柿田川、そのもたらすもの ~実質的な恩恵、やすらぎ、くつろぎ~

第12回柿田川シンポジウム 講演録
柿田川、そのもたらすもの
~実質的な恩恵、やすらぎ、くつろぎ~
日 時:平成27年11月8日(日) 13:30~16:50
場 所:ホテル・エルムリージェンシー ミーティングルーム
目次
開会挨拶
加藤 憲二(柿田川生態系研究会代表、静岡大学 教授)
■第一部:柿田川生態系研究会からの成果発表■
三島 次郎 (桜美林大学 名誉教授)
「柿田川生態系研究会の取り組み」
加藤 憲二 (静岡大学理学部地球科学科教授) 「富士山地下圏を流れる水と微生物」
竹門 康弘 (京都大学防災研究所水資源環境研究センター准教授)
「柿田川における水生生物の栄養起原と食物網構造」
谷田 一三 (大阪市立自然史博物館 館長)
「大規模河川、柿田川のトビケラ-種組成の特異性と生物季節-」
■第二部:地域の方々からの発表■
芹沢 春陽 (清水町立清水小学校6年)
「大切な宝物 柿田川のすばらしさと私」
加藤 大介 (清水町立清水中学校2年)
「柿田川とともに~減りつつある柿田川のウナギを一例に~」
梅村 幸一郎 (国土交通省沼津河川国道事務所事務所長)
「柿田川を守る地域の取り組み」
関 義弘(清水町 副町長)
「柿田川を活かしたまちづくり」
■第三部:参加者による意見交換会■
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開会
挨拶
【司会】
それでは、これより本日のプログラムに入りたいと思いますが、これ以降の
進行につきましては、柿田川生態系研究会の代表であります、加藤先生にお願いしたいと
思います。加藤先生、よろしくお願いします。
【加藤】
皆さん、こんにちは。静岡大学の加藤です。
今日は足元の悪い中、お集まりいただきましてどうもありがとうございます。シンポジ
ウムでは、私ども柿田川生態系研究会が、地元の皆様方や沼津河川国土交通省の皆様方、
あるいはリバーフロント様等に支えられて行ってきた研究紹介をさせていただくのですが、
構成がふだんとは違います。
今日は立冬です。このあたりは雨になっていますが、明日か明後日晴れれば、富士の山
頂はまた白くなるのではないかと思います。その富士山の1 ,800メートルから
1,500メートルあたりに今日降った雨は22年後に柿田川にあらわれてきます*ので、
そういう思いで今日のシンポジウムに参加していただければ、楽しんでいただければと思
います。
今日は、お手元にもございますが、3部構成になっております。第一部は、私ども生態
系研究会が勉強させていただいたことを皆様方にお伝えする構成になります。第二部に地
元の小学校、中学校の方から興味深いというか、うれしい発表をしていただきます。それ
から、地元の関係者として、沼津河川国土交通省様から、あるいは清水町様からもご発表
いただいて、最後にいろいろと意見交換をさせていただきたいと思っています。自由な会
ですので、どうぞお気軽に質問して頂いたり、あるいは意見交換ができればと思います。
では、早速ですが、第一部の柿田川生態系研究会からの成果発表ということで、三島次
郎先生にお願いします。
*最近筑波大学の辻村先生達の研究で富士山麓では10年から10数年、一方、愛鷹山の
湧水は50年から60年地下に潜っているという大変興味深い数値が出されています。
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第一部
柿田川生態系研究会からの成果発表
第一部
柿田川生態系研究会からの成果発表
「柿田川生態系研究会の取り組み」
三島次郎(桜美林大学
【三島】
名誉教授)
皆さん、こんにちは。柿田川の生態系研究会のこれまでの取り組みと、開会
の挨拶みたいな話をさせていただき、後ろを振り返りながら、この研究会について皆様に
紹介させていただきたいと、考えております。
柿田川の生態系研究会が始まったのがいつ頃かと言いますと、大分前なのです。京都大
学にそのころおられた、今日もいらっしゃいます川那部先生から私のところに連絡があり
ました。アメリカのジョージア大学にオダムという生態学の権威がおりまして、その彼が
フロリダ州の湧水河川で、生態学、生態系についての基本的研究を展開されました。その
後、私もジョージア大学へ行く機会があって、フロリダの湧水河川を見る機会がありまし
た。そして、日本にも「湧水河川がありますよ」とのご指摘が川那部先生からありました。
それは柿田川のことで、湧水河川で生態学、殊に河川生態学の基本について、皆で見てみ
ようではないかというご提言がありました。
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私は、皆様に声をかけて初めての集りを持ちました。それは平成12年(2000年)でした。
7月31日の月曜日、午前中、お昼近くに集まって、そして3泊4日ですが、事務所さんにも
お願いして柿田川をボートで巡ったり、あるいはこの川の何をどうやって研究したらいい
かと、学会、集会というよりも、極めて個人的な議論をしたのが、今から15年前のこと
でした。
その時の参加の方々は、もし抜けている方がいらっしゃったら誠に申しわけありません
が、川那部先生、和田先生、山岸先生、竹門先生をはじめとして、スライドにお名前を挙
げた方々が集まりました。鳥の専門家、魚の専門家、あるいは水草、植物のご専門の方、
河川そのものの工学がご専門の方が集まりました。喫茶店、あるいは宿泊施設、そういう
ところでいろいろな議論を行いました。当然、市役所の方、市民の方、あるいは国土交通
省の方にも会談に参加していただきました。これがこの研究会の初めての集まりです。
そのとき出たことが、「相手を知らなければ、良いつき合いは出来ない・・・」。これが
そのときの私の記憶に残っている結論みたいなものだと思っています。相手を良く知りま
しょう。「大切にしよう」、あるいは「仲よくしよう」、いろいろなことをと言いましても、
相手を良く知らなければ、良いつき合いはできませんよと。これが、その当時から現在に
至るまで、さまざまな研究の展開にもつながったのではないかと思っています。
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理想的な研究の場、ここで申し上げるまでのこともなく、常に同じ水質の水が供給され
る。これも、その当時の発想で、今と大分違うかもしれませんが、理想的な研究の場とい
うことについては、皆さん同意していただけるであろうと思います。
そして、2000年の最初の集まりから現在まで、春に集まりましょうと、年に1回集まり
ました。ここに集まって、年1回、今度はこの方にも、あるいはやってみたい、来てみた
いという方々も含めまして、だんだんとメンバーが充実と言うと失礼な言い方かもしれま
せんが、多くなって、ずっと会合が続きました。
そして、2004年、ある程度といいますか、最初の研究がまとまってきますと、我々だけ
で満足しているのも勿体ない、近隣の方、あるいは研究の専門の方、多くの方が集まって、
今回のようなシンポジウムを開こうではないかということになりました。2000年から積み
上げてきまして、2004年の秋に第1回のシンポジウムが開かれました。
それから、現在に至るまで、いわゆる生態系研究会は28回、シンポジウムは今回で
12回になりました。発足当時、任意の者が集まり、柿田川生態系研究会が立ち上がりま
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した。ですから、メンバー、会則やルールなどは一切決められておりません。これは現在
に至っても、お互いの理解はあるのですが、文面化した会則等は全くありません。良いか
悪いかというのは、また別の話だろうと思います。発足からもう既に15年の年月が経っ
ているのです。
シンポジウムはミニシンポジウムから始まって、今回のようなシンポジウムは12回と
いうことですが、最初の頃のものを少し振り返ってみたいと思います。
第1回は平成16年、2004年10月31日、
「水・草・鳥・魚・虫たちが織りなすユニークな自
然」というタイトルで、三島市の商工会議所のTMOホールで開かれました。
第2回、「柿田川の自然についての『はてな?』を探る、『はてな』に応える」と題し、
平成17年、2005年11月13日(日)、ここと同じホテル・エルムリージェンシーで開かれまし
た。
第3回、今度は平成18年、2006年、11月11日(土)、「柿田川への夢
柿田川についての
『夢』を語る」と。これは、柿田川の自然活用、あるいは自然研究、さまざまな意味で柿
田川への夢をどうやって広げたらいいかということを議論しました。
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第4回、「柿田川、その特異性
「柿田川、人と自然とのかかわり
湧水河川の特異性、生物の特異性」。さらに第5回は、
景観、経済との関係、生活との関係、教育面での関わ
り」。これが平成20年のテーマでした。
第6回、「柿田川、『水を見つめる』
。『水』を探る」。柿田川を少し離れて、沼津の方でや
ってみようと、沼津の市民文化センターで開かれました。
第7回、これは2010年、今から5年前ですが、「水の働きと生態系から柿田川を考える」。
そして、8回から11回(平成26年)、去年までです。
そして、今回の第12回で「柿田川、そのもたらすもの~実質的な恩恵、やすらぎ、く
つろぎ~」。これが今回のテーマで、現在に至りました。
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第1回から第12回にかけてのシンポジュウム、あるいはその前に4回の内輪のミニシ
ンポジウムが開かれて、現在に至ったということは、ご存じの方もいらっしゃると思いま
す。
そして、これは入り口にも置いてありますけれども、平成22年(2010年)、大分前と言え
ば前かもしれませんが、
『柿田川の自然』と題した、研究の結果の報告書を世に送る機会を
持ちました。
第12回を迎えたとき、実は第1回から第12回まで、以前から12回分までの大まか
なテーマは提案されておりまして、それに添ってここまでやってきて、今回でそのテーマ
が全部終わりました。ですから、第13回はどういうテーマでやるかというのは、まだ決
められておりません。13回、14回、15回と、柿田川生態系研究会は、これから、「何
を」、「どのようにと」、
「どうやって」やっていくかについては、これから皆様のご意見を
頂きながら、会として進めていけたらと思います。あるいは、会の形も変えるということ
があるかもしれませんけれども、今はその転換点といいますか、第1周期が終わったと、
考えることができるでしょう。振り返ってみますと、多くの方々に、大変なご尽力をいた
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だきながら現在に至りました。
少し話がそれます。これは私自身の調査のほんの一端を話させていただきます。生物は
周りの環境を変えていきます。当然のことながら、この部屋でも、今私が何分間か話をす
ると、部屋の中の二酸化炭素の濃度が高くなってきます。当たり前と言えば当たり前なの
ですけれども、生き物が外界をどんなふうに変えるか。このような視点で見ただけでも、
柿田川は私たちにいろいろなことを教えてくれます。
これは、第二展望台付近の水が湧いているところ。そこでの水の中の酸素量を連続測定
したもので、ほとんど夜も昼も変化がありません。年間でもほとんどDO(溶存酸素量)
は変化がありません。
ところが、同じ水が、ほんの1キロちょっと流れて、柿田橋のところに来ますと、溶存
酸素の日変化はこんなふうに変化しています。1月から2月、3月とずっと色分けして、ある
いは平均値も挙げてありますが、昼間になると溶存酸素量が上がり、夜になるとが急に下
がって来ます。当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、水生植物、ミシマバイカモ
をはじめとして、多くの水生生物と関係しています。夜になると水中の動物たちによって
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酸素が消費され、外界が変えられているということを明確に、数値で見ることができます。
先ほど生き物は外界を変えると言いましたけれども、周りの世界が生き物へ影響を与え
るとともに、生き物は外の世界を変えていきます。こんな数値を柿田川は私たちに語りか
けいます。
溶存酸素の日変化から、生産量、消費量、生物群集の動態などが推定され、いろいろな
河川についての、あるいは柿田川の生態系の構造・機能を私たちに語りかけてくれている
ということになりましょう。
こういうことは、ほんの一部のデータですけれども、先ほど申しあげた「柿田川の自然」
にまとめられていますが、5年間の研究・調査で、さまざまなことが明らかになってまい
りました。これ以降も、さらに多様な研究結果が得られています。
とにかく情報収集し、発信し、理解を共有すると、そのことによって、柿田川とのつき
合いがますます広く、深くなると思います。
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15年の時が流れました。私の手許にも山積みになったいろいろな書類があって、読み
ながら考えたのですが、後ろを振り向くのは非常に大切です。そして、先を見る。これか
ら未来に向かって、柿田川生態系研究会のあり方、柿田川の研究的側面、柿田川の自然を
明らかにする取り組み、更なる活躍や発展、こういうことをこれから考えてみる機会が、
今日の第12回のシンポジウムの始まりということなのではないか。そう思いながら、こ
んな話をさせていただいているのです。
15年の時というのは長いか、短いかというと、私はよくこういう言い方をします。人
間の時間と自然の時間は違うのだ。自然の100年と人間の1年と、もしかしたら同じか
もしれない。あるいはその逆もあるかもしれない。そんなことを考えながら、1つの境目
として、未来へ向かっていろいろと考えていきたいと、こんなふうに考えています。
ありがとうございました。研究の機会を与えて、ご尽力をいただいた多くの方々、ほん
とうに多くの方々のお世話になりました。物心両面から国土交通省の沼津河川国道事務所
の方々、あるいは事務処理や助成、助言、リバーフロント研究所の皆さん方、あるいは河
川環境管理財団と、さまざまなお手伝い、地元の方々、お名前を挙げ切れないほど多くの
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方々に研究会の活動を支えていただきました。皆さんのご尽力がなければ、この研究会の
活動は不可能でした。こう申し上げても間違いはないと思います。この機会をお借りして、
本当に有り難うございますと御礼を申し上げて、私の発表の終わりに致します。ご質問が
ありましたら頂きます。有り難うございました。(拍手)
【加藤】
三島先生、どうもありがとうございました。短い質問であれば、質問の時間
を用意してございます。何かございましたら、よろしいでしょうか。では、三島先生、後
ほどまたご質問をいただけると思いますので、ありがとうございました。
【三島】
ありがとうございました。
【加藤】
もう一度拍手をお願いします。(拍手)
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「富士山地下圏を流れる水と微生物」
加藤憲二(静岡大学理学部地球科学科教授)
【加藤】
司会をしたり、発表したり、忙しいのですが、この10年間で私どもの研究で
どういうことがわかってきたかということを紹介させていただきたいと思います。
静岡大学の地球科学、私の研究室では、この10年弱なのですが、水、それから水の中
にいる一番小さな生き物、微生物を対象にした研究をしてきました。会場の後ろのほうに
4枚、今日はポスターを紹介させていただいています。一番右端のポスターが、これから
私がお話をさせていただく内容です。それから、その次にありますのは、先ほど22年く
らいで柿田川や富士山に降った雨が出てくるというお話をしておりましたけれども、非常
に強い雨が降った水は、非常に早く出てくるということを実際に確認しました。その成果
が、2つ目のポスターです。それから、真ん中の2つは、今日、会場に学生君が来ている
のですが、少し専門的な内容になりますけれども、もしよろしければ、ぜひ見ていただき
たいと思います。学生2人を紹介します。桝田君と双木君です。大学院生です。
(拍手)
どうもありがとうございます。質問をして、どんどんいじめてください。サイエンスの
大事な1つの要素は、皆さんにわかるような説明ができるかどうかということです。私の
これからの講演も大変なのですが、ぜひ時間を見つけて、皆さんとコミュニケーションし
てください。
水と微生物というお話で、私たち、富士山の柿田川をつくり上げる湧水、地下水の研究
を始めるのに、やはり研究には比較が要りますので、阿蘇山へ2度ほど行きました。活火
山です。そうしますと、明らかに違うことがわかってきました。これは、六角形の形を見
ていただきたいのですけれども、水の中に含まれているいろいろな化学成分です。出たり、
へこんだりしていますけれども、形は右のほうの3時の方向に飛び出す同じ形ですね。こ
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れを阿蘇山で同じことをやりますと、でこぼこで形が違います。これが1つ富士山の地下
水の化学の特徴だと私たちは考えています。どこの水をとっても、それほど基本的な成分
は違いません。濃度の差はあるので、飛び出したりへこんだりしていますが、阿蘇山とは
大いに違うということがわかりました。
次に、これから竹門先生と谷田先生にもご報告いただくのですけれども、地下水と微生
物の話につながる大事なものは、地下水というのは光が届かないという点があります。光
が届かないと、先ほど三島先生がお話しされた光合成をする生き物はいません。というこ
とは、酸素をつくる生き物はいません。酸素はどんどんなくなっていきます。私が柿田川
の研究を始めたきっかけを話す時間はないのですが、柿田川の研究に取り組むチャンスを
いただいて、どこではかっても地下水に酸素があるということが、まず驚きでした。それ
に関して、少しわかったことがありますので最後にお話しさせていただきます。
それから、もう一つは、昆虫のお話やお魚に少し触れていただく、この後のお話に続く
こととして、やはり季節がない環境だということを言いたいと思います。水に関しては、
およそ20年から30年かかって湧水としてわき出てきますけれども、とても速い流れも
あるということもわかりました。それは、降水量によるものですね。300ミリメートル
という大雨が降ると、地下浸透せずに、富士山の場合は表流を流れてくるという事例が見
つかりました。
どのあたりに降った雨が出てくるのだということを考えるには安定同位体というものを
使います。水自身に重い水と軽い水があるのですね。それをはかっていくと、どのあたり
(標高)に降った雨かということがわかるということだけご紹介しておきます。
ここからは少し微生物の専門の話をさせていただきます。柿田川の水はきれいで、明ら
かに見た目がきれいですが、微生物を測ってみて驚きました。今日、もしも水道水を朝1杯
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飲んで来られた方がいらしたら、水道水の中は消毒した後でも、コップ1杯に100万匹
ぐらいの微生物、バクテリアがいます。100万匹というのは、コップ1杯を100cc
として100万匹ですから、1ccにかえると1万匹ですね。
ところが、柿田川の水というのは、富士山の山麓、柿田川を含めて湧水はそれより10分
の1ぐらいしかない。とても少ないことに、まず驚きました。驚いたということが、科学
をしている者にとっては、もう少し調べてみようという気持ちに、強くさせられます。
私どもは世界で発表されている論文を読むわけですけれども、自然界ではほとんどこの
ような値は見当たりません。そういう意味でも、チャンピオンレコードですね。中身を見
始めまして、いろいろなことがわかってきました。詳しいことはポスターにもありますが、
今行っている微生物の研究では、顕微鏡を使って数を数えたりするだけではなくて、遺伝
子を直接見て、いろいろなことがわかってきます。水の中にどういう微生物がいるかとい
うことがわかってきています。
先ほどからのお話にあるように、柿田川の湧水、あるいは富士山の水というのは、年間
を通じて温度がそう変わらずに、11度ぐらいから15度ぐらいです。そのような温度だ
というお話をしましたが、驚いたことに、熱いところにしかいない微生物のDNAが富士
山のいろいろなところから検出されるのです。
ここで好熱性、熱いのが好きだという、我々の学術用語を日本語に置き直したものを書
いていますけれども、大体40度以上の温度が要るのです。富士山の湧水を仮に15度と
しますと、40度の環境というのは、25度熱い場所でなければなりません。地下です。
富士山は休火山ですから、100メートル地球の真ん中に向かうと、3度ないし4度、温
度が上昇します。富士山は火山の一部分ですから、4度だと想定して計算しても、25度
の差、40マイナス15ですが、25度の差は600メートルぐらい要るのですね。
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後から芹沢さんのお話に出てくると思いますが、水は古富士層というかたい岩盤の上に
できた溶岩流を主に流れてきますよといわれています。これは間違っていません。大量の
湧水はほとんどそこを流れてきますが、それ以外に深いところから来ている水もあるよと
いうことが、これでわかったというお話をしたいのです。
我々、いろいろな湧き水を分析して、いろいろなことがわかります。先ほど水としての
性格はほとんど一緒だという話をしましたけれども、それは地下ですから、複雑な水道が
あって、いろいろな水がまざって出てきた値、顔つきを見ています。そうではなくて、ど
こから来たのということは、実は我々はほとんど知らない。化学はほとんどそれを明らか
にすることができない。微生物を使ったら、新しい切り口でそういうことがわかるのでは
ないかということが見えてきました。これは、私自身にとっても驚きです。今お話しした
ような古富士層という硬くて水が通りにくいところの層の上を水が流れてくる。これは、
ほとんどの湧水はそうだと思います。ほとんどそうだと思いますが、古い水もたくさん、
いろいろなところでまざっているということがわかってきました。今お話したことは、こ
のようなことです。
まだまだ我々、確認しなければいけないことが幾つもあるのですが、私の好きな数学者
に中谷宇吉郎さんという方がいらして、北海道大学の先生をされていて寺田寅彦さんのお
弟子さんなのですが、
「雪は天から送られた手紙である」という私が好きな言葉を残されて
います。私は、微生物DNAは地下から届けられた手紙、メッセージだと思っています。
ちなみに今日、北海道大学にいらっしゃった角皆先生にも来ていただいています。
DNAというのは、微生物そのものから取り出します。水の成分を見ると、それはブレ
ンドされた水だというお話をしましたが、微生物というのは小さい。1,000分の1ミリ
しかないのですが、でも粒々なので、粒々として運んでこられているのですね。ですから、
ブレンドされようが、その粒々を運んできた水があるということですね。その粒々はどこ
にいたかというお話を、今簡単にさせていただいて、それは地下からやってきた手紙だろ
うと思っています。
微生物の数はすごく少ないという話を最初にさせていただいたのですが、次に微生物自
身をよく調べていくと、水がどこから来ているかも少しわかり出すのではないかという話
をさせていただきました。最後に微生物の話としては、柿田川そのものを今の新しい手法
で調べてみると、柿田川に5,000種(正確にはOTUという操作上定義した種に相当する
と考えてよいだろうと思われる単位)ぐらいの微生物がいるということがわかってきまし
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た。清水港の海水をとってみたら、あるときは2,000OTUぐらいで、あるときは
6,800OTUと変化しています。ご存じのように清水港では巴川がいろいろな排水を運ん
できます。それから、海水自身も湧昇流がありますから、深い水を含んでいる可能性があ
る。そういうところと匹敵するか、しのぐような数が、我々の最新の手法を使った検査か
ら結果が出てきて、これは今、非常に燃えております。では狩野川はどうなのか。柿田川
がまざった狩野川の後はどうなのかということを、実は明日調べて、来年ご報告できれば
いいなと思っています。
さらにおもしろいこともわかってきました。柿田川の水自身はわずか20分で流れ去る
のですが、微生物が住む場所として、水の中以外に、川の底も住み場所になるのですが、
水草も微生物の住む場所になります。代表的なカナダモと少し葉っぱの広い、スライド右
のほうのミクリですね。その2種類の表面についている微生物のDNAを見てみました。
詳しいデータはそこにありますが、驚くべきことが幾つかわかりました。左端が柿田川の
湧水です。少し大きなレベルで見てみると、シアノバクテリアという光合成する微生物の
DNAがかなりいるのですね。これは、先ほど水がブレンドされる話をしましたけれども、
深い水が入っていると同時に、光が当たるようなところからも水は入っているということ
を示していると思わざるを得ないという結果が出てきました。
コカナダモとミクリとのそれぞれ違った形をしている水草の表面にくっついている微生
物を、もう少し詳しいレベルで見ていきますと、これはデータが非常に見にくいので、も
し興味がおありでしたら、後ろのポスターでご確認いただいたらいいと思うのです。こん
なことがわかりました。
1つ目の話は、光合成をする微生物のDNAが見つかったこと。これは水の中です。ミ
クリは葉っぱの幅が広いのですが、これは次のお話でコメントいただけたらいいのですが、
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多分いろいろな昆虫や、動物もいるので、その葉っぱの表面に、多分アンモニアがたくさ
んある。そのアンモニアを使う微生物がたくさんいる。カナダモのほうは葉がふさふさと
していますね。これは驚いたのですが、あのふさふさとしている中は、酸素がない。ない
はずだ。なぜなら、アルコールができている。このアルコールを使う微生物がいるのです
ね。アルコールの一種であるメタノールを使う微生物がいる。そんなことが見えてきまし
た。
ぱっと見たら同じ水草、まあ、形は違います。だけど、ミクロの世界に入っていくと、
非常におもしろいことがわかります。一番興味深いのは、こういった微生物は、ほとんど
地下からやってきていることです。雨から供給される部分は当然あります。柿田川は20分
で渡りきる川だけれども、雨が直接いろいろな粒子、粒々を運ぶ可能性はあります。時間
がきましたので、終わりにしますが、とてもきれいな、そして非常に貴重な水です。生き
物のあり方を考える上で、我々から見ても非常に興味深いユニークな自然だと、今考えて
います。
どうもありがとうございました。
(拍手)
司会に戻ります。時間はどうなっていたかな。1つぐらい質問があれば、何かございま
すか。どんなことでも。よろしいですか。はい、どうぞ。
【関】確かに川は最近どこの川も、下水道が行き届いてすごくきれいになったのですよね。
だけど、狩野川水系の場合は、ずっと気になっているのですが、西に浄化センターがあり
ます。あの放水がどこに出ているのか。沼津の1号線にもありますけれども、あれは直接
向こうへ出ていると思うのですけれども、確かに川はきれいになったのです。
前回、大分前もそうですけれども、柿田川の、特に魚類は本流から供給されると生物の
方が言っております。本流がどういう状態かという問題もありますが、ほんとうに最近は
柿田川に魚はいないのですよ。15年前、10年前と言ったけれども、私はそんなふうに
ずっと見ているので、その細菌、微生物というのは、生態系の中の一番底辺なので、頂点
からいって、底の部分が崩れているのではないかなと、その辺を研究してもらうとすごく
ありがたいなと思います。
【加藤】
ありがとうございます。来年、正面から少しお答えできるデータを出したい
と思っています。ありがとうございました。
では、次の講演に移りたいと思います。次の講演は、プログラムによりますと、京都大学
の竹門先生にお願いします。
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生態学の中の生き物のつながりを食物網、フードウェブという考え方で見ていきますが、
誰が何を食べているという関係は、先ほども少し触れました同位体。例えば、炭素ですと
重い炭素と軽い炭素があります。そういうものを調べていく。あるいは窒素でも重い窒素
である15という窒素と、14という窒素が対象になりますが、それを調べていくと、見
えない中身が見えてくるということがわかっています。そういう手法を使って、柿田川の
生態系を竹門先生に調べていただいた結果をご報告いただきます。では、お願いします。
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「柿田川における水生生物の栄養起原と食物網構造」
竹門康弘(京都大学防災研究所水資源環境研究センター准教授)
【竹門】
こんにちは。竹門です。柿田川シンポジウムは今回で12回目を迎えました。
その間、継続して柿田川の食物網の研究をしてきました。いろいろな水生動物について、
何を食べているか、その餌の元になる植物は、どういう起源の二酸化炭素を利用している
かといったつながりを調べてきたのですが、今回は全部をつなげたお話をしたいと思いま
す。このため、
「水生生物の栄養起源と食物網構造」というタイトルで、柿田川の水生動物
がどんな栄養源に由来しているかをテーマになります。
お話の構成としては、栄養起源を追究する上で、柿田川にはどういう特徴があるかにつ
いて最初にお話し、次いで植物の特徴、動物の食物網、そして最後に全部を合せた生態系
の特徴という順でお話ししたいと思います。
通常の川であれば、源流域がございまして、源流から湧き出た水が徐々に流量を増やし
て支川が合わり、本川になり、河口まで流れます。このため、源流へ行けば川の流れは細
くて、森に囲われています。そして、川幅の狭い源流では水中に落ち葉が供給されやすい
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わけです。したがって、ここに書きましたように、食物連鎖が落ち葉から始まるところに
食物網の特徴があります。
このような栄養起原の特徴は、水生動物の種類にも反映されて、落ち葉を食べる生き物
が上流に多いことが知られています。つまり、上流域の食物網では落ち葉が大事な栄養起
源というわけです。これが、中流域になりますと、今度は川幅が広がって、河床の陽当た
りが良くなりますので、藻類から始まる食物網がよく発達します。さらに川の下流に行き
ますと、その上流で生産された有機物が分解されて細かいものがたくさん流れていますの
で、そのような有機物を利用する生き物が増えてきます。河川生態系では、このように水
生動物の栄養起源が流程的に変化していくことが知られています。
ところが柿田川の場合には、いきなり1号線の下から大きな川が始まっています。つま
り、源流域の落ち葉が供給される細い流れ環境を欠いています。このため、柿田川の流量
は通常の河川であれば中流域にも相当しますが、分解されて細かくなった有機物は流れて
いません。その意味で、柿田川はたいへん特異的な生態系であるということになります。
それでは、柿田川に住んでいる動物たちはどういう栄養起源に依存しているのだろうか
という疑問が出発点になります。問いかけとしては、上流域を欠いて湧水で始まる生態系
はどういう栄養起源の特徴を持つかということになります。
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柿田川には、もう一つの特徴があります。通常の川ですと土砂が堆積してできる砂州の
地形があったりするのですけれども、柿田川では増水による攪乱がないために河岸にはし
っかりと植生が繁茂しています。川の中も砂利や礫が剥き出しの裸地よりも、水生植物が
茂っている川底が多くなっています。このような環境で、柿田川の生物たちはどういう構
造をつくっているのでしょう。
これは、柿田川生態系研究会の報告書に描かれている模式図です。柿田川では水草の現存
量が圧倒的に多くて、それを利用している底生動物や、あるいはその底生動物を利用して
いる魚類が多い特徴があります。したがって、生態系全体が水草に依存しているだろうと
予想されます。
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しかし、柿田川の水生動物の全種についてお腹を割いて胃内容を分析するのは難しいの
で、栄養起源の調べ方として、安定同位体分析という方法も併用しました。生物の体は、
炭水化物とたんぱく質からできていています。そして、それらを構成する元素には窒素と
炭素が大きな割合を占めています。この窒素と炭素の重さには、少しだけ重い同位体とい
う元素があります。重い元素を含む分子は、重いために歩みがのろいわけですね。つまり
なかなか化学反応が起こりにくい特徴があります。例えば私たちは、ご飯を食べてこれを
体の中で消化して呼吸することでエネルギーを得ています。この呼吸をするときに、実は
先に軽い炭素から先に二酸化炭素になり呼気として出て行っていくので、体の中には重い
炭素が残っていくことになります。
このため軽い炭素である12Cと、重い炭素である13Cの割合を調べると、どのぐらい取
り残されているかということがわかります。同じことは軽い窒素の14Nと重い窒素の15N
についても当てはまります。そして、15Nの割合は、餌になる生物よりも捕食者の方が高
くなることに着目すれば、調べた動物の栄養段階のランクを推測することができます。例
えば、水生昆虫ですと、藻類を食べる虫たちはグラフの低い位置にプロットされるのに対
して、それらの捕食者たちは1段階高い位置にプロットされます。この現象を使えば、この
コカゲロウは動物を食べたのではなくて、藻類を食べていということがわかるわけです。
-23-
一方、炭素については、植物が光合成をする際に、空気中の二酸化炭素と水を使って、
光のエネルギーで有機物をつくります。
そのときに使われる材料となる二酸化炭素に図中の左の方の軽いものと、右のほうの重い
ものとがあることがわかりました。具体的にいうと、柿田川の湧水に含まれている二酸化
炭素はとても軽くて、空気中の二酸化炭素が重いという違いがあると推察されました。こ
のような違いに着目すれば、光合成をする植物が二酸化炭素の起原として湧水に依存して
いる度合いを知ることができます。まとめると、安定同位体座標を調べることによって、
生物が取り込んだ炭素や窒素の由来を知るということができます。そして、窒素安定同位
体比の値は栄養段階が上がるごとに高くなっていくので、食物連鎖におけるランクを知る
ことができます。このやり方を使って柿田川の水生植物や水生動物の値を分析をしてみま
した。
まず、水生植物の結果です。湧水の源になっている湧き間、それから公園の下、さらに
清水小学校前、そして柿田橋など、柿田川の流程の各所から水生植物を採集して、種ごと
に安定同位体比を測定しました。これが、オオカワヂシャ。これが、先ほど加藤先生のお
-24-
話に出てきたコカナダモ、そしてフサモ、ミシマバイカモ、セリなどを測定しました。ミ
クリについてもはかりましたが、コカナダモと先ほど注目されていたミクリとでは、炭素
安定同位体比の値が全く違っていました。
この違いはとても驚くべき違いです。普通の川の場合、一次生産者の炭素安定同位体比
は比較的近いところにまとまってしまうのですが、柿田川では、炭素の安定同位体比が何
とマイナス45‰〜マイナス30‰という大きな幅の中に散らばっていました。また、窒
素の安定同位体比についても0‰〜7‰という大きな幅が見られました。
私は植物の専門家ではないので、これほど大きく違う理由については追究できておりま
せんが、仮説として以下の可能性が考えられます。まず、ミクリは川の真ん中には生えて
いません。川岸に生えています。コカナダモも今回の個体は、川の真ん中ではなくて岸近
くに生えていたものを測っています。柿田川にはたくさんの湧き間があります。もし湧き
間によって地下水に溶けている炭素や窒素の由来が異なれば場所によって安定同位体比の
値に差を生じるかもしれません。
とくに、窒素の値の違いについては、湧き間による地下水のルートや、そのルート上で
の人為汚染度を反映している可能性が考えられます。一般に、人間の生活排水や畜産由来
の硝酸態窒素を取り込んだ植物は窒素安定同位体比が高くなります。いっぽう、空中窒素
由来の窒素を取り込んでいる森林などの植物は窒素安定同位体比がゼロ以下の低い値にな
ります。今回のフサモやセリなどの測定値は、森林由来の硝酸態窒素を取り込んだ植物の
値に相当しますので、汚染されていない地下水の養分に由来すると考えられます。その可
能性を証明するためには、たくさんの地点で試料を収集して地下水由来との関係と調べる
必要があります。それは今後の課題ですが、柿田川の狭い範囲でこれほどの変異があるこ
と自体がこれからの研究の出発点になると思います。
-25-
次に、炭素安定同対比の傾向を見ますと、マイナス50‰〜40‰という非常に低い値
が検出されましたが、これは通常の川ではあり得ない値です。大体低くても陸上の植物の
値であるマイナス35‰〜30‰くらいです。いっぽう、地下水中のメタン細菌が生成す
るメタン由来の炭素は非常に軽い特徴を持っています。植物がそのような地下水生態系の
経路を経た二酸化炭素を使って光合成をすれば、きわめて低い値を生じる可能性があるわ
けです。つまり、マイナス50‰〜40‰の値を示す水生植物は、地下水由来の二酸化炭
素を利用しているのではないかと推定されます。このように同じ水生植物でも、栄養の由
来が違っている可能性があるわけです。
これとは対照的に、河床の藻類が空気中の二酸化炭素から水に溶け込んだ二酸化炭素を
利用して光合成する場合には、マイナス20‰程度の高い値になることが知られています。
今回は、藻類についても比較的低い値になったということは、こちらもある程度地下水由
来の二酸化炭素に依存している可能性が考えられます。
さて、次は藻類や水草を食べる動物の分析結果です。
水生植物と同じように柿田川の各所で底生動物を採集して名前を調べました。
-26-
その結果、種類数においては、ユスリカ、カゲロウ、トビケラが多く、個体数ではカゲロ
ウ、ユスリカ、貝の仲間、トビケラという順に多いことが分かりました。
カゲロウ種類組成をみると、多かったのはコカゲロウ科とマダラカゲロウ科でありまし
て、個体数ではこれらで90%を超えてしました。つまり、コカゲロウとマダラカゲロウ
ばかりたくさん居るのに対して、石の表面の藻類を食べるヒラタカゲロウやヒメフタオカ
ゲロウのような一般の河川に普通にいるグループがとても少ないことがわかりました。こ
の結果は、柿田川にはコカゲロウのような細長くて泳ぎ回る種類が多くて、石の表面に住
むような連中が少ないことを示しています。
-27-
それから、トビケラに関してもはっきりとした傾向が見られました。個体数の圧倒的に
多いのが、ヒゲナガトビケラ科とカクスイトビケラ科でした。いずれも巣をもって歩き回
っている携巣型のトビケラです。ところが、通常の川に多いヒゲナガカワトビケラ科やシ
マトビケラ科がほとんど採れませんでした。これは柿田川は、網を張って流れてくる有機
物を漉しとるような暮らしをする固着型のトビケラには棲みづらいと考えられます。
柿田川の水生昆虫の腸管の中を開けて食べているものを観察したところ、一般に落ち葉
を食べていると言われるマダラカゲロウのお腹の中から、何と水生植物の破片がいっぱい
出てきました。同様に、モクスガニの腸管からも植物片が出てきました。このように、お
なかの中を調べた結果、藻類や水生植物のように生きた植物を食べている種が多いことが
分かりました。
-28-
この図は、柿田川の水生動物の食物網を示しています。一般の河川の食物網では、分解
した有機物を起点とする黄色矢印や落ち葉を起点とする茶色矢印がたくさん出てくるので
すが、柿田川では水生植物から始まる濃い緑色と、藻類から始まる薄緑色の矢印が多いこ
とが分かります。これは、柿田川生態系が腐植連鎖(分解された有機物に依存する食物連
鎖)よりも生食連鎖(生きた植物に依存する食物連鎖)が卓越していることを示していま
す。
-29-
柿田川の水生生物の安定同位体比の分析結果を全部繋げてみました。こちらが湧水源の
食物網となります。先ほど説明したメタン由来の二酸化炭素から始まるような低い炭素安
定同位体比の栄養起原の上に載った食物網が見られました。一方、柿田橋では普通の河川
に見られるような高い炭素安定同位体比の栄養起原の上に載った食物網が見られました。
そして、公園下では、両方の中間的な炭素安定同位体比の食物網が見られたのです。これ
らの結果は、たった1.2kmの間に生物群集全体の栄養起原がシフトしたことを示していま
す。
以上の結果をまとめますと、柿田川の水生動物には地下水起源の炭素が体の中に含まれ
ていますが、その割合が源流からたった1.2kmの間に変化して通常の川の値に近づくとい
うことです。柿田川生態系には、地下水生態系から河川生態系に移行する過程を研究する
ことができる極めてユニークな価値があると考えられます。
【加藤】
竹門先生、どうもありがとうございました。
(拍手)
加藤君、芹沢さん、お話は少しわかった?
難しかった?
川の流れは、湧水でできた
川なのだけれども、流れの速さが岸辺と真ん中で違いますね。その流れの速さが違うこと
-30-
が、いろいろなことをもたらしていますよという可能性のお話ですけれども、後でもう一
度質問いただくとして、ひとまず次に話を移したいと思います。
どうもありがとうございました。
(拍手)
私どもの研究会の発表の最後は、大阪市立自然史博物館の館長をされている、谷田先生
のトビケラのお話ですね。水温から見ると季節がないところでの生物季節のお話をトビケ
ラでしていただきます。
では、谷田先生、お願いします。私もこのお話を最初に聞いたときに驚いたのですけれ
ども、生物は同じ時期に花が咲いたり、あるいは交雑をしたりするのですけれども、季節
がよくわからない柿田川の中ではどうするのというお話ですね。
-31-
「大規模河川、柿田川のトビケラ-種組成の特異性と生物季節-」
谷田一三(大阪市立自然史博物館
【谷田】
館長)
こういうタイトルで川虫についてお話しします。
実際の採集は柿田川みどりのトラストの樫村さんにやっていただいて、分析は野崎さん
にほとんどやっていただきました。私は今日話すだけなのですが、やはりまだ解けない謎
があります。柿田川ですが、何回も話題に出ているように、水温が非常に安定して、水温
から見ると季節性がない。この柿田川で生物に季節があるかどうかというのが、そもそも
の疑問です。普通、生物季節はいろいろな環境要因で決まります。日周であるとか気温と
かで決まるのですけれども、水温は川に住んでいる虫たちにとっては非常に重要な環境要
素です。それが柿田川ではほとんど変動していない環境要素だということです。
最初に少し分類的なお話をさせていただきます。湧水固有種がいるかどうかという話で
す。それから生活の特性、とくに生活史の特性を中心にお話をします。
-32-
分類的には、先ほど主に野崎さんがまとめて、新しい種類としては3種が書かれました。
ということは、タイプ産地、この柿田川で採集された標本を基準として登録したというこ
とで、非常に重要な場所に柿田川はなっているわけです。野崎さんが書かれたカキダヒメ
トビケラ、アカギマルツツトビケラ、それからトゲマルツツトビケラ、その3種が新種と
して書かれました。
ただし、その時には日本新記録として下から2つ目のOxyethira josifoviが記録されま
した.これは朝鮮半島で記載された種類で、野崎さんは日本新記録としたのですが、実は
未記載種ということで、後に新種登録されました。だから、合計4種の新種が柿田川から、
しかもそのうちの2つの学名には柿田の名前がついた種が出たということで、生息してい
るトビケラの種数は決して多くはないのですけれども、柿田川は非常に重要な場所である
ことは間違いないです。
次のスライドは、野崎さんが新種を書かれた国際シンポジウムの紀要です。
-33-
先ほど言いましたように、生物の季節を決める環境要因は光の周期(日長)であるとか、
温度であるかと、いろいろなものがあります。あるいは、ときには洪水や渇水といった攪
乱が決めることもあります。砂漠などでは乾燥やたまの降水が生物季節を決めています。
そういう環境が生物季節を決めるのですけれども、柿田川はあれだけ安定な環境で一体何
が,そこにすむ生物の季節を決めているのだろうというのが大きな疑問です。
水生昆虫と陸上昆虫と違うところは、冬になって寒いからお休み(冬眠)する種はいま
せん。成長をやめたり発育をやめる種はいますが、休む種は日本にはまずいません。逆に
夏にお休みする種、夏眠をする種は意外にたくさんいます。夏の間、川底に潜ったり、蛹
の状態で過ごしたりするには,日本の水生昆虫では普通にみられます。
-34-
それから、欧米などで多くの昆虫類の種は年に1世代ですが、日本は夏の間は半分熱帯
なので、多化性(年に何回も世代を過ごす)の種類が多いです。その中でも水生昆虫は、
何回も世代を繰り返す種類が多いようです。
調査方法ですが、源流部に2基のマレーゼトラップを設置しました.虫というのは高
いところへ上がっていく習性があるので、布や壁にぶつかったら自動的に上がっていって、
最後の一番高いところにあるわなに入っていくというトラップを仕掛けました。
2001年から2002年にかけての第1期の調査は2週間に1度、2011年から
2012年の第2期の調査は樫村さんにお願いして、毎週回収してもらいましたので、非
常に解像度のいい分析ができました。
いずれのスライドも、下のほうに囲ってあるほうは第1期、上が第2期ですが、これを
見ていただくと、ニッポンナガレトビケラは明らかにきれいな年2世代です。これは、第
1、第2期で同じパターンです。
-35-
それから、ハナセマルセツツトビケラというのは、前は非常にきれいな2世代が出たの
ですけれども、今回は1世代目が割とはっきりしたのに、2世代目以降はちょっとはっき
りしないのです。おそらく、これも年に2世代ということで、問題はないと思います。
柿田川は非常に安定な環境なので、出てくる種も大体一定ですが、出現パターンも
2001年から2002年と、それから10年たった今回とは、ほぼ似たパターンを示し
ているようです。
アカギマルツツトビケラは、前回のデータはないのですが、1回目にはっきりした羽化
ピークが出たのですが、あとは何回のピークが出ているかわからない。連続して出現する
ような生物季節のパターンです。
それから、ニンギョウトビケラは、2001年からの最初の調査は非常にきれいな年2世
代型なのですが、今回は後のほうが少ない。全体に半分以下に個体数が減っています。種
類相の変化は割と少ないのですが、やはり栄枯盛衰があります。
それから、これはコカクツツトビケラという種類ですが、前も年2世代、今回も2世代
という非常にきれいな一致したパターンを示しています。
-36-
これはアオヒゲナガトビケラの一種、これもまだ未記載種で、これも柿田川をタイプに
新種が書けるかもしれないのですが、これも年に2世代のパターン。これは前回も今回も
一致しているというパターンです。
これも未採記載種のままなのですが、クダトビケラ科のLypeという種類で、日本か
ら記録されている種とは違うようです。これも大体年2世代のパターンですが、1世代目
に比べて、2世代目のピークがややはっきりしないというパターンです。
それから、多くの種は年2世代なのですが、年1世代の種もいます。これがヤマトグマ
ガトビケラという、割と大型なのですが、これは年に1世代で季節的に言うと3月の終わ
りから4月に出てくる。これは雄のほうが圧倒的に多くて雌が少ないというパターンを示
します。それは前回の調査と一緒です。
-37-
カワムラナガレトビケラは先ほど最初に出てきたニッポンナガレトビケラと非常に近縁な
種です。これは、先ほどのグマガトビケラと一緒で、年に1世代、3月の後半から5月に
かけてのはっきりしたピークを示します。近縁でも,ニッポンナガレトビケラは年2世代、
カワムラナガレトビケラは年1世代です.彼らが住んでいるところはどこかと言いますと、
川底の砂地の中に潜って住んでいるのです。これはうち(大阪府立大学大学院)の院生の
平祥和君が発見したのですが、同じようなハビタット(生息地)で、分類学的にも非常に
近縁なのですが、片方が年に1世代で片方が年2世代という、このような場合サイズが関
係する場合もあるのですが、この2種はサイズもほとんど変わりません。理由は不明です。
ほとんど世代が読めない種もいます。これは非常に小さいヒメトビケラという仲間の
1つのハゴイタヒメトビケラという新しく柿田川がタイプ産地になった種類なのですが、
これも多くのピークがもあるで、生物季節がはっきりしない。この種だけではなくて、先
ほど出てきましたアカギマルツツトビケラというのも、先ほどもご紹介しましたハゴイタ
ヒメトビケラ、いずれも非常に小型です。小さい種類はどうも年3世代以上の多化性になる。
何回も羽化するのではないかというのが、柿田川を見る限りの印象です。ほかの川でもそ
ういうケースは多いです。
-38-
まとめますと、小型の種には季節性がはっきりしないものがあるのですが、ヤマトグマ
ガトビケラとカワムラナガレトビケラの2つの種で年1世代型がはっきりしていました。
こ年それ以外は2世代の種類が非常に多い。年3世代も時々いる。水温がある程度温度が
一定な割には、比較的しっかりと季節性がある種が多いようです。
それから、何回も言いましたように、2001年からの第1回目の調査と2011年
から2012年の2回目の調査、羽化パターンもほぼ一致しています。種組成としてもほ
ぼ一致しています。ただし、個体数の変化はありました。
それから、マレーゼトラップで採取したトビケラには、ほとんど羽化しない空白の期間
があります。それは大体1月から2月です。これはほとんどの種に共通です。マレーゼト
ラップというのは、陸上に上がってきた虫が飛んできて、トラップにぶつかって、歩きな
がら上に上がっていって入ります。ということは、陸上の気温が低いと動けなくて採集さ
れない可能性があるわけです。羽化しているけれども採集されなかったのか、羽化してい
ないのか、これが実は非常に大きな問題です。
-39-
私は低温によって成虫活動が抑制される可能性、羽化しても成虫活動をしない可能性があ
るのではないかと若干考えております。特に第1世代は多くの種類でほぼ3月の終わりか
ら5月の終わりという時間帯に非常に高い斉一性成育性を持って羽化しています。かなり
多くの種類で第2世代についても同調性が見られます。
おそらくグマガトビケラなど年1世代の種は光周性による制御がきいている可能性が高
いと思います。問題点としては、先ほどから何回も申し上げているようにマレーゼトラッ
プによる捕獲というのは、成虫の移動性を利用するトラップです.その点では川の上に直
接トラップをかけて、羽化しているかどうかということを確かめなければいけないのです
が、これを第2期の調査でははやる予定だったのですが、羽化トラップの設計を考えてい
て、羽化トラップ調査ができなかったのです。この羽化トラップ調査は、特に冬場に羽化
しているかどうかは、ぜひ調べてみたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。(拍手)
【加藤】
谷田先生、どうもありがとうございました。たくさん質問があるかと思うの
ですが、まず1つお受けして、それから全体に対してご質問いただけたらと思います。短
い質問いかがでしょうか。よろしいですか。
では、一旦、席に戻っていただいて、今日の私どもの生態系研究会の発表の全てに対し
て、どこからでも結構です。ご質問、あるいはコメントをいただけたらと思いますが、い
かがでしょうか。よろしいですか。
では、最後の谷田先生の講演で、新種が3ないし4種ということでした。こういう柿田
川で新種が3ないし4種というのは、進化がご専門の塚越先生、佐藤先生、どう考えられ
ますか。
-40-
【塚越】
ご指名ありがとうございます。多様性に関しては、分類ごとにものすごく事
情が違っていますので、一概にはもちろんお答えできないのですが、柿田川にいるものと
いうのは、比較的種類が限定されていると思います。その中で新種がこれだけ出てきてい
るというのは、ある意味、驚きです。
【加藤】
どう考えるかという、私も驚きですが。
【塚越】
もう驚くだけです。それから、もう一つ、谷田先生へ質問なのですけれども、
成虫は何を食べるのですか。えさの問題というのは必ず出てきて、冬場にもし成虫になっ
たとして、何を食べるのかという問題をどうお考えになるかということをお聞きしたので
すが。
【谷田】
水生昆虫、カゲロウのほうではないのですが、トビケラも成虫の間の寿命が
非常に短いのです。だから、せいぜい食べてもネクトン(遊水生物nekton)ぐらいですね。
蜜を食べるぐらい。それから、栄養のあるものをがつがつ食べるということはほとんどで
きない。だから、寿命としては短いので、数日、長くても2週間ぐらいまでで死んでしま
います。
【塚越】
そうすると、冬場の食べ物の問題というのは、特に大きな問題にはならない
ということでしょうか。
【谷田】
はい、ならない。
【加藤】
どうもありがとうございました。
【関】
では、どうぞ。
水生生物の植生ということで、前の方が柿田川は特殊な限られた空間で、水生
生物の植生がほぼ決まっている。そして、この研究が始まったのが15年ぐらい前ですか。
それで、この柿田川周辺に住んでいる人は、柿田橋の上から見れば、どんな目の悪い人で
も、魚がたくさん泳いでいるのを見えたと思います。そのころ魚がたくさんいた。アユを
抜いてそれ以外でも魚がたくさんいたということは、里山みたいな里の中の川なので、人
為的な栄養分とか、そういう素材が入っていたために魚があれだけ生息していたというか、
維持できていたのかなと、そんなふうにも解釈できるのですけれども、その辺はどうなの
でしょうか。先ほどの説明を聞くと、食べられるものは限られてしまっているもので。
【加藤】
では、竹門先生から。
【竹門】
今のご指摘は、非常に重要なポイントだと思います。というのは、私が初め
て柿田川に来て、水生昆虫を採取したのが1978年でした。そのとき川に網を入れます
と、今はほとんど生息していないヒゲナガトビケラがいっぱいいたのです。彼らがそれだ
-41-
け成長できるということは、先ほど申しましたように上から流れてくる有機物があったこ
とを示しています。しかも、決して今ほどきれいではなかったようです。というのは、有
機物をたくさん含んだ下水が直接入っていたと思います。臭いもしました。
したがって、当時の水生動物は人為的に流された有機物を利用していて、虫の種類や量
も違っていたわけです。今よりも豊富に生息していたわけです。それを食べている魚もた
くさんいたという可能性はご指摘の通りだと思います。
【関】
ということは、今の状態が自然に近いと解釈してよろしいのですか。
【竹門】
私はそう思います。ヒゲナガカワトビケラがたくさん住んでいた当時の姿と
いうのは、本来の柿田川の姿ではないのだと思います。
【加藤】
どうもありがとうございました。
では、あと1つか2つ質問をいただけますが、どうでしょう。記録の関係でお名前だけ
お願いします。
【原】
原と申します。お願いします。
これは、加藤さんにお伺いしたいのですけれども、自分はここらに住んでおり、富士山
が見えているのですけれども、すごく近いですよね。しかし先ほどの発表では雨が柿田川
に流れるまでにおよそ20年から30年かかるとのことでした。単純に素人考えで、何万
キロ離れているから20年、30年かかるというのはわかります。しかし柿田川と富士山
は40キロしか離れていないのに、柿田川公園の第1展望台まで来るのにその年月がかか
る、その根拠を教えてください。
【加藤】
直感的に川の流れですとそうですよね、数時間だと思います。日本で一番長
い川でも1週間かからずに上高地から日本海まで流れていくので、違和感を持たれるとい
うのはそのとおりだと思います。これは、水が地下へ浸透したら、流れの速度が100倍
から1,000倍遅くなることが理由となります。要するに、地下の構造の中を水が流れて
いくときに、ものすごく抵抗があります。流れの水道(みずみち)が狭い。それが反映し
てきたものと考えたらいいと思います。ただし先ほど少し言いましたように、雨がものす
ごくたくさん降った場合、我々が今考えているのは、300ミリなのですが、その場合は
異なります。
これは、4年前になりますか。3.11があった年にこのあたりは大雨が降って、富士宮
市の町中で湧き水が出てしまったことがありました。水が異常出水したのです。そのとき
には、降った雨がほとんど数日で表層に出ていただろうということがわかります。地下に
-42-
浸透し切る以上の雨が降ったら、水は浅いところを流れるしかなくなってきます。そのと
きは、随分速く流れ、表流の川と同じような速さや、それに近い速さで流れてきます。
今言いましたのは、ほとんどが地下へ浸透して、抵抗が100倍もそれ以上もあるよう
なところをゆっくり流れてきた結果を示しているということなのですが、よろしいでしょ
うか。
【原】
思うのですけれども、ここに書いてあるように、およそ30年かかるとありま
すよね。その10年の幅というのはどこから来るのですか。
【加藤】
それは、測定する精度がよくないことが理由です。昔はどういうもので測っ
たかと言いますと、トリチウムというHの3という重い水素ではかることができました。
これは水爆実験が非常に不幸なことに行われたのですが、その実験の際に環境中に放出さ
れたものです。実験が行われた時期がわかっています。1960何年だったか。そこで環
境中に放出された重い水素が雨となって入ってきて出てくることが、その量をはかってい
くとわかるのですね。それで何年かかったか。1960何年から水素自身の放射能が壊れ
ていく時間がわかっていますので、その量比をはかっていくと、何年たった水かというの
が、実はわかるのです。
今はそのようなきっちりしたものがないのです。トリチウムの濃度が低くなって、自然
界の濃度になってしまって、放射性の同位体、水素の同位体を使っても測れませんので、
いろいろな工夫をしている最中です。今使っているのはフロンのようなものを使っていま
す。フロンは人口の化学物質ですがかつて1980年代ごろ、冷蔵庫などに非常にたくさ
ん使われたのですが世界中で使用が禁止されました。使った時期が10年以上ありますの
で、環境に放出された時期に幅があり、それが誤差としてそのまま出てくるのです。おわ
かりいただけましたでしょうか。もう一度フロアでご説明します。測定のいい方法が実は
ないのです。この分野の人たちは、今必死で探しているのですが。
では、あと1つぐらい短いご質問があれば。はい、どうぞ。では、お名前をいただいて。
【ささき】
先生が今発表された珍しいトビケラのことなど、どういうふうにして繁殖
したかということを私はまるっきり知らないのだけれども、光合成なのかなと思っている
のです。水草、バイカモもいわゆる光を好まないところに生息するわけで、今日のNHK
の北海道の羊蹄山の自然をテレビで見たのだけれども、北海道もバイカモがすごくあり、
ニュースで聞いたら、いわゆる暗いところが好きだということで、暗いところでどうして
繁殖するのかなということが私にはわからないのですが、その辺はどうなっているのかな
-43-
と。バイカモとトビケラのことです。
【加藤】
光条件の悪いところで両者がいるということですか。
【ささき】
【加藤】
はい。
光合成するものは一定の光の量が必要なのですが、トビケラと光の関係とい
うのはどうなのですか。
【竹門】
バイカモは、日影のほうがよろしいと、テレビでそう報道されていましたか。
【ささき】
【竹門】
そうですね。
実際、バイカモが生息しているところは必ずしも日影ではなくて、むしろよ
く太陽が当たるところに生えていますので、光が陰ったほうがいいというふうには、事実
として言い切れないと思います。
それから、トビケラについては、日影のほうがいいということはないと思いますね。例
えば、落ち葉を食べるトビケラも落ち葉の表面に生えている藻類も一緒に食べますので、
光が当たって、一次生産で光合成が進んだほうが、むしろ栄養としてはすぐれたものにな
るという研究もあります。
ただ、おっしゃるように日影のほうが好きな植物も柿田川には住んでいまして、特に下
流の柿田橋の眼鏡橋の下に大きなふちがありますね。あの下には、紅藻類といいまして、
紅色の藻類が岩の表面にたくさん生えています。そのたくさん生えている場所は、どちら
かというと対岸の木が覆っている日影のところのほうがよく生えていますので、そういう
植物もあることはあるのですが、今発表の中で出てきた各種の水草類に関しましては、む
しろひなたのほうがよくて、柿田川の場合には川の幅が広いので、いくら岸辺に木が生え
ても、中央部分はよく日が当たって水草がよく茂っているというストーリーになっている
のではないかと思います。
【加藤】
どうもありがとうございました。
では、90分、大学の講義で言うと1コマ終わりましたので、トイレ休憩を5分だけで
すが設けて、第二部を3時から始めたいと思います。時間にお戻りいただければ幸いです。
(
第二部
【加藤】
休
憩
)
地域の方々からの発表
そろそろ第二部を始めたいと思います。どうもポスターを見ていただきまし
てありがとうございました。
時間の都合で第二部を始めて、最後のほうでまた少し時間を設けたいと思います。
-44-
第二部は地域の方々からの発表として、今回は清水町の山下教育長にお願いして、2人
の超若者から講演を発表していただきます。その後、沼津河川国道事務所と清水町からの
ご発表をいただきます。トップバッターの方は今年の夏、サマースクールに来ていただい
ています。芹沢春陽さんで、清水小学校の6年生です。芹沢さん、いいかな。緊張せずに
やってください。
「大切な宝物
では、どうぞよろしく。(拍手)
柿田川のすばらしさと私」
芹沢春陽(清水町立清水小学校6年)
【芹沢】
私の大好きな町、清水町です。清水町には世界に誇る柿田川があります。私
は、柿田川の近くに住んでいます。
さらに高いところから見てみます。遠くに見えるのは富士山です。柿田川は突然ここか
ら始まって、ここで終わり、狩野川と合流します。長さは1,200メートル、日本で3本
の指に入る短い川です。
私は、柿田川がどのように生まれたのか学びました。富士山に降った雨や雪解け水が地
下を通ってこの地に湧き水としてあらわれたそうです。富士山に降った雨や雪解け水がこ
の清水町まで地下を通って流れてくるなんて、とても不思議な感じがします。
柿田川には、水が湧き出てくる湧き間がいっぱいです。私は水が湧き出てくるのを見る
のが大好きです。水が湧き出ているのを見ると、その美しさに引き込まれてしまいます。
私は、どのくらいの水の量が湧き出ているのかなと思いました。私は、1日にプール2杯
分くらいの水が湧き出していると予想しました。しかし、実際は2,000杯分の水が湧き
出ているそうです。驚きました。
日本一の湧き水量を誇る柿田川。水質もとてもきれいだと聞きました。私が実際に柿田
川のイベントに行ったときのことを話します。
-45-
毎年8月の第1土曜日に清水町のお祭り、
「湧水まつり」が開かれます。そこでは、柿田川
の水を消毒しないでそのまま沸かして飲むお茶会が開かれています。私は、その会に行き、
お茶をいただきました。ほんとうにおいしいお茶でした。
また、ほかに柿田川水質実験教室にも参加しました。柿田川の水がどれくらいきれいな
のか、きれいさの度合いによって色が変わる薬を使って調べる実験を行いました。赤紫色
になればなるほどきれいな証拠です。ちなみに色段階の2番は水道水、4番は田んぼの水、
6番は家庭の排水レベルの水です。柿田川の水は1のレベルでした。水道水よりもきれい
なんて驚きました。
柿田川の水中は、水の中とは思えないくらい透明です。まるで鏡の世界のようです。
また、冬の朝、川霧で幻想的な光景が柿田橋から見えました。
さらに驚いたことがあります。約400年前、徳川家康が柿田川のほとりに家を建てる
計画があったそうです。残念ながら実現しなかったそうですが、あの有名な徳川家康が住
みたいと思ったことに、この町のすばらしさを感じることができました。
これは、今年の8月12日、サマーサイエンススクールでの写真です。柿田川に生息す
-46-
るさまざまな貴重な生き物を間近で見ることができました。夏なのに、川の水はとても冷
たく、足が痛かったのを覚えています。水になれると、とても気持ちがよかったです。水
温が夏なのに20度以下だと聞きました。川の隅のほうをすくってみると、何やら網に入
りました。漆畑さんに見てもらっているところです。貴重な生物を間近で見ることができ
ました。
柿田川に生息するさまざまな生き物を観察しました。参加した子供たちがすくい上げた
さまざまな種類の生き物を見ました。ホトケドジョウやスジエビなど、いろいろな生き物
を見ることができました。
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会の最後に全ての生き物を川に戻しました。柿田川でみんなで撮った写真です。この柿
田川での体験は、柿田川に生息する貴重な生き物を大切にしていくことの必要性を学びま
した。
会の終了後、新聞記者の方にインタビューを受けました。私は柿田川に入ることができ
た喜びとともに、大切な自然をいつまでも守っていくことの大切さを伝えました。1人1人
に修了書をいただきました。
これは、役場のイベントで、柿田川でクルージングをしたときの写真です。担当の方が
そばについてくださったので、安心して活動することができました。柿田川をのぞくと、
ミシマバイカモが見えました。浅いところに行ってさわってみました。水は冷たく、流れ
も速かったです。きれいな場所だけに生息するミシマバイカモがたくさん咲いていました。
-48-
水の美しさ、貴重な生き物の宝箱、美しい自然と歴史、私のふるさと清水町を、そして
日本を代表する柿田川、この川がいつまでも美しいままでいてくれるよう願っています。
そのためには、私たち1人1人が柿田川についてもっと深く知り、体験し、それらを発信
していくことが大切だと思います。
終わります。
(拍手)
【加藤】
芹沢さん、どうもありがとう。すばらしい発表をどうもありがとうございま
した。
では、引き続いて、清水中学校2年生の加藤大介君から発表してもらいたいと思います。
お二人の発表が終われば、会場から感想やコメントをいただけたらと思います。
では、加藤君、よろしくお願いします。
-49-
「柿田川とともに~減りつつある柿田川のウナギを一例に~」
加藤大介(清水町立清水中学校2年)
【加藤(大)
】
お願いします。皆さん、こんにちは。清水町立清水中学校2年の加藤大
介です。僕の祖父は子供のころから柿田川や狩野川で遊びながら、祖父の父と一緒に漁を
していたようです。そのころは、カニやウナギが今よりもたくさんとれたということを聞
きました。
僕は祖父の影響を受けて、柿田川に興味を持ち、一緒に出かけて、川の水の冷たさを知
り、大きな魚が泳いでいるのを見たりすることで、川を身近に感じるようになりました。
また、祖父がとってきたウナギを祖母がさばいたかば焼きはとてもおいしかったです。
何年か前には、祖父がモクズガニをとるためにカニかごを仕掛けて、後日見に行ってみ
ると、モクズガニを食べにきたと思われる太いウナギが入っていたそうです。そのときは、
祖父もすごく驚いたと言っていました。
しかし、そのウナギは今、全国的に減ってきており、絶滅危惧種であるニュースは有名
ですが、僕たちが住む身近なところでも同じことが起きているということを祖父とも話し
ました。
最近、新聞でウナギを保護するための禁漁期を設けるというニュースを見ました。好き
なときに好きなだけとると、やがて絶滅してしまいます。持続的に自然の恵みを得るため
に大切なことだと思いました。
さらに、祖父からの昔の話を聞いたときに、クレソンの話題が出ました。おしゃれな料
理にも使われるクレソンの栽培を柿田川で行っていて、農薬の問題があったそうです。授
業でも学習しましたが、自然を守る環境と豊かな暮らしにはさまざまな問題も背中合わせ
-50-
であることを感じました。
僕は、清水小学校出身です。ご存じのように清水小学校には柿田川に面した教材園があ
ります。低学年から高学年まで教材園で観察したり、遊んだりすることが大好きな小学生
がたくさんいます。僕もその1人でした。昼休みには、水深が膝くらいまでの安全な場所
に入り、サワガニがたくさんいて、つかまえることに夢中になっていました。
6年生のときには、理科実験クラブに所属していました。ふだんではなかなか立ち入る
ことのできない少し深いところまで入り、箱眼鏡で観察をしました。そのときの川草の青々
とした様子や、魚の美しさを見ることができ、とても驚きました。
また、本やテレビをきっかけに、粘菌に興味を持った僕は、教材園にならいるだろうと
思い、湿気の多いところを中心に、落ち葉の裏などを探しましたが、見つけることはでき
ませんでした。
これは、小学生のときの柿田川親子体験釣り教室でハヤを釣ったときの写真です。僕が
釣っていた場所の反対側にはアユの群れがいたようで、アユを釣った人もいました。
-51-
次に、清水中学校での取り組みを紹介したいと思います。清水中学校では、
「ゴミ0」と
いう活動をしています。
「ゴミ0」とは、毎月0のつく日の朝、登校中に落ちているごみを
拾う活動です。僕は今、生徒会役員になって、
「ゴミ0」を企画する側になりました。だか
ら、どうすればみんながたくさんごみを拾ってくれるのか、どうすればみんなの美化意識
が高まるのかを考えるようになりました。
鳥や魚がごみをえさと間違えて食べてしまうことがあります。道路でごみを拾うことは
簡単ですが、一度川の中にごみが入ると、とるのが難しいです。だから、「ゴミ0」でごみ
を拾うことが、生き物の住みやすい柿田川の環境づくりにもつながると思います。
-52-
僕たち1人1人が生活排水の削減やポイ捨てを減らすことなど、環境に配慮することが、
柿田川の環境をよくしていくために必要だと思います。そして、たくさんの鳥、魚、植物
が共生する、祖父が子供のころに見た景色よりも美しいと思えるような柿田川の環境づく
りをしていきたいです。
これで発表を終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。(拍手)
【加藤】
加藤君、どうもありがとうございました。
2人の随分しっかりしたすばらしい発表をお聞きしたのですけれども、何か会場のほう
からコメントなり、感想なりございましたら。まず、ウナギの話が出てきたので、研究会
の板井先生、何かコメントございませんか。
【板井】
研究会の板井です。もう柿田川で随分前から魚について研究しています。私
が最初に柿田川で魚を見たのは、1979年ぐらいに調査で入った時です。そのころは、
先ほど竹門さんの話もあったのですが、水生昆虫は山ほどいるし、魚類もスミウキゴリか
らアブラハヤ、それからアユカケとか、そういうものがいっぱいいたのです。その後は、
川がきれいになったせいか、だんだん私が川に行くごとに魚が減ってきたように感じてい
-53-
ます。ウナギについて言えば、ウナギは私どもの調査では実は最後のあたりには全くとれ
なくなって、減ってしまったと思います。やはりその辺の川がきれいになって、魚が少し
しかいないというのと、川は汚れているけれどもいっぱい魚がいるというのと、どちらが
いいのかなということも考えていかなければいけないのかなと、そのように思いました。
【加藤】
どうもありがとうございます。
あと2つの講演の後にも時間があるのですが、もう一方ぐらい、何か超若い2人にメッ
セージがございましたら。
【塚越】
短いのを少しだけ。2人の話を聞かせていただいて、私はサマースクールの
ほうで、ここのところ何年間かお世話させていただいているのですけれども、こういう若
い世代の人が、こういった非常に実感のこもった発表をしてくださるということにすごく
感銘を受けました。それはなぜかというと、単に知識として川のこととか自然のことを知
っているのではなくて、経験をしているのですよね。自然を通して経験している。このと
ころがすごく強いと思います。なので、自然の中に入って経験するという機会を若い人た
ちにたくさんつくってあげたい。あげてほしいなと思います。私も柿田川のサマースクー
ルで、そのほんの一部ですけれども、お手伝いさせていただいています。なので、経験を
ぜひさせてくださいと思いました。
【加藤】
どうもありがとうございます。
では、最後にとても若いお2人にもう一度拍手をいただいて、次へ行きたいと思います。
(拍手)
どうもありがとうございました。
では、この次は国土交通省の沼津河川国道事務所長の梅村様からご講演をいただきたい
と思います。よろしいですか。では、梅村さん、よろしくお願いします。
「柿田川を守る地域の取り組み」
梅村幸一郎(国土交通省沼津河川国道事務所事務所長)
【梅村】
沼津河川国道事務所長の梅村でございます。本日はこのような機会をいただ
きましてありがとうございます。また、日ごろ柿田川の関係では大変皆様のお力添えをい
ただいております。今日は、そういった地域の取り組みの変遷を少しご紹介させていただ
ければと思います。
-54-
先ほどの芹沢さんと加藤君の発表の後で非常にやりづらい感じがしております。わかり
やすい、楽しいプレゼンテーションで、どういうことを話すのか、どういう順番で話すの
か、ああいった資料をどこで集めてきてやれるのだろうかなというのを、自分が小学校、
中学校のときとは大分様変わりしたなと感じました。
私のほうは、そういった地域の取り組みをご紹介させていただきます。今日は、柿田川
の概要、歴史、課題、取り組み、そして今後の柿田川のためにということでお話をさせて
いただきます。
最初は、少し映像を見ていただこうかなと。これは、私どものホームページでも湧き間
をずっとカメラで押さえていまして、最近ちょうどアユが集まってくる時期で、アユが湧
き間のところにぐっと集まってきている様子が偶然撮れましたのでご紹介です。私もこう
いった湧き間というのは、いろいろ河川を回っていますけれども、こういった湧き間のあ
るところは私も初めてでして、こんなにアユが来るものなのだろうかというのを初めて経
験したところです。
-55-
まず、基本的なところですけれども、先ほど芹沢さんのプレゼンテーションでわかりや
すかったですけれども、雨が降って、三島溶岩流といいますけれども、地面の中をずっと
流れてきて、今この柿田川のところにちょうど出てきています。大体プールで言うと
2,000杯でしたか。1日100万立米という形で水が湧き出てきています。この水が湧
き出ているところは、皆さんご承知のとおり湧き間と言いますけれども、湧き間の位置が
こちらにあります数十カ所もあるという形になっています。
日本の中に「名水百選」という環境省が選んでいるところがあるのですけれども、柿田
川の湧水量は日本一となっています。他を圧倒する形で100万立米。その後、わさび田
の湧水群ですとか、いろいろありますけれども、圧倒的に柿田川が多いという状況です。
-56-
柿田川の環境と生き物ということで、今日もいろいろな先生方がいらっしゃいますけれ
ども、私どもの調査によりますと、例えば植物だけで560種類ほど。一番多いのが、昆
虫類で1,000種近くといったところが調査でわかっております。
少しきれいな写真でご紹介ですけれども、やはり代表する植物としてミシマバイカモ。
これは絶滅危惧のⅡ類という形になっています。ちょうど6月ごろ、一番きれいに咲くと
ころで、私も川に入らせていただいて、見せていただきました。名前も由来もいろいろそ
のときに教えていただきまして、なるほど、と勉強になりました。最初、どういったもの
かよくわからなかったのですけれども、これは藻の一種で、
「ミシマ」と「バイカ」と「モ」
で分かれていると。バイカというのは梅の花だということを教えていただきました。
-57-
次はアオハタトンボです。これも準絶滅危惧種ということで、非常に貴重な種となって
おります。
もう一つが先ほどご紹介しましたアユという形になります。
-58-
こういった貴重な植物、生物がたくさんいる柿田川ですけれども、歴史的には非常に環
境が悪くなった時期もあり、幾多の困難を地域の方々に乗り越えてきていただいているの
を紹介させていただきます。
これは、昭和30年よりももっと前です。上流部で製紙・紡績工場が稼動・取水してい
たり、非常に環境が悪化しているころです。このころまでに柿田橋ですとか、眼鏡橋など
ができています。
その後、高度成長期に国道1号線、ちょうど湧水公園に入るところです。こちらの国道
1号も国土交通省、私どもで管理させていただいていますけれども、国道1号が開通して
います。その他2号排水路の設置ですとか、柿田川工業用水、水道の取水口の整備等が行
われ、高度成長期で経済、もしくは生活はよくなっていくのですが、その負荷で環境が損
なわれるといった形であらわれた時代になります。
-59-
その後、この高度経済成長期が終わりまして、トラストさんですとか、複数の環境保全
団体が設立されました、また柿田川の公園も開園となっております。この間の努力で、環
境保全活動を実施していただき、環境が改善した時期になります。
ここから、非常に環境はよくなったのですが、今度は別の問題が生じてきています。
2000年代以降ですけれども、オオカワヂシャという外来種が侵入し、環境が変化した
時期になります。このオオカワヂシャが繁茂すると、ミシマバイカモも減っていくという
関係になっています。
-60-
今の課題なのですけれども、近年、今申し上げたように、オオカワヂシャの分布が非常
に拡大しています。
オオカワヂシャがどんどん生えてしまって、ミシマバイカモが減少していくということ
で、外来種駆除が行われています。外来種は外から来た種ですので、本来、柿田川にはな
かった種が繁茂してしまう状況をどう打開するか、それを柿田川の自然に負荷を与えずに
どのようにやっていくかというのが課題となっております。
-61-
自然再生の取り組みのご紹介です。
非常にたくさんの方にご参加いただいております。市民団体の方々、私どもも含めまし
て、清水町や行政機関の方々とともに、オオカワヂシャの駆除活動を継続的に実施してお
ります。回数や参加人数は年々増加している状況です。
駆除活動の前には、オオカワヂシャの駆除に入るわけですけれども、ちゃんとここには
貴重な種がいるので、ここは荒らさないようにしようですとか、ここは少し危険なのでと
いった事前の注意事項もNPOの方々にも教えていただきながらやらせていただいていま
す。
-62-
先ほど、清水中学校の加藤さんの紹介もありましたけれども、清水南中学校や、各中学
校の方にも駆除活動を体験していただいています。また私ども職員も、順番でこの駆除を
させていただいています。
オオカワヂシャは非常にとりやすくて、どんどんとれるので、とれた実感はすごくある
のですが、ものすごく繁茂する力が強く、少し時間がたつとまた繁茂しているということ
で、なかなか人手もたくさんかかるなというのを実感しているところです。
オオカワヂシャとミシマバイカモの分布状況です。こちらのリバーフロントさんにもお
手伝いいただきながらやらせていただいていますけれども、平成24年のときにはピンク
のあたりにオオカワヂシャの非常に密度の高いところがありました。このオオカワヂシャ
のピンクのところを駆除してやった結果、平成27年になりますと、ピンクが減って緑が
増えてきているのかなというのがわかるかと思います。
-63-
数字でいきますと、オオカワヂシャの密度の高いところは、平成25年のときは
5,500平米ほどありました。そこから、いろいろ皆さんに駆除していただいて、また繁
茂して戻ってくる部分もあるのですけれども、差し引き3,800平米ほどになっているの
かなと。
また、ミシマバイカモが密度高く生えているところですけれども、ミシマバイカモにつ
いても、何とか2,400平米から3,800平米まで回復傾向になっているのかなと。
-64-
また、こういった活動を支える中で、やはり知識を得て、いろいろな思いも込めてやっ
ていかなければいけないのですけれども、柿田川生態系研究会、平成12年度から今いら
っしゃる先生方にやっていただきまして、何と28回、シンポジウムに至っては12回と
いうことで、こういった形で最先端の研究もやりながら、それをわかりやすく私どもも含
めて教えていただきまして、地域の方にも還元しながら、またサイエンススクールなどを
やっていただいているという状況です。
私どももサイエンススクールと連携する形で、「狩野川わくわくクラブ」というのをやら
せていただきました。先ほどの芹沢さんも参加していただきましたけれども、
「狩野川わく
わくクラブ」の「わくわくマスター」を取るのが、結構至難のわざです。夏休みに全5回
開催され、全部出ないともらえないのですけれども、そのうちの2回を柿田川で実施して
います。柿田川では水生生物を顕微鏡で見たりする。あとは、実際に川の中に入って見て
みる。先ほど写真でもありましたけれども、その他、狩野川でカヌーにも乗っていただい
たり、狩野川放水路を見ていただいたり、上流のほうでアユ釣りもやっていただいたりと、
狩野川を堪能していただいて、しっかり学習していただいた方が狩野川マスターというこ
とで、この会員証を発行させていただいています。今、「狩野川わくわくマスター」が約
90名。毎年募集が非常に多いのですけれども、少しずつ皆様に参加していただけるよう
に、これからも続けていきたいと思っています。
-65-
最後に、これからの柿田川のためにということで、左上ですね。
ちゃんと計画を立てて(柿田川自然再生計画の策定)、実際に実行に移して、柿田川はす
ごくきれいですけれども、どこかの機会で皆様に保全活動ご参加いただいています(保全・
再生のための対策・整備)。その後、こういった研究会ですとか、もしくはリバーフロント
研究所さんとか、いろいろしっかりモニタリング調査をする。例えば、先ほどの何平米生
えていますよというのも、ざっと見ただけではわからなくて、しっかり調べていただいて
いる。そういった中で、年々の変化を追っていくということをしながら、では、それをど
ういうふうに見直しましょうか(計画の見直し)という、「Plan・Do・Check・
Action」の、最近ずっと言われていますけれども、PDCAサイクルをしっかり回
していきたいなと思います。
-66-
最後、私の携帯で撮った写真です。先ほどサイエンススクールで川に入っているとき、
私は危ないほうに行かないように見張りで立っていまして、そのときに自分の携帯で撮っ
たものが右手側の写真です。左手側の写真が、最近ヘリに乗って、狩野川流域から狩野川
の上流域まで、天城峠のほうまでずっと見てくる機会がありましたので、これもちゃんと
したカメラではなくて私の携帯で撮った写真なのですが、やはり町の中にこんなきれいな、
ほんとうにオアシスのような形で、わずか1.2キロですけれども、あらわれている柿田川
がございます。
こういった中で、私のただのiPhoneのカメラのようなものでも、これだけの写真
が撮れる柿田川を、皆様のお力添えをいただきながら、国土交通省沼津河川国道事務所と
してもしっかり保全をしていければと思います。今後ともご協力のほどよろしくお願いい
たします。
ありがとうございました。(拍手)
【加藤】
梅村さん、どうもありがとうございました。
では、ここで漆畑さんにマイクを少し渡します。
-67-
【漆畑】
いいですか。
【加藤】
はい。
【漆畑】
先ほどの中学生と小学生の発表、実によかった。ああいうものを私は期待し
ていたわけです。
それで、少し気になったのが、湧水祭のときにお水を飲んだとか言っていましたけれど
も、今は皆さん知らないけれども、うちの会は1977年ごろから水質調査をずっと今ま
でやっているのです。それで、県も企業局も柿田川再生計画のときに、去年も発表しまし
たけれども、大腸菌が出ているのですよ。清水町はほんとうに頑張っているの。頑張って
いるけれども、鋭意努力しているけれども、皆さんも極力汚水を川に流さないでほしい。
特に一番気になるのが、2号排水路。先ほど国土交通省の所長からの発表でもあった、
2号排水路は、箱根用水の末端が来ているのですよ。昔はきれいな川だったけれども、今
は都市下水になっているの。その汚水が柿田川を汚染していると。だから、2号排水路の
水を絶対に柿田川に入れないようにしないといけない。
それと、アユの問題ですかな。昔は、おじいちゃんが、魚がいっぱいいたと。確かに昔
は、今から20年ぐらい前はもっとアユがいっぱいいたの。なぜかというと、これは少し
長くなるけれども、アユの稚魚が海へ下る。稚魚が泳いでいるところと、シラス、イワシ
が動いているところが一緒なのですよ。だから、二十数年前はマイワシが回遊していたけ
れども、マイワシは冬場に産卵しなかったの。だけどカタクチイワシは1年中産卵するか
ら、どうしても冬、漁業者にとられてしまうの。いっとき、僕らもそれを見つけて、ちょ
うど三島で売っていたのですよ。おかしいです、アユのシラスはと。そうしたら、マスコ
ミに知られたら隠されてしまって、そういうことでアユの混獲でいなくなってしまった。
もう一つ、これは春上がってくるアユを、狩野川の河口ですな。あそこで、静岡の漁業
者とかあの辺でみんなとらせて、それを食べるほうに持っていってしまっているの。だか
ら、狩野川水系のアユの絶対量が減るわけだ。このおかげでアユが減っている。
昔はおじいちゃんがうんといたと。それでも現在、昨日からアユが産卵のために上がっ
てきた。それでも最盛期、3万上がったらどうかな、と思う程度。昔は川が真っ黒だった
から、私の推定で言えば50万は上がっていたと思う。上から下までアユで真っ黒だった。
だから、柿田橋の下の眼鏡橋がありますな。あそこでは、子供たちが、たも網ですくって
いた。水が落ちたところでは、手でかいてもとれますよ。そんなお魚は昔はいたけれども、
今はいなくなったと。
-68-
川は、かえって昔のほうが汚かったの。今、柿田川の支所となっているあそこは、製紙
工場だったの。だから、今から40年ぐらい前かな。もっと前、柿田川の水というのは、
あそこの田子の浦の汚水が問題になりましたね。あれと同じぐらい汚かった。だから、昔
はきれいだったというのは、いつのころだか。おそらく工場がこちらに来ていなかった大
正の初めより昔はもっときれいだったと思う。それが、大体うちの会が1975年にでき
上がった。あのころより紡織会社や製紙会社がやめたけれども、あれから少しきれいにな
ってきたけれども、そんなことで、いろいろ国土交通省も清水町も努力しているけれども、
柿田川が「名水百選」の水ならば、みんなでもっときれいにすることを努力しなければ、
「名水百選」が泣くと思う。それと、皆さんが研究されているトビケラも、みんないなく
なってしまう。そういうこと。
【加藤】
ありがとうございました。(拍手)
清水町のほうで、次に話を受けてご報告をいただきますけれども、田子の浦は、実は我々
の研究でも、富士山の湧水が直接出ているということがわかりました。岸からはそう距離
はないですね。1海里以内ですから、1キロぐらいのところ。水深98メートルのところ
で、真水がどんどん湧いています。
次、第二部の最後になりましたが、清水町の関副町長に休日ですが来ていただきました。
「柿田川を活かしたまちづくり」ということで、ご報告いただきたいと思います。
関さん、どうぞよろしくお願いします。
-69-
「柿田川を活かしたまちづくり」
関義弘(清水町副町長)
【関(義)】
皆さん、こんにちは。清水町の副町長の関と申します。
本日は、柿田川に詳しい専門家の先生方等が多数いらっしゃる中で、大変恐縮ではござ
いますが、地元の行政を代表して何かをお話してくださいということでありましたので、
少しお時間をいただいてお話をさせていただきます。私がお話しするテーマは、「柿田川を
活かしたまちづくり」ということで、表題だけ見ますと皆様方の活動と相反しているので
はないかなと思われる方もいると思いますけれども、決してそうではありませんので、ご
理解願いたいと思います。
行政全般を通して話をさせていただきますが、何分不慣れでございますので、お聞き苦
しい点も多いと思います。よろしくお願いしたいと思います。
本日は、遠方から当清水町にお越しいただいている方も多くいらっしゃると思います。
多くのご来場の皆様方には、既にご承知の内容とは思いますが、行政の者として、町の宣
伝、あらましについて、少しご紹介させていただきます。
当地の地勢といたしましては、国土の基本軸であります太平洋ベルト地帯の中心、静岡
県の東部地域の中核的な都市であります人口20万人の沼津市さん、また人口11万人の
三島市さんの間に位置し、四方を富士、箱根、伊豆、駿河湾という世界的な観光資源に囲
まれ、1年を通して温暖な気候の町でございます。また、ほぼ全域が平坦な土地でありま
して、面積は8.81平方キロと小規模ながら、国道1号が当町の中心部を貫くとともに、
東名高速道路沼津インターチェンジや東海道新幹線三島駅も近く、交通の利便性が高いこ
とに加え、柿田川を代表する本町の持つ豊かな自然に恵まれた住環境を求めて、近隣都市
-70-
のベットタウンとして1960年代以降、人口が急速に増加し、その後も微増、微減を繰
り返しながら、現在まで総じて増加傾向が続いております。
さらに、人口密度は静岡県下一高く、出生率や年少人口割合、生産年齢人口割合も上位
にランクされておりまして、町の特色として、若くて活気がある町として位置づけられて
おります。あわせて、交通の利便性から沿道商業などの小売業を中心とした商業の活力の
高い町でもあります。
ここで、人口の関連について、もう少し詳しくお話しさせていただきます。少し古いデ
ータとなりますが、5年ごとの国勢調査による値では増加傾向が続いておりまして、
2010年の人口は3万2,299人、30年前の1980年と比較しますと、22.3%
の増加となっております。しかしながら、2005年との比較では、0.8%の増加にとど
まっております。
また、外国人を除く住民基本台帳に基づく最近の人口移動推移を見ますと、2009年
以降はほぼ横ばい状態でありまして、直近の2015年の人口は3万1,638人となって
-71-
います。したがいまして、清水町の人口はこれまでの増加傾向から、最近は横ばい状態に
転じていると言えます。なお、この傾向は外国人住民を含む最近3年間で見ても、ほぼ同
様でありまして、2015年の外国人住民は937人で、住民の約2.9%を占めておりま
す。
さらに、国立社会保障人口問題研究所による将来人口推計に関しましては、今後緩やか
な減少傾向が続き、2060年には2万3,235人にまで減少するということが懸念され
ております。これは、2010年の人口と比較すると、28.1%の減少で、50年間で約
3割の人口減が見込まれていることになります。こうした人口減少の問題は、清水町だけ
ではなく、近隣市町や県、国全体の問題でもありますが、人口の減少は町の活力に影響い
たしますので、危機感を持って対応していく必要があると思っております。
さて、我が町のまちづくりの基本的指針となる総合計画につきましては、平成23年度
から第四次の総合計画が始まっておりまして、目指す将来都市像を「笑顔があふれ
-72-
ここ
ちよく
住み続けたくなるまち・清水町」としておりまして、この実現を目指して、行政
各般にわたるさまざまな施策を展開しているところであります。
また、将来都市像を実現するために6つの基本目標を定めておりますが、ここにありま
す「人がふれあい快適で住みよいまち」から、
「産業の活力に満ちたにぎわいのあるまち」
という6本の柱を立てております。
本日のテーマとなっております柿田川関連の施策につきましては、1つ目の「人がふれ
あい快適で住みよいまち」と、5つ目の「自然と共生し環境にやさしいまち」に位置づけ
ておりまして、公園整備など、活用の部分と自然を大切にしていく保全の部分とのバラン
スを上手に図ることに力点を置いて取り組んでおります。
改めて申し上げるまでもありませんが、当町の町名にもありますように、文字通り清ら
かな水のある町として、とりわけ国指定天然記念物であり、世界遺産富士山の恵みの湧水
である柿田川につきましては、静岡県東部42万人の飲料水として、大変希少かつ良質な
水源となっており、また、その類まれな自然環境も含めまして、我が町のまちづくりに欠
かすことのできない重要な資源となっており、いわば町の宝でございます。この宝物を将
来にわたって、よりよい姿で継承していくため、先ほどお話しいただいた、国土交通省様
を中心とした自然再生の取り組みなどを官民一体となって進めております。
-73-
一方、町政のトピックといたしましては、本年4月から山本町政の3期目がスタートし
まして、時代の要請として超少子高齢化を伴う人口減少社会へ的確に対応するため、「ま
ち・ひと・しごと創生総合戦略」の展開にあらわせるように、国を挙げて地方創生の重要
性が叫ばれている中で、新たな半世紀、未来へ向けた3期目の町政の基本姿勢として、「目
指せ暮らし満足度日本一のまち」を大目標として掲げております。
これは、さまざまな分野の満足度、ここに掲げてございます5つの満足度――子育ての
満足度から働く喜びの満足度の5つの満足度を高めるため、それぞれの分野の施策を着実
に実施していくこととしているわけでありますが、とりわけ自然環境、生活空間の満足度
を高めるための取り組みの一環として、柿田川に代表される我が町の貴重な自然環境を適
切な形で保全し、また上手に活用していくことによって、地域の振興を図っていこうとい
うことを3期目の施策の大きな柱の1つに掲げているところでございます。我が町の施策
展開において、これまでほとんど手をつけてこなかった観光振興という新たな側面に光を
当て、力を注いでいく方向を目指すことになったわけでございます。
あくまで貴重な自然環境に対する保全保護を前面に出した上で振興策を模索していくこ
とになります。その大前提は、自然の保全でありますので、よろしくご理解をお願いした
いと思います。
-74-
こうした保全と活用の共存と言うべきテーマでございますが、その指向性のヒントにな
る映像がありますので、ごらんください。清水町観光協会が作成した柿田川の空撮映像で
す。1分少々になりますが、どうぞごらんください。
(動画放映)
【関(義)】
ただいまごらんいただいた動画は、本年8月にドローンを飛ばして撮影し
たものでございます。夏の盛りの濃い木々の緑と、透き通る水のコントラストや、市街地
に忽然と湧き出す湧水などの自然環境の様子などがよくわかる映像であったと思います。
同時に、鮮やかな緑黄色、黄緑色で繁茂するオオカワヂシャなどの外来種の多さも目立っ
たものだと思います。
以上の様子などから、柿田川の保全と活用を取り巻く課題が浮き彫りになっているもの
と思われまして、まず保全の観点からは、先ほど国土交通省の梅村所長さんからもお話が
あったように、自然再生への取り組み強化の観点から、地元自治体として特に人とのかか
わりに関する検討の分野で町民、関係機関、団体などの協力のもと、一体となってそれぞ
れが果たす役割を全うしていかなければならないとの思いを強くしているところでござい
ます。
-75-
次に、活用の観点からでございますけれども、先ほど申し上げましたように、しっかり
とした保全を図った上での上手な活用という大前提に立った上で検討を加えてまいります。
まず、柿田川を中心とする類まれなる自然と市街地とが共存しているという環境を活用
していくことが肝要でありまして、柿田川の自然環境に気軽に触れ合える場づくりとして、
柿田川公園の整備を進めてまいります。昭和61年の開設以来、柿田川公園検討委員会か
らのご提言などをいただきながら、順次広場等の拡大、整備を進めてきており、平成23年
度からは駐車場を有料化し、その使用料により基金を設置するとともに、柿田川環境保全
事業の財源としての活用を図ってまいりました。
平成26年度には、静岡県の観光施設整備補助を受け、園内の芝生広場や園路、エント
ランスをリニューアルし、より明るく開放的な空間を整備することができ、利用者の皆様
からは大変好評をいただいているところでございます。
本年度におきましても、同様の県費補助をいただいて、親水広場のリニューアルと駐車
場からの園路の改修などの整備を行っておりまして、より一層利用者の利便性の向上を図
ってまいります。
さらに、今後の整備等に関する情勢といたしましては、あくまでも予定ではございます
けれども、国土交通省様所管の交付金、いわゆる旧まちづくり交付金をいただくべく、エ
ントリーに手を挙げさせていただいておりまして、貴重な財源をいただくことができまし
たなら、柿田川公園周辺のさらなる魅力向上のための施設整備を検討していきたいと考え
ております。
整備メニューの中身につきましては、まだ想定の段階でございますので、こうした公の
場で多くを述べることはできませんが、柿田川の自然をより身近に触れられる場と機会の
-76-
提供を図るため、例えばこれまでの柿田川の環境保全への取り組みや柿田川の動植物など
を紹介できる施設の整備などの検討を進めてまいりたいと考えております。これらの今後
の施設整備のあり方につきましては、ただいま交付金の審査中でございますので、また見
通しが明らかになりました段階で広報等を通じて、広くご案内をしてまいります。
さらに、がらっと話題が変わりますが、柿田川の魅力がまた違った角度からクローズア
ップされることとなったトピックがございますので、紹介させていただきます。先ほど、
芹沢さんの映像にもありましたけれども、徳川家康の映像が少し出ていました。会場内の
皆様の中には、参加された方もおいでかもしれませんけれども、今月3日に開催されまし
たフォーラム、これは徳川家康公顕彰四百年記念事業として、
「徳川家康が憧れた隠居の地
泉頭」と題した歴史文化フォーラムがございまして、現在の柿田川公園周辺の湧水をは
じめとする眺望のすばらしさを見初めた家康公が当地を終の棲家にしようとした逸話を端
緒に、当時の家康公をめぐるさまざまな状況をひもとく内容で開催されたものでございま
す。
同時に開催されましたパネルディスカッションでは、
「歴史を未来に活かす」をテーマに
いろいろな議論が展開され、この中で地元に暮らす人たちが、家康公が愛した場所である
ことを誇りに感じ、来訪者に伝えることで地域の活性化に役立てていくべきであるという
ご意見もいただいておりました。このことは、まさに柿田川の保全と活用というテーマの
一環として位置づけられるものでありまして、柿田川の魅力を内外に発信するための1つ
のツールとして、歴史資源という視点を持つことの重要性などについて、改めて認識を強
くしたところでございます。
-77-
さて、柿田川を活かしたまちづくりの今後の展望についてお示しして、お話を締めくく
りたいと思いますが、先ほども申し上げましたとおり、我が清水町が目指す将来都市像は、
「笑顔があふれ
ここちよく
住み続けたくなるまち・清水町」でございます。
ここで、この町に住むことについて関連するトピックとして、本年7月に定住等に関す
る町民アンケートの結果がありますので、少しご紹介させていただきます。
調査対象は、現在及び今後の出産や子育てなどの担い手である16歳から49歳の町民、
または町内の小学校に通う1年生から3年生の児童のいる世代からそれぞれ無作為抽出し
た約1,000名の町民の皆様でございます。
全体といたしましては、
「清水町は住みよい町だと思うか」という問いに対して、
「思う」
または「まあ思う」と答えた方の合計が83.7%となっており、住みやすさへの総合的な
評価は高いことがうかがえます。
次に、
「清水町に住んでいることに満足しているか」という問いに対しましては、
「満足」、
または「まあ満足」と答えた方の合計が66%となっておりまして、回答者の3分の2の
方々から肯定的な評価をいただいております。
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さらに、「今後も清水町に住み続けたいと思うか」という問いに対しましては、「思う」、
または「まあ思う」と答えた方の合計が73.6%で、回答者の約4分の3の方々が定住の
希望を持っているということがわかりました。
以上のことから、我が町清水町に住まうとか、住み続けるという事柄につきましては、
おおむね高い評価をいただいているという認識でございます。
続いて、その評価を裏打ちする個別の事柄といたしまして、町民の子育てや生活全般に
関する個別の満足度調査の結果から、注目すべきデータがございまして、各項目を通じて
断トツ1位で生活環境に関する満足度から、「水や緑など自然環境のよさ」が75.1%と
高い満足度が示され、続いて、余暇、文化、施設などに関する満足度から、柿田川公園の
満足度が56.3%という高い評価をいただいております。
終わりになりますが、地方創生のための知恵比べとか、都市間競争を勝ち抜くと言うよ
うになって久しいわけでございますけれども、文字通り町の特色を前面に打ち出し、情報
-79-
を内外に発信することによって、この町に住んでみたい、住み続けたい、または訪れてみ
たいと多くの方々に思ってもらえるようなまちづくりが求められております。
先ほどお示ししたように、多くの町民の方々が柿田川の豊かな自然環境に満足していら
っしゃいます。同時に、柿田川は国指定の天然記念物であり、世界文化遺産である富士山
の恵みを受けた、県東部の命の泉でもあり、将来によりよい姿で受け継いでいかなければ
ならない我が町の宝でもございます。
加えて、徳川家康公が愛した環境として、歴史資源としての活用にも注目が集まってま
いりました。このすぐれた世界に誇れる環境を有効に活用することはもちろん、緑と潤い
にあふれる自然環境と沿道商業の活力や、閑静に立ち並ぶ住宅街などの都市的環境がよい
調和を持って共存している、この比類ない恵まれた生活環境を内外に情報発信し、定住人
口の確保、ひいては町の新たな活力の発信源として活かしていかなければならないと思っ
ております。環境保全を前提に、環境保全と共存した観光振興の道を模索することもその
条件整備の1つになると考えております。
繰り返しになりますが、大目標は「目指せ暮らし満足度日本一のまち」であります。定
住、交流の両面から、その活動のステージとして、柿田川湧水のある町、我が町清水町を
多くの方々に選択していただけるよう、今後も引き続き柿田川を活かしたまちづくりを力
強く推し進めてまいりたいと思います。
まちづくりの主人公は、町民の皆様でございます。ご来場の皆様方をはじめ、今後の清
水町のまちづくりに絶大なるご理解、ご協力を賜りますようお願い申し上げ、私の説明を
終わりにしたいと思います。拙い説明でございましたが、ご静聴ありがとうございました。
(拍手)
-80-
【加藤】
関副町長さん、どうもありがとうございました。
では、ここで少し席を変えて、第一部、第二部を通してご質問なり、意見交換をしたい
と思います。5分ほどトイレ休憩をとります。では、設営をお願いします。
(
第三部
休
憩
)
参加者による意見交換会
【加藤】
では、最後、まだ宿題が残っております。今日のご発表いただいた方に前に
来ていただいてということもあるのですが、まず発表を通して、発表内容についての質問
があればお受けして、それから全体のまとめに入りたいと思います。
私たち、特に今日は地元からもご発表いただいたのですけれども、生態系研究会の者が
切り絵をするように柿田川という自然に向き合って、こういうふうに見えますという話を
しています。そうした知識、あるいは情報を地元の人たちにどういうふうにして活用して
いただくか、あるいは地元からどういうご要望があるかということを相互にコミュニケー
ションしながら、こういう町中にある非常に珍しい環境と我々はどうつき合っていくか。
どういうふうにして科学の知識を使っていただくかという場だと私は考えていますので、
いろいろなお立場からご意見があるかと思うのですけれども、まず質問がございましたら、
もう一つ、二つお受けしますが、いかがでしょうか。
【玉井】
ちょっと1つよろしいですか。
【加藤】
では、メンバーのほうから。
【玉井】
副町長さんに伺いたいと思う質問が1つあるのです。それは、水質が変わっ
てきたといいましょうか、柿田川はよくなってきたけれども、生き物関係はということも
あるし、大腸菌とかがありますね。まちづくりも柿田川の自然を宝物にと言っていらっし
ゃったので、都市計画的な面から、そういう柿田川の自然を守ることを考えたような、い
わば土地の利用のあり方のような計画というのは、何かお持ちでしょうか。今日は上から
の写真を見ると、柿田川で印象的だったのは、右岸側は農地が広く広がっていて、市街地
側は左岸側ですね。ですから、川の関係のあり方と都市計画との関係については、どんな
ふうにお考えかを伺いたいと思いました。
【加藤】
【関(義)】
どうもありがとうございました。では、お願いします。
すみません。私も専門家でないもので、よくわからないのですけれども、
昔から柿田川の周辺はやはりきれいな水を求めて、皆さんが家を建てていたということで、
-81-
右岸も左岸も結構家が張りついているのが現状だと思います。
一番問題なのは、先ほど漆畑さんもおっしゃいましたけれども、汚水の流入だと思って
います。下水道を始めて、清水町ではできるだけ柿田川の周辺の下水道を早く整備したい
と考えております。先ほど、漆畑さんも「努力してくださっている」とおっしゃってくれ
ましたけれども、ほんとうに努力はしているのです。ただ、やはり下水道というのはもの
すごくお金がかかります。それと、国庫補助をいただきながら事業を進めるということに
なりますと、半分は国庫補助でいただけるのですけれども、半分は独自財源、自主財源を
使わなければならないということで、やはり小さい町でございますので、いきなり全部と
いうことはできません。徐々に整備をして、できるだけ流入を減らそうという努力はして
おりまして、先ほど先生方もおっしゃったように、水質も徐々にきれいになっているのは
事実でございます。もう少しかかりますけれども、できれば柿田川に入る汚水は全て排除
したい。雨水のみの流入にしたいということは町でも思っていますので、それに向かって
努力しているというのが現状でございます。
よろしいでしょうか。すみません。
【玉井】
はい。
【加藤】
土地利用に関することはよろしいですか。なかなか難しいですか。
【関(義)】
土地利用については、2種住宅地域となっています。やはり住宅は建って
しまうということで、建つ前に下水道を整備してつないでいただきたいなと思っています。
ご存じかどうかわかりませんが、交流センターのところまでは下水道本管が上がっていま
す。今年、交流センターから商工会というか、国道1号の手前までの本管が整備できます
ので、どんどんそれにつないでいただいて、できるだけ排水は処理したいと。ですが、土
地利用に関しては、今2種住宅ですので、土地を求めて家を立てるということは規制がで
きません。そこは申しわけありません、現状です。
【加藤】
どうもありがとうございました。
どうぞ、はい。
【漆畑】
関さんにもう一つ関連して、先ほどの延長線ですけれども、先ほどの話だと、
清水町は自然に配慮しながら、よりよい町をつくると。それはなかなか結構なことだけれ
ども、やはり大腸菌の汚染というのは過去40年、うちの会が調査を始めてからずっと続
いているわけ。その都度、このことを申し上げて、ようやく最近動いてきたけれども、県
もこの前の自然再生検討会で発表しまして、水門のところ、真ん中の湧水のところ、それ
-82-
と出口、3カ所から大腸菌が出ていると発表しまして、うちのものは第1展望台の左岸の
最上の大きなもこもこ湧いている湧水。あれは、僕らがやっては信用度がないから、ちゃ
んと公認の検査所でやってもらいまして、それでずっと出ているということは、やはり天
然記念物に指定されたからには、水の汚染を何とか気をつけなければいかん。だから、町
としては3年ぐらいかかるというけれども、それを1年ぐらい短縮して、きれいにすると
いうことを考えなければいかんわけだ。
私事で恐縮だけれども、住宅総合メーカーがホームセンターの東方に70軒の分譲住宅
をつくった。あのときは、排水問題も困ったよね。それで、柿田川に入れると言ったから、
それはだめだと言って、うちの会は猛反対して、住宅総合メーカーもこれはいかんと、数
十億の損害が出るけれども、頭を使えと言って、私がいろいろ教えてやって、柿田川の運
動公園の北側をずっと西のほうに道路沿いに水路をつくって、それであそこでポンプアッ
プして、私のうちの裏から旧東海道のあそこに公益下水道のメーンのパイプが張ってある
から、そこに入れろと。それで今、あれをやったおかげで、柿田川の住宅総合メーカーの
70軒の汚染から守れたわけだ。だから、私でさえもできるのだから、町というのは、や
ればできると思うのだ。だから、叱っているわけではないよ。ぜひ頑張って、私らも応援
するから、天然記念物の柿田川が大腸菌群で汚染されたとなったら、これは一般の人はま
だ知らないから、大変なことになる。多くなったら、観光客が来ないかもしれない。今一
生懸命、首都圏から毎日ポリタンクを持って水をくみに来ているのだ。ああいう人らもき
っと来なくなるよ。だから、ぜひ頑張って3年ならば2年ぐらいでも何とかやれる格好で
努力してください。よろしく。
【加藤】
はい。どうもありがとうございました。応援がありますので、町にも是非ご
検討いただきたいと思います。
では、中身の話にもう一度戻りたいと思うのですが、水の話、それから季節の話、生き
物のつながりの話がございましたけれども、それに関してはどうですか。何かご質問ござ
いましたら、あるいはご意見、メンバー同士からでも結構ですが。
【関】
では、いいですか。先ほど名前を言うのを忘れたのですけれども、県の自然観
察指導員とか、公園指導員、環境省の関係の指導員をやっています。割と子供たちに自然
観察をやる機会が多いのですけれども、先ほどの水、大腸菌の話も出ました。柿田川の水
生生物が狩野川から供給されるということを昔から皆さんも知っていますけれども、最近、
下水道工事がかなりよくなりまして、本流と言われる川、狩野川、黄瀬川、大場川もそう
-83-
ですけれども、非常にこの周りはみんなきれいになりました。だけど、本流は昔ほど魚が
いません。なぜなのかなと。もう十数年見ているけれども、水はきれいになるばかりです
けれども、生物があまり増えていない。
それで、下水道工事とか、下水道センターですか。ああいうところも見学しに行ったり
しましたけれども、大腸菌の消毒はものすごい薬を使って、ものすごい量なのですね。そ
れをほかの微生物まで、薬が一緒に流れて殺している影響があるのかなとか、下水道へ持
っていく水が本流の水を減らして、そういうものが影響あるのかと、その辺の研究はどう
なっているのでしょうか。
それから、いい水というのは、本来人間が飲める水というのがいい水だとイメージ的に
誰もが思ってしまうのですけれども、生物多様性ということが叫ばれるようになってから
は、その水にどんな生き物がいっぱい住んでいるか。また子供たちに、それも大事なこと
だよ、それもいい水なのだよと。狭い空間で、より多くの生き物が住める水。極端な話、
湧き水の湧き間の川というのは、環境が限られてしまうから、ほんとうに生物の多様性か
らいったら、すごく少ないと思う。生態系の方がいますから、普通一般の方から考えたら、
非常に少ない生物の川ではないかなと、私はそう思うのですけれども、実際にいろいろな
ところを観察してそう思います。
それは、限られた湧き水ということであって、特別につくられた空間であるから、そう
いう生き物しか住めないものがいるからそうかもしれないし、それを除いて、一般の水と
いうのは、多くの生き物、多様な生き物があっていい水ではないかなと思っているので、
その辺の意見を聞かせてください。
【加藤】
どうもありがとうございます。水のほうで、お答えできるのは、私の今日の
発表でもご紹介しましたけれども、湧水そのものは地下の深いところだけではなくて、深
くないところからもいろいろなものを運んできているということがわかります。光合成を
する微生物のDNAが見えたということは、そういう水もどこかから持ってきている。直
接表層へ出たとは思わないのですけれども、いろいろなものを持ってきて5,000種とい
うお話をしましたので、非常に大きなポテンシャル、つまり土の中にいたり、岩石のすき
間にいたりする微生物を含んで、非常に大きなポテンシャルを持ってきて地表にあらわれ
てくるのですね。
私自身も非常に大きな驚きを持って見るのですけれども、言い方を少し変えれば、どん
な生態系でもつくれるような微生物がまずいるのです。そういう水であるけれども、その
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水がわずか20分で流れ切ります。大気に接して、それから、太陽光にさらされていると
いう時間は、水そのものに対象を見てみると、20分でもう次の環境になってしまってい
る。そこのところがいろいろな制約要因になっているのではないかと私は思うのですが、
どうでしょうか。
【竹門】
まず、水というものを考えるときに、水質という観点でいくと、その場で測
れるものになってしまいますけれども、生き物が水をどう利用するかということを考える
と、つながりということをもっと見ないといけないわけでありまして、つながりの中には
水循環としてのつながり。つまり山から流れてきて、河口に出ていくというときに、最初
に私が申しましたように、通常の川ではつながっているはずの上流域がないということが
ありますね。そうすると、上流域と中流域と下流域をつないで暮らしている生き物にとっ
てみれば、上流域、中流域がないわけですから、住みやすい場所ではなくなってしまうと
いうこともあり得るでしょう。
これは、水のつながりですけれども、土砂のつながりというものもありますね。通常の
川には、山から出てきた土砂が動くことで生息場所の地形が形成されるわけですけれども、
それらの供給する場所がないということは、河床の地形の変動というのが起こりにくくて、
結果的にそれらの一部を自分たちの生活の中で使っている生き物にとってみれば、住み場
所が欠けているということになりますので、水質の問題だけで生き物が少ないというので
はなくて、そういう生息場の構造、水循環とか、土砂の動態まで含めた意味で、柿田川と
いうのは非常に特殊な環境になっている。それが、ある生き物はたくさんいるけれども、
あるグループはごそっと欠けているという、そういった形になっていると思うのですね。
ですから、少ないということが、例えば水質の問題に制約されてしまうのではなくて、
もう少し全体のつながりという観点から、柿田川の特徴も見えてくるでしょう。それから
生物多様性は多ければ多いほどいいということではなくて、ある環境では、特殊な連中が
たくさん恩恵を受けているという関係もありますので、柿田川の特徴ある生き物を大事に
していくというスタンスがどうしても必要なのだろうなと思いました。
あと、つながりという意味で言ったら、狩野川とのつながりだけではなくて、河口部、
あるいは駿河湾とのつながりということも当然考えなければいけなくて、例えば、アユ科
系だとか、カジカ類とかがもし減ったとすれば、それは水質の問題ではなくて、もしかし
たら河口の環境が護岸されてしまったために繁殖所が減ってしまったとか、稚魚の生息場
が減ってしまったという関係もきっと出てくると思います。
-85-
その意味では、柿田川を守るためには狩野川の本線も守らなければいけないし、河口域
も守らないといけないという関係になってくると思うので、そういう意味でのつながりを
もう少し見ていく必要があるかなと思いました。
【加藤】
私もずっと気になっている、これから10年後、20年後、30年後ぐらい
を考えまして、川の形が、日量100万トンの湧水で、土砂は供給されていないという話
も出ましたが、河川工学的な見方をされているお二人がいらっしゃるので、どういうふう
に予想できるか。コンスタントに100万トン流れ続けて、30年後は、川の構造、ある
いは河床構造はどんなふうに推測されていますかというのをお二人に聞きたいのですが、
まずは玉井先生に聞きましょう。川がそのまま、今のイメージでいいのかどうかですね。
【玉井】
今、竹門さんも触れられたのですが、普通の川と比べれば、やはり上流側が
ないというのは1つ特徴だと思います。ただ、これも竹門さんが触れられたのですが、下
流のほうは狩野川とつながっていますし、河口、海とも繋がっています。ですから、アユ
等も沿岸の海域の稚魚の状態が、川の魚に大変大きく関係しているということはもうわか
っているわけです。
つながりという意味では、やはり下流側も考えるというのは、これから必要かなとは思
います。というのは、この研究会では、上のほうを主に加藤先生なんかもやっておられて
いるグループはいますが、下流はあまり今まで議論にならなかったという気はします。
形が保たれるか否かという点では、水量は富士山の大変大きな地質年代的な爆発とか、
そういった現象を考えなければ、雨のほうは少し増える可能性が高いと言われて想像され
ているわけですね。ですから、出てくる水のほうは、特に溶岩のすき間がどんどん詰まる
とか、そういうことは砂粒でできているわけではないもので、あまり可能性は少ないので
はないか。ですから、出てくるほうはあまり変わらないのではないか。
ただ、これも下流だけということで、砂粒は普通の川であれば、大きいものとか中ぐら
いの細かいものというのがまじっていて、そのまじり方がどんどん変わってくると。です
から、下流は普通でも一様な粒子で川底は成り立っているというのが普通なので、そうい
う意味では上流側がなくて、下流側の典型的な部分が柿田川であると。一般から比べれば、
そういうことではないかと思います。
【加藤】
どうもありがとうございます。
では、知花さん、若いところで30年後にも研究者としての責任が多分ある。今の玉井
先生のお話にありました、湧水量が少し増えていくという状況を考えたときに、ダイビン
-86-
グした経験も踏まえて、河床構造など、どういうふうに知花さんは思われますか。
【知花】
ありがとうございます。師匠が下流の話をされたので、私は上のほうから話
そうと思うのですけれども、そもそもこの議論が始まったきっかけは、先ほどから出てい
る昔のほうが水は結構汚れていたのだけれども、逆に生物は多かったのではないかという
ご指摘があったような気がします。同じようなことを、僕は最近、地方の集落の川を調べ
ていて思うことが多くて、それは水質の問題ではなくて、それこそ水量と河床形態の話で
す。というのは、昔はいい川が多かった。それが都市化によって悪くなった。僕もそうい
うふうに習っていたのですけれども、どうも僕が川を調べ始めてからたったこの10年で、
随分つまらない川が増えたなという印象を持っています。特に僕が幼少期になれ親しんだ
地方の山村の川に行けば行くほどつまらないと感じます。
では、そこに住んでいる人はどう言うかというと、やはり今は同じように感じています。
先ほどと同じで、昔は魚なんてうじゃうじゃいたと。だけれども全然いない。俺は学校に
プールがなかったから、川で泳いだ。そんなプール代わりにできた川はどうなっているか
と言ったら、一面砂利で、平たくて、橋から飛び込んだ瞬間、多分頭から血を流してとい
うような川にしかなっていないのですよね。
何が言いたいかというと、柿田川は漆畑さんが随分頑張られて、ずっとあのひどい状況
から復活してきました。しかも、結局土砂も、今僕は古い地形図を見ていたのですけれど
も、やはり公園のあたりから土砂がガサッと入って、1970年ごろに川幅がぐっと狭く
なっていますよね。
クレソン畑なんかもあったと思いますけれども、結局そういう状況からどんどん自然が
回復するにつれて、逆に安定的な地形になってくると、正直単調な環境に戻ってくるとい
うのはあると思うのですね。というのは、誰かがおっしゃいましたけれども、それが柿田
川の自然だと思うのです。もともとの姿に戻っていると言えばそうだと思うのですけれど
も、魚もほんとうにどんどん水をきれいにして、上流側の公園であるとか緑を復活させる
といいものが戻ってくるかというと、おそらく結構単調になるのではないかなと。
山のほうも、結局水量が何で減ったかというと、見れば見るほどみんなが楽しかったと
言っているころの山なんて木は全然なくて、土砂はがさがさ出て、その土砂があるところ
にたまって、高い河原をつくったり、深掘りしたりしていたので、結局木が増えて、がけ
崩れみたいなものが減りました。
一方で、誰もスギを伐採しないので、あんなに木で覆われてしまったら、それはどんど
-87-
ん水を吸い上げて蒸発させるので、ふだんの流出は減るだろうということもあります。み
んなはスギ、ヒノキが悪いと言います。ということを考えると、もちろん、だからといっ
て、どんどん柿田川をひっかき回せという結論には当然ならないでしょうが、極力緑豊か
にきれいな水をつくってというのでいいのか。ほどほどには、人間が入って、今は外来種
の引っこ抜きなんていうのも、ある意味人為的な操作ではありますけれども、うまくかか
わり方みたいなものを考えていかないと、逆にものすごく単調になる。それが原自然だか
らいいという考え方は一方であると思いますけれども、ある程度の攪乱を許容するという
発想はあってもいいのかなという気はするのです。
今日、僕はここに小学生、中学生が残っていると思っていろいろ聞きたかったのですけ
れども、おそらく興味を持っている子がかなりいるのではないかなと。もちろんサイエン
ススクールに出て、
「これはいい川だ」と言う子もいるでしょうけれども、わからないです
ね。そういう機会がない、あるいは学校で粛々と理科の授業をこの教材で受けた子供たち
が何とかしたいと思っているかというと、そうでもないと思うのですね。
だから、守るべきは守るけれども、ほどほどに人を入れて、多少ひっかき回すという言
葉は悪いですけれども、そういうところ。水の中だけではなくて、周辺も含め、やらない
と地形とか、魚の住みかというのも少しつまらなくなっていくのではないかなという懸念
を僕は持っています。30年後は、私もいない可能性はありますけれども、そのように思
っています。
【加藤】
いや、いてもらわなければ困るのですけれども、河床構造について、では一
言。30年後、コンスタントに水量が増えていった場合に、河床構造はどうなりますか。
【知花】
水量が増えていく。
【加藤】
仮にですが、徐々に増えた場合、川底の構造は。
【知花】
水量が増えただけだとどうなるでしょう。このままだと土砂が流れていって、
どうなるでしょうね。そんなに増えるのかという話もありますけれども、逆に木は増えて
いきますからね。だから、劇的に水が増えるというか……。
【加藤】
バランスがとれる可能性がある。
【知花】
ええ。どうでしょう。今は土砂が流れていけば、おそらく深いところに砂利
がたまって、比較的平べったい形で安定するのではないかなという気はしますけれども。
【加藤】
玉井先生、それでよろしいですか。
では、今の壮大な管理計画の話になってしまうので、それに関して、何かございますか。
-88-
【サカイ】
すみません。サカイと申します。
つまらない川という話なのですが、端的に言いまして、それでは今から1万年ぐらい前
から始まる縄文時代、あるいはそれ以前の柿田川というのはつまらない川だったのでしょ
うか。
【加藤】
ここで、日本で唯一の保全古生物学ということを研究している方を静岡大学
に去年お招きしましたので、ぜひ答えていただきましょう。非常に長い時間スケールで生
物の多様性を考えておられるので、事例が少し違うのですが、佐藤さん、こちらに見えて
まだ間がないのですが、少し長い時間で多様性を見ている研究者として、今のご質問にコ
メントがあればうれしい。
【佐藤】
静岡大学の佐藤と申します。私は古生物学の専門で、貝塚の貝とかをずっと
調査していました。
干潟の話で恐縮ですけれども、有明海なんかで、アサリが今だんだん少なくなっている
ところがあるのですけれども、貝塚を見ると、あの地域でアサリがいるということはほと
んどなくて、昔はハマグリがちょっといて、アサリなんていなかった。そこの海域に人が
入ってきて、その環境が変わることによって、一時的にアサリが増えて、それを今私たち
がとって食べている。ただ、また環境は変わってくると、アサリもいなくなってしまうと
いう状況があります。
では、そもそも今目の前にある環境というのが、過去にどうだったかというのは、すぐ
に一概には言えません。最初がつまらなかったかどうかというのは、私にとっては特につ
まらなかったとは思わなくて、やはりそういう環境があってもいいでしょうし、また違っ
て魚がいっぱいいる環境もあってもいいと。それは、それぞれの個性もあって、そこの場
所、土地の状況もありますから、決してどちらがいいということはないと思います。
そういう魚の少ないというか、そういう川があってもいいでしょうし、そういうところ
の特殊な環境にだけ適応するような新しい種類。先ほども言いましたけれども、新種の4種
ぐらいがいるというのは、こういう環境でしか生きられない生物というのもやはり出てく
ると思いますので、それはまた多様性を高めることになると思いますし、そういう貢献も
もちろんあると思います。
では、逆にどこも全て汚くなって、魚がいっぱい増えればいいかと、そういうわけでも
ないと思います。それぞれの個性で魚が多いところもあってもいいし、少なくてそれ以外
の、ほんとうに食べられないような生き物が細々と、しかもほかの場所とは全然違う生き
-89-
物がいるというところも、やはりそれはすごく価値があると私は思います。
【加藤】
なかなかうまいことこなしたなと思って聞いていました。
知花先生はつまらない生態系と、我々の印象を挙げられましたが、つまらない生態系と
いう言葉が出てくると、どうしてもこの人の意見を聞かなければいけない。川那部先生、
お願いします。その次は三島先生にお願いしますね。
【川那部】
しゃべると長くなるかもわからない。
つまらないか、つまるのかというのは、わからないに決まっています。つまり、今、私
がどういう川がつまらない、どういう川がつまると実は思っています。例えば、一番初め
に1955年に川に行ったときにどう思ったかというのを、わからないのですが、一生懸
命考えてみますと、少しぐらい変わっているに違いないと思います。だから、おのおのの
人がどういうふうにつまるか、つまらないかと言ったのはつまらないので、先ほどの方が
おっしゃったみたいに、ここはここで、ここはここで、こういうふうに違うというのがい
ろいろなところにあるというのが、やはり私はつまるのだと思います。この川はこんなの
で、この川はこんなので、全然違うと。ここはここらしい川。ここらしいというのは何か
というのは難しいですけれども、そういういろいろな違いがあって、どれもこれもそうい
うふうに違うからおもしろいというのが一番いいのではないかと、私は思います。
ついでに余計なことを言いますと、よろしいか。
【加藤】
【川那部】
どうぞ。
とんでもない話です。
『柿田川の自然』という本がその辺に出ていますけれ
ども、あれは生物学しかやったことのない私が何を書いたかと言ったら、歴史の話を書き
ました。あれを、誰も私に本を書いたものについて文句をつけてくれないので、私は実は
しゃくにさわってしようがないわけです。絶対にみんなが文句を言うはずのことをいっぱ
い書いてあるわけです。
どんなことを書いたかと言えば、例えば、非常にはっきり書いてありますね。沼津の河
川事務所に何を言ったかと言ったら、1号線を取っ払え。もとのように下へ回せ。そして、
柿田川の上の湧き間を戻すということをちゃんと考えたらよろしい。そのときの事務所長
は、いや、実は1号線をあそこの場所ではなくて、北のほうへ回すことを大分長い時間だ
けれども考えているので、そのうちにほんとうに川那部さんがむちゃくちゃなことを言っ
たのが起こるかもしれませんよという話があった。
それから、その次にもう一つ言ったのは、両側の土地利用というのは、全面的に考え直
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さないといけないだろう。だから、まちにしてくれと言ったことはないのですけれども、
あそこは人間が住まないようにするのがよろしいと言いました。そう書いてあります。
今も私、半分ぐらいほんとうだと思っています。私の言っていること、自分でも全部信
用していませんけれども、その考え方はあってもいいのではないかと。もっと極端に言っ
たら、人口が減るに決まっています。今ごろから何を言ったって、20年から30年越し
に急に子供が生まれるということはあり得ないわけですから、減るに決まっています。減
ることは、それこそつまらないと思うか、つまると思うかというのは、各人が考えたらよ
ろしい。私はつまると思う。いいことだなと思います。5,000万人ぐらいになってくれ
ると、日本国はちょうどよろしい。江戸時代は3,000万人ですから、減るに決まってい
るわけです。
減るに決まっているという状態がいいかどうかをどうするのか。だって、実際にバーン
と爆発するかというより、もっと短い話でしょう。もうすぐ何十年か後に人口が減るに決
まっているわけです。ただ、そう思うと悲しいのは、人口が減るときに、どうもまずいこ
とに東京都の真ん中がちょっと減るので、いわゆる田舎のほうがどんどん減ってくるから、
これはほんとうに私はつまらないと思っています。東京都の人口は絶対に10分の1にす
べきだと思っていますね。しかし、田舎のほうはそうは言ってはいけないのではないかと
思います。田舎というのは、わざと褒めた意味で田舎と言っているわけですけれども、そ
ういうことで考えますと、やはり柿田川の今後を考えるときに、私はたまたま歴史みたい
なことを言ったのだけれども、もう少し人間と柿田川のつき合いみたいなものの歴史を、
少し長い目で見て考える。
それから、今からどういうふうに直したらいいかというのは、実質的に一番大事なのだ
けれども、ひょっとしたら、こんなとんでもないところが目標だと考えるようなことはあ
ってもいいのではないかと。それは、よそにいる人間が勝手に言うのであって、そこに住
んでいらっしゃる方には、なかなかそういうことはお考えになりにくいということかもし
れませんけれども、逆に言うと自分たちの周りで人口が減るに決まっているわけです。幾
ら減らさないと言われたって、清水町は減るに決まっているわけですから、そういう状態
のもとで、長い目で見たときにどうなるか。だから、放っておいたらいいという話をして
いるわけでは全然ないのですけれども、遠いところの話もいろいろ考えてやらないといけ
ないのではないか。
そういう意味では、ちょうどつまる、つまらないの話になったから言えば、例えば柿田
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川というものを大事にするとすれば、どういうふうにすることによって、この辺の住み方
をどういうふうに変えるか。少し隣の村へ行ったら、また全然違うことを興すというよう
な、そういう意味のほんとうの多様性みたいなものをこれからどうやっていったらいいか。
そのためには、もし柿田川というのが非常に特別な川であれば、その特別の川を生かす
以外には、私はないのではないかと、外から見ている人間はそう思ってしまう。地元の方
がどうお思いになるかというのが一番大事ですから、それをぜひ考えていただきたいと思
います。
少し長いことしゃべり過ぎて、申しわけございません。
【加藤】
いえ。どうもありがとうございました。
三島先生、一言ございますか。
【三島】
今のご質問ですけれども、私の答えというよりも、気がついたと言ったほう
がいいかもしれませんけれども、自然には、いわゆるダイバーシティーといいますか、多
様性が存在する。川那部さんがおっしゃられたようにさまざまな価値観というのがあるか
もしれませんけれども、川にもいろいろな川がある。それが私の答えの1つだと思ってく
ださい。というのは、いわゆる生物の多様性に富み、あるいは豊かな自然が存在する。そ
ういう言葉の中にもいろいろな特異性がある。いい川、悪い川と一言で言いますけれども、
川の多様性というのは、さまざまな角度から評価することができると思います。
生物も少ない、栄養源も少ない、別の意味から言うと水がきれい。バクテリアの視点か
ら見ると、また違う視点が出てくるかもしれませんけれども、あるいはおっしゃられたよ
うに、たくさんの生物が住んでいる川。何がいいか、悪いかという評価よりは、むしろ自
然の多様性を大切にすると。こういう視点で川そのものを、生物を見るのと同じように見
てもいいのではないかと、こんなふうに思います。
【加藤】
【サカイ】
どうもありがとうございます。
もう一言いいでしょうか。私の言った趣旨は、こういうことです。柿田川
はかつて里山であった。それはそれで、全く間違いないと思うのですが、だから、これか
らもかつての里山のように柿田川の自然を回復していくというのは間違っているのではな
いか。たとえそれがつまらない川であっても、本来の姿に返していくのが本来の自然再生
ではないのかなという意味で質問させていただいたわけです。すみません。
【加藤】
どうもありがとうございました。
【漆畑】
ちょっともう一つ。
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【加藤】
漆畑さん、2分。
【漆畑】
だから、本来はどこを基準にしているかということです。私が言えば、ほん
とうに柿田川の水がきれいだというのは、高野製紙とか大東紡が進出しない前、だから明
治の終わりから前。それがほんとうですよ。それからは、柿田川は汚い。
ところが、40年ぐらい前になって、両方の会社が撤収したから、実際、汚染を考えれ
ば、はっきり言うと水はきれいになっていますよ。ただ、大腸菌の問題は気をつけなけれ
ばいかんと、再三言っているの。つまらない、つまる川というのは、柿田川に住む魚から
言えば、えさがないからつまらないと思っているよ。だから、数は少ないでしょう。だか
ら、見方によってはほんとうにいろいろあるわけだね。だから、どれがいいかというのは
わからないと思います。どこを基準にして柿田川をよくするか。それを少し考えないとい
かんと思います。
【加藤】
どうもありがとうございます。
【知花】
1つだけいいですか。少し語弊があったので修正していいですか。
「つまらな
い川」と僕が言ったのは、この川は単調だからつまらんと言っているのではなくて、日本
中の川を全部見て、似たような姿になってきたということが言いたかった。
言いたかったのは、例えばですけれども、護岸がぶっ壊れたところで魚を調べたのと、
全くの自然河岸で魚を調べたら、圧倒的にぶっ壊れた護岸があるほうが魚の種類も数も多
いですね。だからそうしろというのではなくて、それは柿田川にだって、いろいろなブロ
ックをぼんぼんぶち込んだら生き物は増えるでしょうけれども、そういう意味ではなくて、
なまじ、今は手が入っているわけですよね。だから、今ご質問あったように、ものすごく
大きなスケールを長期スケールで、完全に昔の姿に戻していくというのは、それはそれで
いいのですけれども、その周りに住宅はあるわ、下水も一部入っているわという状態で手
つかずだというと、変なことが起こるのではないかというか、そういうことが起こってい
る地方が結構多いのではないかという懸念を言いたかっただけなので、そこだけ単調なの
が悪いと言っているわけではないということでした。
【加藤】
はい。どうもありがとうございます。
では、谷田さん、どうぞ。
【谷田】
私の個人的な思い。ミクロネシアという海洋島があります。そこへ調査に行
ったことがあるのですが、川に行っても水生昆虫が全くいません。それで、もともと淡水
魚もいません。全部海から上がってくる魚です。だけど、それも非常に魚の種類としては
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貧弱ですが、それも1つの生態系ですよね。
だから、いつ時間を切るか知りませんけれども、1万年とか2万年とか、あるいは数十
万年ぐらいのレベルで維持されている生態、いろいろな多様な生態を残すとしたら、柿田
川はそのスケールにいかないかもしれないけれども、数万年のスケールできっと残さなけ
ればいけないランドスケープ、景観だと私は思います。
だから、種が多いだけの多様性ではだめで、いろいろな景観がある多様性。これを保全
しましょうというのが、我々がリオで宣言したことの1つだと思っています。
【加藤】
どうもありがとうございました。
では、時間が来ていますが。
【原】
漆畑さんが隣にいて、とっつきはうんときついのですが、まずはいい方です。
それは1点、漆畑さんが今まで頑張ってきたことは事実だと思います。でも、失礼ですけ
れども、漆畑さんは80歳ですよね。あと100年は厳しいですよ。それで、守るのは、
自分は清水町の子供たちだと思います。その子供たちが柿田川にもっと愛着を持てるよう
な仕組みをつくるべきだと思います。先ほども言ったけれども、カヤックとか、ショーケ
ースにしまってある川ではなくて、実感で皆さんがすばらしい川だと五感で感じるような
ことも、私は大切だと思います。
以上です。
【加藤】
どうもありがとうございました。
では、足立さん、最後かな。1分。
【足立】
私が今思うことは、副町長さんがいらっしゃるのでちょうどいいのですが、
先ほど芹沢さん、小学生のお子さんがお話ししたように、実体験というのがとても大事だ
と思います。その機会を町として市の教育委員会で、もう授業の一環で、何年生になった
ら3時間は柿田川で遊ぶとか、柿田川の生き物を調べるとか、そういうシステムをつくっ
ていったら、多分何とかスクール、わくわく何とかとか、抽選で漏れる子がいて、全員が
行けないと思います。親がついていかないといけないとか、抽選に漏れたから行けない。
そうではなくて、各小学校で漏れなく柿田川で遊ぶというのをつくってもらいたいなと思
います。そこから、地元の子供たちが育ちながら保全するというそれぞれの形が生まれて
くるのではないかなと思います。よろしくお願いいたします。
【加藤】
【関(義)】
どうもありがとうございました。
大変貴重なご意見ありがとうございます。私たちが子供のころは、清水町
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は清水村でしたが、全町小学校も1つ、中学校も1つで、みんな今の清水小学校に通って
いたわけですので、私たちの子供の時代は、みんな柿田川に親しんでいたわけです。
やはり人口が増えまして、町も小学校が3つ、中学校が2つとなりますと、やはり柿田
川にある、先ほどの2人は清水小学校出身なものですから、もう子供のころから学校で親
しんだわけです。あと2つの学校が問題なわけで、その2つの学校には、そのような郷土
の柿田川が大事だということがわかるような授業をやろうと、今教育長さんと話はしてい
ますので、ぜひその辺はご理解願いたいと思います。すみません。
【加藤】
どうもありがとうございました。
では、最後に一言だけ私から。先ほど、谷田さんから1万年の話が出ましたが、多分こ
の中で私の学生が何人かいるから、考えている学生がいるかもしれません。35億年前の
ことを私は考えていまして、地形から火星に水があっただろうと言われています。それで、
生き物がいたと思います。それは、私が今研究しているような生き物で、柿田川に地下か
ら非常に多くの微生物が供給されていますが、時間あったら、どこまで生態系が進んでい
くかということが見られる場所だと思って見ています。
火星は、36億年前あたりから、もう生物の進化がとまっているのですが、最後に水が
あったときから、どれだけの時間、水があったかということがわかれば、どこまで進化は
進んだはずだということが言えます。柿田川はそういう実験系でもあると、私は考えてい
ます。
では、いろいろなご意見をいただきましたけれども、私たちが日ごろ皆さんのご助力で
研究をさせていただいて、その研究が紙を切り絵したように見えましたというサイエンス
としては、非常に先端的なところをご紹介できているかもしれませんが、それをどういう
ふうに地元の方とコミュニケーションしていくか、形にしていくかというのが私どもの課
題ですので、またこういう場を持ちたいと思います。
今日は、どうも大勢の方、ご参加いただきましてありがとうございました。これでシン
ポジウム、第12回を終わりにしたいと思います。(拍手)
【司会】
どうもありがとうございました。
以上をもちまして、第12回柿田川シンポジウムのプログラムを終了させていただきま
す。
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-95-
了
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