平成3年神審第110号 貨物船豊島丸爆発事件 二審請求者〔理事官里憲

平成3年神審第110号
貨物船豊島丸爆発事件
二審請求者〔理事官里憲〕
言渡年月日
平成5年4月23日
審
判
庁 神戸地方海難審判庁(黒田和義、平田照彦、雲林院信行、加藤雅夫、北條卓)
理
事
官 里憲、平野浩三
損
害
船首楼甲板の後端が張れ上がり、左舷出入口付近の床が凹み、第1船倉のコーミングが損傷
原
因
荒天準備不十分
主
文
本件爆発は、荒天準備が不十分で、シンナー等の混合気体に何らかの火花が着火したことに因って発
生したものである。
受審人Bを戒告する。
理
由
(事実)
船
種
船
名 貨物船豊島丸
総
ト
ン
数 34,832トン
機 関 の 種 類
ディーゼル機関
出
力
10,591キロワット
人
A
名
船長
受
審
職
海
技
受
免
審
職
海
技
免
状 一級海技士(航海)免状
人
B
名
一等航海士
状 二級海技士(航海)免状
指定海難関係人
C
職
甲板長
名
指定海難関係人
D社
事件発生の年月日時刻及び場所
平成3年9月18日午後9時30分
沖縄東方沖合
1
指定海難関係人D社
指定海難関係人D社は、昭和49年3月海運業のほか船員の配乗、船舶の修繕管理等の業務を目的と
して設立され、本店を東京に置き、平成3年9月現在、取締役会のもとに工務部など5部5課で組織し、
代表取締役Eが業務全般を統括して、F社等と船舶管理委託契約を結び、これに基づいて豊島丸等約4
0隻の管理、配乗を行っていた。
2
豊島丸
(1)
来歴及び就航状況
豊島丸は、石炭、鉱石、穀物等のばら積み専用船としてF社がG社に発注し、昭和57年1月同社相
生工場で竣工し、翌58年7月H社に売却され、F社が定期用船し、3ないし4箇月をかけ、オースト
ラリア、ヨーロッパ、アメリカ及び日本との間の航路に就いていた。
このため、本船では、いつでも穀物を積載できるよう、船倉塗装用として塗料、硬化剤及びシンナー
を合わせて300缶ばかり搭載し、その大半を船首楼に格納していたが、危険物船舶運送及び貯蔵規則
第388条に規定する手続をとっていなかった。
(2)
船体構造
本船は、NK船級を有する船首楼付船尾船橋型の平甲板船で、その主な要目は次のとおりである。
全
登
録
長
224.95メートル
長
218.45メートル
幅
32.20メートル
深
さ
17.80メートル
総 ト ン 数
34,832トン
載貨重量トン
64,471トン
上甲板下は、船首から約11メートルまでが船首槽及び錨鎖庫、その船尾方約180メートルが船倉
で、7区画に分割され、船倉は船首方から順に第1ないし第7を冠して呼称されていた。
船首楼は、船首端から後端囲壁までの距離が約18.5メートルで、船首槽、錨鎖庫及び第1船倉の
1部にわたる上甲板の上に設けられており、高さが2.4メートル後端囲壁の幅員が22.5メートル
で約700立方メートルの容積を有していた。
(3)
甲板長倉庫
船首楼の中は、甲板長倉庫となっており、その中央部に直径約85センチメートル(以下「センチ」
という。)のチェーンパイプ2本が貫通し、倉庫内の全域にわたって直径約30センチの支柱が20本
ばかり設けられ、後壁前面のほぼ中央には揚錨機作動用の油圧ポンプユニットが設置されていて、その
周囲の左右5.5メートル前後4.8メートルが、高さ約15センチのコーミングにより区形で仕切ら
れていた。
また、幅2.0メートル奥行き1.1メートル脚の高さ1.5メートルの木製棚が、両舷外板沿いに
各4個、後壁前面のポンプユニットの右舷側コーミングに接するところに1個設けられており、その脚
部は床面の鉄製アングルに固定され、床面からの高さ約1.2メートルの棚板の外周に、滑り止めとし
て約15センチの角材を1本取り付けていた。
甲板長倉庫の開口部は、後壁両舷の出入口と船首端近くのロープハッチだけで、床面に船首槽及び各
舷の錨鎖庫に通じるマンホールが各1個設けられていたが、それらは所定の蓋によって緊密に閉鎖され
ていた。
なお、第1船倉の船首側出入口は、甲板長倉庫をトランクで貫通して船首楼甲板上に設けられていた。
(4)
甲板長倉庫の電気系統及び換気装置
甲板長倉庫には、航海灯専用電路と交流440ボルトの電路3本が入っており、航海灯の電路は端子
箱を通して船首マストに至り、440ボルトの電路は、2本が油圧ポンプ作動用モーターの電路で、2
台の各モーターのスターターに結線され、他の1本は、甲板長倉庫内のトランスで100ボルトに落と
したのち、床面上1.6メートルばかりに設けられた分電盤を経て14本の電路に分岐され、14本の
うち6本は、船首楼甲板上に至り、残る8本は倉内照明灯用に3本、スエズライト、船首槽、船倉、油
清浄機等に配線されており、船首楼甲板に至る電路を除き全ての電路には、床面上1.4メートルばか
りのところに防水型のレセプタクル式スイッチが設けられていた。
また、同倉庫内の換気は、自然通風によって行われており、マッシュルーム型ベンチレーターが船首
楼甲板に2台設置されていたほか、ハイドロポンプ用として壁面に防水型の小型電動排気扇が1台設置
されていた。
3
甲板長倉庫の格納物件とその状況
(1)
塗料、硬化剤及びシンナー
塗料136缶、硬化剤136缶及びシンナー70缶が、ポンプユニット区画の右舷側5メートルばか
りにわたって敷き詰められた厚さ10ミリメートルのベニヤ板の上に一段に並べられ、ほぼ塗料缶とシ
ンナー缶の2区画に分け、直径16ミリメートルのクレモナロープ1本でそれぞれ上、中、下の3段に
巻き締め、後壁のリングと支柱により係止していた。
塗料缶は18リットル缶で、硬化剤の入った4リットル缶を上部に横置きにし、十字の形で固縛して
一体となっており、シンナー缶も18リットル缶で、各缶の蓋は密閉されていたものの、外周は木枠等
で包装されておらず、露出したままの荷姿であった。
(2)
属具
甲板長倉庫には、索具、清掃用具、消火用具等80点ばかりの物件が、9個の棚に載せたり、床の上
に置いたり、あるいは外板につりかけたりして収納されており、鉄製品のうち工具類はツールボックス
に入れて棚の上に収められ、アンカー用品は船首端付近に設けられた枠にはめ込まれ、長さ1.5メー
トルのターンバックル、大小シャックル、フックなどは棚の上または脚部付近に収められていたが、1
部のものは固縛されていなかった。
他方、床には、予備ホーサーのナイロンロープ200メートル2巻、ビニールで被覆されたライフラ
イン20メートル5巻、清掃用ビニールホース20メートル2巻、ワイヤロープ、ワイヤースリング、
一輪車、二輪車、パナマステージ、パイロットラダー、潤滑油入りドラム缶15本等が置かれ、適宜固
縛されていた。
4
塗料、硬化剤及びシンナーの性状
甲板長倉庫に積載された塗料等は、I社製のエポマイティ300・グレーN6.0塗料液、エポマイ
ティ300硬化剤及びニッペエポキシシンナーであり、その容量、これらから発生するガスの種類、性
状等については次のとおりである。
なお、3製品の混合物の爆発限界は1.1%から20.0%までであり、発生する各ガスの対空気比
重は、1.6ないし2.83でいずれも空気より重い。
5
台風の進行状況
(1) フィリピン諸島周辺海域に発生した2つの熱帯低気圧のうち、その東方1,000海里ばかり
のものが、平成3年9月15日午後9時(日本標準時、特記するものを除き以下同じ。)台風18号と
なり、他方同諸島北方100海里ばかりの熱帯低気圧が同月16日午後3時台風20号に発達した。
(2) 台風18号は、当初最大風速35ノット、強風半径50海里の勢力を有して西北西にゆっくり
移動するうちしだいに発達し、同月18日午前9時には中心気圧が980ヘクトパスカルに成長し、最
大風速55ノット、強風半径325海里、暴風半径100海里の勢力をもって徐々に東方に転向しなが
ら約10ノットの速力で進行し、付近海域は波高6ないし7メートルの波浪が隆起する状況にあった。
(3) 台風20号は、最大風速35ノット、強風半径60海里の勢力で西北西にゆっくり移動してい
たが、同月17日になって停滞し、翌18日午前9時ごろほぼ同勢力のまま、ゆっくりと東進を始め、
付近海域では、波浪の高さが5ないし6メートルに達していた。
6
爆発に至る経過
(1)
豊島丸の事前の動静
本船は、受審人A、同B、指定海難関係人Cほか19人が乗り組み、第59次航として、平成3年8
月24日京浜港横浜区を発し、翌9月4日オーストラリアブリスベン港に到着して石炭62,536ト
ンを積載し、船首尾とも13.89メートルの等喫水で、同月7日午後5時(現地時刻)同港を出航し、
長崎県松浦港に向かった。
ところで、A受審人は、京浜港横浜区を発航するに際し、船倉塗装用として塗料120缶硬化剤12
0缶及びシンナー90缶を他の船用品とともに船積みしたが、本船のペイントストアは幅2.3メート
ル奥行き3メートル高さ3メートルばかりで狭くてこれらを収納することができなかったことから、い
つものように甲板長倉庫に格納することとし、その積付けについてはB受審人及びC指定海難関係人に
任せていた。
C指定海難関係人は、ペイントストアがこれまでに積み込んだ塗料でほぼ満杯であったが、主として
シンナー缶を格納することとし、既存の塗料及び硬化剤各16缶を出し、そこにシンナー20缶を納め、
残る全てを甲板長倉庫に前示のとおり格納した。
越えて同月16日正午ごろA受審人は、北緯15度26分東経140度1分ばかりの地点に達したと
き、針路を328度(真方位、以下同じ。)に定め、自動操舵とし、機関を約13ノットの全速力前進
にかけて進行し、このころ自船の北北西方400海里ばかりを北上中の台風18号の影響で、付近海域
は南寄りの波浪が5メートルばかりに成長し、船体が片舷15度ばかり揺れるようになり、今後このま
まで進行すれば台風18号に接近し、更に動揺が激しくなることが予想されたが、台風18号による荒
天を避けないで、このままの速力差であれば同台風の前路を横切れるものと思い、B受審人に対して荒
天準備を命じて続航した。
(2)
甲板長倉庫の荒天準備
翌17日午前8時半ごろC指定海難関係人は、B受審人の指示により、甲板員3人とともに船内の荒
天準備を開始し、同9時ごろ甲板長倉庫のベンチレーター及びロープハッチの閉鎖を確認し、塗料缶等
の固縛状況の点検を行ったが、同缶が変形したり、破損しやすいものであるから、船体の動揺で損傷し
ないよう、その周囲を角材等で枠組みして板を当て、缶が飛び出さないように帆布で覆うなどの十分な
荒天準備を行うことなく、これまでロープで大回しをして固縛する方法で済ませていたことから、塗料
缶の少し緩んだ索を増し締めしただけで甲板長倉庫の荒天準備を終え、その旨をB受審人に報告した。
同10時ごろB受審人は、船内各部を巡視点検したところ、甲板長倉庫の塗料缶等がロープで固縛さ
れただけであったが、十分な荒天準備を指示することなく、従来もこうした方法で何事もなかったので
大丈夫と思い、ベンチレーター、ロープハッチの閉鎖状況を確認したのち、室内灯を消灯し、出入口の
扉を閉鎖して自室に戻った。
(3)
爆発前の運航状況
同日午後11時ごろA受審人は、台風18号の強風圏に近い中心から300海里ばかりのところに至
ったとき、風浪がしだいに強勢を増し、船尾に受けた波浪が未閉鎖のベンチレーターから舵機室に浸水
したり、1号レーダーのスキャナー及び風向計が作動不能の状況となったものの続航し、翌18日正午
ごろ北緯24度東経134度57分ばかりの地点に達したとき、翌日正午の自船と台風18号の予想位
置が非常に接近することとなったことから、これを避けようと針路を240度に転じ、機関はトルク制
限装置付きであったことから航海全速力のまま、約5ノットの航力で進行した。
転針後A受審人は、波高10メートルばかりの波浪を左舷船首6点ばかりに受けるようになり、片舷
に30度ばかり揺れながら続航し、同6時30分ごろ前方900海里ばかりのところに停滞していた台
風20号が東方にゆっくり移動を始めたのを知ったので、針路を340度に転じ、風力9の南南西の風
を受け、依然として片舷20度、時として片舷30度ばかり揺れながら進航中、甲板長倉庫のシンナー
缶等と固縛索との間に隙が生じ、その後シンナー缶等が固縛索から外れ、床を移動するうち破損し、床
面に流れ出たシンナー等が気化ガスとして爆発範囲で滞留中、同9時30分ごろ北緯24度15分東経
134度15分ばかりの地点において、鉄製品と船体との衝撃による火花など何らかの火花が同ガスに
着火して船首楼が爆発した。
7
爆発後の処置
(1)
損傷状況等
A受審人は、自室に休息していたとき爆発の音響で異変を知り、直ちに昇橋して防水部署を発令し、
爆発箇所、浸水の有無等を調査させたところ、浸水はなく航行に支障がなさそうであったことから、風
下に転針し、各タンクの測深を行いながら進行し、翌19日午前8時ごろB受審人及びC指定海難関係
人に命じて爆発現場の調査を行った結果、船首楼甲板の後端が最大10メートルばかり膨れ上がり、左
舷出入口付近の床が前後方向4メートル左右2メートルにわたって最大20センチばかり凹み、飛んだ
壁材によって第1船倉のコーミングが損傷しているものの、外板及び上甲板に裂傷等はなく、浸水も全
くないことが判明したので、台風18号の進行状況を勘案して同日午後5時ごろ長崎港に向かう針路に
転じて続航し、翌々21日午後3時25分J社長崎造船所専用岸壁に着岸し、船首部に臨時の係船機等
を取り付けたのち松浦港へ回航し、石炭揚荷後、10月4日再度長崎港へ回航のうえ、直ちに修理を開
始し、同年12月11日完了した。
(2)
事後の安全対策
D社は、豊島丸の修理にあたり、船首楼のポンプユニットの右舷側、横約4.5メートル縦約3メー
トルの区画を甲板長倉庫から独立させペイントロッカーに改装するとともに塗料納入業者に対し、危険
物船舶運送及び貯蔵規則の規定に従って所定の手続をとるよう指示した。
(原因に対する考察)
1
混合ガスについて
(1)
①
爆発ガスの種類
当時の本船において爆発の可能性のあるガスは、貨物の石炭から発生するメタンガスと塗料、硬化
剤及びシンナー(以下「塗料等」という。)から発生するガスの2つが考えられるが、第1船倉は船首
楼と気密区画になっており、そこに爆発の形跡が見あたらないことからメタンガスの爆発は考えられず、
塗料等のガスが爆発したことになる。
②
塗料等から発生するガスは、8種類のガスがあり、それらの性状は異なるが、塗料缶、硬化剤缶及
びシンナー缶がほぼ半分ぐらいずつ破れていたことから、いずれのガスも存在し、それらが空気と混合
していたものと認定するのが合理的である。
(2)
①
爆発限界に必要な液量
塗料1缶の溶剤量は、メーカーの資料によると4,400グラムで同溶剤の平均分子量は103で
あるから、1缶から発生するガスは、約957リットル(4,400÷103×22.4リットル)、
シンナー1缶については、同様に約3,502リットル(13,600÷87×22.4リットル)、
硬化剤1缶についても同様に約249リットル(1,100÷99×22.4リットル)となる。
②
塗料、硬化剤及びシンナーと空気との混合ガスの爆発限界は、メーカーの資料によると1.1%な
いし20.0%であるから、船首楼全域が一様に下限界の濃度に達するために必要な量は、約1.63
(700×0.011÷4.71)となり、各缶2個ずつが破損し、溶剤が全て蒸発すれば、これを十
分に満たすことになる。
2
火源について
B受審人が17日午前10時ごろ甲板長倉庫を点検したのち、倉内の照明灯を全て消灯し、出入口の
扉を閉鎖してから爆発の18日午後9時30分までの間において、甲板長倉庫の中に入った者は誰もい
ない状況下で爆発したので、考えられる火源としての、静電気及び船内電気による火花並びに鉄製品に
よる衝撃火花について検討する。
(1)
静電気による火花
甲板長倉庫には、ナイロンロープ200メートル2巻、ビニール被覆のライフライン約20メートル
5巻、清掃用ビニールホース20メートル2巻など絶縁性の高い属具が格納されていたが、これらが静
電気を帯電するためには電気抵抗率の極めて高い異種の物質と接触する必要があり、そして両物質を一
瞬に引き離さなければ火花は生じない。
また、静電気が帯電するためには、物質的条件に加えて乾燥した状況であることも大きな要素の1つ
であるが、同倉庫の開口部は閉鎖されていたものの、航行中、何回も人の出入があったうえに、台風に
接近してからは船首楼が何日間も海水に常時洗われていたのであるから、倉内の湿度は相当高くなって
いたことが推測できる。
以上のことから、属具等に静電気が帯電し、更にそれから火花が発生することは考えられない。
(2)
①
電気器具の火花
甲板長倉庫内に船内電気が通じてはいたが、照明灯スイッチ、油圧ポンプのスターター及び移動灯
用スイッチは全て防水構造でオフとなっており、使用状況になかった。
②
電気系統の短絡については、担当機関士に対する質問調書中、船首楼への配線系統でアースが出た
ことは何回かあり、その都度調査したが、甲板長倉庫内の配線が悪かったことは一度もなかった旨の供
述記載があり、また、事故後船内で検討した結果、短絡の蓋然性を裏づける事実は何らなかった。
③
海水が甲板長倉庫内に浸入し、スイッチ等が船体の横揺れで浸水したという主張もあるが、各扉、
マッシュルーム型ベンチレーター及びロープハッチが密閉されていることは確認されており、海水の浸
入を裏づける事実はない。
以上のことから、甲板長倉庫の電気系統から火花が発生したことを認定することは難しい。
(3)
①
鉄製品と船体等との衝撃による火花
甲板長倉庫には、大小シャックル、フック、ターンバックル、チェーンストッパー等の属具類、工
具類、一輪車等の機具類、その他半切ドラム缶など多種多様の鉄製品が収納されており、これらのうち
工具類はツールボックス、アンカー用品は船体はめ込みなどのように、大半は固縛整理されていたが、
1部は木製棚に載せたままのもの、チェーンストッパーのように釣り下げられていたものなどもあり、
落下、移動するおそれの鉄製品があった。
②
18日午後6時半ごろ340度に転針してからの船体動揺については、当時船橋当直航海士に対す
る質問調書中、横揺れが激しく常時片舷20度ばかり揺れていて時には30度位になった、船橋内では
何かにつかまらないと立っていられない状態であった旨の供述記載があり、移動する鉄製品が船体等に
激突する状況にあった。
このことは、K証人の、甲板長倉庫の物件を陸上げしたとき塗料缶の近くにフックなどの鉄製品が散
在していた旨の供述によって裏づけることができる。
以上のことから、本件の火源については、鉄製品と船体等との衝撃による火花が、これを否定する資
料が最も少なく、その公算が大きいのであるが、このことを裏づける事実がないことからその火源につ
いては断定することができない。
(原因)
本件爆発は、船用品として多量の塗料及びシンナー缶を専用格納庫でない船首楼倉庫に搭載して航行
中、台風に遭遇する状況となった際、荒天準備が不十分で、倒壊した缶から流出したシンナー等の混合
気体に何らかの火花が着火したことに因って発生したものである。
(受審人等の所為)
受審人Bが、台風に接近するとき、部下に対して、専用格納庫でない船首楼倉庫に搭載した多量の塗
料及びシンナー缶の荒天準備を指示する場合、シンナー缶等が移動しないよう、角材等で仕切るなど十
分な措置について具体的な指示を行うべき注意義務があったのに、これを怠り、これまで事故がなかっ
たことから大丈夫と思い、十分な措置について具体的な指示を行わなかったことは職務上の過失である。
B受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用し
て同人を戒告する。
受審人Aの所為は、本件発生の原因とならない。
指定海難関係人Cの所為は、本件発生の原因とならない。
指定海難関係人D社の所為は、本件発生の原因とならないが、危険物船舶運送及び貯蔵規則の規定が
遵守されなかったことは遺憾である。
よって主文のとおり裁決する。