米大統領選のここに注目!-政策的にはクリントン氏

2016 年 9 月 29 日
第 76 号
米大統領選のここに注目!-政策的にはクリントン氏
大和住銀投信投資顧問
部長
経済調査部
門司 総一郎
米大統領選は投票日の 11 月 8 日まで残すところ 1 ヵ月余りとなりました。一昨日行われた第 1 回の
テレビ討論会直後の CNN の調査では、ヒラリー・クリントン前国務長官の評価が高かったのですが、
まだまだ分からないとの見方が多数です。今回の「市場のここに注目!」は両者の政策を比較しなが
ら、それぞれが市場に与える影響について検討します。
ヒラリ ー・ クリ ントン前国務長官(民主党)とドナルド・ トランプ氏(共和党)の政策比較(経済/ 内政)
クリントン氏
テーマ
トランプ氏
インフラ投資で雇用創出。
経済
成長率を3.5%に引上げ、10年で2500万人の雇用を創出。
5年で2750億ドル、戦後最大のインフラ投資を公約。
老朽化したインフラへの投資を加速。
無謀な低金利政策により、米国はバブルの危機にあるとイエ
レンFRB議長を非難。
富裕層や大企業、金融機関への課税を強化。
財政/税制 連邦法人税率を35%から15%に引下げ、海外に流出した企
企業の海外所得にも課税、課税逃れ目的の企業の海外
業を呼び戻す。企業の海外所得に課税。
移転には「出国税」を検討。
所得税を7段階から3段階に簡素化、最高税率を39.6%か
ら33%に引下げ。
銃規制強化に賛成。
内政
銃規制強化に慎重。
オバマケアは継続、政府の関与を拡充。
オバマケアは撤廃。
男女の賃金格差を解消、最低賃金を時給15ドルに引上
最低賃金を時給10ドルに引上げ。
げ。
出所:各種報道より作成、修正されている可能性あり
経済政策では(公共投資)+(最低賃金引上げ)のクリントン氏に対し、トランプ氏は減税重視。それ
ぞれ民主党、共和党らしい主張です。トランプ氏によれば減税額は、2001 年のブッシュ減税の 4 倍に
相当する「10 年間で 4.4 兆ドル」とのことですが、財源についての説明は不十分で財政赤字拡大が警
戒されています。それでも、最近の世論調査では「経済政策の評価ではトランプ氏が逆転するケース
が目立つ」(日本経済新聞、9 月 22 日)と米国民はトランプ案に魅力を感じているようです。
企業の租税回避目的での海外拠点設立(コーポレート・インバージョン)への対応でも、両者の主張
は対照的です。懲罰的な出国税も辞さないとするクリントン氏に対し、トランプ氏は法人税率引き下
げで企業を米国内に止める方針です。北風(クリントン氏)と太陽(トランプ氏)を連想させます。
なおトランプ氏は国外に滞留している米企業の利益を国内に還流させる場合、利益にかかる税率を
10%に引下げると主張しています。これはジョージ・ブッシュ大統領(子)による 2005 年の本国投資法
と同じであり、実現すればドル高を促すものとして注目されます。
ここまでを比較すると経済政策の規模、企業に対してフレンドリーな点から見て、株式にはトラン
プ案の方がプラスかと思います。ただし後で述べますが、自由貿易や移民に関してはトランプ氏の方
が消極的であり、これらは米景気の足を引っ張る要因になりそうです。
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注目!
2016 年 9 月 29 日
株式以外では財政赤字拡大が懸念されるため、トランプ氏勝利の場合は米国債が売られそうです。
また先ほど米企業の滞留利益還流はドル高要因と述べましたが、財政赤字の観点からは、むしろドル
安の方がありそうです。逆に金など商品はドル安のヘッジとして買われる可能性があります。
ヒラリ ー・ クリ ントン前国務長官(民主党)とドナルド・ トランプ氏(共和党)の政策比較(外交など)
クリントン氏
テーマ
トランプ氏
強い米国を志向、米国は世界をリードする
外交/安全 米国は世界の警察官ではありえない。
日本を含む友好国との同盟強化
保障
日韓などに対し、米軍駐留の費用負担を要求。
イランとの核開発合意に賛成、北朝鮮への制裁を強化
イランとの核開発合意は破棄。
移民/難民の受け入れに積極的。
移民/難民 移民/難民の受け入れに慎重。
条件付きで永住権を認めるオバマの移民制度改革を支持。 /テロ
オバマ政権の移民制度改革を否定。メキシコ国境に壁を建
シリア難民の受け入れを1万人から6.5万人に拡大。
設、不法移民は強制送還する。難民審査を厳格化。
FTA/EPAは内容を精査して選別。
雇用増や賃金減や賃金低下を招く貿易協定には反対。
現在のTPPには反対。
通商政策
「自由」貿易でなく「公平」な貿易協定を。
米労働者を害する貿易協定には反対。
TPPから撤退、NAFTAは再交渉。
米国を「クリーンエネルギー大国」に。
再生エネルギーへの投資を加速。
環境対策
温暖化対策「パリ協定」から離脱。
石油採掘規制撤廃、火力発電所のCO2排出規制を撤
廃。
日本との関係を重視。
「尖閣は日米安保の対象」と明言。
日本の通貨政策を「円安誘導」と批判。
対日/対中 日米安保条約は「不公平」と発言、日本の核武装を容認。
政策
日本及び中国を「為替操作国」と批判。
出所:各種報道より作成、修正されている可能性あり
外交、その他海外関連の政策ではトランプ氏の内向きな姿勢が目立ちます。クリントン氏も環太平
洋経済連携協定(TPP)に反対など、以前に比べれば内向きですが、それでも安全保障、移民/難民、環
境など両者の差は歴然です。
このトランプ氏の主張の中で世界経済や株式市場にとってもっとも脅威と思われるのは、北米自由
貿易協定(NAFTA)の見直しです。世界の自動車メーカーはメキシコに自動車の製造拠点を置き、そこで
作られた自動車を米国やカナダで販売していますが、本格的に NAFTA が見直されるのであれば、この
戦略も修正を余儀なくされることになります。世界の自動車会社にとって打撃でしょう。
もし NAFTA 以外の自由貿易協定(FTA)も見直すことになれば影響は一段と大きくなります。米経済に
とってもマイナスです。
また足元の米国の失業率は 9 年ぶりの低水準です。移民受け入れを制限すれば人手不足が深刻化す
る恐れがあります。これも米国経済にとってマイナスと考えています。
以上を総合すると、トランプ氏の方が経済や株式にプラスの政策もありますが、特に通商政策のス
タンスの違いから世界の経済や株式市場にとって政策面で望ましいのはクリントン氏であると考えて
います。もしトランプ氏勝利となれば、メキシコなど米国と FTA を締結している国の通貨や株式市場
にとって売り要因との見方です。
以上
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す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
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