中学校社会科における言語活動

【社会科における言語活動】
1
言語活動によって付けたい力
社会科においては,社会的事象の意味,意義を解釈する学習や事象の特色や事象間の関連を説明
するなどの言語活動を効果的に行うことによって社会的な見方や考え方を養うことが大切である。
すなわち,様々な資料を適切に収集し,活用して事象を多面的・多角的に考察し,公正に判断する
とともに,適切に表現する能力と態度が言語活動によって付けたい力である。
2 具体的な活動例
(1)社会的事象について考えたことを交流し,より思考力を深める言語活動
3学年
〈教材名〉人権保障を確かなものに
〈本時における言語活動の位置づけ〉
公民的分野における言語活動では,習得した知識,概念や技能を活用して,社会的事象について
考えたことを説明したり,自分の考えをまとめて論述したり,ディベートなどを通して考えを深め
たりする力をつけることを重視する。
そのために本時では,基本的人権を守るための権利として憲法第 32 条で保障されている「裁判を
受ける権利」について,その権利が侵された過去の事例として有名な「隣人訴訟」を教材にして考
える。子どもを知人に預けて失ってしまった人の立場と,子どもを預かり不注意で死なせてしまっ
た人の立場の両方の辛さを考え,自分の立場を明らかにして意見交流することで,
「裁判を受ける権
利」そのものを失ってしまったことが一番辛いことであることに気づき,論述を通して考えを深め
られるようにした。
〈留意事項〉
〈言語活動の場面と方法,生徒の言葉〉
 子どもがため池で溺死して
① 「隣人訴訟」のあらましをつかむ。
しまったYさんとYさんの
子どもを預かったKさんの
立場が混同しないように図
式化して板書する。

色分けしたプレートを使う。
②
吹き出しを使う。
課題を提示する。
KさんとYさんのどちらが辛い思いをしただろうか。
③
まずノートに自分の考えを書き,その考えを交流する。
Yさんの方が辛い思いをしたと思います。YさんはKさ
んに子どもを預けて死んでしまったので辛いと思います。
子どもが死んでしまっているので、賠償金 526 万円は少
ないのではないかと思います。Kさんがちゃんと子どもを
見ていなかったので悪いと思います。
はじめは双方とも控訴した
理由が「賠償金」にあると考
える生徒が多いと予想され
るので,その考えが世間一般
の非難中傷と同じであるこ
とを気付かせるために非難
の手紙や電話の内容を吹き
出しにして黒板に掲示する。
T「Kさんがちゃんと見ていなかったというのは,どの記述 
からわかったの?」
S「『大掃除をしながら見ていた』という文からわかります。」
根拠を明確にして意見を述
べられるように問い返す。
Kさんにはもう賠償金支払いが命じられているし、過失
責任も認められているのだから別にもう一度訴えてもあ
まり意味がないと思う。逆にYさんは自分の意思で子ども
を預けたのだから、それ以上訴えたらもっとお金がほしい
のかと思ってしまう。
④
T「Kさんだけが悪いのではなく,Yさんにも責任があると 
いうことだね?」
S1「Kさんはわざとため池で遊ばせたわけじゃないから,
預かった方にも預けた方にも責任があると思う。」
S2「Kさんも『ため池に行かないように』と注意している。」
意見の相違点を明確にして
考えを問う。

YさんもKさんも控訴した
理由を資料をもう一度読ん
で「Kさんの過失責任のみ認
め」とはどういう意味か確認
する。

交流後に感想を書かせるこ
とで,よく考えもせずに他人
を非難したり中傷したりす
ることで,人権を侵している
ことに気付かせる。

感想を書くポイントを示す。
もう一度最初の裁判の判決内容を資料で確認し,双方が不服
とした内容を「市や県に過失責任が認められなかった」こと
にあったことに気付かせる。
「一審の津地裁は、注意義務を怠ったとして預かったK
さんの過失責任のみ認め、526 万円の賠償金支払いを命
じた。」
T「『Kさんの過失責任のみ認め』とはどういうこと?」
S「YさんもKさんもため池の所有者である市や県にも責任
を追及したのに,津地方裁判所はKさんだけの責任しか認
めなかったということだと思います。」
⑤
交流後に感想をノートに書かせる。
はじめはYさんだけが辛い思いをしたと思ったけれど、
その後のことを聞くと、両方とも辛い思いをしたと思った。
YさんもKさんも市や県を訴えたかったのに、世間はその
ことをよく理解もせずに攻撃するような言葉をYさんやK
さんにかけ、裁判を受けられなくしてしまったので世間の
問題だと思った。526 万円の賠償金の支払いのところしか
世間の目になかったと思うし、自分も「なんでKさんを訴
える必要があるのか」と世間と同じ目でYさんを見てしま
った。こんなことで権利をうばわれてしまったKさんとY
さんがかわいそうだ。
私は両方ともかわいそうだし、世間は身勝手だと思いま
した。報道側は週刊誌などで売上を上げることが目的で、
大げさに報道したり、世間の感情をあおるような報道をし
たりします。それにつられて非難中傷をするのはおかしい
と思います。何よりこわいのは、同情でどちらか一方を責
めて結果的に両方とも「裁判を受ける権利」をうばわれて
しまったことです。そして市や県の責任を追及することが
できなくなってしまいました。もう二度とこんなことはあ
ってはならないと思います。
① はじめに結論を述べ、
その理由を述べる。
② 本時の学習を通して自
分の見方・考え方がど
のように変化したのか
を述べるようにする。
(2)歴史的事象について考えたことを自分の言葉でまとめる言語活動
1学年
〈教材名〉大化の改新への道のり
〈本時における言語活動の位置づけ〉
歴史的分野においては,学習した内容を活用してその時代を大観し表現する活動によって,歴史
的事象について考察・判断した結果を自分の言葉で表現する力をつける。そのために本時では,資
料をもとに聖徳太子の行った政治について調べ,それらが何をめざして行ったものなのかを考えさ
せた。特に「十七条の憲法」の条文をもとに聖徳太子のめざした国づくりについて考え,
「天皇中心」
などのキーワードをもとにして自分の考えをノートにまとめることができるようにした。
〈言語活動の場面と方法,生徒の言葉〉
〈留意事項〉
課題
 聖徳太子の政治について,た
聖徳太子はどのような国づくりをめざして政治を行
だ羅列するだけでなく「何を
ったのだろうか。
めざして行ったものか」を明
らかにしながら追究させる。
① 聖徳太子の行った政治について調べる。
使用した資料「歴史年表資
「十七条の憲法」「冠位十二階の制度」「法隆寺の建立」
料」
「遣隋使の派遣」「推古天皇の摂政」
 ノートへの記入方法を示す。
② 調べたことをキーワードを確認しながら交流する。
聖徳太子の行った政治の事
十七条の憲法
T「
『あつく三法を敬え』
実を記入。
の三法とは何ですか。」
↓
一,和をもって貴しとなし
S「仏・法・僧です。」
その政治が何のためのもの
二,あつく三法を敬え
だったのか、資料をもとに考
三,詔(天皇の命令)をうけたまわりては必ずつつしめ
えたことを記入。
T「『詔を必ずつつしめ』とは
役人の心得を示す
どういう国にしたかったのか
 「十七条の憲法」を基に聖徳
↓
な。」
太子がこだわったことをキ
S「天皇中心の国だと思います。」
冠位十二階の制度
ーワードにする。「どのキー
ワードにつながるか」と生徒
家柄にとらわれず,才能や功績のある人物を役人に取り立
に確認しながら交流し,黒板
てた。位を 6 種類の色の帽子で見分け,それぞれを大小に
にまとめる。
分けた。冠位の名称は中国の「儒教」から取り入れた。
推古天皇の摂政として政治を行う
天皇中心
自ら天皇の代わりに政治を行うことで「天皇中心」の国づ
くりをめざした。
法隆寺の建立
仏教を信仰
仏教をあつく信仰させるために奈良の飛鳥地方に建立。
仏像や建築様式は中国から学んだもの
遣隋使の派遣
外国との交流
小野妹子ら多くの学生や僧を隋(中国)に派遣し,中国の
進んだ文化や政治を学んだ。
『仏教を信仰』を導き出す交流
S1「なぜ仏・法・僧を大切にし
たのだろう?」
S2「仏教を信仰することで,
人々の心を穏やかにして争
いのない国にしたかったん
じゃないかな。」
S3「じゃあ聖徳太子がこだわっ
たことの一つは『仏教を信
仰する』ということだね。
仏教を信仰するに関わって
他にどんなことを聖徳太子
は行ったのかな。」
S4「法隆寺を建てているよ。」
③
キーワードをもとに,聖徳太子のめざした国づくりについて
自分の言葉でまとめる。

聖徳太子は争いのない平和な国づくりを目指すために仏
教を厚く信仰し、天皇を中心とする国づくりを目指した。
また遣隋使を送り、中国の進んだ文化や政治を取り入れた。
「天皇中心」「仏教を信仰」
「外国との交流」をキーワー
ドにして,それらの言葉をす
べて使って聖徳太子のめざ
した国について端的にまと
める。
聖徳太子は、争いがなく仏教をあつく信仰し、天皇を中
心とする国づくりを目指した。そのために摂政となり、天
皇の代わりに政治を行い、中国に遣隋使を送って外国との
交流も深め、仏教の信仰のために法隆寺を建てた。
(3)日本の位置を,地図を用いて説明する言語活動
1学年
〈教材名〉日本の位置を調べよう
〈本時における言語活動の位置づけ〉
地理的分野においては,地図の読図や作図などの学習を通して,思考力や表現力の育成を図ると
ともに,世界の様々な地域の調査や身近な地域の調査において,地図を有効に活用して事象を説明
したり,自分の解釈を加えて論述したり,意見交換したりするなどの言語活動を充実させることで
表現力を高める。そこで本時は,地図を用いてブラジルから見た日本の位置を説明する活動を設け
た。
〈言語活動の場面と方法,生徒の言葉〉
〈留意事項〉
課題

ブラジル国籍の生徒に,祖
ブラジルにいる友達に日本の位置をわかりやすく紹介
国にいる友達に日本がどこ
するにはどうしたらよいだろうか。
にあるか説明できるかを問
① 地球儀でブラジルの位置を確認し,ブラジルから見ると日本
いかけることで,日本の位
置を説明する必要性に迫ら
はどの方位にあるのかを確認する。 →南西
② 距離はどのくらい離れているのか確認する。
せる。
(その他の生徒にもブ
→地球の半周分くらい
ラジルにいる人に日本の位
置を説明できるか考えさせ
る)
地球の半周分離れているということは日本の反対側に

まずは地球儀を使って方位
ブラジルがあるということ。方位だけでは気候や時差は
や距離からその位置を説明
つかめない。
できないか考えさせる。地
球儀を片付けてから,その
③ いつも地球儀を持っているとは限らないし,もう少しわかり
説明で位置をイメージでき
やすく説明するために,緯度と経度を使って説明することが
るか問いかける。
できないか考える。
○日本とブラジルではどちらが緯度が高いのか調べる。
日本が北緯 20 度から 45 度くらいの範囲にあり、ブ
ラジルは 0 度から南緯 30 度くらいの範囲にあるので、
日本の方が高緯度である。ということは、日本の方がや
や寒冷な気候になる。
○経度がそれぞれ何度で,時差は何時間くらいかを調べる。

地球儀ではなく,地図(メ
ルカトル図法)を用いる。
緯度や経度で何がわかるか
を考えさせながら,気候や
時差の点からも日本とブラ
ジルの位置関係をつかめる
ようにする。
日本の標準時が東経 135 度で、ブラジルのブラジリア
は西経 45 度にある。その経度差は 180 度で、ちょうど
12 時間ちがうことになる。ということは、日本とブラジ
ルでは昼と夜が反対になる。
④
それまでの学習を生かして,ブラジルにいる友達に日本の位
置を説明する文章を書いてみる。
S1「一日は 24 時間だから 12 時間の時差ということは,ち
ょうど昼と夜が逆になるんだね。」
日本とブラジルの時差は 12 時間で地球の反対側にあ
ります。季節はブラジルと日本は反対になります。


S2「友達に対する説明にしないといけないね。ブラジルで
は今は夏で暑いだろうから,今の日本の方が少し寒いこ
とを言ってあげないと風邪ひいちゃうよね。」
日本とブラジルの時差は 12 時間だよ。日本はブラジ
ルの反対側にあって、ブラジルより寒いから長そでなど
を持ってきた方がいいよ。
⑤
ブラジル以外の国から見た日本の位置も説明してみる。
【オーストラリア】
S3「オーストラリアは広いから,都市によって時間がちが
うのではないかな。」
S4「首都のキャンベラで考えていいんじゃないかな。キャ
ンベラとは 15 度しか経度差がないから 1 時間だね。」
S5「南半球だから季節が逆だということを言わないといけ
ないね。ブラジルといっしょだね。
」
日本とオーストラリアの時差は1時間で、日本はオー
ストラリアの真北にあります。日本とほぼ同じ気候です。
ただし、季節は反対になるから気をつけてね。
【イギリス】
S6「イギリスからはどっちの方向に日本があるのだろう。
」
S7「地球儀で確かめてみよう。」
日本とイギリスの時差は 9 時間だよ。日本はイギリス
より低緯度にあるから、イギリスより暖かいよ。イギリ
スから見て日本は東南東にあるよ。


方位,距離,緯度,経度す
べてを使ってブラジルにい
る友達にわかりやすく位置
を説明する文章をつくらせ
る。その説明を班内で交流
させる。
自分がブラジルにいないた
めにブラジルから見た日本
の説明が難しいが,地図を
もとにして経度や緯度を確
認しながら説明できるよう
に助言する。
班で交流したことをもと
に,ブラジル以外の国から
も日本の位置を説明させて
みる。
地図だけでわからなくなっ
た場合には地球儀を使って
確かめるよう助言する。