公共牧場の活用で飼料費削減と生産性向上

特集
飼料価格高騰への対応
公共牧場の活用で飼料費削減と生産性向上
∼夏期預託放牧で得たゆとりを他部門に生かした和牛繁殖経営∼
群馬県利根郡みなかみ町 原澤典雄・かよ子:繁殖雌牛 74 頭
社団法人 群馬県畜産協会 経営支援部 中村
俊治
経営の現状
本経営は、昭和43年に経営主が就農した当初は
和牛肥育経営であったが、徐々に繁殖雌牛を導入
し、規模拡大を進めていきました。本経営の特徴
は、夏山・冬里方式の導入による「ゆとりある繁
殖経営」を主体とした、地域特産の野菜との複合
経営です。経営の現況は以下の通りです。
(1)家畜飼養状況(H21年2月現在)
飼養頭数 繁殖雌牛 74頭
育成牛 08頭
畜舎外観
(2)労働力の状況
本経営における労働力構成は下表のようになっ
ています。夫婦二人による家族経営であり、枝豆
の収穫時期のみ臨時雇用者を利用しています。
飼料価格高騰対策等への取組
(1)取り組みの経緯
当該地域には大峰育成牧場(みなかみ町)、川
場牧場(川場村)、武尊牧場(片品村)、たかやま
高原牧場(高山村)といった公共育成牧場があり、
経営主は夏期放牧によって「ゆとりの創出」と、
牛自らの強健性を高め、耐用年数を延長すること
を考えていました。また、本経営は国道17号線に
面しており、経営規模の拡大に伴って堆肥処理・
(3)土地所有と利用状況 悪臭・衛生害虫など、いわゆる環境問題が懸念さ
現在、合計440aの土地を所有し、うち40aで、副
れる状況にもありました。
収入となる枝豆を栽培・収穫しており、その年間
これらの解決のために夏期放牧を平成4年から試
収量は3.5tです。また、400aにおいて飼料作物
験的に開始し、その効果を確認しながら、放牧頭
のトウモロコシを栽培し、平成18年からはコント
数の拡大を行ってきました。
ラクターとして(財)群馬県農業公社に収穫調製
(細断型ロールベール)作業を委託しています。
年間の収量は168t、WCSでは480個となり、こ
れらの取り組みにより、粗飼料自給率は50%ほど
を維持できています。
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(2)取り組みの効果
公共育成牧場利用による夏期預託を行うこと
で、得られた効果は以下の通りです。
①繁殖成績の向上
4月下旬∼10月下旬まで放牧育成をするため、
繁殖雌牛自身の頑健性向上になり、耐用年数の延
長ができました。4つの公共牧場のうち、3牧場に
おいて管理人による人工授精が可能であり、適期
の授精が行われています。
分娩については、牧場での野天産とし、子牛分
離哺育を10日齢から、分娩後早期離乳を90日にし
ています。これらの取り組みにより、早期発情・
早期授精を心がけることができ、分娩間隔12カ月
以内を維持し、繁殖牛一頭当たりの子牛生産頭数
畜舎における作業風景
の向上に成功しています。
②枝豆生産による収入向上
今後の方向性と課題
夏期預託を行うことで、労働力的にゆとりを創
出することができますが、その余剰労力を利用し
近年の急激な飼料価格高騰は、畜産経営体をめ
て、他部門での収益が得られないか考えていまし
ぐる情勢に大きな影響を与えることとなりまし
た。
た。
当該地域の環境は枝豆の栽培に適しており、収
このような荒波を乗り越えるには、各経営体に
穫期間の延長によって労働力の平準化が図れると
おける対策が重要となります。その対策としては、
ともに、即現金収入とできるため、自己所有地
飼料自給率の向上や繁殖成績の改善などが挙げら
40aを利用した試験的な栽培を、平成4年の夏期預
れます。本経営では、公共育成牧場が近隣に多く
託と同時に開始しました。平成12年には、野菜複
存在するという幸運にも恵まれ、夏期預託放牧を
合経営として定着し、現在では全体の収入の約1
取り入れることで、特定期間の飼料費の大幅な削
割を占めています。
減をすることができ、この取り組みにより牛自身
③コスト低減
の繁殖成績改善と、余剰労力の有効活用にも繋げ
各公共育成牧場によって預託料金は異なります
ることができました。この取組の効果もあり、近
が、川場牧場の場合、1頭の夏期預託料金は1日あ
年の経営収支においても良好な経営状況を維持す
たり400円となっています。この金額は、近年の
ることができています。現在、公共育成牧場への
飼料価格高騰が著しい中、飼養にかかる購入飼料
預託頭数は年間80頭以上であり、4牧場における
代および労力などに比較して十分なコスト削減に
預託牛全体の3割以上を占めており、公共育成牧
つながっていると考えています。
場の経営改善にも大きく貢献しています。
④衛生管理の改善
夫婦2人の家族経営であり、労働力増加の予定
経営規模の拡大に伴い、悪臭などの環境問題が
はなく、近年の飼料価格高騰・子牛価格の下落が
懸念される状況でありましたが、夏期の間ほとん
続く中では、飼養頭数規模も現状を維持していく
どの繁殖雌牛・育成牛を公共育成牧場に預託する
予定です。また、公共育成牧場を利用することに
ことで、牛舎が無畜状態になるため、糞尿の年間
よる、繁殖成績改善・労働力軽減・衛生面向上・
排出量も約2分の1にでき、畜舎の清掃・消毒を徹
コスト削減についての効果が明確なため、今後も
底することができています。衛生管理の向上によ
積極的に活用していきたいと、原澤さんは考えて
り、疾病や事故の発生も極めて少なくなっていま
います。
す。
(なかむら しゅんじ)
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