close

Enter

Log in using OpenID

東京国立博物館における保存修復活動の進化と現状について

embedDownload
20151113_全国美術館会議保存研究部会第 46 回会合@郡山市立美術館
東京国立博物館における保存修復活動の進化と現状について
東京国立博物館特任研究員
神庭信幸
講演要旨
平成 10 年当時の東博は、分野別に分れた人的配置(室制度)のため、それぞれに展示、保管、
購入、修理、研究に対する考え方、具体的な取り組み方が異なり、中心となる組織の不透明さ
ゆえに、統一的な博物館運営からはほど遠い状態であった。博物館全体の状況を把握するのが
ほとんど不可能という中で保存の活動を開始した訳である。全体の状況をいかにして把握し、
全体的なレベルの底上げを図りつつ、より高度な次元へと向かえるのかを、長期的な見通しの
中で考えた。それは一期 5 か年で、15 年の計画である。12 万件の膨大な所蔵品の劣化を抑制す
る環境づくり、列品に最小限度の処置を加えながら状態を維持する取り組み、劣化が進んだ列
品の本格修理の継続、保存に寄与する調査研究、そして全てのプロセスを保存カルテに記載し
て共有化する試み、これら予防保存、修理保存、調査診断を一体の活動とする臨床保存学の発
展と展開がそれを可能にすると考えた。
阪神淡路大震災において始動した文化財レスキュー活動はいくたの災害を経験し大きく成長
した。全国規模のネットワーク、安定化処理など保存処理の開発に対する取り組みなど、多く
の成果をみることができる。また、日常の活動が災害時の活動に直結するものであることが確
認できたことは大きい。しかし、レスキュー着手までの時間、専門家不足、デジタルデータの
保護など、大きな課題は依然として残されている。
1 保存科学(1998 年~2002 年)
1)保存環境記録
環境記録採取・整理・保管・公開について補助的作業から始めて、最終的には実施主体に移
る。温湿度毛髪自記録計から振動衝撃計まで。計測結果の館内閲覧を日常的に実施。
2)保存環境整備
環境改善についてあらゆる相談を受け付け、施設・会計との調整を積極的に行う。全ての職
員に IPM への参加を促し、生物対策を実施。老朽化した施設のリニューアル、文化財保管場所
の移動など、経費を伴う改修と伴わないものを区分けして、迅速に対応。温湿度、振動衝撃に
関する文化財の輸送環境の把握と改善に着手。
3)列品状態点検
列品の貸与返却時の点検に使用する統一的な調書の作成と一括保管を保存修復課が担当。同
時に点検の立会い時に専門分野職員に加え、保存分野の職員を加える。
4)列品修理調書
当初、外部業者に全てを委託していた本格修理について、修理調書の作成の徹底と最小限の
書式の整備、保存修復課による原本又は複写の一括保管を開始。常時閲覧可能な保管と整理を
行う。提出された修理報告書に基づいて東博の公式報告書を 1999 年より毎年刊行。
5)バックヤード公開
2000 年より修理品と修理過程を公開する企画展の開始、およびバックヤードツアーの開始。
以後今日まで継続。
神庭信幸:ルーベンスの色彩を支えた絵画技術、『色彩から歴史を読む』、神庭信幸、小林忠雄、村上隆、吉田憲司編、
92-112、ダイヤモンド社、1999
神庭信幸:梱包ケース,保存箱,展示ケースにおける小空間内の相対湿度の特性、保存修復学会誌、vol.44、80-90、2000
神庭信幸:大型絵画の輸送と展示-ウジェーヌ・ドラクロワ作「民衆を導く自由の女神」、MUSEUM、569 号、5-32、2000
神庭信幸:文化財の梱包と輸送、『輸送工業包装の技術』、フジ・テクノシステム、1110-1118、2002
2 臨床保存学(2003 年~2008 年)
6)保存カルテ
本格修理報告書の書式統一し、本格修理、対症修理・列品貸与返却時の調書を保存カルテと
位置づける。
7)本格修理
本格修理対象品の選定作業を保存修復課が監修。事前調査による常時 2000 件の修理候補品の
リスト作成、修理仕様の検討と確定、修理技術者との協議、修理仕様書・報告書の書式統一、
業者選定方法の透明化、修理鑑査会議の事務局などに関与。職員による修理中の定期的な点検
を義務化。
8)対症修理
ミニマムトリートメント(最小限の処置)を実践するために対症修理を提唱。保存修復課の
独自判断で処置を可能にし、迅速な判断と対応による初期段階の処置を実践。中性紙の帙、ウ
ィンドウマット、太巻き、保存箱などの内作による保管環境の整備。
9)東博直営工房
本格修理、対症修理、応急修理が館内で実施できるように、技術者と修理施設を拡充整備。
外部技術者の派遣から始め、現在は有期雇用職員として常駐体制を確立。対症修理は全て館内
で実施されている。
10)環境白書
環境報告書の発行による問題点と題課の明確化。環境の状況を 3 段階のクラスに分け、図示
して年度ごとに館内で閲覧。膨大な環境データの効果的な利用として既設設備の改修による整
備(リニューアル)。
11)免震装置
中越地震を契機に、免震装置の安全性を検証し、転倒加速度との関連性で支持具などの補助
具の設置の必要性を確認。
12)ファシリティーレポートとコンディションレポート
特別展で使用する施設と文化財に関するレポートは保存修復課が取りまとめる。
13)梱包輸送
特別展における重大な事故を契機として、文化財に関する職員の取り扱い能力の向上を図る
ための定期的な研修会の実施。輸送技術向上のための調査研究。
14)保存修復常設展示
保存の活動を紹介するための常設展示コーナーを開設。過去 3 回のリニューアルを重ねた。
神庭信幸他:博物館における文化財保存に関する行動計画と実践、文化財保存修復学会京都大会、2003.6 月 7-8 日
神庭信幸:東京国立博物館における環境保全計画-所蔵文化財の恒久的保存のために-、MUSEUM、第 594 号、pp.61-77、
2005 年
神庭信幸:博物館資料取扱論7-保存修復、博物館概論、佐々木利和・松原茂・原田一敏編、pp.124-135、放送大学教
育振興会、2007 年
神庭信幸、長嶋文雄:文化財に対する地震対策としての転倒防止に関する検討、J.P. ゲッティ美術館・国立西洋美術
館共催国際シンポジウム「美術・博物館コレクションの地震対策」、国立西洋美術館、2009 年 7 月 21 日‐23
3 包括的保存(2009 年~2013 年)
15)データベース
保存カルテ、修理報告書、環境白書などの記録のデータベース化と列品データベースとの関
連付けによる、保存データへのアクセスの利便性。
16)入札制度
修理時期(基本 10 月契約・9 月納品)、支払方法(基本 2 期分割)、修理報告書(電子媒
体)、入札制度(一般競争・企画競争・特命随契)、保証金(安全の担保)、前払制度(事業
者支援)など、本格修理請負条件の整備。
17)温暖化対策
エネルギー利用と設備・運営について検討し、省エネ・節エネによる二酸化炭素排出量削減
のための対策を提案と実践。
18)文化財レスキュー
文化財レスキューへの全館的な関与、作業記録の一括管理と公開、安定化処理技術開発、特
別展・WS など普及活動、募金活動。
19)寄附金による文化財修理
企業あるいは個人の寄付金を積極的に受け入れるため、企業側の CSR 部門、あるいはメディ
アとの積極的なコンタクトを通じて、相手に如何に受け入れてもらえるかを探るマーケティン
グに取り組む。
20)メディアサービス
バックヤードに関するメディアからの取材依頼に応えるために、博物館全体が納得する安全
な作業環境づくりに心掛ける。合わせて、活動内容を紹介する案内書(小冊子)、修理企画展
パンフレット、本格修理報告書などを配布して、事前の理解を図る。
KAMBA, N., Measurement and Analysis of Global Transport Environment Of Packing Cases for Cultural Properties,
Preprints of the IIC London Conference 2008, Conservation and Access, pp.15-19, 2008
神庭信幸、和田浩他:国際航空貨物における留意点-文化財の輸送環境調査より-、包装技術、No.3、pp.4-8、2010
神庭信幸:文化財を守る‐展示の工夫‐、月刊文化財、4 月号、No. 571、pp.16‐17、2011
神庭信幸:展示手法の変化に見る保存とデザインの関係性、博物館研究、vol.47、No.1、523 号、pp14-21、2012
神庭信幸:美術品の取扱いの基礎知識「博物館資料取扱いガイドブック-文化財、美術品等梱包・輸送の手引き」、日
本博物館協会編、ぎょうせい、2012
4 保存修復分野の深化(2014 年~)
21)CT スキャナー
大型・高レベル分析装置による列品の状態診断。
22)予防保存
環境管理と保存修理の一体的な運用。
23)低炭素社会
エネルギー消費の削減と博物館運営。
24)文化財防災ネットワーク
大規模災害と広域連携、あらゆる資料の保全。
神庭信幸:人文系資料のヘルスケア‐その方法と効果、博物館研究、Vol.49、No.10、pp6-10、2014
神庭信幸:博物館資料の臨床保存学、武蔵野美術大学出版局、2014.4.1
神庭信幸:国宝「檜図屏風」修理を巡る諸課題と保存修理環境の構築、MUSEUM、No.654、pp15-24、2015
神庭 信幸(カンバノブユキ)
保存科学者、臨床保存修復士、博士(美術)。1954 年島根県生まれ。東京国立博物館特任研究員。Email
address: [email protected]。
1977 年東京都立大学理学部物理学科卒業。1979 年東京芸術大学大学院美術研究科修士課程保存科学専攻修
了。1979 年学校法人高澤学園創形美術学校修復研究所研究員(1984 年 3 月まで)。1979 年東京芸術大学芸
術資料館非常勤技術補佐員(1982 年 3 月まで)。1984 年国立歴史民俗博物館情報資料研究部(1998 年 3 月
まで)。1985 年ローマにある国際保存修復研修センター(IICROM)に研究員。1989 年ロンドン大学コート
ルド研究所に文部省在外研究員。1997 年博士(美術)取得、東京芸術大学。1998 年東京国立博物館学芸部
保存修復管理官。2001 年東京国立博物館保存修復課長。2008 年文化財保存修復学会より業績賞受賞。2012
年日本学術振興会学術研究システムセンター研究員。2015 年 3 月定年により保存修復課長を辞す。2015 年
4 月東京国立博物館特任研究員。国際保存学会(IIC)フェロー、国際博物館会議(ICOM)会員、保存修復学会
会員、イコム日本委員会委員。
Author
Document
Category
Uncategorized
Views
1
File Size
281 KB
Tags
1/--pages
Report inappropriate content