VOL36NO.4/2013

VOL36NO.4/2013
日本心脈管作動物質学会
ISSN 0911-4637
・ 総 編 集 長 岩 尾 洋(大阪市立大学大学院医学研究科分子病態薬理学)
・ ベ ー シ ッ ク 編 集 長 玉 置 俊 晃(徳島大学大学院病態情報医学講座情報伝達薬理学分野)
・ オ ミ ッ ク ス 編 集 長 田 中 利 男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス)
・ ク リ ニ カ ル 編 集 長 伊 藤 正 明(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学)
編集委員 (ABC順)
藤田 浩,福田 昇,古川安之,林 晃一,林登志雄,平田恭信,飯野正光,池田宇一,
今泉祐治,伊藤 宏,伊藤正明,伊藤猛雄,岩尾 洋,松原達昭,松崎益徳,三浦総一郎,
宮内 卓,中木敏夫,中村真潮,中尾一和,錦見俊雄,大橋俊夫,岡村富夫,大柳光正,
末松 誠,高橋和広,高橋克仁,田中利男,山崎峰夫,柳沢輝行,吉村道博,由井芳樹
学会案内
第43回日本心脈管作動物質学会
「心脈管作動物質研究の将来展望」
会 期:2014年2月15日㈯∼2月16日㈰
会 場:神戸国際会議場
(〒650-0046 神戸市中央区港島中町6-9-1)
会 長:平田 健一
(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座循環器内科学分野)
実行準備委員会:事務局長 石田 達郎
(神戸大学大学院医学研究科 内科学講座循環器内科学分野)
事 務 局:〒650-0033 神戸市中央区江戸町85-1
ベイ・ウイング神戸ビル10階 ㈱プロアクティブ内
TEL 078-332-2505(平日9:30 ∼ 18:00) FAX 078-332-2506
E-mail:[email protected]
大会ホームページ http://www.pac.ne.jp/jscr43/
会場アクセス
─1─
◆主なプログラム ※時間は多少変更する場合がございます。
…………………………………………………………………………………………………
2月15日(土)
13:10 ∼開会挨拶
●特別講演 「高血圧とエピジェネティクス∼食塩と肥満∼」
演者:藤田 敏郎(東京大学先端科学技術研究センター 臨床ヱピジェネティクス講座)
座長:田中 利男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス)
●シンポジウム1 「動脈硬化の最新知見」
オーガナイザー:佐田 政隆(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
循環器内科学)
筒井 正人(琉球大学大学院医学研究科 薬理学講座)
シンポジスト:金山 朱里(昭和大学医学部 生化学講座)
佐藤 加代子(東京女子医科大学 循環器内科)
佐々木 直人(神戸大学大学院医学研究科内科学講座
循環器内科学分野)
田中 君枝(東京大学 保健・健康促進本部)
佐藤 公雄(東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学分野)
その他、総会、イブニングセミナー、一般演題(ポスター発表)等
2月16日(日)
●シンポジウム2 「RAAS研究のニューパラダイム」
オーガナイザー:西山 成(香川大学医学部 形態・機能医学講座 薬理学)
廣岡 良隆(九州大学大学院医学研究院 先端循環制御学講座)
シンポジスト:福田 昇(日本大学医学部 腎臓高血圧内分泌内科学)
岸 拓弥(九州大学大学院医学研究院 先端心血管治療学講座)
森本 聡(東京女子医科大学内科学(第二)講座)
吉村 道博(東京慈恵会医科大学 内科学講座循環器内科)
上田 誠二(久留米大学内科学講座 腎臓内科部門)
●シンポジウム3 「臓器連関のメディエーター」
オーガナイザー:上村 史朗(奈良県立医科大学 第一内科)
伊藤 正明(三重大学 循環器・腎臓内科学)
シンポジスト:岸 拓弥(九州大学大学院医学研究院 先端心血管治療学講座)
竹田 秀(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
細胞生理学分野)
竹田 征治(奈良県立医科大学 第一内科学教室)
向山 政志(京都大学大学院医学研究科 腎臓内科)
その他、モーニングセミナー、ランチョンセミナー、口頭発表(YIA)等
─2─
◆事前参加申し込み
…………………………………………………………………………………………………
●参 加 費 ※発表をする学生および学部学生は無料です.
事前登録
当日登録
一 般
4,000 円
5,000 円
評 議 員
5,000 円
6,000 円
大学院生・研修生
2,000 円
3,000 円
●申込み方法
事前参加ご希望の方は、下記の大会ホームページから受付いたします。
「事前参加申し込み」ページのエントリーフォームから、必要事項をご入力いただ
き、登録を行ってください。登録完了後、確認メールが自動配信されます。
(確認メールが届かない場合は、お手数ですが事務局までご連絡お願いします)
参加費は学会当日に、受付にてお支払いください.尚、大学生は身分確認の為、学
生証を提示していただきますので必ず持参ください.
事前登録は12月25日(水)17:00までとなります.
大会ホームページ http://www.pac.ne.jp/jscr43/
プログラムの詳細等は、大会ホームページで随時更新いたします。ぜひご覧ください。
─3─
《日本心脈管作動物質学会の入会および各種届出について》
1.年会費:4,000円
2.期 間:加入(会費納入)した年の12月31日まで.
3.機関誌:
「血管」を年4回送付します.本年度は1号が学会抄録号となります.
4.総 会:年1回開催します.学会の演題申込者はすべて本会会員に限ります.
5.入会手続き:本学会入会希望者は,学会HP内の各種届出用紙より,入会申し込み用紙をダウンロー
ドし,必要事項を記入した用紙をメールまたはFax(059−232−1765)にて事務局までご送付くだ
さい.また,下記郵便口座あてに年会費4,000円をお払い込みください.
6.雑誌送付先などに変更が生じた場合はすみやかに事務局までお知らせください.
《振 込 先》
【ゆうちょ銀行からの振込口座】
郵便振替口座:00900−8−49012
加入者名:日本心脈管作動物質学会
【その他の金融機関からの振込口座】
ゆうちょ銀行
店 番:099〔ゼロキュウキュウ店〕
預金種目:当座
口座番号:0049012
受取人名:ニホンシンミャクカンサドウブッシツガッカイ
《
「お知らせ」の掲載について》
本誌では,
「血管」に関連した学会および学術集会(国内外,規模の大小は問いません.
)の案内を,
無料掲載いたします.ご希望の方は,締切日までに原稿を事務局へお送りください.(締切日等は事
務局へご確認ください.)
〒514-8507 三重県津市江戸橋2丁目174番地
三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野
日本心脈管作動物質学会事務局
TEL 059−231−5411
FAX 059−232−1765
http://jscr21.medic.mie-u.ac.jp/
[email protected]
─4─
血管
VOL.36 NO.4 2013
JAPANESE JOURNAL OF
CIRCULATION RESEARCH
編集・刊行/日本心脈管作動物質学会
■総 説
ゲノム編集を利用した培養細胞や動物における標的遺伝子の改変
山本 卓,佐久間 哲史,坂本 尚昭……………………………………………… 123
■ポストシークエンス時代の心脈管ゲノミクス
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
加藤 規弘……………………………………………………………………………… 129
■総 説
血管内皮細胞における脂質ラフトの役割
網谷 英介,前村 浩二……………………………………………………………… 139
─5─
Japanese Journal of Circulation Research
VOL.36 NO.4 2013
JAPANESE JOURNAL OF
CIRCULATION RESEARCH
■ Review
Targeted genome editing in culture cells and animals
Takashi Yamamoto, Tetsushi Sakuma, Naoaki Sakamoto ……………………… 123
■ Cardiovascular Pharmacogenomics in Post-Genome Sequence Era
Cardiovascular genomics in the era of post-human-genome-project
Norihiro Kato ………………………………………………………………………… 129
■ Review
Role of Lipid Raft in Vascular Endothelial Cell Function
Eisuke Amiya, Koji Maemura ……………………………………………………… 139
─6─
血管Vol.36 No.4 2013
ゲノミクス─────────────────────────────
総 説
ゲノム編集を利用した培養細胞や動物における
標的遺伝子の改変
山本 卓,佐久間 哲史,坂本 尚昭
広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻研究室
子を改変する技術(ゲノム編集)の利用が,基礎から応
要約
用に至る幅広い分野で広がりつつある.本稿では,ゲノ
人工制限酵素(人工ヌクレアーゼ)やRNA誘導型ヌク
ム編集に利用される人工ヌクレアーゼやRNA誘導型ヌ
レアーゼを用いたゲノム編集によって,標的遺伝子の破
クレアーゼについて解説し,これらを用いたゲノム編集
壊(ノックアウト)や外来遺伝子の挿入(ノックイン)
による培養細胞や動物での遺伝子改変について紹介する.
が培養細胞や様々な生物において可能となってきた.人
工ヌクレアーゼのZFNやTALENに加えて,RNA誘導型
ヌクレアーゼを利用したCRISPR/Cas9システムが開
Ⅰ.人工ヌクレアーゼとRNA誘導型ヌクレアーゼ
発されたことによって,ゲノム編集の技術開発は驚くべ
ゲノム編集に利用されるヌクレアーゼは,DNA結合
きスピードで進んでいる.これまで,一部のモデル生物
ドメインとヌクレアーゼドメインからなる人工制限酵素
に限られていた標的遺伝子の改変が,原理的に全ての生
(人工ヌクレアーゼ)とガイドRNAによって標的配列に
物で可能であること,また様々なタイプの改変が可能で
誘導されるヌクレアーゼ(RNA誘導型ヌクレアーゼ)の
あることから,ゲノム編集は次世代の遺伝子改変技術と
大きく2つに分けられる(図1)
.
してその利用が広がっていくことが予想される.
人工ヌクレアーゼは,研究者が目的の標的配列に特異
的なDNA結合ドメインを設計・構築し,制限酵素FokI
のヌクレアーゼドメインと融合させることによって作製
はじめに
する.1組の人工ヌクレアーゼが標的配列に結合すると,
遺伝子ターゲティングは,相同組換えを利用した外来
ヌクレアーゼドメインが二量体を形成し,標的配列の
の遺伝子の挿入によって遺伝子を破壊あるいは改変する
間のスペーサー領域にDNA二本鎖切断(Double strand
技術である.この技術は,細胞内の相同組換え活性に依存
break:DSB)を導入する.第一世代の人工ヌクレアー
し,酵母やマウスなどの限られたモデル生物で利用可能
ゼZinc finger nuclease(ZFN)は,DNA結合ドメイン
である.一方,多くの生物では相同組換え効率が低いた
としてZinc fingerを利用したもので(図1A)
,1996年に
め遺伝子ターゲティングは難しく,遺伝子機能解析には
初めて報告されて以来1),培養細胞,動物,植物などの
化学変異原や放射線を用いた変異体作製やsiRNAを用い
遺伝子改変に積極的に使われてきた2).ZFNを作製する
た遺伝子ノックダウンが利用されている.しかしながら,
方法は,Modular Assembly法 3),OPEN法 4) など米国
化学変異原などを用いた方法では目的の遺伝子に狙って
プラスミド供給機関Addgeneから提供されている.筆者
変異を導入することはできず,siRNAによるノックダウ
らは,大腸菌のone hybridシステムによって標的に特
ンでは抑制が不完全な場合もあり,より特異的で効率の
異的に結合するZFNを構築し,コオロギ5),ウニ6),ホ
高い遺伝子機能解析法の開発が必要であった.
ヤ7),メダカ8)において遺伝子破壊を報告してきた.し
近年,人工ヌクレアーゼやRNA誘導型ヌクレアーゼを
かしながら,Zinc fingerとDNAの結合様式が複雑なため,
用いて標的遺伝子を切断し,その修復過程において遺伝
特異性の高いZFNを研究者が独自に作ることは依然と
して困難である.ZFNは一部企業の受託作製も利用可能
*広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
(〒739−8526 広島県東広島市鏡山1−3−1)
であり,最近は価格も下がってきたことから,受託作製
のZFNを利用することも一つの選択肢と考えられる.第
─ 123 ─
ゲノム編集を利用した培養細胞や動物における標的遺伝子の改変
二世代のTALENは,N末端側に植物病原細菌キサント
Annealing(SSA)assay を確立した14).
さらに6 module
モナスのTranscription activator like effector(TALE)
Assembly法で作製したTALENによって,ショウジョウ
を,C末端側にFokIのヌクレアーゼドメインをもつ人工
バエ15),ゼブラフィッシュ14),メダカ16),アフリカツメ
ヌクレアーゼで(図1B)
,現在中心的に利用されてい
ガエル14),17),iPS細胞14)で遺伝子改変を報告した.ZFN
る人工ヌクレアーゼである.キサントモナスは, 3型輸
と比較して作製が簡便なことから,2010年の報告以来,
送系によってTALEタンパク質を輸送し,宿主植物の遺
TALENの開発とTALENを用いた遺伝子改変が急速に
9)
伝子発現をコントロールして感染を促進する .TALE
進められている.
は, 34アミノ酸を1単位とするDNA結合モジュールの
RNA誘導型ヌクレアーゼを用いたゲノム編集は,細
繰り返し構造をもち,この部分で標的遺伝子の塩基配
菌の獲得免疫システムを利用した方法である.細菌
列に特異的に結合する.各モジュールの12番目および
では,ファージなど侵入してきた外来DNAを断片化
13番目のアミノ酸はRepeat variable diresidue(RVD)
し,Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic
と呼ばれ,この2つのアミノ酸によって結合する塩基が
Repeats(CRISPR)と呼ばれるDNA領域へ取り込み,こ
決定される.モジュールと塩基の結合は1対1の単純な
れらDNA断片を鋳型として複数のRNAを合成すること
様式であることから,任意の配列に特異的に結合する
が知られている18).これらのRNAは,再び侵入する外敵
リピートを研究者が容易に作製できる10).TALENの作
DNAに結合して,Cas9と呼ばれるRNA誘導型ヌクレ
11)
製方法としては,これまでに,REAL法 ,FLASH法
アーゼをリクルートし,外敵のDNAを切断する(図1
12)
,Golden Gate Assembly法13) などが報告され,必要
C).この原理を利用して,
標的遺伝子に結合するガイド
なプラスミドやプロトコールがAddgeneから提供され
RNAおよびCas9を発現させ,標的遺伝子を改変する方
ている.このうち最も広く使われている作製システムは
法が2013年の初めに報告された19)−21).現在,CRISPR/
Golden Gate Assembly法であるが,研究室によって作製
Cas9を用いた複数のゲノム編集ツールをAddgeneから
の成功率のばらつきが大きく,うまく作製できない研究
入手できるが,使用する生物種に応じてどれが適してい
室もあると聞いている.筆者らは,
Golden Gate assembly
るか原著論文を参考にして選ぶ必要がある.CRISPR/
法を改良した6 module assembly法と作製したTALEN
Cas9システムは,非常に簡便である一方で,類似配列
の ヒ ト 培 養 細 胞 で の 活 性 評 価 法 と し てSingle Strand
に変異を導入することが報告されているので22)−23),安全
図1.人工ヌクレアーゼとRNA誘導型ヌクレアーゼ
A)ZFNとB)TALENは人工ヌクレアーゼ.C)CRISPR/CasはRNA誘導型ヌクレアーゼ.
─ 124 ─
血管Vol.36 No.4 2013
性を重視する研究においては十分な注意が必要である.
ゼを用いて異なる染色体を切断することによって,転座
を誘導することも可能なことが示されている25).
Ⅱ.ゲノム編集による遺伝子改変の原理
ヌクレアーゼの発現によって標的遺伝子へ導入され
Ⅲ.ゲノム編集を利用した培養細胞や動物での遺伝子改変
たDSBは,主に2つの修復経路[非相同末端連結(Non
ゲノム編集を用いた遺伝子ノックアウトは,基本的に
homologous end joining:NHEJ) お よ び 相 同 組 換 え
ヌクレアーゼあるいはRNA誘導型ヌクレアーゼを発現
(Homologous recombination:HR)]などの修復経路を
させることによって可能な簡便な方法である.培養細胞
介して修復される(図2)
.このうちNHEJは,エラーを
へ導入する場合は,発現ベクター(あるいはmRNA)と
起こしやすい修復経路として知られており,標的配列が
してトランスフェクションするが,NHEJによって異な
ヌクレアーゼによって繰り返し切断されると,欠失や挿
る変異のタイプ(欠失あるいは挿入)が誘導されるため,
入などの変異導入が高い頻度で引き起こされる.この欠
一般的にはクローン化の作業が必要となる.我々は,確
失や挿入を利用して,タンパク質コード領域内にフレー
実に遺伝子を破壊するために,HRを介して標的遺伝子
ムシフトを導入することによって標的遺伝子を破壊する.
へ薬剤耐性遺伝子を挿入し,薬剤耐性細胞をクローン化
一方,HRでは,標的周辺の相同領域をもつドナーベク
する方法を確立している26).HR効率が高い細胞であれ
ターを共導入することによって,切断箇所への外来遺伝
ば,一度のトランスフェクションで両アリルを破壊する
子の挿入や遺伝子の修復(SNP改変など)が可能となる.
ことが可能である.動物の受精卵へ導入する場合は,必
これらのヌクレアーゼを用いた標的遺伝子の改変技術は,
要なヌクレアーゼなどをmRNAとして合成しておき,イ
ゲノム編集(Genome editing)と呼ばれている10).
ンジェクションによって導入する方法が多くの動物でと
単一の標的配列の改変に加えて,最近ではゲノム編集
られている
(発現ベクターでも可能)
.導入されたヌクレ
技術によって染色体レベルでの改変も可能であることが
アーゼが翻訳されるまでの時間がかかるため,胚は割球
示されている.ヌクレアーゼによって同一染色体上の離
ごとに導入される変異が異なるモザイクとなる場合が多
れた位置を切断することよって,Mbの欠失を誘導でき
い.そのため,完全な変異個体を得るためには,次世代
24)
ることが報告されている .さらに,2組のヌクレアー
において均一な変異を有する個体を得るか,あるいは受
図2.ヌクレアーゼを利用した様々なタイプのゲノム編集
─ 125 ─
ゲノム編集を利用した培養細胞や動物における標的遺伝子の改変
精後早い時期に変異導入しモザイク性を下げる必要があ
線虫,ショウジョウバエ,カイコ,ウニ,ホヤ,メダカ,
る.
ゼブラフィッシュ,マウス,ラット,ウサギ,ブタ,植物
ヌクレアーゼを用いたゲノム編集の魅力は,遺伝子破
など)において成功例が報告されており10),
TALENの開
壊個体の作製が,原理的に全ての生物で可能となる点で
発によって関連する論文数はさらに増加している.最近
ある.ZFNおよびTALENを用いた遺伝子破壊は,ES細
我々は,TALEのDNA結合リピートに改変を加えた高活
胞やiPS細胞などの培養細胞や様々な生物(マラリア原虫,
性型のTALEN(Platinum TALEN)を開発し,Platinum
図3.Platinum TALENを用いたマウスでのゲノム編集(文献27より引用).
A)GFP破壊マウス胚の明視野と蛍光観察.B)GFP遺伝子に導入された変異.
図4. ヌクレアーゼとssODNを利用したゲノム編集
─ 126 ─
血管Vol.36 No.4 2013
TALENを用いてマウスやラットでの高効率な遺伝子破
27),28)
しい改良を積極的に取り入れることが必要である.我々
.これまでTALENを用いた
は,ゲノム編集コンソーシアム36)を立ち上げ,最新の情
哺乳類での遺伝子破壊は効率が低いという問題があった
報を提供している.また,目的の遺伝子に変異を導入す
が,Platinum TALENではマウスおよびラットにおいて
る効率は高まる一方で,ゲノム編集技術は類似配列に変
も高効率に変異導入が可能であることを我々は示してい
異を導入する可能性もあり,使い方には十分な注意が必
る.さらに,CRISPR/Cas9を用いた遺伝子破壊が微生
要である.特に,CRISPR/Cas9システムについては,
物から植物,動物において次々と報告されている.特に
培養細胞ではoff target効果が高いことが複数のグルー
Jaenischのグループは,マウスES細胞において同時に5
プから報告されている.off target効果を低下させる方法
つの遺伝子破壊が可能であることを証明し,多くの研究
も開発されてきており,今後はこれらの技術も積極的に
者を驚かせた29).
導入する必要がある.
壊に成功した(図3)
ヌクレアーゼを利用した遺伝子ノックインについては,
文 献
培養細胞を用いた研究において成功例が数多く報告され
ている.ES細胞での一般的なHRと同様な方法であるが,
1)Kim YG et al.Hybrid restriction enzymes:zinc finger
fusions to Fok I cleavage domain.Proc Natl Acad Sci USA 93,
ヌクレアーゼとドナーベクターの共導入によって,導入
効率を飛躍的に上昇させることができる.また,蛍光タ
ンパク質遺伝子や薬剤耐性遺伝子をノックインすること
1156−1160(1996).
2)Urnov FD et al.
,
Genome editing with engineered zinc finger
nucleases.Nat Rev Genet 11,636−646(2011)
.
によって変異細胞の選別が可能である.一方,動物個体
3)Porteus M.Creating zinc finger nucleases to manipulate the
でのHRを利用したノックインについては,限られた動物
genome in a site specific manner using a modular assembly
30)
31)
32)
(ウニ ,ゼブラフィッシュ ,マウス
approach.Cold Spring Harb Protoc 2010,pdb.top93(2010)
.
など)におい
てのみ成功しているものの,現状でそれらの効率が高い
4)Foley JD et al.Rapid mutation of endogenous zebrafish
genes using zinc finger nucleases made by Oligomerized Pool
とは言い難い.我々のグループでは,ウニ胚を用いて標
ENgineering(OPEN)
.PLoS One 4,e4348(2009).
的遺伝子へレポーター遺伝子をノックインし,内在遺伝
5)Watanabe T et al.Non transgenic genome modifications in
子の発現をモニターすることに成功しているが,導入し
a hemimetabolous insect using zinc finger and TAL effector
nucleases.Nat Commun,3,1017(2012)
.
た胚の15%程度での発現にとどまっている.広く利用可
能なノックイン方法の確立には,高活性型のヌクレアー
6)Ochiai H et al.Targeted mutagenesis in the sea urchin
embryo using zinc finger nucleases.Genes Cells,15,875−885
ゼの利用やドナーベクターの改良などによるノックイン
効率の改善が待たれる.
(2010)
.
7)Kawai N et al.
Efficient targeted mutagenesis of the chordate
最近,
ヌクレアーゼと一本鎖短鎖DNA(single stranded
Ciona intestinalis genome with zinc finger nucleases.Dev
oligodeoxyribonucleotides:ssODN)を利用した一塩基
レベルでの変異導入法や短い配列のノックイン法が開発
Growth Differ,54,535−545(2012)
.
8)Ansai S et al.Targeted disruption of exogenous EGFP gene
in medaka using zinc finger nucleases.Dev Growth Differ,54,
された(図4).ゼブラフィッシュ33)やイモリ34),マウ
ス32),ラット35)の受精卵において,ヌクレアーゼmRNA
546−556(2012).
9)Boch J and Bonas U.Xanthomonas AvrBs3 family type Ⅲ
と標的配列のホモロジーアームをもつ100bp程度のオリ
effectors:discovery and function.Annu Rev Phytopathol.48,
ゴ(合成オリゴとして作製)の共導入による変異導入や
短い断片の挿入が報告されている.この方法は,個体レ
419−436(2010).
10)Joung JK and Sander JD.TALENs:a widely applicable
technology for targeted genome editing.Nat Rev Mol Cell Biol.
ベルでのSNPの改変およびloxサイトなどの挿入による
コンディショナル遺伝子破壊に利用可能と考えられ,ド
ナーベクターの作製を必要としない簡便な方法として広
14,49−55(2013).
11)Sanders JD et al.Targeted gene disruption in somatic
zebrafish cells using engineered TALENs.Nat Biotechnol.29,
がっていく可能性が高い.
697−698(2011).
12)Reyon D et al.FLASH assembly of TALENs for high
throughput genome editing.Nat Biotechnol.30,
460−465(2012)
.
おわりに
13)Cermak T et al.Efficient design and assembly of custom
TALEN and other TAL effector based constructs for DNA
本稿では,ゲノム編集技術の開発と標的遺伝子の改変
の現状を紹介してきた.ゲノム編集技術の開発のスピー
targeting.Nucleic Acids Res.39,e82(2011)
.
14)Sakuma T et al.Efficient TALEN construction and evaluation
ドは非常に速く,半年もすると手法が大きく変わってい
methods for human cell and animal applications.Genes Cells,
る可能性もある.そのため,
常に最新の情報を入手し,
新
18,315−326(2013)
.
─ 127 ─
ゲノム編集を利用した培養細胞や動物における標的遺伝子の改変
15)Kondo T et al.
TALEN induced gene knock out in Drosophila.
35)Brown AJ et al.Whole rat conditional gene knockout via
genome editing. Nat Methods 10,638−640(2013).
Dev Growth Differ,in press
16)Ansai S et al.
Efficient targeted mutagenesis in medaka using
36)http://www.mls.sci.hiroshima u.ac.jp/smg/genome editing/
custom designed transcription activator like effector nucleases
(TALENs)
.Genetics 193,739−749(2013).
17)Suzuki KT et al.High efficiency TALENs enable F0
functional analysis by targeted gene disruption in Xenopus
laevis embryos.Biol Open 2,448−452(2013).
18)Gaj T et al.ZFN,
TALEN,
and CRISPR/Cas based methods
for genome editing.Trends Biotechnol 31, 397−405(2013)
.
19)Mali P et al.RNA guided human genome editing via Cas9.
Science 339,823−826(2013).
20)Cong L et al.Multiplex genome engineering using CRISPR/
Cas systems.Science 339,819−823(2013)
.
21)Cho SW et al.Targeted genome engineering in human cells
with the Cas9 RNA guided endonuclease.Nat Biotechnol 31,
230−232(2013)
.
22)Fu Y et al.High frequency off target mutagenesis induced
by CRISPR Cas nucleases in human cells.Nat Biotechnol 31,
822−826(2013).
23)Hsu PD et al.DNA targeting specificity of RNA guided Cas9
nucleases.Nat Biotechnol 31,827−832(2013)
.
24)Xiao A et al.
Chromosomal deletions and inversions mediated
by TALENs and CRISPR/Cas in zebrafish.Nucleic Acids Res
41,e141(2013)
.
25)Piganeau M et al.Cancer translocations in human cells
induced by zinc finger and TALE nucleases.Genome Res 23,
1182−1193(2013)
.
26)落合博,佐久間哲史,松浦伸也,山本卓.TALE nuclease
(TALEN)を用いた培養細胞におけるゲノム編集.実験医学,
31,p95−100(2013)
.
27)Nakagawa Y et al.Screening methods to identify TALEN
mediated knockout mice.Exp Anim,in press.
28)Sakuma T et al.Repeating pattern of non RVD variants in
DNA binding modules enhances TALEN activity.Sci Rep 3,
3379(2013).
29)Wang H et al.One step generation of mice carrying
mutations in multiple genes by CRISPR/Cas mediated
genome engineering.Cell 153,910−918(2013)
.
30)Ochiai H et al.Zinc finger nuclease mediated targeted
insertion of reporter genes for quantitative imaging of gene
expression in sea urchin embryos.
Proc Natl Acad Sci USA 109,
10915−10920(2012).
31)Zu Y et al.TALEN mediated precise genome modification
by homologous recombination in zebrafish.Nat Methods 10,
329−331(2013).
32)Yang H et al.One step generation of mice carrying reporter
and conditional alleles by CRISPR/Cas mediated genome
engineering.Cell 154,1370−1379(2013)
.
33)Bedell VM et al.
In vivo genome editing using a high efficincy
TALEN system.Nature 491,114−118(2013)
.
34)Hayashi T et al.TALENs efficiently disrupt the target gene
in Iberian ribbed newts(Pleurodeles waltl),an experimental
model animal for regeneration.Dev Growth Differ,in press
─ 128 ─
index.html
血管Vol.36 No.4 2013
クリニカル─────────────────────────────
ポストシークエンス時代の心脈管ゲノミクス
1
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
加藤 規弘
国立国際医療研究センター研究所 遺伝子診断治療開発研究部
究分野には含まれず,別扱いされる.
Ⅰ.はじめに
こうしたゲノミクスの発展と,それに伴うゲノム科学
21世紀はバイオ・ゲノムの世紀だといわれている.過
の変化により,病気の克服をめざす医学研究において
去10年間だけをみても,めざましいスピードで解析技術
も大きなパラダイムシフトが生じている.これまでの
は進歩し,それに伴って膨大な研究成果が蓄積されてき
分子生物学的研究の主流は,上述したように特定の遺
た.こうしたゲノム科学の発展を先導したのが, 1990
伝子から出発し,それと関わりのある因子群を調べて,
年から15年間の計画としてはじまったヒトゲノムプロ
「点と線」を徐々に拡げていくアプローチであった.し
ジェクト(Human Genome Project:HGP)である.ヒ
かし,HGPの推進ととともに発展したhigh throughput
トのゲノム(DNAにコードされた全遺伝情報であり,
technologyは,出発点(ないし着目点)を特に定める
遺伝子コード配列と非コード配列とからなる)の全塩
ことなく,全ゲノムからの探索的アプローチを可能と
基配列を解読しようという同プロジェクトは,従来の
した.その代表的な解析技術がゲノムワイド関連解析
医学・生物学の「常識」を大きく塗り替えた.単純な
(genome wide association study:GWAS)における大
DNA塩基配列のなかから,遺伝子の境界を決定したり,
規模な一塩基多型(single nucleotide polymorphism:
生物学的な特徴を予測したりする作業(アノテーショ
SNP)typingと,トランスクリプトーム解析等における
ンと呼ばれる)の必要性が,HGPを契機に大きくなり,
マイクロアレイである.
バイオインフォマティクスという研究分野が注目を集め
DNAシークエンシングはゲノミクスの基盤をなす技
ることとなった.またmiRNA(microRNA)の発見を
術であるが,それにより産出された,全ゲノムのDNA
契機として,遺伝子の概念そのものが変わりつつある.
配列及び遺伝子地図という“静的”な情報は,次の研究
ゲノミクス(ないしジェノミクス)とは,ゲノムと遺
段階として,
遺伝子の転写・翻訳や蛋白間相互作用といっ
伝子について研究する生命科学の一分野であり, 1980
た“動的”な側面の探究へと繋がることになり,これが
年代に現れ,HGP開始とともに 1990年代以後発展し
まさに機能ゲノミクスの課題である.すなわち,ポスト
た.同分野は,HGPのような全ゲノムのDNA配列や精
HGP時代のゲノミクスの一分野が機能ゲノミクスであ
密な遺伝子地図を決める研究だけでなく,ゲノム内で
り,主として,様々な状況下での遺伝子発現パターンに
の遺伝子間相互作用や多面作用(一つの遺伝子が複数
関わる網羅的解析を行う.他にゲノミクス/ジェノミク
の,一見すると関連の乏しい表現形質に影響する現象:
スという用語の付いた研究分野として,構造ジェノミク
pleiotropy)などの“システムとしての連携・ネットワー
ス(ゲノムにコードされた全蛋白の三次元構造の描出を
ク”を調べる研究をも含むものである.したがって,分
試みるもの),エピジェノミクス(DNA 配列の変化を
子生物学や遺伝学の主要な課題である個々の遺伝子の役
伴わずに遺伝子発現に影響するエピジェネティック変化
割・機能を明らかにする研究は,そのゲノム全体への影
を調べるもの:後述),メタジェノミクス(環境サンプ
響という観点でない限り,一般的には,ゲノミクスの研
ルから直接に回収されたゲノムDNAを扱い,環境中に
埋没する膨大な数の未知の細菌,未知の遺伝子を解明し
*国立国際医療研究センター研究所 遺伝子診断治療開発研究部
(〒162−0061 東京都新宿区戸山1−21−1)
ようとするもの)が挙げられる.
本稿では,ゲノム科学と心血管疾患との関わり等につ
─ 129 ─
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
いて最近の知見を中心に概説し,ポストHGP時代のゲ
Elements) プ ロ ジ ェ ク ト が ス タ ー ト し た. ま ずpilot
ノミクス研究についての展望を述べる.
phaseとして,ゲノムの1%相当が解析された結果,従
Ⅱ.ヒトゲノム計画(HGP)にともなうゲノミクスの発展
来の遺伝子の概念を見直す必要性が唱えられはじめた1).
詳細な説明は他書 2) に譲るが,pilot phase解析結果の
「ヒトのゲノムにはいくつの遺伝子が存在するのか」
ポイントを2つあげる.1つは,蛋白をコードしない転
という質問に対する明確な答えは,いまだ得られていな
写産物(トランスクリプト)が相当量存在し,それらの
い.ヒトをはじめとする哺乳類よりもはるかに単純な
一部は多様な生物学的機能を有していることである.こ
遺伝的制御システムを持つ線虫(C.elegans)の遺伝子
の非コード・トランスクリプトのなかにmiRNAをはじ
総数は約2万であり,それと比べた場合の遺伝的複雑さ
めとする ncRNA(non coding RNA:下述)が含まれ,
を考慮すると,ヒトの遺伝子総数は10万前後ではないか
それは従来,生物学的意義が乏しいと考えられていた領
と HGP以前に推測されていた.HGPにより全塩基配列
域(遺伝子間領域やイントロン)のDNA配列より転写
が解読され,既知の遺伝子の配列や他生物種のDNA配
される.もう1つは,プロモーターやエンハンサーなど
列との比較,EST(expressed sequence tag)などの発
の遺伝子制御領域が,しばしば注目する遺伝子(のコー
現情報,蛋白情報との照合などが行われた結果,現時点
ド配列)よりもはるかに離れた場所(ときに転写開始点
では,ヒトの遺伝子総数は2.2万程度と推測されている.
より100kb以上も上流)に位置していることである.さ
しかし,サイズの小さな遺伝子,複数の蛋白を1つの遺
らに遺伝子制御領域は5’−上流のみならず,イントロ
伝子がコードするケースをカウントすることは難しく,
ンや隣接する別の遺伝子構造のなかにも存在するケー
またRNAのみをコードする遺伝子群(miRNA など)の
スが報告されており,DNA配列上の位置関係だけでは,
存在も見つかってきた.
制御領域と被制御(ないし標的)遺伝子との間の機能的
つながり(組み合わせ)を確定できないことが判明した.
1)DNA配列中のバリエーションと機能的要素
ENCODEプロジェクトで確証されたこれらの知見によ
遺伝情報として,従来,DNA一次配列の変化・バリ
り,比較的かぎられたサイズのDNA配列を遺伝子の「構
エーション(SNPや copy number variationなど)が主
造的単位」と呼ぶことが不都合となってきた.
に注目されてきた.ゲノムDNAは安定した存在でなく,
さまざまな遺伝的変化に曝されている.大規模な染色体
2)ncRNAとRNAサイレンシング
レベルの異常には,染色体の欠失・獲得などがあり,ま
ncRNAは蛋白に翻訳されずに機能するRNAの総称で
た小規模なDNA配列レベルの変化には,塩基置換,欠
あり,非翻訳性RNAとも呼ばれる.すなわち蛋白に翻
失,挿入がある.一般集団中において1%以上の頻度で
訳されるmRNA(messenger RNA)に相対してつけら
存在する生殖細胞(系列)のDNA配列のバリエーショ
れた,mRNA以外の RNA の総称に過ぎず,様々な長
ンを多型(polymorphism)といい,SNPはその一種で
さ(20bp から100kb程度まで)で,様々な生命現象に
ある.ヒトゲノム中には1,000万カ所以上のSNPがあり
関与するncRNAが見いだされている.大きく“構造的”
(平均で約300塩基に1つ)
,それらのなかに疾患の成因
ncRNAと“制御的”ncRNAに分けられ,さらに後者は
に関わるものや薬物の反応性を規定するものが存在する
長 さ に よ っ て 3 つ のclass(short,medium,long) に
と推定されている.こうした多型ないし変異は,DNA
分類される.細胞内には,構造的 ncRNA であるtRNA
の複製や修復時のミスとして生じることが多い.個体の
(transfer RNA)とrRNA(ribosomal RNA)が最も大量
DNAでは,多くの変異が本質的に無作為な場所に生じ
に存在し,心血管疾患等の病態への影響に関して最もよ
るが,生命活動に大きな影響をもたらすものは,ヒトゲ
く解析されている制御的ncRNAがmiRNAである(表1).
ノムの1.1%に相当するコードDNA配列と,約4%の蛋
miRNAは,mRNAを 分 解 し た り 翻 訳 を 抑 制 し た り
白をコードしない高度に保存された領域(転写調節配列
することでRNAサイレンシングに関与する.原核細胞
などを含む)に偏在すると推定されている.
や真核細胞のなかでも植物などで,同様に遺伝子発現
HGPにより,当初の目標を2年程度前倒しして塩基
抑 制 作 用 を 有 す るncRNAがsiRNA(short interfering
配列の決定は終了したが,次はそこに記された生命の設
RNA) で あ る が 3), ヒ ト で は い ま だ 見 つ か っ て い な
計図(暗号)の解読作業が世界中の研究者の大きな関心
い.対して,ヒトゲノム上では,これまでに1,000以上
事となった.そこで2003年,HGPに引きつづいて,ヒ
のmiRNAの存在が示唆されている.siRNAが,相補的
トゲノムのDNA配列中にあるすべての機能的要素を明
な配列のmRNAを分解して遺伝子発現を抑制するのに
らかにしようという ENCODE(Encyclopedia of DNA
対し,miRNAは,完全に相補的でない場合でも(mRNA
─ 130 ─
血管Vol.36 No.4 2013
を分解せずに)
,その翻訳阻害等により遺伝子発現を
高める代謝性障害全般の発症リスクを規定する機序の1
抑制する,という相違点がある.siRNAは外来遺伝子
つとして,エピジェネティック変化が注目されている.
に対応するための抑制システムであり,それに対して
エピジェネティクスは,体細胞に対する出生前の環境曝
miRNA は,内在遺伝子の発現調節のための抑制システ
露が出生後の個体の表現型(フェノタイプ)に影響する
ムであると考えられている.またヒトゲノムの60%以上
という点で「後天的な修飾」といえるが,このようにし
の遺伝子がmiRNAにより,直接的且つ組み合わせて(す
て生じたエピジェネティック変化が次の世代へと受け継
なわち1miRNAに対して標的遺伝子一つという関係で
がれていく可能性も示唆されている7).
4)
なく)制御されるという推測もなされている .
正常な細胞・組織でのさまざまな生理機能にmiRNA
Ⅲ.ゲノムワイドな疾患感受性遺伝子の探索
の関与することがこれまでに報告されており,さらに
前述したhigh throughput technologyは,複雑な生命
最 近 で は, 癌, 生 活 習 慣 病, 感 染 症 な ど の 疾 患 に も
システム,疾病の理解を,reductionism(複雑な事象
miRNAの関与することがわかってきた.
を,部分部分の相互作用として,あるいは,より根源
的な物事に整理し簡略化して理解しようとする姿勢)
3)エピジェネティクス/エピジェノミクス
に 基 づ く“hypothesis driven approach” か ら,
“data
エピジェネティクスの文字どおりの意味は“above
driven approach”へと変遷させつつある.このような
the genetics”であるが,現在ではDNA一次配列の変化
研究アプローチは,逆行遺伝学(reverse genetics)と
を伴わずに生じる遺伝子発現の変化(エピジェネティッ
して,HGP以前にも推進されていたが,近年の大規模
ク変化)を一般的に指して使われることが多い.エピ
SNP typing技術等の進歩が,比較的高頻度な多因子遺
ジェネティック変化は,DNAメチル化,ヒストン(DNA
伝疾患の感受性遺伝子座の網羅的同定を可能にした.同
をその周囲に巻きつけている蛋白)修飾に伴うクロマチ
手法による本格的な遺伝子探索がスタートしてさほど時
ン構造の変化,ncRNAによる制御からなる.DNAを構
間は経っていないが,これまでに同定された遺伝子の多
成する塩基のうち,シトシン(C)がメチル(CH3)
くは,既知の生理学・分子生物学的知識からは容易に予
化修飾されることをDNAのメチル化といい,遺伝子プ
想のつかないものであり,その関与するメカニズムの解
ロモーター領域にCpGアイランド(ヒトの遺伝子のプロ
明が,成因・病態に関するわれわれの理解を大きく変え
モーターの約70%を占める領域で,シトシン〈C〉とグ
ていくことは間違いない.
アニン〈G〉の含量が多く,隣接したCとGは互いにホ
スホジエステル結合している場所)が存在する場合,そ
1)ポジショナルクローニング
のDNAメチル化の多くは,下流の遺伝子の転写を抑制
疾患遺伝子を同定するための従来の方法は,おおまか
する.
に候補遺伝子アプローチ(順行遺伝学)とゲノムスキャ
エピジェネティック変化を生ずる環境曝露には,食事
ン(逆行遺伝学)に分類されることが多い.前者がなん
中の栄養素,化学物質,物理的刺激など様々なものが含
らかの「機能情報」に依存するのに対して,後者はゲノ
まれる.親の世代に誘発されたエピジェネティック変化
ム上の「位置情報」に依存するアプローチである(詳細
が,ゲノムインプリンティングやX染色体不活性化を生
は文献8参照)
.
ずると推測されている5).
歴史的にみると,1980年代以前に疾患遺伝子として同
いまだ動物レベルでの研究段階であるが,妊娠期間中
定されたものは,ごく少数であったが,そのすべては生
の母体の栄養不良が,子どもの糖尿病発生の頻度を高め
化学的な基礎情報がすでに知られていて,精製された遺
6)
ることなどが報告されており ,心血管疾患のリスクを
伝子産物などを活用した候補遺伝子アプローチによるも
表1.機能が比較的に明らかとなってきている,細胞中のncRNA
クラス
Non coding RNAs種別
Symbol
機能
構造的ncRNA
Transfer RNA
Ribosomal RNA
tRNA
rRNA
mRNAの翻訳
mRNAの翻訳
Micro RNA
PIWI interacting RNA
Short interfering RNA
miRNA
piRNA
siRNA
転写後の抑制
DNAのメチル化,トランスポゾン抑制
RNA干渉
制御的ncRNA*
(Short ncRNA)
*
Medium ncRNAとLong ncRNAも存在し,その役割に関する研究が進められている。
─ 131 ─
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
のであった.そして1980∼1990年代に飛躍的な技術革新
過去においては,ほとんどのassociation studyは候補遺
とその研究成果としてのゲノム情報の蓄積が進むのに
伝子アプローチとして実施されてきた.すなわち病態生
伴って,連鎖解析を利用したゲノムスキャンが実施可能
理学的にみて,もっともらしい遺伝子に着目し,それと
となり,同定される疾患遺伝子の数も増加しはじめた.
疾病との関連の有無という「仮説を検証する」わけであ
ポジショナルクローニングというのは,ゲノムスキャ
る.一方,ゲノムスキャンでは,まったく仮説をたてず
ンなどを通じて見出された,おおよその染色体位置に関
に「探索する」ため,
従来は知られていなかったパスウェ
する情報のみを頼りにして,疾患遺伝子を同定する方法
イに関わる遺伝子を同定できる可能性がある.
である(図1)9).ポジショナルクローニングにおける
遺伝的インパクトが比較的マイルドな多因子遺伝疾患
最優先の課題は,推定される候補領域を可能なかぎり絞
のゲノムスキャンにおいて,成否の鍵を握るのは,全ゲ
り込むことであり,それは(特にメンデル遺伝疾患の
ノムの多型(特にSNP)情報の網羅性向上と,それらを
場合),研究に利用できる減数分裂の数,すなわち適切
代表できる「タグ」SNP(遺伝子多型のロードマップの
な罹患家系を十分な数だけ収集できるか否かによって決
役割を果たすDNA配列の一部分)の選出,そして high
まってくる.ある程度の範囲までうまく絞り込めたとし
throughput typing の低コスト化である.
ても,依然として候補領域内には相当数(ときに数十∼
ヒトゲノムは32億塩基対からなり,そこに1,500万程
数百個)の遺伝子が存在するため,それらのリストの
度のSNPが存在すると推定されている.これらすべての
なかから,疾患と関連する適当な組織発現パターンや適
SNPを一人ひとり調べることは大変な作業であるが,タ
当な機能を持つ遺伝子を見つけ出す必要がある.その際,
グSNPを中心に調べることで省力化,低コスト化が可
当該領域内に既知の候補遺伝子が見当たらない場合,新
能となる10).このように絞り込んだ50万∼100万SNPを
規の遺伝子を探索することとなり,その注目すべき手が
typingすることで,計算上は全ゲノムの90%以上をカ
かりの1つとして,関連したフェノタイプを示す既知の
バーできる.
疾患遺伝子との相同性(ヒトではパラロガス遺伝子)に
膨大な数のSNPのなかから「真の」association を見
関する情報を利用することもある.
いだすためには,繰り返し検証する(再現性を確認す
このような解析手法は,もともと単一遺伝子性のメン
る)ことで統計学的なノイズ(偽陽性)を除く必要があ
デル遺伝疾患に対して提唱されたものであり,心血管疾
る.GWASのデザインの概要を図2に模式的に示す.
患やその危険因子のような多因子遺伝
(非メンデル遺伝)
疾患に対してそのまま適用することはできない.そこで,
3)GWASの成果と課題
概念的に,疾患遺伝子は大きく2種類に分けて説明され
多因子遺伝疾患の病因遺伝子を探索する手法として
る.1つはメンデル遺伝疾患の病因遺伝子や多因子遺伝
GWASが本格的に実施されるようになったのは2007年
疾患でも大きな効果を持つ主働遺伝子(major gene)
頃からである.その後の数年間に,糖尿病,高血圧,脂
の場合であり,その遺伝子が発症にとって(十分でなく
質,体格指数(BMI),冠動脈疾患などの感受性遺伝子
とも)必要なものである.もう1つは多因子遺伝疾患の
座が次々と新たに同定された(図3).その結果判明し
大部分の病因遺伝子の場合であり,発症にとって必要で
たのは,比較的高頻度(一般集団中で5%以上)のSNP
も十分でもないが,それを有することでリスクが高くな
によるGWASでは,一部の例外はあるものの,個々には,
ると考えられるものである.これは,後述する易罹病性
たとえば疾患リスクとして10∼50%程度(オッズ比1.1
診断において,SNP の臨床的意義を検討する際に重要
∼1.5)
の上昇効果を示す遺伝子が相当数(数十カ所以上)
な概念である.
存在し,それらが疾患感受性(disease susceptibility)
の一部を成していることであった.通常の連鎖解析は罹
2)ゲノムワイド関連解析(GWAS)の概要
患家系を必要とするが,GWASは非血縁者を対象に実
特定の集団において,ある遺伝的バリエーション(多
施でき,サンプル規模を拡大して検出力を高めることが
型)が,注目する疾患フェノタイプと関連するか否かを
可能なため,GWASで同定される遺伝子座の数は年々
検証するのが関連解析(association study)である.こ
増え続けている11).これまでのところ,心血管疾患とそ
こでいうところのフェノタイプには量的(quantitative)
の危険因子の感受性遺伝子座は,当初想定されていた数
なもの(血圧値など)と質的(qualitative)なもの(高
よりも多く(恐らく数十から百以上),比較的高頻度の
血圧の有無など)とがあり,前者については集団全体を
遺伝子多型と低頻度の遺伝子変異との組み合わせ(特定
対象とし,後者については(集団の一部である)case群
の遺伝子座では,両者が混在するケースもあり)から成
とcontrol群の間の比較により,統計学的有意性を調べる.
ると考えられている.その際,個々の遺伝的効果は,一
─ 132 ─
血管Vol.36 No.4 2013
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図1.ポジショナルクローニングの流れ(文献9を改変)
① 1st stage screening
③ Replication study
② 2nd stage screening
P <0.05 (多重
検定補正)の
SNPを選出
P <10-6 -7程度の
best SNPを選出
Case-control群とも数千∼数万人
ないし、それ以上
Case-control群とも数千∼数万人
ないし、それ以上
50万-250万SNPをtyping
数十∼数百SNPをtyping
Case-control群ともscreening
stageと同規模か、それ以上
20SNPをtyping
⑤ 機能解析
④ Fine mapping
Functional variantの探索
標的遺伝子の機能的関わりの検証
連鎖不平衡(LD)情報等も考慮して
associationの推定存在範囲を詳細に
規定する
図2.ゲノムワイド関連解析(GWAS)のデザイン概要(文献20より引用)
あくまで模式的な表示であり,標的疾患の種類,研究費の制約などでサンプル数やtyping SNP数は変動する.
180
GWAS hit (᦭ᗧߥㆮવሶᐳ))ᢙ
GWAS hit (᦭ᗧߥㆮવሶᐳ))ᢙ
60
50
40
30
20
10
0
160
140
120
100
80
60
40
20
0
2007ᐕ 2008ᐕ 2009ᐕ 2010ᐕ 2011ᐕ 2012ᐕ 2013ᐕ
(A) Coronary Heart Diseaseߦ㑐ߔࠆGWAS hitߩᐕᰴផ⒖
(B) ᓴⅣེ∛ߣෂ㒾࿃ሶߦ㑐ߔࠆGWAS hitᢙ㧔2013ᐕ10᦬⃻࿷㧕
図3.GWASで同定された疾患感受性遺伝子座の年次推移(A)と疾患別の集計(B)(文献20より引用)
GWAS hitはゲノムワイド有意水準(P<5×10−8)を満たす遺伝子座である.
(A)は,
coronary heart disease(冠動脈疾患)に関する累積数を年次推移で示し,
(B)は,2013年10月現在での疾患別の累積数を示す.
─ 133 ─
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
般的に,低頻度の遺伝子変異の方が高頻度の遺伝子多型
12)
5)エクソーム/全ゲノム・リシークエンシング
よりも大きい傾向がみられる .
多因子遺伝疾患とは異なり,メンデル遺伝疾患の多く
また,GWASの手法による,疾患感受性の全体像の
は希少疾患であるため,その病因遺伝子の探索に必要と
解明には大きなハードルが存在することも明らかとなっ
される,適切な罹患家系を十分な数だけ収集するのは容
てきた.すなわち比較的高頻度の疾患感受性多型だけで
易でない.また従来の連鎖解析を利用したゲノムスキャ
は,多因子遺伝疾患の遺伝率(heritability:集団におけ
ンは,方法論的にみて,原因遺伝子変異にまで辿り着く
るフェノタイプのばらつきが個体間の遺伝要因で決定
のに多大な労力と時間を必要とした.依然,正確な診断
されている割合)の多くの部分を説明することができ
のついた患者サンプルは少しでも多く必要であるものの,
ず,
“何が見逃されているのか”(missing heritability)
メンデル遺伝疾患の責任遺伝子探索では,連鎖解析から
と い う 命 題 が 大 い に 注 目 さ れ て い る12). こ のmissing
のポジショナルクローニングに代わって,エクソーム/
heritabilityの要因の一つは,低頻度だが大きな遺伝的効
全ゲノム・リシークエンシング解析が重要な手法となり
果をもつ疾患感受性変異(群)−rare variant−であろ
つつある.エクソーム解析は,疾患の発症に関わる変異
うと推定されており,それを検出すべく,低頻度SNPを
の多くが生じると推定される蛋白コード領域(エクソー
も含めたGWASやエクソーム/全ゲノム・リシークエ
ム:全ゲノムの 1.0−1.4%)を優先的に調べるものであり,
ンシング解析が進められつつある.rare variantの他に
それによって,まだ少数ではあるが,2011年頃から家族
は,エピジェネティクスや遺伝子間相互作用による影響,
性拡張型心筋症などのメンデル遺伝様式を示す心血管疾
古典的な遺伝率推定法での遺伝率の過剰評価,などの可
患の病因遺伝子同定の成功例が報告され始めた15).今後
能性が,missing heritabilityの要因として議論されてい
シークエンシング・コストの低下と大規模情報処理の技
る.
術開発が進めば,解析手法の主流は全ゲノム・リシーク
エンシングへとシフトしていくだろうと推定されている.
4)eQTL 解析
これまでに報告されたGWASの結果によれば,最も強
6)DNA マイクロアレイ
い遺伝的関連を示す多型/変異の80%以上は蛋白コード
ヒトゲノム上の遺伝子総数が2.2万程度と推測されて
12)
領域外に認められ ,その標的遺伝子の発現レベルを規
いることは前述したとおりである.これらの遺伝子(の
定していると推定される.このような,遺伝子発現に影
トランスクリプト)の発現を一度に調べられる技術が
響を及ぼすゲノム上の位置・領域(遺伝子座)をeQTL
DNAマイクロアレイ(DNAチップ)であり,eQTL解
(expression quantitative trait locus) と い う.eQTL
析などの網羅的な遺伝子発現情報の収集に用いられる.
に はcis性 とtrans性 と が あ り,cis性 は 局 所 で の,trans
もともと,スポッティング装置により基板上にDNAを
性は遠隔での遺伝子発現制御である.eQTL解析は,特
整列(アレイ)させ,固定したものをDNAマイクロア
定の遺伝子座の近傍に位置する標的遺伝子自体の発現
レイといい,光リソグラフィー技術を応用して基板上で
変 動(cis eQTLに 相 当 ) と, 遺 伝 子 ネ ッ ト ワ ー ク で
オリゴDNAをin situ合成したものをDNAチップと名づ
(標的遺伝子の)下流に位置する遺伝子群に生じる発
けたが,最近では両者を同義で用いることが多い.
現変動(trans eQTLに相当)の両者を調べるものであ
DNAマイクロアレイは,技術開発の進展に伴って,
り,GWAS後の機能解析における有望な手法である13).
汎用性の高い実験手法となってきたが,検出の精度・再
GWASで同定された疾患感受性遺伝子座は染色体上の
現性・コストなどからみて,まだ完全な計測ツールとま
場所であり,さらに責任遺伝子を確証するための作業(in
ではいえない.すなわち現時点で,マイクロアレイデー
vitro での機能解析や遺伝子改変動物でのフェノタイプ
タは高い信頼性を得ているというよりも,むしろ予備
検討など)が必要であるが,位置的な近接さやeQTL情
的・探索的データとして扱われている面が強い.しかし
報などから,先ずは責任遺伝子の“推定”が行われてい
ながら,ヒトゲノムの遺伝子に関するアノテーション情
る.予備的知見ではあるものの,冠動脈疾患のGWAS
報が蓄積し,関連するデータベースが整備されるにつれ
で同定された責任遺伝子候補群を対象にしてパスウェイ
て,新規の,あるいは,いまだ注目されていない遺伝子
解析が行われたところ,脂質代謝を含む動脈硬化シグナ
やパスウェイと,特定病態などとの関わりを明らかにす
リング,および炎症反応に関わるものが主に含まれてい
るのにDNAマイクロアレイが活用される機会は増えて
14)
た .すなわち,こうしたゲノムワイドな,バイアスの
きた16).
除かれた手法により,今後,真の成因・病態機序の解明
また遺伝子発現解析だけでなく,塩基配列決定(SNP
が進むと期待される.
などの多型解析を含む)やDNAメチル化,あるいは転
─ 134 ─
血管Vol.36 No.4 2013
写因子・miRNAなどについても,DNAマイクロアレ
開発されて,その際,収量がわずかな組織 RNA の解析
イ/DNAチップで網羅的に解析する技術が開発されて,
に,サンプルのpoolingだけでなくRNA増幅法も用いら
研究用途が拡大している.いまだ高額な解析手法ではあ
れるようになった.
るが,詳細に新規遺伝子の発現等を調べるべく,次世代
従来から,動脈硬化の基礎をなす分子機構を探索する
シーケンサーを用いたRNAシークエンス(RNA Seq)
ために,動物モデルやヒトの血管標本を利用したゲノム
も行われるようになってきた.
ワイド遺伝子発現解析が精力的に行われてきたが19),近
年,解析手法の整備・改良が進むとともに,心肥大や心
7)オミックス解析
不全など,心血管疾患の領域でDNAマイクロアレイを
オミックス(Omics)とは,ゲノム(遺伝子の総体)
,
用いた遺伝子発現解析が適用される病態は広がりつつあ
トランスクリプトーム(mRNAの総体),プロテオーム
る.
(蛋白の総体),メタボローム(代謝産物の総体)等,
個々
こうしたDNAマイクロアレイを用いた研究結果の多
の研究対象(ないし階層)の網羅的分子情報から,階層
くは記述的(descriptive)であり,遺伝子群の有意な発
間での分子情報の差異と共通性に基づいて生物体内の生
現変動が,どのような生物学的意義と関係するのかは不
命現象を包括的に把握しようとする研究分野である.ゲ
明である.関連した機能を有する遺伝子群の,わずかで
ノムに次いで精力的に網羅的解析が進められてきたのは
あるが一貫した発現変化は,パスウェイレベルでみて有
トランスクリプトームであり,上述したDNAマイクロ
意な生物学的変化を生じる可能性がある.ただし,この
アレイを用いて,1990年代より数万の遺伝子の発現プロ
点を結論づける際には,RNA転写レベルの差が,蛋白
フィールを同時に調べることが可能となった.また蛋白
レベルの差あるいは機能的意義を必ずしも反映せず,オ
は質量分析計で,代謝産物はキャピラリー電子泳動・ク
ミックスとしての評価が合わせて必要なことに留意せね
ロマトグラフィーおよび質量分析計で,各々分析可能と
ばならない.
なっているが,これらの生物体内の全産物を一括して且
つ迅速に分析できる手法となると,さらなる技術革新を
待たねばならない.まだ探索的なレベルであるが,心血
Ⅳ.ゲノミクス研究と臨床との関わり
管疾患に関わる研究成果が蓄積されているトランスクリ
ゲノミクス研究は,医学生物学の基盤的知見を大きく
プトーム(DNA マイクロアレイ)解析について少し紹
塗り変えるのみならず,診断・治療・予防という臨床現
介したい.
場での医療,および保健医療にも大きな変革をもたらし
その一般的な研究目的は,①サンプルまたはサンプル
つつある.
群間で発現が有意に異なる遺伝子を見いだすこと,②観
察されたフェノタイプの基盤を成すメカニズムについて
1)テーラーメイド医療
の仮説をたてること,そして③分類目的のために遺伝子
テーラーメイド医療とは,サイズのぴったりあった洋
発現パターンを同定する(「同調」して変動する遺伝子
服を仕立てるように,個々の罹患者の疾患の状態を正確
群をカテゴリー化する)こと,である.
にとらえて副作用のない真に有効な治療を提供すること
遺伝子発現プロフィールの生物学的関連性を示す
を意味する.狭義にみれば,特定の治療薬が効くかどう
た め に は, 発 現 差を認める遺伝子(群)から 生 物 学
か,副作用が起こりやすいかどうかという点に注目する
的情報を得る必要があり,その最初の段階として文献
ことになるが,広義にみれば,成因を含めた疾患の状態
情 報 検 索( 例:NCBI,Gene Ontology〈GO〉
,Kyoto
に関する詳細な情報分析なども関わってくる.糖尿病や
Encyclopedia of Genes and Genomes〈KEGG〉データ
高血圧などの多因子遺伝疾患は,便宜的に定められた臨
ベースなどを利用)を行わねばならない.その際,相当
床的基準に基づいて診断される「症候群」であり,実際
な数の遺伝子のデータセットに対して,遺伝子ごとに文
のところは,成因を異にする疾患の集まりかもしれない.
献情報検索を行うという膨大な作業を軽減・回避する目
したがって「どの治療法が最も有効であるか」という科
的で,ゲノムデータと文献データとを自動的にリンクさ
学的選択を行う際にも,個々人の遺伝素因と,生活習慣
せるためのツールが開発されてきた.また情報検索の効
などの非遺伝要因に関する情報が不可欠となる.
率化とともに,ゲノムデータ自体の精度を上げる工夫も
なされた17),18).複雑な組織(ヘテロな細胞種から構成さ
2)遺伝子診断とファーマコゲノミクス
れたもの)を解析するという問題を避けるために,レー
遺伝子の変化,そしてその源であるDNA配列の変化
ザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)が
を調べることにより,疾患ないし特定の病態(薬物の有
─ 135 ─
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
効性や副作用など)を診断することが「遺伝子診断」で
つき」を生ずる原因の1つとして遺伝素因の関与が想定
ある.
従来は,主にメンデル遺伝疾患を対象としていたが,
され,薬物反応性に影響する遺伝情報(遺伝子多型)を
ゲノム医学の進展とともに癌や感染症,生活習慣病など
探索するためのファーマコゲノミクス(薬理ゲノム学)
の多因子遺伝疾患をも対象として行われるようになって
研究が注目されている.すべての患者に副作用もなく一
きた.特に後者に対する遺伝子診断は,浸透率の高い先
様な効果を持つ治療薬が開発されれば確かに理想的であ
天性疾患などのメンデル遺伝疾患における「発症前診断」
る.しかし,
多因子遺伝疾患の病因的多様性を考慮すれば,
と異なり,あくまでリスクの高さを予測できるにすぎな
その薬物療法に関する個別化医療(狭義のテーラーメイ
い「易罹病性診断」である.その臨床的有用性は,感度,
ド医療)へのパラダイムシフトは避けられないであろう.
特異度,および陽性適中率などの厳密な評価がなされて,
心血管疾患の領域では,抗血栓薬の至適使用,スタ
はじめて明らかとなるため,どの「遺伝子群」の変化が
チンの筋毒性,および薬物誘発性不整脈などに関わる
疾患発症のリスクをどの程度高めるかという命題が第1
ファーマコゲノミクス研究がこれまで盛んに行われて
に解決されなければ,遺伝子診断の有効性について議論
きた(表2)20).なかでも,抗凝固薬ワルファリンに関
することは難しい.
する研究で,2つの遺伝子−cytochrome P−450 2C9
また近年,疾病の診断および発症リスク評価の精度向
(CYP2C9)
と vitamin K epoxide reductase
(VKORC1)
−
上という点に加えて,薬物療法の至適化,すなわちテー
の多型が個々人のワルファリン所要量を規定するのに有
ラーメイド医療という観点での,遺伝情報の活用が注目
用であると報告され21),日常臨床での遺伝子診断として
されている.多くの大規模臨床試験が実施され,その結
の活用が注目されている.
果に基づく治療指針(ガイドライン)が作成されてきた
ことにより,薬物療法の「標準化」が積極的に推進され
3)遺伝カウンセリング
ることとなった.しかし,こうした指針にしたがって注
前述したようにHGPは,ゲノム完全配列の決定を目
意深く薬物療法がなされたとしても,ある薬物が特定の
的とする,生物学史上未曾有の「巨大プロジェクト」で
患者に真に有効である(あるいは副作用を生じない)と
あった.医学・生物学領域において,HGPがもたらす
いう保証はない.「標準化」された臨床的判断に基づく
恩恵は計り知れないものであるが,その一方,マイナス
薬物療法の有効性が,個々人レベルではいまなお「ばら
面の存在する可能性にも留意せねばならない.疾患と関
表2.循環器病治療薬の効果・反応性に影響する標的遺伝子(文献20より引用)
薬物クラス
Ⅰ.抗血栓薬
Ⅱ.コレステロール低下薬
(スタチン)
薬物ないし対象フェノタイプ*
Ⅳ. QT間隔延長作用のある薬
遺伝子多型との関連を認めた臨床的効果
Warfarin
CYP2C9,VKORC1
安定期のwarfarin服用量:抗凝固能、出血のリスク
Clopidogrel
CYP2C19
Clopidogrelの生物活性化の障害、抗血小板能の低下,
PCI後の主要心事象(ステント内血栓症含む)の増
加:2010年に,FDAはCYP2C19*2ホモ接合型者で
clopidogrel効果が減弱することをラベル表示した
薬物効果
HMGCR,LDLR
血中LDLコレステロール低下作用の程度
薬物副作用:筋肉痛,横紋筋
融解
Ⅲ. β遮断薬
有効性や副作用との関連
の示唆された遺伝子
SLCO1B1
GATM
SLCO1B1のリスク型対立遺伝子のヘテロ接合型者で
は、副作用発症リスクのオッズ比が4.5に上昇
GATMの防御型対立遺伝子の、副作用発症リスクの
オッズ比は0.6に減少
Bucindolol
ADBR1
389番目がArgのホモ接合型者では、心不全に対する
bucindolol投与の予後が改善
Propranolol/metoprolol/
propafenone
CYP2D6
薬物の代謝速度(poor metabolizerかどうか)を規定
し,徐脈や気管支痙攣のリスク増加と関連
薬物副作用:薬物誘発性QT延
長症候群(diLQTS)
KCNE1
85番目がAsnの場合,Aspと比較しての,diLQTSの
発症リスクのオッズ比は9前後に上昇
*
ある薬物クラスから、特定の薬物と標的遺伝子多型との関連が報告されている場合は、個々の薬物名を記載するようにした。Propafenoneはβ遮断作
用を有する抗不整脈薬であるが、便宜的にβ遮断薬のカテゴリーに記載した。
─ 136 ─
血管Vol.36 No.4 2013
連する多くの遺伝的変化が同定されれば,それらの保因
参考文献
者の発病予防にとって大きな恩恵がもたらされる.その
反面,こうした人々が差別される可能性も出てくる.た
1)ENCODE Project Consortiumet al:Identification and
analysis of functional elements in 1% of the human genome by
とえば,営利目的で大規模な遺伝的スクリーニングが行
われれば,十分に健康な人であっても,疾患の発症リス
the ENCODE pilot project.Nature 447:799−816,2007
2)Gerstein MB,Bruce Cet al:What is a gene,post ENCODE?
クを高める遺伝素因を持っているというだけで,生命保
History and updated definition.Genome Res 17:669−681,
2007
険の加入などに際して差別が行われる懸念も生じる.こ
うした問題に対して,ゲノム医学がもたらす技術・情報
に関する,倫理的・法的・社会的影響(ethical,legal
and social impact:ELSI)が活発に議論されている.
3)Boyd SD:Everything you wanted to know about small RNA
but were afraid to ask.Lab Invest 88:569−578,2008
4)Friedman RC,Farh KK et al:Most mammalian mRNAs are
conserved targets of microRNAs.Genome Res 19:92−105,
遺伝情報という新たな種類の,そして生命活動に直結
した情報に関しては,人々の「知らないでいる権利」を
2009
5)Jirtle RL,Skinner MK:Environmental epigenomics and
disease susceptibility.Nat Rev Genet8:253−262,2007
守ることも重要である.すべての遺伝カウンセリングと
遺伝子検査は,十分な情報提供を受けた成人罹患者から
6)Zambrano E,Martínez Samayoa PM et al:Sex differences
in transgenerational alterations of growth and metabolism in
明確な要求があった場合にのみ実施されることを倫理的
progeny(F2)of female offspring(F1)of rats fed a low
原則とすべきであろう.ただし発端者の遺伝子変異が明
protein diet during pregnancy and lactation.J Physiol 566
らかにされると他の血縁者の発症前診断が可能となるた
め,治療法や予防法のない疾患の場合は,特に慎重に対
(Pt1)
:225−236,2005
7)Grossniklaus U,Kelly B al:Transgenerational epigenetic
inheritance: how important is it?.Nat Rev Genet 14:228−235,
応する必要がある.
2013
8)加藤規弘:概論 ゲノムワイドスキャン.日本臨牀64(増刊5
高血圧(上)−最新の研究動向):324−330,2006
Ⅴ.ゲノミクス研究の展望
9)加藤規弘:遺伝性疾患.内科学 第10版,矢崎義雄編,p12−18,
ゲノム科学の進歩は,心血管疾患やその危険因子のよ
うな,比較的高頻度の複合疾患の治療法と予防法を改良
朝倉書店,2013
10)Kruglyak L:Power tools for human genetics.Nat Genet 37:
1299−300,2005
してくれるものと期待されている.
HGPに 先 導 さ れ た 医 学 研 究 の パ ラ ダ イ ム シ フ
ト,
“hypothesis driven approach” か ら“data driven
11)Visscher PM,Brown MA et al:Five years of GWAS
discovery.Am J Hum Genet 90:7−24,2012
12)Manolio TA,Collins FS et al:Finding the missing
approach”への変遷は,疾病の理解と,それに基づく
heritability of complex diseases.Nature 461:747−753,2009
創薬のシーズ提供という面で,大きな突破口をもたらす
13)Westra HJ,
Peters MJ et al:Systematic identification of trans
eQTLs as putative drivers of known disease associations.Nat
可能性がある.
一方,遺伝子診断という面でも,ゲノム科学は相当な
22)
医療変革をもたらすと考えられる .はたして個々の疾
Genet 45:1238−1243,2013
14)The CARDIoGRAMplusC4D Consortium,Deloukas P et
al:Large scale association analysis identifies new risk loci for
患にどれくらいの数の病因遺伝子が存在するのかはいま
coronary artery disease.Nat Genet 45:25−33,2013
だ不明であるが,一部の例外を除き,病因遺伝子各々の
15)Theis JL,Sharpe KM et al:Homozygosity mapping and
効果は,相対リスクとして1.1∼1.5倍程度の上昇と推定
exome sequencing reveal GATAD1 mutation in autosomal
されている.しかし,それらの遺伝情報および関連する
recessive dilated cardiomyopathy.Circ Cardiovasc Genet4:
医療・健康情報を相当量組み合わせることによって,高
リスク群を同定することができ,その人々に集中した,
効率的な治療・予防介入戦略の策定に役立ち,その結果,
585−594,2011
16)Samuel JL,Schaub MCet al:Genomics in cardiac metabolism.
Cardiovasc Res 79:218−227,2008
17)Curtis RK,Oresic Met al:Pathways to the analysis of
住民レベルでの保健医療にとっては経済的メリットが少
microarray data.Trends Biotechnol 23:429−435,2005
なからずもたらされる.ただし,こうした技術が臨床現
18)Huang da W,Sherman BTet al:DAVID Bioinformatics
場に導入される際には,一次医療を施す人々が関連する
Resources: expanded annotation database and novel
algorithms to better extract biology from large gene lists.
知識を身につけ,医療を受ける人々の権利確保(プライ
バシー侵害や遺伝子差別の防止)などに十分な注意が払
Nucleic Acids Res 35(Web Server issue)
:W169−W175,2007
19)Bijnens AP,Lutgens Eet al:Genome wide expression
われねばならない23).
studies of atherosclerosis:critical issues in methodology,
analysis,interpretation of transcriptomics data.Arterioscler
─ 137 ─
ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス
Thromb Vasc Biol 26:1226−1235,2006
20)加藤規弘:ゲノムと循環器病.循環器病学−基礎と臨床 アッ
プデート版Ⅰ,川名正敏ら編,西村書店,印刷中
21)Schwarz UI,Ritchie MDet al:Genetic determinants of
response to warfarin during initial anticoagulation.N Engl J
Med 358:999−1008,2008
22)Khoury MJ,Jones Ket al:Quantifying the health benefits
of genetic tests:the importance of a population perspective.
Genet Med 8:191−195,2006
23)Scheuner MT,Sieverding Pet al:Delivery of genomic
medicine for common chronic adult diseases:a systematic
review.JAMA 299:1320−1334, 2008
─ 138 ─
血管Vol.36 No.4 2013
ベーシック─────────────────────────────
総 説
血管内皮細胞における脂質ラフトの役割
網谷 英介1,前村 浩二2
1
2
東京大学大学院医学系研究科循環器内科学, 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学
在するのではなく,ある場所に偏在する特徴をもつ.こ
はじめに
のコレステロールやスフィンゴ脂質が密に集簇して存在
心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患が与える影
する膜ドメインを脂質ラフト(lipid raft)という.ラフ
響は日々増加している.動脈硬化性疾患の発症起点とし
トとはいかだのことであるが,広く続くリン脂質の生体
て内皮細胞機能障害の関与が数多く報告されているもの
膜の上にところどころ島状にコレステロールの集まる脂
の,実際にどのような過程を経て内皮機能障害から疾患
質ラフトが存在するため,この名前が付けられた.例え
に至るかは依然として明らかにされていない.血管内
ばスフィンゴ脂質は炭素鎖の多い飽和脂肪酸を有するた
皮細胞とは血管内腔の最も内側に位置する細胞層であり,
め脂質分子間の疎水的相互作用が強く,このためスフィ
この内皮細胞層は,血管トーヌスの調整や恒常性の維持,
ンゴ脂質同士で会合しドメイン形成しやすいことが知ら
抗凝固及び抗炎症作用などを担っている.この内皮細胞
れている.このようにラフトはスフィンゴ脂質とコレス
は形態をダイナミックに変化させる細胞であり,細胞膜
テロールを多く含むために安定性が高く,TritonX 100な
を含めた生体膜をうまく利用してさまざまな負荷や刺激
どの非イオン性海面活性剤に低温下で不溶性の性質をも
に反応している.
ち,この性質を利用して密度勾配法にて分離されること
この総説では細胞膜の一部である脂質ラフトというド
を特徴とする.この膜ドメインには多くの生理活性物質
メイン構造に焦点をしぼり,
内皮細胞における重要性,
病
の受容体やGタンパク質などが存在し,シグナル伝達の
態との関わりについて概説する.
重要な中継点であることが数多く示されている2.
ある刺激によりシグナルに関わるいくつかのタンパク
がラフト外からラフトへトランスロケーションし,ラ
1 脂質ラフトとは
フトにおいてタンパク間の相互作用が促され,その下
細胞を構成する膜は脂質二重膜の構造をとり,フォス
位のシグナルへの情報伝達が効率化する.すなわち
ファチジルコリンやフォスファチジルセリンなど数種類
ラフトはシグナル伝達に関与するさまざまなタンパク
のリン脂質及びコレステロールなどのステロール群,糖
が寄り集まる一つのプラットフォームを形成してい
脂質よりなり,これらが非対称性に分布して構成される.
ると言える.従って脂質ラフトには特定の脂質のみな
細胞膜におけるコレステロールの占める割合は細胞種や
ら ず, 様 々 な 特 徴 を 有 す る タ ン パ ク も 局 在 す る. 例
場所によって異なるが,細胞膜で20%程度を占めるなど
えば小胞体にてタンパクのC末端のカルボキシル基に
比較的多く分布する一方で,ミトコンドリアや小胞体に
glycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカーが付加され
は5%程度と少ない.このコレステロールの含有率に
たGPIアンカータンパクやミリスチン酸やパルミチン酸
1
よって膜の物理的性質が変化することが知られている .
などの脂肪酸によるタンパク修飾をうけてできるミリス
これらコレステロールやスフィンゴ脂質はびまん性に存
トイル化タンパクやパルミトイル化タンパクなどのタン
パクが集合する3,4.他にGanglioside M1
(GM1)はラ
*1東京大学大学院医学系研究科循環器内科学
(〒113−8655 東京都文京区本郷7−3−1)
*2長崎大学大学院医歯薬学総合研究科循環病態制御内科学
(〒852−8117 長崎市坂本1−7−1)
フトに局在する糖脂質として知られており,これはコレ
ラトキシンBと特異的に結合するため,蛍光ラベルした
コレラトキシンにてラフトの局在を追うことができる5.
脂質ラフトは形態が時間的に変化することで機能が変
─ 139 ─
血管内皮細胞における脂質ラフトの役割
化する.例えば脂質ラフトはある刺激によって集合状態
gp120とCD4及びCXCR4/CR5がラフトにて相互作
を変化させる.ZhangらはFas経路の刺激後に蛍光標識
用し,ウイルスが細胞膜に侵入する際の足場となる12.逆
されたコレラトキシンBでラフトを描出すると,ラフ
に感染細胞からウイルスが外へ出る際にもラフトの経路
ト部分がある一角に集簇し,このラフト集簇部におい
を通じて行われることもあり,これはHIV 1だけでなく
てNADPHオキシダーゼの各サブユニットが結合するこ
インフルエンザ,麻疹ウイルスでも示されている13,14.ピ
6
とで活性酸素を産生することを報告している .このよ
ロリ菌が産生する細胞空砲化毒素(Vacuolating toxin A
うにラフトが集まることで下位のシグナルのプラット
(VacA))も細胞内侵入に際してラフトに依存し,ラフ
フォームを形成することをクラスタリングという(lipid
トを通じてendocytic pathwayにのって細胞内を移動し
raft clustering)
.我々もアンジオテンシンⅡを培養内皮
ていく15.以上のような細胞内への感染の経路において
細胞に加えることによって膜上にびまん性に存在してい
ラフトは重要な役割をはたしており,それゆえに細胞内
たラフトが集簇することを確認している(図1).また
への感染物質の侵入はコレステロール代謝の影響をうけ
Jinら はendostatinに よ っ てclusteringが お き,NADPH
ることになる16.
oxidaseサブユニットの集簇,活性酸素産生の効率化がは
ラフトは以上のように,細胞骨格と密接な関連を持ち
かられることを示しているが,そのclusteringのメカニ
ながら,シグナルの中継点をなす多様な役割を果してい
7
ズムとしてacid sphingomyelinaseの関与をあげている .
る.このラフトは一般的に細胞膜の脂質二重膜に存在す
ラフト由来のシグナルの増強がclusteringのポイントで
るが,細胞内の生体膜,例えば小胞体やゴルジ体,ある
制御されているものもあり,clusteringの程度を制御する
いはエンドゾームを取り巻く脂質二重膜にも一部ラフト
8
ことによってシグナルの調整がはかられる .
様のドメインが存在し,さまざまな細胞機能の中継点を
ラフトがさまざまなシグナルの中継点になる際に,細
なしている17−19.細胞内のラフトドメインには細胞膜の
胞骨格とラフトに密接な関連があることは,シグナルの
ラフトがさまざまな刺激や状況によって細胞内に取り込
効率化に都合よくはたらく.実際ラフトとactinによる相
まれた結果としてできたものや,
de novoに形成されたも
互作用についてはいくつかの報告がある
9,10
.タンパク
のなどが含まれる.Del Pozoらは接着細胞が遊離される
のラフトへのトランスロケーションの際にはこのactin
過程で,もと接着していた面からのインテグリンシグナ
が導き手となることがあり,例えば前述したclustering
ルが低下し,caveolinのリン酸化を介して細胞膜にあっ
などにも細胞骨格が強く関与する.ラフトとactinの関
たラフトが細胞内に陥入する(internalization)現象を報
連についてはactinの重合を阻害するlatrunculin Bによっ
告している20.他にもラフトとendosome pathwayとの関
てclusteringが 阻 害 さ れ, 一 方actin重 合 化 を 促 進 す る
連についていくつかの報告があり,endosome pathway
jasplakinolideにてclusteringが増強することからactinの
にのってラフトは細胞内を移動する21.
重合化を含む再構成によってラフトが制御されているこ
細胞膜に存在するラフトについても,さまざまな細胞
とがしめされ,actinの再構成のされ方によってラフトの
運動においてラフト自体の局在が変化したり,またダイ
11
状況がある程度規定されるといえる .
ナミックに動く細胞においてその細胞運動における役割
他にラフトは物質輸送も担っている.例えばHIV 1の
も担っている.
例えば,
血管新生において血管内皮細胞の
感染においてラフト構造は重要な拠点となる.HIV 1の
遊走は重要なステップであるが,平面の上で内皮細胞が
移動するときにはcaveolinによってラベルされるラフト
Control
は進行方向の後部に移動する22.この後面に存在するラ
Ang II 20min
フトからカルシウム波が発せられることにより細胞の遊
走が行われる23.また内皮細胞以外では乳癌細胞が組織
に浸潤する際の細胞から飛び出る突起部がラフトによっ
て形成されている24.各々の細胞や,その細胞状況にお
いてラフトの局在は変化し,遊走などのdynamicな細胞
運動に深く関与している.
Lipid Raft Clustering
ラフトのドメイン構造が保たれるためにはコレステ
図1.培養大動脈血管内皮細胞を用い,GM1
(ラフト
の marker)に結合する コレラトキシンBを蛍光
ラベルした試薬にてラフトを描出した.アンジオテ
ンシンⅡ
(AngⅡ)を加えると20分でラフトが細胞
膜の一角に集簇する.(lipid raft clustering)
ロールの存在が必須である.シクロデキストリンは形質
膜のコレステロールを取り除く作用をもつ薬剤であるが,
このシクロデキストリンを用いることでラフトの安定化
構造が破壊され,ラフト依存的な生命現象が阻害される
─ 140 ─
血管Vol.36 No.4 2013
ため,シクロデキストリンによる阻害効果はラフトが関
25
ベオラを経由した反応となる32.また持続的なずり応力
与した生命現象であることを示唆することになる .例
の刺激により,カベオラ構造が細胞膜周囲に増加し,ゴ
えば内皮細胞にアンジオテンシンⅡを加えると活性酸素
ルジ体からカベオラにcaveolinが動員され,ERKやAKT,
が産生されるが,この前にシクロデキストリン処理を
eNOSの活性化につながる33.Caveolinのノックアウトマ
行っておくと,活性酸素の産生は抑制される.シクロデ
ウスにおいてはずり応力によって誘導される血管拡張反
キストリンでラフト由来のシグナルを遮断した後に,コ
応が低下し,内皮からのNOやプロスタグランジン,エイ
レステロールを加えることでそのシグナルをもとに戻す
コサペンタエン酸の産生がおち,結果的に血管平滑筋の
ことも可能である26.このようにラフトのコレステロー
増生などにより血管内腔の狭小化につながる34.以上の
ルの密度によってある程度のシグナル伝達の効率が影響
ように,カベオラ構造は血管内皮細胞機能の重要な中継
を受ける形で制御がはたらいている.
点として多面的な役割を果している.
細胞内ではコレステロールはフリーコレステロールあ
るいはコレステロールエステルの形で存在する.内皮細
2 内皮細胞におけるラフトの重要性
胞においてラフトが重要であるもう一つの要因として,
内皮細胞はさまざまな刺激にさらされ,それらに細胞
内皮細胞内ではコレステロールがコレステロールエステ
膜が極めてダイナミックに変化することで対応している.
ルよりもフリーコレステロールの形で存在しやすいこと
その中で代表的な役割をするものの一つがカベオラであ
があげられる35.動脈硬化巣でよくみられる泡沫細胞や,
り,脂質ラフトに類した構造物の一つである.カベオラ
脂肪細胞などではコレステロール負荷の結果,コレステ
は細胞膜に存在する直径50∼100nmのフラスコ状の構造
ロールエステルの形で脂肪滴に貯留される.一方で内皮
であり,内皮細胞のほかに脂肪細胞や平滑筋細胞などに
細胞において脂肪滴は存在しにくく,その代りにフリー
も認める.カベオラはラフトタンパクが集合している部
コレステロールを負荷すると細胞内ラフト様ドメインと
分であるが,その主要な一つとしてcaveolinがあげられ,
考えられるベジクル構造が形成される(図2)36.これ
これはカベオラ部分でホモ重合体を形成し,カベオラの
は細胞によってコレステロール負荷に対応する際にコレ
凹の構造を保つのに重要なはたらきを担っている27.カベ
ステロールエステルとして対処するか,フリーコレステ
オラ構造の部分には他にもGタンパク結合受容体,Gタン
ロールによって対処するかの違いによると考えられ,内
パ ク αsubunit,nonreceptor tyrosine kinase,GTPases
皮細胞はコレステロールエステル加水分解酵素がより多
(Ras,
Rafなど)
,endothelial nitric oxide synthase(eNOS)
,
く存在することにより,フリーコレステロールの形でコ
MAP Kinase pathwayなどの分子が集合し,これら分子
レステロール負荷を受け止めやすいといえる.フリーコ
とcaveolinの間の関連も強い.カベオラについては一般
レステロールはラフトの基質であり,それゆえにラフト
的には細胞膜に局在する膜ドメインを指すことが多いが,
が大きく修飾される形でコレステロール負荷を受けるこ
細胞内の膜構造にもラフト同様のドメインが存在するの
とになる.
と同じくして,caveolinを中心とした細胞内の膜構造が
このラフトにさまざまなシグナル伝達物質が集合する
存在し,カベオゾームと呼ばれることもある28,29.カベオ
が,なかでも重要なのが活性酸素に関与する分子群であ
ゾームとはcaveolinがユビキチン化されて分解される過
る.内皮細胞において活性酸素の産生する場としては
程でlate endosome/lysosomeへ移行する過程をみてい
ミトコンドリアに加えてNADPH oxidaseが重要である37.
るものもあり,この部分ではラフトとendosome pathway
NADPH oxidaseはgrowth factor,サイトカイン,ずり
との関連が強い30.
カベオラ構造はたとえば細胞が伸びた時や,浸透圧の
影響で膨れた時に平坦化することで,膜全体にかかる張
力が増加するのを抑える31.このようにカベオラ構造は
細胞膜の予備としてはたらき,膜にかかる張力を調節す
るのに役立つ.血行動態の変化に柔軟に対応する必要が
ある血管内皮細胞においても,
この機構は重要である.と
くにずり応力に対する反応の際にはカベオラの機構が大
きく関わっている.例えば血管内腔の血流速度の上昇や
圧の上昇により,血管内皮細胞の各タンパクのチロシン
リン酸化が増強,eNOSの活性化につながるが,これはカ
図2.フリーコレステロール負荷を加えた後の培養血管
内皮細胞.細胞質にベジクル構造の増加を認め,こ
れはlate endosome様の構造をもっている.
─ 141 ─
血管内皮細胞における脂質ラフトの役割
応力,低酸素などの刺激によって活性化され,gp91phox,
産生が低下することを報告している42.このeNOSの局在
p47phoxやracなどの各サブユニットがラフトに集合す
において最も重要なkeyとなってくるのがラフトに存在
ることにより,活性酸素を産生できる状態に変化する.
するcaveolinである43,44.Caveolinとの強い結合によって
結果的にこのNADPH oxidaseによる活性酸素の産生は
eNOSは他のcofactorとの結合が阻害され,機能が抑制さ
内皮機能障害や動脈硬化の増悪につながるわけである
れる45.ただcaveolinの存在はeNOSにとっては多面的な
が,このNADPH oxidaseの状態もラフトの構造の影響を
意味があり,実際caveolinがないと通常内皮細胞由来の
38
受ける .例えば内皮細胞において活性酸素を産生させ
反応である,血管の拡張などの反応が生じない46.eNOS
る刺激の一つとしてアンジオテンシンⅡがあげられるが,
によるNOの産生においてcaveolinとの関係は極めて重
ラフトよりコレステロールを除去した状態でアンジオテ
要である.
ンシンⅡ刺激を加えると,誘導される活性酸素の産生は
eNOSの局在だけではなくeNOSから産生されるNO自
低下する(図3).これはラフトの場そのものが少なくな
体の局在も,その結果に影響を強く及ぼす44.NOは活性
ることでシグナルを伝達するためのプラットフォームが
酸素と反応しやすく,NO産生の場と活性酸素の産生の
減少し,NADPH oxidaseの各サブユニットのラフトへの
場が近ければその二つは反応し,結果的にperoxynitrite
移動が低下し,下位にシグナルが伝わりにくくなったこ
という活性窒素が形成される.最近のLobyshevaらの報
とによる.一方でコレステロールが密になった際には活
告ではアンジオテンシンⅡによる活性酸素産生とeNOS
36
性酸素の産生が増強する .以上のようにラフトにある
活性化の関連がcaveolinの状態によって左右されること
カベオリンの調節をうけてNADPH oxidaseによる活性
を詳細に示している39.アンジオテンシンⅡはeNOSを
酸素の産生が調節される39.
刺激してNO産生を促すと同時に,NADPH oxidaseを
内皮細胞においてラフトが重要であるもう一つの理由
刺激して活性酸素(O2−)を産生させる.Caveolinが
としてeNOSの存在がある.eNOSはアルギニンからNO
十分に細胞内に存在する場合には,両者の活性化はラ
を合成する酵素であるが,NOは血管拡張や,抗動脈硬
フトにて起こり,産生されたNOは近くで産生されたO2
化への効果があり,内皮細胞でNOがどれだけ作られる
−と反応して打ち消され,これらの活性酸素によって
か,そしてどのように効率的に運搬されるかが内皮機能
eNOSのuncoupling(eNOS二量体の形成減弱によって,
において最も重要なファクターとなる.NO産生はeNOS
eNOSからのNOの産生が低下し,活性酸素の産生にむ
の活性調節によって大部分が制御され,それは二量体の
しろ傾くこと)が起き,さらなる活性酸素の産生につな
形成(coupling)
,hsp90やBH4など他の分子との会合,
がる47.一方caveolinのはたらきをある程度抑制すると,
およびリン酸化の状態によって行われている40,41.これ
NADPH oxidaseのラフトへの集簇が抑えられ,eNOSの
らの活性状態の制御はeNOSの局在にも深く関連してお
uncouplingも抑えられる.このようにNOや活性酸素が細
り,また局在だけでもeNOSの活性がある程度左右され
胞内のどのような局在を有するかによっても細胞機能の
る.Zhangらは細胞膜に存在するeNOSとゴルジ体に存在
修飾の受け方が異なることが示されている.
するeNOSの活性の状態を比較し,細胞膜への局在によ
りNO産生を効率的に行えること,一方で細胞膜に存在
するeNOSによるNO産生は細胞内コレステロールの状
況の影響を受けやすく,これに関連してLDLによりNO
ddcontrol
Ang II
3 動脈硬化形成における内皮細胞のラフトの役割
高コレステロール血症は動脈硬化の重要なリスク因
MBCD+Ang II
dCCCCCCChol+Ang II
図3.培養血管内皮細胞にアンジオテンシンⅡ(AngⅡ)を加えると活性酸素が産生される.産生された活性酸素を
H2DCFDAの試薬によって評価した.AngⅡによる活性酸素はシクロデキストリン(MBCD)によって細胞膜か
らコレステロールを取り除くことで抑えられる.一方フリーコレステロール負荷(Chol)を加えた状態であると,
AngⅡによる活性酸素の産生はさらに増強する.
─ 142 ─
血管Vol.36 No.4 2013
子であるが,通常はコレステロールの含有割合の高い
が変化する.
実際にマクロファージや平滑筋細胞では,
細
リポプロテインであるLDLが上昇した高LDL血症を指
胞内フリーコレステロールの上昇によって細胞機能が変
すことが多い.高LDL血症ではLDLの血中濃度が高ま
化することが知られている.例えばマクロファージにコ
り,LDLそのものあるいは酸化LDLが血管内皮細胞をは
レステロールエステル化を抑えた状態でフリーコレステ
48
じめとする血管壁に障害的にはたらく .酸化LDLの血
ロールを負荷すると,小胞体ストレスを通じてC/EBP
管内皮機能障害はoxidized LDL receptor 1(LOX 1)を
homologous protein(CHOP)の発現増加,アポトーシ
介して行われ,活性酸素の亢進,eNOSの機能障害や内
スの誘導にはたらく57,58.一方平滑筋細胞へのフリーコレ
皮細胞のアポトーシスにつながる
49,50
.一方,高コレステ
ステロール負荷によって泡沫細胞様の細胞への変化が認
ロール血症の血液にさらされた血管内皮細胞を考える際
められる57,59,60.我々は内皮細胞において細胞内フリーコ
にはLOX 1由来のシグナルの関与だけでなく,細胞内の
レステロールが高まることでどのように細胞機能が変化
フリーコレステロール濃度の上昇に伴う諸変化について
するかを検討した.培養内皮細胞を用いて,通常の高コ
も検討する必要がある51,52.以前の報告より,高LDL血
レステロール血症で観察されるのと同レベルにフリーコ
症にさらされている内皮細胞のフリーコレステロールは
レステロールを負荷した結果,細胞内にはlate endosome
通常の5倍程度まで上昇することが知られている51.こ
様のベジクル構造が著明に増加した.このベジクル構造
の細胞内のフリーコレステロール上昇については,血液
を取り囲む生体二重膜にはフリーコレステロールが密に
中にわずかに存在するフリーコレステロールから取り
存在し,またcaveolin,GM1などの各種ラフト関連の
込まれたものより,基底膜側から取り込まれたフリーコ
構造物が集簇しているため,細胞内のラフト様ドメイン
レステロールが大部分をしめる.これは以下の機序によ
と対応する場所と考えられた.この培養内皮細胞にて観
ることが考えられる.高コレステロール血症にさらされ
察されたものと同様のベジクル構造が実際の動脈硬化巣
た初期の血管の病理学的な変化として,コレステロー
の内皮細胞においても確認され(図4),このin vitroの
ルエステルを多く含んだLDL由来のリポタンパクの内
結果はある程度実際の動脈硬化で起きる事象を反映して
皮下の貯留が観察されるが(modified and reassembled
いると考えられた61.さらに,ベジクル構造の動向をア
lipoproteins(MRLp)
),
MRLp中のコレステロールエステ
ンジオテンシンⅡの刺激下にて観察すると,無刺激の状
ルはマクロファージ由来のコレステロールエステル加水
況では細胞質にびまん性にベジクルが存在していたのが,
分解酵素によってフリーコレステロールに変化し,細胞
アンジオテンシンⅡなど細胞内の活性酸素を増加させる
53,
54
間隙に貯まっていく
.細胞間隙に貯まったフリーコレ
刺激が加わると,ベジクル構造は核周辺の領域に集簇し,
ステロールはそのまま細胞膜から細胞内に取り込まれや
endosome pathwayの 中 のlate endosome/lysosomeと
すく,結果として内皮細胞の細胞内フリーコレステロー
共局在した(図5).この核周囲の領域へ移行するメカ
55,
56
.この細胞内フリーコレステロール
ニズムとしてはコレステロールなどの脂質が活性酸素と
の上昇によりラフトが変化し,ラフトを介した細胞機能
の反応により活性脂質に変化し,これがマーカーとなっ
ルの濃度が高まる
䉝䊮䉳䉥䊁䊮䉲䊮㪠㪠䈮䉋䉎
䊐䊥䊷䉮䊧䉴䊁䊨䊷䊦
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図4.高脂質食負荷を加えたマウスの大動脈における血
管内皮細胞.細胞質にlate endosome様のベジク
ル構造を多数認める.
図5.フリーコレステロール負荷によって細胞内にベジ
クル構造ができ,さらにアンジオテンシンIIが加わ
ることでeNOSの機能低下につながる.
─ 143 ─
血管内皮細胞における脂質ラフトの役割
て核周囲の細胞器官への細胞内輸送が行われる可能性が
62,
63
貯留が確認され,ベジクル構造とラフトとの何らかの関
.核周囲に移行したベジクル構造はlate
連も予想される66.クラミジア感染も内皮機能障害の一
endosome/lysosomeと癒合し,結果的にベジクル構造
つの例であるが,その内皮細胞においてもベジクル構造
に関連するタンパク質の機能を修飾した.これらの中に
の存在が確認されている67.このように細胞内のベジク
はeNOSも含まれ,アンジオテンシンⅡ負荷の結果eNOS
ル構造の存在は血管内皮細胞の障害の一つのあらわれで
の細胞内ラフトへの移動,eNOSリン酸化の抑制,及び
ある可能性があり,また同部位は活性酸素との関連が深
NO産生の減弱にいたることが確認された.以上のよう
い.最近,NADPH oxidase由来の活性酸素の産生場とし
に,高コレステロール血症下の内皮細胞においては細胞
てendosomeがとりあげられているが,ベジクル構造が細
内ラフトの出現に伴ってシグナルの伝達経路及び結果が
胞障害性にはたらく機序として活性酸素の存在があるこ
変化し,最終的にeNOSの機能障害に至ることが確認さ
とは十分に考えられ,極めて興味深い68,69.血管内皮細胞
れた36.これはフリーコレステロールが細胞内ラフトを
においてラフトを考える場合,ベジクル構造の存在はラ
通じて細胞現象の修飾に大きく関わってくるメカニズム
フトに関連した細胞機能障害の特徴とも考えられ,その
の一例である.
細胞機能障害には活性酸素の関与がうかがえる(図6)
.
考えられる
ラフトの組成分の変化によってラフト由来の細胞機能
が修飾され,病態に関わるという報告は今のところま
4 ベジクル構造及びラフトと様々な疾患との関連
だ数少ないものにとどまっている.ElizabethらはSLE
前述したようにベジクル構造と細胞内ラフト及び細胞
の患者においてT細胞のラフトにおけるGM1の割合が
の機能障害の深い関連が示されたが,他の内皮機能障害
高くなり,lymphocyte specific protein tyrosine kinase
を来す疾患の血管内皮においても同様のベジクル構造が
(LCK)とCD45分子の相互関係を変化させることで結
観察されている.ファブリ病は全身のライソゾームに存
果的にLCKの活性化が低下し,病勢に影響を与えること
在する加水分解酵素のひとつであるαガラクトシダーゼ
を報告している70.動脈硬化関連としては赤血球の細胞
Aという酵素の活性が欠損または低下することにより生
膜コレステロールに注目した検討がある.不安定狭心症
じる先天性のスフィンゴ糖脂質代謝異常であるが,臨床
と安定した狭心症の患者の血液を採取し,その赤血球膜
的な特徴として血管内皮障害を通じて脳血管障害など
のコレステロール濃度を比較すると,不安定狭心症患者
に至ることがしられている.実際の血管の標本ではlate
の赤血球膜のコレステロール濃度が安定狭心症の患者に
endosome様のベジクル構造が血管内皮細胞内に確認さ
比べて有意に上昇していることが確認された71.赤血球
れており,ベジクル構造の存在と内皮機能障害が関連し
膜のコレステロールがどのように動脈硬化の病態に関わ
ていることをうかがわせる.このように細胞機能障害と
るかはまだはっきりとしていないが,コレステロールの
併行して観察されるベジクル構造には活性酸素の産生が
負荷が病変を不安定化したり,病変部のフリーコレステ
関連しているとの報告もある64,65.別の報告ではファブ
ロール含有量を高めたり72,炎症を惹起しその結果が動
リ病においてラフト関連タンパクの輸送障害及び細胞内
脈硬化に促進的にはたらくのではないかと考えられてお
り,細胞膜コレステロールが病態へ関わる一例である.
加齢に伴い脂質ラフトの構成成分が変化することも知
られており,例えばセラミド及びフリーコレステロー
ⴊ▤ౝ⊹ᯏ⢻
ルの膜脂質における割合は加齢とともに増加する73.こ
れら成分の増加が膜関連の活性酸素の増加を引き起こ
⢽⾰䊤䊐䊃
⚦⢩ౝ䊔䉳䉪䊦᭴ㅧ
し,例えば神経細胞の細胞障害につながると示されてい
ⴊ▤ౝ⊹ᯏ⢻
㓚ኂ
る.
加齢時にみられる細胞現象においても,
ラフトの組成
によって規定される細胞現象があることが示されている.
病態に関して内皮細胞のラフトの面からまとめられた報
ᵴᕈ㉄⚛
告は今のところ少ないが,内皮細胞におけるラフトの位
㜞䉮䊧䉴䊁䊨䊷䊦ⴊ∝
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䊁
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置づけが他にくらべて重要であることを考えると,まだ
まだ検討すべき課題は山積みであり,今後の検討が待た
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図6.脂質ラフトはコレステロール負荷及び活性酸素に
関連した,血管内皮機能をつかさどるドメインであ
る.
れる.
─ 144 ─
血管Vol.36 No.4 2013
引用文献
5 ラフトを修飾しうる薬剤
ラフトの性状を修飾することでラフト関連のシグナル
を変化させる可能性のある薬剤に関してはいくらかの
報告があるが,まだまだ議論の余地があるものが多い.
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cholesterol content,Biophys J,1999;76:2072−2080.
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ルを減少させる結果,caveolinの発現をおさえ,カベオ
proteins and its function,Biochim Biophys Acta,2008;1780:
410−420.
ラ構造を減少させる.その結果eNOSの局在は変化し,加
えてeNOSとhsp90との結合を高める作用もありeNOSの
[4]Levental I,Lingwood D,Grzybek M,Coskun U,Simons
K,Palmitoylation regulates raft affinity for the majority of
活性化につながることが報告されている74.eNOSの活性
integral raft proteins,Proc Natl Acad Sci U S A,2010;107:
化はNOのバイオアベイラビリティを上げることを通じ
て,抗動脈硬化につながる.他にHMG CoA reductase阻
22050−22054.
[5]Nichols B J,GM1 containing lipid rafts are depleted within
害薬はラフト関連のタンパクの局在を変化させることで
clathrin coated pits,Curr Biol,2003;13:686−690.
シグナルの修飾を行う.シンバスタチンの前投与によっ
[6]Zhang A Y,Zou A P,Li P L,Lipid raft clustering and
trafficking in coronary arterial endothelilal cells:
てNMDA受容体のラフトへの局在が減少し,神経細胞に
Identification and functional significance,Hypertension,
保護的にはたらくことが報告されている75.HDLによる
2004;44:518−518.
ラフト部の修飾も報告されている76.HDL自体,細胞膜
[7]Jin S,Zhang Y,Yi F,Li P L,Critical role of lipid raft redox
からフリーコレステロールを減少させる作用があり,こ
signaling platforms in endostatin induced coronary
れによって細胞内のラフト由来のシグナルが抑制される.
endothelial dysfunction,Arterioscler Thromb Vasc Biol,
その結果炎症細胞の免疫反応が抑えられたり,NADPH
oxidaseの活性が抑えられたり,また内皮細胞においては
eNOSのcouplingが維持される77.
2008;28:485−490.
[8]Simons K,Ehehalt R,Cholesterol,lipid rafts,and disease,
J Clin Invest,2002;110:597−603.
[9]Chichili G R,Rodgers W,Clustering of membrane raft
最近ではeicosapentaenoic acid(EPA)やdocosahexenoic
proteins by the actin cytoskeleton,J Biol Chem,2007;282:
acid(DHA)など不飽和脂肪酸のラフトに対する作用に
36682−36691.
ついての検討が進められている.EPAやDHAはラフト
[10]Bodin S,Soulet C,Tronchere H,Sie P,Gachet C,Plantavid
M,et al.,Integrin dependent interaction of lipid rafts with
の構造を破壊したり,clusteringを抑制したりすること
the actin cytoskeleton in activated human platelets,
J Cell Sci,
で,炎症細胞の細胞機能を修飾することが報告されてい
る78.しかし最近の報告ではDHAはEPAに比べてラフト
2005;118:759−769.
[11]Viola A,
Gupta N,
Tether and trap:regulation of membrane
構造を大きく破壊してしまうというより,ラフト構造を
raft dynamics by actin−binding proteins,Nat Rev Immunol,
2007;7:889−896.
他の形に変化させる要素もあると示唆されており,ラフ
ト由来のシグナルの抑制のみにとどまらない.しかしな
がら実際のメカニズムについて少しずつ解明が試みられ
ている段階であり,内皮細胞のラフトについて,まだ詳
細は明らかになっていない79.
[12]Abbas W,Herbein G,Plasma membrane signaling in
HIV 1 infection,Biochim Biophys Acta,2013.
[13]Vincent S,Gerlier D,Manie S N,Measles virus assembly
within membrane rafts,J Virol,2000;74:9911−9915.
[14]Scheiffele P,Rietveld A,Wilk T,Simons K,Influenza
viruses select ordered lipid domains during budding from the
plasma membrane,J Biol Chem,1999;274:2038−2044.
6 おわりに
[15]Gauthier N C,Monzo P,Kaddai V,Doye A,Ricci V,
Boquet P,Helicobacter pylori VacA cytotoxin: a probe
今回内皮細胞のラフトを中心に内皮機能との関わりに
for a clathrin independent and Cdc42 dependent pinocytic
ついて概説した.基礎的な知見にくらべてまだ臨床的な
pathway routed to late endosomes,Mol Biol Cell,2005;16:
知見に乏しいが,HMG CoA reductase阻害薬の作用や
4852−4866.
不飽和脂肪酸の作用など,現在臨床にて重要度の高い課
[16]Liao Z,Cimakasky L M,Hampton R,Nguyen D H,Hildreth
題についても解決のすべとなるような概念を提示してく
J E,Lipid rafts and HIV pathogenesis: host membrane
cholesterol is required for infection by HIV type1,
AIDS Res
れる可能性がある.今後,動脈硬化分野や内皮細胞関連
機能にとどまらず,ラフトと病態の関連が明らかにされ,
Hum Retroviruses,2001;17:1009−1019.
[17]Sobo K,Chevallier J,Parton R G,Gruenberg J,van der
結果として診断あるいは治療に結びつくようになること
Goot F G,Diversity of raft like domains in late endosomes,
を期待したい.
PLoS One,2007;2:e391.
─ 145 ─
血管内皮細胞における脂質ラフトの役割
[18]Dermine J F,Duclos S,Garin J,St Louis F,Rea S,Parton R
[33]Boyd N L,Park H,Yi H,Boo Y C,Sorescu G P,Sykes M,
G,et al.,Flotillin 1 enriched lipid raft domains accumulate
et al.,Chronic shear induces caveolae formation and alters
on maturing phagosomes,J Biol Chem,2001;276:18507−
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MHC class Ⅰ of EL4 cells,J Nutr,2009;139:1632−1639.
─ 148 ─
─ 149 ─
編 集 後 記
2013年のノーベル賞の医学・生理学賞は,細胞内小器官の小胞がタンパク質などを輸送し,成
熟させ,細胞外に放出する仕組みを1970年代以降に解明した米エール大教授のジェームズ・ロス
マン氏,米カリフォルニア大バークレー校教授のランディ・シェクマン氏,米スタンフォード大
教授のトーマス・スードフ氏に贈られた.タンパク質やホルモンが転写・翻訳された後,小胞に
より細胞内のゴルジ体に輸送される,このとき膜には適材適所に輸送されるべく特別な膜タンパ
クが発現される.蛋白質の成熟に必要な酵素なども同じようにして適材適所に運ばれる.この様
な過程を経てタンパク質は成熟し,
小胞の膜に発現したタンパク質に従いやがて細胞内を移動し,
細胞膜と融合して,
中身が細胞外に放出される.この様な過程を詳細に明らかにして功績による.
本稿にも関連した総説として「血管内皮細胞における脂質ラフトの役割」が掲載されている.
ポストゲノム時代の総説として{ポストヒトゲノムプロジェクト時代の心脈管ゲノミクス}が
掲載されている.本総説は,点と線の一次元の解析から遺伝子発現の二次元の解析,さらには遺
伝子発現とリンクした網羅的タンパク発現の機能解析への三次元の解析へと広がる今後の方向性
を示したものであり読者の参考に資するところが大きい.
3編目の総説として「ゲノム編集を利用した培養細胞や動物における標的遺伝子の改変」が掲
載されている.未知であれ既知であれ遺伝子の機能を研究するには不可欠な技術であるが,従来
から多大な労力を必要としてきた.本総説は遺伝子改変技術の急速な進展と新しい技術の紹介が
なされており読者に有益な情報になる.
3編の総説それぞれがタイムリーな内容を含んでおり,きっと会員の皆様のお役に立つものと
思われる.
(H. I)
─ 150 ─
日本心脈管作動物質学会会則
第11条 会長は理事会の推薦により,評議員会の議決
第1章 総 則
第 1 条 本 会 は 日 本 心 脈 管 作 動 物 質 学 会(Japanese
を経て選ばれ,総会の承認を得るものとする.
会長は総会を主宰する.
Society for Circulation Research)と称する.
第2条 本会の事務局は,三重県津市江戸橋2−174,
第12条 理事会は会長を補佐して会務を執行し,庶務,
会計その他の業務を分担する.理事長は理事会
三重大学医学部薬理学教室内に置く.
の互選により選出され,本会の運営を統括する.
第13条 会計監事は理事より互選により選出し,会計
第2章 目的および事業
第3条 本会は心脈管作動物質に関する研究の発展を図
監査を行う.
り,会員相互の連絡および関連機関との連絡を
第14条 本会には,評議員をおく.評議員は正会員中
保ち,広く知識の交流を求めることを持って目
より選出し,理事会の推薦を経て評議員会で議
的とする.
決し,総会の承認を得るものとする.理事長が
第4条 本会は前条の目的を達成するために次の事業を
これを委嘱する.評議員は評議員会を組織し,
本会に関する重要事項を審議する.
行う.
第15条 編集委員は機関誌“血管”(Japanese Journal
1.学術講演会,学会等の開催
2.会誌および図書の発行
of Circulation Research)を編集し,本会の学
3.研究,調査および教育
術活動に関する連絡を行う.なお,編集に関す
る事項は,事務局にて決定する.
4.関係学術団体との連絡および調整
第16条 役員の任期は会長は1年,理事長,理事,会
5.心脈管作動物質に関する国際交流
計監事および編集委員は2年とする.ただし再
6.その他本会の目的達成に必要な事業
任は妨げない.
第17条 役員は次の事項に該当するときはその資格を
第3章 会 員
第5条 本会会員は本会目的達成に協力するもので次の
失う.
通りとする.
1.定期評議員会時に満65歳を過ぎていた場合
1.正会員
2. 3年間連続で,役員会等を正当な理由なく
して欠席した場合
2.賛助会員
3.名誉会員
第6条 正会員の会費は年額4,000円とする.
第5章 会 議
第7条 賛助会員は本会の目的に賛同し,かつ事業を維
第18条 理事会は少なくとも年1回理事長が招集し,
議長は理事長がこれに当たる.
持するための会費年額100,000円(一口)以上
第19条 総会および評議員会は毎年1回これを開き,
を納める団体または個人とする.
第8条 名誉会員は理事会で推薦し,評議員会の議決を
次の議事を行う.
経て総会で承認する.名誉会員は会費免除とす
1.会務の報告
る.
2.会則の変更
第9条 本会に入会を希望するものは,所定の手続きを
経て,会費を添えて本会事務局に申し込むもの
3.その他必要と認める事項
第20条 臨時の総会,評議員会は理事会の議決があっ
た時これを開く.
とする.原則として2年間会費を滞納したもの
は退会とみなす.
第6章 会 計
第4章 役員および評議員
第21条 本会の事業年度は毎年1月1日より始まり,
第10条 本会は次の役員を置く.
1.会長 1名
12月31日に終わる.
第22条 本会の会計は会費,各種補助金及び寄付金を
もって充てる.
2.理事 若干名(うち理事長1名)
3.会計監事 若干名
─ 151 ─
日本心脈管作動物質学会賛助会員
旭化成ファーマ株式会社
田辺三菱製薬株式会社
アステラス製薬株式会社
日本新薬株式会社
協和発酵キリン株式会社
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
第一三共株式会社
バイエル薬品株式会社
武田薬品工業株式会社
ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
《五十音順》
─ 152 ─
日本心脈管作動物質学会役員
名誉会員
毛利喜久男
中川雅夫
山田和生
平田結喜緒
男(理事長)
一
伊藤 宏
人
寒川賢治
明
玉置俊晃
伊藤正明
西山 成
岩尾 洋
佐田政隆
古川安之
五十嵐淳介
伊藤猛雄
寒川賢治
光山勝慶
中木敏夫
西村有平
大橋俊夫
佐藤靖史
高倉伸幸
徳留 健
牛首文隆
萩原正敏
飯野正光
岩本隆宏
蒔田直昌
三輪聡一
中田徹男
西尾眞友
岡村富夫
末松 誠
多久和陽
土屋浩一郎
山本隆一
服部良之
檜垣實男
廣岡良隆
石橋敏幸
伊藤貞嘉
倉林正彦
小室一成
三浦総一郎
中尾一和
大蔵隆文
佐々木 享
下門顕太郎
筒井裕之
吉栖正生
藤田 浩
東 幸仁
市来俊弘
石光俊彦
岸 拓弥
小林直彦
前村浩二
室原豊明
野出孝一
大柳光正
斎藤能彦
下川宏明
上田誠二
渡邉裕司
(ABC順)
第43回会長
平田健一
理 事
田
平
筒
下
中
田
井
川
利
健
正
宏
監 事
評 議 員
〈基礎〉
〈臨床〉
平田恭信
吉栖正典
安
服
今
岩
松
宮
中
西
新
菅
玉
筒
柳
赤
福
平
池
伊
岸
河
丸
森
錦
楽
渋
下
矢
福永浩司
平野勝也
石井邦明
泉 康雄
南野直人
望月直樹
西田育弘
野間玄督
曽我部正博
高井真司
田中利男
上田陽一
吉栖正典
長谷部直幸
福本義弘
平田恭信
今西政仁
伊藤正明
北村和雄
上月正博
湊口信也
長田太助
小川久雄
佐田政隆
七里眞義
高橋克仁
吉村道博
藤
部
泉
尾
村
田
山
山
藤
原
置
井
澤
澤
田
田
田
藤
野
山
本
見
木
谷
澤
田
譲
裕
祐
靖
篤
貢
隆
俊
正
輝
健
宇
幸
雅
一
俊
宏
正
達
豊
二
一
治
洋
夫
郎
一
成
行
明
晃
人
行
宏
昇
一
一
宏
夫
和
男
聡
雄
実
人
雄
隆
事 務 局
〒514-8507
三重県津市江戸橋2−174
三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野内
TEL 059−231−5411, FAX 059−232−1765
─ 153 ─
会長
第1回研究会 横山 育三
第2回研究会 藤原 元始
第3回研究会 岳中 典男
第4回研究会 毛利喜久男
第5回研究会 藤原 元始
第6回研究会 岳中 典男
第7回研究会 山本国太郎
第8回研究会 毛利喜久男
第9回研究会 土屋 雅晴
第10回研究会 横山 育三
第11回研究会 日高 弘義
第12回研究会 三島 好雄
第13回研究会 東 健彦
第14回研究会 恒川 謙吾
第15回研究会 戸田 昇
第16回学会 塩野谷恵彦
第17回学会 野々村禎昭
第18回学会 河合 忠一
第19回学会 平 則夫
第20回学会 杉本 恒明
第21回学会 安孫子 保
第22回学会 外山 淳治
第23回学会 千葉 茂俊
第24回学会 中川 雅夫
第25回学会 室田 誠逸
第26回学会 猿田 享男
第27回学会 矢崎 義雄
第28回学会 田中 利男
第29回学会 竹下 彰
第30回学会 岩尾 洋
第31回学会 平田結喜緒
第32回学会 荻原 俊男
第33回学会 藤田 敏郎
第34回学会 辻本 豪三
第35回学会 松岡 博昭
第36回学会 玉置 俊晃
第37回学会 下川 宏明
第38回学会 川 博己
第39回学会 伊藤 正明
第40回学会 西山 成
第41回学会 伊藤 宏
第42回学会 吉栖 正典
第43回学会 平田 健一
日本心脈管作動物質学会誌
血管 第36巻4号
2013年12月27日発行
発行人 田中利男
三重大学大学院医学系研究科
発行所 日本心脈管作動物質学会事務局
〒514-8507 三重県津市江戸橋2−174
三重大学大学院医学系研究科
薬理ゲノミクス分野内
TEL 059−231−5411
FAX 059−232−1765
http://jscr21.medic.mie-u.ac.jp/
薬理ゲノミクス分野
印刷所 合資会社 黒川印刷
〒514-0008 三重県津市上浜町2−11
─ 154 ─
・ 総 編 集 長 岩 尾 洋(大阪市立大学大学院医学研究科分子病態薬理学)
・ ベ ー シ ッ ク 編 集 長 玉 置 俊 晃(徳島大学大学院病態情報医学講座情報伝達薬理学分野)
・ オ ミ ッ ク ス 編 集 長 田 中 利 男(三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス)
・ ク リ ニ カ ル 編 集 長 伊 藤 正 明(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学)