2010年8月7日 オープンキャンパス 応用生命科学科体験講義 天然成分の機能性を探る 農学研究科 機能性食料開発学専攻 藤田智之 植物界に分布する化学成分 天然の化学成分(自然の恵み)を利用する 生物圏 昆虫 食品(栄養成分,香辛料, 着色料,抗菌剤,etc.) 動物 医薬品(生薬,抗生物質,etc.) ヒト 食糧 生薬 毒 発酵 醸造 抗菌物質 植 物 微生物 植物毒素 農薬(殺虫剤,植物ホルモン, フェロモン,etc.) 化粧品(香料,乳化剤, 保湿剤,薬用成分,etc.) 化成品(洗剤,ゴム製品,etc.) 化合物の概数 窒素化合物 10000 アルカロイド 100 アミン 400 アミノ酸 (非タンパク構成) 40 青酸配糖体 80 グレコシノレイト 植物界における分布 生理活性 被子植物の根, 葉,果実など 被子植物中, しばしば花に 比較的広範囲, とくにマメ科種子中 種々の毒性および苦味 種々の不快臭,多少幻覚性あり 種々の毒性 果実や葉中に 主としてアブラナ科 有毒(青酸) 辛味,苦味(イソチオシアネート) テルペノイド モノテルペン セスキテルペン ジテルペン トリテルペン(サポニン) リモノイド カルデノライド カロテノイド 1000 3000 2000 2000 100 150 600 精油中に広範囲に存在 主としてキク科, 他の被子植物にも 広範囲に分布, とくに樹脂中に 70以上の科 ミカン科,センダン科,ニガキ科 キョウチクトウ科, ゴマノハグサ科 広く葉中に, 花・果実にも 芳香 多少の苦味,毒性あり 多少の毒性 (溶血細胞) 苦味 苦味・毒性 毒性・苦味 着色 フェノリックス フェノール誘導体 フラボノイド キノン 200 4000 800 広く葉中に, しばしば他の組織にも 被子植物, 裸子植物, シダ類一般 広範囲, とくにクロウメモドキ科 抗菌性 しばしば着色 着色 「食(品)」の機能と関与成分 食品中の感覚機能を示す成分 関与する成分 健康を維持する (生体調節機能) ポリフェノール成分,ペプチド, オリゴ糖,食物繊維など 五感で食を楽しむ (感覚機能) テルペノイド,フラボノイド,アル カロイド,ポリフェノール類など (二次代謝産物) 栄養素の摂取 (栄養機能) 糖質,タンパク質,脂肪, ビタミン等必要な栄養素 (一次代謝産物) 味覚や嗅覚などの感覚に訴える機能を持つ成分であり,食生 活の中で利用されている。カロテノイド,テルペノイド,ポリフェ ノール,フラボノイド,アルカロイドなど多種多様。 辛味 色 味 唐辛子(カプサイシン) ,コショウ(ピペリン) , (甘,辛,苦,塩) ショウガ(ジンゲロン,ショウガオール) ,ニガキ(クアシン) β-カロテン(ニンジン) カプサイシン(唐辛子) ピペリン(コショウ) センブリ(センブリン) ,ステビア(ステビオシド) 色 香り シトラール 嗜好品 (レモン) 香り ニンジン(β-カロテン),シソ(アントシアン),ムラサキ(シコニン) レモン(シトラール),ミント(l-メントール),ミカン(d-リモネン) l-メントール d-リモネン カテキン カフェイン 茶(カテキン),コーヒー(カフェイン) ,ココア(テオブロミン) (ミント) (ミカン) (茶) (茶,コーヒー) 1 化学構造を知るためには? 抽出 生体試料 (混合物) 機器分析による構造解析 分離,精製 構造解析 機器分析 NMR, LC/MS, etc. 各種溶媒 水, エタノール ヘキサン, etc. CH3 H3C C C H2C H CH3 C H2C C O CH2 炭素13-核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトル 水素-核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトル 天然成分の新しい機能の探索 生命現象を解明する天然物化学分野 現在の研究テーマ 酵素阻害剤の探索研究 ・ウレアーゼ阻害物質の探索 ・キサンチンオキシダーゼ阻害物質の探索 新しい構造や 新しい機能の発見 (植物,微生物,動物) 植物由来の機能性成分の探索研究 ・イワダレソウ甘味成分の単離および分析条件の検討 ・食用ホオズキに含まれるステロイド類の探索 天然物化学は農学,理学,薬学分野に共通 ! 創薬(医薬,農薬),機能性食品,化成品などの開発に応用可能 高尿酸血症および痛風の予防 食品加工における高圧処理技術の利用 ・加圧処理による穀類の機能性成分富化技術の開発 ・セルラーゼ活性に及ぼす加圧処理の効果 香辛料タイムについて ● 痛風患者+予備軍・・・500万人,成人男性の5人に1人 シソ科のハーブ 独特の芳香があり,料理の香りづけ に用いられる。 殺菌や防腐効果に優れており,ソー セージなどの食品に添加される。 BMI 27以上・・・合併症が極端に増加(糖尿病,高血圧など) ● 生体内では核酸(プリン系)の代謝で尿酸が生成 ● 薬物治療(尿酸生成酵素阻害,尿酸排泄促進) AMP GMP 酵素阻害剤 (例:アロプリノール) ヒポキサンチン グアニン タイム(Thymus vulgaris L. ) H2O+O2 H 2 O2 キサンチン H2O+O2 H 2 O2 尿酸 キサンチン オキシダーゼ 〈効能〉 咳止めなどの呼吸器系に有効。 消化不良の改善にも効果がある。 口臭予防などの消臭効果がある。 タイムに含まれるキサンチンオキシダーゼ阻害物質の検索 およびマウスの血漿尿酸値低下作用の評価 2 タイム抽出物の分配抽出と各層の阻害活性 キサンチンオキシダーゼ阻害活性試験 タイム地上部乾燥粉末 50%EtOH抽出物(10.0g) (終濃度 10 μg/mL) タイム抽出物 Hexane (100ml ×3) 1/15M リン酸緩衝液(pH 7.5) ヘキサン層 H2O層 酢酸エチル層 キサンチンオキシダーゼ溶液 (牛乳由来) EtOAc (100ml×3) H2O層 ブタノール層 プレインキュベーション(25℃,15min) 水層 BuOH (100ml×3) 50 キサンチン(基質) 40 インキュベーション(25℃,30min) 30 1M HCl 反応停止 20 ※各層を100倍希釈した サンプルでの活性評価 10 抽出物を添加しないコントロールと 比較して,阻害率を算出 尿酸測定(UV 290nm) 0 EtOAc層 40% 80% 60% EtOAc 10% 20% 30% 50% MeOH シリカゲルカラム(CHCl3/MeOH, stepwise) CHCl3 5% 10% 15% 20% 30% 50% 70% 2% 4% 6% 8% 10% 12% MeOH ddy系雄マウス 6週齢 ●投与サンプル タイム50%EtOH抽出物(経口ゾンデ) ●処理区 1)normal群 2)control群 EtOH OH OH HO OH O OH OH O HO Apigenin(1) O OH O Luteolin(2) O OH O ●高尿酸血症モデル Diosmetin(3) (500 mg/kg体重) 〃 (1000 mg/kg体重) イノシン酸(500 mg/kg体重, 腹腔内投与) (2~4群) 加圧処理による穀類の機能性成分富化技術の開発 P = 0.01 • 多くの穀類が全粒ではなく胚乳部分を利用している。 ‐16% • 外皮(エイ,ヌカやフスマなど)は除去,廃棄される。 • 穀類の胚芽や外皮部分には機能性成分が豊富に含まれる。 血中尿酸値(mg/dl) N.S. ‐8% 3)タイム投与群 4) OCH3 HO 高尿酸血症モデルマウスへのタイム抽出物投与が 血中尿酸値に与える影響(n = 10) P < 0.01 水層 ●供試動物 シリカゲルカラム(CHCl3/EtOH, stepwise) CHCl3 ブタノール層 モデルマウス シリカゲルカラム(Hexane /EtOAc/MeOH, stepwise) 20% 酢酸エチル層 血漿尿酸値低下作用の検証 タイム酢酸エチル抽出物の分離と精製 Hexane ヘキサン層 【米】 【玄米】 穎(エイ) 【精白米】 糠(ヌカ) 【小麦粉】 【小麦】 麩(フスマ) ・全粒粉の利用 通常群 高尿酸血症 モデル群 500 mg/kg 1000 mg/kg ・用途(パン,シリアル) が限定される ・パン,麺類,菓子などに加工 ・機能性成分が少ない → 増加させるには? タイム抽出物投与群 3 米糠や小麦麩に含まれる機能性成分 小麦粒の加圧処理による小麦粉の高機能化 H3CO 小麦粒 1kg γ‐オリザノール(ステロールとフェルラ酸のエステル) コレステロール吸収抑制作用,皮膚の老化防止作用,血 管拡張作用,紫外線吸収作用 HO HO OH O ポリフェノール類(プロシアニジン類, フェルラ酸など) OH HO ビタミンE(トコトリエノール類) ミネラル(カルシウム,リン,カリウム,鉄など) 食物繊維 OH 圧力 : 常圧(0.1MPa) O トコフェロールの50倍の抗酸化能,動脈硬化の抑制 【処理条件】 OH OH 高脂血症や動脈硬化予防,抗酸化作用,抗変異原作用 加圧処理(24h) OH HO 水を添加 COOH バニリン酸 尿路結石や腎結石の予防,歯垢形成抑制,大腸がんや 乳がんなどの予防,抗腫瘍作用 凍結乾燥 CH3 3 CH3 CH3 O R 小麦粉(処理試料) CH3 トコトリエノール類 バニリン酸 シリンガ酸 10 2.5 40℃ 40MPa 20℃ 常圧 未処理の 6倍に増加 未処理 2.0 1.5 1.0 シナピン酸 p-クマル酸 0.5 32.528 10.260 11.350 7.716 8.227 mg/粉末試料100g 9.684 0 シナピン酸 p-クマル酸 9.684 0 3.0 32.528 10.260 11.350 5.429 5.819 シリンガ酸 フェルラ酸 5.429 5.819 3.115 3.675 mAU 加圧処理 (80MPa, 40℃ 40℃) 10 3.5 フェルラ酸 バニリン酸 7.716 8.227 3.115 3.675 mAU 80MPa 0 20 加圧処理した小麦粉中のポリフェノール成分量の変化 未処理 10 東洋高圧社製 「まるごとエキス」装置 0.1MPa(メガパスカル)=1気圧(大気圧) CH3 小麦粉抽出物中の加水分解物のHPLC分析 20 温度 : 20℃, 40℃ 製粉処理 プロシアニジン B3 1 R HO 2 40MPa, 80MPa OH OH R ホクシン品種(2007年北海道産) フェルラ酸 H3CO フィチン酸 COOH 20 30 0 バニリン酸 40 min シリンガ酸 p-クマル酸 フェルラ酸 シナピン酸 ∗平均値±標準誤差 (n=3) アドミッションポリシー 総括および考察 小麦 加工処理 製粉 小麦粉 圧力(80MPa) 応用生命科学科では,生命現象の解明とその応 用技術の開発分野および食品科学の分野で活躍 温度(40℃) を志す人を求めています。 水添加 機能性up ・ 小麦粉のポリフェノール成分量が高まった 総ポリフェノール量は未処理の1.3倍,フェルラ酸量は約6倍に増加した。 常圧処理では異臭が発生したが,加圧処理では認められなかった。 ・ 成分増加のメカニズムについて検討中 ・ 他の穀類への応用が期待される 生命科学および食品科学を発展させ,その成果を 応用して社会に貢献する人,バイオサイエンスとバ イオテクノロジーに強い関心を寄せている人,課題 探求能力と知的創造力にあふれた人を歓迎します。 4
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