. . ( . ): ∼ 一般講演 1 1 アミオダロン服用1年後に食欲不振,肝臓CT値上昇 を認めるも減量にてCT値が改善した1例 尾形 竜郎 山本 浩史 林 真也* するも穿孔などのトラブルにより不成功に終わった. はじめに そこでアミオダロン投与下に心臓電気生理検査 (EPS) アミオダロン投与により肝臓CT値の上昇を来した を施行,VTが誘発されたため,植え込み型除細動器 症例は過去に本研究会でも報告されているが,一般の (ICD)を導入するとともに,アミオダロン200 mg/日 臨床医には肝臓CT値の意義が十分に認識されていな 内服を開始した. いものと思われる.今回われわれは,1年間のアミオ 約1年後の2 00 8年8月初旬より,頑固な食欲不振と ダロン投与を経て食欲不振と肝臓CT値上昇を呈し, 軽度の肝機能障害を認め,入院となった. アミオダロンの減量によりCT値の改善に至った症例 を経験したので報告する. 57 cm,体重5 6 kg.脈拍数60回/分, 入院時現症:身長1 整.黄疸や肝腫大などの異常所見は特に認めなかった. (表1) :AST 69 IU/L,ALT 61 IU/Lと軽度 検査所見 症例呈示 の肝機能障害,BUN 356 . mg/dL,クレアチニン21 .9 9歳,男性. 症 例:7 mg/dLと腎機能障害を認めた.その他,好酸球分画お 主 訴:食欲不振. よび中性脂肪の高値もみられた.アミオダロンおよび 8歳時に急性心筋梗塞および横行結腸癌, 既往歴:6 代謝物モノデスエチルアミオダロンの血中濃度は有効 肝浸潤に対して手術を施行される.7 1歳時には左冠動 治療域であった. 脈主幹部の病変が進行したため,3枝バイパス術を施 入院時胸部X写真では肺うっ血もみられず,心胸郭 行された.メキシレチン投与による発熱,発疹の既往 比53%と心拡大は軽度であった.心エコーでは下壁に あり. 高度の壁運動低下を認め,左室駆出率は3 9%であった. 現病歴:陳旧性心筋梗塞と高血圧,高脂血症,腎障 12誘導心電図では,Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導にてT波平低化と 害にて当科に通院していた. small q波,V4∼V6誘導にて軽度のST低下を認めた. 2 007年9月,持続性心室頻拍 (sustained VT)が突如 結腸癌と肝浸潤の既往があることから,当院外科に 出現した.VT発生時の12誘導心電図は,上方軸で右 て肝臓CT所見がフォローされており,VT出現前の肝 脚ブロック型の所見であった.冠動脈造影検査を施行 臓CT値は55 HUと正常範囲内であったが,食欲不振出 したところ,左前下行枝#7および右冠動脈#1にて 現時のCTでは肝実質の濃度が上昇しており,CT値は 10 0%の閉塞,LMTにて75%,左回旋枝#11と#13に 9 6 HUであった (図1) . 9 0%,3本のバイパスグラフトについてはAo―RCAグ (図2) :食欲不振と軽度のAST,ALT (肝逸脱 経 過 ラフトが閉塞しており,Ao―LAD,Ao―OMグラフト 酵素) 上昇を認めたことから,アミオダロン内服は中 は開在していた.右冠動脈領域の心筋虚血がVTの原 止した.中止後は肝逸脱酵素が速やかに低下し,食欲 因と考えられたため,他院にて右冠動脈のCTO病変に も回復したため,1 00 mg/日と半量にてアミオダロン 対して経皮的冠動脈インターベンション (PCI)を施行 投与を再開したものの,直後に食欲不振が現れて再入 院となった.そこでアミオダロンを中止し,β遮断薬 * T. Ogata,H. Yamamoto,S. Hayashi:徳島県立三好病院内科 の投与を開始し,外来にて経過観察としたところ,1 ― ( 682)― 第14回アミオダロン研究会講演集 表1 入院時血液生化学検査所見 <末梢血検査> WBC 66 , 70/mm3 67×1 04/mm3 RBC 3 AST ALT <生化学検査> 69 IU/L 61 IU/L HCV―Ab Na K (−) 1 38 mEq/L 41 . mEq/L UA CRP BNP 61 . mg/dL 00 . 4 mg/dL 9 4 pg/mL Hb Ht 123 . g/dL 362 . % GTP LDH Cl Fe 1 03 mEq/L 41μg/dL Plt 1 26 . ×1 04/mm3 TSH FT3 FT4 15 . 3μU/mL 16 . 4 pg/mL 15 . 5 ng/dL <白血球分類> Neut 62% 27 IU/L 25 1 IU/L ALP 3 26 IU/L T―Bil CPK Lym 20% TP Mo 44 . % BUN Eo 118 . % Ba 13 . % UIBC 02 . 7 mg/dL 83 IU/L 20 5μg/dL フェリチン 35 mg/dL FBS 10 4 mg/dL T―Cho 1 8 3 mg/dL 70 . g/dL 356 . mg/dL Cre 21 . 9 mg/dL HBs―Ag (−) KL―6 3 4 2 U/mL 抗平滑筋抗体 (−) 抗ミトコンドリア抗体 (−) LDL―C 8 4 mg/dL アミオダロン(AMD) 7 70 ng/mL HDL―C 4 3 mg/dL モノデスエチルAMD 9 40 ng/mL TG 2 76 mg/dL 2007年3月 CT値55 HU 2008年8月 CT値96 HU 図1 腹部CT所見 アテノロール 25 mç アミオダロン 200 mç (IU/L) 80 100 mç 食欲不振 リドカイン 1,440 mç アミオダロン 50 mç 食欲不振 AST ALT VT storm 70 肝生検 60 50 40 30 20 10 0 08/4/25 6/2 8/8 8/15 8/26 9/15 10/13 11/12 12/5 09/3/26 図2 臨床経過 日100回以上のVT stormが生じ,ICDが頻回作動した アミオダロン投与の可否を判断すべく,肝生検を行っ ため緊急搬送され,入院となった. た.その結果,細胞質がやや大型になり,色調が淡く 肝臓CT値は依然高値であったが,肝逸脱酵素は既 なった所見を認めたものの,空胞状変性や線維化の所 に低下しており,黄疸や腹水も認めなかったことから, 見はみられなかったため (図3) ,50 mg/日と低用量の ― ( 683)― . 弱 拡 HE染色 PAS染色 図3 肝生検所見 細胞質がやや大型になり,色調が淡くなった所見を認めたが,非アルコール性脂肪性肝炎(空胞状変性)や線維化の所見は認めない. 2008年8月 CT値96 HU 2009年4月 CT値54 HU 図4 アミオダロン減量して投与再開6カ月後の腹部CT所見 アミオダロン投与を再開した.6カ月後のCT所見 (図 肝生検などの所見で薬剤性NASHが認められた場合, では,輝度のコントラストがほぼ消失し,CT値も 4) 1 5∼50%は肝硬変に進行するという報告もあり,心疾 54 HUと低下していた. 患の状態 (VTのコントロール状況) から可能であれば, 他剤への切り替えが望ましい. 考 察 おわりに CT値は肝臓で6 0 HU,脾臓で5 0 HUが正常値とされ, 5 0 HU以下の低値を呈する病態としては,脂肪肝や非 アミオダロン投与により,肝臓CT値の上昇および アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が挙げられる.一方, 肝障害を認めた.肝障害とCT所見はアミオダロン減 70 HU以上の高値を来す原因としては,鉄沈着を伴う 量により改善した. ヘモクロマトーシス,金,銅,ヨード,ガドリニウム, アミオダロンはヨードを含有する脂溶性薬剤であり, アミオダロン,糖原病がある. 肺や甲状腺,肝臓など,多臓器への蓄積性がある.ま アミオダロン投与に伴う肝臓CT値上昇の頻度は, 1) 本研究会で150例中2例 (13 . %)と報告されており ,ア れに肝臓CT値の上昇や肝障害を来すことがあり,注 意が必要と考えられた. ミオダロンに含有されるヨードが肝臓に沈着すること で生じる.アミオダロンの代謝物であるモノデスエチ ルアミオダロンの血中濃度は,肝臓CT値と相関する ことが報告されているが2),肝臓CT値の上昇と肝障害 の程度は相関しないことが多く,肝障害は代謝酵素活 性の特殊な個人差に起因するとされる.アミオダロン による肝障害は,投与8週以降から1年以上と長期の 文 献 1)中山美緒,高橋 望,村田光延ほか:アミオダロン内 服開始6年後に非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)を 発症した1例.Prog Med 2 009;29 (Suppl 1) :68 4― 68 8. 2)平川浩一,安部光一郎,綾部善治:アミオダロン服用 に伴う肝臓CT値の上昇についての検討.日本医放会 4. 誌 200 3;63:2 21―22 薬物服用後にみられ,回復には2週から4カ月を要す るとされている. ― ( 684)― 第14回アミオダロン研究会講演集 質疑応答 (国立循環器病センター心臓血管内科部長) 座長/鎌倉 史郎 (横浜薬科大学臨床薬理学教授) 橋本敬太郎 (徳島県立三好病院内科) 演者/尾形 竜郎 鎌倉(座長) ありがとうございました.この演題に ンを減量せざるを得ない結果となりましたが,CT値 関して,ご質問をお願いします. がやや上昇した程度であれば,肝硬変との関連性を考 後藤(市立札幌病院) 最終的な経過を教えてくださ える必要はないのでしょうか. い.アミオダロン50 mg/日で維持されている間,ICD 尾形 NASHを示唆する空胞状変性などがあれば, の作動とアミオダロンの血中濃度はどのような状況に 肝硬変に移行するリスクが高いようです.今回は肝逸 あるのでしょうか. 脱酵素の上昇を認めただけですが,アルブミンや凝固 尾形(演者) 2 0 0 8年9月にストームを起こして以来, 系の低下,あるいは黄疸などが認められた場合は,ア 50 mg/日の投与でVTは一度も発生していません.血 ミオダロンを中止すべきだと思います. 中濃度は,アミオダロンと代謝物のいずれも4 0 0∼6 00 鎌倉 CT値が上昇したときの肝臓の色調はいかが ng/mL程度で推移しています. でしたか.やや青くなるという話を聞いたことがある 後藤 50 mg/日の投与でも,それくらいのレベルに のですが. 保たれているのですね.ありがとうございました. 尾形 針生検しか行っていませんのでわかりません. 尾形 高齢者で体格も小さく,ICDも導入されてい 鎌倉 ほかにはよろしいでしょうか.では尾形先生, ますので,最初から1 0 0 mg/日で維持してもよかった どうもありがとうございました.これで午前中のセッ のかもしれないと,現在は考えています. ションを終了いたします. 鎌倉 この方は食欲不振があったため,アミオダロ ― ( 685)―
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