インターネットを利用した国際遠隔授業: プレMBA講座の実践 柳沼 寿(法政大学情報技術(IT)研究センター所員、経営学部教授) 小林 尚登(同所員、工学部教授)、曽村 充利(同所員、経済学部教授) 廣瀬 克哉(同所員、法学部教授)、徳安 彰(同所員、社会学部教授) 福田 好朗(同所員、工学部教授)、林 公美、日野 好幸(同事務室) 法政大学情報技術(IT)研究センター 〒102-8160 東京都千代田区富士見2−17−1 [email protected] 1.はじめに 現代社会では、キャリア形成を目指す社会人に対する高等教 育レベルの再教育、特に経済のグローバル化に対応したビジネ ス教育の重要性が認識され、グローバル・スタンダードである 経営学修士(MBA)への評価が改めて高まっている。法政大学で は、こうした社会的要請に応えるため、カリフォルニア州立大 学イーストベイ校(California State University, East Bay, 以下、CSUEB)との協定によって、通常2年間の現地留学を必要 とする MBA 取得を最短1年間の現地留学で取得できる「MBA4+ 1」プログラムを実施している。この「MBA4+1」プログラム の補完講座として2002年4 月から開講したのが 「プレMBA講座」 (英語ビジネス専修講座)である。 この講座は、2002 年度、法政大学情報技術(IT)研究セン ターが文部科学省「私立大学学術高度化推進事業・オープンリサ ーチ・センター整備事業」として採択されたプロジェクト「イン ターネットを活用したボーダレス教育・研究システムデザイン と実践に関する総合的研究」の一環として、米国サンフランシ スコ郊外に米国 NPO 法人として設置した法政大学アメリカ研究 所と共同でスタートさせたものである。 2.プレ MBA 講座の概要 法政大学と CSUEB が国際連携することにより、日本にいなが ら同校の MBA 過程基礎科目単位(10 科目中 9 科目が取得可能) を修得できる。また、本講座で一定の基準(TOEFL550 点以上、 GMAT450 点以上)を満たすと最短 1 年間の現地留学で経営学修 士(MBA)が取得可能な同校の経営学大学院コースへ進学で きるプログラムである。 授業方法は、インターネットを利用した双方向通信による e-Learning システムを使い、 対面授業と遜色のない e-Learning システムの確立を目指し、対面授業との教育効果等の比較検証 を行っている。 以下、各年度の実施概要である。 ■2002 年度は英語力スコアアップ2科目(TOEFL Test スコア アップおよび GMAT スコアアップ)と経営基礎科目3科目 (Financial Accounting, Managing Marketing, Business and Society)で構成され、履修期間は6ヶ月。春季講座(4月1日 ∼9月 30 日)と秋季講座(10 月1日∼3月 31 日)の年2回開 講した。火曜と木曜の夜間(19 時∼22 時)および土曜(9時∼ 13 時)というカリキュラムとした。 基礎科目 10 科目の残り の科目については、 法政大学の科目等履修生として認定科目 (コ ンピュータサイエンス、生産工学、産業経済論)を履修し、進 学要件を充当する方式とした。 ■2003 年度は、新たに、(1) Managerial Accounting (2) 社団法人 私立大学情報教育協会 平成18年度 大学教育・情報戦略大会 Organizations and Management (3) Financial Decisions and Markets の配信 3 科目を追加し、年 1 回開講とした。 ■2004 年度は,従来のコースを Basic コースとし、新たに Advanced コースを新設し、年 1 回開講とした。 ■2005 年度は、TOEFL、GMAT 科目を廃止し土曜日のみ開講と した。 3. 遠隔講義システムの概要 法政大学IT研究センター遠隔講義室と法政大学アメリカ研 究所の遠隔講義室を H323 規格のビデオ会議システムで接続し た。日米間の時差の関係および社会人の受講可能日時を考慮し て、 日本時間毎週土曜の9時から 13 時までの4時間を基本とし、 CSUEB の担当教授が、法政大学アメリカ研究所から英語で講義 を配信した。 図1にシステム概略図を示した。授業配信なの で、安定運用を旨として接続帯域は 768Kbps とした。システム オペレーション・支援は日米双方で専門の SE を配置した。日米 の両教室に 70 インチのリア液晶ディスプレー装置を 2 面置き、 1 面でお互いの教室のビデオ映像を提示、他の画面で説明用の パワーポイント資料を同期して提示させた。このパワーポイン ト同期に用いたシステムは両拠点でローカルに同一のパワーポ イント資料を持ち、ページ送りや手書き文字データなどをリア ルタイムに転送する方式をとっている。同時に、白紙のパワー ポイントページに手書き文字を書き込むことによって電子白板 機能を実現できる。さらに、ビデオ映像・音声をパワーポイン トと同期させて提示する Web 公開可能なデジタルコンテンツが 自動的に作成される。これをサーバにアップロードすることに より受講者が復習できるようにした。 図1:システム概略図 システム開発については、(1)音声検索機能(収録された授業コ ンテンツ視聴時に任意のキーワードを入力することにより、コ ンテンツ中のその音声キーワード映像にジャンプできる検索機 能) (2)自動字幕提示システムによる英文スクリプトのリアルタ イム提示と講義録の自動生成(図 2-1,2)等を付加させた。 (2) 業種内訳 6名 メーカー 18 名 IT・通信 19 名 商社 6名 学生 21 名 その他 4名 流通・小売 サービス・マスコミ 12 名 (3) 受講理由内訳(複数回答可) キャリアアップ カリキュラム MBA 取得 48 名 23 名 9名 英語力アップ 経営知識習得 20 名 53 名 教育支援システムは、Sakai の CMS を使い、レポート提出、グ ループによる課題作成、担当教員を含めたディスカッション、 チャットなど、その教育効果を検証している。 4.授業評価について CSUEB 海外他大学大学院 法政大学大学院 合計 CSUEB の評価項目に従いアンケートは英語で行い、アンケー ト結果については、CSUEB にフィードバックを行っている。 設問(9)の遠隔講義についての評価結果(抜粋)を以下に示 すが、概して、満足度が高い回答を得ている。 (1) 現状で満足している(あえて書くなら教室にあるスクリプ ト画面を大きくして欲しい) (2) リアルタイムでのスクリプト表示は役立つが、文字が小さ く、後ろの席では見えない。 (3) 特に問題は感じなかった。 (4) 音質が安定すればなお良い。 (5) 非常に良い。 9 名(MBA) 1名 ― 10 名 一般 卒業生 在学生 人数 年齢 TOEFL 2002(春) 13 2 1 16 29.1 521.2 2002(秋) 9 4 5 18 29.4 539.7 2003 18 2 8 28 31.2 535.3 2004 9 3 3 15 27.8 538.4 2005 19 1 1 21 35.4 529.5 合計・平均 68 12 18 98 30.6 532.8 年度 6. 今後の課題 アンケートにおいて遠隔授業については肯定的意見が多かっ たが、(1)臨場感を高める画質・音質の保障 (2)受講生がアク セスしやすいコンテンツ視聴システムの構築等改めて様々な課 題を検証することが出来た。 これらの実践を踏まえ 2006 年度においては、 「いつでも、ど こでも」視聴できるような環境を提供すると同時に、オンデマ ンドコンテンツと対面授業を組み合わせた「ハイブリッド型」 授業形式を実施し、あらたな授業形態の確立に向けた試行をす る計画である。 さらに、今後はインターネットによるリアルタイム遠隔授業 のグローバルな展開を行いたいと考えている。 1) 5.受講生について 以下の受講生データ(2002 年度から 2005 年度の累計:98 名) から回答を得たが、 「20 代の多様なバックグラウンドを持つ受 講生の 3 割が MBA 取得を目指しており」 、当講座修了生の 12%が CSUEB の MBA コースに進学していることがわかる。 社団法人 私立大学情報教育協会 平成18年度 大学教育・情報戦略大会 12 名 4名 2名 18 名 (5) 受講生推移 2005 年度に実施した受講生アンケート項目を以下に示す。 (1) 受講生にとって必須要事項が十分伝わったか。 (2) 講義とディスカッションはコース内容に準拠していたか。 (3) テキストと資料はコース内容に準拠していたか。 (4) 宿題とテストはコース内容に準拠していたか。 (5) 講師は十分に相談や質問に対応してくれたか。 (6) 授業はスケジュール通りに行われたか。 (7) 授業の評点はどうか。 (8) 講師の評点はどうか。 (9) 遠隔講義について、自由記述をして下さい。 (10) その他、自由記述をして下さい。 30 代前半 26 名 その他 4名 (4) 大学院進学状況(2006 年 8 月 1 日現在) 大学名 人数 学位取得状況 図2(1−2) :自動字幕提示システム (1)年代内訳 20 代前半 20 代後半 20 名 31 名 人脈 12 名 30 代後半 10 名 40 代以上 11 名 2) 3) 4) 参考文献 林公美:”法政大学における e-Learning の取り組み-リア ルタイム型遠隔授業の事例-,” 大学教育と情報, Vol. 11, No.4, pp.16-18, 2003. 岩月正見他、”リアルタイム遠隔講義におけるデジタルコ ンテンツ自動生成システムの開発と実践,” 情報教育方 法研究 Vol. 6, No.1, pp.41-45, 2003. 八名和夫他、”日米を結んだリアルタイム遠隔講義 E-Class の実践,” 平成 17 年度全国大学 IT 活用教育方法 研究発表会予稿集, pp.126-127, 2005. 柳沼寿他、”座談会プレ MBA 講座を終了して思うこと,” 雑誌法政 No.588, pp.4-9, 2006.
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