Electrical stormにアミオダロン,ニフェカラントの どちらが第一選択薬か?

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.
(
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): ∼ 一般講演 2
1
Electrical stormにアミオダロン,ニフェカラントの
どちらが第一選択薬か?
前田 峰孝
植島 大輔
沖重 薫
志村 吏左
青柳 秀史
宮城 直人
杉山 浩二
倉林 学
畔上 幸司*
の上昇を認めた.経胸壁心エコーでは左室駆出率が
はじめに
4
7%と低下しており,心拡大は認められなかったもの
Washizukaらの検討では,治療抵抗性のelectrical
の,下壁と後中隔にて重度の壁運動低下を認めた.1
2
storm
(ES)に対してニフェカラント静注が有効かつ安
誘導心電図ではⅡ,Ⅲ,aVF誘導にて著明なST上昇を
1)
全であったと報告されている .一方,アミオダロン
認め,心拍数は5
6回/分と徐脈傾向にあった.
についても薬剤抵抗性の心室性不整脈に対する有効性
(図1)
:以上の所見から急性冠症候群と診断
経 過
と安全性が報告されており,リドカインとの比較でも
し,緊急冠動脈インターベンション
(PCI)を施行する
2,
3)
より効果的であることが示された
.このように,難
とともに,外来にて心室性期外収縮
(PVC)の散発を認
治性不整脈に対するアミオダロンとニフェカラントの
めていたことからニフェカラント8mg/時の持続静注
有用性を示した報告は多数みられる.しかし,ESに対
を開始した.しかし,その後もPVCは減少せず,非持
する第一選択薬としての優劣を両薬剤間で比較した報
続性心室頻拍
(non―sustained VT)も散見され,ニフェ
告はない.
カ ラ ン ト を10 mg/ 時 に 増 量 し た に も か か わ ら ず,
今回われわれは,ESに対してアミオダロンもしくは
PVCをトリガーとする単形性の持続性VTが出現した
ニフェカラントを投与した7症例の経過を分析し,第
(図2)
.失神ならびに血行動態の破綻を来したため,
一選択薬としてどちらが適当であるか,比較検討を
合計3回の直流除細動(DC)を施行し,洞調律復帰後
行ったので報告する.
はニフェカラントを1
6 mg/時に増量した上でPCIを終
了した.
症例呈示
帰室後にPVCの漸増,さらに持続性VTの出現を認
1.症 例 1
めた.ニフェカラントによる治療は限界と考えて中止
2歳,女性.日常生活動作
(ADL)
は自立し
症 例:9
し,アミオダロン1
25 mg/10分の急速静注開始後にDC
を施行したところ,洞調律への復帰が認められた
(図
ている.
(発症時期不明)
.
既往歴:慢性腎臓病,白内障
.以降は推奨プロトコールに準じてアミオダロン
2)
009年2月3日,意識レベル低下のため椅
現病歴:2
の持続静注を行い,洞調律を維持することが可能で
子から崩れ落ちて転倒し,当院救命救急室に搬送され
あった.
た.心電図上,下壁誘導にてST上昇が認められ,当科
2.症 例 2
3歳,女性.
症 例:6
入院となった.
検査所見:血液生化学検査では白血球数,AST,CK
(50歳代)
.
既往歴:子宮筋腫にて手術
0
0
8年4月に多発性骨髄腫と診断される.
現病歴:2
*
M. Maeda,K. Okishige,H. Aoyagi,K. Sugiyama,D. Ueshima,
T. Shimura,N. Miyagi,M. Kurabayashi,K. Azegami:横浜
市立みなと赤十字病院心臓病センター内科
20
0
8年5月16日より発熱,腰痛,Q怠感が出現し,5
月1
9日に近医を受診したところ,肺炎球菌による肺炎
―
(
730)―
第1
4回アミオダロン研究会講演集
失神
DC
管
DC
心室性期外収縮
単形性心室頻拍
アミオダロン
(静注)
ニフェカラント
125 mç
33 mL/時
iv
750 mç in 515 mL
8
14:00
入院
緊急PCI
17 mL/時
16 mç/時
10
15:00 15:15
16:00
22:20
PCI終了
図1 臨床経過図(症例1)
①持続性単形性VT(緊急PCI施行中)
②ニフェカラント持続静注にもかかわらずVT頻発
③アミオダロン開始後,DCにより洞調律に復帰し維持
図2 発作時モニター心電図(症例1)
と診断された.同日,当院血液内科に転院となり,入
ント5
0 mg静注開始後にDCを施行したところ,ようや
院5日目にVTが出現したため,当科紹介となった.
く洞調律への復帰を認めた
(図4)
.
2誘導心電図は不完全左脚ブ
検査所見:発作直前の1
その後はPVCもなく経過していたが,第2病日に単
ロックの所見であり,多様な波形のPVC頻発を認めた.
形性VTが再発し,血行動態の破綻を来した.再度ニ
発作時の血液生化学検査では,白血球数149
,0
0/μL,
フェカラント50 mgの静注開始後にDCを施行した結
CRP317
. mg/dLと著明な炎症所見のほか,AST,ALT,
果,不整脈は消失したものの,再発の危険性を考慮し
LDH,CKの上昇,Kの低下を認めた.経胸壁心エコー
てアミオダロン内服を4
00mg/日より開始し,
20
0mg/
では心拡大や左室駆出率低下を認めなかったが,右室
日の維持投与へと移行した.以降は全く発作を認めず,
前方にecho free spaceがみられ,急性心筋炎と診断し
炎症所見も徐々に軽快した.
た.
結果と考察
(図3)
:合計5回のDCでも単形性VTが停止
経 過
せず,アミオダロン1
2
5 mgの急速静注後,さらにDCを
検討対象とした7例の概要を表1に示す.基礎疾患
2回施行した.なおもVTが持続したため,ニフェカラ
としては急性冠症候群が多く,2例は急性心筋炎,1
―
(
731)―
. DC
DC
DC
失神
DC
単形性心室頻拍
心室細動
アミオダロン
(静注)
125 mç
div
アミオダロン
(経口)
200 mç
400
50 mç
iv
ニフェカラント
50 mç
iv
2
3
10
(病日)
図3 臨床経過図(症例2)
①単形性VT(アミオダロン125 mç投与するも持続)
②VT停止(ニフェカラント50 mç静注後にDC)→洞調律へ
図4 発作時モニター心電図(症例2)
表1 症例の概要
例は催不整脈性右室心筋症(ARVC)であった.不整脈
に対する薬物治療では,ニフェカラントおよびアミオ
症 例
ダロンの単独投与に加え,一方から他方への切り替え
73歳 男性
AMI
Mono―VT
N→A
も施行されていた.
63歳 女性
急性心筋炎
Mono―VT/VF
A→N
上記症例の治療過程では,抗不整脈薬の大量急速投
61歳 男性 ARVC
92歳 女性 AMI
7
4歳 男性 AMI
与を施行した.この治療法は,通常量で停止しなかっ
た不整脈を大量投与で抑制できた過去の経験に基づい
ており,緊急避難的投与と位置づけられる.通常量で
十分な効果を得られない場合は,救命措置の観点から,
このような治療法も検討すべきであろう.なお,ニ
フェカラント投与例のみを対象とした検討では,大量
基礎疾患
不整脈
Mono―VT
42歳 女性 急性心筋炎
6
3歳 男性 OMI,UAP
Mono―VT/VF
VF
Mono―VT
VF
薬剤(N/A)
A
N→A
N
N
N
AMI:急性心筋梗塞,ARVC:催不整脈性右室心筋症,OMI:
陳旧性心筋梗塞,UAP:不安定狭心症,Mono―VT:単形性心
室頻拍,VF:心室細動,N:ニフェカラント,A:アミオダロン.
急速投与による副作用の発現を認めていない.
ESに対する第一選択薬は,症例により異なると考え
投与も必要かつ有効であろう.
られる.今回の検討では,基本病態と薬剤特性の関係
おわりに
から薬剤を選択すべきと考えられた.
アミオダロンとニフェカラントをともに投与した症
Electrical storm
(ES)に対する第一選択薬の候補と
例では,ESに対して両薬剤の相加もしくは相乗効果が
して,アミオダロンとニフェカラントの比較検討を
働いたと考えられる.病態いかんでは薬剤の大量急速
行った.今回の検討では,両薬剤間の優劣を確認でき
―
(
732)―
第1
4回アミオダロン研究会講演集
なかった.また,状況によっては薬剤大量投与も検討
すべき課題と考えられた.
ESに対する第一選択薬を選定するためには,さらな
る症例の集積による今後の検討が必要と考えられた.
文 献
1)Washizuka T, Chinushi M, Watanabe H, et al:Nifekalant hydrochloride suppresses severe electrical
storm in patients with malignant ventricular tachyar13.
rhythmias. Circ J 20
05;69:1
5
0
8―15
2)Vassallo P, Trohman RG:Prescribing amiodarone:an
evidence―based review of clinical indications. JAMA 22.
2
00
7;298:131
2―13
3)Dorian P, Cass D, Schwartz B, et al:Amiodarone as
compared with lidocaine for shock―resistant ventricu0.
lar fibrillation. N Engl J Med 2
0
02;3
46:88
4―89
―
(
733)―
. 質疑応答
(千葉大学大学院医学研究院薬理学教授) 座長/中谷 晴昭
(財団法人心臓血管研究所第三研究部部長) 山下 武志
(横浜市立みなと赤十字病院心臓病センター内科)
演者/前田 峰孝
中谷(座長) ありがとうございました.Electrical
のお考えはいかがですか.
stormの治療では,症例によって選択する薬剤が異な
前田 そうですね.ニフェカラントを使用した症例
るというご結論です.奥村先生,どうぞ.
に関して申し上げると,使用した理由として最も大き
奥村(弘前大) 比較検討は行っておられませんね.
いのは,使い慣れているということです.緊急の対応
そこは注意すべき点だと思います.
が求められる状況において,まず使い慣れている薬剤
症例2では,ニフェカラント5
0 mgと,通常の3∼4
を使用したという理由から,ニフェカラントの使用例
倍に相当する用量の静注を行われていますが,症例1
が多い傾向にあります.
では行っていない.したがって,症例1でも大量投与
中谷 ほかにいかがですか.
であれば有効だった可能性がある,というのが先生の
山下
(座長)
症例2では,アミオダロン1
25 mgの急
お考えでしょうか.症例1では8mg/時から1
0 mg/時,
速静注後にVTが停止しなかったため,アミオダロン
16 mg/時と増量されていますから,むしろ少量ですね.
は無効だったようにみえますが,まだ効果が現れてい
いかがですか.
ないだけだと私は考えているのです.効果が発現する
前田(演者) 投与開始時は血行動態も安定していま
前に有効性を判断することはできないと思いますが,
したので,92歳と高齢であることも考慮し,まず半量
いかがですか.
で持続静注を行ってからカテーテル治療に臨んだので
前田 確かにアミオダロンの静注剤は作用するまで
すが,
徐々に持続性VTが出現してきました.
そのとき
に時間を要するという印象がありますが,ただちに不
はDCで停止しましたので,持続静注で経過を観察し
整脈を停止させなければならない状況では,しばらく
ていましたが,PCI終了後に持続性VTが再発したため,
経過をみて停止しなければ無効と考え,次の選択とし
ニフェカラントの限界も考えてアミオダロンに変更し
てニフェカラントの投与を検討することになります.
たという経緯です.
今回はそのような形で検討しました.
奥村 ESをきちんと管理できなければ患者さんは
中谷 先ほど奥村先生がおっしゃったように,ESへ
死んでしまいますから,非常に重要な問題ですね.そ
の対応は極めて重要です.どのような症例にどちらの
ういう意味でも,薬剤の使い分けについては明らかに
薬剤が良いかという問題については,様々な施設から
していかなければいけませんが,先生のご発表を拝見
様々なデータを得た上で,最終的に標準治療が確立さ
すると,ESに対してはニフェカラントの方が有効だっ
れるはずですので,今後さらにご検討をお願いします.
たのではないかという印象を受けます.ニフェカラン
どうもありがとうございました.これでアミオダロン
トの問題点は,QT延長からtorsades de pointesを起こ
静注の第2セッションを終了します.
すリスクがあり,増量が制限されることですが,先生
―
(
734)―