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平成 18 年度
調査研究事業報告書
中小企業組合の新たな展開
平成 19 年 3 月
財団法人 商工総合研究所
[要
旨]
○中小企業を取り巻く環境は大きく変化している。経済のグローバル化、消費者ニーズの
変化、情報化等が進む中で中小企業は経営資源の補完による新事業展開や経営革新への
取り組みを求められている。次に、企業の社会的責任が重視されてきており、環境問題
への対応、地域社会への貢献等も避けて通ることのできない問題となっている。また、
地域経済の活性化についても地域中小企業の果たすべき役割は大きい。
○こうした中で中小企業組合の果たすべき役割も変化しており、連携組織としてのマッチ
ング機能の強化、組合相互の連携や産学官連携の推進、地域活性化への貢献等が期待さ
れている。
○協同組合は相互扶助の精神に基づく自律的共同経営体であり、株式会社等とは異なる理
念、原則に基づいて運営されている。協同組合原則については国際協同組合連盟(IC
A)による見直しが行われ、平成 7 年に最新の原則が示されているが、新たに「地域社
会への関与」
(地域社会の持続可能な発展のために活動する)という原則が追加されてい
ることは注目すべきである。
○中小企業組織化政策においては、中小企業組合に期待される役割は規模の不利を是正す
る事業共同化のための組織から、中小企業が直面する問題に対応するための新事業展開
に必要な経営資源の相互補完を図るための組織へと変化しており、中小企業組合以外の
多様な連携組織の活用も模索されている。一方、地域資源活用による地域経済の活性化
が重要な政策課題となり、こうした面における中小企業組合の役割も期待されている。
○こうした状況の下で、事例に基づいて、中小企業組合の新たな展開の方向性を整理する
と以下のようになる。
① リサイクルの推進等の環境対応への取り組み、大規模災害に備えた共同防災・相互援
助体制の整備
② 地域ブランド構築の推進母体となりブランドの認定、管理を行う
③ 団地内での景観整備事業や医療施設の開放による地域社会への貢献や地域内の中小
企業によって結成された協同組合による地域経済活性化のための事業への取り組み
④ 新事業開拓を目指した異業種交流、産学連携等への取り組み
⑤ 企業組合制度の活用による地域住民の起業促進、および企業退職後の高齢者の能力活
用と自己実現の場の提供
○相互扶助組織、共同事業体という特色と理念に基づいて、異業種交流、産学官連携のプ
ラットフォームの役割を果たすとともに、地域への積極的関与という観点から、リサイ
クル事業、地域環境保全、地域経済の活性化、地域社会への貢献等に取り組むことも中
小企業組合の目指すべき新たな方向であるといえよう。
目
次
頁
1
はじめに
1.中小企業組合を取り巻く環境の変化
(1)産業構造の変化
2
(2)企業の社会的責任
2
(3)地域の時代
2
(4)協同組合原則とその変遷
3
2.中小企業組織化政策の現状
4
3.新たな展開への方向性
(1)リサイクル、ゼロ・エミッション等への対応
8
(2)地域ブランドへの取り組み
8
(3)地域への貢献、地域振興・活性化への取り組み
10
(4)異業種交流、産学連携への取り組み
11
(5)企業組合による創業
11
まとめ
12
4.中小企業組合事例
事例1
協同組合 青森総合卸センター
14
事例2
けせんプレカット事業協同組合
18
事例3
企業組合 東京セールスレップ
20
事例4
神奈川県内陸工業団地協同組合
23
事例5
弥彦温泉給湯協同組合
26
事例6
協同組合 三重オートリサイクルセンター
28
事例7
企業組合 伊賀焼の郷
30
事例8
協同組合 HIP滋賀
32
事例9
兵庫県鞄工業組合
34
事例 10
西薩クリーンサンセット事業協同組合
36
はじめに
中小企業組合は相互扶助の理念に基づく協同組織として、共同経済事業等を通じて中小
企業の経営基盤の強化に大きな役割を果たしてきたが、中小企業を取り巻く経済環境が変
化し、社会のニーズが多様化する中で、従来からの活動に加えて、その特色を活かして新
たな活動を展開していくことが求められている。
地球環境の保全が重要な問題となる中で、廃棄物処理やリサイクル、ゼロエミッション
等は組合共同事業として取り組むことも有効である。また、企業の社会的責任の一つとし
て地域への貢献が重視されてきているが、地域経済の活性化、地域ブランドへの取り組み
等においては協同組織である中小企業組合の果たす役割が大きいと考えられる。また、企
業組合については地域住民や企業退職者による創業の受け皿として、近年その設立数が増
加している。
本調査はこうした視点から、変化する環境の中で中小企業組合に期待される新たな役割
とその実態、今後の課題等について中小企業組合を対象に訪問調査を行い、その具体的な
事例を踏まえて検討を行ったものである。
1
1.中小企業組合を取り巻く環境の変化
(1)産業構造の変化
経済のグローバル化、市場の成熟化と消費者ニーズの変化、情報化の進展等、中小企業
と中小企業組合を取り巻く環境は大きく変化している。市場の成熟化と消費者ニーズの変
化は企業により多様な商品とサービスの提供を求めており、商品のライフサイクルも短期
化している。また、経済のグローバル化、海外企業との競合激化といった状況の下で中小
企業は先端・高付加価値分野や日本でしか作れないような高度な技術・ノウハウを必要と
する製品等への転換を求められている。
このような環境変化に迅速かつ柔軟に対応して、新製品・新技術を開発し、新たな市場
を開拓していくためには、多様で質の高い経営資源の組み合わせが必要である。経営資源
の量に制約のある中小企業においては、外部との連携によって相互に経営資源を補完・活
用することがますます重要となっている。中小企業組合もこうした要請に応えて、そのマ
ッチング機能の強化、組合相互の連携等に取り組むことを期待されている。
(2)企業の社会的責任
近年、企業が社会的な責任を果たすことを求める動きが強まっている。社会的責任の項
目としては、製造物責任から環境への配慮、企業倫理の確立、法令遵守、情報公開、地域
社会への貢献、従業員への配慮まで多岐にわたっており、企業活動そのものの社会への影
響、貢献を問われるようになりつつある。
こうした社会的責任への対応は中小企業にとっても避けて通ることのできないものとな
っている。製造物責任や法令遵守は当然であるが、環境への配慮、地域社会への貢献につ
いても今後は一層積極的な対応が求められることになろう。中小企業にとっては環境問題
への対応、リサイクルの推進、ゼロエミッション等については単独で対応することが容易
でない場合もあり、地域の中小企業が組合等を組織して共同で取り組むことが望ましい。
これから一層重要になると思われる地域社会への貢献についても、地域内の中小企業の共
同、連携することが効果的な活動に結びつく。こうした活動において相互扶助組織として
の中小企業組合が果たすべき役割は大きいと思われる。
(3)地域の時代
21 世紀は「地域の時代」であるともいわれる。グローバル化と情報化が進む一方で、地
域のあり方が見直されている。これは見方を変えれば、グローバル化と情報化の進展によ
って地域間競争の時代に入ったということであり、大都市圏と地方、地域間相互の格差の
拡大も指摘されているところである。
しかし、財政構造改革が進む中で、公共事業に頼らない地域の自立、地域経済の活性化
が求められている。自らの住む地域の自然、歴史、文化、伝統を見つめなおし、その特産
2
物、蓄積、特色等を活かして、地域の強みを発揮していくことが必要となっており、地域
内の中小企業が果たすべき役割は大きい。
中小企業政策においても、中小企業の地域資源を活用した取り組みの支援が本格化して
いる。中小企業庁では平成 19 年度から「中小企業地域資源活用プログラム」を創設し、各
地域の強みとなり得る地域資源を活用した中小企業の新商品・新サービスの開発・市場化
を総合的に支援する施策を展開することとなっている。
(4)協同組合原則とその変遷
協同組合は相互扶助の精神に基づく自律的共同経営体であり、株式会社等とは異なる理
念、原則に基づいて運営されている。協同組合組織の運営原則としては、1844 年にイギリ
スで結成されたロッチデール公正先駆者組合において採用されたロッチデール原則がよく
知られているが、この原則は消費組合の経営原則という性格を持っていたため、1937 年に
国際協同組合連盟(ICA)により、ロッチデール原則を基本とした、あらゆる協同組合
に適合する包括的な原則が定められ国際的に公認された。その後、1966 年の見直しを経て、
1995(平成 7)年のICAマンチェスター大会において「協同組合のアイデンティティに関
する声明」として新しい協同組合原則が示されている。
この声明では協同組合を「人々の自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人々が、共
同で所有し民主的に管理する事業体を通じて、共通の経済的、社会的、文化的ニーズと願
いをかなえることを目的とする。」1と定義し、協同組合の価値について「協同組合は、自助、
自己責任、民主主義、平等、公正、連帯という価値を基礎とする。協同組合の創設者たち
の伝統を受け継ぎ、協同組合の構成員は正直、公開、社会的責任、他人への配慮という倫
理的価値を信条とする。
」2とし、その価値を実践するための指針として「自発的で開かれた
組合員制」以下7つの原則を提示している(図表1)。
ここで注目すべきは、協同組合の組合員の信条とすべき倫理的価値の中に社会的責任も
入っていること、7番目の原則として新たに「地域社会への関与」(地域社会の持続可能な
発展のために活動する)という原則が追加されていることである。ICAの協同組合原則
自体は中小企業組合の活動内容を直接規制するものではないが、こうした組合原則のあり
方は、社会・経済情勢が変化していく中で協同組合組織に求められているもの、協同組合
組織が対応すべき課題とその方向性を示していると考えられるのである。
中小企業組合は相互扶助、共同事業を目的とした組織として、従来からの共同経済事業
を通じての経済的地位の向上、不利の克服に加えて、中小企業がその社会的責任を果たし、
環境問題、地域への貢献等の課題に対応するうえでも積極的な役割を果たすことを求めら
れているといえよう。
注 1:イアン・マクファーソン著、日本協同組合学会訳編「21 世紀の協同組合原則」による
注 2:注 1 に同じ
3
図表1
ICA(国際協同組合同盟)の協同組合原則の変遷
第 15 回(1937 年)大会で採択
第 23 回(1966 年)大会で採択
第 31 回(1995 年)大会で採択
1.加入脱退の自由・公開
1. 加入脱退の自由・公開
1.自発的で開かれた組合員制
2.民主的管理
2.民主的管理
2.組合員による民主的管理
3.利用高配当
3.剰余金の配分
3.組合員の経済的参加
4.出資利子制限
4.出資利子制限
(出資義務と出資金の民主的管理、
5.政治的宗教的中立
5. 教育促進
6.現金取引
6.協同組合間の協同
剰余金の積立と利用高配当等)
7.教育促進
4.自治と自立
5. 教育、研修および広報
6.協同組合間の協同
7.地域社会(コミュニティ)への関与
2.中小企業組織化政策の現状
平成 11 年の中小企業基本法改正により、中小企業政策の基本理念は、従来の「格差是正」
から「中小企業の多様で活力ある成長発展を図る」ことに転換され、政策目標も中小企業
構造の高度化(生産性向上)および事業活動の不利の補正(取引条件の向上)から①経営
基盤の強化(経営資源の充実)、②経営革新や創業の促進、③セーフティネットの整備(環
境変化への円滑な対応の促進、再挑戦の機会提供)へと変化している。
中小企業組合制度についても、従来の規模の過小性による不利を克服するための共同
化・集団化、相互扶助のための組織から、中小企業がその機動性、柔軟性、創造性を発揮
して、創業、新事業展開、経営革新等に挑戦していくために必要な経営資源の相互補完を
図るための組織としての役割が強調されることとなった。
同じ年に「中小企業団体の組織に関する法律」が改正され、組合がその事業の発展段階
に応じて柔軟に組織形態の選択ができるように、事業協同組合、企業組合および協業組合
から株式会社または有限会社への組織変更規定が創設された。また、商工組合についても
調整事業(不況カルテル・合理化カルテル事業)が廃止され、地域別の同業種組織として
環境・安全問題等の解決や経営基盤の強化といった課題について、業界全体で効率的に取
り組むという新たな役割が示されている。
平成 14 年には企業組合を活用した創業を推進するため、個人のみに認められていた企業
組合の組合員資格を法人等にも拡大するとともに、従事組合員比率、従業員の組合員比率、
出資配当制限の要件についても緩和している。
一方、創業や新事業展開のための受け皿として、中小企業組合以外の多様な連携組織を
活用する動きも強まっている。平成 16 年度からは、異分野の事業者が、経営資源の有効な
組み合わせにより、新事業分野を開拓するための、既存の枠組みにとらわれない有機的な
連携(法人格の有無は問わないが、中心となるコア企業、規約等の存在が必要)である「新
4
連携」を支援する政策がスタートし、平成 17 年 4 月から施行された中小企業新事業活動促
進法では新事業創出促進法、中小創造法、経営革新支援法3つの法律を一本化するととも
に、新たに新連携支援が盛り込まれている。また、平成 17 年には創業や連携による新事業
のための事業体として、有限責任事業組合(LLP)、合同会社(LLC)の制度が創設さ
れている。
図表2
「新連携」の内容
中小企業(コア企業)
規約等の存在
(法人格の有無を問わない)
経営資源
経営資源
経営資源
中小企業(異分野)
中小企業(異分野)
新事業活動
経営資源
経営資源
大学・研究機関等
NPO・組合等
(1)新商品の開発または生産
(2)新サービスの開発または提供
信頼関係
(3)商品の新たな生産または販売方式の導入
(4)サービスの新たな提供の方式の導入その他
の新たな事業活動
「新連携」とは
①異分野の事業者
新事業分野開拓
〔新たな需要が相当程度開拓されるもの〕
②有機的な連携
(コア企業、規約等の存在)
(財務要件)
③経営資源の有効な組合せ
10 年以内に融資返済、投資回収が可能な
④新事業活動
持続的なキャッシュフローの確保
⑤それによる新事業分野開拓
(資料)中小企業庁
中小企業組合制度自体の検討も行われている。平成 17 年 6 月から中小企業政策審議会組
織連携部会において「わが国経済社会環境の構造変化の進展を踏まえた中小企業組合の在
り方について」の審議が行われ、平成 17 年 12 月報告書にまとめられている。これを受け
て平成 18 年には中小企業組合のガバナンスの充実と共済事業の健全性確保について「中小
企業等協同組合法」の一部改正が行われた(図表3)。
5
図表3
中小企業等協同組合法改正の概要
(平成 19 年 4 月施行)
1.法律改正の側面
(1) 中小企業組合の運営に関する制度の全面的な見直し
(2) 共済事業の健全性を確保するための新たな制度の導入
2.全ての中小企業組合に係る措置
(1) 役員(理事・監事)の任期の変更
(2) 理事による利益相反取引の制限
(3) 監事に権限拡大、監事の権限限定と組合員の権限拡大
(4) 決算関係書類等の作成・手続の明確化
(5) 会計帳簿の保存の義務化、会計帳簿の閲覧請求要件の緩和
(6) 施行規則に基づく決算関係書類、事業報告書、監査報告の作成 等
3.大規模な組合に上乗せされる措置(組合員 1,000 人超)
(1) 監事の権限拡大の義務化
(2) 員外監事選任の義務化
(3) 余裕金運用の制限 等
4.共済事業を実施する組合に上乗せされる措置
(1) 共済事業に関する定義の創設
(2) 共済規程の作成と認可
(3) 共済事業に係る緒規制(共済事業と他の事業との区分経理、責任準備金に関す
る規定の整備、余裕金の運用制限) 等
5.大規模に共済事業を実施する組合に上乗せされる措置(組合員 1,000 人超)
(1) 名称中への一定の文字使用の強制
(2) 兼業禁止
(3) 財務の健全性に関する基準の導入
(4) 最低出資金規制の導入 等
なお、中小企業政策審議会組織連携部会報告書(平成 17 年 12 月)では、中小企業組合
に期待される新たな役割として、(1)異業種・異業態の連携促進、(2)地域経済の活性
化、(3)地域住民等の組合施設の利用促進をあげているが、地域経済の活性化、地域貢献
といった要素が加わっている点が注目される(図表4)。
6
図表4
中小企業組合に期待される新たな役割
(1)異業種・異業態の連携促進
[現状]
事業協同組合が地元漁業者、大学と連携して琵琶湖の外来魚の飼料化に成功した事例、共同店舗事業を
行う事業協同組合とNPOが連携し新サービスとしてデイサービス事業を展開する事例、企業組合が大学、医療
機関、公的研究開発機関と連携して抗菌シートの開発事業化に成功し、株式会社化した事例など、ますます多
様化、活発化している。
[措置の方向性]
①中小企業団体中央会によるコーディネート機能の強化
②事業協同組合の設立人数の引下げ
(2)地域経済の活性化
[現状]
近時、地域住民が企業組合を利用して様々な事業に取り組むことを促進することで、地域経済の活性化と同
時に地域住民の自己実現に貢献している事例が増えてきている。
[措置の方向性]
企業組合の設立時の組合員数の要件引下げ、企業組合にも員外理事を認める、企業組合の名称の妥当性
についても検討すべき。
(3)地域住民の組合施設の利用促進
[現状]
現在でも、組合員への福利厚生事業として所有しているグラウンド、テニスコート、集会場を地域住民からの要
望に応じ、開放することで地域社会に貢献し、組合の知名度を向上させている事例も存在。
[措置の方向性]
現行組合法においては、組合施設利用について原則組合員の利用量の 20%までという員外利用制限がある
が、体育施設、文化教養施設については員外利用制限の定めはない。しかし、組合事業として開設した託児所
について組合員の利用量減少に伴って地域住民の利用枠も減少、やむなく閉鎖に至った事例も存在。
中小企業組合が保有する体育施設、文化教養施設以外の施設でも、地域住民に開放することで地域貢献に
資する場合も存在することから、こうした施設については員外利用制限を課さないこととし、具体的な施設につい
ては実態を踏まえて検討すべきと考えられる。
(資料)中小企業政策審議会組織連携部会報告書「今後の中小企業組合の在り方について」(平成 17 年 12 月)
このように中小企業組織化政策においても、中小企業組合に期待される役割は規模の不
利を是正する事業共同化のための組織から、中小企業が直面する問題に対応するための新
事業展開に必要な経営資源の相互補完を図るための組織へと変化してきており、中小企業
組合以外の多様な連携の活用も模索されている。一方、地域資源の活用による地域経済の
活性化が重要な政策課題として採り上げられ、相互扶助を目的とする協同組織である中小
企業組合の役割も期待されているところである。
7
3.新たな展開の方向性
以上のような中小企業組合の状況を踏まえて、本節ではヒアリング事例に基づいて中小
企業組合が従来の共同経済事業に加え、新たな展開として目指すべき方向性について検討
してみたい。
(1)リサイクル、ゼロエミッション等への対応
中小企業においても環境問題への対応は必須となっているが、団地組合では団地内の企
業が共同でリサイクルに取り組むことが効果的であり、組合の求心力強化にもつながって
いる。協同組合青森総合卸センター(事例1)では団地内のゴミ回収、紙類のリサイクル、
パレットの回収、除雪等を共同事業として行って成果をあげている。神奈川県内陸工業団
地協同組合(事例4)でも地域コミュニティとの共生を目標にした長期計画を策定し、ゼ
ロエミッションの達成に取り組んでいる。
地域の同業種の中小企業が協同組合を結成して共同でリサイクル処理施設を建設し、運
営している事例もある。協同組合三重オートリサイクルセンター(事例6)は三重県内の
主要自動車ディーラー57 社が出資して、共同事業として使用済自動車のリサイクル処理を
行っている組合である。自動車リサイクル処理施設としては最大級の工場を建設し、自動
車リサイクル法に規定される全部資源化業者の認定を受けて、シュレッダーダストゼロを
達成している。
また、鹿児島県日置市、いちき串木野市を中心とする地域の焼酎メーカー6 社は焼酎粕の
共同処理を行う西薩クリーンサンセット事業協同組合(事例 10)を設立し、飼料、肥料に
リサイクルする工場を建設して各社の工場から発生する焼酎粕の一括処理を行っている。
こうしたリサイクルの推進、ゼロエミッションの実現といった環境対策は地域内の中小
企業が共同で取り組むことが適した事業であるが、大規模災害に備えて団地内の企業によ
る共同防災と相互援助の体制を整備している事例もある。神奈川県内陸工業団地協同組合
(事例4)では共同防災相互援助規約を制定し、災害時における協力・体制を整えている。
これは自助の精神を基本に団地内企業各社の防災体制整備を促すとともに、相互に協力・
援助できる体制の構築を目指しているものである。組合はこうした取り組みを更に進める
ことで、将来的には事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定につなげ
ていきたいと考えている。
(2)地域ブランドへの取り組み
全国各地の特産品等をブランド化することにより、他の地域の製品・サービス等との差
別化と地域経済の活性化を図ろうとする取り組みが活発化しているが、地域ブランドにつ
いては中小企業組合が申請、管理、PRの役割を果たしているケースが多い。
地域ブランドとは特定の地域名と商品・サービス名を組み合わせたものであるが、従来
8
の商標法の下では、これに図形等を組み合わせた場合、あるいは全国的な知名度を獲得し
たことにより特定の事業者の製品であることが識別できる場合(例:夕張メロン、西陣織、
信州味噌等)しか登録を認められなかった。しかし、商標法の改正により平成 18 年 4 月か
ら地域団体商標制度が導入され、①法人格を持ち、②特別の法律に基づいて設立された組
合であり、③設立根拠法に正当な理由なくして構成員となる資格を有する者の加入を拒ん
ではならない旨の定めがある、といった要件をみたす団体については一定の範囲内の周知
性があれば文字のみでも登録が可能となった。すなわち、改正商標法において地域団体商
標の出願者となることができるのは事業協同組合、農業協同組合、漁業協同組合等であり、
登録が認められれば、組合等の構成員のみが商標を使用できることになる(図表5)。法律
施行から平成 19 年 1 月末までの地域団体商標の出願件数は 661 件であり、平成 19 年 2 月
末までの認定件数は 165 件となっている。産品別の出願内訳は図表の通りである(図表6)。
図表5
地域団体商標の登録要件
①出願人が備えるべき主体要件
法人格+事業協同組合等の特別の法律により設立された組合
+設立根拠法において構成員資格者の加入の自由を保証
②構成員に使用をさせる商標であること
商標が実績により出願人である団体またはその構成員の業務に係
③商標の周知性の要件
る商品もしくは役務を表示するものとして周知となっていること
地域の名称+商品(役務)の普通名称
例)○○りんご、○○みかん
④商標が地域の名称および商品
地域の名称+商品(役務)の慣用名称
または役務の名称等からなる
例)○○焼、○○織
こと
地域の名称+商品(役務)の普通名称または慣用名称
+産地等を表示する際に付される文字として慣用されている文字
例)本場○○織
⑤地域と商品(役務)との密接関
連性
商標中の「地域の名称」が、商品の産地であるなどの商品(役務)と
の密接な関連性を有する地域の名称であること
図表6 地域団体商標 産品別出願内訳
(平成 19 年 1 月末現在:件)
農水産
加工食品
菓 子
麺 類
酒 類
工業製品
温 泉
その他
合 計
一次産品
315
80
30
27
12
(資料)特許庁商標課資料
9
167
22
8
661
地域団体商標制度を活用し、産地の活性化に取り組んでいる事例として兵庫県鞄工業組
合(事例9)がある。当組合では「豊岡鞄」を地域ブランドとして申請し、平成 18 年 10
月に地域ブランド認定の第一陣(52 件)として登録を認められている。
「豊岡鞄」ブランド
については組合が認定基準を設けて管理を行っており、組合の地域ブランド委員会で認定
基準に基づく審査を受け、合格した製品のみが認定マークの使用を認められることになっ
ている。
また、これは地域団体商標の事例ではないが、沖縄県衣類縫製品工業組合では平成 12 年
の九州・沖縄サミットで各国首脳が着用したことでも知られる「かりゆしウェア」のブラ
ンド管理を行っている。ブランド使用の認定基準は①沖縄県内で縫製されたものであるこ
と、②沖縄らしさを表現する柄であることの2つである。なお、「かりゆしウェア」は社団
法人沖縄県工業連合会が商標登録しており、同連合会の許諾を得て当組合がその名称を使
用した「かりゆしウェア」タグの発行・管理を行っている。政府による「クールビズ」奨
励の追い風もあり、平成 9 年度に約 4 万枚であった「かりゆしウェア」の出荷量は平成 17
年度には約 30 万枚に増加している。
このように地域としてのイメージ向上、あるいは地域経済の活性化を目指して地域ブラ
ンドの構築に取り組む場合において、地域の(同業者の)中小企業で組織された組合がそ
の推進母体となって認定、管理、PRを行い、ブランド価値と製品品質の維持・向上に努
めるという役割が期待されるところである。
(3)地域への貢献、地域振興・活性化への取り組み
中小企業組合による地域活性化への取り組みや地域社会への貢献にも注目すべきである。
景観法の施行(平成 17 年 6 月)にみられるように、地域の景観が持つ社会的価値、経済的
価値が重視されてきているが、工業団地、卸商業団地を管理する団地組合においても、景
観整備事業に積極的に取り組んでいる事例がある。協同組合青森総合卸センター(事例1)
では団地内の緑化推進、サイン・看板のデザイン統一等による景観・街並整備を行ってい
るほか、団地内への診療所や文化施設の誘致等も検討しており、地域住民から親しまれる
賑わいのある街、人・モノ・情報の交流の場とすることを目指して景観整備事業に重点的
に取り組んでいる。こうした景観整備は地域社会への貢献であると同時に、地域のイメー
ジを向上させることで、団地内の土地資産の評価を高め、組合員の資産価値の維持・向上
にもつながるものである。
神奈川県内陸工業団地協同組合(事例4)でも建築協定によって建蔽率を 45%以下に抑
え、幅 3mのグリーンベルト設置、街路灯の整備等、景観・環境の維持向上に努めることで、
団地内土地の資産価値を高めることを目指している。また、団地内に周辺地域住民も利用
できる内科医師の常駐するクリニックと調剤薬局を開設することで、地域医療の充実にも
貢献している。
団地組合以外でも、地域経済の活性化に向けて地域内の中小企業が協同組合を結成して
10
事業に取り組み、成果をあげている事例がある。けせんプレカット事業協同組合(事例2)
は岩手県の大槌・気仙川流域地域の林業、製材業、建設業の中小企業者 102 社が出資して、
地域内の木材資源の活用と販路開拓のために作られた木材プレカット加工を行う協同組合
である。当組合に引き続いて設立された集成材製造と集成材向けラミナ(ひき板)製造の
2組合と連携することで、川上から川下までの一貫処理体制を整え、販路の開拓にも成功。
組合設立以来 12 年間で売上は 10 倍以上に伸び、地域の森林資源の活用、雇用創出等にも
大きく貢献している。
また、新潟県の弥彦温泉では温泉旅館 13 軒が協同組合を作り、村との協同プロジェクト
として新たな源泉の掘削を行って成功している(事例5)
。今後、給湯管敷設工事を行い平
成 19 年秋には各旅館への配湯を開始する予定であるが、新源泉からの十分な湧出量、湯温
を持つ源泉が確保できたことにより、「源泉かけ流し」需要に対応した保養滞在型の温泉地
として集客力を高め、地域の活性化につながることが期待されている。
(4)異業種交流、産学連携への取り組み
新事業開拓を目指して異業種交流、産学連携等に取り組むことも中小企業組合に求めら
れる役割の一つである。HIP滋賀(事例8)は滋賀県内の全ての大学と連携して、新事
業開拓に取り組んでいるが、平成 18 年度には当組合のソーラー和船プロジェクトが経済産
業省のコミュニティ・ビジネスモデル事業に採択され、各方面から注目されている。これ
は産学連携で開発した排気ガスを出さず、エンジン音もない太陽電池で動く屋形船を近江
八幡水郷巡りの観光船業者にレンタルするという事業である。
このソーラー和船プロジェクトは経済産業省のモデル事業に採択されたこともあり、組
合事業として取り組んでいるが、当組合では共同開発プロジェクトは、幹事企業(コア企
業)が中心となり責任を持って遂行することが原則となっており、組合は必ずしも開発の
主体とならず、学びあいの場、交流のプラットフォームとしての役割を担っている。また、
事業化プロジェクトの直接の成果だけに着目するのではなく、開発活動を通じての地域経
済活性化への貢献と組合員同士が切磋琢磨することによって自社の経営革新に結びつける
ことを重視している。このように、新事業開発に際しては、組合は必ずしも個々のプロジ
ェクトの事業主体とならず、プロジェクトを生み出すための異業種・産官学の交流・連携
の活動に専念することも一つのあり方であろう。
(5)企業組合による創業
4人以上の個人が参加することで設立でき、組合員が組合の事業に従事するという特色
を持つ企業組合は地域住民が共同で事業に取り組む場合や主婦、高齢者等による創業の受
け皿として適した組織形態である。地域活性化のための地域住民による創業、あるいは企
業退職後の高齢者の能力活用と自己実現の場の提供は、今後一層重要となるものであり、
企業組合の活用が期待されるところである。
11
企業組合伊賀焼の郷(事例7)は伊賀焼産地の情報発信・販売の拠点として地域住民も
参加して設立された企業組合である。伊賀焼は奈良時代からの伝統を持つが、産地問屋が
なく、産地としての情報発信、販売拠点を持てずにいた。企業組合は窯元の建物を利用し
た展示場・店舗・伊賀焼体験工房・料理店の運営と「窯出し市」の開催を事業として行っ
ているが、組合設立後4年を経て、売上は順調に伸びており、「伊賀焼の郷」をリピーター
として訪れる人も増加している。今後は地域との連携を強め、伊賀地域全体としての情報
発信、伊賀ブランドのPRにも取り組む方針である。
企業の定年退職者によって設立された企業組合東京セールスレップ(事例3)では中小
企業の製品の販路開拓、販売代行を行っている。各地の中小企業が開発した優れた商品で
営業力が不足しているために売れないものを見つけ出し、組合員の持つ経験、人脈を活か
して販売することに力を入れており、「新連携」によって生まれた製品についても積極的に
販路の開拓を行っている。また、こうした商品を紹介するポータルサイト「いいもの交流
館」の運営や市場で売れる製品とするための新製品開発支援・コンサルティング事業にも
取り組んでいる。
まとめ
中小企業を取り巻く環境の変化に伴って、中小企業組合に期待される役割も変わりつつ
ある。これまで採り上げた事例のように、リサイクル推進や景観整備、地域ブランドの構
築と管理、共同事業による地域経済の活性化、産学連携等に中小企業組合が取り組んで成
果をあげている。また、企業組合として創業し、地域の活性化、地域資源の活用に取り組
んでいる事例もみられる。
これらの事例に共通しているのは、地域内の中小企業が一体となった取り組みであり、
中小企業の(組合を通じての)地域への積極的関与という性格を持ち、中小企業の協同組
織である中小企業組合に相応しい活動であるということである。
中小企業組合は、その相互扶助組織、共同事業体という特色と理念に基づいて、従来か
らの共同経済事業に加えて、異業種交流、産学官連携のプラットフォームの役割を果たす
とともに、リサイクル事業、地域環境保全、地域経済の活性化、地域社会への貢献等とい
った新たな方向を目指すことが望まれる。
12
4.中小企業組合事例
事例1 協同組合 青森総合卸センター
事例2
けせんプレカット事業協同組合
事例3 企業組合 東京セールスレップ
事例4
神奈川県内陸工業団地協同組合
事例5
弥彦温泉給湯協同組合
事例6 協同組合 三重オートリサイクルセンター
事例7 企業組合 伊賀焼の郷
事例8 協同組合 HIP滋賀
事例9
兵庫県鞄工業組合
事例 10
西薩クリーンサンセット事業協同組合
13
事例1
協同組合青森総合卸センター
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒030-0131
青森県青森市問屋町2−17−3
昭和 42 年 12 月
出
資
金
140,150 千円
141 名
事
務
局
専従理事 1 名、職員 10 名
主な業種
卸売業
組合事業
共同物流事業、売店事業、金融事業、駐車場事業、給油事業、高速事業、景
観整備事業、環境対策事業、業務受託事業等
組合タイプ
卸商業団地組合
組合URL
http://www.tonyamachi.com
2.組合設立の経緯、現況等
昭和 42 年、青森商工会議所が母体となり、組合員 42 社により協同組合青森総合卸セン
ターが設立され、昭和 44 年に造成工事を完了。昭和 58 年の第二次造成工事により拡張(第
二問屋町地区)。現在では総面積 522 千㎡、組合員 141 社、団地内企業の総従業員数約 3,000
名、年間総販売額は約 3,000 億円となっている。
共同施設としては、組合会館、共同倉庫 4 棟(3,200 坪)、共同物流センター1 棟(3,800
坪)、共同駐車場(1,282 台収容、9,000 坪)、ガソリンスタンド 2 ヵ所、汚水処理場 2 ヵ所
を有している。
平成 12 年からは組合への参加規約を改正し、組合員の対象業種を卸売業以外にも拡大し
て組合員の安定的確保に努めており、平成 18 年末現在で組合員撤退後未確定の土地(空き
地)はなく、100%の利用率となっている。
3.組合事業とその成果
組合では共同事業として、共同物流事業、売店事業、金融事業、駐車場事業、給油事業、
高速事業、業務受託事業(郵便局、保険代理店)、景観整備事業、環境対策事業等を行って
いるが、現在、組合として重点的に取り組んでいるのは景観整備事業、環境対策事業、金
融(転貸)事業の3つである。
(1)景観整備事業
問屋町という地名で呼ばれている当団地は、これまで業務地区として実利的なインフラ
中心に整備されてきたが、今後は施設の充実だけでなく、
「人」「モノ」「情報」が集まる魅
力的な賑わいのある街を目指して街並・景観の整備が必要であり、そうした取り組みが問
屋町のイメージアップと資産価値の向上につながると考えている。平成 16 年度には基本計
画である「街並・景観整備プランニング」を策定し、街並・景観の整備に取り組んでいる。
14
街並・景観整備事業のコンセプトは以下の通りである。
①CI(コーポレート・アイデンティティー)活動と位置づける。
問屋町のロゴマークを定め、看板、標識、シャッターや車両マーキングを統一している。
②青森市の新たな顔として恥ずかしくない景観の街づくりを進める(当団地は青森中央
インターチェンジ入口に位置している)。
③街並みの再整備や幹線道路等の緑視率を重視した緑化に努め、美しい緑空間を創出す
る。
④クリニックモール等の施設や文化施設の誘致も視野に入れ、短期的目標と中・長期的
目標に分けて景観整備を行う。
⑤組合が自己責任で取り組む課題と行政が推進主体となる課題を整理、峻別する。
⑥組合が事業主体となる景観整備については組合員に新たな負担を求めない。
(2)環境対策事業
環境対策事業に重点的に取り組む理由としては、環境対応は企業が果たすべき社会的責
任の重要な項目となっているということがまずあげられる。当組合は環境問題にやむなく
取り組むのではなく、一歩進んで積極的に取り組むことにより他の地域・卸団地との差別
化を図っていくという戦略を立てている。第二の理由は、組合員の業種が多様化している
中で、ゴミ処理、除雪といった環境対策は全組合員に共通する問題であり、組合事業とし
て積極的に取り組むのに相応しいということである。
環境事業の具体的な内容は以下の通りである。
①ゴミの個別収集
外部から持ち込まれたゴミが団地内の共同ゴミ収集場所に不法投棄されるという状況
に対応し、平成 11 年 7 月より組合が各組合員から個別・直接にゴミを収集している。
②団地内の共同清掃
組合員、従業員、関連企業のボランティアによる団地内の共同清掃を定期的に行って
おり、毎回約 100 人が参加している。
③紙類リサイクル事業
青森市においても平成 15 年 7 月以降、事業所から排出されるゴミの処理が有料化され、
団地全体では月約 80 万円のゴミ処理費用が発生することになった。そこで組合員への新
たな負担を避けるために、紙類のリサイクルによるゴミ排出量の削減に取り組んだ。リ
サイクルの成功には、各組合員の協力によるゴミの分別が不可欠であるが、既に個別に
回収を行っていることから、各組合員からの協力も得やすかった。
紙類は上質古紙(コピー用紙)、ミックス系古紙(段ボール、新聞紙以外)、新聞、段
ボール、機密文書に分別され、それぞれ回収日を定めている。紙類のリサイクル実施に
より、平成 17 年度のゴミ回収量は平成 13 年度と比較して 30%の削減を達成している。
④木製パレットの個別無料回収
15
⑤団地内の共同除雪
(3)金融(転貸)事業
他の団地組合では金融事業から撤退する事例もみられるが、それは金融(転貸)事業の
リスクを過大にとらえ、メリットを過小評価し、信用収縮につながる途である。団地組合
は金融事業にも積極的に取り組むべきであると考えている。
転貸のリスクを数値化し、対策を講ずることでリスク管理が可能となる。また、組合が
団地内土地を担保とした転貸事業を行うことで土地資産評価は具体的な裏づけを持つこと
になり、金融事業は団地内の土地の資産評価を下支えする効果がある。さらに組合が金融
事業を実施・管理することで、金融機関からの評価、信頼も高まるのである。
上記以外にも金融事業を行うメリットとして、①組合は組合員を見捨てないというイメ
ージを発信することで、組合に対する求心力が高まる、②組合として組合員の動向把握、
組合員の土地資産の管理が行いやすくなる、③倒産組合員等の跡地の迅速な処理ができる
(第1順位抵当権者の優位性、組合の主体的な関与・跡地の買い取り等)、④新規加入組合
員の資金調達の選択肢が広がる、といった点があげられる。
また、当組合では平成 14 年から、金融事業のセーフティネットとして保証基金制度を設
けている。これは金融事業を利用する組合員が融資額の1%を拠出して、転貸先の倒産等
による損失補償の準備金とするもので、年度末毎に清算され、残高は返還される。この保
証基金制度を整備したことにより、転貸を利用しない組合員の不安を解消する一方、転貸
利用組合員に対しても金融事業が存続するという安心感を与えることができた。金融機関
からも高い評価を得ている。
4.今後の方向性と課題
当組合は、組合員と地域のために団地全体の資産価値を維持していくことが最大の使命
であり、組合の存在意義でもあると考えている。また、組合の事業運営に関してはスピー
ド、サービス、セーフティの3つの S を心がけている。
「スピード」については、問題の先
送りをしないこと、組合員のクレームには素早く対応すること、および組合の組織として
の意思決定までのプロセスを読み込んでの早めの対応を意識している。実際に問題が起き
てから対策を考えたのでは、定款・規約の改正のための議論、手続き等に時間がかかり、
対応が遅れてしまう。今後の展開、課題を予測し、検討しておくことが重要である。「サー
ビス」に関しては、常に組合員の経営のために何ができるのかを考え、組合員との密接な
コミュニケーションを図りつつ、組合員にとって利便性の高い共同施設・システムの構築
を目指している。そして、
「セーフティ」は、組合財務の安全、災害からの安全、団地内(地
域内)の交通安全・防犯である。
当組合の今後の課題としては以下のようなことがあげられる。
①今後も一層高まると予想される企業の社会的責任への対応
16
②組合員の倒産、団地からの撤退が一定の比率で発生することは今後も避けられないと
ころであり、引き続き対策が必要となる。
③当団地は第一次造成から 40 年、第二次造成からも 25 年を経ており、老朽化への対策
も必要となっている。
街並・景観整備事業計画を推進するとともに、中小企業組合員については高度化資
金の活用(集積区域整備事業の対象に指定されている)も奨めていく。大企業の組合
員の場合は資産を持ちたがらず、土地の賃借指向が強いという問題があるため、リー
スバック方式等も検討していきたい。
④組合員の居座り脱退問題への対策
現在、当組合ではこうした問題は起きていないが、他の団地では大きな問題となっ
ているところもあり対策を検討したい。
⑤「問屋町カード」発行の検討
サービス業の組合員も増加していることから、組合員企業のインセンティブを高め
る上でも団地独自のカード発行を検討したい。法人カードとして組合員相互の利用も
期待できると考えている。
17
事例2
けせんプレカット事業協同組合
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒029-2311
岩手県気仙郡住田町世田米字田谷27−2
平成 5 年 9 月
出
資
金
46,000 千円
102 名
事
務
局
専従理事 1 名、職員 117 名
主な業種
林業、製材業、建設業
組合事業
プレカット加工、金具プレカット加工、パネル加工、造作材加工、2×4 プレ
カット加工、2×4 パネル加工、木質ペレット製造
組合の特徴
・タイプ
組合URL
地域内の素材生産業者、製材業者、建設業者が出資して設立された木材プレ
カット加工の協同組合
http://www.ginga.or.jp/ kesenprecut/
2.組合設立の経緯等
岩手県沿岸南部に位置する大槌・気仙川流域地域は大船渡市、陸前高田市、釜石市、住
田町、大槌町の3市2町を包含し、総面積は 15 万 3 千 ha に達しているが、そのうち森林
面積が 13 万 3 千 ha を占め、森林率は約 87%となっている。この豊富な森林資源を活用し、
地域経済の振興を図るために木材加工施設を整備すべく、平成 5 年に地域内の素材生産業
者、製材業者、建設業者が出資して、けせんプレカット事業協同組合を設立、平成 6 年か
ら工場の操業を開始している。
平成 10 年には集成材製造の三陸木材高次加工協同組合、平成 13 年には集成材向けラミ
ナ(ひき板)を製造する協同組合さんりくランバーがそれぞれ設立されたことにより、川
上から川下までの一貫加工体制が整った。なお当組合はこれらの2組合にも出資している。
また、当組合の特徴として、地域の林業者、製材業者、工務店と川上から川下まで幅広
い企業が参加していることがあげられる。異業種の組合員から構成されバランスが取れて
いることにより、特定の業種の利害だけを反映することなく、地域全体の活性化という視
点でのチェック機能も有効に働いている。
3.組合事業とその成果
住田工場、高田工場の2工場があり、住田工場では住宅用パネル製造と羽柄材(根太、
間柱、垂木、筋違い等の小断面製材品)、造作材のプレカット加工を行い、高田工場は構造
材のプレカット加工(在来軸組工法および金具工法向け)を行っている。
操業開始からの 12 年間で売上実績は大きく伸び、当初の 10 倍以上となっている。販売
先は仙台地区を中心とした東北6県のハウスメーカー、工務店等であるが、組合員となっ
ている地元工務店への販売は 10%以下で 90%以上は組合員以外のハウスメーカー等への販
売である。当組合は構造材、住宅用パネル、羽柄材、造作材、住宅部材等を網羅する形で
18
供給できることに加えて、工場のコストダウンが進んでおり、価格面でも競争力を有して
いることが強みである。
売
年度
1,044
実
平成6
売上実績
平成 12
上
績
7
248
13
1,285
(百万円)
8
325
14
1,505
9
506
15
2,209
10
431
16
2,900
11
416
17
2,699
817
18(計画)
3,100
使われる原木については、当初は国産材の比率は 30%であったが、素材からの一貫加工
体制が整備されたこともあり、国産材(地域材)の使用が大きく増え、平成 17 年度実績で
は 85%に達している。
地域内に木材の付加価値を高める加工施設ができ、販路開拓にも成功したことにより、
地域の森林資源が素材として有効に活用され、その利益が森林生産者に還元されることで
森林の整備が進む(間伐材も集成材として活用)という森林資源の循環利用システムが確
立されたといえよう。けせんプレカット事業協同組合、三陸木材高次加工協同組合、協同
組合さんりくランバーの3組合を合わせれば、年間の売上高は約 50 億円となり、約 180 名
の雇用を生み出している(地元の高校卒業生を重点的に採用)。地域経済活性化への貢献は
極めて大きなものがある。
また、3組合が連携して製材から集成材製造、プレカット加工までの一貫生産体制を取
ることによって、生産の効率が高まると同時に、加工工程で発生する端材も造作材等の材
料として有効に活用されている。さらに細かな削り屑、残廃材については粉砕して木質ペ
レット(固形燃料)に加工することでゼロエミッションの達成を目指している。
4.今後の方向性と課題
今後とも、売上の伸びが期待され、当地区の素材(原木)供給余力も十分にあることか
ら、組合では工場の増設を計画している。また、工場から出る木屑を燃料として木材乾燥
用蒸気を作るボイラーを増設し、余剰分の蒸気は発電に利用する予定である。
19
事例3
企業組合東京セールスレップ
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒111-0053
東京都台東区浅草橋2−3−1
小菅ビル3階
平成 16 年 5 月
出
資
金
7,450 千円
34 名
事
務
局
専従理事 1 名、職員 1 名
①販売代行・販路開拓事業、②セールスレップ育成サポート事業、③新製品
組合事業
開発支援・コンサルティング事業、④ポータルサイト「いいもの交流館」の
運営
組合の特徴
企業を退職したビジネスマン達が集まり、その経験や人脈を活かして営業力
・タイプ
の弱い中小企業の製品の販売代行、販路開拓等を行うことを目的に設立した
企業組合
組合URL
http://www.sales-rep.jp
2.組合設立の経緯等
企業を定年退職後、家庭用品の販売等を行っていたグループが、巡回相談に訪れた全国
中小企業団体中央会の指導員に相談をもちかけたことが組合結成のきっかけとなった。退
職後にそれまでの経験、人脈等を活かして何かビジネスを始めたいと思っても、個人では
資金の調達、商品の仕入れもままならないが、企業組合を結成することで法人格を得られ、
信用力も向上するといったアドバイスを受けたことから、平成 16 年 1 月に仲間を集め、全
国中小企業団体中央会から講師を招いて企業組合制度についての説明会を開催。その後、
事業内容についての検討を重ねて、同年 5 月に企業組合東京セールスレップを設立した。
3.組合事業とその成果
組合事業として行っているのは、①販売代行・販路開拓事業、②新製品開発支援・コン
サルティング事業、③セールスレップ育成サポート事業、④ポータルサイト「いいもの交
流館」の運営の4つである。
(1)販売代行・販路開拓事業
これは組合員が各自の持つネットワークを活かして、セールスレップ(販売代理人)と
して、商品の新たな販路を開拓し、販売を代行する事業である。組合員は全て企業の定年
退職者であるが、その経歴は営業マン、デザイナー、バイヤー、大学教員等と多様である。
組合設立当初の試行錯誤の時期を経て3期目に入り、当事業も着実な売上実績を上げ、
軌道に乗りつつある。インターネット通販サイト、テレビ通販専門チャンネルに販路を確
保していることも強みである。
組合が取り扱う商品は理事会に諮って理事長が決定している。「ちょうよう石鹸」
、「海藻
20
桃シャンプー」、「南部鉄器」等、既にテレビ通販、ネットショッピングでヒット商品とな
っているものもある。
現在、組合が力を入れているのは、各地の中小企業が開発した優れた商品で営業力が不
足しているため売れないものを見つけ出し、売っていくことである。例えば、長野県の企
業が異業種交流や産学連携を通じて開発した玉ねぎ茶皮の乾燥粉末「ハピチャン」は、そ
れまで廃棄物として捨てられていた玉ねぎの茶皮を粉末化し、ポリフェノールの一つであ
るケセルチンを始めとする栄養成分が豊富な健康食品として商品化したものであるが、思
うように販路を開拓できずにいた。ところが、全国中小企業団体中央会からの依頼を受け
て当組合がテレビ通販に持ち込んだところ、たちまち人気商品となった。岩手県の中小企
業が独自に開発し、特許を取得した昆布をスライスする技術によって作られた「花けずり
こんぶ」も当組合が販売に取り組むことでテレビ通販のヒット商品になっている。
また、高知県のくじらハウス㈱がコア企業となって開発した鮮度保持シート(商品名「と
とシート」)や佐賀県の㈱山忠がコア企業として開発した軽量強化磁器のような新連携によ
って生まれた製品についても、積極的に扱い、販路の開拓に取り組んでいる。
これらの製品は機能的には優れているが、デザイン、規格、パッケージ、価格等につい
ては流通段階、消費者の要望が反映されていないため、売りにくい商品となっているケー
スも多い。当組合では新たな販路を開拓するだけでなく、ユーザー指向の製品への改良に
ついてもアドバイスを行っている。そして改良された製品は当組合のオリジナル商品とな
って当組合の商品力強化にもつながると考えている。
(2)新製品開発支援・コンサルティング事業
現状では上に述べたような新製品の開発支援やコンサルティングは無料で行っているが、
来年度からは有料化し、独自の事業として活動を強化していく方針である。
また、当組合では様々な企業において消費者対応・消費者教育・広報・商品開発等の業
務に携わる女性達の交流組織である「日本ヒーブ協議会」とも連携しており、同協議会に
モニターを依頼することで、働く女性、商品開発・マーケティングのプロとしての視点で、
新製品を評価してもらうことも可能である。
(3)セールスレップ育成サポート事業
不定期に講習会、勉強会を開催している。
(4)ポータルサイト「いいもの交流館」の運営
当組合では平成 19 年 4 月から商品紹介のサイト「いいもの交流館」の開設を計画してい
る。これは販売チャネルがなくて埋もれている優れた商品をインターネットサイト上で紹
介することにより、よい製品づくりに取り組んでいるメーカーと販売チャネルを持ち良い
商材を探している流通業者を当組合(事務局)が仲介する(BtoB)とともに、直接商品を
21
購入したい消費者(BtoC)に対しては提携しているインターネット通販のサイト(やさし
さ ON-LINE、快適さ.com)につなぐ形で対応するものである。
このサイトは販売代行・販路開拓事業の活性化を狙うと同時に、組合員(セールスレッ
プ)の営業活動の支援ツールとしての役割を果たすことも期待している。ホームページに
は各商品の写真や商品の内容・特徴等の詳しい説明が掲載されており、当組合の取扱商品
のカタログとしての機能も果たせるようになっている。各組合員は各商品の機能、特色を
詳細に説明しているホームページを見てもらう(あるいはホームページをプリントアウト
した資料を持参する)ことで効果的な商品説明、プレゼンテーションが可能となる。
4.今後の方向性と課題
取扱商品については、全国中小企業団体中央会等からの情報提供もあり、各地の中小企
業が開発した独創性のある優れた製品が集まりつつある。これらの商品を紹介し、販売支
援ツールとなるポータルサイト「いいもの交流館」もスタートすることにより、着実な売
上の伸びが期待できる。
販売チャネルがないために埋もれている優れた製品を流通に乗せるとともに、中小企業
が新連携、産学連携等によって開発した製品を消費者、流通の視点で売れる製品に改良す
るという新製品開発・コンサルティング事業にも力を入れていきたいと考えている。
22
事例4
神奈川県内陸工業団地協同組合
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒243-8653
神奈川県厚木市上依知3001
昭和 41 年 5 月
出
資
金
109,500 千円
108 名
事
務
局
専従理事 1 名、職員 4 名
主な業種
製造業、流通業
組合事業
環境整備、安全衛生・福利厚生、交通安全・災害防止、交通網対策、組合員
相互・地域との交流・親睦の促進、教育・情報提供、広報、共同施設運営管
理他
組合タイプ
工場団地組合
組合URL
http://www.kanagawa-nairiku.jp
2.組合設立の経緯等
当工業団地は厚木市と愛川町またがる形で広がっており、総面積は 2,347 千㎡に達して
いる。昭和 36 年から神奈川県企業庁によって用地買収、造成が行われ、昭和 38 年から企
業への分譲が開始されたが、進出企業は操業に際して水道、電力、ガス、電話幹線等の共
同施設が必要となったことから、共同で設置・管理に当たるのが適切と判断し、昭和 38 年
9 月に任意団体として神奈川県内陸工業団地協議会を結成。その後、進出企業が増加したこ
とから、資金調達や渉外の面において有利な法人格を取得すべく、昭和 41 年 5 月中小企業
等協同組合法に基づく事業協同組合として当組合を設立したものである。
3.組合事業とその成果
組合事業は以下の通りである。
①環境整備の促進・維持、②安全衛生、福利厚生、③交通安全・災害防止、④交通網対
策、⑤組合員相互・地域社会との交流・親睦の促進、⑥教育・情報の提供交換、⑦広報、
⑧組合員が商工中金等から借入を開始する場合の斡旋、⑨共同施設の設置・運営・管理、
⑩建築協定の運営、⑪上記に付帯する事業
組合設立当初より団地内全企業による建築協定を締結し、建蔽率を 45%以下に抑え、幅
3mのグリーンベルト設置、街路灯の整備等、景観・環境の維持向上に力を注いできたとこ
ろであるが、近年はゼロエミッションや大規模災害発生時の共同防災相互援助体制確立に
も積極的に取り組んでいる。
(1)ゼロエミッションへの取り組み
平成 12 年からダイオキシン類対策特別措置法が施行され、各企業は自社の焼却炉で廃棄
物を処理できなくなった。また、これと並行して循環型社会形成推進基本法や各種リサイ
23
クル法も制定され、廃棄物処理における企業の社会的責任も明確化された。
こうした状況下、組合も平成 13 年度から産業廃棄物の共同処理についての検討を開始。
まず、産業廃棄物処理の現状を把握するために、全組合員を対象にアンケートを実施した
ところ、70 社近い廃棄物収集運搬業者が団地内に出入りしており、1 年間の廃棄物処理費
用は 32 億円にも達することが判明した。このアンケート結果を基に、平成 14 年 2 月にゼ
ロエミッション実現への長期計画である「内陸工業団地ゼロエミッショングランドデザイ
ン」を策定。このグランドデザインでは第1ステージから第4ステージまでを想定し、紙
ゴミから木屑、金属屑、廃プラスチックと共同回収の品目を段階的に拡大していき、最終
ステージでは持続可能な資源循環型社会の形成による「地域コミュニティとの共生」を到
達目標としている。
具体的活動としては平成 12 年度に資源化の容易な紙ゴミの共同回収から着手した。そし
て、単年度で終わらせるのではなく、団地内のゼロエミッション先進企業の指導を受けて、
紙、廃プラ、金属、生(木質)の4つの品目別プロジェトチームを設け、長期・継続的な
ゼロエミッション活動を推進している。また、組合独自の「廃棄物分別基準総括表」(分別
ガイドライン)の作成等の啓蒙活動を行うとともに、より多くの組合員の参加を呼びかけ
ている。
(2)共同防災相互援助体制
組合では大規模災害の発生に備えて、共同防災相互援助体制の整備を進めている。これ
は大規模な地震、水害といった広域災害が発生した場合、行政による救急、消防活動は住
民・住宅地優先となることが予測され、災害発生直後の共同防災支援体制を工業団地とし
て独自に検討する必要があると考えたからである。
共同防災に関しては、組合員各社の自助努力が基本であり、まず、各企業が自社の防災
体制を整えることが必要と考えている。この観点から組合員に対する防災教育や啓発活動
にも取り組んでいる。
次に、自助という基本を踏まえた上で、組合員が相互に援助・協力できるような(共助)
体制の構築を目指している。すなわち、団地内でも大規模な工場では自衛消防隊を組織し、
自ら非常用物資を備蓄しているものの、中小工場では単独でこうした体制を整えられない
先が多い。しかし、こうした中小工場でも、業務上の必要から食品、水、日用品等の在庫
を持っていたり、救助・復旧活動に必要な重機類、建築資材、運搬手段等を備えている企
業もある。相互に融通し、協力することで大規模災害への対応や早期復旧も可能となるは
ずである。
組合では、こうした自助と共助を基本とした大規模災害時の対応、相互の協力をルール
化し、平成 16 年 6 月に「共同防災相互援助規約」を制定している。また、平成 17 年と 18
年の2回にわたって団地内で共同防災訓練を実施したほか、二次災害の発生防止のため、
自社の敷地・建物内の危険物の位置を示した「危険マップ」も作成している。こうした取
24
り組みを更に進め、将来的にはBCP(事業継続計画)の策定につなげて行きたいと考え
ている。
(3)その他の取り組み
その他の取り組みとして、平成 18 年度には団地内に内科医師の常駐するクリニックと調
剤薬局を開設している。この施設は団地内企業の従業員だけでなく、周辺地域住民も利用
できるものであり、地域医療の充実による社会貢献という面も持っている。
4.今後の方向性と課題
当団地は建築協定に基づいて、グリーンベルト、街路樹等が整備された緑豊かな工業団
地である。こうした景観、環境を守り、防災体制を整備することで地域としての魅力を高
め、団地内土地資産の価値を高め、維持していくことは組合の重要な任務である。
また、企業の社会的責任への要請が高まる中で、団地全体として社会的責任を果たすと
いう意味でも、景観整備、ゼロエミッション、地域との共生に積極的に取り組み、組合員
の啓蒙を図っていくことが必要であると考えている。
25
事例5
弥彦温泉給湯協同組合
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒959-0323
新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦
平成 17 年 12 月
出
資
金
26,000 千円
13 名
事
務
局
専従者なし
主な業種
旅館業
組合事業
給湯管管理、温泉使用料の徴収代行
組合の特徴
・タイプ
組合URL
新たな源泉掘削と給湯管整備という官民共同プロジェクトのために地域の
温泉旅館によって結成された事業協同組合
なし
2.組合設立の経緯等
弥彦温泉は越後一ノ宮である弥彦神社の門前に広がる温泉街である。現在は隣接する観
音寺地区から源泉の供給を受けているが、源泉の温度が低いため各旅館では加熱して提供
している。このため新たな温泉を掘削して十分な湯温、湯量を確保し、「源泉かけ流し」需
要に対応することで、集客力を高め、地域の活性化を図ることを計画。弥彦村が温泉掘削
を行い、温泉旅館 13 軒で結成された協同組合が源泉から各旅館までの給湯管を整備すると
いう官民共同プロジェクトが平成 18 年からスタートした(平成 17 年 12 月当組合設立)。
温泉掘削と各旅館への給湯管整備に必要な総事業費3億円については弥彦村が2億円、
旅館(13 軒)が1億円をそれぞれ負担する。旅館側の負担分1億円は、26 百万円を組合出
資金の形で各組合員が平等に(1組合員あたり 2 百万円)負担し、残り 74 百万円は各旅館
の規模応じて分担する。この分担金 74 百万円のうち 42 百万円については組合員が各自で
自己調達し、32 百万円は組合が商工中金から資金を借り入れて組合員に転貸する形をとっ
ている。
3.組合事業とその成果
源泉掘削工事は平成 18 年 11 月に終了。「湯神社温泉」と命名された新源泉は湧出量(自
噴)、泉温、泉質ともに問題なく、各旅館の需要を十分に賄うことが可能である。今後は雪
解けを待って、平成 19 年 5 月の連休明けから各旅館への給湯管敷設工事に着手し、同年秋
には給湯を開始する見込みである。利用者の温泉の質に対する関心と本物志向が高まって
いる中で、新たな温泉が集客の切り札となることが期待されている。
源泉の所有権、配湯権は弥彦村にあり、当組合は村から委託を受けて給湯設備・給湯管
の維持管理と温泉使用料の徴収代行を行うことになる。
なお、弥彦温泉には弥彦温泉旅館組合(任意団体)もあることから、当組合としては情
報・宣伝活動等は行わず、源泉、給湯施設の管理に専念することが事業の透明性を高める上
26
からも望ましいと考えている。
4.今後の方向性と課題
これまで、弥彦地区は弥彦神社の門前町としての知名度の高さに比べて、温泉地のイメ
ージは今ひとつ弱かったが、新たに湯量豊富な源泉を確保できたことから、弥彦山、弥彦
神社といった観光資源を活かしつつ、近年ニーズの高まっている保養・滞在型の温泉地と
して、新たな顧客を獲得して行きたいと考えている。
これからは地域間競争の時代であり、地域の魅力を高め、地域として顧客を呼び込んで
いくことが必要である。付近には日帰り温泉施設も多く、地元では「日帰り温泉街道」と
も呼ばれている。これらの日帰り温泉施設とも提携し、弥彦山系一帯を温泉のメッカとし
て売り出すことも検討している。また、弥彦温泉旅館組合、弥彦観光協会(任意団体)と
一体となり、温泉街の修景実験にも取り組んでいるところである。
27
事例6
協同組合三重オートリサイクルセンター
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒519-0323
三重県鈴鹿市伊船町字鈴木田531-1
平成 16 年 11 月
出
資
金
96,300 千円
58 名
事
務
局
専従理事 1 名、職員 36 名
主な業種
自動車ディーラー
組合事業
使用済自動車リサイクル
組合の特徴
・タイプ
組合URL
県下の主要自動車ディーラーが参加している使用済自動車リサイクルを目
的とした事業協同組合
http://www.mie-arc.or.jp
2.組合設立の経緯等
平成 17 年 1 月の自動車リサイクル法施行を控えて、市内に大規模な自動車リサイクル施
設を作りたいと考えた鈴鹿市からの熱心な働きかけと全面的な支援を受けて、鈴鹿商工会
議所自動車部会のメンバー12 社で平成 16 年 10 月に協同組合を設立し、鈴鹿市内の伊船工
業団地内に土地 41,501 ㎡を賃借してリサイクル工場建設に着手。工場は平成 17 年 10 月に
完成し、翌 11 月から稼動を開始した。その後、県内の主な自動車ディーラーにも組合への
参加を呼びかけ、現在の組合員数は 57 社となっている。
3.組合事業とその成果
現在、組合事業として行っているのは自動車リサイクル事業のみである。
自動車リサイクル工場は工場・倉庫・事務所を合わせて 5,585 ㎡の規模を持ち、年間 3 万
台の処理が可能である。三重県全域から集められた使用済み自動車(ELV)は、①エア
バッグ処理・フロン回収、②ガソリン・オイル等の液体の抜き取り、③リサイクルパーツ
の取り外し、④解体(ハーネス、モーター類の除去=銅の含有率 0.3%未満)、⑤プレス処
理、⑥資源として出荷(コンソーシアムを形成している電炉メーカーで鉄資源として溶解
される)という過程を経て、全部再資源化(シュレッダーダストゼロ)される。
工場稼動開始からまだ一年余りであるが、平成 18 年 6 月には月生産(処理)台数 1000
台を達成する等、組合事業は順調に軌道に乗りつつある。なお、当組合は自動車リサイク
ル法に規定される全部資源化業者に認定されており、Aプレス(プレス処理された鉄スク
ラップ)の代金以外にリサイクル処理費用の支払いを受けることができる。平成 19 年 3 月
にはISO14001 も取得予定である。また、当組合の工場見学が鈴鹿市の観光コースに組み
込まれる等、自動車の町鈴鹿市のイメージアップにも貢献している。
28
4.今後の方向性と課題
確実に利益を上げて、操業開始時の損失を早期に解消し、さらには組合員に還元できる
ような体勢を整えていくことが今後の課題である。工場はまだ十分な処理能力を有してい
ることから、生産(リサイクル処理)の伸びはいかに使用済み自動車(ELV)を集めら
れるかにかかっている。また、利益率を高めるには、いかに安く、効率よく、ELVを仕
入れ、リサイクルし、有価物として高く売るかが重要となる。
ELVについては組合の営業担当者が県内全域を回って集荷している状況である。県内
の主要な自動車ディーラーの多くが当組合の組合員となっているが、従来から取引のある
解体業者との関係もあり、ELVの全てを当組合に回すには至っていない。当面はホンダ
系ディーラーに対し、当組合にELVを当組合に優先して回すよう働きかけを強める方針
である。将来的には中古車オークションに進出し、ELVを集めやすい体制を整備する構
想も持っている。
また、ELVから取り外した各種部品のリユースパーツとしての販売を強化するととも
に、ワイヤーハーネスの銅線を分離したり、エンジンを溶解し鉄・アルミ資源とすること
によって、より高く売れる体制を作っていくことも今後の課題である。
29
事例7
企業組合伊賀焼の郷
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
組合事業
組合の特徴
・タイプ
組合URL
〒518-1325
三重県伊賀市丸柱569
平成 14 年 6 月
出
資
金
8,000 千円
6名
事
務
局
従事組合員 3 名、職員 3 名
伊賀焼陶器の販売、陶芸体験教室の実施等
産地における販売、情報発信の拠点として陶磁器メーカー関係者、地域住民
等により設立された企業組合
http://cniss.chuokai-mie.or.jp/iga-brand/
2.組合設立の経緯等
伊賀市丸柱地区は奈良時代からの伝統を持つ伊賀焼陶器の産地として知られているが、
これまでは産地問屋がなかったため、販路の開拓・確保は各窯元が独自に行っており、産
地全体として情報を発信し、知名度を向上させようとする試みは行われてこなかった。そ
こで伊賀焼の展示・販売を行う店舗を開設し、産地内の販売、情報発信の拠点とするとと
もに、地域高齢者の雇用の場を創出することを目的に、平成 14 年 6 月に陶磁器メーカー関
係者、地域住民等による企業組合を設立したものである。
3.組合事業とその成果
現在、組合が行っている事業は、①伊賀焼の展示場・店舗の運営、②伊賀焼体験工房の
運営、③年 1 回のイベントである「窯出し市」の開催、④築後二百年を超える窯元の家の
母屋を改装した料理店の運営の4つである。
これらの事業のための施設(展示場3棟(店舗、資料館を兼ねる)
、体験工房1棟、大正
館(休憩コーナー)、母屋(創作料理を提供))は全て天保3年(1832 年)創業の長谷(なが
たに)製陶株式会社で米蔵、工房、事務所、屋敷等として使われていた建物を改装したもの
を当組合が賃借し、管理・運営する形となっている。同じ敷地内には昭和 40 年代まで使わ
れていた十六連の登り窯等もあり、こうした古い建物、窯元としての伝統といった資産を
活かした伊賀焼の郷「長谷園」として、単に伊賀焼を販売するだけではなく、訪れる人達
がゆっくりと伊賀焼に触れ、築二百年の母屋で料理を楽しみ、くつろげる場とすることを
目指している。また、展示・販売している陶器は長谷製陶のものが中心であるが、他の窯
元の作品も展示・販売しており、伊賀焼産地全体のショールームとしての機能も果たして
いる。
設立後4年を経て、売上は順調に伸びており、リピーターとして伊賀焼の郷を訪れる人
も増えている。
30
4.今後の方向性と課題
当組合では基礎固めの段階はほぼ終了したことから、これからは第二ステップとして、
広域連携、共創のマーケティングを展開していく。伊賀焼の郷では伊賀焼を販売している
だけでなく、焼き物作りの体験工房もあるし、母屋で料理を楽しむこともできる。今後は、
こうした点をもっとPRするとともに、伊賀地域全体の情報を発信していきたいと考えて
いる。
地域を活性化させていくための売り物は一つだけでなく、いろいろなものが揃っていた
方が良い。また、実際にその土地に来て見て、味わい、体験することによる満足が重要で
ある。伊賀地域にある古いものに磨きをかけ、点と点をつないでいくことで伊賀ブランド
をメジャーにしていきたい。そうすることが伊賀焼の郷の知名度向上にもつながると考え
ている。
31
事例8
協同組合HIP滋賀
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒525-0036
滋賀県草津市草津町1512
平成 14 年 7 月
出
資
金
2,000 千円
39 名
事
務
局
専従者なし
主な業種
電気機械製造、一般機械製造、サービス業他
組合事業
共同研究・開発・受注・販売、教育・研修
組合の特徴
地域経済の再生を目指し、産学官連携による共同研究開発を行う異業種組合
組合URL
http://www.shiga.doyu.jp/hip/
2.組合設立の経緯等
バブル崩壊後の平成 12 年に中小製造業の生き残りの方策、今後目指すべき方向性をとも
に考えるべく、滋賀県中小企業家同友会メンバーの中小製造業者有志が製造業部会を結成
し、中小企業の自立と中小企業を軸とした地域経済の活性化を目指して産学連携、異業種
交流等の勉強会を行ってきた。
中小企業家同友会自体は規約上経済事業を行わないことになっており、製造業部会は同
友会メンバーによる任意団体であることから、共同研究、連携の成果の事業化に取り組む
ためのプラットフォームとして平成 14 年 7 月に協同組合HIP滋賀(HIPとは
Humanity,Innovation,Product の頭文字をとったもの)を設立した。但し、組合員は中小企
業家同友会のメンバー、かつ製造業部会の会員に限定した。
その後、共同開発に取り組むには製造業以外の業種も必要であることから、製造業部会
を新産業創造部会に拡大(非製造業の組合員も新産業創造部会に参加し、組合員となる)。
さらに平成 18 年度からは新産業創造部会を新産業創造委員会に改組し、滋賀県中小企業家
同友会のメンバーであれば誰でも参加できるようにしている。
なお、組合には専従者はおらず、滋賀県中小企業家同友会の事務局が当組合の事務局を
兼務する形となっている。
3.組合事業とその成果
組合では、滋賀県内にある全ての大学と連携しており、100 年住宅「エコホーム」、住宅
向けの太陽光・風力等の自然エネルギー組込システム「エネルギーパックシステム」等の
共同開発プロジェクトや環境ビジネスに取り組んでいる。そうしたプロジェクトの一つで
あるソーラー和船プロジェクトは平成 18 年度の経済産業省環境コミュニティ・ビジネスモ
デル事業にも採択されている。
これは、当組合が滋賀職業能力開発短大(ポリテクカレッジ滋賀)と連携して開発した
排気ガスを出さず、エンジン音もなく静かな、太陽エネルギーで動く屋方船を近江八幡水
32
郷巡りの遊覧船として観光事業者にレンタルする事業である。ソーラー技術については滋
賀職業能力開発短期大学校から供与を受け、制御、電装、屋方の製作を組合員で分担して
ソーラー和船を製造した。当組合では平成 18 年度にまずソーラー和船1隻を製作して、試
乗会を実施し、19 年度以降はレンタルする隻数を増やすとともにソーラー和船の販売も行
っていく計画である。
当組合の共同開発プロジェクトでは、リーダー企業が責任を持って開発・事業化を行う
ことになっており、組合はプラットフォームとしてプロジェクトの支援に徹し、開発の主
体とはならないことが原則である。しかし、共同開発事業の成果を組合員に目に見える形
で示し、活動の活性化につなげていくことも重要であるという観点から、環境コミュニテ
ィ・ビジネスモデル事業にも採択された今回のソーラー和船プロジェクトについては組合
の事業として取り組んでいる。
4.今後の方向性と課題
共同開発プロジェクトのテーマは必ずしもメンバー企業の本業に直結していないし、メ
ンバーの持つ技術シーズを製品化することだけが目的ではない。各組合員が地域との連携、
産学連携、共同開発を通じて学び、発見したことを企業の経営革新に結びつけるとともに、
地域の環境保全、地域文化の創造に関わることで、地域の中小企業としての責任を果たし、
自社の事業に誇りを持つことが最も重要であると考えている。
ソーラー和船プロジェクトについても直接の売上、ビジネスチャンスとしてさほど大き
なものは期待できないが、組合員の意識改革、地域社会との連携、地域社会への貢献とい
う面では大きなインパクトがあると考えている。
33
事例9
兵庫県鞄工業組合
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒668-0041
兵庫県豊岡市大磯町1−79
昭和 40 年 4 月
出
資
金
9,750 千円
65 名
事
務
局
専従理事なし、職員 2 名(兼務)
主な業種
鞄製造業
組合事業
共同宣伝、研修、地域ブランド認定・管理
組合の特徴
・タイプ
組合URL
豊岡産地のかばん製造業者の組合として、地域ブランド「豊岡鞄」の認定、
管理を行っている。
http://www.toyooka-kaban.jp/
2.組合設立の経緯等
江戸時代から柳行李の産地として全国にその名を知られていた兵庫県豊岡地域は、明治
以降もその技術を活かして旅行かばん、ビジネスバッグ等の生産を行い、日本を代表する
かばんの産地として全国に販路を開拓してきた。当産地ではかばん生産者の組合も早くか
ら組織されているが、何度かの組織変更を経て、
昭和 40 年に兵庫県鞄工業組合が設立され、
現在に至っている。
1980 年代後半以降の円高に伴って、海外製品との競合から豊岡産地の売上・受注は大幅
に減少し、産地内のメーカー数も廃業、倒産等によりピーク時の半分以下となっている。
こうした中、各組合員は製品の開発・改良、大手メーカーとの直接取引の開拓等によって
生き残りを図っており、当組合としても組合員の技術力・デザイン力の向上支援、展示会
への出品による産地イメージの向上・販路開拓支援等の事業を行ってきたところである。
3.組合事業とその成果
平成 18 年 4 月の改正商標法施行により、地域名と商品名を組み合わせた地域ブランド(地
域団体商標)の商標登録が可能となったことから、当組合が「豊岡鞄」を地域ブランドと
して申請。平成 18 年 10 月に特許庁の地域ブランド認定第一陣(52 件)として「豊岡鞄」
の商標登録も認められた。「豊岡鞄」の商標使用は当組合の構成員に限定されており、類似
商品や不正使用を排除できる。
組合では製品検査基準等を定めて、ブランドの認定、管理、PR活動を行っている。地
域ブランド認定の対象は、兵庫県鞄工業組合の組合員であり、かつ「豊岡鞄」地域ブラン
ドマニフェスト宣誓書に署名した企業が、その工場で製造した製品(海外生産は対象外)
に限定される。地域ブランド認定を希望する製品は地域ブランド委員会で認定基準に基づ
く審査を受け、合格した製品だけが認定マークの使用(保証書、織ネーム、下げ札、取扱
説明書等)を認められる。なお、認定マークは自社ブランド、他社ブランド(OEM)と
34
併用しても構わないことになっている。
これまでに組合員のうちでマニフェスト宣誓書に署名した企業は 13 社であり、うち 8 社
が「豊岡鞄」認定製品を持っている。製品ベースでみると応募があった 38 製品のうち「豊
岡鞄」として認定されたのは 26 製品である。豊岡鞄のブランド価値を高めるため、品質を
中心にかなり厳しい基準の審査が行われているといえよう。
地域ブランドの登録第一弾として認定されたこともあり、「豊岡鞄」の名はマスコミ等で
度々採り上げられ、豊岡産地の知名度を高めることに成功した。また、個々の「豊岡鞄」
認定商品についても具体的な引き合いが増えてきており、確かな手応えを感じている企業
が多い。平成 19 年 3 月からは但馬地域地場産業振興センター(じばさんTAJIMA)と
連携して、インターネット上で「豊岡鞄」の通信販売を行っている。
4.今後の方向性と課題
地域ブランドとしての「豊岡鞄」は各方面の注目を集め、順調なスタートを切った。今
後、組合としては「豊岡鞄」ブランド製品の販売を支援していくと同時に、「豊岡鞄」ブラ
ンドのPRを通じて豊岡産地、豊岡製品の全体の知名度・イメージ向上、受注の拡大、販
路開拓を図っていきたいと考えている。「豊岡鞄」ブランド製品を具体的にどのようなチャ
ネルで販売していくかは各組合員が決めることであるが、百貨店、専門店等の比較的高級
なゾーンをターゲットするように指導していく方針である。
なお、今後の課題としては、①参加企業、認定製品を増やし、地域全体に「豊岡鞄」ブ
ランドの浸透を図ること、②「豊岡鞄」のブランドコンセプトの明確化と他の製品との差
別化を図ること、③認定審査のメンバーに組合員以外の外部の人間も加えること、④鞄の
現物を手にとって見たいという要望に対応し、首都圏にアンテナショップあるいは取扱店
を確保すること等があげられる。
35
事例 10
西薩クリーンサンセット事業協同組合
1.組合の概要
所
在
設
組
地
立
合
員
〒896-0046
鹿児島県いちき串木野市西薩町17−8
平成 13 年 5 月
出
資
金
7,800 千円
6名
事
務
局
専従理事なし、職員 8 名
主な業種
焼酎製造
組合事業
焼酎粕共同処理
組合の特徴
・タイプ
組合URL
焼酎粕のリサイクル処理のために地域の焼酎メーカーによって結成された
事業協同組合
なし
2.組合設立の経緯等
鹿児島県は全国有数の焼酎産地である。従来、焼酎の製造に伴って発生する焼酎粕は農
地への還元(散布)または海洋投棄により処分されてきたが、近年の焼酎ブームに伴い海
洋投棄処分される量が大幅に増加。更に、平成 8 年に採択されたロンドン条約議定書によ
って焼酎粕の海洋投棄の全面的禁止が確実となったことから、焼酎メーカーは海洋投棄に
替わる焼酎粕処理方法の早急な確立を求められるに至った3。
こうした状況下、伊集院酒造組合に所属する日置市、いちき串木野市を中心とする地域
では焼酎メーカーの有志が集まって焼酎粕リサイクルの勉強会を重ねた結果、協同組合を
結成して共同で焼酎粕のリサイクル処理を行うことになり、勉強会のメンバーが中心とな
って平成 13 年 5 月に西薩クリーンサンセット事業協同組合が設立された。
3.組合事業とその成果
いちき串木野市内の西薩工業団地内に用地を取得し、平成 14 年 9 月にはリサイクル処理
施設が完成したが、この間に焼酎生産量が急増したため、急遽処理能力の増強を図り、平
成 16 年 10 月から 1 日 200 トン(年間 5 万 5 千トン)の処理能力を持つ第一工場が本格稼
動を開始。しかし、焼酎の出荷はその後も大きく伸び、焼酎粕の発生量が増加しているこ
とから、現在、平成 19 年春の完成を目指して、処理能力 1 日 300 トン(年間 6 万 5 千トン)
の第二工場を建設中である。
組合員 6 社の工場から出る焼酎粕は全て当組合に集められて(組合が処理料を徴収)処
理される。現状では焼酎粕の発生量(年間約 8 万 5 千トン)が工場の処理能力を上回って
いるため、一部は海洋投棄に回されているが、第二工場完成後は第一工場と合わせて年間
注 3:平成 16 年 5 月に海洋汚染防止法が改正され、平成 19 年 4 月以降は焼酎粕の海洋投棄が原
則禁止される(削減計画に基づいて環境大臣の許可を得れば 5 年間は投入可能)
。
36
12 万トンの処理が可能となり、全量がリサイクルされることになる。
現在稼動中の第一工場では、まず、焼酎粕を固形物(ケーキ)と液体に分離。加熱・濃
縮した分離液を固形物(ケーキ)、フスマ(副材料)と混合した後、乾燥させて飼料を製造
している。焼酎粕に含まれている残留アルコールは抽出して代替燃料として工場内で利用
し、処理過程で発生する臭気・蒸気・水分についても脱臭処理、排水処理等の環境対策が
施されており、廃棄物を一切出さないシステムとなっている。生産された飼料は県内の配
合飼料の原料として商社を通じて販売しているが、県内の黒豚肥育業者からの評価も高く、
引っ張り凧の状況である。
新たに完成する第二工場においては、焼酎粕を発酵させてメタンガスを生成し、燃料と
して第一・第二工場で使用する。固形物のうち繊維分(ケーキ)は第一工場に送られ飼料
製造工程に必要なフスマの代替品として使われ、残渣(メタン発酵菌の菌体)は肥料に加
工され有効利用される。第一工場同様、臭気・排水についても万全の処理が行われる。
4.今後の方向性と課題
第二工場が稼動した暁には、組合員各社の工場から発生する焼酎粕の全量がリサイクル
され、生産された飼料、肥料は鹿児島特産の黒豚、サツマイモ向けに使われることになる。
今後は、こうしたリサイクルの環をしっかりと回して行くとともに、リサイクル処理の効
率を高め、コストの引下げを図りたいと考えている。
37
[参考文献・資料]
1.百瀬恵夫「中小企業組合の理念と新たな協同組織の展開」『商工金融』平成 18 年 9 月
号(第 56 巻第 9 号)
2.(財)中小企業総合研究機構「中小製造業の地域ブランドに関する調査研究∼中小企業
組合等における事例調査を中心として∼」平成 17 年 3 月
3.中小企業政策審議会組織連携部会報告書「今後の中小企業組合制度の在り方について」
平成 17 年 12 月
4.イアン・マクファーソン著、日本協同組合学会訳編『21 世紀の協同組合原則』日本経
済評論社、平成 12 年
38
平成 19 年 3 月
執筆者:主任研究員
財団法人
望 月
和 明
商 工 総 合 研 究 所
東京都江東区木場5−11−17 商工中金深川ビル
TEL:03−5620−1691
FAX:03−5620−1697