森林を活用したフィールド科学実習教科書「森をしらべる」 教科書No.15 「動物の形を調べる」Ver.2016 *カタログのため、前半部分のスライドのみを紹介 形の違いを表現する 1 ⽣物は同じ種でも、集団によって形が違うことがある 集団間の形の違いを表現するにはどうしたらよいだろう? オタマばかりの池 (サンショウウオがいない) オタマとサンショウウオがいる池 オタマの⾒た⽬が違う 動物の形を調べる 岸⽥ 治 写真:岸⽥治 写真:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 形の違いを表現する サンショウウオがいない池のオタマ 2 サンショウウオがいる池のオタマ (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 1 形の違いを表現する 3 サンショウウオがいない池のオタマ サンショウウオがいる池のオタマ 同⼀個体 10㎜ 10㎜ 写真:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 形の違いを表現する サンショウウオがいない池のオタマ 10㎜ 10㎜ 写真:岸⽥治 4 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 形の違いを表現する サンショウウオがいる池のオタマ 5 形質ごとにデータをプロットした場合 (mm) (mm) (mm) 25 15 15 10 10 20 印象は⼈によって異なる 形の変異を明らかにするため には数値化し図⽰すべき 頭幅,頭⾼,頭胴⻑を計測 しグラフを描く 10 5 5 5 頭幅 0 0 いない いる いない いる サンショウウオ サンショウウオ サンショウウオ 違いなし 頭胴⻑ 写真:岸⽥治 0 いない いる 頭⾼ (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 教科書 No.15 カタログ 頭⾼ 頭幅 頭胴⻑ 15 サンショがいない池のオタマに⽐べ,サンショがいる池のオタマは 「頭胴部の⽪下組織が厚く,頭胴部が膨らんでいる」ように⾒える 違いはありそうだが2集団のデータ 範囲に重複があり,よくわからない 図:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 1 形の違いを表現する 6 2つの形質のデータを同時にプロットした場合(散布図) (mm) (mm) (mm) 14 12 12 12 10 10 8 8 14 16 18 20 頭胴⻑ 22 14 16 18 頭胴⻑ 20 22 (mm) 6 8 10 12 頭幅 14 (mm) 確証(数値で表現を明確化) 8 各形態は各環境で⾼い適応度を実現 6 4 14 16 18 頭胴⻑ 20 22 4 12 14 (mm) 16 18 頭胴⻑ 20 22 6 (mm) 8 10 頭幅 12 14 (mm) (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 なぜ形が違うのか? 9 餌を丸呑み 低 膨らむことにコストがかかる (サンショなし環境ではコストがかからない分,有利) (サンショなし環境ではコストがかかる分,不利) 予測 ⾼ 膨らんでいることがサンショ との関係で有利に働く 普通型に⽐べ膨満型は サンショに⾷われにくい 予測を検証するための実験を計画する 写真:岸⽥治 写真:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 なぜ形が違うのか? 10 『普通型に⽐べ膨満型はサンショに⾷われにくい』 ことを確かめる実験 実験デザイン例① 8 ⾷う-⾷われるの関係 膨満型 膨らまない分,コストがかからない 膨らまない分,サンショとの関係では不利 6 8 サンショウウオとオタマの関係 サンショウウオがいる池 サンショあり環境での適応度 8 頭⾼ なぜ形が違うのか? 低 10 10 写真・図:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 サンショなし環境での適応度 12 10 12 図:岸⽥治 ⾼ (mm) 12 12 6 → サンショがいる池のオタマは頭胴部が膨らんでいる 普通型 (mm) 14 頭⾼ サンショがいない池のオタマに⽐べ、サンショがいる池 のオタマは、同じ頭胴⻑でも頭幅と頭⾼が⼤きい サンショウウオがいない池 (mm) 頭幅 集団間の重複が⼩さく違いが明瞭 仮説 サンショウウオがいる池のオタマ 4 12 (mm) サンショウウオがいない池のオタマ サンショがいない池のオタマに⽐べ,サンショがいる池のオタマは 「頭胴部の⽪下組織が厚く,頭胴部が膨らんでいる」ように⾒える 6 4 12 7 直観(印象を⼝述) 8 6 6 観察 頭⾼ 頭⾼ 頭幅 10 形の違いを表現する (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 形の違いはどのように⽣じたのか サンショがいない池の集団(遺伝集団A) 実験デザイン例② 創出メカニズムは? 11 サンショがいる池の集団(遺伝集団B) 観察された形態の集団間変異 仮説1.遺伝的な違いのみを反映 2つの遺伝集団は経験する環境条件によらず異なる形態を発現するため,集団間の形 態変異が⽣じた(形態発現に環境依存性はないが,形態発現に関与する遺伝⼦座には 複数の対⽴遺伝⼦があり,集団間で保有する対⽴遺伝⼦の組成が異なる場合) これを繰り返す これらを繰り返す 良く考えなければならないこと 密度は? いつ⽣存個体を確認する? ⽔槽の繰り返し数は? 予想される結果は? イラスト:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 教科書 No.15 カタログ 仮説2.環境の違いのみを反映 形態の集団間変異は表現型可塑性によるものであり,異なる環境条件に対し個体が異 なる応答をした結果である(形態発現が環境依存的に制御される遺伝⼦により決定さ れ,それに関与する遺伝⼦座の対⽴遺伝⼦の組成が集団間で異ならない場合) 仮説3.遺伝的な違いと環境の違いの両⽅を反映 集団間で環境への可塑的応答に遺伝的な変異がある.各集団の個体がそれぞれの応答 様式に従い,経験する環境条件に応答した結果,観察された形態の集団間変異が⽣じ た(形態発現が環境依存的に制御される遺伝⼦により決定されるが,それに関与する 対⽴遺伝⼦の組成が集団間で異なる場合) 3つの対⽴仮説を 実験検証する 写真:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 2 形の違いはどのように⽣じたのか 12 形の違いはどのように⽣じたのか 観察された形態の集団間変異の創出メカニズムを理解する 集団間変異の創出メカニズム ⽅法:各遺伝集団の個体を両⽅の環境で発⽣させる ①遺伝的な違いのみを反映 遺伝集団A 2つの遺伝集団は経験する環境条件によ らず異なる形態を発現するため,集団 間の形態変異が⽣じる 遺伝集団B ①特定の環境に曝されてて いないオタマを各遺伝集 団で⽤意する 集団間で環境への可塑的応答に遺伝的 な変異がある.各集団の個体がそれぞ れの応答様式のもとで,経験する環境 条件に応答した結果,観察された形態 の集団間変異が⽣じる ・ ・ ・ ・ ・ ・ ? ? ? ? 14 (mm) 2つの集団間でサンショウウオに対する膨 頭⾼ ︵頭胴⻑補正値︶ 北⽃市の集団 満化の応答様式が遺伝的に異なっている (北海道本⼟) 北⽃市にはエゾサンショウウオが数多く いるが,奥尻島にはエゾサンショウウオ ⾃体分布しないことから,各集団の野外 での観測値(⻩⾊の円)は,「それぞれ の集団の応答様式のもとで個体が実際の サンショウウオの有無に応答した結果」 として解釈できる A あり A B A B A なし あり なし あり (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 課題:形の集団内変異の分析 15 ここまではオタマの形の集団間の違いについて調べてきた.⾃然界では 同じ池の集団でも,個体によって形が違う.集団内の形態の変異からど んなことが読み取れるだろうか? 課題の材料 2009年6⽉に幌延町のヌカナン池(オタマ 749 個体/㎡,サンショ 60個 体/㎡)で両⽣類幼⽣を採集し,撮影した画像がある(課題①・②教材) 課題② エゾサンショウウオ27個体の画像(課題②教材)を使って計測を⾏い, 形態の規則性を調べ,規則性の⽣じる理由を⽣態学的に論じなさい あり ポイント 形態にどんな規則性がありそうか、⽣態学的な観点から作業仮説を⽴てる 参考:Kishida et al. (2007) 図・ イラスト:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 課題:形の集団内変異の分析 A なし B 課題① オタマ109個体の画像(課題①教材)を使って計測を⾏い,オタマの膨満 度を定量化し,どんなオタマがよく膨らんでいるかを調べること,さらに なぜそのようなパターンがみられるのかを考察すること 集団間の膨満化能⼒の違いは,相互作⽤ の歴史の違いを反映しているのだろう 5.0 A B イラスト:岸⽥治 毎年、膨満オタマを観察できる北⽃市の遺伝集団と,膨満オタマが観察されな い奥尻島の遺伝集団のオタマを,それぞれサンショウウオの「いない環境」・ 「いる環境」で2週間発育させた.縦軸はサイズ(頭胴⻑)の違いの効果を除 去した「頭⾼の推定値」を⽰す(同じ頭胴⻑での頭⾼と考えればよい). 奥尻町の集団 (奥尻島) B 膨満度 ・ ・ ・ 形の違いはどのように⽣じたのか なし ③遺伝的な違いと環境の違 いの両⽅を反映 形態の集団間変異は表現型可塑性に よるものであり,異なる環境条件に 対し個体が異なる応答をした結果で ある 膨満度 イラスト:岸⽥治 ・ ・ ・ (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 5.5 B 膨満度 ③⼀定期間後のオタマの形態 を評価 6.0 ②環境の違いのみを反映 ⻩⾊の〇は野外で観察される表現型 ②各集団のオタマをサンショ が「いない環境」・「いる 環境」に無作為に割り当て 発育させる 実際の研究例 13 16 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 課題①:形の集団内変異の分析(オタマ) 11 12 17 14 13 ← 10 ㎜ → 課題① 教材 15 18 16 17 19 20 画像は実際の2倍の⼤きさで表⽰してある(スケールは10㎜) 計測⽅法 ①印刷してノギスや定規で計測する ②画像ファイルとして保存した後、画像計測ソフト(ImageJ)を使って計測する 写真:岸⽥治 (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 教科書 No.15 カタログ (C) 北海道⼤学北⽅⽣物圏フィールド科学センター森林圏ステーション「フィールドを使った森林環境と⽣態系保全に関する実践的教育共同利⽤拠点」 3
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