ロングステイを楽しむために〜その背景と留意点

intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
<誌上セミナー>
ロングステイを楽しむために
その背景と留意点
坂内
正
はじめに
定年後を田舎や海外で暮らすというセカンドライフの過ごし方に関心を持つ人が増えて
きています。今日、ここにお集まりの皆様方のなかにも、老後を海外で暮らしてみたい、或
は暮らすまでにならなくでも、少し長く滞在してみたいという人もいらっしゃるかもしれま
せん。
今日は、海外でのリタイアメントライフ
ロングステイを中心に、これまでの経
緯や背景、さらには、いざ行くとなったらどんな点に注意すればいいのかといったポイント
についてお話します。
<本稿は2013年6月15日に開催された、東京世田谷区生涯大学自主研究会セミナー
での講演録に加筆したものです>
1
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
Ⅰ、ロングステイは今、3度目のブーム
シルバーコロンビア計画
ブームとまで言えるか否かはともかく、海外年金生活とかロングステイといった言
葉がひんぱんに取りあげられる昨今ですが、実はこうした傾向は3度目なんです。
第1回目といいますか、最初にこの海外年金生活が取り上げられたのは、1986年
頃ですから、今からもう27年前ということになります。当時の通産省(現・経産省)
の肝入りで、南欧のスペインやポルトガルで老後を過ごしませんかということが提唱
されました。
当時のスペインは、長く続いたフランコ独裁政権の余波というか傷も癒え、西欧の
仲間入りはしたものの、この頃はまだ
「ヨーロッパの田舎」と揶揄(やゆ)
されるほど素朴で物価も安かったの
です。この「相対的には安いがされど
ヨーロッパ。闘牛にフラメンコもある。
それにコスタデルソル(太陽海岸)に
も面していて暖かい」といったイメー
ジも、役人の発想としてはユニークで
した。しかし、当時は今と違って日本
経済もバブルを追い風に好調でした。
そのことが逆に輸出攻勢の激しさへ
の反発とも相まって、「日本は老人ま
で輸出するのか」といった批判を招い
てしまいました。
結局、このシルバーコロンビア計画
と名付けられた、第1次海外リタイア
メントプランでの定住者は少なく、わ
ずかに残った人たちのなかからも、
その後「名誉ある撤退」が相次ぎ、下火になっていきました。
闘牛と並ぶ目玉がフラメンコ=スペイン・アンダルシア
2007年問題
第2回目といいますか、リタイアメントライフとかロングステイという言葉が広
く使われるようになったのが、2006年から翌07年にかけてだと思います。
2
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
これは、2005年から実施された現行の年金改訂を前提に、1947~49年
生まれの団塊世代が2007年から順次、60歳に達するということで、老後を海
外で過ごす人たちが増えてくるのではないかと見込まれたからです。
この団塊といわれる世代は、それまでのシルバー世代とは異なり「外国、言葉、ネ
ット」にそれほど抵抗がないこともあって、一部ではありますが「海外旅行」から
「海外生活」へ志向する動きも出てきていました。こうした動きも相まってロング
ステイブームが起きるのではないかとも思われてきたのです。
しかし、年金支給開始年齢の引き下げと、これに伴う定年延長の法制化、さらに
は老後への生活不安もあり、ブームにまでは至らなかったことは、周知の通りです。
そればかりか、本来、外国人の土地所有を認めていない東南アジアなどで、安く
別荘やコンドミニアムが入手できるといった詐欺話やトラブルも相次ぎました。
2006年12月、新聞、TV でも大きく報じられた「セブ島ロングステイ詐欺事件」
などは、その象徴的な事件です。ちなみにこの事件、被害者側が民事・刑事両方で
訴え、民事では勝訴しましたが、刑事では警視庁が刑事告訴を受理し事情聴取等は
続けられているものの、まだ起訴にまで至ってはおりません。
まあ、騙す人が一番悪いのですが、騙されないよう注意することも大切です。特
に舞台が海外となると立証も大変です。
20012~13年の実相
こうした経過もありまして、多くの人が65歳、時にそれ以上の年齢になってま
で働くようになってきました。団塊世代の先頭バッターともいえる1947年(昭
和22年)生まれの人たちが実際に65歳に達したのが、昨年、2012年です。
つまり、今年、来年とようやく海外リタイアメントについて、より具体的かつ、多
数の人たちの問題として取あげられるようになってきました。それが、
「今でしょう」
といったところなのです。
該当者には決して愉快な話ではありませんが、年金の受給開始年齢も、報酬比率
部分について、2013年から12年間かけて序々に65歳まで遅れることが決ま
っており、年金だけで生活できる国を探す議論もようやく本格化してきたのです。
Ⅱ、ロングステイ受け入れ国の現状
先進国は迷惑顔…ただしお金持ちは歓迎
3
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
今、日本や西欧等の先進国はどこも似たような共通の悩みを拘えています。三重苦
ともいえる、その悩みというのは、周知の通り、少子高齢化と人口減少、成長の鈍化
と若者の失業、そして財政の赤字等です。
こんな状態ではとてもよその国の年寄りまで面倒は見られないというのが実情で
す。とはいえ富裕層が、多額の預貯金を持って来て住んでくれるというなら、自国
経済も潤うので歓迎です。まあ、地獄じゃなかった先進国の沙汰も金次第といった
ところなんですね。
かつては「もし将来永住するとしたらどこの国を希望するか」などというアンケ
ートを取りますと、決まって先進国が上位を占めました。ヨーロッパ、ハワイ・米
国、オーストラリア等々。今も、お金やビザ(入国査証)の問題がクリアできれば
何と言っても先進国なんですね。
ところで先進国同士は、ヨーロッパ域内の移動は自由と決めた「シェンゲン協定」
に象徴されるように、比較的自由に往来できます。日本とヨーロッパ、日本とアメ
リカは特にビザはとらなくても原則として3ヶ月以内は滞在が可能です。
だからといって、3ヶ月滞在して、短期間域外に出て、また入国するといったこ
とを繰り返そうとすると、入国審査でアウトになるケースがありますので注意が必
要です。特にアメリカは、ESTA という事前登録が必要ですし、ノービザのまま出入
国を繰り返そうとすると、拒否されることがあります。
東南アジアの御三家……国を挙げての受入れ
まあ、住みたいということと、住めるということは別のことという現実が浸透し
てきたというか、ヨーロッパの足らざるところ、アジアの良いところも知られるよ
うになってきたというようなこともあって、最近は近いアジアへの人気が急速に高
まってきているのも事実です。
特に、マレーシア、タイ、フィリピンの3ヶ国は ASEAN(アセアン=東南アジア
諸国連合)のなかでも中核を為す新興国として、一定の資産や年金のある日本人な
どについては、長期滞在ビザを出すなどして、いわば国を挙げての受入れ姿勢を示
しています。シニアの受入れは雇用をはじめ自国経済の発展にもつながるからです。
言ってみれば東南アジアのロングステイ御三家とでもいえるでしょうか。御三家
というと、江戸時代の尾張、紀伊、水戸か、皆さんの年代ですと橋幸夫、舟木一夫、
西郷輝彦の歌手御三家も懐かしいかもしれませんが、ここではあくまでリタイアメ
ント・シニアの受入れを進めている国々のことです。
では、そんなロングステイ御三家をざっと紹介しておきましょう
4
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
<マレーシア>
どこの国にロングステイしたいか、といったアンケートを取ると、アジアで今一番
人気なのがマレーシア。1人当りの GDP でも1万ドルを超えており、新興国というよ
りもう中進国で、タイの約2倍です。インフラや交通アクセスも比較的整っており、
マレー半島南端のジョホールバルからならシンガポールまで1時間以内で行けます。
首都クアラルンプルには高さ452m のペトロナス・ツインタワーや、421m の KL
タワーが競うように建っています。
また LCC(格安航空会社)の代表格であるエア・アジア社の本社がマレーシアにあ
ることに象徴されるように、タイや
ベトナムとの格安路線も網羅されて
おり、気軽に「海外から海外旅行に
行ける」という利便性もあります。
特に日本人には前述したジョホー
ルバルや高原キャメロンハイランド、
リゾートのペナン島さらにはボルネ
オ島のコタキナバルなどが人気です。
マレーシアは、ノービザでも最長
90日間滞在できます。これで足り
ないという人には最長10年のロン
グスティビザ(MM2H)もありますが、
50歳以上の場合で35万リンギッ
ト(約1,050万円)の預託と月
収1万リンギット(約30万円)が
KL タワーからペトロナス・ツインタワーを望む
必要です。ただ、このルールは時々
=マレーシア・クアラルンプル
変わることがあり、事前の確認が欠
かせません。
まあ、ノービザでも最長3ヶ月滞在できるのですから、急いでロングスティビザを
取得する必要性もなければ、ましてや不動産を取得する必要もないと思います。中期
のいわばミドルステイを繰り返すことで十分満喫できると思います。
また、この国はイスラム教の国であり、事実上無宗教で何でも OK の日本人からし
ますと、文化や習慣の違いにとまどうケースも、人によってはあるかもしれないとい
うことも付言しておきます。
5
intelligence & investigation
<
タイ
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
>
マレーシアに次いで人気なのがタイです。
ほほえみの国としての親近感もあり、東南アジア諸国のなかで近代以降唯一、一
度も植民地にならなかった国で、その分植民地独立闘争や戦争による被害も他の近
隣諸国に比べれば少なく、頭1つ抜けて発展してきたともいえます。バンコクの市
街は高層ビル群が林立し、高速道路、地下鉄、BTS(都市交通モノレール)といった
交通インフラも発達しています。こうした利便性もあって日本人の中・長期滞在者
も多く、この人たちをターゲットにした賃貸マンションやサービスアパートと呼ば
れる長期滞在者向け宿泊施設もバンコク市内には数多くあります。
特に人気なのはバンコクのほか、高原都市チェンマイが挙げられます。ここは古
都でもあり、遺跡や見どころも多いため、観光客だけでなく暑すぎないのんびりし
たところで老後を過ごしたいというシニアにも人気があるのです。
ところでタイに限らず東南アジ
アの国々はどこも外国人の土地所
有を認めていません。マンション
などは所有できる国もありますが、
しばしば詐欺まがいのトラブルが
起きています。先ほども言いまし
たが、個人的には海外での不動産
取得はお勧めしません。
タイはノービザでの滞在は30
日が限度ですが、ロングステイ用
高原の古都にはコンドミ二アムも多い
=タイ・チェンマイ
ビザの取得には1年単位(延長更
新可)で80万バーツ(約250
万円)の預託と年金月額6.5万バ
ーツ(約20万円)が必要です。ただ実態的には滞在期限になると近隣国への「ビ
ザ取得1日ツアー」に参加して、ダブルビザを取得するといったことで、長期ビザ
なしにロングステイを繰り返す人も少なくありません。しかし、最近はこうした「抜
け道」への規制も序々に強化されてきています。
6
intelligence & investigation
<
フィリピン
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
>
個人的には、マレーシア、タイに比
べ関わりが深いのですが、ここはセミ
ナーの場ですのでなるべく客観的にお
話します。
先ほど、御三家と申しました。茨城
県の方にはしかられるかもしれません
が、少し格下だったのが水戸藩です。
しかし、周知の通り、幕末から明治維
新にかけてはこの水戸藩が最も活躍し
たというか、著名人を数多く輩出しま
した。
この伝に従えば、フィリピンは前に
海底の珊瑚礁まで良く見える=フィリピン・セブ
紹介しましたマレーシア、タイに比べ
ますと、イメージ的にも少し格が落ちるかもしれませんが、今後の伸びが期待される
国です。さしづめ水戸藩ですね。
最近は、かつて「アジアの病人」などと揶揄されたのが嘘のように、経済成長も著
しく、先頃の南部ミンダナオでのイスラム系反政府勢力とアキノ政権の和平合意も後
押しする形で人気が高まってきています。何より人なつっこく、フレンドリーで、タ
イ、ベトナムと並ぶ親日国という国民性に魅せられたという人も少なくありません。
この国で一番有名なのはビーチリゾートとして知られる中部のセブ島です。世界一
周の途中、この地で現地の部族長との争いで没したマゼランに関する遺跡もあり、日
本人にも人気の高いところです。
タイの項でもお話しましたが、セブ島ロングステイ詐欺事件の事例もあり、ここで
も不動産購入はお勧めしません。よくフィリピン人は危ないなどという話を聞きます
が、私の経験では現地の「親切な」日本人の方がよほど危険です。ロングステイ詐欺
事件の「容疑者」も日本人です。
フィリピンでもう1ヶ所、最近序々に注目されてきているのが南部ミンダナオ島の
中核都市、ダバオです。ここはマニラやセブに比べて物価も安く、それでいてフィリ
ピン第2の都市ですので、商業施設や医療機関も数多くあります。
ここにはまた、JPVA(日本フィリピンボランティア協会)の事務局があり、日本人
スタッフが常駐しているほか、海外初の日系人大学、MKD(ミンダナオ国際大学)も
あり、日本人には何かと頼りにされています。実は私自身、昨日(6月14日)まで
ダバオに行ってきましたが、日本人ロングステイヤーに何人も会ってきました。
7
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
フィリピンでノービザでの滞在は21日が限度ですが、英語留学などで希望すれば
SSP という58日間のビザは比較的容易に取得できます。ロングステイ用は退職者用
の SRPV というビザで50歳以上の場合、2万ドル(約200万円)の預託と年金給
付年額1万ドル(約100万円)が必要です。
Ⅲ、
これからのロングステイを考える
年金の現状と先行き
今日のセミナーは海外リタイアメントライフ
ロングステイについてがテ
ーマですが、この話をする上で、必要な範囲内で日本の年金制度についても触れてお
きます。
現在の年金制度は2005年度から大幅に改訂され、今に至っています。改訂当時
は「100年安心プラン」などと政府は宣伝しましたが、周知の通り、とてもほど遠
いのが現状です。この場で詳しくは説明しませんが、現在の年金制度は国民、厚生、
共済の3本立になっています。納める時は国民年金ですが、受給する時は基礎年金と
なります。これに、厚生・共済年金は会社(事業主)負担分の報酬比例部分や基金部
分が加算される仕組みです。
金額
基金
加算
報酬
報酬
基礎
基礎
基礎
<国民>
<厚生>
<共済>
ちなみに基礎年金の受給開始年齢は65歳で、40年払って月額約65,000
円です。厚生年金などの報酬比例部分はこれまで60歳からでしたが、2013年
から61歳開始。さらに、今後12年かけて65歳開始に引き下げられることにな
っています。
現行改訂ではじめて導入された、3%以上物価が上昇したら0.9%支給を減額す
るという「マクロスライド調整」でシニアの年金額も少しずつ減るように設計調整
されました。しかし、ご存知の通り、長くデフレが続いたためこの調整策が発動さ
れずに来ました。このため政府はいわば強制的に2013年10月1%、3年間で
8
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
5,900円支給月額が減るという制度を導入しました。
その一方で、国民年金に限っても、1961年(昭36年)の導入当時の納付額は
月額100円でしたが、今は約15,000円です。タクシーの初乗り運賃が当時1
30円で、今が約700円であることと比べると、納める額ともらう額の乖離(かい
り)は明らかです。
この場ではこれ以上触れませんが、少子・高齢化による若年層の負担の増加や財政
破綻の懸念に限らず、運用利回りの低下や AIJ 問題での年金基金の解散や代行返上な
ど、問題は山積しています。
このため、日本だと生活しにくいが、まだ日本より物価が安く、比較的医療やイン
フラも整っているアジアの新興国でなら、年金生活の庶民でも何とか日本より楽に生
活できるのではないか、という期待がロングステイブームの背景にはあるのです。
他方、前述の「御三家」も、収入の安定したシニアのロングステイなら雇用確保に
もつながるので、ウエルカムということなのです。
理論と現実
では双方ハッピーでめでたしめでたしかというと、もちろんそう簡単ではありませ
ん。例えば、日本の5分の1の所得の国に住んだからといって、物価や生活費までが、
5分の1に抑えられるかというと、そうはなりません。現実に、現地の人と同じ生活
スタイル、レベルでというのは無理でしょう。それだと何のための海外生活なのかと
いうことにもなりかねません。
旅費を除いたとしても、日本食の原材料も割高です。食事は外食、それも屋台が中
心といった文化にどこまで合わせられるかも疑問です。チップや交通費だけでなく、
「水と安全」以外にも海外ではさまざまなコストがいやおうなしにかかってきます。
また、任意ではありますが、保険料、新聞(衛星版)、NHK 海外放送受信料なども
日本より高額です。
私はこれまで「行きたい国から暮らせる国へ」という流れが増すなかで、ロングス
テイについても欧米・先進国からアジア・新興国への志向が強まってきていることを
お話してきました。同時にアジアだからといっても、理論値に頼っての極端に安い海
外生活は難しいということも重ねて指摘しておきたいと思います。
これを極く簡単に単純化したモデルで例示すると次のようになります。
9
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
o リタイアした夫(厚生年金約40年加入)、専業主婦(3号被保険者)
収入
支出
夫 (基礎年金6.5万円 + 報酬比例10万円 + 基金3万円)+
妻 (基礎年金6.5万円)=26万円/月
10~15万円(日本の物価水準の5分の1の国でも普通にこれくらいは
かかる。この中には医療費、耐久消費財の購入費用、帰
国費用等は含まない。)
情報の取り方と生かし方
最近はガイドブックやインターネットなどで容易に情報を得ることができますし、
いろんな団体や旅行会社がロングステイについての説明会を開いたりしていますの
でこれを参考にするのもいいと思います。ただこれらはあくまで1つの見方というか
参考ということで、できれば体験者の話を聞くとか、実際に足を運んでみるとかして
からでもいいと思います。
また、南国暮らしの会とかキャメロン会といった、ロングステイヤーの会もあり、
会報を出すだけでなく、さまざまな情報発信活動も行なっています。こうした会の人
たちから現地の生の情報を得るというのも一考です。
その一方で、現地の日本人会というかロングステイヤーの会に入ったはいいが、つ
き合いが緊密過ぎて人間関係に疲れたとか、派閥みたいなのが出来て気を使わなけれ
ばならなくなった、などという、いかにも日本的で笑えないような悩みも生まれてき
ているところもあります。笑えないといえば、元◯◯商事・部長なんて、昔の勤務先
の名刺をわざわざ自分で作って配ったなんて嘘みたいな話も実際にあります。ここは
もう言うまでもない事ですが、
「♫ あなたの過去など知りたくないの」という菅原洋
一さんの世界に徹しないといけませんね。
異国に住もというわけですから、お互い情報交換も必要でしょうし、万一の時は助
け合うということも当然です。しかし、リタイアして行くのですから、いかに日本人
同士でも、スープの冷めない距離というか、ほどほどの間隔を保ってつき合うように
し、むしろその土地の文化とか人と交流を持つようにすることをお勧めします。
留意すべき点
与えられた時間も限られてまいりましたので、海外でリタイアメントライフを考え
ようかと思っている方に、特に留意してもらいたいという点にしぼってお話します。
10
intelligence & investigation
情報と調査
速報・解説版
NO.90
2013年 8、9 月合併号
まず、これまで述べてきた対象は総じて50代初めから70代前半の方を想定して
います。これより若い人は、自分のライフスタイルを勘案して考えてみてください。
70代半ばまでと想定したのは、この年齢以降になりますと、医療や介護にかかる費
用やリスクも序々に高まってくるからです。万一海外で長期入院となったら医療もさ
ることながら、精神的な負担や不安も大きくなると思われるからです。
もっとも、医療や介護については「皮肉な暁光(ぎょうこう)」というか、新たな
可能性が生まれてきています。EPA(経済連携協定)で来日したインドネシアやフィ
リピンからの看護師・介護士の候補生が、日本側のあまり受入れたくないという現状
から、失意のまま帰国を余儀なくされていることは、皆さんもご存知と思います。
この日本語や日本の技術を修得しながら不本意な帰国をした看・介護士が特にフィ
リピンなどには多数存在しています。この看・介護士の助けを借りて、ハンディキャ
ップのあるシニアが現地でロングステイするという新しいスタイルが生まれてきて
います。こうした動きはまだ緒についたばかりですが、今後のロングステイ先を考慮
するうえでの参考になると思います。
×
×
×
×
これまでお話してきたさまざまな事例のほか、特に以下の点に留意してロングス
テイというかミドルスティにトライしてみてはいかがでしょうか。
∘ ノービザでミドルステイできる国も多いので、いきなりビザの取得は考えず
「少し長めの休日」を過ごしてみる。
∘ 不動産は現地では買わない。
∘ 日本の自宅は処分しない。
∘ 趣味、研究、スポーツといった、自分ライフのための杖を持つ。
∘ 出発前に、健康診断、虫歯の治療と併せて常備薬リスト(英文訳)を準備する。
∘ 出発前に、必ず海外旅行傷害保険に加入する。(一時帰国担保特約付)
∘ 出発前に、パスポートの有効期間を必ずチェックすると共にコピー
をとっておく。(残余期間最低6ヶ月以上、出来れば1年以上必要)
〈文・写真〉
Profile
坂内 正 ( ばんない ただし )
ファイナンシャルプランナー、総合旅行業務取扱管理者。 元政府系金融機関で中小企業金融を担当。
退職後、旅行会社の経営に携わり、400回以上の渡航経験を持つ。 ロングステイ詐欺疑惑など、
主にシニアのリタイアメントライフをめぐる数々のレポートを著す。 著書に『年金&ロングステイ
海外生活 海外年金生活は可能か?』(世界書院)
ミンダナオ国際大学客員教授 『情報と調査』編集委員
11