銅精鉱・硫酸兼用船(鉱硫船)

知っておきたい
第 27 回
銅精鉱・硫酸兼用船(鉱硫船)
JX 金属の子会社で、主に内航海運事業を展開している日本マリンでは、昨年末、同社にとって2 隻目の銅精鉱・硫酸兼用船
(鉱硫船)
『鉱硫』を竣工しました。今回は、内外の注目を集めているこの「鉱硫船」をご紹介します。
鉱硫船とは ?
『 MAR CAMINO 』
総トン数 30 , 454トン
鉱硫船は、銅精鉱と硫酸を一隻で運ぶことができる世界
でも類を見ない特徴を有した船舶です。当社グループでは、
日本からチリへの硫酸の輸出、チリからの銅精鉱の輸入に
あたっての輸送の効率化のため、この鉱硫船を運航してい
ます。現在、日本マリンが運航している鉱硫船は、2010年
9月に運航を開始した『MAR CAMINO(マール・カミーノ:
スペイン語で「海の道」の意)』と昨年末に就航した『鉱硫』
の2隻です。
鉱硫船の運航方式は ?
『鉱硫』
総トン数 30 , 476トン
まず、チリの銅鉱山で生産した純度約30 % の銅精鉱を
船倉に積み、パンパシフィック・カッパー佐賀関製錬所な
どに運びます。続けて、乾式製錬※1 の中間工程において製
造された濃硫酸を、今度は専用のタンクに積載してチリに
輸送します。これを銅鉱山での湿式製錬 ※2 工程に用いた
り、現地の主要顧客に販売します。まさに「一“隻”二鳥」の
性能を誇る鉱硫船は、製錬事業全体の輸送費の合理化に貢
献。世界をまたにかけて当社グループの非鉄金属事業を支
えている画期的な船舶と言えます。
『鉱硫船』の構造
従来の専用船の場合
なぜ鉱硫船は合理的なのか ?
銅精鉱
チリ➡日本
海水
新鉱硫船『鉱硫』の就航により、年間約40万トンの銅精
鉱を佐賀関製錬所、日比共同製錬・玉野製錬所および韓国
LS- ニッコー・カッパー 温山製錬所に輸送するとともに、
佐賀関製錬所から年間約24万トンの硫酸をチリに輸送す
ることが可能となります。当社グループでは、チリ国カセ
ロネス銅・モリブデン鉱床において、本年中に銅精鉱の生
産を開始する予定です。2隻の鉱硫船は、今後、日本・チリ
間における銅精鉱および硫酸の安定供給と当社グループの
銅事業における物流の一層の効率化に貢献していくことと
なります。また、当社グループでは、今後も積載率の向上や
ロットの大型化だけではなく、新しい発想のもと、従来に
ない最適輸送方法の構築により、輸送におけるエネルギー
使用量および排出 CO 2 の削減に努めます。
❷
銅精鉱用
船倉
❶硫酸タンク
今後の展開は ?
❶硫酸タンク
銅地金を生産する原料の銅精鉱には硫黄分が含まれてい
ます。佐賀関製錬所など乾式製錬を行う日本の製錬所では、
銅精鉱から硫黄分を取り除いて銅地金を製造し、副産物と
して硫酸を製造します。一方、湿式製錬(SX-EW 法)と呼ば
れる銅地金製造法では、銅鉱石に硫酸を散布してできる浸
出液から電解工程を通じて銅地金を製造することから、多
量の硫酸を使用します。世界一の産銅国チリでは、銅地金
の需要増に伴い、硫酸の使用量が増えています。銅精鉱が
必要な日本に銅精鉱を運び、硫酸が必要なチリに銅地金の
副産品である硫酸を運ぶことができる鉱硫船は、極めて合
理的な船なのです。
空荷
❶【濃硫酸】日本➡チリ
❷【銅精鉱】チリ➡日本
日本➡チリ
(バラスト※3 航海)
日本⇔チリ 鉱硫船による輸送
硫 酸
(年間約24万トン)
日本
鉱硫船
ブラジル
銅精鉱
(年間約40万トン)
チリ
※約90日かけて太平洋を往復
※1:乾式製錬:1 , 000℃以上の高温で銅を溶かす。低品位の銅精鉱処理は難しい。
※2:湿式製錬(SX-EW 法)
:90℃以下の低温で銅を溶かす。低品位の銅精鉱処理ができる。併せて原料中の貴金属を効率的に回収できる。
※3:荷をおろした後に重しとして船に入れる海水。
アルゼンチン