不当労働行為と法 - 国立大学法人 大分大学

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不当労働行為と法
鈴
目
次
1
問題の所在
2
不当労働行為制度の意義と目的
不当労働行為制度の意義
不当労働行為制度の目的
3
不当労働行為の主体
不当労働行為における使用者概念
使用者への帰責
4
不当労働行為の類型と成立要件
不利益取扱い
黄犬契約
団交拒否
支配介入
5
複数組合併存下の不当労働行為
使用者の中立保持義務
差し違え条件の提示と不当労働行為
賃金・昇格差別の立証
6
不当労働行為の救済手続
救済の方法とその特質
初審手続
救済命令の内容と限界
再審査手続
取消訴訟
不当労働行為の司法救済
木
芳
明
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1
不当労働行為と法
問題の所在
旧労組法 (条・条) は, 使用者の一定の団結権侵害行為に対し刑事制裁
を科すという態度 (科罰主義) をとっていたが, 現行労組法 (
条・7条) は,
行政的救済の方法を設定している。 使用者による団結権等の侵害行為を労働委
員会の行政処分によって排除し, 正常な労使関係秩序の形成をはかることを目
的とするものであり, 不当労働行為制度と呼ばれている。 それは, 私権侵害行
為という観点からではなく, 団結権の法認段階における合理的な労使関係秩序
に違反するという観点から使用者の団結権等侵害行為を把握していこうとする
ものである。
行政的救済主義が貫かれているアメリカの場合とは異なり, わが国では司法
的救済の方式も存在するが, 正常な労使関係の制度的確立をはかっていこうと
いう公益的目的を有する不当労働行為制度は, わが国で支配的な企業別組合が
使用者の影響・介入を受けやすいという構造的体質をもっていることから, 切
実な存在意義をもつといわざるをえない1)。
労組法7条は, 使用者に対して, 労働組合の組合員であることや労働組合の
正当な行為をしたこと等を理由に不利益な取扱いをすること (不利益取扱い,
同1号・4号), 正当な理由なく団体交渉を拒否すること (団交拒否, 同2号),
組合の結成や運営を支配しこれに介入すること (支配介入, 同3号) を禁止し
ている。 これらは, 憲法条および労組法が助成する 「労使対等」 の集団的労
使関係の基本的ルールであるが, これらをめぐっては, 労使の流動的な力関係
のなかで困難な法的問題が多数生じ, 判例・学説上, 不当労働行為制度の趣旨・
目的や不当労働行為の意思, 雇入れ拒否と不当労働行為, 人事考課・賃金差別
と不当労働行為, 支配介入と使用者への帰責, バックペイと中間収入の控除,
使用者の言論の自由と支配介入, 会社解散と不当労働行為, 併存組合と不当労
) 久保敬治=浜田冨士郎
労働法
(年, ミネルヴァ書房) 頁以下。
( )
働行為等の問題について活発に議論が展開されてきた。
本稿では, このような状況を踏まえ, 不当労働行為制度に関する法的諸問題
(不当労働行為制度の意義と目的, 不当労働行為の主体, 不当労働行為の類型
と成立要件, 複数組合併存下の不当労働行為, 不当労働行為の救済手続) につ
いて検討を行うことにしたい2)。
2
不当労働行為制度の意義と目的
不当労働行為制度の意義
不当労働行為制度とは, 使用者の集団的労使関係における一定の不公正な行
為を不当労働行為として禁止し, その行為があった場合には, 労働委員会 (行
政機関) が行政救済命令を発し, 正常な集団的労使関係秩序の回復・確保をは
かる制度である3)。
わが国の不当労働行為制度は, アメリカ法, とくに年の全国労働関係法
(ワグナー法) の影響を受け, 年改正労組法において導入され, その後独
自の発展を遂げたものである。
労働委員会は, 権利義務の存否について判断を行う裁判所によってはなしえ
ない柔軟な救済措置を命ずる裁量権をもっている。
) 久保=浜田・前掲注 ) 書頁以下, 下井隆史 労使関係法 (年, 有斐閣)
頁以下, 山口浩一郎 労働組合法 第2版
(年, 有斐閣) 頁以下, 西
谷敏 労働組合法 第3版
(
年, 有斐閣) 頁以下, 菅野和夫 労働法
第
版 (
年, 弘文堂) 頁以下, 頁以下, 荒木尚志 労働法 第2版
(
年, 有斐閣) 頁以下, 土田道夫 労働法概説 第3版 (
年, 弘文堂)
頁以下, 水町勇一郎 労働法 第5版
(
年, 有斐閣) 頁以下, 中窪裕
也=野田進 労働法の世界 第版
(
年, 有斐閣) 頁以下, 東京大学労
働法研究会 注釈労働組合法 上巻 (
年, 有斐閣) 頁以下, 西谷敏ほか編・
別冊法学セミナー 新基本法コンメンタール 労働組合法 (
年, 日本評論社)
頁以下, 盛誠吾 「不当労働行為制度の趣旨・目的」 ジュリスト増刊 労働法の争
点 (
年, 有斐閣) 頁以下など参照。
) 下井・前掲注 ) 書頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 )
書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下など
参照。
( )
不当労働行為と法
労組法7条が禁止する不当労働行為は, ①不利益取扱い (1号), ②黄犬契
約 (同号), ③団交拒否 (2号), ④支配介入 (3号), ⑤経費援助 (同号), ⑥
報復的不利益取扱い (4号) の6つの類型に分かれる。 そのうち, ②, ⑥は①
の, ⑤は④の一類型であり, 不当労働行為の基本的な類型は, ①, ③, ④の3
つであるといってよい。 実際には, 使用者の行為が複数の不当労働行為に該当
するケースが少なくない。
不当労働行為制度の目的
不当労働行為制度の目的に関しては, 憲法条との関係をどう理解するかに
よって, 学説上見解が対立している。 すなわち, ①不当労働行為制度を憲法上
の団結権保障の具体化ととらえ, 不当労働行為を使用者の団結権侵害行為であ
るとする見解 4) (団結権侵害説), ②団結権保障を前提とした 「公正な労使関
係秩序」 ないし団結権保障秩序の形成が不当労働行為制度の目的であるとし,
不当労働行為はそれに違反する行為であるとする見解5) (団結権保障秩序維持
説), ③不当労働行為制度を円滑な団体交渉を基本とする適正な労使関係の実
現を目的とする独自の制度とみる見解6) (団交権重視説) などである。
最高裁は, 不当労働行為制度は, 「労働者の団結権及び団体行動権の保護を
目的」 とする労組法7条の実効性を担保するために設けられたものであり, 行
政的救済の目的は 「正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復, 確保を図る」 こ
とにあるとして, ①説と②説の双方を視野に入れた立場を示している7)。
) 籾井常喜 経営秩序と組合活動 (年, 総合労働研究所) 頁以下, 本多淳
亮ほか 不当労働行為論 (年, 法律文化社) 頁, 外尾健一 労働団体法
(年, 筑摩書房) 頁, 西谷・前掲注 ) 書
頁など。
) 岸井貞男 不当労働行為の法理論 (
年, 総合労働研究所) 1頁以下, 久保=
浜田・前掲注 ) 書頁, 下井・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 ) 書頁な
ど。
) 石川吉右衞門 労働組合法 (年, 有斐閣) 頁以下, 菅野・前掲注 ) 書
頁など。
) 第二鳩タクシー事件・最大判昭 ・・
民集
巻1号
頁。
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①説は行政的救済の特殊性を十分に評価していない点で妥当性に欠け, ③説
は保護法益を団体交渉に限定している点でやや狭きに失することから, ②説の
立場が妥当といえる。
3
不当労働行為の主体
労組法によって不当労働行為をなすことを禁止されるのは 「使用者」 (同7
条) である。 しかし, 労組法はとくに使用者に関する定義規定を置いていない
ため, 同法によって使用者とされるのはいかなる者かが問題となる8)。
労働契約の一方当事者たる使用者 (個人企業の場合は企業主たる個人, 法人
企業の場合は法人) がこれにあたることはいうまでもない。 問題となるのは,
労働契約上の使用者以外の法主体も使用者とみなしうるか, いかなる場合に使
用者以外の個人の行為を使用者へ帰責できるかである。
不当労働行為における使用者概念
労組法には 「労働者」 に関する定義規定はあるが (同3条), 「使用者」 につ
いては定義規定が置かれていない。
不当労働行為についていえば, 労働者との間で労働契約を締結している雇用
主が使用者に該当することは当然であるが, それに限定されるわけではない。
学説では, 「使用者の範囲」 をどのように画すべきかをめぐって, これまで
活発に議論がなされてきた。 初期の学説では, 労働契約上の使用者に限定する
見解もみられた9)。 しかし, 不当労働行為は契約責任を追及するものではなく,
) 下井・前掲注 ) 書頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 )
書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 安枝英=西村健一郎 労働法 第
版
(年, 有斐閣) 頁以下, 荒木・前掲注 ) 書
頁以下, 土田・前掲
注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前掲注 ) 書頁以下, 西谷ほか・前掲注 )
書頁以下, 竹内 (奥野) 寿 「労働組合法7条の使用者」 季刊労働法
号 (
年) 頁以下, 本久洋一 「使用者の概念」 ジュリスト増刊 労働法の争点 (
年, 有斐閣) 7頁以下など参照。
) 浅井清信 労働法論 (
年, 有斐閣) 頁など。
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不当労働行為と法
集団的労働関係における独特の違法類型であるとして, 使用者をより広く考え
る見解が有力となった。
問題は, 労組法7条にいう 「使用者」 をどのように定義するかである。 従来,
学説では, これを 「労働者の労働関係……に影響力ないし支配力を及ぼしうる
地位にある一切の者」) というように, 実質的な影響力・支配力を基準として,
広く解するものが多かった) (支配力説)。
これに対して, 近時の有力説は, 支配力・影響力では不明確で広範すぎると
して, 「労働契約関係ないしはそれに近似ないし隣接した関係を基礎として成
立する団体的労使関係の一方当事者」 ), あるいは 「労働契約の当事者および
実際上それに準ずる地位にある者」) が使用者である, と定義する (労働契約
基本説ないし労働契約基準説)。
学説上, 支配力説が多数説であるが, 外延が際限なく広がるような概念でもっ
て不当労働行為責任を負うべき 「使用者」 の範囲を画することは妥当とはいえ
ないであろう。 基本的に 「労働契約の当事者および実際上これに準ずる地位に
ある者」 を 「使用者」 ととらえ, 個々の事案における具体的諸事情を勘案しな
がら使用者であるか否かを判断すべきであると考える)。 被解雇者に対し, 使
用者が不法行為責任を負うべき場合があることはいうまでもない。 採用拒否に
) 片岡=村中孝史補訂 労働法 第4版
(年, 有斐閣) 頁。
) 岸井・前掲注 ) 書頁以下, 籾井・前掲注 ) 書頁, 本多ほか・前掲注 )
書頁, 盛誠吾 労働法総論・労使関係法 (年, 新世社) 頁など。 なお,
外尾・前掲注 ) 書頁は, さらに広く, 労働者の団結体と 「団結目的に関連し
て対向関係に立つもの」 と定義する。
) 菅野・前掲注 ) 書頁。 同旨, 荒木・前掲注 ) 書頁, 土田・前掲注 )
書頁。
) 下井・前掲注 ) 書頁。 なお, 「法人格否認の法理」 (法人格の実態がなく形
骸化している場合, または法の適用を回避するために法人格が濫用されている場合
に, 当該法律関係において独立の法人格の存在を否定する考え方 山世志商会事件・
最一小判昭 ・・民集巻2号頁 ) を援用して 「使用者」 概念を拡大する
理論も, 論理構成, 適用の外延の点では, この説に近いといえる (中島正雄 「不当
労働行為における使用者責任」 労旬号 年 4頁以下参照)。
) 同旨, 下井・前掲注 ) 書頁。
( )
ついて, 不採用の措置をとった企業が, 当該労働者に対して不当労働行為 (不
利益取扱い) 責任を負う 「使用者」 となる場合もあろう。 さらに, 社外・出向・
派遣労働者や子会社従業員等を受け入れている企業に関しても, 「労働契約の
当事者に準ずる地位にある者」 として 「使用者」 にあたると解される場合が少
なからず生じるであろう。
最高裁は, 早くから請負契約にもとづいて設計業務に従事する労働者を受け
入れる企業 ) やキャバレーの専属バンドを受け入れるキャバレー経営会社 )
などを労組法7条の 「使用者」 と認めてきたが, これらは労働者を雇用する使
用者が形骸化しているケースであった。 しかし, 最高裁は, 年の朝日放送
事件判決 ) において, 一応の独立性をもった下請企業が請負契約にもとづい
てテレビ番組制作業務に従事する労働者を派遣していたケースについても,
「雇用主以外の事業主であっても, 雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業
務に従事させ, その労働者の基本的な労働条件等について, 雇用主と部分的と
はいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配, 決定することができる地位
にある場合には, その限りにおいて」 労組法7条の 「使用者」 にあたるとして,
労働者を受け入れた放送会社が団交拒否等について不当労働行為責任を負うこ
とを認めた。
この最高裁判決は, 雇用主と労働者の労働契約が単なる形式にすぎないよう
な場合にかぎり受入企業の使用者責任を認めるとの原判決を破棄し, 雇用主
(派遣元) が一定の実態をもち使用者としての責任を負うべき場合にも, 受入
企業が雇用主と並んで労組法上の使用者 (同7条2号・3号) となりうること
を認めた点で重要な意義を有する)。
) 油研工業事件・最一小判昭 ・・6民集巻4号頁。
) 阪神観光事件・最一小判昭 ・
・
労判
号6頁。
) 朝日放送事件・最三小判平 ・
・
民集巻2号頁。 1審判決は 「勤務の割
り付けなど就労に係る諸条件について」 団交を拒否してはならないという中労委命
令を適法としたが, 2審判決は, 会社は労組法7条2号の 「使用者」 にはあたらな
いとした。
) 西谷・前掲注 ) 書頁以下参照。
( )
不当労働行為と法
使用者への帰責
解雇や懲戒処分, 団交拒否は, 通常, 使用者の名においてなされる行為であ
り, 行為主体と帰責主体が一致するため, 特に問題は生じない。 しかし, 実際
には, 不利益取扱いや支配介入が管理職・職制等によってなされることが多く,
こうした場合に当該行為を使用者の行為として使用者に帰責できるかが問題と
なる。
会社役員 (社長・取締役) の行為は, その職責上, 当然に使用者の行為とみ
なされるが, 工場長や部課長等の使用者の利益を代表する上級職制の行為も,
職務と全く関係のない個人的な立場においてなされたといった特別の事情のな
いかぎり, 使用者の意を受けたものとして使用者の行為と評価される。 最高裁
は, 「労働組合法 条 号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位
にある者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には,
使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも, 当該支配介入をもって使用者
の不当労働行為と評価することができる」 と判断している)。
これに対し, 下級職制 (係長・主任等) や一般従業員の場合には慎重な判断
を要する。 下級職制が職務権限にもとづいて行った言動については, その行為
は使用者に帰責されるが, 下級職制の職務権限とは無関係の言動や一般従業員
の言動については, 使用者や管理職からの指示・要請等にもとづいてなされた
場合に, その行為が使用者に帰責されると解される)。
4
不当労働行為の類型と成立要件
不当労働行為と認められるためには, 使用者の行為が労組法7条に定める類
型, すなわち①不利益取扱い (1号), ②黄犬契約 (同号), ③団交拒否 (2号),
④支配介入 (3号), ⑤経費援助 (同号), ⑥報復的不利益取扱い (4号) に該
) 東海事件・最二小判平 ・・労判号5頁。
) 西谷・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書
頁以下参照。
( )
当することを必要とする。 不当労働行為の基本的な類型は, 不利益取扱い, 団
交拒否, 支配介入の3類型である)。
労組法7条各号間の関係については, かつては7条各号を並列的な規定と解
する説) (並列規定説) と, 7条3号を包括的規定と解し, 1, 2号をその例
示であるとする説) (包括規定説) が対立していたが, 現在では並列規定説が
支配的な見解となっている。
不当労働行為に対する救済方法 (救済命令の内容) については, 労働委員会
に裁量権が認められている)。 しかし, 不当労働行為の成否の判断については,
労働委員会に裁量権はないというのが判例の立場である)。
不利益取扱い
不利益取扱いの理由
労働者が, 労働組合の組合員であること, 労働組合に加入しもしくはこれを
結成しようとしたこと, または労働組合の正当な行為をしたことの故をもって,
あるいは労働委員会に不当労働行為の救済申立て等をしたことを理由として解
雇その他の不利益な取扱いをすることを不利益取扱いの不当労働行為という
(労組法7条1号・4号)。 直接不利益な取扱いをすることだけでなく, 他の従
業員や組合員を差別して取扱うことを含む。
) 下井・前掲注 ) 書頁以下, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 西谷敏 労働法
[第2版] (
年, 日本評論社) 頁以下, 同・前掲注 ) 書
頁以下, 菅野・
前掲注 ) 書頁以下, 安枝=西村・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 )
書
頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁以下, 中窪=野田・前掲注 ) 書頁以
下, 西谷ほか・前掲注 ) 書頁以下など参照。
) 本多ほか・前掲注 ) 書頁以下, 外尾・前掲注 ) 書頁, 片岡=村中・前
掲注) 書頁など。
) 石川吉右衞門 「労働組合法第7条1号と同第3号との関係」 菊池勇夫教授六十年
祝賀記念 労働法と経済法の理論 (
年, 有斐閣) 頁以下, 道幸哲也 労使
関係のルール (年, 労働旬報社) 頁以下。
) 第二鳩タクシー事件・前掲注 ) 判決。
) 寿建築研究所事件・最二小判昭 ・・労判号頁。
( )
不当労働行為と法
「労働組合」 は, 労組法上の適格組合であることが必要で, 労働組合が救済
申立てを行う場合は資格審査を受けなければならない (同5条1項)。 組合が
資格要件をみたさない場合であっても, 個々の労働者は不利益取扱いからの保
護を受けることができる (同項但書)。
「組合員であること」 を理由とする不利益取扱いは, 組合員と非組合員の差
別的取扱いだけでなく, 複数組合が併存する場合の特定組合への所属や, 組合
内の特定集団への所属を理由とする不利益取扱いもこれに含まれる。
組合への加入や結成の企図を理由とする不利益取扱いも, 同じく禁止される。
争議団等の一時的団結体には労組法7条1号の保護は及ばないが, それら組織
が組合結成の準備活動を行っている場合は, 労働組合を 「結成しようとしたこ
と」 による保護を受ける。
「労働組合の正当な行為」 における正当性については, 団体行動における正
当性と同一と解される。 問題は, 「労働組合の……行為」 の範囲如何であるが,
労働組合の行為と評価されるためには, 組合員の個人的行為ではなく, 組合の
機関決定や指令にもとづく行為と評価されることが必要である。 機関決定や指
令にもとづかない組合員の活動については説が分かれているが, 通説は, 広く
組合または組合員のために行う活動を労働組合の行為であるとしてこれを肯定
する)。 大筋としては, これでよいであろう。
不利益取扱いの態様
不利益取扱いは, 「労働者を解雇し, その他これに対して不利益な取扱いを
する」 という態様でなされる。 この 「不利益な取扱い」 には, 労働関係上の地
位の得喪や人事上の処遇に関するもの, 組合活動上の不利益に関するもの, 生
活上の不利益に関するものなど, さまざまな態様のものが含まれる。 典型的な
ものだけでも, 解雇, 労働契約の更新拒否, 本採用拒否, 懲戒解雇, 休職のほ
) 外尾・前掲注 ) 書頁以下, 久保=浜田・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 )
書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書頁以下など。
( )
か, 労働者に不利益をもたらす配転・出向・転籍等の命令, 出勤停止・譴責等
の懲戒処分, 賃金差別, 昇格・昇給の差別, 残業差別など, 多種多様なものを
あげることができる。 採用拒否も不利益取扱いになりうるし, 栄転の形をとっ
ていても組合活動を困難にするものであれば不利益取扱いになると一般に解さ
れている。
不当労働行為意思
不利益取扱いについては, 組合員であること, 組合への加入, 組合結成, 正
当な組合活動の 「故をもつて」 (同7条1号), また, 労働委員会への申立て等
の行為を 「理由として」 (同条4号), 解雇その他の不利益取扱いをすることが
禁止されている。 この 「故をもつて」 については, 使用者の不利益取扱いの意
思を要件としたものであり, 使用者が労働者の組合活動等の事実を認識し,
その事実の故に不利益取扱いを行おうとする意欲をもったことと理解され, 不
当労働行為意思とは, 「反組合的な意思ないし動機」 のことであるとされてい
る)。
これに対しては, 不利益取扱いの意思は不要であり, 組合員であることや正
当な組合活動をしたことと不利益取扱いとの間に因果関係が存在すれば足りる
と説く見解) (意思不要説) もある。 しかし, 不利益取扱いが使用者の具体的
な行為である以上, その意思を問題とせざるをえないことから, 意思必要説が
妥当と解される)。
不利益取扱いが第三者の圧力によってなされたことも, 不当労働行為の成立
を妨げるものではない)。
) 石井照久 新版 労働法 (第3版) (年, 弘文堂) 頁, 外尾・前掲注 )
書頁, 山口・前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書
頁以下, 荒木・
前掲注 ) 書
頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁以下など。
) 久保=浜田・前掲注 ) 書頁, 石川・前掲注 ) 書頁など。
) ただし, 不利益取扱いの意思は内心の状態に関するものであるため, 組合に対す
る使用者の日頃の態度等も考慮して, 外部に表れた間接事実から総合的に判断され
ることになる。
) 山恵木材事件・最三小判昭 ・
・民集巻4号
頁。
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不当労働行為と法
理由 (動機) の競合
使用者による不利益取扱いについて, それを正当化する理由と使用者の反組
合的意図が同時に認定される場合がある。 これを理由 (動機) の競合という。
理由の競合の場合における不当労働行為の成否に関する見解には種々のものが
あるが, 今日の一般的な考え方は 「決定的動機説」 ), すなわち組合所属また
は組合活動と正当化理由のいずれが不当労働行為の決定的 (優越的) 理由であっ
たかを判断して不当労働行為の成否を決するというものである)。
黄犬契約
労組法7条1号後段は, 「労働者が労働組合に加入せず, 若しくは労働組合
から脱退することを雇用条件とすること」, すなわち黄犬契約 (
) の締結を不当労働行為として禁止する。 組合一般への不加入・脱退
だけでなく, 特定の組合への不加入・脱退を条件とすることも含まれる。 組合
に加入しても積極的に活動しないという約定も, これに該当する)。
団交拒否
労組法7条2号は, 使用者が雇用する労働者との団体交渉を正当な理由なく
拒否することを不当労働行為として禁止する。 これについては, 団交の当事者,
団交の担当者, 義務的団交事項の範囲, 誠実交渉の態様などが問題となる)。
) 千種達夫 「不当労働行為意思の認定」 石井照久=有泉亨編・労働法大系4 不当
労働行為 (
年, 有斐閣) 頁, 東京燒詰金属事件・東京高判平 ・・労
判号6頁 (最三小判平 ・・労判号頁) など。
) 「決定的動機説」 のほかには, 正当化理由が存在するかぎり不当労働行為は成立
しないとする 「不当労働行為否認説」 (吾妻光俊 解雇
年, 勁草書房 頁), 組合活動等が存在しなければ解雇等がなされなかったであろうといえる場合
は不当労働行為を認める 「相当因果関係説」 (外尾・前掲注 ) 書頁, 片岡=村
中・前掲注) 書頁) などがある。
) 石川・前掲注 ) 書頁, 山口・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁
以下。
) 詳細については, 鈴木芳明 「団体交渉と法」 大分大学経済論集巻 ・号 (
年) 頁以下参照。
( )
支配介入
支配介入の意義
労組法7条3号は, 「労働者が労働組合を結成し, 若しくは運営することを
支配し, 若しくはこれに介入すること」 を禁止する。 「支配」 と 「介入」 は異
なる意味内容を含む言葉であるが, 支配介入が同じ条文の中で規定され, 効果
が異ならないことから, 組合の結成・運営に対する一切の妨害や干渉行為が
「支配介入」 にあたると解しておけばよいであろう。 支配介入には, 個々の労
働者に対する不利益取扱いが同時に支配介入と評価されるものと, 労働組合を
対象としてなされる抑圧行為の双方が含まれる。
不利益取扱いにおける 「不当労働行為意思」 と類似した問題が支配介入に関
してもある。 支配介入については, 7条1号, 4号のように 「故をもつて」,
「理由として」 といった文言がないことから, 不当労働行為意思が要件となる
かどうかについて見解が分かれている。 判例 ) は, 使用者の言論が支配介入
にあたるかどうかが問題となったケースにおいて, 「客観的に組合活動に対す
る非難と組合活動を理由とする不利益取扱の暗示とを含むものと認められる発
言により, 組合の運営に対し影響を及ぼした事実がある以上, たとえ, 発言者
にこの点につき主観的認識乃至目的がなかつたとしても, なお労働組合法7条
3号にいう組合の運営に対する介入があつたものと解するのが相当」 としてい
る。 この判決については, 客観的に団結権侵害の事実があればよく, 支配介入
の成立には意思は不要との見解 (意思不要説) を示したものであるという理解
と, 本件では発言自体から不当労働行為意思が当然に推定され, 結果発生の認
識・意思までは必要ではないという見解 (意思必要説) を示したものであると
いう理解が対立している)。
この点については, 条文の文言からすると, 支配介入をなそうとする使用者
) 山岡内燃機事件・最二小判昭 ・・民集8巻5号頁。
) 中窪裕也 「支配介入と不当労働行為意思」 別冊ジュリスト 労働判例百選 (第五
版) (年, 有斐閣) 頁, 西谷ほか・前掲注 ) 書頁以下参照。
( )
不当労働行為と法
の意欲・認識までは要件とされていないが, 広い意味で反組合的意思をもって
行為がなされたことは必要であると解すべきであろう。 支配介入の意思は, 不
利益取扱いの意思と同様, 外部に表れた間接事実から推認されることになる)。
支配介入の態様
支配介入には, さまざまな態様のものがある。 組合の結成に対する支配介入
としては, 組合結成に対する嫌がらせ・非難, 組合結成の中心的人物の解雇・
配転・懲戒処分, 組合の組織・運営に対する支配介入としては, 組合の活動方
針への介入, 組合活動家の解雇・配転, 組合活動の妨害, 組合の分裂工作, 組
合からの脱退の慫慂, 別組合の結成援助, 別組合の優遇など, 多様な形態をあ
げることができる。
なお, 不利益取扱い (労組法7条1号) や団交拒否 (同条2号) に該当する
行為は, 組合に対する弱体化行為として, 同時に支配介入にも該当しうる。
言論の自由と支配介入
支配介入の成否について, しばしば問題となるのは, 使用者の言論の自由と
の関係である。 学説上は, 基本的人権である表現の自由 (憲法条) の重要性
を強調して, 使用者の言論活動は報復・威嚇・利益の供与等 (いわゆるプラス・
ファクター) を含まないかぎり支配介入とはならないとする見解) もあるが,
そのように限定することに反対し, 組合の結成・運営に影響を及ぼす可能性が
あれば, 支配介入となりうるとする見解) が有力である。
言論の自由に対する制約は極力避けるべきであるが, 報復・威嚇等を伴う言
論のみが支配介入になるとまで割り切って考えることはできない。 使用者の言
論が支配介入となるかどうかは, 発言等の内容, それがなされた状況, 組合・
組合員に与えた影響等の具体的な諸事情から判断されるべきであろう。 判例・
) 日本アイ・ビー・エム事件・東京高判平 ・・労判号頁。
) 山口・前掲注 ) 書頁など。
) 外尾・前掲注 ) 書頁, 片岡=村中・前掲注) 書頁, 下井・前掲注 )
書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書
頁など。
( )
労委命令も, 一般にはこのような考え方をとっていると思われる)。
経費援助
労組法7条3号は, 支配介入に付随して, 「労働組合の運営のための経費の
支払につき経理上の援助を与えること」 を禁止している。 元来, 組合運営のた
めの経費は, 組合が自ら負担すべきものであり, 使用者による援助は, 組合の
自主性を損なうおそれがあるためである。 ただし, ①労働者が労働時間中に賃
金を失うことなく使用者と協議・交渉すること, ②組合の福利基金などに使用
者が寄附をすること, ③最小限の広さの事務所を供与することは, 例外として
許容されている (同号但書)。
これらの例外に該当しないかぎり, 「経費援助」 は不当労働行為となる。 経
費援助に該当するものとしては, たとえば在籍専従者の給与, 組合の経費 (光
熱費・電話料等) の会社負担などが考えられるが, 学説上は, 一般に, これら
の経費援助について, 形式的には不当労働行為に該当するようにみえても実質
的に組合の自主性を阻害しないものはこれに該当しないとする見解が多数を占
めている)。
経費援助が不当労働行為に該当するか否かについては, 実際に組合の自主性
を喪失させる可能性があるか, いかなる意図をもって使用者が経費援助を行っ
ているか等の諸事情を勘案して実質的に判断すべきであろう)。
) 山岡内燃機事件・前掲注) 判決, プリマハム事件・最二小判昭 . ・労経
速号5頁など。
) 外尾・前掲注 ) 書頁, 菅野・前掲注 ) 書頁など。 なお, 裁判例におい
ては, 専従者の一時金負担を経費援助にあたらないとした北港タクシー事件・大阪
地判昭 ・・労経速号8頁, 専従者の給与負担を経費援助にあたるとした
安田生命保険事件・東京地判平 ・・労判
号頁などがある。
) 同旨, 西谷・前掲注 ) 書頁。
( )
5
不当労働行為と法
複数組合併存下の不当労働行為
使用者の中立保持義務
わが国では, 一企業内に複数組合が併存している場合が少なくない。 法的に
は, 各組合は組合員の多寡や運動方針を問わず, 労働基本権を平等に保障され
ている (複数組合主義)。 その帰結として, 企業内に複数組合が併存する場合,
使用者は, その団結を承認し, いずれの組合に対しても中立的な態度を保持す
る義務 (中立保持義務) を負う)。 判例も, 「単に団体交渉の場面に限らず,
すべての場面で使用者は各組合に対し, 中立的態度を保持し, その団結権を平
等に承認, 尊重すべきものであり, 各組合の性格, 傾向や従来の運動路線のい
かんによつて差別的な取扱いをすることは許されない」 として, これを認めて
いる)。
そこで, 使用者が複数組合の組合員の労働条件に差異を設けること, 団体交
渉において両者を差別することは, 不利益取扱いもしくは団交拒否と同時に,
支配介入の不当労働行為ともなる。 また, 使用者が, 複数組合間で組合事務所
貸与等の便宜供与について差別することも, 支配介入の不当労働行為となる)。
差し違え条件の提示と不当労働行為
使用者が, 団体交渉において, 交渉事項の妥結の前提として複数組合に同一
条件を提示し, 一方 (多数) 組合がこれを受け入れて妥結したのに対し, 他方
(少数) 組合が拒否したために不利益な取扱いを受けている場合, 不当労働行
為が成立するかが問題となる。
企業内に複数組合が併存する場合, 使用者は, 各組合に対して等しく中立保
) 山口・前掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 )
書頁以下, 安枝=西村・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 ) 書
頁以
下, 土田・前掲注 ) 書頁以下など参照。
) 日産自動車 (残業差別) 事件・最三小判昭 ・・民集
巻3号頁。
) 日産自動車 (組合事務所) 事件・最二小判昭 ・・労判
号6頁。
( )
持義務を負うが, この義務を尽くしているかぎり, 原則として不当労働行為は
成立しない。 各組合には団体交渉権が保障されており, それぞれの組合の判断
で取引を行い, 異なる結果が生ずることが予定されている。 また, 使用者とい
かなる条件で妥結するかは労使間の力関係によって決せられることから, 多数
組合が有利な条件で妥結し, 少数組合が不利な条件で妥結し, あるいは妥結に
至らなかったとしても, それは取引の結果であり, 不当労働行為の問題は生じ
ないとも考えられる。 しかしながら, このような団体交渉の結果としての異別
取扱いが少数組合の弱体化を意図してなされたと認められる特別な場合には,
例外的に不当労働行為が成立しうる)。
この点, 最高裁は, 使用者が併存組合との年末一時金の団体交渉において
「生産性向上に協力する」 ことの受入れを提案し, 多数組合はこれを受諾した
が, 少数組合はこの条件に反対し, 使用者もこの条件に固執して妥結しなかっ
たケースにつき, 使用者による前提条件への固執には合理性がなく組合弱体化
の意図があったとして, 不当労働行為の成立を認めている)。
また, 最高裁は, 使用者が多数組合と合意して実施した 「計画残業」 に反対
を表明していた少数組合の組合員に対して残業を命じなかったケースについて,
「団体交渉の場面においてみるならば, 合理的, 合目的的な取引活動とみられ
うべき使用者の態度であつても, 当該交渉事項については既に当該組合に対す
る団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となつて行われ
た行為があり, 当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に
行われているものと認められる特段の事情がある場合には, 右団体交渉の結果
としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が
成立する」 と判示している)。
) 同旨, 菅野・前掲注 ) 書頁, 荒木・前掲注 ) 書頁以下, 土田・前掲注
) 書頁以下など。
) 日本メール・オーダー事件・最三小判昭 ・・
民集巻7号頁。
) 日産自動車 (残業差別) 事件・前掲注) 判決。
( )
不当労働行為と法
賃金・昇格差別の立証
賃金や昇格について組合所属のゆえをもって差別することは, 不当労働行為
として救済が問題となる。 しかし, 賃金・昇格の決定は, 使用者の人事考課を
経て実施され, その資料についても人事の秘密, 個人情報の保護等を理由に提
出に応じないケースが多く, 差別の立証には困難が伴う。
こうした事情を考慮し, 労働委員会は, 早くからこの種の事案について 「大
量観察方式」 と呼ばれる手法を用いて対処してきた)。 大量観察方式とは, 労
働者側が差別の外形的事実, とくに問題となっている組合員の賃金・地位と同
じ条件にある他組合員や非組合員の賃金・地位の間に格差が存在することと,
使用者が労働組合を嫌悪する態度をとっていたことを立証すれば, 使用者の差
別的査定によって格差が生じたものと一応推認し, 使用者側が格差の合理性を
立証しないかぎり, 不当労働行為の成立を認めようとするものである。 労働委
員会によって確立されたこの判断手法は, 最高裁においても支持されている)。
しかし, 近年, 労働条件の個別化 (能力・成果主義の強化) によって, 同期・
同学歴の労働者の間でも賃金・地位の格差が広がっているという状況のなかで,
従来の大量観察方式を見直そうとする傾向が強くなっている)。
6
不当労働行為の救済手続
救済の方法とその特質
不当労働行為の救済は, 行政機関である労働委員会が労組法 条各号に該当
する行為を行った使用者に対して 「救済命令」 を発する形で行われる。 それは,
) 紅屋商事事件・最二小判昭 ・・労判号6頁。
) 西谷・前掲注) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 荒木・前掲注 )
書頁など参照。 詳しくは, 直井春夫=成川美恵子 「査定差別」 日本労働法学会
編・講座世紀の労働法8 利益代表システムと団結権 (年, 有斐閣) 頁
以下。
) 中央労働委員会 「労働委員会における 大量観察方式 の実務上の運用について」
中労時号 (年) 頁以下。
( )
当事者間の権利義務関係を判断するものではなく, 将来に向かって一定の作為・
不作為を命じる行政処分である)。
旧労組法は直罰主義を採っていたが (同条・
条), 現行労組法では行政
救済制度が導入され, 不当労働行為の結果を是正できるようになっている。
労働委員会は, 労組法によって設置された独立の専門的行政委員会であり
(労組法条以下), 都道府県知事の所轄する都道府県労働委員会 (都道府県労
委) と, 厚生労働大臣所轄の中央労働委員会 (中労委) から成る。 そして, 労
働委員会は, 使用者委員, 労働者委員, 公益委員同数から成る三者構成を特色
とする。
不当労働行為の救済手続は, 初審手続, 再審査手続, 行政訴訟 (労働委員会
の命令の取消訴訟) に大別される。 行政訴訟については, 出訴機関や再審査と
の関係につき労組法上規定があるほかは行政事件訴訟法の手続による。
初審手続
管轄
労働委員会の救済制度は, 原則として二審制をとっている。 不当労働行為の
申立ては, 原則としてまず都道府県労委に対してなされる。 事件を管轄するの
は, 労働者・使用者の住所地, 労働組合の主たる事務所の所在地, または不当
労働行為の行為地にある都道府県労委である (労組令条1項)。 中労委は,
都道府県労委に対する再審査を主要な任務とするが, 中労委が全国的に重要な
事件と認めた場合には, 初審として事件を管轄する (同条5項)。
申立て
) 久保=浜田・前掲注 ) 書頁以下, 下井・前掲注 ) 書頁以下, 山口・前
掲注 ) 書頁以下, 西谷・前掲注 ) 書頁以下, 菅野・前掲注 ) 書頁
以下, 安枝=西村・前掲注 ) 書
頁以下, 荒木・前掲注 ) 書
頁以下, 土田・
前掲注 ) 書
頁以下, 水町・前掲注 ) 書
頁以下, 中窪=野田・前掲注 )
書
頁以下, 西谷ほか・前掲注 ) 書頁以下など参照。
( )
不当労働行為と法
不当労働行為の審査は, 労働委員会に対する申立てをまって開始される)。
( ) 申立人
申立人となりうるのは, 当該不当労働行為に関係する労働者個人および労働
組合である。 団交拒否 (労組法7条2号) については, 団体交渉の主体は労働
組合であって個々の組合員ではないので, 労働組合のみであるが, 不利益取扱
い (同1号・4号) および支配介入 (同3号) については労働者および労働組
合である。 なお, 組合が申立人となるときは資格審査があり, 法適合組合であ
ることが必要である (同5条)。
(
) 被申立人
被申立人となるのは, 労組法において不当労働行為が禁止されている使用
者 (同7条) であり, 個人企業であれば企業主個人, 法人企業であれば法人で
ある。
(
) 申立期間
申立ては, 行為の日 (継続的行為にあってはその行為の終了した日) から1
年以内に行われなければならない (同条2項)。 この1年は除斥期間と解さ
れている。
不当労働行為が 「継続する行為」 である場合, それが終了した日から1年以
内に申立てがなされれば, 不当労働行為全体が救済の対象となる。 労働組合に
対して使用者が諸種の切崩し工作を行った場合のように, 複数の行為であって
も同一の不当労働行為意思にもとづいた一体的な行為とみられる場合には,
「継続する行為」 に含まれる。
特に問題となるのは, 昇給・昇格差別が行われて1年以上経過した後でも救
済申立てをなすことができるか否かである。 賃金や人事上の処遇における差別
が年々蓄積されていくような場合には, これを一体的な 「継続する行為」 であ
) 申立ては, 申立書を事件を管轄する労働委員会に提出して行うが, 口頭によって
行うこともできる。
( )
るとして救済を認める労委命令も存在する)。 しかし, 最高裁は, 差別的査定
にもとづく (当該年度の) 最後の賃金支払いの時から1年以内に申立てがなさ
れたときは, 申立期間内になされたものとして適法としている)。
審査
不当労働行為の申立てを受けた労働委員会は, 「遅滞なく調査を行い, 必要
があると認めたときは, 当該申立てが理由があるかどうかについて審問を行わ
なければならない」 (同条1項)。 この調査・審問の手続を 「審査」 という。
審査は会長 (審査委員または審査委員長) が指揮して行う (労委規条2項)。
「調査」 は, 当事者双方に主張と立証方法を明らかにさせ, 争点・証拠を整
理し, 審査の計画を立てる審問の事前手続である (労組法条の6)。
「審問」 は, 当事者または証人の尋問や書証等の物件取調べを行う手続であ
る。 審問は, 当事者立会いのもと, 原則として公開で行われる (労委規条の
7)。 審問は会長 (審査委員) が指揮して行うが, 労使委員は予め会長に申し
出たうえで参与することができる (同条の6第4項)。
従来, 却下の場合を除き, 審問を経ないで命令を発することはできないと解
されていたが ), 年の労委規則改正により, 「委員会は, 事件の内容に照
らし, 申立書その他当事者から提出された書面等により, 命令を発するに熟す
ると認めるときは, 審問を経ないで命令を発することができる」 (同条4項)
こととなった。
合議
審問が終結すると, 参与した労使委員の意見を聴いたうえで, 公益委員によ
る非公開の合議が開かれ (同条1項), 事実認定, 労組法の適用および命令
内容等が決定される。
なお, 労働委員会は, 審議の途中において, いつでも和解を勧告することが
) 日本計量器事件・京都地労委昭 ・・命令集集頁。
) 紅屋商事事件・最三小判平 ・・民集巻5号
頁。
) 揖斐川電工事件・岐阜地判昭 ・・労民集2巻2号頁。
( )
不当労働行為と法
できる (労組法条の第1項, 労委規条の2・条の8)。
救済命令の内容と限界
労働委員会は, 申立てに理由があると判定したときは申し立てられた救済の
全部または一部を認容する命令 (救済命令) を, 申立てに理由がないと判定し
たときは申立てを棄却する命令 (棄却命令) を発する (労組法
条の
第1項,
労委規条1項)。 命令は, 書面によって行い (労組法条の
第3項), 理由
(認定した事実および法律上の根拠) を記載しなければならない (労委規条
2項)。 命令は, 交付の日から効力を生ずる (労組法条の第4項)。
労働委員会の裁量権
救済命令の内容については, とくに法規定がない。 よく見られるものとして
は, ①不利益取扱いについては, 原職復帰 (不利益取扱いの前の地位への復帰)
命令およびバックペイ (解雇期間中の得べかりし賃金相当額の支払い) 命令,
②団交拒否については, 団交応諾命令 (組合が申し立てた事項についての交渉
を拒否してはならないとの命令や一定事項について誠実に交渉せよとの命令),
③支配介入については, 当該行為を禁止する命令やポスト・ノーティス (今後,
同種の行為を行わない旨の文書の交付) などがある。
しかし, 救済命令は, このような典型的命令に限定されるわけではなく, 労
働委員会は, 事案に応じて多様な命令を発することができる。
裁量権の限界
いかなる内容の命令を発するかについて, 労働委員会は広範な裁量権を有す
るが, 不当労働行為制度の趣旨・目的に照らして一定の限界が存在する)。
これまでに内容の適法性が議論の対象となった救済命令には, 中間収入を控
除しないバックペイ命令をはじめ種々のものがある。
) 第二鳩タクシー事件・前掲注 ) 判決。
( )
( ) バックペイと中間収入の控除
解雇が不当労働行為と認められた場合, 労働委員会は原職復帰とバックペイ
を命ずるが, その際, 労働者が解雇期間中に他の使用者のもとで就労して得た
収入 (中間収入) を控除しなければならないかが問題となる。
行政救済としてのバックペイについては, 年代に入る頃までは, 学説・
判例・労委命令は, 中間収入の控除は不要とする立場で一致していたが, 最高
裁は, 年の在日米軍調達部事件判決 ) において, 中間収入を控除しない
ことは原状回復という救済命令の目的を逸脱し, 使用者に懲罰を科すことにな
るとして違法であるとする立場をとった。 しかし, 労働委員会がその後も中間
収入の控除は不要との立場を保持したため, 最高裁は, 年の第二鳩タクシー
事件判決) において, その立場を変更し, 中間収入控除の要否および程度は,
被解雇者の個人的被害の救済と解雇による組合活動一般に対する侵害の除去の
両面から総合的に判断して決定すべきであるとして, 労働委員会が控除を行わ
ないとする余地を認めた。
(
) ポスト・ノーテイス
ポスト・ノーテイス命令においては, 不当労働行為を 「反省」 し, 「謝罪
(陳謝)」 するといった文書の掲示が命じられることがある。 こうした文言は,
使用者の良心の自由 (憲法条) を侵害する可能性があるが, 同種の行為を繰
り返さない旨を約束するもので, 反省等の意見表明を要求することを本旨とす
るものではなく, 労働委員会の裁量の範囲内と考えてよいであろう)。
(
) その他
救済命令は, 基本的に過去の不当労働行為に関して発せられるものであるが,
) 在日米軍調達部事件・最三小判昭 ・・民集巻9号頁。
) 第二鳩タクシー事件・前掲注 ) 判決。
) 同旨, 菅野・前掲注 ) 書頁, 中窪=野田・前掲注 ) 書
頁, 水町・前掲
注 ) 書
頁, 亮正会高津中央病院事件・最三小判平 ・・労判
号頁, オ
リエンタルモーター事件・最二小判平 ・・労判号頁など。
( )
不当労働行為と法
同種の不当労働行為が将来にわたって繰り返されるおそれがある場合には, 労
働委員会は予めこれを禁止する不作為命令を発することができる)。 もっとも,
あまりにも抽象的で広い範囲の行為を包括的に禁止する命令 (抽象的不作為命
令) は, 違法と評価される可能性がある。
不当労働行為の成立は認められるが, 労働者側にも行き過ぎがあったような
場合に, 労働者・労働組合の陳謝等を条件として使用者に救済命令を命ずるこ
と (条件付救済命令) も可能とされている)。 不当労働行為の成立を認めつつ
具体的な救済措置を命じないこと (確認命令) も, 事情によっては可能であ
る)。
労働委員会が不当労働行為によって生じた損害の金銭賠償を命じうるかどう
かについては, 一般に否定的に解されている)。
救済の必要性
過去に不当労働行為にあたる行為があったとしても, その後, 不当労働行為
によって生じた労使関係の歪が是正・改善されている場合には, 労働委員会は
救済の必要性 (救済利益) がないものとして申立てを棄却することができる。
ただし, 将来の良好な労使関係を構築するために過去の不当労働行為の存在を
確認する必要がある場合には, ポスト・ノーテイスや文書交付等を命じること
はできる。
再審査手続
都道府県労委の命令に不服のある労働者・労働組合または使用者は, 原則と
して命令の交付を受けた日から日以内に中労委に再審査を申し立てることが
) 栃木化成事件・最三小判昭 ・・民集巻号
頁。
) 延岡郵便局事件・東京高判昭 ・・労民集巻2号頁。
) 日本電信電話公社事件・中労委平 ・・別冊中労号頁。
) この点については, それを排除する根拠は乏しいとする見解もみられる (荒木・
前掲注 ) 書頁)。
( )
できる (労組法条の)。 中労委は, 使用者が再審査を申し立て, 都道府県
労委の命令に従わない場合には, 命令の全部または一部について履行を勧告す
ることができる (労委規条の2)。 中労委は, 当事者の申立てがない場合で
も, 職権で再審査をなしうる (労組法条2項, 労委規条)。
再審査において, 中労委は, 都道府県労委の処分を取り消し, 承認し, もし
くは変更する完全な権限を有し, またはその処分に対する再審査の申立てを却
下することができる (労組法条2項)。 ただし, 審査の対象は申立事実の範
囲に限定され, 初審命令の変更は 「不服申立ての限度」 においてのみ行われる
(労委規条1項)。
取消訴訟
取消訴訟の提起
労働委員会の命令を受けた使用者または労働者・労働組合は, 行政処分であ
る命令の取消を求めて, 行政事件訴訟法による取消訴訟を提起することができ
る。 出訴期間は, 使用者の場合は命令の交付の日から日以内 (労組法条の
), 労働者側は6ヵ月以内である (行訴法条1項)。 使用者は, 都道府県労
委の命令に対して中労委への再審査申立てまたは取消訴訟のいずれか一方のみ
を提起でき (労組法条の第1項), 再審査申立てをしたときは, 中労委命
令に対して取消訴訟を提起できる (同条2項)。 労働者・労働組合は両者を同
時になしうるが, 中労委命令が先に出された場合には, 取消訴訟が却下される
(同条3項参照)。
取消訴訟において被告となるのは, 命令を下した労働委員会が所属する国ま
たは公共団体 (都道府県労委命令の場合は都道府県, 中労委命令の場合は国)
である (行訴法
条)。 そのほか, 使用者が原告となる場合は労働者・労働組
合が, 労働者・労働組合が原告となる場合は使用者が補助参考人として訴訟に
参加できる。
( )
不当労働行為と法
司法審査の範囲
取消訴訟において, 裁判所は, 通常, ①労働委員会の事実認定の当否, ②不
当労働行為の成否 (労組法7条各号の該当性), ③救済命令の内容 (裁量権の
範囲を逸脱していないか) について, 適法性の審査を行う。
そのうち, ①については, 裁判所は, 労働委員会に提出された証拠にもとづ
いてのみ事実認定の相当性を判断するのではなく, 新たな証拠の提出を求め,
それにもとづいて独自に事実認定を行うことができる (ただし, 物件提出命令
違反の場合については特則
同条の がある)。
②については, 労組法7条が要件を規定せずに, 「正当な行為」 (1号) や
「支配」 ないし 「介入」 (3号) 等の不確定な概念を用いているため, その解釈
適用に関し労働委員会の裁量 (要件裁量) を認めるべきかが問題となるが, 救
済命令が使用者の利益に重大な影響を及ぼす行政処分であることから, この点
は否定すべきである)。
③については, 労働委員会には専門的行政機関として広範な裁量権が認めら
れており, 司法審査においては, 救済内容が労働委員会の裁量権を逸脱してい
るかどうかが判断される。
緊急命令
使用者が救済命令の取消訴訟を提起した場合, 当該命令を発した労働委員会
は, 受訴裁判所に対して緊急命令の申立てをすることができる。 「緊急命令」
とは, 取消訴訟の判決が出て救済命令の効力が確定するまでの間, 裁判所が暫
定的に救済命令の全部または一部に従うよう使用者に命ずるものであり (労組
法条の), 使用者がこれに従わない場合には過料に処せられる (同条前
段)。 緊急命令を発するにあたり, 裁判所は, 救済命令の適法性と緊急命令の
必要性 (即時救済) の有無を審査する。 前者については, 暫定的に履行を強制
) 同旨, 菅野・前掲注 ) 書
頁, 土田・前掲注 ) 書
頁, 寿建築研究所事件・
前掲注) 判決など。
( )
するという緊急命令制度の趣旨から, 疎明資料にもとづき救済命令の認定判断
に重大な疑義が存しないかを検討することで足りると解されている)。
不当労働行為の司法救済
不当労働行為が行われた場合, 労組法が予定している救済手段は労働委員会
に対する救済の申立てであるが (同7条・条), 同法はとくに訴えの提起を
制限していないため, 労働者・労働組合は民亊救済手続によって私法上の救済
を求めることもできる (司法救済)。 解雇無効確認 (労働契約上の地位確認)
請求, 団体交渉を求める地位確認請求, 団結権侵害の不法行為にもとづく損害
賠償請求などである。 問題は, 不当労働行為の根拠規定である労組法7条がこ
うした司法救済の根拠となるか否かである。
この点については, 労組法7条は行政的規範であると同時に, 私法上の強行
規定であると説く肯定説と, 同条は労働委員会による行政救済規範であり, 私
法的効力とは無縁の規定と説く否定説が対立してきた。 制度趣旨からは否定説
に分があるが, 裁判例は, 労組法7条各号の私法的効果を肯定し, 学説の大勢
も肯定説を支持している)。
) 吉野石膏事件・東京高決昭 ・・労判号頁。
) 菅野・前掲注 ) 書頁以下, 土田・前掲注 ) 書頁。