戦後企業倒産処理法制の変遷

第3章
戦後企業倒産処理法制の変遷
杉本和士
このように,わが国は,戦前においてすでに
第1節 はじめに
近代的な企業倒産処理法制を備えていたとは評
しうるであろう。もっとも,この企業倒産処理
⑴ 倒産とは,経済社会における必然的現象
法制も戦後の経済状況や産業構造の劇的な変化
の1つであり,これに対処するインフラ整備は,
に対応しきれるものではなかったため,戦後間
いつの時代においても,またいかなる社会にお
もない1950年代初頭及びバブル崩壊後の1990年
いても,必須である。それゆえ,歴史的に,そ
代末から2000年代初頭にかけて,2度にわたる
の時代や社会に見合った倒産処理の方策が講じ
大改革を経験することとなる2。本稿では,この
られ,近代以降は,法律の形式で倒産処理制度
ような戦後におけるわが国の経済状況及び産業
が整備されるようになり,そこでは主に裁判所
構造の変化に伴う企業倒産処理法制の変遷 を
が中心的役割を担うこととなった。そして,わ
概観したうえ(第2節),その変遷の概観を元に
が国の倒産処理の変遷に目を転じてみると,近
企業倒産処理法制のあり方と企業の業種の関係
代化以前の明治初期においては,例えば江戸時
の考察を試みることによって(第3節)
,
今後の
代以来の「分散」といった制度が用意されては
企業倒産処理法制の方向性に関する示唆を得る
いたものの,現在の法制度との比較からすると,
ことを目的とする。
裁判機関が関与しない私的整理に類似するもの
なお,以上の目的によるものであるため,本
3
1
であり ,近代的な法的倒産処理制度とは異質な
稿では,法的倒産処理手続のみを検討の対象と
ものと言わざるをえない。したがって,わが国
し,私的整理による企業倒産処理については扱
における本格的な近代法としての倒産処理法制
わないことをここで断わっておく。
とは,1890年(明治23年)の明治商法(法律第
⑵ ところで,企業倒産処理において再建・
32号)の第三篇「破産」が最初ということにな
再生のターゲットとされるのは,倒産《会社》
る。そして,その後,1922年(大正11年)に
か,倒産《企業》か,それとも倒産企業(体)
(旧)破産法(法律第71号)と(旧)和議法(法
を構成する個々の具体的な《事業》であろうか。
律第72号)が制定されることで(ともに1923年
企業倒産処理の実務において,戦後の会社更
(大正12年)1月1日施行)
,わが国は近代的な
生法制定からバブル経済崩壊後の民事再生法制
倒産処理法制を備えるに至った。後述するとお
定後しばらくの間までは,企業倒産処理の目標
り,この(旧)破産法は,2004年(平成16年)
として,倒産した株式会社の再建を意味する,
の大改正まで,そして,
(旧)和議法は,1999年
《会社再建》といった用語が,いわば一種のス
(平成11年)に成立した民事再生法の2000年(平
ローガンとして実務家によって語られるのが一
成12年)
4月1日からの施行による廃止まで,
約
般的であった4。ところが,1999年(平成11年)
70年間に渡ってわが国の倒産処理法制の中核を
の民事再生法制定に始まる倒産法制大改正の時
担うことになる。さらに,1938年(昭和13年)
期からは,法人格としての株式会社ではなく,
の商法改正(法律第72号)において,株式会社
《企業》の再建・再生という側面を意識的に捉え
に関する会社整理及び特別清算の規定が新設さ
た《企業再建》や《企業再生》の用語が用いら
れた。
れ始めた。さらに,民事再生法の制定後(なお,
24
同法1条参照),
企業体を構成する個々の具体的
「目的においても手段においても,限定的・消極
な《事業》の再生に着目した《事業再生》とい
的な面があったことは否定できず,包括的かつ
う用語が企業倒産処理の実務の現場において次
強力な企業の再建の手段を提供するものではな
第に用いられるようになり,今日においてはこ
かった」と評されている 。
8
の《事業再生》の用語がすっかり定着した感が
⒝ GHQ(連合国最高司令官総司令部)の占領
5
ある 。たしかに,このこと自体は単なる用語の
下における改革
問題にすぎないとも言えるかもしれないが,こ
① 終戦直後の日本企業の置かれていた状況
の用語の変遷には,企業倒産処理に携わる倒産
戦後,わが国は連合国軍最高司令官総司令部
実務家の目的意識の変化が直截に反映されてい
(以下,「GHQ」という。
)の占領下においてい
るとは言えないだろうか。すなわち,
《事業》再
くつもの改革を受けることとなるが,その過渡
生が企業倒産処理の基本理念に据えられるよう
期において企業は極めて不安定な状況に置かれ
になったという,ある種のパラダイム・シフト
た。戦後まもなくは生産を停止していた企業も,
によって,もはや企業倒産処理において,倒産
やがてGHQによって生産再開が許可されるこ
《会社》や倒産《企業》そのものの再建・再生で
ととなったが,財政的な困難は解消されるどこ
はなく,倒産会社や倒産企業を構成する《企業
ろか,より一層深刻となった。特に,1946年(昭
体》
,
さらにはこの企業体を構成する個々の具体
和21年)に戦時補償が打ち切りとなると ,企業
的な《事業》の再生が重視されるようになった
は軒並み破産に至るべき危機状態に陥ることが
9
6
とみることが許されよう 。
危惧され10,会社経理応急措置法(昭和21年法
そこで,
本稿では,
《会社再建》から《事業再
律7号),企業再建整備法(昭和21年法律40号),
生》といった企業倒産処理におけるスローガン
特別和議法(昭和21年法律41号)などの一連の
の変遷を分析視座として用いることとしたい。
企業再建のための特別法が制定された11。この
うち,特に会社経理応急措置法と企業再建整備
第2節 戦後企業倒産処理法制の変遷
法は,
「敗戦による戦時補償の打切に伴う経済界
の混乱を防止し,その損害を公平に分担せしめ
1.第2次世界大戦後のGHQ占領下におけ
つつ企業の再建をはかろうとした緊急立法であ
る会社更生法の制定
り,少なくとも,本法(筆者注:「会社更生法」)
⑴ 戦後の社会経済情勢と会社更生法の制定
立案の当初の時期にあっては,企業の再建とか
⒜ 戦前の企業倒産処理法制
更生とかいうと,真先にそれが連想される程,大
前述のように,戦前におけるわが国の企業倒
きな影響を一時的とはいえわが国の多くの企業
産処理法制は,
(旧)破産法,
(旧)和議法,
(旧)
に及ぼしたものであった」12と指摘されている。
商法の会社整理及び特別清算から構成されてい
すなわち,ここに後の会社更生法制定の原型は
た。このうち,いわゆる再建型倒産手続7として
用意されていたと評価することができる。
分類されるのは,
(旧)和議法の和議,
(旧)商
② GHQの占領改革と日本経済の大改革:財閥
法の中の会社整理及び(旧)破産法の中の強制
解体
和議手続である。このように,一見すると,戦
他方,GHQの占領改革として日本経済の大改
前においてすでに充実した再建型倒産手続を備
革=アメリカ化が図られたことは,わが国の戦
えていたかのような印象を与えるものの,実際
後の企業倒産処理法制の変遷の端緒たる会社更
には,これらの制度は,決して十分に機能して
生法の制定を理解するうえで,看過することが
はいなかったようである。例えば,兼子一監修
できない。特に,その最たるものが,終戦直後
=三ヶ月章ほか著『条解会社更生法(上)
』によ
から推し進められたいわゆる財閥解体である。
ると,これらの戦前以来の再建型倒産手続は,
この財閥解体措置には,❶財閥を戦争遂行主体
25
とみて戦争遂行能力の解体をはかること,いわ
接に関係していたと推察される。まず,戦前の
ば非軍事化としての財閥解体としての面と,❷
わが国における財閥という企業間構造が消滅し
戦時「計画経済」下の非合理的な巨大企業化の
たことで,
《株式会社という一法人》が《一企
是正という面といった2つの側面があることが
業》を構成するという図式が成立すると同時に,
13
指摘されている 。そして,この一連の財閥解
この時期における日本経済が殊に鉄鋼業を機軸
体措置によって,
わが国の企業形態は,
「アメリ
に据え,さらに産業構造の重化学工業化が意図
カ化した株式会社」へと移行していく。この点
されていたことから,
《一事業=一企業=一株式
につき,法的規整の観点において重要なのは,
会社》の構図が意図的に形成されたとみること
GHQの指示の下で実施された商法改正(昭和25
ができる。そこで,このように戦後新たに形成
年法律167号)
,特に株式会社に関する大改正で
された株式会社が破綻した場合の再建のための
ある。すなわち,財閥解体を経たわが国におい
強力な企業再建法制を社会基盤インフラとして
て,株式会社は,戦前におけるドイツ法系の規
整備する必要性が生じた。つまり,ここでの企
整から,アメリカ化した法規整に服することと
業再建法制の整備とは,まさに戦後日本経済再
なったのである14。同時に,GHQの指令によっ
建を支える基幹事業の保護を意味する。以上の
て,当時,アメリカにおいても制定からまだ年
ことが,GHQ指令による会社再建手続導入の背
数の浅いCorporate Reorganization(会社再建)
景事情であったのではないかと推測される 。
17
の制度15が日本に継受されることとなった。こ
⑵ 会社更生法の施行と1967年(昭和42年)改正
れが,会社更生法制定の経緯である。
ともかく,以上のような経緯において,1952
もっとも,
このCorporate Reorganization(会
年(昭和27年)に会社更生法が成立し(昭和27
社再建)の継受に関しては,前述の株式会社に
年法律172号),同年8月1日から施行されるこ
関する法規整のアメリカ化が「単に日本がアメ
ととなったわけである18。
リカに占領された結果のみに因るのではなく,
ところが,施行から数年の間は,会社更生法
日米両国間の経済関係の密接化,殊にわが国の
はほとんど利用されることもなく,社会的に注
企業再建のため,アメリカ資本の導入を必要と
目されることもなかったという。会社更生法が
した」ことにも起因するのに対して,会社更生
利用されるようになるのは,施行から10年が過
法の制定は,
「わが国とアメリカとの経済関係の
ぎた時期以降であり,特に1965年(昭和40年)
密接化やアメリカ資本の導入とは直接の関係は
の山陽特殊鋼会社更生事件をきっかけとして同
なく,進駐軍の支持によって急遽アメリカ法の
法は社会的にも注目されることとなった。
Corporate Reorganizationを継受し」たもので
会社更生法施行後の会社更生事件の推移につ
あるとの指摘がなされている16。
いて,前掲の兼子一監修=三ヶ月章ほか著『条
では,なぜGHQは,戦後日本における会社再
解会社更生法(上)
』は,
「模索期」・「沈滞
建手続の導入を急いだのであろうか。遺憾なが
期」・「上向期」の区分を用いている19。この
ら,筆者には本稿で歴史的経緯を厳密に検証し
区分によると,❶第一期である1953年(昭和28
たうえでこの問いに結論を与えるだけの十分な
年)から1956年(昭和31年)にかけての4年間
用意がない。したがって,本稿においては若干
が模索期とされ,❷ついで第二期として1957年
の検討を試み,あくまで私見による仮説を提示
(昭和32年)から1962年(昭和37年)までの6年
するに留めたい。
間は,中だるみ現象がいろいろな面にうかがわ
ここで仮説としての私見から述べると,GHQ
れるため,低迷期ないし沈滞期と呼びうる時期
によるわが国への会社再建手続の導入は,一連
であるという。そして,❸1963年(昭和38年)
の財閥解体措置によって,わが国の企業の基本
から1965年(昭和40年)までの間に会社更生事
単位がアメリカ型の株式会社とされたことと密
件の大型化がはっきり認められ,1967年(昭和
26
42年)の大改正を生み出すきっかけとなった山
して「破産,和議,会社更生等に関する制度を
陽特殊鋼会社更生事件までの時期を第三期とし
改善する必要があるとすれば,その要綱を示さ
20
て上向期としている 。
れたい」とする諮問(第41号)が出され,法制
この上向期において,
日本特殊鋼,
サンウェー
審議会は「倒産法部会」
(部会長・竹下守夫教
ブ工業等の会社更生事件を経て,1965年(昭和
授)を設置する23。この倒産法部会において,企
40年)の山陽特殊鋼の更生手続開始申立てに
業倒産法制に関する点としては,和議に代わる
よって,会社更生法上の運用上・立法上の欠陥
中小企業向けの新再建型手続を新たに立法する
が露呈した。そこでいわゆる会社更生法悪法
方針が確認されていた。このように,すでに上
21
論・濫用論 が登場し,1967年(昭和42年)の
場企業倒産件数が増加傾向にあったのにもかか
会社更生法改正(昭和42年法律第88号)につな
わらず,この傾向自体はあまり重視されておら
がる。
ず,むしろ中小企業の再建がここでは念頭に置
その後,山陽特殊鋼会社更生事件から昭和42
かれていたようである。また,この新再建型手
年改正を経た後,次に述べるバブル経済崩壊の
続の制定という点についても,これが必ずしも
時期まで会社更生法は,安定期,つまり事件数
倒産法改正の中心的議題というわけではなかっ
の極端な増加のない時期を迎えるが,このこと
たようである(他にも,消費者破産や国際倒産
は,この時期からわが国の経済環境が著しく好
への対応も同等に重要視されていた)。あくまで
転し,大型倒産事件の数が少なくなったことと
倒産法部会は倒産法制全体の見直しを目的とし
無関係ではないだろう。
ていたわけである24。
ところが,1998年(平成10年)9月,当時の
2.バブル経済崩壊から倒産法制大改革に至
法務大臣から,「現下の経済事情等に鑑みて,倒
るまでの経緯
産法改正の重要な部分を前倒しすべきである。
景気の長期低迷によって中小企業が多数倒産し
⑴ 倒産法制大改革の要因
いわゆるバブル経済の崩壊後(本稿では1990
ている状況からすると,中小企業が使いやすい,
年を一応の目安とする。
)
,企業倒産件数は激増
新しい再建手続の早期立法が必要である」との
した,というのが現場の倒産実務家の実感だっ
意向が示され,法制審議会は,急遽,中小企業
22
たようである 。たしかに,統計上も,バブル
等の再建を図るための新再建型手続(その後の
経済崩壊の後,倒産件数は急上昇し,その後,高
民事再生法)の成立を最優先させ,集中的に審
水準で安定していることが確認される(財団法
議し,1999年(平成11年)中の成立をめざすこ
人企業共済協会『企業倒産調査年報(平成20年
ととなった 。この背景には,1997年(平成9
度倒産)
』
(2009年)11頁掲載の表「企業倒産件
年)に発生した未曾有の金融危機がある。同年
数の推移」
(後掲【別表1】
)参照)
。もっとも,
以降,大手証券会社,大手銀行が破綻するとい
極めて高い数字で推移していた1970年代の倒産
う異常事態が生じ,バブル経済崩壊から立ち直
件数と比べると,数字の上では「激増」と言え
ろうとしていた当時の日本経済は急速に悪化の
るほどではないとも言える。むしろ注目すべき
一途を辿った。この時期,企業倒産件数そのも
なのは,バブル経済崩壊後に見られる上場企業
のも増加してはいるが,それ以上に,負債総額
倒産件数と負債額の上昇という現象である(同
と上場企業倒産件数がこの時期を境に激増して
12頁掲載の表「負債額の推移」
(後掲【別表2】
)
いる点が注目される(後掲【図表1】及び【図
を参照)
。つまり,
いわゆる大型倒産の件数が増
26
表2】参照)
。
加した点にこそ注目すべき状況にあった。
このようにして,事実上,直接的には喫緊の
このような状況を受けて,
1996年(平成8年)
課題である金融危機に対処すべく民事再生法が
10月8日,当時の法務大臣から法制審議会に対
制定されるという方向で舵が切られた。要する
25
27
��� 1】及び��� 2】参照) 。このようにして,事実上,直接的には喫緊の課題
である金融危機に対処すべく民事再生法が制定されるという方向で舵が切られた。要す
るに,民事再生法は,この時点においてすでに,中小企業に特化した再建型手続に関す
る法律としてではなく,新しい再建型倒産手続の中心的地位を占める,いわば《一般法》
として機能することが期待されていたということができるのではなかろうか。
【別表1】
「企業倒産件数の推移」
(財団法人企業共済協会「企業倒産データ」より)
��� 1】�����������(財団法人企業共済協会「企業倒産データ」より)
に,民事再生法は,この時点においてすでに,中
さらに,会社更生法の作業と並行して法制審
小企業にのみ特化した再建型手続に関する法律
25
議会で検討が進められていた破産法の見直し作
ができるのではなかろうか。
に,特別清算が,同年6月に成立し翌年5月1
瀬戸・前掲注(22)41 頁。この新再建型倒産処理手続の整備を最優先させるため,
としてではなく,新しい再建型倒産手続の中心
業が完了し,2004年(平成16年)5月に新破産
その他の破産法及び会社更生法並びに倒産実体法についての見直し作業は一時中断さ
的地位を占める《再建型倒産手続の一般法》と
法が成立(平成16年法律第75号),2005年(平成
れることとなった。
26
もっとも,
同時に中小企業の不況型倒産が高水準で推移していることも指摘されてい
して機能することが期待されていたということ
17年)1月1日から施行された。そして,最後
る(深山卓也「民事再生法制定の経緯と法の概要」ジュリ 1171 号 13 頁脚注(4))。
日に施行された会社法(平成17年法律第86号)
⑵ 民事再生法の制定,会社更生法及び破産法の
に組み込まれる形で改正された(同時に,会社
全面改正
以上のような経緯のもと,
1999年(平成11年)
整理は廃止された)ことをもって,一連の倒産
12月に民事再生法が成立し
(平成11年法律第225
法制大改革は完了することとなる。
号)
,
2000年(平成12年)4月1日から施行され
第3節 戦後企業倒産処理法制の変遷に
ついての考察
るに至った27。
つぎに,2001年(平成13年)3月からは,法
制審議会が会社更生法の見直しに関する審議を
1.清算型・再建型という分類の消失? 再開し,今度は会社更生法の見直し作業に着手
する。当初は,会社更生法の一部改正という方
—《会社再建》から《事業再生》へ—
向性が検討されていたようであったが,2002年
⑴ 倒産四法の伝統的分類/清算型・再建型
(平成14年)7月にとりまとめられた「会社更生
さて,以上の一連の倒産法制改革によって,企
法改正要綱案」における実質的改正事項(55項
業倒産処理法制は,基本的には,破産法,民事
目)が多岐にわたるなどの理由により,会社更
再生法,会社更生法及び会社法中の特別清算の
生法の全面改正という形式で立案されること
四法(倒産四法)によって構成されることになっ
28
なった 。そして,
(新)会社更生法が同年12月
た。そして,この倒産四法による企業倒産手続
に成立し(平成14年法律第154号)
,2003年(平
は,破産手続及び特別清算手続が清算型手続,再
成15年)4月1日から施行された。
生手続と更生手続が再建型手続として分類され
28
SUGIMOTO Kazushi
-9-
2010/04/13
【別表2】
「負債額の推移」
(財団法人企業共済協会「企業倒産データ」より)
2】��������
(財団法人企業共済協会「企業倒産データ」より)
���
���� �������������������������
る。ここで改めて確認しておくと,清算型手続
は,立案担当者の説明によると,
以上のような経緯のもと,1999 年(平成 11 年)12
月に民事再生法が成立し(平成「事業の継続を
とは,
「人的および物的資源から構成される債務
しつつ,窮境にある債務者の経済状態のさらな
11 年法律第 225 号)
,2000 年(平成 12 年)4 月 1 日から施行されるに至った27。
者の総財産を金銭化し,同じく金銭化された総
る悪化を防止し,又はこれを改善させることに
つぎに,2001 年(平成 13 年)3 月からは,法制審議会が会社更生法の見直しに関す
債務を弁済することを目的とする」のに対して,
より,破産手続による解体清算に伴う資産の減
る審議を再開し,今度は会社更生法の見直し作業に着手する。当初は,会社更生法の一
再建型手続とは,
「収益を生み出す基礎となる債
価等による経済的損失を回避すること」にあり,
部改正という方向性が検討されていたようであったが,2002
年(平成 14 年)7 月にと
りまとめられた「会社更生法改正要綱案」における実質的改正事項(55
項目)が多岐
務者の財産を一体として維持し,債務者自身ま
法人格の維持存続はここには含まれておらず,
にわたるなどの理由により,会社更生法の全面改正という形式で立案されることなった
たはそれに代わる第三者がその財産を基礎とし
社会的存在としての事業自体が継続する点に眼
31
28
。そして,
(新)会社更生法が同年 12 月に成立し(平成
14 年法律第 154 号)
,2003 年。さらに,この
て経済活動を継続し,収益をあげる手続」と説
目がある,と指摘されている
明される(平成
。 15 年)4 月 1 日から施行された。
29
ことを具体的に裏付けるのが,営業・事業譲渡
32
さらに,会社更生法の作業と並行して法制審議会で検討が進められていた破産法の見
⑵ 事業単位の再生手法の立法化と清算型・再
に関する民事再生法上の規律のあり方である。
直し作業が完了し,2004 年(平成 16 年)5 月に新破産法が成立(平成 16 年法律第 75
建型の分類
すなわち,民事再生法42条は,再生計画外にお
号)
,2005 年(平成 17 年)1 月 1 日から施行された。そして,最後に,特別清算が,同
⒜ 事業単位の再生手法の立法化
ける営業又は事業の全部譲渡を事業再生のため
年 6 月に成立し翌年 5 月 1 日に施行された会社法(平成 17 年法律第 86 号)に組み込ま
かつて,このような清算型か再建型かという
の1つの有力な手段として積極的に容認してお
分類は,大多数の場合に着目して,倒産企業の
り ,その前提として,債務者法人自体の清算
法人格が存続するか,それとも消滅するかとい
27
的な計画をも許容されている34。
倒産四法による企業倒産の諸手続を絶対的に分
規定が置かれた(同法46条)。やはりここでも,
類しきれるものではなくなった。その端緒とな
全部の事業譲渡がいくつかの厳格な要件の下で
る契機を含むのが,倒産法制改革の口火を切っ
容認されている(同条1項但書)。
た民事再生法である。同法1条においては,
「当
また,清算型である破産手続においては,旧
該債務者の事業又は経済生活の再生を図ること
法以来,営業・事業譲渡は,裁判所の許可の下,
を目的とする」旨が規定されている。その趣旨
破産管財人の権限によって行うことができる
れる形で改正された(同時に,会社整理は廃止された)ことをもって,一連の倒産法制
33
民事再生法の成立過程の詳細については,深山・前掲注(26)6
頁以下,深山卓也ほ
30
うところとほぼ一致させて考えてられてきた
。
そして,以上の民事再生法における営業・事
か『一問一答民事再生法』
(商事法務研究会,2000
年)3 頁以下を参照。
28
新会社更生法の成立過程の詳細については,深山卓也「新会社更生法の特徴」山本克
しかしながら,一連の倒産法制改革の結果とし
業譲渡の規律に対応する形で,新会社更生法に
己ほか編『新会社更生法の理論と実務』判タ臨増 1132 号 14 頁(2003 年),深山卓也編
て,この清算型・再建型の二分法が,必ずしも
おいても,更生計画外の事業譲渡に関する明文
著『一問一答新会社更生法』(商事法務,2003 年)3 頁以下を参照。
29
(破産法78条2項3号)
。また,同じく清算型で
正面から容認されているとしても,この手法が
ある特別清算手続においても,裁判所の許可の
企業倒産処理において合理性の面で常に最善で
下,清算株式会社は事業の全部譲渡をすること
あるとは限らない(なお,濫用の危険性も考慮
が認められている(会社法536条1項2号)
。な
すべきではあるけれども,本稿では扱わない)
。
お,実務上,このように,営業・事業譲渡を念
なぜならば,事業を倒産会社から切り離すこと
頭において事業を継続させつつ,破産財団の清
が当該事業の再生につながる場合もあれば,別
算を行う破産手続は,
「事業継続型破産手続」と
段,倒産会社から事業を切り離す必要性がなく,
呼ばれているようである35。
企業体を再建・再生することが可能である場合,
さらには,個々の事業を倒産会社から切り離す
⒝ 清算型・再建型という分類の相対化
このように,倒産法制大改革後の民事再生法,
ことによってむしろ事業価値が毀損する場合も
会社更生法,破産法及び特別清算といった倒産
考えられるからである。
四法の全てが企業倒産処理における営業・事業
そこで,ここでは《企業価値=倒産会社》の
譲渡を可能とする規定を共通の枠組として備え
関係が成り立つか否か,すなわち,《企業価値と
ている点に着目すると,倒産会社から再生可能
倒産会社の一体性》の有無という視点から分類
な事業を切り出すことによって当該事業の再生
を試みる。この視点から分類すると,会社の財
を図るという手法を企業倒産処理法制が備える
務状況(ファイナンスの側面)の悪化が企業価
に至ったと評価できる。そして,今日の倒産実
値の毀損に直結する業種とそうではない業種に
務において,この手法がさかんに利用されてい
分類できる。
36
るのは周知の事実である 。それゆえ,前述し
⑵ 業種分類別の考察
た清算型・再建型の分類は,もはや相対的な区
⒜ まず,後者の分類,すなわち,会社のファ
別に過ぎなくなったと評しえよう37。そうだと
イナンス面の悪化が企業価値の毀損に直結しな
すると,倒産四法のいずれの手続に従って企業
い業種としては,例えば,わが国の戦後の基幹
倒産処理を行うべきなのか,また,そこでいか
事業であった鉄鋼業を代表とする製造業型の産
なる手法を用いるべきなのかという判断にあ
業がこれに当たると言えよう。というのも,鉄
たって,法人としての倒産企業の再建・再生の
鋼業という事業に特化する株式会社の場合,当
可否の点ではなく,その法人としての倒産会社
該株式会社のファイナンスの状況が悪化し,や
を構成する企業体そのもの,あるいは,その企
がてこの会社が倒産に至ったとしても,更生手
業体を構成する個々の事業の再生の可否の点に
続などによる倒産処理において,倒産を誘発し
こそ関心が持たれなければならないこととなる。
たファイナンスの問題さえ改善されれば(例え
以下,この点についてさらに検討を進めよう。
ば,債権者による債権放棄やDESの手法による
債務の圧縮が図られれば),企業価値そのものは
2.企業倒産処理における再生手法と企業の
決定的な影響を受けることなく,そのまま従前
業種の対応関係
の企業体として再建することは十分に可能だか
らである(戦後のわが国の基幹事業の早期復興
⑴ 再生手法と企業の業種の対応関係について
が可能だったのも,この性質に起因するところ
の視点
一般論として,企業倒産処理の場面において,
が大きい)
。言い換えれば,財務状況の悪化が原
事業譲渡により倒産会社から再生可能な事業を
因となって原材料の調達が困難になるなど事業
切り離すことには,合理性を見出すことができ
の継続に支障を来し,やがて当該会社が倒産状
る。しかしながら,企業倒産処理において事業
態に至ったとしても,更生手続等の法的倒産手
譲渡による事業の再生の手法が一定の合理性を
続を通じて,ある程度の時間をかけてでもこの
有しており,かつ,今日において法制度として
財務状況さえ改善することができれば,事業は
30
従来通り継続することができ,企業価値全体も
関しては,更生手続等による《会社》再建は難
維持することができるというわけである。要す
しくなるのである。したがって,このような業
るに,この業種は,企業価値の側面とファイナ
種の企業倒産(あるいは,倒産に至る以前の財
ンスの側面が別個独立しているのであり,それ
務状況の悪化状態)においては,未だ市場価値
ゆえに企業価値と倒産会社の一体性が重要な要
のある個々の事業を早期に売却することが優先
素ではないことが判明する。そして,まさに19
されるべきであり,ここでは倒産会社そのもの
世紀から20世紀にかけての重厚長大型の産業と
の再建・再生を志向すべき合理性が欠けている
は,この業種を中心としていたのであり,した
と評価することができる。
がって,会社更生法はこの業種に特化する株式
第4節 結びに代えて
会社の再建には実際に効果的であったと言える
38
。しかも,第一次産業革命時の産業設備のよ
うに大規模な設備(大型機械や工場など)は,
そ
以上のように,わが国の戦後における企業倒
の専門市場が形成されていない限りは簡単に清
産処理法制の変遷は,今日の企業社会において,
算・譲渡することができないため,これらをそ
単純に《会社》又は《企業》を倒産処理法制に
のまま維持させながら,その所有者たる株式会
よって再建・再生させることが容易でなくなっ
社を再建させる必要性があったことも,会社更
たことの証左であるといる。すなわち,これは
生法が重要なインフラとしての役目を担ってい
第二次産業革命後の重厚長大型産業における企
たことを裏付ける(その典型例は鉄道更生であ
業の再建モデルが,今日の複雑化した多種多様
り,鉄道更生の必要性こそがアメリカ連邦倒産
な企業に一般的に整合しえなくなったことを意
法における再建手続の端緒となったことが想起
味する。このように複雑化・多様化した企業形
されてよい39)。
態を一概に分類することは不可能であるけれど
⒝ 他方,前者の業種,すなわち,会社のファ
も,さしあたり,前述したような視点による分
イナンス面の悪化が企業価値の毀損に直結する
析が可能であると思われる。
業種には,労働集約型,情報集約型又は専門知
識集約型と称することのできる業種,
例えば,
商
取引の仕組みや顧客信用,高度な専門知識・技
術に大きく依存する業種を挙げることができる。
この業種では,
ファイナンス面が悪化すると,
そ
れに伴う商取引の相手方や顧客の信用不安,あ
るいは,
専門知識・技術を有する人材の流出
(と
りわけ,この業種においては人材採用の市場が
充実しているため,その流動性は増す)は避け
られなくなるため,企業価値の劣化は免れ得な
い。すなわち,企業価値と倒産会社との間に一
体性があるがゆえに,いくら時間をかけて倒産
会社のファイナンス面を改善しようとしても,
その企業価値を支える取引相手や顧客からの信
用の喪失,あるいは,企業価値を支える人材の
流出を喰い止めることができなくなる。時間の
経過とともに企業価値が劣化することを防ぐの
が困難となり,この種の業種を営む倒産会社に
31
ン」を策定したが,このガイドラインにおいて
統一して《事業再生》の用語が使用されている。
6 産業再生機構産業再生委員長を務めた高木新
二郎博士が,以下のように,まさにこの点を精
確に指摘する。
「
『事業』再生は,
『会社』や個別
『企業』の再建とも異なる。
会社という法人格の
存続に拘る必要はない。有益有用な事業を存続
させればよい。『会社分割』,『事業譲渡』,『合
併』
,
『M&A』などによって,合従連衡や淘汰
を図ればよいのである。
『会社再建』ではなく
『事業再生』に頭を切り換えることによって,
有
益な事業を再生させるための選択肢は広がっ
た。ある企業にとっては存続させないことが適
切な事業であっても,他の企業にとっては有望
な事業であることがあり得る。
」とし,
産業再生
機構によるカネボウ(鐘紡)の再生案件を「会
社再建ではなく事業再生の適例である」,
と(高
木新二郎「事業再生の基礎」中央ロージャーナ
ル5巻2号135頁(2008年)
)
。また,日下部聡
「新たな事業再生メカニズムの確立に向けて」
高
木新二郎=早期事業再生研究会編『早期事業再
生のすすめ 早期事業再生ガイドラインを読み
解くカギ』
(商事法務,2003年)26頁脚注(2)
において,
「本書においては,
企業体の存続・再
生ではなく,キャッシュフローを生み出す『事
業』の再生に主眼を置いて検討を行っている。
」
と言及されている。
7 周知のとおり,伝統的に,倒産手続は,その
目的に着目して,清算型と再建型とに分類され
て論じられてきた(清算型と再建型の区別につ
いては後述)
。
8 兼子一監修=三ヶ月章ほか著『条解会社更生
法(上)
』
(弘文堂,1973年)3頁。会社更生法
制定の実質的な必要性については,位野木益雄
『会社更生法要説』
(学陽書房,1952年)8頁以
下を参照。
9 戦時補償打切り問題については,
玉置正美
「戦
後日本機械工業史─第2部 戦時補償打切りと
企業再建整備計画─」亜細亜大学経済学紀要7
巻2号1頁(1981年)が詳しい。
10 「……補償を直ちに全部カンセルする場合を
考へるに,其の損失が国民中に如何に分布され
るやは甚だ複雑で一々之を明かになし得ないが
恐らく現在の諸会社の半数に近きものは破産を
免れ」ないとか,
「補償を一時に全面的に打切る
場合にはさらぬだに立直りに困難を極めつつあ
る産業界に新たな混乱を惹起し目本経済の構成
に於て重要なる基盤をなせる中小企業までを窮
注
1 園尾隆司「明治期における民事執行・倒産手
続(上)」判タ1275号15‒17頁(2008年),同『民
事訴訟・執行・破産の近現代史』(弘文堂,2009
年)102‒105頁。なお,明治維新前における破産
制度については,上記文献のほか,櫻井孝一「破
産制度の近代化と外国法の影響─第二次大戦前
における─」比較法学(早大)2巻2号93頁以
下(1966年)も参照。
2 なお,加藤哲夫「企業倒産処理法制の軌跡と
その展望」同『企業倒産処理法制における基本
的諸相』(成文堂,2007年)262頁(初出,ジュ
リ1155号157頁(1999年))は,明治期からバブ
ル崩壊までに至る時期の企業倒産処理法制及び
その後の倒産法改正の方向性について論じる。
3 なお,加藤哲夫「経済構造の変化と倒産処理
法制の対応」同『企業倒産処理法制における基
本的諸相』(成文堂,2007年)(初出,「経済構造
の変化と倒産法の対応」ジュリ971号268頁(1991
年))は,本稿が対象とするよりも長いタイムス
パンを捉えて,❶和議法が制定された1922年(大
正11年)前後,❷会社整理手続および特別清算
手続が商法に設けられた1938年(昭和13年)前
後,そして❸会社更生法が制定された1952年(昭
和27年)前後といった3つの時期区分を設定し
たうえで,わが国の経済的基盤・経済状況と倒
産処理法制の対応の変遷を論じる。
4 例えば,日本リース会社更生事件の更生管財
人が同事件の記録をまとめた奥野善彦『会社再
建』(小学館,2000年)や,多くの会社更生事件
において更生管財人を務めた弁護士の著書であ
る清水直『あきらめるな!会社再建』
(東洋経済
新報社,2001年)の書籍名が一つの象徴と言え
るのではないかと思われる。
5 ここでも,一例として,主に企業倒産実務家
の手による書籍名を挙げると,
《企業再生》の用
語を用いるものとして,高木新二郎『企業再生
の基礎知識』(岩波書店,2002年),藤原総一郎
『企業再生とM&Aのすべて』(文藝春秋,2005
年)(なお,同書10頁では,「『事業再生』という
用語は,今や日常的に使われる言葉として,毎
日のように新聞や雑誌に登場するようになっ
た」と言及されている),《事業再生》の用語を
用いるものとして,田作朋雄『事業再生』(角川
書店,2002年),高木新二郎『事業再生』(岩波
書店,2006年)など。なお,2003年(平成15年)
2月,経済産業省が「早期事業再生ガイドライ
32
地に陥らしめるであらう」といったGHQに対す
る提出文書(ただし未提出)中の言及が,当時
の日本政府の現状認識を如実に示しているとい
えよう(「戦時補償処理に関する日本政府の司令
部宛要請(未提出)(昭和21年5月31日)」大蔵
省財政史室編『昭和財政史・終戦から講和ま
で・第17巻』
(東洋経済新報社,1981年)683-684
頁(本稿では,国立国会図書館HP掲載の「閣議
決定等文献リスト及び本文」からのデジタル
データから参照した))。
11 三ヶ月ほか・前掲注(8)3頁。
12 三ヶ月ほか・前掲注(8)56頁。
13 橋本寿朗『戦後の日本経済』(岩波書店,1995
年)102頁。
14 「これは,わが国企業形態の代表的なものであ
る株式会社の法的規制をアメリカナイズし,当
時わが国の経済再建のために要望されていた外
資の導入,国際取引の円滑化に資そうという狙
いをもったところの,一連の連合国側の政策の
現われであった」と指摘されている(三ヶ月ほ
か・前掲注(8)4頁)。
15 い わ ゆ る1938年 の チ ャ ン ド ラ ー 法(The
Chandler Act)による改正後のアメリカ連邦倒
産法旧第10章会社再建(Corporate Reorganization)のことである(チャンドラー法について
は,三ヶ月章「アメリカにおける会社更生手続
の形成」同『会社更生法研究』(有斐閣,1970
年)1頁(初出,法協68巻2号(1950年))が詳
しい。旧第10章の邦訳につき,同書403頁以下を
参照。)。
16 松田二郎『会社更生法』(有斐閣,新版,1976
年)1頁。なお,実際にGHQ側との交渉に終始
立ち会った三ヶ月章博士は,「GHQの担当係官
の側にさえ,どの程度のリオーガニゼーション
の正確な理解があったかは問題である」,「会社
更生法の制定がGHQのかなり上層部で政策的
に決定されてから……,あわてて係官が─本国
から資料をとり寄せつつ─その研究に取り組ん
だのではないかと想像される節がある」と指摘
する(三ヶ月章「会社更生法の司法政策的意義」
同『会社更生法研究』(有斐閣,1970年)261頁
脚注(二)(初出,法協83巻5号,6号(1966
年)))。他方において,会社更生法制定に関わっ
た位野木益雄法制意見参事官は,「なお,この立
法が全く自主的な立法であることはいうまでも
ないところであるが,このことは国会における
法案の審議の経過から見ても明白であって,特
に,講和発効後にこの法律が成立したことは,
この間の事情を物語るに十分であろう。
」
(位野
木・前掲注(8)7頁)と注意深くも指摘して
いる点は興味深い。
17 谷口安平
「再建手続としての会社更生の特徴」
青山善充ほか編『会社更生・会社整理・特別清
算の実務と理論』判タ臨増866号12頁(1995年)
も,
「会社更生法は戦後の財閥解体によるいわゆ
る株式民主化のもとでの大規模公開株式会社の
経営危機を念頭におき,経済発展のため特にア
メリカからの投資を促進するための立法であっ
たと言われている」と指摘している。
18 会社更生法の成立過程の詳細については,位
野木・前掲注(8)3頁以下,三ヶ月ほか・前
掲注(8)5頁以下を参照。
19 三ヶ月ほか・前掲注(8)71頁以下。
20 以上,三ヶ月ほか・前掲注(8)71頁。
21 山陽特殊鋼会社更生事件を契機とする会社更
生法悪法論・濫用論の分析,会社更生法の位置
づけ,さらに悪法論・濫用論以後の会社更生法
の方向性について論じたものとして,三ヶ月・
前掲注(16)215頁。
22 瀬戸英雄「倒産法制の見直し作業と弁護士の
関与」清水直編著『企業再建の真髄』
(商事法
務,2005年)36頁。
23 法制審議会倒産法部会設置から法改正に至る
までの経緯については,同部会の委員であった
瀬戸英雄弁護士による解説(瀬戸・前掲注(22)
38頁以下)が詳細である。
24 実際に,1997年(平成9年)12月19日に公表
された法務省民事局参事官室編「倒産法制に関
する改正検討事項」
(別冊NBL46号として刊行
されている)は,
「第1部 法人に対する倒産処
理手続」
,
「第2部 個人(自然人)に対する倒
産処理手続」
,
「第3部 国際倒産」
,
「第4部 倒産実体法」
,
「第5部 その他」から構成され
ている。
25 瀬戸・前掲注(22)41頁。この新再建型倒産
処理手続の整備を最優先させるため,その他の
破産法及び会社更生法並びに倒産実体法につい
ての見直し作業は一時中断されることとなっ
た。
26 もっとも,同時に中小企業の不況型倒産が高
水準で推移していることも指摘されている(深
山卓也
「民事再生法制定の経緯と法の概要」
ジュ
リ1171号13頁(2000年)脚注(4)
)
。
27 民事再生法の成立過程の詳細については,深
山・前掲注(26)6頁以下,深山卓也ほか『一
問一答民事再生法』
(商事法務研究会,2000年)
33
3頁以下を参照。
28 新会社更生法の成立過程の詳細については,
深山卓也「新会社更生法の特徴」山本克己ほか
編『新会社更生法の理論と実務』判タ臨増1132
号14頁(2003年),深山卓也編著『一問一答新会
社更生法』(商事法務,2003年)3頁以下を参
照。
29 伊藤眞『破産法・民事再生法』(有斐閣,第2
版,2009年)19頁。
30 伊藤眞編集代表『民事再生法逐条研究─解釈
と運用』(ジュリ増刊)(有斐閣,2002年)18頁
〔松下淳一発言〕。
31 伊藤編代・前掲注(30)17頁〔深山卓也発言〕。
32 2005年(平成17年)の会社法制定(平成17年
法律第86号)において,株式会社については「事
業譲渡」の用語が用いられ,それ以外について
は従来通りの「営業譲渡」の用語が用いられて
いる。民事再生法における用法もこれに従うも
のである。
33 伊藤編代・前掲注(30)17頁〔深山卓也発言〕。
34 深山ほか・前掲注(27)30頁。
35 多比羅誠「破産手続のすすめ─事業再生の手
法としての破産手続」NBL812号32頁(2005年)
及び同「事業再生手段としての破産手続の活用」
園尾隆司ほか編『新・裁判実務体系第28巻 新
版 破産法』
(青林書院,2007年)32頁は,この
ような「事業再生手段としての破産手続」の活
用を説く。
36 倒産手続において事業譲渡が実際に多く行わ
れるようになった背景事情として,
「債務者企業
を離れて事業を存続させることのメリットが,
広く認識されるようになったこと」が指摘され
ている(松下淳一ほか「
〔座談会〕倒産法全面改
正後の実情と問題点」ジュリ1349号13頁(2008
年)
〔松下淳一発言〕
)
。
37 伊藤・前掲注(29)20頁は,
「清算型と再生型
の区別自体も,その限界は相互に流動的なもの
である」と評している。
38 更生手続においては,担保権が更生担保権と
して手続制約を受けていることも,このことに
関連付けて理解することができよう。
39 加藤哲夫「アメリカにおける鉄道更生─その
変遷とひとつの帰結─」同『企業倒産処理法制
における基本的諸相』
(成文堂,2007年)3頁
(初出,
中村眞澄・金澤理教授還暦記念論文集第
1巻『現代企業法の諸相』
(成文堂,
1990年)25
頁)
。
第4章
米国連邦倒産法チャプター11とそれを批判する学説の再検討
長野 聡
法のみならず,あらゆる制度は外的環境の変化
第1節 米国チャプター11と民事再生,
会社更生法
に伴って不断の改善が必要なもので,その必要
性の検証も不断に行われねばならぬものであ
る2。
1.研究会での問題意識(再説)と本章の関
現状をみると,第1章でみたように,主な債
係
権者である銀行は,民事再生や会社更生手続(以
これまでみてきたように,バブル崩壊を経て,
下では,まとめて「再生等手続」という。)の利
日本の再建型倒産法制は大改正された。1978年
用を拡大しているものの,みずからの主導によ
に米国において倒産法改正により導入された
る債権放棄を通じた経営再建がうまくいかない
チャプター11も参考に,DIP型の民事再生法と
場合の次の段階,いわば最終手段と位置づけて
管財人管理型の会社更生法に醇化された1。施行
いるように窺われる。
後,大きな景気サイクルも経ていないことから,
その理由は以下のようなものと思われる。第
法改正の成果について現時点で包括的な評価を
一には,日本では再生等手続開始前後での企業
行うことは時期尚早と考える。もっとも,倒産
資産価値の評価3に非連続の段差が生じるとい
34