尿路上皮がんに対する化学療法

尿路上皮がんに対する化学療法
尿路上皮がんとは?
おしっこの通り道にできるがんで、腎盂尿管がん、膀胱がん、尿道がんなどが含まれます。高齢者に多いの
が特徴で、血尿(おしっこに血が混じる)や、頻尿(おしっこが近くなる)などの原因となります。
治療は?
がんが発生した部位により治療法は異なりますが、お腹を切らずに尿道に鏡を入れて削る方法や、お腹を
切ってがんの発生した臓器を取り除いてしまう方法などがあります。
ひどくなると?
リンパ節や肺、肝臓、骨などに転移を起こした状態で見つかることがあります。また適切な治療を受けていて
も、後になってそのような転移を起こすことがあります。このような尿路上皮がんを進行性尿路上皮がんと呼
びます。
進行性尿路上皮がんの方の治療は?
手術などの局所に対する治療だけでは、身体じゅうに存在するがん細胞を完全になくすことはできません。
このような方には、抗がん剤を用いた全身に対する治療が必要です。
抗がん剤による治療とは?
これまでは、MVAC 療法と呼ばれる4つの薬剤(メトトレキセート、ビンブラスチン、ドキソルビシン、シスプラ
チン)を組み合わせた治療が多くの患者さんに対して実施され、‘ある程度’の効果が確立しています。‘ある
程度’とは、半数近くの患者さんで、せっかくこの治療を受けても、がんが小さくなることなく治療を断念せざ
るをえない状況にあるからです。また、一時的に小さくなってもすぐに、再び大きくなることがほとんどだから
です。さらにこの治療は、骨髄抑制(貧血をきたしたり、白血球減少により感染症にかかりやすくなったり、血
小板減少により出血しやすくなる状態)や消化器障害(口内炎、食欲不振、吐き気、嘔吐)などが非常に強く、
副作用のために治療を断念することもよくありました。
当科では?
当科では、抗がん剤のうちゲムシタビンとシスプラチンを組み合わせて用いる GC 療法を行っています。この
GC 療法は、これまでの MVAC 療法に比べて副作用が少なく、安全に治療を継続できることがわかりました。
この治療法は特別な治療ではなく、保険の範囲で受けることができます。しかしながら、抗がん剤である以
上、副作用がないわけではないので、抗がん剤の使用に慣れた病院でこの治療を受けることをお勧めしま
す。
実際の治療計画
3 週ごと投与(手術の前におこなう化学療法)
GEM
day1
ゲムシタビン
day8
休薬 day9-21
day3-4
点滴のみ
CDDP
day2
シスプラチン
休薬 day3-21
4 週毎投与(進行性尿路上皮がんでおこなう化学療法)
GEM
ゲムシタビン
day1
CDDP
シスプラチン
day8
day3-4
休薬
day9-14
day15
休薬
day16-28
点滴のみ
day2
休薬 day3-28
副作用には、骨髄抑制、消化器障害、脱毛などがあります。個人差はあるものの、貧血や白血球減少、血
小板減少といった副作用の頻度は、従来の MVAC 療法とほとんど変わりませんでしたが、予防目的に薬剤
を使用することで、あるいは症状に応じて治療する薬剤を用いることで充分対処できる範囲の副作用でした。
一方、それ以外の消化器障害や脱毛などの副作用は、頻度も程度もはるかに少ないものでした。
これからの課題は?
副作用が少ないにもかかわらず、これまでの MVAC 療法と同等の効果が得られること、またこれまでに
MVAC 療法などの化学療法を受けた患者さんにも安全に施行でき、同等の効果を期待できることが特徴で
ある一方、治療後早期に再発するという尿路上皮がんの特徴を変えることはできませんでした。
そこで当科では、GC 療法でその腫瘍の増殖を抑制できたと判断した患者さんには、各種抗がん剤による維
持療法を導入しています。これまでの治療は腫瘍を小さくすることだけを目標に治療してきました。もちろん、
抗がん剤治療は、腫瘍を完全になくすことを目標にすることには変わりありませんが、たとえ腫瘍が完全に
消えなくても、長期に亘って再発・再燃を阻止することができれば、すなわちがんとの共存が可能であれば、
長期の生命予後を得ることができると考えます。短期間の入院を繰り返しながら治療を継続し、なるべく日
常の生活を送っていただけるような維持治療を行っています。
尿路上皮がんに対する抗がん剤治療で、これまでそのような考え方は受け入れられることがなかったため、
多数の症例で検討したエビデンスのある報告はこれまでには一切ありません。今後も続けて、当科から発信
していく予定です。
さらに、これまでに GC 療法を受けたにもかかわらず腫瘍が小さくなるなどの効果が得られなかった患者さん
や、GC 療法によって一時的に腫瘍が小さくなるなどの効果が得られたものの再度病勢の悪化を認める患者
さんに対する治療法は確立していません。現在のところ、セカンドラインの治療として、タキサン系のお薬(パ
クリタキセル、ドセタキセル)が多く使用されています。当科では、抗がん剤のうちゲムシタビン、ドセタキセル、
カルボプラチンを組み合わせて用いる治療を行っています。