Newsletter Vol.2

ごあいさつ
UC—Tec では、
組合員の皆様や関係者に向けた広報誌として Newsletter を発行しています。
今回は Vol.2 として、
平成27年度の SIP の活動を通じた UC-Tec の活動状況を報告します。
1.UC—Tec の活動体制
UC—Tecは、企画委員会、遠隔操作による半水中作業システム開発委員会(以下、
「SIP開
発委員会」と表記します。
)、5月30日の第3回理事会で承認された知的財産権委員会、
運営幹事会、事務局で活動しています。
次世代無人化施工技術研究組合(UC-Tec)理事長:油田 信一
rijicyou
SIP 開発委員会
企画委員会
・実証評価 WG
(企画委員会コア部会)
・機体開発 WG
・計測技術 WG
・操作支援 WG
・委託研究 WG
運営幹事会
事務局
知的財産権委員会
(1)企画委員会
新たな無人化施工の研究開発テーマや組合の活動内容を提案し、関係する研究開発助成
制度や研究委託公募制度等、例えば現在取り組んでいる戦略的イノベーション創造プログ
ラムのような制度の活用など、新たな組合の研究活動について幅広く企画検討を行います。
(2)遠隔操作による半水中作業システム開発委員会(SIP開発委員会)
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施するSIP(戦略的
イノベーション創造プログラム)
「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」「無人化
施工の新展開〜遠隔操作による半水中作業システムの実現〜」 において提案した内容につ
いて研究活動を実施しています。
(3)運営幹事会
事務局と協力して組合の運営を行います。
(4)知的財産権委員会(新設)
知的財産委員会では、関連規程、要領等の整備、知的財産権に関する全体調整、疑義が
発生した場合の審議決定を担当します。
Newsletter Vol.2 (H28.8 月号)
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2.研究開発内容及び成果等
遠隔・無人化施工技術は多くの災害時緊急工事に用いられていますが、水際や半水中部
での災害対応が課題となっています。本研究開発では、半水中における作業を遠隔操作に
より行うために必須である遠隔操作型重機ロボットの開発を行い、半水中作業の遠隔施工
を実現し、災害被害の軽減,早期復旧,災害時の迅速な経済再生社会インフラ再生へ貢献
するものです。平成27年度は、次の研究開発を実施しました。
(1)遠隔操作型重運搬ロボットの開発
1.1 水深 1.5m の浅水域を走行可能な水陸両用重搬送車両(初号機)の開発
1.2 遠隔操作インターフェイスの検討
(2)作業・走行支援センシング技術の研究開発
2.1 半水中下での走行路の形状や地盤の状況を把握する技術
2.2 GNSS IMU 位置・姿勢検出装置をクローラーダンプに搭載した場合の、機能と
性能の確保に関する検討
(3)操作支援システム技術の研究開発
3.1
重機モデルの動作特性を再現したシミュレーションを用いた半自動運転制御
アルゴリズムの研究開発
3.2
オペレータの負担を軽減し操作性の向上を図る走行操作支援ガイダンスシス
テムの開発・試作と陸上部での実験による検討
(1)遠隔操作型重運搬ロボットの開発
1.1 水深 1.5m の浅水域を走行可能な水陸両用搬送車両(初号機)の開発
水陸両用重搬送車両(初号機)の開発では、設計指針を得るために仮のシュノーケル
を用いて、シュノーケルの形状によるエンジンの過熱状況をエンジン冷却性能試験にて
確認し、この結果をもとに本シュノーケルの形状を決定しました。そして本シュノーケ
ルが取り付けられた水陸両用重搬送車両(初号機)の性能確認試験として、走行時エンジ
ン冷却性能試験及び水陸での走破性を確認しました。
a.エンジン冷却性能試験及びシュノーケル設計指針の決定
①
試験方法
エンジンルームの前後に吸排気用のシュノーケル3タイプを取付け、ダンプ駆動
時の油圧負荷によるエンジン温度上昇を観察しました(写真-1 参照)
。吸気側シュノ
ーケルには空気押込み補助ファンを設置し以下の
条件で試験を行いました。
シ ュ ノ ー ケ ル 断 面 積:
・約 0.67m2(対ラジエータ面積比:100%)
・約 0.33m2(対ラジエータ面積比: 49%)
・約 0.11m2(対ラジエータ面積比: 16%)
補助ファン駆動周波数:
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写真-1
実験用シュノーケル設置状況
2
・30Hz,40Hz,50Hz,60Hz,70Hz,80Hz
・補助ファンなし
②
試験結果
試験結果から補助ファン自体がなく、シュノーケル断面積の広い方が冷却性能も
よいことから、押込み補助ファンは使用しないこととし、車両オペレータの視認性
の観点からシュノーケル断面積をラジエータ面積と同等としました。
b.半水中重搬送車両(初号機)の製作
①
シュノーケル形状
上記a.の試験より得られたシュノーケル形状
設計指針から以下のように形状を決定し初号機の
製作を行いました(写真-2 参照)。
・シュノーケル断面積:約 0.67m2(対ラジエータ
面積比:100%)
・排気シュノーケル:車両キャビンより低い高さ
写 真 -2
雨除け及び落ち葉除け構造
半 水中 重 搬送 車両
(初号機)
・吸気シュノーケル:排気シュノーケルより低い高さ雨除け及び落ち葉除け構造
c.走行時エンジン冷却性能試験
初号機を用いて陸上走行試験路にて長時間走行時のエンジン冷却性能を確認しまし
た。
①
走行条件
走行時間:連続 90 分
走 行 路:整地走行(アスファルト,ドライ環境)
走行速度:3.5km/h,6.6km/h,7.9km/h,11km/h
積 載 量:0t,10t
環境温度:10.6℃
②
試験結果
走行負荷が最も高い速度 11km 走行(積載 10t)の試験結果でもエンジンオーバ
ーヒートは起きなかったため、オリジナル車両の走行能力を損なわない水陸両用重
搬送車両を実現することができました。
d.不整地走行試験
陸上及び水中に設置した不整地上を走行し、乗越え時に生じる車両への負荷を測定し
ました(写真-3,4 参照)
。
①
試験条件
走 行 環 境:陸上不整地,水中不整地
不整地高さ:100mm
走 行 速 度:6.6km/h(1900rpm),7.9km/h(2300rpm)
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不整地配置:左右同時乗越え,左右交互乗越え
写真-3
②
模擬不整地乗越え状況
写真-4
水中不陸走行試験状況
試験結果
水中での車両負荷は浮力の影響のため陸上走行時より小さくなる傾向にあり、計
測データは今後の2号機設計評価時に使用します。なお、試験で得られた最大加速
度値(X,Y,Z 方向)を以下に示します。
X 方向最大加速度:0.758G
Y 方向最大加速度:0.642G
Z 方向最大加速度:1.419G
1.2 遠隔操作インターフェイスの検討
半水中環境における遠隔操作に必要な機能、操作支援ガイダンスと半自律走行制御を
実現可能とする遠隔操作インターフェイスの検討を行いました。
遠隔操作システムは、遠隔側遠隔操縦システムと車載側遠隔操縦システムから構成さ
れており、それぞれのシステムには組み込み型の PC が搭載されています。
①車両の動きや状態を計測して安全性を判断、②複数ある操作入力(車両と遠隔の
ジョイスティック、半自律走行制御機器からの指令値)を制御、③複数の機器(操作
支援ガイダンス、半自律走行制御)で必要となる GNSS 信号の分配を可能としました。
車載側遠隔操縦システムでは、車両に搭載された GNSS/IMU のデータやエンジン回転
数等の車両データを計測し、
無線 LAN によって遠隔側遠隔操縦システムへ送信します。
遠隔側遠隔操縦システムではこのデータを受信し、操作支援ガイダンスへ送ります。
また、ジョイスティックによる操作データを無線 LAN によって車載側遠隔操縦システ
ムへ送り、車載側遠隔操縦システムによって車両を動作させる仕組みとなっています。
平成27年度は、遠隔操作試験を実施し、GNSS/IMU のデータ取得、車両データの計
測、無線 LAN を用いた遠隔操作が問題なく動作することを確認しました。
(2)作業・走行支援センシング技術の研究開発
2.1 半水中下での走行路の形状や地盤の状況を把握する技術
半水中下での走行路の形状や地盤の状況を把握するため、実際の使用を想定し、屋外
フィールドにて電磁波レーダによる水中地層探査を行いました。
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a.電磁波レーダフィールド実験
千葉県手賀沼で、電磁波レーダにより湖底観察を実施しました。
① 実験方法
小型船に電磁波レーダ、受信アンテナを取り付け、位置特定のため GNSS 測位機を
設置しました。船を微速前進させながら電磁波レーダ計測画面(反射強度表示)を
確認(写真-5 参照)し、湖底の状況が変化した場合は停船して、図-1 に示す貫入量
測定重錘により地盤固さの程度を測るため貫入試験を行いました。今回は、クロー
ラーダンプと同程度の接地圧となる「重鍾式の測定装置」を製作し、貫入量から地
盤の固さを判断することとし、電磁波レーダの反射強度とこの貫入測定器の沈下量
について分析を行いました。
湖底観察状況
簡易防水をし
たアンテナ
電磁波レーダ
計測画面
写真-5
電磁波レーダを用いた湖底観察実験
図-1 貫入量測定用重鍾
② 実験結果
今回の実験フィールドは、砂分の多い箇所は貫入量が少ない一方、比較的固い地
層で、シルト・粘土分が多い箇所では貫入量が大きく、柔らかい地盤でした。
電磁波レーダの反射強度と地層の固さについて、
・固い地層=砂……反射強度大(モニタで白く表示される)
・柔らかい地層=シルト・砂……反射強度小(モニタで赤く表示される)
の相関があり、電磁波レーダは地層の固さをある程度を示すと考えられます。今後
は更なる実験を行い、様々な現場でのデータ蓄積が必要です。
b.水中探査機比較実験
沖縄県豊見城市海岸沿いにて音響測深器、音響カメラを使用して海底観察を実施し
ました。
① 実験結果
音響測深器は単なる測深器であり、水深及び大まかな凹凸はわかるもののそれ以
上の情報は取得できません。音響カメラは少々の濁りのある状況(水中カメラで見
Newsletter Vol.2 (H28.8 月号)
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えない程度)で、立体的な画像により、かつフレームレート 10fps 程度のリアルタ
イム動画で、比較的鮮明に画像を取得できることがわかりました(写真-6 参照)
。し
かし水底の凹凸はわかるが、地質の状態がわからないため、今回の走行用探査機能
のセンサとして用いるには適さないと考えられます。
以上より、音響測深器・音響カメラはクローラーダンプの水中走行に用いるメイ
ンセンサとしての可能性は低いと結論されます。
写真-6
(左:音響カメラ
音響測深器、音響カメラを用いた海底観察実験状況
中左:音響測探器
中右:音響カメラ表示
右:実験現場状況)
2.2 GNSS IMU 位置・姿勢検出装置をクローラーダンプに搭載した場合の、機能と性
能の確保に関する検討
a.クローラーダンプ搭載用ボックスの開発
図-2 に示すようなクローラーダンプのルーフに設
置可能なボックスを開発しました。本ボックスは、
PCS と IMU を収納し、ボックス上部に GNSS アンテナ
を設置する方式を採用しました。位置・姿勢情報の
計算処理を高精度に維持するには、GNSS アンテナの
信号受信点と IMU 計測中心までの正確な相対位置の
図-2 収納ボックス
入力が必要となりますが、本収納ボックスは設計・
製作・収納時の各段階において、その相対位置を正確に計測し高精度かつ設置が容易
です。また防水処理された RS232 ポートとイーサーネットコネクタの付加により、RTK
補正情報の入力、NMEA-0183 準拠フォーマットの位置姿勢情報の出力及び、計算状態の
監視や設定の変更を収納ボックスの開閉を伴わないで実施できます。
b.クローラーダンプに搭載した GNSS IMU 位置・姿勢検出装置の精度検証実験
① 試験手順
クローラーダンプを写真-7 に示す黄色点
線ルートを3回以上走行させながら、リア
ルタイムデータ、後処理用データ及びトー
タルステーション(光学測量機)を用いて
記録(試験回数と走行速度は、現場指示に
従う)を行い、計測データの精度に関する
比較検証を行います。
② 実験結果
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写真-7
走行試験ヤード全景
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走行時に取得した各種測定データを分析すると、
・GNSS IMU 位置姿勢装置をクローラーダンプに搭載して、一定の精度にて位置・姿勢
情報を出力できることを確認しました。
・トータルステーションと後処理ソフトウェアを利用した位置情報の計算結果には、
数㎝精度で計測可能であることを確認しました。
・トータルステーション及び後処理ソフトウェアの計算位置結果とリアルタイム位置
結果の位較差は、特に旋回時や不整地において 20 ㎝程度生じる場合があることを確
認しました。リアルタイム計算処理での計算結果の精度向上を今後の課題とします。
(3)操作支援システム技術の研究開発
3.1
重機モデルの動作特性を再現したシミュレーションを用いた半自動運転制御ア
ルゴリズムの研究開発
事前に決定した走行ルート上を遠隔操作型重運搬ロボットが、半自動運転システムに
て走行する制御アルゴリズムの研究開発を行いました。開発段階における手法として、
コンピュータ上のモデル空間を利用することで実機の使用を必要とせず、平成27年度
は重機モデルを作成し動作特性をシミュレーションにより再現することで制御アルゴリ
ズムの妥当性を評価しました(図-3 参照)。
シミュレーションPC
ホストPC
重機モデル
シミュレーション空間での動作状況
車載PC
シミュレーション検証機器構成
図-3 シミュレーションによる開発状況
3.2
オペレータの負担を軽減し操作性の向上を図る遠隔操作支援ガイダンスシステ
ムの開発・試作と陸上部での実験による検討
遠隔操作支援ガイダンスシステムにおいて、センサの追加検討、応答性の確認実験、画
面表示の検討を行うとともに、装置試作と陸上部での実験による検討を行いました。
a.実験手順
遠隔操作建設機械は無線操縦しているため、操作機(コントローラ)の操作レバーの
動きと遠隔操作式建設機械の挙動には、200~400msec の潜在的な応答遅れが存在しま
す。そのため、無人化施工における操作ガイダンス装置の適切な評価に、遠隔操作式建
設機械を使用した実験を土木研究所、施工技術総合研究所等で計5回実施しました。
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b.実験結果
操作ガイダンス装置の研究開発では、図-4 に示すように IMU や GPS コンパスを使用
して進行方向を画面表示することで、計画走行基準への高い追従性を得られます。
屈曲点をふくむ 200mを超える走行距離がある十勝岳無人化施工において、操作ガイ
ダンス装置を使用した施工と映像を使用した無人化施工との比較では、平均走行速度は
同等で走行できました。映像を使用した無人化施工が 1.58~3.41mの幅をもって走行
するのに対し、ガイダンス装置を使った無人化施工では、0.30~0.86mと極めて狭い範
囲の走行幅で走行できています(図-5 参照)
。今後は、傾斜や凹凸のある路面に対して
の操作性、計画走行基準の追従性を確認します。
車体正面~側面
(荷卸箇所に近接)
車体正面~側面
(積込箇所に近接)
荷卸し箇所
車体搭載
図-4 無人化施工において走行に使用した映像
:映像のみ,遠隔走行軌跡
:ガイダンスのみ,遠隔走行軌跡
区分
映像
ガイダンス
区分
映像
ガイダンス
速度(km/h)
平均
瞬間最高
3.0
4.1
3.0
4.3
ズレ量
最小
最大
1.58
3.81
0.30
0.86
図-5 走行軌跡と走行バラツキ
編集後記
中間年報を基に、平成27年度の主な活動内容と成果をご紹介しました。これからも組
合活動をお知らせしたいと思います。今後とも宜しくお願い致します。
※
UC-Tec(次世代無人化施工技術研究組合) http://www.uc-tec.org/
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