IPCC 第 22 回総会出張報告

【 IPCC 第 22 回総会出張報告 】
出張者:
(財)地球・人間環境フォーラム 研究主任 山岸規子
日 程:平成 16 年 11 月 9 日∼11 月 11 日
場 所:インド・ニューデリー(Ashok Hotel)
概 要:本総会の主な議題は、AR4 統合報告書作成についての審議であった。統合報告書の作成
に関しては、大多数の国々が賛成の立場で参加していたが、反対の立場をとる国々との
意見の応酬が繰り返された。最終的には統合報告書を作成することが合意され、また、
そのアウトライン等についても決定した。
2004 年 11 月 9-11 日、インドのニューデリーにて、IPCC 第 22 回総会が開催された。会場は、
ニューデリーの中でも郊外の公共機関等の施設の集まる落ち着いた一角に位置する歴史の感じら
れるホテルであった。世界 120 カ国から研究者および政府関係者 約 260 名が参加し、3日間に
わたり審議が行われた。
日本からの出席者は以下のとおりであった。
(財)地球環境戦略研究機関 平石理事(IPCC ビューローメンバー)
、
環境省 高橋研究調査室長、徳広主査、
経済産業省 山形参事官、西尾課長補佐、
気象庁 藤谷気象研究所長、
地球環境フロンティア研究センター 近藤特任研究員、秋庭
(財)地球・人間環境フォーラム マクドナルド(客員研究員)
、山岸
(財)地球・産業文化研究所 角野、蛭田
今次総会の最大の論点は、昨年 11 月開催の第 21 回総会から持ち越された課題である、AR4
統合報告書(SYR:Synthesis Report)の作成を行うか否か、およびその内容をどうするか、であ
ったが、足かけ3日にわたる活発な審議の結果、作成が合意され、内容についても一定の合意に
至った。以下に総会の主な審議結果を記す。
1.AR4統合報告書について
(1)審議結果のまとめ
詳細は(2)∼(4)に示すが、3日間の議論を受けての結論は以下のとおりであった。
・作成の是非:作成が正式に決定。
・長さ:SPM最高5ページ、本文最高30ページ(図表含む)
・形式:トピックについて文章を書く。
TAR(第3次評価報告書)の際のQ&A形式をとらない。
・採択方法:SPMは行毎の承認、本文についてはセクション毎に採択。
・内容:トピック(章立て)について以下のとおり合意された。
①観測された気候変化及びその効果
②変化の要因
③種々のシナリオの下での短期・長期の気候変化とその影響
④地球規模及び地域レベルにおける適応及び緩和のオプションと対応、及び持続可能な
発展との相互関係
⑤長期的な観点:適応及び緩和に関する科学的・社会経済学的側面、条約の目的・条項
との整合性、持続可能な開発との関連
⑥堅固な知見と主要な不確実性
・執筆者:執筆者選定は 2005 年末頃。議長が各作業部会執筆者より選出しビューロー会合で
承認。
・作成スケジュール:UNFCCC COP13 に間に合わせることとした。
(このため、WG2 および
WG3 の報告書作成スケジュールを2∼3週早め、かつ、UNFCCC に対して、COP13
の開催時期を遅らせることを議長より要請することとした。
*以下(2)∼(4)の詳細報告は、環境省 高橋調査研究室長の議事メモを引用させていただいた*
(2)全体会合での議論(1−2日目)
議長より、統合報告書に関する議長提案について説明があり、統合報告書の作成について
は、今次会合において決定することが必要である旨が述べられた。更に事務局より、第 19
回総会での決定を踏まえ、統合報告書は 2007 年第 4 四半期に作成する必要があるとして、
作成スケジュールについて2つのオプションが示された。
これに対し、WG1/TSU ヘッドのマニングより、提案されたスケジュールでは報告書の質
が確保できないとして懸念が示され、米、中、サウジ等も、統合報告書に関する作業は各
WG 報告の作成終了まで開始すべきでない、2007 年までに無理に間に合わせる必要はない、
統合報告書作成に関する決定を延期すべき等との主張を行った。
他方、日本を含め、WG3 共同議長、英、加、独、ブラジル、ケニア等多くの国が議長提
案を支持し、
IPCC が UNFCCC プロセスに貢献することは重要であり、
統合報告書を COP13
に間にあうべく作成するよう今次会合において決定すべきである旨主張した。
以上の議論の後、議長は、これまで統合報告書についてスコーピング会合を含め多くの時
間と資源を費やして検討してきたにも拘わらず合意がないことを遺憾とするとともに、豪及
びスーダンを共同議長とするコンタクトグループを設置して、統合報告書の構成及び内容に
ついて結論を出して欲しいこと、スケジュールについては、議長が各 WG 共同議長及び TSU
と協議する旨表明した。これに対し、英、米、中より、コンタクトグループではスケジュー
ルや手続きについても議論が必要である旨指摘し、議長はこれを認めた。
(3)コンタクトグループでの議論(2―3日目)
統合報告書の長さについては、
図表を含む30頁程度のコンパクトなものとすべきことで、
各国の意見は一致した。更に短い(5頁程度)SPM(政策決定者用要約)を作成すべきかに
ついては、両論が出たが、SPM が無い場合には30頁の報告書全体を総会でラインバイラ
インで採択する必要があり、それは実際的に不可能であるとの意見が出て、最終的に、SPM
を作成することで合意された。
統合報告書の項目については、本来であれば TAR の際と同様に policy relevant かつ
policy neutral な質問形式とすべきとの意見があったが、現時点で質問の文言について合意
を得ることは時間がかかりすぎるということで、議長提案にあるトピック形式でやむを得な
いということとなった。また、今回合意するトピックの文言は、あくまでもガイダンスであ
り、執筆者を制約すべきでなく、執筆者に自由度を与えるべきであるとされた。
各トピックの文言についての主な議論は以下のとおり。トピック3(様々なシナリオの下
での短期・長期の気候変化とその影響)については、悪影響のみでなく opportunities も加
えるべき(米)との意見があった。トピック4(適応・緩和のオプション及び地域・地球規
模の対応)については、spillover effects を加えるべき(サウジ)
、co-benefit を加えるべき
(米)
、技術移転を明記すべき(中国)等の意見があった。トピック5(長期的な GHG 濃度
の安定化と持続可能な開発)については、最も多くの議論があった。中国が「安定化」
、
「条
約第2条」
、
「究極の目的」といった文言の挿入に強く反対し、サウジがこれを支持したが、
長期的な GHG 安定化に関する何らか文言が必須であるとする EU 各国、加、豪、NZ 等と
強く対立した。米は、
「安定化」との表現は受け入れ可能だが、明記することには拘らないと
のスタンスであった。
また、統合報告書の作成プロセスについても議論されたが、全体会合と同様の意見の対立
が続いた。
(4)全体会合でのとりまとめ(第3日)
コンタクトグループでの結果を受け、新たな議長提案が配布され、
合意に達しなかった諸点
(
「安定化」
に関する記述、
統合報告書の作成プロセス)
について全体会合で議論が行われた。
作成プロセスについては、
議長が各 WG の共同議長及び TSU と協議した結果として、
WG2
及び WG3 の報告書作成スケジュールを2−3週間早める等のスケジュールの見直しを行う
ことにより、統合報告書を COP13 に間に合わせることが可能であること、更に余裕を確保
するため、UNFCCC 事務局に対して COP13 の開催時期を1ヶ月遅らせることを検討する
よう要請する旨、議長から報告があった。これに対しては、なお米、サウジ、中国等から、
スケジュールが厳しいとの指摘があったが、多くの国が議長提案を支持し、最終的に議長案
が受け入れられた。なお、UNFCCC のトーゲソン部長より、COP13 の開催時期の変更につ
いては、事務局長ではなく各締約国が決めることであるので、本件については各国の COP10
代表団にインプットしておいて欲しいとの発言があった。
トピック5については、議長より、
「安定化」との表現を表題からは落とし、サブパラグラ
フの中で、under different stabilization scenarios との表現を含めるとの妥協案が提示され
たが、中国が受け入れを拒み、最終的に「安定化」に関する表現を明示しない形で合意され
た。これに対しては、イズラエル副議長(露)が最後まで「安定化」を含めるよう主張した。
また、加よりは、このような決定は IPCC の意義を損なうものであるとの強い不満の表明が
あった。
また、米提案により、最後に「Robust findings and key uncertainties」とのトピックが
追加された。
2.その他、各種プロジェクトに関する進捗報告について
(1)AR4作成に関する各作業部会の進捗報告について
各作業部会代表者より報告を受けた。それぞれの第1回執筆者会合が本年 9-10 月にかけて開
催されており、既に本格的な執筆作業が開始されている旨の報告があった。
1)WG1
・ WG1 共同議長(中国)から下記の報告がなされた:
執筆者について:CLA 及び LA 計 140 名と RE37 名。
スケジュールについて:0 次草案は、2005 年 1 月 14 日までに TSU に提出予定。
報告書 1 次草案は、2005 年 9 月に専門家レビューを受ける予定。
その他:途上国/経済移行国からの執筆者支援のため、必要文献に簡単にアクセスできる
システム(e-journal)を導入し、科学分野の主要な刊行物の記事をダウンロード出来る
ようにした。
2)WG 2
・ WG 2 共同議長(UK)から下記の報告がなされた:
執筆者について:CLA47 名、LA125 名、及び RE46 名。
スケジュールについて:0 次草案は、2004 年 12 月 10 日までに TSU に提出予定。
その他関連会議について:
「気候変動枠組条約第 2 条と主要な脆弱性」
、2004 年 5 月に会合を開催済。
「適応措置と緩和措置、及び統合持続可能な開発に関する専門家会合」
(2005 年 2 月 16
−18 日(フランス)にて WGIII と合同で開催予定。
3)WG 3
・ WG 3 共同議長(シエラ・レオネ)から下記の報告がなされた:
執筆者について:CLA25 名、LA134 名、RE25 名。
スケジュールについて:0 次草案は、2005 年 3 月までに TSU に提出予定。
その他関連会議について:
「AM 及び SD に関する企画会議」
(2004 年 9 月 1 日−2 日、オランダ WGII 合同)
「産業技術の開発、普及、移転に関する専門家会合」(2004年9月21−23日、東京)
「第 1 回排出シナリオに関する専門家会合」
(2005 年1月 12 日-14 日、US)
「AM-SD に関する専門家会合」
(2005 年 2 月 16−18 日、フランス、WGII 合同)
(2)オゾン層保護と気候システムに関する特別報告書について
・ IPCC と TEAP(モントリオール議定書)の共同で作成を進めている特別報告書であり、こ
れに関して WG3 共同議長より報告があり、以下のとおり報告がなされた。
対象ガス:HFCs と PFC の他、HCFCs と CFCs も対象とすることを検討中。
スケジュールについて:現時点(2004 年 9 月 16 日−11 月 12 日)第 2 次草案の政府・専門
家レビュー中。その後、第 4 回 LA 会合(12 月、アルゼンチン)を開催予定。
2005 年 4 月、WG1 及び WG3 の合同会合及び IPCC 総会(エチオピア)の場にて報
告書の採択が行われる予定。
(3)二酸化炭素隔離に関する特別報告書について
WG3 共同議長より報告があり、以下のとおり報告がなされた。
スケジュールについて:
同分野の新しい知見をより網羅的に評価するため、当初の予定を延期し 2005 年 9 月
完成にむけ作成中。
政府/専門家レビューは、2005 年 1 月 10 日−3 月 7 日の予定。
第 4 回 LA 会合は 2005 年 4 月 25 日−28 日(スペイン)にて開催予定。
IPCC24 回総会(2005 年 9 月 27 日−29 日)にて承認予定
レビューの方法について:
客観性を向上させる目的で、試験的に専門家レビューを匿名で実施しているが、それ
によりレビューの質の向上が見られる旨報告があった。
これに関して参加各国からは、
匿名レビューの適用を拡大すべきとの意見とそれに反対する意見
(透明性が失われる、
地域的・国家的事情を考慮する必要がある等の主張)が出され、今後の対応について
は本件報告書の結果を見て検討することとされた。
(4)国別 GHG 目録に関する 1996IPCC ガイドラインの改定(2006GL)について
・ TFI 共同議長(ブラジル)から以下のとおり報告がなされた。
スケジュールについて:
全 5 巻(横断的事項と報告表、エネルギー、生産加工及び製品利用、農業・林業及びそ
の他の土地利用、廃棄物)について執筆者会合を開催済み。
(今後の予定)
0 次草案は 2004 年 12 月までに TSU に提出される予定。
2005 年 1 月 11−13 日(マニラ)にて合同会合を開催。
(1 次草案準備)
1 次専門家レビューは 2005 年 3−4 月。
専門家/政府レビューは 2005 年 9−10 月。
・ 平石 TFI 共同議長(日本)から以下のとおり報告がなされた。
エアロゾルの扱いについて:
前回会合より議論となっているエアロゾルの扱いについては 2005 年 6 月頃に少人数の
ワークショップを開催予定。大気化学の専門家の選定等について WG1 と連携していく。
(5)気候と影響分析支援のためのデータ・シナリオ作業グループ(TGICA)
事務局より、本年 9 月に開催されたメンバー改選後第 1 回目の会合の結果が報告された。
IPCC 事務局から以下のとおり報告がなされた。
・2004 年 9 月 24−25 日、第 1 回会合(新メンバー)を開催済み。
−DDC サイトの改訂状況、他言語のミラーサイトの立ち上げ状況(ブラジルで立ち上
げ済み、カナダ、中国で立ち上げ中)
、新 GCM モデルアーカイブへのアクセス改善
などについて議論した。
−途上国/経済移行国の研究者へ追加的にデータやモデルを提供すること
(低スピード
データ配信システムの開発やデータ分析ツールへのアクセス提供案の作成など)
につ
いて議論した。
・2005 年 4 月にブラジルにて次回会合を開催予定。
3.AR4 の成果物について
AR4 の中心的な成果物は、3 つの WG 報告書(SPM 及び TS 含む)及び SYR とし、その他、
ウェブサイトでの開示、出版、DDC からの公開のあり方などについての事務局案が説明され、
基本的に承認された。
(TGICA が運営している DDC を通して公開されているデータセット、モ
デル、シナリオ、ツールなどについて、AR4 で更なるデータ等を公開するには、IPCC ルールを
見直す必要があるため、TGICA は IPCC24 までに、DDC に掲載されているデータ及び掲載の条
件の説明と共に、データをどのように掲載すべきかの提案を提出することとした。
)
地域に関する報告書が作成されなくなったことから、地域に関する情報を何らかの形で充実す
ることの必要性が多くの国から支持された。このため、執筆者に過度の負担をかけることなく、
各 WG 報告書の中で、地域の情報を index することの実施可能性について、各 WG の共同議長
が執筆者に意見を求めることした。
(どのようなシステムにするかはビューローの監視の下、事務
局が追って検討することとなった。
)
4.アウトリーチ(広報活動)について
アウトリーチタスクグループ共同議長および IPCC 事務局より、以下の報告があった。
・アウトリーチ活動の機会(会議・イベントなど)のリストアップについて
・IPCC 活動について講演できる専門家のリストアップについて
・IPCC、気候変動、SRES についてのパンフレット作成に対する進捗について
(これに関し、IPCC の活動について紹介するファクトシート(英語版)が配布された)
・IPCC 資料の出版・配布・販売について
その他
(メディア対応について)
ビューローメンバー等がマスメディアに対応する場合、個人の意見と IPCC の見解が混同さ
れないよう、留意が必要との意見が各国より出された。
(IPCC 報告書の非国連公用語への翻訳成果物について)
IPCC 報告書を非国連公用語に翻訳した場合、報告して欲しい旨、事務局から要請があった。
5.2005-2008 年作業計画及び予算について
予算タスクチーム共同議長より、検討結果が報告され、承認された。議長より、拠出国への謝
意が示されるとともに、各国政府への拠出要請の努力を継続する、拠出国の数は増加傾向にある
との報告があった。
また、3年前の総会での決定に基づき、2005 年度よりアウトリーチのためのスタッフの強化を
図ることが報告された。
6.選挙に関する手続きについて
選挙手続きに関するタスクグループの共同議長(UK)から、ビューローメンバーの交替、ビ
ューローのサイズ、指名委員会(nominations committee)
、及び UNFCCC の選挙ルールをモデ
ルとして利用することについての案が示され、意見交換が行われた。
選挙に関する手続きは、IPCC24 で最終決定することとなり、各国より、2005 年 1 月中旬まで
にコンタクトグループ共同議長(ケニア、UK)及び IPCC 事務局に対して、コメントを提出し、
その後2ヶ月で修正案を作成することとなった。
7.その他
持続可能な開発国際研究所(IISD)による日報作成について
議長より、今次会合より、IISD による日報(ENB)が作成したい旨提案があった。ENB にお
いて、発言者の国名を明示すべきか否かについて議論があり、サウジアラビア及びスイスが匿名
とすることを主張したが、他の多くの国(オーストリア・ロシア・US・カナダ等)が透明性確保
の観点から国名を明示すべきことを主張し、その旨合意された。
(なお、本件は、今次会合の冒頭
部分にて提案・審議・採択された。
)
8.次回会合について
事務局より、次回総会は 2005 年 4 月 8 日、アジスアベバ(エチオピア)において開催され
る予定である旨、報告があった。
以 上