松元さんと一緒に買った物が
並ぶ。
福祉面で支援して高齢受刑者らの再犯を防ぐため、都道府県が 09 年度
から設置を始めたのが定着支援センターだ。現在、全国に 48 力所。刑務
所に入所中から福祉機関との調整や本人の相談にあたる。和歌山県のセン
ターは 117 人を支援。女性高齢者が3割超を占めるという。
女性は 60 歳の時、交際男性に 「一緒に洋品店を出そう」と誘われ出
資したが、計画が頓挫。生活苦に陥った。消費者金融から借金返済を迫ら
支援センターの松
れ「頭がパニックになった」
。
元一樹さんが女性
生活費が底をついて万引き。執行猶予中に総菜や調味料などを盗み、昨
の自宅を訪ねた=
上月、和歌山市
春まで和歌山刑務所に入っていた。
服役中から、保護観察所の依頼で松元さんが面会に。女性は身寄りがな
い。足が悪く血圧も不安定だ。出所後の生活について、刑務所の社会福祉士も交えて話し合った。
家探し、介護保険の認定、借金の清算手続きを松元さんらに手伝ってもらった。今も一緒に和
歌山城を散歩したり、定食屋に行ったりする。
松元さんらは女性に介護施設に通うよう勧めている。孤立を防ぐためだ。女性は「支えがある
から、立ち直ろうと思えた」と言う。
地域の受け皿づくり急務
犯罪白書などによると、12 年に刑務所を満期か仮釈放で出た女性 2295 人のうち、65 歳以上は
312 人。このうち更生保護施設に入った人は 30 人。家族のもとや施設などに帰住できていないと
みられる「その他」も 43 人いた。
全国地域生活定着支援センター協議会会長の田島良昭さん(69)は「地域の受け皿づくりが急
務」と言う。就労支援を柱にしてきた更生保護施設は高齢者向けの支援が十分ではない場合も少
なくない。暮らしを長期的に支える定着支援センターも取り組みにばらつきがあるという。
田島さんは「更生保護施設は高齢者施設との連携がもっと必要。定着支援センターも行政、福
祉、労働などのネットワークで孤立防止を」と話す。出所後だけでなく、逮捕から裁判の間に福
祉につなぐ「入り口支援」も拡大すべきだという。
(森本美紀)
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